特許拒絶査定不服審判
2024-019015
収穫機械
- 審判番号
- 2024-019015
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-040778
- 請求日
- 2024年11月28日
- 審決日
- 2026年04月17日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ヤンマーホールディングス株式会社
- 【請求人代理人】種村 一幸
- 【請求人代理人】仲石 晴樹
- 審判長/審判官
- 審判長 小島 寛史
- 審判官 居島 一仁
- 審判官 立澤 正樹
- 分類
- P18 .121-Z (A01D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-40778「収穫機械」拒絶査定不服審判事件〔令和4年9月26日出願公開、特開2022-140117〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年3月12日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和6年 3月25日付け:拒絶理由通知書
同年 5月28日 :意見書・手続補正書の提出
同年 8月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 9月 3日 :原査定の謄本の送達)
同年11月28日 :審判請求書の提出
第2 本願発明(本願発明の認定)
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、令和6年5月28日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。
「【請求項1】
機体の前端部に配置され、作物を刈り取る刈取装置と、
前記刈取装置の左右方向の少なくとも一方の端面から突出する突出部と、
前記刈取装置の左右方向の少なくとも一方の端面から突出し、少なくとも前方に光を出力する発光装置と、を備え、
前記発光装置は、前記突出部よりも上方に配置され、上下方向において前記突出部との間に所定の隙間を形成し、
発光装置の下面は、湾曲面を含む、
収穫機械。」
第3 原査定における拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由の概略は、次のとおりである。
本願発明は、本願の出願前に発行された下記の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された技術事項に基づいて、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開2014-45694号公報
引用文献2:特開2016-54674号公報
第4 引用文献の記載及び引用発明について
1 引用文献1について
(1) 引用文献1の記載事項
引用文献1には、次の記載がある。
ア 段落【0007】~【0012】
「【0007】
上記本発明の課題は、次の技術手段により解決される。
請求項1に記載の発明は、機体前部に刈取装置(8)を備え、該刈取装置(8)の横外側部を覆うサイドカバー(11R)を設け、該サイドカバー(11R)における刈取装置(8)の上下方向での中央か、またはこれよりも低い位置に、このサイドカバー(11R)の外側面から横外側方へ向けて膨出する膨出部(22)を形成し、該膨出部(22)には、分草杆(15)の前方を照射する前照灯(12)を設けたコンバインとする。
・・・(略)・・・
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、サイドカバー(11R)の横外側面から外側へ向けて膨出した膨出部(22)に、分草杆(15)の前方を照射する前照灯(12)を設けたので、植立穀稈の穂先で遮られたり乱反射したりすることなく分草杆(15)の前方を照射することができ、分草位置の視認性を向上させて刈取作業の能率を高めることができる。
【0012】
また、前照灯(12)が低い位置から前下方に向かって照射することで、機体の前方で作業する補助作業者が眩惑されることを防止できる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明による効果に加え、前照灯(12)を取り付けるライト孔(21)を開口させたことで、前照灯(12)と穀稈の干渉による株抜けや脱粒を防止することができる。」
