特許拒絶査定不服審判
2016-008234
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物
- 審判番号
- 2016-008234
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2013-517436外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2016年06月03日
- 審決日
- 2017年12月26日
- 公報発行日
- 2018年07月27日
- 結論
- 請求不成立
- 分類
- P18 .121-WZ (C09K) / P18 .537-WZ (C09K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2013-517436「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 1月 5日国際公開、WO2012/001255、平成25年 7月22日国内公表、特表2013-529717〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月7日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2010年6月30日 フランス、2010年7月15日 米国)を国際出願日とする出願であって、以降の手続の経緯は、概略、以下のとおりのものである。
平成27年3月18日付け 拒絶理由通知書
同年9月11日 意見書・手続補正書
平成28年2月5日付け 拒絶査定
同年6月3日 審判請求書・誤訳訂正書
同年7月20日付け 前置報告書
平成29年1月5日 上申書
同年3月1日付け 拒絶理由通知書
同年9月5日 意見書・手続補正書
第2 本願発明の認定
本願の請求項1~9に係る発明は、平成29年9月5日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
下記(1)と(2)から成る組成物:
(1)少なくとも一種のポリオールエステル(POE)の潤滑剤、
(2)少なくとも99.8重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、0.5~500ppmの1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンと、0.5~500ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、1~1500ppmの2個または3個の炭素原子を有する化合物(ただし、HFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンは除く)とのみから成る冷媒F。」
第3 平成29年3月1日付け拒絶理由の概要
平成29年3月1日付け拒絶理由は、本願の請求項1~9に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である引用例1~3の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(理由3)、及び、本願請求項1~9に記載された発明は、本願の発明の詳細な説明に記載されたものでなく、この出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(理由2)、という理由を含むものである。
第4 当審の判断
1.特許法第29条第2項(理由3)について
(1)引用例1~3の記載
ア 引用例1
本願優先日前に頒布された特開2009-221375号公報(「以下、「引用例1」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は、当審が付与したものである。以下、同様である。
(ア-1)「【請求項1】 下記化合物(a)~(c):
(a)水酸基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体、
(b)カルボキシル基を2個以上有する化合物若しくはその誘導体、並びに
(c)カルボキシル基を1個有する化合物若しくはその誘導体及び/又は水酸基を1個有する化合物若しくはその誘導体
を用いて得られるエステルを含有する基油と、フルオロプロペン冷媒と、を含有することを特徴とする冷凍機用作動流体組成物。
【請求項2】 前記フルオロプロペン冷媒として、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,2,3,3-テトラフルオロプロペン及び3,3,3-トリフルオロプロペンから選ばれる少なくとも1種を含有することを特徴とする、請求項1に記載の冷凍機用作動流体組成物。」(特許請求の範囲)
(ア-2)「本発明の冷凍機油は、通常、冷凍空調機器において、上述したようなフルオロプロペン冷媒あるいは混合冷媒と混合された冷凍機用流体組成物の形で存在している。この組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合、並びに本発明の冷凍機用作動流体組成物における冷凍機油と冷媒との配合割合は特に制限されないが、冷媒100質量部に対して冷凍機油が好ましくは1~500質量部、より好ましくは2~400質量部である。
本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、往復動式や回転式の密閉型圧縮機を有するエアコン、冷蔵庫、あるいは開放型または密閉型のカーエアコンに好ましく用いられる。また、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、除湿機、給湯器、冷凍庫、冷凍冷蔵倉庫、自動販売機、ショーケース、化学プラント等の冷却装置等に好ましく用いられる。さらに、本発明の冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物は、遠心式の圧縮機を有するものにも好ましく用いられる。」(【0085】~【0086】)
(ア-3)「[実施例1~4、比較例1~2]
実施例1~4及び比較例1~2においては、それぞれ以下に示す基油1~6を用いて冷凍機油を調製した。得られた冷凍機油の各種性状を表1に示す。
