意匠無効審判
2025-880004
運搬用容器の蓋
- 審判番号
- 2025-880004
- 法域
- 意匠
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 意願2024-011151外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 1793433
- 請求日
- 2025年05月22日
- 審決日
- 2026年03月24日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求成立(無効)
- 当事者
- 【請求人】三甲 株式会社
- 【請求人代理人】永芳 太郎
- 【被請求人】岐阜プラスチック工業株式会社
- 【被請求人代理人】森 有希
- 【被請求人代理人】山崎 理恵
- 分類
- D1113.113-Z (G1-5)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 意匠法48条1項1号意匠法52条特許法169条民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 意匠法第3条第1項第3号、意匠法第24条第2項、意匠法第3条第1項、意匠法第48条第1項第1号、意匠法第52条、特許法第169条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の意匠登録第1793433号「運搬用容器の蓋」の意匠登録無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
意匠登録第1793433号の登録を無効とする。
審判費用は被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件意匠登録第1793433号の意匠(以下「本件登録意匠」という。別紙第1参照)は、令和6年(2024年)5月31日に意匠登録出願(意願2024-11151)されたものであって、令和7年(2025年)1月24日付けで登録査定がなされ、同年3月5日に意匠権の設定の登録がされた後、同年3月13日に意匠公報が発行され、その後、当審において、概要、以下の手続を経たものである。
令和7年(2025年) 5月22日付け 審判請求書の提出
同年 8月26日付け 請求書副本の送達通知の送付
同年 10月14日付け 審判事件答弁書の提出
同年 11月 6日付け 審理事項通知書の送付
同年 12月18日付け 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
令和8年(2026年) 1月15日差し出し 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 1月29日 口頭審理、書面審理通知(口頭)
同年 2月 5日差し出し 上申書の提出(被請求人)
同年 2月18日付け 上申書の提出(請求人)
同年 2月26日付け 審理終結通知書の送付
第2 請求人の申し立て及び理由の要点
請求人は、令和7年5月22日に審判請求書を提出し、「登録第1793433号意匠登録を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」と請求し、その理由として、要旨以下のとおり主張し、その主張事実を立証するため、甲第1号証(別紙第2参照)を提出した。
1 審判請求書における主張
(下線部分は請求人が付記したものである。)
「(1)意匠登録無効の理由の要点
本件登録意匠(意匠登録第1793433号)は、甲第1号証(意匠登録第1747653号)の意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきである。
(2)本件意匠登録を無効とすべき理由
ア 本件登録意匠について
本件登録意匠(意匠登録第1793433号)は、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠であって、添付図面において、赤色で表された部分以外の部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。
<参考図1> 本件登録意匠(意匠登録第1793433号)
[図:0001436250000001.jpg]
(ア)主な手続の経緯
出 願 令和6(2024)年 5月31日
登 録 令和7(2025)年 3月 5日
公報発行 令和7(2025)年 3月13日
(イ)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、「運搬用容器の蓋」である。
(ウ)形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、形態という。)
本件登録意匠の形態は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであって、甲第1号証の意匠との対比において、下記「ウ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との形態の対比」に記載の共通点と相違点がある。
イ 甲第1号証の意匠について
甲第1号証(意匠登録第1747653号)の意匠は、物品の部分について意匠登録を受けようとする意匠であって、添付図面において、ピンク色を呈するように表された部分以外の部分が意匠登録を受けようとする部分である。
<参考図2> 甲第1号証(意匠登録第1747653号)の意匠
[図:0001436250000002.jpg]
(ア)主な手続の経緯
出 願 令和4(2022)年12月16日
登 録 令和5(2023)年 6月21日
公報発行 令和5(2023)年 6月29日
(イ)意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、「運搬用容器の蓋」である。
(ウ)形態
甲第1号証の意匠の形態は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載されたとおりのものであって、本件登録意匠との対比において、下記「ウ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との形態の対比」に記載の共通点と相違点がある。
ウ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との形態の対比
本件登録意匠と甲第1号証の意匠の形態には、以下の共通点と相違点がある。
<参考図3> 本件登録意匠(平面図・正面図)
[図:0001436250000003.jpg]
[図:0001436250000004.jpg]
<参考図4> 甲第1号証の意匠(平面図・正面図)
[図:0001436250000005.jpg]
[図:0001436250000006.jpg]
(ア)形態の共通点
A 全体の基本的な構成
全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに等幅細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ凹コ字形の切り欠き部を設けたものとしており、意匠登録を受けようとする部分を容器蓋の一方の長辺縁寄りに設けた凸条部としている点、
B 「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能
平面縁寄りの凸条は、運搬用容器を積上げた際に容器底面が内側に嵌まり、容器同士のずれを防ぐための凸条であり、2か所の切り欠きは、固定用ベルトの位置を決めるための凹部である点、
C 「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲
平面視横長四角形状の容器蓋平面の一方の長辺縁寄りに設けた凸条について、容器蓋の周囲縁から間隔をあけた内側に設け、両端の短辺側に回り込む部分を含んで意匠登録を受けようとする部分としている点、
D 「意匠登録を受けようとする部分」の具体的な態様
(a)平面視横長四角形状の容器蓋平面の一方の長辺縁寄りに設けた等幅細帯状の凸条について、両端が直角に折れ曲がり蓋の短辺縁に沿って延長した、全体が平面視扁平コ字形状の態様としている点、
(b)凸条の具体的な形状について、凸条の内側面を略垂直面とし外周側面を約45度の傾斜面とした、断面形状が略直角三角形の等幅細帯状に形成している点、
(c)凸条の2か所の切り欠きを、凸条長さ方向の中央に幅広の間隔を設けた両端部寄りに設けている点、
が共通する。
(イ)形態の相違点
(A)凸条両端の短辺縁側への折れ曲り部分の長さについて、本件登録意匠は、容器蓋長辺縁に沿った凸条長辺部分長さの約6分の1としているのに対して、甲第1号証の意匠は約7分の1の長さとしている点、
(B)凸条の切り欠き部の形状について、本件登録意匠は平面視の切り欠き部縦幅に対する切り欠き部長さが約4.6倍であるのに対して、甲第1号証の意匠は平面視幅の約2.3倍の長さの態様である点、
(C)凸条における切り欠き部の位置について、本件登録意匠は、2つの切り欠き部の間に、凸条の長辺部全長の約4割5分長さの間隔をあけて切り欠きを設けているのに対して、甲第1号証の意匠の切り欠き部間の間隔は、凸条の長辺部全長の約6割長さである点、
(D)凸条外周側の斜面について、本件登録意匠は緩やかに膨出する湾曲面としているのに対して、甲第1号証の意匠は平坦な斜面としている点、
が相違する。
エ 先行周辺意匠の適示
この種「運搬用容器の蓋」の意匠において、平面視四角形状の容器蓋の四辺縁寄りに、凹コ字形の切り欠き部を有する等幅細帯状の凸条を設けた意匠は、本件登録意匠の出願前から見られるが、細帯状凸条の外側面を甲第1号証の意匠のように傾斜面とした、断面形状が略直角三角形である凸条を有する意匠は、甲第1号証の意匠出願前の先行登録意匠中に存在しない。
<参考図5> 先行登録意匠
[図:0001436250000007.jpg]
[図:0001436250000008.jpg]
[図:0001436250000009.jpg]
[図:0001436250000010.jpg]
[図:0001436250000011.jpg]
[図:0001436250000012.jpg]
オ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠の共通点及び相違点の評価
(ア)意匠に係る物品について
本件登録意匠と甲第1号証の意匠に係る物品はいずれも「運搬用容器の蓋」であって、両意匠の物品は同一である。
(イ)形態の共通点について
a 前記ウの(ア)形態の共通点における、A 全体の基本的な構成、B 「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能、C 「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲、及びD 「意匠登録を受けようとする部分」の具体的な態様の内
(a)意匠登録を受けようとする部分を、等幅細帯状で平面視扁平コ字形状の凸条部分としている点、
(c)凸条の2か所の切り欠きを間隔を設けた両端部寄りに設けている点、
に関する共通点は、この種「運搬用容器の蓋」の意匠において従来から見られる共通点であるものの、これらが相まって両意匠に共通する視覚的印象を表出している。
b 前記ウの(ア)形態の共通点における、D 「意匠登録を受けようとする部分」の具体的な態様の内
(b)凸条の具体的な形状について、内側面を略垂直面とし外周側面を約45度の傾斜面とした、断面形状が略直角三角形の等幅細帯状に形成している点は、甲第1号証の意匠以前のこの種運搬用容器の蓋には見られない、甲第1号証の意匠の特徴ある形状に関する共通点であって、両意匠に強く目を惹く視覚的印象の共通性を表出しており、両意匠を類似するものとする決定的な要素になっている。
(ウ)形態の相違点について
a 両意匠には、前記ウの(イ)形態の相違点における、(A)凸条部の長辺縁部分の長さに対する短辺縁側への折れ曲り部の長さの相違、(B)凸条の切り欠き部の形状について、平面視の縦幅に対する長さの比率の相違、(C)凸条における2つの切り欠き部の間に設けた間隔の相違、があるとしても、これらの相違は、いずれもこの種「運搬用容器の蓋」の意匠に従来から見られる態様の範囲内の変更にとどまり、相まった効果を参酌しても全体観察において別異の視覚的印象を起こさせるほどの相違ではないので、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
<参考図6> 両意匠正面図及び角部の部分拡大対比図
[図:0001436250000013.jpg]
[図:0001436250000014.jpg]
b 前記ウの(イ)形態の相違点における、(D)凸条外周側の斜面を緩やかに膨出する湾曲面としているか、平坦な斜面としているかの相違は、凸条全体の構成が共通する中で、その部位に着目して気付く程度の部分的な微差であって、両意匠全体の視覚的印象を別異とするものではなく、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
カ 両意匠の共通点及び相違点の評価に基づく類否判断の結論
両意匠は、意匠に係る物品が共通するとともに、意匠登録を受けようとする部分の用途及び機能、位置、大きさ、範囲が共通する。
また、意匠登録を受けようとする部分としている、平面視扁平コ字形状の凸条部分全体の構成態様についても共通し、特に、甲第1号証の意匠における従来にない特徴ある態様である、凸条の内側面を略垂直面とし外周側面を約45度の傾斜面としている点について共通している本件登録意匠には、甲第1号証の意匠と強く共通する視覚的印象が形成されている。
これに対して両意匠の相違点は、いずれも両意匠全体の視覚的印象を別異とするものではない部分的な微差にとどまり、相まった効果を参酌しても共通する視覚的印象を凌駕するものではなく、両意匠は類似する。
(3) むすび
以上のとおりであって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。」
2 口頭審理陳述要領書における主張
(1)請求人の主張
請求人は、請求人提出の陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べた。
(以下、下線は請求人による。)
「6.陳述の要領
被請求人の令和7年10月14日付審判事件答弁書(以下、「答弁書」という。)における主張について、以下のとおり反論する。
7.被請求人の主張に対する反論
(1)基本的な構成態様の認定について
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、本件登録意匠と甲第1号証の意匠(以下、「両意匠」という。)の基本的な構成の共通点について、
『「A 全体の基本的な構成
全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに等幅細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ凹コ字形の切り欠き部を設けたものとしており、意匠登録を受けようとする部分を容器蓋の一方の長辺縁寄りに設けた凸条部としている点」について、下線部を否認する。
甲第1号証の意匠の凸条は、長辺及び短辺は略等幅であるが、コーナー部において外側に張り出し、他の部位より幅広になっているため、凸条部全体として「等幅」であるとの認定は誤りである。
また、甲第1号証の意匠の切り欠き部は、正面視において内側が傾斜して逆ハの字状を呈しているため、「凹コ字形」というよりも、「凹逆台形状」等と認定すべきである。』(答弁書3頁下から5行~4頁6行)旨主張する。
そして、凸条部の幅の具体的な認定を、本件登録意匠について『イ)平面視における細帯状の凸条の幅は、長辺側、短辺側、コーナー部において均等である。』(答弁書7頁下から5行)として以下の参考図1の▼イ)を掲載し、甲第1号証は『い)平面視における細帯状の凸条の幅は、長辺側及び短辺側は均等であるが、コーナー部においては、外側に張り出し、他の部位よりも幅広になっている。』(答弁書11頁3~5行)として以下の参考図1の▼い)を掲載している。
<参考図1> 被請求人答弁書に掲載された対比図
本件登録意匠
[図:0001436250000015.jpg]
甲第1号証の意匠
[図:0001436250000016.jpg]
また、切り欠き部の形状については、本件登録意匠は『キ)正面視において、2つの切り欠きはいずれも凹コ字形である。』(答弁書8頁7行)として以下の参考図2の▼キ)を掲載し、甲第1号証は『き)正面視において、2つの切り欠きはいずれも凹逆台形状である。』(答弁書11頁下から3行)として以下の参考図2の▼き)を掲載している。
<参考図2> 被請求人答弁書に掲載された対比図
本件登録意匠
[図:0001436250000017.jpg]
甲第1号証の意匠
[図:0001436250000018.jpg]
〔請求人の反論〕
凸条部の幅については、凸条部のほとんどの部分を占めている直線部分が等幅細帯状である両意匠の凸条部について、平面視した状態で角部の幅を計測して初めて把握できる程度の極部分的で僅かな差異をもって、凸条部全体が等幅細帯状と認定できないという被請求人の主張には合理性がなく、両意匠の凸条部の基本的な構成は、共通する等幅細帯状であるという他ない。
切り欠き部の形状については、外側面の全体を約45度の傾斜面としている凸条に設けた切り欠きであるので、切り欠き部の対向する立面の傾斜度合いの差異は、斜視図方向で観察される通常の視点(参考図3)では容易に把握することができず、正面に正対した視点でのみ初めてわかる程度の傾斜の差異であるので、立体形状として、本件登録意匠の切り欠きを凹コ字形、甲第1号証の意匠の切り欠きを凹逆台形状として認定を書き分けなければならない程の明確な相違はない。
<参考図3> 斜視図の部分拡大対比
[図:0001436250000019.jpg]
