特許無効審判
2012-800073
経皮吸収製剤、及び経皮吸収製剤保持シート
- 審判番号
- 2012-800073
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2007-500638
- 登録番号
- 特許第4913030号(P4913030)
- 請求日
- 2012年05月02日
- 審決日
- 2018年06月25日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コスメディ製薬 株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人京都国際特許事務所
- 【請求人代理人】村田 美由紀
- 【被請求人】株式会社 バイオセレンタック
- 【被請求人代理人】鮫島 睦
- 【被請求人代理人】山田 卓二
- 【被請求人代理人】植村 昭三
- 【被請求人代理人】伊藤 晃
- 【被請求人代理人】加藤 浩
- 【被請求人代理人】西下 正石
- 【被請求人代理人】尾崎 英男
- 【被請求人代理人】江黒 早耶香
- 審判長/審判官
- 審判長 須藤 康洋
- 審判官 安川 聡
- 審判官 関 美祝
- 分類
- P1123.113-YAA(A61K) / P1123.536-YAA(A61K) / P1123.537-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第123条第1項第4号、特許法第134条の2第6項、特許法第134条の2第9項、特許法第123条第1項第2号、特許法第36条第4項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4913030号「経皮吸収製剤、及び経皮吸収製剤保持シート」の特許無効審判事件についてされた平成28年 6月29日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1ないし19に係る発明に対する部分の審決取消しの判決(平成28年(行ケ)第10160号、平成29年 7月12日)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
特許第4913030号の明細書、特許請求の範囲を平成30年4月13日付け訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~19〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
【理 由】
第1 主な手続の経緯
1 本件特許出願
本件特許第4913030号に係る出願(以下、「本件特許出願」という。)は、平成18年1月30日(優先権主張 平成17年1月31日、同年10月11日)を国際出願日とする出願(特願2007-500638号)であって、平成24年1月27日に特許権の設定登録がなされたものである。設定登録時の請求項の数は21である。
2 本件無効審判の請求
審判請求人(コスメディ製薬株式会社。以下、「請求人」という。)は、平成24年5月2日に、本件特許第4913030号の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(「以下、本件特許発明」という。)についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、本件無効審判を請求した。
3 第1次審決までの主な手続
平成25年4月15日付け審決(以下、「第1次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。
平成24年 5月 2日 審判請求書提出(請求人)
同年 7月27日 答弁書提出(被請求人)
同年 9月 5日 審理事項通知
同年10月22日 口頭審理陳述要領書提出(請求人)
同年11月 2日 第1回口頭審理開催
同年11月27日 審決の予告
平成25年 1月22日 訂正請求書提出(被請求人)
同年 3月 7日 弁駁書提出(請求人)
同年 3月27日 審理終結通知
同年 4月15日 第1次審決
4 第1次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟
(1)第1次審決の結論
第1次審決では、「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。
(2)審決取消訴訟の経緯
請求人は、同人を原告とし被請求人を被告とする、第1次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。
同裁判所において、この訴訟は、平成25年(行ケ)第10134号事件として審理され、第1次審決を取り消す旨の判決(以下、「第1次取消判決」という。)が平成25年11月27日に言い渡され、その後同判決は確定した。
そして、本件については、再度審理をすべく差し戻された(以下、この差戻しを「第1次差戻し」という。)。
5 第1次差戻しから第2次審決までの主な手続
第1次差戻し以降、平成26年8月12日付け審決(以下、「第2次審決」という。)までの主な手続の経緯は次のとおりである。
なお、平成25年7月31日に、本件の請求人から本件の特許に対して新たな無効審判の請求(無効2013-800146号事件)がなされていたため、両審判事件の審理を併合して第2回口頭審理を行った後、両審判事件の審理を分離し、無効2013-800146号事件については平成26年10月28日付けで手続を中止する旨が通知されている。
平成25年12月 4日 訂正請求申立書提出(被請求人)
平成26年 1月20日 訂正請求のための期間指定通知
同年 2月28日 訂正請求書提出(被請求人)
同年 4月23日 審理事項通知
同年 5月28日 口頭審理陳述要領書提出
(請求人・被請求人)
同年 6月12日 第2回口頭審理開催
同年 7月23日 審理終結通知
同年 8月12日 第2次審決
6 第2次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟
(1)第2次審決の結論
第2次審決では、「請求のとおり訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。
(2)審決取消訴訟の経緯
請求人は、同人を原告とし被請求人を被告とする、第2次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。
同裁判所において、この訴訟は、平成26年(行ケ)第10204号事件として審理され、第2次審決を取り消す旨の判決(以下、「第2次取消判決」という。)が平成27年3月11日に言い渡され、その後同判決は確定した。
そして、本件については、再度審理をすべく再度差し戻された(以下、この差戻しを「第2次差戻し」という。)。
7 第2次差戻しから第3次審決までの主な手続
第2次差戻し以降、平成28年6月29日付け審決(以下、「第3次審決」という。)までの本件の主な手続の経緯は次のとおりである。
平成27年 3月26日 訂正請求申立書提出(被請求人)
同年 4月15日 訂正請求のための期間指定通知
同年 4月27日 訂正請求書提出(被請求人)
同年 6月19日 弁駁書提出(請求人)
同年 7月30日 訂正拒絶理由通知
同年12月14日 審決の予告
平成28年 2月22日 訂正請求書提出(被請求人)
同年 5月20日 弁駁書提出(請求人)
同年 6月20日 審理終結通知
同年 6月29日 第3次審決
8 第3次審決の結論及びこれに対する審決取消訴訟
(1)第3次審決の結論
第3次審決では、「・・・訂正後の請求項1~19について訂正することを認める。本件審判の請求は、成り立たない。審判費用は、請求人の負担とする。」との結論の審決がなされた。
(2)審決取消訴訟の経緯
請求人は、同人を原告とし被請求人を被告とする、第3次審決の取消訴訟を知的財産高等裁判所に提起した。
同裁判所において、この訴訟は、平成28年(行ケ)第10160号事件として審理され、第3次審決を取り消す旨の判決(以下、「第3次取消判決」という。)が平成29年7月12日に言い渡され、その後同判決は確定した。
そして、本件については、再度審理をすべく再度差し戻された(以下、この差戻しを「第3次差戻し」という。)。
9 第3次差戻し以降
第3次差戻し以降の本件の手続の経緯は次のとおりである。
平成29年12月 4日 訂正請求申立書提出(被請求人)
平成30年 2月13日 審決の予告
同年 4月13日 訂正請求書提出(被請求人)
なお、被請求人による平成30年4月13日付け訂正請求書による訂正は、訂正事項1~18からなるものであるが、後述(第3の3(3)参照)のとおり、いずれの訂正事項についても、請求人は意見を申し立てる機会をすでに与えられていたのであるから、当審は、請求人に対して改めて弁駁の機会を与えることなく審理を進めた。
第2 第1次~第3次取消判決の拘束力について
審決を取り消す旨の判決の拘束力は、判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる(最三小平成4年4月28日判決、民集46巻4号245頁)。
したがって、当審の審理は、第1次~第3次取消判決の判断、特に以下の判示事項に拘束されるものである。
1 本件発明における発明特定事項の解釈に関する判示事項
「請求項1の「基剤に保持された目的物質」との記載は,目的物質が基剤に保持されていることを規定しているのであり,その保持の態様について何らこれを限定するものでないことは,その記載自体から明らかである。そして,「保持」とは,広辞苑(・・・)にあるとおり,たもちつづけること,手放さずに持っていることを意味する用語であり,その意味は明確である。したがって,請求項1の「保持」の技術的意義は,目的物質を基剤で保持する(たもちつづける)という意味のものとして一義的に明確に理解することができる・・・そうすると,甲7発明の,目的物質が基剤からなる医療用針内に設けられたチャンバに封止されていることや縦孔に収容されていることは,本件訂正発明の目的物質が「基剤に保持された」構成に含まれているといえる。」(第1次取消判決第23頁第1~20行)
2 訂正の適否についての判断に関する判示事項
(1)「訂正が特許請求の範囲の減縮(1号)を目的とするものということができるためには,訂正前後の特許請求の範囲の広狭を論じる前提として,訂正前後の特許請求の範囲の記載がそれぞれ技術的に明確であることが必要であるというべきである。」(第2次取消判決第11頁第13~16行)
(2)「本件発明は,「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も,「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,・・・経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要(というべき)である。」(第2次取消判決第11頁第23行~第12頁第7行、第3次取消判決第18頁第5~11行)
第3 訂正の適否についての当審の判断
1 本件訂正請求
被請求人は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲の訂正を以下の(a)~(e)のとおり5回請求しているところ、特許法第134条の2第6項の規定により、(a)~(d)の訂正請求は取り下げられたものとみなされる。
なお、(b)の訂正請求には、請求項20及び21を削除する訂正が含まれていたところ、平成26年8月21日に「請求のとおり訂正を認める」旨の審決(第2次審決)が送達され、その時点で、当該訂正請求のうち本件特許の請求項20及び21を削除する訂正については確定して同年9月2日にその旨原簿登録がなされた。この審決の部分確定後の本件特許の請求項の数は19である。
(a)平成25年 1月22日付け訂正請求
(b)平成26年 2月28日付け訂正請求
(c)平成27年 4月27日付け訂正請求
(d)平成28年 2月22日付け訂正請求
(e)平成30年 4月13日付け訂正請求
以下、上記(e)の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について検討する。
2 請求の趣旨