(基油)
基油1:ネオペンチルグリコール2モルに対し、アジピン酸、コハク酸をそれぞれ1モル、3,5,5-トリメチルヘキサン酸をそれぞれ2モル反応させて得られたエステル。
基油2:トリメチロールプロパン2モルに対し、コハク酸、グルタル酸をそれぞれ1モル、2-メチルブタン酸、2-エチルブタン酸をそれぞれ2モル反応させて得られたエステル。
基油3:ペンタエリスリトール2モルに対し、コハク酸、グルタル酸をそれぞれ1モル、2-メチルブタン酸、2-エチルブタン酸をそれぞれ2モル反応させて得られたエステル。
基油4:ネオペンチルグリコール、3,5,5-トリメチルへキシルアルコールそれぞれ1モルに対し、アジピン酸を2モル反応させて得られたエステル。
・・・・・・
次に、実施例1~4及び比較例1~2の各冷凍機油について、以下に示す評価試験を実施した。
(冷媒相溶性の評価)
JIS-K-2211「冷凍機油」の「冷媒との相溶性試験方法」に準拠して、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン18gに対して冷凍機油を2g配合し、冷媒と冷凍機油とが0℃において相互に溶解しているかを観察した。得られた結果を表1に示す。表1中、「相溶」は冷媒と冷凍機油とが相互に溶解したことを意味し、「分離」は冷媒と冷凍機油とが2層に分離したことを意味する。
(熱・化学的安定性の評価)
JIS-K-2211に準拠し、水分を100ppm以下に調整した冷凍機油(初期色相L0.5)1gと、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン1gと、触媒(鉄、銅、アルミの各線)とをガラス管に封入した後、150℃に加熱して1週間保持し試験した。
試験後は冷凍機油組成物の色相及び触媒の色変化を評価した。色相は、ASTM D156に準拠して評価した。また、触媒の色変化は、外観を目視で観察し、変化なし、光沢なし、黒化のいずれに該当するかを評価した。得られた結果を表1に示す。
【表1】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1~4の冷凍機油は、フルオロプロペン冷媒と共に用いた場合に、冷媒相溶性に優れていることがわかる。」(【0088】~【0094】)
イ 引用例2
本願優先日前に頒布された特開2010-037343号公報(以下、「引用例2」という。)には、以下の事項が記載されている。
(イ-1)「【請求項17】 少なくとも約99.9重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロパンを含み、極微量~0.1重量%以下の他の化合物を含む、高純度の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン製品。
【請求項18】 総計で、極微量以上であるが約0.1重量%未満の1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン、1,1,1,2-テトラフルオロプロパン、および1,1,1,2,3,3-ヘキサフルオロプロパンの1種または複数をさらに含む、請求項17に記載の高純度の2,3,3,3-テトラフルオロプロパン製品。」(特許請求の範囲)
(イ-2)「ある特定の好ましい実施形態では、本発明の方法は、2,3,3,3-テトラフルオロプロパンを大部分含み、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを0~約500百万分率(ppm)、およびトリフルオロプロピンを0~約50ppm含む最終生成物を製造するのに効果的な条件下で実施され、その条件は、任意選択だが、好ましくは前記反応生成物を蒸留することを含む。
本発明の別の態様は、極微量~約500百万分率(ppm)未満の1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンおよび極微量~約50ppm未満のトリフルオロプロペンを含有する高純度の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(1234yf)製品を提供する。」(【0013】~【0014】)
(イ-3)「C.1234yf粗生成物に含まれる不純物の除去
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、抽出、および好ましくは蒸留などの当技術分野で知られる任意の手段によって、未転化の出発原料、生成物、ならびにHF、1234ze(1,3,3,3-テトラフルオロプロペン)、1225ye、およびトリフルオロプロピンのいくつかまたは全てを含めた副生成物からなる反応生成物混合物から回収され得る。ある特定の好ましい実施形態では、HFは、蒸留の前に、フッ化水素とフルオロカーボンの混合物から除去、または好ましくは回収される。フッ化水素の除去は、苛性アルカリ溶液スクラバー(洗浄装置)中での酸塩基中和を介して実現され得る。これは、フッ化水素およびフルオロカーボンを含有する生成物の流れを、苛性アルカリ溶液スクラバーを通過させ、続いて乾燥塔を通過させることによって実施され得る。フッ化水素の回収は、フルオロカーボンおよびフッ化水素の流れに硫酸の流れを導入する連続プロセスによって、気相中で実施され得る。これは、フルオロカーボンおよびフッ化水素の流れに対して向流の硫酸の流れを流すことによって、標準的スクラバー塔(洗浄塔)中で実施され得る。硫酸の抽出は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,895,639号で説明されている。2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、未転化の245ebおよび任意の他の副生成物の混合物は、次いで、蒸留塔を通過させられる。例えば、蒸留は、好ましくは、大気圧、大気圧より高い圧力または減圧(真空)下で、標準的蒸留塔中で実施されてよい。その圧力は、好ましくは約300psig未満、より好ましくは約150psig未満、最も好ましくは100psig未満である。蒸留塔の圧力は、蒸留操作温度を本質的に決定する。2,3,3,3-テトラフルオロプロペンは、約-10℃~約90℃、好ましくは約0℃~約80℃で蒸留塔を操作することによって、留出物として回収され得る。単一または複数の蒸留塔を使用することができる。ある特定の好ましい実施形態では、最終1234yf製品中の望ましくない1225yeおよびトリフルオロプロピンのレベルは、それぞれ500、および50ppm未満でよい。」(【0025】)
