特許拒絶査定不服審判
2024-017953
符号化・復号化の方法、装置、および記憶媒体
- 審判番号
- 2024-017953
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2023-084090外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年11月08日
- 審決日
- 2026年02月02日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】杭州海康威視数字技術股▲フン▼有限公司
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】崔 允辰
- 分類
- P18 .121-WZ (H04N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2023- 84090「符号化・復号化の方法、装置、および記憶媒体」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 7月 6日出願公開、特開2023- 96190〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)6月19日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2019年6月21日(CN)中華人民共和国)を国際出願日とする特願2021-576392号の一部を、令和5年5月22日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和6年 2月22日付け:拒絶理由通知書
令和6年 6月 4日 :意見書の提出
令和6年 6月28日付け:拒絶査定
令和6年11月 8日 :審判請求書の提出
令和7年 8月26日付け:拒絶理由通知書(当審)
令和7年12月 2日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~18に係る発明は、令和7年12月2日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~18に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。なお、記号A~Dは、分説するために当審で付したものであり、記号A~Dに対応する発明特定事項を、以下、構成A~構成Dという。
(本願発明)
A 現在のブロックが複数行予測モードをサポートする場合、複数行予測モードに基づいて現在のブロックを予測するときに、目標参照行に基づいて現在のブロックを予測し、前記目標参照行は、参照行指示情報に基づいて確定されることを含み、
B ここで、前記参照行指示情報は、複数行予測モードに基づいて現在のブロックの予測を行うときに使用される目標参照行のインデックス情報を指示するために使用され、前記目標参照行は、候補参照行から選択された1行であり、ここで、前記複数行予測モードに対応する候補参照行の行数は3であり、且つ現在のブロックの境界に最も近い3行3列が前記候補参照行として用いられ、
C 前記参照行指示情報が、最大2ビットを占め、且つこの2ビットについて、2つのコンテキストモデルを使用して復号化し、ここで、前記参照行指示情報の第1のビットは、第1のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記参照行指示情報の第2のビットを復号化する必要があるとき、前記参照行指示情報の第2のビットは、第2のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記第1のコンテキストモデルと前記第2のコンテキストモデルは異なる、
D ことを特徴とする復号化の方法。
第3 当審の拒絶の理由
令和7年8月26日付けで当審が通知した拒絶理由のうち、請求項1に対する理由1は、概略、次のとおりのものである。
理由1.(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:Geert Van der Auwera et al., "Description of Core Experiment 3: Intra Prediction and Mode Coding", Joint Video Experts Team (JVET), 2018-06-21, [JVET-J1023_r2] (version 3), pp.40-41
第4 引用文献の記載事項、引用発明、及び文献1技術事項
1 引用文献1の記載事項
当審の拒絶理由で引用された文献であるGeert Van der Auwera et al., "Description of Core Experiment 3: Intra Prediction and Mode Coding", Joint Video Experts Team (JVET), 2018-06-21, [JVET-J1023_r2] (version 3)(以下、「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。なお、下線は強調のために当審で付したものである。
(1)「9 CE3.5: Multi-reference line intra prediction」(第34頁)
(当審による仮訳:
9 CE3.5: 複数参照ラインイントラ予測」
(2)「9.4 Tool 4: MRL with explicit signaling (JVET-J0014 HHI)
Test MRL as proposed in JVET-J0014. Conventional intra picture prediction always uses the directly neighboring samples as reference samples for prediction. MRL extends the conventional luma prediction to use neighboring samples with one or three samples distance to the left and top of the current prediction block. The conventional directly neighboring reference sample lines and the extended reference sample lines are illustrated in the figure below. The mrl_idx indicates which line to use in intra-picture prediction of a CU.
[図:0001436791000001.jpg]
Figure 24. Directly neighboring (nearest) reference samples in blue and extended reference samples in green used in MRL.
