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特許無効審判

2011-800035

フッ素置換オレフィンを含有する組成物

審判番号
2011-800035
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2007-511024
登録番号
特許第4571183号(P4571183)
請求日
2011年02月28日
審決日
2015年09月29日
公報発行日
2018年04月27日
結論
請求成立(無効)
当事者
  • 【請求人】ダイキン工業 株式会社
  • 【請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
  • 【参加人】メキシケム、アマンコ、ホールディング、ソシエダッド、アノニマ、デ、カピタル、バリアブレ
  • 【参加人代理人】高村 雅晴
  • 【参加人】アルケマ フランス
  • 【参加人代理人】園田 吉隆
  • 【被請求人】ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド
  • 【被請求人代理人】小野 新次郎
  • 【被請求人代理人】沖本 一暁
  • 【被請求人代理人】松田 豊治
  • 【被請求人代理人】牧野 利秋
  • 【被請求人代理人】末吉 剛
審判長/審判官
  • 審判長 豊永 茂弘
  • 審判官 橋本 栄和
  • 審判官 日比野 隆治
分類
P1113.121-ZA (C09K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法61条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項、特許法第134条の2第1項、特許法第148条第1項、特許法第134条の2第5項、特許法第181条第2項、特許法第29条、特許法第123条第1項第2号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

上記当事者間の特許第4571183号発明「フッ素置換オレフィンを含有する組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

【結 論】 訂正を認める。 特許第4571183号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。

理由

【理 由】 第1 請求の趣旨・手続の経緯 1.設定登録までの経緯 特許第4571183号は、2005年4月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年4月29日 アメリカ合衆国(US))の国際出願日に出願されたものとみなされる国際特許出願(特願2007-511024号)について、平成22年8月20日に設定登録を受けたものである(請求項の数5。以下、その特許を「本件特許」、その明細書を「本件特許明細書」といい、その明細書、特許請求の範囲及び図面をまとめて「本件特許明細書等」という。) 2.本件請求の趣旨及びその理由の概要 本件審判請求人ダイキン工業株式会社(以下「請求人」という。)は、平成23年2月28日付けで「特許第4571183号の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」という趣旨の本件審判を請求し、各特許を無効とすべき理由につき、概略、下記の理由を提示するとともに、下記証拠方法(甲第1号証ないし甲第15号証)を提示した。 ・特許第4571183号(本件特許)の請求項1~5に係る発明は、甲第1号証~甲第7号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 請求人提示の証拠方法: <請求書に添付> 甲第1号証:特開平4-110388号公報 甲第2号証:社団法人空気調和・衛生工学会編「第12版 空気調和・衛生工学便覧 2 汎用機器・空調機器篇」平成7年3月25日、社団法人空気調和・衛生工学会発行、407~412頁 甲第3号証:カーエアコン研究会編著「自動車工学シリーズ カーエアコン[第2版]」2003年1月15日、株式会社山海堂発行、195~212頁 甲第4号証:乙竹直編著「代替フロンの探索」1989年12月20日、株式会社工業調査会発行、60~63頁 甲第5号証:ロシア特許第2073058号公報(1997年2月10日公開。なお、訳文が添付されている。) 甲第6号証:早川一也監修「Technical Report No.52 ヒートポンプの応用と経済性」1984年2月27日、株式会社シーエムシー発行、126~127頁 甲第7号証:「HFC系冷媒 ハンドブック」1998年12月、ダイキン工業株式会社発行、25~27頁 甲第8号証:「Modern REFRIGERATION and AIRCONDITIONING」1988年、THE GOODHEART-WILLCOX COMPANY,INC.発行、949~976頁(部分訳添付) <弁駁書に添付> 甲第9号証:社団法人日本冷凍空調学会冷凍空調便覧改訂委員会編「新版第6版 冷凍空調便覧 第I巻 基礎編」平成22年6月30日、社団法人日本冷凍空調学会発行、99~103頁 甲第10号証:技術資料「地球にやさしい新代替物質 HFC-134a」、2004年8月、ダイキン工業株式会社化学事業部作成(発行)、10頁 甲第11号証:特開平5-85970号公報 <口頭審理陳述要領書に添付> 甲第12号証:無効2011-800048号審決(審決日平成24年4月3日) <平成27年4月10日付け上申書に添付> 甲第13号証:技術資料「特定フロン(CFC/HCFC)およびフルオロカーボン類の環境・安全データ一覧表」2013年2月16日、日本フルオロカーボン協会作成(発行) 甲第14号証:技術資料「微燃性冷媒リスク評価研究会 平成25年度プログレスレポート」平成26年4月、公益社団法人日本冷凍空調学会作成(発行)、74~75頁 甲第15号証:技術資料「ノンフロン型省エネ冷凍空調システム開発/実用的な性能評価、安全基準の構築/『ノンフロン型省エネ冷凍空調システム開発』の実用的な運転モード及び評価手法ならびに安全基準の構築 プロジェクトの概要(公開)」独立行政法人産業技術総合研究所作成、URL:http://www.nedo.go.jp/content/100400257.pdf、70/115~71/115頁 (以下、「甲第1号証」を「甲1」などと略していう。) 3.以降の手続の経緯 本件審判は、上記2.の請求の趣旨及び理由により請求されたものであり、以降の手続の経緯は、以下のとおりである。 (なお、以下、審判被請求人を「被請求人」、参加人メキシケム、アマンコ、ホールディング、ソシエダッド、アノニマ、デ、カピタル、バリアブレを「参加人メキシケム」及び参加人アルケマ フランスを「参加人アルケマ」とそれぞれいう。) (1)審理手続の中止まで 平成23年 3月18日付け 答弁指令・請求書副本の送付 平成23年 6月22日   審判事件答弁書・訂正請求書 平成23年 6月29日   手続補正書(被請求人) 平成23年 8月 5日付け 審尋 平成23年 9月 6日   参加申請書(参加人メキシケム) 平成23年 9月 8日   回答書(被請求人) 平成23年10月14日付け 参加申請書副本送付(請求人・被請求人) 平成23年11月 4日   意見書(請求人) 平成23年12月 5日付け 弁駁指令(請求人) 答弁書・訂正請求書・手続補正書・回答書 の各副本送付 同日付け 意見書副本送付(被請求人) 平成23年12月 8日付け 参加許否の決定 (参加人メキシケム:参加許可) 同日付け 弁駁指令(参加人メキシケム) 意見書副本送付 平成24年 1月20日   弁駁書(請求人) 平成24年 2月10日   弁駁書(参加人メキシケム) 平成24年 2月20日付け 弁駁書副本の送付 (2)別件無効審判事件と本件審判の審理手続の中止及びその解除 ア.審理手続の中止に至る経緯 本件特許については、本件無効審判のほか無効2011-800048号及び無効2011-800075号の2つの別件審判請求がされていたところ、上記無効2011-800048号事件(以下「48号事件」という。)において、本件審判事件における上記訂正請求と同一の訂正事項の訂正請求がなされた本件特許につき、「訂正を認める。特許第4571183号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との結論である、全ての請求項に係る発明についての本件特許を無効とする旨の審決(第一次審決)が平成24年4月3日付けで行われたので、本件審判事件及び無効2011-800075号審判事件につき、いずれも審理手続を中止することを全ての当事者に平成24年5月10日付けで通知した。 イ.審理手続の中止の解除に至る経緯 本件特許に係る別件48号事件についての第一次審決につき審決取消訴訟が提起され、知的財産高等裁判所において平成24年(行ケ)第10286号事件として審理がされたところ、本件特許につき新たに訂正審判(訂正2012-390122号)が請求されたことに基づき、知的財産高等裁判所は、平成24年10月17日付けで特許法第181条第2項の規定により第一次審決を取り消す旨の決定をした。 そして、別件48号事件については、平成24年10月31日付けの新たな訂正請求による訂正を踏まえて再度審理され、本件特許につき、「訂正を認める。