特許拒絶査定不服審判
2014-022300
分子のアレイから複製又は派生物を作製するための装置及び方法とその応用
- 審判番号
- 2014-022300
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2011-552467外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2014年11月04日
- 審決日
- 2016年09月05日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】アルベルト‐ルートヴィヒス‐ウニヴェルズィテート フライブルク
- 【請求人代理人】庄司 隆
- 【請求人代理人】資延 由利子
- 【請求人代理人】大杉 卓也
- 【請求人代理人】曽我 亜紀
- 分類
- P18 .121-WZ (C12N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2011-552467「分子のアレイから複製又は派生物を作製するための装置及び方法とその応用」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 9月10日国際公開、WO2010/100265、平成24年 8月30日国内公表、特表2012-519475〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、平成22(2010)年3月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2009年3月6日 ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、平成26年6月25日付けで拒絶査定がされたところ、同年11月4日に拒絶査定不服審判の請求がされ、当審による平成28年1月27日付け拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という)に応答して、同年7月28日に意見書および手続補正書が提出されたものである。
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明(以下、「本願発明」という)は、平成28年7月28日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~15に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という)は、以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
DNA、cDNA、修飾DNA、RNA、mRNA、tRNA、もしくはsiRNAからなる群から選択される生体分子または合成的に生成された化学分子(16;32;50)のアレイの複製又は派生物を作製する方法であって、
前記アレイは、分離した分子(16;32;50)サンプルの空間配置を含み、
前記方法は、
サンプルごとに、他のサンプルの有効領域(24;35;54)と分離している、少なくとも一つの空間的に制限された有効領域(24;35;54’)をつくるステップであって、
前記有効領域(24;35;54)は、他のサンプルの有効領域と分離する機能を有するものであり、前記有効領域(24;35;54’)は、空間的に制限された増幅薬領域を含むものであり、結合アダプタ(22;38;62)又は結合特性を供給されたキャリア(20;34;60)の表面と接し、空間的に塞がれたキャビティ、電場又は磁場、疎水性/親水性の領域、流体および気体間の界面、および/または、粘性の異なるレベルの液体間の界面によって形成されるものである、前記ステップ、
前記有効領域(24;35;54’)において、増幅薬によって、前記分子(16;32;50)を増幅することによって、複製(18;32;64)をつくるステップ、又は、前記有効領域(24;35;54’)において、前記分子の派生物をつくるステップであって、前記派生物はDNA、cDNA、RNA、もしくはタンパク質からなる群から選択されるものであり、かつ、RNAはDNAから転写されるものであり、および/またはタンパク質はRNAの生化学情報によって産生されるものであり、
前記キャリア上の前記サンプルの前記複製又は派生物の空間配置が、前記アレイの前記サンプルの前記空間配置に対応するように、前記結合アダプタ又は前記結合特性(22;38;62)によって、前記キャリア(20;34;60)と、前記サンプルの前記複製又は派生物(18;32;64)を結合するステップであって、前記複製又は派生物を前記キャリアに結合する工程は、前記増幅または派生物の作製と同時に実行されること、および、
前記アレイから前記サンプルの前記複製又は派生物(18;32;64)を含んでいる前記キャリア(20;34;60)を取り除くステップ、
を含むこと、を特徴とする、方法。」
第3 引用例
1.引用例1