本件訂正請求は、特許第4913030号の明細書、特許請求の範囲を本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~19について訂正することを求めることを請求の趣旨とするものである。
3 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1~18からなるものである。下線は訂正請求書のとおりである。なお、訂正前の請求項1~19は一群の請求項である。
(1)特許請求の範囲の訂正
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入され」とあるのを「皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入され」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「キトサン、」とあるのを削除する。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「少なくとも1つの物質」とあるのを「少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)」に訂正する。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「皮膚に挿入される、経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される、経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に訂正する。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「架橋反応によって形成された」とあるのを「架橋された」に訂正する。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項18を削除する。
キ 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項19に「少なくとも一方の面」とあるのを「片面」に訂正する。
ク 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項19に「前記皮膚吸収製剤が皮膚に挿入される」とあるのを「前記経皮吸収製剤が皮膚に挿入される」に訂正する。
(2)明細書の訂正
ア 訂正事項9
明細書の第0046段落、第0047段落及び第0097段落に「前記皮膚吸収製剤が皮膚に挿入される」とあるのを「前記経皮吸収製剤が皮膚に挿入される」に訂正する。
イ 訂正事項10
明細書の発明の名称に「経皮吸収製剤、経皮吸収製剤保持シート、及び経皮吸収製剤保持用具」とあるのを「経皮吸収製剤、及び経皮吸収製剤保持シート」に訂正する。
ウ 訂正事項11
明細書の第0001段落に「皮膚に挿入して使用される」とあるのを「皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入して使用される」に訂正する。
エ 訂正事項12
明細書の第0003段落に「皮内」とあるのを「皮膚内」に訂正する。
オ 訂正事項13
明細書の第0009段落、第0010段落及び第0070段落に「キトサン、」とあるのを削除する。
カ 訂正事項14
明細書の第0009段落、第0010段落、第0070段落に「少なくとも1つの物質」とあるのを「少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)」に訂正する。
キ 訂正事項15
明細書の第0009段落に「皮膚に挿入される、経皮吸収製剤」とあるのを「皮膚に挿入される、経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に訂正する。
ク 訂正事項16
明細書の第0077段落に「皮膚の表面や真皮」とあるのを「皮膚の表皮や真皮」に訂正する。
ケ 訂正事項17
明細書の第0048段落第1行、
同第0049段落第1行、
同第0061段落第1行、
同第0098段落第1、7、7~8、8~9、12~13、13、14、15行、
同第0164段落第18、19、24行に「本発明の経皮吸収製剤保持用具」とあるのを「経皮吸収製剤保持用具」に訂正する。
コ 訂正事項18
同第0164段落第22、23行に「発明の経皮吸収製剤保持用具」とあるのを「経皮吸収製剤保持用具」に訂正する。
(3)過去の訂正事項との関係について
上記訂正事項1~3、5~14、16~18はそれぞれ、上記1に示した(d)の訂正請求(平成28年2月22日付け訂正請求であって、平成28年2月29日、同年3月30日及び同年4月7日付け手続補正書を採用したもの)における訂正事項1、3、4、6~13、15、16、18~20と同じ内容であり、上記訂正事項について、請求人は意見を申し立てる機会をすでに与えられている(平成28年5月20日付け弁駁書参照)。
また、上記訂正事項4及び15は、上記1に示した(b)の訂正請求(平成26年2月28日付け訂正請求)における訂正事項2及び7の一部と同じ内容であり、上記訂正事項について、請求人は意見を申し立てる機会をすでに与えられている(平成26年5月28日付け口頭審理陳述要領書参照)。
4 訂正の適否の判断
(1)特許請求の範囲の訂正
ア 訂正事項1
乙21~24(下記第5の2参照)の記載からも明らかなように、一般に、「皮膚」には「表皮・真皮・皮下組織」と「表皮・真皮」の二通りの意味があるところ、訂正事項1は、訂正前の請求項1における「皮膚」が後者の意味であること、すなわち「表皮及び真皮から成る」ものであることを明瞭にするものである。
よって、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、本件訂正前の段落【0030】には、「特に、吸収促進剤が界面活性剤である好ましい様相では、目的物質が皮膚の表皮又は真皮での溶解性や透過性が低いものである場合でも、界面活性剤の作用によって目的物質の溶解や透過が促進される。」(下線は当審による。以下同じ。)との記載がある一方、明細書全体をとおして、「皮下組織」については記載も示唆もされていないから、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。そして、この訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2、3
訂正事項2及び3は、訂正前の請求項1について、経皮吸収製剤の基剤である高分子物質の選択肢のうちの「キトサン」を削除し、また、経皮吸収製剤の基剤である高分子物質の選択肢から「デキストランのみからなる物質」を除くものである。
よって、これらの訂正は特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、これらの訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
ウ 訂正事項4
訂正事項4は、訂正前の請求項1に記載の「経皮吸収製剤」から「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」を除外するものであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
ここで、上記第2の2(2)で示したとおり、当審の審理は、第2次取消判決及び第3次取消判決が「本件発明は,「経皮吸収製剤」という物の発明であるから,本件訂正発明も,「経皮吸収製剤」という物の発明として技術的に明確であることが必要であり,そのためには,・・・経皮吸収製剤の形状,構造,組成,物性等により経皮吸収製剤自体を特定するものであることが必要(というべき)である。」と判示するところに拘束される。したがって、訂正後の請求項1に記載の「経皮吸収製剤」は、物の発明として技術的に明確である必要があり、そのためには、この訂正によって除外される「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」(以下、「除外製剤」という。)が、物として技術的に明確であるといえる必要がある。
そこで、この点について検討するに、まず、上記除外製剤における「医療用針」が、注射針やランセット、また、中空タイプや自己溶解タイプのマイクロニードルなどを意味していることは、出願時の技術常識や本件特許の明細書段落【0003】の記載を考慮すると当業者に自明であるといえる。また、訂正後の請求項1には、上記除外製剤に関して「チャンバ」又は「縦穴」が「医療用針」内に設けられたものであること、及び「目的物質」が「チャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている」ことが特定されているところ、これらはいずれも、除外製剤の構造を特定するものといえる。そして、上記除外製剤においては、「目的物質」は「医療用針」内に設けられた「チャンバ」又は「縦穴」に封止又は収容され、それにより「目的物質」が「基剤」に保持されることが特定されているから、ここでいう「基剤」が、「医療用針」を構成することも明らかである。
そうすると、上記除外製剤が、特定の構造を有する「医療用針」である「経皮吸収製剤」を意味していることは明らかであり、上記除外製剤は物として技術的に明確であるといえる。
(なお、このような判断は、第1次取消判決が「甲7発明の,目的物質が基剤からなる医療用針内に設けられたチャンバに封止されていることや縦孔に収容されていることは,本件訂正発明の目的物質が「基剤に保持された」構成に含まれているといえる。」(第23頁第18~20行)のように、上記除外製剤と同等の構成を有する甲7発明を明確な物の発明として認定していることとも整合する。)
エ 訂正事項5
訂正事項5は、「経皮吸収製剤」という「物」の発明である訂正前の請求項3に係る発明について、「架橋反応によって形成された」という製造に関する経時的な要素を削除し、「架橋された」という状態を特定する記載に変更することにより、「物」の発明に関する特定を明確にするものである。
よって、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
オ 訂正事項6
訂正事項6は、訂正前の請求項18を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
カ 訂正事項7
訂正事項7は、訂正前の請求項19について、シート状の支持体に経皮吸収製剤が保持される面を両面又は片面から片面に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、この訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。
キ 訂正事項8
訂正事項8は、訂正前の請求項19において「経皮吸収製剤」と「皮膚吸収製剤」が混在しており、両者の異同が不明瞭であったところ、「皮膚吸収製剤」と「経皮吸収製剤」が同じ意味であることを明瞭にするものである。
よって、この訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正前の請求項19には「前記皮膚吸収製剤」とあるところ、該請求項が引用する請求項1~17を含めて、それより前に「経皮吸収製剤」との記載はあるものの、「皮膚吸収製剤」なる記載はないから、該請求項における「皮膚吸収製剤」が「経皮吸収製剤」と同じ意味で用いられていることは明らかである。よって、この訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)明細書の訂正
ア 訂正事項9~11、13~15、17、18
訂正事項9~11、13~15、17、18は、いずれも本件訂正後の特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るものである。
よって、これらの訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、上記(1)で述べたのと同じ理由により、これらの訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項12、16
訂正事項12及び16は、訂正前の「目的物質を皮内に投与することができる」(段落【0003】)及び「皮膚の表面や真皮での溶解性が低い目的物質の溶解を促進する」(段落【0077】)という皮膚と目的物質との関係について明瞭でなかった記載を、それぞれ、「目的物質を皮膚内に投与することができる」及び「皮膚の表皮や真皮での溶解性が低い目的物質の溶解を促進する」とすることによって、明瞭にするものである。
