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特許拒絶査定不服審判

2014-021866

磁気ラベルを使用するトロポニンIに関するアッセイ

審判番号
2014-021866
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2011-541689外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2014年10月29日
審決日
2016年12月12日
公報発行日
2017年07月28日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (G01N) / P18 .536-WZ (G01N) / P18 .537-WZ (G01N)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項1号特許法29条2項2号
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第17条の2第5項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特願2011-541689「磁気ラベルを使用するトロポニンIに関するアッセイ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 7月 1日国際公開、WO2010/073182、平成24年 6月14日国内公表、特表2012-513586〕について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 8項目
【理 由】

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、平成21年12月15日(パリ条約による優先権主張 平成20年12月22日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願あって、平成25年5月22日付けで拒絶理由が通知され、同年11月26日付けで意見書及び手続補正書が提出され、平成26年6月25日付けで拒絶査定がされたのに対し、同年10月29日に拒絶査定不服審判の請求がなされ、それと同時に手続補正がなされたものであり、その後、当審において平成27年12月17日付けで拒絶理由を通知し、平成28年3月16日付けで意見書及び手続補正書が提出され、さらに、当審において同年4月28日付けで最後の拒絶理由を通知し、同年10月14日付けで意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2 本件発明

平成28年10月14日付け手続補正書による補正は、補正前の請求項1及び11を削除し、それに伴う請求項の番号を整理したものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものといえる。

してみれば、本願請求項1~13に係る発明は、上記平成28年10月14日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるものと認められるところ、そのうち請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
1pMの検出限界でサンプル中のトロポニンIを測定する方法であって、
サンプルを供する段階と、
前記サンプルを、磁気粒子が結合された単クローン性抗トロポニンI抗体と接触させる、第一接触段階と、
検出器表面の方向に第1の磁場を印加して、その結果、前記粒子を、前記検出器表面に結合された多クローン性抗トロポニンI抗体又は前記検出器表面に結合された少なくとも2つの異なる抗トロポニンI抗体と接触させ、その結果、前記粒子の少なくとも一部を前記検出器表面に結合させる、第二接触段階と、
前記第1の磁場の印加を中断することによってパルス状の作動力を印加して、その結果、非結合の粒子が前記検出器表面上を動くことを可能にし、前記第1の磁場を再印加し、さらに、前記第1の磁場の印加を中断して、その結果、前記検出器表面に結合された粒子の数を増やし、さらに、パルス状の作動力の印加と磁気パルスの印加とを交互にして、前記検出器表面上での前記粒子の並進及び回転移動を引き起こす、印加段階であり、前記パルス状の作動力及び磁気パルスが、5分未満の間印加される、段階と、
前記検出器表面とは逆の方向に第2の磁場を印加して、非結合の粒子を取り除き、その後、前記検出器表面上の前記磁気粒子を検出する、検出段階と、
を少なくとも含み、
前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体は、トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられ、
前記単クローン性抗トロポニンI抗体は、クローン267、560及びその組み合わせから選択される、方法。」

第3 当審の拒絶理由

当審において平成28年4月28日付けで通知した最後の拒絶理由の概要は、以下のとおりである

理由1

本件出願の請求項1~15(補正後の請求項1~13)に係る発明は、その優先権主張日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用例に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明及び周知事実に基いて、その優先権主張日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

国際公開第03/067258号(以下「引用例1」という。)

特表平2005-534907号公報(以下「引用例2」という。)

特表2005-534907号公報(以下「引用例3」という。)

理由2

本件出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

記

請求項1及び11(補正により削除)の「クローンA34500、267、560」並びに請求項2及び12(補正後の請求項1及び10)の「クローン267、560」の記載について、いずれかの人物により命名されたクローン名であり、具体的にどのような単クローン性抗トロポニンI抗体を特定しているのか明確とはいえない。

よって、請求項1及び11並びにそれらを引用する請求項2~10及び12~15(補正後の請求項1~13)の記載は、明確とはいえない。

理由3

本件出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

記

請求項1及び11(補正により削除)の「クローンA34500、267、560」並びに請求項2及び12(補正後の請求項1及び10)の「クローン267、560」と規定されているところ、上記理由2で述べたように、いかなるクローンか不明であって、当業者といえども発明を実施することは困難である。

仮に、クローンが明確であるとしても、単クローン性抗体は、特定の株のハイブリドーマにより産生される抗体であることは、技術常識である。

そして、一般に、特定の株のハイブリドーマを、周知のハイブリドーマ法により意図的に取得することは困難であるとの技術常識がある。

そして、発明の詳細な説明には、これらの単クローン性抗体を産生するハイブリドーマを再現性をもって取得する方法について記載されていないし、ハイブリドーマの寄託もなされていない。

したがって、当業者が追試をした時に、再現性をもって、単クローン性抗体であるところのクローンA34500、267及び560を取得することはできない。

第4 理由1について

1 引用例の記載事項

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(1)引用例1の記載事項

上記引用例1には、次の事項が図面と共に記載されている。(なお、下線は当審において付与し、記載中に省略箇所を含む場合は「・・・」で示した。)

(引1ア)「発明の開示

本発明によるバイオセンサは、結合した磁性分子により形成される磁場を検知するための検知素子がX行Y列(X及びYは、自然数、以下同じ)の2次元に配置されてなる磁気センサによって、前記磁性分子の量を測定することにより測定対象物の分析を行うバイオセンサであって、

前記磁気センサのセンサ面の互いに異なる領域の磁場の強さ同士を比較することにより、前記結合した磁性分子の量を特定する信号処理手段を含み、前記特定された磁性分子の量に基づいて測定対象物の分析を行うことを特徴とする。

また、前記磁気センサのセンサ面には、前記磁性分子が結合不能な基準領域が設けられており、

前記信号処理手段は、前記基準領域の磁場の強さを基準として比較を行うことを特徴とする。」(第3頁22行~第4頁4行)

(引1イ)「本発明による測定対象物の測定方法は、請求の範囲第1項から第19項のいずれかに記載のバイオセンサを用いた測定対象物の測定方法であって、

前記磁性分子として、結合する前記測定対象物と特異的に結合する分子を用い、

測定対象物に特異的に結合した前記磁性分子の量をバイオセンサを用いて特定するステップと、

前記磁性分子の量に基づいて、測定対象物の量を特定するステップと、を含むことを特徴とする。」(第7頁20行~27行)

(引1ウ)「 図1は本発明のバイオセンサを構成するセンサチップの一部の概略図を示すものである。センサチップ1は、検知素子となる半導体ホール素子と、それらの信号処理回路と、を含んで構成され、以下に説明するように製造する。

センサチップ1は、周知の技術であるCMOS(complementary mental-oxide semiconductor device)製造プロセスによりシリコン基板11上に形成される。センサチップ1表面の凹部13の下には、半導体ホール素子が形成されており、個々の半導体ホール素子の入力及び出力はゲート電極30及び金属配線4を介して行われる。

CMOS製造プロセスでシリコン基板11上に半導体ホール素子及び信号処理回路を形成した後、センサチップ1表面に抗原、抗体、DNA、RNA等の分子受容体をシランカップリング剤等を介して固定する。

次に、試料溶液をセンサチップ1表面に滴下し、抗原、抗体、DNA、RNA等の測定対象物をセンサチップ1表面の分子受容体と結合させる。更に、センサチップ1表面に抗原、抗体、DNA、RNA等を結合させた磁性体粒子を導入し、測定対象物が特異的に結合している半導体ホール素子上に特異的に結合させる。」(第9頁5行~19行)

