特許異議申立
2025-700585
衣服用空調装置
- 審判番号
- 2025-700585
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-097932
- 登録番号
- 7606417
- 請求日
- 2025年06月03日
- 審決日
- 2025年08月20日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ミドリ安全株式会社
- 【権利者代理人】日比谷 洋平
- 【権利者代理人】日比谷 征彦
- 【異議申立人】川嶋 健太
- 審判長/審判官
- 審判長 丸山 高政
- 審判官 松原 徳久
- 審判官 高野 洋
- 分類
- P1651.121-Y (A41D) / P1651.537-Y (A41D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7606417号発明「衣服用空調装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7606417号の請求項1~5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7606417号(以下「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和3年6月11日の出願であって、令和6年12月17日にその特許権の設定登録がされ、同年12月25日に特許掲載公報が発行された。その後、その全請求項(請求項1~5)に係る特許に対し、令和7年6月3日に特許異議申立人 川嶋 健太(以下「申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。その後、令和7年6月26日に申立人は手続補正書を提出して申立書の補正を行った。
前記特許異議の申立てのために提出された特許異議申立書を、以下では単に「申立書」という。また、申立書の補正のために提出された手続補正書は、申立書の誤記を補正するものであり、その要旨を変更しない。この手続補正書を、以下では単に「補正書」という。
第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、以下のとおりのものと認める。なお、後の参照の便宜のために、請求項1に以下のA1~Bの記号を付して分説し、「発明特定事項A1」のようにして参照する。
【請求項1】
A1 複数のファン部と、バッテリ装置と、それぞれの前記ファン部及び前記バッテリ装置を接続する複数の接続ケーブルから成り、
A2 必要な風量を前記複数のファン部により衣服内に送風し、
A3 可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する場合に、それぞれの前記ファン部は、突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている
A 衣服用空調装置であって、
B 前記バッテリ装置は、バッテリ部と、当該バッテリ部と接続する制御部と、前記ファン部の個数と同数の電流制限部とを備え、前記制御部と、前記ファン部毎に独立する前記接続ケーブルとの間に、前記電流制限部をそれぞれ配置したことを特徴とする衣服用空調装置。
【請求項2】
前記電流制限部は、制限電流値を超過しないように出力電流を制限する複数個の電流制限回路を直列に配置したことを特徴とする請求項1に記載の衣服用空調装置。
【請求項3】
前記電流制限回路は、半導体スイッチ素子を用いて出力電流を制限することを特徴とする請求項2に記載の衣服用空調装置。
【請求項4】
前記制限電流値は、前記ファン部が安定して駆動しているときの定格電流値と同値、又は該定格電流値より若干高く設定されていることを特徴とする請求項3に記載の衣服用空調装置。
【請求項5】
それぞれの独立した前記接続ケーブルは、両極のケーブルそれぞれを絶縁体で被覆して1束とし、これらの全体を更に絶縁体で被覆することで複数の前記接続ケーブルを束ねて1本とすることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の衣服用空調装置。
第3 証拠方法及び申立理由
申立人が提出した証拠方法を以下の1に示す。
申立人が主張する申立理由を以下の2に示す。
1 証拠方法
申立人は、申立書とともに以下に示す甲第1号証~甲第6号証(以下、それぞれ「甲1」~「甲6」という。)を提出した。
甲1 再公表特許第2017/154961号
甲2 TIIS技術資料 Ex2015(第6編 本質安全防爆構造)改訂版(対応国際規格IEC60079シリーズ)
甲3 登録実用新案第3187092号公報
甲4 特開2019-7103号公報
