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特許拒絶査定不服審判

2024-018731

繊維束、繊維基材、及び繊維強化複合材

審判番号
2024-018731
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-107935
請求日
2024年11月25日
審決日
2026年02月04日
公報発行日
2026年04月24日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】株式会社豊田自動織機
  • 【請求人代理人】恩田 誠
  • 【請求人代理人】恩田 博宣
審判長/審判官
  • 審判長 小宮 慎司
  • 審判官 今井 聖和
  • 審判官 棚田 一也
分類
P18 .113-Z (D02G) / P18 .121-Z (D02G) / P18 .575-Z (D02G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条1項3号特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-107935「繊維束、繊維基材、及び繊維強化複合材」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 1月11日出願公開、特開2022- 3179〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和2年6月23日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。 令和4年10月 5日 :手続補正書の提出 令和5年10月17日付け:拒絶理由通知書 令和5年12月20日 :意見書、手続補正書の提出 令和6年 3月27日付け:拒絶理由(最後の拒絶理由)通知書 令和6年 5月29日 :意見書の提出 令和6年 8月20日付け:拒絶査定(原査定) 令和6年11月25日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和7年 4月23日 :上申書の提出 第2 令和6年11月25日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 令和6年11月25日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について(補正の内容) (1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正は、特許請求の範囲を補正するものであり、本件補正後の請求項1の記載は、次のとおりである。(下線部は、手続補正書の記載のとおりである。) 「 【請求項1】 非連続繊維である複数の強化繊維を有するとともに繊維基材を構成し、熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を前記繊維基材に対して含浸させることにより繊維強化複合材を製造するために用いられる繊維束であって、 熱可塑性樹脂からなる靭性強化剤を有し、 前記靭性強化剤のうち、一部が前記繊維束の表面に露出し、その他の部分が、前記繊維束の最外周に配置される前記複数の強化繊維により形成される前記繊維束の表面よりも前記繊維束の内側に配置されている繊維束。」 (2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載 本件補正前の、令和5年12月20に提出された手続補正書の、特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「 【請求項1】 非連続繊維である複数の強化繊維を有するとともに繊維基材を構成し、熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を前記繊維基材に対して含浸させることにより繊維強化複合材を製造するために用いられる繊維束であって、 熱可塑性樹脂からなる靭性強化剤を有し、 前記靭性強化剤の少なくとも一部は、前記繊維束の最外周に配置される前記複数の強化繊維により形成される前記繊維束の表面よりも前記繊維束の内側に配置されている繊維束。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「靭性強化剤」について、「一部が前記繊維束の表面に露出」するとの限定事項を付加するものであって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。 (1) 本件補正発明 本件補正発明は、上記1(1)の記載のとおりのものである。 (2) 引用文献3の記載、引用発明 ア 引用文献3の記載 原査定の拒絶の理由で、引用文献3として引用された特開2018-150635号公報には、次の記載がある。(下線は、引用箇所を示すために当審において付加した。) 「【技術分野】 【0001】 本発明は、複合繊維、その複合繊維を有する繊維強化複合材料用組成物及び繊維強化複合材料に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0005】 特許文献1には、ナノ繊維-高分子複合体についての機械的強度に関する記載は存在するものの、これを用いた応用例に関する記載はなく、また、その応用例で使用した場合の機械的特性に関する記載も存在しない。 本発明者の研究によると、ナノ繊維としてカーボンナノチューブの無撚糸を用い、これとエポキシ樹脂のようなマトリックス樹脂とを組み合わせて複合材料を作製しようとすると、マトリックス樹脂がカーボンナノチューブの無撚糸に含浸して、そのカーボンナノチューブの無撚糸が膨張してしまうことが分かった。このことにより、機械的強度に優れるナノ繊維の集合体からなる複合繊維を含む繊維強化複合材料の作製は困難であった。また、複合繊維を高い体積含有率で含む繊維強化複合材料の作製は困難であった。 そこで、本発明では、集束剤としてポリビニルアセタールを用いてナノ繊維を集束することで、その複合繊維の機械的強度を高めるとともに、該複合繊維を高い体積含有率で含み、高い機械的強度を有する繊維強化複合材料を提供することを課題とする。」 「【0010】 <複合繊維> 本発明の一実施形態である、複合繊維について説明する。 該複合繊維は、複数のナノ繊維が集合してなるナノ繊維集合体と、前記複数のナノ繊維間に含浸されたポリビニルアセタールとからなる。 また、前記ナノ繊維集合体は、長さ方向に配向した複数のナノ繊維が径方向に集合してなるナノ繊維集合体、つまり撚り角が0°である無撚糸であることが好ましい。 前記複合繊維によれば、ナノ繊維集合体を構成する複数のナノ繊維間に、疎水結合、水素結合を形成可能な官能基を有するポリビニルアセタールが含浸されていることにより、ナノ繊維集合体と比較して直径が小さく、そのため、大きな密度を備えるので、ナノ繊維集合体単独よりも優れた機械的強度を得ることができる。 前記ナノ繊維-高分子複合体(複合繊維)がナノ繊維集合体と比較して直径が小さいのは、複数のナノ繊維間に含浸されたポリビニルアセタールの官能基の相互作用により、ナノ繊維間の距離が短くなるためと考えられる。 本実施形態の複合繊維では、その直径として70~150μmの態様を挙げることができ、80~140μmの態様を好ましく例示できる。 また、本実施形態の複合繊維の長さとしては、0.1~70cmの態様を挙げることができ、0.5~70cmの態様を好ましく例示できる。 また、本実施形態の複合繊維におけるナノ繊維集合体とポリビニルアセタールの割合については、ナノ繊維集合体の体積含有率が50~99%である態様を挙げることができ70~99%である態様が好ましい。 【0011】 本実施形態の複合繊維を作製する方法として、ポリビニルアセタールを有機溶媒に溶解させた溶液に糸にしたナノ繊維集合体を浸漬させる、またはナノ繊維のウェブにポリビニルアセタール溶液を滴下させてからダイに通して糸にして乾燥させることにより作製する、などを挙げることができる。しかし、複数ナノ繊維間にポリビニルアセタールを含浸させるには、一旦糸にしてから溶液に浸漬する方法では不十分であるため、後者のナノ繊維のウェブに溶液を滴下する方法が好ましい。ポリビニルアセタールの溶液については後述する。 【0012】 また、本実施形態の複合繊維は、前記ナノ繊維として、例えば、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバからなる群から選択される1種以上の繊維を用いることができる。 従来の炭素繊維を超える引張強さと弾性率が期待でき、さらに金属材料と比較して小さな密度であることから考えて,繊維強化複合材料のナノ繊維としてカーボンナノチューブからなるナノ繊維であることが好ましい。その中でも、後述する方法で作製された多層カーボンナノチューブ(MWNT)を用いることが好ましい。 本明細書において、ナノ繊維とは、直径が1nm~100nm、長さが直径の100倍以上の繊維状物質のことを意味する。 【0013】 カーボンナノチューブからなる撚糸または無撚糸の製造は以下のように行う。 まず化学気相成長法により、昇華した触媒と炭化水素のガスとが気相反応することで基板表面の酸化ケイ素の部分にカーボンナノチューブが垂直配向したカーボンナノチューブアレイを作製する。そのカーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブを引き出すことで、ウェブと呼ばれるシート状のカーボンナノチューブ集合体を製作可能な紡績性カーボンナノチューブアレイを作製する。 