特許拒絶査定不服審判
2024-014050
振動計の変化の検出及び識別
- 審判番号
- 2024-014050
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-181669
- 請求日
- 2024年09月02日
- 審決日
- 2025年10月15日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マイクロ モーション インコーポレイテッド
- 【請求人代理人】弁理士法人有古特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 谷垣 圭二
- 審判官 柳 重幸
- 分類
- P18 .121-Z (G01F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-181669「振動計の変化の検出及び識別」拒絶査定不服審判事件〔令和 5年 2月 7日出願公開、特開2023- 17970〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、2017年(平成29年)8月30日を国際出願日とする外国語特許出願(特願2020-512361号)の一部を令和3年5月20日に新たな特許出願とした特願2021-85350号の一部を令和4年11月14日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年11月14日 :翻訳文の提出
同月16日 :上申書、手続補正書の提出
令和6年 1月26日付け:拒絶理由通知書(50条の2)
同年 4月30日 :意見書、手続補正書の提出
同年 5月 9日付け:補正の却下の決定
同日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月21日 :原査定の謄本の送達)
同年 9月 2日 :審判請求書の提出
2 本願発明について
(1) 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和4年11月16日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
振動計(5)の変化を検出及び識別するための計器電子装置(20)であって、
計器検証パラメータの中心傾向値及び前記計器検証パラメータの分散値を記憶するように構成された記憶システム(204)を含む処理システム(202)であって、
前記記憶システム(204)から前記中心傾向値及び前記分散値を取得し、
前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、帰無仮説を反証することによって前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する、ように構成されている、処理システム(202)を備える、計器電子装置(20)。」
(2) 本願発明の分説
検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成A、A1及びA2に分説する。また、参考図として、本願の【図2】を掲載する。
<本願発明の分説>
X 振動計(5)の変化を検出及び識別するための計器電子装置(20)であって、
A 計器検証パラメータの中心傾向値及び前記計器検証パラメータの分散値を記憶するように構成された記憶システム(204)を含む処理システム(202)であって、
A1 前記記憶システム(204)から前記中心傾向値及び前記分散値を取得し、
A2 前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、帰無仮説を反証することによって前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する、
A ように構成されている、処理システム(202)を備える、
X 計器電子装置(20)。
<参考図>
【図2】
[図:0001432684000001.jpg]
(3) 構成A1及びA2に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、構成A1及びA2に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【0086】
記憶システム204は、流量計パラメータ及びデータ、ソフトウェアルーチン、定数値、並びに変数値を記憶することができる。一実施形態では、記憶システム204は、振動計5の動作ルーチン210及び検証220などの、処理システム202によって実行されるルーチンを含む。記憶システムは、標準偏差、信頼区間などの統計値を記憶することもできる。
【0087】
記憶システム204は、ベースライン計器剛性230を記憶することができる。ベースライン計器剛性230は、振動計5の製造中又は較正中に、あるいは前の再較正中に決定されてもよい。例えば、ベースライン計器剛性230は、振動計5がフィールドに設置される前に、検証220によって決定することができる。ベースライン計器剛性230は、浸食/腐食、損傷(例えば、凍結、過圧など)、被膜などの任意の変化が発生する前の導管130、130´の剛性を表す。ベースライン計器剛性230は、複数のベースライン計器剛性測定値の平均値であってもよい。したがって、ベースライン計器剛性230は、以下でより詳細に説明するように、関連付けられた分散特性を有してもよく、ベースライン計器剛性測定値は、変化してもよい。ベースライン計器剛性測定値の変化が大きいほど、分散が大きくなる。
【0088】