イ 段落【0017】~【0030】
「【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に示す実施例を参照しながら説明する。なお、本明細書においてコンバイン1の前進方向に向かって左右方向をそれぞれ左、右といい、前進方向を前、後進方向を後という。
【0018】
コンバイン1の走行車体2の下方には左右走行クローラ3,3を配設し、走行車体2上には、右側前部にキャビン4bで覆われ座席4a付きの操縦部4を、その後方にはエンジン(図示省略)及び穀粒収納用のグレンタンク5を配設し、走行車体1の左側部には脱穀選別部6を搭載し、脱穀選別部6及びグレンタンク5の後方に排稾処理装置7を設け、走行車体2の前側部には刈取装置8を昇降自在に設けている。
【0019】
また、エンジンの回転動力を無段変速装置(図示省略)、走行伝動装置(図示省略)、作業伝動装置(図示省略)を経由して、走行クローラ3,3、刈取搬送部8の駆動部、脱穀選別部6のフィードチエン10や扱胴等の駆動部、排出オーガ9等の駆動部に伝達するように構成している。
【0020】
また、前記作業伝動経路には刈取クラッチ(図示省略)及び脱穀クラッチ(図示省略)を設けて、刈取搬送部8及び脱穀選別部6への動力伝達を断続するように構成し、刈取・脱穀クラッチレバー(図示省略)により刈取クラッチ・脱穀クラッチ入り状態、刈取クラッチ・脱穀クラッチ切り状態、刈取クラッチ切りで脱穀クラッチ入り状態に操作できるように構成している。また、脱穀選別部6には穀稈搬送用のフィードチエン10を設け、フィードチエンレバー(図示省略)により、フィードチエン10を高速駆動したり、低速駆動したりできるように構成している。
【0021】
刈取装置8は、穀稈引越装置16を横に並べて立設し、その下部先端に分草杆15を設け、穀稈引越装置16の後底部に刈刃装置(図示省略)を横架している。
刈取装置8の左右側面を、合成樹脂で一体成形した左右サイドカバー11R,11Lで覆って未刈穀稈が刈取装置8の内部に侵入しないようにしている。そして、この左右サイドカバー11R,11Lのうちの右サイドカバー11Rにおける下部膨出部11Bの上側で刈取装置8の上下方向中央位置に側方へ膨出した膨出部22を形成し、この膨出部22の内側に形成したライト孔21に前照灯12を取り付け、刈取装置8の直前を照らすようにしている。膨出部22は下部膨出部11Bより膨らみを小さくすることで植立穀稈が引掛らないようにしている。また、左右サイドカバー11R,11Lの下部膨出部11Bの上面11Buを膨出部22と同じように前傾斜させて穀稈が引掛らないようにしている。
【0022】
なお、左サイドカバー11Lについても、右サイドカバー11Rと左右対象に膨出部22を形成し、この膨出部22の内側に形成したライト孔21に前照灯12を取り付ける構成としてもよい。
【0023】
また、前照灯12を取り付ける膨出部22の位置は、刈取装置8の上下方向の中央位置か、またはこの位置よりも下側の位置とし、植立穀稈の高さよりも低く、未刈穀稈の株元を明るく照らし、コンバイン1の近くで作業する補助作業者の目に光が直接届かないことで補助作業者が眩しくないようにし、圃場への侵入時や道路走行中に走行前面を明るく照らすようにしている。
【0024】
ライト孔21の内側は、前照灯12の発光面から前方にかけてカバー面を機体の内側に向けて凹ませて照射光が左右から中央に向かって通るようにして機体の前面を照らすようにする。
【0025】
左サイドカバー11Lに前照灯12を取り付ける場合、膨出部22は、座席4aの操縦者が見難いので、左サイドカバー11Lの最外側よりは内側として、障害物に当たって破損しないようにするとよい。
【0026】
右サイドカバー11Rの膨出部22前周囲には、図6に示す如く、上側の部分が前照灯12の前面の透明板よりも前方へ張り出す庇20を設けて、この庇20によって穀稈を案内することで透明板と穀稈との当接を避け、この透明板が傷付いて曇ることを防止している。なお、庇20の側部を後方へ凹ますことで、光をコンバイン1の側方へ分散するようにしても良い。
【0027】
前照灯12の照射方向は、図4に示す如く、分草杆15の上面を結ぶ分草上面線15aに対して光軸中心線Lcが鋭角となる。前照灯12の照射範囲は、照射上限Luと照射下限Ldで、分草杆15の前面を含んでいる。そして、この照射範囲で、未刈穀稈の株元を照射し、座席4aに座った操縦者が分草杆15の位置と刈取装置8の地上高を確認調整出来て穀稈の刈取幅と刈高さを調整出来る。
【0028】
