特許拒絶査定不服審判
2015-022894
自閉症スペクトル障害と診断されたヒトにおいて自閉症スペクトル障害に関連する少なくとも一つの症状を低減するための、ペディオコッカス属を含む組成物及び方法
- 審判番号
- 2015-022894
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2012-533364外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年12月28日
- 審決日
- 2017年07月19日
- 公報発行日
- 2018年01月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】プロセラ インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】特許業務法人特許事務所サイクス
- 分類
- P18 .536-WZ (A61K) / P18 .537-WZ (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2012-533364「自閉症スペクトル障害と診断されたヒトにおいて自閉症スペクトル障害に関連する少なくとも一つの症状を低減するための、ペディオコッカス属を含む組成物及び方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月14日国際公開、WO2011/044516、平成25年 3月 4日国内公表、特表2013-507394〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
1.手続の経緯
本願は、平成22年10月 8日(パリ条約による優先権主張 2009年10月9日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成27年8月28日付けで拒絶査定がされ、同年12月28日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出された後、平成28年11月30日付けで拒絶理由が通知され、平成29年6月6日に意見書が提出されたものである。
2.本願発明
本願の請求項1~23に係る発明は、平成27年12月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~23に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明は、以下のとおりのものと認められる。
「自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のための薬学的に許容される組成物であって、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む上記組成物であり、上記第二のプロバイオティック微生物が、少なくとも一つのラクトバチラス(Lactobacillus)属と、少なくとも一つのビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とを含む、上記組成物。」
(以下、「本願発明」ともいう。)
3.平成28年11月30日付けで通知した拒絶理由について
3-1.拒絶理由1の内容
平成28年11月30日付けで通知した拒絶理由のうち、拒絶理由1は、請求項1~23に係る発明に関して、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、その具体的な内容は、以下のとおりである。
「 (1)実施可能要件について
特許法36条4項1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ、この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明にかかる物の生産、使用等をいうものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度のものでなければならない。
そして、医薬の用途発明においては、一般に、物質名、化学構造等が示されることのみによっては、当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり、当該医薬を当該用途に使用することができないから、医薬用途発明において実施可能要件を満たすためには、本願明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要があるとされる。
(2)各請求項に係る発明の医薬用途
各請求項に係る発明はいずれも、アスペルガー症候群、退行型自閉症、レット症候群、小児期崩壊性障害(CDD)、病理学的要求回避症候群(PDA)などの自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のための薬学的に許容される組成物という、医薬用途発明に係るものである。
(3)出願時の技術常識
ア 自閉症スペクトラム障害の病因
下記技術常識を示す文献A(以下「文献A」という。)の自閉症スペクトラム障害の「病因」の項(第2641頁右欄)には、「遺伝的要因は強固なエビデンスによって支持されている。」、「環境的原因(ワクチン接種や種々の食事法など)の存在も疑われてきたが,証明はなされていない。」及び「自閉症の病因の多くの部分に、脳の構造及び機能の異常が基礎にあると考えられている。」と記載されている。
また、下記技術常識を示す文献B(以下「文献B」という。)には自閉症スペクトラム障害について、「脳病理や画像検査から前頭前野・側頭葉・脳梁等の大脳,帯状回・海馬・扁桃体・中隔野等の辺縁系,小脳虫部・半球,延髄等がその責任病巣として報告されている.また,セロトニンを中心とするモノアミン系の異常が関与しているとする研究も多い.」(第392頁左欄第13~18行)と記載されている。
したがって、自閉症スペクトラム障害は、脳の構造及び機能の異常が基礎にあるものであることが、出願時の技術常識であったと認められる。