以上のとおりであって、請求人が認定した基本的な構成の共通点について、変更すべき点はない。
(2)「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲について
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、請求人が認定する共通点について、
『「C「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲
平面視横長四角形状の容器蓋平面の一方の長辺縁寄りに設けた凸条について、容器蓋の周囲縁から間隔をあけた内側に設け、両端の短辺側に回り込む部分を含んで意匠登録を受けようとする部分としている点、」について、共通点として挙げている点を否認する。両意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の位置は異なっている。』(答弁書4頁11~16行)として、
『本件登録意匠は、縁から凸条までの距離は短辺側の方が長辺側よりも長く、凸条は、短辺側の方が長辺側より蓋の内側に位置している。一方、甲第1号証の意匠は、縁から凸条までの距離は一定で、短辺側も長辺側も蓋の縁の近傍に位置している。よって、本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは、「意匠登録を受けようとする部分」の位置が相違する。』(答弁書14頁2~8行)旨主張する。
そして、この「意匠登録を受けようとする部分」の位置の相違点の評価について、『蓋のみを保管する場合、凸条同士を互いに噛み合わせることで重ねて収納できるが、本件登録意匠では、短辺側の縁部が広いため、縁部が外側に変形した場合であっても、上部に蓋を確実に載置することができる。
これに対し、甲第1号証の意匠は、縁から凸条までの距離が一定であり、短辺側も長辺側も蓋の縁の近傍に位置しているため、本件登録意匠のような機能には乏しいといえる。
以上のとおり、「意匠登録を受けようとする部分」の位置の相違は、本物品の使用性や機能性に関わるものであり、需要者が着目する部分であるから、類否判断において軽視することはできないと考える。』(答弁書23頁下から9行以降)旨主張する。
〔請求人の反論〕
「意匠登録を受けようとする部分」である凸条の位置について、請求人が「容器蓋の周囲縁から間隔をあけた内側に設けている」とした認定を否認して、意匠登録を受けようとする部分以外の形態であって形態が具体的に特定されているものではない、破線部の寸法の対比に基づいて位置が相違するとした被請求人の認定は、部分意匠の基本的な認定方法の解釈に誤りがあり、不当である。
部分意匠の共通点及び差異点の認定について意匠審査基準は、「第III部 第2章 第1節 新規性2.2.2.5(4)形状等における共通点及び差異点の認定」 において、
『・・出願された意匠が、物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠である場合は、「意匠登録を受けようとする部分」と公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分のそれぞれの全体の形状等及び各部の形状等について共通点及び差異点を認定する。ただし、「その他の部分」の形状等については直接共通点及び差異点を認定しない。』としている。
また、被請求人の「意匠登録を受けようとする部分」の位置の相違に関する評価は、機能性の相違を挙げているに止まり、形状の視覚的印象の相違が類否判断に与える影響を評価するものではない。
そもそも両意匠の凸条部は、底面図に明らかなように、平面の凸条部に相当する底面側の凹部内にリブが設けられており、「凸条同士を互いに噛み合わせることで重ねて収納できる」形状ではなく、被請求人の認定、評価はその前提において誤っている。
両意匠の「意匠登録を受けようとする部分」には、位置、大きさ、範囲について相違はなく、類否判断において両意匠を非類似とする要素はない。
(3)「意匠登録を受けようとする部分」の具体的な態様について
(3)-1 凸条の断面形状
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、請求人が両意匠の共通点として挙げた態様のうち、
『「(b)凸条の具体的な形状について、凸条の内側面を略垂直面とし外側面を約45度の傾斜面とした、断面形状が略直角三角形の等幅細帯状に形成している点、」について否認する。凸条の断面形状について、「三角形」とは「同一直線上にない3つの点と、それらを結ぶ3つの線分(辺)からなる図形」を指すと考えられるところ、本件登録意匠の凸条は、一辺が曲線状をなし、かつ頂角には丸み(R)があるため「三角形」には該当せず、「略四分円の扇形」等と認定すべきである。また、甲第1号証の意匠の凸条は、A-A断面図において、上面にも平坦部を有しており、4つの線分(辺)からなることから「三角形」には該当せず、「台形状」等と認定すべきである。』(答弁書4頁下から3行~5頁7行)旨主張する。
そして、凸条の断面形状について両意匠の相違点として挙げ、
『両意匠は下記の各形態において相違している。
●相違点1:凸条の断面形状について、本件登録意匠は、略四分円の扇形であるのに対し、甲第1号証の意匠は、扁平台形状である点。』(14頁下から2行以降)として、参考図4に記載の対比図を掲載している。
<参考図4> 被請求人答弁書に掲載された対比図
[図:0001436250000020.jpg]
〔請求人の反論〕
本件登録意匠の凸条外側面は、到底、被請求人が主張する略四分円の弧状ということはできず(参考図5-○1(当審注、○の中に1の代用表記。以下同様。))、参考図5-○2のように正円の約14分の1の円弧形状である極緩やかな湾曲面であって、断面形状が略直角三角形を離れて略四分円の扇形になっているということはできない。
<参考図5> 本件登録意匠の凸条外側面形状
○1 凸条外側面に四分円を当てはめた図
[図:0001436250000021.jpg]
○2 凸条外側面が内接する円を当てはめた図
[図:0001436250000022.jpg]
また、両意匠の凸条頂部は、被請求人が主張するような、本件登録意匠が『頂角には丸み(R)がある』態様で、甲第1号証の意匠が『上面にも平坦部を有しており』というように異なるものではなく、参考図6のように、本件登録意匠も凸条頂部に細幅な平坦面を形成しており、両意匠とも凸条頂部の欠損などを回避するために、略三角形凸条断面の頂部を小さく隅切りした同様の態様であるということができる。
<参考図6> 凸条頂部形状の対比図
本件登録意匠
[図:0001436250000023.jpg]
甲第1号証の意匠
[図:0001436250000024.jpg]
このように、ほぼ同様の頂部形状である両意匠のうち、甲第1号証の頂部の極小幅な隅切り面のみを、多角形の一辺をなす面と見立てて、甲第1号証の凸条断面全体を「台形状」とする認定は、一見して三角形状として捉えられる基本形状を無視した恣意的な認定という他ない。
請求人が、両意匠の凸条部について、「内側面を略垂直面とし外側面を約45度の傾斜面とした、断面形状が略直角三角形」で共通しているとした認定に誤りはない。
(3)-2 凸条の外側面の傾斜態様
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、凸条の外側面が約45度の傾斜面で共通するとした請求人の認定に対して、本件登録意匠について、
『ク)凸条の断面形状が扇形であるため、厳密な角度の計測にはなじまないが、対比の便宜上、敢えて計測するとすれば、外周側は、蓋との内角が約50度をなすように形成された曲面形状である(内角の認定は、下図ク)の赤線部参照)。少なくとも「45度」ではなく、請求人の認定は恣意的であって妥当性を欠くものと言わざるを得ない。』(答弁書8頁8~12行)とし、甲第1号証について、
『く)凸条の外周側は、蓋との内角が約30度をなすように形成された直線状の斜面である(下図く)参照)。』(答弁書11頁下から2行以降)と認定した上で、凸条外側面の傾斜態様を両意匠の相違点として、
『●相違点2:凸条の外周側について、本件登録意匠は、敢えて角度を認定するなら、蓋との内角が約50度をなすように形成された曲面形状であるのに対し、甲第1号証の意匠は、蓋との内角が約30度をなすように形成された直線状の斜面である点。<上記ク)く)>』として挙げて、下記参考図7の対比図を掲載している。
<参考図7> 被請求人答弁書に掲載された対比図
[図:0001436250000025.jpg]
〔請求人の反論〕
両意匠の凸条外側面は、四角柱を対向する角部をつなぐ面で斜めに切断したように直角を2分割する傾斜態様の斜面を形成した、特徴ある態様である点で共通している。
この四角柱を2分割したような約45度の傾斜面を形成して、共通する視覚的印象が表出されている凸条外側面の態様について、図面上で傾斜を仔細に計測、対比して得られる傾斜角度の多少の相違は、四角柱を2分割したような構成に基づく視覚的印象の共通性を凌駕して、別異の印象を形成するほどの相違ということはできない。
なお被請求人は、両意匠の外側面の傾斜が約50度と約30度で20度の違いがあると認定するが、その認定こそ恣意的であって妥当性を欠くものであり、参考図8のように両意匠の凸条外側面の下辺と上辺をつなぐ斜面の傾斜は約45度と約35度であり、被請求人が認定するように数値が大きく相違するものではない。
蓋の上面を俯瞰する通常の視点からは、斜面の詳細な角度の違いを把握することはできず、両意匠の凸条の外側面は、四角柱を2分割したような約45度の傾斜面として認識され、共通する視覚的印象が形成されているといえる。
<参考図8>
本件登録意匠
[図:0001436250000026.jpg]
甲第1号証の意匠
[図:0001436250000027.jpg]
(3)-3 その他の具体的な態様の相違
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、両意匠の具体的な態様について、前記の他、以下の各点を相違点として挙げ、寸法計測のために補助線を加えて計測し直した対比図を添付して相違を主張し(答弁書15頁下から6行~18頁上段)、答弁書25頁下から2行~27頁7行にかけて、各相違点の評価を記載している。
●相違点3:正面視における2つの切り欠きの形状
●相違点4:凸条2か所の切り欠きの位置
●相違点5:平面視における凸条2か所の切り欠きの縦横比
●相違点6:平面視における細帯状の凸条の幅
●相違点7:平面視における凸条の短辺側と長辺側の比率
〔請求人の反論〕
被請求人が寸法比率などについて認定し直した上記各点の相違は、寸法計測の補助線を外した対比図(参考図9)において明らかなように、いずれも、この種「運搬用容器の蓋」の意匠において普通に見られる変更の範囲内の差異に過ぎない部分的な微差という他なく、相まった効果を参酌しても、参考図9のとおり意匠全体としての視覚的印象を別異とするまでの相違ということはできない。
<参考図9> 両意匠平面図(下半部抜粋)対比図
本件登録意匠
[図:0001436250000028.jpg]
甲第1号証の意匠
[図:0001436250000029.jpg]
具体的な態様の各相違に関する評価についても、「ベルトが外れにくい印象」など機能的な相違を述べて、視覚的印象の相違が類否判断に与える影響を評価するものではなく、全体観察において評価し得ない部分的な微差を過大に評価するものであって不当である。
請求人が審判請求書において認定した、『これらの相違は、いずれもこの種「運搬用容器の蓋」の意匠に従来から見られる態様の範囲内の変更にとどまり、相まった効果を参酌しても全体観察において別異の視覚的印象を起こさせるほどの相違ではないので、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。』(審判請求書8頁下から4行以降)という認定、判断を変えなければならない要素はない。
(4)先行周辺意匠の適示について
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、答弁書の「需要者の注意を惹きつける部分の認定」の項で、「公知意匠(先行周辺意匠)について」(答弁書19頁下から3行~22頁2行)として、乙第1号証乃至乙第7号証を提出し以下を主張する。
『先行周辺意匠として、乙第1号証乃至乙第7号証を追加する。
この種「運搬用容器の蓋」の意匠において、「平面視四角形状の容器蓋の四辺縁の寄りに切り欠き部を有する細帯状の凸条を設けた意匠」は、請求人が挙げた先行周辺意匠に加えて、乙第1号証乃至乙第4号証の意匠が、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
また、「細帯状の凸条が平面視扁平コ字形状をなす態様」は、請求人が挙げた先行周辺意匠に加えて、乙第1号証及び乙第3号証の意匠においても、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
さらに、「平面視四角形状の容器蓋の四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設けた意匠であって、凸条が蓋の縁から一定の距離を空けて内側に設けられた態様」は、乙第1号証及び乙第5号証の意匠において、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
加えて、「平面視四角形状の容器蓋の四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設け、凸条の外側面を傾斜面とした態様」や「凸条の断面形状が扁平台形状をなす態様」は乙第5号証乃至乙第7号証の意匠において、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
これらの公知の形態等は、特徴的なものとは言い難く、少なくとも各態様単独では、需要者の注意を強く惹くものとは考えにくい。』
〔請求人の反論〕
被請求人の追加証拠に基づく主張は、甲第1号証の意匠を構成する形態要素を分節し、それぞれ部分的なものでしかない構成態様について、公知意匠があることを示しているに止まる。
意匠の新規性の判断は、意匠審査基準 第III部 第2章 第1節2.2.2.7(2)で示されるように、
『公知又は周知の形状等を寄せ集めた意匠であったとしても、その組合せの態様が新規であって、意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)として新規である場合には、その組合せによる意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)が新規な形状等として評価される。』ものであるから、被請求人が公知意匠を追加してもなお、同様の公知意匠がない甲第1号証の意匠全体としての基本的な構成態様、すなわち、
『平面視四角形状の容器蓋の四辺縁寄りに、凹コ字形の切り欠き部を有する等幅細帯状の凸条を設けた「運搬用容器の蓋」であって、その凸条の外側面を傾斜面として断面形状が略直角三角形である凸条としている全体の基本的な構成態様』は、甲第1号証の意匠の特徴をなしているといえる。
(5)基本的構成態様における共通点の評価について
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、基本的構成態様の共通点について、
『両意匠は上記の基本的構成態様において概ね共通する。しかしながら、当該基本的構成態様は、請求人が挙げた先行周辺意匠に加えて、乙第1号証乃至乙第4号証の各意匠において公知であり、ありふれたものであることから、類否判断に与える影響は微弱であると言わざるを得ない。』(答弁書23頁4~8行)旨主張する。
〔請求人の反論〕
この認定、判断が基本的に誤っていることは前記(4)で述べたとおりであって、被請求人は、部分的な態様ごとの公知意匠のみを見て、従来のこの種物品にはない意匠全体として特徴ある基本的な構成態様の評価を誤ったものといえる。
甲第1号証の意匠と意匠全体の基本的な構成態様が共通し、特に凸条の内側面を略垂直面とし外側面を約45度の傾斜面としている特徴ある構成態様についても共通している本件登録意匠には、甲第1号証の意匠と強く共通する視覚的印象が形成され、意匠全体として両意匠を類似する意匠とする決定的な要素になっている。
(6)両意匠の類否判断について
〔被請求人主張の概要〕
被請求人は、「両意匠の類否判断」について、
『以上に述べたとおり、両意匠は、意匠に係る物品及び「意匠登録を受けようとする部分」の用途・機能においては共通するものの、「意匠登録を受けようとする部分」の位置が相違している。
さらに、両意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の形態についてみると、共通点は従来一般にみられるありふれた態様にすぎないのに対し、各相違点が相俟って構成される形態は、需要者の注意を惹くものといえ、そこから醸し出される印象は共通点を大きく凌駕するものである。
すなわち、本件登録意匠は、全体として、柔らかくなめらかな印象を与えるとともに、形状に裏付けられた機能美が感じられるのに対し、甲第1号証の意匠は、シャープで角張った印象を与える点において本件登録意匠とは美観が顕著に異なり、さらに、機能美の観点でも差異が認められる。
よって、本件登録意匠と甲第1号証の意匠を全体的に対比観察した場合、需要者の視覚を通じて異なる美感を与えるものであり、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠とは非類似であるというべきである。』(答弁書27頁9~22行)旨主張する。
〔請求人の反論〕
「意匠登録を受けようとする部分」の位置について両意匠は、前記(2)で述べたとおり相違はなく、類否判断において両意匠を非類似とする要素にはならない。
