特許訂正審判
2024-390093
自動運転制御装置及び車両
- 審判番号
- 2024-390093
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 訂正審判(訂正の審決)
- 出願番号
- 特願2019-114306
- 登録番号
- 6893602
- 請求日
- 2024年08月19日
- 審決日
- 2025年10月16日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】CASE特許 株式会社
- 【請求人代理人】高橋 雄一郎
- 【請求人代理人】望月 尚子
- 審判長/審判官
- 審判長 遠藤 秀明
- 審判官 中尾 麗
- 審判官 西山 智宏
- 分類
- P141 .856-Z (B60W) / P141 .121-Z (B60W) / 標準データ:手続:訂正 / 標準データ:41・856-Z (B60W) / 標準データ:41・121 / 標準データ:出訴:令和07年10113 / 標準データ:確定ステータス:2 維持(出訴有り)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 行政事件訴訟法46条特許法126条7項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第126条第1項、特許法第29条第2項、特許法第126条第7項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)、特許情報標準データ(審判)
事件の表示
特許第6893602号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件訂正審判に係る特許第6893602号の請求項1~9、11及び12に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)9月29日(優先権主張 平成26年9月30日)を国際出願日とする特願2016-552064号の一部を、平成30年10月29日に新たな特許出願とした特願2018-203031号の一部を、令和元年6月20日に新たな特許出願としたものであって、令和3年6月4日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月23日に特許掲載公報が発行された。
そして、その特許に対し、令和4年10月25日に訂正審判の請求がされ、令和4年12月27日付けで訂正を認める旨の審決がされ、令和5年1月10日に当該審決が確定した。
その後、令和6年8月19日に訂正審判(以下「本件訂正審判」という。)の請求がされ、同年9月12日付で手続補正指令書(方式)が通知され、同年9月30日に手続補正書(方式)が提出され、同年10月29日に上申書が提出されたものである。
これに対し、当審において令和7年5月20日付け(発送日:同年同月23日)で訂正拒絶理由を通知したところ、令和7年6月18日付けで意見書及び上申書が提出された。
第2 請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、「特許第6893602号の特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正することを認める、との審決を求める。」というものである。
第3 訂正の内容
本件訂正審判の請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1、2のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に「前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替えるように構成されている、」と記載されているのを、「前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え、高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている、」と訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~9及び12も同様に訂正する)。
[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項11に「報知部と、を備える、自動運転制御装置」と記載されているのを、「報知部と、を備え、前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え、高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている、自動運転制御装置」と訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12も同様に訂正する)。
第4 訂正拒絶理由の概要
当審が令和7年5月20日付けで通知した訂正拒絶理由の要旨は、以下のとおりである。
訂正事項1及び2は、特許法第126条第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
しかしながら、本件訂正後の請求項1、11及び12に係る発明は、引用文献1に記載された発明、及び周知技術に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、独立特許要件を満たさない。
したがって、訂正事項1及び2は特許法第126条第7項の規定に適合しないから、本件訂正は認められない。
引用文献1:LEGACYアイサイト取扱説明書(令和6年10月29日提出の上申書に添付された被告第1準備書面で示された乙第8号証の1)
引用文献2:転機を迎えたクルマ-自動運転が変えるモビリティの未来-(同乙第8号証の3)
引用文献3:自動運転技術の開発動向と実用化に向けた課題(同乙第8号証の4)
引用文献4:「オートパイロットシステムの実現に向けて」中間とりまとめ(案)(同乙第8号証の6)
第5 訂正の適否
1 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、「運転モード設定部」が「高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替える」ことをさらに特定するものであり、特許法第126条第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
願書に添付した明細書には次の記載がある(下線は当審で付与した。)。
「【0011】
基本モードで車両の運転が行われている場合、状況によっては高度自動化モードに切り替えて自動運転処理に任せた方が好ましい場合も起こり得る。そこで、運転モード設定部は、運転モードが基本モードの場合に、予め設定した高度自動化切替条件が成立した場合、運転モードを高度自動化モードに切り替えるようにしてもよい。
【0012】
高度自動化切替条件とは、運転モードを基本モードから高度自動化モードに切り替える必要がある、或いは切り替えることが望ましい特定の条件である。高度自動化切替条件の数や内容は適宜決めてもよい。また、高度自動化切替条件が複数設定されている場合は、その複数の高度自動化切替条件の少なくとも1つが成立している場合に高度自動化モードに切り替わるようにしてもよいし、設定されている全ての高度自動化切替条件のうち2以上の特定数以上或いは全てが成立している場合に高度自動化モードに切り替わるようにしてもよい。」
