特許無効審判
2022-800085
ネマチック液晶組成物
- 審判番号
- 2022-800085
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2015-215718
- 登録番号
- 6107918
- 請求日
- 2022年11月02日
- 審決日
- 2023年08月30日
- 公報発行日
- 2024年04月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】石家庄▲誠▼志永▲華顕▼示材料有限公司
- 【請求人代理人】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
- 【被請求人】DIC 株式会社
- 【被請求人代理人】設▲楽▼ 隆一
- 【被請求人代理人】長谷川 芳樹
- 【被請求人代理人】清水 義憲
- 【被請求人代理人】今村 玲英子
- 【被請求人代理人】佐藤 慧太
- 【被請求人代理人】松阪 絵里佳
- 【被請求人代理人】吉住 和之
- 【被請求人代理人】中塚 岳
- 審判長/審判官
- 審判長 門前 浩一
- 審判官 瀬下 浩一
- 審判官 亀ヶ谷 明久
- 分類
- P1123.161-YAA(C09K) / P1123.121-YAA(C09K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第4項第1号、特許法第134条の2第3項、特許法第123条第1項第2号、特許法第131条の2第2項、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6107918号発明「ネマチック液晶組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6107918号の特許請求の範囲を令和5年1月27日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
本件審判の請求は成り立たない。
審判費用は、請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成19年9月28日の出願である特願2007-254122号の一部を平成25年4月26日に新たな特許出願とした特願2013-93783号の一部を平成26年9月2日に新たな特許出願とした特願2014-178048号の一部を平成27年11月2日に新たな特許出願としてものであって、平成29年3月17日に特許第6107918号として設定登録(請求項の数10)がされたものである。
本件特許無効審判事件における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和4年11月 2日 本件無効審判請求(請求項1~5に係る特許に対して)
令和5年 1月27日 審判事件答弁書及び訂正請求書(被請求人)
同年 3月23日付け 審理事項通知
同年 5月18日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 5月23日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 6月 6日 口頭審理
第2 本件訂正について
令和5年1月27日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正の内容を「本件訂正」という。)について検討する。
1 請求の趣旨
本件訂正請求に係る請求の趣旨は、「特許第6107918号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求める」というものである。
2 訂正事項
本件訂正は、以下の訂正事項1~2からなるものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり、」とあるのを、「一般式(4-4)~(4-6)
[図:0001408634000001.jpg]
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり、」と訂正する(請求項1を引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に、「一般式(4-1)~(4-7)
【化5】
[図:0001408634000002.jpg]
」とあるのを、「一般式(4-1)~(4-3)及び(4-7)
【化5】
[図:0001408634000003.jpg]
」と訂正する(請求項4を引用する請求項5~10も同様に訂正する。)。
3 一群の請求項について
訂正前の請求項2~10は、請求項1を直接又は間接的に引用する。また、訂正前の請求項5~10は、請求項4を直接又は間接的に引用する。
そして、訂正前の請求項1を訂正すると、訂正前の請求項2~10もこれと連動して訂正され、訂正前の請求項4を訂正すると、訂正前の請求項5~10もこれと連動して訂正される。
したがって、請求項1~10は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である
4 訂正の適否について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1に、「一般式(4-4)~(4-6)
[図:0001408634000004.jpg]
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し」という発明特定事項を追加する訂正であって、請求項1の液晶組成物を、さらに一般式(4-4)~(4-6)で表される化合物を1種又は2種以上含有する液晶組成物に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。
イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかの判断
本件明細書には、以下のとおりの記載がある。
「本発明の液晶組成物の物性値を調整するために、一般式(4)又は(5)」(【0019])「で表される化合物を1種又は2種以上含有しても良い。」(【0020】)
「R5~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す」(【0022】)
「更に詳述すると、一般式(4)で表される化合物は、一般式(4-1)~(4-7)で表される化合物であることがより好ましい。」(【0023】)
「【化7】
[図:0001408634000005.jpg]
」(【0024】)
上記のとおり、本件明細書には、本発明の液晶組成物に含有させることがより好ましい化合物として、一般式(4-4)~(4-6)で表される化合物が開示されている。
したがって、請求項1において、液晶組成物に一般式(4-4)~(4-6)で表される化合物を1種又は2種以上含有するものとする訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないかの判断
訂正事項1は、前記アにおいて述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するといえる。
エ 独立特許要件について
訂正前の請求項1~5には、無効審判の請求がされているから、訂正事項1に関して特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
また、請求項6~10については、訂正後の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、発明特定事項を限定するものであるところ、後記第5~第8のとおり、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、また、この訂正により特許法第36条第4項第1号又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、訂正後の請求項6~10に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するといえる。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項4の液晶組成物に一般式(4)で表される化合物として1種又は2種以上含有される化合物について、「一般式(4-1)~(4-7)」で表される化合物とあるのを、「一般式(4-1)~(4-3)及び(4-7)」で表される化合物と訂正するものであって、訂正事項1で請求項1の液晶組成物に含有されるものとした一般式(4-4)~(4-6)で表される化合物を、請求項4の記載から削除するものである。
したがって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。
イ 願書に添付した明細書及び特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかの判断
請求項4において、一般式(4)で表される化合物として1種又は2種以上含有される化合物について、「一般式(4-1)~(4-7)で表される化合物」から、請求項1に追加した「一般式(4-4)~(4-6)で表される化合物」を削除し、「一般式(4-1)~(4-3)及び(4-7)で表される化合物」とする訂正は、明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に規定する要件に適合するといえる。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正でないかの判断
訂正事項2は、上記アにおいて述べたとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に規定する要件に適合するといえる。
エ 独立特許要件について
訂正前の請求項1~5には、無効審判の請求がされているから、訂正事項2に関して特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。
また、請求項6~10については、訂正後の請求項4を直接的又は間接的に引用するものであり、発明特定事項を限定するものであるところ、後記第5~第8のとおり、特許要件の適否について見直すべき新たな事情は存在せず、また、この訂正により特許法第36条第4項第1号又は第6項(第4号を除く)に規定する要件を満たさなくなるものでもない。
したがって、訂正後の請求項6~10に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであり、特許法第134条の2第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件に適合するといえる。
第3 本件発明
前記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~5に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ということもある。)は、以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
第一成分として式(1)
【化1】
[図:0001408634000006.jpg]
で表される化合物を含有し、第二成分として誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有し、一般式(5)
【化2】
[図:0001408634000007.jpg]
