審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2024-700614

有機フッ素化合物非含有の耐アルコール型たん白泡消火薬剤

審判番号
2024-700614
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2023-190089
登録番号
7432791
請求日
2024年06月28日
審決日
2025年04月24日
公報発行日
2025年07月25日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】第一化成産業株式会社
  • 【権利者代理人】成瀬 重雄
  • 【異議申立人】ヤマトプロテック 株式会社
  • 【異議申立人代理人】弁理士法人IPRコンサルタント
審判長/審判官
  • 審判長 深草 祐一
  • 審判官 原 賢一
  • 審判官 増山 淳子
分類
P1651.537-YAA(A62D) / P1651.113-YAA(A62D) / P1651.121-YAA(A62D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7432791号発明「有機フッ素化合物非含有の耐アルコール型たん白泡消火薬剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第7432791号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 特許第7432791号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第7432791号の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和5年11月7日を出願日とする出願であり、令和6年2月7日にその特許権の設定登録がされ、同年同月16日に特許掲載公報が発行され、その後、同年6月28日に、その請求項1~4に係る特許を対象として特許異議申立人ヤマトプロテック株式会社(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年8月1日に、特許異議申立書を対象とする手続補正書(方式)が提出され、同年11月26日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和7年1月20日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、異議申立人からは意見書の提出がなかったものである。 第2 訂正の適否 1 訂正事項 本件訂正は、本件明細書及び特許請求の範囲を、それぞれ、訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないことを特徴とするたん白泡消火薬剤」とあるのを、「アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないことを特徴とし、さらに、上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6であるたん白泡消火薬剤」に訂正する。 (請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項4に「上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である下記いずれかの構造式に示される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のたん白泡消火薬剤。 [図:0001424584000001.jpg] 」とあるのを、「上記アミノ酸を構造式に含む化合物は、下記構造式に示される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のたん白泡消火薬剤。 [図:0001424584000002.jpg] 」に訂正する。 (3)訂正事項3 本件明細書の【0011】に「アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないことを特徴とするものである」とあるのを、「アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないことを特徴とし、さらに、上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6であるものである」に訂正する。 (4)訂正事項4 本件明細書の【0014】に「上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である下記構造式に示されるいずれかの化合物である」とあるのを、「上記アミノ酸を構造式に含む化合物は、下記構造式に示される化合物である」に訂正する。 (5)訂正事項5 本件明細書の【0015】に「 [図:0001424584000003.jpg] 」とあるのを、「 [図:0001424584000004.jpg] 」に訂正する。 (6)訂正事項6 本件明細書の【0023】に「より具体的に、上記化合物としては、セチルアラニントリエタノールアミン、ラウリル酸グリシンナトリウム・・・等が挙げられる。」とあるのを、「より具体的に、上記化合物としては、ラウリル酸グリシンナトリウム・・・等が挙げられる。」に訂正する。 (7)訂正事項7 本件明細書の【0025】に「本発明で使用する上記化合物の最適な構造式は、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつカルボキシル基を1~6含有する構造が最も主剤と相性がよく性能を満足するに至った。」とあるのを、「本発明で使用する上記化合物の最適な構造式は、1~5個のペプチド結合を有し、かつカルボキシル基を1~6含有する構造が最も主剤と相性がよく性能を満足するに至った。」に訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について 訂正事項1は、本件訂正前の請求項4の「上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」との記載に基づき、本件訂正前の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」を「1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、アミノ酸を構造式に含む化合物として、2つの構造式が選択的に記載されていたところ、その前者を削除すると共に、直接又は間接的な引用先である本件訂正後の請求項1に、訂正前の請求項4の「上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」との事項を、より限定した「上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」との事項が特定されたことに伴い、これに整合するように、訂正前の請求項4の「上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」を削除したものである。 そうすると、訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項3 本件訂正前の本件明細書の【0011】には、本件訂正前の請求項1に対応する記載がなされていたところ、訂正事項3は、上記1(1)の訂正事項1により訂正された請求項1の記載に整合させるため、訂正事項1と同じ内容の訂正を行うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (4)訂正事項4及び5 本件訂正前の本件明細書の【0014】及び【0015】には、本件訂正前の請求項4に対応する記載がなされていた(請求項4の前半の記載部分:【0014】、請求項4の後半の構造式部分:【0015】)ところ、訂正事項4及び5は、上記1(2)の訂正事項2により訂正された請求項4の記載に整合させるため、訂正事項2と同じ内容の訂正を行うものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (5)訂正事項6 本件訂正前の本件明細書の【0023】には、本件訂正前の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」の具体的な化合物が記載されていたところ、本件訂正前の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」は、上記1(1)の訂正事項1によって、「1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」ものに限定された。ここで、本件訂正前の【0023】に記載される「セチルアラニントリエタノールアミン」は、ペプチド結合を持たない、すなわち、ペプチド結合が0個の化合物である。 そうすると、訂正事項6は、上記1(1)の訂正事項1によって、本件訂正後の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」が、「1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」ものに限定されたのに伴い、本件訂正後の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」の範囲外となった「セチルアラニントリエタノールアミン」を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (6)訂正事項7 訂正事項7は、上記1(1)の訂正事項1によって、本件訂正後の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」が、「1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」ものに限定されたのに伴い、本件訂正後の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」に対応する本件明細書の【0025】に記載される「本発明で使用する上記化合物」の最適な構造式を、「1~5個のペプチド結合を有し、かつカルボキシル基を1~6含有する構造」とし、訂正後の請求項1の「アミノ酸を構造式に含む化合物」に整合させるものである。 そうすると、訂正事項7は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 3 小括 本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同法同条第9項で準用する同法第126条第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~4〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~4に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、次のとおり特定されるものである。