特許拒絶査定不服審判
2025-000137
吸収性物品
- 審判番号
- 2025-000137
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-234934
- 請求日
- 2025年01月07日
- 審決日
- 2026年04月01日
- 公報発行日
- 2026年06月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】小林製薬株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 殿川 雅也
- 審判官 門 良成
- 審判官 濱本 禎広
- 分類
- P18 .55 -Z (A61F) / P18 .561-Z (A61F) / P18 .571-Z (A61F) / P18 .572-Z (A61F) / P18 .573-Z (A61F) / P18 .574-Z (A61F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第5項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-234934「吸収性物品」拒絶査定不服審判事件〔令和3年7月15日出願公開、特開2021-101926〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年12月25日を出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 9月25日付け:拒絶理由通知書
令和6年 2月 1日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月28日付け:拒絶理由通知書
同年 7月29日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月 6日付け:拒絶理由通知書(最後)
同年 9月26日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月24日付け:補正の却下の決定、拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月29日 :原査定の謄本の送達)
令和7年 1月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和7年1月7日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年1月7日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和7年1月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲を補正するものであって、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲における請求項1の記載を、後記の(2)に示す本件補正後の請求項1の記載に補正することを含むものである。下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正前の請求項1
「 【請求項1】
ユーザの肌に対向するように配置される透液性表面シートと、
前記透液性表面シートの裏側に配置された不透液性裏面シートと、
前記透液性表面シートと前記不透液性裏面シートの間に配置された吸収体と、
備える吸収性物品であって、
前記透液性表面シートは、
前記肌側に配置され、親水性を有する繊維からなる上層不織布と、
前記上層不織布に対して前記不透液性裏面シート側に配置され、前記上層不織布に接着層を介さずに一体化され、親水性を有する繊維からなる下層不織布と、
を有し、
前記透液性表面シートは、
前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、
前記複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、
を含み、
前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙が、該突出部の高さ以下である、
吸収性物品。」
(2)本件補正後の請求項1
「 【請求項1】
ユーザの肌に対向するように配置される透液性表面シートと、
前記透液性表面シートの裏側に配置された不透液性裏面シートと、
前記透液性表面シートと前記不透液性裏面シートの間に配置された吸収体と、
備える吸収性物品であって、
前記透液性表面シートは、
前記肌側に配置され、親水性を有する繊維からなる上層不織布と、
前記上層不織布に対して前記不透液性裏面シート側に配置され、前記上層不織布に接着層を介さずに一体化され、親水性を有する繊維からなる下層不織布と、
を有し、
前記透液性表面シートは、
前記上層不織布及び下層不織布を貫通して形成される複数の開口部と、
前記複数の開口部の各々が形成されることで、前記開口部の周縁において、基端から前記吸収体側の先端に向けて外径が小さくなってゆくように突出し、前記先端が前記吸収体に接触する突出部と、
を含み、
複数の前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙における、前記開口部の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、前記複数の突出部における前記基端から先端までの高さの最大値以下であり、
前記上層不織布の平均繊維径が1dtex以上2dtex以下であり、
上記下層不織布の平均繊維径が4dtex以上6dtex以下である、
吸収性物品。」
(3)請求項1についての補正内容
本件補正のうち請求項1についてする補正は、次のア~オに示す補正事項1から補正事項5までの補正事項からなる。
ア 補正事項1
補正前の「前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部」を、「前記上層不織布及び下層不織布を貫通して形成される複数の開口部」と補正することにより、「複数の開口部」が「形成され」たものであることを限定すること。