分草杆15の前面には縦長に反射板17を貼り付け、前照灯12の光を受けて反射し、コンバイン1の最先端部が周辺で作業する補助作業者によく分かるようにしている。
左右サイドカバー11R,11Lの上下には、上取手13と下取手14を設けて、穀稈引越装置16の引起フレーム16Aに対して着脱するようにしている。
【0029】
図7は、右サイドカバー11Rの引起フレーム16Aへの取付構成を示し、引起フレーム16Aの上取付ステー24に右サイドカバー11Rを直接取り付け、引起フレーム16Aの下取付ステー23に連結材25を介して右サイドカバー11Rのライト取付ステー26を取り付けている。なお、引起フレーム16Aは下部を分草杆15に、上部を引起伝道筒32から吊下げて支持された伝動フレーム31に連結されている。そして、伝動フレーム31は、刈取装置8の下部から立設されたフレーム33と連結されている。
【0030】
また、刈取装置8の左部上方には、上部前照灯30を設けており、この上部作業灯30は、刈取作業において未刈穀稈が位置する機体の左側の領域を含む機体前方を照射する。」
ウ 図面
「【図4】
[図:0001436813000001.jpg]
【図5】
[図:0001436813000002.jpg]
【図6】
[図:0001436813000003.jpg]
【図7】
[図:0001436813000004.jpg]
【図8】
[図:0001436813000005.jpg]
」
(2) 引用発明について
前記(1)より、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
<引用発明>
「走行車体2の前側部に昇降自在に設けた刈取装置8と、(段落【0018】)
刈取装置8の左右側面を覆う合成樹脂で一体成形した左右サイドカバー11R,11Lのうち右サイドカバー11Rの下部膨出部11Bと、を備え、(段落【0021】)
前記下部膨出部11Bの上側で刈取装置8の上下方向中央位置に側方へ膨出した膨出部22を形成し、この膨出部22の内側に形成したライト孔21に刈取装置8の直前を照らす前照灯12を取り付け、(段落【0021】)
膨出部22は下部膨出部11Bより膨らみを小さくすることで植立穀稈が引掛らないようにして、左右サイドカバー11R,11Lの下部膨出部11Bの上面11Buを膨出部22と同じように前傾斜させて穀稈が引掛らない、(段落【0021】)
コンバイン1(段落【0018】)」
2 引用文献2について
(1) 引用文献2の記載事項
引用文献2には、次の記載がある。
ア 段落【0037】~【0064】
「【0037】
また、刈取部10の左右側方のそれぞれに前照灯13が設置されている。これにより、コンバイン1の走行及び作業における照明を一層効果的に行うことができる。
【0038】
以下、刈取部10の左右側部の構成について詳細に説明する。図1に示すように、刈取部10は、左右1対の下サイドカバー(サイドカバー)15と、左右1対の上サイドカバー16と、を備える。下サイドカバー15には、左右側方外側に突出した略箱状に形成された膨出部が形成されており、刈取部10の左側及び右側の下部を覆っている。上サイドカバー16は、平坦な板状に形成され、刈取部10の左側及び右側の上部を覆っている。下サイドカバー15と上サイドカバー16とは隣接して配置され、上サイドカバー16は、下サイドカバー15の上方に配置されている。
【0039】
下サイドカバー15と上サイドカバー16により、刈取部10の左右側部の全域が覆われている。また、下サイドカバー15は、上サイドカバー16より、刈取部10の左右外側へ膨出している。
【0040】
前照灯13は、図2に示すように左右1対で配置され、それぞれが、刈取部10の上サイドカバー16に左右外側から取り付けられている。前照灯13は、照射する光が下サイドカバー15(膨出部)によって遮られないように、下サイドカバー15から適宜離れた上方に配置されている。この構成により、前照灯13がコンバイン1の前方を好適に照らすことができる。
【0041】
上サイドカバー16は平坦な板状に形成されているので、前照灯13を、例えばボルト等を用いて、容易に当該上サイドカバー16に取り付けることができる。従って、刈取部10の上サイドカバー16を簡素な形状に構成できるとともに、前照灯13の取付け及び交換作業を簡単に行うことができ、コストの面でも有利である。
【0042】
