特許無効審判
2014-800064
モータ駆動双方向弁とそのシール構造
- 審判番号
- 2014-800064
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願平3-230252
- 登録番号
- 特許第3049251号(P3049251)
- 請求日
- 2014年04月25日
- 審決日
- 2015年06月04日
- 公報発行日
- 2017年04月28日
- 結論
- 訂正認容・請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パナソニック 株式会社
- 【請求人代理人】小松 陽一郎
- 【請求人代理人】川端 さとみ
- 【請求人代理人】森本 純
- 【請求人代理人】山崎 道雄
- 【請求人代理人】阿部 伸一
- 【被請求人】沖マイクロ技研 株式会社
- 【被請求人代理人】永島 孝明
- 【被請求人代理人】久米川 正光
- 【被請求人代理人】若山 俊輔
- 【被請求人代理人】安國 忠彦
- 【被請求人】愛知時計電機 株式会社
- 審判長/審判官
- 審判長 新海 岳
- 審判官 田村 嘉章
- 審判官 藤井 昇
- 分類
- P1123.121-YAA(F16K) / P1123.534-YAA(F16K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第5項第1号、特許法第36条第5項第2号、特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条、特許法第123条第1項第3号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3049251号発明「モータ駆動双方向弁とそのシール構造」の特許無効審判事件について,次のとおり審決する。
結論
【結 論】
請求のとおり訂正を認める。
本件審判の請求は,成り立たない。
審判費用は,請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本件特許第3049251号の請求項1~4に係る発明についての出願(以下,「本件出願」という。)は,出願日が平成3年 9月10日の特許出願であって,平成12年 3月31日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされたものである。
そして,平成26年 4月25日に請求人 パナソニック株式会社により本件特許無効審判が請求され,平成26年 7月17日に被請求人 沖マイクロ技研株式会社より審判事件答弁書が提出され,平成26年10月10日に請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,平成26年10月28日に被請求人より口頭審理陳述要領書が提出され,平成26年11月11日に口頭審理が行われ,平成26年11月13日に被請求人より上申書が提出され,審決の予告が平成26年12月26日になされた。
そして,平成27年 2月 2日に被請求人より訂正請求書および上申書提出され,平成27年 3月10日に請求人より弁駁書が提出されたところである。
なお,特許第3049251号の明細書を,以下「特許明細書」ということとする。
第2 訂正請求について
1 本件訂正請求
被請求人は,平成27年2月2日付けの訂正請求書を提出し明細書の特許請求の範囲についての訂正を請求した(以下,「本件訂正請求」という。)。
本件訂正請求の内容は請求項1~4からなる一群の請求項に係る訂正の訂正事項1であり,次のとおりである。
特許請求の範囲の請求項1を,次のとおり訂正する(下線部が訂正部分である。)。
「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁において、回転軸(28)の左端部にリードスクリュー(28a)を形成し、ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように配置され、Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし、当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプ(38)を有する正逆回転可能なモータDと、このモータDの取付板(23)との間に装着されたスプリング(24)により付勢されて弁座(21)に密着する弁体(22)と、先端部(25a)がこの弁体(22)の保持板(22a)に固定され、前記リードスクリュー(28a)と螺合して、左右に移動する弁体移動手段25とからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁。」
2 本件訂正請求についての当事者の主張
被請求人は,訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく,特許明細書の段落【0002】,【0004】,【0005】,【0014】,【0015】等,に記載されているから,新規事項の追加に当たらず,さらに特許明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると説明する。
請求人は,平成25年10月3日付け弁駁書において,特段の主張をしていない。
3 本件訂正請求の適否について
(1) 訂正の目的について
訂正事項1は,請求項1の記載において,「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁において」と追加することにより,「モータ駆動双方向弁」について「ガス遮断装置に用いられる」という限定をしたことに加え,請求項1に記載された「非磁性材の薄板パイプ」について,「Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をな」すこと,及び,「当該シール材が嵌装される静止部分となる」ことを追加して限定事項を付加するものであるから,特許法134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の限縮を目的とするものである。
(2) 願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正か否かについて
特許明細書の従来技術の説明において,図3に示す「ガス遮断装置」(【0002】)が挙げられており,発明が解決しようとする課題として,「ガス遮断装置」固有の問題点である「流体遮断装置の負荷が増大し、緊急時におけるガス遮断に即応することができなくなる」(【0004】)ことが指摘されている。本件特許発明は,「このような従来の技術の有していた問題点を解消する」(【0005】)ことを解決課題とし,「従来のシール構造の問題点が解消されるため、負荷の安定性を保持できるとともに、高い信頼性を実現できる。」(【0015】)という効果を奏するものである。したがって,特許明細書には「ガス遮断装置」の用途に供される「モータ駆動双方向弁」が記載されているといえる。
また,「非磁性材の薄板パイプ」に関する「Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をな」すこと及び「当該シール材が嵌装される静止部分となる」ことについては,特許明細書の段落【0007】の「・・・薄板パイプ38と、これらにより形成される隙間にOリング等のシール材39を嵌装するシール構造のため、シール材39は移動部分との接触がなくなるので、・・・」との記載,同【0010】の「38は黄銅などの非磁性材の薄板パイプで、その幅方向の両端部38a,38aは前記軸受保持盤32,32の外周面に接し、かつ、その中央部38bがステータヨーク37と接するように嵌装されており、このパイプ38の両端部38a,38aと取付板23,33及びステータヨーク37,37とで包囲される空隙はOリング等のシール材39により嵌装シールされている。」との記載,同【0014】の「この双方向弁を開放したとき、ロータ内部にガスの漏入があっても、薄板パイプ38とOリング39及びOリング41によって、モータ駆動双方向弁装置は気密が確保され、装置を通して流通路以外の外部へのガス漏洩が防止される。」との記載,および,同【0015】の「弁体移動手段はモータの外側に設け、モータのステータヨーク内周面を非磁性材の薄板パイプで覆うとともに、このパイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定したので、静止部分でのシール構造が得られるようになり・・・」の記載に基づくことが明らかである。
したがって,訂正事項1は,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり,特許法134条の2第9項で準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。
(3) 実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更する訂正か否かについて
訂正事項1は,「モータ駆動双方向弁」の発明を「ガス遮断装置に用いられる」ものに限定するとともに,その特定事項のうちの「非磁性の薄板パイプ」に関して限定事項を付加するものであって,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものには該当せず,特許法134条の2第9項で準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。
(4) 請求項2~4についての独立特許要件について
請求項2~4については本件特許無効審判の請求がされていないところ,これらの請求項に係る発明については,独立特許要件について検討すると,独立特許要件を欠くとする理由を発見しない。したがって,特許法134条の2第9項で準用する同法126条第7項の規定に適合するものである。
よって,訂正事項1は,訂正要件を充足する。
(5) 小括
以上のとおり,請求項1~4からなる一群の請求項に係る訂正事項1は,訂正要件を満たしているのであるから,請求項1~4からなる一群の請求項に係る訂正を認める。
4 まとめ
したがって,本件訂正請求は,特許法第134条の2第1項ただし書き,及び同条第9項において準用する同法第126条第5項,第6項の規定に適合するので,適法なものと認める。
第3 本件特許発明
