特許異議申立
2025-700109
細胞培養装置
- 審判番号
- 2025-700109
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2024-013359
- 登録番号
- 7538582
- 請求日
- 2025年01月23日
- 審決日
- 2026年03月04日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日機装株式会社
- 【権利者代理人】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
- 【異議申立人】青柳 博樹
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 谷垣 圭二
- 審判官 道祖土 新吾
- 分類
- P1651.121-YAA(C12M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7538582号発明「細胞培養装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7538582号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。
特許第7538582号の請求項1-10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許についての手続の経緯
特許第7538582号(請求項の数10。以下「本件特許」という。)の特許出願(特願2024-13359号)は、令和5年12月20日に出願した特願2023-214803号の一部を令和6年1月31日に新たな特許出願としたものであって、その特許権の設定の登録日及び特許掲載公報の発行日は、次のとおりである。
特許権の設定の登録日 令和6年8月14日
特許掲載公報の発行日 同月22日
2 本件特許異議の申立てについての手続の経緯
令和7年 1月23日 :特許異議申立書の提出
(特許異議申立人:青柳 博樹 請求項1~10(全請求項)に対して)
同年 4月24日付け:取消理由通知書
同年 7月 1日 :訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同月16日付け:手続補正指令書(方式)
同年 8月13日 :手続補正書(方式)の提出
同年10月23日付け:訂正拒絶理由通知書
同年11月21日 :応対記録
同月25日 :意見書及び手続補正書の提出(特許権者)
同年12月 4日付け:通知書(訂正請求があった旨の通知)
同月25日 :意見書の提出(特許異議申立人)
第2 訂正に係る特許請求の範囲の補正の適否
令和7年11月25日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、令和7年7月1日に提出された訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲について補正をするものであるところ、当該補正事項は、審理対象の拡張変更を伴わないものであって、訂正請求書の要旨を変更するものではないから、特許法120条の5第9項において準用する同法131条の2第1項の規定に適合するものである。
よって、本件補正は認められる。
以下、本件補正後の訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正を「本件訂正」という。
第3 本件訂正について
1 請求の趣旨
(1) 本件訂正の請求の趣旨
本件訂正に係る請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~10について訂正することを求めるものである。
2 本件訂正前の特許請求の範囲の記載
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10の記載(登録時における特許請求の範囲の記載)は、次のとおりである。
「【請求項1】
空気清浄度の規格基準として第1基準を満たす第1空間と、
前記空気清浄度の規格基準として前記第1基準よりも低い第2基準を満たす第2空間と、
前記第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部と、
前記第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部と、
前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段と
を備える、細胞培養装置であって、
前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ、
前記第2空間へ空気の供給が第2空間用フィルターユニットにより行われ、
前記第1空間用フィルターユニットが、前記第2空間用フィルターユニットに対し独立して前記細胞培養装置の外の空気の取り込みを行い、
前記第1空間への空気が、前記第1空間用フィルターユニットから前記第1空間に供給される、細胞培養装置。
【請求項2】
前記操作部制御手段は、
前記第2操作部によって前記細胞培養容器を前記第2空間から前記第1空間に移動させるよう制御し、前記第1操作部によって前記細胞培養容器に対して前記培地交換に係る操作が行われるよう制御し、
前記細胞培養容器が、容器載置部の上に載せられ、
前記第2操作部には、前記細胞培養容器を把持可能な把持機構が設けられており、
前記容器載置部が前記把持機構により把持される、請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記細胞培養容器は前記第2操作部により着脱される防塵部を有する、請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記第1操作部には、前記培地交換に係る操作の内容に対応した複数種類の操作装置間で共通化された装着機構が設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記第2空間には、
前記細胞培養容器の搬入及び搬出が行われる供給排出部と、前記細胞培養容器に収容された細胞の培養が行われる細胞培養部と、前記細胞培養容器に対する検査が行われる検査部とが設置され、
前記操作部制御手段は、
前記第2操作部によって、前記供給排出部に対する前記細胞培養容器の移動操作、前記細胞培養部に対する前記細胞培養容器の移動操作、及び前記検査部に対する前記細胞培養容器の移動操作が行われるよう制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
平面視における前記第2操作部を中心とした直交座標系において、前記第1空間、前記供給排出部、前記細胞培養部、及び前記検査部におけるそれぞれの中心部は、少なくとも3つの象限に分かれて配置されている、請求項5に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記第1空間内の殺菌を行う殺菌光源部を備えた請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記第2操作部を移動させることが可能な移動部を備えた請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記把持機構が、間隔の変更が可能なツメ部を有し、前記ツメ部の間隔を変更させて前記細胞培養容器と前記容器載置部との持ち替えが可能である、請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
前記第2操作部を停止させる条件である停止条件の検出が可能な停止条件検出手段を備え、
前記停止条件が検出された場合に、前記操作部制御手段が、前記第1操作部を稼働させ、前記第2操作部を停止させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。」
3 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~10の記載は、次のとおりである。下線は訂正箇所である。
「【請求項1】
空気清浄度の規格基準として第1基準を満たす第1空間と、
前記空気清浄度の規格基準として前記第1基準よりも低い第2基準を満たす第2空間と、
前記第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部と、
前記第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部と、
前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段と
前記第1操作部が配置される培地交換部と、
前記第2操作部が配置される搬送ロボット部と、
インキュベータが配置されるインキュベータ部と
を備える、細胞培養装置であって、
壁部により囲って内部空間を形成し、
前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり、
前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み、
前記壁部の一部は、前記培地交換部の外側の壁部により構成され、
前記第1空間と前記第2空間は、前記培地交換部の内側の壁部により区画され、
前記培地交換部の前記内側の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ、
前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ、
前記第2空間へ空気の供給が第2空間用フィルターユニットにより行われ、
前記第1空間用フィルターユニットが、前記第2空間用フィルターユニットに対し独立して前記細胞培養装置の外の空気の取り込みを行い、
前記第1空間への空気が、前記第1空間用フィルターユニットから前記第1空間に供給される、細胞培養装置。
【請求項2】
前記操作部制御手段は、
前記第2操作部によって前記細胞培養容器を前記第2空間から前記第1空間に移動させるよう制御し、前記第1操作部によって前記細胞培養容器に対して前記培地交換に係る操作が行われるよう制御し、
前記細胞培養容器が、容器載置部の上に載せられ、
前記第2操作部には、前記細胞培養容器を把持可能な把持機構が設けられており、
前記容器載置部と前記細胞培養容器の外形が異なり、
前記容器載置部が前記把持機構により把持される、請求項1に記載の細胞培養装置。
【請求項3】
前記細胞培養容器は前記第2操作部により着脱される防塵部を有する、請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項4】
前記第1操作部には、前記培地交換に係る操作の内容に対応した複数種類の操作装置間で共通化された装着機構が設けられている、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項5】
前記第2空間には、
前記細胞培養容器の搬入及び搬出が行われる供給排出部と、前記細胞培養容器に収容された細胞の培養が行われる細胞培養部と、前記細胞培養容器に対する検査が行われる検査部とが設置され、
前記操作部制御手段は、
前記第2操作部によって、前記供給排出部に対する前記細胞培養容器の移動操作、前記細胞培養部に対する前記細胞培養容器の移動操作、及び前記検査部に対する前記細胞培養容器の移動操作が行われるよう制御する、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項6】
平面視における前記第2操作部を中心とした直交座標系において、前記第1空間、前記供給排出部、前記細胞培養部、及び前記検査部におけるそれぞれの中心部は、少なくとも3つの象限に分かれて配置されている、請求項5に記載の細胞培養装置。
【請求項7】
前記第1空間内の殺菌を行う殺菌光源部を備えた請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項8】
前記第2操作部を移動させることが可能な移動部を備えた請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。
【請求項9】
前記把持機構が、間隔の変更が可能なツメ部を有し、前記細胞培養容器と前記容器載置部の外形の違いに応じ前記ツメ部の間隔を変更させて前記細胞培養容器と前記容器載置部との持ち替えが可能である、請求項2に記載の細胞培養装置。
【請求項10】
前記第2操作部を停止させる条件である停止条件の検出が可能な停止条件検出手段を備え、
前記停止条件が検出された場合に、前記操作部制御手段が、前記第1操作部を稼働させ、前記第2操作部を停止させ、
前記停止条件は、
前記搬送ロボット部に設けられ、前記第2空間と、前記細胞培養装置の外部空間とを区画する開閉シャッター部の開放である、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置。」
4 本件訂正の内容
本件訂正は、一群の請求項〔1~10〕について特許請求の範囲の訂正をするものであって、以下に示す訂正事項1から訂正事項4までからなる。
(1) 訂正事項1(請求項1の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項1について、次のアに示す訂正前の記載を、後記イに示す訂正後の記載に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~10も同様に訂正する。)。
ア 訂正前の記載
「前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段と
を備える、細胞培養装置であって、