9.4.1 Bit stream organization
The usage of multiple-reference line intra prediction (MRL) is indicated by the syntax element mrl_idx. The value of mrl_idx indicates which reference line is used in intra. Allowed values are 0, 1 and 3 which are coded using truncated unary binarization with 0 for mrl_idx = 0, 10 for mrl_idx = 1, 11 for mrl_idx = 3 and a separate context model for each bin.」(第39~40頁)
(当審による仮訳:
9.4 ツール4: 明示的シグナリングを有するMRL (JVET-J0014 HHI)
JVET-J0014に提案されているMRLを試験する。従来のイントラピクチャ予測は、常に、直接隣接するサンプルを予測のための参照サンプルとして使用する。MRLは、現在の予測ブロックの左および上に1つまたは3つのサンプル距離を有する隣接サンプルを使用するように、従来のルーマ予測を拡張する。直接隣接する従来の参照サンプルライン、および拡張参照サンプルラインは以下の図に示される。mrl_idxは、CUのイントラピクチャ予測においてどのラインを使用するかを示す。
[図:0001436791000002.jpg]
図24. MRLにおいて使用される、青で示される直接隣接する(最も近い)参照サンプルおよび緑で示される拡張参照サンプル。
9.4.1ビットストリーム構成
複数参照ラインイントラ予測(MRL)の使用は、シンタックス要素mrl_idxによって示される。mrl_idxの値は、どの参照ラインがイントラで使用されるかを示す。許容される値は0、1および3であり、それらは、mrl_idx=0に対して0、mrl_idx=1に対して10、mrl_idx=3に対して11、である切捨て単項2値化、および各ビンに対する個別のコンテキストモデルを使用してコーディングされる。)
(3)「9.5 Tool 5: Number of extended reference line for intra prediction (JVET-J0070 ITRI)
Not only the nearest(first) reference line but also extended reference lines with single line increment are utilized in intra prediction. The prediction generated from the nearest and extended reference lines will compete together to choose the best prediction for each block. DC and Planar modes are not used to generate prediction from the extended reference lines. Extended reference lines are applied only for luma prediction.
[図:0001436791000003.jpg]
9.5.1 Bit stream organization
Use two extended reference lines:
1st Bin: 0 (if 1, use the first reference line)
2nd Bin: 1: use the second reference line, 0: use the third reference line」(第41頁)
(当審による仮訳:
9.5 ツール5: イントラ予測のための拡張参照ラインの数(JVET-J0070 ITRI)
イントラ予測では、最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、単一のライン増分を有する拡張参照ラインも利用される。最も近い参照ラインおよび拡張参照ラインから生成された予測は、各ブロックについて最良の予測を選択するために競合する。DCおよび平面モードは、拡張参照ラインから予測を生成するために使用されない。拡張参照ラインは、輝度予測のためにのみ適用される。
[図:0001436791000004.jpg]
9.5.1 ビットストリーム構成
2つの拡張参照ラインを使用する:
第1ビン: 0 (1である場合、第1参照ラインを使用する)
第2ビン: 1: 第2参照ラインを使用、0: 第3参照ラインを使用)
2 引用発明