本件特許無効審判の請求がされているのは請求項1に係る発明であって,当該請求項1に係る発明は,訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものである(以下,特許請求の範囲の請求項1に記載された発明を「本件特許発明」という。)。
【請求項1】 ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁において、回転軸(28)の左端部にリードスクリュー(28a)を形成し、ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように配置され、Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし、当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプ(38)を有する正逆回転可能なモータDと、このモータDの取付板(23)との間に装着されたスプリング(24)により付勢されて弁座(21)に密着する弁体(22)と、先端部(25a)がこの弁体(22)の保持板(22a)に固定され、前記リードスクリュー(28a)と螺合して、左右に移動する弁体移動手段25とからなることを特徴とするモータ駆動双方向弁。
第4 無効理由についての当事者の主張の概要
1 請求人の主張
(1) 無効理由1(特許法第29条第2項(同法第123条第1項第2号))
本件特許発明は,i)甲第16号証に記載された発明に対し,甲第19号証に開示された構成を組み合わせることによって,また,ii)甲第16号証に記載された発明に対し,甲第20号証に開示された構成を組み合わせることによって,あるいは,iii)甲第16号証に記載された発明に甲第19号証ないし甲第24号証に記載の周知技術を適用することによって,その特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許を受けることができないものであるから,その特許は同法第123条第1項第2号に該当し,無効にされるべきものである。
(審判請求書9頁3行~36頁9行)
また,組合せについては大型高圧弁であるか小型弁であるかの相違が問題となる事項ではなく,圧力の大小に応じてバネ荷重を設計すればよいだけの事項に過ぎず,甲第16号証に記載された発明に甲第19号証ないし甲第24号証の記載事項を組み合わせる動機付けは十分に存在するものである。
(請求人陳述要領書20頁3~6行)
<弁駁書による主張>
ア 被請求人が主張する相違点1’が相違点たり得ないこと
平成27年2月2日付け被請求人上申書において被請求人が主張する相違点1’は,訂正発明と甲第16号証に記載された発明との相違点となるものではない。
すなわち,仮に,訂正発明につきサポート要件違反あるいは構成不可欠要件違反が認められないのであれば,訂正発明は,シール構造について,単に<リードスクリュー部でシールするのでなく,薄板パイプでシールする>と定めただけの抽象的な発明でしかなく,シール構造につき何ら具体的な特定のなされていない発明となる。
そこでは,「薄板パイプ」は,わずかに,リードスクリュー部でシールするのでなく,薄板パイプでシールする,という意義しか有さず,「薄板パイプ」には,単に薄板のパイプであるという以外に特段の技術的意義を認めることができない。
この点,甲第16号証に記載された発明も,リードスクリュー部でシールするのでなく,弾力性あるシール体zでシールをする発明である。
甲第16号証に記載された発明は,「弾力性あるシール体z」が,訂正発明の「薄板パイプ」であるとともに訂正発明の「シール材」となっている構成であるが,「薄板パイプ」と「シール材」とが別個の部材からなるか一部材からなるかは,被請求人が主張する訂正発明の技術的意義に照らしても,実質的な相違点となるものではない。
訂正発明及び甲第16号証に記載された発明は,いずれも,電動モータ式の流体遮断弁について,従来技術である相互に可動の部品のシール体(スタッフイングボックス)によるシール構造では遮断の制御等に問題があったのに対し,これを解決するシール構造を提供している点においても共通しており,遮断弁としての基本的な構成を同一にするばかりか,課題及び課題解決手段を共通にするものである。
よって,被請求人が主張する相違点1’は,訂正発明と甲第16号証に記載された発明との相違点となるものではない。
なお,訂正発明の「薄板パイプ」が剛性の高い部材に限られるものでなく,弾力性があるものを排除するものでない。
イ 容易想到性-相違点1'について
仮に,訂正発明につきサポート要件違反あるいは構成不可欠要件違反が認められないのであれば,訂正発明は,<両端が開放された薄板パイプの両端にOリング等のシール材を装着する>という具体的なシール構造を離れた,シール構造につき具体的な特定を欠いた発明でしかない。
それ故,訂正発明の「薄板パイプ」には,たかだか,リードスクリュー部でシールするのでなく,薄板パイプでシールする構成という意義しか認められず,相違点1'に,実質的な差異は認められない。
よって,訂正発明の相違点1’にかかる構成は,当業者において容易に想到し得たものでしかない。
ウ 被請求人が主張する相違点4が相違点たり得ないこと
被請求人は,人間のサイズと比して大型である蒸気タービンの写真を示して,訂正発明(ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁)と甲第16号証に記載された発明(高圧設備)とで,技術分野や具体的な構造が相違する旨主張しているようである。
しかし,訂正発明の国際特許分類が「F16K 31/04」(モータ駆動による弁)であるのに対し,甲第16号証に記載された発明のドイツ特許分類は「47g45」(モータ駆動による弁,甲第32号証)であり,両者は,特許分類として技術分野が同一である。
また,甲第16号証に「大型設備に搭載する遮断弁」との限定的な記載はなく,他方,訂正発明の明細書でも「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁」としか記載されておらず,大型か小型か,ガスが高圧か中低圧か,といった限定は特になされていない。
遮断弁が搭載される設備が大型であるか否か,ガスが高圧であるか中低圧であるか否かは,「遮断弁」の発明である訂正発明と甲第16号証に記載された発明との対比において相違点となるものではない。
さらに,上記の写真に示された大型設備であっても,流体を遮断するために用いられる「遮断弁」は,ごく小型のものでしかない(なお,そもそも,上記の写真に掲載された蒸気タービンに,甲第16号証に記載された発明のような,電動モータに直結したネジ式の止め弁の構造の遮断弁が搭載されているかも不明である。)。
すなわち,訂正発明及び甲第16号証に記載された発明は,いずれも,電動モータに直結したネジ式の止め弁(弁体が弁棒によって弁座に直角な方向に作動するバルブ)の構造を有するものである。
この構造の遮断弁では,必要以上に弁体を大きくすると,モータ出力を上げるためにモータを大型化する必要が生じ,必然的に,大型化に伴う磁気回路の磁気抵抗,電磁コイルの電気抵抗及びロータの慣性モーメントが増大し,これにより,モータの効率が大幅に低下してしまう。ここで,仮にも,人間のサイズを越えるような大型の遮断弁を採用すれば,たかが遮断弁を駆動するために何kV(キロボルト)もの電圧が必要になってしまい,およそ常識的にも経済的にも適正の範囲をはるかに超えるものになってしまう。
したがって,技術的視点からみても,また,投資対効果を鑑みた経済的視点からみても,甲第16号証に記載された発明では,仮に大型設備であっても,遮断弁そのものは,可能な限り小さくして,それを駆動するモータなどのアクチュエータも小さな出力で対応できるように設計するのが当業者の技術常識である(甲第33号証)。
したがって,甲第16号証に記載された発明が大型設備に搭載される遮断弁であるとして,訂正発明と甲第16号証に記載された発明とで,技術分野や具体的な構造が相違するとする被請求人の上記主張に理由はない。
エ 容易想到性-相違点4について
仮に,被請求人が主張する相違点4が,訂正発明と甲第16号証に記載された発明との相違点となるとしても,両者は,いずれも,媒体(訂正発明では「流体特にガス雰囲気」(段落番号【0001】),甲第16号証に記載された発明では「液体,蒸気,気体」(訳文本文4行目))を遮断するための電動式遮断弁に関する発明であって,少なくとも,基本的な技術分野を同一にするものである。
また,仮に,訂正発明につきサポート要件違反あるいは構成不可欠要件違反が認められないのであれば,訂正発明は,シール構造について,<リードスクリュー部でシールするのでなく,薄板パイプでシールする>というだけの抽象的な発明でしかなく,そのようなシール構造につき何ら具体的な特定のなされていない発明であって,訂正発明と甲第16号証に記載された発明が遮断弁としての基本的な構成を同一にしている以上,訂正発明の相違点4にかかる構成は,当業者において容易に想到し得たものでしかない。
(弁駁書14頁2行~18頁25行)
(2) 無効理由2(平成6年改正前特許法第36条第5項第1号違反(同法第123条第1項第3号))
本件特許発明は,その特許請求の範囲の記載が「発明の詳細な説明に記載したもの」でなく,平成6年改正前特許法第36条第5項第1号が定めるサポート要件に適合しておらず,その特許は同法第123条第1項第3号に該当し,無効にされるべきものである(平成6年法律116号附則第6条第2項に基づき,平成6年法施行前の出願については従前の例による。)。
本件特許発明の特許請求の範囲の記載では,「薄板パイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定する」との発明に欠く事ができない事項が特定されておらず(発明特定事項),広く,<薄板パイプの幅方向の両端部がOリング等のシール材で装填・固定されていない発明>をも含む記載となっている。
他方,本件特許の発明の詳細な説明には,<薄板パイプの幅方向の両端部がOリング等のシール体で装填・固定されていない発明>について何らの記載もされていない。
したがって,本件特許発明の特許請求の範囲の記載は,発明の詳細な説明において何らの記載もされていないものをも含む広い記載となっている。
(審判請求書36頁10行~40頁16行)
<弁駁書による主張>
段落番号【0005】,【0010】及び【0015】ならびに【図1】は,いずれも,訂正発明が,両端が開放された薄板パイプの幅方向の両端部でシールする構成を具備する発明であることを明確に示すものである。
また,段落番号【0007】及び段落番号【0014】では,薄板パイプの両端部でシールする構成であることまでは逐一記載されていないが,明細書の前後の文脈から,いずれも,薄板パイプの両端に形成される「隙間」をシールする構成であることを当然の前提とした記載と容易に理解することができる。
