特許無効審判
2014-800013
発光装置
- 審判番号
- 2014-800013
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2007-210888外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2014年01月22日
- 審決日
- 2017年01月12日
- 公報発行日
- 2018年04月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】永井 義久
- 【被請求人】パナソニック 株式会社
- 【被請求人代理人】豊岡 静男
- 【被請求人代理人】▲廣▼瀬 文雄
- 【被請求人代理人】松本 隆芳
- 分類
- P1113.121-YAA(H01L) / P1113.537-YAA(H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第44条第1項、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4094047号「発光装置」の特許無効審判事件についてされた平成27年 4月 6日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消しの判決(平成27年(行ケ)第10097号、平成28年 3月 8日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4094047号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第4094047号(以下「本件特許」という。請求項の数は1である。)の請求項1に係る発明についての特許を無効とすることを求める事案である。
第2 手続の経緯
1 本件特許についての手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成19年 8月13日 本件特許出願(特願2007-210888号(特願2004-363534号の分割出願)、優先権主張 平成16年4月27日、平成16年6月21日、平成16年6月30日)
平成20年 3月14日 設定登録
平成26年 1月22日 審判請求
平成26年 4月 7日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成26年 5月28日 審理事項通知
平成26年 7月 2日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成26年 7月 2日 口頭審理陳述要領書提出(被請求人)
平成26年 7月10日 上申書提出(請求人)
平成26年 7月16日 口頭審理
平成26年 7月18日 上申書提出(被請求人)
平成26年 8月 1日 上申書(第2回)提出(請求人)
平成26年 8月 1日 上申書提出(被請求人)
平成26年 8月25日 上申書(第3回)提出(請求人)
平成26年 9月24日 審決の予告
平成26年11月28日 訂正請求書提出(被請求人)
平成26年11月28日 上申書提出(被請求人)
平成27年 1月 7日 上申書(第4回)提出(請求人)
平成27年 2月20日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成27年 4月 6日 審決(訂正を認める。請求成立。以下「前審決」という。)
平成27年 5月15日 知的財産高等裁判所出訴(平成27年(行ケ)第10097号)
平成28年 3月 8日 判決(審決取消。以下「判決」という。)
平成28年 5月30日 上申書(第5回)提出(請求人)
平成28年 8月 5日 審判事件答弁書提出(被請求人)
2 特願2004-363534号(以下「原出願」という。)に係る手続の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成16年12月15日 特許出願(優先権主張 平成16年4月27日、平成16年6月21日、平成16年6月30日)
平成20年 5月23日 設定登録(特許第4128564号)
平成23年 3月15日 審判請求(無効2011-800043号)
平成23年 5月26日 審判事件答弁書提出(被請求人)
平成23年 8月16日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
平成23年 8月23日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成23年 8月30日 弁駁書提出(請求人)
平成23年 8月30日 口頭審理
平成23年 9月 1日 上申書提出(請求人)
平成23年 9月 7日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成23年12月12日 審決(請求成立)
平成24年 1月20日 知的財産高等裁判所出訴(平成24年(行ケ)第10020号)
平成24年 4月18日 訂正審判請求(訂正2012-390050号)
平成25年 1月31日 判決(審決取消し。以下「前判決」という。)
平成25年 3月 4日 上申書提出(請求人)
平成25年 3月11日 審判事件上申書提出(被請求人)
平成25年 3月12日 訂正審判請求(訂正2012-390050号)
の取下げ
平成25年 5月31日 審決(請求成立)
第3 訂正請求について
1 訂正の内容
被請求人が、平成26年11月28日付け訂正請求書で求める訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体であり、」とあるのを、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)であり、」に訂正する。
(2)訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0010】に、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体であり、」とあるのを、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)であり、」に訂正する。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1
ア 訂正前の請求項1に係る発明では、赤色蛍光体が「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」であることを特定していたところ、訂正後の請求項1に係る発明では、赤色蛍光体が「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)」であることを特定するものである。
そうすると、訂正事項1は、赤色蛍光体が取り得る態様から、「Sr2Si4AlON7:Eu2+」を除くことにより、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 本件特許明細書には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
(ア)「【0012】
Eu2+で付活された蛍光体の特性を詳細に調べたところ、以下(1)~(3)に示す蛍光体は、波長360nm以上420nm未満の近紫外~紫色領域に発光ピークを有する紫色発光素子の励起下における内部量子効率だけでなく、波長420nm以上500nm未満、特に、波長440nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する青色発光素子の励起下における内部量子効率も高く、良好なものは、その内部量子効率が90%~100%であることが見出された。
…
(3)Eu2+で付活され、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、ニトリドアルミノシリケート系等)の赤色蛍光体、例えば、Sr2Si5N8:Eu2+、SrSiN2:Eu2+、SrAlSiN3:Eu2+、CaAlSiN3:Eu2+、Sr2Si4AlON7:Eu2+等の蛍光体。」
(イ)「【0057】
上記Eu2+で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体は、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する暖色系光、好ましくは610nm以上650nm以下の波長領域に発光ピークを有する赤色系光を放つ蛍光体であり、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体に該当する。より詳細には、組成式(M1-xEux)AlSiN3で表されるニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、図13に示したSrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体やCaAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体等、組成式(M1-xEux)SiN2で表されるニトリドシリケート蛍光体、例えば、図12に示したSrSiN2:Eu2+赤色蛍光体やCaSiN2:Eu2+赤色蛍光体等、組成式(M1-xEux)2Si5N8で表されるニトリドシリケート蛍光体、例えば、図14に示したSr2Si5N8:Eu2+赤色蛍光体、Ca2Si5N8:Eu2+赤色蛍光体又はBa2Si5N8:Eu2+赤色蛍光体等、及び、組成式(M1-xEux)2Si4AlON7で表されるオクソニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、Sr2Si4AlON7:Eu2+赤色蛍光体等を用いればよい。但し、上記組成式のMは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。」
(ウ)「【0150】
また、実施例3では、SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体を用いた場合を説明したが、組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される蛍光体であり、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは式0.005≦x≦0.3を満たす数値であれば、特に限定されるものではない。また、緑色蛍光体は上述の実施例で使用した緑色蛍光体に限定されず、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ緑色蛍光体であれば特に限定されない。上記緑色蛍光体に代えて、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ黄色蛍光体を用いても良い。なお、発光出力の好ましい、上記緑又は黄色蛍光体は、Eu2+又はCe3+で付活された蛍光体である。
【0151】
なお、SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体の特性は、従来の赤色蛍光体、例えば、SrSiN2:Eu2+、Sr2Si5N8:Eu2+、Sr2Si4AlON7:Eu2+等の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と似通っているので、実施例2又は実施例3において、SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体に代えて、上記従来の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を用いた場合でも、同様の作用効果が認められる。」
ウ 以上の記載によれば、本件訂正後の請求項1に係る発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」は、「波長360nm以上420nm未満の近紫外~紫色領域に発光ピークを有する紫色発光素子の励起下における内部量子効率だけでなく、波長420nm以上500nm未満、特に、波長440nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する青色発光素子の励起下における内部量子効率も高」い赤色蛍光体としての技術的意義を有するものと認められる。
そして、赤色のニトリドアルミノシリケート系蛍光体として、組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される蛍光体、組成式(M1-xEux)2Si4AlON7で表される蛍光体、具体的には、SrAlSiN3:Eu2+蛍光体、CaAlSiN3:Eu2+蛍光体、Sr2Si4AlON7:Eu2+蛍光体といった各種組成のものが記載されており、また、上記「組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される蛍光体であり、Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは式0.005≦x≦0.3を満たす数値であれば、特に限定されるものではない」との記載や上記「SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体の特性は、従来の…Sr2Si4AlON7:Eu2+等の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体と似通っているので、実施例2又は実施例3において、SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体に代えて、上記従来の窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を用いた場合でも、同様の作用効果が認められる」との記載に照らせば、本件訂正後の請求項1に係る発明において使用される「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」は、赤色のニトリドアルミノシリケート系蛍光体であれば、その組成は問わないものと解され、訂正事項1は、そのような「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」のうち、具体的に列挙された「Sr2Si4AlON7:Eu2+」を除外するものと解される。
そして、除外される「Sr2Si4AlON7:Eu2+」のみが何らかの特有の技術的意義を有するとか、除外後に残った蛍光体のみが何らかの特有の技術的意義を有するなど、本件訂正の前後で、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の技術的内容を変更するような事情も見当たらない。
してみると、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」から「Sr2Si4AlON7:Eu2+」を除くことによって新たな技術的事項が導入されるとはいえず、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
エ 上記アで述べたとおり、訂正事項1は、赤色蛍光体が取り得る態様から、「Sr2Si4AlON7:Eu2+」を除くものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2
ア 訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために、願書に添付した明細書の段落【0010】に、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体であり、」とあるのを、「前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)であり、」に訂正するものである。
そうすると、訂正事項2は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 上記(1)ウと同様の理由により、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
ウ 上記(1)エと同様の理由により、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
3 小括
以上のとおり、訂正事項1及び訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮あるいは明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当するから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、また、訂正事項1及び訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件訂正を認める。
第4 本件訂正発明
1 上記のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件訂正発明」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、
前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、
前記出力光が、白色光であり、
前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)であり、
前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+又はCe3+で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、
前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、
前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu2+又はCe3+で付活された蛍光体のみを含み、
前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、
