特許拒絶査定不服審判
2015-015251
少なくとも2種類の可変表面タンパク質(VSP)を発現する変性原生動物、それを含むワクチン及び製造方法、用途及び使用方法
- 審判番号
- 2015-015251
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-539158外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年08月14日
- 審決日
- 2017年03月02日
- 公報発行日
- 2017年09月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ウニベルジダート カトリカ デ コルドバ
- 【請求人代理人】三俣 弘文
- 【請求人】コンセルヨ ナショナル デ インベスティガシオン シエンティフィカス イ テクニカス(コニセット)
- 【請求人代理人】三俣 弘文
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-539158「少なくとも2種類の可変表面タンパク質(VSP)を発現する変性原生動物、それを含むワクチン及び製造方法、用途及び使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 6月10日国際公開、WO2010/064204、平成24年 5月10日国内公表、特表2012-510286〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
この出願は、平成21年(2009年)12月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年12月2日、アメリカ)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は以下のとおりのものである。
平成23年 7月20日 手続補正書
平成23年10月 7日 手続補正書
平成26年 4月30日付け 拒絶理由通知書
平成26年10月 2日 意見書・手続補正書
平成27年 4月 9日付け 拒絶査定
平成27年 8月14日 審判請求書・手続補正書
平成28年 9月14日付け 当審の拒絶理由通知書
平成29年 1月19日 意見書・手続補正書
第2 本願発明の認定
この出願の請求項1~6に係る発明は、平成29年1月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
【請求項1】
賦形剤又はアジュバントと、その表面上に2種類以上の可変表面タンパク質を発現し、アンチセンスRNA(antisense RNA)を用いたジェネリック・エンジニアリング(genetic engineering)により、RdRp、Dicer及びこれらの両方からなる群から選択される遺伝子がサイレンスされている、少なくとも一つの変性ジアルディア・ランブリア原生動物とからなることを特徴とするジアルディア・ランブリア原生動物により発生された感染に対するワクチン。
第3 刊行物に記載された事項
平成28年9月14日付け当審の拒絶理由通知で引用した下記の刊行物について、以下「引用文献1」、「引用文献2」という。
引用文献1:PRUCCA CESAR GERMAN - congresos y reuniones cientificas [online], <URL= http://www.conicet.gov.ar/new_scp/detalle.php?keywords=&id=31558&congresos=yes&detalles=yes&congr_id=1118379>
引用文献2:BIOCELL (2008) Vol.32 (Suppl.), p.45, CB-C17.
また、下記の刊行物について、以下「引用文献5」~「引用文献7」という。
引用文献5:J. Biol. Chem. (2008) Vol.283, No.45, p.31021-9(周知技術を示す文献)
引用文献6:Mol. Microbiol. (2005) Vol.58, No.4, p.999-1011(周知技術を示す文献)
引用文献7:J. Biol. Chem. (2002) Vol.277, No.52, p.50557-63(周知技術を示す文献)
1.引用文献1:PRUCCA CESAR GERMAN - congresos y reuniones cientificas [online], <URL= http://www.conicet.gov.ar/new_scp/detalle.php?keywords=&id=31558&congresos=yes&detalles=yes&congr_id=1118379>
引用文献1は、VIII congreso Argentino de Protozoologia y Enfermedades parasitariasにおいてなされた学術発表の要旨であるが、該VIII congreso Argentino de Protozoologia y Enfermedades parasitariasの開催日が2008年11月2~5日であることから(ウェブサイトhttp://cursosparabioquimicos.blogspot.jp/2008/10/viii-congreso-argentino-de.htmlを参照)、2008年11月2~5日より前に公開されたものであると認められる。したがって、引用文献1は、本願優先日(2008年12月2日)より前に公開されたものであると認める。
引用文献1には、以下の記載がある(原文は英語のため、当審による翻訳文で示す)。
(1)「ジアルディア・ランブリアは、該寄生生物に宿主の免疫系を逃れることを可能にするメカニズムである、抗原変化を経る腸内寄生生物である。個々のジアルディアトロホゾイトは、変異-特異的表面タンパク質(VSPs)と呼ばれる、抗原性の異なるタンパク質のファミリーのただ1つのメンバーによってすっかり覆われている。このタンパク質の自然変化は、ヒト、飼育動物、家畜を含むいくつかの脊椎動物宿主に慢性的および/または反復的な感染を発生させる。」(Resumen 1~8行)
(2)「我々は最近、RNAi様メカニズムがジアルディアにおける表面抗原スイッチング制御に関与していること、および、それの破壊は抗原変化を喪失させ、さらに、VSPの全レパートリーを発現するトロホゾイトのスナネズミへの感染は、該動物を引き続く感染から保護したことを証明した。」(Resumen 12~17行)
2.引用文献2:BIOCELL (2008) Vol.32 (Suppl.), p.45, CB-C17.