したがって,訂正発明は,あくまで,両端が開放された「薄板パイプ(38)」を必須の構成要素とする発明であって,「薄板パイプ(38)」の技術的意義は,「薄板パイプ(38)」をOリング等のシール材39が両端に装着される被シール部材として用いることによって,シール構造を担い,「薄板パイプ(38)」の内部の気密を確保することにしかない。
以上のとおり,明細書の発明の詳細な説明及び図面には,「両端が開放された『薄板パイプ(38)』の幅方向の両端部をOリング等のシール材でシールする発明」のみが開示されている。
ところが,訂正発明の特許請求の範囲の記載は,「薄板パイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定する」との発明に欠く事ができない事項が特定されておらず(発明特定事項),広く,<薄板パイプの幅方向の両端部がOリング等のシール材で装填・固定されていない発明>をも含む記載となっている。
よって,訂正発明にかかる特許請求の範囲の記載は,平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に適合しておらず,その特許は,同法第123条第1項第3号の無効事由を有するものである。
(弁駁書9頁1行~10頁12行)。
(3) 無効理由3(平成6年改正前特許法第36条第5項第2号違反(同法第123条第1項第3号))
本件特許発明は,その特許請求の範囲の記載が「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」のみを記載したものでなく,平成6年改正前特許法第36条第5項第2号が定める構成不可欠要件に適合しておらず,その特許は同法第123条第1項第3号に該当し,無効にされるべきものである(平成6年法律116号附則第6条第2項に基づき,平成6年法施行前の出願については従前の例による。)。
平成6年改正前特許法第36条第5項第2号は,特許請求の範囲に「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」のみを記載することを要求している。「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているとは,一つの請求項に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明(発明の要旨)が明確に把握できることを意味するものであり,特許請求の範囲の記載について,発明の要旨(明細書の発明の詳細な説明による発明内容の理解を前提とした技術的事項すなわち技術的特徴)に不可欠かつ十分な構成要件のみを記載することを求めているものである。
本件特許発明は,薄板パイプ(38)の両端部がステータヨーク内周面及び軸受保持盤の外周面に接するように配設され,パイプの両端において,パイプの両端部(38a,38a)と取付板(23,33)とステータヨーク(37,37)とで包囲される空隙をOリング等のシール材(39)により嵌装するシール構造を備えた点に技術的特徴点が認められるが,本件特許発明の特許請求の範囲には,本件特許発明の上記技術的特徴点をなす構成のうち,薄板パイプ(38)及び取付板(23)しか記載されておらず,特許を受けようとする発明の技術的特徴点をなす発明の要旨(発明特定事項)が記載されていないから,請求項に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明が明確に把握できず,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されていない。
(審判請求書40頁17行~42頁3行)
<弁駁書による主張>
「薄板パイプ(38)」の技術的意義は,「薄板パイプ(38)」をOリング等のシール材39が両端に装着される被シール部材として用いることによって,シール構造を担い,「薄板パイプ(38)」の内部の気密を確保することに認められるものである。
具体的なシール構造を特定しなければ,高度の気密性確保が求められるガス遮断弁に関する発明として,発明が十分に特定されたとは認められないのであって,訂正発明についても,かかる「薄板パイプ(38)」を備えた具体的なシール構造を発明特定事項とした発明と理解するのが相当である。
そして,明細書の発明の詳細な説明及び図面の記載によれば,訂正発明は,「薄板パイプ(38)の両端部がステータヨーク内周面及び軸受保持盤の外周面に接するように配設され,パイプの両端において,パイプの両端部38a,38aと取付板23,33とステータヨーク37,37とて包囲される空隙をOリング等のシール材39により嵌装する」という具体的なシール構造を備えた点に,技術的特徴点が認められるものである。
仮にも,両端が開放された薄板パイプの一端にしかシール材が装着されなければ,ガス遮断弁として気密性を確保することは到底できない。両端が開放された薄板パイプにおいて,その両端部をシール材によりシールすることは,気密性確保のために必須の構成となるものである。
ところが,訂正発明の特許請求の範囲の記載では,上記技術的特徴点をなす構成のうち,薄板パイプの幅方向の両端部をシールするシール材(39,39),取付板(33),軸受保持盤(32,32)が記載されていない。
したがって,訂正発明の特許請求の範囲の記載は,両端が開放された薄板パイプに対し,どのようにシール材を具体的に装着するのかを発明特定事項として明らかにしておらず,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されたものと認めることはできない。
また,訂正請求により,訂正発明の特許請求の範囲には,文言「当該シール材が嵌装される静止部分」が追加されているが,用語「静止部分」(段落番号【0015】に記載あり)は,「移動部分」(段落番号【0007】)の反対語であり,「部材」ではなく「部分」を示す語である。
そして,この用語「静止部分」は,具体的に,Oリング等のシール材を嵌装する空間として,「薄板パイプ3 8の両端縁においてモータの取付板23,33及びステータヨーク37,37とにより包囲される隙間」(段落番号【0006】),「パイプ38の両端部38a,38aと取付板23,33及びステータヨーク37,37とて包囲される空隙」(段落番号【0010】)を示す語である。
ところが,訂正発明の特許請求の範囲は,Oリング等のシール材を嵌装する空間につき,上記のように具体的に「薄板パイプ38の両端縁においてモータの取付板23,33及びステータヨーク37,37とにより包囲される隙間」と特定しておらず,抽象的に「静止部分」と定めているにすぎない。
かかる意味においても,訂正発明のクレームは,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されたものと認めることができない。
よって,訂正発明にかかる特許請求の範囲の記載は,平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に適合しておらず,その特許は,同法第123条第1項第3号の無効事由を有するものである。
(弁駁書10頁13行~12頁23行)。
<証拠方法>
甲第16号証:ドイツ特許第512667号公報
甲第17号証:「日本工業規格 パッキン及びガスケット用語」,日本工業規格のインターネットホームページの出力物
甲第18号証:実開昭61-23584号公報
甲第19号証:特開昭61-244971号公報
甲第20号証:特開平3-172689号公報
甲第21号証:実願昭61-18410号(実開昭62-130163号)のマイクロフィルム
甲第22号証:特開昭62-118174号公報
甲第23号証:特開昭62-124378号公報
甲第24号証:実願平l-53575号(実開平2-143579号)のマイクロフィルム
甲第25号証:「日経メカニカル」,日経BP社,1989年8月21日号,p.60-74
甲第26号証:藤田広一,「電磁気学ノート(改訂版)」,第10版,株式会社コロナ社,昭和54年11月10日,p.131-147
甲第27号証:実願平1-147389号(実開平3-7671号)のマイクロフィルム
甲第28号証:特開昭59-129553号公報
甲第29号証:実願昭60-201962号(実開昭62-107560号)のマイクロフィルム
甲第30号証:新村出編,「広辞苑 第六版」,株式会社岩波書店,2008年1月11日,p.2223
甲第31号証:金田一京助,外3名編著,「新選国語事典 第九版」,株式会社小学館,2012年2月1日,p.1028
甲第32号証:陳述書-甲16発明と本件特許発明との特許分類の同一性について-,パナソニック株式会社 PBSS 知的財産センター 石本博昭,平成27年3月10日
甲第33号証:甲第16号証技術内容に関する陳述書,パナソニック株式会社 アプライアンス社 スマートエネルギーシステム事業部 山口正樹,平成27年3月9日
2 被請求人の主張
(1) 無効理由1について
ア 本件特許発明と甲第16号証に記載された発明との相違点は以下のとおりである。
(相違点1) ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように配設された中空状の部材について,本件特許発明は「非磁性材の薄板パイプ(38)」であるのに対し,甲第16号証に記載された発明は「弾力性あるシール体z」である点。
(相違点2) 本件特許発明はモータDの取付板(23)と弁体(22)との間にスプリング(24)が装着され,弁体(22)がスプリング(24)により付勢されて弁座(21)に密着する構成であるのに対し,甲第16号証に記載された発明はスプリングを具備しておらず,本件特許発明のような構成にはなっていない点。
(審判事件答弁書7頁1行~10頁20行)
イ 上記相違点の容易想到性について以下のとおりである。
(相違点1について) 甲第16号証に記載された発明と本件特許発明とは,内部の気密を確保するという点で共通するだけであり,それを実現するための手段や機序が異なり,技術的思想として異なる。また,甲第16号証に記載された発明において「弾力性あるシール体z」が非磁性体なのかどうかが明示されておらず,甲第16号証に記載された発明の「弾性力あるシール体z」を本件発明の「非磁性体の薄板パイプ(38)」に変更する着想が存在しない。したがって,本件特許発明の相違点1の構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。