「【0102】
・・・自動運転制御部30の演算部30aは、自動運転起動SW42が押されると、図5に示すメイン処理を実行することで、高度自動化モードと基本モードの切り替えを行う。つまり、演算部30aが図5のメイン処理を実行することで、モード切替機能が実現される。」
「【0105】
・・・自動運転起動SW42がオンされた場合は(S25:YES)、S30で、自動運転制御処理を実行する。自動運転制御処理は、運転モードを基本モードから高度自動化モードに切り替え可能か否かを判断して、切り替え可能ならば高度自動化モードに切り替える処理である。・・・
【0106】
図6の自動運転制御処理に進むと、S110で、現在の運転モードが高度自動化モードであるか否か判断する。・・・高度自動化モードでなく基本モードの場合は(S110:NO)、S120に進む。
【0107】
S120では、S130の初期自動切替確認処理をすでに実行済みか否か判断する。初期自動切替確認処理とは、車両1の運転モードを基本モードから高度自動化モードに切り替え可能か否かを判断するための自動切替確認処理の1つであって、車両1の起動スイッチがオンされた後に最初に実行される自動切替確認処理である。
【0108】
メイン処理の開始後、初期自動切替確認処理をまだ実行していない場合は(S120:NO)、S130に進んで初期自動切替確認処理を実行する。・・・運転モード如何にかかわらず起動後に少しでも走行した場合は(S140:YES)、S150に進んで通常時自動切替確認処理を実行する。・・・通常時自動切替確認処理は、車両1の運転モードを基本モードから高度自動化モードに切り替え可能か否かを判断するための自動切替確認処理の1つであって、すでに初期自動切替確認処理が実行済みの場合に実行される自動切替確認処理である。」
「【0110】
S130の初期自動切替確認処理の詳細は、図7に示す通りである。・・・」
「【0115】
S340では、基本モード維持フラグがクリアされているか否か判断する。なお、基本モード維持フラグ、及び後述する各種フラグは、いずれも、メイン処理の開始時には初期値としてクリアされている。
【0116】
基本モード維持フラグがクリアされている場合は(S340:YES)S350で、高度自動化切替フラグをセットする。S350の処理後は、S160(図6)に進む。・・・
【0117】
次に、S150(図6)の通常時自動切替確認処理の詳細は、図8に示す通りである。図8の通常時自動切替確認処理に進むと、S410で、高度自動化モードへの正常時移行条件が成立しているか否か判断する。高度自動化モードへの正常時移行条件は種々考えられ、例えば、ドライバーがハンドル20を握っていること、としてもよい。また例えば、車両1が法定速度内で走行中であって且つこれから一定時間は直進走行又はそれに類する(曲がりの少ない)走行が可能な状態であること、としてもよい。つまり、安定した状態で高度自動化モードに切り替えることができるよう、正常時移行条件を設定してもよい。また、正常時移行条件として、例えば、ドライバーが運転席に着座していることを、単独で若しくは他の条件と合わせて(例えば他の条件との論理和又は論理積として)用いてもよい。なお、この正常時移行条件は、高度自動化切替条件の一例である。
【0118】
高度自動化モードへの正常時移行条件が成立している場合は(S410:YES)、S480で、基本モード維持フラグがクリアされているか否か判断する。基本モード維持フラグがクリアされていない場合は(S480:NO)、S470で高度自動化切替フラグをクリアして、S160(図6)に進む。基本モード維持フラグがクリアされている場合は(S480:YES)、S490で高度自動化切替フラグをセットして、S160(図6)に進む。」
「【0128】
S160では、高度自動化切替フラグがセットされているか否か判断する。・・・高度自動化切替フラグがセットされている場合は(S160:YES)、S170で、運転モードを高度自動化モードに設定して、目的地への自動運転を開始する。S170では、より具体的には、運転モードを高度自動化モードに設定すると共に、高度自動化モードとして設定されている自動運転レベルに基づく自動制御機能を実行する。」
「【0150】
(5)実施形態の効果
以上説明した本実施形態の車両1によれば、運転モードとして高度自動化モードと基本モードを有し、高度自動化モード中、基本モードに移行すべき(或いは移行してもよい)条件が成立した場合は基本モードに切り替わる。そのため、高度自動化モードから基本モードへの切り替えを適切なタイミングで行うことが可能となる。逆に、基本モード中、高度自動化モードに移行すべき(或いは移行してもよい)条件が成立した場合は高度自動化モードに切り替わる。そのため、基本モードから高度自動化モードへの切り替えを適切なタイミングで行うことが可能となる。」
「【0152】
なお、演算部30a、図5のS10及びS45、図6のS170及びS220は、周囲情報取得部の一例、運転モード設定部の一例、及び自動制御部の一例に相当する。図8において、S410で肯定判定されてS480に進み、S480で否定判定されてS470に進む処理は、運転モード設定部の一例に相当する。」
したがって、願書に添付した明細書には、運転モード設定部が、高度自動化切替条件が成立した場合に、自動で基本モードから高度自動化モードへ切り替える点が記載されていると認められる。
よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
(2) 訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、「運転モード設定部」について「前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え」ること、及び、「高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替える」ことをさらに特定するものであり、特許法第126条第1項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
上記1(1)イ指摘箇所に加えて、願書に添付した明細書には、段落【0132】、【0161】、【0171】ないし【0175】に、「高度自動化モードから基本モードに切り替えるべき条件が成立しているかどうかを判断」する処理として、「自動で急ブレーキが作動したか否かを判断」すること、及び「自動で急ブレーキが作動した場合」に「運転モード」を「基本モードに切り替」えることが記載されている。
したがって、願書に添付した明細書には、運転モード設定部が、運転モードが高度自動化モードに設定されているときに、急ブレーキ判断部により急ブレーキが作動したと判断されると、運転モードを基本モードに切り替える点も記載されていると認められる。
よって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内における訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことについて
訂正事項2は、上記アのとおり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は、特許法第126条第6項の規定に適合する。
2 独立特許要件について
訂正事項1及び訂正事項2は、特許法第126条第1項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、特許法第126条第7項の規定に該当するものであるか、すなわち、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて検討を要するところ、本件特許に関し、東京地方裁判所の損害賠償請求事件(令和6年(ワ)第70090号)において、本件訂正審判の請求に先立って被告による特許無効の抗弁がされた(被告第1準備書面)。そして、本件訂正審判の審判請求人より令和6年10月29日及び令和7年6月18日に上申書に添付する形式にて当該損害賠償請求事件に係る原被告の準備書面等計37通が提出されたので、その内容も含め、以下検討する。
(1) 本件訂正後の本件特許に係る発明
訂正後の特許請求の範囲の請求項1、11及び12は、本件審判請求書に添付された訂正後の、以下の事項により特定されるものである(以下、訂正後の請求項1、11及び12に係る発明を「訂正発明1」、「訂正発明11」及び「訂正発明12」という。)。
【請求項1】
車両に搭載される自動運転制御装置であって、
前記車両の周囲の情報である周囲情報を取得するように構成された周囲情報取得部と、
前記車両の運転モードを、前記車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部又は全てを前記周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動化モードであって、前記複数種類の運転動作に車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が含まれる高度自動化モード、及び、前記自動で実行する前記運転動作の種類が前記高度自動化モードよりも少ないか若しくはゼロである基本モード、の何れか一方に設定するように構成された運転モード設定部と、
前記運転モード設定部により設定された前記運転モードに基づき、その運転モードにおいて前記自動で実行するように設定されている前記運転動作を実行するように構成された自動制御部と、
前記自動制御部により前記車両の急ブレーキが作動したか否か判断するように構成された急ブレーキ判断部と、
を備え、
前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え、
高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている、
自動運転制御装置。
【請求項11】
車両に搭載される自動運転制御装置であって、
前記車両の周囲の情報である周囲情報を取得するように構成された周囲情報取得部と、
前記車両の運転モードを、前記車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部又は全てを前記周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動化モードであって、前記複数種類の運転動作に車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が含まれる高度自動化モード、及び、前記自動で実行する前記運転動作の種類が前記高度自動化モード
よりも少ないか若しくはゼロである基本モード、の何れか一方に設定するように構成された運転モード設定部と、
前記運転モード設定部により設定された前記運転モードに基づき、その運転モードにおいて前記自動で実行するように設定されている前記運転動作を実行するように構成された自動制御部と、
前記自動制御部により前記車両の急ブレーキが作動したか否か判断するように構成された急ブレーキ判断部と、
前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されている場合に、前記急ブレーキ判断部により前記急プレーキが作動したと判断されることに応じて、前記車両の運転者に報知を行うように構成された報知部と、
を備え、
前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え、
高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている、
自動運転制御装置。
【請求項12】
請求項1~9および11のいずれか1項に記載の自動運転制御装置を備える車両。
(2) 引用文献、引用文献に記載された事項、引用発明及び技術常識の認定
ア 引用文献
引用文献1:LEGACYアイサイト取扱説明書(令和6年10月29日提出の上申書に添付された被告第1準備書面で示された乙第8号証の1)
引用文献2:転機を迎えたクルマ-自動運転が変えるモビリティの未来-(同乙第8号証の3)
引用文献3:自動運転技術の開発動向と実用化に向けた課題(同乙第8号証の4)
引用文献4:「オートパイロットシステムの実現に向けて」中間とりまとめ(案)(同乙第8号証の6)
イ 引用文献について
(ア) 引用文献1
引用文献1のダウンロード元のウェブページ(令和6年10月29日提出の上申書に添付された被告第1準備書面で示された乙第8号証の2 <URL: https://www.subaru.jp/afterservice/tnst/legacy/bmbr-type-e/dl.html>)によると、本件特許についての優先権主張日(平成26年9月30日)よりも前の平成25年5月に公開された引用文献1には以下の記載がある(下線は当審で付した。以下、他の引用文献も同様。)。
a 「EyeSightはさまざまな機能によって、運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にする運転支援システムです。EyeSightは、スバル独自のステレオカメラを用いています。2台のCCDカメラを用いたステレオ画像処理により、先行車や障害物、車線などを認識します。」(2ページ3~6行)
b 「・ 以下の状況では先行車、二輪車、歩行者、路上の障害物、車線を認識しづらくなり、EyeSightが一時停止状態になる場合があります。状況が改善され、しばらく走行すれば再び機能は動作します。
- 悪天候時(強い雨、吹雪、濃霧など。特にフロントガラスに油膜が付着したり、ガラスコーティング剤を使用したり、古いワイパーをお使いになった場合、一時停止しやすくなります)
- 前方から強い光(太陽光などによる逆光やヘッドランプのハイビーム光など)を受けたとき
- フロントガラス上の雨滴や水滴、汚れが充分に拭き取れていないとき
- フロントガラスに曇りや雪、汚れ、霜、土埃が付着し、ステレオカメラの視界を遮っているときや、その汚れなどに光が当たっているとき
- 荷物の積載などにより、極端に車両が傾いているとき
- ルーフ上に積載したカヌーなどがステレオカメラの視界を遮っているとき
- 先行車や対向車両の水や雪などの巻き上げや水蒸気、砂、煙、土埃が舞い、視界が充分でないとき
- トンネルの出入り口を通過するとき
- 前方車両の最後面が小さい(例えばトレーラーなど)、低い、または凹凸があるとき
- 対象物がフェンス、均一な模様(縞模様やレンガなど)や模様の全くない壁、シャッターなどのとき
