特許拒絶査定不服審判
2015-008222
B-Rafキナーゼ阻害剤に対する感受性についての診断試験
- 審判番号
- 2015-008222
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2008-229396外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年05月01日
- 審決日
- 2017年05月30日
- 公報発行日
- 2017年12月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 分類
- P18 .55 -WZ (C12Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法17条の2第3項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2008-229396「B-Rafキナーゼ阻害剤に対する感受性についての診断試験」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月16日出願公開、特開2009- 77712〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成20年9月8日(パリ条約による優先権主張 平成19年9月11日、米国)を出願日とする出願であって、主な手続は以下の通りである。
平成23年 8月30日 手続補正書
平成25年 5月30日 拒絶理由通知
平成25年 9月 3日 意見書・手続補正書
平成25年12月 6日 拒絶理由通知
平成26年 6月17日 意見書
平成26年12月24日 拒絶査定
平成27年 5月 1日 拒絶査定不服審判請求
平成27年 6月 3日 手続補正書(審判請求の理由)
平成28年 9月 2日 当審拒絶理由通知
平成29年 3月 6日 意見書
そして、この出願の請求項1~11に係る発明は、平成25年9月3日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
【請求項1】
B-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌細胞の感度を決定する方法であって:
-癌を有する患者から得られた癌細胞に由来する核酸試料中の標的ポリヌクレオチド配列を、当該標的ポリヌクレオチド配列を増幅するプライマー対を用いて増幅すること、ここで、当該標的ポリヌクレオチド配列は、B-Raf中にV600E、V600D又はV600K突然変異部位を含んで成り、そして増幅は、配列番号1に記載されている配列を含み、且つB-Raf中のV600E、V600D又はV600K突然変異部位で、突然変異した配列の存在を検出する標識オリゴヌクレオチドプローブの存在下実施される;及び
-B-RafにおけるV600E、V600D又はV600K突然変異の有無を検出すること;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定すること、を含んで成る方法。
第2 平成28年9月2日付けの当審拒絶理由通知について
本件の当審拒絶理由通知の内容は、概略、以下のとおりの理由を含むものである。
理由1:平成25年9月3日付けでした手続補正(特許請求の範囲の【請求項1】~【請求項5】、及び【請求項8】~【請求項10】の補正)は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
第3 当審の判断
(1)補正の内容
平成25年9月3日付け手続補正書の補正により、特許請求の範囲の請求項1は
「B-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌細胞の感度を決定する方法であって:
-癌を有する患者から得られた癌細胞に由来する核酸試料中の標的ポリヌクレオチド配列を、当該標的ポリヌクレオチド配列を増幅するプライマー対を用いて増幅すること、ここで、当該標的ポリヌクレオチド配列は、B-Raf中にV600E突然変異部位を含んで成り、そして増幅は、配列番号1に記載されている配列のうちの少なくとも15個連続のヌクレオチドを有し、且つB-Raf中のV600E突然変異部位で、突然変異した配列の存在を検出する標識オリゴヌクレオチドプローブの存在下実施される;及び
-B-RafにおけるV600E突然変異の有無を検出すること;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定すること、を含んで成る方法。」
から
「B-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌細胞の感度を決定する方法であって:
-癌を有する患者から得られた癌細胞に由来する核酸試料中の標的ポリヌクレオチド配列を、当該標的ポリヌクレオチド配列を増幅するプライマー対を用いて増幅すること、ここで、当該標的ポリヌクレオチド配列は、B-Raf中にV600E、V600D又はV600K突然変異部位を含んで成り、そして増幅は、配列番号1に記載されている配列を含み、且つB-Raf中のV600E、V600D又はV600K突然変異部位で、突然変異した配列の存在を検出する標識オリゴヌクレオチドプローブの存在下実施される;及び
-B-RafにおけるV600E、V600D又はV600K突然変異の有無を検出すること;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定すること、を含んで成る方法。」
へと補正された。(以下、本件補正1という。なお、下線部は当審で付した。)
(2)当合議体の判断
ア.当初明細書等の開示内容
本件補正1に関して、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)には、以下の技術的事項が開示されていた。(なお、下線部は当審で付した。)
(a)「多くのキナーゼ阻害剤、例えばB-Rafを阻害するものが知られている。そのような阻害剤には、PLX4032があり、これはB-Raf V600Eキナーゼ活性を選択的に阻害する。本発明は、B-Rafキナーゼ阻害剤、例えばPLX4032を用いた治療のためにV600Eポジティブな患者を同定して選択する方法を提供する。」(段落【0002】)
(b)「本発明は、B-Rafキナーゼ阻害剤を用いた治療の候補者である患者の検出のための方法及び組成物を提供する。従って、一つの観点において、本発明は、B-Raf阻害剤に対する癌細胞の感受性を決定する方法であって:(i) 癌患者由来の癌細胞から核酸試料を準備し、(ii) 前記核酸試料中の標的ポリヌクレオチド配列を、当該標的ポリヌクレオチド配列を増幅するプライマー対を用いて増幅し、ここで、当該標的ポリヌクレオチド配列は、B-RafにV600E突然変異部位を含んで成り、そして増幅は、配列番号1に記載の配列のうちの少なくとも15個連続のヌクレオチドを含んで成り、且つB-RafのV600E突然変異部位にある突然変異配列の存在を検出する標識オリゴヌクレオチドプローブの存在下で実施される;そして(iii) B-RafにおけるV600E突然変異の有無を検出し;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感受性を決定すること、を含んで成る方法、を提供する。」(段落【0003】)
(c)別の観点において、本発明は、PLX4032治療候補者を同定する方法であって:被験者由来の試料を準備し;そして当該試料からB-Raf V600E突然変異を含んで成る生体分子を検出し、それにより、PLX4032治療候補者を同定すること、を含んで成る方法、を提供する。(段落【0008】)
(d)V600Eの存在は、患者がB-Raf阻害剤、例えば突然変異特異的B-Raf阻害剤の治療候補者であることを示唆するものである。従って、本発明はまた、V600Eを有することが決定されている患者がRaf阻害剤、例えば選択的突然変異B-Raf阻害剤、例えばPLX4032で治療される方法も含んで成る。(段落【0031】)
(e)緒言
本発明は、癌患者、例えば黒色腫の癌患者、結腸癌患者、甲状腺癌患者、及び低悪性度の重度の卵巣癌を有する患者であって、B-Raf阻害剤、例えば選択的突然変異B-Raf阻害剤、例えばPLX4032による治療の候補者である患者を選択するのに使用するためのV600E診断アッセイを提供する。従って、本診断試験は、PLX4032による治療に応答する可能性に従うことで患者を分類するのに使用することができる。(段落【0026】)
(f)「突然変異特異的B-Rafキナーゼ阻害剤」とは、本明細書で使用する場合、突然変異B-Raf、例えば、野生型B-Rafと比較してアミノ酸位600がバリン残基である突然変異、例えばV600Eを有するB-Rafについて選択性を有するB-Raf阻害剤を意味する。そのような阻害剤は、野生型と比較して、少なくとも2倍、より頻繁には少なくとも3倍、あるいはそれ以上、強力な突然変異B-Raf、例えばV600E突然変異を有するB-Rafの阻害剤である。例えば、態様によっては、「突然変異特異的B-Raf阻害剤」は、V600E B-Rafの場合、キナーゼ阻害活性に対し約30nMのIC50を有することがあり(生化学的アッセイ)、一方、野生型の場合、相当のIC50は約100nMである。その効力は、細胞アッセイ、例えば増殖阻害を測定する細胞アッセイについてのIC50の観点でも比較することができる。本発明における「突然変異特異的B-Raf阻害剤」とは、B-Raf以外のキナーゼ、例えば他のrafキナーゼも阻害することがある。(段落【0014】)
(g)V600E突然変異の存在は、典型的には、核酸、例えばゲノムDNA又はmRNAを、1799位置の塩基置換の存在について評価することで決定される。広範なアッセイが利用可能である。態様によって、このアッセイは5’ヌクレアーゼアッセイである。(段落【0029】)
