特許拒絶査定不服審判
2015-006875
高力価、高純度のウイルスストックの作製方法及びその使用方法
- 審判番号
- 2015-006875
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-504963外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2015年04月10日
- 審決日
- 2016年11月08日
- 公報発行日
- 2017年05月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】イーエムディー・ミリポア・コーポレーション
- 【請求人代理人】細田 芳徳
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-504963「高力価、高純度のウイルスストックの作製方法及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年10月20日国際公開、WO2011/130119、平成25年 6月17日国内公表、特表2013-523175〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成23(2011)年4月8日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年4月14日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成26年12月8日付けで拒絶査定がされたところ、平成27年4月10日に拒絶査定不服審判の請求がされ、当審による平成28年4月8日付け拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という)に応答して、同年10月11日に意見書および手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項1~17に係る発明は、平成28年10月11日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~17に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
100fg/TCID50未満のタンパク質濃度を含む高純度マウスマイニュートウイルス(MMV)ストック溶液の調製方法であって、前記方法は、
(a)低血清条件下で増殖されたウイルス感染細胞の培養上清を採取し、それによりウイルスサンプルを得る工程、ここで、前記培養上清は、ウイルス誘導性細胞溶解後に採取される、
(b)限外ろ過により前記ウイルスサンプルを濃縮する工程、
(c)超遠心により前記ウイルスサンプル中のウイルスを沈殿させる工程、ここで、前記沈殿したウイルスが100fg/TCID50未満のタンパク質濃度を含む、及び
(d)前記沈殿したウイルスをクロマトグラフィーポリッシングに供し、痕跡量の不純物を除去する工程
の逐次工程を含み、それにより高純度MMVストック溶液を調製する、方法。」
第3 引用例
1.引用例1
拒絶理由において「引用例5」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物であるBioProcess International,2005,Vol.3,No.10(Sup),p.40-44(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、翻訳は当審によるものであり、下線は強調のため当審で付与したものである。以下、同様である。
(1-a)「モデルウイルスは、バイオプロセスにおいて最も遭遇しやすい大きさと型の範囲に及ぶように通常は選択される。マイニュートマウスウイルス(MMV)は、バイオ製剤製造における偶然の汚染物質として、特に、マウスのハイブリドーマやチャイニーズハムスター卵巣細胞発現システムで見い出された、小さく(18-26nm)、エンベロープを有しない、パルボウイルス科の一本鎖DNAウイルスである。」(40頁中央欄8~19行目)
(1-b)「MMVストック調製の影響
フィルター検証の研究に用いられるウイルスストックの調製及び分析のための標準的な手法の欠如は、研究室から研究室、もしくは一研究室の中のストックからストックにまで、汚染物質の量的又は質的な違いに繋がる可能性がある。ウイルスストックに存在する汚染物質の中には、成長培地によって持ち込まれた血清タンパク質、宿主細胞のタンパク質やDNA、並びに細胞壁の断片や脂質がある。ウイルス除去フィルターは通常は、そのような汚染物質が存在しない下流の精製プロセスにおけるある時点で実装される。仮に、汚染物質が製造プロセスにおいて代表するものでなく、ウイルスフィルターを詰まらせる可能性があり、観察される保持能力に影響する場合に、フィルター検証の研究においてよりクリーンなウイルスストックを用いることが望ましい。