なお、以下、本件訂正後の明細書を、本件訂正前の明細書と区別せずに「本件明細書」という。 「【請求項1】 「泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号。以下「規格」という。)」分類におけるたん白泡消火薬剤であって、加水分解たん白質溶液を主成分とし、かつ鉄イオンと、アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないことを特徴とし、さらに、上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6であるたん白泡消火薬剤。 【請求項2】 上記加水分解たん白質溶液は、分子量が300~8,000を分子量分布のピークとし、たんぱく鎖に結合している硫黄が0.1~8%である蹄角アルカリ加水分解たん白質溶液であることを特徴とする請求項1に記載のたん白泡消火薬剤。 【請求項3】 上記鉄イオンを0.1から3.0重量%含有することを特徴とする請求項1または2に記載のたん白泡消火薬剤。 【請求項4】 上記アミノ酸を構造式に含む化合物は、下記構造式に示される化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載のたん白泡消火薬剤。 [図:0001424584000005.jpg] R1は炭素数20以下のアルキル基もしくはその混合体、Rはアミノ酸側鎖、Mは水素原子もしくはアルカリ金属あるいは炭素数6以下の1~3級のアルキルアミン(アミノ酸側鎖に含まれる場合のカルボキシル基も同様)、nは1~5」 第4 令和6年11月26日付けで通知した取消理由、及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要 1 令和6年11月26日付けで通知した取消理由の概要 ・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由」という。) 本件特許は、設定登録時の請求項1~4の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 (1)サポート要件判断の規範と設定登録時の請求項1~4に係る発明の課題 特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきところ、設定登録時の請求項1~4に係る発明の課題は、本件明細書の【0010】に記載されるように、「環境汚染において問題となっているPFASを含有することなく、所望とする耐アルコール性能を有するPFAS非含有のたん白泡消火薬剤を提供すること」であるといえる。 (2)設定登録時の請求項1~4に係る発明の課題に対応する本件明細書の発明の詳細な説明の記載 上記(1)の発明の課題を解決するための手段として、【0011】には、規格分類(泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号))におけるたん白泡消火薬剤であって、加水分解たん白質溶液を主成分とし、かつ鉄イオンと、アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含むとともに、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないたん白泡消火薬剤であること、【0014】には、この「アミノ酸を構造式に含む化合物」について、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である下記構造式に示されるいずれかの化合物であること、が記載されている。 [図:0001424584000006.jpg] (R1は炭素数20以下のアルキル基もしくはその混合体、Rはアミノ酸側鎖、Mは水素原子もしくはアルカリ金属あるいは炭素数6以下の1~3級のアルキルアミン(アミノ酸側鎖に含まれる場合のカルボキシル基も同様)、nは1~5) そして、「アミノ酸を構造式に含む化合物」について、さらに【0022】には、「アミノ酸を構造式に含む化合物は、主剤のたん白原液と相性がよく、そのペプチド結合数と脂肪酸の数を制限することで、その含有する組成物を希釈したとき緩く鉄イオンと結合し、また耐アルコール性能とトランジットタイムをコントロールできる。」との記載があり、【0023】には、具体的な化合物が記載され、【0024】には、「上記化合物において、ペプチド結合が多くなるほどトランジットタイムが長くなり耐アルコール性能が低下する。脂肪酸のカルボキシル基は酸、アルカリ塩若しくはアミン塩として存在し、その数により耐アルコール性能とトランジットタイムが変化する。」との記載があり、【0025】には、「上記化合物の最適な構造式は、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつカルボキシル基を1~6含有する構造が最も主剤と相性がよく性能を満足するに至った。」との記載がある。 さらに、実施例において、「アミノ酸を構造式に含む化合物」として、ラウリル酸アラニルアラニントリエタノールアミンを用いた、たん白泡消化剤である実施例1、ミリスチル酸グリシルアラニンカリウムを用いた、たん白泡消化剤である実施例2が、フッ素系界面活性剤(PFAS)を含有するたん白泡消化剤と、ほぼ同等の性能を示すことが、実施例として、【0027】【表1】に示されている。 [図:0001424584000007.jpg] 上記【0027】【表1】に記載される実施例と比較例を参照すると、実施例における「アミノ酸を構造式に含む化合物」以外の物質は、比較例でも含まれるものであるから、本件発明を特徴付けるもの、すなわち上記(1)の発明の課題を解決する上で重要なものは「アミノ酸を構造式に含む化合物」であるといえる。 そして、「アミノ酸を構造式に含む化合物」については、「そのペプチド結合数と脂肪酸の数を制限することで、その含有する組成物を希釈したとき緩く鉄イオンと結合し、また耐アルコール性能とトランジットタイムをコントロールできる」(【0022】)との記載、「ペプチド結合が多くなるほどトランジットタイムが長くなり耐アルコール性能が低下」し、「脂肪酸のカルボキシル基は酸、アルカリ塩若しくはアミン塩として存在し、その数により耐アルコール性能とトランジットタイムが変化する」(【0024】)との記載、「上記化合物の最適な構造式は、0若しくは1~5個のペプチド結合を有し、かつカルボキシル基を1~6含有する構造が最も主剤と相性がよく性能を満足する」(【0025】)との記載によれば、上記(1)における発明の課題を解決するのに必要である、耐アルコール性能とトランジットタイムの調整には、「アミノ酸を構造式に含む化合物」に、「ペプチド結合」及び「(脂肪酸による)カルボキシル基」が存在していること、それもそれぞれ、1~5個(0個の場合は、「ペプチド結合」が存在しないことになってしまう。)及び1~6個の範囲で存在していることが肝要であるといえる。実際、上記(1)における発明の課題が解決されることを示す実施例1、2で用いられているラウリル酸アラニルアラニントリエタノールアミン及びミリスチル酸グリシルアラニンカリウムも、所定の数の「ペプチド結合」、「カルボキシル基」を有している。 (3)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比 上記(2)で述べたように、本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らすと、上記(1)の発明の課題を解決するには、「アミノ酸を構造式に含む化合物」に、1~5個の「ペプチド結合」、1~6個の「カルボキシル基」が存在することが肝要であるといえるところ、設定登録時の請求項1~3に係る発明には、「アミノ酸を構造式に含む化合物」に、1~5個の「ペプチド結合」、1~6個の「カルボキシル基」が存在することが特定されていないし、設定登録時の請求項4に係る発明では、2種の化学式が特定されるものの [図:0001424584000008.jpg] は、少なくとも「ペプチド結合」を有しているとはいえない。 そうすると、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、上記(1)の発明の課題を解決するのに必要な構成を欠いていることになるから、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし、設定登録時の請求項1~4に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。 (4)まとめ 上記(3)について、上記(1)のサポート要件判断の規範への当てはめを行うと、設定登録時の請求項1~4に係る発明は、サポート要件を満たしていない。 2 異議申立人による特許異議の申立理由の概要 (1)特許法第29条第1項第3号所定の規定違反(新規性欠如)(以下、「申立理由1」という。) 設定登録時の請求項1、3に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号の規定に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである(同甲第3号証及び甲第4号証を参考とする。)。 (2)特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由2」という。) 設定登録時の請求項1~3に係る発明は、下記3に記載の甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は、同甲第1号証に記載された発明及び同甲第2号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである(同甲第3号証及び甲第4号証を参考とする。)。 (3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由3」という。) 本件特許は、設定登録時の請求項1~4の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 記 ア 設定登録時の請求項1には、「加水分解たん白質溶液を主成分とし」との記載があるが、「主成分」が如何なる範囲の配合量の成分のことを意味するのかその技術的意義が不明であるから、設定登録時の請求項1の記載及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4の記載は、不明確である。 イ 設定登録時の請求項1には、「アミノ酸を構造式に含む化合物を必須成分として含む」とあるが、この「アミノ酸を構造式に含む化合物」が、たん白質加水分解物に本来的に含まれるアミノ酸を意味するのか、又は、たん白質加水分解物に本来的に含まれるアミノ酸以外のアミノ酸を意味するのか、その技術的意義が不明であるから、設定登録時の請求項1の記載及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4の記載は、不明確である。 