- 対象物がガラスや鏡の壁や扉などのとき
- 夜間またはトンネル内で、先行車のテールランプが点灯していないとき
- 垂れ幕や旗、垂れ下がった枝、草むらなどを通過するとき
- 急な上り坂、急な下り坂のとき
- カメラの前を手でふさぐなどしたとき
- 真っ暗で周囲に物がないとき
- 周囲一面が同じような色合いのとき(一面に雪景色など)
- ステレオカメラのレンズ部に指紋などの汚れが付着したとき
- フロントガラスへの映り込みにより安定した認識ができないとき
- ステレオカメラに衝撃などが加わり、ずれや歪みが生じたとき
・ 以下の状況では、EyeSightが一時停止状態になる場合があります。状況が改善されれば再び機能は動作します。
- 炎天下で放置した後など車内の温度が高いとき、または極寒の環境で放置した後など車内の温度が低いとき
- エンジンの始動直後」(3~4ページ)
c 「EyeSightには、次の7つの機能があります。
■全車速追従機能付クルーズコントロール
クルーズコントロールをセットしてセット車速を保ちながら走行し、同一車線内に先行車がいる場合は、セット車速を上限とした追従走行を行います。
☆16ページ参照
■プリクラッシュブレーキ
前方の車両や障害物に衝突する可能性があるとき、車間距離警報により、運転者の回避操作を促します。それでも運転者の回避操作がない場合、衝突の直前に自動的に急ブレーキをかけ衝突被害を軽減または、衝突を回避します。
☆38ページ参照
■AT誤発進抑制制御
セレクトレバーの位置の入れ間違いやペダルの踏み間違いによる誤った前進を抑制します。
☆48ページ参照
■車線逸脱警報
走行中、車線を逸脱しそうになると、注意を促します。
☆53ページ参照
■ふらつき警報
疲れやよそ見、ぼんやり運転、横風などによるふらつきを認識し、注意を促します。
☆56ページ参照
■先行車発進お知らせ
先行車が発進しても自車が発進しない場合にお知らせします。
☆58ページ参照
■定速クルーズコントロール
一定速度を保ちながら走行するモードです。追従走行は行いません。EyeSightが一時停止状態(68ページ参照)でも使用可能な場合があります。(この機能は全車速追従機能付クルーズコントロールから切り替えて使用します。)
☆59ページ参照」(8ページ)
d 「●EyeSight一時停止表示(白色)
・ EyeSightが一時停止しているときに表示されます。・・・
・ 表示されているときは、定速クルーズコントロールを除くEyeSightの全ての機能が使用できません。
☆69ページ参照」(11ページ22~29行)
e 「全車速追従機能付クルーズコントロール
全車速追従機能付クルーズコントロールは、高速道路や自動車専用道路でのドライブをより快適に行っていただくための運転支援システムです。前方の自車線上の先行車をステレオカメラにより認識し、運転者が設定した車速を上限として車速に応じた車間距離を自動的に保ちながら追従走行を行います。先行車に追従して停止したときは、電動パーキングブレーキと連動して停止状態を保持します。」(16ページ1~6行)
f 「●システムによる自動解除
次の場合、“ピーッ”というブザーが鳴り、全車速追従機能付クルーズコントロールが自動的に解除されます(OFF表示が表示されます)。・・・
・ 約30 km/h以下において、約30 m以内で追従走行していた先行車がいなくなったとき(このとき先行車表示が点滅します)
・ 道路の勾配が急なとき
・・・
・ 運転席・助手席・後席のいずれかのドアを開けたとき
・ 運転席のシートベルトを外したとき
・・・
・ EyeSightが一時停止状態のとき・・・
☆69ページ参照
・・・」(33~34ページ)
g 「プリクラッシュブレーキ
主に前方車両に衝突する可能性がある場合、運転者への警報による衝突回避の支援を行います。それでも運転者の衝突回避操作がない場合、衝突の直前に自動的に急ブレーキをかけ、衝突被害を軽減または衝突を回避します。」(38ページ1~4行)
h 「●システムによる自動解除
次の場合、“ピーッ”とブザーが鳴り、定速クルーズコントロールが自動的に解除されます。
・・・
・ 運転席・助手席・後席のいずれかのドアを開けたとき
・ 運転席のシートベルトを外したとき
・・・
・ EyeSightに異常があるとき(68ページの「EyeSightの故障および一時停止」参照)
・ ハンドルを大きく回したとき
・ 道路の勾配が急なとき」(64~65ページ)
i 「EyeSightの故障および一時停止
EyeSightに異常を検知すると、メーター内の表示灯とマルチインフォメーションディスプレイの表示によって知らせます。」(68ページ1~3行)
j 「■一時停止
ブザーが“ピッ”と鳴り、EyeSight一時停止表示・・・が表示され・・・ます。・・・
原因が解消されると一時停止が解除され、自動的にEyeSightが復帰します。
[図:0001436878000001.jpg]
[図:0001436878000002.jpg]
」(68~69ページ)
したがって、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明1]
「EyeSightであって、
2台のCCDカメラを用いたステレオ画像処理により、先行車や障害物、車線などを認識するステレオカメラを備え、
運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にするさまざまな機能がシステムによって動作し、さまざまな前記機能に全車速追従機能付クルーズコントロール、プリクラッシュブレーキ、AT誤発進抑制制御、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ、定速クルーズコントロールが含まれ、
全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロールが自動解除される場合があり、もしくはEyeSightが一時停止されて定速クルーズコントロールを除くEyeSightの全ての機能が使用できない場合があり、
エンジン始動後、プリクラッシュ2次ブレーキが3回作動したときにEyeSightが一時停止され、
EyeSightが一次停止された原因が改善されると自動的にEyeSightが復帰する、
EyeSight。」
(イ) 引用文献2
本件特許についての優先権主張日(平成26年9月30日)よりも前の平成26年3月に公開された引用文献2には以下の記載がある。
「自動運転とは
自動運転は、周辺環境認識技術や自己位置推定技術、自動誘導技術などの多岐にわたる技術により、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」「止まる」を支援して、安心・安全で快適な運転環境を提供することを目指すものである。
現時点では、国際的な統一基準・定義が明確に決まっているわけではないが、NHTSA(米国運輸省道路交通安全局)の基準を一例に取ると、レベル0(自動化なし)、レベル1(特定機能の自動化)、レベル2(複合機能の自動化)、レベル3(半自動運転)、レベル4(完全自動運転)と、自動化の程度・技術レベルに応じて段階的に分類している。