前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ」
イ 訂正後の記載
「前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段と
前記第1操作部が配置される培地交換部と、
前記第2操作部が配置される搬送ロボット部と、
インキュベータが配置されるインキュベータ部と
を備える、細胞培養装置であって、
壁部により囲って内部空間を形成し、
前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり、
前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み、
前記壁部の一部は、前記培地交換部の外側の壁部により構成され、
前記第1空間と前記第2空間は、前記培地交換部の内側の壁部により区画され、
前記培地交換部の前記内側の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ、
前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ」
(2) 訂正事項2(請求項2の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項2について、次のアに示す訂正前の記載を、後記イに示す訂正後の記載に訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3~10も同様に訂正する。)。
ア 訂正前の記載
「前記第2操作部には、前記細胞培養容器を把持可能な把持機構が設けられており、
前記容器載置部が前記把持機構により把持される」
イ 訂正後の記載
「前記第2操作部には、前記細胞培養容器を把持可能な把持機構が設けられており、
前記容器載置部と前記細胞培養容器の外形が異なり、
前記容器載置部が前記把持機構により把持される」
(3) 訂正事項3(請求項9の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項9について、次のアに示す訂正前の記載を、後記イに示す訂正後の記載に訂正する。
ア 訂正前の記載
「間隔の変更が可能なツメ部を有し、前記ツメ部の間隔を変更させて前記細胞培養容器と前記容器載置部との持ち替えが可能である」
イ 訂正後の記載
「間隔の変更が可能なツメ部を有し、前記細胞培養容器と前記容器載置部の外形の違いに応じ前記ツメ部の間隔を変更させて前記細胞培養容器と前記容器載置部との持ち替えが可能である」
(4) 訂正事項4(請求項10の記載に係る訂正)
特許請求の範囲の請求項10について、次のアに示す訂正前の記載を、後記イに示す訂正後の記載に訂正する。
ア 訂正前の記載
「前記第2操作部を停止させる、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置」
イ 訂正後の記載
「前記第2操作部を停止させ、
前記停止条件は、
前記搬送ロボット部に設けられ、前記第2空間と、前記細胞培養装置の外部空間とを区画する開閉シャッター部の開放である、請求項1~3のいずれか1項に記載の細胞培養装置」
5 本件訂正の適否についての当合議体の判断
(1) 訂正の目的
ア 訂正事項1
訂正事項1に係る訂正は、訂正前の請求項1の「細胞培養装置」について、「前記第1操作部が配置される培地交換部と、前記第2操作部が配置される搬送ロボット部と、インキュベータが配置されるインキュベータ部と」を備えると限定するとともに、「壁部により囲って内部空間を形成し、前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり、前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み、前記壁部の一部は、前記培地交換部の外側の壁部により構成され、前記第1空間と前記第2空間は、前記培地交換部の内側の壁部により区画され、前記培地交換部の前記内側の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ」ることを限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
イ 訂正事項2
訂正事項2に係る訂正は、訂正前の請求項2について、「前記細胞培養容器を把持可能な」「前記把持機構により把持される」との記載によって、「把持機構」の構成又は効果が技術的に不明瞭となっていたのを、「前記容器載置部と前記細胞培養容器の外形が異なり」との記載を含むように正すことによって、「把持機構」の構成又は効果を明確にするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
ウ 訂正事項3
訂正事項3に係る訂正は、訂正事項2に係る訂正と関連する訂正であって、訂正前の請求項9について、「前記把持機構が、間隔の変更が可能なツメ部を有し、前記ツメ部の間隔を変更させて前記細胞培養容器と前記容器載置部との持ち替えが可能である」との記載によって、「把持機構」の構成又は効果が技術的に不明瞭となっていたのを、「間隔の変更が可能なツメ部を有し、前記細胞培養容器と前記容器載置部の外形の違いに応じ前記ツメ部の間隔を変更させて前記細胞培養容器と前記容器載置部との持ち替えが可能である」との記載に正すことによって、「把持機構」の構成又は効果を明確にするものであるから、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。
エ 訂正事項4
訂正事項4に係る訂正は、訂正前の請求項10の「停止条件」について、「前記搬送ロボット部に設けられ、前記第2空間と、前記細胞培養装置の外部空間とを区画する開閉シャッター部の開放である」と限定するものであるから、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2) 新規事項の追加、特許請求の範囲の実質的拡張・変更
訂正事項1~4の訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」又は同3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当するから、これらの訂正における新規事項の追加の有無を判断する際の基準となる明細書等は、特許権の設定の登録がされた時点での願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)である。
ア 訂正事項1
(ア) 訂正事項1の訂正における下記a(a)~(c)の点は、それぞれ、本件特許明細書等の下記b(a)~(c)の記載に基づくものであって、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、訂正事項1の前記a(a)~(c)の訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
a 訂正内容
(a) 「前記第1操作部が配置される培地交換部と、 前記第2操作部が配置される搬送ロボット部と、インキュベータが配置されるインキュベータ部と」を備える点
(b) 「壁部により囲って内部空間を形成し、前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり、前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み、前記壁部の一部は、前記培地交換部の外側の壁部により構成され、前記第1空間と前記第2空間は、前記培地交換部の内側の壁部により区画され」る点
(c) 「前記培地交換部の前記内側の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ」る点
b 訂正の根拠(下線は合議体が付した。以下の根拠箇所についても同様である。)
(a)i 段落【0009】
「細胞培養装置10は、インキュベータ部12、…(中略)…、搬送ロボット部20、及び、培地交換部22を備えている。」
ii 段落【0022】
「細胞培養装置10は、第1操作部と第2操作部とを備える。第1操作部は、第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能である。第1操作部には、培地交換ロボット42が該当する。第2操作部は、第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能である。第2操作部には、搬送ロボット40が該当する。」
iii 段落【0068】
「インキュベータ部12には、庫内の温度管理が可能なインキュベータ32が備えられており」
iv 【図3】
[図:0001436160000001.jpg]
(b)i 段落【0014】
「細胞培養装置10の内部は、培地交換部22の内部空間と、培地交換部22以外の部分(インキュベータ部12、画像検査部14、ストッカー供給部16、製品取出し部18、及び、搬送ロボット部20)の内部空間とに区画されている。培地交換部22以外の部分の内部空間は、空間的に繋がっている。培地交換部22の内部空間は第1空間となっており、培地交換部22以外の部分の内部空間は第2空間となっている。詳細は後述するが、壁部10A(図1)の内側においては、図11に示すように、培地交換部22の一部の壁部22Bにより、第1空間(培地交換部22の内部空間)と、第2空間(培地交換部22以外の内部空間)とに区画されている。」
ii 段落【0096】
「図11は、培地交換部22の壁部22B等の構成を概略的に示している。培地交換部22は、外側の壁部22Aや、内側の壁部22B等を備えている。外側の壁部22Aは、細胞培養装置10における壁部10Aの一部を構成している。内側の壁部22Bは、細胞培養装置10における壁部10Aの内部に位置しており、壁部10Aの内部空間を、第1空間(培地交換部22の内部空間)と、第2空間(培地交換部22以外の内部空間)とに区画している。」
(c) 段落【0098】
「内側の壁部22Bには、自動開閉シャッター152が設けられている。…(中略)…具体的には、自動開閉シャッター152は、搬送ロボット40が、アームプレート66(図10)を、第2空間から培地交換部22の内部空間(第1空間)に進入させる場合に、開放される。」
(イ) また、訂正事項1の前記a(a)~(c)の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
イ 訂正事項2
(ア) 訂正事項2の訂正は、本件特許明細書等の下記a又はbの記載に基づくものであって、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
a 【図6】
[図:0001436160000002.jpg]
b 【図7】(b)
[図:0001436160000003.jpg]
(イ) また、訂正事項2の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
ウ 訂正事項3
(ア) 訂正事項3の訂正は、本件特許明細書等の下記a~cの記載に基づくものであって、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
a 段落【0055】
「4つの係止ピン82は、V字状切欠部63の奥にそれぞれ進入し、ストッカー54に係止する。この結果、ストッカー54が、ツメ部78に対して位置決めされ、把持部76により把持される。」
b 段落【0062】
「エアグリッパー68が、ウェルプレート52又は蓋体52bの把持を行う場合、…(中略)…、4個(2×2個)の樹脂ブロック80が、ウェルプレート本体52a又は蓋体52bの側面に接する。そして、…(中略)、側面からの加圧に伴う摩擦力を利用して、ウェルプレート本体52aや蓋体52bが把持される。」
c 【図7】
[図:0001436160000004.jpg]
[図:0001436160000005.jpg]
(イ) また、訂正事項3の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
エ 訂正事項4
(ア) 訂正事項4の訂正は、本件特許明細書等の【0111】の「また、人が細胞培養装置10内に進入する際には、開閉シャッター部36(図5)が空けられるが、扉開放センサ(図示略)が、開閉シャッター部36の開放を検出した場合に、制御部46が、搬送ロボット40の動作を停止させる、といったことも可能である。」等の記載に基づくものであって、本件特許明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。
(イ) また、訂正事項4の訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項において準用する同法126条6項の規定に適合する。
(3) 独立特許要件
この特許異議の申立てにおいては、請求項1~10について特許異議の申立てがされているから、本件訂正後における請求項1~10に記載されている事項により特定される発明について、特許法120条の5第9項において読み替えて準用する同法126条7項に規定する独立特許要件は課されない。
(4) 本件訂正の適否についての当合議体の判断のまとめ
前記(1)~(3)において検討したとおり、訂正事項1~4の訂正は、いずれも、特許法120条の5第2項ただし書1号又は3号に掲げる事項を目的とするものであって同項の規定に適合し、かつ、同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するから、本件訂正は適法なものである。
よって、前記結論のとおり、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕について訂正することを認める。