前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、
前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まないことを特徴とする発光装置。」
2 本件訂正発明を分説すると、以下のとおりである。
「(A)赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、
(B)前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、
(C)前記出力光が、白色光であり、
(D)前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)であり、
(E)前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+又はCe3+で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、
(F)前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、
(G)前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu2+又はCe3+で付活された蛍光体のみを含み、
(H)前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、
(I)前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、
(J)前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない
(K)ことを特徴とする発光装置。」
第5 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由
(1)無効理由1(サポート要件違反)
ア サポート要件違反その1(審判請求書9頁~10頁、12頁~23頁、口頭審理陳述要領書3頁~8頁、平成26年8月1日付け上申書(第2回)2頁~17頁、平成28年5月30日付け上申書(第5回)8頁~11頁)
(ア)a 本件訂正発明は、構成要件(H)「前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上」とされているものである。
b しかし、発明の詳細な説明には、青色発光素子が放つ光励起下において、「赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上である」発明特定事項についての開示はない。むしろ、ニトリドアルミノシリケート系の窒化物赤色蛍光体は、内部量子効率が80%未満であることが明示されている。
本件訂正発明の課題は、「高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供するものである」ところ、発明の詳細な説明の欄には、窒化物赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上ではなく、80%未満であると記載されているのであるから、かかる記載では当然に、当業者は、本件訂正発明が上記課題を解決できるものと認識できない。
また、本件出願時に「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上である」との当業者の技術常識はない。しかも、内部量子効率が「80%」を境界値として数値限定した意義も明らかでない。
c よって、「特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである」とはいえないから、本件訂正発明についての本件訂正明細書の記載はサポート要件を充足しない(審判請求書9頁~10頁、12頁~19頁)。
(イ)a 「内部量子効率が80%以上の赤色蛍光体については,直接記載されていない」にもかかわらず、本件特許は、構成要件(H)において、「前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり」と規定するものであるから、「特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えている」ことは明らかであるから、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の規定を充足するものではない(平成26年8月1日付け上申書(第2回)5頁~6頁)。
b 本件訂正明細書及び図面には量子効率が80%以上の赤色蛍光体を使用した場合における発明については、全く開示がないのであって、「特許請求の範囲の記載が,発明の詳細な説明の範囲と対比して,前者の範囲が後者の範囲を超えている」から、本件特許はサポート要件を充足しない(平成26年8月1日付け上申書(第2回)8頁)。
c 当業者の製造条件の最適化は区々であり、かつ多様性がある。したがって、本件特許の出願時、ある製造条件あるいは製造条件群を採用することにより、赤色蛍光体の内部量子効率が正比例をもって向上する技術常識は存在しなかったのであるから、被請求人による「当業者の出願時の技術常識によれば、製造条件の最適化によって赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とすることができる」との主張は誤りであり、本件訂正明細書には、「製造条件の最適化によって赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とすることができる」可能性に関する記載があるだけであり、「赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とする」技術事項の開示はない(平成26年8月1日付け上申書(第2回)14頁~15頁)。
(ウ)本件訂正発明に関しては、発明の詳細な説明において、内部量子効率が60%である「SrAlSiN3:Eu2+」が唯一開示されているのみであって、判決77頁の判事事項「本件出願の優先日当時、…蛍光体の内部量子効率をできるだけ高めることは、当業者の技術常識であった」が存在していたとしても、唯一実施例に示された「SrAlSiN3:Eu2+」以外の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」について、「蛍光体の内部量子効率を高めることについても、自ずと限界があること」を踏まえると、何故、「内部量子効率を80%以上とする構成」とするのか、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から明らかでない(平成28年5月30日付け上申書(第5回)8頁~11頁)。
(エ)よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである(審判請求書10頁)。
イ サポート要件違反その2(審判請求書10頁~11頁、24頁~26頁、口頭審理陳述要領書8頁~11頁)
(ア)本件訂正発明は、構成要件(J)「前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」とされているものであり、また、発明の詳細な説明によれば、「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」とは、「蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体であること」を意味する。
(イ)これに対し、実施例1~実施例3は、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」(【0052】)構成ではない。
したがって、記載された実施例1~実施例3の全てが、本件訂正発明の実施例ではない。
このように、発明の詳細な説明には、本件訂正発明の実施例の記載はないばかりでなく、蛍光体層を「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成にする、すなわち、「蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体であること」にする技術的意義、とりわけその「90重量%」についての技術的意義に関する記載は一切ない。
(ウ)よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
ウ 平成28年5月30日付け上申書(第5回)(11頁~12頁)における主張
本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」とは、オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体、サイアロン系の窒化物蛍光体も包含する意義であり、その具体例の数は万を優に超え無数に近い。
しかるに、本件訂正明細書及び図面には、赤色蛍光体として、「SrAlSiN3:Eu2+」が開示されており、内部量子効率が60%であることが開示されているだけであり、他の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」については、内部量子効率について開示がない。
したがって、特許請求の範囲に記載された発明が、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」を含み、しかも「SrAlSiN3:Eu2+」以外の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」を含む発明であるとすることは、発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
進んで、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、あるいはその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない。
(2)無効理由2(分割違法による進歩性なし)(審判請求書11頁~12頁、26頁~37頁)
ア 本件訂正発明は、平成16年12月15日付け特許出願(特願2004-363534号)の分割出願(特願2007-210888号)に係るものであるところ、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、本件訂正発明の「(H)前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり」、「(J)前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」との構成は開示されていない。
してみると、分割出願の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項が、原出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内である要件(特許法第44条第1項柱書きの要件)を充足しない。
したがって、本件訂正発明に係る分割出願は、出願日は遡及せず、現実の出願日、すなわち平成19年(2007年)8月13日にしたものとみなされる。
イ しかるに、この分割出願日においては、既に原出願が平成18年(2006年)2月16日付けで特開2006-49799号公報として公開されており、その公開された明細書及び図面には、本件訂正発明と実質的に同一ともいえる先行発明が記載されている。
一方、本件訂正発明と先行発明との、唯一の相違点は、本件訂正発明は、赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上であることを要件とするのに対し、先行発明は赤色蛍光体の内部量子効率が80%未満である、点である。
しかし、「上述した波長領域に発光ピークを有する発光素子と、その発光素子の放つ光の励起下において内部量子効率が低い蛍光体とを備えた発光装置は、発光素子が放つ光エネルギーを効率よく変換できないために、光束が低い発光装置となる。」(【0027】)との記載とともに、「高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は、内部量子効率(絶対値)が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の蛍光体とする。」(【0054】)との記載によれば、高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体の内部量子効率は高い方が好ましく、たとえば「80%以上」と教示しているのであるから、当業者はその動機付けに従って、先行発明において、本件訂正発明の構成要件(H)「青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり」とする程度のことは、容易になし得るものであることは明らかである。また、予想される作用効果が格別であるとは到底認められない。
ウ したがって、本件訂正発明は、甲第1号証(特開2006-49799号公報)に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(3)無効理由3(進歩性なし)(審判請求書12頁、37頁~62頁、口頭審理陳述要領書18頁~21頁、平成26年8月25日付け上申書(第3回)2頁~20頁、平成27年1月7日付け上申書(第4回)4頁~18頁)
ア 甲第3号証に記載された発明と本件訂正発明とは、本件訂正発明の構成要件(H)「前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上である」、及び(I)「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する」点についてそれぞれ、甲第3号証に開示はなく、それらの点においては相違する他は、詳しく説明するまでもなく共通する(審判請求書59頁~60頁)。
イ 本件訂正発明の構成要件(H)について、甲第3号証に記載された発明におけるSr2Si4AlON7;Eu2+アルミノシリケート系の酸窒化物(赤色)の内部量子効率を特に80%以上にすることは,当業者が、甲第4号証~甲第6号証に記載の周知技術に基づいて容易に想到し得たことと認められる(審判請求書61頁)。
ウ 本件訂正発明の構成要件(I)については、本件訂正明細書の【0012】~【0013】の記載からして、例示の蛍光体に付属する光学特性を単に規定しただけであるから、格別のものではない(審判請求書60頁)。
エ また構成要件(I)について、甲第3号証の発光装置に使用される蛍光体の発光スペクトルと、反射スペクトルが、図4a、4bに記載されている。蛍光体の反射スペクトルは、蛍光体粒子に吸収されなかった光のスペクトルを表すものであり、蛍光体の励起スペクトルとは表裏一体の関係であり、反射スペクトルは励起スペクトルと概ね反比例の関係にあることは周知の事項である。図4bから、反射率の最小値は300~350nm付近に存在しており、励起スペクトルのピーク波長は350nm付近である事が推定され、450nmよりも短波長側にあるのは確実である。したがって、甲第3号証の発光装置において、450nmに発光ピークを有する青色LEDで蛍光体を励起した場合、蛍光体の励起スペクトルは、青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長側に励起ピークが存在することになることは明らかである(口頭審理陳述要領書20頁~21頁)。
オ 本件訂正発明は、甲第3号証~甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明できたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである(審判請求書62頁)。
カ 甲第3号証において「300~470nmの間に一次放射を示すLEDと、発光領域が490nm~510nmであるEu2+付活の酸窒化物からなる緑色蛍光体と、発光領域が625~640nmであるEu2+のニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体からなる白色発光装置。」が開示されていることは明白である(平成26年8月25日付け上申書(第3回)7頁)。
キ 甲第3号証には、少なくともニトリドアルミノシリケート系の蛍光体において、カチオンMに関し、「Sr」を「Ca」又は「Ba」に置換できることが開示されているから、訂正請求によって、「Sr2Si4AlON7:Eu2+」を除いたとしても、甲第3号証発明は、ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体としての「Ca2Si4AlON7:Eu2+」及び「Ba2Si4AlON7:Eu2+」を依然として開示するものであり、また、「600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する」ものが格別なものではないから、無効理由3は解消されていない(平成27年1月7日付け上申書(第4回)2頁~7頁)。
2 甲号証
請求人が提出した甲号証及び参考資料は、以下のとおりである。
甲第1号証 :特開2006-49799号公報
甲第2号証 :特願2004-363534号明細書及び図面
甲第3号証 :特開2003-206481号公報
甲第4号証の1:国際公開第2003/080763号
甲第4号証の2:特表2005-520916号公報(甲第4号証の1の訳
文として)
甲第5号証 :特開2003-277746号公報
甲第6号証 :特表2002-531955号公報
甲第7号証 :平成24年(行ケ)第10020号審決取消請求事件判決
参考資料 :平成17年(行ケ)第10042号大合議判決
(以上、審判請求書に添付して提出。)
甲第8号証の1:特開2008-16861号公報
甲第8号証の2:本件特許の出願経過における平成19年9月12日付け拒
絶理由通知
甲第8号証の3:本件特許の出願経過における平成19年10月30日付け
意見書
甲第8号証の4:本件特許の出願経過における平成19年10月30日付け
手続補正書
甲第8号証の5:本件特許の出願経過における平成19年12月21日付け
拒絶理由通知
甲第8号証の6:本件特許の出願経過における平成20年1月31日付け意
見書