イ 自閉症スペクトラム障害の治療
文献Aの自閉症スペクトラム障害の「治療」の項(第2642頁右欄~第2643頁左欄)には、「集学的治療が行われるのが通常であり,また最近の研究から,相互交渉及び意味のあるコミュニケーションを促進する,行動に基づく集中的アプローチに,ある程度の有効性が示されている。」及び「SSRIにより儀式的行動のコントロールが得られることがある。抗精神病薬および,バルプロ酸などの気分安定剤が自傷行動のコントロールに有効なことがある。」と記載されている。なお、ここにおける「SSRI」とは「Selective serotomin Reuptake Inhibitors(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)」であり、抗うつ薬であると認める。
文献Bには自閉症スペクトラム障害について、「根本的な治療はなく,障害特性を理解した上での対応,支援が重要となる.」(第392頁右欄第2~3行)、「対応としては,カードや写真といった視覚的な情報を提示する(…),時間や空間の意味を分かりやすくする工夫,興味を大切にし,利用する,無用な変化を避けパターンを利用する等の支援がその子どもにあわせて行われる.」(第392頁右欄第10行~第393頁左欄第4行)及び「特性に配慮した対応だけでは改善せず,パニックや不安が激しい場合,こだわりや多動,衝動性が強い場合,抑うつ状態がある場合,睡眠障害を伴う場合等には,薬物療法も対症療法として用いられる.薬物には,抗精神病薬,抗不安薬,抗うつ薬,睡眠薬等が用いられる.将来,生物学的メカニズムが解明され,さらに有効な薬物の開発につながることが期待される.」(第393頁左欄第5~12行)と記載されている。
したがって、自閉症スペクトラム障害には根本的な治療法はなく、特性に応じた対応・支援及び薬物療法による症状改善を行うことが、出願時の技術常識であったと認められる。
(4)明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下のア~キの記載がある。
ア.「自閉症スペクトラム障害(ASD)は、一般的には、脳の構造および/または機能における異常を含む疾患と考えられている。ASDは、早期小児期に現れ、社会的関連性障害、言語発達遅滞、及び行動様式の制限の中核症状によって特徴付けられる。中核症状に加えて、自閉症の小児は、日常の環境要求事項及び刺激に応答して、自傷、攻撃性、多動性、及び癇癪等の重篤な行動障害を頻繁に示す。また、ASDは、一連の胃腸管免疫系、及び代謝異常にも関連する(アッシュウッド(Ashwood)ら, 2006年; デウフェミア(D’Eufemia)ら, 1996年; エリクソン(Erickson)ら, 2006年; ホルバース及びペルマン(Horvath & Perman), 2002年; ジョノウチ(Jyonouchi)ら, 2005年; バリセンティ-マクデルモット(Valicenti-McDermott), 2006年; ホワイト(White), 2003年)。 」(段落0005)
イ.「幾つかのペディオコッカス・アシジラクティシ(P. acidilactici)菌株によって高レベルに産生される、バクテリオシンPC-l/AcH(マルッグ(Marugg)ら, 1992年; モラ(Mora)ら, 2000年; ミレッテ(Millette)ら, 2007年; ロドリゲス(Rodriguez)ら, 2002年)は、リステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、クロストリジウム・パーフリンゲンス(Clostridium perfringens)、及びクロストリジウム・ボツリナム(Clostridium botulinum)を含む広範囲のグラム陽性菌に対して有効である(ブニア(Bhunia)ら, 1988年, 1991年; モトラフ(Motlagh)ら, 1994年; オケレケ(Okereke)およびモントビレ(Montville), 1991年; プッチ(Pucci)ら, 1988年)。UVA1と記されるペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)の1つの菌株は、ビフィドバクテリウム・サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)株と共に小児の糞便から単離され、強力な抗リステリア活性を有する(マシーズ(Mathys)ら, 2007年)。」(段落0052)
ウ.「ペディオコッカス・ペントサセウス(P. pentosaceus)、及びペディオコッカス・アシジラクティシ(P. acidilactici)は、一般に、ヒト食用に安全であると認識されている(GRAS)(イシバシ(Ishibashi)およびヤマザキ(Yamazaki), 2001年)。」(段落0054)
エ.「本発明の組成物、方法等の理解に必ずしも必要ではないが、自閉症の症状の低減におけるペディオコッカス(Pediococcus)属の有益な効果は、バクテリオシンの産生のみならず、共発現された類似の免疫タンパク質の産生にも由来し、これら免疫タンパク質は、産生する微生物を自身のバクテリオシンから保護するものである(フィムランド(Fimland)ら, 2005年)。理論に捉われることなく、これらの特性により、本発明におけるこれらのペディオコッカス組成物が、健常人と比較してASD患者の、より正常な神経-胃腸管生理を可能にするかもしれない。」(段落0055)
オ.「ペディオコッカス(Pediococus)属は、本質的にバンコマイシン耐性であるので(リーベル(Riebel)およびワシントン(Washington), 1990年)、本発明の組成物等は、バンコマイシン等の抗生物質治療を受けている自閉症患者に使用され得る。」(段落0059)
カ.「一の実施形態では、組成物は、1カプセル分量当たり、およそ以下の量の成分を含む、
但し、CFUはコロニー形成単位を意味する:
ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici) 15億CFU(6.0%)
ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve) 5億CFU(2.0%)
ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis) 5億CFU(2.0%)
ラクトバチラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei) 5億CFU(2.0%)
ラクトバチラス・サリヴァリウス(Lactobacillus salivarius) 5億CFU(2.0%)
ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis) 10億CFU(4.0%)
ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum) 10億CFU(4.0%)
ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus) 10億CFU(4.0%)
ラクトバチラス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus) 10億CFU(4.0%)
ラクトバチラス・カゼイ(Lactobacillus casei) 25億CFU(10.0%)
ラクトバチラス・プランタラム(Lactobacillus plantarum) 25億CFU(10.0%)
ラクトバチラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus) 30億CFU(12.0%)
ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(Bifidobacterium bifidum) 35億CFU(14.0%)
ラクトバチラス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus) 60億CFU(24.0%)」(段落0063)
(5)当業者による医薬としての有用性の理解の可否
上記(4)の摘記アには、自閉症スペクトラム障害が一連の胃腸管免疫系及び代謝異常に関連する旨の記載がある。
また、上記(4)の摘記イには、幾つかのペディオコッカス・アシジラクティシ菌株によって産生されるバクテリオシンPC-l/AcHが広範囲のグラム陽性菌に対して有効である旨の記載、及びペディオコッカス・アシジラクティシの菌株UVA1が強力な抗リステリア活性を有する旨の記載がある。
また、上記(4)の摘記エには、自閉症の症状の低減におけるペディオコッカスの効果は、バクテリオシン産生及び共発現された類似の免疫タンパク質の産生に由来し、これら免疫タンパク質は産生する微生物を自身のバクテリオシンから保護するものである旨の記載があり、さらに、ペディオコッカス組成物が自閉症スペクトラム障害の患者のより正常な神経-胃腸管生理を可能にするかもしれない旨の記載がある。
しかし、たとえ自閉症スペクトラム障害と診断された患者に胃腸管免疫系及び代謝異常が見られるとしても、また、ペディオコッカス・アシジラクティシ菌株そのもの又は産生するものにリステリア等のグラム陽性菌に対して有効であるものがあり、ペディオコッカスが産生する免疫タンパクがバクテリオシンから微生物を保護するものであるとしても、あるいはペディオコッカスを含む組成物が神経・胃腸管の生理機能を改善する作用を奏するものであるとしても、それらのことが胃腸管免疫系及び代謝異常が自閉症スペクトラム障害の病因であることの根拠となるものではなく、また胃腸管免疫系及び代謝異常または神経・胃腸管の生理機能が改善すれば自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠となるものでもない。
また、上記(4)の摘記ウには、ペディオコッカスがヒト食用において安全である旨の記載があり、摘記オには、ペディオコッカスがバイコマイシン耐性である旨の記載があり、摘記カにはペディオコッカスを含む組成物の配合例が記載されているが、いずれも胃腸管免疫系及び代謝異常が自閉症スペクトラム障害の病因であることの根拠となるものではなく、また胃腸管免疫系及び代謝異常または神経・胃腸管の生理機能が改善すれば自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠となるものでもない。
さらに、上記(3)ア及びイに示した出願時の技術常識を考慮しても、胃腸管免疫系及び代謝異常または神経・胃腸管の生理機能が改善すれば自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることを当業者が理解できたとはいえない。
しかも、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記(4)の摘記ア~カを含めて、各請求項に係る発明により、アスペルガー症候群、退行型自閉症、レット症候群、小児期崩壊性障害(CDD)、病理学的要求回避症候群(PDA)などの自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができたことを示す実施例等の具体的な記載はない。
したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載及び上記(3)ア及びイに示した出願時の技術常識に基づいて、各請求項に係る発明により、アスペルガー症候群、退行型自閉症、レット症候群、小児期崩壊性障害(CDD)、病理学的要求回避症候群(PDA)などの自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることを当業者が理解できたとはいえない。
してみると、出願時の技術常識を考慮しても、各請求項に係る発明の医薬用途発明としての有用性を当業者が理解できるとは認められない。
(6)小括