記憶システム204は、計器剛性232を記憶することができる。計器剛性232は、振動計5の動作中に生成される振動応答から決定される剛性値を含む。計器剛性232は、振動計5の適切な動作を検証するために生成されてもよい。計器剛性232は、検証プロセスのために生成されてもよく、計器剛性232は、振動計5の適切かつ正確な動作を検証する目的を果たす。ベースライン計器剛性230と同様に、計器剛性232は、複数の計器剛性測定値の平均値であってもよい。したがって、計器剛性232は、以下でより詳細に論じるように、関連付けられた分散特性を有してもよく、計器剛性測定値は、変化してもよい。計器剛性測定値の変化が大きいほど、分散特性が大きくなる。
【0089】
記憶システム204は、剛性変化234を記憶することができる。剛性変化234は、ベースライン計器剛性230と計器剛性232を比較することによって決定される値とすることができる。例えば、剛性変化234は、ベースライン計器剛性230と計器剛性232の差とすることができる。本例では、負の数は、導管130、130´の剛性が、フィールドに設置されてから増加したことを示している可能性がある。正の数は、ベースライン計器剛性230が決定されてから、導管130、130´の物理的な剛性が減少したことを示している可能性がある。」
「【0116】
図2からも分かるように、記憶システム204は、剛性標準偏差236、LPO剛性標準偏差246、及びRPO剛性標準偏差256を記憶することもできる。これらの値は、例えば、ベースライン計器剛性230及び計器剛性232を含む計器剛性測定値から決定することができる。例えば、剛性標準偏差236は、プールされた標準偏差であってもよい。したがって、剛性標準偏差236は、ベースライン計器剛性230を構成する計器剛性測定値を含む、計器剛性232がどれだけ変化したかの尺度である。LPO剛性標準偏差246及びRPO剛性標準偏差256も、プールされた標準偏差であってもよい。
【0117】
図2に示す例は、剛性標準偏差を利用しているが、計器検証パラメータデータにおける変動及び分散の他の尺度が採用されてもよい。例えば、標準偏差の代わりに分散が用いられてもよい。すなわち、剛性標準偏差236、LPO剛性標準偏差246、及びRPO剛性標準偏差256は、例示的な計器検証パラメータの分散値である。加えて、又は代替として、ベースライン計器剛性230及び計器剛性232に用いることができる平均値の代わりに、中心傾向の他の尺度を用いることができる。したがって、ベースライン計器剛性230及び計器剛性232は、例示的な計器検証パラメータの中心傾向値である。
【0118】
記憶装置は、信頼区間270などの他の統計値も記憶することができる。以下でより詳細に説明されるように、信頼区間270は、t値272、有意水準274、及び自由度276に基づいて計算することができる。有意水準274は、例えば、検証220によって設定されるスカラー値であってもよい。有意水準274は、仮説が実際に真である(例えば、振動計に変化が生じなかったときの変化を検出する)ときに、帰無仮説を棄却する確率として定義することができ、典型的には、1%すなわち0.01などの小さな値である。自由度276は、例えば、剛性標準偏差236を決定するために使用されるサンプルの数から計算される。バイアス不感帯278も示されており、これは、振動計のバイアスが誤ったフラグを誘発しないことを確実にするために検証220によって設定することもできるスカラー値である。
【0119】
信頼区間270は、振動計5の物理的な剛性の小さな変化を検出することができる一方で、例えば、以前に計器検証で使用された所定の制限と比較して、誤警報の数も低減させることができる。さらに、信頼区間270は、比較的単純な数学的演算を使用して計算することができ、それによって、処理システム202は、比較的単純な埋め込みコードを用いる検証220を使用して、ロバストな統計技法を用いることができる。」
「【0125】
埋め込みコードのための統計
結果の確率を計算する統計的方法は、振動計の変化を検出するために使用することができるが、その複雑さのために、計器電子装置20では実行することができない。例えば、P及びT統計は、所与のデータのセットについて帰無仮説が満たされるかどうかを検定するために用いられることがある。帰無仮説の棄却は、状態が振動計に存在するかどうかを判定しているのではなく、状態の欠如があることが偽であると判定する。計器検証の場合、帰無仮説は、「現在の計器検証結果がベースライン計器検証結果と同じ平均値を有する」として定義されてもよい。この帰無仮説が反証される場合、振動計の変化により、現在の結果の平均値がベースライン計器検証結果と同じではないと推定することができる。
【0126】
例として、t検定では、t値は、次式を使用して計算することができ、
【0127】
【数12】
[図:0001432684000002.jpg]
【0128】
ここで、
μ0は、ある指定された値であり、
【0129】
【数13】
[図:0001432684000003.jpg]
【0130】
は、サンプルの平均値であり、
sは、サンプルの標準偏差であり、
nは、サンプルのサイズである。
計器検証の文脈では、μ0は、ベースライン剛性値などの基準計器の検証値である。計器検証測定値を使用して、基準計器検証値と比較するためのサンプルの平均値
【0131】
【数14】
[図:0001432684000004.jpg]
【0132】
及びサンプルの標準偏差sを計算する。計器検証測定値の数は、サンプルのサイズnである。t検定は、典型的には、自由度も含み、これは、上記の式[1]では、n-1として定義される。
【0133】
上で論じたように、t検定を使用して帰無仮説を検定することができ、これは、計器検証の場合、サンプルの平均値
【0134】
【数15】
[図:0001432684000005.jpg]
【0135】