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、一般式(4-4)~(4-6)
[図:0001408634000008.jpg]
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0であることを特徴とするネマチック液晶組成物。
【請求項2】
一般式(4)
【化3】
[図:0001408634000009.jpg]
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環A~環Cはそれぞれ独立的してトランス-1,4-シクロへキシレン基又は1,4-フェニレン基を表すが、これらの基中のH原子はそれぞれ独立してCH3、F又はClで置換されていても良く、L5~L6はそれぞれ独立して単結合、-CH2CH2-、-(CH2)4-、-OCH2-、-CH2O-、-OCF2-又はCF2O-を表し、qは0~2を表す。但し、式(1)で表される化合物を除く。)で表される化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とする請求項1記載のネマチック液晶組成物。
【請求項3】
一般式(5)で表される化合物として、一般式(5-3)~(5-6)
【化4】
[図:0001408634000010.jpg]
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項4】
一般式(4)で表される化合物として、一般式(4-1)~(4-3)及び(4-7)
【化5】
[図:0001408634000011.jpg]
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有することを特徴とする請求項2又は3に記載のネマチック液晶組成物。
【請求項5】
構造式(1)で表される化合物を5~25%含有することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載のネマチック液晶組成物。」
第4 請求人の主張の概要
1 証拠の一覧
請求人が提示した証拠は以下のとおり。以下、甲第1号証を「甲1」などという。
(1)審判請求書と共に提出された証拠
甲1:特許第6107918号公報(本件特許公報)
甲2:国際公報第2008/114779号
甲3:特願2007-071992号の明細書、特許請求の範囲及び要約書(甲2の優先権の基礎出願)
甲4:特開2006-233182号公報
甲5:特開2007-39642号公報
甲6:特開2005-320511号公報
(2)請求人の口頭審理陳述要領書と共に提出された証拠
甲7:本件特許の登録原簿の写し
甲8:国際公開第2007/077872号
甲9:特開2008-31432号公報
2 無効理由の整理
(1)請求人の主張
ア 本件発明1~本件発明5と甲2に記載された発明は同一であり、特許法第29条の2の規定に違反して特許されたものであるから、本件発明1乃至本件発明5は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。
イ 本件発明1乃至本件発明5は、甲4に記載された発明又は甲5に記載された発明、及び、甲6に記載された事項に基づいて出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とされるべきである。
ウ 無効理由の一覧
(ア)審判請求書において主張された理由
無効理由1:甲2の先願明細書の実施例13に記載された発明と同一であるとの無効理由
無効理由2-1:甲4の実施例5に記載された発明及び甲6に記載された事項に基づく進歩性欠如の無効理由
無効理由2-2:甲4の比較例7に記載された発明及び甲6に記載された事項に基づく進歩性欠如の無効理由
無効理由2-3:甲5に記載された発明及び甲6に記載された事項に基づく進歩性欠如の無効理由
(イ)請求人の口頭審理陳述要領書において主張された理由
無効理由3:本件発明1についてのサポート要件違背の無効理由
無効理由4:本件発明3についてのサポート要件違背の無効理由
無効理由5:本件発明4についてのサポート要件違背の無効理由
無効理由6:甲8の実施例18に記載された発明に基づく新規性及び進歩性欠如の無効理由
無効理由7:甲9の先願明細書の実施例10に記載された発明と同一であるとの無効理由
(ウ)補正許否の決定
当審は、令和5年6月6日の口頭審理において、無効理由3~7を追加する審判請求の理由の補正を特許法第131条の2第2項に該当しないとして許可しない旨の補正許否の決定をした。
(2)被請求人の主張
本件発明1~5について、無効理由1及び2-1~2-3はいずれも理由がない。
第5 先願明細書及び引用例の記載事項
各甲号証には以下の記載がある。
1 甲2の記載事項
本件優先日前の日を優先日とし(甲3)、本件優先日以降に国際公開された甲2には次の記載がある。
2a「[請求項1]
第一成分として式(1-1)から式(1-4)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物、および第二成分として式(2)で表される化合物の群から選択された少なくとも1つの化合物を含有し、そして負の誘電率異方性を有する液晶組成物。
[図:0001408634000012.jpg]
ここで、R1およびR2は独立して、炭素数1から12のアルキル、炭素数1から12のアルコキシ、炭素数2から12のアルケニル、または任意の水素がフッ素で置き換えられた炭素数2から12のアルケニルであり;Z1は単結合、エチレン、カルボニルオキシ、またはメチレンオキシである。」
2b「[0071]
この組成物はAM素子への使用が可能である。さらにPM素子への使用も可能である。この組成物は、PC、TN、STN、ECB、OCB、IPS、VAなどのモードを有するAM素子およびPM素子への使用が可能である。IPSまたはVAモードを有するAM素子への使用は特に好ましい。これらの素子が反射型、透過型または半透過型であってもよい。透過型の素子への使用は好ましい。非結晶シリコン-TFT素子または多結晶シリコン-TFT素子への使用も可能である。この組成物をマイクロカプセル化して作製したNCAP(nematic curvilinear aligned phase)型の素子や、組成物中に三次元の網目状高分子を形成させたPD(polymer dispersed)型の素子にも使用できる。
実施例
[0072]
試料が組成物のときはそのまま測定し、得られた値を記載した。試料が化合物のときは、この化合物(15重量%)を母液晶(85重量%)に混合することによって試料を調製した。測定によって得られた値から外挿法よって化合物の特性値を算出した。(外挿値)={(試料の測定値)-0.85×(母液晶の測定値)}/0.15。この割合でスメクチック相(または結晶)が25℃で析出するときは、化合物と母液晶の割合を10重量%:90重量%、5重量%:95重量%、1重量%:99重量%の順に変更した。この外挿法によって化合物に関する上限温度、光学異方性、粘度および誘電率異方性の値を求めた。
[0073]
母液晶の組成は下記のとおりである。組成の%は、それぞれ重量%である。
[図:0001408634000013.jpg]
[0074]
特性値の測定は下記の方法にしたがった。それらの多くは、日本電子機械工業会規格(Standard of Electric Industries Association of Japan)EIAJ・ED-2521Aに記載された方法、またはこれを修飾した方法である。
[0075]
ネマチック相の上限温度(NI;℃):偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略すことがある。
[0076]
ネマチック相の下限温度(TC;℃):ネマチック相を有する試料をガラス瓶に入れ、0℃、-10℃、-20℃、-30℃、および-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が-20℃ではネマチック相のままであり、-30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、TCを≦-20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
[0077]
粘度(η;20℃で測定;mPa・s):測定にはE型回転粘度計を用いた。
[0078]
光学異方性(屈折率異方性;Δn;25℃で測定):測定は、波長589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行なった。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率n∥は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値は、Δn=n∥-n⊥、の式から計算した。
[0079]
誘電率異方性(Δε;25℃で測定):誘電率異方性の値は、Δε=ε∥-ε⊥、の式から計算した。誘電率(ε∥およびε⊥)は次のように測定した。
1)誘電率(ε∥)の測定:よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)
が4μmであるVA素子に試料を入れ、この素子を紫外線で硬化する接着剤で密閉した。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の長軸方向における誘電率(ε∥)を測定した。
2)誘電率(ε⊥)の測定:よく洗浄したガラス基板にポリイミドを塗布した。このガラス基板を焼成した後、得られた配向膜にラビング処理をした。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子に試料を入れた。この素子にサイン波(0.5V、1kHz)を印加し、2秒後に液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。
[0080]
しきい値電圧(Vth;25℃で測定;V):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子をUV硬化の接着剤を用いて密閉した。この素子に印加する電圧(60Hz、矩形波)は0Vから20Vまで0.02Vずつ段階的に増加させた。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である電圧-透過率曲線を作成した。しきい値電圧は透過率が10%になったときの電圧である。
[0081]
電圧保持率(VHR-1;25℃;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線によって重合する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。
[0082]
電圧保持率(VHR-2;80℃;%):測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)は5μmである。この素子は試料を入れたあと紫外線によって重合する接着剤で密閉した。このTN素子にパルス電圧(5Vで60マイクロ秒)を印加して充電した。減衰する電圧を高速電圧計で16.7ミリ秒のあいだ測定し、単位周期における電圧曲線と横軸との間の面積Aを求めた。面積Bは減衰しなかったときの面積である。電圧保持率は面積Bに対する面積Aの百分率である。
[0083]