拒絶理由において「引用例1」として引用した、本願優先日前に頒布された刊行物である特開2001-183号公報(以下、「引用例1」という)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は強調のため当審で付与したものである。以下、同様である。
(1-a)「DNAチップを作製する装置において、
母体となる基板上にあらかじめ用意された複数のDNAをPCR法により増幅する手段と、
この増幅されたDNAを各セルの相互位置を保持したまま直接接触により他の基板へ転写する手段を備えたことを特徴とするDNAチップ作製装置。」(請求項1)
(1-b)「前記PCR法により増幅する手段は、前記母体となる基板の第1次コピーである転写基板上で、または前記母体となる基板と転写基板の結合状態においてPCRを行うようにしたことを特徴とする請求項1記載のDNAチップ作製装置。」(請求項2)
(1-c)「前記母体となる基板または母体となる基板よりDNAが転写された他の基板は、各セルが多孔質基材で形成されたことを特徴とする請求項1記載のDNAチップ作製装置。」(請求項3)
(1-d)「前記PCRの実行時にのみ各セル間にセル分離用の隔壁を設けておくことを特徴とする請求項1記載のDNAチップ作製装置。」(請求項5)
(1-e)「また、請求項5のように、前記PCRの実行時にのみ各セル間にセル分離用の隔壁を設けておくこともできる。これにより隣接DNAの分離が完璧になる。」(【0010】)
(1-f)「本発明では次のような原理に基づいてDNAチップを量産する。図1の(a)に示すように母体となるDNAチップ1上でPCRによりDNAを増幅し、各セルの相互位置を保持したまま同図(b)に示すようにこれを別の基板2に直接接触させて転写する。
次に基板2をマザーとして同様にDNA増幅・転写を行う。これを繰り返し行い、同図(c)のように、ねずみ算的に大量の複製を作製する。あるいは、1つのマザー基板(DNAチップ1)からDNA増幅・転写を行い、大量の複製を作製することもできる。なお、PCRは母体となる基板と転写基板を結合した状態で行うようにしてもよい。」(【0012】~【0013】)
(1-g)「マザー基板1上のセルは、転写される基板(コピー基板という)2と同じ大きさではなく大容量とし、図2に示すように、多孔質状のセル(たとえばスポンジ)3を複数個整列し、そこにDNAを含ませる。コピー基板を押し付ける力を制御して一度の転写で写す量を制御できるようにする。なお、転写により減少したマザー基板側のDNAはPCRにより増幅して補うようにする。」(【0014】)
(1-h)「コピー基板2への転写後は駆動機構部14を作動させて保持部13を上方に移動させ、コピー基板2をマザー基板1から離し、取り外す。」(【0021】)
(1-i)「
」(図1)
(1-j)「
」(図2)
(1-k)「
」(図5)
引用例1記載事項(1-a),(1-f)の下線部分及び(1-i)の図1より、引用例1には、引用例1記載事項(1-a)の各手段を備えたDNAチップを作製する装置の記載から、当該各手段に対応する各ステップを含むDNAチップを作製する方法が実質的に記載されているものと認められる。
また、引用例1記載事項(1-c),(1-g)の下線部分及び(1-j)の図2より、引用例1には、母体となる基板上にDNAを含ませた多孔質状のセル(たとえばスポンジ)を配置することが記載されているといえる。
さらに、引用例1記載事項(1-d),(1-e)の下線部分及び(1-k)の図5より、引用例1には、各セル間にセル分離用の隔壁を設けることが記載されているといえる。
そして、引用例1記載事項(1-h)の下線部分より、コピーした基板を元のマザー基板から離し、取り外すことが記載されているといえる。
以上のことから、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という)が記載されているものと認められる。
「DNAチップを作製する方法であって、
母体となる基板上にDNAを含ませた多孔質状のセル(たとえばスポンジ)を配置し、各セル間にセル分離用の隔壁を設け、当該基板上であらかじめ用意された複数のDNAをPCR法により増幅するステップと、
この増幅されたDNAを各セルの相互位置を保持したまま直接接触により他の基板へ転写するステップと、
コピーした基板を元のマザー基板から離し、取り外すステップ
を備えたことを特徴とする方法。」
第4 対比
本願発明1は、各構成要素に関して複数の選択肢を有するところ、以下の下線部分
「DNA、cDNA、修飾DNA、RNA、mRNA、tRNA、もしくはsiRNAからなる群から選択される生体分子または合成的に生成された化学分子(16;32;50)のアレイの複製又は派生物を作製する方法であって、
前記アレイは、分離した分子(16;32;50)サンプルの空間配置を含み、
前記方法は、
サンプルごとに、他のサンプルの有効領域(24;35;54)と分離している、少なくとも一つの空間的に制限された有効領域(24;35;54’)をつくるステップであって、