(1)引用文献1がビデオ復号の規格であるVVCの標準化に関する文書であることは、ビデオ復号化の技術分野の当業者には自明であるから、引用文献1に触れた当業者は、引用文献1から、ビデオ復号化の方法を認識し得るといえる。
(2)また、上記1(3)の図において、太線で囲われた部分が「現在ブロック」を示し、また、太線が「現在ブロックの境界」を示すことは、当業者にとって明らかである。
よって、上記1(3)の図より、第1参照ライン、第2参照ライン、第3参照ラインは、現在ブロックの境界に最も近い3行3列であるといえる。
(3)そして、上記(1)、(2)及び上記1(3)の事項を総合すると、引用文献1の第9.5節には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。なお、1a~1fは説明のために当審で付したものであり、以下、構成1a~構成1fという。
(引用発明)
1a イントラ予測では、最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、拡張参照ラインも利用され、
1b 最も近い参照ラインおよび拡張参照ラインから生成された予測は、各ブロックについて最良の予測を選択するために競合し、
1c 2つの拡張参照ラインを使用し、
1d ビットストリーム構成は、
1d1 第1ビンは0 (1である場合、第1参照ラインを使用する)であり、
1d2 第2ビンは、1: 第2参照ラインを使用、0: 第3参照ラインを使用、であり、
1e 第1参照ライン、第2参照ライン、第3参照ラインは、現在ブロックの境界に最も近い3行3列である、
1f ビデオ復号化の方法。
3 引用文献1に記載された技術事項
上記1(2)の事項を総合すると、引用文献1の第9.4節には以下の技術事項(以下、「文献1技術事項」という。)が記載されているといえる。なお、2a~2cは説明のために当審で付したものであり、以下、構成2a~構成2cという。
(文献1技術事項)
2a 従来のイントラピクチャ予測は、常に、直接隣接するサンプルを予測のための参照サンプルとして使用し、MRLは、現在の予測ブロックの左および上に1つまたは3つのサンプル距離を有する隣接サンプルを使用するように、従来のルーマ予測を拡張するものであって、直接隣接する従来の参照サンプルライン、および拡張参照サンプルラインがあり、
2b ビットストリーム構成において、複数参照ラインイントラ予測(MRL)の使用は、シンタックス要素mrl_idxによって示され、mrl_idxの値は、どの参照ラインがイントラで使用されるかを示し、許容される値は0、1および3であり、それらは、mrl_idx=0に対して0、mrl_idx=1に対して10、mrl_idx=3に対して11、である切捨て単項2値化、および各ビンに対する個別のコンテキストモデルを使用してコーディングされる、
2c 技術事項。
第5 対比
以下、本願発明と引用発明を対比する。
1 構成Aについて
構成1bにおける「最も近い参照ラインおよび拡張参照ラインから生成された予測」は、構成1aの「最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、拡張参照ラインも利用」される「イントラ予測」を意味すると解される。
そして、構成1bにより、「最も近い参照ラインおよび拡張参照ラインから生成された予測は、各ブロックについて最良の予測を選択するために競合」する場合、当該ブロックは、構成1aの「最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、拡張参照ラインも利用」される「イントラ予測」をサポートするといえる。
ここで、構成1bの「ブロック」は、構成Aの「現在のブロック」に相当する。
また、構成1aの「最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、拡張参照ラインも利用」される「イントラ予測」は、イントラ予測の一つの形態、すなわち、モードであって、かつ、複数の参照ライン(行)を利用する予測の形態(モード)といえるから、構成Aの「複数行予測モード」に相当する。
そうすると、引用発明の構成1a及び1bにより「最も近い参照ラインおよび拡張参照ラインから生成された予測は、各ブロックについて最良の予測を選択するために競合」する場合は、構成Aの「現在のブロックが複数行予測モードをサポートする場合」に相当するといえる。
また、構成1aによれば、「イントラ予測では、最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、拡張参照ラインも利用され」、構成1bによれば、「最も近い参照ラインおよび拡張参照ラインから生成された予測は、各ブロックについて最良の予測を選択するために競合」し、構成1d~1d2によれば、「ビットストリーム構成」は、「第1ビンは0 (1である場合、第1参照ラインを使用する)であり」、「第2ビンは、1: 第2参照ラインを使用、0: 第3参照ラインを使用」、であるから、引用発明では、「最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、拡張参照ラインも利用」される「イントラ予測」(複数行予測モード)でブロックを予測するときに、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ラインに基づく予測を最良の予測として選択することにより、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ラインに基づいて当該ブロックを予測するといえる。