(h)本発明の一態様において、5’ヌクレアーゼアッセイは、以下の対立遺伝子特異的プローブの一方又は両方を用いて実施され、これは、突然変異(TTS155-BRAF_MU)又は野生型(TTS148-BRAF_WTs)配列のいずれかを検出する:
TTS155-BRAF_MU 5’ QCTACAIAIFAAATCTCGATGGAGTGGGTCCCAP 3’ (配列番号23)
TTS148-BRAF_WT 5’ QACAITGEAAATCTCGATGGAGTGGGTCCCAP 3’ (配列番号24)
(E = HEXレポーター色素, F= FAMレポーター色素, I =デオキシイノシン, Q = BHQ2クエンチャー色素, P= 3’-リン酸)。当該色素(F又はE)は、dIとdA(TTS155-BRAF_MU)又はdGとdA (TTS148-BRAF_WT)のいずれかの間に挿入される。(段落【0058】)
(i)「【0098】
実施例
B-Raf V600E突然変異の検出
本実施例は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された(FFPE)癌の腫瘍組織から抽出したゲノムDNAのV600E(B-Rafヌクレオチド1799T>A)突然変異の測定のためのリアルタイムPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)ベースの診断試験を示すものである。
‥(省略)‥
【0099】
B-Raf V600E部位 (B-Raf 1799 T>A)をエキソン15に含むゲノム領域を増幅して、116塩基対の二本鎖DNA(アンプリコン)を生成させた。
‥(省略)‥
【0113】
DNAは、30個のFFPEの黒色腫試料から抽出した(表4)。その結果、試料には腫瘍細胞及び正常細胞の両方に由来するDNAの混合物が含まれていた。TaqMan(登録商標)アッセイ由来の突然変異検出の結果を、ピロシーケンス及びGS20シーケンスと比較して表5に示す。
【表5】
【0115】
試料M3及びRM1は、2回目の抽出後でもピロシーケンスについて増幅することができず、両試料は、TaqMan(登録商標)及びGS20法によりV600Eネガティブ(WT)であると判定された。
‥(省略)‥
【0116】
ピロシーケンスと比較した場合GS20シーケンスの感度がより高いため、GS20法は、TaqMan(登録商標)テストの参照方法として使用された。COBAS TaqMan(登録商標)B-Raf V600EテストとGS20シーケンスとの間での一致のレベルは、V600Eポジティブについては12/12、すなわち100%であり、そしてV600Eネガティブ(WT)試料については18/18、すなわち100%であった。」(段落【0098】~【0116】)
(j)「他の突然変異もコドン600で起こることがある。これらには、V600K、V600D、及びV600Rも含まれる。態様によっては、V600E突然変異を検出するプローブは、他のコドン600突然変異、例えばV600D、V600K及び/又はV600Rをも検出することができる。」(段落【0028】)
(k)「態様によっては、V600E、例えばTTS155-BRAF_MUを検出するプローブは、V600D (1799_1800TG>AT)及びV600K (1798_1799GT>AA)も検出する。」(段落【0060】)
(l)アミノ酸位600における突然変異の存在について陽性であると決定されている患者は、B-Rafキナーゼ阻害剤、例えば突然変異特異的B-Rafキナーゼ阻害剤、例えばPLX4032による治療候補者である。種々のB-Rafキナーゼ阻害剤、例えば突然変異特異的B-Rafキナーゼ阻害剤は、WO 2007/002325及びWO 2007/002433で説明されている。PLX4032は、WO 2007/002433及びWO 2007/002325では「P-0956」と称されている。(段落【0085】)
イ.判断
本件補正1による補正後の請求項1に係る発明は、「BRAFにおけるV600E、V600D又はV600K突然変異の有無を検出すること;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定すること」を含んでなる、「B-Raf阻害剤に対する癌細胞の感度を決定する方法」であり、すなわちB-Rafにおける、V600E突然変異のみならず、V600D又はV600K突然変異の有無の検出により、B-Raf阻害剤に対する癌細胞の感度を決定すること、を特定するものであると認められる。
これに対して、当初明細書等には、V600E突然変異については、上記ア.(a)~(i)より、BRAFにおけるV600E突然変異の有無を検出することによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定することは開示されていたと認められる。