被請求人が追加して提出する乙第1号証乃至乙第7号証の存在にかかわらず、甲第1号証の意匠全体としての基本的な構成態様が、『従来一般にみられるありふれた態様にすぎない』といえないことは、前記(4)に述べたとおりであり、さらに、『各相違点が相俟って構成される形態は、需要者の注意を惹くものといえ、そこから醸し出される印象は共通点を大きく凌駕する』といえないことは、前記(3)-1から(3)-3に述べたとおりであって、本件登録意匠は、意匠全体として甲第1号証に類似する。
また被請求人は、『本件登録意匠は、全体として、柔らかくなめらかな印象を与えるとともに、形状に裏付けられた機能美が感じられるのに対し、甲第1号証の意匠は、シャープで角張った印象を与える点において本件登録意匠とは美観が顕著に異な』るとしているが、両意匠には、特徴ある基本的な構成態様が共通する中で、主として凸条外側斜面の緩やかな湾曲の有無の相違しか無いにもかかわらず、これを過大に評価して、意匠全体として「柔らかくなめらかな印象」と「シャープで角張った印象」という異なる美感を表出して両意匠を非類似としているという主張は、実態を離れて、具体的な態様のわずかな差異を過大に評価しその差異を強調するものであって、不当である。
本件登録意匠が凸条外側面の斜面を緩やかな弧状に湾曲させている態様は、例えば角柱の角を隅丸状に丸めるのと同様に、格別目を惹く特徴がある態様とはいえず、湾曲度合いも極めて緩やかであるから、凸条の外側面全体を約45度の傾斜面とした特徴ある態様により表出されている共通する視覚的印象を別異として、両意匠を非類似とするまでの要素ということはできない。
(7) むすび
以上のとおりであって、本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである。」
3 上申書における主張
(1)上申の内容
請求人は、令和8年2月5日付けで提出された被請求人の上申書について、以下反論した。
「(1)追加提出された乙第8号証乃至乙第19号証について
被請求人が追加提出した乙第8号証乃至乙第19号証に示されているのは、被請求人がいうように、「いずれも、平面視横長四角形状の蓋平面の四辺縁寄りに、切り欠き部を有する細帯状の凸条を設けた態様を備えており、当該態様がありふれたものであることを示している」意匠であるとしても、各意匠の凸条は全て四角柱形状であって、甲第1号証の意匠のように外側面を傾斜面とした断面略三角形状の凸条を有する意匠は全く無い。
結局追加された各乙号証は、請求人が審判請求書6 頁乃至7頁の「6(2)エ先行周辺意匠の適示」で述べた『この種「運搬用容器の蓋」の意匠において、・・・細帯状凸条の外側面を甲第1号証の意匠のように傾斜面とした、断面形状が略直角三角形である凸条を有する意匠は、甲第1号証の意匠出願前の先行登録意匠中に存在しない。』ことを裏付けるものになっている。
被請求人は、「答弁書及び、令和8年1月15日付口頭審理陳述要領書においても主張したとおり、需要者はこのようなありふれた態様よりも、凸条部や切り欠き部の具体的な態様や配置並びに、これらの組合せに関心を有するというべきである。」(令和8年2月5日付上申書2頁)としているが、需要者が関心を有するのは、この種運搬用容器の蓋においてありふれた態様に属する構成各部の具体的な態様の如何ではなく、従来意匠にはない、両意匠の凸条外側面が、四角柱を対向する角部をつなぐ面で斜めに切断したような、直角を2分割した態様の斜面を形成している特徴ある態様で共通している点にこそあり、甲第1号証の意匠について需要者が着目する要部を形成している、凸条部全体の外側面を傾斜面とした特徴ある構成態様をそのまま有している本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と意匠全体として類似する。
(2)取引の実情について
被請求人は、この種運搬用容器、及び蓋について、「取引の実情に鑑みると、需要者は、通常、機能性への影響も考慮した上で、凸条や切り欠き部の具体的態様や配置を仔細に観察する」(令和8年2月5日付上申書12頁)旨強調するが、機能的な形状に着目するとしても、形状の相違が視覚的印象に影響を与えないものは、意匠の類否判断の要素になり得ないことは、意匠審査基準で「視覚に大きな影響のない僅かな形状の相違について、その相違が機能に大きく関わっていても、ことさら重要視しない。」(意匠審査基準 第III部 第2章 第1節 新規性2.2.2.6(3)(a)機能的形状の評価)とされているとおりである。
また被請求人は、「甲第1号証の角部の内側の態様を考慮するか否かにかかわらず、答弁書及び陳述要領書において被請求人が認定した各差異点により、需要者は両意匠に対し、互いに異なる美感を抱くものというべきである。」(令和8年2月5日付上申書12頁)旨主張するが、まず、甲第1号証の意匠登録を受けようとする部分(凸条角部の内側形状を除く部分)と、本件登録意匠のそれに相当する部分との対比において、被請求人が主張する切り欠き部などの態様の相違は、いずれも追加提出された乙号証の中でも種々の変更が見られる範囲内の部分的で微細な相違にとどまり、両意匠に別異の視覚的印象を与えるほどの相違とは到底いうことはできず、両意匠は類似する。
更に、甲第1号証について、凸条角部の内側形状を含む公知意匠として本件登録意匠と対比した場合も、凸条角部内側の部分的な相違は、両意匠の凸条部全体が、外側面を略45度の傾斜面とする断面三角形状の特徴ある凸条によって形成されていることによる、意匠全体として目を惹く共通性を圧倒して、両意匠に別異の視覚的印象を生じさせる相違ということはできず、両意匠は意匠全体として類似する。
なお、追加された各乙号証との関係でいえば、凸条切り欠き部の態様は、甲第1号証、本件登録意匠とも、凸条長辺の切り欠き部底面が蓋上面より一段高い位置に形成されている点で共通しているのに対して、追加された各乙号証の半数以上は、同切り欠き部底面が蓋上面と同一面であって凸条が途切れる態様になっている。
両意匠の凸条切り欠き部形状には、底面を蓋上面より高くした特徴ある共通性が形成されており、この点でも甲第1号証と本件登録意匠は、特徴ある共通する態様によって表出される共通する視覚的印象が、両意匠を類似する意匠とする明らかな要素になっている。
(3)まとめ
以上のとおり、本件登録意匠は、追加提出された乙第8号証乃至乙第19号証の存在、取引の実情を考慮すべきとの主張にかかわらず意匠全体として甲第1号証と類似するものであって、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により無効とすべきである。」
4 証拠方法
(1)甲第1号証 意匠登録第1747653号意匠公報の写し
第3 被請求人の理由の要点
被請求人は、審判事件答弁書、口頭審理陳述要領書及び上申書を提出し、おおむね以下のとおり主張した。
1 審判事件答弁書における主張
「6 答弁の趣旨
本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。
7 答弁の理由
1)請求人の主張
請求人は、令和7年5月22日付審判請求書(以下「請求書」という)において、意匠登録第1793433号(以下、意匠登録第1793433号を「本件意匠登録」といい、本件意匠登録に係る意匠を「本件登録意匠」という。)は、意匠登録第1747653号の意匠(以下、「甲第1号証の意匠」という。)に類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法第48条第1項第1号により、無効とすべきであると主張する(請求書第2頁)。
しかしながら、被請求人は以下に述べる理由により、請求人の主張は認められるものではなく、本件意匠登録は無効とすべきものではないと考える。
2)認否
まず、以下のとおり請求人の主張について認否を行う。
2)-1 本件登録意匠について
・「(2)本件意匠登録を無効とすべき理由 ア 本件登録意匠について
(ア)主な手続の経緯、(イ)意匠に係る物品」について認める。
・同「(ウ)形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、形態という。)」及び、「ウ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との形態の対比」については、下記に記載のとおり一部否認する。詳細は後記3)で述べる。
2)-2 甲第1号証の意匠について
・「(2)本件意匠登録を無効とすべき理由 イ 甲第1号証の意匠について (ア) 主な手続の経緯、(イ)意匠に係る物品」について認める。
・同「(ウ)形態」及び、「ウ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との形態の対比」については、下記に記載のとおり一部否認する。詳細は後記3)で述べる。
2)-3 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との形態の対比について
・「(2)本件意匠登録を無効とすべき理由 ウ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との形態の対比」について、下記に記載のとおり一部否認する。
2)-3-1 「(ア)形態の共通点」について
・「A 全体の基本的な構成 全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに等幅細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ凹コ字形の切り欠き部を設けたものとしており、意匠登録を受けようとする部分を容器蓋の一方の長辺縁寄りに設けた凸条部としている点」について、下線部を否認する。
甲第1号証の意匠の凸条は、長辺及び短辺は略等幅であるが、コーナー部において外側に張り出し、他の部位より幅広になっているため、凸条部全体として「等幅」であるとの認定は誤りである。
また、甲第1号証の意匠の切り欠き部は、正面視において内側が傾斜して逆ハの字状を呈しているため、「凹コ字形」というよりも、「凹逆台形状」等と認定すべきである。
・「B 「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能 平面縁寄りの凸条は、運搬用容器を積上げた際に容器底面が内側に嵌まり、容器同士のずれを防ぐための凸条であり、2か所の切り欠きは、固定用ベルトの位置を決めるための凹部である点、」について、認める。
・「C 「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲 平面視横長四角形状の容器蓋平面の一方の長辺縁寄りに設けた凸条について、容器蓋の周囲縁から間隔をあけた内側に設け、両端の短辺側に回り込む部分を含んで意匠登録を受けようとする部分としている点、」について、共通点として挙げている点を否認する。
両意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の位置は異なっている。詳細は後記3)で述べる。
・「D 「意匠登録を受けようとする部分」の具体的な態様 (a)平面視横長四角形状の容器蓋平面の一方の長辺縁寄りに設けた等幅細帯状の凸条について、両端が直角に折れ曲がり蓋の短辺縁に沿って延長した、全体が平面視扁平コ字形状の態様としている点、」について、下線部を否認する。
上記のとおり、甲第1号証の意匠の凸条は等幅ではない。
・同「(b)凸条の具体的な形状について、凸条の内側面を略垂直面とし外周側面を約45度の傾斜面とした、断面形状が略直角三角形の等幅細帯状に形成している点、」について否認する。
凸条の断面形状について、「三角形」とは「同一直線上にない3つの点と、それらを結ぶ3つの線分(辺)からなる図形」を指すと考えられるところ、本件登録意匠の凸条は、一辺が曲線状をなし、かつ頂角には丸み(R)があるため「三角形」には該当せず、「略四分円の扇形」等と認定すべきである。
また、甲第1号証の意匠の凸条は、A-A断面図において、上面にも平坦部を有しており、4つの線分(辺)からなることから「三角形」には該当せず、「台形状」等と認定すべきである。
・同「(c)凸条の2か所の切り欠きを、凸条長さ方向の中央に幅広の間隔を設けた両端部寄りに設けている点」について、共通点として挙げている点及び下線部を否認する。詳細は後記3)で述べる。
2)-3-2 「(イ)形態の相違点」について
・「(A)凸条両端の短辺縁側への折れ曲り部分の長さについて、本件登録意匠は、容器蓋長辺縁に沿った凸条長辺部分長さの約6分の1としているのに対して、甲第1号証の意匠は約7分の1の長さとしている点、」について、具体的な計測対象範囲が不明確であるため承認できない。後記3)において計測対象範囲を明確にした上で認定する。
・「(B)凸条の切り欠き部の形状について、本件登録意匠は平面視の切り欠き部縦幅に対する切り欠き部長さが約4.6倍であるのに対して、甲第1号証の意匠は平面視幅の約2.3倍の長さの態様である点」について、具体的な計測対象範囲が不明確であるため承認できない。後記3)において計測対象範囲を明確にした上で認定する。
・「(C)凸条における切り欠き部の位置について、本件登録意匠は、2つの切り欠き部の間に、凸条の長辺部全長の約4割5分長さの間隔をあけて切り欠きを設けているのに対して、イ号意匠の切り欠き部間の間隔は、凸条の長辺部全長の約6割長さである点」について、具体的な計測対象範囲が不明確であるため承認できない。後記3)において計測対象範囲を明確にした上で認定する。
・「(D)凸条外周側の斜面について、本件登録意匠は緩やかに膨出する湾曲面としているのに対して、甲第1号証の意匠は平坦な斜面としている点」について、下線部は不明確であるため承認できない。
2)-4 「エ 先行周辺意匠の適示」について
「(2)本件意匠登録を無効とすべき理由 エ 先行周辺意匠の適示 この種「運搬用容器の蓋」の意匠において、平面視四角形状の容器蓋の四辺縁寄りに、凹コ字形の切り欠き部を有する等幅細帯状の凸条を設けた意匠は、本件登録意匠の出願前から見られるが、細帯状凸条の外側面を甲第1号証の意匠のように傾斜面とした、断面形状が略直角三角形である凸条を有する意匠は、甲第1号証の意匠出願前の先行登録意匠中に存在しない。」について下線部を否認する。
また、後記3)のとおり先行周辺意匠を追加する。
2)-5 「オ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠の共通点及び相違点の評価」について
・「(2)本件意匠登録を無効とすべき理由 オ 本件登録意匠と甲第1号証の意匠の共通点及び相違点の評価 (ア)意匠に係る物品について」について認める。
・同「(イ)形態の共通点について」について否認する。詳細は後記3)で述べる。
・同「(ウ)形態の相違点について」について否認する。詳細は後記3)で述べる。
2)-6 「カ 両意匠の共通点及び相違点の評価に基づく類否判断の結論」及び「(3)むすび」について否認する。詳細は後記3)で述べる。
3) 被請求人の反論
3)-1 本件登録意匠について
本件登録意匠については下記のように認定すべきである。なお、請求人の主張と異なる認定部分には下線を付している。
(1)基本的構成態様
全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ切り欠き部を設けたものとしており、意匠登録を受けようとする部分を容器蓋の一方の長辺縁寄りに設けた凸条部としている。
(2)「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲
平面視横長四角形状の容器蓋平面の一方の長辺縁寄りに設けた凸条について、容器蓋の周囲縁から間隔をあけた内側に設け、両端の短辺側に回り込む部分を含んで意匠登録を受けようとする部分としている。
蓋の縁から凸条までの距離は短辺側の方が長辺側よりも長く、凸条は、短辺側の方が長辺側より蓋の内側に位置している。
(3)「意匠登録を受けようとする部分」の具体的構成態様
ア)細帯状の凸条は、平面視扁平コ字形状である。
イ)平面視における細帯状の凸条の幅は、長辺側、短辺側、コーナー部において均等である。
ウ)凸条の断面形状は、略四分円の扇形である。
エ)平面視における凸条の長さは、短辺側と長辺側の比率が約1.0:5.4である。
オ)平面視における凸条2か所の切り欠きは、縦横比が約1.0:3.5である(計測対象範囲は下図オ)参照)。
カ)凸条2か所の切り欠きは、長辺部の端部から端部までの長さを100とした場合、両端部から切り欠きまでの長さが全長の約16の割合に相当し、2つの切り欠きの間の長さが全長の約46の割合に相当する位置に配置されている(下図カ)参照)。
キ)正面視において、2つの切り欠きはいずれも凹コ字形である。
ク)凸条の断面形状が扇形であるため、厳密な角度の計測にはなじまないが、対比の便宜上、敢えて計測するとすれば、外周側は、蓋との内角が約50度をなすように形成された曲面形状である(内角の認定は、下図ク)の赤線部参照)。少なくとも「45度」ではなく、請求人の認定は恣意的であって妥当性を欠くものと言わざるを得ない。
▼イ)凸条の幅
[図:0001436250000030.jpg]
▼ウ)凸条の断面形状
[図:0001436250000031.jpg]
▼エ)短辺と長辺の比率
[図:0001436250000032.jpg]
▼オ)切り欠きの縦横比
[図:0001436250000033.jpg]
▼カ)切り欠きの配置
[図:0001436250000034.jpg]
▼キ)切り欠きの正面形状
[図:0001436250000035.jpg]
▼ク)凸条外周側における蓋との内角
[図:0001436250000036.jpg]
3)-2 甲第1号証の意匠について
甲第1号証の意匠については下記のように認定すべきである。なお、請求人の主張と異なる認定部分には下線を付している。
(1)基本的構成態様
全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ切り欠き部を設けたものとしており、意匠登録を受けようとする部分を容器蓋の一方の長辺縁寄りに設けた凸条部としている。
(2)「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲
平面視横長四角形状の容器蓋平面の一方の長辺縁寄りに設けた凸条について、容器蓋の周囲縁から間隔をあけた内側に設け、両端の短辺側に回り込む部分を含んで意匠登録を受けようとする部分としている。
蓋の縁から凸条までの距離は一定で、短辺側も長辺側も蓋の縁の近傍に位置している。
(3)「意匠登録を受けようとする部分」の具体的構成態様
あ)細帯状の凸条は、平面視扁平コ字形状である。
い)平面視における細帯状の凸条の幅は、長辺側及び短辺側は均等であるが、コーナー部においては、外側に張り出し、他の部位よりも幅広になっている。
う)凸条の断面形状は、扁平台形状である。
え)平面視における凸条の長さは、短辺側と長辺側の比率が約1.0:6.8である(計測対象範囲は下図え)参照。
お)平面視における凸条2か所の切り欠きは、縦横比が約1.0:1.9である(下図お)参照)。
か)凸条2か所の切り欠きは、長辺部の端部から端部までの長さを100とした場合、両端部から切り欠きまでの長さが全長の約13の割合に相当し、2つの切り欠きの間の長さが全長の約59の割合に相当する位置に配置されている(下図か)参照)。
き)正面視において、2つの切り欠きはいずれも凹逆台形状である。
く)凸条の外周側は、蓋との内角が約30度をなすように形成された直線状の斜面である(下図く)参照)。
▼い)凸条の幅
[図:0001436250000037.jpg]
▼う)凸条の断面形状
[図:0001436250000038.jpg]
▼え)短辺と長辺の比率
[図:0001436250000039.jpg]
▼お)切り欠きの縦横比
[図:0001436250000040.jpg]
▼か)切り欠きの配置
[図:0001436250000041.jpg]
▼き)切り欠きの正面形状
[図:0001436250000042.jpg]
▼く)凸条外周側における蓋との内角
[図:0001436250000043.jpg]
3)-3 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との対比
以上の認定を踏まえて、両意匠を対比する。
(1)意匠に係る物品
両意匠はいずれも「運搬用容器の蓋」であって、物品は同一である。
(2)基本的構成態様
両意匠はいずれも、全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ切り欠き部を設けたものとしており、意匠登録を受けようとする部分を容器蓋の一方の長辺縁寄りに設けた凸条部としている。
よって、基本的構成態様は概ね共通する。
(3)「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能
両意匠における細帯状の凸条は、運搬用容器を積上げた際に容器底面が内側に嵌まり、容器同士のずれを防ぐための凸条である。また、2か所の切り欠きは固定用ベルトの位置を決めるための切り欠きである。
よって、「意匠登録を受けようとする部分」の用途及び機能は概ね共通する。
(4)「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲
意匠登録を受けようとする部分について、本件登録意匠は、縁から凸条までの距離は短辺側の方が長辺側よりも長く、凸条は、短辺側の方が長辺側より蓋の内側に位置している。
一方、甲第1号証の意匠は、縁から凸条までの距離は一定で、短辺側も長辺側も蓋の縁の近傍に位置している。
よって、本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは、「意匠登録を受けようとする部分」の位置が相違する。
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000044.jpg]
(5)「意匠登録を受けようとする部分」の具体的構成態様における共通点
両意匠は下記の形態において共通点が認められる。
〇共通点1:両意匠は、細帯状の凸条が平面視扁平コ字形状である点。<上記ア)あ)>
(6)「意匠登録を受けようとする部分」の具体的構成態様における相違点
両意匠は下記の各形態において相違している。
●相違点1:凸条の断面形状について、本件登録意匠は、略四分円の扇形であるのに対し、甲第1号証の意匠は、扁平台形状である点。<上記ウ)う)>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000045.jpg]
●相違点2:凸条の外周側について、本件登録意匠は、敢えて角度を認定するなら、蓋との内角が約50度をなすように形成された曲面形状であるのに対し、甲第1号証の意匠は、蓋との内角が約30度をなすように形成された直線状の斜面である点。<上記ク)く)>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000046.jpg]
●相違点3:正面視における2つの切り欠きの形状について、本件登録意匠はいずれも凹コ字形であるが、甲第1号証の意匠は、凹逆台形状である点。<上記キ)き)>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000047.jpg]
●相違点4:凸条2か所の切り欠きは、長辺部の端部から端部までの長さを100とした場合、本件登録意匠は、両端部から切り欠きまでの長さが全長の約16の割合に相当し、2つの切り欠きの間の長さが全長の約46の割合に相当する位置に配置されている。
一方、甲第1号証の意匠は、両端部から切り欠きまでの長さが全長の約13の割合に相当し、2つの切り欠きの間の長さが全長の約59の割合に相当する位置に配置されている。
すなわち、切り欠きの配置について、本件登録意匠の方が甲第1号証の意匠よりも、中央に近い場所に配置されている点。<上記カ)か)>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000048.jpg]
●相違点5:平面視における凸条2か所の切り欠きの縦横比について、本件登録意匠は約1.0:3.5であるのに対し、甲第1号証の意匠は、約1.0:1.9である。
すなわち、切り欠き部は、本件登録意匠の方が甲第1号証の意匠よりも幅広である点。<上記オ)お)>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000049.jpg]
●相違点6:平面視における細帯状の凸条の幅について、本件登録意匠は、長辺側、短辺側、コーナー部の全てが均等であるのに対し、甲第1号証の意匠は、長辺側及び短辺側は均等であるが、コーナー部においては、外側に張り出し、他の部位より幅広になっている点。<上記イ)い)>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000050.jpg]
●相違点7:平面視における凸条の短辺側と長辺側の比率について、本件登録意匠は、約1.0:5.4であるが、甲第1号証の意匠は、約1.0:6.8である点。<上記エ)え)>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000051.jpg]
3)-4 本件登録意匠と甲第1号証の意匠との類否判断
(1)需要者の注意を惹きつける部分の認定
(1)-1 両意匠の需要者について
新規性の判断における類否判断の判断主体については、意匠法の条文上規定がなされていないが、登録意匠の範囲を規定する意匠法第24条第2項において、「登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行うものとする。」と規定されていることから、新規性の判断における類否判断の判断主体も、同様に需要者(取引者を含む)とすべきである(特許庁意匠審査基準第III部 第2章 第1節 新規性2.2.1にも同様の記載がみられる)。
両意匠は「運搬用容器の蓋」であり、主として、製造工場等における材料や部品、仕掛品や完成品の保管や、物流現場における製品の保管、出荷、配送等のために使用されるものである。
よって、この種物品の主たる需要者は、工場や倉庫の現場で運搬用容器の蓋を取り扱う作業者、及び物流資材を調達する物流業者や輸送業者等であると考えられる。
(1)-2 物品の使用態様等
製造工場や物流現場等において、この種の蓋は運搬用容器に被せられ、収納又は運搬に供される。このような使用状態では、需要者は蓋の上面を近距離から俯瞰する視点となるため、蓋上面の態様は需要者の目に触れやすい部分といえる。そのため、需要者は凸条等の形状や配置を仔細に観察することができる。
かかる観察視点においては、特に蓋(容器)の美観や強度、耐久性に関わる部分が、需要者の注意を惹くものといえる。
また、この種の容器は、下記のような用途・機能も兼ね備えていることから、これらの用途、機能に関わる部分の形態や、各形態の組み合わせによって使用性や機能性、強度等が向上した点は、物品の使用にあたり、需要者の注意を惹きやすい部分であるといえる。
・容器を運搬する際には、蓋に形成された凸条の2つの切り欠きにベルトを掛けて固定することができる。
・短辺側の2か所の切り欠きは、底部が蓋の天板と面一となるよう形成されているため、凸条部内に溜まった洗浄水等を外側へ排出することができる。
・この種の容器は積み重ねて使用される場合が多く、前後方向に複数列(=奥行方向)に並べて多段積みにすることもできる。
作業者等が二段目以上を積み上げる際には、上段容器の底面を、手前側の容器の蓋上面に沿わせ、押し込むように滑らせながら、奥側の容器の上面まで移動させることができる。
このとき、移動させる容器の底部は、手前容器の蓋に設けられた凸条上を滑り、最終的に奥側に配置された容器の蓋に設けられた凸条の内側に位置決めすることができる。
・蓋のみを保管する場合には、凸条同士を互いに噛み合わせることで重ねて収納することができる。
(1)-3 公知意匠(先行周辺意匠)について
先行周辺意匠として、乙第1号証乃至乙第7号証を追加する。
この種「運搬用容器の蓋」の意匠において、「平面視四角形状の容器蓋の四辺縁の寄りに切り欠き部を有する細帯状の凸条を設けた意匠」は、請求人が挙げた先行周辺意匠に加えて、乙第1号証乃至乙第4号証の意匠が、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
▼乙第1号証 ▼乙第2号証
[図:0001436250000052.jpg]
▼乙第3号証 ▼乙第4号証
[図:0001436250000053.jpg]
また、「細帯状の凸条が平面視扁平コ字形状をなす態様」は、請求人が挙げた先行周辺意匠に加えて、乙第1号証及び乙第3号証の意匠においても、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
▼乙第1号証 ▼乙第3号証
[図:0001436250000054.jpg]
さらに、「平面視四角形状の容器蓋の四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設けた意匠であって、凸条が蓋の縁から一定の距離を空けて内側に設けられた態様」は、乙第1号証及び乙第5号証の意匠において、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
▼乙第1号証 ▼乙第5号証
[図:0001436250000055.jpg]
加えて、「平面視四角形状の容器蓋の四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設け、凸条の外側面を傾斜面とした態様」や「凸条の断面形状が扁平台形状をなす態様」は乙第5号証乃至乙第7号証の意匠において、甲第1号証の意匠登録出願前に公知であった。
▼乙第5号証
[図:0001436250000056.jpg]
▼乙第6号証 ▼乙第7号証
[図:0001436250000057.jpg]
これらの公知の形態等は、特徴的なものとは言い難く、少なくとも各態様単独では、需要者の注意を強く惹くものとは考えにくい。
(1)-4 需要者の注意を惹く部分
以上を踏まえると、蓋の上面に形成された凸条や切り欠きの位置ならびに、それらの具体的構成態様を組み合わせた態様が、需要者の注意を惹く部分であるといえる。
したがって、本件登録意匠及び甲第1号証の意匠については、前記3)-1及び3)-2で認定した、蓋の上面における凸条部の位置、並びに各具体的形態の組み合わせ(特に機能性とも関わりがある「ウ、オ、カ、キ、ク」及び「う、お、か、き、く」の具体的形態の組み合わせ)が需要者の注意を惹く部分になり得るというべきである。
(2)本件登録意匠と甲第1号証の共通点、相違点の評価
以上を踏まえ、上記3)-3で認定した両意匠の共通点、相違点について評価する。
(2)-1 基本的構成態様における共通点の評価
両意匠は上記の基本的構成態様において概ね共通する。しかしながら、当該基本的構成態様は、請求人が挙げた先行周辺意匠に加えて、乙第1号証乃至乙第4号証の各意匠において公知であり、ありふれたものであることから、類否判断に与える影響は微弱であると言わざるを得ない。
(2)-2 「意匠登録を受けようとする部分」の位置等についての相違点の評価
本件登録意匠と甲第1号証の意匠とは、「意匠登録を受けようとする部分」の位置が相違する。本件登録意匠の凸条は、蓋の縁から凸条までの距離が、短辺側の方が長辺側よりも長く、短辺側の方が長辺側より蓋の内側に位置している。
蓋のみを保管する場合、凸条同士を互いに噛み合わせることで重ねて収納できるが、本件登録意匠では、短辺側の縁部が広いため、縁部が外側に変形した場合であっても、上部に蓋を確実に載置することができる。
これに対し、甲第1号証の意匠は、縁から凸条までの距離が一定であり、短辺側も長辺側も蓋の縁の近傍に位置しているため、本件登録意匠のような機能には乏しいといえる。
以上のとおり、「意匠登録を受けようとする部分」の位置の相違は、本物品の使用性や機能性に関わるものであり、需要者が着目する部分であるから、類否判断において軽視することはできないと考える。
(2)-3 「意匠登録を受けようとする部分」の具体的構成態様における共通点の評価
〇共通点1について
両意匠は、平面視において、細帯状の凸条が長辺側の両端コーナーにおいて短辺側に折れ曲がった平面視扁平コ字形状である点が共通する。
しかしながら、このような態様は、請求人が挙げた先行周辺意匠ならびに、乙第1号証及び乙第4号証に見られるものであって、ありふれた態様に過ぎず、類否判断へ与える影響は微弱であるというほかない。
(2)-4 「意匠登録を受けようとする部分」の具体的構成態様における相違点の評価
●相違点1について
本件登録意匠における略4分円の扇形の凸条は、従来公知の扁平台形状の凸条(乙第5号証乃至乙第7号証)に比して、工場等で使用される運搬用容器の蓋の形状としては趣を異にするものであり、需要者に対しやわらかい印象を与え、注意を惹くものといえる。
これに対し、甲第1号証の意匠における扁平台形状の凸条は、それほど斬新であるとはいえないものの、直線的でシャープな印象を与えている。
また、相違点1は、凸条部のほぼ全体にわたる相違であることから、他の相違点と相俟って、視覚的印象を大きく左右する要素といえる。
なお、耐久性等の観点からも、該凸条に衝撃が加わった場合には、扇形状よりも台形状の方が下方向への変形が生じやすい傾向がみられる。
蓋上面は外観上、目立つ部位であるため、凸条が変形すると見た目が損なわれるのみならず、変形に伴って蓋外周枠が外方へ変形し、蓋同士を段積みした際の位置精度に影響を及ぼすなど、機能上の問題を生じるおそれもある。
このような点は、物品の性質や用途からみて、需要者の関心を惹きやすい要素であると考えられる。
●相違点2について
凸条の外周側について、本件登録意匠は、敢えて計測するなら、蓋との内角が約50度をなすように形成された曲面形状であり、立ち上がりは急峻で、ふくらみをもった印象を与えている。
これに対し、甲第1号証の意匠は、蓋との内角が約30度をなすように形成された直線状の斜面であるため、立ち上がりが緩やかで、すっきりとした印象を与える。
また、蓋をつかんで容器本体に被せるとき等には、凸条の外周に親指が当たるので、外周形状の違いは指当たりのフィット感にも影響を与える。
さらに、「(1)-2 物品の使用態様」で述べた通り、蓋のみを重ねて保管する際には、各蓋の凸条同士を互いに噛み合わせて積み重ねる。この際、本件登録意匠は、蓋との内角が約50度かつ曲面形状であるため、凸条同士が安定して噛み合い、ずれにくい構成となっている。
これに対し、甲第1号証の意匠は内角が約30度で、かつ直線状の斜面であるため、凸条同士の接触面がより平坦に近く、接触面での摩擦が効きにくい傾向がみられる。その結果、本件登録意匠に比べると、凸条同士が滑ってずれやすい構成であるといえる。
この点、蓋を容器から外して容器の側面に斜めに立てかける場合も同様であり、本件登録意匠は、蓋との内角が約50度かつ曲面形状であるため凸条が床面に当接して滑りにくく、甲第1号証の意匠は、蓋との内角が約30度の直線状の斜面であるため、凸条が床面に滑って立てかけにくい。
加えて、「(1)-2 物品の使用態様」で述べた通り、容器を複数列に配置した状態で、手前側の容器の蓋上面に沿わせて滑らせるようにして、奥側の容器上に別の容器を積み重ねることがある。
このとき、外周が斜面か曲面かという相違は、容器底面を滑らせやすいか否かだけでなく凸条の強度にも影響する相違であるから、蓋の機能美の観点からも需要者の注意を惹く相違点となる。
このように、相違点2は相違点1と相俟って、両意匠に異なる印象を与える要素といえる。
●相違点3について
凸条部に形成された2つの切り欠きの形状について、ベルトは運搬中にゆるんでくることがあり、甲第1号証の意匠は、正面視凹逆台形状であって両側が傾斜しているため、傾斜部分にベルトが滑って外れやすい印象が否めない。
これに対し、本件登録意匠の切り欠き部はいずれも凹コ字形であって両側がほぼ垂直に立ち上がっているため、ベルトが外れにくい印象を与える。
●相違点4について
凸条2か所の切り欠きの配置について、本件登録意匠の方が甲第1号証の意匠よりも、中央寄りに配置されている。
このため、2本のベルトを掛ける際に手を動かす範囲が狭く、作業性に優れるのに加え、ベルトが端部側に逃げにくく、外れにくいため、機能美に優れた印象を与えている。