甲第8号証の7:本件特許の出願経過における平成20年1月31日付け手
続補正書
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
甲第9号証 :米国特許第6,670,748号公報
甲第9号証の1:米国特許第6,670,748号公報の部分訳
(以上、平成26年7月10日付け上申書に添付して提出。)
甲第10号証 :窒化物蛍光体製造方法比較表
甲第10号証の1:Journal of Physics and Chemistry of Solids 61(2000
)2001-2006 “Luminescence in Eu2+-doped Ba2Si5N8:
fluorescence, thermoluminescence, and upconversion
”、及び抄訳
甲第10号証の2:Journal of Solid State Chemistry 165,19-24(2002)
“Luminescence Properties of Terbium-, Cerium-,
or Europium-Doped α-Sialon Materials”、及び抄訳
甲第10号証の3:Applied Physics Letters Volume 84,Number 26 5404-
5406,28 June 2004 “Eu2+-doped Ca-α-SiAlON: A
yellow phosphor for white light-emitting diodes”
、及び抄訳
甲第10号証の4:Electrochemical and Solid-State Letters, 9(4)
H22-H25 2006 “Luminescence Properties of a Red
Phosphor, CaAlSiN3:Eu2+, for White Light-Emitting
Diodes”、及び抄訳
甲第10号証の5:Chem. Eur. J.2009,15,5311-5319, “Sr5Al5+xSi21-x
N35-xO2+x:Eu2+ (x~0)―A Novel Green Phosphor for
White-Light pcLEDs with Disordered Intergrowth
Structure”、及び抄訳(当審注:タイトル中の記号
「~」は実際には二重波線である。)
甲第10号証の6:Chem. Mater. 2009,21,1595-1601 “SrAlSi4N7:Eu2+ -
A Nitridoalumosilicate Phosphor for Warm White
Light (pc)LEDs with Edge-Sharing Tetrahedra”、
及び抄訳
参考資料2 :「フリバンセリン事件」平成22年1月28日判決(平
成21年(行ケ)第10033号審決取消請求事件)
(以上、平成26年8月1日付け上申書(第2回)に添付して提出。)
甲第11号証:日亜化学工業株式会社「紫外線発光LED標準仕様書」
(以上、平成26年8月25日付け上申書(第3回)に添付して提出。)
甲第12号証 :特開2002-76434号公報
甲第13号証 :特開2003-124527号公報
甲第14号証の1:米国特許第5998925号公報
甲第14号証の2:米国特許第5998925号公報の抄訳
(以上、平成27年1月7日付け上申書(第4回)に添付して提出。)
甲第15号証 :平成27年(行ケ)第10097号審決取消請求事件における判決
甲第16号証 :三浦登氏見解書(訴訟における甲第38号証)
甲第17号証 :國本崇氏見解書(訴訟における甲第39号証)
甲第18号証 :被請求人による訴訟での第3準備書面
参考資料 :平成26年(行ケ)第10202号審決取消請求事件判決
(以上、平成28年5月30日付け上申書(第5回)に添付して提出。)
第6 被請求人の主張の概要及び証拠方法
1 無効理由
(1)無効理由1(サポート要件違反)について
ア サポート要件違反その1について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書2頁~12頁、口頭審理陳述要領書5頁~12頁、平成28年8月5日付け審判事件答弁書2頁~6頁)
(ア)a 本件訂正明細書には,実施形態2として,440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色発光素子と,青色発光素子が放つ光によって励起されて,Eu2+で付活され,かつ,600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体からなる赤色蛍光体と,青色発光素子が放つ光によって励起されて,Eu2+又はCe3+で付活され,かつ,500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体からなる緑色蛍光体とを含む白色発光装置であって,蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは,青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し,蛍光体層は,窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まないものが記載されており,高い光束を放つ発光装置を得るためには,蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で,青色発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は,内部量子効率(絶対値)が80%以上の蛍光体とすることが開示されている。
そうすると,蛍光体には当然赤色蛍光体が含まれるから,本件訂正明細書には,青色発光素子が放つ光励起下において赤色蛍光体の内部量子効率を80%以上とすることが開示されていることになり,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載されたものである。
b 仮に明示的な記載がなくても,当業者が技術常識に照らして,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項をも勘案できる。そして,本件訂正明細書の実施例3は,発光層として405nm付近に発光ピークを有する発光を放つ紫色LEDチップを用いているものであるが,製造条件の最適化により,SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体は,1.5倍以上の内部量子効率の改善が可能であることが記載されている。そうすると,請求人が,審判請求書17頁2行~6行において内部量子効率が約58~約76%と指摘する,実施形態2のSrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体についても,当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,同様に,製造条件の最適化により1.5倍以上の内部量子効果の改善が可能であることが記載されているのと同然であると理解する。すなわち,本件訂正明細書には,SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体は,約87%(=58%×1.5)以上の内部量子効率を得ることができることが示唆されている。
c 以上のとおり,本件訂正明細書には,青色発光素子が放つ光励起下において赤色蛍光体の内部量子効率を80%以上とすることが開示又は示唆されているから,本件訂正発明はサポート要件を満たすものである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書2頁~8頁)。
(イ)また、赤色蛍光体の内部量子効率を80%以上とすることは,個々の蛍光体の内部量子効率が80%以上であることが望ましい旨の記載や研究段階における赤色蛍光体の内部量子効率が今後の製造条件の最適化によって向上する旨の記載が存在する本件訂正明細書の記載から読み取ることのできることであるから,当業者が出願時の技術常識に照らして本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書11頁)。
(ウ)請求人は、判決の77頁の判示事項を摘示して主張しているが、「本件判決は,甲3に接した当業者が,甲3の記載事項を出発点として,甲3発明において,ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体の内部量子効率を80%以上とする構成に容易に想到することができたとはいえないと判示しているのである。そして,一般論として,本件出願の優先日前において,青色発光素子が放つ光励起下におけるニトリドシリケート系の窒化物蛍光体の内部量子効率が80%以上のものを製造できる可能性を技術常識に基づいて想定できることは否定していない。」
前判決が判示することからも、本件出願の明細書の発明の詳細な説明には、当業者が内部量子効率80%以上のニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するといえる(平成28年8月5日付け審判事件答弁書2頁~6頁)。
イ サポート要件違反その2について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書12頁~13頁)
本件訂正明細書には,実施例としては記載されていないものの,実施形態2として,高い光束を放つ発光装置を得るために,蛍光体層に含まれる蛍光体として,窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましいことが開示されている。そうすると,本件訂正明細書には,100℃~150℃の動作温度下及び周囲温度下においても,比較的高い内部量子効率を保持し,かつ,発光スペクトルの波長のピークが短波長側ヘシフトしないという本件訂正発明の課題を解決するために,蛍光体層が窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にすることが開示されている(平成26年4月7日付け審判事件答弁書13頁)。
ウ 平成28年8月5日付け審判事件答弁書(6頁~7頁)における主張
請求人は、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の具体例の数は無数に近いが、本件明細書及び図面には、赤色蛍光体として、「SrAlSiN3:Eu2+」が開示されており、内部量子効率が60%であることが開示されているだけだから、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明ではないと主張しているが、「前記のように,本件出願の明細書の発明の詳細な説明には,当業者が内部量子効率80%以上のニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体を製造することができる程度の開示が存在するといえるのであり,請求人の主張は誤りである。」
(2)無効理由2(分割違法による進歩性なし)について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書13頁~14頁)
本件訂正発明が,本件訂正明細書に開示又は示唆され,サポート要件を満たすことは前記(1)のとおりである。
本件訂正発明は,本件訂正明細書と同様,原出願の出願当初の明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであって,原出願についての分割の要件を満たしているから,その出願日は原出願の出願日である平成16年12月15日である。
なお,本件特許出願では,出願日(遡及日)を平成16年12月15日として特許査定をしている(乙第3号証)経緯からみても,本件訂正発明が分割要件を満たしていることは明らかである。
以上のとおりであるから,分割違法により進歩性がないとする請求人の主張は,その前提において誤りである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書13頁~14頁)。
(3)無効理由3(進歩性なし)について(平成26年4月7日付け審判事件答弁書14頁~22頁、平成26年8月1日付け上申書2頁~8頁、平成26年11月28日付け上申書2頁~22頁、平成27年2月20日付け審判事件答弁書2頁~10頁)
ア 一致点及び相違点の認定について
(ア)審判請求書における甲第3号証に記載された発明の認定は,一つの発明として認定できるか否かを判断することなく,単に甲第3号証における記載を,その記載箇所とともに羅列しただけのものであり,各構成間の関係を明示したものではない(平成26年4月7日付け審判事件答弁書15頁)。
(イ)すなわち,白色LEDとして具体的に開示されているのは,360nmのピーク発光を示すInGaN-チップと,サイアロンSiAl2O3N2:Ce3+(4%)の青色蛍光体と,SrSiAl2O3N2:Eu2+(4%)の緑色蛍光体と,Sr2Si5N8:Euの赤色蛍光体を使用したもののみである。
表3に3種の蛍光体が,表4に7種の蛍光体が示されているが,これらをどのように組み合わせて使用するかの記載はなく,ピーク発光波長400nm及び360nmを有する発光素子の記載しかないから,これらの蛍光体は,紫色又はUV発光素子とともに用いられる,青色,緑色及び赤色の蛍光体と解するのが相当である(平成26年4月7日付け審判事件答弁書16頁~17頁)。
(ウ)以上のことから,少なくとも,請求人が甲第3号証に記載された発明の認定の(D)において,赤色蛍光体を,【表4】に示されている,625~640nmの赤色を発光するSr2Si4AlON7:Eu2+ニトリドシリケート系の酸窒化物(赤色)蛍光体と認定したのは誤りである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書18頁)。
(エ)また、本件訂正発明の構成要件(I)「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは,前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する」も甲第3号証に記載された発明と本件訂正発明との実質的な相違点である(平成26年4月7日付け審判事件答弁書19頁~20頁)。
イ 相違点(内部量子効率が80%以上である赤色蛍光体を採用すること)について
(ア)甲第4号証~甲第6号証に記載の周知技術とはいかなる技術であるのか不明といわざるを得ない(平成26年4月7日付け審判事件答弁書21頁)。
(イ)甲第3号証に記載された発明の赤色蛍光体として請求人が認定しているのはSr2Si4AlON7;Eu2+である(これが誤りであることは既に示した。)から,甲第3号証に記載された発明に,甲第4号証~甲第6号証に基づいた技術を適用する動機付けは存在しない。
以上のとおりであるから,甲第3号証~甲第6号証に記載された発明に基づく進歩性についての請求人の主張は当を得ないものである(平成26年4月7日付け審判事件答弁書21頁)。
ウ 平成26年8月1日付け上申書における主張
(ア)請求人が認定した甲第3号証に記載された発明の構成として、構成要件(D)の赤色蛍光体の発光ピークや構成要件(E)の緑色蛍光体の発光ピーク、構成要件(F)「前記発光素子は,440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子である。」が記載されているとはいえない(平成26年8月1日付け上申書2頁~3頁)。
(イ)表4に記載された蛍光体を,青色LEDを備えた白色LEDと結びつける根拠はない(平成26年8月1日付け上申書4頁)。
(ウ)甲第3号証に記載された発明の赤色蛍光体としてSr2Si4AlON7;Eu2+を認定することはできない。また赤色蛍光体の量子効率QEについての記載はない(平成26年8月1日付け上申書7頁)。
(エ)構成要件(I)に関し,本件特許出願当時,蛍光体の励起ピークを青色発光素子の放つ光の波長に合わせることで光束を高くすることが技術常識であった。これに対し,本件訂正発明では,蛍光体の励起ピークが青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域にずれていたとしても,蛍光体の内部量子効率が高ければ,高い光束の蛍光体として使用できることを見出したのである。したがって,本件訂正発明の知見を有していない公知技術では,蛍光体の励起ピークが青色発光素子の放つ光の波長より、短波長域に励起ピークを有する蛍光体を,青色発光素子を備えた白色発光装置の蛍光体として採用することはなかったのである。また,ニトリドシリケートについては甲第4号証及び甲第5号証により,青色LEDでも発光効率や量子効率がよいことが知られており,使用されていたが,ニトリドアルミノシリケートは,甲第3号証には,段落【0067】に43%,表3に量子効率が29及び51%と,極めて低いことが記載されているように,量子効率は低いと認識されていたので,紫外領域の励起光を使用することが通常であり,青色領域の励起光を使用することは考えられなかったのである(平成26年8月1日付け上申書5頁~7頁)。
上記(ア)~(エ)等から、請求人の主張は理由がなく,本件訂正発明は,甲第3号証~甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 平成26年11月28日付け上申書における主張
(ア)甲第3号証に記載された発明の赤に発光するニトリド含有蛍光体として、「組成がSr2Si4AlON7:Eu2+で発光領域が625~640nmの蛍光体」を採用しても、本件訂正発明の発明特定事項とはならないから、容易とはいえない(平成26年11月28日付け上申書2頁~3頁)。
(イ)認定された甲第3号証に記載された発明は、甲第3号証の種々の箇所に記載された事項を羅列したものであり、甲第3号証に記載されている事項から把握できる発明の認定として誤っている(平成26年11月28日付け上申書3頁~5頁)。
(ウ)甲第3号証の請求項1の照明ユニットは、甲第3号証の明細書に実施可能に記載されておらず、「引用発明」と認定することはできない(平成26年11月28日付け上申書5頁~6頁)。
(エ)甲第3号証の段落【0057】の記載は極めて不明瞭であって、かかる記載から何らかの技術的事項を認定することは妥当ではない(平成26年11月28日付け上申書6頁~8頁)。