しかしながら、V600E以外の突然変異については、ア.(l)に「アミノ酸位600における突然変異の存在について陽性であると決定されている患者は、B-Rafキナーゼ阻害剤、例えば突然変異特異的B-Rafキナーゼ阻害剤、例えばPLX4032による治療候補者である」なる記載があるのみであり、さらに、V600D又はV600K突然変異については、ア.(j)(k)の通り、「V600Eを検出するプローブは、V600D及びV600Kも検出する」旨が記載されているにとどまり、V600D又はV600K突然変異の有無の検出によりB-Raf阻害剤に対する癌細胞の感度を決定したことについて具体的な開示はないし、以下に述べるとおり、当初明細書等の記載からそのことが自明であるともいえない。
まず、上記ア.(l)の記載について検討する。当初明細書において、B-Rafキナーゼ阻害剤との関係が記載されているのは一貫してV600Eのみである。また、ア.(l)で挙げられた特許文献である国際公開第2007/002433号([0258]~[0259]、[0267]~[0269]、表2c)、及び国際公開第2007/002325号([0076]、[0079]~[0081]、表2b.等参照。なお、これらの文献ではPLX4032に相当する化合物は「P-0956」と記載されている。)には、PLX4032、及び、PLX4032と構造が類似する化合物を含め、B-Raf及びB-RafV600E変異体に有効であるB-Raf阻害剤が記載されているものの、こうしたB-Raf阻害剤がV600D変異体やV600K変異体にも有効であるのかどうかは記載されていないことから、PLX4032以外のB-Raf阻害剤についても、B-RafV600E変異体に有効なものがV600E以外のV600変異体にまで有効であったとの技術常識が存在したとは認められない。
よって、当初明細書等の記載、及び、上記文献の記載等による技術常識からみて、上記ア.(l)記載にいう「アミノ酸位600における突然変異」がV600D、V600Kを意味しているとはいえない。
次に、ア.(j)(k)の記載について検討する。まず、上記本願出願前、B-Raf阻害剤PLX4032が有効であることが知られていたB-Raf変異体はV600E変異体のみであったと認められる(必要ならば、当審拒絶理由通知で引用した文献3であるLANGLAND, R. et al.,”Development of a companion diagnostic test for inhibitors of V600E BRAF.”,AACR MEETING ABSTRACTS ONLINE,2006年 9月,Vol.2006, No.2,A13,[検索日:平成25年5月30日],URL,http://aacrmeetingabstracts.org/cgi/content/abstract/2006/2/A13,本文の第4-6行参照)。
また、上記ア.(l)で挙げられた文献である国際公開第2007/002433号、及び国際公開第2007/002325号には、上述したとおり、PLX4032の他にも、PLX4032と構造が類似する化合物を含め、B-Raf及びB-RafV600E変異体に有効であるB-Raf阻害剤が記載されているものの、こうしたB-Raf阻害剤がV600D変異体やV600K変異体にも有効であるのかどうかは記載されていないことから、PLX4032以外のB-Raf阻害剤についても、B-RafV600E変異体に有効なものがV600E以外のV600変異体にまで有効であったとの技術常識が存在したとは認められない。
さらに、E(グルタミン酸)、D(アスパラギン酸)、K(リジン)のアミノ酸は立体構造や電荷等の点で共通するとはいえず、V600D変異体やV600K変異体のアミノ酸600位付近が、V600E変異体と同様の立体構造や電荷を示すことが合理的に推認できないし、PLX4032を始めとしたB-Rafキナーゼ阻害剤がどのような機序で作用するのかについても不明であって当初明細書等においても論理的な説明がなされていないから、V600D変異体やV600K変異体がB-Rafキナーゼ阻害剤に対してV600E変異体と同様の挙動を示すことが合理的に推認できる等の事情があったともいえない。
また、V600D変異体やV600K変異体に選択的に有効であるか、選択的に無効であるような他のB-Raf阻害剤が文献を挙げるまでもなく広く知られていたともいえない。
そうすると、V600D又はV600K突然変異の有無とB-Raf阻害剤に対する癌の感度が相関関係を有するかどうかは、本願出願時の技術常識では不明であったといえる。
このことは、請求人が平成27年6月3日付手続補正書の審判請求の理由において、参考資料2~5にBRAF V600D又はV600K突然変異についてPLX4032により処置が有益であったこと等が記載されていることからV600E、V600D及びV600K突然変異の同時検査の臨床学的意義を有することを主張しているが、参考資料2~5はいずれも本願出願日後の2010年~2014年に公開されたものであることとも整合性がとれるものである。