●相違点5について
平面視における凸条2か所の切り欠きの縦横比について、本件登録意匠の方が甲第1号証の意匠よりも幅広である。
したがって、容器(蓋)のサイズが同一であると仮定した場合、さまざまな幅のベルトを使用できるとともに、より幅広のベルトを用いることも可能であるため、蓋をより確実に固定でき、使用性に優れた印象を与えている。
以上に述べた相違点3乃至相違点5は、ベルトを固定するための切り欠きの具体的形状に関するものであり、容器を運搬等する際の信頼性や安定感に関わる部分であることから、需要者の注意を惹きやすい部分であるといえ、類否判断において軽視することはできない。
●相違点6について
平面視における細帯状の凸条の幅について、本件登録意匠は、長辺側、短辺側、コーナー部において均等であるため、統一感のあるなめらかな印象を与える。
一方、甲第1号証の意匠は、長辺側及び短辺側は均等であるが、コーナー部において外側に張り出し幅広になっているため不均一な印象を与える。
このような差異も、他の相違点と相俟って、類否判断に一定の影響を与えるものといえる。
●相違点7について
平面視における凸条の短辺側と長辺側の比率について、本件登録意匠は、約1.0:5.4であるが、甲第1号証の意匠は、約1.0:6.8である点が相違する。
長さの比率の違いであるため類否判断に与える影響は限定的であるとも考えられるが、本件登録意匠の方が、凸条部が短辺側にしっかりと回り込んでおり、全体的に耐久性に優れた印象を与える点で、一定の視覚的効果を生じさせているといえる。
(3)両意匠の類否判断
以上に述べたとおり、両意匠は、意匠に係る物品及び「意匠登録を受けようとする部分」の用途・機能においては共通するものの、「意匠登録を受けようとする部分」の位置が相違している。
さらに、両意匠の「意匠登録を受けようとする部分」の形態についてみると、共通点は従来一般にみられるありふれた態様にすぎないのに対し、各相違点が相俟って構成される形態は、需要者の注意を惹くものといえ、そこから醸し出される印象は共通点を大きく凌駕するものである。
すなわち、本件登録意匠は、全体として、柔らかくなめらかな印象を与えるとともに、形状に裏付けられた機能美が感じられるのに対し、甲第1号証の意匠は、シャープで角張った印象を与える点において本件登録意匠とは美観が顕著に異なり、さらに、機能美の観点でも差異が認められる。
よって、本件登録意匠と甲第1号証の意匠を全体的に対比観察した場合、需要者の視覚を通じて異なる美感を与えるものであり、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠とは非類似であるというべきである。
8 むすび
以上に述べたように、「本件登録意匠は、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、その意匠登録は同法第48条第1項第1号の規定に該当し、無効とすべきである」とする請求人の主張は成り立たない。」
2 口頭審理陳述要領書における主張
被請求人は、口頭審理陳述要領書に基づき、要旨、以下のとおり意見を述べた。
(以下、下線は被請求人による。)
「6 陳述の要領
本件審判請求書(以下「請求書」という)及び請求人口頭審理陳述要領書(以下「要領書」という)における主張について、以下のとおり反論する。
7 請求人の主張に対する反論
7-1 意匠の類否判断の手法について
請求人の主張に対する具体的反論に先立ち、新規性判断等における意匠の類否判断の手法について、以下に述べる。
なお、詳しくは後述するとおり、要領書における請求人の各主張は、以下に述べる観点からみて十分な検討を欠く点等があり、その妥当性には疑義がある。
両意匠の類否判断は、下記(特に1)及び2))に示すとおり、需要者の注意を惹く点を踏まえて行われるべきであり、このような観点からすれば、答弁書における被請求人の認定が妥当するというべきである。
1)需要者による観察態様について
i)意匠の類否判断の判断主体は、需要者(取引者を含む)である(意匠法第24条第2項、意匠審査基準 第III部第2章2.2.1判断主体)。
そして、類否判断は、意匠に係る物品等を観察する際に通常用いられる観察方法により行う(意匠審査基準 第III部第2章2.2.2.5 対比する両意匠の形状等の認定及び形状等の共通点及び差異点の認定)。
また、近年の裁判実務においては、登録意匠とそれ以外の意匠とが類似であるか否かの判断は、意匠に係る物品の性質、用途、使用形態、公知意匠にはない新規な創作部分の有無等を参酌して、需要者の注意を惹きやすい部分を把握し,その部分において両意匠が共通するか否かを中心としつつ、全体としての美感が共通するか否かを検討するという手法が多くみられる。
したがって意匠の類否判断においては、まず、意匠に係る物品の需要者を想定し、物品の性質,用途,使用態様を前提に、需要者に生じる美感が類似するか相違するかを検討すべきである(令和2年(ネ)第211号「トレーニング機器事件」等。同判示に示された考え方は、審判実務においても妥当するものと解される)。
このような前提に立てば、物品の選択時や使用時において、需要者がどのように意匠を観察するか(観察距離、観察角度、注目する部位等)を想定した上で類否判断が行われるべきである。
この点、本件の意匠に係る物品は「運搬用容器の蓋」であるから、購入の際にも使用時にも実際に手に取って、運搬、保管等の作業をしながら(購入時においては作業状態を想定しながら)観察されるものといえ、その際には、意匠の美観的側面に加えて、下記に述べるように機能性に影響する部分にも注意を向けるものといえる。
2)物品の機能に関わる形態の参酌について
この際、意匠に係る物品の需要者は、その用途に関わる機能を左右する形態にも着目するといえるため、このような点も類否判断における参酌要素となり得る。一般的に、本件登録意匠のような産業用物品の意匠においては、作業性や機能に関わる部分に、需要者の注意が向くと解される。
なお、意匠審査基準 第III部第2章2.2.2.6 対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価(3)(a)においても「機能的な要求の実現に造形的な自由度があり、その形状でなければならない必然性がない場合の形状については、その造形的な特徴を考慮する。」との記載がみられる。
また、例えば、平成28年(行ケ)第10121号「吸入器事件」においては「需要者である医療関係者は,患者が薬剤を適切に吸引できるよう,薬剤の性質に応じた吸引の機能を有しているか否か,患者の症状や属性に応じた使用が可能か否かという観点から,両意匠に係る物品を観察し,選択する。」「マウスピース部の端部は,需要者である患者が吸引器を使用する際に観察するものであるし,医療関係者も,処方する薬剤を前提に機能を重視して観察する」と判示されている。
このように、類否判断において需要者が着目する部分を把握するにあたり、その物品に付加された機能に関わる形態を参酌することは、審査基準や裁判例で示された考え方にも合致しており、とりわけ本件のような産業用物品においては、同様の観点から検討すべきである。
3)「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲の認定における破線部の参酌について
意匠審査基準第III部第2章2.2.2.4には、「物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠の場合の、当該部分の位置、大きさ、範囲の共通点及び差異点の認定」として、『出願された意匠が、物品等の部分について意匠登録を受けようとする意匠である場合は、「意匠登録を受けようとする部分」の当該物品等全体の形状等の中での位置、大きさ、範囲と、公知意匠における「意匠登録を受けようとする部分」に相当する部分の当該物品等全体の形状等 の中での位置、大きさ、範囲について共通点及び差異点を認定する』と記載されている。
このように、「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲は、物品等全体の形状等との関係において把握されるべきものであるから、当該認定に際しては、物品等全体を構成する要素として、破線で示された部分についても、間接的に参酌することが予定されているというべきである。
また、平成18年(行ケ)第10317号「プーリー事件」では、意匠登録を受けようとする部分の位置、大きさ、範囲の認定にあたり破線部分を参酌した上で、「本願実線部分は、円環状ディスク部の凹陥部底面に位置するのに対し、本件相当部分は平坦なディスク面の中央部分に位置する。したがって、両者の位置には差異がある。この差異は形状自体の類似性を凌駕し、看者に異なる美感を与えるものである。」と判示されている。
後述するとおり、要領書における請求人の主張は、「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲の認定にあたり、破線部分を参酌すべきことを前提としていない点において、誤認を含むものと思われる。
7-2 請求人の主張に対する反論等
上記の点を踏まえつつ、請求人の主張に対する反論等を行う。
(1)基本的な構成態様の認定について
〔請求人の主張〕
請求人は、凸条の幅が「等幅」ではないという被請求人主張について、「平面視した状態で角部の幅を計測して初めて把握できる程度の極部分的で僅かな差異」と主張する。
また、切り欠き部についても「斜視図方向で観察される通常の視点(参考図3)では容易に把握することができず、正面に正対した視点でのみ初めてわかる程度の傾斜の差異」であると主張する(下線部は被請求人によるものである)。
このため「請求人が認定した基本的な構成の共通点について変更すべき点はない」と主張する。(要領書5頁)
<参考図3>斜視図の部分拡大対比
[図:0001436250000058.jpg]
〔被請求人の反論〕
i)しかしながら、「角部」における相違は、単なる幅の違いにとどまらず、凸条のアウトラインを直接的に規定する要素でもあることから、特段の計測を要するまでもなく、需要者が一見して把握し得る差異である。
また、「凸条に切り欠き部を設けた態様」自体は、請求人が挙げた先行周辺意匠に加えて、乙第1号証乃至乙第4号証の意匠にも見られるとおり、当該分野において、ありふれた構成といえることから、需要者は、切り欠き部の有無それ自体ではなく、その具体的な態様に着目すると考えられる。
よって、斜視図の方向のみから概括的に捉えるような視点を前提として両意匠を対比すべきではなく、需要者が実際に製品を手に取り、動きを伴いながら確認する際の、平面視・側面視を含む複合的な観察態様を前提に判断すべきである。
請求人による上記主張は、需要者の観察態様及び、当該分野における一般的な構成を十分に参酌していないものであって、妥当ではない。
以上より、両意匠の基本的な構成態様については、答弁書7頁及び10頁で述べたとおり、
「全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ切り欠き部を設けたものとしており、意匠登録を受けようとする部分を容器蓋の一方の長辺縁寄りに設けた凸条部としている。」
と認定すべきである。
さらに補足すると、以下に述べる理由から、基本的構成態様の構成要素である角部及び、切り欠き部の相違は、両意匠全体としての美感に影響を及ぼすものであり、類否判断において重視すべきものである。
ii)需要者の観察態様について
両意匠のような蓋は、主として製造工場や物流現場等で使用される運搬用容器等に被せるものであることから、その需要者(工場での作業者等が想定される)は、蓋を手に持ち、開閉や積み重ね等の動作をしながら、至近距離からこれを観察することが通常である。
また、この種の蓋の横幅は、その実施態様において、多くは50cm前後に及ぶ大きさとなるため、角部や、切り欠き部の長さは数cm程度となる。
これらの点を考慮すれば、需要者は、角部や切り欠き部の相違を一見して認識し得るといえるのであり、「平面視した状態で角部の幅を計測して初めて把握できる程度」等とする請求人の主張は、前提とする観察態様を誤ったものであって、妥当性を欠く。
iii)角部の態様の相違について
加えて、角部の態様は、両意匠における「登録対象部分」である凸条のアウトラインを決定づけ、意匠全体の印象に大きく影響を及ぼす要素であるから、類否判断において軽視することはできない。
対比図1に示すように、本件登録意匠は「等幅」であることに加えて、角部外側のアールが大きく形成されていることから、凸条外側の曲面形状と相俟って、柔らかくなめらかな印象を与えている。
これに対し、甲第1号証の意匠は、角部が外側へと張り出すように形成されており、これにより単に「等幅」でないという点にとどまらず、角部外側のアールが、内側のアールと略同径に形成され、凸条外側の直線的な傾斜態様と相俟って、全体として、シャープで角張った印象を与えている。
<対比図1>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000059.jpg]
[図:0001436250000060.jpg]
iv)切り欠き部の態様の相違について
また切り欠き部についても、対比図2に示すように、本件登録意匠の切り欠き部は凹コ字形であることに加えて、横幅が広く、かつ蓋の中央寄りに形成されているため、凸条と切り欠き部とのコントラストが明確に看取され、全体として凹凸感の強い印象を与えている。
これに対し、甲第1号証の意匠の切り欠き部は凹逆台形状であることに加えて、横幅が狭く、かつ蓋の両端に寄っているため、凸条と切り欠き部が視覚的に滑らかに連続し、凹凸感が控えめな印象を与えている。
<対比図2>
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000061.jpg]
以上のとおり、角部及び切り欠き部の各相違は、いずれも独立して需要者に把握され得るものであるのみならず、これらが相俟った結果、全体観察において明確に異なる美感を生じさせている。
(2)「意匠登録を受けようとする部分」の位置、大きさ、範囲について
〔請求人の主張1〕
請求人は、意匠審査基準「第III部第2章第1節新規性2.2.2.5(4)形状等における共通点及び差異点の認定」を引用し(下線は被請求人による)、「破線部の寸法の対比に基づいて位置が相違するとした被請求人の認定は、部分意匠の基本的な認定方法の解釈に誤りがあり、不当である。」、「両意匠の「意匠登録を受けようとする部分」には、位置、大きさ、範囲について相違はなく、類否判断において両意匠を非類似とする要素はない。」等と主張する(要領書7頁等)。
〔被請求人の反論1〕
しかしながら、答弁書において被請求人が認定したのは、物品全体の形状における凸条(登録対象部分)の「位置、大きさ、範囲」の差異点であって、破線部の「形状」そのものの差異を指摘したものではない。
したがって、請求人による上記意匠審査基準の引用は被請求人の認定内容を前提としないものであり、当該主張には齟齬がある。
上記7-1 3)で述べたとおり、登録対象部分の「位置、大きさ、範囲」の認定に際しては、意匠審査基準、裁判例のいずれを参酌しても、物品等全体の形状との関係において把握されるべきものであり、その前提として破線部との対比を行うことが当然に予定されていると解される。したがって、当該前提に基づいて行われた答弁書における被請求人の認定には、何ら誤りはない。
なお、請求人は、両意匠の「意匠登録を受けようとする部分」には、位置、大きさ、範囲について相違がないとも主張するが、破線部と対比して把握すれば、両意匠の登録対象部分の位置等には明確な相違が認められる。したがって、請求人による当該主張も、前提とすべき認定方法を誤ったものであり、誤認があるといわざるを得ない。
〔請求人の主張2〕
また請求人は『被請求人の「意匠登録を受けようとする部分」の位置の相違に関する評価は、機能性の相違を挙げているに止まり、形状の視覚的印象の相違が類否判断に与える影響を評価するものではない。』と主張する(要領書7頁)。
〔被請求人の反論2〕
しかしながら被請求人は、機能の差異それ自体をもって意匠の類否を論じるものではない。
上記7-1 2)で述べたとおり、産業用物品においては、当該用途に関わる機能を左右する形態について、需要者がどの部位に着目し、どのように意匠を観察するかが類否判断における参酌要素となり得る。
被請求人は、このような需要者の観察態様を前提として、当該物品に求められる機能に関わる形態上の差異が、需要者の視覚を通じて異なる美感を生じさせる点を指摘したものであり、単に機能性の相違を挙げたものではない。
〔請求人の主張3〕
さらに請求人は、『そもそも両意匠の凸条部は、底面図に明らかなように、平面の凸条部に相当する底面側の凹部内にリブが設けられており、「凸条同士を互いに噛み合わせることで重ねて収納できる」形状ではなく、被請求人の認定、評価はその前提において誤っている。』とも主張する(要領書7頁)。
〔被請求人の反論3〕
甲第1号証の意匠における底面側のリブは「破線」で描かれているため、請求人による当該主張は、上記の〔請求人の主張1〕において破線部を考慮すべきでないとする立場と整合しないものとも解される。
もっとも、その点を措くとしても、対比図3に示すように、凸条の態様の相違は、蓋同士を重ねた状態の安定性(ずれにくさ)という機能上の差異を生じさせるものであり、当該差異は依然として需要者の注意を惹くものといえることから、以下、この点についても補足しておく。
<対比図3>(蓋の厚みを揃えて配置している)
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000062.jpg]
すなわち、対比図3のように蓋同士を重ねた場合に、上段の蓋が、同図右方向にずれて下段の蓋を乗り越えてしまう(重なった状態からずれてしまう)おそれがある。
しかしながら、本件登録意匠の凸条は扇形をなし、その外側面が曲面状に形成されているため、上段の蓋の下端部が、下段の凸条の基端(付け根部分)に当接して移動が阻止され、当該凸条を乗り越えにくい(ずれにくい)態様となっている。