引用文献2は、2008年11月8~11日に開催されたXLIV Reunion anual Sociedad Argentina de Investigacion en Bioquimica y Biologia Molecularにおいてなされた学術発表の要旨であるから、2008年11月8~11日より前に公開されたものであると認められる。したがって、引用例2は、本願優先日(2008年12月2日)より前に公開されたものであると認める。
引用文献2には、以下の記載がある(原文は英語のため、当審による翻訳文で示す)。
(1)「腸内寄生生物ジアルディアにおけるRNAi経路の破壊は抗原変化を喪失させる」(タイトル)
(2)「ここで我々は、VSP発現の制御には、RNA干渉(RNAi)機構の構成要素であるRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRP)、Dicer、Agoのホモログを含むシステムが関与することを示す。」(8~12行)
(3)「驚くべきことには、DicerおよびRdRPのノックダウンは、個々のトロホゾイトに、1つから複数のVSP発現への変化をもたらし、一方、Agoの喪失はジアルディアの生存能力により強烈な影響を示す。」(18~20行)
3.引用文献5:J. Biol. Chem. (2008) Vol.283, No.45, p.31021-9(周知技術を示す文献)
引用文献5には、以下の記載がある(原文は英語のため、当審による翻訳文で示す)。
(1)「Myb2によるジアルディア・ランブリアにおけるシストの壁タンパク質プロモーターの制御」(タイトル)
(2)「myb2アンチセンス構築物のトランスフェクションは、cwp1転写物およびシスト形成のレベルを低下させた。」(要約23~25行)
4.引用文献6:Mol. Microbiol. (2005) Vol.58, No.4, p.999-1011(周知技術を示す文献)
引用文献6には、以下の記載がある(原文は英語のため、当審による翻訳文で示す)。
(1)「新規パルミトイルアシルトランスフェラーゼはジアルディア・ランブリアにおいて表面タンパク質のパルミトイル化および細胞傷害性を制御する」(タイトル)
(2)「gPATアンチセンス発現ベクターのトランスフェクションがin vitroでgPATの発現およびVSPsのパルミトイル化を阻害することは、gPATの機能を確証する。」(Summary 28~31行)
5.引用文献7:J. Biol. Chem. (2002) Vol.277, No.52, p.50557-63(周知技術を示す文献)
引用文献7には、以下の記載がある(原文は英語のため、当審による翻訳文で示す)。
(1)早期分岐真核生物ジアルディア・ランブリアからの新規分泌顆粒カルシウム-結合タンパク質の同定と特徴付け」(タイトル)
(2)「gGSP発現の阻害はシスト壁形成を破壊する。」(要約28~29行)
(3)「この方法において、gsp遺伝子はPtub-HApacの中に逆に挿入され、gGSP発現阻害のために用いられるgspアンチセンスベクターを提供する。」(EXPERIMENTAL PROCEDURESのgGSP Antisense Silencing 7~9行)
第4 当審の判断
1.引用文献1に記載された発明
第3 1.(2)の「VSPの全レパートリーを発現するトロホゾイトのスナネズミへの感染は、該動物を引き続く感染から保護した」という記載から、VSPの全レパートリーを発現するジアルディア・ランブリアのトロホゾイトは、動物を感染から保護するワクチンとして機能していると認められる。
そうすると、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「VSPの全レパートリーを発現し、RNAi様メカニズムが破壊されているジアルディア・ランブリアを含む、ジアルディア・ランブリアに対するワクチン。」(以下、「引用発明1」という。)
2.本願発明と引用発明1の対比
本願発明と、引用発明1とを対比すると、両者は、
「その表面上に2種類以上の可変表面タンパク質を発現する、少なくとも一つの変性ジアルディア・ランブリア原生動物を含むことを特徴とするジアルディア・ランブリア原生動物により発生された感染に対するワクチン。」である点で一致し、以下の点で相違している。
(相違点1)
本願発明は、アンチセンスRNA(antisense RNA)を用いたジェネリック・エンジニアリング(genetic engineering)により、RdRp、Dicer及びこれらの両方からなる群から選択される遺伝子がサイレンスされていると特定されているのに対し、引用発明1は、RNAi様メカニズムが破壊されていると特定されている点。
(審決注:「ジェネリック」は「ジェネティック」の誤記と認められる。)
(相違点2)
本願発明は、賦形剤又はアジュバントを含むと特定されているのに対し、引用発明1は、そのような特定がされていない点。
3.判断
(1)相違点1について
本願優先日前、特定の遺伝子をノックダウンする方法の1つとして、アンチセンスオリゴヌクレオチドを導入する方法は周知技術であり、また、ジアルディア・ランブリアにおいても同様であったと認められる(引用文献5~7)。
そして、第3 2.(2)、(3)の通り、引用文献2には、RNA干渉機構の構成要素であるDicerとRdRPのノックダウンにより、複数のVSPを発現するジアルディア・ランブリアが得られることが記載されているから、該記載に触れた周知技術を熟知する当業者であれば、引用発明1においてRNAi様メカニズムが破壊されたジアルディア・ランブリアを作製する際に、引用文献2に記載されたようにDicerとRdRPのノックダウンを行うことは容易に想到し得ることであり、その際、DicerとRdRPのアンチセンスを導入することによりノックダウンを行うことは、容易になし得ることである。