(相違点2について) 甲第16号証に記載された発明は工場やプラントなどの大規模施設における大型高圧弁に関する発明であるのに対し,甲第19号証ないし甲第24号証の発明は小型弁に主眼を置いたものであり,甲第16号証に記載された発明のような十分な差圧(高圧環境)が保証されているわけではないので,甲第16号証に記載された発明とは技術分野が相違する。よって,甲第16号証に記載された発明に甲第19号証ないし甲第24号証の記載事項を組み合わせる動機付けが存在せず,本件特許発明の相違点2の構成は当業者が容易に想到し得たものではない。
(審判事件答弁書10頁21行~12頁18行)
<上申書による主張>
ア 以下のとおり,本件訂正発明との関係では,相違点1は相違点1’と認定すべきであり,また,新たな相違点4が認定されるべきである。
<相違点1’>
ステータの内周側に中空状の部材を配設した点について,本件訂正発明では,「ロータ回転手段のステータヨークの内周面に接するように配置され、Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし、当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプ(38)」であるのに対し,甲第16号証に記載された発明では,「モータのエアギャップに配置され高圧の作用のもとでステータ体xに当接する両方の側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体z」である点。
<相違点4>
本件訂正発明は,「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁」であるのに対し,甲第16号証に記載された発明は,「高圧設備(高圧蒸気ボイラー,高圧蒸気タービンなど)用のモータが遮断機構を駆動する高圧遮断弁」である点。
イ 相違点1’について
本件訂正発明の「薄板パイプ」は,内部の気密を確保するという点においてのみ甲第16号証に記載された発明の「弾力吐あるシール体z」と共通するものの,Oリング等のシール材39が装着される被シール部材(静止部材)として機能するかどうかという点において甲第16号証に記載された発明とは明らかに相違しているのである。「薄板パイプ」は,被シール部材として機能するものである以上,Oリング等のシール材39を介して外力が作用しても容易に変形しないことが不可欠であり,その一実施例として黄銅が例示されていることからも明らかなように,剛性の高い部材を用いることが当然の前提であるから,変形自在な弾性部材を用いることなどおよそ想定し得ない。
よって,本件訂正発明と甲第16号証に記載された発明とでは,その技術的意義や内部の気密を確保するための機序が全く異なり,甲第16号証に記載された発明の「弾力性あるシール体z」を本件訂正発明の「薄板パイプ」に変更することは,当業者が容易に想到し得るものではない。
ウ 相違点4(新たな相違点)について
本件訂正発明は,「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁」に関するものである。一方,甲第16号証に記載された発明は,巨大な高圧設備(高圧蒸気ボイラー,高圧蒸気タービンなど)における大型高圧弁に関するものであり,小型な「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁」とは技術分野が全く異なるばかりか,採用される具体的な構造も大きく相違する。大型高圧弁に関する甲第16号証に記載された発明を引用発明とする限り,これにどのような副引用例を組み合わせようとも,大型高圧弁の技術領域を出ず,「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁」に関する構成を容易に想到することはできない。
エ 相違点2について
甲第16号証に記載された発明は,巨大な高圧設備用の大型高圧弁に関するものである。重量のある構造体を付勢するには巨大なスプリングが必要であるところ,そのようなスプリングはおよそ現実的ではないから,相当の重量がある弁体を含む構造体をスプリングで付勢することを一般に採用し得ないことは自明である。一方,甲第19号証ないし甲第24号証は,いずれも小型弁に関するものであり,これらを甲第16号証に記載された発明のような大型高圧弁に適用することには明らかに阻害要因がある。
オ 以上のとおり,本件訂正発明について,無効理由1は存在しない。
(平成27年2月2日付け被請求人上申書7頁2行~9頁13行)
(2) 無効理由2について
本件特許発明はロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように非磁性材の薄板パイプ(38)を配設したことを特徴とし,「薄板パイプ(38)」の技術的意義,すなわち,i)「薄板パイプ(38)」をOリング等のシール材39が装着される被シール部材(静止部材)として用いることによって,ii)「薄板パイプ(38)」の内部の気密を確保することは,Oリング等のシール部材39の装着部位を「両端部」とする実施例の記載から十分かつ容易に導き出すことができるものである。かかる「薄板パイプ(38)」の技術的意義に加えて,装着部位を「両端部」とする請求項4が請求項1(本件特許発明)の従属項として別途設けられていることに照らしても,本件特許発明について,Oリング等のシール部材39の装着位置や装着数を問うものではないことは明らかである。装着部位が「両端部」でなくても,そのような装着部位が少なくとも一個所(例えば,一方の端部のみ)存在すれば,「薄板パイプ(38)」の技術的意義は有効に達成されるのである。
したがって,本件特許の明細書に接した当業者であれば,<薄板パイプの幅方向の両端部がOリング等のシール材で装填・固定されていない発明>が本件特許の明細書に記載されていることを十分に理解し,そのようなものを包含するものとして,特許請求の範囲の記載を当然に理解するのである。
(審判事件答弁書13頁6~21行)
<上申書による主張>
本件訂正発明の「薄板パイプ」は,i)ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように配置されていることに加え,ii)Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし,iii)当該シール材が嵌装される静止部分とするものであるから,「薄板パイプ」の技術的意義,すなわち,シール部材が装着される被シール部材としての静止部材を提供することは,特許請求の範囲の記載から一義的に特定されるものである。そして,これらの発明特定事項ii)及びiii)はそれぞれ,本件明細書の以下の記載事項に基づくものであり,本件明細書の記載によってサポートされている。
「この双方向弁を開放したとき、ロータ内部にガスの漏入があっても、薄板パイプ38とOリング39及びOリング41によって、モータ駆動双方向弁装置は気密が確保され、装置を通して流通路以外の外部へのガス漏洩が防止される。」(【0014】)
「弁体移動手段はモータの外側に設け、モータのステータヨーク内周面を非磁性材の薄板パイプで覆うとともに、このパイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定したので、静止部分でのシール構造が得られるようになり・・・」(【0015】)
以上のとおり,本件訂正発明について,無効理由2は存在しない。
なお,「薄板パイプ」の技術的意義について,シール部材の装着位置を「両端」とすること,換言すれば,シール部材の具体的な取付構造までを考慮することは,以下に述べるとおり,本件訂正発明の技術思想を不当に倭小化するものであり,理由がない。
第1に,本件明細書に記載された従来技術との対比より,「薄板パイプ」の技術的意義は,シール部材が装着される被シール部材としての静止部分を提供することにあるのであって,軸方向上の「どの位置」に「何個」のシール部材が装着されていようとも,その技術的意義に消長を来さない。本件明細書に接した当業者であれば,「どの位置」に「何個」のシール部材が装着されていようとも,「薄板パイプ」の技術的意義は変わらないことを当然に理解するものなのである。よって,発明の詳細な説明に記載されたシール部材を薄板パイプの「両端」に装着する取付構造は,本件訂正発明の一実施例に過ぎず,この実施例の開示をもって,本件訂正発明は十分にサポートされているのである。
第2に,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】及び【発明の効果】の記載において,「両端」又は「両端部」という表現が存在するが,これらは,発明をわかり易く説明するために用いたものに過ぎず,これらの記載をもって,「薄板パイプ」の技術的意義に「両端部」を含めて限定的に解釈することは誤りである。「薄板パイプ」の技術的意義は,本件明細書の記載全体から解釈すべきであり,【発明が解決しようとする課題】及び【発明の効果】に記載があるという一部の文言のみを形式的に捉えて解釈すべきものではない。
(平成27年2月2日付け被請求人上申書5頁4行~6頁21行)
(3) 無効理由3について
本件特許については平成6年改正前特許法第36条第5項第1号が適用されるところ,同号は,特許請求の範囲の記載について,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項に区分してあること」(いわゆる必須要件項)を要求している。しかし,現行法の特許法第36条第5項第1号はもとより,旧法の必須要件項の要件下においても,構成要件の技術的意義についてまで詳らかに特許請求の範囲に記載しなければならないことは要求されておらず,また,構成要件を解釈するために発明の詳細な説明を参酌することについても,現在の実務と何ら変わるところはない。
本件特許発明は,ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)の内周面に接するように非磁性材の薄板パイプ(38)を配設したことを特徴とし,「薄板パイプ(38)」の技術的意義が,i)「薄板パイプ(38)」をOリング等のシール材39が装着される被シール部材(静止部材)として用いることによって,ii)「薄板パイプ(38)」の内部の気密を確保する点にあることは,発明の詳細な説明の記載から明らかである以上,特許請求の範囲(請求項1)の記載は,負荷の安定性を保持でき,高い信頼性を実現できるという作用効果を奏する上で欠くことができない事項が記載されているのである。
よって,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事頃」はいずれも明確に把握できるものである。