電圧保持率(VHR-3;25℃;%):紫外線を照射したあと、電圧保持率を測定し、紫外線に対する安定性を評価した。大きなVHR-3を有する組成物は紫外線に対して大きな安定性を有する。測定に用いたTN素子はポリイミド配向膜を有し、そしてセルギャップは5μmである。この素子に試料を注入し、光を20分間照射した。光源は超高圧水銀ランプUSH-500D(ウシオ電機製)であり、素子と光源の間隔は20cmである。VHR-3の測定では、減衰する電圧を16.7ミリ秒のあいだ測定した。VHR-3は90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。
[0084]
電圧保持率(VHR-4;25℃;%):試料を注入したTN素子を80℃の恒温槽内で500時間加熱したあと、電圧保持率を測定し、熱に対する安定性を評価した。大きなVHR-4を有する組成物は熱に対して大きな安定性を有する。VHR-4の測定では、減衰する電圧を16.7ミリ秒のあいだ測定した。
[0085]
応答時間(τ;25℃で測定;ms):測定には大塚電子株式会社製のLCD5100型輝度計を用いた。光源はハロゲンランプである。ローパス・フィルター(Low-pass filter)は5kHzに設定した。2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が4μmであり、ラビング方向がアンチパラレルであるノーマリーブラックモード(normally black mode)のVA素子に試料を入れ、この素子をUV硬化の接着剤を用いて密閉した。この素子に矩形波(60Hz、10V、0.5秒)を印加した。この際に、素子に垂直方向から光を照射し、素子を透過した光量を測定した。この光量が最大になったときが透過率100%であり、この光量が最小であったときが透過率0%である。応答時間は透過率90%から10%に変化するのに要した時間(立ち下がり時間;fall time;ミリ秒)である。
[0086]
比抵抗(ρ;25℃で測定;Ωcm):電極を備えた容器に試料1.0mLを注入した。この容器に直流電圧(10V)を印加し、10秒後の直流電流を測定した。比抵抗は次の式から算出した。(比抵抗)={(電圧)×(容器の電気容量)}/{(直流電流)×(真空の誘電率)}。
[0087]
ガスクロマト分析:測定には島津製作所製のGC-14B型ガスクロマトグラフを用いた。キャリアーガスはヘリウム(2mL/分)である。試料気化室を280℃に、検出器(FID)を300℃に設定した。成分化合物の分離には、Agilent Technologies Inc.製のキャピラリカラムDB-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm;固定液相はジメチルポリシロキサン;無極性)を用いた。このカラムは、200℃で2分間保持したあと、5℃/分の割合で280℃まで昇温した。試料はアセトン溶液(0.1重量%)に調製したあと、その1μLを試料気化室に注入した。記録計は島津製作所製のC-R5A型Chromatopac、またはその同等品である。得られたガスクロマトグラムは、成分化合物に対応するピークの保持時間およびピークの面積を示した。
[0088]
試料を希釈するための溶媒は、クロロホルム、ヘキサンなどを用いてもよい。成分化合物を分離するために、次のキャピラリカラムを用いてもよい。Agilent Technologies Inc.製のHP-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、Restek Corporation製のRtx-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)、SGE International Pty. Ltd製のBP-1(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.25μm)。化合物ピークの重なりを防ぐ目的で島津製作所製のキャピラリカラムCBP1-M50-025(長さ50m、内径0.25mm、膜厚0.25μm)を用いてもよい。
[0089]
組成物に含有される液晶性化合物の割合は、次のような方法で算出してよい。液晶性化合物はガスクロマトグラフで検出することができる。ガスクロマトグラムにおけるピークの面積比は液晶性化合物の割合(モル数)に相当する。上に記載したキャピラリカラムを用いたときは、各々の液晶性化合物の補正係数を1とみなしてよい。したがって、液晶性化合物の割合(重量%)は、ピークの面積比から算出する。
[0090]
実施例により本発明を詳細に説明する。本発明は下記の実施例によって限定されない。比較例および実施例における化合物は、下記の表3の定義に基づいて記号により表した。
表3において、1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は好ましい化合物の番号に対応する。(-)の記号はその他の液晶性化合物を意味する。液晶性化合物の割合(百分率)は、液晶組成物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)であり、液晶組成物にはこの他に不純物が含有している。最後に、組成物の特性値をまとめた。
[0091]
[図:0001408634000014.jpg]
・・・
[0105]
[実施例13]
2-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 6%
3-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 8%
4-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 8%
5-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 8%
2-HH-3 (2-1) 15%
2-HH-5 (2-1) 3%
3-HH-VFF (2) 12%
3-HB-O2 (3-1-1) 10%
3-H1OB(2F,3F)-O2 (4-3-1) 10%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (4-7-1) 10%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (4-7-1) 10%
NI=87.0℃;Tc≦-20℃;Δn=0.100;Δε=-4.6;η=16.0mPa・s.」
3 甲4の記載事項
甲4には次の記載がある。
4a「【請求項1】
第一成分として、一般式(I)
【化1】
[図:0001408634000015.jpg]
(式中、R1は炭素数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基はO及び/又はSに置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はF又はClに置換されてもよく、R2は炭素数1から10のアルキル基、又は炭素数1から10のアルコキシル基を表し、
mは0、1又は2を表す。)
で表される化合物を1種又は2種以上含有しその含有率が10から80質量%であり、
第二成分として、一般式(II)
【化2】
[図:0001408634000016.jpg]
(式中、R3及びR4はそれぞれ独立的に炭素数1から10のアルキル基、炭素数2から10のアルケニル基、炭素数1から10のアルコキシル基又は炭素数3から10のアルケニルオキシ基を表す
B1及びB2はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個のCH2基は酸素原子又は硫黄原子に置換されてもよい)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上のCH基は窒素原子に置換されてもよい)
(c) 1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン-1,4-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基及び1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)又は基(c)はCN又はハロゲンで置換されていてもよく、
Y1及びY2はそれぞれ独立的に
-CH2CH2-、-CH=CH-、-CH(CH3)CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH(CH3)CH(CH3)-、-CF2CF2-、-CF=CF-、-CH2O-、-OCH2-、-OCH(CH3)-、-CH(CH3)O-、-(CH2)4-、-(CH2)3O-、-O(CH2)3-、-C≡C-、-CF2O-、-OCF2-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-又は単結合を表し、
Y2及びB2が複数存在する場合は、それらは同一でもよく異なっていてもよく、
pは0、1又は2を表す。)
で表される化合物を1種又は2種以上含有しその含有率が20から70質量%であり、
誘電率異方性が負のネマチック液晶組成物。」
4b「【0008】
本発明が解決しようとする課題は、絶対値の大きな負の誘電率異方性を持ち、屈折率異方性を低減させるか又は上昇させることなく粘度の低い液晶組成物を提供し、さらにそれを用いたVA型等の液晶表示素子を提供することにある。
・・・
【0021】
一般式(II)で表される化合物は、誘電率異方性の絶対値を大きくする効果はほとんどないものの粘度を低くする効果があり、低い粘度を重視する場合はこれらの含有率が多いことが好ましく、誘電率異方性の絶対値を大きくすることを重視する場合はこれらの含有率が少ないことが好ましい。
一般式(II)において、R3及びR4はそれぞれ独立的に、炭素数1から10のアルキル基、炭素数2から10のアルケニル基、炭素数1から10のアルコキシル基又は炭素数3から10のアルケニルオキシ基を表すが、R3は炭素数1から10のアルキル基又は炭素数2から10のアルケニル基を表し、R4は炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシル基又は炭素数2から10のアルケニル基を表すことがより好ましく、R3は炭素数1から5のアルキル基又は炭素数2から5のアルケニル基を表し、R4は炭素数1から5のアルキル基、炭素数1から5のアルコキシル基又は炭素数2から5のアルケニル基を表すことがさらに好ましく、R3又はR4の少なくとも一方がアルケニル基を表すことがより好ましい。」
4c「【0072】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、質量スペクトル(MS)等により確認した。また、以下の実施例および比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
実施例中、測定した特性は以下の通りである。
Tni :ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)
Δn :25℃における複屈折率
Δε :25℃における誘電率異方性
η :粘度(mPa・s) (20℃)
化合物記載に下記の略号を使用する。
【0073】
THF :テトラヒドロフラン
DMF :N,N-ジメチルホルムアミド
Me :メチル基
Et :エチル基
Bu :ブチル基
Pen :ペンチル基
Pr :プロピル基
Ph :フェニル基
Ms :メタンスルホニル基
(実施例1) 1-エトキシ-2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-ビニルシクロヘキシル)メトキシベンゼン (Ia)の合成
(1-1) 2,3-ジフルオロ-4-エトキシフェノールの合成