フィルター性能におけるウイルスストックの品質の効果を実証するために、我々は2つのMMV伝搬法を比較した(図2)。クルードな手法では(図2A)、細胞は最小限の加工がなされる:凍結融解サイクルによる溶解と、それに続く大きな細胞の破片を除去するための低速遠心。そうすると、多くの上清の成分がウイルスストックに含まれる。「クリーンな」MMVストックの方法は文献11が出典であり、クルードな方法とは最初のステップが異なる(図2B)。取得した細胞は遠沈され、結果として生じる上清はすぐに捨てられる。細胞はその後、細胞溶解のために、タンパク質を含まないTE緩衝液(トリス+エチレンジアミン四酢酸,EDTA)に再懸濁される。サンプルはさらに2回以上の超遠心に供され、結果として生じるウイルスペレットは、ほぼタンパク質を含まない溶液を得るためにTEに再懸濁される。
図2Bに概要を示したクリーンなMMVストックを生産するための方法は、2Aの方法よりも1.5log10高い力価で、より低い総タンパク質濃度を与える。」(42頁右欄28行目~43頁6行目)
(1-c)「図2B:クリーンMMV調製方法
感染細胞の取得及び1500rpmでペレット化。
↓
上清を廃棄(培養培地)。細胞ペレットをTE,pH8.7で再懸濁。
↓
ウイルスを放出するため3回の細胞懸濁物の凍結融解。
↓
細胞懸濁物を15000rpmで20分間遠心。上清を取得。
↓
83100gで18時間遠心。ウイルスペレットをTE,pH8.7に再懸濁。-80℃で保存。」(図2B)
(1-d)「表1:クルード及びクリーンMMVストックの比較(総タンパク質量の決定のためにバイオラッドDCプロテインアッセイが使用された)
クルードMMV クリーンMMV
――――――――――――――――――――――――――――――――――
Log10ストック力価 8.4±0.5 10.0±0.5
(TCID50/mL)
感染したフラスコあたりの 9.8±0.5 9.2±0.5
Log10全ウイルス
ストック中の全タンパク質 1.7±0.1 0.6±0.4
(mg/mL)
正規化されたタンパク質量 5.35±1.3 0.04±0.02
(pg/TCID50)
」(表1)
上記記載事項(1-a)~(1-d)の下線部分より、引用例1には、マイニュートマウスウイルス(MMV)に感染した細胞懸濁物の凍結融解によりウイルスを放出させ、細胞懸濁液を15,000rpmで20分間遠心して上清を取得した後、83,100gで18時間超遠心してウイルスペレットを得る、タンパク質濃度が0.04±0.02pg/TCID50であるクリーンMMVストックの調製方法が記載されているといえる。
そうすると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されていると認められる。
「タンパク質濃度が0.04±0.02pg/TCID50であるマイニュートマウスウイルス(MMV)ストックの調製方法であって、
MMVに感染した細胞懸濁物の凍結融解によりウイルスを放出させ、細胞懸濁液を15,000rpmで20分間遠心して上清を取得した後、
83,100gで18時間超遠心してウイルスペレットを得る、方法。」
2.引用例2
拒絶理由において「引用例2」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物であるCytotechnology,1999,Vol.30,p.169-172(以下、「引用例2」という)には、以下の事項が記載されている。
(2-a)「血清含有培地でのマイクロキャリアの培養とは対照的に、血清非含有の培地における浮遊細胞増殖に適合した細胞は、100~1000リットルの撹拌槽型バイオリアクターのような大規模な製造システムでスケールアップすることがより簡単である。他の研究者(Garnier,1994及びNadeau,1996)は、浮遊細胞増殖に適合したHEK293細胞が、撹拌槽型バイオリアクターにおけるアデノウイルスの生産に用いられることを示した。」(170頁右欄1~8行目)
3.引用例3
拒絶理由において「引用例3」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物であるCytotechnology,1998,Vol.28,p.81-89(以下、「引用例3」という)には、以下の事項が記載されている。
(3-a)「我々は、臨床試験のための治療的導入遺伝子を発現する組換えアデノウイルスベクターのための、効率的で再現性のある拡張可能な細胞培養プロセスを開発した。HEK293細胞-E1の欠失したアデノウイルスの伝搬をサポートする-が、無血清培地及び浮遊細胞増殖に最初に適用された。」(要約1~3行目)
4.引用例4
拒絶理由において「引用例4」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2007-515172号公報(以下、「引用例4」という)には、以下の事項が記載されている。
(4-a)「本発明は、細胞(例えば、A549細胞)を適応させて、無血清および無動物材料培地懸濁培養において成長させるための方法を提供する。本発明は、無血清および無動物材料培地懸濁培養における成長のために適応化された上記A549細胞由来であるウイルス(例えば、アデノウイルス)を調製するための方法を提供する。」(要約1~4行目)