したがって、この出願の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識に照らしても、各請求項に係る発明の医薬用途発明としての有用性を当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が請求項1~23に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。
技術常識を示す文献一覧
A.メルクマニュアル 第18版 日本語版、日本、2007.04.25発行、初版第3刷、2641-2643 「自閉症スペクトラム障害」の項
B.平井清,細井創、発達障害-自閉症スペクトラム障害と注意欠陥/多動性障害を中心に、京府医大誌、日本、2010.06.発行、Vol.119, No.6、389-396 」
3-2.拒絶理由2の内容
平成28年11月30日付けで通知した拒絶理由のうち、拒絶理由2は、特許請求の範囲の請求項1~23の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、その具体的な内容は、以下のとおりである。
「(1)サポート要件について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきとされる。
(2)発明の課題
ここで、各請求項に係る発明の課題は、各請求項の記載及び発明の詳細な説明の記載から、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む上記組成物であり、上記第二のプロバイオティック微生物が、少なくとも一つのラクトバチラス(Lactobacillus)属と、少なくとも一つのビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とを含む、上記組成物であって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のための薬学的に許容される組成物の提供であると認められる。
(3)明細書の発明の詳細な説明の記載
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記理由1の(4)の摘記ア~カを含めて、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む上記組成物であり、上記第二のプロバイオティック微生物が、少なくとも一つのラクトバチラス(Lactobacillus)属と、少なくとも一つのビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とを含む、上記組成物により、課題が解決できることの理論的根拠となる記載は見いだせず、課題が解決できたことを示す実施例等の具体的な記載もない。
そればかりか、上記理由1の(3)ア及びイに示した出願時の技術常識からは、本願出願時には、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む上記組成物であり、上記第二のプロバイオティック微生物が、少なくとも一つのラクトバチラス(Lactobacillus)属と、少なくとも一つのビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とを含む、上記組成物が、自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消に有用であるとの技術常識があったとは認められない。
してみると、本願出願時の技術常識を考慮しても、各請求項に係る医薬製剤により課題を解決できることを当業者は認識できるとは認められない。
(4)請求人の主張
請求人は、原審における平成27年3月30日付け意見書において、本願発明の発明者(Stephen F. Olmstead)によるデクラレーションを提示して、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む組成物が、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のために有用である旨を主張する。しかし、このデクラレーションに示された処方は本願明細書の発明の詳細な説明(例えば、段落0063)に具体的に示された処方と異なっている上に、その処方が投与された対象者のうち自閉症スペクトラム障害を有していた者はわずか2名であって、示された効果の信頼性に乏しいものである。しかも、このデクラレーションは、本願出願後に提出されたものであって出願時の技術常識を示すものとはいえないので、出願時の技術常識を考慮しても本願明細書の発明の詳細な説明の記載を裏づけるものであるとは認められない。
また、請求人は、原審における平成27年3月30日付け意見書において、「胃腸の病態生理とASDとの間には一般的な関連が存在します(…)。」、「胃腸障害とASDとは、両方の状態に成り易い感受性遺伝子の結果として同時に生じます。自閉症の重症度と胃腸障害とは強い正の相関があることが示されています(…)。」及び「胃腸感染とASDとの相関も存在します(…)。」などと主張する。しかし、たとえ自閉症スペクトラム障害と診断された患者に胃腸障害が数多く見られるとしても、そのことが胃腸障害が自閉症スペクトラム障害の病因であることの根拠となるものではなく、また胃腸障害が改善すれば自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠となるものでもない。
また、請求人は、原審における平成27年3月30日付け意見書において、「DPP-IV等の胃腸症状を改善する薬剤は、ASDの症状を改善することが知られています(米国特許6,251,391号、米国特許6,447,772号、米国特許6,899,876号)」とも主張する。しかし、ここで提示された米国特許明細書には、精製カソモルフィン阻害剤を含む組成物が自閉症患者等の症状を軽減することは記載されているものの、胃腸障害が自閉症スペクトラム障害の病因であることの根拠となる記載は見出せず、また胃腸障害が改善すれば自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠となる記載も見いだせない。
