特許異議申立
2024-700563
熱処理炉
- 審判番号
- 2024-700563
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-093275
- 登録番号
- 7402372
- 請求日
- 2024年06月12日
- 審決日
- 2024年09月30日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】日本碍子株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人 快友国際特許事務所
- 【異議申立人】藤井 正剛
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 猛
- 審判官 池渕 立
- 審判官 佐藤 陽一
- 分類
- P1651.113-Y (F27B) / P1651.121-Y (F27B) / P1651.537-Y (F27B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項2号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7402372号発明「熱処理炉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7402372号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7402372号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願(特願2023-93275号。以下、「本願」という。)は、令和 5年 6月 6日の出願であって、令和 5年12月12日に特許権の設定登録がされ、同年同月20日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、令和 6年 6月12日に、全請求項(請求項1~7)に係る特許に対し、特許異議申立人である藤井正剛(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明は、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1~7(以下、「本件請求項1」等という。)に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、本件請求項1~7に係る発明(以下、「本件特許発明1」等といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は次のとおりのものである。
「【請求項1】
搬入口と、搬出口と、前記搬入口と前記搬出口との間に配置された処理室と、を備える炉体と、
前記搬入口から前記搬出口まで架け渡されるシート状の被処理物を、前記搬入口から前記処理室を通って前記搬出口に搬送する搬送装置と、
前記処理室内の前記被処理物が搬送される空間と同一の空間に配置されており、前記搬送装置によって搬送される前記被処理物を加熱する加熱装置と、を備えており、
前記加熱装置は、前記被処理物に赤外領域の電磁波を放射する発熱部を備える1又は複数のヒータを、備えており、
前記1又は複数のヒータは、前記被処理物の搬送経路に沿って配置されており、
前記発熱部は、前記被処理物の表面又は裏面と平行に配置されると共に、前記搬送経路と直交する前記被処理物の幅方向に伸びており、
前記被処理物の前記幅方向の中心と、前記発熱部の前記幅方向の中心とが一致し、
前記被処理物の前記幅方向の寸法をWdとし、前記発熱部の前記幅方向の寸法をHdとすると、Wd/Hdが0.20~0.80の範囲となっている、熱処理炉。
【請求項2】
前記Wd/Hdが0.25~0.65の範囲となっている、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項3】
前記Wd/Hdが0.30~0.50の範囲となっている、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項4】
前記炉体は、前記幅方向に間隔を空けて配置された一対の側壁を備えており、
前記発熱部は、前記一対の側壁の一方の側に配置された第1端部と、前記一対の側壁の他方の側に配置された第2端部と、を備えており、
前記第1端部と前記一対の側壁の一方との距離をLd1とすると、Wd/Ld1が0.32~0.74の範囲となり、
前記第2端部と前記一対の側壁の他方との距離をLd2とすると、Wd/Ld2が0.20~0.33の範囲となる、請求項1に記載の熱処理炉。
【請求項5】
前記Wd/Ld1が0.35~0.55の範囲となり、
前記Wd/Ld2が0.23~0.25の範囲となる、請求項4に記載の熱処理炉。
【請求項6】
前記処理室内に配置されており、前記搬送装置によって搬送される前記被処理物を案内する複数の案内ローラと、をさらに備えており、
前記搬送経路は、前記複数の案内ローラによって規定される、請求項1~5のいずれか一項に記載の熱処理炉。
【請求項7】
前記被処理物は、シート状のフィルムと、前記フィルムの表面及び裏面の少なくとも一方に塗布されたペーストと、を備えており、
前記加熱装置は、前記ペーストに含まれる水分を除去する、請求項6に記載の熱処理炉。」
第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法としていずれも本願の出願前に日本国内において公知となった、下記甲第1~2号証を提出して、以下の申立理由1~3により、本件特許の請求項1~7に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。
1 申立理由1(新規性、進歩性)