そして、当該最良の予測を生成する参照ラインとして選択された、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ラインは、構成Aの「目標参照行」に相当する。
そうすると、引用発明の構成1a、1b、1d~1d2は、構成Aの「複数行予測モードに基づいて現在のブロックを予測するときに、目標参照行に基づいて現在のブロックを予測」することに相当する。
また、構成1d1、1d2の「第1ビン」及び「第2ビン」は、協働して、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ライン(目標参照行)を示すものであるから、当該「第1ビン」及び「第2ビン」からなる情報は、構成Aの「参照行指示情報」に相当する。
そして、引用発明において、当該最良の予測を生成する参照ラインとして選択された、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ライン(目標参照行)は、「第1ビン」及び「第2ビン」からなる情報(参照行指示情報)に基づいて確定されるといえ、このことは、構成Aの「前記目標参照行は、参照行指示情報に基づいて確定されること」に相当する。
以上によれば、本願発明と引用発明は、「現在のブロックが複数行予測モードをサポートする場合、複数行予測モードに基づいて現在のブロックを予測するときに、目標参照行に基づいて現在のブロックを予測し、前記目標参照行は、参照行指示情報に基づいて確定されること」を含む点で一致する。
2 構成Bについて
上記1で述べたとおり、構成1d1、1d2の「第1ビン」及び「第2ビン」は、協働して、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ライン(目標参照行)を示すものであるところ、当該各参照ラインに付された「第1」、「第2」、「第3」という数値は、各参照ラインを示す情報であって、インデックス情報といえるから、構成Bの「目標参照行のインデックス情報」に相当する。
そうすると、引用発明では、「第1ビン」及び「第2ビン」からなる情報(参照行指示情報)は、各参照ラインに付された「第1」、「第2」、「第3」という数値(目標参照行のインデックス情報)を指示するために使用されるといえ、このことは、構成Bの「前記参照行指示情報は、複数行予測モードに基づいて現在のブロックの予測を行うときに使用される目標参照行のインデックス情報を指示するために使用され」ることに相当する。
また、上記1で述べたとおり、引用発明は、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ラインに基づく予測を最良の予測として選択することにより、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ラインに基づいて当該ブロックを予測するのであるから、当該最良の予測を生成する参照ラインとして選択された、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」のうちのいずれか1つの参照ラインは、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」という3つの候補となる参照ラインから選択された1つの参照ラインであるといえる。
そして、当該「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」という3つの候補となる参照ライン(行)は、構成Bの「候補参照行」に相当する。
そうすると、引用発明では、最良の予測を生成する参照ラインとして選択された1つの参照ライン(目標参照行)は、「第1参照ライン」、「第2参照ライン」、「第3参照ライン」という3つの候補となる参照ライン(候補参照行)から選択された1つの参照ライン(行)であるといえ、このことは、構成Bの「前記目標参照行は、候補参照行から選択された1行であり、ここで、前記複数行予測モードに対応する候補参照行の行数は3であり」に相当する。
さらに、構成1eによれば、当該第1参照ライン、第2参照ライン、第3参照ラインは、現在ブロックの境界に最も近い3行3列である。
そうすると、構成1eは、構成Bの「現在のブロックの境界に最も近い3行3列が前記候補参照行として用いられ」ることに相当する。