(オ)甲第3号証の表3及び表4に示されている蛍光体については、ピーク発光波長400nm以下の光源と組み合わせることしか開示されていないのであって、青色発光LEDと組み合わせることはできない(平成26年11月28日付け上申書8頁~9頁)。
(カ)認定された甲第3号証に記載された発明において、一方では、「この蛍光体は次の種類:構造…のニトリド、…のオキシニトリド、…のサイアロンから由来する」と、蛍光体は特定のものから由来すると限定しているにもかかわらず、他方では、「白色光を達成するために用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料の中で…蛍光体であり」と、他の蛍光体を使用してもよいことを規定しており、さらなる他方では、上記一方で特定された蛍光体以外の蛍光体が選択肢となることを規定しており、相互の構成が矛盾したものである(平成26年11月28日付け上申書10頁)。
(キ)本件訂正発明は、近紫外又は紫色領域に発光ピークを有する光源にしか使用できないと考えられていた蛍光体を、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する青色発光素子と組み合わせることを可能とし、青色発光素子と組み合わせる蛍光体の選択肢を広げるという作用効果を奏する(平成26年11月28日付け上申書10頁~19頁)。
(ク)甲第3号証には、青色発光素子と請求項1あるいは表3及び表4に示された蛍光体とを組み合わせた照明ユニットは開示されていないから、仮に、内部量子効率に着目し得たとしても、360nmないし400nmの領域における内部量子効率を高めることに想到できるにすぎず、青色発光領域の内部量子効率を高めることには想到できない(平成26年11月28日付け上申書20頁~21頁)。
(ケ)本件訂正発明の「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは,前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することの技術的意義は、Eu2+又はCe3+で付活された蛍光体は、青色領域における内部量子効率が高いことを見出したことと合わせて、高い光束と高い演色性とを両立する白色光を得るために青色発光素子と組み合わせる蛍光体として、「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する」蛍光体を選択可能としたことにあるから、本件訂正発明は、作用効果を含めて、相違点1ないし相違点6を総合的に判断すれば、当業者が容易に想到し得るものではない(平成26年11月28日付け上申書21頁~22頁)。
オ 平成27年2月20日付け審判事件答弁書における主張
(ア)甲第3号証には、ニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体としては「Sr2Si4AlON7:Eu2+」しか開示されていないのであるから、訂正請求によって、「Sr2Si4AlON7:Eu2+」を除いたという事実のみで、無効理由3は解消されている(平成27年2月20日付け審判事件答弁書2頁~4頁)。
(イ)甲第3号証にニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体が掲載されているとしても、そのことは甲第3号証に本件訂正発明の「Eu2+で付活されたニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体や、Eu2+又はCe3+で付活された窒化物系の緑色蛍光体は、内部量子効率は高いので、青色発光素子と組み合わせて、高い光束と高い演色性とを両立する白色光を得ることができる」との技術的意義が開示されていることにはならない(平成27年2月20日付け審判事件答弁書7頁~8頁)。
(ウ)内部量子効率に着目し、青色発光素子と組み合わせる蛍光体として、「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有する特定の蛍光体群」を選択可能とした本件訂正発明の知見は新規であり、本件訂正発明は進歩性を有する(平成27年2月20日付け審判事件答弁書8頁~10頁)。
2 乙号証
被請求人が提出した乙号証及び参考資料は、以下のとおりである。
乙第1号証 :本件特許の出願経過における平成19年9月12日付け拒絶
理由通知
乙第2号証 :本件特許の出願経過における平成19年10月30日付け手
続補正書
乙第3号証 :本件特許の出願経過における特許査定
乙第4号証 :甲第3号証の出願経過における平成19年12月20日付け
拒絶理由通知
乙第5号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年3月19日付け手
続補正書
乙第6号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年4月8日付け拒絶
査定
乙第7号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年7月1日付け手続
補正書
乙第8号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年9月4日付け拒絶
理由通知
乙第9号証 :甲第3号証の出願経過における平成20年9月19日付け手
続補正書
乙第10号証:甲第3号証の出願経過における平成20年10月9日付け特
許査定
(以上、平成26年4月7日付け審判事件答弁書に添付して提出。)
乙第11号証:國本崇准教授の見解書(前判決における甲第12号証
乙第12号証:「蛍光体ハンドブック」(昭和62年12月25日),オー
ム社,p.50-59,64-69,74-79,166-175(前判決における甲第
13号証)
乙第13号証:三浦登准教授の見解書(前判決における甲第14号証)
乙第14号証:特許第4659741号公報(前判決における甲第15号証)
乙第15号証:固体物理,vol.35 No.6(2000)p.401-409「窒化物および酸窒
化物蛍光体の合成と光学特性」(前判決における甲第16号
証)
乙第16号証:第53回応用物理学関係連合会講演会 講演予稿集,(2006)
p1557「25p-ZR-11 サイアロン蛍光体の量子効率」(前判決
における甲第18号証)
乙第17号証:Science and Technology of Advanced Materials 8(2007)
p.588-600,“Silicon-based oxynitride and nitride
Phosphors for white LEDs-A review”、及び抄訳
乙第18号証:physica status solidi(a),203,No.11,(2006)p.2712-2717,
“Host lattice materials in the system Ca3N2-AlN-Si3N4
for white light emitting diode”、及び抄訳
(以上、口頭審理陳述要領書に添付して提出。)
乙第19号証:被請求人の技術説明資料
(以上、平成26年7月18日付け上申書に添付して提出。)
乙第20号証:第298回蛍光体同学会講演予稿,(2003.6.20)p.1-4「α-
サイアロン蛍光体 白色LED用新規酸窒化物蛍光体」
乙第21号証:特開2006-49799号公報
乙第22号証:小林洋志著「発光の物理」(2012.6.25)朝倉書店p.46-66
乙第23号証:Journal of the American Ceramic Society, 88[10](2005)
p.2883-2888 “Photoluminescence of Rare-Earth-Doped
Ca-α-SiAlON Phosphors: Composition and Concentration
Dependence”、及び抄訳
乙第24号証:APPLIED PHYSICS LETTERS 91,041908(2007)P.1-3 “Self-
propagating high temperature synthesis of yellow-
emitting Ba2Si5N8:Eu2+ phosphors for white light-
emitting diodes”、及び抄訳
(以上、平成26年8月1日付け上申書に添付して提出。)
乙第25号証:シャープ技報第91号・2005年4月,p.50-53
「InGaN系発光素子励起Smドープ赤色蛍光体」
(以上、平成26年11月28日付け上申書に添付して提出。)
乙第26号証:「明細書、特許請求の範囲又は図面の補正(新規事項)」
の審査基準の改訂について
(以上、平成27年2月20日付け審判事件答弁書に添付して提出。)
第7 当審の判断
1 無効理由1(サポート要件違反)について
上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」「1 無効理由」「(1)無効理由1(サポート要件違反)」の「ア サポート要件違反その1」、「イ サポート要件違反その2」、及び「ウ 平成28年5月30日付け上申書(第5回)における主張」について、まとめて検討する。
(1)本件訂正発明の構成要件(H)及び(J)に関し、本件訂正明細書又は図面には、以下の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した発光素子と蛍光体とを備えた発光装置には、高い光束と高い演色性とを両立させるものが少ないのが現状である。一方、発光装置に求められる要求は年々多様化しており、特に暖色系の白色光を放つ発光装置の開発が期待されている。
【0009】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、前記出力光が、白色光であり、前記赤色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)であり、前記緑色蛍光体は、前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+又はCe3+で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であり、前記発光素子は、440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子であり、前記蛍光体層に含まれる蛍光体はEu2+又はCe3+で付活された蛍光体のみを含み、前記青色発光素子が放つ光励起下において前記赤色蛍光体は、内部量子効率が80%以上であり、前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有し、前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない発光装置を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
Eu2+で付活された蛍光体の特性を詳細に調べたところ、以下(1)~(3)に示す蛍光体は、波長360nm以上420nm未満の近紫外~紫色領域に発光ピークを有する紫色発光素子の励起下における内部量子効率だけでなく、波長420nm以上500nm未満、特に、波長440nm以上500nm未満の青色領域に発光ピークを有する青色発光素子の励起下における内部量子効率も高く、良好なものは、その内部量子効率が90%~100%であることが見出された。
(1) Eu2+で付活され、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系、アルミン酸塩系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の緑色蛍光体、例えば、(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+、SrGa2S4:Eu2+、SrAl2O4:Eu2+、BaSiN2:Eu2+、Sr1.5Al3Si9N16:Eu2+等の蛍光体。
(2) Eu2+で付活され、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の黄色蛍光体、例えば、(Sr,Ba)2SiO4:Eu2+、CaGa2S4:Eu2+、0.75(Ca0.9Eu0.1)O・2.25AlN・3.25Si3N4:Eu2+、Ca1.5Al3Si9N16:Eu2+、(Sr,Ca)2SiO4:Eu2+、CaSiAl2O3N2:Eu2+、CaSi6AlON9:Eu2+等の蛍光体。
(3) Eu2+で付活され、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、ニトリドアルミノシリケート系等)の赤色蛍光体、例えば、Sr2Si5N8:Eu2+、SrSiN2:Eu2+、SrAlSiN3:Eu2+、CaAlSiN3:Eu2+、Sr2Si4AlON7:Eu2+等の蛍光体。
【0013】
これらの蛍光体の励起スペクトルは、上記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に、多くは波長360nm以上420nm未満の近紫外~紫色領域に励起ピークを有するため、上記青色発光素子の励起下における外部量子効率は必ずしも高くない。しかし内部量子効率は、励起スペクトルから予想される以上に高い70%以上、特に良好な場合は90%~100%であることがわかった。
【0014】
一例として、図12に、SrSiN2:Eu2+赤色蛍光体の内部量子効率16、外部量子効率17及び励起スペクトル18を示し、また、参考のため、蛍光体の発光スペクトル19も示した。また、図13~図18には、SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体(図13)、Sr2Si5N8:Eu2+赤色蛍光体(図14)、(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+緑色蛍光体(図15)、(Sr,Ba)2SiO4:Eu2+黄色蛍光体(図16)、(Sr,Ca)2SiO4:Eu2+黄色蛍光体(図17)、0.75(Ca0.9Eu0.1)O・2.25AlN・3.25Si3N4:Eu2+黄色蛍光体(図18)について、図12と同様に示した。例えば、図16に示した、Eu2+で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体である(Sr,Ba)2SiO4:Eu2+黄色蛍光体の外部量子効率は、波長440nmの青色発光素子の励起下において約75%、波長460nmにおいて約67%、波長470nmにおいて約60%である。しかし内部量子効率は、波長440nm以上500nm未満の青色領域において、いずれも励起スペクトルから予想される以上に高い85%以上であり、特に良好な場合は約94%であることがわかった。」
イ 「【0029】
(実施形態1)
本発明の発光装置の一例は、窒化物蛍光体を含む蛍光体層と発光素子とを備え、上記発光素子は、360nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有し、上記窒化物蛍光体は、上記発光素子が放つ光によって励起されて発光し、上記窒化物蛍光体が放つ発光成分を出力光として少なくとも含む発光装置である。また、上記窒化物蛍光体は、Eu2+で付活され、かつ、組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される蛍光体であり、上記Mは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、上記xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。
【0030】
上記発光素子は、電気エネルギーを光に換える光電変換素子であり、360nm以上420nm未満又は420nm以上500nm未満、より好ましくは380nm以上420nm未満又は440nm以上500nm未満のいずれかの波長領域に発光ピークを有する光を放つものであれば特に限定されず、例えば、発光ダイオード(LED)、レーザーダイオード(LD)、面発光LD、無機エレクトロルミネッセンス(EL)素子、有機EL素子等を用いることができる。
【0031】
なお、発光素子として、GaN系化合物を発光層としたLEDやLDを用いる場合には、高い出力が得られる理由で、好ましくは380nm以上420nm未満、より好ましくは395nm以上415nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ紫色発光素子、又は、好ましくは440nm以上500nm未満、より好ましくは450nm以上480nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子にするとよい。
【0032】
上記出力光は、上記発光素子が放つ発光成分を含むことが好ましい。特に、上記発光素子が、青色系領域に発光ピークを有する発光素子である場合、上記窒化物蛍光体が放つ発光成分と、上記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含めば、より高い演色性を有する白色光が得られ、より好ましい。
【0033】
上記窒化物蛍光体は、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する暖色系光、好ましくは610nm以上650nm以下の波長領域に発光ピークを有する赤色系光を放つ上記組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される窒化物蛍光体であり、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い窒化物蛍光体、例えば、図13に示したSrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体やCaAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体等に該当する。」
ウ 「【0039】
(実施形態2)
本発明の発光装置の他の一例としては、上述した実施形態1の蛍光体層に、Eu2+又はCe3+で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体を、さらに含む構成にしてもよい。上記緑色蛍光体は、実施形態1で説明した発光素子が放つ光によって励起されて、500nm以上560nm未満の波長領域に、好ましくは510nm以上550nm以下の波長領域、より好ましくは525nm以上550nm以下の波長領域に発光ピークを有する光を放つ蛍光体であれば、特に限定されない。