甲5 特開2019-199667号公報
甲6 特開2019-65861号公報
2 申立理由
申立理由の概要は、以下のとおりである。
〈申立理由1〉
本件発明1~4は、甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び甲2~甲5に示される周知技術に基づいて、また、本件発明5は、甲1発明及び甲2~甲6に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。(同法113条1項2号)
〈申立理由2〉
本件発明1は、以下の2-1及び2-2の点で、発明の詳細な説明に記載したものではないから、本件発明1に係る特許及び本件発明1に従属する本件発明2~5に係る特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。(同法113条1項4号)
2-1 本件発明1の発明特定事項A2~Aが、発明の詳細な説明に記載されていない。
2-2 本件発明1の発明特定事項Bにおける「電流制限部」が、発明の詳細な説明において、半導体スイッチ素子以外に開示されておらず、本件発明1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
第4 申立理由1についての判断
申立理由1の有無を判断するために、まず、以下の1において甲1発明の認定を行う。次いで、以下の2において本件発明1と甲1発明との対比を行い、以下の3において本件発明1と甲1発明との相違点について判断し、以下の4に小括する。
1 甲1発明の認定
以下の(1)に甲1の記載を摘記し、以下の(2)で甲1発明を認定する。
(1)甲1の記載
甲1には以下の記載がある。なお、下線は、甲1発明の認定に使用する箇所を示すことを目的に、当審で付した。
「【0039】
(第1実施形態)
本発明の空調衣服用電気部品装着ユニットを使用した空調衣服を、冷房のないスポーツ施設での観戦等にレンタルで使用する場合について説明する。また、服本体を使い捨てで使用する環境にやさしい空調衣服として使用する場合について説明する。」
「【0055】
裾部コード通し54に通したコードを絞める(空気漏れ防止手段)と、ファン1により取り込まれた空気は、裾から漏れることはなく服本体5の内部に送風され、服本体5と下に着用しているTシャツTS51との間の空間を陽圧にして、空気流通路が自動的に形成され、首周りと腕部(空気排出部として機能する)に向かって上方に移動して排出される。すなわち、服本体5内の空気を換気することになる。」
「【0071】
(第2実施形態)
第1実施形態及びその変形例では、ベルト本体上にファン、電源ケーブル、電源部が取り付けられた空調衣服用電気部品装着ユニット100、100aについて説明したが、第2実施形態では、電気部品自体がベルト本体21、21aの一部として機能する方式について説明する。以下、本実施形態とその変形例の記述では、空調衣服用電気部品装着ユニットを単に空調ユニットと称すこともある。
図9はファンの概略側面図、図10は電源部の概略正面図、図11Aは電源ケーブルの端子と電源部の端子を結合する前の状態を示す概略図、図11Bは電源ケーブルの端子と電源部の端子を結合した状態の概略図である。
【0072】
図11Aに示すように、電源ケーブル4の端子(プラグ)k11には電源部3と機械的に嵌合するための差し込み嵌合部(結合部)k1として嵌合壁k13を有する嵌合スプリングk12が上下に2個形成され、電源部3の端子(ジャック)k21の上下には差し受け嵌合部(結合部)k2として嵌合壁k13と嵌合する嵌合壁k22が形成されている。このように構成されているため、嵌合スプリングk12を親指と人差し指でつまみ2つの嵌合壁k13の間隔を縮小しプラグk11をジャックk21に差し込んだ後、指を離すと、図11Bに示すように、嵌合壁k13と嵌合壁k22とが嵌合し電源ケーブル4と電源部3とを引き離す力が加わっても電源部3から電源ケーブル4が抜けることはない。ファン1bと電源ケーブル4とを結合するための端子も同様に構成されている。具体的には、図9に示すように、ファン1bの右下部には、電源部3と同様の差し受け嵌合部k2が形成されている。また、ファン1bの左下部には、後述する胴ベルトk3を結合させるためのフックk5が形成されている。なお、電源部やファンと電源ケーブルとを強固に結合させる方法はこの方法に限らず一般的な各種方法を用いることができる。
【0073】
図12は、空調ユニット全体の正面図である。図12に示すように、左右のファン1bは電源ケーブル4により電源部3と電気的にも機械的にも結合され、左のファン1bのフックk5には胴ベルトk3の一端が結合され胴ベルトk3の他端にはフックk31が形成され右のファン1bのフックk5に結合できるように構成されている。また、電源部3の両側部にはフックk5が形成され首ベルトk4が結合されている。