イ 補正事項2
補正前の「突出部」が、「前記複数の開口部の各々が形成されることで、前記開口部の周縁において、基端から前記吸収体側の先端に向けて外径が小さくなってゆくように突出」することの限定を行うこと。
ウ 補正事項3
補正前の「前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙が、該突出部の高さ以下である」との記載を、「複数の前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙における、前記開口部の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、前記複数の突出部における前記基端から先端までの高さの最大値以下であり」とすること。
エ 補正事項4
補正前の「上層不織布」について、「平均繊維径が1dtex以上2dtex以下であ」ることを限定すること。
オ 補正事項5
補正前の「下層不織布」について、「平均繊維径が4dtex以上6dtex以下である」ことを限定すること。
2 本件補正の適否についての合議体の判断
(1)新規事項の追加について
事案に鑑み、補正事項3について、検討する。
ア 当初明細書等に記載された事項
本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、これらを総称して「当初明細書等」という。)の補正事項3に関連する記載として、以下の記載がある(下線は合議体による。以下同様である。)。
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の吸収性物品は、ユーザの肌に対向するように配置される透液性表面シートと、前記透液性表面シートの裏側に配置された不透液性裏面シートと、前記透液性表面シートと前記不透液性裏面シートの間に配置された吸収体と、を備える。前記透液性表面シートは、前記肌側に配置された親水性を有する上層不織布と、前記上層不織布に対して前記不透液性裏面シート側に配置され、前記上層不織布に接着層を介さずに一体化された、親水性を有する下層不織布と、を有する。前記透液性表面シートは、前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、前記複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、を含む。前記上層不織布の平均繊維径が1dtex以上2dtex以下であり、上記下層不織布の平均繊維径が4dtex以上6dtex以下である。」
「【0026】
開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される。このため、図2(B)に示すように、開口部23の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体4側に突出した突出部24が形成される。
【0027】
突出部24は、開口部23を形成した際に下層不織布22の裏側の面から突き出る(はみ出る)部分である。突出部24は、開口部23の開口周縁の全長にわたって形成されることもあるが、開口周縁の一部に形成されることもある。開口部23の先端は、吸収体4に接触しており、これにより、下層不織布22と吸収体4との間に僅かな空隙25が生じ得る。この空隙25により、吸収性物品1の体液の吸収性を向上させ、また逆戻りを低減させることができる。」
「【0042】
(2)作用効果
以上説明したように、本実施形態に係る吸収性物品1は、親水性を有する上層不織布21と、上層不織布21に接着層を介さずに一体化された親水性を有する下層不織布22と、を有する透液性表面シート2を備え、この透液性表面シート2は、上層不織布21及び下層不織布22を貫通する複数の開口部23と、複数の開口部23の各々の周縁から吸収体4側に突出して先端が吸収体4に接触する突出部24と、を含んでいる。そして、上層不織布21の平均繊維径が1dtex以上2dtex以下であり、下層不織布22の平均繊維径が4dtex以上6dtex以下である。
【0043】
このように、上層不織布21の平均繊維径が1dtex以上2dtex以下であることから、ユーザの肌に接触する面の繊維密度が高く、肌触りを良好なものとできる一方、上層不織布21と下層不織布22との繊維密度に差があることから、体液を素早く吸収体4に送ることができる。また、複数の開口部23を有し、突出部24が吸収体4に接していることから、体液を、一層素早く吸収体4に送ることができる。この結果、本実施形態に係る吸収性物品1によれば、ユーザの肌触りを良好なものとしつつ、透液性表面シート2で受けた体液を素早く吸収体4に移動させ、着用時の表面の濡れ感を改善することができる。」
「【0089】
表1に示すように、実施例1-13と比較例1-3とから、1mlの生理食塩水の吸収後、1分後に生じる逆戻りを一定程度に抑えつつ、吸収速度を効果的に向上させるためには、透液性表面シートを、親水性を有する上層不織布と、親水性を有する下層不織布とで構成し、透液性表面シートを、上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、を含むように構成し、上層不織布の平均繊維径を1dtex以上2dtex以下とし、下層不織布の平均繊維径が4dtex以上6dtex以下とすることが効果的であることを実証できた。」
「【図2】
[図:0001435849000001.jpg]
」
イ 補正事項3について
(ア)前記ア【0008】、【0026】、【0027】、【0042】、【0043】、【0089】及び【図2】の記載から、開口部の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体側に突出した突出部が形成されており、突出部の先端が吸収体に接触することにより、下層不織布と吸収体との間に空隙が生じることが把握できる。
