特許異議申立
2024-700169
蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法
- 審判番号
- 2024-700169
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-123637
- 登録番号
- 7334833
- 請求日
- 2024年02月22日
- 審決日
- 2024年11月22日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】大日本印刷株式会社
- 【権利者代理人】宮嶋 学
- 【権利者代理人】堀田 幸裕
- 【権利者代理人】岡村 和郎
- 【権利者代理人】高田 泰彦
- 【権利者代理人】柏 延之
- 【異議申立人】脇谷 治義
- 審判長/審判官
- 審判長 深草 祐一
- 審判官 原 賢一
- 審判官 後藤 政博
- 分類
- P1651.537-YAA(C23C) / P1651.4 -YAA(C23C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第39条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7334833号発明「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7334833号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7334833号の請求項1~3、5に係る特許を維持する。
特許第7334833号の請求項4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7334833号の請求項1~5に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)11月13日(優先権主張 平成29年11月14日、同年12月26日、平成30年1月11日)を国際出願日とする特願2019-554211号の一部を新たな特許出願として令和2年10月28日に出願された特願2020-180577号の一部をさらに新たな特許出願として令和4年8月2日に出願されたものであり、令和5年8月21日にその特許権の設定登録がされ、同年同月29日に特許掲載公報が発行され、その後、請求項1~5(全請求項)に係る特許について、令和6年2月22日に特許異議申立人脇谷治義(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、同年5月21日付けで取消理由が通知され、指定期間内である同年7月10日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求があり、これに対し、異議申立人からは意見書の提出がなかったものである。
第2 訂正の適否
1 訂正事項
上記令和6年7月10日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~5について訂正することを求めるものであって、その具体的な訂正事項は次のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「母材を圧延することにより前記金属板を得る圧延工程を備え、」とあるのを、「母材を圧延することにより前記金属板を得る圧延工程を備え、前記金属板は、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む鉄合金からなり、」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2、3、5についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))は、前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))の2.16倍以上8.66倍以下である、金属板の製造方法。」とあるのを、「前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))は、前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))の2.16倍以上8.66倍以下であり、前記製造方法は、前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))及び前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を算出する検査工程を備える、金属板の製造方法。」に訂正する。
(請求項1を直接または間接的に引用する請求項2、3、5についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。」とあるのを、「請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「金属板」が、「34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む鉄合金からな」るものであることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項1の「金属板」が、「34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む鉄合金からな」るものであることは、本件明細書【0034】に「このような課題を解決するため、蒸着マスク20およびフレーム15の熱膨張係数が、有機EL基板92の熱膨張係数と同等の値であることが好ましい。例えば、有機EL基板92としてガラス基板が用いられる場合、蒸着マスク20およびフレーム15の主要な材料として、ニッケルを含む鉄合金を用いることができる。例えば、蒸着マスク20を構成する基材の材料として、30質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む鉄合金を用いることができる。ニッケルを含む鉄合金の具体例としては、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含むインバー材、30質量%以上且つ34質量%以下のニッケルに加えてさらにコバルトを含むスーパーインバー材、38質量%以上且つ54質量%以下のニッケルを含む低熱膨張Fe-Ni系めっき合金などを挙げることができる。」