(引1エ)「次に、図2を用いて本発明のバイオセンサの検出原理を説明する。図2は、センサチップ1の半導体ホール素子2近辺の断面を模式的に表したものである。半導体ホール素子2の表面に抗体として構成される分子受容体61が固定されている。その分子受容体61に測定対象物62が特異的に結合し、その測定対象物62に、さらに、磁性体粒子51が、抗体として構成される分子受容体63と測定対象物62との特異的結合を介して結合している。この磁性体粒子51と分子受容体63とは互いに結合して、磁性分子5を構成するものである。

センサチップ1表面に対向する位置には、上部コイルCU(第1の磁場発生手段)を配置する。上述のようにセンサチップ1表面に磁性分子が結合した状態で、裏側コイルCUに通電し磁場を発生させる。コイルの代わりに、例えば、永久磁石などを用いてもよい。図2では磁束Bが、矢印Zで示される方向に形成され、半導体ホール素子面に対して垂直であることが示されている。磁束Bは磁性体粒子51により収束されるため、磁性体粒子51が無い場合に比べて半導体ホール素子2での磁束密度は増加する。又、上部コイルにより磁場を印加するため、センサチップ1の表面から遠ざかるほど磁束密度が増加する。このため、センサチップ1表面に結合せずに浮遊している磁性分子5は上方に引き寄せられ、半導体ホール素子2により検知する磁束密度には影響しない。半導体ホール素子2の出力電圧は磁束密度に比例するため、この出力電圧により磁性分子5が半導体ホール素子2上に結合しているか否かを判定できる。

また、1つの半導体ホール素子2で複数の磁性分子の存在を検知する場合は、磁性体粒子により収束され増加する磁束密度の増分は、磁性体粒子の数に依存する為、1つの半導体ホール素子2上に結合した磁性分子の数を検知することもできる。」(第11頁26行~第12頁20行)

(引1オ)「また、本実施の形態においては、センサチップ1の裏側にも、下部コイルCD(第2の磁場発生手段)を配置する。この下部コイルCDは、磁性分子の検知するためではなく、磁性分子をセンサチップ1表面に近づけるための磁場を発生するものである。永久磁石などを用いてもよい。下部コイルCDは、センサチップ1への磁性分子の導入時に、通電して磁場を発生させるようにする。このセンサチップ1表面からの距離の増加に応じて磁束密度が減少するように形成された磁場により、磁性分子がセンサチップ1表面に引き寄せられて、磁性体粒子がセンサチップ1表面に結合する時間が短縮される。」(第12頁20行~27行)

(引1カ)「 図6には、バイオセンサ全体の構成が示されている。バイオセンサは、試料溶液を投入、測定を行うためのセンサチップ1と、センサチップ1と信号を交換する測定装置本体とを含んで構成される。センサチップ1上には、半導体ホール素子アレイ9、アレイ選択回路71、増幅回路81を搭載する。その他の制御回路82、例えば、センサチップの制御を行うためのセンサチップ制御回路、ホール素子からの出力信号を処理する信号処理回路等、は、測定装置本体側に搭載する。センサチップ1は1回の測定毎に新たなものと取り替える。」(第15頁1行~7行)

(引1キ)「(第3の実施形態)

次に、図9を用いて本発明の第3の実施形態にかかるバイオセンサの検出原理を説明する。図9は、センサチップ1の半導体ホール素子2近辺の断面を模式的に表したものである。半導体ホール素子2の表面に抗体として構成される分子受容体61が固定されている。その分子受容体61に測定対象物62が特異的に結合している。さらに、その測定対象物62には、磁性体粒子51が、抗体として構成される分子受容体63と測定対象物62との特異的結合を介して結合している。この磁性体粒子51と分子受容体63とは互いに結合して、磁性分子5を構成するものである。

センサチップ1表面を下向きに配置し、裏側コイルCR(第2の磁場発生手段)を設置する。裏側コイルCRにより発生する磁場を、磁性分子がセンサチップ1表面に引き付けるのに十分な強さに設定する。磁性分子の一部は図9に示すように、センサチップ1表面に結合する。この状態で、センサチップ1表面に結合せずに浮遊している磁性分子が重力により下方へ沈む程度に裏側コイルCRにより発生する磁場を弱める。

図9では磁束Bが、矢印Z2で示される方向に形成され、半導体ホール素子面に対して垂直であることが示されている。磁束Bは磁性体粒子51により収束されるため、磁性体粒子51が無い場合に比べて半導体ホール素子2での磁束密度は増加する。このとき下方へ沈んだ磁性分子5は半導体ホール素子2により検知する磁束密度には影響しない。半導体ホール素子2の出力電圧は磁束密度に比例するため、この出力電圧により磁性分子5が半導体ホール素子2上に結合しているか否かを判定できる。」(第20頁16行~第21頁8行)

(引1ク)「 また、本実施の形態においては、裏側コイルCRは、センサチップ1への磁性分子の導入時、磁性分子がセンサチップ1表面に引き寄せられるだけ十分な強さの磁場を、間欠的に発生させ、磁性粒子を上下に動かして撹拌することにより測定対象物と磁性粒子が結合する速度を高め、更に、測定対象物と結合した磁性粒子が磁気センサ表面に固定された分子受容体と結合する速度を高めることが望ましい。

この第3の実施形態におけるコイルにより磁性分子に加える磁場の様子は、図10に示されている。

先ず磁性分子を攪拌し分子受容体と測定対象物との反応を促進する。この撹拌開始T1から撹拌終了T2までの間に、裏側コイルCRによって磁性分子を引き付けるに十分な程度に強い磁場強度B1の磁場を間欠的に印加する。同図では発生する磁場は両極であるが、単極でも良い。反応終了後、測定ステップ(測定開始T3から測定終了T4まで)では、磁性分子の磁化が飽和しない程度の磁場強度B2の弱い交流磁場を裏側コイルCRにより発生させ、全ての磁気センサの信号を測定する。

次に、図11のフローチャートを用いて、本発明の第3の実施形態にかかるバイオセンサ全体の回路動作について説明する。バイオセンサ全体の構成は、図6と同じであるが、同図の増幅回路81は、更に、半導体ホール素子の出力信号のうち周波数成分のみを取り出すための検波回路を含んで構成されている。

ステップS301においては、測定対象物及び磁性体粒子を含む磁性分子をセンサチップに導入した状態で、裏側コイルに間欠電流を流し磁場を発生させ、電流が流れている間はセンサチップ表面に磁性分子を引き付ける。

ステップS302においては、予め設定した磁性分子のセンサチップ表面への結合が完了する時間に至るまで、再びステップS301に移行し、ステップS301~S302までのステップを繰り返す。

ステップS303においては、裏側コイルによる磁場をOFFする。

ステップS304においては、裏側コイルに交流電流を流すことにより交流磁場を印加する。

ステップS305においては、各々のホール素子の出力信号を取得する。具体的には、・・・印加される磁場の周波数に対応する周波数成分のみを取り出すための検波回路を内蔵する。検波回路により取り出され、増幅された出力信号はメモリ83に保存される。

ステップS306においては、上述のように、出力信号を取得すべき全てのホール素子から信号を取得したか否か判断し、取得していない場合には、再びステップS305に移行する。これにより、全てのホール素子における出力信号を取得する。