・・・
【0098】
4-エトキシ-2,3-ジフルオロ-1-(トランス-4-(トランス-4-ビニルシクロヘキシル)シクロヘキシルメトキシ)ベンゼン(IIIa)の合成において、2,3-ジフルオロ-4-エトキシフェノールの代わりに2,3-ジフルオロ-4-ブトキシフェノールを用い、同様の反応を行うことで1-ブトキシ-2,3-ジフルオロ-4-(トランス-4-ビニルシクロヘキシル)メトキシベンゼン(IVa)を得た。
相転移温度 C 65.4 N 129.9 I
MS m/z : 406 (M+), 146 (100)
1H-NMR (400 MHz, CDCl3)
δ: 0.90 1.15 (m, 10 H), 0.97 (t, J = 7.6 Hz, 3 H), 1.40 1.55 (m, 2 H), 1.65 2.00 (m, 12 H), 3.76 (d, J = 6.4 Hz, 2 H), 3.98 (t, J = 6.8 Hz, 2 H) , 4.80 5.00 (m, 2 H), 5.77 (ddd, J = 17.6 Hz, J = 10.0 Hz, J = 6.4 Hz, 1 H), 6.26 6.66 (m, 2 H)
(実施例5)
実施例5として、実施例1及び2で製造した化合物を用いて以下の構造で表される液晶組成物(No.1)を調整しその物性値を測定した。
【0099】
【化40】
[図:0001408634000017.jpg]
【0100】
実施例5は、一般式(II)において側鎖としてアルキル基を有する化合物のみを用いていることに特徴を有し、その特性は、Tni:79.8℃、Δn:0.073、Δε:-4.7、η:20.3mPa・sであった。
(比較例1)
比較例1として、実施例1に類似した組成を有し一般式(I)で表される化合物を含まない以下の構造で表される液晶組成物(R-1)を調整しその物性値を測定した。
・・・
【0126】
No.5は大きいΔnを有する液晶組成物であり、その特性は、Tni:91.2℃、Δn:0.122、Δε:-3.0、η:19.0mPa・sであった。
(比較例7)
比較例7として一般式(I)を含まない以下の構造で表される液晶組成物を調整しその物性値を測定した。
【0127】
【化51】
[図:0001408634000018.jpg]
【0128】
R-7の特性は、Tni:91.2℃、Δn:0.123、Δε:-2.6、η:23.6mPa・sであった。
これらの特性を表4にまとめる。
【0129】
【表4】
[図:0001408634000019.jpg]
」
4 甲5の記載事項
甲5には次の記載がある。
5a「【請求項1】
第一成分として、一般式(I)
【化1】
[図:0001408634000020.jpg]
(式中、R1は炭素数1から10のアルキル基又は炭素数2から10のアルケニル基を表し、これらの基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個以上のCH2基はO及び/又はSに置換されてもよく、またこれらの基中に存在する1個又は2個以上の水素原子はF又はClに置換されてもよく、R2は炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシル基、炭素数2から10のアルケニル基又は炭素数3から10のアルケニルオキシ基を表し、
mは0、1又は2表す。)
で表される化合物を1種又は2種以上含有し、
第二成分として、一般式(II)
【化2】
[図:0001408634000021.jpg]
(式中、R3及びR4はそれぞれ独立的に一般式(I)におけるR2と同じ意味をを表し、
B1及びB2はそれぞれ独立的に
(a) トランス-1,4-シクロへキシレン基(この基中に存在する1個のCH2基又は隣接していない2個のCH2基は酸素原子又は硫黄原子に置換されてもよい)
(b) 1,4-フェニレン基(この基中に存在する1個又は2個以上のCH基は窒素原子に置換されてもよい)
(c) 1,4-シクロヘキセニレン基、1,4-ビシクロ[2.2.2]オクチレン基、ピペリジン-1,4-ジイル基、ナフタレン-2,6-ジイル基、デカヒドロナフタレン-2,6-ジイル基及び1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-2,6-ジイル基
からなる群より選ばれる基を表し、上記の基(a)、基(b)又は基(c)はCN又はハロゲンで置換されていてもよく、
Y1及びY2はそれぞれ独立的に
-CH2CH2-、-CH=CH-、-CH(CH3)CH2-、-CH2CH(CH3)-、-CH(CH3)CH(CH3)-、-CF2CF2-、-CF=CF-、-CH2O-、-OCH2-、-OCH(CH3)-、-CH(CH3)O-、-(CH2)4-、-(CH2)3O-、-O(CH2)3-、-C≡C-、-CF2O-、-OCF2-、-COO-、-OCO-、-COS-、-SCO-又は単結合を表し、
Y2及びB2が複数存在する場合は、それらは同一でもよく異なっていてもよく、
pは0、1又は2を表す。)
で表される化合物を1種又は2種以上含有しその含有率が20から70質量%であり、
誘電率異方性が負のネマチック液晶組成物。
・・・
【請求項3】
一般式(II-A)から一般式(II-I)
【化4】
[図:0001408634000022.jpg]
(式中、R13、R14、R15、R16、R17、R18、R19、R20、R21、R22、R23、R24、R25、R26、R27、R28、R29及びR30は一般式(I)におけるR2と同じ意味を表す。)で表される化合物群から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含有する請求項1又は2記載のネマチック液晶組成物。」
5b「【0012】
本願発明が解決しようとする課題は、絶対値の大きな負の誘電率異方性を持ち、屈折率異方性を低減させるか又は上昇させることなく粘度の低い液晶組成物を提供することにある。更に、本願発明が解決しようとする課題は当該液晶組成物の構成部材である誘電率異方性が負で、粘度の低いジフルオロベンゼン誘導体を提供し、当該液晶組成物を用いたVA型等の液晶表示素子を提供することにある。
・・・
【0027】
一般式(II)の含有率は20から70質量%の範囲であることが好ましく、25から65質量%の範囲であることがより好ましい。これらの化合物は、誘電率異方性の絶対値を大きくする効果はほとんどないものの粘度を低くする効果があり、低い粘度を重視する場合はこれらの含有率が多いことが好ましく、誘電率異方性の絶対値を大きくすることを重視する場合はこれらの含有率が少ないことが好ましい。」
5c「【0084】
以下に実施例を挙げて本願発明を更に詳述するが、本願発明はこれらの実施例に限定されるものではない。化合物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、質量スペクトル(MS)等により確認した。また、以下の実施例及び比較例の組成物における「%」は『質量%』を意味する。
化合物記載に下記の略号を使用する。
THF :テトラヒドロフラン
DMF :N,N-ジメチルホルムアミド
Me :メチル基
Et :エチル基
Bu :ブチル基
Pen :ペンチル基
Pr :プロピル基
Ms :メタンスルホニル基
実施例中、測定した物性値は以下の通りである。
TNI :ネマチック-等方相転移温度(℃)
Δn :25℃における複屈折率
Δε :25℃における誘電率異方性
η :粘度(mPa・s) (20℃)
又、C、N及びIは、それぞれ結晶相、ネマチック相、等方相を表す。
・・・
(実施例7) 液晶組成物の調製(4)
以下の構造で表される液晶組成物(M-4)を調製しその物性値を測定した。
【0130】
【化54】
[図:0001408634000023.jpg]
【0131】
(M-4)の物性値は、Tni:81.2℃、Δn:0.074、Δε:-4.7、η:22.2mPa・sであった。
(比較例2)
比較例2として一般式(I)で表される化合物を含まない以下の構造で表される液晶組成物(MR-2)を調整しその物性値を測定した。」
5 甲6の記載事項
甲6には次の記載がある。
6a「【請求項1】
第一成分として式(1-1)~式(1-4)のそれぞれで表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含有し、第二成分として式(2-1)~式(2-3)のそれぞれで表される化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物を含有し、そして負の誘電率異方性を有する液晶組成物:
[図:0001408634000024.jpg]
[図:0001408634000025.jpg]
ここに、R1はアルキルまたはアルケニルであり;R2はアルコキシであり;R3はアルキル、アルケニルまたはアルコキシであり;そしてこれらの基において、アルキルおよびアルコキシの炭素数は1~10であり、アルケニルの炭素数は2~10である。」
6b「【0008】
本発明の目的は、ネマチック相の広い温度範囲、小さな粘度、適切な光学異方性、負に大きな誘電率異方性、大きな比抵抗などの特性のうち複数の特性を充足する液晶組成物を提供することにある。複数の特性に関して適切なバランスを有する液晶組成物とすることも課題の1つである。そして、本発明のもう1つの目的は、この組成物を含有し、そして大きな電圧保持率を有する液晶表示素子を提供することである。この素子における重要な課題は、小さな粘度、0.050~0.130の光学異方性、-6.5~-2.0の誘電率異方性などの特性を有する組成物を含有し、そしてVAモード、IPSモードなどに適したAM素子を提供することである。
・・・
【0044】
<表2> 化合物の特性
[図:0001408634000026.jpg]
【0045】
第一成分である化合物(1-1)~化合物(1-4)の構造の特徴は、結合基として-OCF2C2H4-を有し、環構造の基の1つとして2,3-ジフルオロフェニレンを有し、そして末端基としてアルコキシを有することである。本発明の液晶組成物において、第一成分は、誘電率異方性を負に大きくし、そして下限温度を下げることを主目的として用いられる。第二成分である化合物(2-1)~化合物(2-3)の特徴は、その構造中にフッ素原子を含まないことである。第二成分は粘度を小さくし、上限温度を調節し、そして下限温度を下げることを主目的として用いられる。第三成分である化合物(3-1)~化合物(3-5)の構造の特徴は、環状の基の1つとして2-フルオロフェニレンまたは3-フルオロフェニレンを有し、そして末端基としてアルコキシを有することである。本発明の液晶組成物において、第三成分は上限温度を調節し、そして特に下限温度を下げることを主目的として用いられる。第四成分である化合物(4-1)~化合物(4-5)の構造の特徴は、環構造の基の1つとして2,3-ジフルオロフェニレンを有し、そして末端基としてアルコキシ基を有することである。本発明の液晶組成物において、第四成分は誘電率異方性を負に大きくすることを主目的として用いられる。」
6c「【0081】
次に、本発明の組成物を実施例により詳細に説明する。実施例における化合物は、下記の表3の定義に基づいて記号により表す。表3において、1,4-シクロヘキシレンに関する立体配置はトランスである。実施例において記号の後にあるかっこ内の番号は好ましい化合物の番号に対応する。(-)の記号はその他の化合物を意味する。化合物の割合(百分率)は、組成物の全重量に基づいた重量百分率(重量%)である。各実施例の最後に組成物の特性値を示す。
【0082】
化合物をR-(A1)-Z1-……-Zn-(An)-Xで表すときの表記方法を次に示す。