(イ)前記ア【0026】の「開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される。このため、図2(B)に示すように、開口部23の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体4側に突出した突出部24が形成される。」との記載、及び前記(ア)から、突出部は、下層不織布から先端までの、ニードルの差込方向に平行な高さ成分を有するものであることが把握できる。
(ウ)前記ア【0026】の「開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される。このため、図2(B)に示すように、開口部23の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体4側に突出した突出部24が形成される。」との記載、及び前記(ア)から、空隙がニードルの差込方向に平行な高さ成分を有することが把握できる。
(エ)前記ア【0008】の「前記透液性表面シートは、前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、前記複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、を含む。」との記載から、突出部は複数存在することが把握できるところ、前記ア【0026】に記載された「開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される」との方法で突出部を形成することをふまえると、複数の突出部はそれぞれ異なる形状及び寸法を有することが把握できる。
(オ)しかしながら、前記ア【0008】、【0026】、【0027】、【0042】、【0043】、【0089】には、空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、複数の突出部24における基端から先端までの高さの最大値以下であることは一切記載されていない。
また、前記ア【図2】では、図面上は突出部24の高さと空隙25の高さが同等である様子が看て取れるが、図面は一般に、必ずしも実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものではなく、透液性表面シートを形成する不織布、及び吸収体はその表面に凹凸やうねりを有するとの技術常識をふまえて当初明細書等の記載を見ても、【図2】が実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものと解すべき事情もない。
そして、透液性表面シートを形成する不織布、及び吸収体はその表面に凹凸やうねりを有するとの技術常識をふまえると、空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さの最大値と、複数の突出部24における基端から先端までの高さの最大値の大小関係について規定することはできず、当該大小関係が当初明細書等に開示されているともいえない。
したがって、【図2】に、空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、複数の突出部24における基端から先端までの高さの最大値以下であることが開示されているとすることはできない。
(カ)仮に、【図2】が実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものと解したとしても、【図2】からは、空隙25における、ある開口部23の貫通方向に平行な方向における高さが、その開口部23に形成された突出部24における基端から先端までの高さと同等であることが看取できるだけであって、他の開口部23についての、空隙25と突出部24の関係は不明であるから、空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、複数の突出部24における基端から先端までの高さの最大値以下であることが開示されているとすることはできない。
(キ)また、当初明細書等の他の全記載をみても、空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、複数の突出部24における基端から先端までの高さの最大値以下であることは記載も示唆もされていない。
(ク)以上のとおり、請求項1について「複数の前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙における、前記開口部の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、前記複数の突出部における前記基端から先端までの高さの最大値以下であり、」と補正することを含む本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
(ケ)したがって、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
ウ 請求人の主張について
(ア)審判請求書の主張について
a 審判請求書の主張内容
請求人は、令和7年1月7日に提出された審判請求書の3.(b)、(c)において、概略次のように主張している。
「構成要件(E11)(A411)(F)は、前記令和6年7月29日付け提出の手続補正書において導入しました「高さの比較」であり、図2(A)から自明な事項であり、詳細は次項にて説明致します。」
「今般の補正では、前記構成要件(A41)の突出部(24)の「高さ」と、構成要件(E1)の空隙(25)の「高さ」との比較(構成要件(F))を行うにあたって、構成要件(E11)(A411)の「最大値」同士での比較を行う点を限定致しました。これは、審査官殿もご主張の通り、構成要件(A4)の突出部(24)は複数存在しますので、その高さにバラツキがあり、また、空隙(25)の「高さ」も、どの場所を選択するのかによって、異なるためであります。当該物品の性格上、押圧されて潰れる(空隙(25)の高さが0の)箇所が生じることも珍しくありません。
ここで、審査官殿は、拒絶査定において、「多数の突出部の高さが全ての突出部において全く等しくなるとは考え難く、」とご指摘されております。これは、すなわち、逆円錐台状の突出部(24)の周囲における空隙(25)の高さが、周囲で無い部分の空隙の高さより低くなる可能性があるように、突出部および空隙は、位置により高さが異なることをご主張されていると思われます。また、周縁の圧着部5ほどではありませんが、突出部が押されて潰れている箇所、つまり突出部も空隙も無い(高さが0)箇所もあるかもしれません。