(審判事件答弁書14頁3~20行)
第5 当審の判断
1 各号証の記載事項等
1-1 甲第16号証の記載事項及び甲第16号証に記載された発明
本件出願の出願前に頒布された甲第16号証には,図面と共に以下の事項が記載又は示されている(対応箇所の請求人提出の訳文のみ記載する。)。
・「あらゆる種類の高圧設備(高圧蒸気ボイラー、高圧蒸気タービンなど)の長期運転にとって、信頼度の高い高圧装備品の製作、特に高圧下にある媒体の貫流を遮断、制御する装置の製作は、非常に重要な問題である。
低圧または中圧の液体、蒸気、気体のために従来知られている電気駆動式の遮断弁では、長手方向に可動の磁心が利用されるか、または、スピンドルとナットとを介しての操作が利用されており、このときスピンドルは電動モータまたは回転電磁石によって駆動される。しかし、これらの設計形態はいずれも、たとえば現在蒸気タービンで処理されているような高圧蒸気のような高圧下にある媒体の貫流の遮断や制御には適していない。長手方向に可動の磁心による駆動は、いかなる力伝達部も有していないため、高圧時に弁体で発生する力を克服するにはもともと不向きであり、これまで知られている回転駆動部を備えた設計形態も、この点については考慮の対象とならない。そのような設計形態はすべて、相互に可動の部品のシール体(スタッフィングボックス)を有しているが、このシール体は、高圧下にある媒体の場合、そのような弁の経済的な製作が可能ではない寸法を有するとともに、複雑な設計形態を有しているからである。」(1頁1~33行)
・「本発明の対象物を構成する、高圧下にある媒体の貫流を遮断または制御する装置では、それ自体公知の仕方で、スピンドルとナットを介して遮断機構を駆動するために電動モータが利用される。しかしながら、ここではモータは本来の遮断機構と新規の方式で組み合わされており、それにより、高圧の場合には非常に製作しにくく高価である相互に可動の部品のシール体(スタッフィングボックス)が全面的に回避されるようになっており、また、最大の材料節約を実現するために、モータのステータハウジングがそれ自体で高い内圧を受け止めるために利用される。このことは本発明によると、ロータは貫流室に対して密閉されていない空間の中にあり、該空間は弾力性あるシール体によってモータのステータから分離されており、該シール体は、これに負荷をかける高い内圧をモータの定置の部品へ伝達する目的のために、当該定置の部品に密閉式に密着することができ、それにより、シール体の少ない壁厚で、ないしはモータのロータとステータの間の小さい間隙幅で、自動的に作用する高圧シールが実現されることによって実現される。
図面には、高圧弁における本発明の実施例が図示されている。符号1は、高圧弁の通常のバルブハウジングである。これに接合されているのが2部分からなる別のハウジング3,4であり、この中に、遮断機構aを操作する駆動装置が配置されている。駆動装置は定置の部分xと可動の部分yとで成り立っており、後者は遮断機構と直接的に連結されている。定置の部品xはステータとして構成されており、可動の部分yは、かご形電機子を備える非同期モータのロータとして構成されている。符号6はステータの巻線であり、符号7はロータのかご形巻線である。ステータとロータは、両方の側で開いた中空体からなる、モータのエアギャップに配置された弾力性あるシール体zによって分離されている。シール体zとステータ体y (x原文誤記)との間には、電気および場合により熱に対して絶縁性の層8が取り付けられていてもよい。ロータのシャフト9は、ハウジング3および4で形成される軸受10および11に支承されており、下側端部のところでスピンドル12として構成されている。遮断機構aは、スピンドル12の上で回転するスピンドルナット13と結合されている。案内部15は、シャフト9が回転したときに遮断機構が連行されるのを防止する。
作動中には、弁の貫流室16が高圧蒸気で満たされる。高圧蒸気は、特別なシール体が設けられていないことにより、空間17へも侵入する。ロータとステータの間に配置された弾力性あるシール体は、高圧の作用のもとでその周囲の面全体で、一部がステータ体xに当接するとともに一部がステータを取り囲むハウジング3および4に当接して、シール体に負荷をかける内圧全体をこれらの部分に伝達し、その際に、シール体はこれらの部分に密着して自動式の高圧シール体となる。定置の部品により及ぼされる反圧の結果、シール体は圧縮の応力だけを受けることになり、したがって、非常に小さい壁厚を有するように製作することができる。それにより、ステータとロータの間の間隙幅も同じく小さく保つことが可能であり、このことは、駆動装置の電気的な効率を考えたときに大きな意義がある。さらに、高圧下にある媒体が、弁の操作中に動く駆動装置のすべての部品を取り囲むので、当該部分がいかなる一面的な過圧を受けることもなく、たとえば閉止プロセス中には完全に負荷を解除される。」(1頁48行~2頁83行)
・「特許請求の範囲
電動モータがスピンドルとナットとを介して遮断弁を操作する、高圧遮断弁のための電動モータ式の駆動装置において、相互に可動の部品でのシールを回避したうえで、モータのロータ(y)は貫流室に対して密閉されていない空間(17)の中にあり、該空間は弾力性あるシール体(z)によってモータのステータ(x)から分離されており、該シール体はこれに負荷をかける高い内圧の作用のもとでモータの定置の部品すなわちハウジングに、密閉式に密着することを特徴とする電動モータ式の駆動装置。」(2頁95~110行)
上記記載事項からみて,図には電動モータ式の駆動装置により遮断機構aを操作して弁の貫流室16を遮断する遮断弁が図示されているから,弁座に密着する弁部と,下側端部が弁部となり上側がスピンドルナット13と結合されている遮断機構aが示されている。また,シール体zとロータyとの間には隙間があることも示されている。
これらの記載事項及び図示内容を総合すると,甲第16号証には,以下の発明が記載されていると認められる。
「高圧蒸気の還流を遮断する装置に利用されるモータが遮断機構を駆動する高圧遮断弁において,シャフト9の下側端部のところでスピンドル12を構成し,モータのエアギャップに高圧の作用のもとでステータ体xに当接するように配置され,ロータがある空間がモータのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され,相互に可動の部品でのシールを回避した両方の側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体zを有するモータと,モータのハウジング3と,弁座に密着する弁部と,下側端部が弁部であり,スピンドル12を介して,回転するスピンドルナット13と結合されている遮断機構aとからなるモータが遮断機構を駆動する高圧遮断弁。」
1-2 甲第19~24号証の記載事項
(1) 甲第19号証
本件出願の出願前に頒布された甲第19号証には,図面と共に以下の事項が記載されている。
・「従来の技術
一般に弁体を先端部に固定してなる弁棒をモータ等の駆動手段を用いて変位させることにより、弁体を開弁位置,閉弁位置間で変位させる構成の弁装置が知られている。従来この種の弁装置では、弁装置の蓋体(蓋体上には駆動手段が配設されており、弁棒は蓋体を液密に貫通して駆動手段に接続されている)と弁棒に固定された弁体の間にばねが張設されていた。このばねは弁体を閉弁方向に所定付勢力にて付勢するため、弁体が開弁位置にある際、弁体は弁座に押圧され流体の流れを確実に停止し得る構成となつていた。」(公報1頁左欄15行~右欄6行。)
・「第1図に本発明になる弁装置の一実施例を示す。同図に示す弁装置1は、大略ボデー2,弁体3,弁棒4,蓋体5,ばね6,駆動手段7等より構成されている。」(公報2頁左上欄17~20行。)
これらの記載事項を総合すると,甲第19号証には,従来の技術として,「弁装置において蓋体上にモータを配置する蓋体と弁体との間にばねを張設し弁体がばねにより付勢されて弁座に押圧され流体の流れを確実に停止し得る構成」が記載されている。
(2) 甲第20号証
本件出願の出願前に頒布された甲第20号証には,図面と共に以下の事項が記載されている。
・「モータケース内で回転運動を行ない、第1ネジ部分を備える回転子と、
前記第1ネジ部分に螺合する第2ネジ部分を備え、少なくとも一端が前記モータケースの外側に突出している主軸と、
前記主軸と前記モータケースとの相対回転を規制する回転防止手段と、
前記主軸の突出端に位置しており、前記主軸と一体に成形されている弁体と、
前記主軸の軸方向の延長線上で、前記弁体と対向する位置に設けられた、シートとを有することを特徴とする電動式流量調節弁。」(公報1頁左欄5~16行。)
・「主軸50先端の弁体58と主軸用軸受部40の間には、コイルスプリング70が設けられている。コイルスプリング70は主軸50の軸方向の直線動におけるガタを抑制するためのものである。」(公報3頁左下欄16~19行。)
これらの記載事項を総合すると,甲第20号証には,「弁体を螺合により直線運動させる際にコイルスプリングを設け螺合のガタを抑制すること」が記載されている。
(3) 甲第21号証
本件出願の出願前に頒布された甲第21号証には,図面と共に以下の事項が記載されている。
・「ここでステツピングモータ式制御弁(4)はパルス発信機(7)からの信号を受けてパルスに応答して磁極が変わるステータ(31)とステータ(31)の磁極変化に応じて回転する永久磁石で構成されたロータ(32)とロータ(32)の軸心を構成し、一端にねじ部を有する回転軸(33)とによって構成されたステツピングモータおよびキヤニスタ接続口(341)と吸気系接続口(342)と弁座(343)とを備えたハウジング(34)と回転軸(33)のねじ部に螺合し、回転軸(33)の回転に対して軸方向に移動するようガイド(35)によって案内される弁(36)と、弁(36)の回転軸(33)のねじ部に対するバツクラツシユを防止し、且つステツピングモータの異常時に弁を閉成方向に付勢するスプリング(38)とスプリング受皿兼制御流体流入防止壁の機能を有するカバ(37)とによって構成されている。」(明細書5頁5~19行)
この記載事項からすると,甲第21号証には,「弁を螺合により軸方向に移動する際にスプリング付勢してねじ部のバックラッシュを防止すること」が記載されている。
(4) 甲第22号証
本件出願の出願前に頒布された甲第22号証には,図面と共に以下の事項が記載されている。