以上によれば、本願発明と引用発明は、「ここで、前記参照行指示情報は、複数行予測モードに基づいて現在のブロックの予測を行うときに使用される目標参照行のインデックス情報を指示するために使用され、前記目標参照行は、候補参照行から選択された1行であり、ここで、前記複数行予測モードに対応する候補参照行の行数は3であり、且つ現在のブロックの境界に最も近い3行3列が前記候補参照行として用いられ」る点で一致する。
3 構成Cについて
構成1d1、1d2によれば、引用発明では、第1参照ラインを使用する場合は「第1ビン」のみが用いられ、第2参照ラインまたは第3参照ラインを使用する場合は「第1ビン」及び「第2ビン」が用いられるといえ、ここで、「第1ビン」及び「第2ビン」はそれぞれ1ビットの情報であるから、これらの「第1ビン」及び「第2ビン」からなる情報(参照行指示情報)は、最大2ビットを占めるといえる。
以上によれば、本願発明と引用発明は、「前記参照行指示情報が、最大2ビットを占め」る点で共通する。
しかしながら、「前記参照行指示情報」について、本願発明では、「且つこの2ビットについて、2つのコンテキストモデルを使用して復号化し、ここで、前記参照行指示情報の第1のビットは、第1のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記参照行指示情報の第2のビットを復号化する必要があるとき、前記参照行指示情報の第2のビットは、第2のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記第1のコンテキストモデルと前記第2のコンテキストモデルは異なる」との発明特定事項を有するのに対し、引用発明では、当該発明特定事項が特定されていない点で、両発明は相違する。
4 構成Dについて
構成1fの「ビデオ復号化の方法」は、構成Dの「復号化の方法」に相当する。
5 まとめ
以上によれば、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。
(一致点)
A 現在のブロックが複数行予測モードをサポートする場合、複数行予測モードに基づいて現在のブロックを予測するときに、目標参照行に基づいて現在のブロックを予測し、前記目標参照行は、参照行指示情報に基づいて確定されることを含み、
B ここで、前記参照行指示情報は、複数行予測モードに基づいて現在のブロックの予測を行うときに使用される目標参照行のインデックス情報を指示するために使用され、前記目標参照行は、候補参照行から選択された1行であり、ここで、前記複数行予測モードに対応する候補参照行の行数は3であり、且つ現在のブロックの境界に最も近い3行3列が前記候補参照行として用いられ、
C’ 前記参照行指示情報が、最大2ビットを占める、
D 復号化の方法。
(相違点)
「前記参照行指示情報」について、本願発明では、「且つこの2ビットについて、2つのコンテキストモデルを使用して復号化し、ここで、前記参照行指示情報の第1のビットは、第1のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記参照行指示情報の第2のビットを復号化する必要があるとき、前記参照行指示情報の第2のビットは、第2のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記第1のコンテキストモデルと前記第2のコンテキストモデルは異なる」(構成C)との発明特定事項を有するのに対し、引用発明では、当該発明特定事項が特定されていない点。
第6 判断
以下、上記相違点について検討する。
1 文献1技術事項について
まず、上記相違点の構成が、引用文献1に、文献1技術事項として開示されているかについて検討する。
構成2bによれば、文献1技術事項は、「ビットストリーム構成において、複数参照ラインイントラ予測(MRL)の使用は、シンタックス要素mrl_idxによって示され、mrl_idxの値は、どの参照ラインがイントラで使用されるかを示し、許容される値は0、1および3であり、それらは、mrl_idx=0に対して0、mrl_idx=1に対して10、mrl_idx=3に対して11、である切捨て単項2値化、および各ビンに対する個別のコンテキストモデルを使用してコーディングされる」ことを含むものである。
ここで、構成2bの「mrl_idx」は、「複数参照ラインイントラ予測(MRL)」において、「どの参照ラインがイントラで使用されるか」を示すものであるから、本願発明の「参照行指示情報」に相当するといえる。
また、当該「mrl_idx」は、「mrl_idx=0に対して0、mrl_idx=1に対して10、mrl_idx=3に対して11、である切捨て単項2値化」で2値化されるのであるから、第1のビンと第2のビンからなる最大2ビットの情報であるといえる。