が基準計器検証値と等しいかどうかとして定義されてもよい。帰無仮説を検定するために、t値の既知の分布を使用してP値が計算されてもよい。帰無仮説を検定するために、P値を有意水準αと比較する。有意水準αは、典型的には、例えば、0.01、0.05、又は0.10などの小さな値に設定される。P値が有意水準α以下の場合、帰無仮説は、対立仮説のために棄却される。帰無仮説は、「現在の計器検証結果がベースライン計器検証結果と同じ平均値を有する」として定義されているため、対立仮説は、現在の計器検証が同じ平均値を有しておらず、したがって、計器に変化が生じたということである。
【0136】
しかしながら、P値は、限られた計算リソースでは計算するのが困難である。例えば、P値は、オペレーティングシステムと統計ソフトウェアを備えたコンピュータワークステーションで計算することができるが、埋め込みシステムでは簡単に計算することができない。上述の計器電子装置20は、限られた計算リソースを備えた埋め込みシステムである場合がある。加えて、計器電子装置でその場で又はリアルタイムで帰無仮説を棄却する能力は、計器電子装置20が誤警報を送信するのを防止することができる一方で、導管130、130´の変化を正確に検出することもでき、これは、所定の警報制限の使用と比べて著しい改善である。
【0137】
この目的のために、P値の代わりに、計器電子装置20の限られたコンピューティングリソースを活用する信頼区間が使用さる。その結果、信頼区間は、計器電子装置20に埋め込まれたコードを使用して計算することができる。例えば、計器電子装置20は、2つのレジスタに記憶された現在の剛性値及び剛性標準偏差値を有することができる。理解できるように、上述のt値は、有意水準α及び自由度を使用することによって、現在の剛性値を使用して計算することができる。例として、有意水準αは、99%の信頼水準である0.01に設定されてもよい。計器検証テストの数は、5として設定されてもよい。したがって、プールされた自由度は、2・(5-1)=8であると決定される。両側のスチューデントt値は、有意水準αとプールされた自由度から、スチューデントt値関数を使用して次のように計算することができる。
【0138】
【数16】
[図:0001432684000006.jpg]
【0139】
左側及び右側ピックオフセンサ170l、170rに関連付けられた剛性値のプールされた標準偏差も使用することができる。一般的なケースでは、プールされた標準偏差の計算は、複雑である可能性がある。しかしながら、計器電子装置20が測定された剛性標準偏差をレジスタに記憶しているため、プールされた標準偏差は、単に上述の剛性標準偏差236などの記憶された標準偏差とすることができる。プールされた標準誤差を計算する
こともでき、これは、次のように定義される。
【0140】
【数17】
[図:0001432684000007.jpg]
【0141】
【数18】
[図:0001432684000008.jpg]
【0142】
【数19】
[図:0001432684000009.jpg]
【0143】
上記で決定した標準誤差及びt値を使用して、信頼区間の範囲を次のように計算することができる。
【0144】
【数20】
[図:0001432684000010.jpg]
【0145】
【数21】
[図:0001432684000011.jpg]
【0146】
最後に、信頼区間は、剛性平均値及び信頼区間の範囲を使用して計算することができ、これは、以下で示される。
【0147】
【数22】
[図:0001432684000012.jpg]
【0148】
信頼区間に0.0が含まれているかどうかを判定することによって、信頼区間を使用して帰無仮説を検定することができる。信頼区間に0.0が含まれている場合、帰無仮説は、棄却されず、計器検証が合格となる。信頼区間に0.0が含まれていない場合、帰無仮説が棄却され、計器検証障害が送信される可能性がある。
【0149】
理解できるように、計器電子装置20が剛性値及び剛性標準偏差値を記憶するP値の代わりに信頼区間を使用することによって、計算は、比較的単純になり、埋め込みコードを使用して実行することができる。例えば、P値を計算するのに十分な計算リソースを有し
ていない可能性がある計器電子装置20は、その場の又はリアルタイムの統計分析を実行するための信頼区間を計算することができる。これも理解できるように、信頼区間は、所望の信頼水準で帰無仮説を検定するために使用することができる。」
「【0164】
図4a~図5bにおいて、変化表示プロット440a~540bを使用して、所与のデータ点について帰無仮説の棄却が生じたことを示す。上述したように、帰無仮説は、測定値がベースライン値と等しい場合であるが、この検定は、確率によって実行されることであってもよい。図4a~図5bに示すように、確率は、信頼区間であるが、任意の適切な確率が用いられてもよい。信頼区間は、各データ点に関連付けられたバーで表されている。図4a~図5bに示す例では、バーは、99%の信頼区間を表す。
【0165】
理解できるように、感嘆符の点は、信頼区間がゼロ軸を含まないデータ点に関連付けられている。図5bでは、剛性対称性のゼロ軸は、測定された剛性対称性がベースライン剛性対称値に等しいという帰無仮説を表す。すなわち、ゼロ軸は、振動計の剛性対称性に変化がないことを表す。したがって、信頼区間にゼロ軸が含まれない場合、帰無仮説は、棄却される。これは、例えば、有意水準が0.01に設定されている少なくとも99%の信頼度で、帰無仮説が棄却され、振動計に変化が生じたことを示す。」
「【0171】
図7は、振動計の変化を検出及び識別するための方法700を示す。図7に示すように、方法700は、ステップ710において、振動計の計器電子装置内の記憶装置から計器検証パラメータの中心傾向値及び計器検証パラメータの分散値を取得することによって開始する。ステップ720で、方法700は、計器検証パラメータ及び分散値に基づいて確率を決定して、中心傾向値がベースライン値と異なるかどうかを判定する。