(2)相違点2について
本願優先日前、ワクチンを製造する際に、抗原と共に賦形剤やアジュバントを用いることは周知技術であったから、「(1)相違点1について」で述べたようにして得られた変性ジアルディア・ランブリアを用いてワクチンを製造する際に、賦形剤又はアジュバントを用いることは、当業者が容易になし得ることである。
そして、本願発明の効果についても、引用文献1および引用文献2の記載との比較において当業者が予測し得る程度のものである。
4.審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、平成29年1月19日付け意見書において、「ワクチンの製造時に「賦形剤又はアジュバントと」を使用する点は当業者が容易になし得たことであるとされたが、これは議論の分かれるところである。請求項1記載の発明で定義した抗原である「変性ジアルディア・ランブリア原生動物」を引例1は開示していない以上「賦形剤又はアジュバントと」を使用するか否かは進歩性判断にとって枝葉末節な議論である。」と主張している。
確かに引用文献1には、本願の請求項1記載の発明で定義した抗原である「変性ジアルディア・ランブリア原生動物」が開示されていないが、第3 3.(1)で述べたように、引用文献1においてRNAi様メカニズムが破壊されたジアルディア・ランブリアを作製する際に、引用文献2に記載されたようにDicerとRdRPのノックダウンを行うことは当業者が容易に想到し得ることであり、その際、DicerとRdRPのアンチセンスを導入することによりノックダウンを行うことは、当業者が容易になし得ることである。
そして、第3 3.(2)で述べたとおり、本願優先日前、ワクチンを製造する際に、抗原と共に賦形剤やアジュバントを用いることは周知慣用の技術であったから、そのようにして得られた変性ジアルディア・ランブリアを用いてワクチンを製造する際に賦形剤又はアジュバントを用いることは、当業者が容易になし得ることであると認められる。
そして、本願発明の効果についても、当業者が予測し得ない程のものであるとは認められない。
よって、上記審判請求人の主張は採用できない。
(2)審判請求人は、上記意見書において、「本発明の「遺伝子をサイレンスすること」に関し、引例2の「RdRpとDicerをノックダウンすること」は、新たな要件である「アンチセンスRNA(antisense RNA)を用いたジェネリック・エンジニアリング(genetic engineering)により」、「RdRp、Dicer及びこれらの両方からなる群から選択される遺伝子がサイレンスされている」こととは必ずしも等価ではない。引例1と2とを組み合わせ、「ノックダウンしてサイレンスすること」或いは「ノックダウン/サイレンスすること」は、今回の補正で追加した要件「アンチセンスRNA(antisense RNA)を用いたジェネリック・エンジニアリング(genetic engineering)により」サイレンスすることは異なり、またそこから容易に想到できないと思慮する。」と主張している。
確かに引用文献2にはアンチセンスRNAを用いてDicerおよびRdRPをノックダウンしたことは記載されていないものの、特定の遺伝子をノックダウンする際にアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いることは、本願優先日前に周知技術であったところ、第3 3.(2)で述べたとおり、ジアルディア・ランブリアにおいても同様であったと認められる(引用文献5~7)から、DicerおよびRdRPのノックダウンを、それぞれに対するアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いて行うことは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、そのことにより奏される本願発明の効果についても、当業者が予測し得ない程のものであるとは認められない。
よって、上記審判請求人の主張も採用できない。
(3)審判請求人は、上記意見書において、VSPをワクチン特に経口ワクチンとして使用することは、容易には想到できない旨、主張している。
しかしながら、本願発明の「ワクチン」が、「経口」ワクチンであることについては請求項1において何ら特定されていないため、本願発明は、あらゆる形態の「ワクチン」を包含するものである。
そして、第4 1.で述べたように、引用文献1には、VSPの全レパートリーを発現するジアルディア・ランブリアをワクチンとして用いることが開示されていると認められる。
よって、上記審判請求人の主張も採用できない。
5.まとめ
したがって、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1に係る発明は、引用文献1、2に記載された発明および周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その他の請求項に係る発明についての判断を示すまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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