特許第4571183号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との結論の全ての請求項に係る発明についての本件特許を無効とする旨の審決(第二次審決)が平成25年4月2日付けで再度なされた。 さらに、第二次審決につき審決取消訴訟が提起され、知的財産高等裁判所において平成25年(行ケ)第10224号事件として審理がされていたところ、48号事件についての審判請求が平成26年11月12日付けで取り下げられるとともに、その審決取消訴訟についても、平成26年11月25日付けで訴えが取り下げられた。 そこで、本件請求人からの本件に係る審理再開の上申(平成26年11月26日付け)も踏まえて、当審は、本件審判事件の中止の解除を全当事者に平成26年11月28日付けで通知した。 (3)審理手続の中止解除以降の経緯 審理手続の中止解除以降の経緯は以下のとおりである。 平成27年 1月 5日付け 審理事項通知書 (請求人・被請求人・参加人メキシケムあて) 平成27年 2月25日   参加申請書(参加人アルケマ) 平成27年 2月27日付け 参加申請書副本送付 (請求人・被請求人・参加人メキシケムあて) 平成27年 3月 6日   口頭審理陳述要領書(請求人) 同日   口頭審理陳述要領書(被請求人) 同日   口頭審理陳述要領書(参加人メキシケム) 平成27年 3月10日付け 各口頭審理陳述要領書の副本送付 (請求人・被請求人・参加人メキシケムあて) 平成27年 3月20日   口頭審理 平成27年 3月23日   上申書(参加人メキシケム) 平成27年 3月26日付け 上申書(参加人メキシケム)副本送付 (請求人・被請求人あて) 平成27年 3月27日   意見書(請求人) 平成27年 4月10日   上申書(請求人) 同日   上申書(被請求人) 平成27年 4月28日付け 上申書(請求人)副本送付 (被請求人・参加人メキシケムあて) 同日付け 上申書(被請求人)副本送付 (請求人・参加人メキシケムあて) 平成27年 5月 1日   上申書(被請求人) 平成27年 5月11日付け 上申書(被請求人)副本送付 (請求人・参加人メキシケムあて) 平成27年 6月22日付け 参加許否の決定 (参加人アルケマ:参加許可) 平成27年 6月23日付け 意見書副本送付(参加人メキシケムあて) 平成27年 6月24日付け 意見書副本送付(被請求人あて) 4.答弁の趣旨 被請求人は、「訂正を認める、本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求める。」という趣旨の答弁をし、以降、請求人が主張する上記無効理由は、いずれも理由がない旨の主張をするとともに、以下の証拠方法を提示している。 <答弁書に添付> 乙第1号証:D.Clodic et al.“Etude sur la climatisation automobile”1995年12月発行(全文英訳及び部分和訳添付) 乙第2号証:米国特許第3607755号明細書(部分訳添付) 乙第3号証:SAE Internationalが2008年10月に「J2765」規格として発行した「Procedure for Measuring System COP[Coefficient of Performance]of a Mobile Air Conditioning System on a Test Bench」(部分訳添付) 乙第4号証:被請求人が2007年11月19日に作成した社外秘技術資料「Comparative Performance of R1234yf with R134a in Mobile AC Systems」(部分訳添付) 乙第5号証:米国特許第5001287号明細書(部分訳添付) 乙第6号証:ARI Standard 700「SPECIFICATIONS FOR FLUOROCARBON REFRIGERANTS」2006年(部分訳添付) 乙第7号証:NASA CONTRACT No.NAS 7-918,“Technical Support Package on Nearly Azeotropic Mixtures to Replace Refrigerant 12”,1992年8月(部分訳添付) 乙第8号証:W.L.Kopko著「Beyond CFCs:Extending the Search for New Refrigerants」Proceedings of ASHRAE’s 1989 CFC Technology Conference,NIST,1989年9月,39~46頁 乙第9号証:2003年10月27日付けで米国特許商標庁に提示されたG.Rusch博士の同年同月15日付けの宣誓供述書(部分訳添付) 乙第10号証:技術資料「HFCの種類と用途」、日本フルオロカーボン協会ホームページ(URL:http://www.jfma.org/korekara/youto.html) 乙第11号証:特願平2-231618号(特開平04-110388号)の出願経過情報 乙第12号証:カーエアコン研究会編著「自動車工学シリーズ カーエアコン[第2版]」2003年1月15日、株式会社山海堂発行、252~255頁 乙第13号証:早川一也監修「Technical Report No.52 ヒートポンプの応用と経済性」1984年2月27日、株式会社シーエムシー発行、126~128頁 乙第14号証:K.Tanaka et al.“Thermodynamic properties of HFO-1234yf(2,3,3,3-tetrafluoropropene)”,Int.J.Refrig.2010,Vol.33,p.474~479 乙第15号証:Y.Higashi et al.“Critical Parameters and Saturated Densities in the Critical Region for trans-1,3,3,3-Tetrafluoropropene(HFO-1234ze(E))”,J.Chem.Eng.Data,2010,Vol.55,p.1594~1597 乙第16号証:乙竹直編著「代替フロンの探索」1989年12月20日、株式会社工業調査会発行、82~83頁 <口頭審理陳述要領書に添付> 乙第17号証:R.R.Singh博士の宣誓供述書、2013年9月10日作成(NIST規格書データベース23添付、本文訳文添付) 乙第18号証:“PARTICIPANTS’ HANDBOOK”2012年5月12日、AHRI(空調暖房冷凍研究所)発行、11頁(部分訳添付) 乙第19号証:“POLLUTION PREVENTION FACT SHEET”No.10,1997年1月、カナダ国環境省発行、5頁左欄5~15行(部分訳添付) 乙第20号証:技術資料「カーエアコン用冷媒について」2010年7月29日、一般社団法人日本自動車工業会発行 乙第21号証:“Toxicity of Possible Impurities and By-products in Fluorocarbon Products”,Technical Report No.103,2008年12月,ECETOC AISBL(欧州化学品環境毒性センター)発行,2頁第3段落及び76頁下から3行~最下行(部分訳添付) 乙第22号証:「製品安全データシート SolsticeTM yf Refrigerant(R-1234yf)(Ver.2.1)」2013年6月13日改訂、ハネウェル社(部分訳添付) 乙第23号証:“A sub-acute(28-day)inhalation toxicity study with 3,3,3-trifluoroprop-1-ene(HFO 1243zf)in rats”,TNO Report,2010年12月,TNO(オランダ応用科学研究機構)発行,6~7頁(部分訳添付) 乙第24号証:ANSI/ASHRAE規格34-2001,2001年,ASHRAE(米国暖房冷凍空調技術者協会)発行,5頁(部分訳添付) 乙第25号証:カ-エアコン研究会編著「自動車工学シリーズ カーエアコン[第2版]」2003年1月15日、株式会社山海堂発行、v頁17行~20行、9頁3行~14行 乙第26号証:山岡丈夫著「故障探求実戦シリーズ カー・エアコンのカンどころ」平成元年5月20日、株式会社鉄道日本社発行,3~16頁 乙第27号証:“List of weather records”(URL:http//:en.wikipedia.org/wiki/List_of_weather_records)2012年1月17日掲示(部分訳添付) 乙第28号証:P.Hrnjak博士の宣誓供述書、2012年9月20日作成(宣誓者経歴書添付、本文及び経歴書訳文添付) 乙第29号証:J.A.Baker氏の宣誓供述書、2012年9月9日作成(宣誓者経歴書添付、本文及び経歴書訳文添付) 乙第30号証:Mobile Air Conditioning Society(MACS)Worldwideのホームページ(URL:不明)(訳文添付) 乙第31号証:米国特許商標庁に提示されたD.Bivens氏の2014年4月10日付けの第3宣誓供述書(部分訳添付) 乙第32号証:米国特許7084315号明細書 乙第33号証:米国特許出願公開2011/0312101号明細書 <平成27年4月10日付け上申書に添付> 乙第34号証:“Climate Change 2001”報告書における“6.12 Global Warming Potentials”の欄,IPCC(環境変動に関する政府間パネル)作成(URL:http://www.glida.no/climate/ipcc_tar/wg1/247.htm)(部分訳添付) 乙第35号証:“Scientific Assessment of Ozone Depletion:2002”,Global Ozone Research and Monitoring Project-Report No.47,WMO(世界気象機関)作成(部分訳添付) 乙第36号証:M.D.Hurley et al.,Chemical Physics Letters,Vol.450(2008)p.263~267(部分訳添付) 乙第37号証:T.J.Wallington et al.,Environ.Sci.Technol.,Vol.28,No.7(1994)p.320A~326A(部分訳添付) 乙第38号証:“Glossary of Climate Change Terms”,US EPA(米国環境保護庁)のホームページ(URL:http://www.epa.gov/climatechange/glossary.html)(2015年4月4日にプリントアウトされたもの)(部分訳添付) (以下、「乙第1号証」を「乙1」などと略していうことがある。) 