第4 本件訂正後の本件発明について
前記第3に示したとおり、本件訂正は認められたから、本件特許の請求項1~10に係る発明(以下、請求項の番号に従って「本件発明1」などという。)は、それぞれ、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1~10の記載は、前記第3の3に示したとおりである。
第5 先の取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~10に対して、当審において令和7年4月24日付けで特許権者に通知した取消理由1の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如)
請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において発行された下記の文献に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~10に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
記
なお、甲1号証~甲6号証は、特許異議申立人が提出した文献であり、引用文献1~3は、当審における職権調査により発見した文献である。
甲第1号証:特許第5051677号公報
甲第2号証:特許第5617440号公報
甲第3号証:特許第6361915号公報
甲第4号証:特開2018-117586号公報
甲第5号証:特開2019-198240号公報
甲第6号証:特許第2906502号公報
引用文献1:特開2009-95297号公報
引用文献2:特開2006-115798号公報
引用文献3:特開2009-189362号公報
2 各文献に記載された事項及び甲1発明等の認定
(1) 甲第1号証に記載された事項及び甲1発明の認定
ア 甲第1号証に記載された事項
本件特許の出願前に発行された甲第1号証(特許第5051677号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付したものである(以下同様である。)。
(ア) 請求項1~6
「【請求項1】
相互に接続可能である複数のモジュールと、
前記モジュールに設ける第1の閉鎖空間と、
前記第1の閉鎖空間に設ける開口部を開閉する扉と、
前記開口部の周縁部に設ける接続部材と、
除染剤を供給する除染剤供給モジュールと、
を備え、
前記除染剤供給モジュールにより前記第1の閉鎖空間に前記除染剤を供給し、接続する一方の前記モジュールの前記接続部材及び前記扉と他方の前記モジュールの前記接続部材と前記扉で形成する第2の閉鎖空間に前記除染剤を供給し、接続した複数の前記モジュールを無菌状態に保った一体的な閉鎖空間にすることを特徴とする細胞培養処理システム。
【請求項2】
命令に応じてモジュールが所定の処理を実行するよう制御するモジュール制御装置と、
前記接続部材を介して接続されている前記モジュールの前記モジュール制御装置と電気的に接続されており、前記各モジュールの動作を制御する統合制御装置と、
を備え、
前記統合制御装置により、前記接続された複数の前記モジュールと通信を行い、前記モジュールのIDを認識して、前記IDに応じた動作命令を前記モジュールに対して行うことで、接続した複数の前記モジュールを関連付けて各種培養処理の一連の処理工程を統合処理し、又は別々に各種細胞培養処理を実行することを特徴とする請求項1記載の細胞培養処理システム。
【請求項3】
内部に搬送ロボットを備えており、前記各モジュールが接続される搬送モジュールを備え、
前記搬送ロボットにより、接続された1のモジュールの前記第1の閉鎖空間から他のモジュールの前記第1の閉鎖空間へ、前記第2の閉鎖空間を介して被搬送物を移動させることを特徴とする請求項1または2に記載の細胞培養処理システム。
【請求項4】
前記接続部材は、内部が中空形状であるシール部材と、前記シール部材の内部に気体等注入手段とを備えており、前記シール部材を膨張させて前記第2の閉鎖空間内を密閉にシールすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の細胞培養処理システム。
【請求項5】
前記接続部材を介して複数の前記モジュールを接続する工程と、
複数の前記接続部材と複数の前記扉により形成される前記第2の閉鎖空間に、前記除染剤供給モジュールより前記除染剤を供給して前記第2の閉鎖空間内を除染する工程と、
前記扉を開けて前記第1の閉鎖空間及び前記第2の閉鎖空間を連通して一体の無菌閉鎖空間を形成する工程とを備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の細胞培養処理システムのモジュール接続方法。
【請求項6】
複数の前記モジュールを、隙間をあけて設置する工程と、複数の前記モジュールに備えるシール部材を、前記隙間を埋めるように膨張させて複数の前記モジュールを接続する工程と、複数の前記接続部材と複数の前記扉により形成される前記第2の閉鎖空間に前記除染剤供給モジュールからの前記除染剤を供給して前記第2の閉鎖空間内を除染する工程と、前記扉を開けて前記第1の閉鎖空間及び前記第2の閉鎖空間を連通して一体の無菌閉鎖空間を形成する工程とを備えることを特徴とする請求項4に記載の細胞培養処理システムのモジュール接続方法。」
(イ) 段落【0001】~【0008】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、生物学、創薬、薬学等の分野において最適な細胞等の細胞培養処理システムに関するものである。特に、再生医療または、バイオ医薬生産のための細胞、組織、臓器等(以下、細胞等という。)の細胞培養処理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒトや動物の細胞を用いて、失われた、または機能低下を起こした細胞等を修復する再生医療へ期待が高まっている。また、体性細胞、体性幹細胞の増殖や組織化の研究開発が進展している。更にES細胞の研究やiPS細胞を作成、増殖する技術開発が進展している。これら治療に用いられる細胞等を体外で培養し、さらに組織化するには、安全性の向上や高品質化、ハイスループット化、トータル製造コスト低減等の問題を解決した細胞培養処理システムが望まれている。
…(中略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の細胞培養処理システムは、多様な細胞培養プロセスが実施できるようにするために大型で複雑化している。このため、従来のシステムでは、設備のコストが非常に高くなるという問題があった。
本発明はこれらの問題点に鑑みてなされたものである。本発明の細胞培養処理システムは、多種多様な培養プロセスを低コストで処理できるシステムを提供することを目的とする。また使用目的に応じて多種の細胞・組織等の培養プロセスに柔軟に対応できる合理的な細胞培養処理システムを提供することを目的とする。」
(ウ) 段落【0029】~【0033】、図1
「【0029】
図1は、本発明の細胞培養処理システムの実施例の平面図である。また、1aは細胞培養処理システムの一実施例である。11は搬送モジュールである。12は分注モジュールである。13は恒温モジュールである。14は細胞シート積層化モジュールである。15は培養プレート等の搬出入モジュールである。なお、これらのモジュール11~15は例示であり、他の機能を有するモジュールであっても良い。また、より多くのモジュールを接続しても良い。」
「【図1】
[図:0001436160000006.jpg]
」
「【0030】
図面中央の6角形の搬送モジュール11の側面には着脱手段16が設けられている。着脱手段16は搬送モジュール11と、12~15で示すモジュールとを着脱可能に接続する。搬送モジュール11と他のモジュール12~15(処理装置ともいう。)は、外気を遮断する閉鎖空間(筺体など)を備える。搬送モジュールと他モジュールが接続された後は、システム全体で一つの閉鎖空間または密閉空間として、または、各モジュール単位で開閉可能な扉による仕切られた閉鎖空間もしくは、完全密閉した密閉空間とすることができる。
【0031】
本実施例においては、搬送モジュールと他モジュールとが接続されたときに、除染剤供給モジュール18からの除染・除菌ガス供給配管35a~c(除染・除菌ガス供給口36)も接続される。これにより、各処理モジュール内に除染剤が供給可能となり、細胞積層化システム1aの内部のすみずみまで除染・除菌が可能となっている。なお、35aは、除染剤供給モジュール18からの除染剤を搬送モジュール11に直接供給するための除菌ガス供給配管であり、配管35bは、除染剤供給モジュール18からの除染剤を他のモジュール12~15に供給するモジュール18側の除菌ガス供給配管である。配管35cは配管35bと搬送モジュール11内部の配管(図示せず)を介して連結されている。配管35cは除染剤供給モジュール18からの除染剤を他のモジュール12~15に供給するモジュール12~15側の除菌ガス供給配管である。なお、除染剤供給配管35は、本実施例のように搬送モジュールを介して他モジュールに配管されることに限定されるものではない。他の実施例として除染剤供給モジュールから直接配管される構成としてもよい。
【0032】
このような細胞培養処理システム1aは、各モジュールを筺体等の閉鎖空間を備えており、筺体上部にファン・フィルタ・モジュールを備えた清浄雰囲気(クラス1000以下、望ましくはクラス100以下)としてもよい。ファン・フィルタ・モジュールは、筺体内部に正常空気等を送風するファンと、送風に含まれる塵埃やウィルス等を筺体内に持ち込むのを防止するフィルタなどからなる。このファンとフィルタと近接して一体のモジュールとして備える。そのほか、ファンとフィルタとの間に通風管を介してそれらを離れた位置となるように設けてもよい。
【0033】
細胞培養処理システム1aは、着脱手段16を介してモジュールを接続できるので、モジュール台数を増減することができる。このため、多くの種類の細胞、組織等の培養プロセスに対応できるように各モジュールの組み合わせを変えることができる。用途により使い分けられるという利点がある。たとえば、用途は、細胞懸濁液の入庫、培養プレートへの細胞播種、培地交換、細胞シートの積層化、積層化細胞組織の出庫などである。」
(エ) 段落【0048】~【0049】、図3
「【0048】
図3は、本発明のモジュールの一種である搬送モジュール11の一部切り欠き斜視図である。」
「【図3】
[図:0001436160000007.jpg]
」
「【0049】
21は、平面視したときに六角形である基台であり、22は、基台21の上部中央に備える搬送ロボットである。23は、スカラ型搬送ロボット22を外部雰囲気から遮断する(筺体の側壁23aと筺体の天井部23bとからなる)筺体である。24は、筺体23の外部と筺体内部との間で被搬送物を搬出入するための開口部である。25a、25bは開口部24を密閉・解放する扉である。16は、基台の側面に取り付けられた搬送モジュール11と他のモジュールである分注モジュール12等とを着脱する着脱手段である。この着脱手段16によって、搬送モジュール11を密閉性と無菌性を保ちつつ結合し、または離脱させることができる。無菌状態を保ちつつモジュール結合して密閉状態とすることで、モジュール内部の細胞等を雑菌や、他の細胞等から汚染されることを防ぐことができる。このため、本システムでは、細胞等の品質の安全性が確保される。なお、本実施例において、モジュール内部のダスト量を最小限に抑えるために、HEPAフィルタ27などによるファン・フィルタ・モジュール(空気清浄モジュール)28を備える構成としてもよい。」
(オ) 段落【0064】~【0069】、図5、6
「【0064】
図5に示す扉25aは、駆動手段55と扉部材56とからなる。本実施例では、駆動手段55は、エアシリンダであり、上下動させることで扉56を開閉することができる。駆動手段55の可動部分に蛇腹シール57が取り付けられている。これにより、除染剤が扉駆動手段の内部に流入して内部部材が腐食するのを防止している。図5(A)は、扉駆動手段55の作動により扉部材56が降下して開口部24を通して第1の閉鎖空間V1の内側V1(23inと示す側)と外部V2(23outと示す側)とが連通となっている状態を示している。」
「【図5】
[図:0001436160000008.jpg]
」
「【0065】
図5(B)は、同様に扉部材56が上昇して開口部24が閉じられており、第1の閉鎖空間V1内部が密閉された状態を示している。扉部材56と第1の閉鎖空間V1(開口部24周辺)と接触部分にはシリコーンシール58を(扉側もしくは筺体側に)取り付けている。このシリコーンシールはチューブ状となっている。このチューブ内部に圧縮気体を注入することで膨らみ筺体と扉部材56の間をシールする。本実施例の他、開閉扉の開閉による押圧でシールを押しつぶしてシールするものであってもよい。
【0066】
図3に示す扉25bは、第1の閉鎖空間V1の壁面23aに平行な回転軸を有する回転扉である。扉部材56と第1の閉鎖空間V1(開口部24周辺)と接触部分にはシリコーンシールを(扉側もしくは筺体側に)取り付けている。このような扉では、回転軸にモータもしくはシリンダとリンク部材を取り付けることにより扉を回転駆動させる構成とすることができる。このような扉では、回転力によりシリコーンシールを扉と筺体内部の壁面との間で均等に押しつぶすことでシールができる。回転駆動する箇所にはフッ素系の樹脂材料のOリングもしくはフッ素系のVシールなどを使用することで除染・除菌のためのガスが回転手段の内部に流入して内部部材が腐食するのを防止している。
【0067】