さらに、当該「mrl_idx」は、「各ビンに対する個別のコンテキストモデルを使用してコーディングされる」ものであり、ここで、引用文献1に記載された「コーディング」が復号化を含むことは、上記第4の2(1)で述べたのと同様、当業者には自明である。
ここで、「各ビンに対する個別のコンテキストモデル」(原文では「a separate context model for each bin」)という記載は、各ビンに対して異なるコンテキストモデルが用いられること、すなわち、第1のビンに対する第1のコンテキストモデルと第2のビンに対する第2のコンテキストモデルが異なることを意味していると解釈するのが相当である。
そうすると、文献1技術事項では、復号化を行う際には、mrl_idxの第1のビンは、第1のコンテキストモデルに基づいて復号化されるといえる。
また、可変長符号化復号化の技術常識を考慮すると、文献1技術事項では、第2のビンは、第1のビンが「1」であるときのみ復号化されるといえるから、当該第1のビンが「1」であるときは、第2のビンを復号化する必要があるときであるといえる。そして、このとき、mrl_idxの第2のビンは、第1のコンテキストモデルとは異なる、第2のコンテキストモデルに基づいて復号化されるといえる。
以上によれば、「前記参照行指示情報」について、相違点の構成である「且つこの2ビットについて、2つのコンテキストモデルを使用して復号化し、ここで、前記参照行指示情報の第1のビットは、第1のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記参照行指示情報の第2のビットを復号化する必要があるとき、前記参照行指示情報の第2のビットは、第2のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記第1のコンテキストモデルと前記第2のコンテキストモデルは異なる」という構成は、文献1技術事項として、引用文献1に開示されているといえる。
2 動機付けについて
次に、引用発明に文献1技術事項を適用する動機付けがあるかについて検討する。
引用発明は上記第4の1(3)における第9.5節に記載されている発明であり、文献1技術事項は上記第4の1(2)における第9.4節に記載されている技術事項であるところ、当該第9.5節と第9.4節は、いずれも、第9節の「複数参照ラインイントラ予測」(上記第4の1(1)を参照)の下位にある節であるから、引用発明と文献1技術事項は、いずれも、「複数参照ラインイントラ予測」という同一の技術分野に属するものである。
また、構成について見ても、引用発明は、構成1aのとおり、「イントラ予測では、最も近い(第1の)参照ラインだけでなく、拡張参照ラインも利用され」るものであり、文献1技術事項は、構成2aのとおり、「イントラピクチャ予測」において、「直接隣接する従来の参照サンプルライン、および拡張参照サンプルライン」を使用するものであるところ、両者は、いずれも、最も近い参照ラインと拡張参照ラインを用いてイントラ予測を行うものである点で共通している。
さらに、引用発明の第1ビン及び第2ビンからなる情報と、文献1技術事項の「mrl_idx」は、いずれも、最も近い参照ライン及び2つの拡張参照ラインからなる3つの参照ラインから1つの参照ラインを指示するための情報であるという点で共通する機能を有するものである。
ここで、一般に、動画像符号化復号化の技術分野において、「ビン」という用語は、CABAC(コンテキスト適応二値算術符号化・復号化)の対象となる二値の情報を意味する用語であるから、引用発明において、第1ビン及び第2ビンは、CABACで符号化及び復号化されることが予定されている情報であるといえる。
そして、CABACにおいて、コンテキストモデルを用いて符号化及び復号化を行うことは普通に行われていることであるから、復号化の方法である引用発明において、当該第1ビン及び第2ビンをCABACで復号化しようとする際に、コンテキストモデルを用いて復号化を行うことは当業者が普通に想起し得ることである。
その際、各ビンに対して、具体的にどのようなコンテキストモデルを用いるかは、公知の技術の中から、当業者が適宜選択し得ることである。
ここで、上述のとおり、引用発明と文献1技術事項は、いずれも、「複数参照ラインイントラ予測」という同一の技術分野に関するものであり、また、参照ラインを指示するための情報を符号化・復号化の対象とするものであるという点で共通するから、引用発明において、当該第1ビン及び第2ビンをCABACで復号化しようとする際の各ビンのコンテキストモデルとして、文献1技術事項における「各ビンに対する個別のコンテキストモデル」を用いることには、動機付けがあるといえる。
3 相違点に対する判断
上記1、2のとおり、相違点の構成は文献1技術事項として引用文献1に開示されており、また、引用発明において、文献1技術事項における「各ビンに対する個別のコンテキストモデル」を用いる動機付けはあるといえるから、引用発明において、文献1技術事項における「各ビンに対する個別のコンテキストモデル」を用いることにより、相違点の構成に至ることは、当業者が容易に想到し得ることである。