3 提出された証拠 甲第1号証:特許第4636665号公報 甲第2号証:特開2000-51386号公報 甲第3号証:特開2012-213356号公報 甲第4号証:特開2012-205558号公報 第5 当審の判断 当審は、上記取消理由及び申立理由1~3のいずれの理由によっても、本件特許を取り消すことはできないと判断する。 以下、その理由について詳述する。 1 記載要件に関する、取消理由、申立理由3について (1)取消理由(サポート要件違反)について 本件発明のサポート要件の判断は、上記第4の1(1)に記載の「サポート要件の判断規範」に従って判断すべきところ、この「サポート要件の判断規範」に従って判断すると、サポート要件を充足するには、同(3)で述べたように、設定登録時の請求項1~3に係る発明において、「アミノ酸を構造式に含む化合物」に、1~5個の「ペプチド結合」、1~6個の「カルボキシル基」が存在することを特定することが必要であるし、設定登録時の請求項4に係る発明において、2種の化学式の内が特定されるものの [図:0001424584000009.jpg] は、少なくとも「ペプチド結合」を有しているとはいえないから、上述の設定登録時の請求項1~3に係る発明において、特定すべき事項に整合する記載をする必要がある。 そして、本件訂正によって、本件発明1は、第3に記載されるとおりのものとなり、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2、3に、「上記アミノ酸を構造式に含む化合物が、1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」ことが特定された。 また、本件訂正によって、本件発明4は、第3に記載されるとおりのものとなり、2種の化学式の内、本件発明1に特定された事項に合致しない、 [図:0001424584000010.jpg] が削除された。 そうすると、本件訂正によって、本件発明1、4において、サポート要件を充足するために必要な事項が全て特定されると共に、この事項に整合しない事項が削除されたことになるから、本件発明1及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明2~4は、サポート要件を充足するものであり、取消理由には、理由がない。 (2)申立理由3(明確性要件違反)について ア 申立理由3のアについて まず、「主成分」とは、例えば、財団法人日本規格協会編「JIS工業用語大辞典【第5版】」、財団法人日本規格協会、2001年3月30日(第5版第1刷)、967頁「主成分」によれば、一般的に「物質の化学成分のうち,大部分を占め,かつ,その物質の本質的役割を示す成分.」を意味する。 ここで、本件発明に、この一般的な意味を当てはめれば、請求項1における「主成分」とは、「たん白泡消火薬剤の化学成分のうち、大部分を占め、かつ、たん白泡消火薬剤の本質的役割を示す成分」として、明確に理解できるものである。 さらに、上記第4の1(2)で述べたように、本件発明は、たん白泡消火薬剤であることを前提した上で、特定の「アミノ酸を構造式に含む化合物」の添加を特徴とするものであるから、たん白泡消火薬剤であることのゆえんとなる加水分解たん白質溶液については、請求項1にも記載されるように、「泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号。・・・)」分類におけるたん白泡消火薬剤を構成できるように含まれていれば十分であって、その含有量等を厳密に規定しなければ、発明が不明確になるというものでもない。 そうすると、請求項1における「主成分」は、上述の一般的な意味で理解すれば、発明として不明確なところはないから、請求項1の記載、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4の記載は、明確である。 イ 申立理由3のイについて たん白質を加水分解すれば、アミノ酸を構造式に含む化合物が生じることになるが、これは、請求項1に記載される成分の内、主成分である「加水分解たん白質溶液」に含まれることが明らかである。 そして、本件訂正によって、請求項1に記載される「アミノ酸を構造式に含む化合物」は、「1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」特別な構造を持つものに特定され、単に、たん白質を加水分解した際に生じるアミノ酸を構造式に含む化合物に該当しないことが、より明らかとなった。 そうすると、請求項1に記載される「アミノ酸を構造式に含む化合物」が、たん白質加水分解物に本来的に含まれるアミノ酸を意味するのか、又は、たん白質加水分解物に本来的に含まれるアミノ酸以外のアミノ酸を意味するのか不明ということはないから、請求項1の記載、及び請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~4の記載は、明確である。 ウ 上記ア及びイによれば、申立理由3には、理由がない。 2 新規性欠如及び進歩性欠如に関する、申立理由1及び2について (1)各甲号証に記載された事項 ア 甲1に記載された事項 (ア)「【請求項1】 たん白加水分解物を基剤とし、泡安定剤、発泡助剤を配合した液状のたん白泡消火薬剤において、 前記たん白加水分解物を固形分として25~40重量%含有し、 前記泡安定剤として鉄塩の配合量を0.5~2.0重量%含有し、 前記発泡助剤として3-メチル-3-メトキシブタノールの配合量を8~20重量%含有し、 水の配合量は38~66.5重量%であることを特徴とするたん白泡消火薬剤。 【請求項2】 前記発泡助剤の配合量は10~15重量%である請求項1に記載のたん白泡消火薬剤。 【請求項3】 前記たん白加水分解物の配合量は固形分として30~35重量%である請求項1または請求項2に記載のたん白泡消火薬剤。 