これに対し、甲第1号証の凸条は、扁平台形状をなし、蓋から緩やかに隆起するとともに、外側面が平坦な斜面を形成しているため、上段の蓋の下端部が、下段の凸条の斜面に沿ってスライドしやすく、乗り越えやすい。その結果、本件登録意匠と比較すると、蓋が滑ってずれやすい態様であるといえる。
以上に述べたとおり、両意匠は、登録対象部分の位置、大きさ、範囲において相違が認められ、かつ当該相違点は、当該物品の使用態様を考慮したとき、需要者の注意を一定程度惹くものといえるから、この点も類否判断の考慮要素とすべきである。
(3)「意匠登録を受けようとする部分」の具体的な態様について
(3)-1 凸条の断面形状
〔請求人の主張1〕
請求人は、「本件登録意匠の凸条外側面は、到底、被請求人が主張する略四分円の弧状ということはできず」「正円の約14分の1の円弧形状である極緩やかな湾曲面であって」「略四分円の扇形になっているということはできない」と主張する。(要領書9頁)
〔被請求人の反論1〕
しかしながら、被請求人は、凸条の外形が全体として、曲面を有する扇形状を呈している点に着目して「扇形」と評価したのであって、当該形状が幾何学的に四分円に該当するか否かを問題としたものではない。
〔請求人の主張2〕
請求人は、「本件登録意匠も凸条頂部に細幅な平坦面を形成しており、両意匠とも凸条頂部の欠損などを回避するために、略三角形凸条断面の頂部を小さく隅切りした同様の態様である」と主張する。(要領書10頁)
〔被請求人の反論2〕
しかしながら、甲第1号証の意匠の頂部に平坦部があることは断面図および平面視において明確に看取できる一方、本件登録意匠は、頂部における微小な丸み(R)が付されているにすぎず、その存在がCG図においては、曲面の開始線及び終了線として平面視上に表れているにとどまる。よって、請求人の主張は採用できない。
(3)-2 凸条の外側面の傾斜態様
〔請求人の主張1〕
請求人は、「両意匠の凸条外側面は、四角柱を対向する角部をつなぐ面で斜めに切断したように直角を2分割する傾斜態様の斜面を形成した、特徴ある態様である点で共通している。
この四角柱を2分割したような約45度の傾斜面を形成して、共通する視覚的印象が表出されている凸条外側面の態様について、図面上で傾斜を仔細に計測、対比して得られる傾斜角度の多少の相違は、四角柱を2分割したような構成に基づく視覚的印象の共通性を凌駕して、別異の印象を形成するほどの相違ということはできない。」と主張する(要領書(3)-2 12頁)。
〔被請求人の反論1〕
i)請求人による「四角柱を対向する角部をつなぐ面で斜めに切断したように直角を2分割する傾斜態様の斜面を形成した」との認定について、需要者は通常、そのような幾何学的構成を前提として意匠を把握・認定するものではない。
意匠の類否判断において問題となるのは、需要者が当該部分を視覚的にどのような外形・印象として捉えるかであり、四角柱を二分割したか否かといった抽象的・概念的な構成の当てはめではない。
したがって、請求人が主張するように、「四角柱を対向する角部をつなぐ面で斜めに切断したように直角を2分割する傾斜態様の斜面を形成した」を前提として視覚的印象の共通性を導く手法自体が、需要者の通常の観察態様を離れたものであり、妥当とはいえない。
ii)この点を措くとしても、そもそも、本件登録意匠の凸条は全体として扇形を呈しており、また、甲第1号証の意匠の凸条も、頂部に平坦な面を有する扁平台形状であることから、いずれの凸条も「四角柱を対向する角部をつなぐ面で斜めに切断したように直角を2分割する傾斜態様の斜面を形成した」ものには該当せず、請求人の上記主張は失当である。
〔請求人の主張2〕
また請求人は、「被請求人は、両意匠の外側面の傾斜が約50度と約30度で20度の違いがあると認定するが、その認定こそ恣意的であって妥当性を欠くものであり、参考図8のように両意匠の凸条外側面の下辺と上辺をつなぐ斜面の傾斜は約45度と約35度であり、被請求人が認定するように数値が大きく相違するものではない。」
「蓋の上面を俯瞰する通常の視点からは、斜面の詳細な角度の違いを把握することはできず、両意匠の凸条の外側面は、四角柱を2分割したような約45度の傾斜面として認識され、共通する視覚的印象が形成されているといえる。」と主張する(要領書(3)-2 12頁)。
〔被請求人の反論2〕
しかしながら、本件登録意匠の凸条の断面形状は、外側面が曲面状に形成された扇形状を呈するものであるため、そもそも特定の角度を前提とした計測による把握には馴染まない。
仮に、請求人が主張するように約45度(本件登録意匠)と、約35度(甲第1号証の意匠)のように認定するとしても、当該角度自体にも相違が認められる。
実際に両意匠の凸条を対比すると、本件登録意匠では曲面状に急峻に立ち上がっているのに対し、甲第1号証の意匠では平滑な斜面がなだらかに立ち上がっているという明確な相違が、一見して看取できる。
そして、このような形態上の相違により、本件登録意匠は、全体として、曲線的で凹凸感の強い印象を与え、蓋本体と凸条の間に強いコントラストが感じられるのに対し、甲第1号証の意匠は、蓋本体と凸条のいずれにも曲線的要素が乏しく、両部の間に統一感や一体感が感じられる点において、需要者に与える視覚的印象が顕著に異なる。
前述のとおり、蓋の実際の大きさも考慮すれば、この差異は需要者に強い別異感をもたらすものといえる。
<対比図4>
▼本件登録意匠
[図:0001436250000063.jpg]
[図:0001436250000064.jpg]
▼甲第1号証の意匠 (対比の便宜上、斜視図を左右反転させた)
[図:0001436250000065.jpg]
[図:0001436250000066.jpg]
〔請求人の主張3〕
また、請求人は「蓋の上面を俯瞰する通常の視点からは、斜面の詳細な角度の違いを把握することはできず…」と主張する(要領書 12頁)。
〔被請求人の反論3〕
この点につき「通常の視点」と主張する具体的根拠は必ずしも明らかではないが、通常、横幅が50cm程の大きさの蓋を上方から俯瞰して観察した場合には、上記〔被請求人の反論2〕で述べた両意匠の形態上及び美感上の差異は、明確に看取されるものであり、請求人の上記主張は妥当ではない。
(3)-3 その他の具体的な態様の相違
〔請求人の主張1〕
請求人は下記の各相違点について、「被請求人が寸法比率などについて認定し直した上記各点の相違は、寸法計測の補助線を外した対比図(参考図9)において明らかなように、いずれも、この種「運搬用容器の蓋」の意匠において普通に見られる変更の範囲内の差異に過ぎない部分的な微差という他なく、相まった効果を参酌しても、参考図9のとおり意匠全体としての視覚的印象を別異とするまでの相違ということはできない。」と主張する(要領書 14頁)。
●相違点3:正面視における2つの切り欠きの形状
●相違点4:凸条2か所の切り欠きの位置
●相違点5:平面視における凸条2か所の切り欠きの縦横比
●相違点6:平面視における細帯状の凸条の幅
●相違点7:平面視における凸条の短辺側と長辺側の比率
〔被請求人の反論1〕
i)しかしながら、被請求人が答弁書において示した寸法計測の補助線は、形態特定及び対比の便宜上付したものに過ぎない。
したがって、補助線を用いて差異点を説明したことをもって、補助線がなければ当該差異点を認識できないと評価するのは論理の飛躍というほかない。これらの差異は、角部・切り欠き部・凸条外形という輪郭要素に直接関わるため、補助線の有無にかかわらず、需要者の通常の視認により把握されるため、請求人の上記主張は妥当とはいえない。
ii)また請求人は、「いずれも、この種「運搬用容器の蓋」の意匠において普通に見られる変更の範囲内の差異に過ぎない部分的な微差という他ない」と主張するが、甲第1号証の出願前には、証拠方法参考図に示す乙第1号証、乙第6号証、乙第7号証等の各意匠が公知となっており、これらの意匠においては、
・全体形状が平面視横長四角形状である運搬用容器の蓋であって、蓋平面四辺の縁寄りに細帯状の凸条を設け、その凸条の長辺部分及び短辺部分に、それぞれ2か所ずつ切り欠き部を設けた基本的構成態様、並びに、
・凸条の断面形状は、扁平台形状であるという具体的構成態様
が開示されている。
それにもかかわらず、これらの公知意匠に近似した態様を備える甲第1号証の意匠が、登録されていることからすれば、甲第1号証の意匠は、上記相違点3乃至7のような点も評価された結果として登録に至ったものと考えられる。
したがって、これらの相違点が「この種運搬用容器の蓋の意匠において普通に見られる変更の範囲内の差異に過ぎない部分的な微差」であるとする請求人の上記主張は、甲第1号証の意匠の登録経緯に照らしても整合性を欠いており、妥当ではない。
証拠方法参考図
▼乙第1号証
[図:0001436250000067.jpg]
▼乙第6号証 ▼乙第7号証
[図:0001436250000068.jpg]
▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000069.jpg]
[図:0001436250000070.jpg]
iii)さらに、甲第1号証意匠の登録経緯を措くとしても、上記の各相違点は、意匠全体としての美的外観及び機能性に影響を及ぼすものであるため、需要者の注意を惹くものであり、それゆえ、各相違点が相まった結果、両意匠が全体観察において、需要者に対し異なる美感を与えることは、すでに詳述したとおりである。
〔請求人の主張2〕
また請求人は「具体的な態様の各相違に関する評価についても、「ベルトが外れにくい印象」など機能的な相違を述べて、視覚的印象の相違が類否判断に与える影響を評価するものではなく、全体観察において評価し得ない部分的な微差を過大に評価するものであって不当である。」、「請求人が審判請求書において認定した、『これらの相違は、いずれもこの種「運搬用容器の蓋」の意匠に従来から見られる態様の範囲内の変更にとどまり、相まった効果を参酌しても全体観察において別異の視覚的印象を起こさせるほどの相違ではないので、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。』(審判請求書8頁下から4行以降)という認定、判断を変えなければならない要素はない。」と主張する(要領書 14~15頁)。
〔被請求人の反論2〕
しかしながら、実用性を有する物品において機能に影響する形態上の相違を類否判断において参酌すべきことは上述のとおりである。
加えて、両意匠が機能的(形態)の相違に加えて、視覚的印象においても相違することについても上述のとおりであり、請求人の主張は採用できない。
(4)先行意匠の摘示について
〔請求人の主張1〕
請求人は、「被請求人の追加証拠に基づく主張は、甲第1号証の意匠を構成する形態要素を分節し、それぞれ部分的なものでしかない構成態様について、公知意匠があることを示しているに止まる。」と主張する(要領書 16頁)。
〔被請求人の反論1〕
i)請求人がこのように主張するのは、答弁書19頁以降において、被請求人が説明の便宜上、甲第1号証の意匠の形態要素を分節し、対応する公知意匠を示したことに基づくものと考えられる。
しかし、当該記載は、各公知資料と甲第1号証の意匠との関係性を整理し、当該意匠における新規な創作部分を把握するための説明手法にすぎない。
例えば乙第1号証の意匠は、凸条の断面形状を除けば、甲第1号証の意匠の基本的構成態様の大部分を包含するものであり、「部分的なものでしかない構成態様」に関する公知意匠とはいえない(証拠方法参考図参照)。
また、乙第6号証及び乙第7号証の意匠は、差異点である凸条の断面形状が当該分野においてどの程度公知であるかを検討するための参酌資料である。したがって、請求人の上記主張は当たらない。
ii)なお、このように公知意匠を参酌することは、以下に述べるとおり、意匠審査基準の考え方とも整合する。
すなわち、意匠審査基準第III部第2章第1節2.2.2.6対比する両意匠の形状等の共通点及び差異点の個別評価(2)先行意匠群との対比に基づく評価として、「出願された意匠と公知意匠の各共通点及び差異点における形状等が、先行意匠群と対比した場合に、注意を引きやすい形状等か否かを評価する。形状等が注意を引きやすいものか否か は、同じ形状等を持つ公知意匠の数や、他の一般的に見られる形状等とどの程度異なった形状 等であるか、又その形状等の創作的価値の高さによって変わる。」と記載されている。
ここで「各共通点及び差異点における形状等」というのは、当該意匠を構成する個々の形態要素をも含むものと解される。
したがって、意匠の類否判断が最終的には全体観察により行われるとしても、その判断過程においては、各共通点及び差異点に係る形態要素が需要者の注意を惹く程度について、公知意匠も参酌しつつ評価することが予定されているというべきである。
〔請求人の主張2〕
さらに請求人は、「意匠の新規性の判断は、意匠審査基準 第III部第2章第1節2.2.2.7(2)で示されるように、『公知又は周知の形状等を寄せ集めた意匠であったとしても、その組合せの態様が新規であって、意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)として新規である場合には、その組合せによる意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)が新規な形状等として評価される。』ものであるから、被請求人が公知意匠を追加してもなお、同様の公知意匠がない甲第1号証の意匠全体としての基本的な構成態様、すなわち、『平面視四角形状の容器蓋の四辺縁寄りに、凹コ字形の切り欠き部を有する等幅細帯状の凸条を設けた「運搬用容器の蓋」であって、その凸条の外側面を傾斜面として断面形状が略直角三角形である凸条としている全体の基本的な構成態様』は、甲第1号証の意匠の特徴をなしているといえる。」とも主張する(要領書 16~17頁)。
〔被請求人の反論2〕
しかしながら請求人による当該主張は、少なくとも下記の点において妥当性を欠くものである。
i)請求人が引用する意匠審査基準は「その組合せによる意匠に係る物品等の全体の形状等(基本的構成態様)が新規な形状等として評価される。」と述べるにとどまり、当該組合せ態様が直ちに意匠の類否判断において重視される特徴部分、すなわち「要部」に当たることまでを当然に導くものではない。
それにもかかわらず、請求人は、これをあたかも意匠の「要部」であるかのように過大に評価し、殊更重視して類否判断を行っている点において、意匠審査基準の解釈を逸脱しているといわざるを得ない。
意匠の要部とは、意匠に係る物品の性質、用途、使用形態、公知意匠にはない新規な創作部分の有無等を参酌して、需要者の注意を惹きやすい部分がこれに該当すると考えられる。したがって、各部の具体的構成態様にも需要者の注意を惹く部分が存すれば、それも要部と評価されるべきである。
以上を踏まえれば、答弁書において被請求人が主張したように、蓋の上面に形成された凸条や切り欠きの位置ならびに、それらの具体的構成態様を組み合わせた態様を、需要者の注意を惹く部分(要部)と評価した上で類否判断を行うべきである(答弁書22頁)。
(なお、例えば平成18年(ワ)第19650号「増幅器事件」においては、公知意匠の内容や物品の性質等を述べた上で、登録意匠の要部は基本的構成態様(1)、(2)及び具体的構成態様(6)とを組み合わせた形状である旨が判示されている。)
ii)さらに、請求人は「同様の公知意匠がない甲第1号証の意匠全体としての基本的な構成態様、すなわち、『平面視四角形状の容器蓋の四辺縁寄りに、凹コ字形の切り欠き部を有する等幅細帯状の凸条を設けた「運搬用容器の蓋」であって、その凸条の外側面を傾斜面として断面形状が略直角三角形である凸条としている全体の基本的な構成態様』は、甲第1号証の意匠の特徴をなしている」と主張するが、基本的構成態様に「その凸条の外側面を傾斜面として断面形状が略直角三角形である凸条としている」点を含めている点において、無効審判請求書での基本的構成態様の認定(請求書7頁(ア)A)と異なる主張がなされており、請求人の基本的構成態様の捉え方には一貫性が認められない。
もっとも、本件登録意匠の凸条は断面「略扇形」をなすものであるから、請求人が主張するように「その凸条の外側面を傾斜面として断面形状が略直角三角形である凸条としている」点を基本的構成態様に含めたとしても、依然として、甲第1号証の意匠とは明確な差異が存する。
また、甲第1号証の意匠の凸条の断面形状は「略扁平台形状」であり、これを「略直角三角形」と認定できない点についても既述のとおりである。
以上のとおり、請求人の主張は一貫性を欠き、かつ誤認を含むものであって、妥当ではない。
(5)基本的構成態様における共通点の評価について
〔請求人の主張〕
請求人は「甲第1号証の意匠と意匠全体の基本的な構成態様が共通し、特に凸条の内側面を略垂直面とし外側面を約45度の傾斜面としている特徴ある構成態様についても共通している本件登録意匠には、甲第1号証の意匠と強く共通する視覚的印象が形成され、意匠全体として両意匠を類似する意匠とする決定的な要素になっている。」と主張する(要領書 17~18頁)。
〔被請求人の反論〕
しかしながら請求人の上記主張も、上記(4)と同様の理由により、妥当性を欠くものといわざるを得ない。
なお、請求人は「意匠全体として両意匠を類似する意匠とする決定的な要素になっている。」と主張するが、両意匠は凸条の断面形状自体を異にするものであるから、請求人が主張するように、仮に当該部分が決定的要素であるとすれば、両意匠は非類似であるというほかない。
また、意匠の類否判断は、需要者の視点に立って、どの部分が需要者の注意を惹きやすいかを考慮して行われるべきところ、請求人の主張には、この点に関する説明もなく、具体的根拠に欠け、採用できない。
(6)両意匠の類否判断について
〔請求人の主張〕