図6は、モジュールと別のモジュールが接続するときの状態を説明する説明図である。23aは、モジュールの第1の閉鎖空間V1の壁面23aである。扉56の図面右側(図中→Sで示す領域)は筺体内部で左側(図中Uで示す領域)は搬送モジュール11の第1の閉鎖空間V1の外部である。別のモジュールの扉部材56aより右側領域(図中→Tで示す領域)は、第1の閉鎖空間V1の外部である。領域V2(V2の領域を第2の閉鎖空間と称す。)は、モジュールと別のモジュール。の外部であるが、モジュールと別のモジュールの開口部24、24aが連通となったときは、閉鎖空間の内部となる領域である。」
「【図6】
[図:0001436160000009.jpg]
」
【0068】
図6(A)は、モジュール(第1のモジュールと称す。)と別のモジュール(第2のモジュールと称す。)とを接続する前の状態を示している。図6(B)は、図6(A)の状態から第2のモジュール(図中左側のモジュール)を、シール部材58cとシール受け58bとが当接直前位置まで図中右側に移動させた状態を示している。図6(C)は、内部がチューブ状となっており、そのチューブに気体を注入して膨らませてシール受け58bとシール部材58cとを当接させる。それにより開口部24、24aの周囲を外部から遮断した領域Vを密閉状態(図6(C)で示す。)にしている。その時、この領域Vに除染・除菌ガスを除染・除菌ガス供給口35aから供給して(場合によっては、図示しない除染・除菌ガス排気回収口を設けて)、領域V内部を除染・除菌する。
【0069】
これにより、開口部が連通したときに、筺体内部への菌や細胞等の混入を防止できる。図6(D)では、内部に気体が注入されて膨らんでいるシール部材58dから気体を抜いて、扉部材56aとシール部材と隙間を開けて離す。同様に、内部に気体が注入されて膨らんでいるシール部材58aから気体を抜いて、扉部材56とシール部材と隙間を開けて離す。これにより第1のモジュール、第2のモジュール領域Vが連通させた状態になる。扉を下方に移動させることでシール部材と扉が摩耗することなく(摩耗によるごみを出すことなく、また、摩耗によるシール部材の劣化させることなく)、扉を開くことができる。」
(カ) 段落【0081】~【0100】
「【0081】
ここで、モジュールとは、搬送モジュール、搬出入モジュール、単離初代培養モジュール、継代培養モジュール、チューブ連結ロボット、自動倉庫モジュール、搬送用レーンモジュール、細胞播種モジュール、培地分注モジュール、細胞シート積層化モジュール、恒温モジュール、その他培養・分注・搬送・測定(計量)・分析(観察)モジュール及び、物品(たとえば、マイクロプレート、チューブラック、ディスポチップ、ボトル、試薬チューブ・その他付属品)の貯蔵モジュール、計測モジュール、プレート等の搬出入モジュール、並びに除染・除菌ガス供給モジュール等をいう。
…(中略)…
【0083】
モジュールの一種である搬送モジュール11は、基台と、基台上に備える培養プレート等を搬送するロボットと、ロボットの可動雰囲気を外気から遮断する(モジュールの側部と天井部を覆い、除染・除菌がガスをその内部に充満させて外部に漏れるのを防止する)筺体と、筺体内外で培養プレート等を受け渡しする開口部を開閉する扉と、第1の閉鎖空間V1の内部に除染剤を供給する除染剤供給モジュールと、着脱手段と、を備える構成とすることができる。また、別の構成として、モジュールの下部に移動手段を備える構成とすることができる。
…(中略)…
【0086】
〈搬出入モジュール〉
搬出入モジュールは、機材搬入用のドアを備え、培養に必要な細胞や培養液、薬剤、培養皿や遠沈管などの機材は、このドアから搬出入モジュールに導入される。
搬出入モジュールには、作業者が搬出入モジュールの外側から機材の移動や開封、開栓などを行うための、材質がエラストマからなる操作用グローブが備えて、モジュール内部に持ち込んだ機材を、操作用グローブを使って手動的に培養処理モジュール付近まで移動・設置できるようになっている。作業者の代わりに、ベルトコンベヤやロボットを使用して、移動を行ってもよい。
…(中略)…
【0093】
〈分注モジュール〉
分注モジュールは、大量に増幅した細胞の懸濁液を所定の枚数の温度応答性培養皿に均一かつ正確に播種し、必要に応じて培養皿の培地を取り除き、所定の量の新鮮な培地を添加するモジュールである。
継代培養モジュールからチューブで搬送された細胞懸濁液は、積層処理モジュール内に貯蔵されそこから複数の温度応答性培養皿に播種されるか、貯蔵モジュール等に経由して貯蔵されることなく複数の皿に播種される。播種された懸濁液内の細胞は、温度応答性培養皿に均一に接着する。
【0094】
本発明の分注モジュールは、複数の培養プレート等を載置できる回転台と、分注ノズルを有して液体を供給する液体供給手段と、排液回収ノズルを有して排液を回収する排液回収手段と、分注ノズルと排液ノズルを平面内で移動可能にするノズル駆動手段と、分注ノズルと排液回収ノズルを別々に高さ方向に移動可能にするノズル昇降駆動手段と、回転台の下方から培養プレート等の重量測定をする重量測定手段と、重量測定手段の昇降手段と、を備える。この分注モジュールは、培養プレートに液体を供給する前後において重量測定手段によりを回転台の開口部を介して上昇動作して培養プレート等の重量を測定することを特徴とする。
…(中略)…
【0096】
〈細胞シート積層化モジュール〉
細胞シート積層化モジュールは、シート状になった細胞シートを複数枚重ね合わせ、細胞密度の非常に高い、移植用新生組織を作成するモジュールである。
温度応答性培養皿の細胞接着面上に形成した薄いシート状の細胞は、温度を変える(低下させる)ことによって皿から離れる。そのため、培養皿の温度をクーラ(ペルチェ)等によって低下させて細胞シートを取り出し、これを、ロボットやアクチュエータによって複数枚を重ね合わせる。重ね合わされた細胞シートは、一体化し、細胞密度の非常に高い新生組織となる。この様に、細胞シート積層化モジュールは、細胞の播種、細胞シート化、細胞シートの剥離、を経て複数の細胞シートを積層化して、移植可能な新生組織を作る工程を担っている。
…(中略)…
【0100】
〈恒温モジュール〉
恒温モジュール(インキュベータ)は、細胞を増殖させたり、新生組織を移植までの間、保存したりするための、ガス濃度、温度、湿度を適切に維持するためにある。」
イ 図面から読み取れる事項の認定
(ア) 段落【0029】及び【0030】の記載を踏まえて図1を見ると、次の事項(以下「認定事項1」という。)が看取できる。
<認定事項1>
「細胞培養処理システムが、搬送モジュール、分注モジュール、恒温モジュール、細胞シート積層化モジュール、培養プレート等の搬出入モジュール、除染剤供給モジュールを備え、搬送モジュールの各側面に分注モジュールを含む各モジュールの一つの側面が接続し、各モジュールの他の側面には何も接続されていないこと。」
(イ) 段落【0064】~【0069】の記載を踏まえて図5及び6を見ると、次の事項(以下「認定事項2」という。)が看取できる。
<認定事項2>
「各モジュールにおいて、搬送モジュールと接続する際に搬送モジュールと対向する面の壁面に扉部材が設けられており、搬送モジュールと接続されたときに、扉部材の開閉によって、搬送モジュールの閉鎖空間と各モジュールの閉鎖空間が隔絶又は連通されること。」
ウ 甲1発明の認定
前記アにおいて摘記した事項及び前記イにおいて認定した事項から、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<甲1発明>
「相互に接続可能である複数のモジュールと、前記モジュールに設ける第1の閉鎖空間と、前記第1の閉鎖空間に設ける開口部を開閉する扉と、前記開口部の周縁部に設ける接続部材と、除染剤を供給する除染剤供給モジュールと、を備えた細胞培養処理システムであって、(請求項1)
命令に応じてモジュールが所定の処理を実行するよう制御するモジュール制御装置と、前記接続部材を介して接続されている前記モジュールの前記モジュール制御装置と電気的に接続されており、前記各モジュールの動作を制御する統合制御装置と、を備え、前記統合制御装置により、前記接続された複数の前記モジュールと通信を行い、前記モジュールのIDを認識して、前記IDに応じた動作命令を前記モジュールに対して行うことで、接続した複数の前記モジュールを関連付けて各種培養処理の一連の処理工程を統合処理し、又は別々に各種細胞培養処理を実行するものであり、(請求項2)
搬送モジュール、分注モジュール、恒温モジュール、細胞シート積層化モジュール、培養プレート等の搬出入モジュール、除染剤供給モジュールを備え、搬送モジュールの各側面に分注モジュールを含む各モジュールの一つの側面が接続し、各モジュールの他の側面には何も接続されていなく、(認定事項1)
各モジュールを、筺体等の閉鎖空間を備えており、筺体上部にファン・フィルタ・モジュールを備えた清浄雰囲気(クラス1000以下、望ましくはクラス100以下)とし、(段落【0032】)
細胞培養処理システムは、着脱手段を介してモジュールを接続できるので、モジュール台数を増減することができ、このため、多くの種類の細胞、組織等の培養プロセスに対応できるように各モジュールの組み合わせを変えることができ、(段落【0033】)
搬送モジュールは、基台と、基台上に備える培養プレート等を搬送するロボットと、ロボットの可動雰囲気を外気から遮断する筺体と、筺体内外で培養プレート等を受け渡しする開口部を開閉する扉と、第1の閉鎖空間の内部に除染剤を供給する除染剤供給モジュールと、着脱手段と、を備え、(段落【0083】)
内部に搬送ロボットを備えており、各モジュールが接続される搬送モジュールは、搬送ロボットにより、接続された1のモジュールの閉鎖空間から他のモジュールの閉鎖空間へ、被搬送物を移動させるものであり、(請求項3)
分注モジュールは、大量に増幅した細胞の懸濁液を所定の枚数の温度応答性培養皿に均一かつ正確に播種し、必要に応じて培養皿の培地を取り除き、所定の量の新鮮な培地を添加するモジュールであり、(段落【0093】)
分注モジュールは、複数の培養プレート等を載置できる回転台と、分注ノズルを有して液体を供給する液体供給手段と、排液回収ノズルを有して排液を回収する排液回収手段と、分注ノズルと排液ノズルを平面内で移動可能にするノズル駆動手段と、分注ノズルと排液回収ノズルを別々に高さ方向に移動可能にするノズル昇降駆動手段と、回転台の下方から培養プレート等の重量測定をする重量測定手段と、重量測定手段の昇降手段と、を備え、(段落【0094】)
恒温モジュール(インキュベータ)は、細胞を増殖させたり、新生組織を移植までの間、保存したりするための、ガス濃度、温度、湿度を適切に維持するためにあるものであり、(段落【0100】)
搬出入モジュールは、機材搬入用のドアを備え、培養に必要な細胞や培養液、薬剤、培養皿や遠沈管などの機材は、このドアから搬出入モジュールに導入されるものであり、モジュール内部に持ち込んだ機材を、ベルトコンベヤやロボットを使用して、移動を行ってもよく、(段落【0086】)
細胞シート積層化モジュールは、シート状になった細胞シートを複数枚重ね合わせ、細胞密度の非常に高い、移植用新生組織を作成するモジュールであり、(段落【0096】)
搬送モジュールと他モジュールが接続された後は、システム全体で一つの閉鎖空間または密閉空間として、または、各モジュール単位で開閉可能な扉による仕切られた閉鎖空間もしくは、完全密閉した密閉空間とすることができ、(段落【0033】)
扉は、エアシリンダであり、上下動させることで扉を開閉することができる駆動手段と扉部材とからなり、(【0064】)
各モジュールにおいて、搬送モジュールと接続する際に搬送モジュールと対向する面の壁面に扉部材が設けられており、搬送モジュールと接続されたときに、扉部材の開閉によって、搬送モジュールの閉鎖空間と各モジュールの閉鎖空間が隔絶又は連通される、(認定事項2)
細胞培養処理システム。」
(2) 甲第5号証に記載された事項及び甲5発明の認定
ア 甲第5号証に記載された事項
本件特許の出願前に発行された甲第5号証(特開2019-198240号公報)には、次の事項が記載されている。
(ア) 段落【0001】~【0009】
「【技術分野】
【0001】
この発明は、ロボット装置を備えた細胞増殖装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、成体幹細胞を移植することにより疾患を治療する再生医療や細胞治療に関する研究が盛んに行われている。このような治療を行うために、患者から採取した組織内の成体幹細胞を培養して調整する方法も広く研究されている。細胞を培養することで、組織中での存在率が極めて低い幹細胞を治療に必要な数まで増幅することができる。
…(中略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献1記載の細胞培養装置は、1台のロボットですべての操作を実行するため、インキュベータの数が増えるとアームが届かなくなるおそれがあった。このため、インキュベータの数を増やした場合には、アームの長さを長くしたり、ロボットの台数を増やしたりする必要があり、製造コストやメンテナンスコストが増加するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、インキュベータの数や大きさを増やした場合でも、アームの長さを長くしたり、ロボットの台数を増やしたりする必要がなく、製造コストやメンテナンスコストを抑制することができる細胞増殖装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、細胞培養容器を収容可能なインキュベータを備えた細胞増殖装置であって、細胞培養容器をロボットアームにより取り扱うロボット装置を備え、前記ロボット装置として、インキュベーション前の準備工程を担当する第1のロボット装置と、インキュベータへの細胞培養容器の出し入れを担当する第2のロボット装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は上記の通りであり、ロボット装置として、インキュベーション前の準備工程を担当する第1のロボット装置と、インキュベータへの細胞培養容器の出し入れを担当する第2のロボット装置と、を備える。このような構成によれば、複数のロボット装置で作業を分担して処理することができる。特に、インキュベータへの細胞培養容器の出し入れを第2のロボット装置にのみ担当させているので、第2のロボット装置が処理できる範囲を広くすることができる。よって、インキュベータの数や大きさを増やした場合でも、アームの長さを長くしたり、ロボットの台数を増やしたりする必要がなく、製造コストやメンテナンスコストを抑制することができる。」