【請求項4】 さらにフッ素系界面活性剤を含有する請求項1ないし3のいずれかに記載のたん白泡消火薬剤。」 (イ)「【0006】 本発明は、たん白泡消火薬剤の粘度を著しく上昇させることなくて通常の泡消火薬剤混合方式による比例混合を可能にし、しかも2容量%以下の低い希釈濃度でも泡消火薬剤として使用可能な発泡性を持つたん白泡消火薬剤を得ることができ、これにより貯蔵タンクの小型化、備蓄容器の少量化を図れ、また備蓄基地から火災現場への搬送回数の減少を図れるたん白泡消火薬剤及び泡水溶液を提供することを目的とする。」 (ウ)「【0009】 【作用】 泡安定剤を含有するたん白加水分解物水溶液は泡安定性が高く、起泡性が中程度であるが、発泡助剤を配合することにより起泡性をも高めることができる。発泡助剤としては、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテルのうちのいずれか1種又は2種以上を含有する。このような発泡助剤を配合した結果、発泡性(泡安定性と起泡性)が良好で、かつたん白泡消火薬剤の粘度を著しく上昇させることなくて通常の泡消火薬剤混合方式で均一かつ安定よく比例混合でき、しかも2容量%以下の低い希釈濃度の泡水溶液でも泡消火薬剤として使用可能な発泡性を発揮することができる。」 (エ)「【0012】 【発明の実施の形態】 本発明のたん白泡消火薬剤は、動植物たん白加水分解物を基剤とし、泡安定剤、発泡助剤等を配合した液状のものである。泡安定剤としては硫酸鉄等である。発泡助剤としては、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテルのうちのいずれか1種又は2種以上を含有する。この場合、たん白加水分解物(固形分)の配合量は25~40重量%、発泡助剤の配合量は8~20重量%、泡安定剤の配合量は0.5~2.0重量%、水の配合量は38~66.5重量%とする。さらに少量のフッ素系界面活性剤を添加することもできる。少量のフッ素系界面活性剤を添加した場合は、泡を油面に放出した際、泡の流動性に優れ消火に要する時間を短縮化でき、また燃えている油面へ泡を流し込み易くて耐油汚染性に優れるのが得られる。また、必要に応じて、エチレングリコール等の流動点降下剤をも適量添加することがある。そして、火災部へ放出するときは水又は海水98容量%以上に対し上記たん白泡消火薬剤を2容量%以下混合させて泡水溶液とする。」 イ 甲2に記載された事項 (ア)「【請求項1】 加水分解たん白質を主成分としたことを特徴とする訓練用たん白泡薬剤。」 (イ)「【0007】 【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の訓練用たん白泡薬剤は、牛の蹄角や血粉等の硬たんぱく質(ケラチン物質)を水酸化カルシウムや水酸化ナトリウム等の強アルカリ性物質で加水分解して得られる、分子量が500~100,000程度の水溶性のたん白質加水分解物を主成分とするものである。 【0008】たん白質加水分解物を唯一の成分として、初期の目的である発泡性能に優れ、泡の処理も容易にでき、発泡放射に使用した泡水溶液の毒性・腐食性が低く地球環境に優しい等の特長を持つ訓練用たん白泡薬剤として達成できる。勿論一般的に知られているフッ素系界面活性剤・硫酸第一鉄・尿素・セロソルブ・アルコール・エチレングリコール等は目的に応じて、適宜添加することができる。 【0009】たん白質加水分解物は、天然のたん白を原料としているので毒性・腐食性等も低く、地球環境に対して極めて優しい物質であると同時に発泡性に優れている。初期の目的である発泡性に優れた天然高分子界面活性剤の性質を有する加水分解たん白質は、牛の蹄角や血粉等の硬たん白質(ケラチン物質)に対して水を倍量と水酸化カルシウムや水酸化ナトリウム等の強アルカリ性物質を10~30%を加え、常圧若しくは加圧した状態で、90~105℃で3~5時間加水分解、脱塩中和処理を行ない、濃縮して得られる。」 (ウ)「【0011】 【実施例】次に本発明の実施例を比較例を挙げて説明する。実施例と比較例の組成物を表1に記載する。 【0012】 【表1】 [図:0001424584000011.jpg] 」 ウ 甲3に載された事項 (ア)「【請求項1】 たん白加水分解物および酒粕を含有する溶液を100~140℃で加熱して得ることを特徴とするたん白加水分解物加工品。」 (イ)「【0008】 本発明で用いられるたん白加水分解物とは、たん白を含む食品、例えば魚類、家畜、穀類および豆類、あるいは該食品の加工副産物、例えば、端肉類、煮汁、おからおよび脱脂大豆、などを加水分解することによって得られる、ペプチド、アミノ酸を含むものである。」 エ 甲4に載された事項 (ア)「【請求項1】 ポテトたん白加水分解物および還元糖を含有する混合液を100~180℃で加熱することを特徴とするポテト風味強化剤の製造方法。」 (イ)「【0008】 本発明で用いられるポテトたん白加水分解物とは、馬鈴薯由来のたん白質(ポテトプロテイン)を加水分解して得られるものであり、例えば、酸を用いてアミノ酸に分解して得た、たん白加水分解物、酵素を用いてペプチドおよびアミノ酸に分解して得た、たん白加水分解物(ポテトペプチド)などが挙げられる。また、本発明では、ポテトたん白加水分解物を含有する製剤を用いることもできる。」 (2)甲1に記載された発明 甲1の上記(1)ア(ア)の【請求項1】には、たん白泡消火薬剤として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。 