<表3> 記号を用いた化合物の表記方法
[図:0001408634000027.jpg]
【0083】
特性値の測定は次の方法にしたがった。これらの多くは、日本電子機械工業会規格(Standard of Electric Industries Association of Japan)EIAJ・ED-2521Aに記載された方法、またはこれを修飾した方法である。
(1)ネマチック相の上限温度(NI;℃)
偏光顕微鏡を備えた融点測定装置のホットプレートに試料を置き、1℃/分の速度で加熱した。試料の一部がネマチック相から等方性液体に変化したときの温度を測定した。ネマチック相の上限温度を「上限温度」と略することがある。
【0084】
(2)ネマチック相の下限温度(TC;℃)
ネマチック相を有する試料を0℃、-10℃、-20℃、-30℃、および-40℃のフリーザー中に10日間保管したあと、液晶相を観察した。例えば、試料が-20℃ではネマチック相のままであり、-30℃では結晶またはスメクチック相に変化したとき、TCを<-20℃と記載した。ネマチック相の下限温度を「下限温度」と略すことがある。
【0085】
(3)光学異方性(Δn;25℃で測定)
波長が589nmの光を用い、接眼鏡に偏光板を取り付けたアッベ屈折計により行った。主プリズムの表面を一方向にラビングしたあと、試料を主プリズムに滴下した。屈折率n∥は偏光の方向がラビングの方向と平行であるときに測定した。屈折率n⊥は偏光の方向がラビングの方向と垂直であるときに測定した。光学異方性の値は、Δn=n∥-n⊥、の式から計算した。
【0086】
(4)粘度(η;20℃で測定;mPa・s)
測定にはE型粘度計を用いた。
【0087】
(5)誘電率異方性(Δε;25℃で測定)
(5-1)垂直配向の処理
よく洗浄したガラス基板にオクタデシルトリエトキシシラン(0.16mL)のエタノール(20mL)溶液を塗布した。ガラス基板をスピンナーで回転させたあと、150℃で1時間加熱した。2枚のガラス基板から、間隔(セルギャップ)が20μmであるVA素子を組み立てた。
(5-2)水平配向の処理
類似の方法でガラス基板にポリイミドの配向膜を調製した。ラビング処理をしたあと、2枚のガラス基板の間隔が9μmであり、ツイスト角が80度であるTN素子を組み立てた。
(5-3)測定
VA素子に試料を入れ、0.5ボルト(1kHz、サイン波)を印加して、液晶分子の長軸方向における誘電率(ε∥)を測定した。TN素子に試料を入れ、0.5ボルト(1kHz、サイン波)を印加して、液晶分子の短軸方向における誘電率(ε⊥)を測定した。誘電率異方性の値は、Δε=ε∥-ε⊥の式から計算した。負の誘電率異方性を有する組成物をこの方法によって測定した。
【0088】
(6)電圧保持率(VHR;25℃と100℃で測定;%)
ポリイミド配向膜を有し、そして2枚のガラス基板の間隔(セルギャップ)が6μmであるTN素子に試料を入れた。25℃のTN素子に印加した電圧の波形を陰極線オシロスコープで観測し、単位周期において電圧曲線と横軸との間の面積を求めた。TN素子を取り除いたあと印加した電圧の波形から同様にして面積を求めた。2つの面積の値を比較して電圧保持率を算出した。このようにして得られた電圧保持率をVHR-1で示した。次に、このTN素子を100℃、250時間加熱した。25℃に戻したあと、同様な方法で電圧保持率を測定した。このようにして加熱後に得られた電圧保持率をVHR-2で示した。この加熱テストは、素子を長時間使用するテストの代わりに行った。
・・・
【0090】
[比較例2]
特許文献2の特開2003-2858公報(ファミリー:US 6,544,604B)の実施例54の組成物を調合し、上記の方法により特性値を測定した。この組成物は本発明の第一成分の化合物(1-2)、第二成分の化合物(2-1)および第四成分の化合物(4-3)~化合物(4-4)を含有する。
3-HBOCF22B(2F,3F)-O2 (1-2) 14%
3-HH-2 (2-1) 5%
3-HH-4 (2-1) 6%
3-HH-O1 (2-1) 4%
3-HH-O3 (2-1) 5%
5-HH-O1 (2-1) 4%
3-HB(2F,3F)-O2 (4-3) 12%
5-HB(2F,3F)-O2 (4-3) 11%
5-HHB(2F,3F)-O2 (4-4) 15%
3-HHB(2F,3F)-2 - 24%
NI=78.6℃;Tc<-10℃;Δn=0.080;Δε=-3.3;
η=24.4mPa・s.
・・・
【0093】
[実施例3]
以下の組成を有する液晶組成物を作成した。
3-HBOCF22B(2F,3F)-O2 (1-2) 11%
5-HBOCF22B(2F,3F)-O2 (1-2) 11%
3-HH-4 (2-1) 10%
3-HH-5 (2-1) 6%
5-HH-V (2-1) 6%
3-HHB-3 (2-3) 6%
3-HB(3F)-O2 (3-1) 5%
3-HHB(3F)-O2 (3-2) 5%
3-HB(2F,3F)-O2 (4-3) 10%
5-HB(2F,3F)-O2 (4-3) 10%
3-HHB(2F,3F)-O2 (4-4) 11%
5-HHB(2F,3F)-O2 (4-4) 11%
この組成物は以下の特性値を示した。
NI=89.5℃;Tc<-30℃;Δn=0.087;Δε=-3.3;
η=22.9mPa・s;VHR-1=99.3%.
この液晶組成物は比較例2に対して、Δεが同程度であり、NIが高く、粘度が小さく、Tcが低い。NI、粘度およびTcで比較例に対して優れている。」
第5 無効理由1についての当審の判断
1 甲2発明の認定
甲2の液晶組成物はネマチック相を示すものであるから(摘記2b参照)、実施例13として「
2-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 6%
3-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 8%
4-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 8%
5-dhBB(2F,3F)-O2 (1-3-1) 8%
2-HH-3 (2-1) 15%
2-HH-5 (2-1) 3%
3-HH-VFF (2) 12%
3-HB-O2 (3-1-1) 10%
3-H1OB(2F,3F)-O2 (4-3-1) 10%
3-HH1OB(2F,3F)-O2 (4-7-1) 10%
5-HH1OB(2F,3F)-O2 (4-7-1) 10%
NI=87.0℃;Tc≦-20℃;Δn=0.100;Δε=-4.6;η=16.0mPa・s.である、ネマチック液晶組成物。」の発明が記載されているといえる(摘記2c参照。)
2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 甲2発明との対比
甲2発明の「2-HH-3」は、表3を参照すると(摘記2b参照)、本件発明1の「第一成分として式(1)
【化1】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
で表される化合物」に相当する。
甲2発明の「3-H1OB(2F,3F)-O2」、「3-HH1OB(2F,3F)-O2」及び「5-HH1OB(2F,3F)-O2」は、表3を参照すると(摘記2b参照)、いずれも、本件発明1の「一般式(5)
【化2】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物」に相当する。
甲2発明の「ネマチック相の上限温度NI=87.0℃」、「ネマチック相の下限温度Tc≦-20℃」、「Δn;25℃で測定)Δn=0.100」及び「誘電率異方性(Δε;25℃で測定)Δε=-4.6」は、それぞれ、本件発明1の「ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり」、「固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であり」、「屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり」及び「誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0である」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2発明は「第一成分として式(1)
【化1】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
で表される化合物を含有し、一般式(5)
【化2】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であり、屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0であることを特徴とするネマチック液晶組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
本件発明1は第二成分として誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有するのに対し、甲2発明はそのような特定がない点。
<相違点2-2>
本件発明1は、一般式(4-4)~(4-6)(当審注:前記前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を含有するのに対し、甲2発明はその化合物を含有しない点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点2-2>から検討する。
甲2発明の液晶組成物は、一般式(4-4)~(4-6)(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を含んでいないから、この点は実質的な相違点である。
そして、相違点2-2は、課題解決のための具体化手段における微差、すなわち、周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないものとはいえない。
ウ 請求人の主張及び当審の判断について
(ア)請求人は、本件訂正により生じた相違点である<相違点2-2>について、口頭審理陳述要領書などにおいて、何ら主張していない。
(イ)なお、請求人は、<相違点2-1>について、審判請求書において、本件発明1の一般式(5)にあたる「3-HH1OB(2F,3F)-O2」及び「5-HH1OB(2F,3F)-O2」が、誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であると主張している。
(ウ)しかし、甲2には、「3-HH1OB(2F,3F)-O2」及び「5-HH1OB(2F,3F)-O2」の化合物単独での誘電率異方性Δεは記載されていないから、「3-HH1OB(2F,3F)-O2」及び「5-HH1OB(2F,3F)-O2」が誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であることが記載されているとはいえない。
(エ)一方、本件発明1においては、「含有し、」という文言が4回現れているが、この読点によって、文章が区切られていると理解できる。
(オ)ここで、本件発明1における「第二成分」としての化合物と「一般式(5)」で表される化合物との関係について解釈するに、本件発明1において、請求項1の「第二成分として誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有し・・・、一般式(5)・・・で表される化合物を・・・含有し」との記載から、第二成分と一般式(5)で表される化合物はそれぞれ異なる特定がされたものであると解される。