請求人は、「両意匠には、特徴ある基本的な構成態様が共通する中で、主として凸条外側斜面の緩やかな湾曲の有無の相違しか無いにもかかわらず、これを過大に評価して、意匠全体として「柔らかくなめらかな印象」と「シャープで角張った印象」という異なる美感を表出して両意匠を非類似としているという主張は、実態を離れて、具体的な態様のわずかな差異を過大に評価しその差異を強調するものであって、不当である。本件登録意匠が凸条外側面の斜面を緩やかな弧状に湾曲させている態様は、例えば角柱の角を隅丸状に丸めるのと同様に、格別目を惹く特徴がある態様とはいえず、湾曲度合いも極めて緩やかであるから、凸条の外側面全体を約45度の傾斜面とした特徴ある態様により表出されている共通する視覚的印象を別異として、両意匠を非類似とするまでの要素ということはできない。」と主張する(要領書 19~20頁)。
〔被請求人の反論〕
i)請求人は「例えば角柱の角を隅丸状に丸めるのと同様」であると主張するが、本件登録意匠と甲第1号証の意匠の凸条は、「○1湾曲の有無」にとどまらず、「○2凸条上面における平坦部の有無」、「○3外側面の立ち上がりの緩急」、さらには「○4凸条を構成する垂直壁と底面部の長さの比」においても相違する。
<対比図5>
[図:0001436250000071.jpg]
(凸条の参考断面図)
[図:0001436250000072.jpg]
このように、両意匠の凸条は、具体的な形状において明確に相違するものであるから、請求人がいう上記比喩には当てはまらない。
事実、甲第1号証の意匠の斜面を湾曲させたとしても、当該形状が本件登録意匠に見られる扇形断面の凸条の形状となるものではない。
したがって、請求人による上記主張は、両意匠の具体的形状の差異点を看過したものであって、採用することはできない。
ii)また請求人による『意匠全体として「柔らかくなめらかな印象」と「シャープで角張った印象」という異なる美感を表出して両意匠を非類似としているという主張は、実態を離れて、具体的な態様のわずかな差異を過大に評価しその差異を強調するものであって、不当である。』との主張について、「実態」が何を指すのかは明らかでない。
しかしながら、被請求人の主張は、請求人自身も類否の評価基準としている「視覚的印象の相違」を述べたものであって、何ら不当なものではない。
iii)なお、請求人は、両意匠の実質的な相違点が、凸条外側面の「湾曲の有無」のみに存するかのように主張するが、既に述べたとおり、両意匠は、この点に限らず、その他の態様においても複数の相違点を有する。
そして以下に整理するとおり、これらの相違点が相まった結果、形態に表出した機能の違いに加えて、意匠の美的外観として捉えた場合も、需要者に対し異なる美感を与えるものである。
すなわち、本件登録意匠は、
・凸条の断面が扇形であり、その外側面が、曲面状に立ち上がっていること
・凸条が全体として等幅をなし、角部のアールが大きく形成されていること
により、曲線的で柔らかくなめらかな印象を与えている。
また、
・凸条の立ち上がりが急峻であること
・平面視略コ字状をなす凸条の短辺が(甲第1号証の意匠に比べ)相対的に長く形成されていること
により、凸条の存在感が高められており、その結果、蓋本体と凸条の間に強いコントラストが感じられ、曲線的かつ立体的な印象を与えている。
さらに、
・凸条の長辺において、蓋の中央部寄りに、横幅の広い凹コ字状の切り欠き部が形成されていること
により、凸条と切り欠き部の間にも明確なコントラストが感じられ、全体として凹凸感の強い印象を与えている。
これに対し、甲第1号証の意匠は、
・凸条の断面が変形台形状であり、外側面が平滑な傾斜面であるとともに、上面には平坦面が形成されていること
・凸条の角部が外側へと張り出し、外側のアールが小さく形成されていること
により、直線的で、シャープかつ角張った印象を与えている。
また、
・凸条の立ち上がりが本件登録意匠に比べ緩やかであること
・平面視略コ字状をなす凸条の短辺が相対的に短く形成されていること
により、本件登録意匠に比して、凸条の存在感を控えめにして、蓋本体に馴染むように形成されており、全体として統一感や一体感のある印象を与えている。
さらに、
・凸条の長辺において、蓋の両端寄りに、横幅の狭い凹逆台形状の切り欠き部が形成されていること
により、凸条と切り欠き部の間のコントラストが弱く、全体として凹凸感を抑えた穏やかな印象を与えている。
<対比図6>(蓋の長辺の長さを揃えて配置している)
▼本件登録意匠 ▼甲第1号証の意匠
[図:0001436250000073.jpg]
上述のように、これらの差異は、需要者の観察態様を踏まえつつ、両意匠に係る物品の実際の大きさも考慮して捉えた場合、需要者の視覚を通じて異なる美感を想起せしめるものであり、両意匠は互いに非類似の意匠であるというべきである。
(7)むすび
以上のとおり、本件登録意匠は甲第1号証意匠と非類似であって新規性を具備するものといえるから、本件無効審判請求は棄却されるべきである。」
3 上申書における主張
「6.上申の内容
令和8年1月29日期日の口頭審理において申し述べたとおり、ここに証拠の追加提出並びに補足の説明につき上申いたします。
1) 証拠の追加提出
請求人が無効審判請求書第6頁乃至第7頁において示した甲第1号証の意匠登録出願前の先行周辺意匠(参考5として掲載された各意匠)の登録意匠公報の写しを、乙第8号証乃至乙第13号証として提出する。
また、甲第1号証の意匠登録出願前に、本件請求人及び、被請求人により発行された製品カタログの表紙、掲載ページ及び奥付の写しを乙第14号証乃至乙第19号証として提出する。
以下に述べるとおり、これらの意匠はいずれも、平面視横長四角形状の蓋平面の四辺縁寄りに、切り欠き部を有する細帯状の凸条を設けた態様を備えており、当該態様がありふれたものであることを示している。
答弁書及び、令和8年1月15日付口頭審理陳述要領書においても主張したとおり、需要者はこのようなありふれた態様よりも、凸条部や切り欠き部の具体的な態様や配置並びに、これらの組合せに関心を有するというべきである。
・乙第14号証は、本件被請求人である岐阜プラスチック工業株式会社により、平成7年7月に発行された製品カタログ「総合カタログRISU‘95-’96MATERIAL HANDLING SERIES」の写しである。
同カタログ35頁に掲載された運搬用容器の蓋(製品名「ST-19C蓋-○1」)は上記態様(平面視横長四角形状の蓋平面の四辺縁寄りに、切り欠き部を有する細帯状の凸条を設けた態様)を備えている。なお、同製品は1989年より販売されており、販売累計は少なくとも65万個以上である。
▼参考図1:乙第14号証の2における「ST-19C蓋-○1」掲載部分の拡大図(本参考図は、判読性向上のため、乙第14号証の2掲載部分を撮影し直して拡大したものであり、撮影に伴い形状に若干の歪みが生じている。なお、乙第15号証以下の拡大図についても同様である)
[図:0001436250000074.jpg]
▼参考図2:「ST-19C蓋-○1」が掲載されたWEBサイト(https://www.risu.co.jp/products/search/detail/t000100004371/)のスクリーンショット画像
[図:0001436250000075.jpg]
・乙第15号証は、本件被請求人である岐阜プラスチック工業株式会社により平成17年4月に発行された製品カタログ「MATERIAL HANDLING SERIES 2005 総合カタログ」の写しである。
同カタログ49頁に掲載された運搬用容器の蓋(製品名「ST-38C蓋-○1」)は、上記態様を備えている。
▼参考図3:乙第15号証の2における「ST-38C蓋-○1」掲載部分の拡大図
[図:0001436250000076.jpg]
▼参考図4:「ST-38C蓋-○1」が掲載されたWEBサイト(https://www.industry.risu.co.jp/product/p2771/) のスクリーンショット画像
[図:0001436250000077.jpg]
・乙第16号証は、本件被請求人である岐阜プラスチック工業株式会社により平成17年4月に発行された製品カタログ「MATERIAL HANDLING SERIES 2005総合カタログ」の写しである。
同カタログ42頁に掲載された運搬用容器の蓋(製品名「RB-42蓋-○1(FC蓋)」)は、上記態様を備えている。
▼参考図5:乙第16号証の2における「RB-42蓋-○1(FC蓋)」掲載部分の拡大図
[図:0001436250000078.jpg]
▼参考図6:「RB-42蓋-○1(FC蓋)」が掲載されたWEBサイト(https://www.risu.co.jp/products/search/detail/t000100003920/)のスクリーンショット画像
[図:0001436250000079.jpg]
・乙第17号証は、本件被請求人である岐阜プラスチック工業株式会社により平成17年4月に発行された製品カタログ「MATERIAL HANDLING SERIES2005総合カタログ」の写しである。
同カタログ41頁に掲載された運搬用容器の蓋(製品名「RB-28G蓋」)は、上記態様を備えている。
▼参考図7:乙第17号証の2における「RB-28G蓋」掲載部分の拡大図
[図:0001436250000080.jpg]
▼参考図8:「RB-28G蓋」が掲載されたWEBサイト(https://www.risu.co.jp/products/search/detail/t000100003962/)のスクリーンショット画像
[図:0001436250000081.jpg]
・乙第18号証は、本件請求人である三甲株式会社により1999年4月1日に発行された製品カタログ「総合カタログ‘99 PLASTIC MATERIAL HANDLING SYSTEM」の写しである。
同カタログ126頁に掲載された運搬用容器の蓋(製品名「サンボックス#60フタ」)は、上記態様を備えている。
▼参考図9:乙第18号証の2における「サンボックス#60フタ」掲載部分の拡大図
[図:0001436250000082.jpg]
▼参考図10:「サンボックス#60フタ」が掲載されたWEBサイト(https://www.sanko-kk.co.jp/products/search/Detail.aspx?id=10002335)のスクリーンショット画像
[図:0001436250000083.jpg]
・乙第19号証は、本件請求人である三甲株式会社により2000年1月1日に発行された製品カタログ「2000総合カタログ PLASTIC MATERIAL HANDLING SYSTEM」の写しである。
同カタログ160頁に掲載された運搬用容器の蓋(製品名「サンボックス#60-3フタ」)は、上記態様を備えている。
▼参考図11:乙第19号証の2における「サンボックス#60-3フタ」掲載部分の拡大図
[図:0001436250000084.jpg]
▼参考図12:「サンボックス#60-3フタ」が掲載されたWEBサイト(https://www.sanko-kk.co.jp/products/search/Detail.aspx?id=l0002336)のスクリーンショット画像
[図:0001436250000085.jpg]
2)本物品の取引実情について
口頭審理にて陳述した本物品の取引実情について、以下のとおり補足する。
この種の運搬用容器及び、これに用いられる蓋は、一般消費者向けに少量販売される商品とは異なり、業務用途を前提とした製品である。購入者は、実際の使用環境における適合性、機能性、耐久性等を検証した上で製品を購入する。
当該製品については、数百個から数千個以上のまとまった発注が行われることもあるため、事前に現場でのテスト使用を行った上で購入されるケースもある。
このような取引実情に鑑みると、需要者は、通常、機能性への影響も考慮した上で、凸条や切り欠き部の具体的態様や配置を仔細に観察するものといえる。
したがって、甲第1号証の角部の内側の態様を考慮するか否かにかかわらず、答弁書及び陳述要領書において被請求人が認定した各差異点により、需要者は両意匠に対し、互いに異なる美感を抱くものというべきである。」
4 証拠方法
(1)乙第1号証 特開2010-111401号公報の写し
(2)乙第2号証 意匠登録第1115756号公報の写し
(3)乙第3号証 意匠登録第1668154号公報の写し
(4)乙第4号証 意匠登録第1422454号公報の写し
(5)乙第5号証 特開2005-206246号公報の写し
(6)乙第6号証 意匠登録第1722898号公報の写し
(7)乙第7号証 実願平5-10490号(実開平6-69132号)のCD-ROMの写し
(8)乙第8号証 意匠登録第1047510号公報の写し
(9)乙第9号証 意匠登録第1252017号公報の写し
(10)乙第10号証 意匠登録第1286959号公報の写し
(11)乙第11号証 意匠登録第1542286号公報の写し
(12)乙第12号証 意匠登録第1704271号公報の写し
(13)乙第13号証 意匠登録第1704272号公報の写し
(14)乙第14号証の1 平成7年7月に発行された製品カタログ「総合カタログRISU‘95-’96 MATERIAL HANDLING SERIES」の表紙の写し
(15)乙第14号証の2 同カタログ35頁の写し
(16)乙第14号証の3 同カタログ奥付の写し
(17)乙第15号証の1 平成17年4月に発行された製品カタログ「MATERIAL HANDLING SERIES 2005総合カタログ」表紙の写し
(18)乙第15号証の2 同カタログ49頁の写し
(19)乙第15号証の3 同カタログ奥付の写し
(20)乙第16号証の1 平成17年4月に発行された製品カタログ「MATERIAL HANDLING SERIES 2005総合カタログ」表紙の写し
(21)乙第16号証の2 同カタログ42頁の写し
(22)乙第16号証の3 同カタログ奥付の写し
(23)乙第17号証の1 平成17年4月に発行された製品カタログ「MATERIAL HANDLING SERIES 2005総合カタログ」表紙の写し
(24)乙第17号証の2 同カタログ41頁の写し
(25)乙第17号証の3 同カタログ奥付の写し
(26)乙第18号証の1 1999年4月1日に発行された製品カタログ「総合カタログ‘99 PLASTIC MATERIAL HANDLING SYSTEM」の表紙の写し
(27)乙第18号証の2 同カタログ126頁の写し
(28)乙第18号証の3 同カタログ奥付の写し
(29)乙第19号証の1 2000年1月1日に発行された製品カタログ「2000総合カタログ PLASTIC MATERIAL HANDLING SYSTEM」の表紙の写し
(30)乙第19号証の2 同カタログ160頁の写し
(31)乙第19号証の3 同カタログ奥付の写し
第4 口頭審理
当審は、本件審判について、令和8年1月29日に口頭審理を行った。
請求人は、審判請求の趣旨及び理由は、審判請求書及び令和7年12月18日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述し、甲第1号証は、写しを原本として書証申出し、乙第1号証から乙第7号証の成立を認めた。また、被請求人が令和7年2月5日までに提出する上申書に対し意見があるときは、同月19日までに上申書を特許庁に提出するとともに、電子メールにて特許庁及び被請求人に送付する、とした。
被請求人は、答弁の趣旨及び理由は、令和7年10月14日付け審判事件答弁書及び令和8年1月15日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおり陳述し、乙第1号証から乙第7号証は、写しを原本として書証申出し、甲第1号証の成立を認めた。また、乙号証について、令和7年2月5日までに上申書及び乙号証を特許庁に提出するとともに、電子メールにて特許庁及び請求人に送付する、とした。
被請求人の口頭審理陳述要領書11ページと24ページの断面図について、本件登録意匠の凸条部の高さと幅が、本件登録意匠の平面図と側面図から見た比率が、請求人は一致しない、被請求人は一致する、とした。
請求人、被請求人とも、甲第1号証の角部の内側について、合議体が公知の意匠として認定することに異論はない、とした。
審判長は、甲第1号証及び乙第1号証~乙第7号証について取り調べ、本件は、以後、書面審理とした。
(令和8年1月29日付け口頭審理調書)。
第5 当審の判断
1 本件登録意匠
本件登録意匠(意匠登録第1793433号、別紙第1参照)は、願書及び願書に添付された図面の記載によれば、意匠に係る物品を「運搬用容器の蓋」とし、その形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合(以下、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を「形状等」という。)は、願書及び願書に添付した図面に表されたとおりのものであり、「各図面の表面部全面に表された濃淡は、いずれも立体形状を特定するためのものである。」とし、物品の部分について意匠登録を受けようとする部分(以下「本件意匠部分」という。)を、「赤色で表された部分以外の部分が部分意匠として意匠登録を受けようとする部分である。」としたものである。
(1)本件登録意匠の意匠に係る物品
本件登録意匠の意匠に係る物品は、運搬用容器の蓋である。
(2)本件意匠部分の用途及び機能
本件意匠部分の用途及び機能は、蓋の上に積み上げた運搬用容器の底部が、本件意匠部分の内側に嵌まり、積み上げ時のずれを防ぐための凸条であり、積み上げた状態の運搬用容器をベルト留めする際の位置決め用に、2つの凹部を有している。
(3)本件意匠部分の位置、大きさ及び範囲
本件意匠部分の位置、大きさ及び範囲は、平面視横長長方形状の運搬用容器の蓋の一方の長辺縁寄りから両端の短辺側に回り込む部分を含む大きさ及び範囲に及ぶ凸条部であり、運搬用容器の蓋の周囲縁から間隔をあけた内側の位置に設けられている。
(4)本件意匠部分の形状等
[形状A]平面視において、凸条部は略倒角括弧形状であり、凸条部の長辺側と短辺側の直線部分の長さ比は、約6:1である。
[形状B]平面視において、長辺の凸条部の幅は、長辺の直線部分の長さの約1/23であり、長辺の凸条部の幅と短辺の凸条部の幅の比は、約1:1.2である。
[形状C]平面視において、凸条部の長辺両端部は延伸して、凸条部の幅より幅広となりつつ直角に曲がり、短辺となっている。