よって、これらの訂正は明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、本件訂正前の段落【0003】には、「皮膚に挿入された際に基剤が自己溶解することにより」と記載され、段落【0030】には、「特に、吸収促進剤が界面活性剤である好ましい様相では、目的物質が皮膚の表皮又は真皮での溶解性や透過性が低いものである場合でも、界面活性剤の作用によって目的物質の溶解や透過が促進される。」と記載されているから、これらの訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。そして、これらの訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)独立特許要件について
請求項2~19は、特許無効審判の請求がされていない請求項であるところ、これらの請求項が直接的又は間接的に引用する請求項1についての訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とする訂正を含むものであるから、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に基づき、訂正後の請求項2~17、19に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない(以下、「独立特許要件」という。)。
そこで、訂正後の請求項2~17、19に係る発明が独立特許要件を満たすかについて検討するに、後述(「第8 当審の判断」参照)のとおり、訂正後の請求項1に係る発明について、請求人の主張する無効理由に理由があるとはいえないから、当該請求項を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項2~17、19に係る発明について、請求人の主張する理由によって独立特許要件を満たさないとすることはできない。
また、その他独立特許要件を満たさないとする理由を発見できない。
5 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項ないし第7項に規定する要件に適合する。
よって、結論のとおり本件訂正を認める。
第4 本件訂正発明
上記「第3 訂正の適否についての当審の判断」で述べたとおり、本件訂正は認められるから、本件特許出願の請求項1に係る発明(以下、「本件訂正発明」という。)は、平成30年4月13日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、
前記高分子物質は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)であり、
尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される、経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)。」
第5 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張する無効理由及び証拠方法
(1)請求人は、特許第4913030号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、次の無効理由1~3により本件特許発明は無効とされるべきであると主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。(以下、甲第1号証、乙第1号証等を、甲1、乙1等と省略して記載する。)
なお、請求人は、予備的主張として無効理由4及びそれに関連した証拠方法として甲8~17を提出していたが、第1回口頭審理において、いずれも撤回している(第1回口頭審理調書参照。)。
ア 無効理由1
本件特許発明は、甲5-1、甲6、又は甲7に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきものである。
イ 無効理由2
本件特許発明についての特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。
ウ 無効理由3
本件特許発明についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきものである。
(2)証拠方法
ア 審判請求書に添付
甲1:特許第4913030号公報
(本件特許の特許公報)
甲2:特願2005-23276号
(本件特許の基礎出願1の特許願)
甲3:特願2005-296691号
(本件特許の基礎出願2の特許願)
甲4:再公表特許2006/080508号公報
(本件特許の国際出願の再公表)
甲5-1:国際公開第2004/000389号
甲5-2:特表2006-500973号公報
(甲5-1に対応する公表特許公報)
甲6:特開2005-152180号公報
甲7:国際公開第2005/058162号
イ 第1回口頭審理に対する陳述要領書に添付
甲18:本件特許出願の審査段階で被請求人が提出した手続補足書、平成
20年7月7日
甲19:実験報告書、請求人作成、平成24年10月2日
甲20:本件特許出願の審判段階で被請求人が提出した手続補正書(方式) 、平成21年2月27日
甲21:CRS(The Controlled Release
Society)、第31回年会での発表(要約)、
Sung-Yun Kwon作成、平成16年6月15日)
ウ 平成25年3月7日付け弁駁書に添付
甲22:広辞苑第六版、岩波書店、2585頁「保持」、2008年1月
11日
エ 第2回口頭審理に対する陳述要領書に添付
甲23:平成25年(ワ)第4303号特許権侵害行為差止請求事件で被請 求人が提出した原告第1準備書面
甲24:実験報告書(1)、請求人作成、平成26年5月16日
甲25:実験報告書(2)、請求人作成、平成26年5月23日
甲26:実験報告書、請求人作成、平成26年3月25日
オ 平成27年6月19日付け弁駁書に添付
甲27の1:国際公開第96/08289号
甲27の2:特表平10-505526号公報
(甲27の2に対応する公表特許公報)
甲28:特開2003-238347号公報
甲29:平成26年(ネ)第10109号特許権侵害行為差止等請求事件で 被請求人が提出した控訴人第2準備書面
甲30:平成26年(ネ)第10109号特許権侵害行為差止等請求事件で 被請求人が提出した控訴人第3準備書面
2 被請求人の主張及び証拠方法
(1)被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人が主張する上記無効理由1~3はいずれも理由がない旨主張し、証拠方法として下記の書証を提出している。
(2)証拠方法
ア 答弁書に添付
乙1:岩波理化学辞典第5版、岩波書店、124頁「曳糸性」、 1998 年2月20日
乙2:東機産業のホームページ、レオロジー用語解説、17頁
「曳糸性」(http://www.tokisangyo.co. jp/pdf/paper/rheology_ words.pd f)
乙3:特許・実用新案審査基準、第II部 第2章
乙4:平成19年(行ケ)第10120号 審決取消請求事件 判決
乙5:平成21年(行ケ)第10180号 審決取消請求事件 判決
乙6:特許・実用新案審査基準、第I部 第1章
イ 平成26年2月28日付け訂正請求書に添付
乙7:平成25年(行ケ)第10134号 審決取消請求事件 判決
ウ 平成27年4月27日付け訂正請求書に添付
乙8:寺田弘、辻彰編、続医薬品の開発、4巻、薬物の生体膜輸送と組織標 的化[II]、廣川書店、429~442頁、平成3年4月25日
乙9:無効2013-800146号の審決の予告、平成26年7月14日
乙10:広辞苑第五版第二刷、岩波書店、2265頁「皮膚」、2006年 1月20日
乙11:生化学辞典第3版第4刷、東京化学同人、1128頁「皮膚」、 2000年3月1日 、
乙12:ステッドマン医学大辞典改訂第5版、株式会社メジカル ビュー社 、1623~1624頁「skin」、2002年2月20日
乙13:平成26年(行ケ)第10204号 審決取消請求事件 判決
エ 平成27年9月2日付け意見書に添付
乙14:第5版実験化学講座11、物質の構造III 回折、 丸善株式会 社、まえがき、279~310頁、平成18年5月15日
オ 平成28年2月22日付け訂正請求書に添付
乙15:乙8を援用
乙16:乙10を援用
乙17:乙11を援用
乙18:乙12を援用
乙19:望月政嗣著、生分解性ポリマーのはなし、日刊工業新聞社、第25 ~31頁、1995年5月19日
乙20:岩波理化学辞典第5版、岩波書店、第1406頁「溶解」 、
1998年2月20日
カ 平成30年4月13日付け訂正請求書に添付
乙21:乙8を援用
乙22:乙10を援用
乙23:乙11を援用
乙24:乙12を援用
乙25:特許・実用新案審査基準、第III部第2章第4節、第1~16頁
第6 証拠に記載された事項
1 甲5-1の記載事項
2003年(平成15年)12月31日に国際公開された甲5-1には、以下の事項(5-a)~(5-f)が記載されている。なお、甲5-1は英語の文献であるので、以下には、甲5-1に対応する公表特許公報である甲5-2の記載を基本として、合議体で一部加筆修正した訳文を記載する(なお、当該訳文について、これまでの手続経緯において、当事者からは何ら意見は出ていない。)。また、 甲5-1の該当箇所の記載に続いて、対応する甲5-2の該当箇所を「公表・・・」として示す。
(5-a)「急速に溶解する微小穿孔器(「RDMP」)を使用して薬物を経皮的に送達する装置および方法が記載される。本明細書において使用される場合、用語「微小穿孔器」は、一般的に、断面の形状に関わらず、針、刃、カッティング器、穿孔器、または1mm未満の平均直径を有する任意の他のデバイスをいう。
微小穿孔器は、好ましくは、必要に応じて1つ以上の選択された薬物を保持する固体マトリクスの可溶性(溶融性および生分解性を含む)の材料を含む。マトリクス材料内の薬物は、間質的にまたは任意の他の適切な様式で分布され得る。微小穿孔器は、同じかまたは異なる薬物のレザバに流体結合され得、この薬物は、ミクロ針自体によって皮膚内に運搬され得るか、または、ミクロ針による皮膚の穿孔によって作製されたチャネルによって、運搬され得る。」(3頁6~15行;公表4頁40~50行)
(5-b)「好ましい薬物送達システムは、急速に溶解する微小穿孔器のアレイ(好ましくは、約1cm2の領域中、少なくとも5、10、25、50、100または200の微小穿孔器)を含み、少なくとも1つ、或いは、1つ以上の針または刃の固体マトリクスとして形成されており、各々が、第1の末端において、皮膚の穿孔のために、尖らせてあるか鋭利にされている。各微小穿孔器は、角質を貫通するのに十分強靭でインタクトであり、この微小穿孔器(および薬物)が体液および/または薬物レザバ内の溶媒と共に患者の体内に貫入されたとき、生分解性であるか、または可溶性である。この生分解プロセスまたは溶解プロセスは、有利にも、数十秒と数時間との間の所望された時間間隔で起こり得る。」(5頁5~13行;公表5頁34~42行)
(5-c)「微小穿孔器の第1の機能は、角質層を貫通すること、薬物送達の迅速な開始および中断を提供すること、ならびに必要に応じて引き続く薬物送達または体液モニタリングのためにチャネルを開き続けることを助けることである。微小穿孔器がかなり迅速に溶解し(これは、状況に依存する)、そして角質層を貫通するように十分強い限り、任意の生体適合性材料が、微小穿孔器として役立ち得る。
微小穿孔器を作製する際に、鋳型は、正確な機械加工、微小機械加工(例えば、MEMS)、またはレーザベースもしくは放電機械加工を使用して、調製され得る。一旦、鋳型が調製されると、液体溶液(マトリクス材料および選択された薬剤を含む)は、鋳型で鋳造され、そして乾燥される。液体溶液の粘度ならびに他の物理的および化学的特性に依存して、さらなる力(例えば、遠心分離力または圧縮力)が、鋳型を満たすために必要とされ得る。固体溶液を形成するために、この溶媒は、空気乾燥されるか、真空乾燥されるか、または凍結乾燥される必要がある。一旦、固体溶液が形成されると、微小穿孔器は、鋳型から分離され、そして適切な形状およびサイズに切断される。