【0172】
ステップ710において、中心傾向値及び分散値は、例えば、図2を参照して上述した記憶システム204から取得されてもよい。記憶システム204は、処理システム202のレジスタであってもよい。したがって、処理システム202は、レジスタから中心傾向値及び分散値を取得し、単純な数学的演算を実行して確率を決定することができる。一例では、中心傾向値は、計器剛性であってもよく、分散値は、計器剛性の標準偏差であってもよい。
【0173】
計器剛性及び分散値を使用する例では、ステップ720において、処理システム202は、計器剛性を構成する計器剛性測定値の数に基づいてt値を計算し、t値を使用して確率を計算することができる。一例では、t値は、上述したように、有意水準α及び自由度から決定することができる。計器剛性は、例えば、ベースライン計器剛性などのベースライン値が決定された後に取得された計器剛性測定値から決定された平均計器剛性であってもよい。ベースライン値は、ベースライン中心傾向値であってもよい。したがって、ベースライン計器剛性は、ベースライン計器剛性測定値の平均値であってもよい。」
「【図7】
[図:0001432684000013.jpg]
」
3 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由1(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(進歩性の欠如) 本願発明は、出願前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特表2009-509163号公報(主たる引用文献)
引用文献2.特表2014-522972号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.渕野公市、立野繁之、川端康史、柘植義文、松山久義,測定器の故障を診断するためのアルゴリズムと診断システムの設計法,化学工学論文集,日本,公益社団法人 化学工学会,1995年07月10日,21巻,4号,pp.766-775,https://doi.org/10.1252/kakoronbunshu.21.766(周知技術を示す文献)
引用文献4.奥野忠一,応用数学の窓:t-分布を用いる検定と推定,化学と生物,日本,公益社団法人 日本農芸化学会,1969年08月25日,7巻,8号,pp.498-499,https://doi.org/10.1271/kagakutoseibutsu1962.7.498(周知技術を示す文献)
引用文献5.滝沢隆安,平均値の推定と検定に関するいくつかの統計理論,獣医科学と統計利用,日本,獣医疫学会,1978年09月30日,1978年2号,pp.15-20,https://doi.org/10.2743/jve1977.1978.15(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開2007-192138号公報(周知技術を示す文献)
4 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された前記引用文献1(特表2009-509163号公報)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(2)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
ア 特許請求の範囲
「【請求項9】
流量計における剛性変化(ΔK)を決定する方法であって、
前記流量計から、実質的に共振周波数における前記流量計の振動に対する応答を含む振動応答を受け取るステップと、
前記振動応答の周波数(ω0)を決定するステップと、
前記振動応答の応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定するステップと、
前記流量計の減衰特性(ζ)を測定するステップと、
前記周波数(ω0)、前記応答電圧(V)、前記駆動電流(I)及び前記減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)を決定するステップと、
第2の時間t2に前記流量計から第2の振動応答を受け取るステップと、
前記第2の振動応答から第2の剛性特性(K2)を生成するステップと、
前記第2の剛性特性(K2)を前記剛性パラメータ(K)と比較するステップと、
前記第2の剛性特性(K2)が前記剛性パラメータ(K)から所定の許容値よりも大きい値だけ相違する場合に、前記剛性変化(ΔK)を検出するステップと、
【請求項10】
前記第2の剛性特性(K2)が前記剛性パラメータ(K)から所定の剛性許容値よりも大きい値だけ相違する場合に、前記剛性変化(ΔK)を検出するステップを含む、請求項9に記載の方法。」
イ 段落【0001】~【0007】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、流量計の検証診断のための流量計電子装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、コリオリ流量計や振動管密度計のような振動管路センサは、流動物質を含む振動管路の運動を検出することによって動作する。管路における物質に関連する質量流量、密度などの特性は、管路に関連する運動変換器から受信される測定信号を処理することによって決定することができる。一般に、振動物質で充填された系の振動モードは、収容する管路とそこに含まれる物質との結合された質量、剛性及び減衰特性によって影響される。
【0003】