また、請求人は、原審における平成27年3月30日付け意見書において、「プロバイオティクスの摂取により、感染が減少し、ASD症状の症状が改善されることも報告されています(US2004/0170617、US2004/0062757、US2007/0280911)。」、「US2004/0170617には、異常な胃腸微生物叢を伴う疾患を治療又は予防する方法が記載されており、抗菌剤および/又はプロバイオフィック混合物を使用できることが記載されています。US2005/0186188には、Bacillus subtilis、 Bacillus coagulansおよびEnterococcus faeciumを含むプロバイオティック組成物を用いて自閉症を治療する方法が記載されています。Nutrition 2012; 28: 124-126においては、Lactobacillus acidophilusを含む プロバイオティックの投与により、精神統一が改善されたことが報告されています。」などとも主張する。しかし、ここで提示された米国特許公開明細書には、プロバイオティクスの摂取により自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができたことを具体的に示すデータ等の記載は見いだせず、「Nutrition 2012; 28: 124-126」は本願出願後に頒布された刊行物である上に、自閉症スペクトラム障害と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠となる記載は見出せない。
(5)小括
したがって、請求項1~23に記載された発明は、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲にないものを包含しているといえる。
よって、請求項1~23に記載された発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。 」
4.判断
4-1.拒絶理由1(実施可能要件)について
平成28年11月30日付けで通知した拒絶理由に記したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されていない。
4-2.拒絶理由2(サポート要件)について
平成28年11月30日付けで通知した拒絶理由に記したとおり、本願発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、当業者が技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
5.審判請求人の主張について
5-1.平成29年6月6日提出の意見書における主張
平成28年11月30日付けで通知された拒絶理由に対して、請求人は、平成29年6月6日提出の意見書において、「本願明細書には本願請求項に記載された発明が十分に記載されていることを以下に説明致します。」と述べた後、以下ア.~コ.の説明事項を述べて、本願発明について発明の詳細な説明は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、特許請求の範囲の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものである旨を主張する。
ア.「本発明の一例として、ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)を使用することが明細書の段落番号0016および0063に記載されています。ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)の具体的菌株は、段落0052及び0054に記載されています。段落0052には、バクテリオシンPC-l/AcHは、ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)により高レベルで産生され、クロストリジウムを含む広範囲のグラム陽性菌に対して有効であることを記載しています。上記が重要である理由は、ASD患者の糞便細菌叢には高率のクロストリジウムが含まれ、クロストリジウムの低減策がこのような患者において有用であるからです(……)。本願の段落番号0054には、 ペディオコッカス・ペントサセウス(P. pentosaceus)、及びペディオコッカス・アシジラクティシ(P. acidilactici)は、一般に、ヒト食用に安全であることが記載されています。
段落番号0055には、自閉症の症状の低減におけるペディオコッカス(Pediococcus)属の有益な効果は、バクテリオシンの産生のみならず、共発現された類似の免疫タンパク質の産生にも由来することが記載されています。段落0059には、ペディオコッカス(Pediococus)属は、本質的にバンコマイシン耐性であるので、本発明の組成物等は、バンコマイシン等の抗生物質治療を受けている自閉症患者に使用され得ることが記載されています。
さらに、ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)の菌株は当業者には周知です。……。
Lactobacillus acidophilusの菌株は40年間以上市販されています。
薬学的有効量についても、明細書に記載されており、その一例が段落番号0063に記載されています。」
イ.ASDの少なくとも一つの症状の低減は、例えば、患者を観察し、活性物質に起因して患者に変化が生じたかどうかを観察することによって経験的に評価することができます(……)。」
ウ.「胃腸の病態生理とASDとの間には一般的な関連が存在します(……)。胃腸障害とASDとは、両方の状態に成り易い感受性遺伝子の結果として同時に生じます。自閉症の重症度と胃腸障害とは強い正の相関があることが示されています(……)。DPP-IV等の胃腸症状を改善する薬剤は、ASDの症状を改善することが知られています(……)。胃腸感染とASDとの相関も存在します(……)。さらに、プロバイオティクスの摂取により、感染が減少し、ASD症状の症状が改善されることも報告されています(……)。ペディオシンPA-1の産生など、ASDの治療が有用となるプロバイオティクスの特有の性質についても、本願明細書に記載されています。」