図13は、空調ユニットを体に装着したときの概略正面図である。図13に示すように、首ベルトk4を首に掛け、アジャスターk32を備えた胴ベルトk3のフックk31を右のファン1bのフックk5に結合することにより空調ユニットは胴体に装着され、首ベルトk4により電源部3の重量の一部を負担することができる。無論、首ベルトk4は必須のものでなく、また電源部3の重量の一部を負担する場合でも必ずしも首にかける必要はなく、服地により負担する方法等、各種方法を使用することができる。
【0074】
図13に示すように、装着された空調ユニットは、電気部品すなわちファン1b、電源ケーブル4、電源部3自体がそれぞれベルト本体21の一部を構成して、また電源ケーブル4とファン1b及び電源部3との結合には図11で示した方法が使用されているので、相当な力が空調ユニットに掛かっても結合が外れることはない。なお、結合を外すには嵌合スプリングk12を指でつまんで引き抜けばよい。なお、電源部3の左右の端子k21の周辺に設けた電源ケーブル4と結合する部位を電源部取付手段31、ファン1bの端子k11の周辺の電源ケーブル4と結合する部位及びファン1bのフックk5をファン取付手段15とみなすことができる。
図14は、服を着用し、ファン1bとファン用開口孔53を連結した概略図である。ファン1bとファン用開口孔53との連結方法は、第1実施形態と同様である。」
「【0123】
電源部に使用する具体的な電源としては、1次電池でも2次電池でも燃料電池でも使用することができる。太陽電池(ソーラーパネル)を使用する場合では、ソーラーパネル自体は電源部に収納することはできないが、ソーラーパネルで発電した電気を使用又は蓄電するため手段が電源部である。」
「【図11B】
[図:0001426865000001.jpg]
」
「【図12】
[図:0001426865000002.jpg]
」
図12は「空調ユニット全体の正面図」(【0073】)であって、電源部3には、左右にそれぞれ「差し受け嵌合部(結合部)k2」(【0072】)を備えることが看て取れ、図11Bより、「差し受け嵌合部(結合部)k2」は、電源ケーブル4の「差し込み嵌合部(結合部)k1」(【0072】)と嵌合(結合)するものであるから、2つのファン1bと電源部3とは、2つの独立した電源ケーブル4によってそれぞれ結合されると解される。
(2)甲1発明の認定
甲1に記載された第2実施形態を甲1発明として認定する。
ここで、甲1には、第2実施形態に関する説明として、「第1実施形態及びその変形例では、ベルト本体上にファン、電源ケーブル、電源部が取り付けられた空調衣服用電気部品装着ユニット100、100aについて説明したが、第2実施形態では、電気部品自体がベルト本体21、21aの一部として機能する方式について説明する。」(【0071】)との記載、「ファン1bとファン用開口孔53との連結方法は、第1実施形態と同様である。」(【0074】)との記載があること、また、第2実施形態に関する図面の【図12】における電源部や電源ケーブルの符号が第1実施形態と同じであること、そして、第2実施形態には、電気部品自体をベルト本体の一部として機能させることに関連する部分以外の記載は、「ファン1bとファン用開口孔53との連結方法は、第1実施形態と同様である。」(【0074】)との記載以外にないこと、等を考慮すると、第2実施形態は、電気部品自体をベルト本体の一部として機能させることに関連する部分のみが第1実施形態と異なるのであって、それ以外の部分については、第1実施形態と同様であると解するのが自然であるから、第2実施形態を甲1発明として認定するにあたり、適宜、第1実施形態に関する説明も参照する。
また、甲1の「電源部に使用する具体的な電源としては、1次電池でも2次電池でも燃料電池でも使用することができる。」(【0123】)との記載は、いずれの実施形態の電源部とも特定されておらず、第2実施形態に適用できないとする理由もないから、第2実施形態にも適用できると解される。
そうすると、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。なお、後の参照の便宜のため、甲1発明をa1~fに分説し、「構成a1」のように参照する。
〈甲1発明〉
a1 空調衣服用電気部品装着ユニットを使用した空調衣服を、冷房のないスポーツ施設での観戦等にレンタルで使用する場合について、(【0039】)
a2 空調衣服用電気部品装着ユニットを単に空調ユニットと称すこともあり、(【0071】)
b 空調ユニットは、電気部品すなわちファン1b、電源ケーブル4、電源部3自体がそれぞれベルト本体21の一部を構成し、(【0074】)