レベル1の「特定機能の自動化」の事例としては、富士重工業が2008年に販売した衝突防止用自動ブレーキ「EyeSight」がよく知られており、国内外の大手自動車メーカーの乗用車への搭載も広がっている。また、トヨタが2003年にプリウスに初めて搭載した、縦列駐車や車庫入れ時のステアリング操作を自動化する「インテリジェントパーキングアシスト」機能なども特定機能の自動化の事例であり、その後、他メーカーの乗用車への搭載も進んでいる。
レベル2の「複合機能の自動化」は、自動で車速や先行車との車間距離を一定に保つACC(Adaptive Cruise Control)機能に、走行車線を自動検知して車線を保持したり、走行レーンを変えたりする機能を加えたものなどが、それに当たる。
レベル3の「半自動運転」は、機能限界になった場合のみ、運転者が自ら運転操作を行うもので、NHTSAはGoogleの自動運転車がこれに該当するとしている。無人・有人を問わず、周辺監視・運転操作を全てシステムに委ね、ナビゲーションシステムで目的地を入力すれば、自動的に目的地に連れていってくれるような自動運転車がレベル4の「完全自動運転」車であり、Googleや日産は、この実現を目指している。」(1欄20行~2欄11行)
「自動化の技術レベルによって実現される形態は異なるものの、自動運転車のもたらす効果として期待されていることは、○1交通事故の減少(自動ブレーキなど)、○2運転快適性の向上(縦列駐車等の比較的困難な操作の自動化含む)、○3高齢者等交通弱者の移動支援、○4渋滞解消・緩和、○5環境負荷の軽減(燃費向上等)などが挙げられている。」(2欄14~20行)(当審注:上記の「○1」~「○5」は、円の中にそれぞれの数字が入った丸付き数字を表す。)
したがって、引用文献2には、以下の技術的事項(以下「引用文献2記載の技術的事項1」、「引用文献2記載の技術的事項2」という。)が記載されていると認められる。
[引用文献2記載の技術的事項1]
自動運転の機能が、自動で車速や先行車との車間距離を一定に保つACC(Adaptive Cruise Control)機能、走行車線を自動検知して車線を保持したり、走行レーンを変えたりする機能、及び縦列駐車や車庫入れ時のステアリング操作を自動化する機能であること。
[引用文献2記載の技術的事項2]
自動運転は、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」「止まる」を支援して、安心・安全で快適な運転環境を提供することを目指すものであり、国際的な統一基準・定義はないが、一例として、レベル0(自動化なし)、レベル1(特定機能の自動化)、レベル2(複合機能の自動化)、レベル3(半自動運転)、レベル4(完全自動運転)と、自動化の程度・技術レベルに応じて段階的に分類があること。
(ウ) 引用文献3
情報処理学会電子図書館における「[招待講演]自動運転技術の開発動向と実用化に向けた課題」ウェブページ(令和6年10月29日提出の上申書に添付された被告第1準備書面で示された乙第8号証の5 <URL: https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/records/98676>)によると、本件特許についての優先権主張日(平成26年9月30日)よりも前の平成26年2月27日に公開された引用文献3には以下の記載がある。
「
[図:0001436878000003.jpg]
[図:0001436878000004.jpg]
[図:0001436878000005.jpg]
」(6~8ページ)
したがって、引用文献3には、以下の技術的事項(以下「引用文献3記載の技術的事項1」、「引用文献3記載の技術的事項2」という。)が記載されていると認められる。
[引用文献3記載の技術的事項1]
自動運転に求められる機能が、最高速度維持機能、車線維持機能、レーンチェンジ機能、及び交差点部での安全走行(右折)機能であること。
[引用文献3記載の技術的事項2]
運転支援と自動運転とは、外部認識、判断、操作を、ドライバーとシステムで分担して行うに際し、その分担の比重が異なるものにすぎず、NHTSAレベル1はSAE名では「運転支援」と呼ばれ、以降、同レベル2~5がそれぞれ「部分運転自動化」、「条件付き運転自動化」、「高度運転自動化」、「完全運転自動化」と呼ばれていること。
(エ) 引用文献4
本件特許についての優先権主張日(平成26年9月30日)よりも前の平成25年8月に公開された引用文献4には以下の記載がある。
「(2)自動運転の定義
運転には、ドライバーが全ての運転操作を行う運転から、自動車の運転支援システム2が一部の運転操作を行う運転、ドライバーが居なくても良い運転まで、様々な概念が存在している。
このため、この自動車の運転について、自動車の運転への関与度合という観点から整理する。
具体的には、運転操作(加速、操舵、制動)の主体がドライバーにあるのか、自動車にあるのかという点で分類した上で、更に、緊急時対応をドライバーが行うのか、自動車が行うのかという点で整理する。また、現在の運転支援システムのレベルに近い部分を詳細に分類することとする。
このような分類・整理により、自動車の運転を以下のとおり分類する。
○1単独のシステム
ACC3、衝突被害軽減ブレーキ、レーンキープアシスト4等により加速、操舵、制動のいずれかの操作を自動車が行う運転(緊急時対応はドライバー)
○2システムの複合化
ACCとレーンキープアシストとの組み合わせ等により、加速、操舵、制動のうち複数の操作を一度に自動車が行う運転(緊急時対応はドライバー)
○3システムの高度化
○2のシステムを更に高度化することにより、加速、操舵、制動を全て自動車が行う運転(緊急時対応はドライバー)
○4完全自動運転(無人運転)
加速、操舵、制動を全て自動車が行う運転(緊急時対応も自動車)
このような運転の分類において、自動車の運転への関与が高まった運転支援システムによる走行(上記○2、○3に対応)と完全自動運転(上記○4に対応)を自動運転として定義する。
すなわち、自動運転を「加速、操舵、制動のうち複数又は全ての操作を自動車が行う運転」として定義する。
2 従来ドライバーが行っていた作業を自動車が代わりに行ってくれるシステムのこと。
3 ACC(Adaptive Cruise Control):自動で車速や車間制御を行う機能を持った装置。
4 走行している車線の中央付近を維持するよう操舵力を制御する装置。」(2ページ19行~3ページ)(当審注:上記の「○1」~「○4」は、円の中にそれぞれの数字が入った丸付き数字を表す。)
「車両側の運転支援システムの高度化は、ACC、レーンキープアシスト、車線変更支援システム等の開発・実用化を進めるとともに、個々のシステムの支援範囲を広げるなどにより、自動車の運転支援システムの運転への関与度合いを高める。」(13ページ22~25行)
「
[図:0001436878000006.jpg]
」(別紙)
したがって、引用文献4には、以下の技術的事項(以下「引用文献4記載の技術的事項1」、「引用文献4記載の技術的事項2」という。)が記載されていると認められる。
[引用文献4記載の技術的事項1]
オートパイロットシステムが、ACC、レーンキープアシスト、及び車線変更支援システムを有すること。
[引用文献4記載の技術的事項2]
運転には、ドライバーが全ての運転操作を行う運転から、自動車の運転支援システムが一部の運転操作を行う運転、ドライバーが居なくても良い運転まで、様々な概念が存在し、自動車の運転への関与度合という観点から整理でき、ACC、衝突被害軽減ブレーキ、レーンキープアシスト等により加速、操舵、制動のいずれかの操作を自動車が行う○1単独のシステム、○1の組み合わせ等により加速、操舵、制動のうち複数の操作を一度に自動車が行う○2システムの複合化、○2のシステムを更に高度化した○3システムの高度化、加速、操舵、制動を全て自動車が行う○4完全自動運転(無人運転)と分類でき、○2~○4が自動運転として定義されること。