5.引用例5
拒絶理由において「引用例1」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2000-514290号公報(以下、「引用例5」という)には、以下の事項が記載されている。
(5-a)「実施例4:上清中のウイルス作製
本実施例は自然放出後の回収によるウイルス作製実験に関する。放出後にウイルスを限外濾過により回収後、塩化セシウムにより精製する。
4.1.プロトコール
本方法では実施例3と異なり、細胞を感染後40~72時間で回収せず、凍結-融解サイクルを実施する必要なしに細胞の完全溶解を得るように、インキュベーションを8~12日間続ける。
その後、漸減細孔径(10μm/1.0μm/0.8~0.2μm)のディープフィルターで濾過して上清を清澄化する。」(31頁18~26行目)
(5-b)「実施例5:限外濾過及びイオン交換によるウイルス精製
本実施例は、濃縮液に含まれるアデノウイルスを如何にして非常に高い収率で単一イオン交換クロマトグラフィー段階で直接精製できるかを示す。
5.1.プロトコール
従って、本実験では、出発材料は実施例4に記載した濃縮液(又は限外濾渣)から構成する。この濾渣はPBSバッファー(150mM NaClを含有する10mMリン酸、pH7.2)中5~50mg/ml、より好ましくは10~30mg/mlの全タンパタ質濃度をもつ。
250mM NaCl、1.0mM MgCl2及び10%グリセロールを含有するTris/50mM HClバッファー(pH8.0)(バッファーA)で平衡化したSource Q15(Pharmacia)を入れたカラムにウイルス調製物から得られた限外濾過上清を注入する。バッファーA10カラム容量でリンスした後、直線流速60~300cm/時、より好ましくは12cm/時で25カラム容量でNaClの直線勾配(250mM→1M)を用いて吸着種を溶離する。260nmで得られた典型的溶離プロフィルを図4に示す。ウイルス粒子を含むフラクションを集める。このフラクションは対称な細いピークに対応し、その保持時間は限外濾過により精製したウイルス粒子調製物で得られる保持時間に一致する。上記条件下では、ウイルス粒子ピークの優れた分離を維持しながら、Source Q15樹脂1ml当たり最低30mgの全タンパク質を注入することが可能である。」(37頁18行目~38頁12行目)
6.引用例6
拒絶理由において「引用例6」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2006-514538号公報(以下、「引用例6」という)には、以下の事項が記載されている。
(6-a)「アデノウイルス粒子は、培養上清から回収することができるが、溶解後の細胞から回収することもでき、標準的な技術(例えば、国際公開公報第96/27677号、国際公開公報第98/00524号、国際公開公報第98/26048号、および国際公開公報第00/50573号に記載されている、クロマトグラフィー、超遠心)に従ってさらに選択的に精製される。」(【0122】)
7.引用例7
拒絶理由において「引用例7」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特表2003-523169号公報(以下、「引用例7」という)には、以下の事項が記載されている。
(7-a)「実施例7:Q Sepharose(登録商標)XL樹脂上クロマトグラフィによるウイルスの精製
出発原料は、ウイルス生産性カプシド化細胞を凍結-解凍して得られた培養溶解液か、または細胞の自動溶解後に得られた上澄液のいずれかから成る。
本実施例で報告された実験では、4.9×1012個の粒子を含有するAV1.0CMV.LacZウイルスに感染したPER.C6細胞の培養物の自動溶解液153mlを、5.8mlのQ Sepharose(登録商標)XLカラムに注入した。」(35頁6~14行目)
8.引用例8
拒絶理由において「引用例9」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物であるDesalination,2010,Vol.250,p.1121-1124(Available online 13 October 2009)(以下、「引用例8」という)には、以下の事項が記載されている。
(8-a)「高性能タンジェンシャルフローろ過を用いたマウスマイニュートウイルスの精製」(タイトル)
(8-b)「膜技術は、過去20年間、主力となる分離技術であることが証明されている。膜技術の主要な利点は、化学物質を添加しないで適用できること及び比較的低いエネルギー使用である。最近の適用として、膜技術はバイオテクノロジープロセスにおいて広く使用されてきた。細胞の取得とウイルスの精製/除去は、バイオ医薬製品の多くの下流の精製における重要なプロセスである。この課題では、細胞培養ブロスからのウイルスの精製に限外濾過(UF)が用いられた。最近では、UFがネッタイシマカ及びウイルス様粒子のような他のウイルスの精製のための強力なツールであることが示されている。より正確には、高性能タンジェンシャルフローろ過(HPTFF)が用いられる。それは、Robert van Reisによって1997年に最初に導入された。それまでHPTFFは、単一ユニットの操作としてタンパク質の濃縮、精製及び緩衝液交換に関する他の課題において用いられた。」(要約1~10行目)