c 2つのファン1bと電源部3とは、2つの独立した電源ケーブル4によってそれぞれ結合され、(【図12】)
d 電源部に使用する具体的な電源としては、1次電池でも2次電池でも燃料電池でも使用することができ、(【0123】)
e ファン1により取り込まれた空気は、裾から漏れることはなく服本体5の内部に送風される、(【0055】)
f 空調衣服用電気部品装着ユニット。
2 本件発明1と甲1発明との対比
以下において、本件発明1と甲1発明とを対比する。
(1)発明特定事項Aについて
事案に鑑み、先に発明特定事項Aを対比する。
発明特定事項Aは、「衣服用空調装置であって、」というものである。
甲1発明の「空調衣服用電気部品装着ユニット」における「電気部品すなわちファン1b、電源ケーブル4、電源部3」(構成b)が、「空調衣服用」の「電気部品」であることは明らかであり、「ファン1b」の送風により空調を行うといえるから、当該「ファン1b」を含む「電気部品」を備えた甲1発明の「空調衣服用電気部品装着ユニット」は、本件発明1の「衣服用空調装置」に相当する。
(2)発明特定事項A1について
発明特定事項A1は「複数のファン部と、バッテリ装置と、それぞれの前記ファン部及び前記バッテリ装置を接続する複数の接続ケーブルから成り、」というものである。
甲1発明の「空調衣服用電気部品装着ユニット」の「2つのファン1b」(構成c)は、本件発明1の「複数のファン部」に相当する。
また、甲1発明の「空調衣服用電気部品装着ユニット」の「電源部3」(構成c)に使用する電源として、「1次電池でも2次電池でも燃料電池でも使用することができ」る(構成d)から、「電源部3」は電池、すなわちバッテリを電源として使用する装置であり、本件発明1の「バッテリ装置」に相当する。
また、甲1発明の「2つのファン1b」及び「電源部3」は、「2つの独立した電源ケーブル4によってそれぞれ結合され」る(構成c)ものであり、「2つの独立した電源ケーブル4」によって、「2つのファン1b」及び「電源部3」を接続するといえるから、甲1発明の「2つの独立した電源ケーブル4」は、本件発明1の「それぞれの前記ファン部及び前記バッテリ装置を接続する複数の接続ケーブル」に相当する。
したがって、前記(1)も踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、「複数のファン部と、バッテリ装置と、それぞれの前記ファン部及び前記バッテリ装置を接続する複数の接続ケーブルから成」る「衣服用空調装置」である点で一致する。
(3)発明特定事項A2について
発明特定事項A2は「必要な風量を前記複数のファン部により衣服内に送風し、」というものである。
甲1発明の「空調衣服用電気部品装着ユニット」は、「冷房のないスポーツ施設での観戦等にレンタルで使用する」(構成a1)ものであるから、「空調衣服用電気部品装着ユニット」が備える「2つのファン1b」(構成c)によって、「冷房のないスポーツ施設での観戦等」において必要な風量を「服本体5の内部に送風」(構成e)することは明らかである。(なお、構成eは甲1の第1実施形態に関するものであって、「ファン1b」ではなく「ファン1」に関する記載であるが、前記1(2)の冒頭にも記載したとおり、第2実施形態において、電気部品自体をベルト本体の一部として機能させることに関連する部分以外の点は、第1実施形態と同様であると解される。)
したがって、本件発明1と甲1発明とは、「必要な風量を前記複数のファン部により衣服内に送風」する点で一致する。
(4)発明特定事項A3について
発明特定事項A3は「可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する場合に、それぞれの前記ファン部は、突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」というものである。
甲1発明には、発明特定事項A3の構成が特定されていない点で、本件発明1と相違する。
(5)発明特定事項Bについて
発明特定事項Bは「前記バッテリ装置は、バッテリ部と、当該バッテリ部と接続する制御部と、前記ファン部の個数と同数の電流制限部とを備え、前記制御部と、前記ファン部毎に独立する前記接続ケーブルとの間に、前記電流制限部をそれぞれ配置したことを特徴とする衣服用空調装置」というものである。
前記(2)のとおり、甲1発明の「電源部3」(構成c)は、電源としてバッテリを使用するものであり、本件発明1の「バッテリ装置」に相当する。
そして、甲1発明の「電源部3」で使用するバッテリが、本件発明1の「バッテリ部」に相当する。