・・・
かなり多くのポリマーが微小穿孔器のための適切なマトリクス材料であり、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレングルコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、デキストリン、モノサッカリドおよびポリサッカリド、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアルコール、ゼラチン、アラビアゴム、アルギネート、キトサンシクロデキストリンおよび他のバイオポリマーが挙げられるが、これらに限定されない。
例えば、糖誘導体(トレハロース、グルコース、マルトース、ラクトース、ラクツロース、フルクトース、ツラノース、メリトース、メレチトース、デキストラン、ソルビトール、キシリトール、パラチニット及びマンニトール)のような炭水化物誘導体も使用され得る。」(7頁4行~8頁9行;公表6頁40行~7頁29行)
(5-d)「図9は、穿孔活性化機構90を示す断面立面図であり、ここで、1つ以上の微小穿孔器91が、微小穿孔器の1つの側面への圧力(指または他の圧力機構93によって手動で適用される)によって患者の皮膚92内に駆動される。」(10頁23~26行;公表9頁13~15行)
(5-e)「パッチシステムは、好ましくは、皮膚に適用され、その結果、1つ以上の微小穿孔器が、角質層を通って、用途に依存して表皮中に、または真皮中に貫通する。好ましい実施形態において、パッチシステム中のレザバの薬物分子は、完全にまたは部分的に溶解した微小穿孔器により作製されるチャネルを通って、表皮または真皮中に流れる。薬物分子は、局所処置または体を通る輸送のために真皮中に拡散する。」(13頁12~17行;公表11頁1~5行)
(5-f)図9
「
」
2 甲6の記載事項
平成17年6月16日に出願公開された甲6には、以下の事項(6-a)及び(6-b)が記載されている。
(6-a)「【請求項1】
一辺が0.1μm以上で、直径1000μm以下の円に納まる多角形の横断面形状を有し、長さが100μm以上5mm以下の角錐状若しくは角柱状の細針、または、直径が0.1μm以上1000μm以下の円形の横断面形状を有し、長さが100μm以上5mm以下の円錐状若しくは円柱状の細針であって、
前記細針は、主成分材質がマルトースとデキストランの混合物若しくはトレハロースであり、インスリンまたはインスリン製剤を含有することを特徴とするマイクロニードル。」
(6-b)「【0019】
マイクロニードルによるインスリンの投与は、天然に存在する糖にインスリンまたはインスリン製剤を混入した材料からなる細針を、皮膚に軽く押し付けて内部に侵入させ、皮膚真皮層または皮下組織にインスリンを残留させることにより行う。
マイクロニードルの構成素材が糖質であるため、マイクロニードルは体内で溶解し、極めて安全である。マイクロニードルの溶解にともなって、インスリンは組織内の血管から体内に吸収される。
マイクロニードルの構造を種々に設計することにより、皮膚真皮層若しくは皮下組織に意図して、無痛状態または苦痛の非常に少ない状態下で残留させることが十分に可能である。また、複数本のマイクロニードル構造を構成することにより、一度の皮膚接種でもインスリンの残留量を制御することが可能となり、効率性も十分に向上する。」
3 甲7の記載事項
2005年(平成17年)6月30日に国際公開された甲7には、以下の事項(7-a)~(7-h)が記載されている。
(7-a)「請求の範囲
・・・
[19]生分解性材料からなり、所定方向に延びる医療用針であって、
所定方向に垂直な平面で切断されたとき、先端部からの距離に依存して変化する断面積を有する三角形形状の断面を有し、
所定方向に沿って連続的に一体成形される、断面積が単調増加する第1拡大領域と、断面積が単調減少する縮小領域と、断面積が単調増加する第2拡大領域とを有し、
第1および第2拡大領域において最大の断面積を与える最大断面が実質的に同じ形状および断面積を有することを特徴とする医療用針。
・・・
[23]請求項19に記載の医療用針であって、
生分解性材料からなり、医療用針の後端部に連結された保持部をさらに有することを特徴とする医療用針。
[24]請求項23に記載の医療用針であって、
医療用針内部において所定方向に延びる少なくとも1つの通路を有することを特徴とする医療用針。
[25]請求項24に記載の医療用針であって、
保持部は、通路と連通する少なくとも1つのチャンバを有することを特徴とする医療用針。
[26]請求項24に記載の医療用針であって、
通路は、少なくとも1つの開口部を有することを特徴とする医療用針。
・・・
[30]請求項23に記載の医療用針であって、
所定方向に垂直な方向に延び、薬剤を収容する複数の縦孔と、
縦孔を封止する生分解性材料からなる封止部と、をさらに有し、
封止部の所定方向に垂直な方向における厚みが、各縦孔の配置位置により異なることを特徴とする医療用針。」
(7-b)「技術分野
[0001]本発明は、ランセットおよび注射針などの医療用針、ならびにこれを用いた医療用デバイスに関し、とりわけ生体適合性材料からなる医療用針ならびにこれを用いた医療用デバイスに関する。
・・・
[0005]・・・損傷を与える細胞の数をできるだけ抑え、低侵襲性の医療用針(注射針およびランセット)を構成することが好ましい。
[0006]したがって、本発明の1つの態様は、患者に与える痛み(負担)が極力小さい低侵襲性医療用針を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007]本発明の第1の態様は、所定方向に延び、これに垂直な平面で切断された垂直断面の断面積が先端部からの距離に依存して規則的に増減する医療用針に関し、垂直断面の断面積が極大となる複数の極大点と、垂直断面の断面積が極小となる複数の極小点とを有し、先端部に最も近い極大点における垂直断面の断面積は、他の各極大点における垂直断面の断面積と同じか、より大きいことを特徴とする。」
(7-c)「[0045]本発明のランセット1は、一般には、高分子ポリマ、生体高分子、蛋白質、および生体適合性無機材料を含む任意の生体適合性材料により構成される。
・・・
[0047]また、生体高分子としては、例えば、・・・,ブルラン,・・・,ヒアルロン酸,・・・などが含まれ、・・・。
・・・
[0049]ただし好適には、本発明のランセット1は、例えば、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン、コラーゲン、でんぷん、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、キトサン、セルロース、ゼラチンなどを含む生分解性ポリマ、およびこれらの化合物からなる生分解性材料を用いて形成される。
[0050]・・・生分解性材料を用いて本発明のランセット1を形成すると、他の生体適合性材料を用いて形成した場合よりも環境に優しいだけでなく、ランセットの一部が欠損して、体内に残留した場合であっても、同様に体内において容易に生分解されるので、極めて安全であるランセットを実現することができる。」
(7-d)「[0057]このように構成されたランセット1は、体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に侵入する時、図1および図3に示すように、第1の拡大領域(細胞切開領域)10の先端部11を支点として、四角錐を構成する3つの辺(稜線)15a,15b,16が周辺細胞を切開し、第1の拡大領域10の底面14および一対の側面17a,17bが切開されない細胞を押し広げるようにして、細胞組織内に侵入する。」
(7-e)「[0074](変形例1)
・・・
[0075]変形例1のランセット101は、図11(a)に示すように、各拡大領域10,30および各縮小領域20の内部を貫通するようにX方向に延びる少なくとも1つの通路71を有する。また好適には、保持部40は、図11(b)および図11(c)に示すように、任意のY-Z平面で切断されたとき、四角柱形状の断面を有し、その内部には通路71と連通する少なくとも1つのチャンバ81が形成される。また、ランセット101の先端部11付近において、少なくとも1つの開口部72が、例えば、図11(a)では縮小領域20の底面73上に設けられる。開口部72は、任意の形状を有していてもよいが、赤血球や白血球などが通路71内に侵入しないように、好適には、10μm以下の直径を有する円形に形成される。
・・・
[0079]さらに択一的には、変形例1のランセット101は、図13に示すように、同様にX方向に延びる複数の(図13では2つの)通路75,76を有し、保持部40内には各通路75,76と個別に連通する複数のチャンバ82,83が形成される。また、先端部11付近において、各通路75,76と連通する複数の開口部77a~77c,78a~78cが、例えば、図13では第1の拡大領域10、縮小領域20、および第2の拡大領域30の側面に形成される。そして、各通路75,76に異なる電極対を配置し、各チャンバ82,83に個別のバイオセンサを設けて、別種の血液成分について分析することができる。あるいは、異なる薬剤をそれぞれのチャンバ82,83に封止し、複数の開口部77,78を介して薬剤を体内に徐放させることができる。必要ならば、各開口部77,78を同じ生分解性材料からなるシート(図示せず)で封止し、体内に穿刺して所定時間経過した後に、徐放させることが可能である。さらに、各開口部77,78を封止するシートの厚みを通路75,76により変更して、各チャンバ82,83内に封止された薬剤が徐放されるタイミングを制御することもできる。」
(7-f)「[0081](変形例2)
・・・
[0082]変形例2のランセット102は、図14に示すように、薬剤を収容するためのZ方向に延びる複数の縦孔91a~91dと、これを封止するための生分解性材料からなる封止部92とをさらに有する。この縦孔91a~91dに薬剤を含む微小粒体または流体(図示せず)を充填した後、縦孔91a~91dから逸脱しないようにこれを封止部92で封止する。
[0083]こうして形成されたランセット102を体内に穿刺して留置しておくと、とりわけ封止部92を構成する生分解性材料が徐々に分解され、縦孔91a~91dに収容された薬剤を含む微小粒体または粒体を徐放させることができる。また好適には、封止部92は、そのZ方向における厚みが縦孔91a~91dの配置位置において異なるように形成される。・・・
[0084]なお、変形例1および2において、ランセットの通路71、チャンバ81、および縦孔91a~91dは、当業者ならば容易に理解されるように、例えばエキシマレーザなどの光出力を自在に制御できるレーザ装置を用いて形成することができる。」
(7-g)「[図13]
」
(7-h)「[図14]
」
第7 本件訂正明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項(本-a)~(本-d)が記載されている。
(本-a)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルを製造する場合には、融点以上の熱をかけて融解した麦芽糖に目的物質を含有させ、その後、成形する。ここで、麦芽糖の融点は約102~103℃と高温であり、麦芽糖からなる基剤を有するマイクロニードルでは、製造過程で目的物質が高温に曝される。しかし、高温で分解、変性、又は失活する薬物等の目的物質は多く、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルにこのような目的物質を適用することは困難である。特に、目的物質がペプチドやタンパク質の場合は、熱による変性と失活が避けられず、麦芽糖からなる基剤を用いることが極めて困難である。なお、目的物質がインスリンである場合には、インスリン粉末を用いることで熱による変性と失活をある程度防ぐことは可能である。しかし、粉末を麦芽糖の中に分散させて硬化させると脆くなり、マイクロニードルの物理的強度を保つことが困難となる。さらに、麦芽糖は強い吸湿性を有するので、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルは時間の経過とともに吸湿して先端部が軟化し、皮膚に刺さらなくなるという欠点を有する。そのため、麦芽糖からなる基剤を有する自己溶解型のマイクロニードルでは、目的物質を定量的に投与することが難しい場合がある。