(オ) 技術常識の認定
引用文献2記載の技術事項2、引用文献3記載の技術事項2及び引用文献4記載の技術事項2からみて、次の事項は本件特許についての優先権主張日(平成26年9月30日)時点の技術常識であると認められる。
[技術常識1]
「自動運転は、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」「止まる」を支援して、安心・安全で快適な運転環境を提供することを目指すものであり、国際的な統一基準・定義はないが、一例として、レベル0(自動化なし)、レベル1(特定機能の自動化)、レベル2(複合機能の自動化)、レベル3(半自動運転)、レベル4(完全自動運転)と、自動化の程度・技術レベルに応じて段階的な分類があり、レベル1の特定機能の自動化は、運転支援と呼ばれ、レベル2~4の複合機能の自動化から完全自動運転までが自動運転と呼ばれる場合が多いこと。」
[技術常識2]
「運転支援と自動運転とは、外部認識、判断、操作を、ドライバーとシステムで分担して行うに際し、その分担の比重が異なるものにすぎないこと。」
(3) 訂正発明1について
ア 対比
訂正発明1と引用発明1とを、その機能又は技術的意義を考慮して対比する。
(ア) 訂正発明1と引用発明1とを対比すると、後者の「先行車や障害物、車線など」は前者の「車両の周囲の情報である周囲情報」に、以下同様に、「2台のCCDカメラを用いたステレオ画像処理により、先行車や障害物、車線などを認識するステレオカメラ」は「前記車両の周囲の情報である周囲情報を取得するように構成された周囲情報取得部」に相当し、「運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にするさまざまな機能」は「前記車両の走行に必要な複数種類の運転動作」に、「動作」は「実行」に相当する。
(イ) 「EyeSight」の各「機能」は、認識された先行車や障害物、車線などに基づいて、それぞれ自動で制御動作するものであるといえる。ここで、訂正発明1における「高度自動化モード」及び「基本モード」は、訂正発明1の特定事項によれば、実行される運転動作の種類の数が異なる運転モードが複数あった場合、その中の2つに着目して、各運転モードで実行される運転動作の種類の数を比較して、実行される運転動作の種類の数が多い方が「高度自動化モード」に該当し、少ない方が「基本モード」に該当し、また、それで足りるものと解される。かかる理解は、本件特許の段落【0089】及び【図3】並びに【0187】及び【0188】を踏まえた理解とも整合する。そして、引用発明1は「全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロールが自動解除される場合」(以下「場合1」という。)と「EyeSightが一時停止され」る場合(以下「場合2」という。)があるものであるから、引用発明1には、全ての機能が動作可能な態様(以下「態様1」という。)、全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロールが解除されて他の機能のみが動作可能な態様(以下「態様2」という。)、EyeSightが一時停止されて定速クルーズコントロールを除くEyeSightの全ての機能が動作しない態様(以下「態様3」という。)、全ての機能が動作しない態様(以下「態様4」という。)があるものといえる。
ここで、訂正発明1の「高度自動化モード」と「基本モード」の上記した関係に鑑みれば、引用発明1の各動作の組み合わせにつき、訂正発明1の「高度自動化モード」と「基本モード」に対応するものは、態様1と態様2の組み合わせ、態様1と態様3の組み合わせ、態様2と態様4の組み合わせ、態様3と態様4の組み合わせであるといえる。そして、場合1のときに、態様1から態様2に遷移し、あるいは、態様3から態様4に遷移するものであり、場合2のときに、態様1から態様3に遷移し、あるいは、態様2から態様4に遷移するものとなっている。また、「EyeSightが一時停止された原因が改善されると自動的にEyeSightが復帰する」ものであるから、「EyeSightが一時停止された原因が改善され」た場合(以下「場合3」という。)に、態様3から態様1に遷移し、あるいは、態様4から態様2に遷移するものといえる。
してみれば、引用発明1は、場合1であるかを判断して、態様1と態様2のいずれか、または、態様3と態様4のいずれかを設定しており、同様に、場合2、場合3であるかを判断して、態様1と態様3のいずれか、または、態様2と態様4のいずれかを設定しているといえ、また、引用発明1の態様1~4では、その態様で動作可能な全車速追従機能付クルーズコントロール、プリクラッシュブレーキ、AT誤発進抑制制御、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ、定速クルーズコントロールの機能が動作することから、引用発明1の「運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にするさまざまな機能がシステムによって動作し、」「全車速追従機能付きクルーズコントロール及び定速クルーズコントロールが自動解除される場合があり、もしくはEyeSightが一時停止されて定速クルーズコントロールを除くEyeSightの全ての機能が使用できない場合があり」という態様は、訂正発明1の「前記車両の運転モードを、前記車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部又は全てを前記周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動化モード」「、及び、前記自動で実行する前記運転動作の種類が前記高度自動化モードよりも少ないか若しくはゼロである基本モード、の何れか一方に設定するように構成された運転モード設定部と、前記運転モード設定部により設定された前記運転モードに基づき、その運転モードにおいて前記自動で実行するように設定されている前記運転動作を実行するように構成された自動制御部と、」「を備え」る態様に相当する。
(ウ) 後者の「プリクラッシュ2次ブレーキ」は前者の「急ブレーキ」に相当する。また、訂正発明1に「前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると」と特定されていることを踏まえれば、当該判断に「急ブレーキが作動した」回数は特定されていないから、複数回の急ブレーキの作動を判断することも、当該判断に含まれる(かかる解釈は、本件特許の段落【0173】とも整合する。)。してみれば、後者の「エンジン始動後、プリクラッシュ2次ブレーキが3回作動した」ことは前者の「前記車両の急ブレーキが作動した」ことに相当する。そして、後者の「エンジン始動後、プリクラッシュ2次ブレーキが3回作動したときにEyeSightが一時停止され」る態様は、上記(イ)の相当関係に鑑みれば、場合2として、車両の急ブレーキが作動したかを判断して、態様1から態様3に、あるいは、態様2から態様4に遷移しているのであるから、前者の「前記車両の急ブレーキが作動したか否か判断するように構成された急ブレーキ判断部」を備え「前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え」る態様に相当する。