5.参加人メキシケムの参加の趣旨 参加人メキシケムは、参加申請書において、特許法第148条第1項の規定により請求人側に参加するとし、更に弁駁書において「特許第4571183号の特許請求の範囲の請求項1~4(但し、平成23年6月22日付け訂正請求書に添付の訂正後の請求項1~4)に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との趣旨の弁駁をするとともに、以降、以下の証拠方法を提示している。 <弁駁書に添付> 丙第1号証:V.L.Orkin et al.,J.Phys.Chem.A,Vol.101,No.48,(1997)p.9118~9124 丙第2号証:“Honeywell Low Global Warming Technologies”“Mobile Air Conditioning-HFO-1234yf”,ハネウェル社ホームページ(URL:現時点不明)(2012年2月9日付けプリントアウト添付) 丙第3号証:“Climate Change 2007”報告書における“2.10.2 Direct Global Warming Potentials”の欄,IPCC(環境変動に関する政府間パネル)作成(URL:http://www.ipcc.ch/publications_and_data/ar4/wg1/en/ch2s2-10-2.html) 丙第4号証:参加人メキシケムが作成した丙第3号証記載のフルオロカーボン類に係るGWPと大気寿命との関係をプロットした図 丙第5号証:特表2006-512426号公報 丙第6号証:“SAE UPdate”,Vol.20,No.6,(2003年6月)p.4(部分訳添付) 丙第7号証:“FEDERAL REGISTER”,Vol.76,No.60,(2011年3月29日発行),p.17488,p.17520(US EPA(米国環境保護庁))(部分訳添付) 丙第8号証:“2002 Annual Report”SAE International(米国自動車技術者協会)(部分訳添付) 丙第9号証:“SolsticeTM 1234yf Refrigerant for MAC - The Facts”,2011年9月,ハネウェル社作成(発行)(部分訳添付) 丙第10号証:「産業構造審議会化学・バイオ部会地球温暖化防止対策小委員会第2回物質代替促進WG速記録」平成22年7月29日、経済産業省ホームページ(URL:http://www.meti.go.jp/committee/summary/0004674/gijiroku02.pdf) <口頭審理陳述要領書に添付> 丙第11号証:“Honeywell SolticeTM HFO1234yf Hispacold Case Study”,ハネウェル社ホームページ(URL:http://www.honeywell-refrigerants.com/europe/resources/customer-case-studies/honeywell-soltice-hfo1234yf-hispacold-case-study/)(2014年12月19日にプリントアウトされたもの)(部分訳添付) (以下「丙第1号証」を「丙1」などと略していうことがある。) 6.参加人アルケマの参加の趣旨 参加人アルケマは、参加申請書において、特許法第148条第1項の規定により請求人側に参加するとしている。 第2 本件訂正について 被請求人が別件48号事件で行った本件特許に係る平成24年10月31日付けの訂正請求は、別件48号事件の無効審判請求の取下げにより、訂正請求も取り下げられたものとみなされるので、平成23年6月22日付けの訂正請求の適否につき、平成23年法律63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「特許法」という。)に基づいて検討する。 1.訂正の内容 平成23年6月22日付けの訂正請求は、本件特許に係る明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した明細書及び特許請求の範囲のとおりに訂正(以下、「本件訂正」という。)することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の「自動車の空調装置におけるテトラフルオロプロペン(HFO-1234)を含む組成物の冷媒としての使用。」を「自動車の空調装置における2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む組成物の冷媒としての使用。」と訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項5を削除する。 2.本件訂正の適否についての検討 (1)特許法第134条の2第1項ただし書各号に掲げる事項を目的とするか否かについて 訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1における「テトラフルオロプロペン(HFO-1234)」の種類を、訂正前の請求項5の記載に基づき「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」と下位概念に限定した上で、訂正事項2に係る訂正のとおり、訂正前の請求項5を削除しているのであるから、訂正事項1と訂正事項2により併せて特許請求の範囲を実質的に減縮していることが明らかである。 したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものといえる。 (2)特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項及び同法同条第4項の規定に適合するか否かについて 上記(1)でも説示したとおり、本件訂正における訂正事項1及び2は、訂正前の請求項に記載された事項に基づき、併せて特許請求の範囲を実質的に減縮していることが明らかであるから、本件訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであると認められるとともに、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかである。 したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定及び同法同条第4項の規定のいずれにも適合するものである。 (3)小括 以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、同法同条第5項において準用する同法第126条第3項の規定及び同法同条第4項の規定のいずれにも適合するものであるから、適法なものである。 3.本件訂正についてのまとめ 以上のとおりであるから、平成23年6月22日付けで請求された訂正を認める。 第3 本件特許 上記第2で示したように、平成23年6月22日付けの訂正請求は適法なものであるから、本件特許の請求項1~4に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された以下の事項により特定されるとおりのものである(以下、訂正後の請求項1~4に係る発明を項番に従い、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ということがある。また、訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 自動車の空調装置における2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む組成物の冷媒としての使用。 【請求項2】 前記組成物が潤滑剤をさらに含む、請求項1に記載の使用。 【請求項3】 前記潤滑剤が前記組成物の30~50重量%の量で存在する、請求項2に記載の使用。 【請求項4】 前記潤滑剤がポリアルキレングリコール潤滑剤を含む、請求項2に記載の使用。」 