エ.「Pediococcusのペディオシン産生株については、本願の段落番号0004に記載の「……」に記載されています。ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)は、ペディオシンPA-1を産生することから、好ましい例です。特に、UVA-1株(本願明細書の段落番号0052)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus) 5-33:3(本願明細書の段落番号0054)を使用できることも記載されています。」
オ.「本発明の組成物によるASDの1以上の症状の改善は、下記の通り明細書において説明されている通りです。
ASDを有する患者に対する酵素の効果は、……に記載され、本願明細書の段落番号0058及び0060に記載されています。抗生剤の効果は、本願明細書の段落番号0004に記載の「……」、及び段落番号0027に記載されています。」
カ.「胃腸症状と自閉症スペクトラム障害との相関は、他の研究によって報告されています(本願明細書の段落番号0005を参照)。また、明細書の段落番号0004に記載されている「……」には、METプロモーター変異体rs1858830のアレルcがASDに強く相関することが記載されています。そして、METの上記Cアレルは、自閉症スペクトラム障害と胃腸症状の両方に相関していることが判明しています。また、ASDを伴う子供における胃腸の不調も報告されています(本願明細書の段落番号0004に記載の下記文献を参照)。
……」
キ.「ASD患者は、腸内毒素症としても知られる異常な微生物叢を有することが報告されています(本願明細書の段落番号0004のパラチョ(Parracho) HMほか;並びにサンドラー(Sandler) RHほか)。US2004/0170617には、異常な胃腸微生物叢を伴う疾患を治療又は予防する方法が記載されており、抗菌剤および/又はプロバイオフィック混合物を使用できることが記載されています。US2005/0186188には、Bacillus subtilis、 Bacillus coagulansおよびEnterococcus faeciumを含むプロバイオティック組成物を用いて自閉症を治療する方法が記載されています。Nutrition 2012; 28: 124-126においては、Lactobacillus acidophilusを含む プロバイオティックの投与により、精神統一が改善されたことが報告されています。本発明は、自閉症スペクトラム疾患に関連した少なくとも一つの症状を低減するためにペディオコッカスを使用することに関するものです。ペディオコッカス、特にペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)及びペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)に特有の性質により、他のプロバイオティック組成物と比べてより効果的に、ASDの1以上の症状を改善することが可能になったのです。」
ク.「上記の通り、本願発明の原理及び方法については、本願明細書に記載した引用文献に十分に記載されているものと思料致します。即ち、本願明細書に記載した引用文献と、本源明細書の記載から、当業者であれば本願発明は十分に実施できるものと確信致します。」
ケ.「さらに、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む組成物が、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のために有用であることは、平成27年3月30日付け意見書に添付して提出した発明者(Stephen F. Olmstead)によるデクラレーションに記載されている通りです。具体的には以下の通りです。
(デクラレーションの項目7及び8の和訳文)
『7.2009年11月、私は、カリフォルニアのロマ・リンダのロマ・リンダ・メディカルセンターにおいてPejan Katiraei博士により実施されたパイロット試験において使用するためのプロバイオティック製剤を調製した。処方を含むカプセルは以下のものからなるものである。
ラクトバチラス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus) 40億CFU
ビフィドバクテリウム・インファンチス(Bifidobacterium infantis) 30億CFU
ビフィドバクテリウム・ラクティス(Bifidobacterium lactis) 30億CFU
ラクトバチラス・カゼイ(Lactobacillus casei) 30億CFU
ビフィドバクテリウム・ビフィドゥム(Bifidobacterium bifidum) 20億CFU
ラクトバチラス・ブルガリクス(Lactobacillus bulgaricus) 20億CFU
ラクトバチラス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus) 20億CFU。
ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici) 15億CFU
ビフィドバクテリウム・ロングム(Bifidobacterium longum) 15億CFU
ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve) 15億CFU
ラクトバチラス・サリヴァリウス(Lactobacillus salivarius) 15億CFU
推奨投与量は、1カプセルを経口で1日2回である。
8.2010年、Katiraei博士は、この処方を、4歳~11歳の18名の子供に3カ月間投与した。子供は全員、過敏性腸症候群の診断についてRomeIII基準を満たしていた。18名のうちの2名は、DSM-IV, 4thedition基準に基づいた自閉症スペクトル障害も有していた。13名の子供は、排便パターンの製造化と、腹部不快感の低減又は解消を示した。自閉症スペクトル障害を伴う2名の子供は、改善されたアイコンタクト及び言語と、反復的な自己刺激的行動の解消を有することが認められた。このプロビオティック処方の副作用は認められなかった。』