そして、紡績性カーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブシートを引き出すことができ、撚りを掛けながら引き出すことでカーボンナノチューブ撚糸を作製できる。 または、カーボンナノチューブアレイから引き出したカーボンナノチューブを撚らずにダイに通すことにより、カーボンナノチューブの配向がカーボンナノチューブ糸の長手方向と一致した、すなわち撚り角が0°のカーボンナノチューブ無撚糸を作製できる。 本実施形態ではポリビニルアセタールを介して、カーボンナノチューブのナノ繊維同士が接着した無撚糸を作製して用いることが好ましい。 なお、より具体的なカーボンナノチューブの製造方法としては、例えば特開2009-196873号公報に記載の方法を用いることができる。 ・・・(中略)・・・ 【0017】 構成単位aにおけるR1がバルキ-な基(例えば炭素数が多い炭化水素基)であると、ポリビニルアセタ-ルの軟化点が低下する傾向がある。軟化点の低いポリビニルアセタールをナノ繊維集合体との複合繊維に用いると、複合繊維を用いた繊維強化複合材料を作製する場合、マトリックス(例えばエポキシ樹脂)に該複合繊維を含浸させて成型すると高温において粘度が大きく低下して樹脂が流れすぎてしまうことがある。また、R1がバルキ-な基であるポリビニルアセタ-ル樹脂は、溶媒への溶解性は高いが、一方で耐薬品性に劣ることがある。そのため構成単位aにおけるR1は、水素原子(H)または炭素数1~5のアルキルであり、水素原子又は炭素数1~3のアルキルであることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。 R1が水素原子である場合は、ポリビニルホルマールになる。 ・・・(中略)・・・ 【0023】 ポリビニルアセタール樹脂の重量平均分子量は、5000から300000であることが好ましく、10000から150000であることがより好ましい。ポリビニルアセタール樹脂の重量平均分子量が、5000以上の場合、ポリビニルホルマール樹脂は、ナノ繊維集合体間へ含浸しやすくなり、かつエポキシ樹脂への溶解性は高くなり、ポリビニルアセタール樹脂による強靭化作用を得られるので好ましい。 ・・・(中略)・・・ 【0024】 ポリビニルアセタールとしては、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラールなどが挙げられる。本実施形態の複合繊維に用いるポリビニルアセタールとして、炭素繊維複合材料のマトリックス(例えばエポキシ樹脂)への溶解が良好であるポリビニルホルマールが好ましい。また、ポリビニルホルマールは多くの細孔を有する粒子(細孔容積(代表値);0.71ml/g)であり、予めポリビニルホルマール粒子とエポキシ樹脂を混練してエポキシ樹脂を細孔に充填させれば少なくとも90℃でエポキシ樹脂に溶解する。 ・・・(中略)・・・ 【0036】 <繊維強化複合材料> 上記で説明した繊維強化複合材料用組成物を硬化させるか、上記で説明した複合繊維とマトリックス樹脂を別々に準備したものを後述する方法で組み合わせ、該マトリックス樹脂を硬化させることで、本実施形態にかかる繊維強化複合材料を得ることができる。 本実施形態にかかる繊維強化複合材料では、複合繊維を主成分として含む。本実施形態にかかる繊維強化複合材料において、主成分とは繊維体積含有率(Vf)が10~70体積%であることを示す。炭素繊維を用いた繊維強化複合材料において、繊維体積含有率(Vf)が少なくとも60体積%と高いことが特徴であり、Vfが高ければ強度、弾性率が向上することが知られている。よって本実施形態の複合繊維を用いた繊維強化複合材料において高剛性、高強度な複合材にするには、Vfを高くすることが重要であり、少なくともVfが10体積%あれば高剛性、高強度を発現できる。 ポリビニルアセタールを含浸していないナノ繊維集合体に比べてポリビニルアセタールをナノ繊維集合体に含浸させた複合繊維はVfを10体積%以上にすることができ、高剛性、高強度の繊維強化複合材料の作製が可能と考えられる。Vfが70体積%以下であればマトリックス樹脂の含浸不足がなく、高剛性、高強度を発現できる。 本実施形態における複合繊維を主成分とする繊維強化複合材料の作製法については公知の方法を用いることができる。代表的な方法として、プリプレグ法、フィラメントワインディング法、レジントランスファーモールディング法がある。 例えば、前記の複合繊維を用いたプリプレグ法で繊維強化複合材料を作製する場合、まずシリコンで離型処理した紙やプラスチックフィルムの間に複合繊維とマトリックス樹脂とを配置して、これらシートを油圧またはローラで加圧し、複合繊維内にマトリックス樹脂を含浸、一体化させ、ある程度反応を進め、可撓性のプリプレグシートが作られる。このようなプリプレグシートを所定の方向に配列して積層し、加圧し一体化させ、最終的に加熱、加圧して硬化する。 