特許拒絶査定不服審判
2024-016225
物体検出装置、物体検出方法、及びプログラム
- 審判番号
- 2024-016225
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-114122
- 請求日
- 2024年10月09日
- 審決日
- 2026年06月17日
- 公報発行日
- 2026年08月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】株式会社アイシン
- 【請求人代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 柳 重幸
- 分類
- P18 .561-Z (G01S) / P18 .575-Z (G01S) / P18 .121-Z (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-114122「物体検出装置、物体検出方法、及びプログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和5年1月20日出願公開、特開2023-10176〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年7月9日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年 2月26日付け:拒絶理由通知書
同年 4月26日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月27日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 7月 9日 :原査定の謄本の送達)
同年10月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年10月9日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年10月9日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年10月9日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和6年4月26日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定する、
物体検出装置。
【請求項2】
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記第1の閾値は、前記空気吸収減衰係数が基準値の場合には、前記第1の閾値の基準値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも小さい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも大きい値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも大きい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも小さい値である、
物体検出装置。
【請求項3】
前記複数の前記送受信部を備え、
前記複数の前記送受信部は、それぞれ、前記超音波の送信と前記超音波の受信との両方を行う振動子を有する、
請求項1又は2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記複数の前記送受信部のそれぞれについて前記直接波の前記強度を取得し、
前記検出部は、複数の前記直接波の前記強度の平均値を算出し、前記平均値に基づいて前記空気吸収減衰係数を算出する、
請求項1~3のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記第2の前記送受信部は、前記第1の前記送受信部の隣りに位置する、
請求項1~4のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項6】
前記送受信部は、3つ以上設けられ、
前記第2の前記送受信部は、前記複数の前記送受信部のうち前記第1の前記送受信部と最も近い前記送受信部以外である、
請求項1~4のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記直接波の前記強度が第2の閾値以下の場合には、前記物体が存在するかを判定せず、
前記第2の閾値は、前記空気吸収減衰係数が変更されても、変更されない、
請求項1~6のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項8】
物体検出装置で実行される物体検出方法であって、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得するステップと、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出するステップと、
を含み、
前記検出するステップは、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定する、
物体検出方法。
【請求項9】
物体検出装置で実行される物体検出方法であって、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得するステップと、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出するステップと、
を含み、
前記検出するステップは、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記第1の閾値は、前記空気吸収減衰係数が基準値の場合には、前記第1の閾値の基準値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも小さい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも大きい値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも大きい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも小さい値である、
物体検出方法。
【請求項10】
コンピュータを、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
として機能させ、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定する、
プログラム。
【請求項11】
コンピュータを、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
として機能させ、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記第1の閾値は、前記空気吸収減衰係数が基準値の場合には、前記第1の閾値の基準値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも小さい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも大きい値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも大きい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも小さい値である、
プログラム。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
物体検出装置。
【請求項2】
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記第1の閾値は、前記空気吸収減衰係数が基準値の場合には、前記第1の閾値の基準値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも小さい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも大きい値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも大きい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも小さい値であり、
前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
物体検出装置。
【請求項3】
前記複数の前記送受信部を備え、
前記複数の前記送受信部は、それぞれ、前記超音波の送信と前記超音波の受信との両方を行う振動子を有する、
請求項1又は2に記載の物体検出装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記複数の前記送受信部のそれぞれについて前記直接波の前記強度を取得し、
前記検出部は、複数の前記直接波の前記強度の平均値を算出し、前記平均値に基づいて前記空気吸収減衰係数を算出する、
請求項1~3のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項5】
前記第2の前記送受信部は、前記第1の前記送受信部の隣りに位置する、
請求項1~4のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項6】
前記送受信部は、3つ以上設けられ、
前記第2の前記送受信部は、前記複数の前記送受信部のうち前記第1の前記送受信部と最も近い前記送受信部以外である、