【0040】
例えば、青色発光素子を用いる場合、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm以上500nm未満の波長領域にない緑色蛍光体、すなわち、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm未満の波長領域にある緑色蛍光体であっても構わない。
【0041】
上記緑色蛍光体は、上述した360nm以上500nm未満の波長領域の励起光下における内部量子効率が高い蛍光体、例えば、図15に示した(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+緑色蛍光体等に該当する。この蛍光体を少なくとも含む蛍光体層と、上記発光素子とを少なくとも備えた発光装置は、光エネルギーを効率よく出力するので好ましい。この発光装置は、出力光に含まれる緑色系の発光強度が強くなり、演色性が向上する。また、緑色系光は視感度が高く、光束はより高くなる。特に、蛍光体層に含まれる蛍光体の組み合わせによっては、平均演色評価数(Ra)が90以上の、高い演色性をもつ出力光を得ることが可能である。
【0042】
上記緑色蛍光体を、Eu2+で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えばBaSiN2:Eu2+、Sr1.5Al3Si9N16:Eu2+、Ca1.5Al3Si9N16:Eu2+、CaSiAl2O3N2:Eu2+、SrSiAl2O3N2:Eu2+、CaSi2O2N2:Eu2+、SrSi2O2N2:Eu2+、BaSi2O2N2:Eu2+等、Eu2+で付活されたアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体、例えば(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+、(Ba,Ca)2SiO4:Eu2+等、Eu2+で付活されたチオガレート蛍光体、例えばSrGa2S4:Eu2+等、Eu2+で付活されたアルミン酸塩蛍光体、例えばSrAl2O4:Eu2+等、Eu2+とMn2+で共付活されたアルミン酸塩蛍光体、例えばBaMgAl10O17:Eu2+,Mn2+等、Ce3+で付活された窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体、例えば、Sr2Si5N8:Ce3+、Ca1.5Al3Si9N16:Ce3+、Ca2Si5N8:Ce3+等、及び、Ce3+で付活されたガーネット構造を有する蛍光体、例えばY3(Al,Ga)5O12:Ce3+、Y3Al5O12:Ce3+、BaY2SiAl4O12:Ce3+、Ca3Sc2Si3O12:Ce3+等にすると、上記発光素子の励起下における内部量子効率が高くなり、さらに好ましい。
【0043】
従って、本実施形態の発光装置は、実施形態1の窒化物蛍光体と上記緑色蛍光体とを少なくとも含む蛍光体層と、実施形態1の発光素子とを備え、上記窒化物蛍光体が放つ赤色系の発光成分と上記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分とを出力光に含む発光装置である。」
エ 【0052】
実施形態1~4において、上記蛍光体層に含まれる蛍光体は、高い光束を得るために、Eu2+又はCe3+で付活された蛍光体以外の蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましく、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましい。上記蛍光体を、Eu2+又はCe3+で付活された蛍光体以外の蛍光体を実質的に含まない構成にするとは、蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、Eu2+又はCe3+で付活された蛍光体であることを意味する。また、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするとは、蛍光体層に含まれる蛍光体の90重量%以上、好ましくは95重量%以上、より好ましくは98重量%以上の蛍光体が、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体であることを意味する。上記窒化物蛍光体及び酸窒化物蛍光体は、100℃~150℃の動作温度下及び周囲温度下においても、比較的高い内部量子効率を保持し、かつ、発光スペクトルの波長のピークが、例えば前述のアルカリ土類金属オルト珪酸塩蛍光体又はガーネット構造を有する蛍光体のように短波長側へシフトしない。そのため、上述の構成をした発光装置は、投入電力を増やして励起光強度を強めても、あるいは高温雰囲気下で使用しても、発光色変動が少なく、安定した出力光が得られ好ましい。
【0053】
なお、高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は、内部量子効率(絶対値)が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の蛍光体とする。」
オ 「【実施例3】
【0124】
本実施例では、実施例1又は2で説明した青色LEDチップ26の代わりに、GaInNを発光層として405nm付近に発光ピークを有する発光を放つ紫色LEDチップを導通搭載して、図24及び図25に示すカード型の照明モジュール光源を作製し、発光特性を評価した。本実施例の出力光は、少なくとも、上記紫色LEDチップが放つ光によって励起されて発光した、蛍光体層3に含まれる蛍光体が放つ光を主体にしてなる混色光である。さらに、この出力光は、蛍光体の種類と量を適宜選択することにより、任意の白色光を得られた。
【0125】
以下、本実施例の蛍光体層3について詳説する。
【0126】
蛍光体層3は、蛍光体を添加したエポキシ樹脂を乾固して形成した。本実施例では、蛍光体として、波長625nm付近に発光ピークを有するSrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体(中心粒径:2.2μm、最大内部量子効率:60%、405nm励起下での内部量子効率:約60%)と、波長535nm付近に発光ピークを有する(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+緑色蛍光体(中心粒径:15.2μm、最大内部量子効率:97%、405nm励起下での内部量子効率:約97%)と、波長450nm付近に発光ピークを有するBaMgAl10O17:Eu2+青色蛍光体(中心粒径:8.5μm、最大内部量子効率:約100%、405nm励起下での内部量子効率:約100%)の3種類を用い、エポキシ樹脂には、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂(主材)と、脂環式酸無水物を主成分とするエポキシ樹脂(硬化材)の二液混合型のエポキシ樹脂を用いた。なお、上記SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体は、製造条件が未だ最適化されていないために、内部量子効率は低いが、今後製造条件の最適化によって、1.5倍以上の内部量子効率の改善が可能である。SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体と(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+緑色蛍光体とBaMgAl10O17:Eu2+青色蛍光体は、重量割合、約6:11:30で混合し、この混合蛍光体とエポキシ樹脂とは重量割合、約1:3(蛍光体濃度=25重量%)で混合した。」
カ 「【0139】
以下、実施例3及び比較例2で用いた各蛍光体について、製造条件が十分最適化され、最大内部量子効率が100%の蛍光体が得られたと仮定し、この理想的な蛍光体を用いた場合の光束をシミュレーション評価した結果を示す。本シミュレーションでは、図13、図15、図20及び図23から、各蛍光体の405nm励起下における内部量子効率を下記表3に示すように見積もり評価した。」
キ 表3、図13及び図14は、以下のとおりである。
(2)ア 両当事者の主張によれば、発明の詳細な説明における本件訂正発明に対応する記載は、実施の形態2である(請求書16頁、口頭審理陳述要領書(請求人)5頁及び平成26年4月7日付け審判事件答弁書6頁)と解されるので、以下、発明の詳細な説明の実施の形態2に関する記載箇所に、本件訂正発明の構成要件(H)、(J)が記載されているか否か検討する。
イ 上記(1)イないしウの記載によれば、本件訂正明細書には、実施形態2として、赤色系光を放つ組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される窒化物蛍光体と緑色蛍光体を含む蛍光体層を有し、その緑色蛍光体として窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を選択できる発光装置が記載されている。
当該実施形態2において、緑色蛍光体として窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体を選択したものは、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」ものと理解できることは明らかである。また、上記(1)エの「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない構成にするのが好ましい」との記載から、本件訂正明細書又は図面には、好ましいものとして蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成の発明が記載されているものと認められる。
ウ また、上記(1)エの、「実施形態1~4において」「高い光束を放つ発光装置を得るためには、蛍光体層に実質的に含まれる蛍光体の中で、発光素子が放つ光励起下において最も内部量子効率が低い蛍光体は、内部量子効率(絶対値)が、80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上の蛍光体とする。」との記載から、本件訂正明細書又は図面には、実施形態2として、高い光束を放つ発光装置を得るために、内部量子効率が80%以上の、赤色系光を放つ組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される窒化物蛍光体を含む蛍光体層を備えた発明が、当業者が技術的に理解しうる程度に記載されているものと認められる。
エ そして、該発明は、赤色蛍光体として、内部量子効率が「80%以上」と高効率のものを用いることにより、上記(1)アの【0009】に記載の「高い光束と高い演色性とを両立する発光装置、特に、暖色系の白色光を放つ発光装置を提供」するという課題を解決できるものである。
オ そうすると、実施形態2には、該発明の課題を解決するものとして、蛍光体層が含む赤色蛍光体が、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)」で、「内部量子効率が80%以上」であり、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成の発明が記載されている。
よって、発明の詳細な説明の実施の形態2に関する箇所には、本件訂正発明の構成要件(H)及び(J)が記載されているといえる。
(3)ア 請求人は、本件訂正明細書には、「製造条件の最適化によって赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とすることができる」可能性に関する記載があるだけであり、「赤色蛍光体の内部量子効率が80%以上とする」技術事項の開示はない旨などを主張する(上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」の上記1(1)のア(イ)c、(ウ)、ウを参照。)ので、以下において検討する。
イ 赤色蛍光体の「内部量子効率が80%以上」とすることは、上記(2)オのとおり記載されているものであり、また、
(ア)乙第11号証及び乙第13号証によれば、複数の専門家が、「Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体」は、本件特許の優先日(平成16年4月27日、6月21日、6月30日)における当業者の技術常識に照らせば、明細書の開示内容から内部量子効率が80%以上のものを製造できる可能性を否定していないこと、
(イ)甲第5号証の実施例4(【0046】~【0047】)、実施例9(【0061】~【0062】)には、「ニトリドアルミノシリケート系」ではないものの、量子効率が84.6%のCa1.97Si5N8:Eu0.03蛍光体と、86.7%のSr1.4Ca0.6Si5N8:Eu蛍光体が記載されており、「ニトリドシリケート蛍光体」で量子効率80%以上の蛍光体を実現していること、
に鑑みれば、本件特許の優先日時点に「Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する」「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体」で「内部量子効率が80%以上」のものが(理論的ないし経験的に)実現できないともいえないので当該主張は失当である。本件特許の優先日における上記技術常識を踏まえれば、技術的に記載されていないとすることはできない。
(ウ)さらに、本件特許の優先日後の2006年3月22日に頒布された刊行物である乙第16号証には、「NIMSでは白色LED用の蛍光体として、…、CaAlSiN3:Eu赤色蛍光体(2)、…等の酸窒化物結晶をホストとする蛍光体を開発した。本研究では、これらの蛍光体の量子効率測定の結果を報告する。」との記載があり、「Table Quantum efficiency of phosphore」と題する表には、CaAlSiN3:Euの内部量子効率として、測定波長が450nmで0.87、405nmで0.88であることが記載されている。なお、参考文献(2)は、「広崎他,第65回応用物理学会予稿集:No3,p1238,2p-ZL-12(2004)」である。
乙第16号証の以上の記載によれば、(2004年の応用物理学会で発表したものと同じ蛍光体なのか、あるいは、製造条件を最適化して効率を改善したものなのかは、不明であるが、)CaAlSiN3:Eu赤色蛍光体は、実際に80%以上の内部量子効率が得られていることが理解できる。当該蛍光体は、本件訂正明細書で「製造条件の最適化によって、1.5倍以上の内部量子効率の改善が可能である」としている「SrAlSiN3:Eu2+赤色蛍光体」とは組成が異なるものの、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)」であるから、上記(2)ウでの、「実施形態2として、高い光束を放つ発光装置を得るために、内部量子効率が80%以上の、赤色系光を放つ組成式(M1-xEux)AlSiN3で表される窒化物蛍光体を含む蛍光体層を備えた発明が、当業者が技術的に理解しうる程度に記載されているものと認められる。」との判断と矛盾するものではない。
ウ 請求人は、上申書(第5回)において、本件訂正発明に関しては、発明の詳細な説明において、内部量子効率が60%である「SrAlSiN3:Eu2+」が唯一開示されているのみであって、判決77頁の判事事項の技術常識が存在していたとしても、唯一実施例に示された「SrAlSiN3:Eu2+」以外の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」について、「蛍光体の内部量子効率を高めることについても、自ずと限界があること」を踏まえると、何故、「内部量子効率を80%以上とする構成」とするのか、発明の詳細な説明の記載及び技術常識から明らかでない旨を主張する(上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」の上記1(1)ア(ウ)を参照。)。
しかしながら、判決は、一般論として、本件出願の優先日前において、青色発光素子が放つ光励起下におけるニトリドシリケート系の窒化物蛍光体の内部量子効率が80%以上のものを製造できる可能性を技術常識に基づいて想定できることは否定していない。
エ 請求人は、上申書(第5回)において、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の具体例の数は万を優に超え無数に近いが、本件訂正明細書及び図面には、赤色蛍光体として、「SrAlSiN3:Eu2+」が開示されており、内部量子効率が60%であることが開示されているだけであり、他の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」については、内部量子効率について開示がない旨主張するとともに、さらに、「特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく、あるいはその記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもない」と主張する(上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」の上記1(1)ウを参照。)。
しかしながら、請求人は、本件特許の優先日の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないことの具体的な根拠を説明しておらず、発明の詳細な説明に、「SrAlSiN3:Eu2+」の他の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、「オクソニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」、及び「サイアロン系の窒化物蛍光体」について、内部量子効率の開示がないとの主張によって、サポート要件を満たしていないということはできない。