(イ) 段落【0014】~【0016】、図1、図2
「【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について、図を参照しながら説明する。
本実施形態に係る細胞増殖装置10は、例えば、患者から採取された細胞(検体)の培養を管理するためのものであり、完全自動化された制御により細胞増殖を実行可能となっている。詳しくは後述するが、細胞増殖装置10内は無菌状態に維持されており、内部に培養に伴う操作を実行するロボット装置30を備えている。この細胞増殖装置10は、体細胞を格納した密封容器(試験管やバイアルなど)を受け取り、細胞培養を自動的に実行した後に、培養後の細胞を密封容器で排出するようになっている。
【0015】
この細胞増殖装置10は、血液細胞から幹細胞を作製するシステムや、他の体細胞から幹細胞を作製するシステムに適用することができる。例えば、この細胞増殖装置10によって培養された細胞は、細胞治療のために患者へと移植することができる。なお、本実施形態においては、治療目的の細胞増殖に細胞増殖装置10を利用する例について説明するが、これに限らず、この細胞増殖装置10はあらゆる細胞の培養に使用することができる。
【0016】
この細胞増殖装置10は、図1~3に示すように、インキュベータ11、作業室20、第1のロボット装置30A、第2のロボット装置30B、滅菌装置50、制御装置40などを備えて構成される。」
「【図1】
[図:0001436160000010.jpg]
」
「【図2】
[図:0001436160000011.jpg]
」
(ウ) 段落【0017】~【0019】
「【0017】
(インキュベータ11)
インキュベータ11は、細胞を培養するためのスペースである。このインキュベータ11には、細胞や培地を格納した細胞培養容器19が収容される。細胞培養容器19として何を用いるかは特に限定しないが、例えば、ボトル、バイオリアクターなどの培養槽、ガス透過性バッグ、フラスコ、シャーレなどを使用することができる。本実施形態においては、ロボット装置30による取り扱いやすさの観点から、角筒状のボトルが細胞培養容器19として使用されている。
…(中略)…
【0019】
本実施形態に係るインキュベータ11は、図2および図3に示すように、1以上のサブユニット12を連結して構成されている。なお、図2および図3では、サブユニット12を3つ連結した状態を示しているが、このサブユニット12の連結数は増減可能である。すなわち、サブユニット12の連結数は任意に設定可能であり、サブユニット12の連結数を2以下としてもよいし、サブユニット12の連結数を4以上としてもよい。」
(エ) 段落【0030】~【0032】
「【0030】
(作業室20)
作業室20は、インキュベーション前の準備工程に係る作業を実行するためのエリアである。この作業室20は、インキュベータ11に隣接するように配置されており、インキュベータ11を構成する複数のサブユニット12のうちの端部のサブユニット12に連結されている。この作業室20の内部は、サブユニット12から隔離された密閉空間を形成している。
【0031】
なお、この作業室20に隣接する端部のサブユニット12と作業室20との間には、図2および図3に示すように、受け渡し部17が配置されている。受け渡し部17は、細胞培養容器19等を受け渡すための小部屋であり、内部が密閉空間となるように構成されている。この受け渡し部17には、作業室20側とサブユニット12側との両方に密閉扉が設けられており、これら2つの密閉扉は同時に開放されないように制御されている。言い換えると、受け渡し部17を介して細胞培養容器19等を受け渡す際にも、密閉扉はいずれか一方しか開かないように制御されている。
【0032】
例えば、作業室20からサブユニット12へと細胞培養容器19を受け渡す場合には、まず作業室20側の密閉扉が開くので、後述する第1のロボット装置30Aが受け渡し部17に細胞培養容器19を載置する。そして、作業室20側の密閉扉が閉じた後に、サブユニット12側の密閉扉が開くので、後述する第2のロボット装置30Bが受け渡し部17に載置された細胞培養容器19を受け取る。その後、サブユニット12側の密閉扉が閉じ、受け渡しが完了する。このような制御により、作業室20とサブユニット12とが連通状態とならず、常に隔離された状態が維持されている。」
(オ) 段落【0036】~【0039】
「【0036】
(第1のロボット装置30A)
第1のロボット装置30Aは、インキュベーション前の準備工程を担当するロボット装置30である。この第1のロボット装置30Aは、作業室20に配置された据え置き型の装置である。この第1のロボット装置30Aは、上記した作業台21に向き合うように配置されており、作業台21の上で各種の装置や器具を使用して培地交換等の作業を行う。
【0037】
この第1のロボット装置30Aは、細胞培養容器19をロボットアームにより取り扱うことが可能な、いわゆる単腕ロボットである。具体的には、この第1のロボット装置30Aは、作業室20に固定された基台31と、基台31の上に固定されたアーム32と、を有している。
【0038】
基台31は、作業室20の床面に、例えばアンカーボルト等により固定されている。なお、基台31は、作業室20の床面ではなく、天井面や側面に固定されていてもよい。
【0039】
また、本実施形態に係るアーム32は、6つの関節部を有し、6自由度を有するアームとして構成されている。このアーム32の先端には一対の爪部33が設けられており、この一対の爪部33が互いに遠近する方向に動作することで、細胞培養容器19や各種器具を把持できるように構成されている。」
(カ) 段落【0040】~【0041】
「【0040】
(第2のロボット装置30B)
第2のロボット装置30Bは、インキュベータ11への細胞培養容器19の出し入れを担当するロボット装置30である。この第2のロボット装置30Bは、インキュベータ11の内部に配置されている。
【0041】
なお、インキュベータ11の床面には、図2等に示すように、サブユニット12を横断するように連続したレール36が設けられている。第2のロボット装置30Bは、このレール36上を走行することで、レール36に沿って横方向に移動可能となっている。第2のロボット装置30Bは、レール36に沿って移動することで、連結されたサブユニット12を横断して自由に移動可能となっている。」
(キ) 段落【0051】~【0054】
「【0051】
(制御装置40)
制御装置40は、上記したロボット装置30などの各種機器を制御するためのものである。この制御装置40は、CPUを中心に構成され、ROM、RAM、入出力ポート等を備えている。また、ROMに記憶されたオペレーティングシステムによって各種の入力装置及び出力装置を制御するように構成されている。
【0052】
なお、制御装置40に接続された入力装置としては、特に図示しないが、例えば、液晶タッチパネル、キーボード、マウス、ボタン、バーコードリーダ等の入力デバイス(1つまたは複数)を備えることができる。これらの入力デバイスがユーザからの操作を受け付けることで、その操作内容に応じて制御装置40が細胞増殖装置10の作動を制御する。
【0053】
また、制御装置40に接続された出力装置としては、図1に示すように、インキュベータ11のサブユニット12、シャッター18、ピペット装置22、第1のロボット装置30A、第2のロボット装置30B、滅菌装置50などが設けられている。
【0054】
この制御装置40は、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することで、図1に示すように、スケジュール管理部41、第1ロボット制御部42、第2ロボット制御部43、配置管理部46、サブユニット状態管理部47、などとして機能する。なお、制御装置40は、これらの機能に限らず、他の機能を備えていてもよい。」
(ク) 段落【0072】~【0076】
「【0072】
(培地交換等の手順)
本実施形態の細胞増殖装置10では、細胞培養に必要な培養操作である培地交換や継代操作を自動で行うことができる。例えば、培地交換は以下のようにして行われる。
【0073】
まず、スケジュール管理部41は、スケジュールを確認することで培地交換が必要な細胞培養容器19の存在を検知したら、第2ロボット制御部43に細胞培養容器19の取り出しを命令する。
【0074】
命令を受け取った第2ロボット制御部43は、第2のロボット装置30Bを操作し、インキュベータ11の収容部14に収容されている細胞培養容器19を取り出す。すなわち、まず配置管理部46に問い合わせることで、取り出したい細胞培養容器19の位置を把握する。そして、把握した位置の細胞培養容器19を取り出すように、第2のロボット装置30Bの作動を制御する。
【0075】
この第2ロボット制御部43の制御により、第2のロボット装置30Bは、収容部14から細胞培養容器19を取り出し、取り出した細胞培養容器19を受け渡し部17に載置する。細胞培養容器19を載置したら、第2ロボット制御部43によって、スケジュール管理部41に細胞培養容器19の取り出し完了が通知される。
細胞培養容器19の取り出し完了の通知を受け取ったスケジュール管理部41は、第1ロボット制御部42に、培地交換処理の実行を命令する。
命令を受け取った第1ロボット制御部42は、例えば以下のような処理を第1のロボット装置30Aに実行させる。
【0076】
すなわち、まず、第1のロボット装置30Aは、受け渡し部17に載置された細胞培養容器19を受け取り、作業台21に移動させる。そして、細胞培養容器19の蓋を開ける。続いて、ピペット装置22を使用して細胞培養容器19内の培地を吸引して廃棄し、新たな培地を細胞培養容器19に供給する。最後に、細胞培養容器19の蓋を閉じ、蓋を閉じた細胞培養容器19を受け渡し部17に載置する。
細胞培養容器19の載置が完了したら、第1ロボット制御部42は、スケジュール管理部41に培地交換処理完了を通知する。
培地交換処理完了の通知を受け取ったスケジュール管理部41は、第2ロボット制御部43に、細胞培養容器19の収容を命令する。
命令を受け取った第2ロボット制御部43は、第2のロボット装置30Bを操作し、細胞培養容器19をもとの位置に収容する。以上により、培地交換が終了する。」
イ 甲5発明の認定
前記アにおいて摘記した事項から、甲第5号証には次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<甲5発明>
「インキュベータ11、作業室20、第1のロボット装置30A、第2のロボット装置30B、滅菌装置50、制御装置40などを備えて構成される細胞増殖装置10であって、(段落【0016】)
インキュベータ11は、細胞を培養するためのスペースであって、このインキュベータ11には、細胞や培地を格納した細胞培養容器19が収容され、(段落【0017】)
インキュベータ11は、1以上のサブユニット12を連結して構成されており、(段落【0019】)
作業室20は、インキュベーション前の準備工程に係る作業を実行するためのエリアであり、(段落【0030】)
この作業室20は、インキュベータ11に隣接するように配置されており、インキュベータ11を構成する複数のサブユニット12のうちの端部のサブユニット12に連結され、この作業室20の内部は、サブユニット12から隔離された密閉空間を形成しており、(段落【0030】)
この作業室20に隣接する端部のサブユニット12と作業室20との間には、受け渡し部17が配置され、受け渡し部17は、細胞培養容器19等を受け渡すための小部屋であり、作業室20側とサブユニット12側との両方に密閉扉が設けられており、これら2つの密閉扉は同時に開放されないように制御されており、(段落【0031】)
作業室20からサブユニット12へと細胞培養容器19を受け渡す場合には、まず作業室20側の密閉扉が開くので、第1のロボット装置30Aが受け渡し部17に細胞培養容器19を載置し、作業室20側の密閉扉が閉じた後に、サブユニット12側の密閉扉が開くので、第2のロボット装置30Bが受け渡し部17に載置された細胞培養容器19を受け取り、その後、サブユニット12側の密閉扉が閉じ、受け渡しが完了するものであり、(段落【0032】)
制御装置40は、上記したロボット装置30などの各種機器を制御するためのものであり、(段落【0051】)
この制御装置40は、ROMに記憶されたプログラムをCPUが実行することで、第1ロボット制御部42、第2ロボット制御部43などとして機能するものであり、(段落【0054】)
第1のロボット装置30Aは、インキュベーション前の準備工程を担当するロボット装置30であり、作業台21に向き合うように配置されており、作業台21の上で各種の装置や器具を使用して培地交換等の作業を行うものであり、(段落【0036】)
この第1のロボット装置30Aは、作業室20に固定された基台31と、基台31の上に固定されたアーム32と、を有しており、(段落【0037】)
アーム32の先端には一対の爪部33が設けられており、この一対の爪部33が互いに遠近する方向に動作することで、細胞培養容器19や各種器具を把持できるように構成されており、(段落【0039】)