前記有効領域(24;35;54)は、他のサンプルの有効領域と分離する機能を有するものであり、前記有効領域(24;35;54’)は、空間的に制限された増幅薬領域を含むものであり、結合アダプタ(22;38;62)又は結合特性を供給されたキャリア(20;34;60)の表面と接し、空間的に塞がれたキャビティ、電場又は磁場、疎水性/親水性の領域、流体および気体間の界面、および/または、粘性の異なるレベルの液体間の界面によって形成されるものである、前記ステップ、
前記有効領域(24;35;54’)において、増幅薬によって、前記分子(16;32;50)を増幅することによって、複製(18;32;64)をつくるステップ、又は、前記有効領域(24;35;54’)において、前記分子の派生物をつくるステップであって、前記派生物はDNA、cDNA、RNA、もしくはタンパク質からなる群から選択されるものであり、かつ、RNAはDNAから転写されるものであり、および/またはタンパク質はRNAの生化学情報によって産生されるものであり、
前記キャリア上の前記サンプルの前記複製又は派生物の空間配置が、前記アレイの前記サンプルの前記空間配置に対応するように、前記結合アダプタ又は前記結合特性(22;38;62)によって、前記キャリア(20;34;60)と、前記サンプルの前記複製又は派生物(18;32;64)を結合するステップであって、前記複製又は派生物を前記キャリアに結合する工程は、前記増幅または派生物の作製と同時に実行されること、および、
前記アレイから前記サンプルの前記複製又は派生物(18;32;64)を含んでいる前記キャリア(20;34;60)を取り除くステップ、
を含むこと、を特徴とする、方法。」
を選択した以下の発明を「本願発明1’」として、引用発明と対比する。
「DNAから選択される生体分子または合成的に生成された化学分子のアレイの複製を作製する方法であって、
前記アレイは、分離した分子サンプルの空間配置を含み、
前記方法は、
サンプルごとに、他のサンプルの有効領域と分離している、少なくとも一つの空間的に制限された有効領域をつくるステップであって、
前記有効領域は、他のサンプルの有効領域と分離する機能を有するものであり、前記有効領域は、空間的に制限された増幅薬領域を含むものであり、結合特性を供給されたキャリアの表面と接し、空間的に塞がれたキャビティによって形成されるものである、前記ステップ、
前記有効領域において、増幅薬によって、前記分子を増幅することによって、複製をつくるステップ、
前記キャリア上の前記サンプルの前記複製の空間配置が、前記アレイの前記サンプルの前記空間配置に対応するように、前記結合特性によって、前記キャリアと、前記サンプルの前記複製を結合するステップであって、前記複製を前記キャリアに結合する工程は、前記増幅の作製と同時に実行されること、および、
前記アレイから前記サンプルの前記複製を含んでいる前記キャリアを取り除くステップ、
を含むこと、を特徴とする、方法。」
引用発明の「DNAチップを作製する方法」は、本願発明1’の「DNAから選択される生体分子または合成的に生成された化学分子のアレイの複製を作製する方法」に相当し、引用発明の「母体となる基板上にDNAを含ませた多孔質状のセル(たとえばスポンジ)を配置し、各セル間にセル分離用の隔壁が設け」は、本願発明1’の「前記アレイは、分離した分子サンプルの空間配置を含み」に相当する。
また、引用発明の「あらかじめ用意された複数のDNAをPCR法により増幅するステップ」は、本願発明1’の「増幅薬によって、前記分子を増幅することによって、複製をつくるステップ」に相当する。
さらに、引用発明の「この増幅されたDNAを各セルの相互位置を保持したまま直接接触により他の基板へ転写するステップ」は、本願発明1’の「前記キャリア上の前記サンプルの前記複製の空間配置が、前記アレイの前記サンプルの前記空間配置に対応するように、前記結合特性によって、前記キャリアと、前記サンプルの前記複製を結合するステップ」に相当する。
そして、引用発明の「コピーした基板を元のマザー基板から離し、取り外すステップ」は、本願発明1’の「前記アレイから前記サンプルの前記複製を含んでいる前記キャリアを取り除くステップ」に相当する。
そうすると、本願発明1’と引用発明の両者は、
「DNAから選択される生体分子または合成的に生成された化学分子のアレイの複製を作製する方法であって、
前記アレイは、分離した分子サンプルの空間配置を含み、
前記方法は、
増幅薬によって、前記分子を増幅することによって、複製をつくるステップ、
前記キャリア上の前記サンプルの前記複製の空間配置が、前記アレイの前記サンプルの前記空間配置に対応するように、前記結合特性によって、前記キャリアと、前記サンプルの前記複製を結合するステップ、および、
前記アレイから前記サンプルの前記複製を含んでいる前記キャリアを取り除くステップ、
を含むこと、を特徴とする、方法。」
である点で一致し、以下の2点で相違する。