(イ-4)「実施例4:1234yfの精製
1234yf粗生成物約45.36kg(100.0lbs)を、37.85リットル(10ガロン)のリボイラー、内径5.08cm(2インチ)×3.048m(10フィート)のプロパック塔、およびシェル・アンド・チューブ式(多管式)凝縮器からなる蒸留釜中に投入する。該塔は、理論段約30段を有する。蒸留釜は、温度、圧力、および差圧トランスミッターを備えている。蒸留は、約85psigの圧力で実施する。留出物を、規則的な間隔で、GCによってサンプリングし分析する。1234yfを、その1234yf純度が≧99.9%である期間の間に収集する。結局、精製生成物34.25kg(75.5lbs)を得る。最終生成物のGC分析は、それが1225ye100ppmおよびトリフルオロプロピン10ppmを含有することを示す。」(【0032】)
ウ 引用例3
本願優先日前に頒布された国際公開第2009/137656号(以下、「引用例3」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、引用例3は、英文であるため、パテントファミリーである特表2011-520016号公報の記載を翻訳文とする。
(ウ-1)「【請求項1】 HFO-1234yfと、HFO-1234ze、HFC-254eb、HFC-254fb、HFO-1243zf、HFC-245eb、HFC-245fa、HFC-245cb、HFC-236cb、HFC-236ea、HFC-236fa、HFC-227ea、HFC-227ca、HFO-1225yc、HFO-1225zc、HFO-1225ye、3,3,3-トリフルオロプロピン、メタン、エタン、プロパン、HFC-23、HFC-143a、HFC-134、HFC-134a、HFO-1132aおよびFC-1216からなる群から選択される少なくとも1つの追加的な化合物とを含む組成物。
【請求項2】 約1重量%未満の前記少なくとも1つの追加的な化合物を含有する請求項1に記載の組成物」(特許請求の範囲)
(ウ-2)「出願人は、HFO-1234yfなどのそのような新規の地球温暖化の可能性の低い化合物を調製する際に、ある種の追加的な化合物が少量で存在することを見出した。」(1頁27~29行)
(ウ-3)「【図1】HFC-245ebからHFO-1234yfを製造する反応と、HFC-245ebからHFO-1234yfへの反応工程の間に同時に生じ得るHFO-1234yfおよびHFC-245ebからの副反応とを示すスキーム図である。」(2頁20~23行)及び図1
「
」
(ウ-4)「一実施形態において、HFO-1234yfを含む組成物中の追加的な化合物の全量は、0重量%より多く、1重量%未満の範囲である。いくつかの実施形態において、HFC-245ebに存在する不純物は、HFO-1234yfを製造する反応の間、未反応のままである。したがって、それらは追加的な化合物に含まれる。」(3頁30行~4頁3行)
(ウ-5)「液体相脱フッ化水素によって形成された生成物には、HF、HFO-1234yf、そして、HFC-254ebが供給混合物中に存在する場合、HFO-1243zfが含まれる。一実施形態において、HFO-1234yfは、従来の手段(例えば蒸留)によって、低沸点生成物および高沸点生成物から典型的に分離される。」(20頁18~22行)
(2)引用発明
引用例1には、上記(ア-1)に所定のエステルを含有する基油と、フルオロプロペン冷媒と、を含有する冷凍機用作動流体組成物、(ア-3)に所定のエステルの具体例として基油1~4(【0089】)に記載されたポリオールポリエステル、及びフルオロプロペン冷媒として具体的に2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)を用いた実施例(【0091】~【0093】)が記載されている。
これらの記載に基づくと、特に基油1~4は、いずれもポリオールとカルボン酸の混合物のエステルであることから、ポリオールエステルに該当するものであり、そして、当該基油は、フルオロプロペン冷媒と用いるものであるから、冷凍機用作動流体組成物における潤滑剤に相当するものと認められる。
そうすると、引用例1には、「ポリオールエステルの潤滑剤と、フルオロプロペン冷媒である2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFC-1234yf)を含有する冷凍機用作動流体組成物。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(3)本願発明と引用発明との対比
引用発明の「冷凍機用作動流体組成物」は、本願発明の「組成物」に相当する。
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は、ポリオールエステル(POE)の潤滑剤と、冷媒として2,3,3,3-テトラフルオロプロペンから成る組成物である点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)
冷媒について、本願発明は、「少なくとも99.8重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、0.5~500ppmの1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンと、0.5~500ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、1~1500ppmの2個または3個の炭素原子を有する化合物(ただし、HFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンは除く)とのみから成る冷媒F」であるのに対して、引用発明には2,3,3,3-テトラフルオロプロペン以外の少量成分について記載がない点。
(4)判断
上記(相違点1)について、以下に検討する。