(4)したがって、本件訂正明細書又は図面は、本件訂正発明の課題を解決するものとして、赤色蛍光体が、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)」で、「内部量子効率が80%以上」であり、蛍光体層が「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」構成の発明が記載されていると認識できるものであり、請求人が主張する無効理由1(サポート要件違反)の上記サポート要件違反その1、その2は、理由がない。
(5)小括
以上のことから、上記サポート要件違反その1、その2により、本件特許が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとすることはできない。
2 無効理由2(分割違法による進歩性なし)について
上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法 1 無効理由 (2)無効理由2(分割違法による進歩性なし)」について検討する。
(1)分割要件(特許法第44条第1項柱書きの要件)について
本件訂正発明が、原出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に包含された発明であるか否かについて検討する。
上記1(1)及び(2)で検討したとおり、本件訂正発明は、本件訂正明細書又は図面に記載された発明である。そして、原出願の願書に最初に添付した明細書の【0001】ないし【0008】、【0013】ないし【0161】及び図面の記載は、本件訂正明細書の【0001】ないし【0009】、【0012】ないし【0160】及び図面の記載と実質的に同一である。そうすると、これらの記載からみて、本件訂正発明は、原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明であることは明らかである。
したがって、本件訂正発明は、原出願に包含された発明の一部であり、本件出願は、特許法第44条第1項の規定に基づき原出願の一部を新たな出願としたものと認められる。
よって、本件出願は、原出願の適法な分割出願と認められる。
(2)分割違法による進歩性なしについて
上記(1)のとおり、本件出願は、原出願の適法な分割出願と認められるから、本件出願は原出願の時(平成16年12月15日)にしたものとみなされる。したがって、平成18年2月16日に頒布された原出願の公開公報(甲第1号証)は、特許法第29条第1項第3号でいう、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物にはあたらない。
したがって、本件訂正発明は、本件特許の出願前に当業者が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるということはできない。
以上のことから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないから、請求人が主張する無効理由2(分割違法による進歩性なし)は、理由がない。
3 無効理由3(進歩性なし)について
上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法 1 無効理由 (3)無効理由3(進歩性なし)」について検討する。
(1)甲第3号証の記載事項
本願の最先の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
ア 「【請求項1】 光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットであって、このLEDは300~570nmの範囲内で一次放射を発し、この放射はLEDの一次放射にさらされる蛍光体によって部分的に又は完全により長波長の放射に変換され、前記の蛍光体の構造はニトリド又はその誘導体に基づく形式のものにおいて、前記の変換は少なくとも1種の蛍光体を用いて行われ、この蛍光体はカチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430~670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu2+又はCe3+により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi3N5、M2Si4N7、M4Si6N11及びM9Si11N23のニトリド、構造M16Si15O6N32のオキシニトリド、構造MSiAl2O3N2、M13Si18Al12O18N36、MSi5Al2ON9及びM3Si5AlON10のサイアロンから由来することを特徴とする、光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニット。
【請求項2】 ドーパントの割合がカチオンの0.5~15mol%である、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項3】 Ce3+でドーピングする場合に、付加的ドーパント、つまりPr3+及び/又はTb3+を使用し、この割合はCe3+の割合の高くても30mol%である、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項4】 Eu2+でドーピングする場合に、付加的ドーパント、つまりMn2+を使用し、この割合はEu2+の割合の高くても4倍である、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項5】 蛍光体中のそれぞれのEu2+イオンは少なくとも2つ又はそれ以上のニトリド-リガンドにより配位されている、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項6】 特に白色に発光する照明ユニットを実現するために、複数のニトリド含有蛍光体を一緒に、特に複数のニトリド含有蛍光体だけを使用する、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項7】 本発明による蛍光体はシリコーン樹脂内に分散されているか又はLED上に直接塗布されている、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項8】 LEDはニトリドベースの半導体デバイスである、請求項1記載の照明ユニット。
【請求項9】 白色光を発生させるために一次発光された放射が360~420nmの波長領域にあり、この一次発光された放射は、変換のために青(430~470nm)、緑(495~540nm)及び赤(特に540~620nm)に最大発光を示す少なくとも3種の蛍光体にさらされる、請求項6記載の照明ユニット。
【請求項10】 白色光を発生させるために一次発光された放射が420~480nmの波長領域にあり、この一次発光された放射は、変換のために緑(495~540nm)及び赤(特に540~620nm)に最大発光を示す少なくとも2種の蛍光体にさらされる、請求項6記載の照明ユニット。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は光源として請求項1の上位概念に記載された少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットに関する。特に、UV又は青色に一次発光するLEDをベースとする可視光又は白色光を発光するLEDである。
【0002】
【従来の技術】例えば白色光を放射する照明ユニットは、現在では主に約460nmで青色に発光するGa(In)N-LEDと、黄色に発光するYAG:Ce3+蛍光体との組み合わせによって実現されている(US 5998925及びEP 862794)。この場合、良好な色再現のためにWO-A 01/08453に記載されたような2種の異なる黄色-蛍光体が使用される。この場合、双方の蛍光体は、その構造が類似している場合であっても、しばしば異なる温度特性を示すことが問題である。公知の例は、黄色に発光するCe-ドープされたY-ガーネット(YAG:Ce)及びそれと比べてより長波長で発光する(Y,Gd)-ガーネットである。これは、運転温度が異なる場合に色座標の変動及び色再現の変化を引き起こす。」
ウ 「【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、運転温度が変化する場合でも高い不変性を特徴とする、光源として請求項1の上位概念に記載の照明ユニットを提供することである。もう一つの課題は、白色に発光しかつ特に高い色再現及び高い効率を有する照明ユニットを提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】前記課題は、請求項1の特徴部により解決される。特に有利な実施態様は、引用形式請求項に記載されている。
【0007】本発明の場合に、LED用の蛍光体として、複数のニトリドベースの蛍光体種類からなる蛍光体が使用される。
【0008】これらは特定の種類のニトリド及びその誘導体のオキシニトリド及びサイアロンである。カチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導される蛍光体は、430~670nmのピーク発光の波長で放射し、その際、このカチオンはドーパントD、つまりEu2+又はCe3+により部分的に置き換えられており、カチオンとしてMは二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、その際、蛍光体は次の種類から由来する:構造MSi3N5、M2Si4N7、M4Si6N11及びM9Si11N23のニトリド、構造M16Si15O6N32のオキシニトリド、構造MSiAl2O3N2、M13Si18Al12O18N36、MSi5Al2ON9及びM3Si5AlON10のサイアロン。
【0009】次の特別な蛍光体が特に有利である:
1. M′M″Si4N7:D
その際、M′はSr又はBaそれぞれ単独であるか又は組み合わされており、特にM′は部分的に(20mol%まで)Caにより置き換えられており;M′は二価のイオンである。
【0010】M″はLu単独であるか又はGd及び/又はLaと組み合わされている;M″は三価のイオンである。
【0011】具体的例はSrLuSi4N7:Eu2+である。
【0012】2. M′M″Si6N11:D
その際、M′はBaxSr3-xであり、有利にx=1.5;M′は二価である;その際、M″はLu単独であるか又はGd及び/又はLa及び/又はYと組み合わされている;M″は三価である。
【0013】特定の部分までBa2+及びSr2+の量はなお変えることができ(xの値は1.3~1.7の間で変動する)、かつ部分的に(全体量M′の20mol%まで)Ca2+により置き換えられる。
【0014】具体的例はBaLuSi6N11:Euである。
【0015】3. M″3Si6N11:D
その際、M″はLa単独であるか又はGd及び/又はY及び/又はLuと組み合わされている;M″は三価のイオンである。
【0016】Dは有利にCe3+である。
【0017】具体的例はLa3Si6N11:Ceである。
【0018】4. M′2M″7Si11N23:D
その際、M′はBa単独であるか又はSrと(50mol%まで)組み合わされている、M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている。
【0019】具体的例はBa2La7Si11N23:Euである。
【0020】5. M″Si3N5:D
M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている。
【0021】その際、DはCeである。
【0022】具体的例はLaSi3N5:Ceである。
【0023】さらに、これは特定の種類のオキシニトリド、つまりタイプM″16Si15O6N32:Dの種類である。これらは、三価のカチオンM″として、金属La、Gd、Lu又はYの少なくとも1種を使用する。このカチオンはドーパントD、つまりEu2+又はCe3+により部分的に置き換えられている。次の特別な蛍光体が特に有利である:
6. M″16Si15O6N32:Ce
その際、M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;具体的例はLa16Si15O6N32:Ceである。
【0024】さらに、これは特定の種類のサイアロン、つまりタイプMSiAlON:Dの種類である。これらは、二価又は三価のカチオンM″として、金属Ba、Sr、Ca、La、Gd、Lu又はYの少なくとも1種を使用する。このカチオンはドーパントD、つまりEu2+又はCe3+により部分的に置き換えられている。次の特別な蛍光体が特に有利である:
7. M′SiAl2O3N2:D
その際、M′はSr単独であるか又はBa及び/又はCa2+と組み合わされている;Baの割合はこの場合に50mol%までであり、Caの割合は20mol%までである。
【0025】具体的例はSrSiAl2O3N2:Euである。
【0026】8. M′3M″10Si18Al12O18N36:D
その際、M′はSr単独であるか又はBa及び/又はCaと組み合わされている;Baの割合はこの場合に50mol%までであり、Caの割合は20mol%までである。
【0027】M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;有利に、M′はSr2+であり、もしくはM″はLa3+である;具体的例はSr3La10Si18Al12O18N36:Euである
【0028】9. M″Si5Al2ON9:Ce3+
M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;具体的例はLaAl2Si5ON9:Ceである。
【0029】10. M″3Si5AlON10:Ce3+
M″はLa単独であるか又はGd及び/又はLuと組み合わされている;有利にM″はLa3+である。
【0030】具体的例はLa3Si5AlON10:Ceである。」
エ 「【0048】このような化合物は熱的及び化学的に安定である。この光学活性材料を(たとえばLEDの注入樹脂中に)分散さなければならないような適用の場合、この材料のもう一つの利点は、この材料が耐衝撃性であり、ミル内での粉砕プロセスの際にほとんど又は全く損傷されないことである。粉砕プロセスによるこの粒子のこの種の損傷は、他の蛍光体の場合でも効率を低減する
【0049】この材料デサインは、青~深赤までの広い範囲内で特別な発光を示すSi/Al-N-ベースの特定の蛍光体を製造することができる
【0050】このニトリドベースの系の特別な利点は、たとえば白色LEDの実現のために、物理的に似た特性を有する複数のSi/Al-N-ベースの蛍光体を一緒に使用することも可能となる。同じような考察が、極めて頻繁に同様にニトリドベースとする一次光源に関しても通用する、それというのも、この場合一般にInN、GaN及びAlNをベースとする半導体デバイスであるためである。本発明によるSi/Al-N-ベースの蛍光体は、この場合、特に良好に直接塗布される。」(当審注:「デサイン」は「デザイン」の誤記と認められる。
オ 「【0053】LEDのUV線を用いた励起により有色の光源を発生させる他に、特にこれらの蛍光体を用いて白色光が生じることは有利である。これは、一次光源としてUV発光LEDの場合に少なくとも3種の蛍光体を使用して達成され、一次光源として青色発光LEDの場合には少なくとも2種の蛍光体を使用して達成される。
【0054】良好な色再現を示す白色光は、UV-LED(たとえば300~470nmで一次発光)を2種~3種の蛍光体と組み合わせることにより達成され、前記の蛍光体の中で少なくとも1つは本発明によるニトリド含有蛍光体である。
【0055】ニトリド含有蛍光体の著しい利点は、熱い酸、アルカリに対する優れた安定性並びに熱的及び機械的安定性である。
【0056】
【実施例】次に、本発明を複数の実施例を用いて詳細に説明する。
【0057】InGaN-チップを一緒に備えた白色LEDでの使用のために、例えば米国特許第5998925号明細書に記載されたと同様の構造を使用する。この種の白色光のための光源の構造を図1aに例示的に示した。この光源は、第1及び第2の電気接続部2,3を備えた、ピーク発光波長400nmを有するInGaNタイプの半導体デバイス(チップ1)であり、これは光透過性基体容器8中で凹設部9の範囲内に埋め込まれている。接続部3の一方は、ボンディングワイヤ14を介してチップ1と接続されている。この凹設部は壁部7を有し、この壁部7はチップ1の青色一次放射線用のリフレクタとして用いられる。この凹設部9は注入材料5で充填されており、この注入材料5は主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)(80~90質量%)及び蛍光体顔料6(15質量%未満)を含有する。他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である。この蛍光体顔料は、赤及び緑に発光する2種(又はそれ以上)のニトリド含有顔料からなる混合物である。」
カ 「【0060】本発明による蛍光体は表3にまとめられている。これは多様な配位数のサイアロン及びニトリドである。
【0061】図4は、詳細に記載されている多様なニトリド含有蛍光体の典型的な蛍光領域(nm)を示す。これらの蛍光体は青から赤までの広いスペクトルをカバーする。
【0062】図3及び4は波長の関数として多様なニトリド含有蛍光体の発光特性及び反射特性を示す。」(当審注:「図4は」は「表4は」の誤記と認められる。)
キ 「【0063】詳細には、図3aは390nmによる励起の際のサイアロンSrSiAl2O3N2:Ce3+(4%)(つまりカチオンSrに関するCeの割合4mol%)(試験番号TF23A/01)の発光スペクトルを示す。この最大値は青色で466nmであり、平均波長は493nmである。反射率(図3b)は400nmで約R400=60%であり、370nmで約R370=37%である。
【0064】サイアロンTF23A/01の合成を次に例示的に詳細に説明する。
【0065】蛍光体粉末を高温-固体反応により製造する。このために、高純度の出発材料SrCO3、AlN及びSi3N4をモル比1:2:1で混合した。Si3N4の粒度はd50=1.6μm、d10=0.4μm及びd90=3.9μmである。少量のCeO2を、ドーピングの目的で添加し、この場合、相応するモル量のSrCO3を添加した。