ステップS307においては、裏側コイルの磁場をOFFする。

ステップS308においては、ステップS305において取得した各々のホール素子における出力値をメモリ83から取り出し、信号処理回路82において、分子受容体を表面に備えていない、すなわち基準領域に配置されたホール素子と分子受容体を表面に備えたホール素子の出力値を比較する。分子受容体を表面に備えたホール素子は磁性分子が結合していない場合、基準領域のホール素子と出力値が同レベルとなる。磁性分子が結合している場合、磁性分子により磁束が収束されているため出力値が大きくなる。

全ての分子受容体を表面に備えたホール素子について、分子受容体を表面に備えないホール素子と出力値を比較することにより、センサチップ上に結合している磁性分子の数を特定することができる。」(第21頁9行~第23頁2行)

(引1ケ)「また、磁場を利用してセンサ表面に未結合の磁性分子をセンサ表面から遠ざけることにより、定量の際に磁気センサ表面に結合せずに浮遊する磁性分子を洗い流す操作をすることなく、迅速にかつ正確に測定を行うことができる。

未結合の磁性分子を磁石等により除去後、測定を行うこととしてもよいが、センサ表面を下側に向けてバイオセンサを構成することにより、未結合分子の隔離と、測定を同時におけなうことができ、なおかつ、測定時に印加すべき磁場強度を飽和しない程度に抑制することができ、これにより、より大きなホール素子からの出力値を得ることができる。

更に、磁気センサ表面に磁性分子を引き寄せる磁場発生手段を設けることにより、磁性分子の磁気センサ表面への結合を早めて、測定時間を短縮することができる。」(第29頁11行~21行)

(引1コ)「また、磁気センサと、選択手段と、信号増幅回路とを、1チップ上に形成することにより、磁気センサを小型化すると共に、試料溶液に応じて磁気センサを取り替えて使用することができる。」(第29頁22行~24行)

(引1サ)引用例1のバイオセンサの検出原理を説明する図2として、以下の図面が記載されている。

(2)引用例1記載の発明

ア 引用例1に記載された第3の実施形態(引1キ)では、「磁性体粒子51が、抗体として構成される分子受容体63」、「この磁性体粒子51と分子受容体63とは互いに結合」と記載されているように、『抗体として構成される分子受容体63が結合されている磁性体粒子51』があることが理解される。

イ 引用例1に記載された第3の実施形態(引1キ)~(引1ク)では、試料溶液の投入手段について具体的に言及されていないが、「測定対象物と結合した磁性粒子が磁気センサ表面に固定された分子受容体と結合する速度を高めることが望ましい」(引1ク)との記載があり、この「測定対象物と結合した磁性粒子」とあるから、「測定対象物を含む試料溶液が、分子受容体63を結合した磁性体粒子51を測定対象物62と結合すべくセンサーチップ1に投入される試料溶液投入段階」があることは明らかである。

その結果、『投入された試料溶液中の測定対象物62と該磁性体粒子51とが結合し、測定対象物と結合した磁性体粒子51となる段階』があることは自明なことである。

ウ 「また、本実施の形態においては、裏側コイルCRは、センサチップ1への磁性分子の導入時、磁性分子がセンサチップ1表面に引き寄せられるだけ十分な強さの磁場を、間欠的に発生させ、磁性粒子を上下に動かして撹拌することにより測定対象物と磁性粒子が結合する速度を高め、更に、測定対象物と結合した磁性粒子が磁気センサ表面に固定された分子受容体と結合する速度を高めることが望ましい。この第3の実施形態におけるコイルにより磁性分子に加える磁場の様子は、図10に示されている。」(引1ク)との記載に照らし、図10を参酌すると、『裏側コイルCRによる磁場の間欠的印加は、パルス状に磁場印加と中断を交互操作』することは明らかである。

エ さらに、非結合の粒子と検出との関係については、上記(引1キ)に「磁性分子の一部は図9に示すように、センサチップ1表面に結合する。この状態で、センサチップ1表面に結合せずに浮遊している磁性分子が重力により下方へ沈む程度に裏側コイルCRにより発生する磁場を弱める。

図9では磁束Bが、矢印Z2で示される方向に形成され、半導体ホール素子面に対して垂直であることが示されている。磁束Bは磁性体粒子51により収束されるため、磁性体粒子51が無い場合に比べて半導体ホール素子2での磁束密度は増加する。このとき下方へ沈んだ磁性分子5は半導体ホール素子2により検知する磁束密度には影響しない。」と記載されているように、『非結合の磁性体粒子は重力により下方に沈んで分離された後、センサチップ表面上の磁性体粒子を検出する、検出段階』があることが理解される。

オ そして、引用例1に記載された第3の実施形態(引1キ)~(引1ク)では、「測定対象物を測定する方法」という具体的な言及はないが、上記の第3の実施形態のバイオセンサについて、上記(引1キ)に図9を用いて、いわゆるサンドイッチ法の測定原理が説明されているし、上記(引1イ)にも、「本発明による測定対象物の測定方法は、請求の範囲第1項から第19項のいずれかに記載のバイオセンサを用いた測定対象物の測定方法であって、

前記磁性分子として、結合する前記測定対象物と特異的に結合する分子を用い、

測定対象物に特異的に結合した前記磁性分子の量をバイオセンサを用いて特定するステップと、

前記磁性分子の量に基づいて、測定対象物の量を特定するステップと、を含むことを特徴とする。」と記載されているように、『測定対象物を測定する方法』が記載されていることは明らかである。

カ これらの点を勘案して整理すると、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる。

なお、参考として、引用発明の認定の根拠となる摘記箇所を付記する。

「(a)半導体ホール素子2の表面に抗体として構成される分子受容体61が固定されたセンサーチップ(引1ウ)において、
(b)抗体として構成される分子受容体63が結合されている磁性体粒子51(上記アの『』の記載参照)を用意し、
測定対象物を含む試料溶液が、分子受容体63を結合した磁性体粒子51と測定対象物とを結合すべくセンサーチップ1に投入される試料溶液投入段階(上記イ参照)、
(c)投入された試料溶液中の測定対象物62と該磁性体粒子51とが結合し、測定対象物と結合した磁性体粒子51となる段階(上記イの『』の記載参照)、
(d)センサーチップ1の裏側コイルCRは、センサチップ1への磁性体粒子の導入時、磁性体粒子がセンサチップ1表面に引き寄せられるだけ十分な強さの磁場を、間欠的に発生させ、磁性体粒子を上下に動かして撹拌することにより測定対象物と磁性体粒子が結合する速度を高め、更に、測定対象物と結合した磁性体粒子が磁気センサ表面に固定された分子受容体と結合する速度を高め(引1ク)、
前記裏側コイルCRによる磁場の間欠的印加は、パルス状に磁場印加と中断を交互操作(上記ウの『』の記載参照)によるものである、印加段階と、
(e)非結合の磁性体粒子は重力により下方に沈んで分離された後、センサチップ表面上の磁性体粒子を検出する、検出段階(上記エの『』の記載参照)と、
を少なくとも含む、
(f)測定対象物を測定する方法(上記オの『』の記載参照)。」(以下「引用発明」という。)