フィラメントワインディング法とは複合繊維の束をマトリックス樹脂槽の中を通して、あらかじめ用意した所定のマンドレルにこれを巻きつけて成形する方法である。 レジントランスファーモールディング法とは、複合繊維とマトリックス樹脂からなる上記の繊維強化複合材料用組成物を型内に閉じ込め、低粘度の状態であらかじめ前記組成物に触媒を添加し、最終的にはさらに比較的低圧力で型内にレジンを射出成形する方法である。したがってマトリックス樹脂の硬化は型内で行われ、硬化を促進するため加熱することもある。 なお、上記の各方法においてマトリックス樹脂は、繊維強化複合材料用組成物に用いるものと同じものを用いることができる。 【実施例】 ・・・(中略)・・・ 【0038】 <カーボンナノチューブ(CNT)> 実施例で用いるカーボンナノチューブとして、多層カーボンナノチューブ(MWNT)を用いた。MWNTは、化学気相析出法(CM-CVD法)によりアセチレンガス(C2H2)を原料に、塩化鉄II(FeCl2)を触媒に用いてシリコン基板上に成長させた。基板上に成長させたMWNTの繊維長は0.6~1mm、直径は30~50nmであった。 【0039】 <カーボンナノチューブ糸> MWNT撚糸は、MWNTアレイの端部分からMWNTのシートをつまみ出し、それを撚りを掛けながら引き出すことにより作製した。実施例で使用したMWNT撚糸の作製条件は引出し速度100mm/s、回転速度30,000rpm、基板寸法10mm×40mmである。MWNT撚糸作製の模式図を図1に示す。 一方、MWNT無撚糸は、MWNTアレイから引き出したシートを撚らずにダイに通すことにより作製した。本研究で使用したMWNT無撚糸の作製条件は引出し速度10mm/s、基板寸法20mm×40mmであり、ダイには図2に示すような直径100μmのピンホール(S71シリーズ、駿河精機)を使用した。MWNT無撚糸作製の模式図を図3に示す。 ・・・(中略)・・・ 【0043】 実施例2:無撚糸に対して 一方、無撚糸に対しては浸漬によるポリビニルホルマールの添加が難しいので、図3に示すように、アレイから引出したMWNTウェブに直接滴下する方法を実施した。具体的には、無撚糸作製時に引出し速度として10mm/sで無撚糸を採用し、その引出中にポリビニルホルマール溶液を滴下した。その後、150℃×1hrの条件で溶媒であるDMSOを乾燥させた。 ポリビニルホルマールとカーボンナノチューブの複合繊維中のカーボンナノチューブの 体積含有率を測定したところ、以下の表1に示す結果になった。 ポリビニルホルマール溶液の濃度として、1重量%(実施例2-1)、3重量%(実施例2-2)、5重量%(実施例2-3)、7重量%(実施例2-4)を採用した。 ・・・(中略)・・・ 【0050】 <引張試験2:実施例2及び比較例2の無撚糸を使用> 実施例2及び比較例2の無撚糸を用いて、前記方法により引張試験2を行った。試験片本数は各条件で5本以上とした。 引張試験2で得られた荷重-変位線図と応力-ひずみ線図をそれぞれ図7と図8に、力学的特性を表3-1~表3-3に示す。ここで、実施例2-3では6本中3本の試験片が、実施例2-4では全ての試験片がタブ部で破断した。そのため、表の実施例2-3の平均値はタブ部で破断しなかった3本の値から算出したものである。また、無撚糸の断面積は断面形状が真円ではないので破断面のSEM画像から算出し、ヤング率はひずみが0.25-0.50%の範囲で算出した。」 「 [図:0001433778000001.jpg] 」 「 [図:0001433778000002.jpg] 」 イ 引用発明 (ア)上記アの【0036】によれば、「マトリックス樹脂を硬化させる」ことで、「繊維強化複合材料を得ることができ」、「繊維強化複合材料を作製する場合」に、「複合繊維内にマトリックス樹脂を含浸、一体化させ」、「最終的に加熱、加圧して硬化」していることから、「マトリックス樹脂」は、加熱により硬化するものであるといえる。 (イ)上記アの記載、及び、上記(ア)によると、引用文献3には次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。(括弧内の段落番号は、引用文献3の引用箇所を示す。) [引用発明] 複数のナノ繊維が集合してなるナノ繊維集合体と、前記複数のナノ繊維間に含浸されたポリビニルアセタールとからなる複合繊維であって、(【0010】) 複合繊維を用いた繊維強化複合材料を作製する場合、複合繊維内にマトリックス樹脂を含浸、一体化させ、(【0036】) 