との記載があり、「ニッケルを含む鉄合金」の具体例として、「34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む」ものも例示されていることに基づくものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「金属板」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」が、「前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))及び前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を算出する検査工程を備える」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正前の請求項1には、「前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))は、窪み補正容積を前記検査領域の面積で割ることによって算出され」及び「前記窪み補正容積(V2(0.3μm))は、前記検査領域に位置する前記複数の前記窪みの前記一部の、前記金属板の厚み方向において前記表面から0.3μm以上離れた部分の容積の総和を、前記検査領域の面積で割ることによって算出され」との記載があるところ、【0097】の「検査工程は、算出工程S1及び判定工程S2を有する。算出工程S1においては、窪み補正容積密度を算出する。」との記載、「【0157】(第1検査例)・・・
【0158】
続いて、各サンプルの表面の起伏状態を検査する上述の検査工程を実施した。・・・
【0162】
続いて、サンプルから得た試験片の表面の位置の測定結果及び基準面RPの算出結果に基づいて、各試験片の窪み補正容積V1及び窪み補正容積密度V2を算出した。この際、基準面RPと補正面CPとの間の補正距離dCは0.2μmに設定した。窪み補正容積密度V2の算出結果を図29に示す。・・・
【0170】
(第2検査例~第5検査例)
基準面RPと補正面CPとの間の補正距離dCを変更したこと以外は、上述の第1検査例の場合と同様にして、上述の第1サンプル~第10サンプルの表面の起伏状態を、窪み補正容積密度V2に基づいて検査した。具体的には・・・第3検査例においては、補正距離dCを0.3μmに設定して窪み補正容積密度V2(0.3μm)を算出した。」との記載等によれば、「窪み補正容積密度V2」は、「検査工程」で算出されるものであるから、「窪み補正容積密度(V2(0.2μm))」及び「窪み補正容積密度(V2(0.3μm))」が特定されている訂正前の請求項1の「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」が、「前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))及び前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を算出する検査工程を備える」ることは、上記の本件明細書の記載から明らかである。
そうすると、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
ウ 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」をさらに限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、請求項を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項5が、請求項1乃至4のいずれか一項を引用していたのを、訂正事項3により請求項4が削除されたことに伴い、これに整合させるため引用する請求項から請求項4を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、訂正事項4は、訂正前の請求項5が引用していた請求項4を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
3 小括
本件訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、一群の請求項を構成する請求項〔1~5〕について訂正することを求めるものであるところ、上記2のとおり、訂正事項1~4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認容し得るものであるから、本件訂正後の請求項1~5に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応して「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。なお、「本件発明」については、本件訂正前のものに対しても区別せずに用いることがある。)の記載は、次のとおり特定されるものである。
「【請求項1】
蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法であって、
母材を圧延することにより前記金属板を得る圧延工程を備え、
前記金属板は、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む鉄合金からなり、
前記金属板は、前記金属板の表面に位置する複数の窪みを有し、
前記表面は、0.1mm2以上の面積を有する検査領域を含み、前記複数の窪みの一部が、前記検査領域に位置し、
前記金属板は、12000μm3/mm2以下の窪み補正容積密度(V2(0.2μm))を有し、前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))は、窪み補正容積を前記検査領域の面積で割ることによって算出され、
前記窪み補正容積は、前記検査領域に位置する前記複数の前記窪みの前記一部の、前記金属板の厚み方向において前記表面から0.2μm以上離れた部分の容積の総和であり、
前記容積は、前記複数の前記窪みの前記一部の深さをレーザー顕微鏡によって測定した結果に基づいて算出され、
前記金属板は、6000μm3/mm2以下の窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を有し、
前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))は、前記検査領域に位置する前記複数の前記窪みの前記一部の、前記金属板の厚み方向において前記表面から0.3μm以上離れた部分の容積の総和を、前記検査領域の面積で割ることによって算出され、