前照灯13は、刈取部10の左右側面に、当該刈取部10の高さをほぼ2等分する位置よりやや下側に配置されている。この結果、図1に示すように、前照灯13は、稲の上部が当たるぐらいの位置に配置されている。そして、当該前照灯13は、水平方向前方ではなく、刈取部10の分草板11の前方を照射するように、やや斜め下方を向いて設置されている。この構成により、前照灯13が稲、麦等の作物の穀稈2部分を好適に照らすことができ、刈取部10の分草板11による分草作業を一層スムーズに行うことができる。
・・・(略)・・・
【0046】
この点、本実施形態のコンバイン1は、図3に示すように、刈取部10に左右側方に設置された前照灯13を用いて、刈取部10の前方を照らしている。具体的に、刈取部10の左側に配置された左側の前照灯13Lは、その光軸が、刈取部10の左端に配置された分草板11Lの前方を指すように設置されている。刈取部10の右側に配置された右側の前照灯13Rは、その光軸が、刈取部10の右端に配置された分草板11Rの前方を指すように設置されている。
【0047】
この構成により、図3に示すように、前照灯13L,13Rによって、刈取部10の左右両端に配置された分草板11L,11Rの前方の領域17L,17Rを効果的に照明することができる。従って、オペレータは、刈取部10に配置された前照灯13の光により、分草板11による分草の状況を好適に確認することができる。
・・・(略)・・・
【0054】
以上の構成により、方向指示灯と車幅灯とを一体化したコンパクトな構成を実現することができる。ただし、方向指示灯14は、上記で説明した構成に限定せず、様々な構成とすることが可能である。
【0055】
なお、従来、コンバインの刈取部の前面を覆うカバーの内側に前照灯を設置する構成が提案されている。即ち、刈取部の前面カバーの一部が透明なレンズになっており、その内部に前照灯の光源が配置される構成である。しかし、前照灯のレンズが刈取部の前面の一部になる構成であると、稲、麦等の作物に当たって傷が付き易い。
【0056】
この点、本実施形態のコンバイン1において、前照灯13及び方向指示灯14は、引起装置12の前面(具体的には、前記引起ケースの前面)より後方に配置されている。即ち、前照灯13及び方向指示灯14の何れも、引起装置12から刈取部10の前方に突出しない位置で固定されている。これにより、穀稈2等の障害物に当たりにくくなるので、前照灯13及び方向指示灯14の損傷を防止することができる。
【0057】
また、図5に示すように、前照灯13は、ハウジング130と、レンズ131と、を備える。ハウジング130は、レンズ131の周囲において前方に突出するリング状の凸部130aを備える。これにより、レンズ131が、前照灯13の前端面より後方に窪んだ内側部分に配置されるレイアウトとなっている。従って、前照灯13のレンズ131に稲、麦等の作物が当たって傷を付けることを回避でき、前照灯13による照明を安定して行うことができる。
【0058】
なお、上記は前照灯13に関する説明であるが、方向指示灯14(図4)のハウジング140についても、前照灯13のハウジング130と同様の構成が採用されている。即ち、レンズ141が当該方向指示灯14の前面(リング状の凸部140a)より後方に退避した構成が採用されており、これにより傷付きを回避することができる。
【0059】
以上に説明したように、本実施形態のコンバイン1は、刈取部10と、前照灯13と、を備える。刈取部10は、穀稈2を刈り取る。前照灯13は、機体の前方を照らす。前記刈取部10は、前記刈取部10の左右側方を覆う下サイドカバー15を備える。下サイドカバー15には、刈取部10の左右側方の下部において左右外側に膨出する膨出部が形成されている。前記膨出部の上方に前記前照灯13が配置されている。
【0060】
これにより、下サイドカバー15を簡素な形状に形成することができるとともに、前照灯13の取付け及び交換を簡単に行うことができる。
【0061】
また、本実施形態のコンバイン1は、機体の方向変更を示す方向指示灯14を更に備える。方向指示灯14は、前照灯13のハウジング130とは別に構成されたハウジング140を備える。方向指示灯14は、前照灯13の上方に配置されている。
【0062】
これにより、方向指示灯14と前照灯13とを別体に設けているので、それぞれのライトを適切な方向に容易に向けさせることができる。また、方向指示灯14を相対的に高い場所に設置しているので、稲、麦等の穂により方向指示灯14の光を遮ってしまうことを防止できる。
【0063】
また、本実施形態のコンバイン1において、方向指示灯14は、前照灯13より機体後方に退避するように配置されている。
【0064】