実際、本件特許明細書の【0011】において「第二成分として誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有するが、第二成分が、一般式(2)又は(3)・・・で表される化合物を表すことが好ましい。」と記載され、【0019】に「本発明の液晶組成物の物性値を調整するために、一般式(4)又は(5)で表される化合物を1種又は2種以上含有しても良い。」と記載されるように、「第二成分」と「一般式(5)で表される化合物」は異なるものとして記載されている。
(カ)以上から、第二成分と一般式(5)で表される化合物は、それぞれ異なる特定がされた化合物であると解される。ただし、同じ化合物が「第二成分」と「一般式(5)で表される化合物」を充足する場合は、いずれか一方のみを充足するという根拠がないため、双方を充足するものと解される。
(キ)この点、令和5年5月15日に提出された被請求人の口頭弁論陳述要領書において、被請求人は、甲2発明の「3HH1OB(2F,3F)-O2」等の各化合物の誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物である点について争わない旨述べている。
(ク)そうすると、相違点2-1が実質的な相違点でないことが、当事者に争いがないようにも考えられるが、無効審判の審理においては、民事訴訟法における「自白」の制度が適用されない。そして、「3HH1OB(2F,3F)-O2」等の各化合物の誘電率異方性Δεが何ら立証されていない以上、当審として、相違点2-1が実質的な相違点ではないということはできない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、相違点2-2において、甲2発明と実質的な相違点を有し、また、相違点2-1についても、実質的な相違点でないと認めるに足る証拠がなく、甲2に記載された発明と同一であるとはいえないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではない。
(2)本件発明2~5
本件発明2~5は、本件発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件発明1と甲2発明との<相違点2-2>と同じ相違点を有するものであって、<相違点2-2>については前記(1)イで検討したとおりであり、甲2に記載された発明と同一であるとはいえないから、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものではない。
第6 無効理由2-1についての当審の判断
1 甲4発明1の認定
甲4の液晶組成物はネマチック液晶組成物であるから(摘記4a参照)、実施例5として「
[図:0001408634000028.jpg]
からなり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)Tni:79.8℃、25℃における複屈折率Δn:0.073、25℃における誘電率異方性Δε:-4.7、粘度(mPa・s) (20℃)η:20.3mPa・sである、ネマチック液晶組成物(No.1)。」の発明(以下「甲4発明1」という。)が記載されているといえる(摘記4c参照。)
2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 甲4発明1との対比
甲4発明1の「
[図:0001408634000029.jpg]
」(以下、それぞれ、「甲4発明1の第1化合物」、「甲4発明1の第2化合物」及び「甲4発明1の第3化合物」)は、いずれも、本件発明1の「一般式(5)
【化2】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物」に相当する。
甲4発明1の「ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)Tni:79.8℃、25℃における複屈折率Δn:0.073、25℃における誘電率異方性Δε:-4.7」は本件発明1の「ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり」及び「屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0である」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明1は「一般式(5)
【化2】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり、屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0であるネマチック液晶組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-1>
本件発明は、第一成分として式(1)
【化1】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
で表される化合物を含有するのに対し、甲4発明1はその化合物を含有しない点。
<相違点4-2>
本件発明1は第二成分として誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有するのに対し、甲4発明1はそのような特定がない点。
<相違点4-3>
本件発明1は、一般式(4-4)~(4-6)(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を含有するのに対し、甲4発明1はその化合物を含有しない点。
<相違点4-4>
固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が、本件発明1は-80℃~-20℃であるのに対し、甲4発明1では不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点4-1>、<相違点4-3>及び<相違点4-4>について検討する。
<相違点4-1>について
甲4発明1のネマチック液晶組成物は
[図:0001408634000030.jpg]
(以下、それぞれ、「甲4発明1の第6化合物」及び「甲4発明1の第7化合物」を含み、その上位概念の化合物である第2成分として一般式(II-A)で表される化合物
[図:0001408634000031.jpg]
が記載されているが、R3a及びR4aはそれぞれ独立的に炭素数1から10のアルキル基、炭素数2から10のアルケニル基、炭素数1から10のアルコキシル基又は炭素数3から10のアルケニルオキシ基を表し(摘記4a参照)、本件発明1の式(1)で表される化合物は式(II-A)の化合物においてR3a及びR4aが炭素数2のアルキル及び炭素数3のアルキルであり、式(II-A)の化合物におけるR3a及びR4aの多数の選択肢の1つに過ぎず、その中から炭素数2のアルキル及び炭素数3のアルキルを選択し、甲4発明1の第6化合物又は甲4発明1の第7化合物に代えて、その化合物を採用する動機付けがあるとはいえない。
また、甲4には、甲4発明1の第6化合物及び甲4発明1の第7化合物の上位概念である式(II-A)の化合物の上位概念である式(II)の化合物は粘度を低くする効果を有することが記載されており、一方、甲6には、第二成分としての式(2-1)の化合物は粘度を小さくすることが記載されており(摘記6b参照)、具体的に3-HH-2が記載されており、<表3>を参照すると(摘記6c参照)、本件発明1の式(1)で表される化合物に相当する。
しかし、3-HH-2は甲6の比較例2に含まれるものであり、甲6には比較例2は3-HH-4や3-HH-5を含む実施例3のものより粘度が大きいことが記載されているから(摘記6c参照)、甲4発明1のネマチック液晶組成物において、粘度を低くしようとして、甲4発明1の第6化合物又は甲4発明1の第7化合物に代えて、甲6に記載の式(2-1)の化合物を採用しようとしても、3-HH-4や3-HH-5を採用しようとする動機付けまではあるかもしれないが、3-HH-2を採用する動機付けがあるとはいえない。
<相違点4-3>について
甲4には甲4発明1のネマチック液晶組成物において、本件発明1における一般式(4-4)~(4-6)で表される化合物に相当する化合物を含むことについて記載も示唆もないから、そのような化合物を含むものとする動機付けがあるとはいえない。
<相違点4-4>について
甲6には、甲6の液晶組成物としてTcが-30℃、すなわち、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であるものが、記載されているが(摘記6c参照)、甲4発明1のネマチック液晶組成物は、絶対値の大きな負の誘電率異方性を持ち、屈折率異方性を低減させるか又は上昇させることなく粘度の低いものを提供するためのものであり(摘記4b参照)、低い固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度のものを提供するためのものではないから、低い固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度のものを提供するためのものではない甲4発明1のネマチック液晶組成物において、Tcが-30℃、すなわち、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であるものとする動機付けがあるとはいえない。
ウ 請求人の主張及び当審の判断について
(ア)請求人は、<相違点4-1>について、審判請求書において「甲4の明細書の段落【0025】、【0026】に、式(II-A)で表す化合物において、R3a及びR4aはそれぞれ独立して炭素数1から10のアルキル基、炭素数2から10のアルケニル基、炭素数1から10のアルコキシル基又は炭素数3から10のアルケニルオキシ基を表すことを開示されている。すなわち、甲4は、本発明1の式(1)「3-Cy-Cy-2」を開示している。
・・・
一方、甲6の段落【0013】には、式(2-1)で表す構造が開示され、甲4の「CC-2-5」と本発明1の式(1)「3-Cy-Cy-2」に対応しており、甲6の段落【0045】に、化合物(2-1)は、「粘度を小さくし、上限温度を調節し、そして下限温度を下げることを主目的として用いられる。」と開示されている。
また、甲6の段落【0090】の比較例2には、「3-HH-2(3-Cy-Cy-2に対応)」を添加した液晶組成物、及びその技術的効果を含めて開示している。すなわち、甲6は、本発明1の式(1)「3-Cy-Cy-2」で表す化合物、及びその技術的効果を開示している。したがって、当業者にとっては、その需要と用途に応じて、甲4の「CC-2-5」と甲6の「3-HH-2(3-Cy-Cy-2に対応)」とを選択的に置換することで、本発明1の式(1)の化合物を得る動機付けが存在する。」と主張する。
(イ)しかし、前記イ<相違点4-1>についてで検討したとおり、本件発明1の式(1)で表される化合物に相当する3-Cy-Cy-2は、甲4における式(II-A)の化合物においてR3a及びR4aが炭素数2のアルキル及び炭素数3のアルキルであり、式(II-A)の化合物におけるR3a及びR4aの多数の選択肢の1つに過ぎないから、甲4は、本発明1の式(1)「3-Cy-Cy-2」を開示しているとはいえない。
そして、前記イ<相違点4-1>についてで検討したとおり、甲6に記載の3-HH-2を採用する動機付けがあるとはいえない。