前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))は、前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))の2.16倍以上8.66倍以下であり、
前記製造方法は、前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))及び前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を算出する検査工程を備える、金属板の製造方法。
【請求項2】
前記検査領域の面積は1.5mm2以下である、請求項1に記載の金属板の製造方法。
【請求項3】
前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))が996μm3/mm2以上である、請求項1又は2に記載の金属板の製造方法。
【請求項4】
(削除)
【請求項5】
前記金属板の厚みは30μm以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。」
第4 令和6年5月21日付けで通知した取消理由及び異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 令和6年5月21日付けで通知した取消理由の概要
・特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「取消理由」という。)
設定登録時の請求項1~5に係る特許は、その請求項1~5の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
(1)本件発明の課題
本件明細書の【0020】の「本件発明者らが鋭意研究を行ったところ、算術平均粗さRaなどの、従来技術における表面起伏の指標と、金属板に形成される貫通孔の寸法精度との間の相関が、必ずしも高くないことを見出した。このため、仮に算術平均粗さRaに基づいて金属板の良否を判定する場合、誤判定を防ぐために合否判定の閾値を必要以上に厳しくする必要がある。この結果、金属板の歩留まりが低下してしまう。」の記載、及び同【0021】の「本開示の実施形態は、このような課題を効果的に解決し得る金属板及び金属板の製造方法並びに蒸着マスク及び蒸着マスクの製造方法を提供することを目的とする。」等の記載によれば、製造方法の発明である本件発明に対応する発明の課題は、「算術平均粗さRaなどの、従来技術における表面起伏の指標と、金属板に形成される貫通孔の寸法精度との間の相関が、必ずしも高くなく、仮に算術平均粗さRaに基づいて金属板の良否を判定する場合、誤判定を防ぐために合否判定の閾値を必要以上に厳しくする必要があり、金属板の歩留まりが低下してしまう」ことを解決する金属板の製造方法を提供することにあるといえる。
(2)本件発明の課題に対応する本件明細書の記載
本件明細書の【0093】の「上述のように、金属板64に貫通孔25を精密に形成できるか否かは、金属板64の表面に形成されている窪み64cの深さだけでなく、窪み64cの容積にも大きく依存する。一方、従来の算術平均粗さRaなどに基づく技術は、窪み64cの容積に関する情報を適切に取得することができない。このため、算術平均粗さRaを用いて金属板64の検査を行う場合、蒸着マスク20の製造に不適切な金属板64が検査に合格することを防ぐためには、合否判定の閾値を必要以上に厳しくする必要がある。この結果、金属板64の歩留まりが低下してしまうと考えられる。」、及び同【0094】の「このような課題を解決するため、本実施の形態においては、金属板64の検査を、窪み64cの容積を考慮して行うことを提案する。これにより、窪み64cに起因して生じる、蒸着マスク20の貫通孔25の寸法精度の低下の程度を、より正確に予測することができる。このため、合否判定の閾値を必要以上に厳しくすることなく、金属板64の検査を行うことができ、金属板64の歩留まりを高めることができる。以下、窪み64cの容積を考慮した検査工程の一例について、図18及び図19を参照して説明する。」等の記載によれば、金属板の窪みの容積を考慮した金属板の検査を行うことにより、蒸着マスクの貫通孔の寸法精度の低下の程度を、より正確に予測することができ、合否判定の閾値を必要以上に厳しくすることなく、金属板の検査を行うことができるため、上記(1)の発明の課題を解決できることになるといえる。
そして、同【0095】~【0120】、【0156】~【0177】には、上記の金属板の窪みの容積を考慮した金属板の検査工程の内容が記載されている。
(3)特許請求の範囲の記載と本件明細書の発明の詳細な説明の記載との対比
上記(2)で述べたように本件発明の課題を解決するには、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件明細書の【0095】~【0120】、【0156】~【0177】等に記載される特定の金属板の窪みの容積を考慮した金属板の検査工程を含む金属板の製造方法である必要があると理解されるところ、設定登録時の請求項1~5に係る発明には、上記の検査工程に関する特定はなされていない。
そうすると、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできない。
2 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
(1)特許法第39条第2項所定の規定違反(同日出願の同一性)(以下、「申立理由1」という。)
設定登録時の請求項1~5に係る発明は、同日出願された下記3に記載の甲第1号証に係る出願(特願2019-554211号)の発明と同一と認められるものであるから、それらの特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由2」という。)
設定登録時の請求項1~5に係る特許は、請求項1~5の記載が下記(4)の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである(甲第5号証を引用している。)。
(3)特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)(以下、「申立理由3」という。)
設定登録時の請求項1~5に係る特許は、請求項1~5の記載が下記(5)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
(4)申立理由2の内容