したがって、前記(1)も踏まえると、本件発明1と甲1発明とは、「前記バッテリ装置は、バッテリ部」「を備え」「たことを特徴とする衣服用空調装置」である点で一致するが、「前記バッテリ装置」が、「当該バッテリ部と接続する制御部と、前記ファン部の個数と同数の電流制限部とを備え、前記制御部と、前記ファン部毎に独立する前記接続ケーブルとの間に、前記電流制限部をそれぞれ配置したこと」が特定されていない点で相違する。
(6)一致点及び相違点
前記(1)~(5)によれば、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、以下のとおりである。
〈一致点〉
「複数のファン部と、バッテリ装置と、それぞれの前記ファン部及び前記バッテリ装置を接続する複数の接続ケーブルから成り、
必要な風量を前記複数のファン部により衣服内に送風する
衣服用空調装置であって、
前記バッテリ装置は、バッテリ部を備えたことを特徴とする衣服用空調装置。」である点。
〈相違点1〉
本件発明1は、「可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する場合に、それぞれの前記ファン部は、突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」のに対し、甲1発明は、当該構成について特定されていない点。
〈相違点2〉
「バッテリ装置」について、本件発明1は、「当該バッテリ部と接続する制御部と、前記ファン部の個数と同数の電流制限部とを備え、前記制御部と、前記ファン部毎に独立する前記接続ケーブルとの間に、前記電流制限部をそれぞれ配置」するのに対し、甲1発明は、当該構成について特定されていない点。
3 本件発明1と甲1発明との相違点についての判断
事案に鑑み、前記2(6)に示した相違点1について判断する。
(1)相違点1の「可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する場合に、」について
甲1発明の「空調衣服用電気部品装着ユニット」は、「冷房のないスポーツ施設での観戦等にレンタルで使用する」(構成a1)ものであって、「可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する」ものではなく、甲1発明を認定する際に参照した甲1の第1実施形態及び第2実施形態において、「可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する」ことは記載も示唆もされていない。
他方、甲1には、「また、第3実施形態では、モーターと電源部71とを密閉容器に閉じ込め、モーターにプロペラを取り付ける為の回転軸と軸受けとの機密性を高めることにより、発火性のある雰囲気中でも使用できる防爆仕様を実現することができるようにしてもよい」(【0086】)との記載もあるものの、当該記載は、甲1発明を認定する際に参照した第1実施形態及び第2実施形態とは異なる第3実施形態に関する記載であって、当該記載が第1実施形態及び第2実施形態に妥当することは、記載も示唆もされていない。
そして、「第3実施形態では、大型のファンを1つ用いた風量、連続使用時間も大きな大型の空調衣服用電気部品装着ユニット100bの場合で説明する」(【0075】)との記載や、「第3実施形態では、特に、電源部71が大容量であるため、ユニット部7は重いものの、ランドセルを背負うような状態なので、相当な大容量でも重みをあまり感じることはなく、長時間の重労働の作業に非常に適している」(【0086】)との記載を参酌すると、第3実施形態と第1実施形態及び第2実施形態とは、空調衣服用電気部品装着ユニットの構造や用途も大きく異なるものである。
そうすると、「発火性のある雰囲気中でも使用できる防爆仕様を実現することができるようにしてもよい」(【0086】)との第3実施形態に関する記載を第1実施形態及び第2実施形態に適用することは、当業者といえども容易に想到し得たものとはいえない。
(2)相違点1の「それぞれの前記ファン部は、突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」について
前記(1)のとおり、甲1発明の「空調衣服用電気部品装着ユニット」は、「可燃性物質が空気中に存在する爆発性雰囲気で使用する」ものではなく、甲1発明の「2つのファン1b」(構成c)について、「突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」ファンを採用することも、甲1には記載も示唆もされていない。
ア 申立人は、甲2に基づいて、爆発性雰囲気において過剰な電流が流れないようにすることは周知技術である旨を主張している(補正書第7頁下から7行目~下から3行目)が、「突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」ファンについては、甲2には記載も示唆もされていない。