このように、本願出願時にはV600D又はV600K突然変異の有無とB-Raf阻害剤に対する癌の感度が相関関係を有するか否かが不明であった以上、V600E突然変異の有無を検出することによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定できたからといって、V600D又はV600K突然変異の有無を検出することによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定できるかどうかは本願出願時の技術常識を参酌しても不明であったといえる。
よって、「V600D又はV600Kの有無を検出すること;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定すること」が、当初明細書等の記載から自明な事項であるとはいえない。
したがって、「BRAFにおけるV600E突然変異の有無を検出すること;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定すること」、「アミノ酸位600における突然変異の存在について陽性であると決定されている患者は、B-Rafキナーゼ阻害剤、例えば突然変異特異的B-Rafキナーゼ阻害剤、例えばPLX4032による治療候補者である」及び「600D又はV600Kを検出すること」という、その有無の検出によりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定できるかどうかが本願出願時には不明であった突然変異についての記載を含む当初明細書等の記載から、実際にB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定し得ることが後に判明した「BRAFにおけるV600D又はV600K突然変異の有無を検出すること;それによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定すること」を含んでなる、B-Raf阻害剤に対する癌細胞の感度を決定する方法に補正することは、当初明細書等に記載された事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであることが明らかであるから、この補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でする補正とは認められない。
ウ.請求人の主張について
請求人は、平成29年3月6日付け意見書において、以下のとおり主張している。
「明細書段落0026を参照すると、本発明が、B-Raf阻害剤による治療の候補者である癌患者を選択し、かつ治療に対する応答の可能性に従って患者を分類するために使用され得る診断アッセイを提供することが明確になっています。
段落0029には「5′ヌクレアーゼアッセイ」が上記突然変異を決定するために使用され得ることが開示されています。‥そのようなアッセイは標識されたオリゴヌクレオチドを用いて実施されることが記載されています。突然変異(TTS155-BRAF_MU)など検出するアレル特異的プローブとして働く典型的なオリゴヌクレイチドについて、‥「TTS155-BRAF_MU」と命名されたオリゴヌクレオチドは配列番号1の標識されたオリゴヌクレオチド(nはデオキイノシン)に該当します。
続いて段落0060には、「V600E、例えばTTS155-B-Raf_MUを検出するプローブは、V600D (1799_1800TG>AT)及びV600K (1798_1799GT>AA)も検出する。」との記載があります。したがって、本願明細書には、「n」がデオキシイノシンである配列番号1を含む標識されたオリゴヌクレオチドプローブの存在下で増幅反応を実施し、それにより、B-RafにおけるV600E、V600D又はV600K突然変異部位での突然変異誘発された配列の有無を検出することで、B-Raf阻害剤に対する癌の感受性の決定し、その結果B-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌細胞の感受性を決定する方法が開示されていることが一義的に導き出せます。」(主張1)
「このことは、本願出願時における技術常識を考慮することで一層明白となります。本願出願時点において当業者は、キナーゼ阻害剤による治療の利益を得ることができる最も広範な患者群を選択する臨床試験に関し、V600E突然変異と他のV600突然変異、例えばV600D及びV600Kの検出を確実にするアッセイ/方法が必要であることを熟知しておりました(例えば出願時の技術常識を示す引用文献1として引用されるSpittleなどを参照して下さい)。従って、本願明細書の開示と出願時の技術常識から、「n」がデオキシイノシンである配列番号1を含む標識されたオリゴヌクレオチドが、V600E突然変異の他に、V600D及びV600K突然変異も検出し、そして結果的に、B-Rafにおけるそれらのすべての突然変異について、B-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌細胞の感受性の決定に有用であることは自明であります。」(主張2)