相違点1:本願発明1’は、「前記複製を前記キャリアに結合する工程は、前記増幅の作製と同時に実行されること」が特定されているに対して、引用発明はかかる特定を有しない点。
相違点2:本願発明1’は、「サンプルごとに、他のサンプルの有効領域と分離している、少なくとも一つの空間的に制限された有効領域をつくるステップであって、
前記有効領域は、他のサンプルの有効領域と分離する機能を有するものであり、前記有効領域は、空間的に制限された増幅薬領域を含むものであり、結合特性を供給されたキャリアの表面と接し、空間的に塞がれたキャビティによって形成されるものである、前記ステップ」を含むのに対して、引用発明は有効領域をつくるステップについての特定を有しない点。
第5 当審の判断
上記相違点1,2について検討する。
相違点1について:
引用例1記載事項(1-b)及び(1-f)の下線部分にあるとおり、母体となる基板と転写基板の結合状態においてPCRを行ってもよい旨記載されている以上、引用発明において、母体となる基板と転写基板が結合した状態で複数のDNAをPCR法により増幅することは、当業者であれば容易になし得るものである。そして、母体となる基板と転写基板が結合した状態においてPCRを行えば、DNAは増幅されると同時にその増幅産物が転写基板に転写(結合)されることは明らかである。
したがって、上記相違点1は当業者が容易になし得るものである。
相違点2について:
上記相違点1で示したとおり、母体となる基板と転写基板が結合した状態で複数のDNAをPCR法により増幅すれば、DNAを含むサンプルごとに空間的に制限された(PCRの)有効領域ができることは自明のことであり、「前記有効領域は、他のサンプルの有効領域と分離する機能を有するものであり、前記有効領域は、空間的に制限された増幅薬領域を含むものであり、結合特性を供給されたキャリアの表面と接し、空間的に塞がれたキャビティによって形成される」ことは明らかである。
そして上述のとおり、上記相違点1について当業者であれば容易になし得るものであるのだから、それにより形成される有効領域に関する上記相違点2も、上記相違点1と同様に当業者が容易になし得るものである。
そして、本願発明1’の効果についても、DNAのアレイの複製を作製できるという当業者が予測できる程度の効果に過ぎない。
したがって、本願発明1’は引用例1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
第6 審判請求人の主張
平成28年7月28日付け意見書において、審判請求人は主に以下の2点を主張している。
主張1:本願発明は、複製をキャリアに結合する工程は、増幅の作製と同時に実行されることを特徴として含むものです(本願明細書段落0080、図6a~図6d)。引用例1では、図4からみても増幅と転写を同時に行うことは予定されてないことが明らかです。
主張2:本願発明は増幅およびキャリアへの転写が同時に起こる特徴を有するために、空間的に塞がれたキャビティが形成されること(閉鎖系アレイ)を特徴とし、引用例1に記載の開放系のアレイのような問題は生じません。
上記主張1,2について検討する。
主張1について:
相違点1について判断したとおり、引用例1には、審判請求人の主張する図4の態様のみならず、引用例1記載事項(1-b)及び(1-f)には母体となる基板と転写基板の結合状態においてPCRを行う態様も記載されており、このときにサンプルであるDNAは増幅されると同時にその増幅産物が転写基板に転写(結合)されることは明らかである。
よって、引用例1では増幅と転写を同時に行うことが予定されていないとする上記主張1は採用できない。
主張2について:
本願発明1における有効領域は、「空間的に塞がれたキャビティ」によって形成されるのみならず、「電場又は磁場、疎水性/親水性の領域、流体および気体間の界面、および/または、粘性の異なるレベルの液体間の界面」によっても形成されるものであって、後者によって形成される有効領域には、空間的に塞がれているものとは認められないものを明らかに包含している。そうすると、空間的に塞がれたキャビティが形成されること(閉鎖系アレイ)を特徴とするという上記主張2は、そもそも本願発明1の発明特定事項に基づいた主張ではなく、当該主張が本願発明1全体の優位性を示すものとは認められない。
さらにいえば、空間的に塞がれたキャビティが形成されること(閉鎖系アレイ)について、相違点2について判断したとおり、引用発明においても母体となる基板上に配置された各セル間にセル分離用の隔壁を設けていることから、母体となる基板と転写基板が結合した状態で複数のDNAをPCR法により増幅すれば、母体となる基板、セル分離用の隔壁及び転写基板で囲まれた、塞がれた(閉鎖系の)空間が形成されることは明らかである。
よって、上記主張2も採用できない。
第7 結び
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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