(3)引用例2の記載事項

引用例2には、次の事項が図面と共に記載されている。

(引2ア)「【請求項40】

患者が心筋梗塞に罹患しているか否かを判定する方法であって、

(a)心筋梗塞の罹患が疑われる患者からのサンプルを、少なくとも2種の抗体を結合した表面に適用するステップであって、少なくとも2種の抗体がcTnI上の少なくとも2種の異なるエピトープと結合可能であり、少なくとも2種の抗体の少なくとも1種がcTnIの派生型上の少なくとも1種の異なるエピトープと結合可能であり、cTnIの少なくとも1種のエピトープは該派生型上の結合に利用不可能である、上記ステップ;

(b)cTnI及び該派生型上のまた別のエピトープと結合する第3抗体を含む試薬を添加するステップ;並びに

(c)第3抗体の結合の程度を測定するステップ、

を含む、上記方法。」

(引2イ)「【0004】

心臓トロポニンI(「cTn1」)は、現在、MI後に極めてすぐに血清中で検出可能であり、かつMI発症後2~3日を超えて存在する正確な心臓特異的生物学的パラメーターとして使用される。トロポニンは、心臓組織中に3種のサブユニットの複合体として:すなわち、トロポニンT(「TnT」)、トロポミオシン結合サブユニット;トロポニンC(「TnC」)、Ca2+結合サブユニット;及びトロポニンI(「TnI」)、アクトミオシンMg2+ATPアーゼを阻害するサブユニットとして存在する。TnIは、心筋及び横紋筋にカルシウム感受性を与える細いフィラメントの調節タンパク質である。

【0005】

ヒトトロポニンIは、3種のイソ型、すなわち、2種の骨格筋イソ型(速筋及び遅筋)(MW=19.8kDa)、及びN末端上に追加の31残基を有して23kDaの分子量となる心臓TnIイソ型(「cTnI」)(209アミノ酸)に存在する。心臓TnIは、それがイソ型のみで存在する場合には、独特に心筋中に位置している。心臓TnIは、ヒト血清中にMI後に急速(約4~6時間以内)に出現する。それは18~24時間後にピークレベルに達し、6~10日まで血流中で上昇したレベルを維持する。結果として、心筋から循環中に放出されたcTnIは、心筋障害に極めて特異的である。

【0006】

血中の上昇したcTnIレベルは、MIの診断、並びに他の心臓関連事象及び疾患との識別に使用することができる。ヒトcTnIを正確に検出可能なイムノアッセイ系は、MIの発症を診断するための医学界に役立つであろう。・・・

【0007】

心臓TnIは、タンパク質分解的切断、リン酸化、化学的酸化、化学的還元、アミノ酸残基の切断、及びアミノ酸部分の化学的修飾等の修飾の結果として、血中に複数の派生型(subform)として存在する。例えば、アミノ酸1~25及び150~209は、タンパク質分解の結果として、血清中のcTnI派生型上には一般的に見出されない。」

(引2ウ)「【0010】

cTnIのためのELISAアッセイの開発において、使用する抗体及び酵素試薬の最適化に多くの努力が費やされた。しかしながら、エピトープが、血清中に存在するcTnIの多くの派生型上の結合及び他のタンパク質との複合体形成に利用不可能であるという可能性は、cTnIの検出を著しく困難にし、現在のELISA試薬がサンプル中の実際のcTnIレベルを過少評価する原因となる。さらに、結合に利用可能な異なるエピトープを有するcTnIの多くの異なる派生型は、現在のELISAアッセイがサンプルからサンプルへの、試薬セットから試薬セットへの、そして時間の関数としての著しく異なる結果を与える原因となる。

【0011】

従って、急性疾患事象、特にMIを診断するために、臨床マーカー及びその派生型、特にcTnIを検出する方法を開発する必要がある。本発明はこの必要を満たすものであり、かつ臨床マーカー及びその派生型、特にcTnIを検出するための試薬、キット及び装置を提供する。」

(引2エ)「【0020】

図4は、2種以上の捕捉抗体(Ab1及びAb2)及び1種のシグナル抗体(Ab3)を用いる、目的の分析物(An)及びその派生型を検出するための改変サンドイッチアッセイを示す。このアッセイは、該分析物、並びにシグナル抗体のための少なくとも1種のエピトープ(e3)及び捕捉抗体のための少なくとも1種のエピトープ(e1又はe2)を有する該分析物の全ての派生型の存在を検出することができる。結合のための全てのエピトープは、抗体と結合したものとして示されている。しかしながら、分析物及びその派生型は、1種だけの捕捉抗体及び検出対象の1種のシグナル抗体と結合することが必要である。」

(引2オ)「【0054】

4.抗体

本発明の抗体は、目的の分析物又はその派生型上の結合に利用可能なエピトープと特異的に結合する任意の抗体であってよい。本発明の抗体は、IgG、IgM,IgA、IgD及びIgEのクラス、並びにFab、F(ab’)2及び一本鎖抗体を含むそのフラグメント及び誘導体を包含する。本発明の抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、アフィニティー精製抗体、又はその混合物であって分析物又はその派生型のエピトープに十分な結合特異性を示すものを包含する。」

(引2カ)「【実施例3】

【0096】

cTnI捕捉抗体を用いたELISAセンサーの調製

下記方法を用いて、ELISAセンサー上に抗体標識化粒子の固定化層を含む分析物検出器を作製した。簡単に述べると、酸化ケイ素ウエハーについての慣用の半導体薄層技術を用いて、分析物検出器に用いる電流センサーを製造する。米国特許第5,554,339号に記載の方法を用いて、実施例1に記載した捕捉抗体の溶液を微細分散することにより、cTnI捕捉領域を生成する。この粒子含有懸濁液の液滴を乾燥させて、該センサー表面上にcTnI捕捉領域を形成する。これらのセンサーチップを別個の電子化学的接地用チップと共に、レーザー切断してセンサー、接地用チップ及び液体チャンネルのための開口部を有する、両面テープガスケットで覆われたプラスチック底板に取り付ける。この底板アセンブリーにプラスチックカバーを加えて液体用導管を形成する。実施例2の酵素標識化シグナル試薬を、捕捉抗体として同一ELISAセンサー上に印刷する。PBS及び保存剤を含む1%~50%糖溶液中でシグナル試薬を製剤化する。この組成物は、血液サンプル中へのシグナル試薬の速やかな溶解をもたらすことが認められた。組み立てたカートリッジを成形して、携帯用電子化学的分析器に使用できる使い捨てカートリッジを得る。」

(引2キ)図4として、以下の図面が記載されている。

2 対比・判断

(1)対比

ア 本件発明1と引用発明とを対比するにあたり、便宜的に本件発明1の記載を次のように、当審において箇条書き化して、対比する。

「【請求項1】
(A)1pMの検出限界でサンプル中のトロポニンIを測定する方法であって、
(B)サンプルを供する段階と、
(C)前記サンプルを、磁気粒子が結合された単クローン性抗トロポニンI抗体と接触させる、第一接触段階と、
(D)検出器表面の方向に第1の磁場を印加して、その結果、前記粒子を、前記検出器表面に結合された多クローン性抗トロポニンI抗体又は前記検出器表面に結合された少なくとも2つの異なる抗トロポニンI抗体と接触させ、その結果、前記粒子の少なくとも一部を前記検出器表面に結合させる、第二接触段階と、
(E)前記第1の磁場の印加を中断することによってパルス状の作動力を印加して、その結果、非結合の粒子が前記検出器表面上を動くことを可能にし、前記第1の磁場を再印加し、さらに、前記第1の磁場の印加を中断して、その結果、前記検出器表面に結合された粒子の数を増やし、さらに、パルス状の作動力の印加と磁気パルスの印加とを交互にして、前記検出器表面上での前記粒子の並進及び回転移動を引き起こす、印加段階であり、前記パルス状の作動力及び磁気パルスが、5分未満の間印加される、段階と、
(F)前記検出器表面とは逆の方向に第2の磁場を印加して、非結合の粒子を取り除き、その後、前記検出器表面上の前記磁気粒子を検出する、検出段階と、
を少なくとも含み、
(G)前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体は、トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられ、
(H)前記単クローン性抗トロポニンI抗体は、クローン267、560及びその組み合わせから選択される、方法。」