振動型流量計の管路は1つ以上の流管を備えることができる。流管は共振周波数で振動するよう強制され、管の共振周波数は流管における流体の密度に比例する。管の入力側及び出力側に配置されたセンサが、管の端部間の相対振動を測定する。流れ期間に、振動管と流れる質量とがコリオリの力に起因して結合され、管の端部間での振動に位相ずれを生じさせる。位相ずれは質量流量に正比例する。
【0004】
典型的なコリオリ質量流量計は、パイプライン又は他の移送システムにおいてインライン接続されていて流体やスラリ等の物質をシステムにおいて運搬する1つ以上の管路を備える。それぞれの管路は、単純な曲げモード、捻れモード、放射モード、結合モードなどを含む一組の固有振動モードを持つものとみなされる。典型的なコリオリ質量流量測定の応用においては、物質が流れるとき、管路は1つ以上の振動モードで励振され、管路の運動が管路に沿って離れた点で測定される。典型的には、励振は、管路を周期的に振動させるボイスコイル型駆動装置のような例えば電気機械的な装置であるアクチュエータによって提供される。質量流量は、変換器の位置における運動間の時間遅延又は位相差を測定することによって決定される。典型的には、1つ又は複数の流管の振動応答を測定するために、2つのこうした変換器(又はピックオフ・センサ)が用いられ、典型的にはアクチュエータの上流側又は下流側の位置に配置される。2つのピックオフ・センサはケーブルによって電子的機器に接続される。機器は2つのピックオフ・センサから信号を受け取り、その信号を処理して質量流量測定値を導出する。
【0005】
2つのセンサ信号間の位相差は、1つ又は複数の流管を通って流れる物質の質量流量と関係付けられる。物質の質量流量は2つのセンサ信号間の時間遅延に比例し、したがって、質量流量は、時間遅延に流れ校正係数(FCF)を乗じることによって決定される。この場合、時間遅延は位相差を周波数で割ったものである。FCFは物質特性と流管の断面特性とを反映する。従来技術においては、FCFは、流量計をパイプライン又は他の管路に設置する前に校正処理によって決定される。校正処理においては、所与の流量で流体を流管に流し、位相差と流量との比率を計算する。
【0006】
コリオリ流量計の1つの利点は、測定される質量流量の精度が流量計における運動要素の摩耗によって影響されないことである。流量は、流管の2つの点の間の位相差に流れ校正係数を乗じることによって決定される。唯一の入力は、流管上の2つの点の振動を示すセンサからの正弦波信号である。位相差はこうした正弦波信号から計算される。振動する流管には運動要素はない。したがって、位相差の測定及び流れ校正係数は流量計の運動要素の摩耗によって影響されない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
FCFは流量計組立体の剛性特性と関係付けられる。流量計組立体の剛性特性が変化すると、FCFも変化する。したがって、変化は、流量計によって生成される流量測定値の精度に影響する。流管の物質特性及び断面特性の変化は、例えば浸食又は腐食によって生じる。したがって、流量計の精度を高レベルに維持するために、流量計組立体の剛性の変化を検出及び/又は定量化することができることが極めて望ましい。」
ウ 段落【0010】
「【0010】
本発明の実施の形態にしたがって、流量計における剛性変化(ΔK)を決定する方法が提供される。この方法は、流量計から振動応答を受け取ることを含む。振動応答は、実質的に共振周波数における前記流量計の振動に対する応答を含む。更に方法は、振動応答の周波数(ω0)を決定し、振動応答の応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定し、流量計の減衰特性(ζ)を測定し、周波数(ω0)、応答電圧(V)、駆動電流(I)及び減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)を決定することを含む。更に方法は、第2の時間t2に前記流量計から第2の振動応答を受け取り、第2の振動応答から第2の剛性特性(K2)を生成し、第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較し、第2の剛性特性(K2)が剛性パラメータ(K)から所定の許容値よりも大きい値だけ相違する場合に、剛性変化(ΔK)を検出することを含む。」
エ 段落【0061】~【0070】、【図1】、【図2】
「【0061】
図1は、流量計組立体10と流量計電子装置20とを備える流量計5を示している。流量計組立体10は処理物質の質量流量及び密度に応答する。流量計電子装置20はリード線100を介して流量計組立体10と接続されて、経路26上に密度、質量流量及び温度の情報を提供するばかりでなく、本発明に無関係の他の情報を提供する。コリオリ質量流量計について説明するが、当業者には明らかなとおり、本発明は、コリオリ質量流量計によって提供される追加の測定能力なしに、振動管密度計としても実施可能である。」
「【図1】
[図:0001432684000014.jpg]
」
「【0062】
流量計組立体10は、一対のマニホールド150、150’、フランジネック100、100’を有するフランジ103、103’、一対の平行な流管130、130’、駆動機構180、温度センサ190及び一対の速度センサ170L、170Rを備えている。流管130、130’は、保湿的に直線状の入力レグ131、131’と、流管取り付けブロック120、120’において互いの方へ向かって収束する出力レグ134、134’とを備える。流管130、130’は、その長さに沿う2つの対称な位置において曲げられ、その長さ全体を通して本質的に平行である。ブレース・バー140、140’は、各流管が振動する軸W、W’を規定するように動作する。
【0063】
流管130、130’のサイド・レグ131、131’、134、134’は流管取り付けブロック120、120’に固定され、これらのブロックはマニホールド150、150’に固定される。これにより、コリオリ質量流量計10を通る閉じた連続的物質経路が提供される。