これにより、前照灯13の光が、その上方に配置された方向指示灯14により遮られることを回避できるので、前照灯13がコンバイン1の機体の前方を一層好適に照らすことができる。
イ 図面
「【図1】
[図:0001436813000006.jpg]
【図4】
[図:0001436813000007.jpg]
【図5】
[図:0001436813000008.jpg]
」
ウ 図面看取事項
前記アの段落【0057】、【0058】の記載を踏まえ、前記イの【図4】及び【図5】から、次の事項を看取できる(以下、「図面看取事項」という。)。
<図面看取事項>
「前照灯13のハウジング130の下面が湾曲していること。」
(2) 引用文献2記載技術について
前記(1)より、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載技術」という。)が記載されている。
<引用文献2記載技術>
「コンバイン1の前照灯13において、(段落【0056】、【0057】)
前照灯13のハウジング130の下面が湾曲していること。」
第5 対比・検討・判断
1 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明の「走行車体2」及び「コンバイン1」のそれぞれは、本願発明の「機体」及び「収穫機械」に相当する。
そして、引用発明の「刈取装置8」は、「走行車体2の前側部に昇降自在に設け」られるものであり、「コンバイン1」が有するから、作物を刈り取るのは明らかであって、本願発明の「機体の前端部に配置され、作物を刈り取る刈取装置」に相当する。
(2) 引用発明の「左右サイドカバー11R,11L」は、「刈取装置8の左右側面を覆う合成樹脂で一体成形した」ものであるから、「右サイドカバー11R」の「下部膨出部11B」は、「刈取装置8の左右側面」に位置するものである。
そして、引用発明の「前記下部膨出部11Bの上側で刈取装置8の上下方向中央位置に側方へ膨出した膨出部22」において、「膨出部22は下部膨出部11Bより膨らみを小さくする」から、「刈取装置8」の右側面にある「右サイドカバー11R」において「下部膨出部11B」は、側方へ膨出した部位であると理解することができる。
そうすると、引用発明の「右サイドカバー11R」の「下部膨出部11B」は、本願発明の「前記刈取装置の左右方向の少なくとも一方の端面から突出する突出部」に相当する。
(3) 引用発明の「膨出部22」は、「この膨出部22の内側に形成したライト孔21に」取り付けた「前照灯12」と一体となって、「刈取装置8の直前を照らす」ものである。
そして、「前記下部膨出部11Bの上側で刈取装置8の上下方向中央位置に側方へ膨出した」ものであるから、引用発明の「膨出部22」及び「前照灯12」からなるものは、本願発明の「前記刈取装置の左右方向の少なくとも一方の端面から突出し、少なくとも前方に光を出力する発光装置」に相当する。
(4) 引用発明の「膨出部22」は、「前記下部膨出部11Bの上側で刈取装置8の上下方向中央位置に側方へ膨出」するとともに、「下部膨出部11Bより膨らみを小さくすることで植立穀稈が引掛らないようにしている。また、左右サイドカバー11R,11Lの下部膨出部11Bの上面11Buを膨出部22と同じように前傾斜させて穀稈が引掛らない」ものであるから、「膨出部22」と「下部膨出部11B」は、一体ではなく別体として「刈取装置8」の「側方へ膨出」すると理解できる。
そうすると、別体である「膨出部22」と「下部膨出部11B」の間に所定の隙間を有するのは明らかであるから、引用発明の「膨出部22」及び「前照灯12」からなるものは、「下部膨出部11B」との関係からみて、本願発明の「前記発光装置は、前記突出部よりも上方に配置され、上下方向において前記突出部との間に所定の隙間を形成」することに相当する構成を有する。
よって、本願発明と引用発明は、次の一致点で一致し、相違点で相違する。
<一致点>
「機体の前端部に配置され、作物を刈り取る刈取装置と、
前記刈取装置の左右方向の少なくとも一方の端面から突出する突出部と、
前記刈取装置の左右方向の少なくとも一方の端面から突出し、少なくとも前方に光を出力する発光装置と、を備え、
前記発光装置は、前記突出部よりも上方に配置され、上下方向において前記突出部との間に所定の隙間を形成した、
収穫機械。」
<相違点>
本願発明は、「発光装置の下面は、湾曲面を含む」のに対し、引用発明の「前照灯12」を有する「膨出部22」は、そのような特定がされていない点。
2 検討・判断
相違点について検討する。
(1) 引用発明の「膨出部22」の形状について