一方、潰れていない、すなわち突出部(24)および空隙(25)に少しでも高さのある箇所では、その空隙の高さにより、程度の差はあるものの、前記令和6年7月29日付け提出の意見書に記載の通り、「一旦、吸収体に吸収された体液が、座ったり捩じれたりすることなどにより吸収性物品に外力が加わり、吸収体の表面に押し出されて来た場合、下層不織布と吸収体とが接触していると毛細管現象で下層不織布に吸い上げられてしまうところ、空隙を有することで、表面張力により吸収体に保持されます。」と言う作用効果を奏しております。
そこで、このような点を明確にするために、今般の補正では、上記のように、突出部の高さと空隙の高さとを比較するにあたって、任意の箇所では無く、両者の最大値(構成要件(E11)(A411))同士で比較することを限定致しました。したがって、「任意の箇所の空隙の高さ≦最大値の空隙の高さ」および「任意の箇所の突出部の高さ≦最大値の突出部の高さ」でありますので、上記の「空隙の高さの最大値≦突出部の高さの最大値」の限定により、上記空隙を形成することによる作用効果を奏することが明白になったものと確信致します。」
b 請求人の主張についての検討
前記イで示したとおりであるから、「高さの比較」は、【図2】から自明な事項とはいえない。
また、「任意の箇所の空隙の高さ≦最大値の空隙の高さ」および「任意の箇所の突出部の高さ≦最大値の突出部の高さ」であったとしても、前記イ(オ)、(カ)で示したとおりであるから、「空隙の高さの最大値≦突出部の高さの最大値」である事項は、当初明細書等から自明な事項とはいえない。
したがって、請求人の前記主張は採用できない。
(2)補正の目的について
事案に鑑み、補正事項3について、検討する。
ア 補正前の「前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙が、該突出部の高さ以下である」との事項は、全ての「空隙」が、全ての「突出部」の高さ以下であることを特定するものであったところ、これを「複数の前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙における、前記開口部の貫通方向に平行な方向における高さの最大値が、前記複数の突出部における前記基端から先端までの高さの最大値以下であり」と補正することにより、「突出部」よりも高い「空隙」が存在することを包含するものとなった。
イ そうすると、補正事項3は、特許請求の範囲を上位概念から下位概念へ変更する補正とはいえないことは明らかであるから、特許法17条の2第5項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当しない。
ウ また、請求人の前記(1)ウ(ア)aの主張によると、補正事項3が、令和6年8月6日付けの拒絶理由通知書(最後)の(2)において、「また、出願人が補正の根拠とする図2及び図3においては、そもそも「突出部の高さ」の定義(どこからどこまでを計測したものであるのか)が不明であることに加えて、「突出部の高さ」と比較される空隙の高さについてもその定義(例えば、どの部分でどのように計測したものであるのか等)が本願明細書に何も記載されておらず、さらに図2及び図3を参酌しても何を根拠に「突出部の高さ以下である」としているのかも不明である」と説示された事項に対する釈明と解する余地があるところ、この点について検討する。
補正事項3は、「突出部」、「空隙」の高さを定義するものではなく、それぞれの高さの大小関係について特定するものであるから、特許法17条の2第5項4号に掲げる「明りょうでない記載の釈明」を目的とするものに該当しない。
エ そして、補正事項3が、同法17条の2第5項1号に掲げる「請求項の削除」、同項3号に掲げる「誤記の訂正」のいずれを目的とするものでないことは明らかである。
したがって、本件補正の目的は、特許法17条の2第5項各号に掲げる目的に該当しないから、本件補正は同項の規定に違反するものでる。
(3)小括
以上検討のとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項及び5項の規定に違反するものであり、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1~7に係る発明は、令和6年7月29日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1、7に係る発明(以下「本願発明1」、「本願発明7」といい、これらをまとめて「本願発明」という。)は、再掲すると次のとおりのものである。
「 【請求項1】
ユーザの肌に対向するように配置される透液性表面シートと、
前記透液性表面シートの裏側に配置された不透液性裏面シートと、
前記透液性表面シートと前記不透液性裏面シートの間に配置された吸収体と、
備える吸収性物品であって、
前記透液性表面シートは、
前記肌側に配置され、親水性を有する繊維からなる上層不織布と、
前記上層不織布に対して前記不透液性裏面シート側に配置され、前記上層不織布に接着層を介さずに一体化され、親水性を有する繊維からなる下層不織布と、
を有し、
前記透液性表面シートは、
前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、
前記複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、
を含み、
前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙が、該突出部の高さ以下である、
吸収性物品。」
「 【請求項7】
ユーザの肌に対向するように配置される透液性表面シートと、
前記透液性表面シートの裏側に配置された不透液性裏面シートと、
前記透液性表面シートと前記不透液性裏面シートの間に配置された吸収体と、
備える吸収性物品であって、
前記透液性表面シートは、
前記肌側に配置され、親水性を有する繊維からなる上層不織布と、