請求項1~4のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項7】
前記検出部は、前記直接波の前記強度が第2の閾値以下の場合には、前記物体が存在するかを判定せず、
前記第2の閾値は、前記空気吸収減衰係数が変更されても、変更されない、
請求項1~6のうちいずれか一つに記載の物体検出装置。
【請求項8】
物体検出装置で実行される物体検出方法であって、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得するステップと、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出するステップと、
を含み、
前記検出するステップは、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
物体検出方法。
【請求項9】
物体検出装置で実行される物体検出方法であって、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得するステップと、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出するステップと、
を含み、
前記検出するステップは、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記第1の閾値は、前記空気吸収減衰係数が基準値の場合には、前記第1の閾値の基準値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも小さい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも大きい値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも大きい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも小さい値であり、
前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
物体検出方法。
【請求項10】
コンピュータを、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
として機能させ、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
プログラム。
【請求項11】
コンピュータを、
超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
として機能させ、
前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
前記第1の閾値は、前記空気吸収減衰係数が基準値の場合には、前記第1の閾値の基準値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも小さい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも大きい値であり、前記空気吸収減衰係数が前記空気吸収減衰係数の前記基準値よりも大きい場合には、前記第1の閾値の前記基準値よりも小さい値であり、
前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
プログラム。」
2 新規事項の追加
(1) 新規事項の追加の有無についての判断の概要
本件補正後の特許請求の範囲の記載は、前記1(2)に示したとおりであるところ、本件補正により、請求項1、2、8~11に対して、「前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された」との発明特定事項(以下「閾値設定事項」という。)が追加された。
しかしながら、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)には、閾値設定事項は記載も示唆もされていないから、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであり、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。下記(2)において詳説する。
(2) 新規事項の追加の有無についての判断
ア 当初明細書等に記載された事項
当初明細書等には、閾値設定事項に関連し得ると考えられる記載として、例えば以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付した。
「【0036】
図4は、実施形態において物体Oを検出する際のエコー情報の一例を示す図である。図4には、送受信部21が送受信する超音波の強度の経時的変化を示すエコー情報としての線L11が例示されている。図4に示すグラフにおいて、横軸は時間(TOF)に対応し、縦軸は送受信部21により送受信される超音波の強度(振幅値)に対応する。
【0037】
線L11は、振動子31の振動の大きさを示す強度の経時的変化を示している。この線L11からは、振動子31がタイミングt0から時間Taだけ駆動されて振動することで、タイミングt1で送信波の送信が完了し、その後タイミングt2に至るまでの時間Tbの間、慣性による振動子31の振動が減衰しながら継続する、ということが読み取れる。従って、図4に示されるグラフにおいては、時間Tbが、いわゆる残響時間に対応する。
【0038】
線L11は、送信波の送信が開始したタイミングt0から時間Tpだけ経過したタイミングt4で、振動子31の振動の大きさが反射波用閾値Th1以上となるピークを迎える。この反射波用閾値Th1は、振動子31の振動が検出対象である物体O(他車両、構造物、歩行者等)からの反射波の受信によってもたらされたものか、又は、検出対象の物体O以外の物体(例えば路面G等)からの反射波の受信によってもたらされたものかを識別するために設定される値である。反射波用閾値Th1以上のピークを有する振動は、検出対象の物体Oからの反射波の受信によってもたらされたものとみなすことができる。反射波用閾値Th1は、第1の閾値の一例である。」
「【図4】
[図:0001437847000001.jpg]
」
「【0046】
このように、超音波は空気状態によって影響を受けるため、本実施形態では、空気状態に応じて反射波用閾値Th1を設定する。具体的には、本実施形態では、空気状態に応じた空気吸収減衰係数を算出し、この空気吸収減衰係数に応じた反射波用閾値Th1を設定する。
【0047】
ここで、図8は、実施形態において基準の空気状態におけるエコー情報と反射波用閾値との一例を示す図である。図9は、実施形態において基準の空気状態とは異なる空気状態におけるエコー情報と反射波用閾値との一例を示す図である。図10は、実施形態において基準の空気状態とは異なる空気状態におけるエコー情報と反射波用閾値との一例を示す図である。また、図8は、空気吸収減衰係数が基準値の場合の図であり、図9は、空気吸収減衰係数が基準値よりも小さい場合の図であり、図10は、空気吸収減衰係数が基準値よりも大きい場合の図である。また、図8~図10には、反射波用閾値Tha,Thb,Thcが示されている。反射波用閾値Thaは、基準の反射波用閾値Th1であり、反射波用閾値Thbは、反射波用閾値Thaよりも大きい反射波用閾値Th1であり、反射波用閾値Thcは、反射波用閾値Thaよりも小さい反射波用閾値Th1である。図8に示すように、本実施形態では、空気減衰係数が基準値の場合には、反射波用閾値Th1として基準値が用いられる。また、図9に示すように、空気減衰係数が基準よりも小さい場合には、反射波用閾値Th1は基準値よりも大きい反射波用閾値Thbが用いられる。また、図10に示すように、空気減衰係数が基準よりも小さい場合には、反射波用閾値Th1は基準値よりも小さい反射波用閾値Thcが用いられる。これにより、図8~図10の場合において、それぞれピークP1は物体Oであるとは判定されず、ピークP2が物体Oであると判定される。」
「【図8】
[図:0001437847000002.jpg]
【図9】
[図:0001437847000003.jpg]
【図10】
[図:0001437847000004.jpg]
」
イ 閾値設定事項の追加が新規事項を追加するものであることについて
(ア) 当初明細書等の【図8】~【図10】には、閾値設定事項における「第1の閾値」に対応する「反射波用閾値Tha」、「反射波用閾値Thb」及び「反射波用閾値Thc」(以下、これらを総称して「反射波用閾値Th1」という。)の経時変化が、「エコー情報としての線L11」とともに示されている。
そして、これらの図において、反射波用閾値Th1は、時間の経過に伴い閾値の値が小さくなるように設定された部分を有するものとして示されている。
(イ) しかしながら、反射波用閾値Th1について、時間の経過に伴い閾値の値が小さくなる部分が、送受信部による超音波の送信開始時点と前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の間であることは、これらの図において示されていない。
すなわち、当初明細書等の【図4】について説明する同【0038】に記載された「送信波の送信が開始したタイミングt0」は、閾値設定事項における「前記送受信部による前記超音波の送信開始時点」に対応し、同【0037】に記載された「送信波の送信が完了」する「タイミングt1」は、閾値設定事項における「前記送受信部による前記超音波の送信完了時点」に対応すると考えられるところ、【図4】に示された「エコー情報としての線L11」の時間帯t0~t1(超音波の送信開始時点~送信完了時点)の波形に照らすと、【図8】~【図10】で示す波形には、当該時間帯のものが含まれていないことは明らかであるから、少なくとも閾値設定事項における「前記送受信部による前記超音波の送信開始時点」の閾値はこれら【図8】~【図10】には示されていないと理解するのが相当である。