引用例1で冷媒として使用される「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」は、3個の炭素数をする化合物であり、冷媒番号1234yfとして当業者によく知られたフルオロプロペン冷媒であり、例えば、引用例2の上記(イ-1)に記載されているように「約99.9重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に対して「極微量~0.1重量%以下の他の化合物を含む」こと(なお、引用例2では、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」あるいは「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」という用語が混在しているが、いずれも「1234fy」を示す用語として用いられていることから「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」は、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の誤記と認められる。)や、引用例3の上記(ウ-1)~(ウ-2)の「約1重量%未満の前記少なくとも1つの追加的な化合物を含有する請求項1に記載の組成物」というように、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」以外に何らかの「追加的な化合物」である少量の成分が含まれることは、当業者に公知の技術的事項である。
さらに、含まれる少量の成分として、引用例2の上記(イ-2)~(イ-4)では、特に、1225ye(1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンに相当)およびトリフルオロプロピン(3,3,3-トリフルオロプロピンに相当)に注目して記載がなされている。
また、引用例3の上記(ウ-3)~(ウ-4)では、製造工程で生じる副反応化合物に加え、原料由来の化合物が未反応のまま存在することも示されており、特に引用例3の上記(ウ-1)には、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に含まれる「追加的な化合物」として、「HFO-1234ze、HFC-254eb、HFC-254fb、HFO-1243zf、HFC-245eb、HFC-245fa、HFC-245cb、HFC-236cb、HFC-236ea、HFC-236fa、HFC-227ea、HFC-227ca、HFO-1225yc、HFO-1225zc、HFO-1225ye、3,3,3-トリフルオロプロピン、プロパン、およびFC-1216」(18種類で、いずれも、3個の炭素数を有する化合物)、「エタン、HFC-143a、HFC-134、HFC-134aおよびHFO-1132a」(5種類で、いずれも、2個の炭素数を有する化合物)、「メタン、HFC-23」(2種類で、いずれも、1個の炭素数を有する化合物)が示されている。
そうすると、引用例1に記載された「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」について、引用例2~3の記載に基づき、フルオロプロペン冷媒である「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に追加的な化合物として少量の成分が含まれていることは、当然、本願優先日前において当業者が認識していた技術的事項といえる。
そして、その少量の成分についても、引用例2には、上記(イ-2)に「本発明の方法は、2,3,3,3-テトラフルオロプロパンを大部分含み、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペンを0~約500百万分率(ppm)、およびトリフルオロプロピンを0~約50ppm含む最終生成物を製造するのに効果的な条件下で実施され、その条件は、任意選択だが、好ましくは前記反応生成物を蒸留することを含む。」ことが、上記(イ-4)に実施例における具体例として「1234yfを、その1234yf純度が≧99.9%である期間の間に収集する。結局、精製生成物34.25kg(75.5lbs)を得る。最終生成物のGC分析は、それが1225ye100ppmおよびトリフルオロプロピン10ppmを含有することを示す。」ことが、それぞれ記載されていることから、少なくとも、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」及び「トリフルオロプロピン」については本願発明と重複した範囲が記載されている。
また、引用例3には、「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」に、「1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン」及び「トリフルオロプロピン」を含む3個の炭層原子を有する化合物(18種)、2個の炭素原子を有する化合物(5種)等が1重量%未満含まれていること(上記(ウ-1)及び(ウ-4))も記載されている。
そうすると、引用発明の「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」に、引用例2~3に基づき、少量の成分として1225yeおよびトリフルオロプロピンや、原料由来の未反応の炭素化合物や、1225yeおよびトリフルオロプロピン以外のその他の副反応化合物を含めて2個または3個の炭素原子を含む化合物を含有させ、その配合量を特定する程度のことは、当業者が容易に行い得ることに過ぎない。
そして、効果について、引用例1では、「ポリオールエステル潤滑油」と「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の組み合わせが、冷媒相溶性と熱・化学的安定性の効果を示すことが上記(ア-3)の実施例(特に【0093】の【表1】)に記載されている。