【0064】
穴102、102’を有するフランジ103、103’が入力端104及び出力端104’を介して、測定対象である処理物質を運ぶ処理ライン(図示せず)に接続されると、物質はフランジ103のオリフィス101を通って流量計の端部104に入り、マニホールド150を通って、面121を有する流管取り付けブロック120へ流れる。マニホールド150内で、物質は分割され、流管130、130’を通過する。流管130、130’を励振すると、処理物質はマニホールド150’内で単一の流れに再結合され、ボルト穴102’を有するフランジ103’によって接続された出口端を通って処理ライン(図示せず)へ進む。
【0065】
流管130、130’は、それぞれ曲げ軸W-W及びW’-W’に関して実質的に同一の質量分布、慣性モーメント及びヤング率を持つように選択され、流管取り付けブロック120、120’に適宜に取り付けられる。これらの曲げ軸はブレース・バー140、140’を通る。流管のヤング率が温度とともに変化し、この変化が流量及び密度に影響する限り、抵抗温度検出器(RTD)190が流管130’に取り付けられ、流管の温度を連続的に測定する。流管の温度、したがって、RTDを流れる所与の電流に対するRTDに現れる電圧は、流管を通過する物質の温度によって支配される。RTDに現れる温度依存電圧は、流管130、130’の温度の変化に起因する流管の弾性率の変化を補償するよう、周知の方法で流量計電子装置20によって使用される。RTDはリード線195によって流量計電子装置20に接続される。
【0066】
流管130、130’は、それぞれの曲げ軸W、W’に関して、いわゆる流管の第1位相外れ曲げモードで反対方向に駆動装置180によって駆動される。この駆動機構180は、流管130’に取り付けられた磁石や、両方の流管を振動させるために交流電流が通過し且つ流管130に取り付けられた対向コイルのような、多くの周知の装置のうちの任意の1つを備える。流量計電子装置20によって、適宜の駆動信号がリード線185を介して駆動機構180に印加される。
【0067】
流量計電子装置20は、リード線195上でRTD温度信号を受け取り、また、リード線165Lに現れる左速度信号とリード線165Rに現れる右速度信号とを受け取る。流量計電子装置20は、要素180を駆動して流管130、130’を振動させるために、リード線185上に現れる駆動信号を生成する。流量計電子装置20は左右の速度信号及びRTD信号を処理し、流量計組立体10を通過する物質の質量流量と密度を計算する。この情報及び他の情報は流量計電子装置20によって経路26を介して利用手段29に印加される。
【0068】
図2は、本発明の実施の形態に係る流量計電子装置20を示している。流量計電子装置20はインタフェース201と処理システム203を備える。流量計電子装置20は例えば流量計組立体10から振動応答210を受け取る。流量計電子装置20は振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得する。更に、本発明に係る流量計電子装置20において、振動応答210は流量計組立体10の合成パラメータKを決定するために処理される。また、流量計電子装置20は、流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出するために、2つ以上の振動応答を時間に関して処理することができる。剛性の決定は流れ条件又は流れ無しの条件の下で行われ得る。流れ無しでの決定は、結果としての振動応答におけるノイズ・レベルの低減という利点を提供する。」
「【図2】
[図:0001432684000015.jpg]
」
「【0069】
先に検討したとおり、流量校正係数(FCF)は流管の物質特性と断面特性とを反映する。流量計を流れる流れ物質の質量流量は、測定された時間遅延(又は位相差/周波数)にFCFを乗じることによって決定される。FCFは流量計組立体の剛性と関係付けられる。流量計組立体の剛性特性が変化すると、FCFも変化する。したがって、流量計の剛性の変化は、流量計によって生成される流量測定に精度に影響を与える。
【0070】
本発明が重要なのは、流量計電子装置20が、実際の流量校正試験を行うことなく、現場で剛性決定を実行することを可能にするからである。本発明は、校正試験台や他の特別な機器又は特別の流体を用いることなく、剛性決定を可能にする。これが望ましいのは、現場での流れ校正は高価且つ困難であり、時間がかかるからである。しかし、流量計組立体10の剛性は使用しているうちに時間とともに変化するので、容易で優れた校正チェックが望ましい。こうした変化は、例えば流管の腐食、流管の浸食、流量計組立体10の損傷等のファクタに起因し得る。」
オ 段落【0095】~【0105】
「【0095】
使用に際して、剛性パラメータ(K)を時間に関して追跡することができる。例えば、統計技術を用いて時間的な変化(すなわち、剛性変化(ΔK))を決定することができる。剛性パラメータ(K)の統計的な変化は、特定の流量計のFCFが変化したことを示すことができる。
【0096】
本発明は、記憶された又は回収された校正密度値に依存しない剛性パラメータ(K)を提供する。これは従来技術とは対照的であり、従来技術では、既知の流れ物質を工場校正動作において用いて、全部の将来の校正動作に対して使用できる密度標準を取得する。本発明は、流量計の振動応答からのみ取得される剛性パラメータ(K)を提供する。本発明は、工場校正動作の必要の無い剛性検出/校正プロセスを提供する。
【0097】