第4 請求人の主張する無効理由の概要 請求人は、請求の趣旨を「特許第4571183号の請求項1~5に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とする本件無効審判請求を行い、その請求の根拠として「特許第4571183号の請求項1~5に記載された発明・・は、甲第1号証~甲第7号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。」としている。 そして、訂正後の本件についての弁駁書の「特許第4571183号の請求項1~4(但し、平成23年6月22日付け訂正請求書に添付の訂正後の請求項1~4)に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」との弁駁の趣旨及びその記載内容からみて、請求人の主張する無効理由は、以下のとおりのものであると整理することができる。 ・本件発明1ないし本件発明4に係る特許は、甲第1号証~甲第7号証に記載された発明に基づいて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。 (以下、「無効理由」という。) (なお、参加人メキシケムは、平成24年2月10日付け弁駁書において、弁駁の趣旨は、請求人のものと同一であるとし、請求人の平成24年1月20日付け弁駁書における主張を全面的に支持する旨主張している。) 第5 当審の判断 当審は、本件発明1ないし4に係る特許は、請求人が主張する上記無効理由により無効とすべきものと判断する。 以下、詳述する。 I.物質名について(前提) 以下の物質は、文献によって略称表現が異なるが、「HFC-」及び「HFO-」はハイドロフルオロカーボン及びその一種であるハイドロフルオロオレフィン、「CFC-」はクロロフルオロカーボン並びに「HCFC-」はハイドロクロロフルオロカーボンのそれぞれ頭文字略称であるのに対して、「R-」は冷媒の略号であり、同じ物質を意味することが当業者に自明であるので、以下の各物質については、文献の記載をそのまま引用する場合を除き、括弧内左側の略称に統一して表記する。 1,1,1,2-テトラフルオロエタン (HFC-134a又はR-134a) 2,3,3,3-テトラフルオロプロペン (HFO-1234yf又はR-1234yf) 1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(cis形とtrans形がある。) (HFO-1234ze又はR-1234ze) ジクロロジフルオロメタン (CFC-12又はR-12) クロロジフルオロメタン (HCFC-22又はR-22) 1,1-ジフルオロエタン (HFC-152a又はR-152a) ジフルオロメタン (HFC-32又はR-32) II.無効理由についての検討 1.各甲号証の記載事項 請求人が提示した甲号証のうち主なものには、それぞれ以下の事項が記載されている。 (1)甲1 甲1には、以下の事項が記載されている。 (1a)「1.分子式:C3HmFn (但し、m=1~5,n=1~5且つm+n=6) で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体。」(1頁、特許請求の範囲) (1b)「産業上の利用分野 本発明は、冷凍機、ヒートポンプなどで使用される熱伝達用流体に関する。」(1頁左下欄9~11行) (1c)「従来技術とその問題点 従来、ヒートポンプの熱媒体(冷媒)としては、クロロフルオロ炭化水素、フルオロ炭化水素、これらの共沸組成物ならびにその近辺の組成物が知られている。これらは、一般にフロンと称されており、現在R-11(トリクロロモノフルオロメタン)、R-22(モノクロロジフルオロメタン)、R-502(R-22+クロロペンタフルオロエタン)などが主に使用されている。 しかしながら、近年、大気中に放出された場合に、ある種のフロンが成層圏のオゾン層を破壊し、その結果、人類を含む地球上(審決注:「地球状」と記載されているが「地球上」の誤記と認める。)の生態系に重大な悪影響を及ぼすことが指摘されている。従って、オゾン層破壊の危険性の高いフロンについては、国際的な取決めにより、使用および生産が規制されるに至っている。規制の対象になっているフロンには、R-11とR-12とが含まれており、またR-22については、オゾン層破壊への影響が小さいため、現在規制の対象とはなっていないが、将来的には、より影響の少ない冷媒の出現が望まれている。冷凍・空調設備の普及に伴って、需要が毎年増大しつつあるフロンの使用および生産の規制は、居住環境をはじめとして、現在の社会機構全般に与える影響が極めて大きい。従って、オゾン層破壊問題を生じる危険性のない或いはその危険性の極めて小さい新たなヒートポンプ用の熱媒体(冷媒)の開発が緊急の課題となっている。」(1頁左下欄14行~2頁左上欄4行) (1d)「問題点を解決するための手段 本発明者は、ヒートポンプ或いは熱機関に適した熱伝達用流体であって、且つ当然のことながら、大気中に放出された場合にもオゾン層に及ぼす影響が小さいか或いは影響のない新たな熱伝達用流体を得るべく種々研究を重ねてきた。その結果、特定の構造を有する有機化合物がその目的に適合する要件を具備していることを見出した。 すなわち、本発明は、下記の熱伝達用流体を提供するものである: 「分子式:C3HmFn (但し、m=1~5,n=1~5且つm+n=5) で示され且つ分子中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱伝達用流体。」」(2頁左上欄5行~末行) (1e)「本発明で使用する代表的な化合物の主な物性は、以下の通りである。 I.F3C-CH=CH2(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン) 沸点      -17.0℃ 臨界温度    126℃ 臨界圧力     41kg/cm2 分子量      ・・・(審決注:省略する。「96.05」と記載されているのは誤記と認める。) II.F3C-CH=CHF(審決注:「F3C」と記載されているが「F3C」の誤記と認める。)(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン) 沸点      -16.0℃ 臨界温度    121℃ 臨界圧力     39.1kg/cm2 分子量     114.04」(2頁右上欄1行~14行) (1f)「本発明において熱伝達用流体として使用するC3HmFnで示される化合物は、オゾン層に影響を与える塩素原子および臭素原子を全く含まないので、オゾン層の破壊問題を生じる危険性はない。」(2頁左下欄9~13行) (1g)「また、一方では、C3HmFnで示される化合物は、ヒートポンプ用熱媒体としての特性にも優れており、成績係数、冷凍能力、凝縮圧力、吐出温度などの性能において、バランスが取れている。さらに、この化合物の沸点は、現在広く使用されているR-12,R-22、R-114およびR-502のそれに近いため、これら公知の熱媒体の使用条件下、即ち蒸発温度-20から10℃および凝縮温度30から60℃での使用に適している。」(2頁左下欄14行~右下欄5行) (1h)「また、本発明においては、C3HmFnで示される化合物を少なくとも含み、R-22(CHClF2),R-32(CH2F2),R-124(CF3CHClF),R-125(CF3CF2H),R-134a(CF3CFH2),R-142b(CH3CClF2)、143a(CF3CH3)およびR-152(CHF2CH3)からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む混合物を熱伝達用流体として使用しても良い。この混合物を使用する場合には、低沸点の冷媒を混合することにより、更に冷凍能力を向上させたり、蒸発潜熱の大きな冷媒を混合することにより、成績係数を向上させたり、或いは冷凍機油との溶解性を改善したりすることができる。 本発明で使用するC3HmFnで示される化合物或いはC3HmFnで示される化合物とR-22,R-32,R-124,R-125,R-134a,R-142b,R-143aおよびR-152aの少なくとも一種との混合物は、ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている。」(2頁右下欄6行~3頁左上欄11行) (1i)「発明の効果 本発明による熱伝達用流体によれば、下記の様な顕著な効果が達成される。 (1)従来からR-12,R-22或いはR-502を熱媒体として使用してきたヒートポンプと同等以上のサイクル性能が得られる。 (2)熱媒体としての優れた性能のゆえに、機器設計上も有利である。 (3)仮に本発明による熱伝達用流体が大気中に放出された場合にも、オゾン層破壊の危険性はない。」(3頁左上欄12行~右上欄4行) (1j)「実施例1 熱媒体としてF3C-CH=CH2(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン)を使用する1馬力のヒートポンプにおいて、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を-10℃,-5℃,5℃および10℃とし、凝縮器における凝縮温度を50℃とし、過熱度および過冷却度をそれぞれ5℃および3℃として、運転を行なった。 また、比較例として、R-12(比較例1)、R-22(比較例2)およびR-502(比較例3)を熱媒体として使用して、上記と同一条件下にヒートポンプの運転を行なった。 