また、前記アに摘記したその他の記載においても、閾値設定事項は示されておらず、示唆もされていない。
(ウ) したがって、前記アに摘記した当初明細書等の記載において、閾値設定事項が記載又は示唆されているとはいえない。
(エ) さらに、当初明細書等のその余の箇所においても、閾値設定事項は記載も示唆もされておらず、本願の出願時の技術常識を考慮しても、当初明細書等の記載から閾値設定事項を導くことはできない。
(オ) 前記(ア)~(エ)において検討したとおり、当初明細書等には、閾値設定事項は記載も示唆もされていないから、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものである。
ウ 請求人の主張について(新規事項)
(ア) 請求人の主張の内容
請求人は、審判請求書の「3-2 補正の根拠」において、請求項1、2、8~11に対して閾値設定事項を追加する補正は、当初明細書等の【図8】~【図10】等を根拠としている旨主張している。
(イ) 請求人の主張の検討
しかしながら、前記イ(ア)~(ウ)において説示したとおり、当初明細書等の【図8】~【図10】等の記載は、閾値設定事項の根拠となるものではないから、請求人の主張は採用できない。
(3) 新規事項の追加の有無についての判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
以上のとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものであるが、仮に、閾値設定事項を当初明細書等の【図8】~【図10】に示されているとおり、第1の閾値が時間の経過に伴い閾値の値が小さくなるように設定された部分を有することを特定するものと理解し、本件補正が特許法17条の2第3項の規定に適合するものであるとして、本件補正のうち請求項1についてする補正についての補正の目的要件及び独立特許要件について、以下に検討する。
3 補正の目的
本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値」について、「各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された」との限定を付加するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
4 独立特許要件の判断
本件補正は、前記3のとおり、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するから、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に示した本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Dまでに分説する。
<本件補正発明の分説>
A 超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
B 前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、
を備え、
C 前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定し、
D 前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
X 物体検出装置。
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は、当合議体において付したものである。
「【技術分野】
【0001】
本開示は、物体検出装置、物体検出方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載された超音波センサによる超音波の送受信の結果に基づいて、車両の周囲に存在する物体を検出する物体検出装置が知られている。
…(中略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
超音波は、空気中を伝播する間に減衰するが、この超音波の減衰は空気状態(空気の温度や湿度)によって変わる。このため、物体検出装置の物体の検出の精度が空気状態の影響を受けて変化する場合がある。
【0005】
そこで、本開示の課題の一つは、物体の検出の精度が空気状態の影響を受けるのを抑制することができる物体検出装置、物体検出方法、及びプログラムを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一例としての物体検出装置は、超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部と、前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部と、を備える。
【0007】
このような構成によれば、超音波の空気吸収減衰係数を算出し、空気吸収減衰係数と反射波の強度とに基づいて物体を検出するので、物体の検出の精度が空気状態の影響を受けるのを抑制することができる。
【0008】
前記物体検出装置では、例えば、前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定する。
【0009】
このような構成によれば、第1の閾値が空気吸収減衰係数に応じた値となるので、第1の閾値が固定値の場合に比べて、物体の検出の精度が向上する。」
(2) 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2002-131417号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。なお、当合議体により、後記(ウ)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。
a 【0001】~【0008】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両等に設置されて、超音波により車両周辺の障害物を検知して、主に駐車や出庫の際の障害物への衝突を未然に防止する障害物検知装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】一般に、超音波を用いた障害物検知装置では、超音波を送信し、その超音波の障害物Pからの反射波を受信するまでの伝搬時間を測定することで、障害物Pまでの距離を計算している。
【0003】ところが超音波の伝搬速度つまり音速値cは周囲温度等による環境の状態の影響を受け変化する。空気中の音速値c[m/s]は周囲温度T[℃]に対して次式の関係があり、温度により音速値cが異なることがわかる。
【0004】
c[m/s]=331.5[m/s]+0.61×T[℃] (1)
ここで、ある温度での音速値c(例えば20℃での音速値)を用いて常に距離演算を行うと実際の距離より短く検知されたり、長く検知されたりする。特に実際の距離よりも短く検知されてしまうと、車両の場合衝突の可能性が高くなるという問題が生じる。
…(中略)…
【0006】そこで、この音速変化によって生じる誤差をなくすために、超音波センサからの所定の距離に固定障害物(基準マークとなるダミー障害物)を設けてこの障害物に反射した反射波の伝搬時間に基づいて補正を行う方式が特開平7-198828に示されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、超音波センサの検知エリア内に固定障害物を配置する必要があるため、この固定障害物の近傍に本来検知すべき障害物Pがある場合には、固定障害物と障害物Pとの反射波を区別することができず、超音波センサの位置を中心とした固定障害物までの距離を半径とする領域付近が非検知領域となるという問題があった。
【0008】本発明は、上記事由に鑑みてなしたもので、その目的とするところは、補正用の固定障害物を設けることなく、周囲温度の変化による超音波の音速変化を補正して高精度に障害物の位置検知を行うことができる障害物検知装置を提供することにある。」
b 【0022】~【0025】、【図1】
「【0022】図1に本発明の第1の実施の形態の障害物検知装置のブロック図を示す。超音波センサSaは、第1の超音波センサ部として超音波を送信する超音波送信手段1と超音波送信信号となる送波信号を発生する送波信号発生手段4を有するとともに、第3の超音波センサ部として超音波を受信する超音波受信手段3とを有している。すなわち送受兼用となっている。」
「【図1】
[図:0001437847000005.jpg]
」
「【0023】また超音波センサSbは、第2の超音波センサ部として超音波を受信する超音波受信手段2を有している。すなわち受信専用となっている。そして、超音波センサSaと超音波センサSbとは互いに所定の距離(センサ間距離)dを隔てて配置されている。
【0024】超音波センサSbでは、超音波センサSaの超音波送信手段1から送信された超音波の直接波を受信した直接波受信時刻td及び前記超音波の障害物Pからの反射波を受信した反射波受信時刻tbを検出する受信時刻検出手段5と、センサ間距離dと直接波受信時刻tdとにより前記超音波の音速値cを演算する音速演算手段6と、音速値cと反射波受信時刻tbとにより障害物Pとの距離を演算する障害物距離演算手段7とを有している。