イ さらに、申立人は、「それぞれの前記ファン部は、突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」との記載について、ファンの定格電圧、定格電流の設定を、「突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回る」という条件を考慮せずに設定した場合でも、結果的にそのような条件を満たす定格電圧、定格電流が設定されたファンであれば、当該記載には含まれる旨を主張している(補正書第7頁下から2行目~第8頁6行目)。
当該主張の根拠として、請求人は、本件の発明の詳細な説明の「例えば、定格電圧を8.7V、定格電流値Iaを0.8Aを有するファン部2を採用し、突入電流時のピーク電流値Ipとして2.0A、突入電流が発生した時間Taとして1μsを計測した場合に、過渡領域Sを簡略的に(ピーク電流値Ip-定格電流値Ia)×時間Tとして計算すると、(1)式の過渡エネルギーEnは、8.7V×1.2A・μs=10.44μJとなる。」(【0029】)との記載、「この算出された過渡エネルギーEnは、何れの可燃性物質のグループの前述のエネルギー閾値を下回るので、何れの可燃性物質が存在する爆発性雰囲気内でも、衣服用空調装置1を使用することが可能であると判断される。」(【0030】)との記載を挙げていること(補正書第8頁7~15行目)から、当該主張は、定格電圧8.7Vよりも低い定格電圧であれば、上記条件を満たすというものと解される。
そして、定格電圧8.7Vよりも低い定格電圧7.4Vのファンは甲3に基づいて周知技術であるから、上記条件を満たすファンは周知技術であると主張するものである(補正書第8頁15~23行目)。
しかしながら、本件の発明の詳細な説明の段落【0029】及び【0030】の記載はあくまで実施例として記載されたものに過ぎず、段落【0028】において、例として挙げられているエネルギー閾値(20μJ、80μJ、160μJ、240μJ)が定められている爆発性雰囲気であれば、定格電圧8.7V、定格電流0.8Aを有するファンが、上記条件を満たすことを説明しているにすぎない。
そして、「エネルギー閾値」は爆発性雰囲気に応じて変わるものであり、例えば、爆発性が非常に高い雰囲気であれば、「エネルギー閾値」は非常に低くなるものであるから、本件の発明の詳細な説明の段落【0029】及び【0030】の記載は、どのような爆発性雰囲気でも、定格電圧8.7V、定格電流0.8Aを有するファン、あるいは、それより低い定格電圧、定格電流を有するファンが、上記条件を満たすということを説明しているものでもない。
そうすると、甲3に基づいて、定格電圧7.4Vのファンが周知技術であるとしても、爆発性雰囲気によっては、定格電圧7.4Vのファンが上記条件を満たさないことはあり得るから、定格電圧7.4Vのファンが、「突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」ファンであるとはいえない。
そして、「突入電流の発生時の前記可燃性物質に着火するエネルギーに相当する過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」ファンを採用することについては、甲2~甲5のいずれにも記載も示唆もされていない。
(3)相違点についての判断
前記(1)及び(2)を踏まえると、本件発明1と甲1発明との相違点1に係る発明特定事項A3は、当業者といえども、甲1発明及び甲2~甲5に示される周知技術に基づいて、容易に想到し得たとは認められない。
また、当該相違点1は、その他の証拠及び技術常識によっても容易に想到し得たものではない。
よって、相違点2について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲5に示される周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。
4 申立理由1についての小括
前記3(3)によれば、本件発明1は、当業者が甲1発明及び甲2~甲5に示される周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
そして、本件発明2~5は、本件発明1の発明特定事項を全て備え、さらに別の発明特定事項を備えるものである。
そうすると、本件発明2~5と甲1発明とは、少なくとも前記2(6)に示した相違点を有し、当該相違点については前記3(3)のとおりであるから、本件発明2~5も、当業者が甲1発明に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。