イ 本件発明1(A)の特定事項について

引用発明(f)の「測定対象物」は、特定の物質に限定されておらず、本件発明1の「トロポニンI」とは、「測定対象物」という点で共通する。

引用発明(b)の「測定対象物を含む試料溶液」は「測定対象物」を含むものであって、本件発明1(A)の「サンプル中のトロポニンI」とは、「サンプル中の測定対象物」という点で共通する。

また、引用発明は、検出限界を規定していない。

そうすると、引用発明の「試料溶液」に含まれた「(f)測定対象物を測定する方法」と、本件発明1(A)の「1pMの検出限界でサンプル中のトロポニンIを測定する方法」とは、「サンプル中の測定対象物を測定する方法」という点で共通する。

ウ 本件発明1(B)の特定事項について

引用発明(b)の「測定対象物を含む試料溶液が、・・・センサーチップ1に投入される試料溶液投入段階」は、本件発明1の「(B)サンプルを供する段階」に相当する。

エ 本件発明1(C)、(H)の特定事項について

引用発明の「(c)投入された試料溶液中の測定対象物62と該磁性体粒子51とが結合し、測定対象物と結合した磁性体粒子51となる段階」と、本件発明1の「(C)前記サンプルを、磁気粒子が結合された単クローン性抗トロポニンI抗体と接触させる、第一接触段階」で「前記単クローン性抗トロポニンI抗体は、クローン267、560及びその組み合わせから選択される」ものであることとは、「(C’)前記サンプルを、磁気粒子が結合された抗-測定対象物抗体と接触させる、第一接触段階」である点で共通する。

オ 本件発明1(D)、(E)の特定事項について

(オ-1)引用発明の

「(d)センサーチップ1の裏側コイルCRは、センサチップ1への磁性体粒子の導入時、磁性体粒子がセンサチップ1表面に引き寄せられるだけ十分な強さの磁場を、間欠的に発生させ、磁性体粒子を上下に動かして撹拌することにより測定対象物と磁性体粒子が結合する速度を高め、更に、測定対象物と結合した磁性体粒子が磁気センサ表面に固定された分子受容体と結合する速度を高め、
前記裏側コイルCRによる磁場の間欠的印加は、パルス状に磁場印加と中断を交互操作によるものである、印加段階」

では、「センサーチップ1の裏側コイルCR」が、「センサチップ1への磁性体粒子の導入時、磁性体粒子がセンサチップ1表面に引き寄せられるだけ十分な強さの磁場」を、先ず発生させ、その結果、前記の「測定対象物と結合した磁性体粒子」の少なくとも一部は、前記「磁気センサ表面に固定すなわち結合された分子受容体」(抗体)と接触させられ、その結果、前記磁性体粒子の少なくとも一部を前記「磁気センサ表面」に結合させる、第二接触段階が存在することは明らかである。

(オ-2)また、パルス状に磁場印加と中断を交互操作する上記磁場の間欠的印加は、「磁性体粒子を上下に動かして撹拌する」ものであるから、上記磁場の印加のパルス状の中断によって、磁性体粒子がセンサチップ1表面(磁気センサ表面)に引き寄せられる作用もパルス状になくなり、非結合の粒子が前記検出器表面上を動くことを可能にし、前記第1の磁場を再印加し、さらに、前記第1の磁場の印加を中断すると、非結合粒子は該表面上を動くことのできる力や該表面から遠ざかる方向へ動く力、すなわち作動力が結果的にパルス状に印加されるものと認められる。しかも、その作用は、「磁性体粒子を上下に動かして撹拌することにより測定対象物と磁性体粒子が結合する速度を高め、更に、測定対象物と結合した磁性体粒子が磁気センサ表面に固定された分子受容体と結合する速度を高め」るものであるから、その結果、前記センサチップ表面(磁気センサ表面)に結合された前記粒子の数は、当然増加すると認められる。

(オ-3)そうすると、引例発明の「(d)センサーチップ1の裏側コイルCRは、センサチップ1への磁性体粒子の導入時、磁性体粒子がセンサチップ1表面に引き寄せられるだけ十分な強さの磁場を、間欠的に発生させ、磁性体粒子を上下に動かして撹拌することにより測定対象物と磁性体粒子が結合する速度を高め、更に、測定対象物と結合した磁性体粒子が磁気センサ表面に固定された分子受容体と結合する速度を高め、

前記裏側コイルCRによる磁場の間欠的印加は、パルス状に磁場印加と中断を交互操作によるものである、印加段階」は、本件発明1の「(D)検出器表面の方向に第1の磁場を印加して、その結果、前記粒子を、前記検出器表面に結合された多クローン性抗トロポニンI抗体又は前記検出器表面に結合された少なくとも2つの異なる抗トロポニンI抗体と接触させ、その結果、前記粒子の少なくとも一部を前記検出器表面に結合させる、第二接触段階と、

(E)前記第1の磁場の印加を中断することによってパルス状の作動力を印加して、その結果、非結合の粒子が前記検出器表面上を動くことを可能にし、前記第1の磁場を再印加し、さらに、前記第1の磁場の印加を中断して、その結果、前記検出器表面に結合された粒子の数を増やし、さらに、パルス状の作動力の印加と磁気パルスの印加とを交互にして、前記検出器表面上での前記粒子の並進及び回転移動を引き起こす、印加段階」と、

「(D’)検出器表面の方向に第1の磁場を印加して、その結果、前記粒子を、前記検出器表面に結合された抗-測定対象物抗体と接触させ、その結果、前記粒子の少なくとも一部を前記検出器表面に結合させる、第二接触段階と、
(E’)前記第1の磁場の印加を中断することによってパルス状の作動力を印加して、その結果、非結合の粒子が前記検出器表面上を動くことを可能にし、前記第1の磁場を再印加し、さらに、前記第1の磁場の印加を中断して、その結果、前記検出器表面に結合された粒子の数を増やし、さらに、パルス状の作動力の印加と磁気パルスの印加とを交互にする、印加段階」を有する点で共通する。

(オ-4)そして、引用発明には、前記印加段階が、前記検出器表面上での前記粒子の並進及び回転移動を引き起こす、印加段階であって、その前記パルス状の作動力及び磁気パルスが、5分未満の間印加される段階であることは特定されていない。

カ 本件発明1(F)の特定事項について

引用発明の「(e)非結合の磁性体粒子は重力により下方に沈んで分離された後、センサチップ表面上の磁性体粒子を検出する、検出段階」は、本件発明1の「(F) 前記検出器表面とは逆の方向に第2の磁場を印加して、非結合の粒子を取り除き、その後、前記検出器表面上の前記磁気粒子を検出する、検出段階」とは、共に「(F’)非結合の粒子を分離した後、前記検出器表面上の前記磁気粒子を検出する、検出段階」である点で共通する。