[形状D]凸条部の形状について、内側面は蓋上面に対して略垂直とし、外周側面はわずかに湾曲した約45度の傾斜面とし、頂部にごく細幅の平面を形成した、断面形状が略直角三角形の凸条であり、短辺の凸条部の幅と高さ比は、約1.5:1である。
[形状E]正面視において、凸条部長辺の両端寄りに一対の凹部を形成しており、凹部は、両端面がほぼ垂直な凹コ字状であり、その底部は、凸条部の厚みがわずかに残り、蓋上面とはわずかに段差を有している。
[形状F]平面視において、凸条部長辺の直線部分の長さと1つの凹部底辺の長さ比は、約7.6:1であり、長辺直線部分の両端部(凹部よりも右又は左側の端部)の長さ:凹部底辺の長さ:長辺中央部の長さの比率は、約14:15:56である。
[形状G]平面視において、長辺と短辺の屈曲する内側面は、蓋上面に対して略垂直状の凹弧状面が形成されている。
2 無効理由の要点
本件登録意匠は、甲第1号証(意匠登録第1747653号、別紙第2参照)の意匠と類似するものであるから、意匠法第3条第1項第3号の規定により意匠登録を受けることができないものであり、同法48条第1項第1号により、無効とすべきである。
3 無効理由の判断
請求人は、前記2のとおり主張しているから、以下、本件登録意匠が、甲第1号証の意匠と類似する意匠であるか否かについて検討し、判断する。
(1)甲第1号証の意匠
甲第1号証の意匠は、本件登録意匠の意匠登録出願前である、令和5年6月29日に、特許庁が発行した意匠公報に掲載された意匠(意匠登録第1747653号)であり、意匠公報の記載によれば、意匠に係る物品を「運搬用容器の蓋」とし、その形状等は、図面に表されたとおりのものであり、「各図の表面部略全面に表された濃淡は、立体表面の形状を表す濃淡である。「A-A断面図」、「B-B断面図」、「C-C断面図」、「D-D部分拡大図」に表された青色は、断面形状のみを表すものである。」としたものである。
a 甲第1号証の意匠に係る物品
甲第1号証の意匠に係る物品は、運搬用容器の蓋である。
b 甲1意匠部分の用途及び機能
甲第1号証の意匠のうち、本件意匠部分に相当する部分(以下「甲1意匠部分」という。)の用途及び機能は、蓋の上に積み上げた運搬用容器の底部が甲1意匠部分の内側に嵌まり、積み上げ時のずれを防ぐための凸条であり、積み上げた状態の運搬用容器をベルト留めする際の位置決め用に、2つの凹部を有している。
c 甲1意匠部分の位置、大きさ及び範囲
甲1意匠部分の位置、大きさ及び範囲は、平面視横長長方形状の運搬用容器の蓋の一方の長辺縁寄りから両端の短辺側に回り込む部分を含む大きさ及び範囲に及ぶ凸条部であり、運搬用容器の蓋の周囲縁から間隔をあけた内側の位置に設けられている。
d 甲1意匠部分の形状等
[形状a]平面視において、凸条部は略倒角括弧形状であり、凸条部の長辺側と短辺側の直線部分の長さ比は、約8.3:1である。
[形状b]平面視において、長辺の凸条部の幅は、長辺の直線部分の長さの約1/23分であり、長辺の凸条部の幅と短辺の凸条部の幅の比は、約1:1である。
[形状c]平面視において、凸条部の長辺両端部は延伸して、凸条部幅より幅広となりつつ直角に曲がり、再び凸条部幅と同幅の短辺となっている。
[形状d]凸条部の形状について、内側面は蓋上面に対して略垂直とし、外周側面は約35度の傾斜面とし、頂部に細幅の平面を形成した、断面形状が略直角三角形の凸条であり、凸条部の幅と高さ比は、約2:1である。
[形状e]正面視において、凸条部長辺の両端寄りに一対の凹部を形成しており、凹部は、両端面がわずかに上方へ開くように傾斜した凹コ字状であり、その底部は、凸条部の厚みがわずかに残り、蓋上面とはわずかに段差を有している。
[形状f]平面視において、凸条部長辺の直線部分の長さと1つの凹部底辺の長さ比は、約12:1であり、長辺直線部分の両端部(凹部よりも右又は左側の端部)の長さ:凹部底辺の長さ:長辺中央部の長さの比率は、約12:9:74である。
[形状g]平面視において、長辺と短辺の屈曲する内側面に、略角柱形状の小突起を形成している。
(2)本件登録意匠と甲第1号証の意匠の対比
a 本件登録意匠と甲第1号証の意匠に係る物品
本件登録意匠と甲第1号証の意匠(以下「両意匠」ともいう。)に係る物品は、いずれも、運搬用容器の蓋であるから、一致する。
b 本件意匠部分と甲1意匠部分の用途及び機能
本件意匠部分と甲1意匠部分(以下「両部分」ともいう。)の用途及び機能は、いずれも、蓋の上に積み上げた運搬用容器の底部が、両部分の内側に嵌まり、積み上げ時のずれを防ぐための凸条であり、積み上げた状態の運搬用容器をベルト留めする際の位置決め用に、2つの凹部を有しているから、一致する。
c 両部分の位置、大きさ及び範囲
両部分の位置、大きさ及び範囲は、いずれも、平面視横長四角形状の運搬用容器の蓋の一方の長辺縁寄りから両端の短辺側に回り込む部分を含む大きさ及び範囲に及ぶ凸条部であり、運搬用容器の蓋の周囲縁から間隔をあけた内側の位置に設けられているから、一致する。
d 両部分の形状等
両部分の形状等は、主として、以下の共通点及び相違点がある。
(a)共通点
共通点ア 平面視において、凸条部は、略倒角括弧形状である点。(形状A及びa)
共通点イ 平面視において、長辺の凸条部の幅は、長辺の直線部分の長さの約1/23である点。(形状B及びb)
共通点ウ 凸条部の内側面は蓋上面に対して略垂直とし、外周側面は傾斜面とし、頂部に細幅の平面を形成した、断面形状が略直角三角形の凸条である点。(形状D及びd)
共通点エ 平面視において、凸条部長辺の両端寄りに一対の凹部を形成し、その底部は、凸条部の厚みがわずかに残り、蓋上面とはわずかに段差を有している点。(形状E及びe)
(b)相違点
相違点ア 平面視における凸条部の長辺側と短辺側の直線部分の長さ比について、本件意匠部分は、約6:1であるのに対して、甲1意匠部分は、約8.3:1である点。(形状A及びa)
相違点イ 平面視における凸条部の長辺と短辺の幅比について、本件意匠部分は、約1:1.2であるのに対して、甲1意匠部分は、約1:1である点。(形状B及びb)
相違点ウ 平面視における凸条部の長辺両端部の延伸部について、本件意匠部分は、凸条部の幅よりも幅広となりつつ直角に曲がり、短辺となっているのに対して、甲1意匠部分は、凸条部幅より幅広となりつつ直角に曲がり、再び凸条部幅と同幅の短辺となっている点。(形状C及びc)
相違点エ 凸条部の態様について、本件意匠部分は、凸条部の外周側面はわずかに湾曲した約45度の傾斜面であり、頂部はごく細幅の平面であり、凸条部の幅と高さ比は、約1.5:1であるのに対して、甲1意匠部分は、凸条部の外周側面は約35度の傾斜面であり、頂部は細幅の平面であり、凸条部の幅と高さ比は、約2:1である点。(形状D及びd)
相違点オ 正面視における凹部の態様について、本件意匠部分は、両端面がほぼ垂直な凹コ字状であるのに対して、甲1意匠部分は、両端面がわずかに上方へ開くように傾斜した凹コ字状である点。(形状E及びe)
相違点カ 平面視における凸条部長辺の直線部分の長さと1つの凹部底辺の長さ比について、本件意匠部分は、約7.6:1であるのに対して、甲1意匠部分は、約12:1であり、また、長辺直線部分の両端部の長さ:凹部底辺の長さ:長辺中央部の長さの比率について、本件意匠部分は、約14:15:56であるのに対して、甲1意匠部分は、約12:9:74である点。(形状F及びf)
相違点キ 平面視における長辺と短辺の屈曲する内側面の態様について、本願意匠部分は、蓋上面に対して略垂直状の凹弧状面が形成されているのに対して、甲1意匠部分は、略角柱形状の小突起が形成されている点。(形状G及びg)
(3)類否判断
(a)両意匠の意匠に係る物品
両意匠の意匠に係る物品は、一致するから同一である。
(b)両部分の用途及び機能
両部分の用途及び機能は、一致するから同一である。
(c)両部分の位置、大きさ及び範囲
両部分の位置、大きさ及び範囲は、一致するから同一である。
(d)両部分の形状等の共通点および相違点の評価
この種物品は、運搬用容器に蓋を被せ、これらを積み重ねて保管、輸送等に使用されるものであり、作業者等が二段以上を積み重ねる際には、上段容器の底面を、下段容器の蓋上面に沿わせ、押し込むように滑らせながら、奥側の凸条部まで移動させることとなる(上記第3の1で摘記する審判事件答弁書における7の3)-4(1)-2)。この時に、移動させる容器の底部は、その下段の容器の蓋に設けられた凸条部を超え、反対側の凸条部の内側面で止まり、安定した状態で積み重ねられるため、需要者にとって、凸条部の態様が、運搬用容器の蓋において最も着目する部分である。
ア 共通点の評価
共通点ア 運搬用容器の蓋の上面に、積み上げ時のずれを防ぐために略倒角括弧形状の凸条部を設けたものは、例えば、乙第8号証、乙第14号証の2(ST-19C蓋-○1(FC蓋))、乙第15号証の2(ST-38C蓋-○1)、乙16号証の2(RB-42蓋-○1(FC蓋))、乙第17号証の2(RB-28G蓋)の公知意匠に見られるように、本件登録意匠の出願前から当該分野においてはありふれたものであるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
共通点イ 平面視における凸条部長辺の直線部分に対する凸条部の幅の割合は、証拠として提出された乙号証においても、約1/15(乙第8号証)から約1/30(乙第2号証)と様々ある中、両部分は約1/23と共通しているが、凸条部長辺の直線部分に対する凸条部の幅が占める割合も小さく、類否判断に与える影響は一定程度に留まる。
共通点ウ
凸条部の外周側面が傾斜面でない、例えば乙第1号証のように角部を有する、通常の凸条部の場合、運搬用容器を多段に積み重ねる際、上方の積み重ね時に運搬用容器底部が凸条部を乗り越えにくい(滑りにくい)が、両部分のように外周側面を傾斜面とする略直角三角形状の凸条部とすることで、容易に運搬用容器底部が凸条部を乗り越えられるとの印象を抱かせるため、両部分の共通点ウにかかる態様は、両部分のみが有する、共通の特徴として需要者の注意を強く引く部分である。
なお、凸条部の内側面を蓋上面に対して略垂直とし、外周側面を傾斜面とすることは、乙第5号証の図9、乙第6号証及び乙第7号証のように本件登録意匠出願前から見られたものではあるが、乙第5号証の蓋上面の凸条部は、気密状態や断熱状態を維持するために容器本体の底部の凹部と嵌合するために形成されたものであるから、両部分と乙第5号証の凸条部とは用途及び機能が異なる。また、乙第6号証及び乙第7号証の蓋上面の凸条部は、蓋の周囲縁から間隔をあけずに設けられており、両部分とは、位置が異なる。したがって、その用途、機能及び位置を共通とする公知の意匠は、両部分の他にはなかった。よって、断面形状を略直角三角形の凸条とした両部分の態様は、需要者に共通の印象をもたらすものであり、類否判断に与える影響は大きいものである。
共通点エ 凸条部長辺の両端寄りに設けられた一対の凹部が、凹部底部と蓋上面とが面一でなく、凸条部の厚みがわずかに残る態様は、当該分野においては従来から見られるものであるが、略倒括弧形状の凸条が完全に途切れることなく、両部分全体として視覚的なまとまりを形成している点が、共通点アと相まって共通の印象を与えるものであるから、類否判断に与える影響は一定程度あるものである。
イ 共通点ア~エの評価
以上より、共通点ア~エは相まって、両部分全体として視覚的なまとまりを形成し、需要者に共通の印象を強く与えるものである。したがって、共通点ア~エが相まって生ずる美感は、類否判断に与える影響は大きいものである。
ウ 相違点の評価
相違点ア 平面視における凸条部の長辺側と短辺側の直線部分の長さ比について、両部分は相違し、本件意匠部分の方が長辺側の凸条部が短いものの、その違いはわずかなものであって、両部分の視覚的な印象を異にするほどの相違ではないため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点イ 平面視における凸条部の長辺と短辺の幅比について、両部分は相違するものの、指摘によって気が付く程の細かな相違であるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点ウ 平面視における凸条部の長辺両端部の延伸部の幅の態様について、両部分は相違するものの、指摘によって気が付く程の細かな相違であるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点エ 凸条部の態様について、両部分は外周側面の湾曲の有無、傾斜角度、頂部平面の幅、凸条部の幅と高さ比が相違する。しかし、両部分の用途及び機能に照らすと、蓋の上に積み上げた運搬用容器の底部が、両部分の内側に嵌まり、積み上げ時のずれを防ぐための凸条部について、需要者は、積み上げ時のずれを防ぐ形状に注目するが、そうした機能に直接関係しない細部の形状にまでは注目するとはいえない。そして、外周側面の湾曲の有無や傾斜角度、頂部平面幅の相違は、上記のずれ防止に直接に関係がないものである上、外周側面の湾曲の有無については、ほんのわずかな湾曲面か平面かの微差であり、傾斜角度については、断面図等に依らない通常の観察によっては、この程度の角度の違いはほとんど認識できないものであって、頂部平面幅の相違も、わずかな程度のものであって目立たないものである。そうすると、外周側面が傾斜しているという共通点ウに埋没する程度のわずかなものであってして、注意をひかないため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点オ 正面視における凹部の態様について、ベルト止めの位置決め作業時に注視する部分であるが、両端面を特に注視するものとまではいえず、凹部の上方への開き方の違いもわずかであるため、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点カ 平面視における凸条部長辺の直線部分の長さと1つの凹部の長さ比について、甲1意匠部分の方が、凸条部長辺に対して凹部が小さいものの、両部分とも、凸条部長辺の左右端部寄りに凹部を設けているという共通点エに埋没する程のわずかな相違であるため、類否判断に与える影響は小さいものである。また、平面視における長辺直線部分の両端部の長さ、凹部底辺の長さ及び長辺中央部の長さの比率について、両部分は相違するものの、いずれの凹部も凸条部長辺の両端寄りに設けたものであり、いずれも格別の特徴は認められないものであるから、類否判断に与える影響は小さいものである。
相違点キ 平面視における長辺と短辺の屈曲する内側面の態様について、両部分は相違するものの、甲1意匠部分に形成された小突起は小さく目立たない上、本件意匠部分の略垂直状の弧状面は、むしろ普通の態様としたまでにすぎず、微弱というほかないから、類否判断に与える影響は小さいものである。
(e)形状等の類否判断
両部分にとって、共通点ア~共通点エが、両意匠部分全体の骨格となる構成態様であって、これらを一体的に観察することで、両部分は共通する視覚的なまとまりを形成しており、特に、断面形状を略直角三角形の凸条とした共通点ウは、公知意匠にない、両部分のみが有する共通の態様と認められるから、両部分は、需要者に共通の視覚的効果を強く与えるものである。
一方で、相違点はいずれも部分的な微差にとどまるものであり、類否判断に与える影響は総じて小さく、相まった影響を考慮したとしても、前記共通の視覚的効果を覆すには到らないものである。
よって、両部分を全体として観察すると、形状等において、共通点が類否判断に与える影響は大きいものであるのに対して、相違点が類否判断に与える影響は小さく、共通点のそれを凌駕するほどではなく、需要者に共通する美感を与えているため、両部分は類似する。
(f)小括
以上のとおり、両意匠は、意匠に係る物品が同一であり、両部分の用途及び機能並びに位置、大きさ及び範囲は同一であり、形状等においても、両部分は類似するものであるから、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と類似し、意匠法第3条第1項第3号に掲げる意匠に該当する。
したがって、請求人が主張する本件登録意匠の無効理由には理由がある。
4 被請求人の反論について
被請求人は、口頭審理陳述要領書において、「凸条の態様の相違は、蓋同士を重ねた状態の安定性(ずれにくさ)という機能上の差異を生じさせるものであり、当該差異は依然として需要者の注意を惹くものといえる」として、本件登録意匠を重ねた状態の断面図を想定の上で反論するが、そもそも、本件意匠部分の範囲は、蓋の上面の凸条部分であって、裏面部は含まれないものである上、本件登録意匠の添付図面には断面図が含まれていないから、本件登録意匠の願書及び添付図面の記載により定めるべき形状に基づく主張とはいえず、前提を欠くものである。したがって、被請求人のこの反論は認められない。
また、本物品の取引実情について、「この種の運搬用容器及びこれに用いられる蓋は、一般消費者向けに少量販売される商品とは異なり、業務用途を前提とした商品である。購入者は、実際の使用環境における適合性、機能性、耐久性等を検証した上で製品を購入する。・・・。このような取引実情に鑑みると、需要者は、通常、機能性への影響も考慮した上で、凸条や切り欠き部の具体的態様や配置を仔細に観察するものといえる。したがって、甲第1号証の角部の内側の態様を考慮するか否かに関わらず、答弁書及び陳述要領書において被請求人が認定した各差異点により、需要者は両意匠に対し、互いに異なる美感を抱くものというべきである。」と主張するが、被請求人が述べるような取引実情が存するとしても、両部分の用途、機能及び形状等に対する需要者の関心に基づいて検討した結果、前記3(3)のとおり、本件登録意匠は、甲第1号証の意匠と類似するのであるから、被請求人のこのような主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、請求人の主張する無効理由について理由があり、本件登録意匠は、意匠法第48条第1項第1号により、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、意匠法第52条で準用する特許法第169条2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-880004