また、上記したとおり「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に少量の成分が含まれることは、当業者が認識していた技術的事項(引用例2~3)といえ、その場合でも引用例1に記載のとおりの効果を有しているから、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に少量の成分が含まれる場合の「ポリオールエステルの潤滑油」と「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」の効果も、当業者が予測できた範囲のものであり、予想外の格別顕著な効果とは認められない。
(5)審判請求人の主張
審判請求人は、平成29年9月5日付け意見書において、「(A)本発明が「解決しようとする課題」は、「空調で使用可能なより安定な冷媒と潤滑剤との組合せを開発する」ことにあること(5-1)、「(B)本発明の「課題解決手段」」は、「冷媒F中に主成分のHFO-1234yfの他に(a)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン(0.5~500ppm)、(b)3,3,3-トリフルオロプロピン(0.5~500ppm)(c)2個または3個の炭素原子を有するaおよびb以外の化合物(1~1500ppm)の3成分の少量成分を所定重量比で含む」こと(5-2)、「(C)「本発明の作用効果」」は、「同じ含水率(1000ppm)の存在下では、流体FはPOE潤滑剤(POEZe-GLES RB68)の存在下で(POEではないポリアルキレングリコールの潤滑剤(PAG ND8))より安定である」こと(5-3)、「比較実験データB」を示し、「この比較実験Bでは、HFO-1234yfの含有量を99.9重量%にし、ほぼ純粋なHFO-1234yfとしたものです。残りの0.1重量%は不純物です。この残りの=0.1重量%の不純物中にHFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンは含まれていないこと」を確認した上で、「[表B]の結果は、主成分のHFO-1234yf中に(a)HFO-1225yeと(b)3,3,3-トリフルオロプロピンとを存在させることによって安定性が向上すること」及び「比較実験データA(平成29年1月5日の上申書)を示し、組成範囲外の時に鋼が劣化したことを示すこと(5-4)については、引用例1~3には記載がなく、本願発明は、引用例1~3の記載に基づいて当業者が容易になし得たものではないと主張している。
(5-1)について
引用例1には、背景技術に「HFC-134aに代わる冷媒として、ODP及びGWPの双方が非常に小さく、不燃性であり、かつ、冷媒性能の尺度である熱力学的特性がHFC-134aとほぼ同等かそれ以上である、フルオロプロペン類の冷媒の使用が提案されている。」こと(【0005】)及び「フルオロプロペン冷媒・・・・・と共に使用可能な冷凍機油としては、鉱油、アルキルベンゼン類、ポリアルファオレフィン類、ポリアルキレングリコール類、モノエステル類、ジエステル類、ポリオールエステル類、フタル酸エステル類、アルキルエーテル類、ケトン類、炭酸エステル類、ポリビニルエーテル類などを用いた冷凍機油が提案されている。」こと(【0006】)も記載されており、発明が解決しようとする課題として、前記実情に鑑み、「フルオロプロペン冷媒を用いる冷凍システムにおいて、冷媒相溶性を高水準で達成することが可能な冷凍機油及び冷凍機用作動流体組成物を提供することを目的とする」(【0008】)ことも記載されており、このことは、フルオロプロペン類である冷媒と冷凍機油(潤滑剤に相当)の最適化を目的としていると認められるから、本願発明と引用発明には、課題の共通性が認められる。
したがって、当該(5-1)については、引用例1~3には記載がないという主張は採用できない。
(5-2)について
引用例2、及び引用例3には、上記(4)で指摘した事項が記載されている。
そして、本願発明において(a)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン(0.5~500ppm)、(b)3,3,3-トリフルオロプロピン(0.5~500ppm)(c)2個または3個の炭素原子を有するaおよびb以外の化合物(1~1500ppm)の3成分の少量成分を特定したと主張するが、これら(a)~(b)成分については、引用例2及び引用例3に具体的な記載があり(存在量については引用例2に記載あり)、(c)成分については、「2個または3個の炭素原子を有するaおよびb以外の化合物」と特定しているのみで、具体的な一つの化合物を特定しているわけではないから、結局のところ、この点は、上記(4)で検討したとおりであり、当該(5-2)についても、引用例1~3には記載がないという主張は採用できない。
(5-3)について
引用例1に記載された引用発明は、そもそも、上記(3)で指摘したとおり、「ポリオールエステルの潤滑剤」と「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」とからなる組成物であり、この点は、本願発明との一致点である。そして、引用例1には、さらに水分を100ppm以下に調製した当該組成物の効果として【表1】に、熱・化学的安定性の指標として、色相及び触媒(当該冷凍機用作動流体組成物の使用環境を想定した金属材料に相当)としてCu(銅)、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)の色変化がないことを確認していることから、当該組成物が熱・化学的安定性を有していることが十分示されている。
そうすると、引用例1に記載された引用発明は、上記(5-1)において指摘したとおり従来技術で知られた数多くの冷凍機油(潤滑剤に相当)における冷媒との組み合わせの最適化を目的としたものであり、その組み合わせが、本願発明と同じ「ポリオールエステルの潤滑剤」と「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」との組み合わせであることから、引用例1にポリアルキレングリコール等の他の潤滑剤との比較がなかったとしても、「ポリオールエステルの潤滑剤」と「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」との組み合わせが、優れた効果を示すことを否定することにはならないので、当該(5-3)についても、引用例1~3には記載がないという主張は採用できない。