【0066】個々の成分を良好に混合させた後、この粉末を約1400℃で約15h還元性の雰囲気(N2/H2)中で加熱し、かつ反応させて上記の化合物にした。
【0067】図4は400nmによる励起の際のサイアロンSrSiAl2O3N2:Eu2+(4%)(試験番号TF31A/01)の発光スペクトルを示す。この最大値は緑色で534nmであり、平均波長は553nmである。量子効率QEは43%である。反射率(図4b)は400nmで約R400=31%であり、370nmで約R370=22%である。
【0068】図5は、図3及び4からの青及び緑色に発光するサイアロン並びに公知の赤色発光α-サイアロンSr2Si5N8:Eu(WO 01/39574参照)を使用した、図1aの実施例による360nmのピーク発光を示すInGaN-チップを用いた一次励起をベースとする白色LEDの発光スペクトルを示す。適当な混合の際に白色点にすぐ近くのx=0.331、y=0.330の色座標を示す。
【0069】これは、発光変換LEDに、この場合、他の温度安定性蛍光体と一緒の蛍光体-混合物に使用するために、ニトリドベースのサイアロンが特に適していることを示す。」
ク 表3、表4、図1及び図4は、以下のとおりである。
(2)甲3発明の認定
ア 上記(1)アの請求項1の記載によれば、甲第3号証には、
「光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットであって、このLEDは300~570nmの範囲内で一次放射を発し、この放射はLEDの一次放射にさらされる蛍光体によって部分的に又は完全により長波長の放射に変換され、前記の蛍光体の構造はニトリド又はその誘導体に基づく形式のものにおいて、前記の変換は少なくとも1種の蛍光体を用いて行われ、この蛍光体はカチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430~670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu2+又はCe3+により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi3N5、M2Si4N7、M4Si6N11及びM9Si11N23のニトリド、構造M16Si15O6N32のオキシニトリド、構造MSiAl2O3N2、M13Si18Al12O18N36、MSi5Al2ON9及びM3Si5AlON10のサイアロンから由来する、
光源として少なくとも1つのLEDを備えた、
照明ユニット。」
が記載されている
イ 上記(1)オの【0057】によれば、LEDは、「白色LEDでの使用のために」、「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び」「赤及び緑に発光する2種」「のニトリド含有顔料」「を含有」し、「他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である」、「凹設部9」に「充填」された「注入材料5」を備えている。
ウ 上記(1)エの「【0048】このような化合物は熱的及び化学的に安定である。…【0049】この材料デサインは、青~深赤までの広い範囲内で特別な発光を示すSi/Al-N-ベースの特定の蛍光体を製造することができる。【0050】このニトリドベースの系の特別な利点は、たとえば白色LEDの実現のために、物理的に似た特性を有する複数のSi/Al-N-ベースの蛍光体を一緒に使用することも可能となる。」との記載や上記(1)オの「【0053】LEDのUV線を用いた励起により有色の光源を発生させる他に、特にこれらの蛍光体を用いて白色光が生じることは有利である。これは、一次光源としてUV発光LEDの場合に少なくとも3種の蛍光体を使用して達成され、一次光源として青色発光LEDの場合には少なくとも2種の蛍光体を使用して達成される。【0054】良好な色再現を示す白色光は、UV-LED(たとえば300~470nmで一次発光)を2種~3種の蛍光体と組み合わせることにより達成され、前記の蛍光体の中で少なくとも1つは本発明によるニトリド含有蛍光体である。【0055】ニトリド含有蛍光体の著しい利点は、熱い酸、アルカリに対する優れた安定性並びに熱的及び機械的安定性である。」との記載、及び、上記(1)オで「赤及び緑に発光する2種(又はそれ以上)のニトリド含有顔料」を使用することが記載されていることなど甲第3号証の全体の記載からみて、白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有蛍光体としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは(課題を解決する手段としての)本発明によるニトリド含有蛍光体(すなわち、上記(1)アの請求項1に記載された、「カチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430~670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu2+又はCe3+により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi3N5、M2Si4N7、M4Si6N11及びM9Si11N23のニトリド、構造M16Si15O6N32のオキシニトリド、構造MSiAl2O3N2、M13Si18Al12O18N36、MSi5Al2ON9及びM3Si5AlON10のサイアロンから由来」する蛍光体(以下「甲3蛍光体」という。))であることが理解できる(例えば、上記(1)キによれば、甲第3号証には、白色LEDの実施例として、青及び緑の蛍光体として「甲3蛍光体」を使用し、赤色蛍光体としては、(「甲3蛍光体」には含まれていないSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体である、)「公知の赤色発光α-サイアロンSr2Si5N8:Eu(WO 01/39574参照。)」を使用している例が記載されている。)。
エ 上記(1)オの【0053】の「一次光源としてUV発光LEDの場合に少なくとも3種の蛍光体を使用して達成され、一次光源として青色発光LEDの場合には少なくとも2種の蛍光体を使用して達成される」との記載によれば、2種の蛍光体を使用する場合に用いられる一次光源は「青色発光LED」である。
オ 上記(1)カ及びクによれば、【実施例】の欄に記載された表3、表4において、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成が「Sr2Si4AlON7:Eu2+」で発光領域が625~640nmの蛍光体が挙げられ、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成が「SrSiAl2O3N2:Eu2+」でMax. Em.が497の蛍光体、組成が「SrSiAl2O3N2:Eu2+」で発光領域が495~515nmの蛍光体、組成が「SrSiAl2O3N2:Eu2+」で発光領域が490~510nmの蛍光体が挙げられている。
カ 上記アないしオによれば、甲第3号証には、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されている。
「光源として少なくとも1つのLEDを備えた照明ユニットであって、このLEDは300~570nmの範囲内で一次放射を発し、この放射はLEDの一次放射にさらされる蛍光体によって部分的に又は完全により長波長の放射に変換され、前記の蛍光体の構造はニトリド又はその誘導体に基づく形式のものにおいて、前記の変換は少なくとも1種の蛍光体を用いて行われ、この蛍光体はカチオンM及び窒化ケイ素又はニトリドの誘導体から誘導され、この蛍光体は430~670nmでのピーク発光の波長で発光し、その際、カチオンは部分的にドーパントD、つまりEu2+又はCe3+により置き換えられており、この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi3N5、M2Si4N7、M4Si6N11及びM9Si11N23のニトリド、構造M16Si15O6N32のオキシニトリド、構造MSiAl2O3N2、M13Si18Al12O18N36、MSi5Al2ON9及びM3Si5AlON10のサイアロンから由来する、
光源として少なくとも1つのLEDを備え、
前記LEDの白色LEDでの使用のために、主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料を備え、
白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは前記少なくとも1種の蛍光体であり、
赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成がSr2Si4AlON7:Eu2+で発光領域が625~640nmの蛍光体を選択肢として有し、
緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成がSrSiAl2O3N2:Eu2+でMax. Em.が497の蛍光体、組成がSrSiAl2O3N2:Eu2+で発光領域が495~515nmの蛍光体、組成がSrSiAl2O3N2:Eu2+で発光領域が490~510nmの蛍光体を選択肢として有し、
前記光源は、青色発光LEDである、
照明ユニット。」
(3) 対比
本件訂正発明と甲3発明を対比する。
ア 本件訂正発明の「赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、前記出力光が、白色光であ」ることと、甲3発明の「白色LEDでの使用のために、主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料を備え」、「前記光源は、青色発光LEDである」ことを対比する。
甲3発明の「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料」、「青色発光LED」、「照明ユニット」、「白色LEDでの使用」は、それぞれ、本件訂正発明の「赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層」、「発光素子」、「発光装置」、「前記出力光が、白色光であ」ることに相当する。
また、甲3発明は、白色の出力光を得るために、「赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料」と「青色発光LED」とを備えるものであり、赤、緑、青の3色の光から白色の出力光を得るためには、3色全ての光が出力光に含まれる必要があることは明らかであるから、甲3発明の出力光は、「赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料」からの「赤及び緑」の発光成分と、「青色発光LED」が放つ青の発光成分とを含むと認められる。
してみると、両者は相当関係にある。
イ 本件訂正発明の「前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」ことと、甲3発明の「白色LEDでの使用のために、主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料を備え」ることを対比する。
甲3発明の「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である、凹設部に充填された注入材料」は、上記アで検討したとおり、本件訂正発明の「蛍光体層」に相当する。
甲3発明の「注入材料」が、「主成分としてシリコーン注入樹脂(又はエポキシ注入樹脂)及び赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料を含有し、他のわずかな成分は、特にメチルエーテル又はエアロジル(Aerosil)である」との事項は、本件訂正発明の「窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない」との事項に相当する。
してみると、両者は相当関係にある。
ウ 上記ア及びイによれば、本件訂正発明と甲3発明の一致点と相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「赤色蛍光体と、緑色蛍光体とを含む蛍光体層と、発光素子とを備え、
前記赤色蛍光体が放つ赤色系の発光成分と、前記緑色蛍光体が放つ緑色系の発光成分と、前記発光素子が放つ発光成分とを出力光に含む発光装置であって、
前記出力光が、白色光であり、
前記蛍光体層は、窒化物蛍光体又は酸窒化物蛍光体以外の無機蛍光体を実質的に含まない発光装置。」
<相違点1>
本件訂正発明の「赤色蛍光体」は、「前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+で付活され、かつ、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有するニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)であ」るのに対し、甲3発明の「赤」に発光する「ニトリド含有顔料」は、そのようなものであるのか否か不明である点。
<相違点2>
本件訂正発明の「緑色蛍光体」は、「前記発光素子が放つ光によって励起されて、Eu2+又はCe3+で付活され、かつ、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有する緑色蛍光体であ」るのに対し、甲3発明の「緑」に発光する「ニトリド含有顔料」は、そのようなものであるのか否か不明である点。
<相違点3>
本件訂正発明の「青色発光素子」は、「440nm以上500nm未満の波長領域に発光ピークを有する光を放つ青色発光素子」であるのに対し、甲3発明の「青色発光LED」は、そのようなものであるのか否か不明である点。
<相違点4>
本件訂正発明の「蛍光体層に含まれる蛍光体」は、「Eu2+又はCe3+で付活された蛍光体のみを含」むのに対し、甲3発明の「凹設部に充填された注入材料」が含有するニトリド含有顔料がそのようなものか否か不明である点。
<相違点5>
本件訂正発明の「赤色蛍光体」は、「前記青色発光素子が放つ光励起下において」「内部量子効率が80%以上であ」るのに対し、甲3発明の「赤」に発光する「ニトリド含有顔料」がそのようなものか否か不明である点。
<相違点6>
本件訂正発明が「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」するものであるのに対し、甲3発明がそのようなものか否か不明である点。
(4)判断
以下、上記相違点1ないし6について検討する。
ア 相違点1、2、4、6について
事案に鑑み、相違点2から判断する。
(ア)相違点2について
甲3発明は、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、例えば、組成がSrSiAl2O3N2:Eu2+でMax. Em.が497の蛍光体、組成がSrSiAl2O3N2:Eu2+で発光領域が495~515nmの蛍光体、組成がSrSiAl2O3N2:Eu2+で発光領域が490~510nmの蛍光体を選択肢として有している。
これらの蛍光体は、甲3発明が「少なくとも1種の蛍光体」として用いる「甲3蛍光体」のうちの1つである「構造MSiAl2O3N2」「のサイアロンから由来」する蛍光体にあたるから、甲3発明において、緑に発光するニトリド含有蛍光体として、選択肢の1つである「組成がSrSiAl2O3N2:Eu2+で発光領域が495~515nmの蛍光体」を採用することに格別の困難性はない。
当該蛍光体の発光ピークは明らかでないが、その発光領域(「495~515nm」)は、(本件訂正発明の緑色蛍光体が発光ピークを有する波長領域である)「500nm以上560nm未満の波長領域」と相当程度重複しているし、また、甲第3号証の【0067】には同じ「SrSiAl2O3N2:Eu2+」の組成のもので、発光ピークが「534nm」(「500nm以上560nm未満の波長領域」内)であるものも記載されている。
そして、「500nm以上560nm未満の波長領域」は緑色の領域として一般的な波長領域であるから、甲3発明において、緑に発光する蛍光体の発光ピークを「500nm以上560nm未満の波長領域」の範囲内とし、相違点2に係る発明特定事項となすことに格別の困難性はない。
(イ)相違点1について
a まず、本件訂正発明の「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」の技術的な意味について検討する。
本件訂正明細書には、以下の記載がある。
「【0012】…
(1) Eu2+で付活され、500nm以上560nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系、アルミン酸塩系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の緑色蛍光体、例えば、(Ba,Sr)2SiO4:Eu2+、SrGa2S4:Eu2+、SrAl2O4:Eu2+、BaSiN2:Eu2+、Sr1.5Al3Si9N16:Eu2+等の蛍光体。
(2) Eu2+で付活され、560nm以上600nm未満の波長領域に発光ピークを有するアルカリ土類金属オルト珪酸塩系、チオガレート系及び窒化物系(ニトリドシリケート系やサイアロン系等)の黄色蛍光体、例えば、(Sr,Ba)2SiO4:Eu2+、CaGa2S4:Eu2+、0.75(Ca0.9Eu0.1)O・2.25AlN・3.25Si3N4:Eu2+、Ca1.5Al3Si9N16:Eu2+、(Sr,Ca)2SiO4:Eu2+、CaSiAl2O3N2:Eu2+、CaSi6AlON9:Eu2+等の蛍光体。
(3) Eu2+で付活され、600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する窒化物系(ニトリドシリケート系、ニトリドアルミノシリケート系等)の赤色蛍光体、例えば、Sr2Si5N8:Eu2+、SrSiN2:Eu2+、SrAlSiN3:Eu2+、CaAlSiN3:Eu2+、Sr2Si4AlON7:Eu2+等の蛍光体。」
上記記載によれば、「窒化物系」の蛍光体は、ニトリドシリケート系、サイアロン系、ニトリドアルミノシリケート系等の窒素を含む蛍光体の意味で使用されているものと解される。