(1)本件特許発明1、6~7は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件特許発明1、6~7は、甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件特許発明2~3は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(サポート要件)
本件特許発明が解決しようとする課題は、被処理物の温度の上昇を抑制しながら熱処理能力を向上し、かつ、省エネ性能に優れた熱処理炉を提供することである。
本件請求項4には「前記第1端部と前記一対の側壁の一方との距離をLd1とすると、Wd/Ld1が0.32~0.74の範囲となり、前記第2端部と前記一対の側壁の他方との距離をLd2とすると、Wd/Ld2が0.20~0.33の範囲となる」と記載されており、本件請求項5には「前記Wd/Ld1が0.35~0.55の範囲となり、前記Wd/Ld2が0.23~0.25の範囲となる」と記載されているが、「Wd/Ld1」、「Wd/Ld2」という2つのパラメータの数値範囲をそれぞれ異なる範囲で規定することがどのような技術的意味を有しているかについて、発明の詳細な説明に記載されておらず、特に本願の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0044】~【0045】や【表1】を参酌しても、当業者が理解できないものであるから、本件請求項4、5のかかる構成によって上記課題を解決できると認識することはできない。本件請求項4、5を直接または間接的に引用する本件請求項6についても同様である。
したがって、本件請求項4~6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
3 申立理由3(明確性)
「Wd/Ld1」、「Wd/Ld2」という2つのパラメータについて、本件請求項4には「Wd/Ld1が0.32~0.74の範囲」、「Wd/Ld2が0.20~0.33の範囲」と、本件請求項5には「Wd/Ld1が0.35~0.55の範囲」、「Wd/Ld2が0.23~0.25の範囲」と記載されているが、出願時の技術水準に照らして、これら2つのパラメータの数値範囲をそれぞれ異なる範囲で規定することがどのような技術的意味を有しているかについて、当業者が理解できないものである。
したがって、本件請求項4、5の記載は明確であるとはいえず、また、これら請求項を引用する本件請求項6についても同様であるから、本件請求項4~6の記載は、特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
よって、本件特許発明4~6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
4 証拠方法
甲第1号証:特開2009-63268号公報
甲第2号証:特開2016-180579号公報
(以下、甲第1~2号証をそれぞれ「甲1」~「甲2」という。)
第4 当審の判断
上記申立理由1~3はいずれも採用できない。その理由は以下に記載のとおりである。
1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明
(1)甲1の記載及び甲1に記載された発明
ア 甲1には、「塗膜乾燥装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある(なお、下線は当審が付したものであり、「…」は記載の省略を表す。以下同様。)。
(1ア)「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ホログラフィックディスプレイフィルム等で用いられる塗膜については、乾燥後の厚みの均一性が製品の性能を大きく左右する。そのため乾燥後の塗膜の厚み誤差は、できるだけ小さいことが望まれる。光重合性材料と揮発性溶剤とからなる塗膜材料を塗布して形成される塗膜の乾燥では、揮発性溶剤の揮発量が異なると、乾燥後の塗膜の厚みに大きなバラツキが発生する。そこでできるだけ塗膜を均一に加熱することが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、基板ガイド機構によりガイドされて乾燥炉内を搬送されるフィルム状基板上の塗膜をフィルム状基板の搬送方向及び幅方向のいずれにおいても、ほぼ均等に加熱することができる塗膜乾燥装置を提供することにある。」
(1イ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下図面を参照して、本発明の塗膜乾燥装置の実施の形態の一例を詳細に説明する。図1は、ホログラフィックディスプレイ素子を製造する積層構造製品の製造装置で使用する乾燥装置に、本発明の塗膜乾燥装置を適用した構成を示すブロック図である。図2(A)乃至(F)は、図1の製造装置における製造過程において得られる製造物を説明するための概略図である。
【0011】
この積層構造製品の製造装置では、まず厚みが約100μmの透明ポリカーボネートフィルムの両面にそれぞれ厚み4μmのアクリル系UV系硬化樹脂による保護層が形成されたフィルム(以下合成樹脂材料を主原料として形成されたフィルム状基板と言う)をロール状に巻回したフィルムロール1から、フィルム状基板FS1を引き出して塗膜形成装置2に供給する。塗膜形成装置2は、フィルム状基板FS1の表面上に光重合性材料と揮発性溶剤とを含むホログラム記録材料(以下塗膜材料と言う)を塗布して塗膜PFを形成する。ホログラム記録材料は、光重合可能な化合物(アクリル系やスチレン系モノマー)、光重合開始剤、光重合開始剤を活性化させる増感色素、及び揮発性溶剤である。
【0012】
塗膜形成装置2の構成は任意であるが、塗膜PFの膜厚ができるだけ均一になるように塗膜材料を塗布できるものが好ましい。本実施の形態では、塗膜PFの厚みが約75μmになるように、塗膜形成装置2は、フィルム状基板FS1上にホログラム記録材料(塗膜材料)を塗布している。図2(A)は、フィルム状基板FS1上に未乾燥の塗膜PFが形成された状態を概略的に示す。