・「(26)は上記回転軸(4)の回転に対応して直線方向に駆動される弁装置であり、次の如く構成されている。(4a)は上記ハウジング(7)から突出した回転軸(4)の一部外周に形成されたおねじ、(27)はこのおねじに嵌合しためねじ(27a)と外周部に第2図に明示するように径方向外側へ突出した突起(27b)を有するスリーブ、(28)は上記回転軸(4)の先端部に配設された弁体であり、中空穴(28a)を有しこの中空穴(28a)には上記回転軸(4)が嵌入している。この弁体(28)は上記スリーブ(27)をアルミ成形によって一端で埋設保持した筒状ホルダ(29)の他端に嵌入し、その端部がかしめられて上記スリーブ(27)と一体化されている。(30)は焼結合金に潤滑油を含侵し自己潤滑性を有する円筒状のガイドメタルであり上記弁体(28)の中空穴(28a)内に圧入され、上記回転軸(4)の先端部が密接に嵌入しており、弁体(28)を回転軸上で倒れなく直線移動させる。」(公報2頁左下欄18行~右下欄14行)
この記載事項及び第1図からすると,甲第22号証には,「スリーブ27(弁体移動手段)の先端が弁体28のホルダ29(弁体の保持部)に固定される構成」が記載されている。
(5) 甲第23号証
本件出願の出願前に頒布された甲第23号証には,図面と共に以下の事項が記載されている。
・「(26)は上記回転軸(4)の回転に対応して直線方向に駆動される弁装置であり、次の如く構成されている。(4a)は上記ハウジング(7)から突出した回転軸(4)の一部外周に形成されたおねじ、(27)はこのおねじに嵌合しためねじ(27a)と外周部に第2図に明示するように径方向外側へ突出した突起(27b)を有するスリーブ、(28)は上記回転軸(4)の先端部に配設された弁体であり、中空穴(28a)を有しこの中空穴(28a)には上記回転軸(4)が嵌入している。この弁体(28)は上記スリーブ(27)をアルミ成形によって一端で埋設保持した筒状ホルダ(29)の他端に嵌入し、その端部がかしめられて上記スリーブ(27)と一体化されている。(30)は焼結合金に潤滑油を含侵し自己潤滑性を有する円筒状のガイドメタルであり上記弁体(28)の中空穴(28a)内に圧入され、上記回転軸(4)の先端部が密接に嵌入しており、弁体(28)を回転軸上で倒れなく直線移動させる。」(公報2頁右下欄2~18行)
この記載事項及び第1図からすると,甲第23号証には,「スリーブ27(弁体移動手段)の先端が弁体28のホルダ29(弁体の保持部)に固定される構成」が記載されている。
(6) 甲第24号証
本件出願の出願前に頒布された甲第24号証には,図面と共に以下の事項が記載又は示されている。
・「第7図は従来の流量制御バルブの構成を示す断面図である。この第7図において、1は金属材よりなるホルダ、2はこのホルダ1と一体的に設けられ、直線運動のためのめねじを有するモールド、3はホルダ1の前側(図面右側)に固着されたバルブである。モールド2は後述するステッピングモータ13のロータ軸14に螺合しており、またホルダ1とロータ軸14との間にはガイドメタル4が設けられてホルダ1をロータ軸14と同心になるよう保持している。更に、ロータ軸14の前端部にはホルダ1の最大前進位置を規制するストッパ5が設けられ、止め輪6で係止されている。7はハウジング8に固着され、ホルダ1の回転方向の動きを規制するガイド、9はホルダ1の後側に設けられ塵埃等の侵入を防止するカバーで、このカバー9とガイド7との間にはスプリング10が設けられ、ホルダ1を前方に押圧付勢することでモールド2のめねじとロータ軸14のおねじ間のガタをなくしている。」(明細書1頁19行~2頁17行)
この記載事項及び第7図からすると,甲第24号証には,「バルブ3(弁)を螺合で直線運動する際にスプリング10で付勢することでめねじとおねじ間のガタをなくすこと」,および,「弁装置の弁体移動手段が端部に弁体を有する態様において,モールド2(弁体移動手段)の先端がバルブ3(弁体)のホルダ1(弁体の保持部)に固定される構成」が記載されている。
2 無効理由について
2-1 無効理由3(平成6年改正前特許法第36条第5項第2号に規定する要件)について
本件の事情に鑑み,無効理由1および無効理由2の検討の前に,無効理由3について検討する。
平成6年改正前特許法第36条第5項第2号は,特許請求の範囲に「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」のみを記載することを要求している。「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されているとは,一つの請求項に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明(発明の要旨)が明確に把握できることを意味するものであり,特許請求の範囲の記載について,発明の要旨(明細書の発明の詳細な説明による発明内容の理解を前提とした技術的事項すなわち技術的特徴)に不可欠かつ十分な構成要件のみを記載することを求めているものである。そして,特許請求の範囲に,特許を受けようとする発明の技術的特徴点をなす発明の要旨(発明特定事項)が記載されていると解せる場合には,特許請求の範囲に記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明が明確に把握できるから,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されたものと認めることができる。
本件特許発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載において,「シール構造」および「静止部分」に関しては,「薄板パイプ(38)」が「Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし、当該シール材が嵌装される静止部分となる」点が特定されている。すなわち,本件特許発明においては少なくとも「薄板パイプ(38)」が「Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をな」すとともに「シール材が嵌装される静止部分となる」ことにその技術的意義がある。そして,内部の気密を確保するOリング等のシール材は,密着状態にある薄板パイプが静止部分となり,「シール材39は移動部分との接触がなくなるので」(段落【0007】),従来の技術のような「貫通孔8とリードスクリュー5との間のシール構造では、シール材としてのOリング16は密着状態にあるリードスクリュー5が左右に移動するため、摩擦熱等による経年変化を起して、リードスクリュー5と粘着状態になってしまう。このため、流体遮断装置の負荷が増大し、緊急時におけるガス遮断に即応することができなくなるという問題点が生じる。」(段落【0004】)ことがなくなって,「負荷の安定と信頼性の向上を図」(段落【0005】)れ,【発明が解決しようとする課題】が解決できることは,当業者に容易に理解できる。
そして,このようなことは,シール材が薄板パイプの幅方向の”両端部”をシールするとまで特定しなくても,得られると理解できるものである。
そうすると,本件特許発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,特許請求の範囲に特許を受けようとする発明の技術的特徴点をなす事項(発明特定事項)が記載されていると解せるから,本件特許発明が明確に把握できないとはいえない。
以上のことから,本件特許発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,請求人が主張するように記載された事項に基づいて特許を受けようとする発明が把握できず「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項」が記載されたものではない,とすることはできない。
よって,本件特許発明に係る特許は,無効理由3により,無効とされるべきものであるとはいえない。
2-2 無効理由1(特許法第29条第2項に規定する要件)について
(1) 発明の対比
本件特許発明と甲第16号証に記載された発明とを対比する。
甲第16号証に記載された発明の「高圧蒸気の還流を遮断する装置」は,本件特許発明の「ガス遮断装置」に相当し,以下同様に,「利用される」は「用いられる」に,「シャフト9」は「回転軸」に,「スピンドル12」は「リードスクリュー」に,「弁座に密着する弁部」は「弁座に密着する弁体」に,それぞれ相当している。また,甲第16号証に記載された発明の「モータが遮断機構を駆動する高圧遮断弁」は,貫流室16の流体の流れの方向が限定されず双方向に流すことができるモータ駆動の弁であるから,本件特許発明の「モータ駆動双方向弁」に相当している。
本件特許発明の「回転軸の左端部にリードスクリューを形成し」た態様の「回転軸の左端部」は「回転軸の弁座側の端部」と同義であり,甲第16号証に記載された発明の「シャフト9の下側端部のところでスピンドル12を構成し」た態様の「シャフト9の下側端部のところ」は「シャフト9の弁座側の端部」と同義であるから,結局,甲第16号証に記載された発明の「シャフト9の下側端部のところでスピンドル12を構成し」た態様は,本件特許発明の「回転軸の左端部にリードスクリューを形成し」た態様に相当している。
甲第16号証に記載された発明において,モータの回転運動はスピンドル12とスピンドルナット13との結合により遮断機構aを駆動して弁部を弁座に密着・離間するから,モータは「正逆回転可能なモータ」である。そうすると,甲第16号証に記載された発明の「モータ」は本件特許発明の「正逆回転可能なモータ」又は「モータ」に相当する。
本件特許明細書の段落【0008】の「・・・流通路の側壁の開口(図示していない)に外側から取り付けられた取付板23に、・・・」の記載から,本件特許発明のモータの「取付板」は,モータをバルブハウジングに取り付けるものであり,甲第16号証の「符号1は、高圧弁の通常のバルブハウジングである。これに接合されているのが2部分からなる別のハウジング3,4であり、この中に、遮断機構aを操作する駆動装置が配置されている。駆動装置は定置の部分xと可動の部分yとで成り立っており、後者は遮断機構と直接的に連結されている。定置の部品xはステータとして構成されており、可動の部分yは、かご形電機子を備える非同期モータのロータとして構成されている。」の記載から,甲第16号証に記載された発明の「ハウジング3」は,その中に駆動装置であるモータを配置し,高圧弁のバルブハウジング1に接合されているから,モータをバルブハウジングに取り付けている。したがって,甲第16号証に記載された発明の「ハウジング3」は本件特許発明の「取付板」に相当している。