インタフェース201は、図1のリード線100を介して速度センサ170L、170Rのうちの一方から振動応答210を受け取る。インタフェース201は、形成、増幅、バッファリングなどのような任意の必要な又は所望の信号条件付けを実行することができる。代わりに、処理システム203において、若干の又は全部の信号条件付けを実行することができる。更に、インタフェース201は流量計電子装置20と外部装置との間の通信を可能にする。インタフェース201は電子的通信、光通信又は無線通信のうちの任意のものを行うことができる。
【0098】
センサ信号がアナログのセンサ信号からなる一つの実施の形態におけるインタフェース201は、デジタイザ(図示せず)と結合される。デジタイザはアナログ振動応答をサンプリングしてデジタル化し、デジタル振動応答210を生成する。
【0099】
処理システム203は流量計電子装置20の動作を行い、流量計組立体10からの流れ測定値を処理する。処理システム203は1つ以上の処理ルーチンを実行し、それによって、流れ測定値を処理して1つ以上の流れ特性を生成する。
【0100】
処理システム203は汎用コンピュータ、マイクロプロセッシング・システム、論理回路又は他の汎用又は特注の処理装置を備えることができる。処理システム203は複数の処理装置間に分散されることができる。処理システム203は記憶システム204のような統合型の又は独立の電子的記憶媒体のうちの任意のものを備えることができる。
【0101】
記憶システム204は流量計パラメータ及びデータ、ソフトウェア・ルーチン、定数値及び変数値を記憶することができる。1つの実施の形態においては、記憶システム204は、流量計5の剛性パラメータ(K)を決定する剛性ルーチン230のような、処理システム203によって実行されるルーチンを含む。
【0102】
1つの実施の形態における剛性ルーチン230は、実質的に共振周波数での流量計の振動に対する応答を含む振動応答を流量計から受け取り、振動応答の周波数(ω0)を決定し、振動応答の応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定し、流量計の減衰特性(ζ)を測定し、周波数(ω0)、応答電圧(V)、駆動電流(I)及び減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)を決定するよう、処理システム203を構成することができる(図3及びそれに付随する検討を参照のこと)。
【0103】
1つの実施の形態における剛性ルーチン230は、振動応答を受け取り、周波数を決定し、応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定し、減衰特性(ζ)を測定し、剛性パラメータ(K)を決定するよう、処理システム203を構成することができる。また、この実施の形態における剛性ルーチン230は、第2の時間t2に流量計から第2の振動応答を受け取り、第2の振動応答に対する決定と測定のステップを反復して第2の剛性特性(K2)を生成し、第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較し、第2の剛性特性(K2)が剛性パラメータ(K)と許容値224よりも大きい値だけ相違しているならば剛性変化(ΔK)を検出するよう、処理システム203を構成することができる(図4及びそれに付随する検討を参照のこと)。
【0104】
1つの実施の形態においては、記憶システム204は流量計5を動作させるために使用される変数を記憶する。1つの実施の形態における記憶システム204は、例えば速度/ピックオフ・センサ170L、170Rから受け取ることができる、振動応答210のような変数を記憶する。
【0105】
1つの実施の形態においては、記憶システム204は定数、係数及び作業変数を記憶する。例えば、記憶システム204は剛性特性220と、後の時点に生成される第2の剛性特性221とを記憶する。記憶システム204は振動応答210の周波数212、振動応答210の電圧213、振動応答210の駆動電流214などの作業変数を記憶することができる。また、記憶システム204は流量計5の振動目標値226と測定された減衰特性215とを記憶することができる。更に、記憶システム204は許容値224のような定数、閾値又は範囲を記憶することができる。また、記憶システム204は剛性変化228のような、或る期間にわたって累積されたデータを記憶することができる。」
カ 段落【0110】~【0112】、【図4】
「【0110】
図4は、本発明の実施の形態に係る流量計の剛性変化(ΔK)を決定するための方法のフロー図400である。ステップ401において、前記のとおり、振動応答が流量計から受け取られる。ステップ402において、前記のとおり、振動応答の周波数が決定される。ステップ403において、前記の通り、振動応答の電圧と駆動電流が決定される。ステップ404において、前記のとおり、流量計の減衰特性(ζ)が測定される。ステップ405において、前記のとおり、周波数、電圧、駆動電流及び減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)が決定される。」
「【図4】
[図:0001432684000016.jpg]
」
「【0111】
ステップ406において、第2の時間t2において、第2の振動応答が受け取られる。第2の振動応答は時間t2における流量計組立体10の振動から生成される。ステップ407において、第2の振動応答から第2の剛性パラメータ(K2)が生成される。第2の剛性パラメータ(K2)は例えばステップ401~405を用いて生成され得る。ステップ408において、第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較される。この比較は、剛性変化(ΔK)を検出するために異なる時間において取得される剛性特性の比較を含む。
【0112】