【0025】次に、超音波センサSaの超音波受信手段3には、第2の超音波センサSbの受信時刻検出手段5と同様の機能をもつ受信時刻検出手段8を有している。尚、受信時刻検出手段8では反射波の受信時刻taを検出することが主に行われる。そして、超音波センサSb(超音波受信手段2及び受信時刻検出手段5)と超音波センサSa(超音波受信手段3及び受信時刻検出手段8)とにおける該両者の反射波受信時刻ta,tbの時間差(|tb-ta|)を演算する反射波受信時間差演算手段9と、反射波受信時刻ta,tbの遅速比較を行うつまり超音波センサSaと超音波センサSbとでどちらが超音波の反射波を先に受信したかを検知する反射波受信時刻比較手段10と、時間差(|tb-ta|)と前記遅速比較との結果により障害物Pの方向を演算する障害物方向演算手段11とを有している。」
c 【0026】~【0037】、【図2】、【図5】
「【0026】次に動作について、図2及び図3のタイミングチャート、並びに図4の障害物位置検知概要図に基づき説明する。超音波センサSaの送波信号発生手段4において送波信号が発せられると(図2(a))、超音波送信手段1で超音波が送信される。この送波信号はパルス波形であり、送波信号がHIGHレベルである間、一定周波数(例えば40kHz)の超音波が送信される。そして送波信号はLOWレベルになり、超音波は送信されなくなる。」
「【図2】
[図:0001437847000006.jpg]
」
「【0027】次に超音波センサSbの超音波受信手段2においては、送信された超音波の直接波が受信されるとともに、その後その超音波の反射波が受信される(図2(c))。受信時刻検出手段5では、この直接波及び反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて直接波受信時刻tdと反射波受信時刻tbとが検出される(図2(c))。尚、この直接波受信時刻tdと反射波受信時刻tbは、超音波が送信された時を基準とするものである。
【0028】ここで、音速演算手段6において、直接波受信時刻tdと、超音波センサSaと超音波センサSbとのセンサ間距離dに基づいて、超音波の音速値cの演算が行われる。音速値c[m/s]は、次式で求めることができる。
【0029】
c[m/s]=d[m]/td[s] (2)
そして、障害物距離演算手段7において、この音速値cと反射波受信時刻tbとに基づいて障害物距離(障害物Pと超音波センサSa,Sbとの距離)Lの演算が行われる。障害物距離Lは、
L[m]=tb[s]×c[m/s]/2 (3)
で求めることができる。
【0030】次に障害物Pの方向を検知する動作について説明する。超音波センサSbでの超音波受信については上述の通りであるが(図2(c))、超音波センサSaの超音波受信手段3においても同様に超音波の受信が行われる。つまり超音波センサSaから送信された超音波を同じ超音波センサSaで受信が行われることになる。この様子を図2(b)に示す。先ず超音波センサSa自身が送信した超音波が直接受信される。そして送波信号がLOWになれば受信されなくなるが、送波信号がLOWレベルになっても超音波振動子の振動が停止するまでに時間を要するため、しばらく残響信号が残る。そしてその後その超音波の反射波が受信される。そして図2(c)と同様にこの直接波及び反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて残響信号の無くなる時刻trと反射波受信時刻taとが検出される。ここで、障害物方向を検知する場合に必要となるのが反射波受信時刻taである。
…(中略)…
【0036】以上のようにして、障害物距離L及び障害物位置角度φを求めることができ障害物Pの位置を検知することができる。所謂障害物の2次元位置を検知することができる2次元超音波センサの機能をもつ。図5に超音波センサSa,Sbの構造例を示す。両者を所定の間隔d(センサ間距離)で配置し、超音波センサSaでは超音波の送信及び反射波の受信が行われ、超音波センサSbでは超音波の直接波と反射波の受信が行われて図2乃至図3に示した動作が行われる。」
「【図5】
[図:0001437847000007.jpg]
」
「【0037】このように、超音波送信手段1(第1の超音波センサ部)と、超音波の障害物Pからの反射波を受信する超音波受信手段3(第3の超音波センサ部)と、反射波受信時刻taを検出する受信時刻検出手段8とを有する超音波センサSaと、この超音波センサSaに対し所定の距離(センサ間距離)dで配置されて超音波受信手段2(第2の超音波センサ部)を有する超音波センサSbとを具備して、超音波センサSbでは、超音波送信手段1から送信された超音波の直接波を受信した直接波受信時刻td及び前記超音波の障害物Pからの反射波を受信した反射波受信時刻tbを検出する受信時刻検出手段5と、センサ間距離dと直接波受信時刻tdとにより前記超音波の音速値cを演算する音速演算手段6と、音速値cと反射波受信時刻tbとにより障害物Pとの距離を演算する障害物距離演算手段7とを有し、さらに超音波センサSaと超音波センサSbの両者の反射波受信時刻ta,tbの反射波受信時間差(|tb-ta|)を演算する反射波受信時間差演算手段9と、該両者の反射波受信時刻ta,tbの遅速比較を行う反射波受信時刻比較手段10と、反射波受信時間差(|tb-ta|)と前記遅速比較との結果と直接波受信時刻tdとにより障害物Pの方向を演算する障害物方向演算手段11とを有するようにしたので、音速値cを求めながらすなわち音速値cを補正しながら障害物距離L及び障害物位置角度φを求めることができ、高い精度で障害物Pの位置を検知することができるという効果を奏する。」
d 【0045】~【0046】、【図8】
「【0045】図8は本発明の第4の実施の形態を示すブロック図である。基本的構造及び作用につては第1の実施の形態と同様であるが、ここでは、受信時刻検出手段5で直接波受信時刻tdを検出する際に直接波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段14を有し、この受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の内部の受信回路のアンプAMPの利得を制御するようにしている。例えば、受信した直接波の受信レベルが規定値以下であれば、受信回路の利得を上げ、規定値以上であれば、受信回路の利得を下げて感度の適正化を行う。」
「【図8】
[図:0001437847000008.jpg]
」
「【0046】このように、超音波センサSa(第2の超音波センサ部)(当合議体注:「超音波センサSa(第2の超音波センサ部)」は、「超音波センサSb(第2の超音波センサ部)」の誤記と認められる。)において、超音波の直接波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段14と、前記受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の受信回路の利得を制御する利得制御手段とを有するようにしたので、超音波センサの個体間の送受信感度のばらつきや、周囲環境条件(温湿度)の変化による超音波減衰の影響が補正され、常に一定の感度で障害物検出動作を行うことができるという効果を奏する。」
(イ) 引用文献1の記載から読み取れる事項の認定
引用文献1の【0027】の記載を参照のうえ、【図2】(c)をみると、「反射信号(反射波)の受波b信号(受信波形)が閾値レベルb(ある閾値レベル)以上になるタイミングにおいて、整形信号bがHIGHレベルからLOWレベルになり、反射波受信時刻tbが検出されること」が看取できる。(以下「認定事項1」という。)
(ウ) 引用発明の認定
前記(イ)において認定した事項及び前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、第4の実施の形態(【図8】)に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、引用文献1の【0045】には、「図8は本発明の第4の実施の形態を示すブロック図である。基本的構造及び作用につては第1の実施の形態と同様であるが、・・・」と記載されているから、第4の実施の形態に係る引用発明を認定するにあたり、共通する構成については、第1の実施の形態に係る【0022】~【0037】の記載を援用している。また、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「障害物検知装置であって、(【0022】)
超音波センサSaは、第1の超音波センサ部として超音波を送信する超音波送信手段1と超音波送信信号となる送波信号を発生する送波信号発生手段4を有するとともに、第3の超音波センサ部として超音波を受信する超音波受信手段3とを有しており、すなわち送受兼用となっており、(【0022】)
超音波センサSbは、第2の超音波センサ部として超音波を受信する超音波受信手段2を有しており、すなわち受信専用となっており、(【0023】)
超音波センサSaと超音波センサSbとは互いに所定の距離(センサ間距離)dを隔てて配置されており、(【0023】)
超音波センサSbでは、超音波センサSaの超音波送信手段1から送信された超音波の直接波を受信した直接波受信時刻td及び前記超音波の障害物Pからの反射波を受信した反射波受信時刻tbを検出する受信時刻検出手段5と、センサ間距離dと直接波受信時刻tdとにより前記超音波の音速値cを演算する音速演算手段6と、音速値cと反射波受信時刻tbとにより障害物Pとの距離を演算する障害物距離演算手段7とを有しており、(【0024】)
超音波センサSaの超音波受信手段3には、第2の超音波センサSbの受信時刻検出手段5と同様の機能をもつ受信時刻検出手段8を有しており、受信時刻検出手段8では反射波の受信時刻taを検出することが主に行われ、(【0025】)
超音波センサSb(超音波受信手段2及び受信時刻検出手段5)と超音波センサSa(超音波受信手段3及び受信時刻検出手段8)とにおける該両者の反射波受信時刻ta,tbの時間差(|tb-ta|)を演算する反射波受信時間差演算手段9と、反射波受信時刻ta,tbの遅速比較を行う反射波受信時刻比較手段10と、時間差(|tb-ta|)と前記遅速比較との結果により障害物Pの方向を演算する障害物方向演算手段11とを有しており、(【0025】)