本件特許発明の「リードスクリューと螺合して、左右に移動する弁体移動手段」はモータDの正逆回転でリードスクリュー(28a)と(雌形スクリューねじとの)螺合により弁体移動手段25を左右に移動して弁体(22)を弁座(21)に密着・離間するものであり,甲第16号証に記載された発明の「スピンドル12を介して,回転するスピンドルナット13と結合されている遮断機構a」はモータの回転運動でスピンドル12とスピンドルナット13との結合により遮断機構aを駆動して弁部を弁座に密着・離間するものであるから,結局,甲第16号証に記載された発明の「スピンドル12を介して,回転するスピンドルナット13と結合されている遮断機構a」は,本件特許発明の「リードスクリューと螺合して、左右に移動する弁体移動手段」に相当している。
甲第16号証に記載された発明の「モータのエアギャップに高圧の作用のもとでステータ体xに当接するように配置され,ロータがある空間がモータのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され,相互に可動の部品でのシールを回避した両方の側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体zを有する」態様と本件特許発明の「ロータ回転手段のステータヨークの内周面に接するように配置され、Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし、当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプを有する」態様とについて検討する。まず,甲第16号証に記載された発明の「ステータ体x」と本件特許発明の「ロータ回転手段のステータヨーク」とは,「ステータ」の概念で共通し,甲第16号証に記載された発明の「エアギャップに高圧の作用のもとでステータ体xに当接するように配置され」た態様と本件特許発明の「ロータ回転手段のステータヨークの内周面に接するように配置され」た態様とは,「ステータの内周側に配置され」の概念で共通している。つぎに,甲第16号証に記載された発明の「ロータがある空間がモータのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され」る態様の「ロータがある空間」は本件特許発明の「内部」に相当するから,甲第16号証に記載された発明の「ロータがある空間がモータのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され」る態様と,本件特許発明の「Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし」の態様とは,「内部の気密を確保するシール構造をなし」の概念で共通している。また,甲第16号証に記載された発明の「両方の側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体z」と本件特許発明の「非磁性材の薄板パイプ」とは,「中空状の部材」の概念で共通している。そして,その「中空状の部材」に関し,甲第16号証に記載された発明の「相互に可動の部品でのシールを回避した」態様と本件特許発明の「当該シール材が嵌装される静止部分となる」態様とは,その「中空状の部材」が「静止部分となる」概念で共通している。したがって,甲第16号証に記載された発明の「モータのエアギャップに高圧の作用のもとでステータ体xに当接するように配置され,ロータがある空間がモータのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され,相互に可動の部品でのシールを回避した両方の側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体zを有する」態様と本件特許発明の「ロータ回転手段のステータヨークの内周面に接するように配置され、Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし、当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプを有する」態様とは「ステータの内周側に配置され,内部の気密を確保するシール構造をなし,静止部分となる中空状の部材を有する」概念で共通している。
甲第16号証に記載された発明の「下側端部が弁部であり」との遮断機構の態様と本件特許発明の「先端部がこの弁体の保持板に固定され」た弁体移動手段の態様とは,「端部に弁体を有し」の概念で共通している。
そうすると,両者は,
「ガス遮断装置に用いられるモータ駆動双方向弁において,回転軸の左端部にリードスクリューを形成し,ステータの内周側に配置され,内部の気密を確保するシール構造をなし,静止部分となる中空状の部材を有する正逆回転可能なモータと,モータの取付板と,弁座に密着する弁体と,端部に弁体を有し,前記リードスクリューと螺合して,左右に移動する弁体移動手段とからなるモータ駆動双方向弁。」
の点で一致し,以下の各点で相違すると認められる。
<相違点1>
ステータの内周側に配置され,内部の気密を確保するシール構造をなし,静止部分となる中空状の部材を有する点について,本件特許発明では「ロータ回転手段のステータヨークの内周面に接するように配置され、Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をなし、当該シール材が嵌装される静止部分となる非磁性材の薄板パイプを有する」のに対し,甲第16号証に記載された発明では「モータのエアギャップに高圧の作用のもとでステータ体に当接するように配置され,ロータがある空間がモータのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され,相互に可動の部品でのシールを回避した両方の側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体を有する」点。
<相違点2>
本件特許発明では,モータの取付板と弁体との間にスプリングが装着され,弁体がスプリングにより付勢されて弁座に密着する構成であるのに対し,甲第16号証に記載された発明では,モータのハウジングと弁部との間にスプリングが装着されておらず,弁体がスプリングにより付勢されて弁座に密着する構成になっていない点。
<相違点3>
弁体移動手段が端部に弁体を有する態様に関し,本件特許発明では,先端部が弁体の保持板に固定されるのに対し,甲第16号証に記載された発明では,下側端部が弁部である点。
(2) 相違点の検討
<相違点1について>
本件特許発明の薄板パイプは,その実施例を示す図1によると,両端部38a,38aが開いた形態の中空状の部材を採用できるから,甲第16号証に記載された発明の両方の側で開いた中空体からなるものは,本件特許発明の薄板パイプと,両端部が開いた形態の中空状の部材の観点において相違するものではない。また,甲第16号証に記載された発明のモータ(実施例は,かご形電機子を備える非同期モータ,すなわち誘導モータ)において,そのエアギャップはできる限り小さくすることが要求されるから,そこに配置する両端部が開いた形態の中空状の部材であるシール体も可能な限りその壁厚を薄くすること,すなわち薄板パイプ状とすることは当業者が当然に選択する事項にすぎない。このことは,甲第16号証に「該シール体は、これに負荷をかける高い内圧をモータの定置の部品へ伝達する目的のために、当該定置の部品に密閉式に密着することができ、それにより、シール体の少ない壁厚で、ないしはモータのロータとステータの間の小さい間隙幅で、自動的に作用する高圧シールが実現されることによって実現される。」や「定置の部品により及ぼされる反圧の結果,シール体は圧縮の応力だけを受けることになり,したがって,非常に小さい壁厚を有するように製作することができる。それにより,ステータとロータの間の間隙幅も同じく小さく保つことが可能であり,このことは,駆動装置の電気的な効率を考えたときに大きな意義がある。」と記載されていることからも導かれることである。また,甲第16号証に記載された発明の「ステータ体x」を本件特許発明の「ロータ回転手段(34)のステータヨーク(37)」とすることは,回転磁界を生成する「ステータ」の具体化に際して設計者が適宜設定し得る事項である。さらに,エアギャップに配置したシール体が非磁性材であればその配置は磁束分布に影響しないから磁気的空隙は変わらないが,非磁性材でない場合には磁束分布に影響して磁気的空隙が変わりモータの性能が変化して所期の性能を得られないことから,シール体をして非磁性体とすることも当業者が普通に採用することである。そして,シール体が高圧下でステータに接する形態としては,高圧下でない状態でステータに対する隙間を設けることもそうでないこともいずれも採用し得るが,ステータに対する隙間を設けるとその分エアギャップが大きくなるから,シール体が配置されるエアギャップを可能な限り小さくするために高圧下でなくともステータに対する隙間を設けずに配置することも,当業者が当然に行うことといえる。
しかしながら,甲第16号証に記載された発明の弾力性あるシール体は,それ自体のみでシール構造をなすから,Oリング等のシール材をさらに用いることによってそれと共にシール構造をなす必要はないのみならず,Oリングを嵌装することにより弾力性あるシール体自体も変形するおそれがあることから,モータのエアギャップを成す狭い空間においてロータとの干渉を避けるために相応の対処が必要となる。また,甲第16号証に記載された発明の弾力性あるシール体は高圧の作用のもとでステータ体に当接し,定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現される自動式の高圧シール体となるように,弾力性であることが必須であるから,Oリング等のシール材と共にシール構造をなすべく,Oリング等のシール材を嵌装してシール材にそのシール性能が充分に発揮できるような所期の圧縮をもたらせるように所定の硬度を備えるようにすることは,その厚さを薄くする必要性からしても技術的に相反することであって,阻害されるものである。そうすると,甲第16号証に記載された発明における「モータのエアギャップに高圧の作用のもとでステータ体xに当接するように配置され,ロータがある空間がモータのステータから分離されて定置の部品に密閉式に密着して高圧シールが実現され,相互に可動の部品でのシールを回避した両方の側で開いた中空体からなる弾力性あるシール体zを有する」態様を,上記相違点1に係る本件特許発明の発明特定事項とすることは,当業者が容易に想到し得ることとはいえず,むしろ,そのようなことは阻害されるものであるともいえる。
<相違点2について>