(エ) そして後者の「EyeSightが一時停止された原因が改善されると自動的にEyeSightが復帰する」態様は、上記(イ)の相当関係に鑑みれば、場合3であることを判断して、態様3から態様1に、あるいは、態様4から態様2に遷移しているのであるから、前者の「高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替える」態様に相当する。
(オ) 上記(ア)~(エ)を踏まえると、後者の「EyeSight」は前者の「車両に搭載される」「自動運転制御装置」に相当する。
そうすると、訂正発明1と引用発明1は、
「車両に搭載される自動運転制御装置であって、
前記車両の周囲の情報である周囲情報を取得するように構成された周囲情報取得部と、
前記車両の運転モードを、前記車両の走行に必要な複数種類の運転動作の一部又は全てを前記周囲情報に基づいて自動で実行する高度自動化モード、及び、前記自動で実行する前記運転動作の種類が前記高度自動化モードよりも少ないか若しくはゼロである基本モード、の何れか一方に設定するように構成された運転モード設定部と、
前記運転モード設定部により設定された前記運転モードに基づき、その運転モードにおいて前記自動で実行するように設定されている前記運転動作を実行するように構成された自動制御部と、
前記自動制御部により前記車両の急ブレーキが作動したか否か判断するように構成された急ブレーキ判断部と、
を備え、
前記運転モード設定部は、前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されているときに、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断されると、前記運転モードを前記基本モードに切り替え、
高度自動化切替条件が成立した場合、自動で前記基本モードから前記高度自動化モードに切り替えるように構成されている、
自動運転制御装置。」において一致し、以下の点で相違すると認められる。
(相違点1)
訂正発明1では、車両の走行に必要な複数種類の運転動作として「車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が含まれる」のに対して、引用発明1は「全車速追従機能付クルーズコントロール、プリクラッシュブレーキ、AT誤発進抑制制御、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ、定速クルーズコントロール」を含む点。
イ 判断
以下、相違点1について検討する。
引用発明1は、「運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能にするさまざまな機能がシステムによって動作」する発明であるところ、同発明が提供する運転支援機能の中には、全車速追従機能付クルーズコントロールにおいて先行車を認識して車間距離を自動的に保ちながら追従走行することや、プリクラッシュブレーキにおいて自動的に急ブレーキをかけることのように、ドライバーが行う外部認識、判断、操作の一部を、自動で行うものが搭載されている。
また、運転の自動化に関する技術分野において、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」「止まる」を支援するために、外部認識、判断、操作の全てもしくは一部をシステムが行うことで、車線変更、右左折又は駐車を実行することは、例えば、引用文献2記載の技術的事項1、引用文献3記載の技術的事項1及び引用文献4記載の技術的事項1に示されるように、周知技術である。
してみれば、引用発明1において、「運転者の判断を助け、安全・快適で疲れの少ない運転を可能」にするために、引用発明1と同じく、外部認識、判断、操作の全てもしくは一部をシステムが行う技術である運転の自動化に関する技術分野における周知技術である、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」「止まる」を支援するために、外部認識、判断、操作の全てもしくは一部をシステムが行うことで、車線変更、右左折又は駐車を実行する」技術を採用すること、すなわち、引用発明1における機能として、車線変更、右左折又は駐車を実行する機能を採用することには、十分な動機付けが存在し、かかる機能の採用に、阻害要因も存在しない。
そうすると、引用発明1における運転動作として、車線変更制御、右左折制御又は駐車制御を採用することは、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。
よって、訂正発明1は、引用発明1、及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(4) 訂正発明11について
引用文献1(特に、上記(2)イ(ア)d、i、j参照。)には、さらに以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。
[引用発明2]
「エンジン始動後、プリクラッシュ2次ブレーキが3回作動することによってEyeSightが一時停止したときに、EyeSight一時停止表示が表示される引用発明1。」
訂正発明11と引用発明2とを対比すると、上記(3)アの対比に加え、後者の「エンジン始動後、プリクラッシュ2次ブレーキが3回作動することによってEyeSightが一時停止したとき」は前者の「前記運転モードが前記高度自動化モードに設定されている場合に、前記急ブレーキ判断部により前記急ブレーキが作動したと判断」されたときに相当し、後者の「EyeSight一時停止表示が表示される」態様は前者の「前記車両の運転者に報知を行うように構成された報知部」「を備える」態様に相当する。
したがって、両者は、上記相違点1で相違し、その余の点で一致する。
そして、相違点1については、上記(3)イで判断したとおりである。
よって、訂正発明11は、引用発明2、及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(5) 訂正発明12について
引用文献1には、実質的にEyeSightを備えた車両が記載されている。
したがって、引用文献1には、さらに以下の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されている。
[引用発明3]
「引用発明1のEyeSightを備える車両。」
訂正発明12と引用発明3とを対比すると、上記相違点1において相違し、その余の点で一致する。
そして、相違点1については、上記(3)イで判断したとおりである。
よって、訂正発明12は、引用発明3、及び上記周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
(6) まとめ
訂正発明1、11及び12はいずれも、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではないから、訂正事項1及び2は、特許法第126条第7項の規定に適合しない。