超音波センサSaの送波信号発生手段4において送波信号が発せられると、超音波送信手段1で超音波が送信され、この送波信号はパルス波形であり、送波信号がHIGHレベルである間、一定周波数の超音波が送信され、そして送波信号はLOWレベルになり、超音波は送信されなくなり、(【0026】)
次に超音波センサSbの超音波受信手段2においては、送信された超音波の直接波が受信されるとともに、その後その超音波の反射波が受信され、受信時刻検出手段5では、この直接波及び反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて直接波受信時刻tdと反射波受信時刻tbとが検出され、(【0027】)
具体的には、反射波の受信波形がある閾値レベル以上になるタイミングにおいて、整形信号bがHIGHレベルからLOWレベルになり、反射波受信時刻tbが検出され、(認定事項1)
超音波センサSaの超音波受信手段3においても同様に超音波の受信が行われ、直接波及び反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて残響信号の無くなる時刻trと反射波受信時刻taとが検出され、(【0030】)
受信時刻検出手段5で直接波受信時刻tdを検出する際に直接波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段14を有し、この受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の内部の受信回路のアンプAMPの利得を制御するようにしており、例えば、受信した直接波の受信レベルが規定値以下であれば、受信回路の利得を上げ、規定値以上であれば、受信回路の利得を下げて感度の適正化を行い、(【0045】)
このように、超音波センサSb(第2の超音波センサ部)において、超音波の直接波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段14と、前記受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の受信回路の利得を制御する利得制御手段とを有するようにしたので、超音波センサの個体間の送受信感度のばらつきや、周囲環境条件(温湿度)の変化による超音波減衰の影響が補正され、常に一定の感度で障害物検出動作を行うことができるという効果を奏する、(【0046】)
障害物検知装置。(【0022】)」
イ 引用文献2の記載事項、並びに、引用文献2技術事項及び周知技術1の認定
(ア) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である国際公開第2016/063530号(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
a [0012]~[0016]、[図2]
「[0012] (第1実施形態)
以下、本開示の第1実施形態を図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の車両制御装置1の構成を示したブロック図である。なお、車両制御装置1が本開示の物体検知装置及び車両制御装置に相当する。その車両制御装置1は、図2に示す車両10に搭載されている。車両制御装置1は、図1に示すように、車両10の駆動力を生成する駆動力制御部4と、車両10を減速又は停止させるブレーキ5(制動装置)とに接続されて、それら駆動力制御部4、ブレーキ5の動作を制御可能に構成される。車両制御装置1は、超音波センサ3と、その超音波センサ3と接続したECU2とを備えている。(後略)」
「[図2]
[図:0001437847000009.jpg]
」
「[0013] 超音波センサ3は、車両10の外面における複数箇所に搭載されている。図2は、超音波センサ3の搭載位置を説明する図であり、車両10を上から見た図を示している。図2に示すように、超音波センサ3として、車両10のフロント面101(例えば前部バンパー)、リヤ面102(例えば後部バンパー)にそれぞれ4つの超音波センサ31~34、35~38が左右に並ぶ形で搭載されている。詳しくは、フロント面101の両コーナ部にはコーナセンサ31、32が搭載され、フロント面101における車両中心線103と各コーナ部の間にはセンタセンサ33、34が搭載されている。同様に、リヤ面102の両コーナ部及び、車両中心線103と各コーナ部の間にはそれぞれコーナセンサ35、36及びセンタセンサ37、38が搭載されている。なお、超音波センサ3は、図2に例示する搭載数、搭載箇所以外の搭載数、搭載箇所(例えば車両10の側面)であっても良い。また、各超音波センサ31~38の搭載高さは、互いに同じであっても良いし、異なっていても良い。
[0014] 各超音波センサ3は、周囲に所定周波数(例えば66kHzなど)の超音波(物体検知用の波)を所定間隔おき(例えば100ミリ秒おき)に送信し、その超音波が物体で反射して形成された反射波を受信して、その反射波に基づき物体までの距離を演算する測距センサである。フロント面101に搭載された超音波センサ31~34の物体検知範囲(超音波送信範囲)は車両10の前方の例えば各センサから数m~数十mの範囲に設定されている。リヤ面102に搭載された超音波センサ35~38は、車両10の後方の例えば各センサから数m~数十mの範囲に設定されている。
[0015] 超音波センサ3は、超音波の送受信を行うマイク、そのマイクを駆動したり、物体の検知や距離の演算を行ったりする制御回路、シリアル通信線を介してECU2と通信を行う通信回路によって構成される。制御回路は、マイクで受信された受波信号(反射波の信号)対して増幅やフィルタリング処理を施し、予め設定された閾値電圧レベルと比較する。制御回路は、その比較の結果、受波信号の電圧レベルが閾値電圧レベルより大きい場合には、超音波の送信開始時から反射波を受信するまでの所要時間と、超音波の速度(音速)とに基づいて、車両10(超音波センサ3)から物体までの距離を演算する。その距離情報及び反射波の電圧レベルを含む物体検知情報は、通信回路により、ECU2に送られる。なお、物体までの距離の演算はECU2が行うようにしても良い。
[0016] なお、各超音波センサ3は、自己が送信した超音波の反射波を受信するだけでなく、対になる別の超音波センサ3から送信された超音波の反射波を受信して、物体の検知を行うように制御することができるようになっている。このようにすることで、超音波の送信と受信とを異なる超音波センサ3で担うことができる。」
b [0019]~[0020]、[図3]
「[0019] また、ECU2は、ECU2が実行する処理のプログラム等の各種情報を記憶するROM、RAM等のメモリ21を備えている。そのメモリ21には、図3に例示する、物体までの距離と反射波の強度(反射強度、波高値)の関係61が記憶されている。この関係61は、超音波センサ3から送信された超音波が通常の高さを有する物体、つまり壁などの検知対象物で反射した場合における、各検知距離に対する理論上の反射強度を示している。また、関係61は、例えば、超音波センサ3の正面に物体が存在する場合における検知距離と反射強度の関係を示している。さらに、関係61における反射強度は、超音波センサ3で受信される反射波の利得(受波利得)(単位:デシベル)である。」
「[図3]
[図:0001437847000010.jpg]
」
「[0020] この関係61で示されるように、理論上、物体までの距離が小さくなるほど反射強度が大きくなる。これは、物体までの距離が大きいと超音波センサ3から送信された超音波が物体に当たりにくくなったり、超音波が路面で反射するなどして反射波が複雑になったりするのに対し、物体までの距離が近いと、超音波センサ3から送信された超音波が物体に直接当たりやすくなるためである。」
c [0025]~[0027]
「[0025] 図6の処理を開始すると、ECU2は、先ず、超音波センサ3に対し、超音波の送信及び反射波の受信を指示する(S11)。ここで、例えば車両10が前進している場合にはフロント面101の4つの超音波センサ31~34に対し超音波の送受信を指示し、車両10が後進している場合にはリヤ面102の4つの超音波センサ35~38に対し超音波の送受信を指示する。また、超音波を送信させる複数の超音波センサ3間で時間をずらして一つの超音波センサ3ずつ順番に、超音波の送受信を行わせる。さらに、複数の超音波センサ3の中で、隣り同士に位置する2つの超音波センサ3の組を設定する。そして、設定した組の2つの超音波センサ3のうち一方を超音波の送信及び反射波の受信を行う直接検知センサ、他方を直接検知センサが送信した超音波の反射波を受信する間接検知センサとして用いる。
[0026] フロント面101の4つの超音波センサ31~34を例に挙げると、例えば、車両中心線103より左側に位置する超音波センサ31、33の組と、車両中心線103より右側に位置する超音波センサ32、34の組の2組を設定する。そして、超音波センサ31~34間で左側から1つずつ順番に超音波を送信させたとした場合、超音波センサ31が超音波を送信する時には、超音波センサ31を直接検知センサ、超音波センサ33を間接検知センサとして用いる。また、超音波センサ33が超音波を送信する時には、超音波センサ33を直接検知センサ、超音波センサ31を間接検知センサとして用いる。また、超音波センサ34が超音波を送信する時には、超音波センサ34を直接検知センサ、超音波センサ32を間接検知センサとして用いる。また、超音波センサ32が超音波を送信する時には、超音波センサ32を直接検知センサ、超音波センサ34を間接検知センサとして用いる。