よって、本願発明は、引用発明及び文献1技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第7 請求人の主張について
1 請求人の主張
請求人は、令和7年12月2日提出の意見書において、以下の主張を行っている。
(1)「第一に、引用文献1のp.40の第9.4.1欄では、HHIがJVET-J0014で提案した「明示的なシグナリングを伴うMRL」に言及しており、これはITRIがJVET-J0070で提案した「イントラ予測のための拡張参照線の数」とは全く異なる提案です。これら2つのセクションは、イントラ予測の改善という一般的な課題に対処するための、明確に異なる競合する提案を示しています。これらは代替案であり、一部の側面では相互に排他的な解決手段であるため、当業者は、第9.4節の提案からコンテキストモデリング手法などの特定の技術的詳細を抽出し、第9.5節で開示された根本的に異なる符号化手法に組み合わせる動機を有しません。当業者は、これらを交換可能な構成要素のツールキットではなく、別個の解決手段として扱うものと思料します。」
(2)「第二に、引用文献1のp.40の第9.4.1欄の「各ビンに個別のコンテキストモデルが使用される」という表現は、必要な説明を欠いており、複数の合理的な解釈が可能です。また、「個別の」という用語は、「異なる」ことを明確に意味するわけではありません。
例えば、「すべてのビンが異なるコンテキストモデルを使用してエンコードされる」という解釈は本質的に曖昧であり、この文脈では技術的に意味をなさない可能性があります。より妥当な解釈としては、「個別のコンテキストモデル」とは、異なる確率モデルを意味するのではなく、異なるメモリ位置に格納され、かつ/または異なる識別子で管理される同一コンテキストモデルのインスタンスを意味する可能性があります。
さらに、引用された記述では、個別のコンテキストモデルが各ビンにどのように適用されるかが明記されておらず、実際の実装が不明確であり、本願の上記特徴を開示、示唆、または教示していないと思料します。
したがって、引用文献1には、本願の『且つこの2ビットについて、2つのコンテキストモデルを使用して復号化し、ここで、前記参照行指示情報の第1のビットは、第1のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記参照行指示情報の第2のビットを復号化する必要があるとき、前記参照行指示情報の第2のビットは、第2のコンテキストモデルに基づいて復号化し、前記第1のコンテキストモデルと前記第2のコンテキストモデルは異なる』ことは開示、示唆、または教示されていないと思料します。」
2 検討
以下、当該各主張について検討する。
(1)事案に鑑み、まず、上記1(2)の主張について検討する。
上記第6の1で述べたとおり、引用文献1の「各ビンに対する個別のコンテキストモデル」(原文では「a separate context model for each bin」)という記載は、各ビンに対して異なるコンテキストモデルが用いられること、すなわち、第1のビンに対する第1のコンテキストモデルと第2のビンに対する第2のコンテキストモデルが異なることを意味していると解釈するのが相当である。
これに対し、請求人は、「より妥当な解釈としては、「個別のコンテキストモデル」とは、異なる確率モデルを意味するのではなく、異なるメモリ位置に格納され、かつ/または異なる識別子で管理される同一コンテキストモデルのインスタンスを意味する可能性があります」と主張しているが、「個別のコンテキストモデル」という記載は、通常の意味で解釈すると、コンテキストモデル、すなわち、確率モデルそれ自体が異なることを意味していると解釈するのが相当であり、「異なるメモリ位置に格納され、かつ/または異なる識別子で管理される同一コンテキストモデルのインスタンス」のような解釈は成り立たない。
また、動画像符号化復号化の技術分野において、コンテキストモデルとは各ビンを復号化するために用いられるものである、ということは当業者にとって明らかであるから、「引用された記述では、個別のコンテキストモデルが各ビンにどのように適用されるかが明記されておらず、実際の実装が不明確である」とはいえない。
よって、上記1(2)の主張は採用することができない。
(2)次に、上記1(1)の主張について検討する。
当該主張については、上記第6の2で述べたとおりであり、引用発明に文献1技術事項を適用する動機付けはあるといえるから、上記1(1)の主張も採用することができない。
(3)よって、請求人の主張は採用することができない。
第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び文献1技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2024-017953