【0013】
次に塗膜乾燥装置3は、フィルム状基板FS1の表面上に形成された塗膜PFから揮発性溶剤を揮発させ且つ塗膜PFの表面部に接着力を残す程度まで乾燥させる。本例のように、未乾燥状態の塗膜PFが揮発性溶剤を含んでいる場合に、早期に塗膜PFの表面が乾燥すると、揮発した揮発性溶剤が塗膜PFの表面に孔を形成して表面に凹凸ができることがある。またこのような場合には、塗膜PFの内部にボイドが形成されてしまうこともある。したがって塗膜乾燥装置3は、塗膜PFの内部から加熱して塗膜PFの内部の揮発性溶剤がすべて揮発するまでは、塗膜PFの表面部を乾燥させないものを選ぶ必要がある。」
(1ウ)「【0014】
図3は、本発明の塗膜乾燥装置の一例を一部断面にして示した図である。図4は、赤外線ヒータとガイドローラの構成を説明するために用いる模式図である。図3及び図4において、符号31で示した部材は、乾燥炉である。乾燥炉31は、フィルム状基板FS1を受け入れる入口32と、フィルム状基板FS1を送り出す出口33とを備えている。乾燥炉31内には、基板ガイド機構30によってガイドされるフィルム状基板FS1が通過する経路の上側領域に、この経路に沿って3台の表面側赤外線照射装置34が配置されている。またこの経路の下側領域には、この経路に沿って3台の裏面側赤外線照射装置35が配置されている。基板ガイド機構30は、入口32から乾燥炉31内に搬入されたフィルム状基板FS1が出口33から搬出されるまでフィルム状基板FS1をガイドするために、複数本のガイドローラRを備えている。複数本のガイドローラRはフィルム状基板FS1の搬送方向(図4のD1)に所定の一定間隔を開けて配置されている。複数本のガイドローラRは、搬送方向D1と直交する幅方向D2に延びてフィルム状基板FS1の裏面と接触する。特に本実施の形態では、複数本のガイドローラRは、両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法W1を有している。
【0015】
また表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35は、それぞれ搬送方向D1に所定の間隔をあけて配置され幅方向D2に延びる5枚の赤外線ヒータHをそれぞれ備えている。これらの赤外線ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している。
【0016】
このように基板ガイド機構30の複数本のガイドローラRとして、両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る長さ寸法W1を有しているものを用いると、フィルム状基板FS1が幅方向に揺れた場合であって、確実にガイドローラRをフィルム状基板FS1の裏面に対して幅方向全体に接触させることができる。その結果、ガイドローラRとフィルム状基板FS1の裏面との間の幅方向の接触状況をほぼ同じ状態とすることができる。また表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35で用いる赤外線ヒータHとして、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有しているものを用いると、フィルム状基板FS1が幅方向に揺れた場合であっても、フィルム状基板FS1に対して幅方向全体に赤外線をほぼ均等に照射することができるので、幅方向両端領域における塗膜の加熱温度のバラツキを小さくすることができる。また塗膜が存在しないフィルム状基板の裏面側からも赤外線ヒータHにより赤外線を照射するため、加熱時間を短縮できるだけでなく、フィルム状基板FS1の裏面側に配置されたガイドローラRの熱的影響を実質的に無くすことができる。その結果、フィルム状基板FS1の幅方向における乾燥後の塗膜の厚み寸法のバラツキの発生を極力小さくすることができる。
【0017】
なおこの例では、表面側赤外線照射装置34の複数の赤外線ヒータHと裏面側赤外線照射装置35の複数の赤外線ヒータHとは、フィルム状基板FS1を間に介して完全に対向するように配置された面状赤外線ヒータである。面状赤外線ヒータを用いると、加熱むらの発生を防止することができる。なお面状赤外線ヒータとしては、赤外線放射面が平面的に広がるものであれば、ヒータの素体それ自体の形状は任意である。
【0018】
また乾燥炉31の底壁部36には、2つの排気筒37の一端が開口している。また乾燥炉31の入口32側には、ガス漏れ防止室38が配置され、このガス漏れ防止室38にも排気筒37の一端が開口している。さらに乾燥炉31の出口33側には、ガス漏れ防止室39が配置され、このガス漏れ防止室39にも排気筒37の一端が開口している。排気筒37は、ダクト40を介して誘引送風機41に接続され、誘引送風機41は排気通路を通して、乾燥炉31内に発生する揮発成分を含むガスを排出する。このような排気構造は、乾燥炉31内に循環するガス流路を形成することがないので、搬送されるフィルム状基板FS1が揺動するのを防止して、安定した乾燥を提供することができる。
【0019】
本実施の形態では、表面側赤外線照射装置34及び35から塗膜に照射する赤外線の波長を、塗膜中の光重合材料を重合させず、しかも塗膜の内部から塗膜を加熱して揮発性溶媒を塗膜中から揮発させることができる波長に定めている。フィルム状基板の裏面に照射する赤外線の波長は、5.6μm~1,000μmである。このような乾燥装置3を使用した結果、本実施の形態では、未乾燥の塗膜PFの厚み約75μmを、約35μmまで薄くすることができた。また乾燥した塗膜PF′の表面には、粘着力が残っていた。さらに塗膜PF′の表面に凹凸が形成されたり、塗膜中にボイドが残ったりすることはなかった。さらにフィルム状基板FS1の熱膨張・収縮によって塗膜中に発生する可能性のあるストレスの影響は、全く見受けられなかった。図2(B)は、乾燥により厚みが減少した塗膜PF′の状況を概略的に示している。」
(1エ)「【符号の説明】