キ 本件発明1(G)の特定事項について

引用発明には、前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体がどのようなものか、特定されていない。

ク 以上のことを総合すると、両発明の間には、次の(一致点)及び(相違点1)~(相違点5)がある。

(一致点)

「(A’)サンプル中の測定対象物を測定する方法であって、
(B)サンプルを供する段階と、
(C’)前記サンプルを、磁気粒子が結合された抗-測定対象物抗体と接触させる、第一接触段階と、
(D’)検出器表面の方向に第1の磁場を印加して、その結果、前記粒子を、前記検出器表面に結合された抗-測定対象物抗体と接触させ、その結果、前記粒子の少なくとも一部を前記検出器表面に結合させる、第二接触段階と、
(E’)前記第1の磁場の印加を中断することによってパルス状の作動力を印加して、その結果、非結合の粒子が前記検出器表面上を動くことを可能にし、前記第1の磁場を再印加し、さらに、前記第1の磁場の印加を中断して、その結果、前記検出器表面に結合された粒子の数を増やし、さらに、パルス状の作動力の印加と磁気パルスの印加とを交互にする、印加段階と、
(F’)非結合の粒子を分離した後、前記検出器表面上の前記磁気粒子を検出する、検出段階と、
を少なくとも含む、方法。」

(相違点1)

本件発明1が、「1pMの検出限界でサンプル中のトロポニンIを測定する方法」であるのに対し、引用発明は、測定対象物とその検出限界を特定しているものではない点。

(相違点2)

(C’)及び(D’)において、本件発明1では、磁気粒子に結合された抗-測定対象物抗体が「クローン267、560及びその組み合わせから選択される」「単クローン性抗トロポニンI抗体」であって、検出器表面に結合された抗-測定対象物抗体が「多クローン性抗トロポニンI抗体」又は「少なくとも2つの異なる単クローン性抗トロポニンI抗体」であるのに対し、引用発明では、磁気粒子及び検出器表面に結合する抗-測定対象物抗体について特に特定されていない点。

(相違点3)

(E’)のパルス状の作動力の印加と磁気パルスの印加とを交互にする、印加段階が、本件発明1では、「前記検出器表面上での前記粒子の並進及び回転移動を引き起こす、印加段階であり、前記パルス状の作動力及び磁気パルスが、5分未満の間印加される、段階」であるのに対し、引用発明では、前記印加段階が、前記検出器表面上での前記粒子の並進及び回転移動を引き起こす、印加段階であって、また印加時間についても、その前記パルス状の作動力及び磁気パルスが、5分未満の間印加される段階であることは特定されていない点。

(相違点4)

(F’)の検出段階の前の非結合粒子の分離が、本件発明1では、「前記検出器表面とは逆の方向に第2の磁場を印加して、非結合の粒子を取り除」くものであるのに対し、引用発明では、重力により下方に沈んで分離されるものである点。

(相違点5)

前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体が、本件発明1では、(G)のように「トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられる」ものであるのに対し、引用発明では、それらの抗体(分子受容体)についてそのような特定がない点。

(2)判断

ア 相違点について

(ア)相違点2について

トロポニンIの測定については、上記(引2ウ)にも指摘されている問題点の解決のために、固体表面に結合した少なくとも2種の捕捉抗体を、標識と結合したそれらとは別の第3の抗体をシグナル抗体として使用する、改変したサンドイッチアッセイで測定することが、引用例2に記載されている((引2ア)、(引2エ)、図4参照。)。 そして、上記(引2オ)に、それらの抗体としてモノクローナル抗体、すなわち単クローン性抗体、ポリクローナル抗体、すなわち多クローン性抗体を使用することが記載されている。

また、「クローン267、560」について、平成28年10月14日付け意見書に「『クローン267、560』のサプライヤーであるHytest社のポリクローナル抗体のデータシートを示す添付資料において、Expiry dateは2008年7月となっております。このデータシートが示しますように、Hytest社から入手致しましたポリクローナル抗体等は、本願優先権主張日(2008年12月22日)前にはHytest社から販売されております。Hytest社のURL(https://shop.hytest.fi/product/troponin-i-cardiac-antibody)も併せてご参照ください。以上のように、クローン267、560という名称は本発明者等が任意に命名したクローン名ではなく、市販されている抗体の名称として流通されております」と記載されており、クローン267、560が記載されている上記URLが本願優先権主張日前のものかどうか確認できないものの、社会通念上、市販されているクローンの名称が同じで販売時期によって中身が違うということもないことから、本件発明1における「クローン267、560」は本願優先権主張日前に市販されている周知なものと認められる。

ところで、あるタンパク質に存在する同じエピトープを認識する2種類の抗体があると、2種の抗体は1つのエピトープを奪い合い、同時に2種類の抗体がタンパク質に結合できないことは当たり前のことである。

これを裏付けるように、目的のタンパク質の検出に、下記周知例Eに記載されているように一般に、プレート等に固定化された特異的な抗体と結合し、異なったエピトープを認識する2次抗体によって検出されるものも市販されている。

引用発明において、トロポニンIを検出するため、入手しやすい市販のトロポニンI単クローン抗体であるところの、異なったエピトープを持つ、クローン267、560を採用し、相違点2に記した本件発明1の特定事項のごとくすることは、当業者にとって何の困難性も無くなし得ることである。

周知例E:「 プロメガ製品 Q&A ~免疫・抗体~」、[online]、2005.05.18、検索日[2016.04.26 ]、インターネット<url:https://web.archive.org/web/20050518022624/http://www.promega.co.jp/jp/jp_tech/FAQs/Q&A_EmaxELISA.htm >

「Emax(R)[当審注:「(R)は、○のなかにRを入れた文字を表す。以下同様である。] ImmunoAssay Systemとはどのようなキットですか?

プロメガのEmax(R) ImmunoAssay Systemは、血清、細胞培養上清、組織抽出液などの生物サンプルに含まれるBDNF、GDNF、NGF、NT-3、TGFβ1、TGFβ2の定量を行えます。

Emax(R) ImmunoAssay Systemでは感度と特異性を上げるために、2種類の抗体を使ったサンドイッチELISA法を採用しています。この方法では、目的のタンパク質は、あらかじめプレートに固定化された特異的な抗体と結合し、異なったエピトープを認識する2次抗体によって検出されます。ELISAの結果がウェスタンブロットやmRNAの解析結果と一致した場合、特異的なタンパク質の発現についてより確証のあるデータを得ることができます。

Emax(R) ImmunoAssay Systemは非常に高感度で、1mLのサンプル当たりpg単位のタンパク質を認識できます。それぞれのEmax(R) Systemには認識および検出用の抗体、酵素標識した二次抗体、ブロッキング試薬、ペルオキシダーゼ用発色基質TMBが400サンプル分含まれています。」(1頁最初のQ&A)

そうすると、引用発明をトロポニンIの測定方法とした場合に引用例2に記載されたサンドイッチ法における抗体の使用態様を適用して、引用発明では測定対象物を測定するための「標識」であることが明らかな磁気粒子に結合された抗-測定対象物抗体を、上記市販されて周知な「クローン267、560及びその組み合わせから選択される」「単クローン性抗トロポニンI抗体」とし、少なくとも2種の抗体を結合する必要のある検出器表面に結合された捕捉抗体として、「少なくとも2つの異なる単クローン性抗トロポニンI抗体」を使用するようにする程度のことは、当業者であれば適宜採用する範囲内の事項にすぎない。

