特許拒絶査定不服審判
2016-001704
細胞の製造方法
- 審判番号
- 2016-001704
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-134848外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年02月04日
- 審決日
- 2017年02月14日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-Z (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-134848「細胞の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月16日出願公開、特開2012- 29684〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23年6月17日(国内優先権主張 平成22年6月30日)を出願日とする出願であって、平成27年10月28日付けで拒絶査定され、平成28年2月4日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。
第2 本願発明の認定
この出願の請求項1~21に係る発明は、平成27年6月23日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~21に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
【請求項1】
ヒト皮膚から採取された細胞を含む組織を、タンパク質分解酵素を含む酵素溶液中に浸漬する酵素溶液浸漬工程:
前記酵素溶液浸漬工程で得られた組織を、タンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液に浸漬する阻害剤溶液浸漬工程及び:
以上の工程で得られた細胞を培養して治療用培養細胞を得る培養工程:
により得られる神経系疾患を治療するための細胞の製造方法であって、
前記阻害剤溶液浸漬工程では、酵素溶液浸漬工程における酵素溶液中のタンパク質分解酵素を阻害するのに必要とされるよりも過剰のタンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液を用い、
前記培養工程では、動物由来血清、脳由来物質、牛由来タンパク質、及び動植物由来アレルゲン物質を実質的に含まず、無血清培地を用い、また、栄養支持細胞を用いることなく、更に培養中に培地交換を行い、その培地交換は、培養に用いられている培地に新しい培地を添加してからその一部を除去して行うこと、
を特徴とする脊髄損傷を治療するための細胞の製造方法。
第3 原査定で引用された刊行物に記載された事項
平成27年10月28日付け拒絶査定で引用された下記の刊行物について、以下「引用文献A」、「引用文献B」という。
引用文献A:仁科博道ら,「ヒト皮膚幹細胞の無血清培養法開発とラット脊髄損傷モデルへの移植適応」,移植,2010年 6月10日,Vol.45,No.3,p.301(原査定における引用文献1)
引用文献B:特開2010-46058号公報(原査定における引用文献8)
1 引用文献A:移植,2010年 6月10日,Vol.45,No.3,p.301
引用文献Aには以下の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。
(a-1)われわれは、ヒト皮膚からの細胞分離法ならびに新規無血清培地培養法を開発した。さらに、この方法で得られた細胞の幹細胞性および神経幹細胞への分化転換能を検討した。次に、この細胞をラット脊髄損傷モデルに移植して、その再生能を検討した。(第5-9行)
(a-2)培養されたKeratinocyteの上にコロニーが出現し、Keratin15陽性の皮膚幹細胞であった。次に、神経系への誘導培地に移し培養するとNestin陽性の神経幹細胞に変換した。(第10-13行)
(a-3)神経細胞に誘導する前の細胞をラット脊髄損傷モデルに移植した結果、培地のみの対照に比較して移植3日からBBB scoreが有意差を持って改善された。(第13-16行)
2 引用文献B:特開2010-46058号公報
引用文献Bには、以下の記載がある。
(b-1) 治療用培養細胞の製造方法であって;
哺乳動物から細胞を含む組織を採取する組織採取工程:
前記工程で得られた組織を、タンパク質分解酵素を含む酵素溶液中に浸漬する酵素溶液浸漬工程:
前記酵素溶液浸漬工程で得られた組織を、タンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液に浸漬する阻害剤溶液浸漬工程及び:
以上の工程で得られた細胞を培養して治療用培養細胞を得る培養工程:
を含み、さらに、
前記阻害剤溶液浸漬工程では、酵素溶液浸漬工程における酵素溶液中のタンパク質分解酵素を阻害するのに必要とされるよりも過剰のタンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液を用い、
前記培養工程では、動物由来血清、脳由来物質、牛由来タンパク質、及び動植物由来アレルゲン物質を実質的に含まず、かつ、カルシウムイオン濃度0.03~0.1mEq/Lの培地を用い、また、栄養支持細胞を用いることなく、更に培養中に培地交換を行い、その培地交換は、培養に用いられている培地に新しい培地を添加してからその一部を除去して行うことを特徴とする治療用培養細胞の製造方法。(請求項1)
(b-2)[実施例1]
(組織の採取)
美容整形手術時に顔部から切除されたヒト皮膚組織の全層部分を採取し、毛根が存在する箇所を残して皮下及び真皮結合組織を可及的に滅菌した鋏とピンセットで除去し、更に鋏で1×10mm2程度に細切して細切組織を得た。得られた細切組織をペニシリン1000u/ml及びストレプトマイシン1mg/mlを含むCaイオン及びMgイオン不含等張燐酸緩衝液(PBS(-))に3回浸漬して除菌した。
(酵素処理)
次いで予め4℃に冷却したトリプシン溶液〔0.125%Trypsin/0.01%EDTA/PBS(-)〕10ml中に浸漬し、4℃に維持して一昼夜静置し、採取組織の酵素処理を行った。
(阻害剤処理)
酵素処理後の組織を遠心分離してトリプシン溶液を除いた後、直ちにトリプシン阻害剤溶液〔0.25%Trypsin Inhibitor (Soy bean)/MCDB153; Trypsinの2.4倍モル濃度〕20ml中に入れ、磁石回転子を用いて室温下に30分間撹拌し、トリプシンの酵素活性を失活させると共に、組織から培養に用いる細胞を遊離させた。(【0034】~【0036】)
(b-3)(培養)
培養皿としてType I-collagenを塗布した細胞培養用皿(100mm)(BD Falcon社製)を用い、また、培地として下記の組成の細胞培養培地10mlを用い、得られた細胞を1~2×104~5/cm2の密度で播種して37℃で培養を開始した。
細胞培養培地は以下のとおり調製された。すなわち、基本培地のMCDB 153培地(Sigma社製商品名:StemlineTM Keratinocyte Basal Medium)中に、インシュリン(10mg/L)、トランスフェリン(5.5mg/L)、セレニウム(6.7μg/L)、Ethanolamine(2mg/L)、ビタミンC(L-Ascorbic acid 2-phosphate semimagnesium salt)(50μg/L)、KGF(Keratinocyte Growth Factor:10ng/L)、脂質(脂肪酸混合物、Arachidonic acid:20μg/L; Cholesterol:2.2mg/L; DL-a-Tocopherol-acetate:700μg/L; Linoleic acid:100μg/L; Linolenic acid:100μg/L; Myristic acid:100μg/L; Oleic acid:100μg/L; Palmitoleic acid:100μg/L; Palmitic acid:100μg/L; Stearic acid:100μg/L; Tween:80 22mg/L; Pluronic F-68:1000 mg/L)を添加して調製した。
培養開始に際しては、7日目までは培地交換をすることなく3ml/3dayの割合で培地を添加しつつ馴化培養を行い、その後に3日毎に培地を半交換しながら培養を行った。70%コンフルエンスに達するまで14日間を要した。
なお、MCDB 153培地の組成は以下の通りである。なお、3.33mg/Lの無水塩化カルシウムは0.03mEqに相当する。(【0038】)
(b-4)図5に培養後期(培養14日目)の状態を示す。球状(Spheroid様)の表皮幹細胞(Spheroid塊)の出現が観察された。一層の表皮細胞によって満たされた培養面上にSpheroid様の表皮幹細胞が出現した。このSpheroid細胞群は酵素を用いないでも物理的にピッペティングで剥離され、その剥離細胞は他の培養皿や細胞培養シートに移すと再度図2から図5のように変化し細胞が増えていった。(【0041】)
(b-5)[実施例7]
(組織採取)
実施例1と同様に行った。ただし、本実施例では、60歳代のヒト由来の顔部皮膚組織を用いた。
(酵素処理)
実施例1と同様に行った。
(阻害剤処理)
実施例1と同様に行った。
(未消化組織からの細胞の調製)