【0006】
またさらに、目的物質を徐放させる目的で、ポリ乳酸からなる基剤が用いられる場合、ポリ乳酸は水不溶性であり塩化メチレン等の有機溶媒を用いて溶解させる必要がある。しかし、目的物質の種類によっては、有機溶媒に接触することで変性又は失活する目的物質がある。例えば、インスリン等のペプチドやタンパク質が目的物質である場合には、有機溶媒に接触することで変性又は失活することが多い。したがって、水溶性の物質からなる基剤を有し、目的物質を徐放する自己溶解型のマイクロニードルが求められる。
【0007】
本発明の目的は、高温に曝されることなく製造することができ、適当な物理的強度を有し、有機溶媒を用いることなく製造することができ、その結果、難経皮吸収性の薬物等の経皮的吸収を可能にする、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、基剤を構成するための物質を多数検索し、室温又は低温条件下で製造可能な針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤を作製することに成功した。さらに、ポリ乳酸を用いることなく目的物質を徐放させる、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤を作製することに成功した。・・・すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0009】
本発明の経皮吸収製剤における第1の様相は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、前記高分子物質は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)であり、尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される、経皮吸収製剤である(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)。
【0010】
本様相の経皮吸収製剤は、水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、該基剤に保持された目的物質とを有し、皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる自己溶解型の経皮吸収製剤にかかるものである。本様相の経皮吸収製剤においては、基剤がコンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)からなり、針状又は糸状の形状を有する。本様相の経皮吸収製剤においては、基剤がコンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸等からなるので室温又は低温条件下で製造することができる。したがって、基剤に保持されている目的物質が製造過程で高温に曝されることがない。すなわち、熱に対して不安定な目的物質であっても、製造過程でその活性が損なわれることがない。その結果、本様相の経皮吸収製剤によれば、目的物質を高い効率で皮膚から吸収させることができる。さらに、本様相の経皮吸収製剤では、基剤が医薬品分野において種々の製剤で使用実績がある物質からなるので、人体に対する安全性が高い。」
(本-b)「【0075】
基剤に用いる多糖類の分子量としては、例えば、ヒアルロン酸の場合は分子量120万程度のものまで使用可能であるが、分子量9万程度の比較的低分子のヒアルロン酸が特に好ましい。・・・
なお、基剤として使用可能な、タンパク質、多糖類、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、及びポリアクリル酸ナトリウムは、いずれも、少量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」である。」
(本-c)「【0093】
本発明の経皮吸収製剤を製造する方法について説明する。本発明の経皮吸収製剤を製造する方法は、特に限定されず、種々の方法が適用可能である。1つの例では、平板と棒を用いる。図7は、本発明の経皮吸収製剤を製造する手順を模式的に表し、図7(a)は製造の初期段階を模式的に表す側面図であり、図7(b)は製造の中間段階を模式的に表す側面図であり、図7(c)は製造の最終段階を模式的に表す側面図である。図7(a)~(c)に表されるように、本製造方法では、まず、フッ素樹脂等からなる平板92の上に、目的物質を含有する基剤91を載せる。このとき、基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用い、糊状とすることが好ましい。次に、目的物質を含有する基剤91にガラス棒93の先端を接触させる(図7(a))。直ちにガラス棒93を持ち上げて、ガラス棒93の先端に付着した目的物質を含有する基剤91を引き伸ばし(図7(b))、さらにガラス棒93を持ち上げて、目的物質を含有する基剤91を針状又は糸状に成形する(図7(c))。その後、針状又は糸状に成形した目的物質を含有する基剤91を乾燥又は硬化させることにより、略円錐の形状を有する経皮吸収製剤1を製造する。このとき、ガラス棒としては、例えば直径5mm以下のものを用いることができる。また、ガラス棒に限らず、ポリプロピレン等の水不溶性の材質の棒であれば使用可能である。
・・・
【0095】
本発明の経皮吸収製剤を製造する方法の他の例としては、鋳型を用いる方法が挙げられる。図9に、鋳型を用いる経皮吸収製剤の製造方法の例を示す。図9は本発明の経皮吸収製剤を製造する方法の他の例を表す分解斜視図である。図9に表されるように、鋳型97は、フッ素樹脂等からなる平板92の正面に円錐状の孔98a,98b,98cを設けることにより作成されている。これらの孔98a,98b,98cに目的物質を含有する基剤を充填し、乾燥又は硬化後、取り出す。これにより、針状又は糸状の経皮吸収製剤1f,1g,1hを製造することができる。なお、目的物質を含有する基剤が糊状であれば、孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることもできる。なお、平板92はフッ素樹脂製以外でもよく、例えばシリコン樹脂製やABS樹脂製のものでもよい。」
(本-d)「【実施例1】
【0105】
本実施例では、ヒト血清アルブミンからなる基剤にインターフェロン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0106】
150mgのヒト血清アルブミン(シグマ社)に約0.2mLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、ヒト血清アルブミンからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に10μLのインターフェロンアルファ注射液(登録商標スミフェロン、600万単位/mL、住友製薬社)(6万IUに相当)を加え、よく混和し、インターフェロンを保持させた。このインターフェロンが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0107】
体重約30gのマウスをペントバルビタール麻酔下で、腹部の除毛を施した後、手術台に固定した。この時点でまず頸静脈より約0.25mL採血した。次に、本実施例で調製した経皮吸収製剤を、除毛したマウスの腹部に挿入し、インターフェロンを皮膚から投与した。投与量は10,000IU/kgとした。投与後4時間にわたり頸静脈より採血を行い、循環血液を採取した。得られた各血液から血清サンプルを調製し、各血清サンプル中のインターフェロン濃度を、ELISAにて測定した。全てのデータは1群当たり3~4匹のマウスの平均値±標準偏差(SD)として算出した。結果を第1表に示す。NDは検出限界以下を表す(以下の表においても同じ)。その結果、投与1時間目からインターフェロン濃度が上昇し始め、投与3時間目に最高濃度(22.9±7.9IU/mL)を示した。以上より、本実施例の経皮吸収製剤によってインターフェロンを皮膚から投与できることが示された。
【表1】
・・・
【実施例15】
【0140】
本実施例では、デキストラン及びヒアルロン酸からなる基剤にビタミンC(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0141】
80mgのデキストラン(分子量17万~20万、ナカライテスク社)、2mgのヒアルロン酸(平均分子量9万、商品コードFCH-SU、紀文フードケミファ社)、及び5mgのビタミンC(L-アスコルビン酸、和光純薬社)に約50μLの精製水を加えて溶解及び混和した。これにより、ビタミンCを保持し、デキストラン及びヒアルロン酸からなる糊状の基剤を調製した。このビタミンCが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【実施例16】
【0142】
本実施例では、プルラン及びヒアルロン酸からなる基剤にビタミンC(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0143】
50mgのプルラン(商品コードPI-20、林原社)、1mgのヒアルロン酸(平均分子量9万、商品コードFCH-SU、紀文フードケミファ社)、及び2mgのビタミンC(L-アスコルビン酸、和光純薬社)に約50μLの精製水を加えて溶解及び混和した。これにより、ビタミンCを保持し、プルラン及びヒアルロン酸からなる糊状の基剤を調製した。このビタミンCが保持された糊状の基剤に、直径約3mmのガラス棒の先端を押し当てた後、徐々に引き離して針状又は糸状とした。そのまま低温で乾燥することにより硬化させ、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
・・・
【実施例22】
【0157】
本実施例では、ヒアルロン酸及びデキストランからなる基剤にインスリン(目的物質)が保持された、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。
【0158】
厚さ約2.0mmのアクリル板に直径約1mmの穴を30個開けた。これらの穴に木綿針を貫通させ、針先がアクリル板の表面から200μm程度出る状態とした。さらに、接着剤を針の挿入側から注入し、針をアクリル板に固定した。一方、シャーレにシリコン樹脂を入れた。このシャーレ内のシリコン樹脂の上面に上記の針付きアクリル板を乗せ、そのまま一晩放置した。シリコン樹脂が硬化したことを確認した後、針付きアクリル板を取り除き、シリコン樹脂製の鋳型を作製した。
【0159】
2.4mgのヒアルロン酸(平均分子量9万、商品コードFCH-SU、紀文フードケミファ社)及び2.4mgのデキストラン(分子量5万~7万、ナカライテスク社)に2.5μLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、ヒアルロン酸及びデキストランからなる糊状の基剤を調製した。この基剤に0.2mgのインスリンナトリウム(自家調製品)を加え、よく混和し、インスリンを保持させた。このインスリンが保持された糊状の基剤を、上記のシリコン製の鋳型に押し付けて充填した。基剤をそのまま低温で乾燥することにより硬化させた。硬化させた基剤を鋳型から剥がすことにより、針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製した。」
第8 当審の判断
当審は、本件訂正発明についての特許は、無効理由1~3によっては無効にすることはできないと判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 無効理由1について
(1)請求人が主張する無効理由1の概要
本件特許発明の構成要件は、甲5-1、甲6及び甲7に記載されたいずれの発明の構成要件とも全て一致する。そうすると、本件特許発明は、甲5-1に記載の発明とも、甲6に記載の発明とも、甲7に記載の発明とも同一であって、特許法第29条第1項第3号の規定に違反して登録されたものである。
(2)本件訂正発明の新規性の判断における基準日