第2のロボット装置30Bは、インキュベータ11への細胞培養容器19の出し入れを担当するロボット装置30であり、インキュベータ11の内部に配置されており、(段落【0040】)
インキュベータ11の床面には、サブユニット12を横断するように連続したレール36が設けられており、第2のロボット装置30Bは、このレール36上を走行することで、レール36に沿って横方向に移動可能となっているものである、(段落【0041】)
細胞増殖装置10。」
(3) 引用文献1に記載された事項
本件特許の出願前に発行された引用文献1(特開2009-95297号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0037】
また、図7および図8は、容器の奥行方向に沿って両側面が平行をなす矩形状の培養容器19をアーム部37で保持する状態を示した図である。図7(a)は、矩形状のフラスコ(25cm2フラスコ)の保持状態を示した図である。図7(b)は、矩形状のフラスコ(75cm2フラスコ)の保持状態を示した図である。矩形状の培養容器19を搬送するときには、アーム部37はアーム41内側の平坦な第1容器保持面41aを用いて培養容器19を挟持する。これにより、矩形状の培養容器19を搬送するときには培養容器19の側面と各アーム41の第1容器保持面41aがそれぞれ面接触して容器を支持するので、一対のアーム41で培養容器19を安定して保持できる。また、図8は、矩形状の培養容器19(12ウェルプレート)の保持状態を示した図である。」
「【図7】
[図:0001436160000012.jpg]
」
「【0038】
さらに、図9は、容器の側面よりも外側に張り出した鍔部を両側面に有するフランジ28a付きのホルダー28の保持状態を示した図である。なお、ホルダー28の上面には、培養容器19を位置決めするためのガイド(ピン、位置決め穴など)が設けられており、所定の位置に培養容器19を固定してホルダー28ごと搬送することが可能である。
【0039】
フランジ付きのホルダー28を搬送するときには、アーム部37は各アーム41の上面の突起部41cをそれぞれ培養容器19のフランジ下面に当接させてすくい上げることで、一対のアーム41の間にホルダー28を架け渡した状態で搬送できる(図9(b)参照)。なお、フランジ付きのホルダー28を搬送するときには、アーム41の第1容器保持面41aでホルダー28を挟持して搬送することも可能である。」
「【図9】
[図:0001436160000013.jpg]
」
「【0040】
本実施形態の容器搬送装置23では、円形の培養容器19、矩形状の培養容器19をいずれも搬送することが可能である。また、メーカーごとに寸法が若干異なる同一種類の容器についても対応することが可能である。
【0041】
さらに、本実施形態では、例えば、ホルダー28に載置された培養容器19を個別に取り上げて搬送することや、培養容器19をホルダー28ごと搬送することがいずれも可能となる。特に、複数の培養容器19が載置されたホルダー28では、複数の培養容器19を一度に運ぶことが可能となる。また、複数の培養容器19が載置されたホルダー28において、特定の培養容器19の培地交換を行う場合には、培地を交換する培養容器19のみを搬送して容器を傾ける工程が生じるが、本実施形態のアーム部37は個別に容器を把持できるのでかかる動作にも対応することが可能となる。」
(4) 引用文献2に記載された事項
本件特許の出願前に発行された引用文献2(特開2006-115798号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0037】
本実施形態の装置では、細胞培養に必要な培養操作である培地交換操作と継代操作とを自動で行うことができる。本実施形態の自動細胞培養装置に於いては、培地交換操作は以下のようにして行われる。まず、図3に示すように、操作ロボット19がインキュベータ部14内のシャーレラック35に載置されている細胞培養中のシャーレ34を取り出し、図4に示すように培養操作部13の方向に向きを変え、培養操作部13のターンテーブル31上にシャーレ34を移動させる。次に、操作ロボット19はシャーレ34の蓋を開ける。続いて、ピペット装置32がシャーレ内の培地を吸引して廃棄し、新たな培地をシャーレに供給する。次に、操作ロボット19がシャーレ34の蓋を閉じ、インキュベータ部14内のシャーレラック35の元の位置に戻す。このような一連の操作は、コントローラ23の制御の下に行われる。」
(5) 甲第2号証に記載された事項
本件特許の出願前に発行された甲第2号証(特許第5617440号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
例えば、ヒト細胞・組織の培養操作を行う場合に、細胞や組織が入った培養容器を開放する際の環境は、清浄度がクラス100(ISOクラス5)の無菌管理区域(グレードA)とすることとされている。グレードAの環境としては、クリーンベンチ、セーフティキャビネット(特許文献1参照)、クリーンブースおよびアイソレータの内部が該当する。
【0003】
クリーンベンチ、セーフティキャビネット、クリーンブースの場合は、除染機能を有するパスボックスを備えていないため、周囲の環境は、清浄度がクラス10,000(ISOクラス7)の直接支援区域(グレードB)であることが望ましく、また、直接支援区域(グレードB)は、清浄度がクラス100,000(ISOクラス8)の支援区域(グレードC)内にあり、さらに、この支援区域Cは、それ以下のその他の支援区域(グレードD)から区画されている必要がある。このように少なくとも3段階の区域を設ける必要があり、設備が大がかりになってしまう。
【0004】
これに対し、除染機能を有するパスボックスを備えたアイソレータ(特許文献2参照)であれば、パスボックスは周囲環境に開放されるものであるが、除染をしてからアイソレータに開放されるので、外部雰囲気と内部雰囲気とが直接ふれあうことがなく、その他の支援区域(グレードD)に直接設置することができる。」
(6) 甲第4号証に記載された事項
本件特許の出願前に発行された甲第4号証(特開2018-117586号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【0018】
図1、図2A、および図2Bに示すように、自動細胞培養装置50は、主要な構成として、ロボット51、ツールチェンジャー52、培養容器把持ツール53、薬液吸上げ/注入ツール54、紫外光線光源ツール55、紫外光線量測定器56、ディッシュ61、培養作業部71、培養液保存部72、シリンジ供給部74、および廃棄部75を有する。
…(中略)…
【0020】
ロボット51は、Z軸の先端にツールチェンジャー52を備える。
【0021】
ツールチェンジャー52は、培養容器把持ツール53および薬液吸上げ/注入ツール54のそれぞれに対して着脱可能である。すなわち、ロボット51は、ツールチェンジャー52を用いて、培養容器把持ツール53または薬液吸上げ/注入ツール54を着脱(取り付け/切り離し)し、自動での培養容器の搬送作業や薬液の吸上げ/注入作業を実現する。」
「【0035】
細胞培養動作は、以下の[1]~[16]の順で行われる。
【0036】
[1]ロボット51は、ツールチェンジャー52に培養容器把持ツール53を取り付ける。
[2]ロボット51は、細胞が培養されたディッシュ61を培養作業部71へ搬送する。
[3]ロボット51は、ツールチェンジャー52から培養容器把持ツール53を切り離す。
[4]ロボット51は、ツールチェンジャー52に薬液吸上げ/注入ツール54を取り付ける。
[5]ロボット51は、シリンジ供給部74でシリンジ62(第1のシリンジ)を取り付ける。
[6]ロボット51は、培養作業部71へ移動し、先に搬送されたディッシュ61からリンジ62(第1のシリンジ)により培養液を吸い上げる。
[7]ロボット51は、廃棄部75へ移動し、吸い上げた培養液を廃棄部75に廃棄する。
[8]ロボット51は、シリンジ62(第1のシリンジ)を廃棄部75に廃棄する。
[9]ロボット51は、シリンジ供給部74でシリンジ62(第1のシリンジとは別の第2のシリンジ)を取り付ける。
[10]ロボット51は、培養液保存部72へ移動し、保存容器73から培養液を吸い上げる。
[11]ロボット51は、培養作業部71へ移動し、吸い上げた培養液をディッシュ61へ注入する。
[12]ロボット51は、廃棄部75へ移動し、シリンジ62(第2のシリンジ)を廃棄する。
[13]ロボット51は、ツールチェンジャー52から薬液吸上げ/注入ツール54を切り離す。
[14]ロボット51は、ツールチェンジャー52に培養容器把持ツール53を取り付ける。
[15]ロボット51は、培養作業部71からディッシュ61を搬送する。
[16]ロボット51は、ツールチェンジャー52から培養容器把持ツール53を切り離す。」
「【0043】
次に、第2の滅菌動作について説明する。第2の滅菌動作は、自動細胞培養装置50の架台における予め設定された領域(位置と言い換えてもよい)を滅菌する動作である。
【0044】
ロボット51は、ツールチェンジャー52に紫外光線光源ツール55を取り付け、紫外光線光源63から紫外光線64を照射させながら、予め設定された領域(以下、設定領域という)を移動する。
【0045】
設定領域は、細胞培養動作時に落下した薬液(培養液)が付着しうる、架台の一部領域である。設定領域の一例を図7に示す。
【0046】
図7に示す設定領域Aは、例えば、薬液吸上げ/注入ツール54により培養液が吸い上げられた状態でロボット51が移動する領域である。換言すれば、設定領域Aは、上記細胞培養時の動作で説明した[6]、[7]、[10]、[11]においてロボット51が停止したり、移動したりする領域である。よって、例えば、設定領域Aは、培養作業部71、培養液保存部72、廃棄部75、および、それら各部間の領域を含む。」
(7) 甲第6号証に記載された事項
本件特許の出願前に発行された甲第6号証(特許第2906502号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】ラインを構成する複数のステージに設置された各産業用ロボットに、通常の作業時に使用され動作経路データ、作業位置データ及び作業内容データから成る前進実行用ティーチデータと、ライン異常時に使用可能で前記動作経路データのうちの他の部材と干渉する虞のある部分を他の部材と干渉する虞のない経路に置き換えて成る退避経路データのみから成る後退実行用ティーチデータとを予めティーチングしておき、ラインに異常が発生した時、停止させるべきステージを判断し、その判断結果に基づいて前記複数のステージのうち停止させる必要のないステージの産業用ロボットへ前進指令を出す一方、停止させるべきステージの産業用ロボットへは後退指令を出し、前進指令を受けた産業用ロボットは前記前進実行用ティーチデータに基づいて通常の動作を継続して実行させ、後退指令を受けた産業用ロボットは前記後退実行用ティーチデータに基づいて原点位置に復帰させることを特徴とする産業用ロボットの制御方法。
【発明の詳細な説明】
[発明の目的]
(産業上の利用分野)
本発明はラインを構成するステージに設置された産業用ロボットの制御方法に関する。
(従来の技術)
例えば自動化された自動車生産ラインは一連の複数のステージから構成され、各ステージにはティーチングプレイバック型の産業用ロボット(以下、単にロボットと呼ぶ。)が設置されている。そして、各ロボットにはティーチデータに基づいてロボットの作動を個別的に制御するロボットコントローラが接続されており、これらのロボットコントローラはもう一段階上のラインコントローラにより総括制御されている(第1図参照)。
このような生産ラインに何らかの異常が生じた場合には直ちにラインを停止させ、再稼働が可能な状態にラインを復旧させることが要請される。
この点、従来は、ラインを構成する全てのロボットにつき、選択的に、作業者がティーチボックスを使用して一度ロボットを他の部材と干渉しない安全な位置に退避させ、そこからロボットを原点位置に戻したり、または、ロボットを動作経路上にそっくりそのまま逆戻しして原点位置に戻したり、または、ロボットを引き続き継続して実行させ原点位置に戻したりしていた。
(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、作業者のマニュアル操作による場合には、完全復旧までに長時間を要すると共に、作業者が操作を誤るとロボットが他の部材と干渉する虞がある。また、ロボットを単に逆戻しさせる場合には、戻し時に不要な作業を実行させなければならず、また、その作業は戻し時におけるインターロックを見ながら実行しなければならないため、この場合にも復旧にはやはり時間がかかってしまう。しかも、ラインのロボットを全て一律に逆戻しするため、継続実行が可能なロボットまで不必要な逆戻しをさせることになる。
なお、特開昭62-211705号公報には、ロボットが他の部材と干渉することなく復旧作業を短時間で行なえるようにするため、1台のロボットにつき、各作業位置ごとにそこから原点位置に直接戻る適当な退避経路をティーチングするようにした方法が開示されている。しかし、ラインを構成する全てのロボットについて前記ティーチングを行なうことは、確かに理想的ではあるが、膨大な量のティーチングデータが必要となるので事実上極めて困難であり、また、非常時のためだけにこうしたことをするのは不経済でもある。
本発明は上記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、ラインに異常が生じた時、ラインを構成する全てのロボットを迅速、確実かつ容易に原点位置に復帰させることが可能なロボットの制御方法を提供することを目的とする。」
(8) 引用文献3に記載された事項