上記Stephen F. Olmstead)によるデクラレーションに記載の通り、本願発明の処方は、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のために有用です。
なお、上記デクラレーションに記載した処方は、本願請求項1に記載した「少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)」として、ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici) 15億CFUを含み、「少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物」として、ラクトバチラス(Lactobacillus)属微生物とビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属微生物を含むものであり、本願発明の請求項1に規定される組成物に該当するものです。」
コ.「上記の通り、本願は記載要件を充足するものと思料致します。」
5-2.検討
5-2-1.拒絶理由1(実施可能要件)について
平成28年11月30日付けで通知した拒絶理由に記したとおり、医薬用途発明において実施可能要件を満たすためには、本願明細書の発明の詳細な説明は、その医薬を製造することができるだけでなく、出願時の技術常識に照らして、医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要があるとされる。
ここで、本願発明は、特許請求の範囲の請求項1の記載から、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のための薬学的に許容される組成物という、医薬用途発明に係るものであると認められる。
上記説明事項イ.では、ASD症状の低減の評価について述べられている。
しかし、本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができたことを、具体的に示す実施例等の記載は見当たらない。
上記説明事項ウ.では、DPP-IV等の胃腸症状を改善する薬剤は、ASDの症状を改善することが知られていること、及び、プロバイオティクス組成物の摂取により、胃腸感染が減少し、ASD症状の症状が改善することが報告されていることが述べられている。
また、上記説明事項キ.では、特定のプロバイオティック組成物を用いて自閉症を治療する方法が米国特許公開公報に記載されていること、及び特定のプロバイオティックの投与により精神統一が改善されたことが報告されていることが、述べられている。
しかし、ここに述べられている知見ないし報告は、特定の薬剤またはプロバイオティクス組成物により、ASD症状の改善ができたことを示すにとどまり、一般にASD患者の胃腸症状が改善すればASDのすべての症状が改善すると結論づけるものではない。
したがって、ここに述べられている知見ないし報告は、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠とはならない。
上記説明事項カ.では、METプロモーター変異体rs1858830のアレルcがASDに強く相関し、このアレルcがASDと胃腸症状の両方に相関していることが報告されていること、ASDを伴う子供における胃腸の不調も報告されていることが、述べられている。
しかし、ここに述べられている報告は、特定の遺伝子変異がASDと胃腸症状の両方に関連することを示唆するにとどまり、一般にASD患者の胃腸症状が改善すればASDのすべての症状が改善すると結論づけるものではない。
したがって、ここに述べられている報告は、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠とはならない。
上記説明事項ア.では、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0052には、バクテリオシンPC-l/AcHは、ペディオコッカス・アシジラクティシ(Pediococcus acidilactici)により高レベルで産生され、クロストリジウムを含む広範囲のグラム陽性菌に対して有効であることが記載されていることが述べられるとともに、ASD患者の糞便細菌叢に高率のクロストリジウムが含まれることが報告されていることから、クロストリジウムの低減策が有効であると述べられており、上記説明事項キ.には、ASD患者は、腸内毒素症としても知られる異常な微生物叢を有することが報告されていること、及び、特定の抗菌剤および/又はプロバイオティクス組成物の使用により異常な胃腸微生物叢を伴う疾患を治療又は予防する方法が米国特許公開公報に記載されていることも、述べられている。
しかし、ここに述べられている知見・報告ないし記載は、ASD患者における腸内微生物叢が健常人と異なることを示すにとどまり、一般にASD患者における腸内微生物叢が正常化すればASDのすべての症状が改善すると結論づけるものではない。
したがって、ここに述べられている知見・報告ないし記載は、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠とはならない。
また、上記説明事項ア.では、ペディオコッカス・アシジラクティシの菌株が周知であり、40年間以上市販されていること、及び、その薬学的有効量の一例が段落0063に記載されていることも述べられている。
しかし、ここに述べられている事項または記載は、ペディオコッカス・アシジラクティシが市販され周知のものであること、及び、組成物での配合量の一例を示すにとどまり、ペディオコッカス・アシジラクティシをASD患者が摂取することによりASDのすべての症状が改善することを示すものではない。