本件訂正発明の高分子物質が、「ヒアルロン酸」、「デキストラン」又は「プルラン」である場合の発明は、本件特許の優先権主張の基礎出願2(甲3、出願日:平成17年10月11日)に初めて記載された発明であり、それ以外の場合の発明は、本件特許の優先権主張の基礎出願1(甲2、出願日:平成17年1月31日)に記載された発明である。
したがって、本件訂正発明の新規性の判断における基準日は、本件訂正発明の高分子物質が「ヒアルロン酸」、「デキストラン」又は「プルラン」である場合については基礎出願2の出願日である平成17年10月11日となり、それ以外の場合については基礎出願1の出願日である平成17年1月31日となる。
なお、甲5-1(国際公開日:2003年(平成15年)12月31日)は基礎出願1及び2の出願日よりも前に頒布された刊行物である。また、甲6(公開日:2005年(平成17年)6月16日)及び甲7(国際公開日:2005年(平成17年)6月30日)は、いずれも基礎出願1の出願日後であるが、基礎出願2の出願日前に頒布された刊行物である。
(3)甲5-1に基づく無効理由1についての当審の判断
ア 引用発明の認定
甲5-1には、「急速に溶解する微小穿孔器(「RDMP」)」が記載されており(上記記載事項(5-a))、該微小穿孔器について、以下のことが記載されている。
・「好ましくは、必要に応じて1つ以上の選択された薬物を保持する固体マトリクスの可溶性(溶融性および生分解性を含む)の材料を含む」ものであり、「薬物は、ミクロ針自体によって皮膚内に運搬され得る」ものであること(上記記載事項(5-a))。
・「皮膚の穿孔のために、尖らせてあるか鋭利にされ」ており、「角質を貫通するのに十分強靭」であること(上記記載事項(5-b))。
・「角質層を貫通する」機能、及び「薬物送達の迅速な開始・・を提供する」機能を有していること(上記記載事項(5-c))。
・「側面への圧力(指または他の圧力機構93によって手動で適用される)によって患者の皮膚92内に駆動される」ものであること(上記記載事項(5-d)及び(5-f))。
また、微小穿孔器の材料について、「角質層を貫通するように十分強い限り、任意の生体適合性材料が、微小穿孔器として役立ち得る」こと、及び、そのような材料の具体的な例として、トレハロース、グルコース、マルトース、ラクトース、ラクツロース、フルクトース、ツラノース、メリトース、メレチトース、デキストラン、ソルビトール、キシリトール、パラチニット及びマンニトールのような糖誘導体である炭水化物誘導体が記載されている(上記記載事項(5-c))。
これら甲5-1の記載を総合すると、甲5-1には、次の発明(以下、「甲5-1発明」という。)が記載されているといえる。
「必要に応じて1つ以上の選択された薬物を保持する、固体マトリクスの可溶性(溶融性および生分解性を含む)の材料を含む、皮膚の穿孔のために、尖らせてあるか鋭利にされているミクロ針である微小穿孔器であって、
上記固体マトリクスの可溶性の材料は、トレハロース、グルコース、マルトース、ラクトース、ラクツロース、フルクトース、ツラノース、メリトース、メレチトース、デキストラン、ソルビトール、キシリトール、パラチニット及びマンニトールのような糖誘導体である炭水化物誘導体から選択され、
指または他の圧力機構によって手動で圧力を適用することによって、患者の皮膚内に駆動され、角質層を貫通して薬物を皮膚内に送達する、
微小穿孔器。」
イ 対比
本件訂正発明と甲5-1発明とを対比する。
(ア)本件訂正明細書【0034】の「目的物質は、薬物・・に属するものである」なる記載から明らかなとおり、本件訂正発明の「目的物質」には「薬物」が包含されているから、甲5-1発明の「薬物」は、本件訂正発明の「目的物質」に相当する。
(イ)上記記載事項(5-e)によれば、甲5-1発明における「皮膚」は、「表皮及び真皮から成る」ものであると解されるところ(上記第3の4(1)アも参照)、甲5-1発明の「微小穿孔器」は、「皮膚の穿孔のために、尖らせてあるか鋭利にされているミクロ針」であって、「指または他の圧力機構によって手動で圧力を適用することによって、患者の皮膚内に駆動され、角質層を貫通して薬物を皮膚内に送達する」ものであるから、本件訂正発明における、「皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる」ものであり、「尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される」ものである「経皮吸収製剤」に相当する。
(ウ)甲5-1発明の「固体マトリクスの可溶性の材料」は「微小穿孔器」の材料であって「薬物を保持する」ものであるところ、本件訂正発明の「基剤」も「経皮吸収製剤」の材料であって「目的物質」を保持するものであるから、甲5-1発明の「固体マトリクスの可溶性の材料」は、本件訂正発明の「基剤」に相当する。また、甲5-1発明の「固体マトリクスの可溶性の材料」の選択肢には、デキストランのような水溶性かつ生体内溶解性の多糖類が含まれるから、甲5-1発明の「固体マトリクスの可溶性の材料」と本件訂正発明の「基剤」は、「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる」点で共通する。
(エ)上記記載事項(5-c)には、甲5-1発明の「微小穿孔器」の製造方法に関して、「液体溶液(マトリクス材料および選択された薬剤を含む)は、鋳型で鋳造され、そして乾燥される」と記載されており、この記載によると、マトリクス材料と薬剤は、予め混合された状態で鋳型に流し込まれて鋳造されるものである。したがって、甲5-1発明の「微小穿孔器」は、本件訂正発明において除外される「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」には相当せず、本件訂正発明の「経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に相当する。
上記(ア)~(エ)を勘案すると、本件訂正発明と甲5-1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、
該基剤に保持された目的物質とを有し、
皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、
尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される、
経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)。」
<相違点>
「基剤」となる「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質」について、本件訂正発明においては、「コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)」であることが特定されているのに対し、甲5-1発明においては、「・・・、デキストラン、・・・のような糖誘導体である炭水化物誘導体から選択され」ることが特定されている点。
ウ 相違点についての判断
本件訂正発明は、「基剤」となる「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質」の選択肢として「デキストラン」を含むものではあるが、「(但し、デキストランのみからなる物質は除く)」と規定されており、「基剤」がデキストランのみである場合は除外されている。
これに対し、甲5-1発明は、「固体マトリクスの可溶性の材料」の選択肢のうち高分子物質としては、「デキストラン」のみを含むものである。しかも、甲5-1には、「固体マトリクスの可溶性の材料」として、「デキストラン」に加えて、又は代えて、「コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質」を用いることは記載されておらず、そのことが、甲5-1に記載されているに等しい事項であるともいえない。
よって、上記相違点は実質的な相違点であり、本件訂正発明は、甲5-1に記載された発明ではない。
エ 請求人の主張について
請求人は、平成25年3月7日付けの弁駁書において、本件訂正発明の高分子物質について、本件特許の出願時に請求項1において「多糖類」とひとくくりにされていたことを勘案すると、デキストラン以外の他の5種の多糖類(コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、キトサン、プルランのこと。なお、本件訂正発明ではキトサンは削除されている。)も、「本願出願時における技術常識を参酌することにより当業者が当該刊行物に記載されている事項から導き出せる事項」であるといえる旨主張している(8.4参照)。
しかしながら、本件特許出願の補正の経緯によって、甲5-1に記載された発明の認定が左右されるべき理由はないから、請求人の上記主張は採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件訂正発明は、甲5-1に記載された発明ではないから、請求人が主張する甲5-1に基づく無効理由1は理由がない。
(4)甲6に基づく無効理由1についての当審の判断
ア 引用発明の認定
甲6には、主成分材質がマルトースとデキストランの混合物であり、インスリン又はインスリン製剤を含有する、円錐状若しくは円柱状の細針であるマイクロニードルが記載されており(6-a)、該マイクロニードルについて、以下のことが記載されている。
・「天然に存在する糖にインスリンまたはインスリン製剤を混入した材料からなる細針を、皮膚に軽く押し付けて内部に侵入させ、皮膚真皮層または皮下組織にインスリンを残留させる」ことによって、インスリンを投与すること(上記記載事項(6-b))。
・「体内で溶解し、極めて安全」なものであること(上記記載事項(6-b))。
・「溶解にともなって、インスリンは組織内の血管から体内に吸収される」ものであること(上記記載事項(6-b))。
これら甲6の記載を総合すると、甲6には、次の発明(以下、「甲6発明」という。)が記載されているといえる。
「主成分材質がマルトースとデキストランの混合物であり、これにインスリン又はインスリン製剤を混入した材料からなる円錐状若しくは円柱状の細針であるマイクロニードルであって
皮膚に軽く押し付けて内部に侵入させ、皮膚真皮層または皮下組織にインスリンを残留させる、体内で溶解するマイクロニードル。」
イ 対比
本件訂正発明と甲6発明とを対比する。
(ア)本件訂正明細書【0034】の「目的物質は、薬物・・に属するものである」なる記載から明らかなとおり、本件訂正発明の「目的物質」には「薬物」が包含されているところ、甲6発明の「インスリン又はインスリン製剤」は薬物であるから、本件訂正発明の「目的物質」に相当する。
(イ)甲6発明の「円錐状若しくは円柱状の細針である」とされる「マイクロニードル」は、「皮膚に軽く押し付けて内部に侵入させ、皮膚真皮層または皮下組織にインスリンを残留させる、体内で溶解する」ものである。よって、その選択肢の一つである「皮膚真皮層」にインスリンを残留させる場合については、本件訂正発明における、「皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる」ものであり、「尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される」ものである「経皮吸収製剤」に相当する。
(ウ)甲6発明の「マイクロニードル」は、「主成分材質」である「マルトースとデキストランの混合物」に「インスリン又はインスリン製剤」を混入した材料からなるものであるから、甲6発明の「主成分材質」は、「マイクロニードル」(経皮吸収製剤)の材料であって、上記「インスリン又はインスリン製剤」(目的物質)を「保持」しているといえる。他方、本件訂正発明の「基剤」も「経皮吸収製剤」の材料であって「目的物質」を保持するものであるから、甲6発明の「主成分材質」及び「インスリン又はインスリン製剤」は、本件訂正発明の「基剤」及び「基剤に保持された目的物質」に相当する。
(エ)甲6発明の「マルトースとデキストランの混合物」について、二糖類であるマルトースと多糖類であるデキストランはいずれも天然に存在する糖類であって、これらの混合物が水溶性かつ生体内溶解性を有することは自明である。また、多糖類であるデキストランは高分子物質であるから、上記混合物は全体として高分子物質であるといえる。したがって、甲6発明の「マイクロニードル」の「主成分材質」である「マルトースとデキストランの混合物」と本件訂正発明の「基剤」は、「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる」点で共通する。