これらの結果から、成績係数(COP)および冷凍効果を次式により、求めた(第1図に示すモリエル線図参照)。 COP=(h1-h4)/(h2-h1) 冷凍効果=h1-h4 h1・・・蒸発器出口の作動流体のエンタルピー h2・・・凝縮器入口の作動流体のエンタルピー h4・・・蒸発器入口の作動流体のエンタルピー 本実施例ならびに比較例で使用した冷凍サイクルの回路図を第2図に示す。 COPおよび冷凍能力の算出結果を比較例1~3の結果と対比して第3図および第4図にそれぞれ示す。 なお、第3図に示す成績係数は、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(COPB)で、それぞれの熱媒体の測定値(COPA)を除したものである。特に、本発明による熱媒体の結果は、“○”で示してある。 また、第4図に示す冷凍能力は、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(能力B)で、それぞれの熱媒体の測定値(能力A)を除したものである。本発明による熱媒体の結果は、やはり“○”で示してある。 第3図から明らかな様に、本実施例による作動流体は、COPに関して、R-12およびR-22と同程度の良好な値を示している。さらに、第4図から明らかな様に、冷凍効果に関して、R-12よりも高めの値を示している。」(3頁右上欄8行~右下欄11行) (1k)「実施例2 熱媒体としてF3C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)を使用するとともに、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を5℃とする以外は実施例1と同様にしてヒートポンプの運転を行なった。 成績係数および冷凍能力を下記第2表に示す。何れの数値も、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(COPBおよび冷凍能力B)により本発明熱媒体の測定値(COPAおよび冷凍能力A)を除した数値で示してある。 第 2 表 実施例2  R-12  R-502 COPA/COPB  1.01  1.02  0.92 能力A/能力B   0.43  0.61  1.03 」(4頁左上欄17行~右上欄13行) (1l)「実施例5 熱媒体としてF3C-CF=CH2を使用する以外は実施例1と同様にして、ヒートポンプの運転を行なったところ、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。」(4頁右下欄8~12行) (1m)「第1図は、実施例において成績係数(COP)および冷凍効果求めるために使用したモリエル線図である。 第2図は、本実施例ならびに比較例で使用した冷凍サイクルの回路図である。 第3図は、実施例1および比較例1~3によるCOPを示すグラフである。 第4図は、実施例1および比較例1~3による冷凍能力を示すグラフである。」(4頁右下欄14行~5頁左上欄4行) (1n)「 」(6頁) (1o)「 」(6頁) (1p)「 」(7頁) (1q)「 」(7頁) (2)甲3 甲3には、以下の事項が記載されている。 (2a)「7.6 ヒートポンプ 近年,都市大気汚染への改善要求,地球環境問題から低公害車,代替エネルギー車が市場に導入されつつある.このなかで,エネルギーを天然ガスなどに置き換える場合は,燃料のみの変更となるため,エアコン側の変更は必要ないが,低公害車の候補の一つである電気自動車(EV)の場合は,エンジンがないため,ルームエアコンなどで用いられている方式と同様なヒートポンプが主流となっている. ・・(中略)・・ (1)機能と特徴 ヒートポンプはルームエアコンと同様に,冷凍サイクルにより,暖房を行うものである.その基本構成を図7.18に,作動を図7.19のモリエル線図(p-h線図)に示す.クーラサイクルにおける室内の蒸発器と室外の凝縮器の機能が逆になり,冷媒を熱媒体とし,コンプレッサと絞りの働きによって,室外の蒸発器により外気から吸熱し,室内の凝縮器により放熱して暖房する. 図7.19に示すように,ヒートポンプの動力(入力)に対する暖房能力(出力)の比=効率(成績係数,COP:Coefficient of Performanceとも言う)は理論上1より大であり,電気ヒータ(効率1)と比較して,通常省動力(省電力)となる. ヒートポンプシステムは既存のエンジン車用エアコンと同様,四季を通じて車室内を快適にすると共に,窓ガラスの視認性を確保するために,冷房,暖房,除湿,および窓ガラスのデミスト,デフロスト機能を果たしている.」(195頁1行~196頁3行) (3)甲4 甲4には、以下の事項が記載されている。 (3a)「3 冷媒(作動流体) 3.1 冷媒(作動流体)の分類 エネルギー機関を大別すると熱機関(狭義のエンジン)と冷凍機関に分けられる。作動流体も,熱機関サイクル用作動流体と冷凍サイクル用作動流体に分けられ,さらに後者は冷凍機用とヒートポンプ用に分けられる。 当初ミジェリーによるフロンの開発の目的は,安全で効率のよい家庭用冷蔵庫の冷媒を得ることにあったから,本来フロンの使命は冷凍機用の作動流体(通常冷媒という)にあった。 先にも述べたように,現在特定フロンの最大の需要は,CFC-113を主とする溶剤,洗浄剤にあるが,次いで,CFC-12を主とする作動流体,特に冷媒が占め,全量の30%に近い量となっている。CFC-12は優秀なフロンで,エアゾール,発泡剤などにも使用されるが,全消費量の50%以上が冷媒で,中でも多いのが自動車用空調機,いわゆるカーエアコン向けである。もちろん,家庭用を含め電気冷蔵庫などにも使用されるが,その量はカーエアコン用の10%程度といわれている。 ・・(中略)・・ ・・(中略)・・ 3.2 冷媒に対する諸要求 本章始めに掲げた共通的条件の他に,作動流体に対しては同時に表4.7に掲げる諸条件に対する配慮が必要となる。 ・・(中略)・・ 一方,作動サイクルは熱力学的サイクルであるから作動流体物質の熱力学的特性には当然重大な関係がある。 現行の主要な実用サイクルは気液の平衡関係を利用しているので,気液の状態変化に関係する特性が重要となる。 まず,第6章の6.2項で説明するように,物質はその臨界温度以下の温度でないと蒸気を圧縮して液化することはできない。具体例では,カーエアコンの凝縮器(放熱器)の設置場所の温度は,場合により90℃を若干上まわる可能性もあるので,冷媒の臨界温度は必ずその温度以上でなければならない。このように,作動物質の臨界温度の高さは作動可能な温度範囲を高い方に拡げうる意味を持っている。 液体の蒸気圧は温度ととも増大するが,蒸気圧がちょうど大気圧に等しくなる温度が標準沸点で,標準沸点も物質系によって定まる物性定数である。いま真空の密閉容器に液体の適量を注入して,その物質の臨界点と融点との中間の一定温度に保つと,器内は気液の平衡状態になって,圧力はその温度の蒸気圧に等しくなることは誰もが知っている。いいかえれば温度が沸点以下であると器内は負圧になってしまう。 凝縮器(コンデンサー)や蒸発器(エバポレーター)などを含む作動サイクル装置内に外気や水などが浸入するといろいろの障害を生ずるから,可能ならば装置内が負圧になることは防ぎたい。標準沸点が作動サイクルの最低温度より低い作動物質を使って運転したいことになる。 温度変化に伴う蒸気圧の“変化の傾向”は,大まかにいえば,物質種によらずほぼ平行になるので,標準沸点からその物質の蒸気圧変化の大略を推測できることになる。 以上から我々は,低めの標準沸点値と,高めの臨界温度値をもつ物質に興味を持つことになる。」(60頁2行~63頁5行) (4)甲5 甲5には、以下の事項が記載されている。(なお、請求人提示の訳文に基づき摘示を行うが、原文5頁上段にある2つの表につき翻訳されたものである。) (4a)「 」(原文5頁上段) (5)甲6 甲6には、以下の事項が記載されている。 (5a)「3.冷媒の特性と選定 3.1 冷媒の特性 ヒートポンプサイクルにとって,その作動流体である冷媒の果たす役割は非常に大きい。 ヒートポンプの加熱能力,成績係数といった性能は,冷媒の熱力学的性質(・・中略・・)によって決定され,ヒートポンプにとって,どの冷媒を使用するかが性能上最も重要な問題となる。 ・・(中略)・・ 」(126頁5行~最下行) (6)甲7 甲7には、以下の事項が記載されている。 (6a)「 」(25頁) (6b)「 」(26頁) (6c)「 」(27頁) 2.甲1に記載された発明 甲1には、特許請求の範囲第1項に「分子式:C3HmFn(但し、m=1~5,n=1~5且つm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体」の発明が記載されており(摘示(1a))、該熱媒体は、「冷凍機、ヒートポンプなどで使用される熱伝達用流体」であることも記載されている(摘示(1b))。 そして、上記発明で使用する「代表的な化合物の主な物性」として以下のI及びIIの化合物の沸点、臨界温度、臨界圧力が示されている(摘示(1e))。なお、IIの化合物は、立体異性体2種が存在するが、甲1では区別されていない。 I.F3C-CH=CH2(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン) II.F3C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン) また、「C3HmFnで示される化合物は、ヒートポンプ用熱媒体としての特性にも優れており、成績係数、冷凍能力、凝縮圧力、吐出温度などの性能において、バランスが取れている。