[0027] なお、直接検知センサ、間接検知センサの組は、同一の車体面(フロント面101又はリヤ面102)に配置された複数の超音波センサ3の中からどのように設定しても良く、隣り同士に位置しない2つの超音波センサ3(例えば、超音波センサ31と超音波センサ34)を、直接検知センサ、間接検知センサの組に設定しても良い。S11では、間接検知センサに設定された超音波センサ3も、受信した反射波信号を含む物体検知情報をECU2に送る。」
d [0035]
「[0035] なお、温湿度の影響を考えないとすると、物体が高い場合では、距離が小さいほど反射強度が大きくなる(図3の関係61参照)。そこで、S23では、距離変化による反射強度の変化のほうが、温湿度の影響によるばらつきよりも大きい場合には、図9の反対の傾向、つまり距離が小さいほど閾値を大きくするようにしても良い。これによって、距離変化による反射強度の変化を考慮した物体高さのレベル判定を行うことができる。また、S23では、距離変化による反射強度の変化や温湿度の影響によるばらつきが小さい場合には、物体との距離にかかわらず閾値を一定としても良い。」
(イ) 引用文献2技術事項の認定
前記(ア)a及びcに摘記した引用文献2の記載事項から、引用文献2には、次の技術事項が記載されていると認められる。(以下「引用文献2技術事項」という。)
<引用文献2技術事項>
「超音波センサ3を備えている車両制御装置1であって、([0012])
超音波センサ3として、車両10のフロント面101(例えば前部バンパー)、リヤ面102(例えば後部バンパー)にそれぞれ4つの超音波センサ31~34、35~38が左右に並ぶ形で搭載されており、([0013])
超音波センサ3は、超音波の送受信を行うマイク、そのマイクを駆動したり、物体の検知や距離の演算を行ったりする制御回路、通信回路によって構成され、制御回路は、マイクで受信された受波信号(反射波の信号)に対して増幅やフィルタリング処理を施し、予め設定された閾値電圧レベルと比較し、その比較の結果、受波信号の電圧レベルが閾値電圧レベルより大きい場合には、超音波の送信開始時から反射波を受信するまでの所要時間と、超音波の速度(音速)とに基づいて、車両10(超音波センサ3)から物体までの距離を演算し、([0015])
各超音波センサ3は、自己が送信した超音波の反射波を受信するだけでなく、対になる別の超音波センサ3から送信された超音波の反射波を受信して、物体の検知を行うように制御することができるようになっており、このようにすることで、超音波の送信と受信とを異なる超音波センサ3で担うことができ、([0016])
例えば、超音波センサ31が超音波を送信する時には、超音波センサ31を直接検知センサ、超音波センサ33を間接検知センサとして用い、また、超音波センサ33が超音波を送信する時には、超音波センサ33を直接検知センサ、超音波センサ31を間接検知センサとして用いる、([0026])
車両制御装置1。([0012])」
(ウ) 周知技術1の認定
前記(ア)b及びdに示した引用文献2の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術1」という。)
<周知技術1>
「超音波センサにおいて、物体までの距離が小さくなるほど、物体からの反射波の反射強度が大きくなることを考慮して、検出や判定を行うこと。」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(物体検出装置)
「物体検出装置」の発明である本件補正発明と「障害物検知装置」の発明である引用発明は、「物体検出装置」の発明である点において一致する。
(イ) 構成Aの観点(取得部)
a 構成Aは、「超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波の、前記第2の前記送受信部での強度と、前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波の強度と、を取得する取得部」を備えることである。
b(a) 引用発明の「第1の超音波センサ部として超音波を送信する超音波送信手段1と超音波送信信号となる送波信号を発生する送波信号発生手段4を有するとともに、第3の超音波センサ部として超音波を受信する超音波受信手段3とを有しており、すなわち送受兼用となって[いる]」「超音波センサSa」は、本件補正発明の「超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部」と、「超音波の送受信が可能な第1の送受信部」である点において共通する。
(b) また、引用発明の「第2の超音波センサ部として超音波を受信する超音波受信手段2を有しており、すなわち受信専用となって[いる]」「超音波センサSb」は、本件補正発明の「超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち」「第2の前記送受信部」と、「超音波の受信が可能な受信部」である点において共通する。
(c) そして、引用発明において、「超音波センサSbでは、超音波センサSaの超音波送信手段1から送信された超音波の直接波を受信した直接波受信時刻td及び前記超音波の障害物Pからの反射波を受信した反射波受信時刻tbを検出する受信時刻検出手段5」を有しているところ、当該「直接波」は、前記(a)及び(b)を踏まえると、本件補正発明の「超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち第1の前記送受信部によって送信された超音波であって第2の前記送受信部によって直接受信された直接波」と、「超音波の送受信が可能な第1の送受信部によって送信された超音波であって超音波の受信が可能な受信部によって直接受信された直接波」である点において共通し、当該「反射波」は、本件補正発明の「前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部が受信した前記反射波」と、「前記第1の送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって受信された前記反射波」である点において共通する。
(d) 引用発明は、「超音波センサSbの超音波受信手段2においては、送信された超音波の直接波が受信されるとともに、その後その超音波の反射波が受信され、受信時刻検出手段5では、この直接波及び反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて直接波受信時刻tdと反射波受信時刻tbとが検出され[る]」ものであり、「直接波及び反射波の受信波形」を用いていることから、上記「超音波受信手段2」が、直接波及び反射波の強度を取得する取得部としての機能を有することは明らかである。
c その一方で、引用発明は、その「超音波センサSb」が「受信専用」であって、本件補正発明がいうところの「複数の送受信部」を有するものではなく、反射波を受信するのが「前記送受信部」といえるものかも明らかでない。
d 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Aの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Aの観点における一致点
「超音波の送受信が可能な第1の送受信部によって送信された超音波であって超音波の受信が可能な受信部によって直接受信された直接波の、前記受信部での強度と、前記第1の送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって受信された前記反射波の強度と、を取得する取得部」を備える点。
(b) 構成Aの観点における相違点
i 本件補正発明においては、「超音波の送受信が可能な複数の送受信部」を備え、「直接波」を「直接受信」するのが、「超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち」「第2の前記送受信部」であるのに対して、
引用発明においては、本件補正発明がいうところの「複数の送受信部」を備えておらず、「直接波を受信」する「超音波センサSb」が「受信専用」である点。
ii 「前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波」を「受信」するのが、本件補正発明においては、「前記送受信部」であるのに対して、
引用発明においては、「前記送受信部」といえるものか明らかでない点。
(ウ) 構成Bの観点(検出部)
a 構成Bは、「前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する検出部」を備えることである。
b 引用発明は、「超音波センサSbの超音波受信手段2においては、送信された超音波の直接波が受信されるとともに、その後その超音波の反射波が受信され、受信時刻検出手段5では、この直接波及び反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて直接波受信時刻tdと反射波受信時刻tbとが検出され[る]」ものであるところ、「反射波受信時刻tb」が「検出」されることは、「反射波」が「障害物Pからの反射波」であることを考慮すると、「障害物P」が検知されることを意味する。
そうすると、前記(イ)b(d)の検討を踏まえれば、引用発明の「受信時刻検出手段5」は、本件補正発明の「前記反射波の前記強度」「に基づいて前記物体を検出する検出部」に相当するといえる。
c その一方で、引用発明は、「超音波センサSb(第2の超音波センサ部)において、超音波の直接波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段14と、前記受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の受信回路の利得を制御する利得制御手段とを有するようにしたので、」「周囲環境条件(温湿度)の変化による超音波減衰の影響が補正され[る]」ものではあるが、本件補正発明の「前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出し、前記空気吸収減衰係数と前記反射波の前記強度とに基づいて前記物体を検出する」ことに相当する構成を有するものではない。