ア 引用発明の「膨出部22」は、「膨出部22は下部膨出部11Bより膨らみを小さくすることで植立穀稈が引掛らないようにして、左右サイドカバー11R,11Lの下部膨出部11Bの上面11Buを膨出部22と同じように前傾斜させて穀稈が引掛らない」ものであるから、引用発明は、「穀稈が引掛らない」ような構成となるように設計する動機を有するものである。
一方、コンバインをふくむ各種装置の前照灯として、下面に湾曲部を有する構造のものは、引用文献2記載技術に示されるように、周知の技術である(以下、「周知技術」という。)。
そして、一般的な物の構造として、他の物と接触する可能性のある部分の形状が、角を有するよりも、湾曲した構造のほうが、他の物や自らが傷つく可能性が低い、すなわち、より安全な構造であることは、例示するまでもない技術常識である。
イ そうすると、引用発明において、「膨出部22」が「穀稈が引掛らない」もしくは、穀稈が引掛りにくい外観を有するように設計する際に、前記技術常識に照らし、周知技術の「下面が湾曲している」前照灯の構成を採用して、本願発明の相違点に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。
(2) 本願発明の「発光装置の下面は、湾曲面を含む」ことによる効果等について
ア 本願の明細書の発明の詳細な説明に「発光装置の下面」について、次の記載がある。
「【0062】
ところで、本実施形態では、発光装置1の下面、つまり第1発光部11の下面は、正面視において円弧状に湾曲している。すなわち、発光装置1の下面は、湾曲面113を含む。言い換えれば、発光装置1のうち、隙間25に面する部位には、少なくとも正面視において湾曲した湾曲面113が設けられている。図7の例では、湾曲面113は、左側面視においても、その後端部が円弧状に湾曲している。このような湾曲面113が、作物100の穀稈等を誘導するための隙間25に面していることで、作物100の穀稈等が発光装置1の下面に引っ掛かりにくくなり、スムーズに隙間25にて誘導されやすくなる。また、発光装置1の下面に湾曲面113があることで、発光装置1の下面に角部がある場合に比較すると、隙間25を通る作物100の穀稈等を傷つけにくいという利点もある。
【0063】
さらに、本実施形態では、湾曲面113は、正面視において下方に向けて凸となる。すなわち、第1発光部11の下面は、正面視において円弧状に湾曲しているのであって、湾曲面113は、少なくとも正面視においては下方に向けて膨らむように湾曲した凸面となる。より厳密には、第1発光部11の下面は、下方かつ左右方向D3の外側(左側の発光装置1Lであれば斜め左下方)に向けて凸となる湾曲面113を有する。これにより、作物100の穀稈等が発光装置1の下面により引っ掛かりにくくなり、スムーズに隙間25にて誘導されやすくなる。」
イ 前記アの記載からみて、本願発明において、「発光装置の下面は、湾曲面を含む」ことは、「湾曲面113が、作物100の穀稈等を誘導するための隙間25に面していることで、作物100の穀稈等が発光装置1の下面に引っ掛かりにくくなり、スムーズに隙間25にて誘導されやすくなる」ことや、「発光装置1の下面に角部がある場合に比較すると、隙間25を通る作物100の穀稈等を傷つけにくいという利点もある。」という効果が主張されていると理解できる。
ウ しかしながら、当該効果は、「湾曲面113が、作物100の穀稈等を誘導するための隙間25に面していること」、すなわち、本願発明の「収穫機械」における「発光装置」と、それを用いた際の「作物の」高さ等の位置関係が特定の条件にある場合に奏されるものであるが、本願発明において当該条件は特定されていないことからみて、主張する効果は限定的であるといわざるを得ない。
一方、前記1に示したとおり、引用発明は、「前記発光装置は、前記突出部よりも上方に配置され、上下方向において前記突出部との間に所定の隙間を形成」するものであり、「膨出部22」に関して、前記(1)ア及びイに示したとおり、周知技術の「下面が湾曲している」前照灯の構成を採用することにより、前記(1)アに示した技術常識を踏まえると、前記イに示したのと同様の効果が発揮されることは、当業者が予測できる範囲のものであり、格別のものとはいえない。
(3) 審判請求人の主張について
ア 審判請求人の主張の概要
審判請求人は、審判請求書において次の主張を行っている。