【0033】
1 フィルムロール
2 塗膜形成装置
3 塗膜乾燥装置
4 フィルム状基板貼り合わせ装置
5 フィルムロール
6 流出防止処理装置
7 検査装置
8 マーキング装置
9 切断機
10 切断装置
30 基板ガイド機構
31 乾燥炉
34 表面側赤外線照射装置
35 裏面側赤外線照射装置
H 赤外線ヒータ
R ガイドローラ」
(1オ)「【図1】
[図:0001416504000001.jpg]
【図2】
[図:0001416504000002.jpg]
【図3】
[図:0001416504000003.jpg]
【図4】
[図:0001416504000004.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
(ア)上記ア(1ア)によれば、甲1に記載された発明が解決しようとする課題は、基板ガイド機構によりガイドされて乾燥炉内を搬送されるフィルム状基板上の塗膜をフィルム状基板の搬送方向及び幅方向のいずれにおいても、ほぼ均等に加熱することができる塗膜乾燥装置を提供することであると認められる(以下、単に「課題」という。)。
(イ)上記課題を解決し得る発明の実施の形態として上記ア(1イ)、(1ウ)に記載された塗膜乾燥装置に注目する。
フィルムロール1から引き出されたフィルム状基板FS1は塗膜形成装置2に供給され、フィルム状基板FS1の表面に揮発性溶剤を含む塗膜材料を塗布して塗膜PFが形成される(【0011】)。同(1オ)の【図1】も参照すると、塗膜形成装置2で塗膜PFが形成されたフィルム状基板FS1は、塗膜乾燥装置3に搬送される。
塗膜乾燥装置3は、塗膜PFが形成されたフィルム状基板FS1から揮発性溶剤を揮発させ乾燥させ(【0013】)、塗膜PFは乾燥して塗膜PF’となる(【0019】、図2)。
(ウ)塗膜乾燥装置3が、その一部を断面にした図3に示されており、上記ア(1ウ)には、以下の事項が記載されている。
塗膜PFが形成されたフィルム状基板FS1は、塗膜乾燥装置3の乾燥炉31に設けられた入り口32から搬入され、複数本のガイドローラRによってガイドされて、出口33から搬出される(【0014】)。
乾燥炉31内には、ガイドローラRによってガイドされるフィルム状基板FS1が通過する経路の上側領域に、この経路に沿って3台の表面側赤外線照射装置34が配置されており、この経路の下側領域には、この経路に沿って3台の裏面側赤外線照射装置35が配置されている(【0014】)。
表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35は、それぞれ搬送方向D1に所定の間隔をあけて配置され幅方向D2に延びる5枚の赤外線ヒータHをそれぞれ備えており、これらの赤外線ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している(【0015】)。
表面側赤外線照射装置34及び35から塗膜PFに照射する赤外線の波長は、5.6μm~1,000μmである(【0019】)。
(エ)以上、上記実施の形態としての塗膜乾燥装置3についての記載を総合すると、甲1には次の発明が記載されているものと認められる。
「塗膜PFが形成されたフィルム状基板FS1を搬入する入り口32とフィルム状基板FS1を搬出する出口33を備えた乾燥炉31と、
乾燥炉31内に設けられ、入り口32から搬入されたフィルム状基板FS1が出口33から搬出されるまでガイドする複数本のガイドローラRと、
ガイドローラRによってガイドされるフィルム状基板FS1が通過する経路の上側領域に、前記経路に沿って配置された3台の表面側赤外線照射装置34と、前記経路の下側領域に、前記経路に沿って配置された3台の裏面側赤外線照射装置35と、を備えており、
前記表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35は、それぞれ搬送方向D1に所定の間隔をあけて配置され幅方向D2に延びる5枚の赤外線ヒータHを備えており、
前記ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有しているものであって、5.6μm~1,000μmの波長の赤外線を塗膜PFに照射するものである、塗膜乾燥装置3。」(以下「甲1発明」という。)
(2)甲2の記載
ア 甲2には、「塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置」(発明の名称)に関して、次の記載がある。
(2ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置に関する。」
(2イ)「【0009】
本発明は、塗膜付き樹脂フィルムの製造において、上記のような問題の発生を防止し、塗布された塗液を加熱装置で乾燥させる際、未塗布部での過加熱を防止できる塗膜付き樹脂フィルムの製造方法および製造装置を提供する。」
(2ウ)「【0016】
図1を用いて、本発明における塗膜付き樹脂フィルムの製造装置の構成を説明する。塗液塗布装置5により、樹脂フィルム1の片面または両面に樹脂フィルム1の幅方向における任意の幅に塗液2が塗布される。塗液2は樹脂フィルム1の全面に塗布されるのではなく、塗布された塗液2の樹脂フィルム1の幅方向の両側に、塗液2が塗布されていない領域である未塗布部9が残るように塗布される。さらに、塗液2は全体に渡って厚みが均一になるように塗布されるのではなく、相対的に塗液厚みの厚い塗布部8と、この塗布部8と未塗布部9との間に相体的に塗液厚みの薄い遷移領域10とが形成されるように塗布される。つまり、塗液塗布装置5により、樹脂フィルム1には任意の厚みで塗液2が塗布された塗布部8と、塗布部8の両側に塗液2が塗布されていない未塗布部9と、塗布部8と未塗布部9との間において塗布部8よりも薄く塗液2が塗布された遷移領域10と、が形成される。…」
(2エ)「【0018】