d 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Bの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Bの観点における一致点
「前記反射波の前記強度に基づいて前記物体を検出する検出部」を備える点。
(b) 構成Bの観点における相違点
本件補正発明においては、「検出部」が「前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出」し、「検出部」が「前記物体を検出する」にあたり、「前記反射波の前記強度」だけでなく「前記空気吸収減衰係数」にも基づいて検出するものであるのに対して、
引用発明においては、(超音波の直接波の)「前記受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の受信回路の利得を制御する利得制御手段とを有するようにしたので、」「周囲環境条件(温湿度)の変化による超音波減衰の影響が補正され[る]」ものであり、「空気吸収減衰係数」を算出するものではない点。
(エ) 構成Cの観点(物体の判定)
a 構成Cは、「前記検出部は、前記空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定[する]」ことである。
b 引用発明は、「受信時刻検出手段5では、この直接波及び反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて直接波受信時刻tdと反射波受信時刻tbとが検出され[る]」ものであるところ、「ある閾値レベル」は、「前記空気吸収減衰係数に応じた」ものでない点は措くとして、本件補正発明の「第1の閾値」に相当する。そして、「受信時刻検出手段5」(検出部)が「ある閾値レベル」を何らかの形で取得していることも自明である。
また、引用発明において、「反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて」「反射波受信時刻tbとが検出され[る]」ことは、「具体的には、反射波の受信波形がある閾値レベル以上になるタイミングにおいて、整形信号bがHIGHレベルからLOWレベルになり、反射波受信時刻tbが検出され[る]」ことであるから、引用発明は、本件補正発明の「前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定する」ことに相当する構成を有するといえる。
c 以上の検討結果を踏まえると、本件補正発明と引用発明の構成Cの観点における一致点及び相違点は、次の(a)及び(b)に示すとおりである。
(a) 構成Cの観点における一致点
「前記検出部は、第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定する」点。
(b) 構成Cの観点における相違点
本件補正発明においては、「第1の閾値」が「前記空気吸収減衰係数に応じた」ものであるのに対して、引用発明においては、「空気吸収減衰係数」を算出するものではない点。
(オ) 構成Dの観点(第1の閾値の設定)
a 構成Dは、「前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された」ものであることである。
b 引用発明は、本件補正発明の構成Dに相当する構成を備えていないから、本件補正発明と引用発明は、構成Dの観点について、前記(エ)c(b)に示した構成Cの観点における相違点に加えて、次の点において相違する。
<構成Dの観点における相違点>
「第1の閾値」について、本件補正発明においては、「前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された」ものであるのに対して、引用発明においては、そのようなものではない点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「超音波の送受信が可能な第1の送受信部によって送信された超音波であって超音波の受信が可能な受信部によって直接受信された直接波の、前記受信部での強度と、前記第1の送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって受信された前記反射波の強度と、を取得する取得部と、
前記反射波の前記強度に基づいて前記物体を検出する検出部と、
を備え、
前記検出部は、第1の閾値を取得し、前記反射波の前記強度が前記第1の閾値以上の場合に前記物体が存在すると判定する、
物体検出装置」である点。
(イ) 相違点
a 相違点1
本件補正発明においては、「超音波の送受信が可能な複数の送受信部」を備え、「直接波」を「直接受信」するのが、「超音波の送受信が可能な複数の送受信部のうち」「第2の前記送受信部」であるのに対して、
引用発明においては、本件補正発明がいうところの「複数の送受信部」を備えておらず、「直接波を受信」する「超音波センサSb」が「受信専用」である点。
b 相違点2
「前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波」を「受信」するのが、本件補正発明においては、「前記送受信部」であるのに対して、引用発明においては、「前記送受信部」といえるものか明らかでない点。
c 相違点3
本件補正発明においては、「検出部」が「前記直接波の前記強度に基づいて前記超音波の空気吸収減衰係数を算出」し、「検出部」が「前記物体を検出する」にあたり、「前記反射波の前記強度」だけでなく「前記空気吸収減衰係数」にも基づいて検出するものであり、「第1の閾値」が「前記空気吸収減衰係数に応じた」ものであるのに対して、
引用発明においては、(超音波の直接波の)「前記受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の受信回路の利得を制御する利得制御手段とを有するようにしたので、」「周囲環境条件(温湿度)の変化による超音波減衰の影響が補正され[る]」ものであり、「空気吸収減衰係数」を算出するものではない点。
d 相違点4
「第1の閾値」について、本件補正発明においては、「前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された」ものであるのに対して、引用発明においては、そのようなものではない点。
(4) 判断
ア 相違点1について
引用文献2技術事項における「各超音波センサ3は、自己が送信した超音波の反射波を受信するだけでなく、対になる別の超音波センサ3から送信された超音波の反射波を受信して、物体の検知を行うように制御することができるようになって[いる]」構成は、本件補正発明における「超音波の送受信が可能な複数の送受信部」を有する構成に相当する。
そして、引用発明と引用文献2技術事項は、超音波の送信を行い、物体からの反射波を受信することにより、物体の検知及び物体までの距離の演算を行うという機能において共通するものである。
そうすると、引用発明において、超音波の送信と受信とを異なる超音波センサの組み合わせで担うことができるようにするなどのために、引用文献2技術事項における「超音波の送受信が可能な複数の送受信部」に相当する構成を適用することにより、「超音波センサSb」を超音波の送受信が可能な送受信部(第2の前記送受信部)として、相違点1に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
イ 相違点2について
(ア) 「前記送受信部」の解釈
まず、本件補正発明の構成Aの「前記送受信部が受信した前記反射波の強度」における「前記送受信部」が、「超音波の送受信が可能な複数の送受信部」を意味するのか、「第1の前記送受信部」を意味するのか、「第2の前記送受信部」を意味するのかについて検討する。
本願明細書の【0049】には、次のとおり記載されている。
「【0049】
取得部101は、直接波情報と反射波情報とを取得する。直接波情報は、超音波の送受信が可能な複数の送受信部21のうち第1の送受信部によって送信された超音波であって第2の送受信部によって直接受信された直接波の、第2の送受信部での強度(振幅値)を含む。反射波情報は、第1の送受信部から送信された超音波が物体Oに反射された反射波であって送受信部21が受信した反射波の強度を含む。」
そして、同【0027】には、「複数の送受信部21A~21H(以下、複数の送受信部21A~21Hを区別する必要がない場合には送受信部21と略記する。)」と記載されているから、同【0049】における「送受信部21」は、複数の送受信部21A~21H、すなわち、第1の送受信部及び第2の送受信部を区別する必要がないものとして記載されているといえる。
前記【0049】及び【0027】の記載を参酌すると、本件補正発明の構成Aの「前記送受信部が受信した前記反射波の強度」における「前記送受信部」は、「超音波の送受信が可能な複数の送受信部」のうち特に区別することなくいずれか一つのものを特定したものであるというべきであって、「第1の前記送受信部」と「第2の前記送受信部」のいずれであってもよいものと解するのが相当である。
(イ) 「前記送受信部」が「第2の前記送受信部」であるとした場合の判断
本件補正発明の構成Aの「前記送受信部が受信した前記反射波の強度」における「前記送受信部」が「第2の前記送受信部」であるとした場合について検討する。
引用発明の「超音波センサSb」は、「超音波センサSaの超音波送信手段1から送信された超音波」「の障害物Pからの反射波を受信した反射波受信時刻tbを検出する受信時刻検出手段5」を有している。