(ウ)請求人は、<相違点4-3>については、何ら主張していない。
(エ)また、請求人は、<相違点4-4>について、審判請求書において「甲4の実施例5では、液晶組成物の低温特性データが開示していないが、甲6には、良好な低温安定性を持つ液晶化合物の構造である式(2-1)(本発明1の「3-Cy-Cy-2」に対応)、及び液晶組成物に混入した具体的な技術が開示されており、当業者は、その需要と用途に応じて、甲4と甲6を組み合わせることにより、液晶組成物の一般的調整を行い得るため、容易に本発明1を想到し得る。また、技術的効果も予想範囲内である。」と主張している。
しかし、前記イ<相違点4-4>についてで検討したとおり、甲4と甲6を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
(オ)なお、請求人は、<相違点4-2>について、審判請求書において、本件発明1の一般式(5)にあたる「甲4発明1の第1化合物」、「甲4発明1の第2化合物」及び「甲4発明1の第3化合物」が、誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であると主張している。
(カ)しかし、甲4には、「甲4発明1の第1化合物」、「甲4発明1の第2化合物」及び「甲4発明1の第3化合物」の誘電率異方性Δεは記載されていないから、「甲4発明1の第1化合物」、「甲4発明1の第2化合物」及び「甲4発明1の第3化合物」が誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であることが記載されているとはいえない。
(キ)請求人の主張は、第5 2(1)ウ(カ)で検討したように、「第二成分」と「一般式(5)で表される化合物」の双方を充足する化合物を主張しているとも解されるが、化合物単独の誘電率異方性が立証されていないから、立証が不十分である。
したがって、請求人の前記主張はいずれも採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、<相違点4-2>について検討するまでもなく、甲4に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
(2)本件発明2~5
本件発明2~5は、本件発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件発明1と甲4発明1との<相違点4-1>、<相違点4-3>及び<相違点4-4>と同じ相違点を有するものであって、<相違点4-3>及び<相違点4-4>については前記(1)で検討したとおりであり、甲4に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
第7 無効理由2-2についての当審の判断
1 甲4発明2の認定
甲4の液晶組成物はネマチック液晶組成物であるから(摘記4a参照)、比較例7として「
[図:0001408634000032.jpg]
からなり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)Tni:91.2℃、25℃における複屈折率Δn:0.122、25℃における誘電率異方性Δε:-3.0、粘度(mPa・s) (20℃)η:19.0mPa・sである、ネマチック液晶組成物。」の発明が記載されているといえる(摘記4c参照。)
2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 甲4発明2との対比
甲4発明2の「
[図:0001408634000033.jpg]
」
(以下、それぞれ、「甲4発明2の第1化合物」、「甲4発明2の第3化合物」及び「甲4発明2の第3化合物」)
は、いずれも、本件発明1の「一般式(5)
【化2】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物」に相当する。
甲4発明2の「ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)Tni:91.2℃、25℃における複屈折率Δn:0.122、25℃における誘電率異方性Δε:-3.0」は本件発明1の「ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり」及び「屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0である」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明2は「一般式(5)
【化2】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり、屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0であるネマチック液晶組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4-5>
本件発明1は、第一成分として式(1)
【化1】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
で表される化合物を含有するのに対し、甲4発明2はその化合物を含有しない点。
<相違点4-6>
本件発明1は第二成分として誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有するのに対し、甲4発明2はそのような特定がない点。
<相違点4-7>
本件発明1は、一般式(4-4)~(4-6)(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を含有するのに対し、甲4発明2はその化合物を含有しない点。
<相違点4-8>
固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が、本件発明1は-80℃~-20℃であるのに対し、甲4発明2では不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点4-5>、<相違点4-7>及び<相違点4-8>について検討する。
<相違点4-5>について
甲4発明2のネマチック液晶組成物は
[図:0001408634000034.jpg]
(以下、それぞれ、「甲4発明2の第4化合物」及び「甲4発明2の第5化合物」を含み、その上位概念の化合物である第2成分として一般式(II-A)で表される化合物
[図:0001408634000035.jpg]
が記載されているが、R3a及びR4aはそれぞれ独立的に炭素数1から10のアルキル基、炭素数2から10のアルケニル基、炭素数1から10のアルコキシル基又は炭素数3から10のアルケニルオキシ基を表し(摘記4a参照)、本件発明1の式(1)で表される化合物は式(II-A)の化合物においてR3a及びR4aは炭素数2のアルキル及び炭素数3のアルキルであるが、甲4において甲4発明2は比較例であり、甲4発明2の第4化合物又は甲4発明2の第5化合物に代えて、その化合物を採用する動機付けがあるとはいえない。
また、甲4には、甲4発明2の第4化合物又は甲4発明2の第5化合物の上位概念である式(II-A)の化合物の上位概念である式(II)の化合物は粘度を低くする効果を有することが記載されており、一方、甲6には、第二成分としての式(2-1)の化合物は粘度を小さくすることが記載されており(摘記6b参照)、具体的に3-HH-2が記載されており、<表3>を参照すると(摘記6c参照)、本件発明1の式(1)で表される化合物に相当する。
しかし、甲4において比較例である甲4発明2のネマチック液晶組成物において、粘度を低くしようとして、甲4発明2の第4化合物又は甲4発明2の第5化合物に代えて、甲6に記載の3-HH-2を採用する動機付けがあるとはいえない。
<相違点4-7>について
甲4には甲4発明2のネマチック液晶組成物において、本件発明1における一般式(4-4)~(4-6)で表される化合物に相当する化合物を含むことについて記載も示唆もないから、そのような化合物を含むものとする動機付けがあるとはいえない。
<相違点4-8>について
甲6には、甲6の液晶組成物としてTcが-30℃、すなわち、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であるものが、記載されているが(摘記6c参照)、甲4において比較例である甲4発明2のネマチック液晶組成物において、Tcが-30℃、すなわち、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であるものとする動機付けがあるとはいえない。
ウ 請求人の主張及び当審の判断について
(ア)請求人は、<相違点4-5>について、審判請求書において前記第6 2(1)ウ(ア)と同じ主張をしているが、前記第6 2(1)ウ(ア)と同じ理由で、甲4は、本発明1の式(1)「3-Cy-Cy-2」を開示しているとはいえないし、<相違点4-5>についてで検討したとおり、甲6に記載の3-HH-2を採用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)請求人は、<相違点4-7>については、何ら主張していない。
(ウ)また、請求人は、<相違点4-8>について、審判請求書において前記第6 2(1)ウ(エ)と同じ主張をしているが、前記<相違点4-8>についてで検討したとおり、甲4と甲6を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
(エ)なお、請求人は、<相違点4-6>について、審判請求書において、本件発明1の一般式(5)にあたる「甲4発明2の第1化合物」、「甲4発明2の第2化合物」及び「甲4発明2の第3化合物」が、誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であると主張している。
(オ)しかし、甲4には、「甲4発明2の第1化合物」、「甲4発明2の第2化合物」及び「甲4発明1の第3化合物」の誘電率異方性Δεは記載されていないから、「甲4発明2の第1化合物」、「甲4発明1の第2化合物」及び「甲4発明1の第3化合物」が誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であることが記載されているとはいえない。
(カ)請求人の主張は、第5 2(1)ウ(カ)で検討したように、「第二成分」と「一般式(5)で表される化合物」の双方を充足する化合物を主張しているとも解されるが、化合物単独の誘電率異方性が立証されていないから、立証が不十分である。
したがって、請求人の前記主張はいずれも採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、<相違点4-6>について検討するまでもなく、甲4に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
(2)本件発明2~5
本件発明2~5は、本件発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件発明1と甲4発明2との<相違点4-5>、<相違点4-7>及び<相違点4-8>と同じ相違点を有するものであって、<相違点4-5>、<相違点4-7>及び<相違点4-8>については前記(1)で検討したとおりであり、甲4に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
第8 無効理由2-3についての当審の判断
1 甲5発明の認定
甲5の液晶組成物はネマチック液晶組成物であるから(摘記5a参照)、実施例7として、