第6 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、令和7年6月18日提出の意見書において、本件訂正後の本件特許に係る発明の進歩性についておおむね以下の主張をする。
ア 主張1
「自動発進制御、車線変更制御、右左折制御又は駐車制御を適用するには側方や後方を検知するためのセンサーやカメラが必要です。ここにおいて、引用発明1は、公然実施品の取扱説明書に記載された発明で、ベストモードを実現したものであるところ、ステレオカメラが前方を検知するために備えられているのみで、側方や後方を検知するためのセンサーやカメラを備えていません。
したがって、引用発明1には自動発進制御、車線変更制御、右左折制御又は駐車制御を適用することに阻害理由があると思料いたします。」(意見書3ページ1~8行)
イ 主張2
(ア) 「引用発明1は、公然実施品であるレガシィの取扱説明書に記載の発明です。EyeSightを搭載するレガシィは、2014年に予防安全性能アセスメントにおいて最高評価のJNCAP「先進安全車プラス(ASV+)」に選定されており、株式会社SUBARUはこの事実をプレスリリースをしています((東京地方裁判所の損害賠償請求事件(令和6年(ワ)第70090号)(以下、単に「対応訴訟」という)の甲25)。
株式会社SUBARUのウェブサイトにおいて、「事故を無くすこと。それは、自動車メーカーにとって究極の目標です。そのためにSUBARUは、30年以上も前からステレオカメラやレーダーを使った運転支援システムを開発。「アイサイト」をはじめとした先進安全技術として結実させてきました。クルマを取り巻くすべての人の安心と愉しさを深めるために、この先もSUBARUの進化は続きます。」(対応訴訟の甲26)との記載があるように、EyeSightは先進安全技術として開発されているものです。一方、引用文献2~引用文献4はいずれも自動運転の技術です。」(意見書3ページ11~24行)
(イ) 「自動運転技術と先進安全技術とは、技術自体は重複する部分(例えば、オートクルーズは自動運転技術のみならず先進安全技術としても取り入れられているものです。)があります。しかしながら、以下に示すとおり、訂正発明1の優先日前は自動運転技術と先進安全技術(ASV)とは別の技術として位置づけられていました。
まず、国土交通省は、自動運転技術と先進安全技術(ASV)を目的が異なる技術として、それぞれについて検討会や勉強会を設けておりました(引用文献4、対応訴訟の甲24)。
安全性については、自動運転技術の場合は、注意深く有能な運転者と同等以上のレベルで安全性が確保されることを要求(対応訴訟の甲32の1の12頁)しており、自動運転技術を如何に注意深く有能な運転者と同等以上のレベルにできるかを目的としています。一方、先進安全技術(ASV)の場合、如何に事故を防げるかが重要であり、そのための技術開発を行っています。
したがって、いずれの技術も安全性を求めていますが、考え方が相違します。・・・これら事実から分かることは、自動運転技術を取り入れれば、自動的に安全性が高まるという関係はなく、先進安全技術(ASV)としては、自動運転技術のうちどのような技術が安全性を高めることに貢献するのか、どのように取り入れたら安全性が向上するのか、様々な側面から検討する必要があるということです。そのため、自動運転技術としては周知技術であったとしても、先進安全技術(ASV)として取り込むことができるとは限らないのです。
したがって、引用文献2~引用文献4には自動運転技術として自動発進制御、車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が記載されており、自動運転技術としては周知技術であったとしても、先進安全技術(ASV)車である引用発明1に適用する動機付けはないと思料します。」(意見書3ページ25行~4ページ17行)
(2) 審判請求人の主張に対する当審の判断
ア 主張1について
上記第5 2(2)イ(ア)a、b、c及びjの摘記事項によれば、引用文献1のステレオカメラは、先行車や障害物、車線などを認識することで全車速追従機能付クルーズコントロール、プリクラッシュブレーキ、AT誤発進抑制制御、車線逸脱警報、ふらつき警報、先行車発進お知らせ、定速クルーズコントロールという機能を実行するためのものであるから、上記周知技術のような車線変更制御、右左折制御又は駐車制御を動作させることを前提としたものではない。しかしながら、周囲情報を取得するためのセンサーやカメラは、要求される制御を実施するにあたって認識すべき情報を取得するために当業者が適宜車両に配置し得るものである。そして、引用発明1を、側方や後方を検知するためのセンサーやカメラを備えたものとすることについて、なんら阻害要因は見当たらない。
そして、上記第5 2(3)イにおいて検討したとおり、引用発明1に上記周知技術を適用する動機付けが存在し、引用発明1が「公然実施品の取扱説明書に書かれた発明」であるとしても、システムによって動作する機能として車線変更制御、右左折制御又は駐車制御を付加することに、通常よりも強い動機付けが求められるとか、阻害要因があるといえる事情は見当たらない。
したがって、審判請求人の主張1を採用することはできない。
イ 主張2について
審判請求人は、「訂正発明1の優先日前は自動運転技術と先進安全技術(ASV)とは別の技術として位置づけられてい」たことから「自動発進制御、車線変更制御、右左折制御又は駐車制御が」「自動運転技術としては周知技術であったとしても、先進安全技術(ASV)車である引用発明1に適用する動機付けはない」旨主張する。
しかしながら、引用文献2の技術的事項2、引用文献3の技術的事項2、引用文献4の技術的事項2によれば、運転の自動化に関する技術分野において、自動運転は、自動車の基本的な性能である「走る」「曲がる」「止まる」を支援して、安心・安全で快適な運転環境を提供することを目指すものであり、国際的な統一基準・定義はないが、その一例として、レベル0(自動化なし)、レベル1(特定機能の自動化)、レベル2(複合機能の自動化)、レベル3(半自動運転)、レベル4(完全自動運転)と、自動化の程度・技術レベルに応じて段階的な分類があり、レベル1の特定機能の自動化は、運転支援と呼ばれ、レベル2~4の複合機能の自動化から完全自動運転までが自動運転と呼ばれる場合が多く、運転支援と自動運転とは、外部認識、判断、操作を、ドライバーとシステムで分担して行うに際し、その分担の比重が異なるものにすぎないことが、本件優先日時の技術常識であったといえる。
してみれば、運転支援を主とする先進安全技術(ASV)と自動運転技術とは共に、運転の自動化に関する技術分野に属しており、両技術は密接に関連する技術であって、一方の技術に対して、他方の技術を適用することに、何らの困難性も認められず、むしろ、強い動機付けがある。
また、引用発明1は、公然実施発明ではなく、マニュアルという公知文献に記載された発明であるから、請求人の主張は、前提において失当である。
したがって、審判請求人の主張2を採用することはできない。
第7 むすび
以上のとおり、訂正事項1及び2は、特許法第126条第7項の規定に適合しない。
上記「第2」における請求の趣旨にあるとおり、本件訂正は、特許権全体に対して請求したものである。したがって、訂正事項1及び2を含む本件訂正は認められない。
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2024-390093