過加熱抑制装置4により未塗布部9と遷移領域10に過加熱抑制液3が塗布される。過加熱抑制液3が塗布されることにより、加熱装置6からの熱が過加熱抑制液3の昇温や過加熱抑制液3の乾燥時の蒸発潜熱で消費されるため、未塗布部9や遷移領域10での過加熱を抑制することが出来る。」
(2オ)「【0028】
加熱装置6は、塗液2と過加熱抑制液3を加熱し乾燥させる。加熱手段7としては、対流伝熱により被加熱物を加熱する方法である熱風ノズルや、輻射熱により被加熱物を加熱する方法である赤外線ヒーターが挙げられる。…」
(2カ)「【0029】
加熱装置6は、樹脂フィルム1の幅方向において、適宜加熱する幅を選択できるが、樹脂フィルム1の全幅よりも広い幅を加熱することが好ましい。こうすることで、樹脂フィルム1の蛇行や塗布部8の位置の変動がある場合においても、塗液2や過加熱抑制液3が加熱されないことを防止できる。」
2 申立理由1(甲1を主引例とする新規性、進歩性)について
(1)本件特許発明1と甲1発明との対比
ア 甲1発明の「入り口32」、「出口33」、「乾燥炉31」は、それぞれ、本件特許発明1の「搬入口」、「搬出口」、「炉体」に相当する。
イ 甲1発明の「塗膜PFが形成されたフィルム状基板FS1」は、本件特許発明1の「シート状の被処理物」に相当する。
ウ 甲1発明において、「乾燥炉31」内において「フィルム状基板FS1」が「入り口32」から「出口33」へと搬送される空間は、当該「フィルム状基板FS1」を乾燥処理するための室を構成しているといえるから、本件特許発明1の「処理室」に相当する。
エ 上記ア~ウの検討を踏まえると、甲1発明の「塗膜PFが形成されたフィルム状基板FS1を搬入する入り口32とフィルム状基板FS1を搬出する出口33を備えた乾燥炉31」は、本件特許発明1の「搬入口と、搬出口と、前記搬入口と前記搬出口との間に配置された処理室と、を備える炉体」に相当する。
オ 甲1発明の「入り口32から搬入されたフィルム状基板FS1が出口33から搬出されるまでガイドする複数本のガイドローラR」は、「ガイドローラR」が「フィルム状基板FS1」を「入り口32」から「出口33」まで掛け渡している態様を特定しているといえるから、本件特許発明1の「前記搬入口から前記搬出口まで架け渡されるシート状の被処理物を、前記搬入口から前記処理室を通って前記搬出口に搬送する搬送装置」に相当する。
カ 甲1発明の「フィルム状基板FS1が通過する経路の上側領域に、前記経路に沿って配置された3台の表面側赤外線照射装置34」及び「前記経路の下側領域に、前記経路に沿って配置された3台の裏面側赤外線照射装置35」は、本件特許発明1の「前記処理室内の前記被処理物が搬送される空間と同一の空間に配置されており、前記搬送装置によって搬送される前記被処理物を加熱する加熱装置」に相当する。
キ 甲1発明の「赤外線ヒータH」、「赤外線放射面HS」は、それぞれ、本件特許発明1の「ヒータ」、「発熱部」に相当する。
ク 上記カ、キの検討を踏まえると、甲1発明において、「表面側赤外線照射装置34及び裏面側赤外線照射装置35」が「5枚の赤外線ヒータHを備え」ること、及び、「ヒータH」が「赤外線放射面HS」を備えることは、それぞれ、本件特許発明1において、「加熱装置」が「1又は複数のヒータ」を備えること、及び、「1又は複数のヒータ」が「被処理物に赤外領域の電磁波を放射する発熱部を備える」ことに相当する。
ケ 上記カ、キ、クの検討を踏まえると、甲1発明の「前記表面側赤外線照射装置34」及び「裏面側赤外線照射装置35」が「それぞれ搬送方向D1に所定の間隔をあけて配置され幅方向D2に延びる5枚の赤外線ヒータHをそれぞれ備えて」いることは、本件特許発明1の「前記1又は複数のヒータは、前記被処理物の搬送経路に沿って配置されており、前記発熱部は、前記被処理物の表面又は裏面と平行に配置されると共に、前記搬送経路と直交する前記被処理物の幅方向に伸びて」いることに相当する。
コ 甲1発明の「前記ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している」ことにおいて、「幅方向寸法W2」とは、図4も参照すると、「ヒータH」の幅方向寸法であるとともに、「赤外線放射面HS」の幅方向寸法であるものと認められる。
そうすると、甲1発明の「ヒータH」の「幅方向寸法W2」は、「赤外線放射面HS」の「幅方向寸法W2」でもあるから、本件特許発明1の「発熱部の前記幅方向の寸法」「Hd」に相当する。
サ 甲1発明の「フィルム状基板FS1の幅方向両端縁」間の寸法は、本件特許発明1の「被処理物の前記幅方向の寸法」「Wd」に相当する。
シ 以上の検討によれば、本件特許発明1と甲1発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
「 搬入口と、搬出口と、前記搬入口と前記搬出口との間に配置された処理室と、を備える炉体と、
前記搬入口から前記搬出口まで架け渡されるシート状の被処理物を、前記搬入口から前記処理室を通って前記搬出口に搬送する搬送装置と、
前記処理室内の前記被処理物が搬送される空間と同一の空間に配置されており、前記搬送装置によって搬送される前記被処理物を加熱する加熱装置と、を備えており、
前記加熱装置は、前記被処理物に赤外領域の電磁波を放射する発熱部を備える1又は複数のヒータを、備えており、
前記1又は複数のヒータは、前記被処理物の搬送経路に沿って配置されており、
前記発熱部は、前記被処理物の表面又は裏面と平行に配置されると共に、前記搬送経路と直交する前記被処理物の幅方向に伸びている、熱処理炉。」の点。
(相違点1)
本件特許発明1では、「前記被処理物の前記幅方向の中心と、前記発熱部の前記幅方向の中心とが一致し」ているのに対して、甲1発明では、フィルム状基板FS1の幅方向D2の中心と、赤外線放射面HSの幅方向D2の中心の位置関係について特定されていない点。
(相違点2)
本件特許発明1では、「前記被処理物の前記幅方向の寸法をWdとし、前記発熱部の前記幅方向の寸法をHdとすると、Wd/Hdが0.20~0.80の範囲となっている」のに対して、甲1発明では、「前記ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している」点。