なお、審判請求人は、含水率についての効果や、本願発明を評価した試験条件は、引用例1における実施例の試験条件よりも厳しい点についても主張するが、同じ「ポリオールエステルの潤滑剤」と「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」からなる組成物であることから、具体的な効果の記載がなかったとしても、引用発明においても同様な効果が得られるものと認められる。
(5-4)について
審判請求人は、「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」に、「(a)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン(0.5~500ppm)、(b)3,3,3-トリフルオロプロピン(0.5~500ppm)及び2個または3個の炭素原子を有するaおよびb以外の化合物(1~1500ppm)の3成分の少量成分を所定重量比で含む」ことで、酸指数や、鋼の表面の劣化に対する効果を有すると主張する。
比較実験Bは、HFO-1234yfの含有量を99.9重量%にし、ほぼ純粋なHFO-1234yfとし、残りの0.1重量%は不純物で、この0.1重量%の不純物中にHFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンは含まれていないことは確認済みであると、当該意見書で示しているが、この不純物がどのような化合物、例えば、2個または3個の炭素原子を有する化合物のように、明らかにされていないことから、[表B]の酸指数の結果が、実質的にHFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンの存在の差のみによる効果なのか、他の要因も含まれた効果なのか依然として、判然としておらず、結局、[表B]における本願発明の「0.2mgKOH/g」と比較実験Bの「0.5mgKOH/g」の差が、当業者が予測できないほどの格別顕著な効果とは認められない。
また、比較実験データAについて、「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」に対する(a)、(b)成分の量は、2.1重量%と1.5重量%の合計3.6重量%である場合には、鋼の表面が劣化することを示しているが、引用例1の【表1】には、熱・化学的安定性の指標として、触媒(当該冷凍機用作動流体組成物の使用環境を想定した金属材料に相当)としてCu(銅)、Fe(鉄)、Al(アルミニウム)の表面色変化がないことを確認しているのであるから、例えば、引用例2及び3に記載された程度の少量の成分(「2,3,3,3-テトラフルオロプロパン」に含まれる少量成分が、1重量%未満)についても、引用例1と同程度の効果を示すと当業者が予測することができると認められるので、当該(5-4)についても、引用例1~3には記載がないという主張は採用できない。
(6)小括
したがって、本願発明は、引用例1~3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
2.特許法第36条第6項第1号(理由2)について
(1)本願発明
上記第2に記載されたとおりである。
(2)発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の点が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、空調で使用可能な2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと潤滑剤とを含む組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気オゾン層を破壊する物質によって生じる問題に関してはモントリオールで話し合われ、クロロフルオロカーボン(CFC)の製造とその使用を削減するという議定書が批准された。この議定書は修正され、その修正案ではCFCの放棄が課され、ヒドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を含む他の化合物にも規制が広げられた。
【0003】
冷凍産業および空調産業はこれらの冷媒の代替物に多くの投資を行ってきており、ヒドロフルオロカーボン(HFC)が市場に出された。
【0004】
自動車産業では、多くの国で販売されている車両の空調装置でクロロフルオロカーボン(CFC-12)冷媒からオゾン層への影響が少ないヒドロフルオロカーボン(1,1,1,2-テトラフルオロエタン:HFC-134a)冷媒へ切り替えられた。しかし、京都議定書で設定された目的を考慮するとHFC-134a(GWP=1430)は温暖化する能力が高いとみなされている。
温室効果に対する流体の寄与は規格GWP(地球温暖化係数)によって定量化される。このGWPは二酸化炭素の基準値を1にして温暖化能力を要約して示したものである。
【0005】
ヒドロフルオロオレフィン(HFO)は温暖化能力が低く、従って、京都プロトコルの目的セットを満たす。特許文献1(日本特許第JP 4-110388号公報)には冷蔵、空調およびヒートポンプでの熱伝導剤として2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)が開示されている。
【0006】
産業界で最も広く使われている冷凍機は液体の冷媒を蒸発させて冷却するもので、蒸発後、冷媒は圧縮、次いで冷却されて液体状態へ戻り、再循環される。
【0007】
経済的理由から、冷凍圧縮機は潤滑シリンダを備えた往復動式圧縮機であることが多い。一般に、運動要素の消耗および加熱を減らし、密封を完全にし、腐食から保護するためにコンプレッサ内部を潤滑する必要がある。
【0008】
冷凍圧縮機を潤滑するための油に要求される主要特性は、冷媒との相溶性、可溶性および熱的および化学的安定性である。
【0009】
従来の自動車用空調ではポリアルキレングリコール(PAG)がHFC-134aの潤滑剤として使用されていた。
【0010】