「たん白加水分解物を基剤とし、泡安定剤、発泡助剤を配合した液状のたん白泡消火薬剤において、 前記たん白加水分解物を固形分として25~40重量%含有し、 前記泡安定剤として鉄塩の配合量を0.5~2.0重量%含有し、 前記発泡助剤として3-メチル-3-メトキシブタノールの配合量を8~20重量%含有し、 水の配合量は38~66.5重量%であることを特徴とするたん白泡消火薬剤。」 (3)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明を対比する。 (ア)本件発明1の「たん白泡消火薬剤」は、「泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号。)」(以下、本件明細書の記載に合わせて「規格」ということがある。)分類におけるたん白泡消火薬剤であるところ、この「規格」で、「たん白泡消火薬剤」は、「たん白質を加水分解したものを基剤とする消火薬剤をいう」とされるものである。 他方、甲1発明のたん白泡消火薬剤は、「たん白加水分解物を基剤」とするもので、上記「規則」の「たん白泡消火薬剤」に合致するものであるから、甲1発明の「たん白泡消火薬剤」は、本件発明1の「泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号。以下「規格」という。)」分類におけるたん白泡消火薬剤」に相当する。 (イ)甲1発明のたん白泡消火薬剤において基剤である「たん白加水分解物」は、例えば、甲2の(1)イ(イ)の【0009】に「初期の目的である発泡性に優れた天然高分子界面活性剤の性質を有する加水分解たん白質は、牛の蹄角や血粉等の硬たん白質(ケラチン物質)に対して水を倍量と水酸化カルシウムや水酸化ナトリウム等の強アルカリ性物質を10~30%を加え、常圧若しくは加圧した状態で、90~105℃で3~5時間加水分解、脱塩中和処理を行ない、濃縮して得られる。」と記載されるように、「液状」のものとして製造されるといえる。また、上記(ア)で述べたように、本件発明1における加水分解たん白質溶液を主成分とする「たん白泡消火薬剤」は、「規格」における「たん白泡消火薬剤」であるところ、この規格によれば、本件発明1の「主成分」である「加水分解たん白溶液」は、「基剤」というべきものであるから、「基剤」は、「主成分」であるともいえるものである。 そうすると、甲1発明の「たん白加水分解物を基剤とし」は、本件発明1の「加水分解たん白質溶液を主成分とし」に相当する。 (ウ)本件発明1は、「鉄イオン」を「必須成分として含む」ものであるところ、本件明細書の【0027】の以下の【表1】によれば、 [図:0001424584000012.jpg] 「鉄イオン」は、硫酸第一鉄等の「塩」として添加されるものであるから、甲1発明の「鉄塩」を「含有し」は、本件発明1の「鉄イオン」「を必須成分として含む」に相当する。 (エ)上記(ア)~(ウ)によれば、本件発明1と甲1発明は、「「泡消火薬剤に係る技術上の規格を定める省令(昭和50年12月9日 自治省令第26号。)」分類におけるたん白泡消火薬剤であって、加水分解たん白質溶液を主成分とし、かつ鉄イオンを必須成分として含むたん白泡消火薬剤。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。 <相違点1> たん白泡消火薬剤について、本件発明1は、「1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」「アミノ酸を構造式に含む化合物」を含むのに対し、甲1発明は、このような化合物を含まない点。 <相違点2> たん白泡消火薬剤について、本件発明1は、「有機フッ素化合物(PFAS)を含有しない」ものであるのに対し、甲1発明は、有機フッ素化合物(PFAS)を含有しないものであるのか明らかでない点。 イ 相違点に対する判断 上記相違点1について検討する。 (ア)甲1には、たん白泡消火薬剤が、「1~5個のペプチド結合を有し、かつ末端若しくはアミノ酸側鎖に含まれるカルボキシル基の合計が1~6である」「アミノ酸を構造式に含む化合物」を含むことに関する何らの記載もないのであるから、上記相違点1は、実質的な相違点である。 なお、甲1発明における、「たん白加水分解物」を製造する際には、例えば、甲3の上記(1)ウ(イ)及び甲4の上記(1)エ(イ)に記載されるように、「アミノ酸を構造式に含む化合物」が生じるといえるが、これは、あくまで「たん白加水分解物」に含まれるものであって、本件発明1の(別に添加される)「アミノ酸を構造式に含む化合物」にはならないことは、上記1(2)イで述べたとおりである。 (イ)次に上記相違点1に係る構成が、当業者が容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。 本件明細書の【0009】の「1)の薬剤における希釈してから不溶物が生成されるまでの時間(以下トランジットタイム)に着目し、加水分解たん白質溶液を主成分として鉄イオンを含むたん白泡消火薬剤において、アミノ酸を構造式に含む所定の化合物を含有させることにより、PFASを添加させることなく所望の耐アルコール性能を備えたたん白泡消火薬剤が得られるとの知見を得るに至った。」との記載、及び同【0022】の「アミノ酸を構造式に含む化合物は、主剤のたん白原液と相性がよく、そのペプチド結合数と脂肪酸の数を制限することで、その含有する組成物を希釈したとき緩く鉄イオンと結合し、また耐アルコール性能とトランジットタイムをコントロールできる。」との記載によれば、本件発明1の「アミノ酸を構造式に含む所定の化合物」は、トランジットタイムをコントロールすることにより、PFASを添加させることなく所望の耐アルコール性能を備えたたん白泡消火薬剤を得るために用いるものである。 