(イ)相違点1について

トロポニンIは、引用例2の上記(引2イ)にも記載されているように、その血中レベルの測定が臨床的に重要な測定対象物であるから、引用発明における測定対象物として、トロポニンIを選択するようなことは、当業者が適宜なし得る事項である。

そして、測定における検出限界は、同じ測定方法であっても使用する検出器が高性能であればより低い値まで検出限界を下げることが可能なものであるし、単クローン抗体を使用することによっても検出限界は向上できることは技術常識である。

引用例1のセンサチップの検出器である半導体ホール素子は磁性体粒子の数を検知できる検出性能を有する(上記(引1エ)、(引1ク)参照)ものであるとともに、検出性能向上は自明な課題であるから、引用発明のトロポニンIが抗体を介して結合した磁性体粒子の数に基づきトロポニンIを検出する測定方法において、検出限界を1pMで目指して向上させることにも、格別の困難性は認められない。

ちなみに、後記の周知例A:国際公開第2007/114947号の請求項6に記載の測定方法においても、「detecting said troponin at a level of detection of less than about 20 pg/ml」(当審訳:前記トロポニンを20pg/ml未満のレベルで検出)、すなわち上記(引2イ)記載の分子量からすると、1pM未満の検出限界で測定できることが知られている。

(ウ)相違点3について

引用発明の(d)の磁場を、間欠的に発生させ、磁性体粒子を上下に動かして撹拌する印加段階においても、液体に粒子が混在している状態での磁性体粒子を上下に動かして撹拌する「撹拌」において、該粒子の周囲には液体も存在し、その共存液体も該粒子の動きにより乱されるものと認められるし、液体の動き自体は磁場の印加方向にも磁場印加の有無にも関係なく継続することを勘案すると、引用発明においても、(d)の印加段階において、該粒子にも周囲の液体の動きが影響し、該粒子の移動が磁場印加方向である上下動のみの並進移動だけが生じるのでなく、回転移動も併せて生じていると理解するのが自然のことである。

また、その際のパルス状の作動力及び磁気パルスの、5分未満という印加時間の特定も、適宜設計し得る事項にすぎない。

(エ)相違点4について

検出段階の前の非結合粒子の分離を、磁石等により除去することも、上記(引1ケ)に記載されているし、センサチップ表面の裏側に分子受容体(抗体)を結合している磁性体粒子(磁気粒子)をセンサチップ表面に近づけるための下部コイルを配置するとともに、センサチップ表面に結合しない磁性体粒子を引き寄せる上部コイルを配置することも、引用発明とは別の実施態様として、上記(引1エ)、(引1オ)に記載されている。

そうすると、検出段階の前の非結合粒子の分離を重力を利用して分離する引用発明を、検出器(センサチップ)表面の方向に磁気粒子を結合させるための第1の磁場を印加する検出器表面の裏側に配置した裏側コイルに加えて、検出器表面の上方に検出器表面方向とは逆方向に非結合の磁気粒子を引きつけて検出段階の前の非結合粒子の分離を行う第2の磁場印加手段を設けて、非結合分子を取り除き、その後、該検出器表面上のそこに結合された磁気粒子を検出する、検出段階に設計変更するようなことも、当業者が必要に応じてなし得る事項である。

(オ)相違点5について

(オ-1)本件発明1の「(G)前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体は、トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられ」るとの規定は、前記抗体、すなわち、(H)で規定される前記単クローン性抗トロポニンI抗体「クローン267、560」の性質を規定していると解される。

上記「(ア)相違点2について」で検討したように、引用発明において、市販のクローン267、560を採用すれば、必然的に本件発明1の「(G)前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体は、トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられ」るように構成されることとなる。

(オ-2) 附言

a)なお、本願明細書の段落【0028】の「好ましい実施形態において、本発明による抗体は、トロポニンI分子の、アミノ酸配列30-110、より好ましくは80-110に方向付けられる(directed)。これは、その分子の安定な部分である。好ましくは、選択されたエピトープは、ヘパリン化されたサンプルからの干渉をもたらすであろう、ヘパリン結合性に関して知られている領域と、重複しない。」という記載によれば、相違点5の「前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体が、トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられる」という特定は、トロポニンI分子の安定な部分と、ヘパリン化されたサンプルからの干渉をもたらすであろう、ヘパリン結合性に関して知られている領域と、重複しない点を考慮したものと認められる。

試料となる採血された血液は、血液の凝固を防ぐためにヘパリン処理が行われることが多いから、ヘパリン化されたサンプルからの干渉がないような抗体を使用することは当たり前のことである。

そして、「トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられる」ものであることは周知である(必要ならば、例えば、下記周知例A等参照)。

周知例A:国際公開第2007/114947号

「【0060】 The capture binding partner may be attached to a solid support, e.g., a microtiter plate or paramagnetic beads. ・・・・The binding partner may be an antibody, e.g., a monoclonal antibody. The antibody may be specific for free cardiac troponin (cTnI or cTnT) or for complexed cardiac troponin, modified cardiac troponin, or fragments of cardiac troponin, as described herein, or specific to all or substantially all forms of cardiac troponin, e.g., cTnI or cTnT, likely to be found in the sample of interest. Production and sources of antibodies to cardiac troponin are described elsewhere herein. Preferred antibodies for measuring total troponin are those that not substantially affected by heparin, phosphorylation, oxidation and troponin complex formation, and that do not cross-react with skeletal muscle troponin, e.g., troponin I. In some embodiments, the antibody is specific for a specific region of a cardiac troponin. In some embodiments, the region includes amino acids 41-49 of human cardiac troponin I. In some embodiments, the region includes amino acids 87-91 of human cardiac troponin I. Such antibodies are well-known in the art and are available from, e.g. BiosPacific, Emeryville, CA. 」(当審訳:捕捉結合相手は、マイクロタイタープレートまたは常磁性ビーズなどの固体支持体に結合していてもよい。・・・・結合相手は、モノクローナル抗体などの抗体であってもよい。抗体は、本明細書に記載したような遊離心臓トロポニン(cTnlまたはcTnT)または複合体化心臓トロポニン、修飾された心臓トロポニン、もしくは心臓トロポニンの断片に対して特異的であり、あるいは対象の試料中で見出されると思われるすべての形態または実質的にすべての形態の心臓トロポニン、例えばcTnlまたはcTnTに対して特異的であることができる。心臓トロポニンに対する抗体の作製および供給源は、本明細書の別の箇所に記載されている。全トロポニンを測定するための好ましい抗体形態は、ヘパリン、リン酸化、酸化、およびトロポニン複合体形成による影響を実質的に受けず、骨格筋トロポニン、例えばトロポニンIと交差反応をしないものである。一部の実施形態では、抗体は、心臓トロポニンの特定の領域に特異的である。一部の実施形態では、領域には、ヒト心臓トロポニンIのアミノ酸41~49が含まれる。一部の実施形態では、領域には、ヒト心筋トロポニンIのアミノ酸87~91が含まれる。そのような抗体は当業界で周知であり、例えばBiosPacific、エメリービル、カリフォルニア州から市販されている。)