そうすると、前記アにおいて相違点1について検討したとおり、引用発明において、引用文献2技術事項における「超音波の送受信が可能な複数の送受信部」に相当する構成を適用して、「超音波センサSb」を超音波の送受信が可能な送受信部(第2の前記送受信部)とすることにより、相違点2に係る本件補正発明の「前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部(当合議体注:ここでは「第2の前記送受信部」)が受信した前記反射波」に相当する構成が導かれるといえる。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(ウ) 「前記送受信部」が「第1の前記送受信部」であるとした場合の判断
本件補正発明の構成Aの「前記送受信部が受信した前記反射波の強度」における「前記送受信部」が「第1の前記送受信部」であるとした場合についても検討する。
引用発明の「超音波センサSa」(第1の前記送受信部)は、その「超音波受信手段3には、第2の超音波センサSbの受信時刻検出手段5と同様の機能をもつ受信時刻検出手段8を有しており」、「超音波センサSaの超音波受信手段3においても同様に超音波の受信が行われ、」「反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて」「反射波受信時刻taとが検出され[る]」から、引用発明は、相違点2に係る本件補正発明の「前記第1の前記送受信部から送信された前記超音波が物体に反射された反射波であって前記送受信部(当合議体注:ここでは「第1の前記送受信部」)が受信した前記反射波」に相当する構成を有しているといえる。
そうしてみると、この場合、相違点2は実質的な相違点とはいえない。
(エ) 小括
前記(ア)~(ウ)において検討したとおり、相違点2は実質的な相違点ではなく、また、引用発明において、相違点2に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について
引用発明は、「超音波センサSb(第2の超音波センサ部)において、超音波の直接波の受信レベルを検出する受信レベル検出手段14と、前記受信レベルに基づき超音波センサSbもしくは超音波センサSaの超音波受信手段3,2の受信回路の利得を制御する利得制御手段とを有するようにしたので、」「周囲環境条件(温湿度)の変化による超音波減衰の影響が補正され[る]」ものであるところ、このことは、超音波の直接波の受信レベルが、温湿度などの周囲環境条件の変化による超音波減衰の影響を反映していることを前提として、直接波の受信レベルに基づき、超音波センサSb又は超音波センサSaにおける反射波等の受信レベルの補正を行うことを意味する。
また、引用発明は、「受信時刻検出手段5では、」「反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて」「反射波受信時刻tbとが検出され、」「具体的には、反射波の受信波形がある閾値レベル以上になるタイミングにおいて、」「反射波受信時刻tbが検出され[る]」ものであるから、反射波の受信レベルと閾値レベルの比較を行うことにより、反射波受信時刻tbの検出、すなわち、物体の検出を行っているといえる。
ここで、引用発明において、温湿度などの周囲環境条件の変化による超音波減衰の影響を抑制するための手段として、超音波減衰の影響が反映されている直接波の受信レベル(直接波の強度)に基づいて、比較対象である反射波の受信レベル(反射波の強度)と閾値レベル(第1の閾値)のいずれの補正を行うかは、当業者が適宜選択できる設計事項というべきである。
そして、閾値レベルの方を補正する場合に、超音波減衰の影響が反映されている直接波の強度に基づいて、直接、閾値レベルを補正するか、直接波の強度から一旦空気吸収減衰係数を算出してから当該係数に基づいて閾値レベルを補正するかについても、閾値レベルの補正に係る算出過程における微差にすぎないから、当業者が適宜選択できる設計事項にすぎない。
そうすると、引用発明において、相違点3に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、当業者が適宜なし得た程度の事項にすぎない。
なお、引用発明の「超音波センサSa」(第1の前記送受信部)について検討しても、「超音波センサSaの超音波受信手段3においても」(超音波センサSbの超音波受信手段2と)「同様に超音波の受信が行われ、」「反射波の受信波形がある閾値レベルにより波形整形が行われて」「反射波受信時刻taとが検出され[る]」から、「超音波センサSb」の場合と同様のことがいえる。
エ 相違点4について
前述したとおり、ここでは、本件補正発明の構成D(前記2(1)において定義した「閾値設定事項」)が、時間の経過に伴い閾値の値が小さくなるように設定された部分を有することを特定するものと理解して検討する。
前記(2)イ(ウ)において周知技術1として認定したとおり、「超音波センサにおいて、物体までの距離が小さくなるほど、物体からの反射波の反射強度が大きくなることを考慮して、検出や判定を行うこと。」は、周知技術である。
そして、引用発明において、反射波受信時刻tb又は反射波受信時刻taが遅くなるほど物体までの距離が大きくなることは明らかであるところ、反射波受信時刻tb又は反射波受信時刻taのタイミングにかかわらず閾値レベルを一定とすれば、物体までの距離が大きい検出対象が検出されにくくなることは当業者にとって自明であるから、引用発明に対して周知技術1を適用することにより、閾値レベル(第1の閾値)を時間の経過に伴い閾値の値が小さくなるように設定し、相違点4に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
オ 総合評価
前記ア~エにおいて検討したとおり、引用発明において、相違点1~4に係る本件補正発明の構成を備えるようにすることは、引用発明、引用文献2技術事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1~4を総合的に勘案しても、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、引用文献2技術事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
カ 請求人の主張について(進歩性の欠如)
(ア) 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、概略、次の主張をしている。
本件補正発明は、次のAの技術的特徴を有する。
A:前記空気吸収減衰係数に応じた各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された、
上記Aによれば、物体の検出の精度の向上を図ることができるという効果を奏する。
これに対して、各引用文献のいずれにも上記Aに関する記載及び示唆は一切ないから、各引用文献から、上記Aを有する本件補正発明に容易に想到することは当業者といえどもできない。
(イ) 請求人の主張についての検討
請求人の主張するAの技術的特徴は、前記(3)イ(イ)c及びdに示した相違点3及び相違点4に関連するものであるが、前記ウ及びエにおいて説示したとおり、相違点3及び相違点4に係る本件補正発明の構成は、いずれも当業者が容易に想到し得たものであるから、請求人の主張は採用することができない。
(5) 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明、引用文献2技術事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
5 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記2(3)のとおり、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
また、仮に本件補正が同法17条の2第3項の規定に適合するとしても、前記4(5)のとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)に示した本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由1(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如) 本願発明は、その出願前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2002-131417号公報(主たる引用文献)
引用文献2.国際公開第2016/063530号
引用文献3.特開平5-223928号公報(周知技術を示す文献)
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
引用文献1、2に記載された事項並びに引用発明、引用文献2技術事項及び周知技術1は、前記第2の4(2)ア(ア)及びイ(ア)並びにア(ウ)、イ(イ)及びイ(ウ)において示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の3において検討したとおり、本件補正発明から、「空気吸収減衰係数に応じた第1の閾値」について、「各前記第1の閾値は、それぞれ、前記送受信部による前記超音波の送信開始時点より前記送受信部による前記超音波の送信完了時点の方が小さくなるように設定された」との限定を省いたものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項の一部を限定したものに相当する本件補正発明が、前記第2の4(4)において説示したとおり、引用発明、引用文献2技術事項及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-016225