前記上層不織布に対して前記不透液性裏面シート側に配置され、前記上層不織布に接着層を介さずに一体化され、親水性を有する繊維からなる下層不織布と、
を有し、
前記透液性表面シートは、
前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、
前記複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、
を含み、
前記下層不織布と前記吸収体との対向面には、前記突出部により相互に平行に間隔を開けて支持された空隙を有する、
吸収性物品。」
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に係るものの要旨は次のとおりである。
(新規事項の追加)
令和6年7月29日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
3 新規事項の追加について
(1)請求項1、7についての補正内容
令和6年7月29日に提出された手続補正書でした補正のうち請求項1、7についてする補正は、次のア、イに示す補正事項6、7を含むものである。
ア 補正事項6
補正前の請求項1について、「前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙が、該突出部の高さ以下である」ことを特定する補正
イ 補正事項7
補正前の請求項1について、「前記下層不織布と前記吸収体との対向面には、前記突出部により相互に平行に間隔を開けて支持された空隙を有する」ことを特定したものを独立請求項として、新たな請求項7とする補正
(2)令和6年7月29日に提出された手続補正書でした補正についての合議体の判断
ア 補正事項6について
(ア)当初明細書等に記載された事項
当初明細書等の補正事項6に関連する記載として、前記第2の2(1)アに示したとおりの記載がある。
(イ)補正事項6が新規事項を導入するものであることについて
a 補正後の請求項1の「前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙が、該突出部の高さ以下である」との記載は、全ての「空隙」が、全ての「突出部」の高さ以下であることを意味するものと認められる。
b ここで、前記第2の2(1)ア【0008】、【0026】、【0027】、【0042】、【0043】、【0089】の記載から、開口部の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体側に突出した突出部が形成されており、突出部の先端が吸収体に接触することにより、下層不織布と吸収体との間に空隙が生じることが把握できる。
c 前記第2の2(1)ア【0026】の「開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される。このため、図2(B)に示すように、開口部23の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体4側に突出した突出部24が形成される。」との記載、及び前記bから、突出部は、下層不織布から先端までの、ニードルの差込方向に平行な高さ成分を有するものであることが把握できる。
d 前記第2の2(1)ア【0026】の「開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される。このため、図2(B)に示すように、開口部23の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体4側に突出した突出部24が形成される。」との記載、及び前記bから、空隙がニードルの差込方向に平行な高さ成分を有することが把握できる。
e 前記第2の2(1)ア【0008】の「前記透液性表面シートは、前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、前記複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、を含む。」との記載から、突出部は複数存在することが把握できるところ、前記第2の2(1)ア【0026】に記載された「開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される」との方法で突出部を形成することをふまえると、複数の突出部はそれぞれ異なる形状及び寸法を有することが把握できる。
f しかしながら、前記第2の2(1)ア【0008】、【0026】、【0027】、【0042】、【0043】、【0089】には、全ての空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さが、全ての突出部24における基端から先端までの高さ以下であることは一切記載されていない。
また、前記第2の2(1)ア【図2】では、図面上は突出部24の高さと空隙25の高さが同等である様子が看て取れるが、図面は一般に、必ずしも実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものではなく、透液性表面シートを形成する不織布、及び吸収体はその表面に凹凸やうねりを有するとの技術常識をふまえて当初明細書等の記載を見ても、【図2】が実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものと解すべき事情もない。
そして、透液性表面シートを形成する不織布、及び吸収体はその表面に凹凸やうねりを有するとの技術常識をふまえると、全ての空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さと、全ての突出部24における基端から先端までの高さの大小関係について規定することはできず、当該大小関係が当初明細書等に開示されているともいえない。
したがって、【図2】に、全ての空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さが、全ての突出部24における基端から先端までの高さ以下であることが開示されているとすることはできない。