以上によれば、申立理由1には理由がない。
第5 申立理由2についての判断
本件特許の特許請求の範囲が特許法36条6項1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に違反するかについて、申立人は、以下の2-1及び2-2(以下に再掲)を主張するところ、これらについての当審の判断を以下の1及び2に示し、以下の3において申立理由2について小括する。
2-1 本件発明1の発明特定事項A2~Aが、発明の詳細な説明に記載されていない。
2-2 本件発明1の発明特定事項Bにおける「電流制限部」が、発明の詳細な説明において、半導体スイッチ素子以外に開示されておらず、本件発明1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない。
1 2-1について
申立人は、発明特定事項A2~Aについて、本件の発明の詳細な説明の段落【0031】及び【0033】の記載を参酌して、バッテリ装置3の定格電圧、定格電流をどのように設定するのかが、発明の詳細な説明に記載されていない旨を主張しているが(補正書第12頁1~12行目)、発明特定事項A2~Aには、ファン部の定格電圧、定格電流が設定されていることが特定されている一方で、バッテリ装置3の定格電圧、定格電流を設定することは特定されていないから、当該主張は、本件発明1の発明特定事項に基づくものではなく、採用できない。
また、申立人は、発明特定事項A2~Aについて、ファン部の定格電圧及び定格電流をどのように設定するのかが発明の詳細な説明に記載されていない旨も主張しているが(補正書第12頁12~13行目)、発明特定事項A2~Aのうち特にA3には、「それぞれの前記ファン部は、…過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回るように、定格電圧、定格電流が設定されている」としか特定されておらず、本件の発明の詳細な説明の「例えば、定格電圧を8.7V、定格電流値Iaを0.8Aを有するファン部2を採用し、」(【0029】)との記載、「これらの設定に準拠するファン部2を採用することで、」(【0031】)との記載を参酌すれば、発明特定事項A3は、「過渡エネルギーが前記爆発性雰囲気に応じたエネルギー閾値を下回る」ような定格電圧及び定格電流を有するファン部を採用することを特定しているに過ぎず、定格電圧及び定格電流の具体的な数値を限定していると解することはできない。そうすると、発明特定事項A3には、ファン部の定格電圧及び定格電流の具体的な数値をどのように設定するのかは特定されていないから、当該主張も、本件発明1の発明特定事項に基づくものではなく、採用できない。
よって、申立人の2-1の主張は採用できない。
2 2-2について
申立人は、発明特定事項Bの「電流制限部」について、半導体スイッチ以外の電流制限部について、発明の詳細な説明に記載されておらず、抵抗、コンデンサ、コイルなどの素子をどのように用いることにより、出力電流が制限電流値を超過しないように制限するかについては記載されていないから、本件発明1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるとはいえない旨を主張している(補正書第12頁19行目~第13頁5行目)。
しかしながら、抵抗、コンデンサ、コイルなどの素子を用いて電流を制限することは出願時の技術常識に過ぎず、当業者であれば、抵抗、コンデンサ、コイルなどの素子を必要に応じて選択し、電流を制限するように構成することも当然なし得たことである。
また、本件の発明の詳細な説明の「これらの電流制限回路3dは、例えばゲート部にかかるゲート電圧によってソース・ドレイン間の電流を制御する、例えば電界効果トランジスタ(FET素子)等の半導体スイッチ素子が採用され、適宜のゲート電圧を設定することで、制限電流値を超過しないように出力電流が制限される。」(【0022】)との記載は、電流制限部における電流制限回路の例示として、半導体スイッチ素子が挙げられているに過ぎず、本件発明1の「電流制限部」について、半導体スイッチ素子以外の素子を採用することを妨げるものでもない。
そうすると、発明特定事項Bの「電流制限部」について、本件発明1に係る発明の範囲まで拡張ないし一般化できるものといえる。
よって、申立人の2-2の主張は採用できない。
3 申立理由2についての小括
前記1及び2のとおり、申立人が主張する点は、特許法36条6項1号に規定する要件に違反するものではない。
よって、申立理由2には、理由がない。
第6 むすび
前記第4及び第5によれば、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700585