さらに、この化合物の沸点は、現在広く使用されているR-12,R-22、R-114およびR-502のそれに近いため、これら公知の熱媒体の使用条件下、即ち蒸発温度-20から10℃および凝縮温度30から60℃での使用に適している。」と記載され(摘示(1g))、「本発明で使用するC3HmFnで示される化合物・・・は、ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」とも記載されている(摘示(1h))。 さらに、実施例1において上記Iの化合物、実施例2において上記IIの化合物(HFO-1234zeである。)及び実施例5において F3C-CF=CH2 (審決注:上記IIの化合物と同様に表記すると、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンである。「-1-」は省略しても化学構造上の疑義が生じないから、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、すなわちHFO-1234yfである。) で表される化合物について、COP及び冷凍能力が測定され、HCFC-22のCOP及び冷凍能力と比較されており、その測定条件は、「1馬力のヒートポンプにおいて、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を・・・5℃・・・とし、凝縮器における凝縮温度を50℃とし、過熱度および過冷却度をそれぞれ5℃および3℃として、運転を行なった」とのものである。 そして、実施例1では、図3及び図4からみて、上記Iの化合物に係る5℃の蒸発温度における上記HCFC-22のCOP及び冷凍能力との比(以下「相対COP」及び「相対能力」という。)が、相対COPにつき1.0を僅かに上まわる程度であること及び相対能力につき0.7程度であることがそれぞれ記載されるとともに、HFO-1234yfの構造異性体であるHFO-1234zeを使用した実施例2では、相対COPにつき1.01及び相対能力につき0.43であることが示され、実施例5では「実施例1とほぼ同様の結果が得られた」と記載されている(摘示(1j)~(1q))。 これらの記載を総合すると、甲1には、 「分子式:C3HmFn(ただし、m=1~5,n=1~5かつm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体であって、該有機化合物は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである場合を含む熱媒体と、ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油とからなる熱媒体組成物の、ヒートポンプにおける使用」 の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているということができる。 3.本件発明1ないし4との対比・検討 (1)本件発明1について ア.対比 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「分子式:C3HmFn(ただし、m=1~5,n=1~5かつm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体であって、該有機化合物は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである場合を含む熱媒体」は、本件発明1における「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」に相当し、甲1発明における「熱媒体と、ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油とからなる熱媒体組成物」は、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである場合を含む熱媒体を含有する組成物であるから、本件発明1における「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む組成物」に相当する。 そして、甲1発明における「熱媒体」は、ヒートポンプシステム中で移動することにより、ある局所から他の局所に熱を移動させる媒体なのであるから、熱を移動させ局所を冷却する「冷媒」と軌を一にするものであり、また、空調装置において、冷媒を用いて冷房と共に管路切替えにより暖房を行うことも当業者の周知技術なのである(必要ならば甲3の上記摘示(2a)参照)から、当該「熱媒体」は、本件発明1における「冷媒」に相当するものと認められると共に、甲1発明における「ヒートポンプ」は、甲1において、「本発明は、冷凍機、ヒートポンプなどで使用される熱伝達用組成物に関する」とされ、その従来技術とその問題点として「冷凍・空調設備の普及に伴って」と記載されている(摘示(1b)及び(1c)参照)とおり、ヒートポンプ(装置)に空調装置が包含されていることは明らかであるから、当該「ヒートポンプ」は、本件発明1における「空調装置」に相当するものと認められる。 してみると、甲1発明における「熱媒体組成物の、ヒートポンプにおける使用」は、本件発明1における「空調装置における、・・組成物の冷媒としての使用」に相当するものと認められる。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、 「空調装置における2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む組成物の冷媒としての使用」 の点で一致し、下記の点でのみ相違する。 相違点1:本件発明1では、「自動車の空調装置」であるのに対して、甲1発明では、「ヒートポンプ」である点 イ.相違点に係る検討 上記相違点1につき検討すると、甲4及び甲7にもそれぞれ記載されている(摘示(3a)及び摘示(6a)並びに(6c)参照)とおり、CFC-12などのクロロフルオロカーボン類、HCFC-22などのハイドロクロロフルオロカーボン類及びHFC-134aなどのハイドロフルオロカーボン類を含むフッ素化炭化水素化合物、いわゆるフロン化合物を、空調装置、特にカーエアコン、すなわち自動車の空調装置における冷媒として使用することは、本件特許に係る出願日(優先日)前における当業者の周知慣用の技術であったものと認められる。 そして、上記甲4に記載されている(摘示(3a)の特に後段部参照)とおり、カーエアコンなどの蒸気圧縮型空調装置の冷媒化合物を選定するにあたり、使用温度領域(環境温度及び排出温度(凝縮温度))がその冷媒化合物の(標準)沸点以上臨界温度未満の範囲にないと冷媒として使用できるものではないところ、上記甲6にも記載されている(摘示(5a)参照)とおり、従来、空調装置における冷媒として使用されるCFC-12は、-29.65℃の沸点及び111.8℃の臨界温度を有するものであるのに対して、甲1及び甲5にもそれぞれ記載されている(摘示(1e)及び摘示(4a)参照)とおり、HFO化合物のうちハイドロフルオロプロペン化合物は、概ね-16~-17℃程度の沸点及び121~126℃程度の臨界温度を有し、特にHFO-1234yfは、-29℃(244.9K)の沸点と97℃(370.4K)の臨界温度を有するものであるから、90℃前後までの排出温度が許容できるカーエアコンのフロン化合物系の冷媒として選択することは、当業者が適宜なし得ることである。 また、本件明細書の記載及び甲1並びに甲3ないし甲6の記載を検討しても、甲1発明におけるヒートポンプに使用されるハイドロフルオロカーボンの一種である2,3,3,3-テトラフルオロプロペンなるハイドロフルオロオレフィンを含む熱媒体組成物を、自動車の空調装置における冷媒として使用することを妨げる技術的要因などが存するものとも認められない。 してみると、甲1発明におけるヒートポンプに使用される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを含む熱媒体組成物を、上記当業者の周知慣用の技術に基づき、自動車の空調装置における冷媒として使用することは、当業者が適宜なし得ることと認められる。 したがって、上記相違点1は、当業者が適宜なし得ることである。 ウ.本件発明の効果について 本件発明の効果につき本件明細書の記載に基づき検討すると、本件明細書の実施例1に係る記載(【0057】~【0060】)からみて、本件発明に係る「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」は、従来技術であるHFC-134aを使用した場合に比して、相対能力(比)の点で優れ、相対COP(比)及び排出温度の点で劣るものと認められるから、冷却/空調サイクルにおける熱力学特性の点で、本件発明に係る冷媒(組成物)が格別顕著な効果を奏するものとは認められない。 また、環境問題に係る効果につき検討すると、オゾン破壊係数(ODP)及び地球温暖化指数(GWP)は、いずれもその物質の有意量が大気中に放出された場合に関する物質の特性であって、実質的な閉鎖系である自動車の空調装置の循環系の中での冷媒としての使用における発明の効果であるとはいえない。 (なお、仮に、当該冷媒が、空調機器からの定常的な漏出及び自動車事故又は冷媒交換時の事故等の何らかの偶発的な要因により大気中に放出された場合であることを前提とすると、本件発明における「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」は、大気寿命が11日と極めて短いのに対して、従来技術に係るHFC-134aは、13年と長い(丙2参照)から、大気中で一定以上の長期間(例えば数年以上)安定に存在するとともにその物質が成層圏のオゾン層に到達することが前提となるオゾン破壊係数(ODP)及び同様に大気中で一定以上の長期間(例えば数年以上)安定に存在することが前提となる地球温暖化指数(GWP)の点において、本件発明におけるHFO-1234yfは、その前提を欠くからいずれも実質的に無視できる(0に近い)という効果を奏するものと認めることはできる。 しかしながら、本件発明におけるHFO-1234yfなる物質は、上記のとおり、大気寿命が11日と極めて短く、その短い大気寿命の経過により分解して、フッ化水素(HF)及びトリフルオロ酢酸(TFA)が生成する(被請求人が提出した平成27年4月10日付け上申書、乙36及び乙37参照)ところ、いずれも水溶性が高く極めて酸性度が高いものであり、特にHFは毒物として本邦の法令(「毒物及び劇物取締法」(昭和25年12月28日法律第303号)並びにその指定令(昭和40年1月4日政令第2号))で指定されているほどの有害なものであるから、当該分解生成物が大気中で発生した場合、新たな環境問題(例えば「酸性雨」及び「他者の健康被害」など)を生じる可能性が高いものと認められる。) さらに、甲1には、甲1発明におけるヒートポンプに使用される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンなどの熱媒体が、「要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」(摘示(1h)参照)から、本件発明におけるHFO-1234yfが潤滑油との相溶性又は材料に対する非浸蝕性などに係る効果において、甲1発明に比して特段に優れるものと認めることはできない。 してみると、本件発明の効果が、甲1発明の効果に比して、格別顕著なものであるということができない。 エ.小括 したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲3並びに甲4に開示された当業者の周知(慣用)技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)本件発明2ないし4について 本件発明1をいずれも引用する本件発明2ないし4につき併せて検討する。 ア.対比 本件発明2ないし4と上記甲1発明とをそれぞれ対比すると、上記甲1発明では、「ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油」を更に使用することが開示されているから、本件発明2については、上記(1)ア.で指摘した相違点1を除き、新たな相違点が存するものとは認められず、その余で一致する。 また、本件発明3及び4については、上記(1)ア.で指摘した相違点1に加えて、新たに以下の相違点が存するものと認められ、その余で一致する。 相違点2:本件発明3では、「潤滑剤が前記組成物の30~50重量%の量で存在する」のに対して、甲1発明では、潤滑剤の組成比(範囲)につき規定されていない点 相違点3:本件発明4では、「潤滑剤がポリアルキレングリコール潤滑剤を含む」のに対して、甲1発明では、「ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油」である点 イ.相違点に係る検討 そして、上記相違点1については、上記(1)イ.で説示したとおりの理由により、当業者が適宜なし得ることであり、当該相違点により格別な効果を奏し得るものとも認められない。 また、上記相違点2につき検討すると、甲1には、甲1発明におけるヒートポンプに使用される2,3,3,3-テトラフルオロプロペンなどの熱媒体が、「要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」(摘示(1h)参照)から、当該相溶性がある範囲で所望の組成比、例えば30~50重量%で潤滑剤を使用することに格別な技術的創意が存するものではなく、本件明細書の記載に基づき検討しても、潤滑剤の組成比を30~50重量%の範囲とすべき技術的要因又は臨界的意義が認識できるような記載が存するものでもない。 してみると、上記相違点2についても当業者が適宜なし得ることである。 さらに、上記相違点3につき検討すると、上記甲7にも記載されている(摘示(6a)~(6c)参照)とおり、従来のカーエアコンを含むヒートポンプで使用されるHFC-134aを含むHFC冷媒に混和される潤滑剤として、PAG油、すなわちポリアルキレングリコール油を使用することは、当業者の周知慣用の技術であるから、甲1発明における「ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油」として、当該周知慣用の技術に基づき、ポリアルキレングリコール潤滑剤を使用した点に格別な技術的創意が存するものではなく、本件明細書の記載に基づき検討しても、潤滑剤としてポリアルキレングリコール潤滑剤を使用すべき技術的要因などが認識できるような記載が存するものでもない。 したがって、上記相違点3についても、当業者が適宜なし得るものと認められる。 そして、上記(1)ウ.で説示したとおり、本件明細書の記載を検討しても、上記相違点1ないし3に係る事項により、本件発明が格別顕著な効果を奏しているものとは認められない。 ウ.小括 したがって、本件訂正発明2ないし4のいずれについても、甲1発明及び甲3、甲4並びに甲7に開示された当業者の周知(慣用)技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。 (3)対比・検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、いずれも甲1発明及び当業者の周知(慣用)の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.被請求人の主張について (1)被請求人の主張事項 被請求人は、平成23年6月22日付け審判事件答弁書及び平成27年3月6日付け口頭審理陳述要領書において、本件発明のような自動車の空調装置における冷媒については、概略以下の(a)ないし(g)の要求される事項が存在し、本件発明の冷媒では、それらを全て満足するものであり、更に従来の自動車の空調装置の冷媒であるHFC-134aに対するドロップイン置換できる冷媒として使用できることを主張し(答弁書10~14頁及び陳述要領書3~18頁)、もって本件発明が進歩性を有する旨主張しているので以下検討する。 (a)毒性が低いこと (b)GWPが低いこと (c)オゾン破壊係数(ODP)が低いこと (d)燃焼性が無いか又は低いこと (e)高い凝縮温度条件下で優れた冷却性能を有すること (f)圧縮機潤滑剤との混和性に優れること (g)機器及び潤滑剤との安定性に優れること (2)各点に係る検討 ア.上記(a)の点について 上記(a)の点につき検討すると、本件発明におけるHFO-1234yfは、乙9などからみて、それ自体は極めて低い急性毒性を有することが認められるが、その急性毒性は、本件発明の冷媒がドロップインとして用いることができるという従来技術であるHFC-134aについても同程度の低い急性毒性であるものと認められる(必要ならば下記参考文献参照)。 また、上記3.(1)ウ.でも説示したとおり、本件発明におけるHFO-1234yfは、極めて短い大気寿命を有するものであるから、自動車車内の空気中に漏出した場合、大気寿命経過後にHF及びTFAなる毒性及び刺激性(劇性)を有する分解生成物が存することになり、障害となる可能性も大きいものと理解するのが自然である。(なお、従来のHFC-134aは、大気寿命が極めて長いから、同様の分解生成物が発生するとしても障害となる可能性は極めて低いものといえる。) してみると、本件発明が、上記(a)の点で優れるということはできない。 参考文献:「化学物質の環境リスク評価 第8巻」平成22年3月、環境省作成、「[10]1,1,1,2-テトラフルオロエタン」の項(URL:http//:www.env.go.jp/chemi/report/h22-01/pdf/chpt1/1-2-2-10.pdf) イ.上記(b)及び(c)の各点について 上記(b)及び(c)の各点につき併せて検討すると、上記3.(1)ウ.でも説示したとおり、オゾン破壊係数(ODP)及び地球温暖化指数(GWP)は、いずれもその物質の有意量が大気中に放出された場合に関する物質の特性であるから、漏出、不完全回収などが起きた場合のリスクに係る事項である。 しかるに、本件発明におけるHFO-1234yf及び従来技術に係るHFC-134aは、共にODPは0である(甲13等参照)。 してみると、本件発明が上記(b)の点で本件発明が優れるということはできない。 また、本件発明におけるHFO-1234yfは、極めて短い大気寿命で分解し、短期間で大気中から消失するものであるから、一定期間大気中に存在することによる温室効果の指標である地球温暖化指数(GWP)については、実質的に0であるものと認められ、従来のHFC-134a(GWP=1430)に比して、他の点はさておき、優れるものといえる。 