主張1について、段落【0026】には、本願発明がB-Raf阻害剤による治療の候補者である癌患者を選択し、かつ治療に対する応答の可能性に従って患者を分類するために使用され得る診断アッセイを提供することを目的とすることは記載されているが、「‥患者を選択するのに使用するためのV600E診断アッセイを提供する。」と記載されている通り(上記ア.(e))、本願発明の目的のための検出対象として当該段落から読み取れる変異は「V600E」のみである。
また、段落【0029】には、上記ア.(h)の通り、「5’-ヌクレアーゼアッセイ」及び該アッセイに用いるプローブの塩基配列について説明があるのみで、上記ア.(k)に摘記した【0060】の記載と併せても、本願発明が「5’-ヌクレアーゼアッセイ」を用いることと、本願発明のプローブがV600E突然変異の他に、V600D及びV600K突然変異も検出し得ることが理解できるのみである。
そして、上記イ.で検討した通り、V600E突然変異の有無を検出することによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定できたからといって、V600D又はV600K突然変異の有無を検出することによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定できるかどうかは本願出願時の技術常識を参酌しても不明であったから、V600D又はV600K突然変異の有無を検出することによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を決定できることが明細書等の記載及び技術常識より自明であったとはいえない。
よって、【0026】【0029】【0060】の記載を検討しても、B-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌細胞の感度を決定することを目的として、配列番号1の標識されたオリゴヌクレオチドを用いて、V600E、V600D又はV600Kの突然変異を検出することまでは当初明細書等の記載の範囲内であるとはいえても、V600D又はV600K突然変異の有無を検出することによりB-Raf阻害剤に対する癌の感度を実際に決定することまでが明細書等の記載及び技術常識より自明であったとはいえない。
主張2について、当審拒絶理由通知で引用した文献1であるSpittle C. et al.、Application of a B-Raf Pyrosequencing Assay for Mutation Detection and Copy Number Analysis in Malignant Melanoma、Journal of Molecular Diagnostics、Epub 2007 Aug 9, Vol.9, No.4、p.464-471には、B-Raf変異体阻害剤の臨床試験に参加するにあたり、B-Raf変異状態は特定の変異体についての知識を含めて薬剤感受性の決定にとって重要であること(p.464右欄第24-27行)、従来のV600E変異の検出アッセイではその他の変異は見逃される恐れがあり、臨床試験でそのようなアッセイを用いるとV600E以外の変異を同定できず、B-Raf変異を有する全ての患者を検出出来ないこと、V600Eも他の変異も同定するシーケンシングに基づいた分子解析の利用が重要であること(第464頁右欄第27~36行)、及び、V600Eと並んでV600DやV600KもB-Raf変異としては記載されている(表1、2、図2等)。
しかしながら、引用文献1は、B-Raf阻害剤を臨床試験に進めるにあたり、V600E以外の突然変異も見逃すことなく検出することを課題と認識した上で、種々の黒色腫細胞株や腫瘍試料等においてB-Rafの変異検出にパイロシーケンス法を適用することを検討した論文であって、上記V600E、V600D、V600Kといった変異はパイロシーケンス法による検出結果や変異コドンとの関係を示したものにすぎず、B-RafにおけるV600D又はV600K突然変異がB-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌の感受性をもたらすことや、両突然変異とB-Raf阻害剤に対する癌の感受性との相関関係を確かめたことが具体的に記載されているとはいえない。よって、引用文献1の記載を参酌しても、B-Rafにおけるそれらのすべての突然変異について、B-Rafキナーゼ阻害剤に対する癌細胞の感受性の決定に有用であることは自明であるとはいえない。
したがって、請求人の主張はいずれも採用できない。
(3)小括
平成25年9月3日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができないから,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明についての平成25年9月3日付けでした手続補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内にないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-008222