(オ)甲6発明の「マイクロニードル」は、「主成分材質」である「マルトースとデキストランの混合物」に「インスリン又はインスリン製剤」を混入した材料からなるものであるから、本件訂正発明において除外される「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」には相当せず、本件訂正発明の「経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)」に相当する。
上記(ア)~(オ)を勘案すると、本件訂正発明と甲6発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、
該基剤に保持された目的物質とを有し、
皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、
尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される、
経皮吸収製剤(但し、目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤を除く)。」
<相違点>
「基剤」となる「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質」について、本件訂正発明においては、「コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)」であることが特定されているのに対し、甲6発明においては、「マルトースとデキストランの混合物」であることが特定されている点。
ウ 相違点についての判断
本件訂正発明と甲6発明では「基剤」を構成する物質が相違する。そして、甲6には、「主成分材質」として、「マルトースとデキストランの混合物」に加えて、又は代えて、「コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質」を用いることは記載も示唆もされておらず、そのことが、甲6に記載されているに等しい事項であるともいえない。
よって、上記相違点は実質的な相違点であり、本件訂正発明は、甲6に記載された発明ではない。
なお、本件訂正発明の新規性の有無の判断基準日は、基剤として用いられる高分子物質の種類によって異なるが(上記(2)参照)、その基準日の違いは、上述した当審の判断を左右しない。
エ 小括
以上のとおり、本件訂正発明は、甲6に記載された発明ではないから、請求人が主張する甲6に基づく無効理由1は理由がない。
(5)甲7に基づく無効理由1についての当審の判断
ア 引用発明の認定
甲7には、「医療用針」が記載されており、該医療用針について、以下のことが記載されている。
・「生分解性材料からなり、所定方向に延びる医療用針であって、所定方向に垂直な平面で切断されたとき、先端部からの距離に依存して変化する断面積を有する三角形形状の断面を有し、所定方向に沿って連続的に一体成形される、断面積が単調増加する第1拡大領域と、断面積が単調減少する縮小領域と、断面積が単調増加する第2拡大領域とを有し、第1および第2拡大領域において最大の断面積を与える最大断面が実質的に同じ形状および断面積を有することを特徴とする」ものであること(上記記載事項(7-a)の[19])。
・以下の2通りの態様を採用し得ること。
態様A:
「医療用針の後端部に連結された保持部」及び「医療用針内部において所定方向に延びる少なくとも1つの通路」を有しており、該保持部は「通路と連通する少なくとも1つのチャンバ」を有し、該通路は「少なくとも1つの開口部を有する」態様(上記記載事項(7-a)の[23]~[26])。
態様B:
「所定方向に垂直な方向に延び、薬剤を収容する複数の縦孔」及び「縦孔を封止する生分解性材料からなる封止部」を有する態様(上記記載事項(7-a)の[30])。
・医療用針にはランセットが含まれること(上記記載事項(7-b))。
・「ブルラン(当審注:「プルラン」の誤記と認める),・・・,ヒアルロン酸,・・・など」、「好適には、・・・ヒアルロン酸、・・・などを含む生分解性ポリマ・・・を用いて形成される」ものであること(上記記載事項(7-c))。
・「体内の細胞組織(皮膚または筋肉内)に侵入する」ものであること(上記記載事項(7-d))。
また、甲7には上記態様A、Bそれぞれに対応する具体的な実施例(変形例1及び2)が示されており、態様Aに関して、「異なる薬剤をそれぞれのチャンバ82,83に封止し、複数の開口部77,78を介して薬剤を体内に徐放させることができる」こと(上記記載事項(7-e)、(7-g))、及び、態様Bに関して、「ランセット102を体内に穿刺して留置しておくと、・・・封止部92を構成する生分解性材料が徐々に分解され、縦孔91a~91dに収容された薬剤を含む微小粒体または粒体を徐放させることができる」こと(上記記載事項(7-f)、(7-h))、がそれぞれ記載されている。
これら甲7の記載を総合すると、甲7には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているといえる。
「ヒアルロン酸、プルランなどの生分解性ポリマからなる所定方向に延びる皮膚に侵入する医療用針であって、所定方向に垂直な平面で切断されたとき、先端部からの距離に依存して変化する断面積を有する三角形形状の断面を有し、所定方向に沿って連続的に一体成形される、断面積が単調増加する第1拡大領域と、断面積が単調減少する縮小領域と、断面積が単調増加する第2拡大領域とを有し、第1および第2拡大領域において最大の断面積を与える最大断面が実質的に同じ形状および断面積を有することを特徴とし、
医療用針は、内部において所定方向に延び、少なくとも1つの開口部を有する少なくとも1つの通路、及び、通路に連通し、薬剤を封止する少なくとも1つのチャンバを有する医療用針の後端部に連結された保持部を有し、開口部を介して薬剤を体内に徐放させることができるものであるか、あるいは、
医療用針は、所定方向に垂直な方向に延び、薬剤を収容する複数の縦孔と、縦孔を封止する生分解性材料からなる封止部を有し、体内に穿刺して留置しておくと封止部を構成する生分解性材料が徐々に分解され、縦孔に収容された薬剤を含む微小粒体または粒体を徐放させることができる医療用針。」
イ 対比
本件訂正発明と甲7発明とを対比する。
(ア)本件訂正明細書の段落【0034】の「目的物質は、薬物・・に属するものである」との記載から明らかなとおり、本件訂正発明の「目的物質」には「薬物」が包含されているから、甲7発明の「薬剤」は、本件訂正発明の「目的物質」に相当する。
(イ)甲7発明の「医療用針」を構成する「生分解性ポリマ」が本件訂正発明の「生体内溶解性の高分子物質からなる基剤」に相当することは当業者に明らかであるところ、甲7発明における「生分解性ポリマ」は、「ヒアルロン酸」又は「プルラン」であり得るから、これらは、本件訂正発明の「コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)」に相当し、また、「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤」にも相当する。
(ウ)甲7発明の「皮膚に侵入する医療用針」は、本件訂正発明の「経皮吸収製剤」に相当するし、「皮膚に侵入する医療用針」が、「尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される」ものであることは当業者に自明の事項であるし、甲7発明の医療用針は、「開口部を介して薬剤を体内に徐放させることができる」、あるいは、「体内に穿刺して留置しておくと封止部を構成する生分解性材料が徐々に分解され、縦孔に収容された薬剤を含む微小粒体または粒体を徐放させることができる」ものであるから、本件訂正発明の「皮膚・・・に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる」ものに相当する。
(エ)本件訂正発明の「基剤に保持された目的物質」との記載は、目的物質が基剤に保持されていることを規定しているところ、その保持の態様について何らこれを限定するものでないことは、その記載自体から明らかである。 そして、「保持」とは、甲22(広辞苑)にあるとおり、「たもちつづけること。手放さずに持っていること。」を意味する用語であり、その意味は明確である。
したがって、本件訂正発明の「保持」の技術的意義は、目的物質を基剤で保持する(たもちつづける)という意味のものとして一義的に明確に理解することができる。
そうすると、甲7発明の、「目的物質」(薬剤)が生分解性ポリマ(基剤)からなる医療用針内に設けられた「チャンバ」に「封止」されていることや「縦孔に収容され」ていることは、本件訂正発明の「目的物質」が「基剤に保持された」ことに相当する。
なお、この判断は、上記「第2 第1次~第3次取消判決の拘束力について」で述べたとおり、第1次取消判決によって拘束されるものである。
上記(ア)~(エ)を勘案すると、本件訂正発明と甲7発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「水溶性かつ生体内溶解性の高分子物質からなる基剤と、
該基剤に保持された目的物質とを有し、
皮膚に挿入されることにより目的物質を皮膚から吸収させる経皮吸収製剤であって、
前記高分子物質は、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、グリコーゲン、デキストラン、プルラン、血清アルブミン、血清α酸性糖タンパク質、及びカルボキシビニルポリマーからなる群より選ばれた少なくとも1つの物質(但し、デキストランのみからなる物質は除く)であり、
尖った先端部を備えた針状又は糸状の形状を有すると共に前記先端部が皮膚に接触した状態で押圧されることにより皮膚に挿入される、
経皮吸収製剤。」
<相違点>
・相違点1
本件訂正発明では、「目的物質が医療用針内に設けられたチャンバに封止されるか、あるいは縦孔に収容されることによって基剤に保持されている経皮吸収製剤」が除外されているのに対し、甲7発明は、薬剤が、生分解性ポリマからなる医療用針内に設けられた少なくとも1つのチャンバに封止されるか、縦孔に収容されることが特定される医療用針の発明である点。
・相違点2
「皮膚」について、本件訂正発明では、「皮膚(但し、皮膚は表皮及び真皮から成る。以下同様)」と特定されているのに対し、甲7発明ではそのことが特定されていない点。
ウ 相違点についての判断
以下、上記相違点について判断する。
(ア)相違点1について
上記イにおける(ア)~(エ)の内容を踏まえると、甲7発明は、目的物質(薬剤)が、医療用針内に設けられた少なくとも1つのチャンバに封止されるか、縦孔に収容されることによって基剤(生分解性ポリマ)に保持されている経皮吸収製剤(医療用針)であるといえるから、甲7発明の医療用針は、本件訂正発明において除外されている経皮吸収製剤(除外製剤)に相当する(上記第3の4(1)ウも参照)。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点である。
(イ)まとめ
したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件訂正発明と甲7発明は、上記相違点1において相違するものであり、本件訂正発明は、甲7に記載された発明ではない。
なお、本件訂正発明の新規性の有無の判断基準日は、基剤として用いられる高分子物質の種類によって異なるが(上記(2)参照)、その基準日の違いは、上述した当審の判断を左右しない。
エ 請求人の主張について
請求人は、平成26年5月28日付け口頭審理陳述要領書8.1.5において、「本件発明1には「基材」(当審注:「基剤」の誤記と認める。以下同じ。)と「目的物質」が記載されているところ、それらが必ず別異の物質であるとの限定はされていない」ため、「「基材」と「目的物質」が同じ物質である場合もその発明の要旨に含まれ」、そうすると、甲7の実施形態4および変形例8では、目的物質は「チャンバに封止されておらず、縦孔に収容されることによって基材に保持されているのでもない」ため、「除かれていない経皮吸収剤が記載されている」旨を主張している。