(2)相違点についての検討
事案に鑑み、上記相違点2について検討する。
ア 甲1発明において、「フィルム状基板FS1の幅方向両端縁」間の寸法を「寸法W3」ということとすると、「前記ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している」ことは、ヒータHの幅方向の寸法W2(赤外線放射面HSの幅方向寸法W2でもある)が、フィルム状基板FS1の幅方向両端縁間の寸法W3よりも大きいこと、すなわち、「W2>W3」であることを意味するにとどまり、寸法W2に比べて寸法W3をどの程度小さいものとするかについては何ら特定されていない。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。
イ なお、上記相違点2に関して、申立人は特許異議申立書の第16~17頁において、甲1の図4におけるW2とW3の長さを測定し、W3/W2=29mm/39mm=0.743・・・と算出することにより、甲1発明においても「前記被処理物の前記幅方向の寸法をWdとし、前記発熱部の前記幅方向の寸法をHdとすると、Wd/Hdが0.20~0.80の範囲となっている」と主張しているが、甲1の図4は「赤外線ヒータとガイドローラの構成を説明するために用いる模式図」(上記1(1)ア(1ウ)の段落【0014】参照。)にすぎず、設計図のように長さが正確に表現されている図面ではなく、模式図から読み取った長さが正確な長さであるとはいえないので、上記主張は採用できない。
ウ そこで、甲1発明において、寸法W2に対する寸法W3の比、すなわち、「W3/W2」を「0.20~0.80」とすることが、当業者にとって容易になし得ることであるかについて検討する。
エ 上記1(1)ア(1ウ)には、甲1発明の認定の基礎とした塗膜乾燥装置の一実施形態について記載されているところ、甲1発明において「ヒータHは、赤外線放射面HSの幅方向の両端部がフィルム状基板FS1の幅方向両端縁を越えて外側に延び出る幅方向寸法W2を有している」ことの技術的意義とは、同(1ウ)の段落【0016】の下線部を参照すると、フィルム状基板FS1が幅方向に揺れた場合であっても、フィルム状基板FS1に対して幅方向全体に赤外線をほぼ均等に照射できるようにすることである。ここで、フィルム状基板FS1が幅方向に揺れるとは、ガイドローラによってフィルム状基板FS1を搬送方向(図4のD1方向)に搬送する際に、上記ガイドローラ等の搬送機構の振動や、搬送のためにフィルム状基板FS1に印加される引っ張り力等によって、フィルム状基板FS1が搬送方向D1とは垂直なD2方向に揺動したりずれたりすることを意味するものと考えられるところ、フィルム状基板FS1が、幅方向に揺動したりずれたりしても、ヒータHの幅を超えてはみ出さないような大きさとすることによって、フィルム状基板FS1に赤外線が照射されない箇所や照射が不足する箇所が生じないようにして、赤外線による均等な照射を可能にすることを意味するものと解される。
オ そうすると、フィルム状基板FS1の幅方向の寸法W3よりもヒータHの幅方向の寸法W2が大きいほど、フィルム状基板FS1が幅方向に揺動してもヒータHの幅を超えてはみ出すことがないので、赤外線の均一な照射が安定になし得ると考えられるから、W3/W2の比を、例えば0.80以下の適当な値にすることは当業者が適宜なし得たことであるといえる。
カ しかしながら、W3/W2の比を0.2未満の値とした場合においても、フィルム状基板FS1が揺動してもヒータHの幅を超えてはみ出すことがなく、赤外線の均一な照射を安定して行うことが可能であると考えられるから、W3/W2の比の下限値を0.2とすること、すなわち、W3/W2の比について0.2未満とすることを排除するような動機は甲1の記載から見いだすことができない。甲2の記載を参照しても同様である。
キ この点に関して、本件明細書の段落【0032】には「Wd/Hdを0.2以上とすることで、発熱部27の幅方向(Y方向)の寸法HdがワークWの幅方向(Y方向)の寸法Wdより長くなり過ぎることはない。これによって、発熱部27から放射される電磁波がワークWの熱処理に有効に活用され、熱処理炉の省エネ性能を向上することができる。」と記載されており、また、同段落【0044】と【表1】によれば、Wd/Hdが0.2未満である比較例1、2は、ヒータ入力が大きくなるので省エネ性能が低下し、総合評価として「×エネルギー大」であることが示されている一方で、Wd/Hdが0.2以上である実施例1~6は、ヒータ入力が小さくなるので省エネ性能が優れることが示されている。
ク したがって、本件特許発明1は、Wd/Hdを0.2以上とすることによって、発熱部27から放射される電磁波がワークWの熱処理に有効に活用され、熱処理炉の省エネ性能を向上することができるという優れた効果を奏するものであると認められるが、甲1には、塗膜乾燥装置のエネルギー効率を高めるために、Wd/Hdを0.2以上とすることについては記載も示唆もされていない。甲2の記載を参照しても同様である。
ケ したがって、甲1発明において、被処理物の幅方向の寸法をWdとし、発熱部の前記幅方向の寸法をHdとしたときに「Wd/Hd」を0.8以下とすることは当業者が適宜なし得たことであるといえるとしても、「Wd/Hd」を0.20以上とすること、つまり、0.20未満を排除することについての動機が見いだせず、また、この構成によって、塗膜乾燥装置のエネルギー効率を高めることができるという、本件特許発明1は甲1及び甲2には記載されていない優れた効果を奏するものであるから、甲1発明において、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項とすることが、当業者にとって容易になし得たことであるとはいえない。
(3)小括