(8-c)「本研究で用いたウイルスは、平均直径が22-26nmで正二十面体対称のパルボウイルスであるマウスマイニュートウイルス(MMV)であった。実験は、300,100,50kDaのザルトリウス膜で行われた。得られた結果は、50又は100kDaの膜を用いるとウイルス粒子は除外される一方、300kDaの膜はウイルス粒子の進路を透過液の中に向かわせることを示す。」(要約10~14行目)
(8-d)「
」(図1.高性能タンジェンシャルフローろ過システム。50kDa、100kDa及び300kDaのPES膜が使用された。実験は150mL/分の流速で行われた。)
第4 対比
本願発明1と引用発明を対比する。
引用発明のタンパク質濃度0.04±0.02pg/TCID50を換算すると40±20fg/TCID50であり、100fg/TCID50未満の高純度であることから、引用発明の「タンパク質濃度が0.04±0.02pg/TCID50であるマイニュートマウスウイルス(MMV)ストックの調製方法」は、本願発明1の「100fg/TCID50未満のタンパク質濃度を含む高純度マウスマイニュートウイルス(MMV)ストック溶液の調製方法」に相当する。
また、引用発明の「細胞懸濁液を15,000rpmで20分間遠心して上清を取得」は、本願発明1の「ウイルス感染細胞の培養上清を採取し、それによりウイルスサンプルを得る」に相当する。
そして、引用発明の「83,100gで18時間超遠心してウイルスペレットを得る」は、本願発明1の「超遠心により前記ウイルスサンプル中のウイルスを沈殿させる」に相当し、さらに、引用発明は、超遠心してウイルスペレットを得て、タンパク質濃度0.04±0.02pg/TCID50(100fg/TCID50未満)を達成していることから、本願発明1と同じく「ここで、前記沈殿したウイルスが100fg/TCID50未満のタンパク質濃度を含む」ことは明らかである。
そうすると、両者は
「100fg/TCID50未満のタンパク質濃度を含む高純度ウイルスストック溶液の調製方法であって、前記方法は、
(a)ウイルス感染細胞の培養上清を採取し、それによりウイルスサンプルを得る工程、
及び
(c)超遠心により、前記ウイルスサンプル中のウイルスを沈殿させる工程、ここで、前記沈殿したウイルスが100fg/TCID50未満のタンパク質濃度を含む、
の逐次工程を含み、それにより高純度ウイルスストック溶液を調製する、方法。」
である点で一致し、以下の4点で相違する。
相違点1:
本願発明1は、(a)の工程として、低血清条件下で増殖されたウイルス感染細胞の培養上清を採取しているのに対して、引用発明はウイルス感染細胞に関する特定を有しない点。
相違点2:
本願発明1は、(a)の工程として、培養上清がウイルス誘導性細胞溶解後に採取されるのに対して、引用発明はMMVに感染した細胞懸濁物の凍結融解によりウイルスを放出させている点。
相違点3:
本願発明1は、(b)の工程として、限外ろ過により前記ウイルスサンプルを濃縮するのに対して、引用発明はかかる工程の特定を有しない点。
相違点4:
本願発明1は、(d)の工程として、沈殿したウイルスをクロマトグラフィーポリッシングに供し、痕跡量の不純物を除去するのに対して、引用発明はかかる工程の特定を有しない点。
第5 当審の判断
上記相違点1~4について検討する。
相違点1について:
上記記載事項(2-a)、(3-a)及び(4-a)の下線部分に記載されているように、細胞に感染させてウイルスを製造する方法において、精製の容易化及びより制御された培養のために無血清培地を用いることは、本願優先日前当業者の周知技術である。
そうすると、引用発明において、ウイルスの精製の容易化及びより制御された培養のために無血清培地を用いることは、当業者であれば容易になし得るものである。
相違点2について:
上記記載事項(5-a)、(6-a)及び(7-a)の下線部分より、細胞溶解を起こした後にウイルスを回収することは、本願優先日前当業者の周知技術である。
そうすると、引用発明において、上記周知技術を適用し、凍結融解法によりウイルスを回収することに代えて、細胞溶解を起こした後にウイルスを回収することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
相違点3について:
上記記載事項(8-a)~(8-d)には、高性能タンジェンシャルフローろ過を用いてMMVを精製したことが記載されており、特に上記記載事項(8-c)の下線部分は、マイニュートマウスウイルス粒子が50kDaまたは100kDaである膜を透過しないことを意味しており、さらに上記記載事項(8-d)の図1に「Ultrafiltration module」、すなわち限外濾過モジュールが開示されていることから、分子量カットオフが50kDaまたは100kDaの限外ろ過膜を用いてウイルス粒子が保持できたことを意味しているものと認められる。