これに対し、甲1発明は、甲1の上記(1)ア(イ)の【0006】の記載によれば、「たん白泡消火薬剤の粘度を著しく上昇させることなくて通常の泡消火薬剤混合方式による比例混合を可能にし、しかも2容量%以下の低い希釈濃度でも泡消火薬剤として使用可能な発泡性を持つたん白泡消火薬剤を得ることができ、これにより貯蔵タンクの小型化、備蓄容器の少量化を図れ、また備蓄基地から火災現場への搬送回数の減少を図れるたん白泡消火薬剤及び泡水溶液を提供することを目的とする」ものであることから、発明の指向するところが本件発明1において「アミノ酸を構造式に含む化合物」を添加して達成すべきことと相違している。 そうすると、甲1発明に、本件発明1の「アミノ酸を構造式に含む所定の化合物」を採用する動機付けがあるとはいえないし、そもそも、甲1を含め、上記(1)に摘示した甲2~甲4に、本件発明1の「アミノ酸を構造式に含む所定の化合物」に関する何らの記載もない。 したがって、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえない。 ウ 小括 以上のとおり、上記相違点1は、実質的な相違点であると共に、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について検討するまでもなく、甲3、甲4を参考にしたとしても、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (4)本件発明2~3について 本件発明2、3は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるところ、本件発明1が、甲3、甲4を参考にしたとしても、本件発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明3も同様に、甲1発明ではないし、本件発明2、3は、甲1発明に基づいて、又は、甲1発明及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (5)新規性欠如及び進歩性欠如に関する、申立理由1及び2に関するまとめ 上記(3)及び(4)で述べたとおり、申立理由1及び2には、理由がない。 第6 むすび 上記第5で検討したとおり、本件特許1、3は、特許法第29条第1項に、本件特許1~3は、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるとも、本件特許1~4は、同法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び上記申立理由1~3では、本件特許1~4を取り消すことはできない。 また、他に本件特許1~4を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2024-700614

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決9件(ヤマトプロテック 株式会社、第一化成産業株式会社)
  • 2025-700241異議申立 / 2025-05-07 / 維持自己消化性成形品
    同じ当事者: ヤマトプロテック 株式会社
  • 2022-700020異議申立 / 2022-04-28 / 維持避難梯子装置用係止具、及びこれを備えた避難梯子装置
    同じ当事者: ヤマトプロテック 株式会社
  • 2023-011952拒絶査定不服審判 / 2024-08-05 / 原査定取消(特許/登録すべき)高圧ガス容器
    同じ当事者: 第一化成産業株式会社
  • 2023-012253拒絶査定不服審判 / 2024-07-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)自己消化性成形品
    同じ当事者: ヤマトプロテック 株式会社
  • 2022-009097拒絶査定不服審判 / 2023-12-13 / 請求不成立ゼロフッソ
    同じ当事者: ヤマトプロテック 株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)12件(113・A62D、121・A62D、537・A62D)
  • 2021-011488拒絶査定不服審判 / 2021-12-14 / 原査定取消(特許/登録すべき)即効性抗がん剤分解剤及び即効性抗がん剤分解方法
    共通の審決分類: 113・A62D、121・A62D、537・A62D
  • 2015-008433拒絶査定不服審判 / 2017-05-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)高温分解によって消火物質を生成する消火組成物
    共通の審決分類: 113・A62D、121・A62D、537・A62D
  • 2015-008530拒絶査定不服審判 / 2017-05-23 / 原査定取消(特許/登録すべき)高温昇華によって消火物質を生成する消火組成物
    共通の審決分類: 113・A62D、121・A62D、537・A62D
  • 2025-700241異議申立 / 2025-05-07 / 維持自己消化性成形品
    共通の審決分類: 121・A62D、537・A62D
  • 2024-700276異議申立 / 2025-02-12 / 訂正認容泡消火剤
    共通の審決分類: 121・A62D、537・A62D

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存