本件特許の出願前に発行された引用文献3(特開2009-189362号公報)には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の培養を自動化できる細胞培養装置に関する。
【背景技術】
…(中略)…
【0003】
そこで、近年では、細胞培養を自動化できる細胞培養装置が開発されてきている。例えば、特許文献1には、培地の交換操作や細胞の継代操作を自動的に行う細胞培養装置が提案されている。この細胞培養装置は、液体を吸い出すアスピレータユニットと、培地、剥離液、洗浄液等を供給する薬液供給ユニットと、液体を定量的に吸入及び吐出するピペッティングユニットと、遠沈管内の細胞懸濁液から細胞を分離する遠心分離ユニットと、培養容器及び遠沈管を各ユニットに移動するハンドリングユニットとを備え、全ユニットがクリーンベンチ内に収納可能に構成されていることを特徴とするものである。
【0004】
しかしながら、上記従来の細胞培養装置は、全てのユニットを1台のクリーンベンチ内に搭載しているため、例えば培養方法(接着、浮遊、包埋等)に応じて設備を変更したり、遠心分離を行わずに継代操作を行う等、培養条件に応じて設備を変更することができなかった。」
「【0039】
(実施の形態1)
以下、本発明の細胞培養装置の実施の形態1について、図面を交えて説明する。図1は、本発明の実施の形態1における細胞培養装置の一例を示す斜視図である。図1に示すように、細胞培養装置1は、複数台(図1においては5台)の作業ユニット2が互いの側壁の外面を当接させて連接されており、細胞培養に係る各作業工程に用いる設備がそれらの作業ユニット2に分散されて装備されている。また、後述するように、各作業ユニットの筐体には、隣接する作業ユニットに当接する側壁に開口部が形成されており、各作業ユニット2の内部空間がそれらの開口部により互いに連通している。
【0040】
また、ここでは、細胞培養装置1の両端に配置される各作業ユニットの筐体に、細胞培養装置1の内部空間を外部と連通させる開口部(第2開口部)3aが形成されている。また、それらの作業ユニットには開口部3aを開閉する遮断扉(第2扉)4aが設けられており、それらの遮断扉4aを閉じると、細胞培養装置1の内部空間が密閉される構造となっている。このように細胞培養装置を密閉可能とすることで、コンタミネーションの防止を図ることができる。」
「【図1】
[図:0001436160000014.jpg]
」
「【0051】
また、作業ユニット2には、その内部空間に充填される気体を清浄化する清浄化手段としてHEPAフィルタ11が設けられており、清浄化された空気が作業ユニット2の内部空間に供給される構成となっている。図示しないが、具体的には、作業ユニットの内部に、HEPAフィルタが介装された空気供給チューブに接続する空気供給ノズルを配置して、空気供給チューブに接続するエアポンプから送気された空気がHEPAフィルタを介して空気供給ノズルへ送られ、清浄化された空気が作業ユニットの内部空間に供給される構成等にすればよい。ここでは、HEPAフィルタ11は作業ユニット2の外面に設置されているが、無論、作業ユニット2の内部に設置させてもよい。」
3 当審の判断
(1) 甲1発明に基づく判断
ア 本件発明1について
(ア) 対比分析
本件発明1と甲1発明を対比する。
a 「細胞培養装置」の発明である本件発明1と「細胞培養処理システム」の発明である甲1発明は、「細胞培養装置」の発明である点において一致する。
b(a) 甲1発明における「分注モジュール」の「閉鎖空間」は、本件発明1の「第1空間」に相当し、同様にして、「搬送モジュール」、「恒温モジュール」等の「閉鎖空間」は、「第2空間」に相当する。
(b) また、甲1発明における「分注モジュール」、「搬送モジュール」及び「恒温モジュール」の「閉鎖空間」は、「清浄雰囲気(クラス1000以下、望ましくはクラス100以下)」であるから、空気清浄度の規格基準を満たす空間であることが明らかである。
(c) したがって、本件発明1と甲1発明は、「空気清浄度の規格基準を満たす第1空間と、前記空気清浄度の規格基準を満たす第2空間と」を「備える」点で共通する。
c(a) 甲1発明における「分注モジュール」は、「必要に応じて培養皿の培地を取り除き、所定の量の新鮮な培地を添加するモジュール」であるところ、「分注モジュール」が、当該モジュールにおける作業を担う「複数の培養プレート等を載置できる回転台と、…(中略)…、分注ノズルと排液回収ノズルを別々に高さ方向に移動可能にするノズル昇降駆動手段」「を備え[る]」ことは、前記b(a)も踏まえると、本件発明1において、「第1空間に」、「培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部」が「設置され[る]」ことに相当する。
(b) 甲1発明における「搬送モジュール」が、「培養プレート等を搬送するロボット」「を備え[る]」ことは、前記b(a)も踏まえると、本件発明1において、「第2空間に」、「培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部」が「設置され[る]」ことに相当する。
(c) したがって、本件発明1と甲1発明は、「前記第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部と、前記第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部と」を「備える」点で一致する。
d(a) 甲1発明における「モジュール制御装置と、前記接続部材を介して接続されている前記モジュールの前記モジュール制御装置と電気的に接続されており、前記各モジュールの動作を制御する統合制御装置」は、本件発明1における「操作部制御手段」に相当する。
(b) 甲1発明において、「複数の培養プレート等を載置できる回転台と、…(中略)…、分注ノズルと排液回収ノズルを別々に高さ方向に移動可能にするノズル昇降駆動手段」の可動範囲が「分注モジュール」の「閉鎖空間」内であることは明らかであるから、甲1発明は、本件発明1における、「前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし」に相当する構成を備えるといえる。
(c) 甲1発明において、「搬送ロボットにより、接続された1のモジュールの閉鎖空間から他のモジュールの閉鎖空間へ、被搬送物を移動させる」ところ、「他のモジュール」が「分注モジュール」を含むことは明らかであるから、甲1発明は、本件発明1における、「第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする」に相当する構成を備えるといえる。
(d) したがって、本件発明1と甲1発明は、「前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段」を「備える」点で一致する。
e(a) 甲1発明における「分注モジュール」は、「必要に応じて培養皿の培地を取り除き、所定の量の新鮮な培地を添加するモジュール」であるから、本件発明1における「培地交換部」に相当し、前記c(a)において検討した事項も踏まえると、本件発明1でいうところの「第1操作部が配置される」モジュールであるといえる。
(b) 甲1発明における「搬送モジュール」は、「培養プレート等を搬送するロボット」を備えるから、本件発明1における「搬送ロボット部」に相当し、前記c(b)において検討した事項も踏まえると、本件発明1でいうところの「第2操作部が配置される」モジュールであるといえる。
(c) 甲1発明における「恒温モジュール」は、「細胞を増殖させたり、新生組織を移植までの間、保存したりするための、ガス濃度、温度、湿度を適切に維持するためにある」から、本件発明1における「インキュベータが配置されるインキュベータ部」に相当する。
(d) したがって、本件発明1と甲1発明は、「前記第1操作部が配置される培地交換部と、前記第2操作部が配置される搬送ロボット部と、インキュベータが配置されるインキュベータ部とを備える」点で一致する。
f(a) 甲1発明は、「相互に接続可能である複数のモジュールと、前記モジュールに設ける第1の閉鎖空間と、前記第1の閉鎖空間に設ける開口部を開閉する扉と、前記開口部の周縁部に設ける接続部材と」を備え、「搬送モジュールと他モジュールが接続された後は、システム全体で一つの閉鎖空間または密閉空間として、または、各モジュール単位で開閉可能な扉による仕切られた閉鎖空間もしくは、完全密閉した密閉空間とすることができ」、「扉は、エアシリンダであり、上下動させることで扉を開閉することができる駆動手段と扉部材とからな[り]」、「各モジュールにおいて、搬送モジュールと接続する際に搬送モジュールと対向する面の壁面に扉部材が設けられており、搬送モジュールと接続されたときに、扉部材の開閉によって、搬送モジュールの閉鎖空間と各モジュールの閉鎖空間が隔絶又は連通され」、「搬送モジュールの各側面に分注モジュールを含む各モジュールの一つの側面が接続し、各モジュールの他の側面には何も接続されていな[い]」(以下「甲1発明閉鎖空間構成」という。)ものである。
(b) 前記甲1発明閉鎖空間構成を踏まえると、甲1発明は、「壁面」により「閉鎖空間」の内外を隔てているといえるから、本件発明1における「壁部により囲って内部空間を形成し」に相当する構成を備えるといえる。
(c) また、前記甲1発明閉鎖空間構成から、「搬送モジュール」の「閉鎖空間」とこれに「接続され」た「分注モジュール」の「閉鎖空間」は、「扉」の「開(閉)」によって「連通され」るから、前記b(a)において検討した事項も踏まえると、甲1発明は、本件発明1における「前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり、前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み」に相当する構成を備えるといえる。
(d) 前記甲1発明閉鎖空間構成における、「分注モジュール」の「何も接続されていな[い]」「他の側面」は、前記(b)において検討した事項も踏まえると、本件発明1における「前記培地交換部の外側の壁部により構成され[る]」「前記壁部の一部」に相当するといえる。
(e) 前記甲1発明閉鎖空間構成において、「分注モジュール」が「搬送モジュールと対向する面の壁面に」「エアシリンダであり、上下動させることで扉を開閉することができる駆動手段と扉部材とからな[る]」「開閉可能な扉」を備えることは、前記(c)において検討した事項も踏まえると、本件発明1において「前記培地交換部の前記内側の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ」ていることと、「前記培地交換部の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ[ている]」点で共通する。
(f) したがって、本件発明1と甲1発明は、「壁部により囲って内部空間を形成し、前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり、前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み、前記壁部の一部は、前記培地交換部の外側の壁部により構成され、前記培地交換部の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ[ている]」点で一致する。
g(a) 甲1発明は、「各モジュールを、筺体等の閉鎖空間を備えており、筺体上部にファン・フィルタ・モジュールを備えた清浄雰囲気(クラス1000以下、望ましくはクラス100以下)と[する]」ものであるから、本件発明1の「前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ、前記第2空間へ空気の供給が第2空間用フィルターユニットにより行われ、前記第1空間用フィルターユニットが、前記第2空間用フィルターユニットに対し独立して前記細胞培養装置の外の空気の取り込みを行い、前記第1空間への空気が、前記第1空間用フィルターユニットから前記第1空間に供給される」に相当する構成を備えるといえる。
(b) したがって、本件発明1と甲1発明は、「前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ、前記第2空間へ空気の供給が第2空間用フィルターユニットにより行われ、前記第1空間用フィルターユニットが、前記第2空間用フィルターユニットに対し独立して前記細胞培養装置の外の空気の取り込みを行い、前記第1空間への空気が、前記第1空間用フィルターユニットから前記第1空間に供給される」点で一致する。
(イ) 一致点及び相違点
前記(ア)の対比分析の結果をまとめると、本件発明1と甲1発明は、次のaに示す一致点において一致し、後記bに示す相違点において相違すると認められる。
a 一致点
「空気清浄度の規格基準を満たす第1空間と、前記空気清浄度の規格基準を満たす第2空間と、前記第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部と、前記第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部と、前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段と前記第1操作部が配置される培地交換部と、前記第2操作部が配置される搬送ロボット部と、インキュベータが配置されるインキュベータ部とを備える、細胞培養装置であって、壁部により囲って内部空間を形成し、前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり、前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み、前記壁部の一部は、前記培地交換部の外側の壁部により構成され、前記培地交換部の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ、前記第2空間へ空気の供給が第2空間用フィルターユニットにより行われ、前記第1空間用フィルターユニットが、前記第2空間用フィルターユニットに対し独立して前記細胞培養装置の外の空気の取り込みを行い、前記第1空間への空気が、前記第1空間用フィルターユニットから前記第1空間に供給される、細胞培養装置」の発明である点。