しかしながら、本件訂正発明は,皮膚から吸収させる「目的物質」を必須成分とするものであるところ、甲7には、「生分解性ポリマ」(基剤)が「ヒアルロン酸」又は「プルラン」であり得ることは記載されているものの、「薬剤」、すなわち体内に徐放するための活性成分として「ヒアルロン酸」又は「プルラン」を用いることは記載も示唆もされていない。したがって、単一の生分解性材料からなる甲7の実施形態4、変形例8のランセットは、そもそも「薬剤」(目的物質)を有するものであるとはいえず、請求人の上記主張を採用できない。
オ 小括
以上のとおり、本件訂正発明は、甲7に記載された発明ではないから、請求人が主張する甲7に基づく無効理由1は理由がない。
2 無効理由2について
(1)請求人が主張する無効理由2の概要
本件特許発明の技術的範囲には、基剤がヒアルロン酸のみの場合が含まれているところ、発明の詳細な説明(実施例)には基剤がヒアルロン酸のみの場合の記載はない。すなわち、基剤がヒアルロン酸のみの場合については、本件特許発明は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して登録されたものである。
(2)無効理由2についての当審の判断
ア 特許法第36条第4項第1項は、明細書の発明の詳細な説明の記載は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもの」でなければならないと定めるところ(いわゆる実施可能要件)、ここでいう「実施」とは、物の発明においては、当該発明に係る物の生産、使用等を意味するものであるから、実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明が、当業者が当該発明に係る物を生産し、使用することができる程度に明確かつ十分に記載されている必要がある。
イ これをヒアルロン酸のみを基剤として用いる場合の本件訂正発明(以下、「本件ヒアルロン酸発明」という。)について検討するに、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、ヒアルロン酸について、「医薬品分野において種々の製剤で使用実績がある物質」(上記記載事項(本―a)【0010】)であり、「例えば、ヒアルロン酸の場合は分子量120万程度のものまで使用可能であるが、分子量9万程度の比較的低分子のヒアルロン酸が特に好ましい」(上記記載事項(本―b)【0075】)ことが記載されている。 また、ヒアルロン酸が「少量の水に溶解されると糊状になる「曳糸性を有する物質」である」(上記記載事項(本―b)【0075】)ことが記載されるとともに、本件訂正発明の経皮吸収製剤の製造法として、以下の2つの方法が開示されている。
(ア)「基剤として、水に溶解させると曳糸性を示す物質からなるものを用い、糊状とする・・・。次に、目的物質を含有する基剤91にガラス棒93の先端を接触させ・・・直ちにガラス棒93を持ち上げて、ガラス棒93の先端に付着した目的物質を含有する基剤91を引き伸ばし・・・、さらにガラス棒93を持ち上げて、目的物質を含有する基剤91を針状又は糸状に成形する・・・。その後、針状又は糸状に成形した目的物質を含有する基剤91を乾燥又は硬化させることにより、略円錐の形状を有する経皮吸収製剤1を製造する」(上記記載事項(本―c)【0093】)
(以下、「ガラス棒使用法」という。)
(イ)「鋳型97は・・・平板92の正面に円錐状の孔・・・を設けることにより作成され・・・これらの孔・・・に目的物質を含有する基剤を充填し、乾燥又は硬化後、取り出す。これにより、針状又は糸状の経皮吸収製剤・・・を製造することができる。なお、目的物質を含有する基剤が糊状であれば、孔から取り出した後に乾燥又は硬化させることもできる」(上記記載事項(本―c)【0095】)
(以下、「鋳型使用法」という。)
ウ そして、実施例において、80mgのデキストラン(分子量17万~20万)、2mgのヒアルロン酸(平均分子量9万)、及び5mgのビタミンC(目的物質)に約50μLの精製水を加えて溶解及び混和することによって調製された糊状の基剤を用いて、上記「ガラス棒使用法」によって針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製したこと(上記記載事項(本―d)実施例15)、50mgのプルラン、1mgのヒアルロン酸(平均分子量9万)、及び2mgのビタミンC(目的物質)に約50μLの精製水を加えて溶解及び混和することによって調製された糊状の基剤を用いて、上記「ガラス棒使用法」によって針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製したこと(上記記載事項(本―d)実施例16)、2.4mgのヒアルロン酸(平均分子量9万)及び2.4mgのデキストラン(分子量5万~7万)に2.5μLの精製水を加えてよく溶解及び混和し、これに0.2mgのインスリンナトリウム(目的物質)を加えてよく混和することによって調製されたインスリンを保持させた糊状の基剤を用いて、上記「鋳型使用法」によって針状又は糸状の形状を有する経皮吸収製剤を作製したこと(上記記載事項(本―d)実施例22)が、具体的に記載されている。
エ そうすると、上記のような本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、基剤としてヒアルロン酸単独からなる材料を使用する場合であっても、上記実施例と同様に、ヒアルロン酸に精製水を加えて糊状の基剤を調製し、これを用いて上記「ガラス棒使用法」や上記「鋳型使用法」を行えば、針状又は糸状の形状の経皮吸収製剤を製造できることを理解することができる。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件ヒアルロン酸発明に係る物を生産することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
オ また、本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、種々の「水に溶解させると曳糸性を示す物質」を基剤とする「針状又は糸状の形状の経皮吸収製剤」が、実際に「目的物質」を皮膚から投与し得るものであることが多数の実施例において示されている(例えば、上記記載事項(本―d)実施例1)。そして、ヒアルロン酸も同様に「水に溶解させると曳糸性を示す物質」であることも記載されているから(上記記載事項(本―b)【0075】)、これらの本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、ヒアルロン酸単独からなる材料を基剤とする「針状又は糸状の形状の経皮吸収製剤」も、同様に「目的物質」を皮膚から投与できることを理解することができる。
よって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件ヒアルロン酸発明に係る物を使用することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
カ 上記無効理由2に関し、請求人は、第1回口頭審理において以下のとおり主張している(平成24年10月22日差出の請求人陳述要領書の6.4参照)。
「被請求人は、甲第7号証について、『一般に、ランセットの成形性及び物理強度等の特性は、構成材料として使用するポリマーの種類や製造方法に依存して大幅に変化するのであるから、当業者は、ポリマーの選択方法や製造方法の記載が無い甲第7号証の記載から、広範に例示された生体適合性材料の中から特にヒアルロン酸等を使用してランセットを製造できること、又は製造されたランセットが皮膚を貫通するのに十分な強度を有する注射針として機能することまでを、理解することはできない。』(答弁書第12頁下から第2行~第13頁第4行)と主張する。
しからば、『デキストラン及びヒアルロン酸の混合物を使用して経皮吸収製剤を実際に製造した操作が説明されている』(答弁書第14頁第8行~第9行)としても、単独成分では、『成形性及び物理強度等の特性は、構成材料として使用するポリマーの種類や製造方法に依存して大幅に変化するのであるから』(前段落に掲載)、当業者は、ヒアルロン酸を単独で基剤に使用して経皮吸収製剤を製造できること、又は製造された経皮吸収製剤が皮膚を貫通するのに十分な強度を有することまでを理解することはできないこととなる。
よって被請求人の主張は恣意的で説得力がなく、包袋禁反言の法理に反するものである。」
しかしながら、被請求人による主張の内容によって、本件訂正明細書の記載の理解は左右されるものではないから、請求人の上記主張は採用できない。
(3)小括
したがって、本件訂正明細書の発明の詳細な説明は、本件訂正発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものであり、請求人の主張する無効理由2は理由がない。
3 無効理由3について
(1)請求人が主張する無効理由3の概要
本件特許発明の技術的範囲には、基剤がヒアルロン酸のみの場合が含まれているところ、発明の詳細な説明(実施例)には基剤がヒアルロン酸のみの場合の記載はなく、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件特許発明は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反して登録されたものである。
(2)無効理由3についての当審の判断
ア 特許請求の範囲が、特許法第36条第6項第1号の要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
イ そこで、本件訂正発明が解決しようとする課題について検討するに、本件訂正明細書の発明の詳細な説明によれば、本件訂正発明の解決すべき課題は、「高温に曝されることなく製造することができ、適当な物理的強度を有し、有機溶媒を用いることなく製造することができ、その結果、難経皮吸収性の薬物等の経皮的吸収を可能にする、針状又は糸状の形状を有する自己溶解型の経皮吸収製剤等を提供すること」であると認められる(上記記載事項(本―a)【0007】)。
ウ この点に関し、上記2(2)で述べたとおり(特にイ~エ参照)、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、基剤としてヒアルロン酸単独からなる材料を使用する場合であっても、ヒアルロン酸に精製水を加えて糊状の基剤を調製し、これを用いて上記「ガラス棒使用法」や上記「鋳型使用法」を行えば、針状又は糸状の形状の経皮吸収製剤を製造できることを理解できるものであるところ、上記「ガラス棒使用法」や上記「鋳型使用法」を用いれば、「高温に曝されることなく製造することができ」、「有機溶媒を用いることなく製造することができ」ることは、当業者に自明な事項である。
エ また、同様に上記2(2)で述べたとおり(特にオ参照)、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば、ヒアルロン酸単独からなる材料を基剤とする「針状又は糸状の形状の経皮吸収製剤」が、「目的物質」を皮膚から投与できることを理解することができるものであるところ、「目的物質」を皮膚から投与できるものであれば、当然に「適当な物理的強度」を有しており、「薬物等の経皮的吸収を可能にする」ものであるといえる。
オ そうすると、本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、基剤としてヒアルロン酸単独からなる材料を使用する場合であっても、上記課題を解決できることを認識できるものといえる。
(3)小括
したがって、本件訂正発明は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たすものであり、請求人の主張する無効理由3は理由がない。
第9 むすび
以上のとおりであるから、平成30年4月13日付け訂正請求書に係る訂正の請求は認め、当該訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての特許は、無効理由1~3によっては無効とすることができない。
また、審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2012-800073