前記ナノ繊維集合体は、長さ方向に配向した複数のナノ繊維が径方向に集合してなる無撚糸であり、(【0010】) ナノ繊維は、炭素繊維を超える引張強さと弾性率が期待でき、さらに金属材料と比較して小さな密度であるカーボンナノチューブであり、(【0012】) ポリビニルアセタール樹脂の重量平均分子量は、5000から300000であることが好ましく、10000から150000であることがより好ましく、ポリビニルアセタール樹脂の重量平均分子量が、5000以上の場合、ポリビニルホルマール樹脂は、ナノ繊維集合体間へ含浸しやすくなり、かつエポキシ樹脂への溶解性は高くなり、ポリビニルアセタール樹脂による強靭化作用を得られ、(【0023】) マトリックス樹脂は、加熱して硬化するものであり、(上記(ア)) カーボンナノチューブからなる無撚糸の製造は、基板表面の酸化ケイ素の部分にカーボンナノチューブが垂直配向したカーボンナノチューブアレイを作製し、そのカーボンナノチューブアレイからカーボンナノチューブを引き出すことで、ウェブと呼ばれるシート状のカーボンナノチューブ集合体を製作可能な紡績性カーボンナノチューブアレイを作製し、(【0013】) 複合繊維を作製する方法として、ナノ繊維のウェブにポリビニルアセタール溶液を滴下させてからダイに通して糸にして乾燥させることにより作製し、(【0011】) カーボンナノチューブとして、多層カーボンナノチューブ(MWNT)を用い、MWNTの繊維長は0.6~1mmである、(【0038】) 複合繊維。 (3) 対比 本件補正発明と、引用発明とを対比する。 ア 引用発明の「複合繊維」は、「ナノ繊維のウェブにポリビニルアセタール溶液を滴下させてからダイに通して糸にして乾燥させることにより作製」されるものであり、複数のナノ繊維の束であるといえるから、本件補正発明と「繊維束」である点で共通する。 また、引用発明の「複合繊維」は、「繊維強化複合材料」の作製に用いられ、「繊維強化複合材料」を作製する場合、「複合繊維内にマトリックス樹脂を含浸、一体化させ」るものであり、「繊維強化複合材料」のもととなる材料、すなわち繊維の基材であるといえる。この点と、「マトリックス樹脂」は、「加熱して硬化するもの」、すなわち、熱硬化性樹脂であるといえることも考慮すると、引用発明の「複合繊維」と本件補正発明の「繊維束」とは、「繊維基材を構成し、熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を前記繊維基材に対して含浸させることにより繊維強化複合材を製造するために用いられる繊維束」である点で一致する。 イ 引用発明の「複数のナノ繊維」は、「炭素繊維を超える引張強さと弾性率が期待でき、さらに金属材料と比較して小さな密度であるカーボンナノチューブ」が用いられており、引張強さなどの特性が強化されているといえる。この点と、「多層カーボンナノチューブ(MWNT)」が用いられる「カーボンナノチューブ」の「繊維長」は、「0.6~1mm」であり、非連続繊維であるといえることを考慮すると、引用発明の「複数のナノ繊維」は、本件補正発明の「非連続繊維である複数の強化繊維」と一致する。 ウ 引用発明の「ポリビニルアセタール」は、その重量平均分子量が、「5000から300000であることが好ましく、10000から150000であることがより好まし」いものであり、「5000以上の場合」「ナノ繊維集合体間へ含浸しやすくなり、かつエポキシ樹脂への溶解性は高くなり、ポリビニルアセタール樹脂による強靭化作用を得られる」ものであるから、「靭性強化剤」であるといえる。 エ 引用発明の「複合繊維」は、「複数のナノ繊維が集合してなるナノ繊維集合体と、前記複数のナノ繊維間に含浸されたポリビニルアセタールとからなる」ものであるところ、上記イ、ウを考慮すれば、「非連続繊維である複数の強化繊維」と「靭性強化剤」を有しているといえる。 オ 以上ア~エによれば、本件補正発明と引用発明とは、以下の一致点及び相違点1、2を有する。 [一致点] 非連続繊維である複数の強化繊維を有するとともに繊維基材を構成し、熱硬化性樹脂であるマトリックス樹脂を前記繊維基材に対して含浸させることにより繊維強化複合材を製造するために用いられる繊維束であって、 靭性強化剤を有する、 繊維束。 「相違点1」 「靭性強化剤」について、本件補正発明は、「熱可塑性樹脂からなる」のに対して、引用発明は、そのような特定がされていない点。 [相違点2] 本件補正発明は、「前記靭性強化剤のうち、一部が前記繊維束の表面に露出し、その他の部分が、前記繊維束の最外周に配置される前記複数の強化繊維により形成される前記繊維束の表面よりも前記繊維束の内側に配置されている」のに対し、引用発明は、そのような特定がされていない点。 (4) 相違点の判断 相違点1について検討する。 引用発明の「ポリビニルアセタール」が熱可塑性樹脂であることは技術常識であるから、相違点1は、実質的な相違点ではない。 相違点2について検討する。 引用発明の「複合繊維」は、「ナノ繊維のウェブにポリビニルアセタール溶液を滴下させてからダイに通して糸にして乾燥させることにより作製」されている。 