g 仮に、第2の2(1)ア【図2】が実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものと解したとしても、【図2】からは、空隙25における、ある開口部23の貫通方向に平行な方向における高さが、その開口部23に形成された突出部24における基端から先端までの高さと同等であることが看取できるだけであって、他の全て開口部23についての、空隙25と突出部24の関係は不明であるから、全ての空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さが、全ての突出部24における基端から先端までの高さ以下であることが開示されているとすることはできない。
h また、当初明細書等の他の全記載をみても、全ての空隙25における、開口部23の貫通方向に平行な方向における高さが、全ての突出部24における基端から先端までの高さ以下であることは記載も示唆もされていない。
i 以上のとおり、請求項1について、「前記突出部により前記下層不織布と前記吸収体との互いの対向面の間に形成される空隙が、該突出部の高さ以下である」ことを特定する補正を含む令和6年7月29日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
イ 補正事項7について
(ア)当初明細書等に記載された事項
当初明細書等の補正事項7に関連する記載として、前記第2の2(1)アに示したとおりの記載がある。
(イ)補正事項7が新規事項を導入するものであることについて
a 補正後の請求項7の「前記下層不織布と前記吸収体との対向面には、前記突出部により相互に平行に間隔を開けて支持された空隙を有する」との記載は、下層不織布と吸収体が平行に設けられた間隙を有することを意味するものと認められる。
b ここで、前記第2の2(1)ア【0008】、【0026】、【0027】、【0042】、【0043】、【0089】の記載から、開口部の開口周縁の少なくとも一部からは、吸収体側に突出した突出部が形成されており、突出部の先端が吸収体に接触することにより、下層不織布と吸収体の間に空隙が生じることが把握できる。
c 前記第2の2(1)ア【0008】の「前記透液性表面シートは、前記上層不織布及び下層不織布を貫通する複数の開口部と、前記複数の開口部の各々の周縁から前記吸収体側に突出し、その先端が前記吸収体に接触する突出部と、を含む。」との記載から、突出部は複数存在することが把握できるところ、前記第2の2(1)ア【0026】に記載された「開口部23は、上層不織布21と下層不織布22とが一体化された後、上層不織布21から下層不織布22に向かってニードルを差し込むことによって形成される」との方法で突出部を形成することをふまえると、複数の突出部はそれぞれ異なる形状及び寸法を有することが把握できる。
d しかしながら、前記第2の2(1)ア【0008】、【0026】、【0027】、【0042】、【0043】、【0089】には、下層不織布と吸収体が平行に設けられた間隙を有することは一切記載されていない。
また、前記第2の2(1)ア【図2】では、図面上は突出部24の高さと空隙25の高さが同等であって、下層不織布の一部と吸収体の一部が略平行である様子が看て取れるが、図面は一般に、必ずしも実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものではなく、透液性表面シートを形成する不織布、及び吸収体はその表面に凹凸やうねりを有するとの技術常識をふまえて当初明細書等の記載を見ても、【図2】が実物の縮尺や大小関係をそのままに表したものと解すべき事情もない。
そして、透液性表面シートを形成する不織布、及び吸収体はその表面に凹凸やうねりを有するとの技術常識、及び前記cの複数の突出部はそれぞれ異なる形状及び寸法を有することをふまえると、下層不織布と吸収体の間隔が平行であることが当初明細書等に開示されているともいえない。
したがって、【図2】に、下層不織布と吸収体が平行に設けられた間隙を有することが開示されているとすることはできない。
e また、当初明細書等の他の全記載をみても、下層不織布と吸収体が平行に設けられた間隙を有することは記載も示唆もされていない。
f 以上のとおり、請求項1について、「前記下層不織布と前記吸収体との対向面には、前記突出部により相互に平行に間隔を開けて支持された空隙を有する」ことを特定したものを独立請求項として、新たな請求項7とする補正を含む令和6年7月29日付け手続補正書でした補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
(3)令和6年7月29日に提出された意見書の主張について
ア 請求人は、前記意見書の(2)b.において以下のように主張している。
「上記の請求項1および請求項7は、令和6年2月1日付提出の手続補正書の請求項1の内容を、当初明細書の段落0027および図2,3等の記載に基づき限定したものであり、特許法第17条の2第3項の規定を満足する適正な補正であると確信致します。」
イ 請求人の主張についての検討
前記(2)のとおりであるから、前記アの主張はその判断を左右するものではなく、採用することはできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、令和6年7月29日に提出された手続補正書でした補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてするものとはいえず、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
4 付記
令和6年2月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される請求項1~7に係る発明は、令和6年5月28日付けの拒絶理由通知書に記載した拒絶の理由により、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
第4 むすび
以上のとおり、令和6年7月29日に提出された手続補正書でした補正は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-000137