以上のとおり、少なくとも相違点2は実質的な相違点であるから、本件特許発明1は甲1に記載された発明ではなく、また、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
そして、本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明6~7についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
また、本件特許発明1を引用することにより本件特許発明1の全ての特定事項を備えた本件特許発明2~3についても、同様の理由によって、甲1に記載された発明と甲2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、申立理由1によっては、本件特許発明1~3、6~7を取り消すことはできない。
3 申立理由2(サポート要件)について
(1)本件明細書の段落【0004】によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、被処理物の温度の上昇を抑制しながら熱処理能力を向上し、かつ、省エネ性能に優れた熱処理炉を提供することである(以下、単に「課題」という。)。
(2)上記課題を解決するための手段に関して、本件明細書には次の記載がある。
ア「【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書に開示する熱処理炉は、炉体と搬送装置と加熱装置を備えている。炉体は、搬入口と、搬出口と、搬入口と搬出口との間に配置された処理室と、を備える。搬送装置は、搬入口から搬出口まで架け渡されるシート状の被処理物を、搬入口から処理室を通って搬出口に搬送する。加熱装置は、処理室内の被処理物が搬送される空間と同一の空間に配置されており、搬送装置によって搬送される被処理物を加熱する。加熱装置は、被処理物に赤外領域の電磁波を放射する発熱部を備える1又は複数のヒータを、備えている。1又は複数のヒータは、被処理物の搬送経路に沿って配置されている。発熱部は、被処理物の表面又は裏面と平行に配置されると共に、搬送経路と直交する被処理物の幅方向に伸びている。被処理物の幅方向の寸法をWdとし、発熱部の幅方向の寸法をHdとすると、Wd/Hdが0.20~0.80の範囲となっている。
【0006】
上記の熱処理炉では、加熱装置のヒータは、被処理物に赤外領域の電磁波を放射する発熱部を備える。したがって、熱処理に適した赤外領域の波長の電磁波を被処理物に放射することができる。また、ヒータの発熱部の幅方向の寸法は、被処理物の幅方向の寸法に対して適切なものとなっている。すなわち、Wd/Hdが0.20~0.80の範囲となっている。これにより、発熱部から放射される電磁波が被処理物の熱処理に有効に利用され、熱処理以外に利用される電磁波の量を少なくすることができる。このため、被処理物の温度の上昇を抑制しながら熱処理能力を向上し、さらに省エネ性能も向上することができる。」
イ「【0045】
【表1】
[図:0001416504000005.jpg]
」(当審注:表1の一部のみ抜粋したものを掲載。)
(3)上記(2)アの摘記事項によれば、被処理物の搬送経路に沿って配置されている1又は複数のヒータの発熱部が、被処理物の表面又は裏面と平行に配置されると共に、搬送経路と直交する被処理物の幅方向に伸びており、被処理物の幅方向の寸法をWdとし、発熱部の幅方向の寸法をHdとしたとき、Wd/Hdを0.20~0.80の範囲することによって、発熱部から放射される電磁波が被処理物の熱処理に有効に利用され、熱処理以外に利用される電磁波の量を少なくすることができる。このため、被処理物の温度の上昇を抑制しながら熱処理能力を向上し、さらに省エネ性能も向上すること、すなわち、上記課題を解決することができる。
(4)また、上記(2)イの【表1】によれば、「Wd/Hd」が「0.20~0.80」の範囲にある実施例1~6は、ワーク温度を150℃に維持しながら、脱水率が35~50%と熱処理能力が優れていると共に、ヒータ入力及び廃棄損失の値が小さく、総合評価が○又は◎となっていることから、上記課題を解決し得るものであることが確認できる。
(5)そうすると、上記(3)に記載したヒータの発熱部が備える事項の全てを含むものである本件特許発明1の熱処理炉は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、上記課題を解決し得るものであるということができる。
(6)ここで、上記第3の2の申立人の主張について検討する。
申立人の主張は、本件請求項4、5の構成である「Wd/Ld1」、「Wd/Ld2」という2つのパラメータの数値範囲をそれぞれ異なる範囲で規定することがどのような技術的意味を有しているかについて、発明の詳細な説明に記載されておらず、当業者が理解できないものであるから、本件特許発明4、5は上記課題を解決できると認識することはできず、本件特許発明4、5を直接または間接的に引用する本件特許発明6についても同様である、というものであるが、本件請求項4~6はいずれも本件請求項1を直接又は間接に引用することによって、本件特許発明1の特定事項の全てを備えているものであり、本件請求項4~6で新たに特定された事項が本件請求項1の特定事項と整合しないというものでもないから、上記(3)~(5)で検討した理由と同様の理由によって、本件特許発明4~6の熱処理炉は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであって、上記課題を解決し得るものであるということができる。
そして、申立人は、本件特許発明4~6が上記課題を解決することができないことについて、具体的な実験結果や論理的な根拠を何ら示していない。
なお、「Wd/Ld1」、「Wd/Ld2」という2つのパラメータの数値範囲をそれぞれ異なる範囲で規定することがどのような技術的意味を持つかについては、下記4において検討しているように、本件明細書の記載を参照すれば明らかである。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(7)小括