本件明細書の記載によれば、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、「従来技術における表面起伏の指標(算術平均粗さRa)と、金属板に形成される貫通孔の寸法精度との間の相関が、必ずしも高くないため、算術平均粗さRaに基づいて金属板の良否を判定する場合、誤判定を防ぐために合否判定の閾値を必要以上に厳しくする必要があり、金属板の歩留まりが低下してしまう」ことを課題としており、かかる課題を効果的に解決する金属板を提供することを目的としている。
そして、本件明細書の記載によれば、金属板の窪みの容積を考慮したうえで金属板の検査を行うことによって、蒸着マスクの貫通孔の寸法精度の低下の程度をより正確に予測することができ、合否判定の閾値を必要以上に厳しくすることなく、金属板64の検査を行うことができるため、上記の発明の課題を解決することができる。
そうすると、本件発明の課題を解決するためには、特定の金属板の窪みの容積を考慮した金属板の検査工程を含む金属板の製造方法である必要があると理解される。
ここで、設定登録時の請求項1に係る発明に「検査工程」が含まれていないとすれば、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、「特定の金属板の窪みの容積を考慮した金属板の検査工程を含む金属板の製造方法」ではないから、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということはできないし、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし設定登録時の請求項1~5に係る発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということもできない。したがって、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、サポート要件を満たしていない(14頁21行~16頁24行)。
上記申立理由2は、上記1で述べた「取消理由」と同旨である。
(5)申立理由3の内容
設定登録時の請求項1に係る発明は、「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」に関するから、設定登録時の請求項1に記載された構成要件から、金属板の具体的な製造工程を明確に特定できる必要がある。
しかしながら、設定登録時の請求項1の記載からは、訂正前の請求項1に係る発明の製造方法の具体的工程の1つとして「検査工程」が含まれるか否かを特定することができない。
してみると、「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」という発明でありながら、「検査工程」に関する特定がされていない設定登録時の請求項1、設定登録時の請求項1を直接又は間接的に引用する設定登録時の請求項2~5に係る発明は、不明確である(16頁25行~17頁16行)。
3 提出された証拠
甲第1号証:J-PlatPat、特許情報プラットフォーム、経過情報照会、特許出願2019-554211号の異議2021-700471号の「異議の決定」の出力物、2023年10月27日出力
甲第2号証:J-PlatPat、特許情報プラットフォーム、経過情報照会、特許出願2019-554211号の「分割出願情報」の出力物、2023年10月27日出力
甲第3号証:J-PlatPat、特許情報プラットフォーム、経過情報照会、特許出願2019-554211号の「登録情報」の出力物、2023年10月27日出力
甲第4号証:J-PlatPat、特許情報プラットフォーム、経過情報照会、特許出願2019-554211号の「経過情報」の出力物、2023年10月27日出力
甲第5号証:J-PlatPat、特許情報プラットフォーム、経過情報照会、特許出願2019-554211号の異議2021-700471号の「取消理由通知書」の出力物、2023年10月31日出力
(以下、甲第1号証を略して、「甲1」などという。)
第5 当審の判断
1 取消理由及び申立理由2(サポート要件違反)について
取消理由(申立理由2)は、本件発明の課題を解決するには、「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」が、金属板の窪みの容積を考慮した金属板の検査工程を含む必要があると理解されるところ、設定登録時の請求項1~5に係る発明には、上記の検査工程に関する特定はなされていないから、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、サポート要件を満たしていない、というものである。
本件訂正により、本件発明1の「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」に対し、「前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))及び前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を算出する検査工程を備える」ことが特定され、本件発明において、発明の課題を解決するのに必要な、金属板の窪みの容積を考慮した金属板の検査工程が特定された。
そうすると、本件発明は、本件発明の課題を解決できるものであり、サポート要件を満たしているといえるから、取消理由及び申立理由2には理由がない。
2 申立理由1(同日出願の同一性)について
(1)特願2019-554211号の発明について
本件特許に係る出願は、第1に記載し、また、甲2にも示されるとおり、2018年(平成30年)11月13日(優先権主張 平成29年11月14日、同年12月26日、平成30年1月11日)を国際出願日とする特願2019-554211号の一部を新たな特許出願として令和2年10月28日に出願された特願2020-180577号の一部をさらに新たな特許出願として令和4年8月2日に出願されたものであるところ、本件特許に係る出願が、特に分割要件に違反するような事情はないから、本件特許に係る出願日は、最初の出願である特願2019-554211号の出願日まで遡及し、特願2019-554211号と同日出願の関係にあるものである。
そして、特願2019-554211号の特許について、甲4の登録に関する経過情報によれば、2023年9月26日に特許料の納付があり、甲3の登録情報によれば、4年分の納付がなされていることを考慮すると、現在も特願2019-554211号に係る特許は有効である。
さらに、甲4によれば、特願2019-554211号に係る特許は、2021年10月12日に訂正請求がなされ、2022年3月2日の異議決定によりこの訂正請求が認容されたから、最新の特願2019-554211号に係る発明は、甲1の異議決定の第3に記載された以下のとおりのものである(以下、この請求項1に係る発明を、「原出願発明1」などという。)。
「【請求項1】
蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法であって、
母材を圧延することにより前記金属板を得る圧延工程を備え、
前記金属板は、前記金属板の表面に位置する複数の窪みを有し、
前記表面は、0.1mm2以上の面積を有する検査領域を含み、前記複数の窪みの一部が、前記検査領域に位置し、
前記金属板は、12000μm3/mm2以下の窪み補正容積密度(V2(0.2μm))を有し、前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))は、窪み補正容積を前記検査領域の面積で割ることによって算出され、
前記窪み補正容積は、前記検査領域に位置する前記複数の前記窪みの前記一部の、前記金属板の厚み方向において前記表面から0.2μm以上離れた部分の容積の総和であり、
前記容積は、前記複数の前記窪みの前記一部の深さをレーザー顕微鏡によって測定した結果に基づいて算出され、
前記金属板は、6000μm3/mm2以下の窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を有し、
前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))は、前記検査領域に位置する前記複数の前記窪みの前記一部の、前記金属板の厚み方向において前記表面から0.3μm以上離れた部分の容積の総和を、前記検査領域の面積で割ることによって算出され、
前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))は、前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))の2.16倍以上8.63倍以下であり、
前記製造方法は、前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))及び前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を算出する検査工程を備える、金属板の製造方法。
【請求項2】
前記検査領域の面積は1.5mm2以下である、請求項1に記載の金属板の製造方法。
【請求項3】
前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))が996μm3/mm2以上である、請求項1又は2に記載の金属板の製造方法。
【請求項4】
前記金属板は、ニッケルを含む鉄合金からなる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。
【請求項5】
前記金属板の厚みは30μm以下である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属板の製造方法。」
(2)本件発明1について
本件発明は、上記第3に記載されたとおりのものであり、本件発明1には、本件訂正によって付加された「前記金属板は、34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む鉄合金からなり」との構成があるところ、本件発明1と原出願発明1を対比すると、金属板が、本件発明1では、「34質量%以上且つ38質量%以下のニッケルを含む鉄合金からな」るものであるのに対し、原出願発明1では、具体的な金属材料は特定されていない点で、少なくとも相違している。
そして、金属板に関する上記相違点によって、本件発明1は、原出願発明1に対してより限定された発明となり、本件発明1と原出願発明1との間には、実質的な相違点が存在することになるから、本件発明1は、原出願発明1と同一ではない。
原出願発明1を直接又は間接的に引用する原出願発明4は、金属板について「ニッケルを含む鉄合金からなる」ことまでを特定するものであるが、鉄合金におけるニッケルの含有量までを特定するものではないから、本件発明1は、原出願発明4と対比しても、原出願発明4に対してより限定された発明となる。
そうすると、本件発明1と原出願発明4との間には、実質的な相違点が存在することになるから、本件発明1は、原出願発明4と同一ではない。
さらに、原出願発明1を直接又は間接的に引用する原出願発明2、3、5は、金属板の材料等をさらに限定するものではないから、金属板に関する本件発明1との間の相違点は、原出願発明1と同じものとなる。
よって、原出願発明1の場合と同様に、本件発明1は、原出願発明2、3、5と同一ではない。
(3)本件発明2、3、5について
本件発明2、3、5は、本件発明1を引用し、これを、さらに限定するものであるが、金属板の材料等をさらに限定するものではないから、本件発明1との金属板に関する相違点は、原出願発明1~5と対比した場合と同様である。
そうすると、本件発明2、3、5と原出願発明1~5との間には、実質的な相違点が存在することになるから、本件発明2、3、5は、原出願発明1~5と同一ではない。
(4)小括
上記(2)及び(3)によれば、本件発明1~3、5は、原出願発明1~5と同一ではないから、申立理由1には、理由がない。
3 申立理由3(明確性要件違反)について
申立理由3は、設定登録時の請求項1~5に係る発明において、「検査工程」に関する特定がないため、設定登録時の請求項1~5に係る発明は、不明確である、とするものである。
しかしながら、本件訂正により、本件発明1には、「蒸着マスクを製造するための金属板の製造方法」に対し、「前記窪み補正容積密度(V2(0.2μm))及び前記窪み補正容積密度(V2(0.3μm))を算出する検査工程を備える」ことが特定され、本件発明において、金属板の検査工程が特定された。
そうすると、本件発明は、不明確であるということはできないから、申立理由3には理由がない。
第6 むすび
上記第5で検討したとおり、本件特許1~3、5は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとも、同法第39条第2号の規定に違反してされたものであるともいうことはできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記取消理由及び申立理由1~3では、本件特許1~3、5を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1~3、5を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件特許4に係る請求項4は、本件訂正により削除され、本件特許4に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2024-700169