また、トロポニンI分子の安定な部分については、引用例2に「例えば、アミノ酸1~25及び150~209は、タンパク質分解の結果として、血清中のcTnI派生型上には一般的に見出されない。」という記載もある((引2イ)参照。)。

b)なお、本願明細書の段落【0029】によれば、クローン267は「267(ab14530;トロポニンIのアミノ酸169-184に結合している)・・・560(cTnIのアミノ酸83-93に結合している)」のであるから、クローン560は、本件発明1の(G)の「トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられる」という特定事項を満たすものの、クローン267は、本件発明の(G)の「トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられる」という特定事項を満たさない可能性がある。

そこで、念のため本件発明1(G)の特定事項について、次のように解した場合についても検討する。

(解釈1)「(G)前記第一接触段階及び前記第二接触段階の前記抗体は、トロポニンIのアミノ酸配列30-110に方向付けられる、トロポニンIのアミノ酸83-93に結合するクローン560及びトロポニンIのアミノ酸169-184に結合するクローン267である。」

本件発明1(A)の「サンプル」とは、本願明細書によると

「【0064】
[サンプル]
「サンプル」の専門用語は、ここでは広い意味で使用され、広い範囲での生体材料を含み、加えて、そのような生体材料から由来する又は抽出される組成物を含むよう意図される。サンプルは、対象トロポニンIが検出され得る適切な調合液、例えば、血液、であっても良い。サンプルは、例えば、体組織若しくは、制限されないが、血液(血漿及び他の画分(fractions)を含む)、髄液、粘液、痰、唾液、精液、排泄物又は尿若しくはそれらの如何なる画分のような流体を含んでも良い。例示されるサンプルは、全血、赤血球、白血球、軟膜、毛髪、爪及び爪上皮構成要素、スワブ(swab)(制限されないが、口腔スワブ、咽頭スワブ、膣スワブ、尿道スワブ、頸部スワブ、直腸スワブ、損傷(lesion)スワブ、膿瘍スワブ、鼻咽頭スワブ、鼻孔スワブ及び同種のもの)、リンパ液、羊水、脳脊髄液、腹水、胸水、嚢胞からの流体、滑液、硝子体液、房水、嚢の流体、洗顔剤、眼吸引液(eye aspirates)、血漿、漿液、肺洗浄(pulmonary lavage)、肺吸引液(lung aspirates)、体内の如何なる組織のバイオプシー材を含む。当業者は、上述の例示される生体サンプルのいずれから得られる、溶解物、抽出物、又は材料もまた、サンプルとして考慮されるであろうということを理解するであろう。移植された材料、初代細胞、二次細胞系列、及びそれと同種のもの、を含む組織培養細胞の他に、如何なる細胞、組織又は器官から得られる、溶解物、抽出物、上澄み又は材料もまた、ここで使用されるような生体サンプルの専門用語の意味の範囲内である。これらの羅列は、包括的であるようには意図されていない。」

そうすると、トロポニンIを含む本件発明1でいう「サンプル」とは、血液に限らず、細胞の抽出物も含むものである。

引用例2に「例えば、アミノ酸1~25及び150~209は、タンパク質分解の結果として、血清中のcTnI派生型上には一般的に見出されない。」という記載もある((引2イ)参照。)が、これはサンプルが血液の場合である。

心臓の培養細胞等に含まれるトロポニンIを培養細胞の分化等を確認するために検出することも下記周知例Bに記載されているように普通に行われていることであって、培養細胞には、トロポニンIは完全長として存在する。血液凝固防止剤であるヘパリンをサンプルに添加する必要もなく、切断を受けることもないから血液サンプルのように抗体の認識するエピトープが制約を受けることは無い。また、完全長のトロポニンIの検出にあっては、抗体はトロポニンIのどこに結合しても検出可能なことは自明なことである。

そうすると、引用発明において、培養細胞等の発現する完全長のトロポニンIを検出するため、トロポニンIと結合する市販の抗体であるクローンクローン560及びクローン267を採用し、相違点2に記した本件発明1のごとく構成することに困難性は無いし、また、それに伴い、本件発明1の(解釈1)のごとくのエピトープ(抗体結合部位)を備えたものとなったものにすぎない。

周知例B:特開2007-325593号公報
「【0301】
パネルCでは、コンフルエンスに達したMASCをレチノイン酸に曝露した後、100ng/mLのbFGFを加えた無血清培地中で培養した。この後細胞をウェスタンブロットで分析した。2日後にはGata4及びGata6が発現され、15日目まで高値を維持した。4日目以降には心筋トロポニンTが発現され、6日目以降には心筋トロポニンIが発現され、11日後にANPが検出された(図示せず)。15日目には免疫組織化学法によってこれらの心筋タンパク質は70%を越える細胞において検出された(図示せず)。2日目以降には転写因子Myf6が見出された。デスミンの発現が6日目に、ミオゲニンの発現が2日目に始まった。骨格筋アクチンも確認された。発明者等は更に、培養中で稀に自然収縮が生じ、数mmの距離を伝播するのを確認した。」

イ 効果について

本願明細書に具体的に実施例として記載されているのは「A34780」の「単クローン性抗トロポニンI抗体」の例だけであり、「クローン267、560及びその組み合わせから選択」した場合の効果を確認することはできないし、上記のとおり、クロン267、560が本願優先権主張日前に周知なものであるから、単クローン性抗トロポニンI抗体としてクローン267、560及びその組み合わせから選択したことによる効果は当業者が予期しうる範囲のもので、格別顕著なものとはいえない。

ウ 請求人の主張について

請求人は、上記第3当審の拒絶理由の理由1について、「引用文献はいずれも、補正後の請求項1に記載の発明の一特徴である『前記単クローン性抗トロポニンI抗体は、クローン267、560及びその組み合わせから選択される』構成を開示も示唆もしておりません。具体的には、引用文献はいずれも、トロポニンIを測定する方法における単クローン性抗トロポニンI抗体としてのクローン267、560及びその組み合わせの使用を開示も示唆もしておりません。」と主張しているが、クローン267、560について、平成28年4月28日付けの拒絶理由で「前者については、ab社から本願優先権主張日前に販売されている蓋然性が高く、後者についても、本願優先権主張日前に販売されている蓋然性が高いものである。」と指摘し、提示した引用文献だけからではなく、本願優先権主張日前の周知事実にも基づいて特許法第29条第2項について通知していることから、上記請求人の主張は当を得たものではない。

(3)小括

したがって、本件発明1は、引用発明並びに引用例2に記載された事項及び周知事実に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 理由2及び3について

上記第4においては、クローン267、560についての平成28年10月14日付け意見書にける請求人の主張に則り、クローン267、560は本願優先権主張日前に市販されている周知なものとしたが、上記第4の2(2)ウ「請求人の主張について」で述べたように、請求人は進歩性についての主張も行っていることから、念のため、市販もされていないし、周知なものでもないという場合についても検討する。

クローン267、560が市販もされていなければ、周知のものでなければ、上記第3の理由3で述べたように、本願明細書の発明の詳細な説明には、これらの単クローン性抗体を産生するハイブリドーマを再現性をもって取得する方法について記載されておらず、ハイブリドーマの寄託もなされていないから、発明を実施することは困難であるし、そもそも、クローン267及び560を特定することすらできない。

したがって、本件発明1は明確とはいえず、また、発明の詳細な説明の記載が本件発明1を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、本件発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないか、あるいは、特許法36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、発明の詳細な説明の記載が特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないことから特許を受けることができないか、いずれかの理由により本件発明1は特許を受けることができないことから、その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2014-021866

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