特許文献2(米国特許第7 534 366号明細書)では、粘度が37℃で10~200センチストークで、2つ以上のオキシプロピレン基を有するホモポリマーまたはコポリマーの形でPAGを空調でHFO-1234yfと組み合わせて用いることが勧められている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明者は、空調で使用可能な冷媒と潤滑剤との組合せを開発した。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本出願の対象は、ポリオールエステル(POE)をベースとする少なくとも一種の潤滑剤と、少なくとも99.8重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、0.5~500ppmの1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンと、0.5~500ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、1~1500ppmの2個または3個の炭素原子を含み、場合によってはさらにオレフィン結合を含む化合物(HFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンを除く)とから成る冷媒Fとを含む組成物にある。」
「【0020】
本発明の組成物は、ポリオールエステル(POE)をベースとする少なくとも一種の潤滑剤と、少なくとも99.9重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、0.5~250ppmの1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンと、0.5~250ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、1~500ppmの2個または3個の炭素原子を含み、場合によってはさらにオレフィン結合を含む化合物(HFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンを除く)とから成る冷媒Fとを含むのが好ましい。
【0021】
特に好ましい組成物は、ポリオールエステル(POE)をベースとする少なくとも一種の潤滑剤と、少なくとも99.95重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、0.5~250ppmの1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンと、0.5~100ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、1~150ppmの2個または3個の炭素原子を含み、場合によってはさらにオレフィン結合を含む化合物(HFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンを除く)とから成る冷媒Fとを含む。」
「【0023】
本発明のさらに他の対象は上記組成物の冷蔵、空調、有利には自動車空調、好ましくは電気自動車での使用にある。この組成物は熱的および/または化学的に安定である。」
「【実施例】
【0025】
実験部分
熱安定性試験はASHRAE規格 97-2007:「冷媒システムで使用する材料の化学安定性をテストするための密封ガラス・チューブ法」に従って実行した。
テスト条件は以下の通り:
流体Fの重量:2.2g
潤滑剤の重量:5g
温度:200℃
時間:14日間
【0026】
42.2mlのガラス管に一定長さの鋼と潤滑剤とを入れる。ガラス管を真空減圧してから流体Fを加える。ガラス管を溶接、密封し、200℃で14日間、乾燥器中に置く。
【0027】
テスト終了時に各種分析を行う:
(1)気相を回収し、ガスクロマトグラフィで分析する:主たる不純物をGC/MSで同定した(ガスクロマトグラフィをマススペクトロメトリに連結)。流体Fから来る不純物と潤滑剤から来る不純物とを含む。
(2)鋼を秤量(腐食速度の測定)し、顕微鏡で観察する。
(3)潤滑剤は色(分光測色法(Labomat DR Lange LICO220 Model MLG131)で)、含水率(カール・フィッシャー・クーロメトリ(Mettler DL37)で)および酸価(0.01N メタノール水酸化カリウムで定量分析)を分析した。
【0028】
2つの商用潤滑剤:PAG ND8およびPOE Ze-GLES RB68をテストした。これらの潤滑剤は初期含水率がそれぞれ510および50ppmである。
【0029】
次いで、各潤滑剤の含水率が1000ppmに達するように水を添加して試験した。
これらの試験で用いた流体Fは99.85重量%のHFO-1234yfと、213ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、30ppmのHFO-1225yeと、1257ppmの2個または3個の炭素原子を含み、場合によってはさらにオレフィン結合を含む化合物とを含む。
【0030】
【表1】
【0031】
同じ含水率の存在下では、流体FはPOEの存在下で、より安定である点に注意されたい。」
(3)本願発明が解決しようとする課題・効果について
上記【0001】~【0010】、【0012】~【0013】及び【0023】の記載から、本願発明が解決しようとする課題及び効果に関し、以下の点を理解することができる。
ア ヒドロフルオロオレフィン(HFO)は温暖化能力が低く、京都プロトコルの目的セットを満たし、冷蔵、空調およびヒートポンプでの熱伝導剤としては、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)が公知である。
産業界で最も広く使われている冷凍機は液体の冷媒を蒸発させて冷却するもので、蒸発後、冷媒は圧縮、次いで冷却されて液体状態へ戻り、再循環される。経済的理由から、冷凍圧縮機は潤滑シリンダを備えた往復動式圧縮機であることが多く、一般に、運動要素の消耗および加熱を減らし、密封を完全にし、腐食から保護するためにコンプレッサ内部を潤滑する必要がある。
冷凍圧縮機を潤滑するための油に要求される主要特性は、冷媒との相溶性、可溶性および熱的および化学的安定性である。従来技術では、粘度が37℃で10~200センチストークで、2つ以上のオキシプロピレン基を有するホモポリマーまたはコポリマーの形でPAGを空調でHFO-1234yfと組み合わせて用いることが勧められている(【0005】~【0010】)。