そうすると、「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体」とは、N(ニトリド),Al(アルミノ),Si(シリケート)を含む窒化物蛍光体を意味するものと解される。
なお、当該解釈は請求人の主張(口頭審理陳述要領書(請求人)14頁~18頁)及び被請求人の主張(口頭審理陳述要領書(被請求人)4頁~5頁)と合致する。
b 次に、甲3発明が採用し得る蛍光体について検討する。
甲3発明は、「白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは前記少なくとも1種の蛍光体であ」るもの、すなわち「白色光を達成するために一緒に用いる赤及び緑に発光する2種のニトリド含有顔料としてSi/Al-N-ベースの蛍光体を使用でき、その中で少なくとも1つは」「甲3蛍光体」であるものである。
そうすると、上記(ア)のとおり、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として「甲3蛍光体」を選択した上であれば、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、「甲3蛍光体」ではないSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体を採用し得ることは当業者が理解できることである。
c 赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体としては、甲第3号証(表4)に、組成がSr2Si4AlON7:Eu2+で発光領域が625~640nmの蛍光体が示されている。
ところで、ニトリドシリケート系の窒化物蛍光体において、カチオンである「Sr」の少なくとも一部を「Ba」や「Ca」に置換し得ることは周知の技術事項と認められ、「Sr」の少なくとも一部を「Ba」や「Ca」に置換した蛍光体もまたニトリドシリケート系の窒化物蛍光体として知られている(例えば、甲第3号証の「【請求項1】…この場合にカチオンMとして二価の金属Ba、Ca、Srの少なくとも1種及び/又は三価の金属Lu、La、Gd、Yの少なくとも1種が使用され、この蛍光体は次の種類:構造MSi3N5、M2Si4N7、M4Si6N11及びM9Si11N23のニトリド、構造M16Si15O6N32のオキシニトリド、構造MSiAl2O3N2、M13Si18Al12O18N36、MSi5Al2ON9及びM3Si5AlON10のサイアロンから由来する」及び「【0033】Eu活性化されたサイアロンの他の有望な代表物はα-サイアロンであり、これは式Mp/2Si12-p-qAlqN16-q:Eu2+に従い、前記式中、MはCa単独であるか又は金属Sr又はMgの少なくとも1種と組み合わされており、qは0~2.5であり、pは0.5~3であり、以後これをGO-サイアロンと表す。」との記載、甲第4号証の「The red phosphor is selected from the group consisting of … and (Sr1-x-yBaxCay)2Si5N8:Eu wherein 0≦x<l and 0≦y<l.」(「赤色燐光体は、…、及び(Sr1-x-yBaxCay)2Si5N8:Eu(但し、0≦x<1, 0≦y<1 である。)、からなる群から選択する。」)(7頁15~18行)との記載、並びに甲第5号証の「【0003】…この蛍光体は、MXSiYNZ:Eu(Mは、Ca、Sr、Ba、Znのグループからなるアルカリ土類金属を少なくとも1つ以上含有する。Zは、Z=2/3X+4/3Yで表される)で表される組成を有する蛍光体である。」及び「【0063】実施例9は、蛍光体Sr1.4Ca0.6Si5N8:Euである。」との記載を参照。また、この点に関し、本件訂正明細書においても「【0057】…組成式(M1-xEux)2Si4AlON7で表されるオクソニトリドアルミノシリケート蛍光体、例えば、Sr2Si4AlON7:Eu2+赤色蛍光体等を用いればよい。但し、上記組成式のMは、Mg、Ca、Sr、Ba及びZnから選ばれる少なくとも1つの元素であり、xは、式0.005≦x≦0.3を満たす数値である。」と、「Sr」が「Ca」や「Ba」に置換可能であることが記載されている。)。
そうすると、甲第3号証に記載の、組成が「Sr2Si4AlON7:Eu2+」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体において、「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(「ニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体(ただし、Sr2Si4AlON7:Eu2+を除く)」に該当する。)も、当業者であれば理解し得るものと認められる。
d 上記bで検討したとおり、甲3発明は、緑に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として「甲3蛍光体」を選択した上であれば、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、「甲3蛍光体」ではないSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体を採用し得るものである。
したがって、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体として、上記cで述べた、甲第3号証の組成が「Sr2Si4AlON7:Eu2+」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体における「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用すること、すなわち、「Sr2Si4AlON7:Eu2+」以外の組成のニトリドアルミノシリケート系の蛍光体を採用することも格別の困難性はないものと認められる。
そしてその際、赤に発光するSi/Al-N-ベースのニトリド含有蛍光体の発光ピークを「600nm以上660nm未満」とすることも、ニトリドアルミノシリケート系の蛍光体において赤色光の発光を「600nm以上660nm未満」程度とすることが甲第3号証(表4には、組成がSr2Si4AlON7:Eu2+で発光領域が625~640nmの蛍光体が記載されている。)に記載されていることに鑑みれば、格別の困難性はないものと認められる。
したがって、相違点1に係る発明特定事項となすことに格別の困難性はない。
(ウ)相違点4について
相違点4に係る発明特定事項は、上記(ア)及び(イ)のとおり、甲3発明において、緑に発光する蛍光体として、組成が「SrSiAl2O3N2:Eu2+」の蛍光体を、赤に発光する蛍光体として、組成が「Sr2Si4AlON7:Eu2+」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体における「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用することで満たされることは明らかである。
(エ)相違点6について
a まず「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することの技術上の意義について検討する。
b 発明の詳細な説明には、「【0013】 これらの蛍光体の励起スペクトルは、上記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に、多くは波長360nm以上420nm未満の近紫外~紫色領域に励起ピークを有するため、上記青色発光素子の励起下における外部量子効率は必ずしも高くない。しかし内部量子効率は、励起スペクトルから予想される以上に高い70%以上、特に良好な場合は90%~100%であることがわかった。」、「【0040】 例えば、青色発光素子を用いる場合、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm以上500nm未満の波長領域にない緑色蛍光体、すなわち、励起スペクトルの最長波長側の励起ピークが420nm未満の波長領域にある緑色蛍光体であっても構わない。」との記載、すなわち、青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に励起ピークを有する蛍光体を挙げる記載はあるものの、「励起ピーク」を「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に」有する構成とすることにより、どのような作用効果等を奏するのか等、その技術上の意義については記載がない。
c そして、一般に、蛍光体を励起するためには、励起光の波長における励起効率がある程度高ければよく、蛍光体の励起スペクトルのピークと励起光の波長は一致するのが好ましいとしても、必ずしも一致させねばならないものでもない。このことは、例えば甲第4号証(5頁16~17行、6頁6~13行、FIG.1~2参照。400nm付近に励起ピークを有する蛍光体を青色LEDで励起している。)や甲第5号証(【0045】、【0058】、【0067】、図3~4、7、9等参照。375nm付近に励起ピークを有する実施例6~7の窒化物蛍光体が波長460nmで励起でき、公知の青色発光ダイオードと組み合わせることができる旨が記載されている。)において、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」する構成とすることが行われていることからも明らかである。
また、本件訂正明細書の【0006】には、従来「赤色光を放つSr2Si5N8:Eu2+蛍光体」(当審注:該蛍光体は【0012】に600nm以上660nm未満の波長領域に発光ピークを有する赤色蛍光体として記載されている。)が「青色発光素子」とともに用いられていたことが記載されている。本件の図14によれば、「Sr2Si5N8:Eu2+蛍光体」は近紫外~紫色領域に励起ピークを有するものであるから、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」する構成のものは、本件訂正明細書に従来技術として記載されているものと認められる。
さらに、被請求人も、励起ピークが近紫外にあるSr2Si5N8:Eu2+蛍光体を、励起ピークとは波長が一致しない青色発光素子と組み合わせることが従来知られていたことは認めている(平成26年11月28日付け上申書17頁10~17行)。
そうすると、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することの技術上の意義は、単に、使用する蛍光体に付随する特性を記載した程度のことと認められる。
d 以上を踏まえて、上記相違点6について検討すると、
(a)甲3号証の図4には、組成が「SrSiAl2O3N2:Eu2+」の緑色蛍光体の反射率が特に400nm未満の紫外域において小さくなっていることが記載され、反射スペクトルと励起スペクトルは相関があることから、組成が「SrSiAl2O3N2:Eu2+」の緑色蛍光体の励起ピークは400nm未満の紫外域にあるものと推定されること、
(b)本件訂正明細書(【0012】及び【0013】)には、Eu2+で付活された窒化物系の緑色蛍光体及び赤色蛍光体の励起ピークは、「青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域に、多くは波長360nm以上420nm未満の近紫外~紫色領域」であると記載されていること、
(c)更に、一般に、Eu2+で付活されたニトリドアルミノシリケート系の赤色蛍光体の励起ピークは、青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長領域にあると考えられること、
以上を鑑みれば、上記(ア)及び(イ)のとおり、甲3発明において、緑に発光する蛍光体として、組成が「SrSiAl2O3N2:Eu2+」の蛍光体を、赤に発光する蛍光体として、組成が「Sr2Si4AlON7:Eu2+」のニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体における「Sr」の少なくとも一部を「Ca」や「Ba」に置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用したものは、青色LEDの放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有すると認められる。
e また、必ずしも、青色LEDの放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有するとは限らないとしても、上述のとおり、「前記蛍光体層に含まれる蛍光体の励起スペクトルは、前記青色発光素子の放つ光の波長よりも短波長域に励起ピークを有」することで、格別の作用効果があるとは認められないし、被請求人が平成26年8月1日付け上申書(6頁)で述べているように励起スペクトルのピークは調整可能であるから、蛍光体の励起スペクトルのピークと青色発光LEDの放つ光の波長との関係を如何なるものとするかは、設計事項の域を超えるものではない。
f したがって、相違点6に係る発明特定事項となすことに格別の困難性はない。
イ 相違点3について
甲3発明は光源として「青色発光LED」を用いるところ、青色の領域として「440nm以上500nm未満の波長領域」は一般的な波長領域であり、甲第3号証の「【0002】…白色光を放射する照明ユニットは、現在では主に約460nmで青色に発光するGa(In)N-LEDと、黄色に発光するYAG:Ce3+蛍光体との組み合わせによって実現されている」との記載にみられるように「約460nm」で発光するものが一般的であることに鑑みれば、甲3発明において、「青色発光LED」に「440nm以上500nm未満の波長領域」に発光ピークを有するものを採用することは当業者において格別困難なことではない。
ウ 相違点5について
(ア)甲第5号証の【0012】の「窒化物蛍光体中は、…基本構成元素の他に、原料中に含まれる不純物も残存する。例えば、Co,Mo,Ni,Cu,Feなどである。これらの不純物は、発光輝度を低下させたり、賦活剤の活用を阻害したりする原因にもなるため、できるだけ系外に除去することが好ましい。」、【0035】の「原料のII価のLも、酸化されやすい。…このOは、不純物となり、発光劣化を引き起こすため、極力、系外へ除去することが好ましい。…」との記載などに鑑みると、本件出願の優先日当時、照明ユニットにおいて発光効率を高めるために、不純物の除去等の製造条件の最適化等により、蛍光体の内部量子効率をできるだけ高めることは、当業者の技術常識であったことが認められる。
しかしながら、他方で、不純物の除去等の製造条件の最適化等により、蛍光体の内部量子効率を高めることについても、自ずと限界があることは自明であり、出発点となる内部量子効率の数値が低ければ、上記の最適化等により内部量子効率を80%以上とすることは困難であり、内部量子効率を80%以上とすることができるかどうかは、出発点となる内部量子効率の数値にも大きく依存するものと考えられる。
しかるところ、甲第3号証には、量子効率に関し、【表3】に3種の化合物の「量子効率(QE)」が「29」%、「51」%、「30」%であること、【0067】に、「400nmによる励起の際のサイアロンSrSiAl2O3N2 :Eu2+(4%)(試験番号TF31A/01)」について「量子効率QEは43%である」ことの記載があるだけであり、これ以外には、量子効率、外部量子効率又は内部量子効率について述べた記載はないし、【表4】記載の赤色蛍光体である「Sr2Si4 AlON7 :Eu2+ 」の内部量子効率についての記載もない。また、甲第3号証には、「Sr2Si4 AlON7 :Eu2+ 」の「Sr2」を「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率についての記載もない。
このほか、甲第3号証の【表4】記載の赤色蛍光体である「Sr2Si4 AlON7 :Eu2+」、さらには「Sr2Si4 AlON7 :Eu2+ 」の「Sr2」を「Ca」又は「Ba」に置換した蛍光体の内部量子効率がどの程度であるのかをうかがわせる証拠はない。
(イ)一方、甲第3号証の「【0005】…もう一つの課題は、白色に発光しかつ特に高い色再現及び高い効率を有する照明ユニットを提供することである」との記載にみられるように、照明ユニットにおいて効率を高めることは一般的な課題であり、また、請求人が上記「第5 請求人の主張の概要及び証拠方法」「1 無効理由」「(3)無効理由3(進歩性なし)」のキにおいて主張するように、甲第3号証には、少なくともニトリドアルミノシリケート系の蛍光体において、カチオンMに関し、「Sr」を「Ca」又は「Ba」に置換できることが開示されているとしても、甲第3号証に接した当業者が、甲第3号証の記載事項を出発点として、甲3発明において、Sr2Si4AlON7 :Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で、さらに、青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とする構成に容易に想到することができたかどうかは別問題である。
(ウ)以上によれば、甲第3号証に接した当業者は、甲3発明において、Sr2Si4 AlON7 :Eu2+蛍光体のSrの少なくとも一部をBaやCaに置換したニトリドアルミノシリケート系の窒化物蛍光体を採用した上で、さらに、青色発光素子が放つ光励起下におけるその内部量子効率を80%以上とする構成(相違点5に係る本件訂正発明の構成)を容易に想到することができたものと認めることはできない。
エ (4)のまとめ
上記ウで検討したとおり、相違点5に係る本件訂正発明の構成を当業者が容易に想到することができたものと認めることはできない。
したがって、本件訂正発明が、甲第3号証~甲第6号証に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたということはできない。
(5)以上のことから、請求人が主張する無効理由3(進歩性なし)は、理由がない。
第8 むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2014-800013