「令和6年5月28日付け意見書にも記載したように、本願発明1は、発光装置と突出部との間に所定の隙間がある、という引用文献2には存在しない構成を採用した上で、発光装置の下面が湾曲面を含む、という構成を採用しているからこそ、発光装置と突出部との間の隙間に、作物の穀稈等をスムーズに誘導することができ、結果的に、発光装置への作物の接触を抑制することにつながるものである。つまり、本願発明1によれば、作物を引っ掛かりなく隙間へと誘導することができるので、最終的には、発光装置への作物の接触を抑制する、という顕著な相乗効果を奏する。
要するに、本願発明1は、発光装置と突出部との間の隙間に作物の穀稈等を誘導するという点に着目したからこそ、発光装置と突出部との間の「隙間」、及び、発光装置の下面の「湾曲面」をうまく組み合わせて、格別の効果を奏する発明としたものであって、偶々、「隙間」に関して記載された引用文献1と、「湾曲面」に関して記載された引用文献2と、があったとしても、これら引用文献1,2の記載から当業者が本願発明1を容易に想到するといえるものではなく、本願発明1は、引用文献1,2に対して進歩性を有するものである。
一方で、拒絶査定では、「引用文献1に記載された発明における『前照灯12』と『前照灯13、方向指示灯14』は、『発光装置』という共通の機能を有するから、引用文献1に記載された発明に、引用文献2に記載された技術を採用することは、当業者にとって格別困難性はない。また、当該第2発光部が車幅灯を含むように構成することは、当業者が適宜なし得た設計事項である。」との理由で、令和6年5月28日付け意見書での上記主張が認められずに、本願発明1は進歩性を有しないものと判断されている。
しかしながら、拒絶査定においては、意見書での上記主張が認められない理由が明確に示されておらず、そればかりか、引用文献1に記載された発明に、引用文献2に記載された技術を採用することの動機付けについても明確に示されていない。
さらに言えば、作物を引っ掛かりなく隙間へと誘導するという着想のない引用文献1の記載から、引用文献2に記載の前照灯の形状を適用することを容易に想到し得るとなれば、このような判断は本願の明細書等に知見を得て初めてなし得るものであり、進歩性の判断において事後分析的かつ非論理的思考(後知恵)は排除されるべきものであることから、このような引用文献1,2の記載をもって本願発明1の進歩性が否定されることはないと思料する。
以上より、本願発明1について進歩性を有しないと言える真っ当な理由は存在せず、本願発明1は、引用発明に対して進歩性を有するのであって、従属請求項2-9に係る発明も当然に、進歩性を有する。」
イ 審判請求人の主張に対する見解
前記1に示したとおり、引用発明は、本願発明の「前記発光装置は、前記突出部よりも上方に配置され、上下方向において前記突出部との間に所定の隙間を形成」することに相当する構成を有するものである。
そうすると、「発光装置と突出部との間の隙間に作物の穀稈等を誘導するという点に着目したからこそ、発光装置と突出部との間の「隙間」、及び、発光装置の下面の「湾曲面」をうまく組み合わせて、格別の効果を奏する発明としたもの」と主張しているが、この点において、本願発明と引用発明が相違するとはいえない。
そして、審判請求人が主張する「発光装置と突出部との間に所定の隙間がある、という引用文献2には存在しない構成を採用した上で、発光装置の下面が湾曲面を含む、という構成を採用しているからこそ、発光装置と突出部との間の隙間に、作物の穀稈等をスムーズに誘導することができ、結果的に、発光装置への作物の接触を抑制することにつながるものである。」効果については、作物の穀稈等と発光装置と突出部の位置関係について本願発明で特定されておらず、本願の明細書において比較例等によるその効果等の検証がされていないことからみて、必ずしも有意な効果を奏するとはいえないものの、引用発明が「発光装置と突出部との間に所定の隙間がある」ものである以上、引用文献2記載技術に例示される周知技術を採用することにより、同様の作用・効果を有するといえる。
また、引用文献1と引用文献2記載技術のような周知技術を組み合わせる動機等については、前記(1)ア及びイに示したとおりである。
本願発明が奏する作用・効果についても、前記(2)ウに示したとおり、格別のものともいえない。
したがって、審判請求人の主張は前記(1)に示した判断を左右するものでなく、採用できない。
(4) 本願発明のまとめ
よって、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者であれば容易に想到し得たことである。
第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-019015