イ 本願発明は、空調で使用可能な冷媒と潤滑剤との組合せを開発・提供することを目的として(【0012】)、かかる課題を解決する手段として、本願発明の構成を採用したものである(【0013】)。
ウ 本願発明によれば、熱的および/または化学的に安定である、という効果を奏する(【0023】)。
(4)冷媒Fについて
「冷媒F」について、上記【0013】、【0020】及び【0021】には、「少なくとも99.8重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと、0.5~500ppmの1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンと、0.5~500ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、1~1500ppmの2個または3個の炭素原子を含み、場合によってはさらにオレフィン結合を含む化合物(HFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンを除く)とから成る」と記載されている。
(5)実施例について
実施例について、上記【0025】~【0031】には、流体F(冷媒F)として「99.85重量%のHFO-1234yfと、213ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、30ppmのHFO-1225yeと、1257ppmの2個または3個の炭素原子を含み、場合によってはさらにオレフィン結合を含む化合物とを含む」と、2つの商用潤滑剤PAG ND8(ポリアルキレングリコール油)およびPOEZe-GLESRB68(ポリオールエステル油)を用いて、熱安定性試験を実施し、その結果が表1に示されている。
(6)検討、判断
上記2.(4)のとおり、「冷媒F」は、「少なくとも99.9重量%の2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」と、「0.5~250ppmの1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペンと、0.5~250ppmの3,3,3-トリフルオロプロピンと、1~500ppmの2個または3個の炭素原子を含み、場合によってはさらにオレフィン結合を含む化合物(HFO-1225yeおよび3,3,3-トリフルオロプロピンを除く)」の少量成分からなることが記載されているにとどまる。
また、上記2.(5)の実施例においても、冷媒Fに従来例であるポリアルキレングリコール油と本願発明のポリオールエステル油を添加し試験していることから、「冷媒F」の場合、ポリオールエステル油が従来例のポリアルキレングリコール油よりも、熱的および/または化学的に安定であることは理解することができる。
しかし、「冷媒F」における少量成分が、熱的および/または化学的に安定に寄与し、「空調で使用可能な冷媒と潤滑剤との組合せを開発・提供する」という本願発明の課題を解決できると理解することはできない。
すなわち、「冷媒F」の少量成分は、例えば、不純物としてその存在量を特定することにより、あるいは、積極的に「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に少量成分を添加して「冷媒F」を調製することにより、さらには、別の何らかの理由により、上記2.(3)の本願発明の課題を解決し、熱的および/または化学的に、従来の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」よりも、さらに安定である、という効果を奏するのかは、発明の詳細な説明あるいは実施例を参酌しても、当業者が理解できるように記載されているとはいえない。
また、審判請求人は、平成29年9月5日付け意見書等で少量成分の効果を追加的に提示しているが、この効果については、上記第4 1.(5-4)で、すでに検討したとおりである。
さらに、これらの少量成分が、熱的および/または化学的安定性に寄与し、「空調で使用可能な冷媒と潤滑剤との組合せを開発・提供する」ことができるという本願の出願当時における技術常識の存在を認めるに足りる根拠も見出すことができない。
そうすると、本願発明の課題に関連する上記「溶媒F」の少量成分について、本願発明の課題を解決するためにどの程度関与しているのかを判断することができないというほかない。
よって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の課題を解決できると当業者が認識できるように記載されているとはいえないから、サポート要件を満たしていない。
(7)審判請求人の主張
審判請求人は、前記意見書において、「しかし、本発明組成物の溶媒Fでは、主成分のHFO-1234yf(少なくとも99.8重量%)中に上記(a)~(c)の3成分(少量成分)を下記の所定重量比で加える作業であるので過度の試行錯誤は要求されません:
(a)1,1,1,2,3-ペンタフルオロプロペン(0.5~500ppm)、
(b)3,3,3-トリフルオロプロピン(0.5~500ppm)
(c)2個または3個の炭素原子を有するaおよびb以外の化合物(1~1500ppm)」と主張している。
しかしながら、ここでは、「過度の試行錯誤」の問題でないことは、上記2.(6)のとおりであるから、この主張は、採用の限りでない。
(8)小括
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえない。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用例1~3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の記載により特許を受けることができないものであるか、あるいは、本願の特許請求の範囲の記載は、同法36条第6項第1号に適合するものではないから、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2016-008234