b 相違点
(a) 相違点1
「第1空間」及び「第2空間」が「満たす」「空気清浄度の規格基準」について、
本件発明1においては、第1空間が満たすのは「第1基準」で、第2空間が満たすのは「第1基準よりも低い第2基準」であるのに対して、
甲1発明においては、「クラス1000以下、望ましくはクラス100以下」であるところ、両空間が満たす基準の関係は不明である点。
(b) 相違点2
「培地交換部」の「壁部」について、
本件発明1においては、「前記第1空間と前記第2空間は、前記培地交換部の内側の壁部により区画され」ており、自動開閉シャッターが設けられているのが「前記内側の」壁部であるのに対して、
甲1発明においては、「搬送モジュールの閉鎖空間と」「分注モジュール」「の閉鎖空間」は、「扉部材」により「隔絶」される点。
(ウ) 判断
事案に鑑みて、相違点2を先に検討する。
a 甲1発明は、「着脱手段を介してモジュールを接続できるので、モジュール台数を増減することができ、このため、多くの種類の細胞、組織等の培養プロセスに対応できるように各モジュールの組み合わせを変えることができ[る]」ようにしたものである。
b ここで、甲1発明において、「分注モジュール」の「搬送モジュールと対向する面の壁面」(本件発明1における「内側の壁部」に相当する。)が「搬送モジュールの閉鎖空間と」「分注モジュール」「の閉鎖空間」を区画するように構成することは、当該壁面に、「分注モジュール」の「壁面」も兼ねさせ、「搬送モジュール」と「分注モジュール」を当該「壁面」を含む一体的な構成とすることにほかならない。
c しかしながら、「搬送モジュール」と「分注モジュール」を一体的な構成とすることは、前記aにおいて示した、着脱手段を介してモジュールを接続できるようにすることで、各モジュールの組み合わせを変えることができるという甲1発明の目的に反するため、甲1発明において前記bの構成、すなわち、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することには阻害要因が存在するから、そのような構成を採用することを動機付けられない。
d また、甲第2~6号証及び引用文献1~3に記載された事項を踏まえても、甲1発明において、上記構成を採用することを動機付けることはできない。
e ここで、特許異議申立人は、令和7年12月25日に提出された意見書において、相違点2に係る本件発明1の「前記第1空間と前記第2空間は、前記培地交換部の内側の壁部により区画され」(下線は合議体が付した)との構成と、甲第1号証に記載された事項との関係について、何ら具体的な主張を行っていない。
f したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明、甲第2~6号証及び引用文献1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 本件発明2~10について
本件発明2~10は、少なくとも前記相違点2に係る本件発明1と同一の構成を備えるから、前記ア(ウ)において検討したのと同様の理由により、甲1発明、甲第2~6号証及び引用文献1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
(2) 甲5発明に基づく判断
ア 本件発明1について
(ア) 対比分析
本件発明1と甲5発明を対比する。
a 「細胞培養装置」の発明である本件発明1と「細胞増殖装置10」の発明である甲5発明は、「細胞培養装置」の発明である点において一致する。
b(a) 甲5発明における「インキュベータ11を構成する複数の」「サブユニット12から隔離された密閉空間を形成して[いる]」「作業室20の内部」及び「細胞培養容器19等を受け渡すための小部屋であり、作業室20側とサブユニット12側との両方に密閉扉が設けられて[いる]」「受け渡し部17」の内部は、本件発明1の「第1空間」に相当し、同様にして、「インキュベータ11の内部」は、「第2空間」に相当する。
(b) また、甲5発明における「作業室20の内部」、「受け渡し部17」の内部及び「インキュベータ11の内部」は、細胞培養に関する処理が行われる空間であるから、空気清浄度の規格基準を満たす空間であることが明らかである。
(c) したがって、本件発明1と甲5発明は、「空気清浄度の規格基準を満たす第1空間と、前記空気清浄度の規格基準を満たす第2空間と」を「備える」点で共通する。
c(a) 甲5発明における「作業室20に固定された基台31と、基台31の上に固定されたアーム32と、を有して[いる]」「培地交換等の作業を行う」「第1のロボット装置30A」は、本件発明1における、「第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部」に相当する。
(b) 甲5発明における「インキュベータ11の内部に配置されており」「インキュベータ11への細胞培養容器19の出し入れを担当する」「ロボット装置30B」は、本件発明1における「前記第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部」に相当する。
(c) したがって、本件発明1と甲5発明は、「前記第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部と、前記第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部と」を「備える」点で一致する。
d(a) 甲5発明における「第1ロボット制御部42、第2ロボット制御部43などとして機能する」「制御装置40」は、本件発明1における「操作部制御手段」に相当する。
(b) 甲5発明において、「第1のロボット装置30A」の可動範囲が「作業室20の内部」及び「受け渡し部17」の内部であることが明らかであり、「第2のロボット装置30B」の可動範囲が「インキュベータ11の内部」及び「受け渡し部17」の内部であることが明らかであるから、前記b(a)も踏まえると、甲5発明は、本件発明1における、「前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする」に相当する構成を備えるといえる。
(c) したがって、本件発明1と甲5発明は、「前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段」を「備える」点で一致する。
e(a) 甲5発明における「作業室20」は、前記dにおいて検討した事項を踏まえると、本件発明1における「前記第1操作部が配置される培地交換部」に相当する。
また、甲5発明における「インキュベータ11」は、本件発明1における「インキュベータが配置されるインキュベータ部」に相当する。
(b) したがって、本件発明1と甲5発明は、「前記第1操作部が配置される培地交換部と、インキュベータが配置されるインキュベータ部」を「備える」点で一致する。
f(a) 甲5発明において、「作業室20」及び「インキュベータ11」がその内部を外部から隔離するために隔壁を備えることは明らかであるから、甲5発明は、本件発明1における「壁部により囲って内部空間を形成し」に相当する構成を備えるといえる。
(b) 前記c(a)において検討した事項を踏まえると、甲5発明が、本件発明1における「前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であり」に相当する構成を備えるといえる。
(c) したがって、本件発明1と甲5発明は、「壁部により囲って内部空間を形成し、前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間であ[る]」点で一致する。
(イ) 一致点及び相違点
前記(ア)の対比分析の結果をまとめると、本件発明1と甲5発明は、次のaに示す一致点において一致し、後記bに示す相違点において相違すると認められる。
a 一致点
「空気清浄度の規格基準を満たす第1空間と、前記空気清浄度の規格基準を満たす第2空間と、前記第1空間に設置され、培地交換に係る操作を実行可能な第1操作部と、前記第2空間に設置され、培地が格納された細胞培養容器の移動操作を実行可能な第2操作部と、前記第1操作部が前記培地交換に係る操作を行う場合の可動範囲を前記第1空間内とし、前記第2操作部が前記細胞培養容器を移動させる場合の可動範囲を前記第2空間及び前記第1空間とする操作部制御手段と前記第1操作部が配置される培地交換部と、インキュベータが配置されるインキュベータ部とを備える、細胞培養装置であって、壁部により囲って内部空間を形成し、前記第1空間は、前記内部空間のうち、前記培地交換部の内部空間である細胞培養装置」の発明である点。
b 相違点
(a) 相違点1
本件発明1において、「前記第1空間へ空気の供給が第1空間用フィルターユニットにより行われ、前記第2空間へ空気の供給が第2空間用フィルターユニットにより行われ、前記第1空間用フィルターユニットが、前記第2空間用フィルターユニットに対し独立して前記細胞培養装置の外の空気の取り込みを行い、前記第1空間への空気が、前記第1空間用フィルターユニットから前記第1空間に供給され」、「空気清浄度の規格基準」として第1空間が満たすのは「第1基準」で、第2空間が満たすのは「第1基準よりも低い第2基準」であるのに対して、
甲5発明においては、「作業室20」及び「受け渡し部17」の内部並びに「インキュベータ11の内部」への空気供給の態様が不明であり、両空間が満たす基準の関係が不明である点。
(b) 相違点2
「前記第2操作部が配置される」場所について
本件発明1では、(インキュベータ部や培地交換部と異なる)「搬送ロボット部」であるのに対して、
甲5発明においては、「インキュベータ11」である点。
(c) 相違点3
本件発明1では、「前記第2空間は、少なくとも、空間的に繋がった前記搬送ロボット部の内部空間と前記インキュベータ部の内部空間とを含み、前記壁部の一部は、前記培地交換部の外側の壁部により構成され、前記第1空間と前記第2空間は、前記培地交換部の内側の壁部により区画され、前記培地交換部の前記内側の壁部には、開放により前記第1空間と前記第2空間とを繋げる自動開閉シャッターが設けられ[ている]」のに対して、
甲5発明においては、「第2空間」に相当する空間が「インキュベータ11」内の空間である点。
(ウ) 判断
事案に鑑みて、相違点2及び3を先に検討する。
a 相違点2について
(a) 甲5発明の細胞増殖装置10内における「細胞培養容器19」等の受け渡しについて、「作業室20」と「インキュベータ11」の間のみで行うことが想定されており、当該受け渡しは、「作業室20」に配置された「第1のロボット装置30A」と「インキュベータ11」に配置された「第2のロボット装置30B」により実現されている。
(b) そして、甲5発明が相違点2に係る本件発明1の構成を備えるようにするためには、「作業室20」及び「インキュベータ11」とは別に新たな作業部位(本件発明1における「搬送ロボット部」に相当する。)を設けた上で、新たに設けた作業部位にも、「細胞培養容器19」等の受け渡しを行うロボットを設ける構成とする必要がある。
(c) しかしながら、甲5発明においてそのような構成を採用することは、甲5発明が備える構成を大きく変更してより複雑な構成とするものであるところ、甲第5号証の記載や技術常識を踏まえても、当業者がそのような構成を採用することを動機付けることはできない。
(d) また、甲第1~4、6号証及び引用文献1~3に記載された事項を踏まえても、甲5発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を採用することを動機付けることはできない。
b 相違点3について
前記aにおいて相違点2について検討したとおり、甲5発明において、本件発明1における「搬送ロボット部」に相当する構成を備えさせることは動機付けられないから、同様にして、「搬送ロボット部」に相当する構成を備えることを前提とした、相違点3に係る本件発明1の構成を備えることを動機付けることはできない。
c まとめ
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲5発明、甲第1~4、6号証及び引用文献1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 本件発明2~10について
本件発明2~10は、少なくとも前記相違点2及び3に係る本件発明1と同一の構成を備えるから、前記ア(ウ)において検討したのと同様の理由により、甲5発明、甲第1~4、6号証及び引用文献1~3に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知で通知した(特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由を実質的に含む)取消理由によっては、本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すことはできない。また、他に本件特許の請求項1~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2025-700109