したがって、ここに述べられている事項または記載は、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠とはならない。
上記説明事項エ.では、本願明細書の発明の詳細な説明の段落0004には、ペディオコッカスのペディオシン産生株が記載され、その中でペディオコッカス・アシジラクティシがペディオシンPA-1を産生する点で好ましいことが述べられるとともに、同段落0052にUVA-1株を使用できることが記載され、同段落0054にペディオコッカス・ペントサセウス 5-33:3を使用できることが記載されていると述べられている。
しかし、上記説明事項エ.で示されている各段落の記載を確認しても、ペディオコッカスにペディオシン産生株があること、UVA1と記されるペディオコッカス・アシジラクティシは強力な抗リステリア活性を有すること、ペディオコッカス・ペントサセウス 5-33:3が市販のプロバイオティクス組成物に含まれていることは記載されているものの、ペディオコッカスをASD患者が摂取することによりASDのすべての症状が改善することを示す記載は見当たらない。
したがって、ここに述べられている事項または記載は、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠とはならない。
上記説明事項オ.では、ASDを有する患者に対する酵素の効果がすでに報告されており、本願明細書の発明の詳細な説明にも記載されていること、及び、抗生剤の効果が本願明細書の発明の詳細な説明に記載されていることが、述べられている。
しかし、ここに述べられている報告ないし記載は、ASD患者に対する酵素又は抗生剤の効果を示唆するにとどまり、一般にASD患者における腸内微生物叢が正常化すればASDのすべての症状が改善すると結論づけるものではない。
したがって、ここに述べられている報告ないし記載は、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠とはならない。
上記説明事項ケ.では、本願発明の発明者(Stephen F. Olmstead)によるデクラレーションが示され、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む組成物が、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のために有用であることを示すものであると、述べられている。
しかし、このデクラレーションに示された処方は本願明細書の発明の詳細な説明(例えば、段落0063)に具体的に示された処方と異なっている上に、その処方が投与された対象者のうち自閉症スペクトラム障害を有していた者はわずか2名であって、示された効果の信頼性に乏しいものである。しかも、このデクラレーションは、本願出願後に提出されたものであって出願時の技術常識を示すものとはいえないので、出願時の技術常識を考慮しても本願明細書の発明の詳細な説明の記載を裏づけるものであるとは認められない。
したがって、ここに示されているデクラレーションは、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠とはならない。
上記説明事項ク.及び上記説明事項コ.は、請求人の主張をまとめたものであって、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠を示すものとは認められない。
以上のとおり、請求人による意見書における説明事項を検討しても、出願時の技術常識に照らして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠を見出すことはできない。
したがって、上記4-1.で説示したとおり、本願明細書の発明の詳細な説明は、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載されていない。
5-2-2.拒絶理由2(サポート要件)について
平成28年11月30日付けで通知した拒絶理由に記したとおり、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきとされる。
本願発明の課題は、特許請求の範囲の請求項1の記載及び明細書の発明の詳細な説明の記載から、少なくとも1種のプロバイオティック・ペディオコッカス(Pediococcus)及び少なくとも1つの第二のプロバイオティック微生物を含む薬学的有効量のプロバイオティック組成物を含む上記組成物であり、上記第二のプロバイオティック微生物が、少なくとも一つのラクトバチラス(Lactobacillus)属と、少なくとも一つのビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属とを含む、上記組成物であって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者におけるアイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消のための薬学的に許容される組成物の提供であると認められる。
しかし、前記5-2-1.に示したとおり、請求人による意見書における説明事項を検討しても、出願時の技術常識に照らして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、本願発明の組成物によって、自閉症スペクトラム障害(ASD)と診断された患者における症状のうち、アイコンタクト及び言語の改善及び反復的な自己刺激的行動の解消ができることの根拠を見出すことはできない。
したがって、前記4-2.に説示したとおり、本願発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも、当業者が技術常識に照らし本願発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるともいえない。
6.まとめ
以上検討したところによれば、本願発明に関して、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2015-022894