[図:0001408634000036.jpg]
からなり、ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)Tni:81.2℃、25℃における複屈折率Δn:0.074、25℃における誘電率異方性Δε:-4.7、粘度(mPa・s) (20℃)η:22.2mPa・sである、ネマチック液晶組成物(M-4)。」の発明が記載されているといえる(摘記5c参照。)
2 対比・判断
(1)本件発明1
ア 甲5発明との対比
甲5発明の「
[図:0001408634000037.jpg]
[図:0001408634000038.jpg]
」(以下、それぞれ、「甲5発明の第1化合物」、「甲5発明の第2化合物」、「甲5発明の第3化合物」及び「甲5発明の第4化合物」)は、いずれも、本件発明1の「一般式(5)
【化2】(当審注:前記前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物」に相当する。
甲5発明の「ネマチック相-等方性液体相転移温度(℃)Tni:81.2℃、25℃における複屈折率Δn:0.074、25℃における誘電率異方性Δε:-4.7」は本件発明1の「ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり」及び「屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0である」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲4発明1は「一般式(5)
【化2】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R7~R8はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表し、環D~環Eはそれぞれ独立してトランス-1,4-シクロへキシレン基を表し、L7は単結合を表し、L8は-CH2CH2-または-CH2O-を表し、rは0~1を表し、X6およびX7はFを表す。)で表される化合物を1種又は2種以上含有し、ネマチック相-等方性液体相転移温度が60℃~120℃であり、屈折率異方性Δnが0.05~0.15であり、誘電率異方性Δεが-1.5~-8.0であるネマチック液晶組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点5-1>
本件発明は、第一成分として式(1)
【化1】(当審注:前記第3と同じであるため、省略)
で表される化合物を含有するのに対し、甲5発明はその化合物を含有しない点。
<相違点5-2>
本件発明1は第二成分として誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物を含有するのに対し、甲5発明はそのような特定がない点。
<相違点5-3>
本件発明1は、一般式(4-4)~(4-6)(当審注:前記前記第3と同じであるため、省略)
(式中、R5~R6はそれぞれ独立して炭素数1~10のアルキル基又はアルコキシル基を表す。)で表される化合物を含有するのに対し、甲5発明はその化合物を含有しない点。
<相違点5-4>
固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が、本件発明1は-80℃~-20℃であるのに対し、甲5発明では不明である点。
イ 相違点についての検討
事案に鑑み、まず、<相違点5-1>、<相違点5-3>及び<相違点5-4>について検討する。
<相違点5-1>について
甲5発明のネマチック液晶組成物は
[図:0001408634000039.jpg]
(以下、それぞれ、「甲5発明の第8化合物」及び「甲5発明の第9化合物」を含み、その上位概念の化合物である第2成分として一般式(II-A)で表される化合物
[図:0001408634000040.jpg]
が記載されているが、R13及びR14は炭素数1から10のアルキル基、炭素数1から10のアルコキシル基、炭素数2から10のアルケニル基又は炭素数3から10のアルケニルオキシ基を表し(摘5a参照)、本件発明1の式(1)で表される化合物は式(II-A)の化合物においてR13及びR14が炭素数2のアルキル及び炭素数3のアルキルであり、式(II-A)の化合物におけるR13及びR14の多数の選択肢の1つに過ぎず、その中から炭素数2のアルキル及び炭素数3のアルキルを選択し、甲5発明の第8化合物又は甲5発明の第9化合物に代えて、その化合物を採用する動機付けがあるとはいえない。
また、甲5には、甲5発明の第8化合物及び甲5発明の第9化合物の上位概念である式(II-A)の化合物の上位概念である式(II)の化合物は粘度を低くする効果を有することが記載されており、一方、甲6には、第二成分としての式(2-1)の化合物は粘度を小さくすることが記載されており(摘記6b参照)、具体的に3-HH-2が記載されており、<表3>を参照すると(摘記6c参照)、本件発明1の式(1)で表される化合物に相当する。
しかし、3-HH-2は甲6の比較例2に含まれるものであり、甲6には比較例2は3-HH-4や3-HH-5を含む実施例3のものより粘度が大きいことが記載されているから(摘記6c参照)、甲5発明のネマチック液晶組成物において、粘度を低くしようとして、甲5発明の第8化合物又は甲5発明の第9化合物に代えて、甲6に記載の式(2-1)の化合物を採用しようとしても、3-HH-4や3-HH-5を採用しようとする動機付けまではあるかもしれないが、3-HH-2を採用する動機付けがあるとはいえない。
<相違点5-4>について
甲6には、甲6の液晶組成物としてTcが-30℃、すなわち、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であるものが、記載されているが(摘記6c参照)、甲5発明のネマチック液晶組成物は、絶対値の大きな負の誘電率異方性を持ち、屈折率異方性を低減させるか又は上昇させることなく粘度の低い液晶組成物を提供するためのものであり(摘記4b参照)、低い固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度のものを提供するためのものではないから、低い固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度のものを提供するためのものではない甲5発明のネマチック液晶組成物において、Tcが-30℃、すなわち、固体相又はスメクチック相-ネマチック相転移温度が-80℃~-20℃であるものとする動機付けがあるとはいえない。
ウ 請求人の主張及び当審の判断について
(ア)請求人は、<相違点5-1>について、審判請求書において「甲5の明細書の段落【0032】には、式(II-A)で表す化合物において、R13は1-8のアルキル基またはアルケニル基を表し、R14は1-8のアルキル基、アルケニル基またはアルコキシ基を表すことを開示されている。すなわち、甲5は、本発明1の式(1)「3-Cy-Cy-2」を開示している。
・・・
また、甲6の段落【0090】の比較例2には、「3-HH-2(3-Cy-Cy-2に対応)」を添加した液晶組成物、及びその技術的効果を含めて開示している。すなわち、甲6は、本発明1の式(1「3-Cy-Cy-2」)で表す化合物、及びその技術的効果を開示している。したがって、当業者にとっては、その需要と用途に応じて、甲5の「CC-2-5」または「CC-4-3」と、甲6の「3-HH-2(3-Cy-Cy-2に対応)」とを選択的に置換することで、本発明1の一般式(1)の化合物を得る動機付けが存在する。」と主張する。
しかし、前記イ<相違点5-1>についてで検討したとおり、本件発明1の式(1)で表される化合物に相当する「3-Cy-Cy-2」は式(II-A)の化合物においてR13及びR14が炭素数2のアルキル及び炭素数3のアルキルであり、式(II-A)の化合物におけるR13及びR14の多数の選択肢の1つに過ぎないから、甲5は、本発明1の式(1)「3-Cy-Cy-2」を開示しているとはいえない。
また、前記イ<相違点5-1>についてで検討したとおり、甲6に記載の3-HH-2を採用する動機付けがあるとはいえない。
(イ)請求人は、<相違点5-3>について何ら主張していない。
(エ)また、請求人は、<相違点5-4>について、審判請求書において「甲5の実施例7では、液晶組成物の低温特性データが開示していないが、甲6には、良好な低温安定性を持つ液晶化合物の構造である式(2-1)(本発明1の「3-Cy-Cy-2」に対応)、及び液晶組成物に混入した具体的な技術が開示されており、当業者は、その需要と用途に応じて、甲5と甲6を組み合わせることにより、液晶組成物の一般的調整を行い得るため、容易に本発明1を想到し得る。また、技術的効果も予想範囲内である。」と主張している。
しかし、前記イ<相違点5-4>についてで検討したとおり、甲5と甲6を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。
(オ)なお、請求人は、<相違点5-2>について、審判請求書において、本件発明1の一般式(5)にあたる「甲5発明の第1化合物」、「甲5発明の第2化合物」、「甲5発明の第3化合物」及び「甲5発明の第4化合物」が、誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であると主張している。
(カ)しかし、甲5には、「甲5発明の第1化合物」、「甲5発明の第2化合物」、「甲5発明の第3化合物」及び「甲5発明の第4化合物」の誘電率異方性Δεは記載されていないから、「甲5発明の第1化合物」、「甲5発明の第2化合物」、「甲5発明の第3化合物」及び「甲5発明の第4化合物」が誘電率異方性Δεが負でその絶対値が3よりも大きな化合物であることが記載されているとはいえない。
(エ)請求人の主張は、第5 2(1)ウ(カ)で検討したように、「第二成分」と「一般式(5)で表される化合物」の双方を充足する化合物を主張しているとも解されるが、化合物単独の誘電率異方性が立証されていないから、立証が不十分である。
したがって、請求人の前記主張はいずれも採用できない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、<相違点5-2>及び<相違点5-3>について検討するまでもなく、甲5に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
(2)本件発明2~5
本件発明2~5は、本件発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件発明1と甲4発明1との<相違点5-1>、<市初点5-2>及び<相違点5-4>と同じ相違点を有するものであって、<相違点5-1>、<市初点5-2>及び<相違点5-4>については前記(1)で検討したとおりであるから、甲5に記載された発明及び甲6に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。
第9 むすび
1 特許第6107918号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
2 特許第6107918号の請求項1~5に係る特許についての審判請求は成り立たない。
3 審判に関する費用については、特許法169条2項の規定で準用する民事訴訟法61条の規定により、請求人の負担とする。
4 よって、結論のとおり審決する。
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2022-800085