そして、一般にウイルスストックの調製において、より高純度のものを調製しようとすることは当該技術分野の当業者にとって自明の課題であること、また、上記記載事項(8-b)の下線部分において、限外ろ過、より正確には高性能タンジェンシャルフローろ過を用いたと記載されていることを考慮すれば、引用発明において、さらに限外ろ過でウイルスを精製することは、当業者であれば容易に想到し得るものである。
相違点4について:
本願発明1の「クロマトグラフィーポリッシング」について、本願の発明の詳細な説明の【0039】には以下の記載がある。
「本明細書で使用されるとき、「クロマトグラフィーポリッシング」は、ウイルスの大部分を通過させる一方で、不純物をその静電荷又は疎水性に基づき保持する媒体にサンプルを通過させることにより、痕跡量の不純物を除去することを指す。クロマトグラフィーポリッシングは、典型的にはウイルス沈殿によって除去されない不純物を除去する。一実施形態では、ウイルスはフロースルークロマトグラフィーポリッシング(例えば、陽イオン交換(CEX)膜吸着体、又はChromaSorb(商標)などの陰イオン交換媒体を使用する)に供される。かかるクロマトグラフィーポリッシングは、タンパク質、核酸、脂質、及び糖などの不純物を、その静電荷に基づきウイルスサンプルから除去する。他のクロマトグラフィーポリッシング方法、例えば他の膜吸着体(例えば、Pall Mustang S);適切なケミストリー(ウイルス及び緩衝液条件に依存してS又はQ)によるビーズベースのクロマトグラフ媒体;サイズ排除媒体;疎水性に基づく媒体)を用いることができる。当業者は理解するであろうとおり、使用するクロマトグラフィーポリッシング装置の選択は、精製するウイルスの性質、除去すべき汚染物質、及び精製のスケールに依存する。」
上記記載から、本願発明1の「クロマトグラフィーポリッシング」は、フロースルークロマトグラフィーに加えて、膜吸着体、ビーズベースのクロマトグラフ媒体、サイズ排除媒体又は疎水性に基づく媒体を用いた多様なクロマトグラフィーの形態を包含するものと認められる。
一方で、上記記載事項(5-b)に記載されているように、限外ろ過で精製されたウイルスをイオン交換クロマトグラフィーでさらに精製することは当業者が通常行う常套手段であって、ウイルスストックの調製において、より高純度のものを調製しようとすることは当該技術分野の当業者にとって自明の課題であることを考慮すれば、引用発明において、さらなるクロマトグラフィーによる精製手段を追加して、痕跡量の不純物を除去することに格別の技術的困難性は認められず、当業者であれば適宜なし得るものである。
そして、本願発明1の効果について、「第4 対比」で述べたとおり、引用発明の方法を用いて、既に100fg/TCID50未満のタンパク質濃度を含む高純度ウイルスストック溶液が調製できることから、格別顕著なものとはいえない。
この点に関して、平成28年10月11日付け意見書において審判請求人は、本発明の方法と引用例1(意見書では引用例5)の方法を比較した表1を示した上で、以下の点を主張している。
「引用例5の方法では、タンパク質/ウイルス比(即ち、タンパク質濃度)を一貫して、本発明に係る100fg/TCID50未満として得られることはなく、それどころか、タンパク質/ウイルス比は、59~552fg/TCID50の間で大きく変動することが理解できます。一方、本発明の方法では一貫して、タンパク質/ウイルス比を、本発明に係る100fg/TCID50未満である30fg/TCID50以下として得ることができます。従って、本発明の方法は、従来技術の課題であるウイルスストックの収率が変動することに対する解決手段を提供し、本発明の方法により得られるウイルスストックを用いると、精度の高いウイルスクリアランス結果を得ることができます。」
しかしながら、「第4 対比」で述べたとおり、引用発明は、超遠心してウイルスペレットを得ることでタンパク質濃度0.04±0.02pg/TCID50(換算すると40±20fg/TCID50)を既に達成しており、上記意見書の表1においても、いくつかのバッチにおいて本願発明1が規定する100fg/TCID50未満を達成している。
そして、本発明の方法では一貫して、タンパク質/ウイルス比を、本発明に係る100fg/TCID50未満である30fg/TCID50以下として得ることができるという主張は、本願発明1が100fg/TCID50未満と規定されている限り、特許請求の範囲の記載に基いていないものであるから、採用の限りではない。
したがって、本願発明1は、引用例1,8に記載された発明及び引用例2~7に記載された周知技術・常套手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 結び
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2015-006875