以上の検討によれば、申立人の主張によっては、本件特許発明4~6は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるとはいえない。
よって、特許請求の範囲の請求項4~6の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものであるから、申立理由2によっては、本件特許発明4~6を取り消すことはできない。
4 申立理由3(明確性)について
(1)「Wd/Ld1」、「Wd/Ld2」という2つのパラメータについて、本件請求項4には「Wd/Ld1が0.32~0.74の範囲」、「Wd/Ld2が0.20~0.33の範囲」と、本件請求項5には「Wd/Ld1が0.35~0.55の範囲」、「Wd/Ld2が0.23~0.25の範囲」と記載されていることに関して、本件明細書には次の記載がある。
ア「【0033】
…すなわち、Wd/Ld1を0.32以上とすることで、発熱部27と側壁17との距離が長くなり過ぎることはない。これによって、炉体12が大きくなり過ぎることを抑制し、熱効率が悪化(すなわち、省エネ性能が低下)することを抑制することができる。また、Wd/Ld1を0.74以下とすることで、発熱部27と側壁17との距離が短くなり過ぎることはない。これによって、発熱部27から放射される電磁波によって炉体12(詳細には、側壁17の内壁面)が高温となることを抑制することができる。その結果、炉体12の内壁面からの輻射によってワークWが加熱されることを抑制でき、ワークWが高温となることを抑制することができる。同様に、Wd/Ld2を0.20以上とすることで、発熱部27と側壁18との距離が長くなり過ぎることはない。また、Wd/Ld1(当審注:Ld1はLd2の誤記と認められる。)を0.33以下とすることで、発熱部27と側壁17との距離が短くなり過ぎることもない。これによって、発熱部27から放射される電磁波がワークWの熱処理に有効に利用され、熱処理能力を向上しながら、省エネ性能を向上することができる。」
イ「【0035】
ここで、側壁17から発熱部27までの距離Ld1が側壁18から発熱部27までの距離Ld2より短くされる場合、Wd/Ld1が0.35~0.55の範囲となり、Wd/Ld2が0.23~0.25の範囲とされていてもよい。このような範囲に調整することで、発熱部27から放射される電磁波がワークWの熱処理により有効に利用され、熱処理炉10の省エネ性能をさらに向上することができる。…」
(2)上記(1)ア、イの記載を参照すると、本件特許発明1の熱処理路において、「Wd/Ld1」、「Wd/Ld2」という2つのパラメータを本件請求項4、5に記載された上記範囲内とすることによって、被処理物の温度の上昇をより抑制しながら熱処理能力をより向上し、かつ、省エネ性能により優れた熱処理炉を提供することができるとの技術的意味を有することが理解される。
(3)また、上記2つのパラメータの数値範囲をそれぞれ異なる範囲で規定することに関して、本件明細書には次の記載がある。
「【0034】
上記の数値範囲から明らかなように、側壁17から発熱部27までの距離Ld1と、側壁18から発熱部27までの距離Ld2とは、同一であってもよいし、側壁17から発熱部27までの距離Ld1が側壁18から発熱部27までの距離Ld2より短くされていてもよい。例えば、本実施例では、ヒータ(26a,26b,28)は、側壁17側の端部(当審注:図2において、ヒータの端部が炉体の外側に位置しているのは側壁18側であることが看取できるから、「側壁17側の端部」は「側壁18側の端部」の誤記と認められる。)が炉体12の外側に位置し、炉体12の外側において冷媒(例えば、空気)が供給されるようになっている(図2参照)。後述するように、ヒータ(26a,26b,28)は、内管32と外管34を備える二重管構造を有しており、内管32と外管34の間の空間36に冷媒が供給される(図3参照)。炉体12の外側においてヒータ(26a,26b,28)に冷媒を供給することで、冷媒によって炉内温度が過度に低下して熱処理能力が低下することを抑制している。ここで、発熱部27の位置をヒータ(26a,26b,28)の軸線方向の中央に配置すると、発熱部27は側壁17(当審注:側壁18の誤記と認められる。)の近くに位置し、側壁17(当審注:側壁18の誤記と認められる。)から発熱部27までの距離Ld1が側壁18(当審注:側壁17の誤記と認められる。)から発熱部27までの距離Ld2より短くなる。なお、ヒータ(26a,26b,28)に供給された冷媒は、側壁17側の端部から排出することができる。」
(4)上記(3)の記載を参照すると、ヒータは内管32と外管34を備える二重管構造となっており、これら内管と外管の間の空間に冷媒(空気)を供給するために、ヒータの一方側の端部のみを炉体の外側に位置させているので、炉体の左右方向でヒータが非対称な配置になっており、ヒータの当該非対称な配置のために、上記2つのパラメータの数値範囲をそれぞれ異なる範囲で規定していることが理解できる。
(5)小括
以上の検討によれば、本件請求項4、5において、「Wd/Ld1」、「Wd/Ld2」という2つのパラメータの数値範囲がそれぞれ異なる範囲で規定されていることがどのような技術的意味を有しているかは、本件明細書の記載を参照すれば明らかであるから、本件請求項4、5の記載は明確であり、本件請求項4、5を引用する本件請求項6も明確である。
したがって、特許請求の範囲の請求項4~6の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、申立理由3によっては、本件特許発明4~6を取り消すことはできない。
第5 結び
以上のとおりであるから、上記第3に記載した申立理由1~3によっては、本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-700563