阻害剤処理後の処理溶液をポアサイズ100μmのメッシュで濾過し、未消化組織をメッシュ上に得た。この未消化組織を直ぐに0.5% collagenase type Iと2.5mM CaCl2を終濃度で加えた基本培地に組織を移し、室温で磁石回転子を用いて1時間撹拌した。この消化物をピペットでサスペンドして組織を可及的にほぐし、再度メッシュ(100 μm pore size)で濾過して余分な組織を除いたろ液を得た。ろ過溶液を遠心分離により除き、ペレット状態で細胞を得た。
(培養)
上記のトリプシンとコラーゲナーゼの両方から得た細胞を1:1の割合で混合し、15~1×104 cells/cm2の細胞密度で100mmの培養皿に播種して培養を開始した。
(サイトケラチン15発現細胞の調製)
培養細胞が100%コンフルエンスに達して、spheroid細胞集団が多数発現し始めた段階で、4%パラホルムアルデヒド/PBS(-)液に20分以上細胞を室温で浸漬して細胞固定を行った。この時、2枚のdishを用意した。
(サイトケラチン15発現細胞の同定=skin stem cellの同定)
近年表皮に幹細胞(表皮幹細胞)が存在することが報告され、表皮幹細胞は毛嚢のバルジ領域に存在し、サイトケラチン15を発現していることが明らかにされている(非特許文献13)。この幹細胞は表皮の角化細胞、毛嚢の脂腺細胞、そして毛の細胞に分化する能力を有している。もし、この幹細胞を同時に培養できれば、この移植体は従来の表皮のみならず毛や脂腺の形成が起こすことが可能となる。そこで本実施例では、上記実施例で得られた細胞中の、表皮幹細胞の有無を同定するために、サイトケラチン15の発現を、抗体染色によって観察した。(【0057】~【0060】)
(b-6)図11にAnti-Cytokeratin15抗体染色した結果を示す。Sheroid 細胞のみが染色され、これらがヒトケラチン15陽性であり、表皮幹細胞であることが分かる。
なお、1次抗体を加えたdishにおいては、陽性を示す細胞は、シート状に培養されたケラチノサイトではなく、spheroid状になる細胞のみに観察された。以上より、この培養法で出現するspheroid細胞はskin stem cellであることが証明された。
本実施例では、阻害剤溶液浸漬工程で得られる細胞と、第二酵素溶液浸漬工程で得られる細胞とを混合して培養することに細胞を得た。さらに、抗体染色により、本培養で得られる細胞が、skin stem cellを含むことが分かった。(【0060】~【0061】)
第4 当審の判断
1 引用文献Aに記載された発明
(a-1)の記載からみて、(a-2)における「培養されたKeratinocyte」の上に出現した「Keratin15陽性の皮膚幹細胞」は、「ヒト皮膚からの細胞分離法ならびに新規無血清培地培養法」により得られた細胞であると認められる。また、(a-3)の「神経細胞に誘導する前の細胞」も、(a-2)の記載からみて、神経細胞に誘導する前の「Keratin15陽性の皮膚幹細胞」であると認められる。
よって、引用文献Aには、「ヒト皮膚からの細胞分離法及び新規無血清培地培養法による脊髄損傷を治療するためのサイトケラチン15陽性皮膚幹細胞の製造方法」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
2 本願発明と引用発明の対比
培養により細胞を調製するためにはヒト皮膚を採取する必要があり、また、ヒト皮膚は当然に細胞を含む組織であるから、引用発明の「ヒト皮膚」は、本願発明の「ヒト皮膚から採取された細胞を含む組織」に相当する。また、脊髄損傷は神経系疾患の一つともいえるから、引用発明の「脊髄損傷」は、本願発明の「神経系疾患」「脊髄損傷」に相当する。
よって、本願発明と引用発明を対比すると、両者は「ヒト皮膚から採取された細胞を含む組織より得られる神経系疾患を治療するための細胞の製造方法であって、脊髄損傷を治療するための細胞の製造方法。」である点で一致し、一方、以下の点で相違する。
(相違点)
本願発明が「ヒト皮膚から採取された細胞を含む組織を、タンパク質分解酵素を含む酵素溶液中に浸漬する酵素溶液浸漬工程: 前記酵素溶液浸漬工程で得られた組織を、タンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液に浸漬する阻害剤溶液浸漬工程及び:
以上の工程で得られた細胞を培養して治療用培養細胞を得る培養工程:により、また前記阻害剤溶液浸漬工程では、酵素溶液浸漬工程における酵素溶液中のタンパク質分解酵素を阻害するのに必要とされるよりも過剰のタンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液を用い、前記培養工程では、動物由来血清、脳由来物質、牛由来タンパク質、及び動植物由来アレルゲン物質を実質的に含まず、無血清培地を用い、また、栄養支持細胞を用いることなく、更に培養中に培地交換を行い、その培地交換は、培養に用いられている培地に新しい培地を添加してからその一部を除去して行うこと、を特徴とする」のに対し、引用発明には、酵素溶液浸漬工程及び阻害剤溶液浸漬工程により得られた細胞を培養すること、及び、酵素溶液浸漬工程における酵素溶液中のタンパク質分解酵素を阻害するのに必要とされるよりも過剰のタンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液を用い、培養工程では、動物由来血清、脳由来物質、牛由来タンパク質、及び動植物由来アレルゲン物質を実質的に含まず、無血清培地を用い、また、栄養支持細胞を用いることなく、更に培養中に培地交換を行い、その培地交換は、培養に用いられている培地に新しい培地を添加してからその一部を除去して行うことについては具体的な開示がない点。
3 相違点について
上記相違点について検討する。引用文献Bには、(b-1)~(b-6)に記載の通り、ヒト皮膚から採取された細胞を含む組織を、タンパク質分解酵素を含む酵素溶液中に浸漬する酵素溶液浸漬工程、前記酵素溶液浸漬工程で得られた組織を、タンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液に浸漬する阻害剤溶液浸漬工程、及び、以上の工程で得られた細胞を培養して治療用培養細胞を得る培養工程により得られるサイトケラチン15陽性表皮幹細胞の製造方法であって、前記阻害剤溶液浸漬工程では、酵素溶液浸漬工程における酵素溶液中のタンパク質分解酵素を阻害するのに必要とされるよりも過剰のタンパク質分解酵素阻害剤を含む阻害剤溶液を用い、前記培養工程では、動物由来血清、脳由来物質、牛由来タンパク質、及び動植物由来アレルゲン物質を実質的に含まず、無血清培地を用い、また、栄養支持細胞を用いることなく、更に培養中に培地交換を行い、その培地交換は、培養に用いられている培地に新しい培地を添加してからその一部を除去して行うことを特徴とするサイトケラチン15陽性表皮幹細胞の製造方法が記載されている。
サイトケラチンはケラチンとも呼ばれるものであるから(必要ならば、東京化学同人「生化学辞典」(第3版)、1998年、第567頁「サイトケラチン」の項等参照)、引用文献A及びBはいずれもヒト皮膚から採取された細胞を含む組織から無血清培地を用いた培養工程を経てケラチン15陽性皮膚幹細胞を製造する方法に関する点で課題が共通し、また、技術分野が密接に関連するものである。
よって、引用文献Aに記載された発明の、脊髄損傷を治療するためのサイトケラチン15陽性皮膚幹細胞を調製するにあたり、引用文献Bに記載された具体的な方法を採用することは当業者が容易に想到し得ることである。
4 本願発明の効果について
本願明細書、特に実施例1、5の記載を参酌しても、本願発明の方法により得られた細胞をラットの脊髄損傷モデルに移植したところ、投与後3日以降に、培地のみを移植した対照と比較してBBBスコアに有意差を持って有意な効果が得られたことが理解できるのみであり、この点が引用発明と比較して格別顕著なものとはいえない。
したがって、本願発明が引用文献に記載された発明との比較において格別顕著な効果を奏するものであるとは認められない。
5 請求人の主張について
請求人は審判請求書において、引用文献A及びBの文献発表時においては細胞の発がん性について何ら知見がなく、本願発明の製造方法により製造される細胞に発がん性がないということは、顕著な効果として認められるべきものと主張する。
しかしながら、引用文献Aにおいて、皮膚幹細胞が移植されたラット脊髄損傷モデルにおいてBBB scoreが有意差を持って改善されたこと、すなわち脊髄損傷の治療が成功していることが記載されていることから、引用発明の脊髄損傷を治療するためのサイトケラチン15陽性皮膚幹細胞は発がん性を有しないものと解するのが自然である。
よって、本願発明の製造方法により製造される細胞に発がん性がないということが、引用文献A、Bに記載された発明と比較して当業者の予測を超える格別顕著な効果であったとまではいえない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
6 まとめ
したがって、本願発明は、引用文献A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は、引用文献A及びBに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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