このとき、ウェブを構成する複数のナノ繊維の一部が糸の表面に位置し、その他の部分が糸の内側に位置することとなるが、ダイの直径よりも大きな幅を有するシート状のウェブを単にダイに通すとすると、ウェブのどの位置のナノ繊維が糸の表面に位置し、ウェブのどの位置のナノ繊維が糸の内側に位置するかを予測することはできないと考えられる。そうすると、滴下によりポリビニルアセタール溶液が付着したナノ繊維が、糸の表面に位置するか、内側に位置するかを予測することもできないといえる。 一方、ウェブの状態ではナノ繊維間に隙間があることは明らかであり、かつ、引用発明の「複数のナノ繊維間に含浸されたポリビニルアセタール」という特定事項からみれば、含浸させるのに必要な量のポリビニルアセタールが滴下されており、一定程度の数のナノ繊維にポリビニルアセタールが付着しているといえる。 そして、引用文献3には、ウェブのどの位置のナノ繊維が糸のどこに位置するか、あるいは、ウェブのどの位置のナノ繊維を糸のどこに位置させるかに関して、特段の記載はみられないことからすれば、引用発明において、ポリビニルアセタール溶液が付着したナノ繊維は、糸の表面にも内側にも位置する蓋然性が極めて高く、その結果としてナノ繊維に付着したポリビニルアセタールは、一部が複合繊維の表面に露出し、その他の部分が、複合繊維の内側に配置されるとみることができる。 したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。 よって、本件補正発明は引用発明であり、仮に相違点があるとしても、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 (5) 請求人の主張 請求人は、審判請求書及び上申書において、要するに、引用文献3に記載された発明の無撚糸は、本件補正発明のように「靭性強化剤のうち、一部が前記繊維束の表面に露出し、その他の部分が、前記繊維束の最外周に配置される前記複数の強化繊維により形成される前記繊維束の表面よりも前記繊維束の内側に配置されている」構成にはならない旨を主張している。 しかしながら、上記(4)において検討したとおりであるから、請求人の主張は採用できない。 (6) 小括 以上のとおり、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 また、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 3 本件補正についてのむすび 以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。 第3 本願発明について 1 本願発明 本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~4に係る発明は、令和5年12月20日に提出された手続補正書の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、以下のとおりである。 理由1.(新規性)この出願の請求項1、3、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。 理由2.(進歩性)この出願の請求項1、3、4に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、この出願の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献3、2に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、この出願の請求項1~4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 引用文献2:特開2018-001475号公報 引用文献3:特開2018-150635号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献3及びその記載事項は、上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、上記第2[理由]2で検討した本件補正発明から、「靭性強化剤」についての「一部が前記繊維束の表面に露出」するとの限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、上記第2[理由]2に記載したとおり、引用発明であり、また、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明であり、また、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、また、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-018731

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