甲第19号証には,前記のとおりの構成が記載されているから,本件特許発明における取付板と弁体との間にスプリングを装着し弁体がスプリングにより付勢されて弁座に密着する構成に相当する構成が開示されているといえる。
また,甲第20号証,甲第21号証や甲第24号証に記載されていることから理解できるように,弁を螺合部で駆動する際にバネ付勢を行い螺合部のがたつきを防止することは,本件出願の出願前の慣用技術である。
そして,「高圧蒸気の還流を遮断する装置」は大型の弁を用いるものとは必ずしもいえないから,高圧媒体用の弁である甲第16号証に記載された発明においても,弁部をバネ付勢することを妨げるような特段の事情もない。
そうすると,甲第16号証に記載された発明も,弁部をスピンドルの上で回転するスピンドルナットで駆動するものであるから,がたつき防止の課題が内在するのであって,「ハウジング3」は本件特許発明の「取付板(23)」に対応し弁部に対向するものであるから,駆動螺合部のがたつき防止のための慣用技術の具体的技術として甲第19号証に記載された弁装置におけるモータの取付板と弁体との間にスプリングを装着し弁体がスプリングにより付勢されて弁座に密着する構成を採用することにより,甲第16号証に記載された発明をして上記相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
さらに,弁構造は,弁体を弁座に密着させることによって弁を閉じて,流体の流路を制御するものであって,閉弁時の弁体と弁座との密着性の確保は,弁構造において当然に要求されるごく一般的な課題である。そして,甲第16号証に記載された発明も,電動モータ式の流体遮断弁の発明であって,閉弁時の弁体と弁座との密着性の確保が要求されるものである。したがって,閉弁時の弁体と弁座との密着性の確保の観点からしても,甲第16号証に記載された発明をして,上記相違点2に係る本件特許発明の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことである。
なお,本件特許発明において,モータの取付板と弁体との間にスプリングが装着され,弁体がスプリングにより付勢されて弁座に密着する構成は,本件特許の明細書の段落【0002】の「そして、弁体2は、ガス通路の側壁の開口(図示していない)に外側から取り付けられたホルダ3に、スプリング4を介して取り付けられており、該スプリング4は弁2を弁座1に押し付ける方向に付勢されている。」および図3に【従来の技術】として記載されているように,本件特許発明の従来技術の態様そのものに相当し,例えば本件特許の明細書の段落【0008】の「そして、弁体22は、流通路の側壁の開口(図示していない)に外側から取り付けられた取付板23に、スプリング24を介して取り付けられており、該スプリング24は弁体22を弁座21に押し付ける方向(図面上、左右)に付勢している。」との記載を参酌しても格別な技術的意義を有するものではなく,当業者が通常行う創意工夫の範囲内のものである。
<相違点3について>
弁装置の弁体移動手段が端部に弁体を有する態様において,甲第22号証,甲第23号証や甲第24号証に記載されていることから理解できるように,弁体移動手段の先端が弁体の保持部に固定される構成は本件出願の出願前の周知技術である。
また,本件特許発明において,弁体移動手段が端部に弁体を有する態様に関し,先端部が弁体の保持板に固定されることは,本件特許の明細書の段落【0002】の「すなわち、図3はガス遮断時のガス遮断装置の要部断面を示すもので、1はガス供給管路中の弁座で、弁体2の保持板2aとゴム材等の弾性材で形成したシール弁2bから構成されている。・・・また、弁体2の中央部にはリードスクリュー5の先端部6が貫通した後、Eリング7,7で挟持するようにして連結されている。」,段落【0003】の「・・・リードスクリュー5と弁体2からなる弁体移動手段Cが左右にリニア移動する。」および図3に【従来の技術】として記載されているように,本件特許発明の従来技術の態様そのものに相当し,例えば本件特許の明細書の段落【0008】の「弁体22は、略灰皿状で中央に透孔22bのある弁体保持板22aと、ゴム材等の弾性材で形成され、前記弁体保持板22aに嵌着されたシール板22Cとから構成されている。・・・また、弁体22の保持板22aの中央孔22bには弁体移動手段25の先端部25aが貫通した後、Eリング26で連結されている。」との記載を参酌しても格別な技術的意義を有するものではなく,当業者が通常行う創意工夫の範囲内のものである。
そうすると,甲第16号証に記載された発明は,弁体移動手段の下側端部が弁部であり,弁体移動手段と弁部との具体化においてどのようなものとするかは設計者が必要に応じて適宜設定し得るから,上記周知技術を採用することにより,甲第16号証に記載された発明において,上記相違点3に係る本件特許発明の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到し得たことである。
以上のことからすると,本件特許発明は,甲第16号証に記載された発明と上記甲第19号証~甲第24号証に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
(3) まとめ
本件特許発明は,請求人が提出した甲各号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。よって,本件特許発明に係る特許は,請求人の主張する特許法第29条第2項(同法第123条第1項第2号)に係る無効理由を有しない。
2-3 無効理由2(平成6年改正前特許法第36条第5項第1号に規定する要件)について
本件特許発明の「薄板パイプ(38)」は,上記「第5 2 2-1 無効理由3について」に記載したように,特許請求の範囲の記載において「Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をな」すとともに,「シール材が嵌装される静止部分となる」ことが特定されている。そして,本件の特許明細書には「薄板パイプ(38)」について「シール構造」を担うとともに,「シール材が嵌装される静止部分となる」ものが開示されている。
具体的には,本件特許発明の「薄板パイプ(38)」について,本件の特許明細書には,以下の事項が記載されている。
・「【作用】・・・このモータのステータヨーク37内周面及び軸受保持盤32の外周面に接する薄板パイプ38と、これらにより形成される隙間にOリング等のシール材39を嵌装するシール構造のため、シール材39は移動部分との接触がなくなるので、双方安定弁の負荷が安定する。」(段落【0007】)
・「・・・38は黄銅などの非磁性材の薄板パイプで、その幅方向の両端部38a,3Saは前記軸受保持盤32,32の外周面に接し、かつ、その中央部38bがステータヨーク37と接するように嵌装されており、このパイプ38の両端部38a,3Saと取付板23,33及びステークヨーク37,37とで包囲される空隙はOリング等のシール材39により嵌装シールされている。」(段落【0010】)
・「さらに、この双方向弁を開放したとき、ロータ内部にガスの漏入があっでも、薄板パイプ38とOリング39及びOリング41によって、モータ駆動双方向弁装置は気密が確保され、装置を通して流通路以外の外部へのガス漏洩が防止される。」(段落【0014】)
・「【発明の効果】・・・弁体移動手段はモータの外側に設け、モータのステータヨーク内周面を非磁性材の薄板パイプで覆うとともに、このパイプの幅方向の両端部をOリング等のシール材で装填し固定したので、静止部分でのシール構造が得られるようになり・・・」(段落【0015】)
これらの記載のうち,【実施例】に係る段落【0010】および段落【0014】においては,図1に基づく具体例を記載していることから,請求人が主張するように,Oリング等のシール材が薄板パイプの両端に装着されることが明記されているものの,実施例にとらわれない段落【0007】においては,Oリング等のシール材が薄板パイプの両端に装着されることを明記しているとは必ずしもいえない。
また,これらの記載によれば,「薄板パイプ(38)」の技術的意義は,「薄板パイプ(38)」をOリング等のシール材39が装着される被シール部材(静止部材)として用いることによってシール構造を担い,「薄板パイプ(38)」の内部の気密を確保することにあることを,当業者は理解できるのであって,本件特許発明のシール構造は薄板パイプの両端にOリング等のシール材が装着されるものに限られるのではなく,「薄板パイプ(38)」が「Oリング等のシール材と共に内部の気密を確保するシール構造をな」すとともに,「シール材が嵌装される静止部分となる」ことをもって足りる技術思想が開示されているというべきである。すなわち,本件の特許明細書には,従来技術における「貫通孔8とリードスクリュー5との間のシール構造では、シール材としてのOリング16は密着状態にあるリードスクリュー5が左右に移動する」(段落番号【0004】)ものが,本件特許発明によれば「シール材39は移動部分との接触がなくなる」(段落番号【0007】)ようになったと説明されているのである。
したがって,本件特許発明の特許請求の範囲の請求項1の記載は,発明の詳細な説明において記載された範囲をこえた広い記載となっていて,サポート要件に適合していないということはできない。
そうすると,本件特許発明に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,「シール構造」を担う技術的意義を有する特定がなされず,発明の詳細な説明に何らの記載もされていない事項まで含むものとはいえないから,本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載は,平成6年改正前特許法36条5項1号に適合しておらず,本件特許発明に係る特許は,平成6年改正前特許法第123条第1項第3号の無効事由を有するということはできない。
よって,請求人の主張する無効理由2及び提出した証拠方法によっては本件特許発明に係る特許を無効とすることはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから,請求人の主張する無効理由1ないし無効理由3及び提出した証拠方法によっては本件特許発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,被請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
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2014-800064