してみると、本件発明は上記(c)の点では優れるということはできる。 ウ.上記(d)の点について 上記(d)の点につき検討すると、本件発明におけるHFO-1234yfは、乙20の記載からみて、ホットプレート冷媒吹付け試験では、従来のHFC-134aと同様の不燃性性状を有するもの(30頁)の、6.2%の爆発下限界濃度を有する可燃性であるもの(25頁)とも認められる。これは、単に高温の部材表面に冷媒が存在しただけでは燃焼しないが、冷媒ガスが上記濃度以上の場合に直接着火すると燃焼(又は爆発)することを意味するものと認められる。 そして、甲13の記載を参酌すると、HFO-1234yfは6.2~12.3%の範囲で燃焼が起きるのに対して、従来のHFC-134aは不燃性であるから、当該燃焼性につき、本件発明におけるHFO-1234yfは、従来のHFC-134aに比して劣るものと理解するほかはない。 なお、6.2%なる爆発下限界濃度は、自動車のエンジン燃料として使用される水素ガス(4.0%)又はメタノール(6.72%)と略同等の濃度であり(必要ならば化学大辞典「爆発限界」の項参照)、本件発明におけるHFO-1234yfにつき、「燃焼性が無いか又は低い」と評価することはできないものと認められる。 してみると、本件発明は上記(d)の点で優れるということはできない。 エ.上記(e)の点について 上記(e)の点につき検討すると、上記3.(1)ウ.でも説示したとおり、本件明細書の実施例1に係る記載(【0057】~【0060】)からみて、本件発明に係るHFO-1234yfは、従来技術であるHFC-134aを使用した場合に比して、相対能力(比)の点で優れ、相対COP(比)及び排出温度の点で劣るものと認められる。 してみると、本件発明は上記(e)の点で優れるということはできない。 オ.上記(f)及び(g)の点について 上記(f)及び(g)の点につき併せて検討すると、甲1には、「ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」と記載されている(摘示(1h)参照)とおり、冷媒とそれと組み合わせて使用する潤滑剤との相溶性及びヒートポンプ装置における構成材料との非浸食性などの(機器の)安定性については、冷媒材料の使用にあたり当業者が当然に留意すべきことであり、更にHFO-1234yfを含む一般式で表されるハイドロフルオロプロペンを使用した場合につき上記相溶性及び安定性につき確認されているのであるから、本件発明におけるHFO-1234yfが甲1発明に比して特に上記相溶性及び安定性につき優れるものとは認めることができない。 してみると、本件発明は上記(f)及び(g)の点で優れるということができない。 カ.上記「従来の自動車の空調装置の冷媒であるHFC-134aに対するドロップイン置換できる冷媒として使用できる」との主張について 上記「ドロップイン置換できる冷媒として使用できる」との主張につき本件明細書の記載に基づき検討する。 本件明細書には、「CFC冷媒の代替物については、CFC冷媒を用いて現在使用されている在来の蒸気圧縮技術に対して大きな工学的設計変更を行なわずに実施されることが望ましいと、一般に考えられる。」と記載され(【0009】)、「特定の態様においては、本発明の組成物、特にトランスHFO-1234zeをかなりの割合で含む組成物、そして幾つかの態様においては本質的にトランスHFO-1234zeからなる組成物を、HFC-134aなどの現行の冷媒の代替物として用いるのが好ましい。特定の適用においては、本発明の冷媒は大きな排気量の圧縮機を使用する利益をもたらす可能性があり、それによってHFC-134aなどの他の冷媒よりも高いエネルギー効率が得られる。従って、本発明の冷媒組成物、特にトランスHFP-1234zeを含む組成物は、冷媒を置き換える適用についてのエネルギーを基礎とすることに関して、競争力のある利益をもたらす可能性がある。」(【0030】)との記載はあるものの、HFO-1234yfを使用する場合については、特に言及されていない。 そして、本件明細書の実験例に係る部分では、以下のa.ないしc.の事項が記載されているのみであり、HFC-134aとHFO-1234yfとの置換可能性を認識できるような具体的記載はない。 a.実施例1(【0057】~【0060】)において、HFO-1234yfを含む4種のHFO化合物の熱力学的な性能につき、HFC-134aと相対比較した上で、「HFC-134aよりも良好なエネルギー効率を有し(1.00と比較して1.02、1.04および1.13)、そして本冷媒組成物を用いる圧縮機は有利な排出温度をもたらすであろう(175と比較して158、165および155)、ということを示す。というのは、この排出温度の結果は、補修管理の問題の低減をもたらすと考えられるからである。」と、HFC-134aとHFO-1234yf以外の他のHFO化合物との熱力学的特性については評価記載されているものの、HFC-134aとHFO-1234yfとの対比評価については記載されていない。 b.実施例2(【0061】~【0063】)及び実施例3(【0064】~【0067】)においては、HFO-1234yf以外の他のHFO化合物につき、潤滑剤との相溶性につき検討し、当該化合物と潤滑剤との冷媒組成物につき「アルミニウム、鋼および銅と接触したときに安定である、ということを示す。」(【0067】)と記載されているのみであり、HFO-1234yfを使用した場合に係る記載はない。 c.比較例(【0068】~【0069】)においては、鉱油及びCFC-12からなる組成物につき金属片と加熱状態で1週間接触させた時の組成物が黒変したことにより組成物又は金属が分解したことを示す旨記載されている。 また、本件明細書の記載を検討しても、HFC-134aとHFO-1234yfとの置換可能性を認識できるような他の事項は記載されていない。 してみると、本件発明におけるHFO-1234yfを「従来の自動車の空調装置の冷媒であるHFC-134aに対するドロップイン置換できる冷媒として使用」することは、本件明細書に記載した事項ではない。 さらに、被請求人が提示した乙20の記載(特に25~26頁)からみて、HFO-1234yfを冷媒とするにあたり、従来のHFC-134a使用のカーエアコンシステムの種々の部材、特に冷媒配管系部材につき追加・変更するシステム装置の改造が必要であったものと認められるから、この点から見ても、本件発明におけるHFO-1234yfを「従来の自動車の空調装置の冷媒であるHFC-134aに対するドロップイン置換できる冷媒として使用」することができるということはできない。 したがって、上記「従来の自動車の空調装置の冷媒であるHFC-134aに対するドロップイン置換できる冷媒として使用できる」との主張は、本件明細書の記載に基づかないものであるか、技術的根拠を欠くものであるから、いずれにしても当を得ないものである。 (3)小括 以上のとおりであるから、本件発明は、GWPの点では優れるものの、その余の点では、甲1発明又は従来技術に比して、同等以下又は劣るものと認められるから、総合すると、甲1発明に対して進歩性を有するものと認めることができない。 したがって、被請求人の上記主張は、当を得ないものであり、上記3.の当審の検討結果を左右するものではない。 5.無効理由についての検討のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、いずれも甲1に記載された発明及び当業者の周知慣用の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。 III.当審の判断のまとめ 以上のとおりであるから、本件発明1ないし4は、いずれも、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができるものではないから、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条の規定に違反してされたものであって、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正後の請求項1ないし4に係る発明についての特許は、いずれも無効とすべきものである。 本件審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定により準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2011-800035

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  • 2022-800085無効審判 / 2023-08-30 / 請求不成立ネマチック液晶組成物
    共通の審決分類: 121・C09K
  • 2020-800081無効審判 / 2022-02-15 / 請求成立(無効)2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリ…
    共通の審決分類: 121・C09K
  • 2020-800064無効審判 / 2022-01-18 / 請求成立(無効)2,3-ジクロロ-1,1,1-トリフルオロプロパン、2-クロロ-1,1,1-トリ…
    共通の審決分類: 121・C09K

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