ステップ409において、K2とKとの間の剛性変化(ΔK)を決定する。剛性変化の決定は、剛性の有意の変化を決定するための任意の統計的又は数学的方法を採用することができる。剛性変化(ΔK)を更なる使用のために記憶しても、遠隔場所へ送信してもよい。更に、剛性変化(ΔK)は流量計電子装置20において警報条件をトリガすることができる。1つの実施の形態における剛性変化(ΔK)は最初に許容値224と比較される。剛性変化(ΔK)の方が許容値224よりも大きいならば、エラー状態が決定される。剛性(K)の決定及び追跡に加えて、この方法は減衰パラメータ(C)と質量パラメータ(M)をも決定し追跡する。」
(2) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、実施の形態(【図4】)に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、【0068】の「合成パラメータK」は「剛性パラメータK」の明らかな誤記であるので、「合成パラメータK」を「剛性パラメータK」として認定した。また、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「流量計電子装置20であって、(【0068】)
流量計電子装置20はインタフェース201と処理システム203を備え、(【0068】)
流量計電子装置20は流量計組立体10から振動応答210を受け取り、(【0068】)
流量計電子装置20は振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得し、(【0068】)
流量計電子装置20において、振動応答210は流量計組立体10の剛性パラメータKを決定するために処理され、(【0068】)
流量計電子装置20は、流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出するために、2つ以上の振動応答を時間に関して処理することができ、(【0068】)
剛性の決定は流れ条件又は流れ無しの条件の下で行われ得るものであり、(【0068】)
使用に際して、剛性パラメータ(K)を時間に関して追跡することができ、例えば、統計技術を用いて時間的な変化(すなわち、剛性変化(ΔK))を決定することができ、剛性パラメータ(K)の統計的な変化は、特定の流量計のFCFが変化したことを示すことができるものであり、(【0095】)
流量計電子装置20は、実際の流量校正試験を行うことなく、現場で剛性決定を実行することを可能にし、(【0070】)
流量計組立体10の剛性は使用しているうちに時間とともに変化するので、容易で優れた校正チェックが望ましく、(【0070】)
こうした変化は、例えば流管の腐食、流管の浸食、流量計組立体10の損傷等のファクタに起因し得るものであり、(【0070】)
処理システム203は流量計電子装置20の動作を行い、流量計組立体10からの流れ測定値を処理し、(【0099】)
処理システム203は1つ以上の処理ルーチンを実行し、それによって、流れ測定値を処理して1つ以上の流れ特性を生成し、(【0099】)
処理システム203は記憶システム204のような統合型の又は独立の電子的記憶媒体のうちの任意のものを備えることができ、(【0100】)
記憶システム204は、流量計5の剛性パラメータ(K)を決定する剛性ルーチン230のような、処理システム203によって実行されるルーチンを含み、(【0101】)
剛性ルーチン230は、振動応答を受け取り、周波数を決定し、応答電圧(V)と駆動電流(I)を決定し、減衰特性(ζ)を測定し、剛性パラメータ(K)を決定するよう、処理システム203を構成することができ、(【0103】)
剛性ルーチン230は、第2の時間t2に流量計から第2の振動応答を受け取り、第2の振動応答に対する決定と測定のステップを反復して第2の剛性特性(K2)を生成し、第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較し、第2の剛性特性(K2)が剛性パラメータ(K)と許容値224よりも大きい値だけ相違しているならば剛性変化(ΔK)を検出するよう、処理システム203を構成することができ、(【0103】)
記憶システム204は剛性特性220と、後の時点に生成される第2の剛性特性221とを記憶し、(【0105】)
記憶システム204は剛性変化228のような、或る期間にわたって累積されたデータを記憶することができ、(【0105】)
流量計の剛性変化(ΔK)を決定するための方法では、
ステップ401において、振動応答が流量計から受け取られ、
ステップ402において、振動応答の周波数が決定され、
ステップ403において、振動応答の電圧と駆動電流が決定され、
ステップ404において、流量計の減衰特性(ζ)が測定され、
ステップ405において、周波数、電圧、駆動電流及び減衰特性(ζ)から剛性パラメータ(K)が決定され、(【0110】)
ステップ406において、第2の時間t2において、第2の振動応答が受け取られ、第2の振動応答は時間t2における流量計組立体10の振動から生成され、
ステップ407において、第2の振動応答から第2の剛性パラメータ(K2)が生成され、第2の剛性パラメータ(K2)はステップ401~405を用いて生成され得、
ステップ408において、第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較され、この比較は、剛性変化(ΔK)を検出するために異なる時間において取得される剛性特性の比較を含み、(【0111】)
ステップ409において、K2とKとの間の剛性変化(ΔK)を決定し、剛性変化の決定は、剛性の有意の変化を決定するための任意の統計的方法を採用することができ、剛性変化(ΔK)は流量計電子装置20において警報条件をトリガすることができ、剛性変化(ΔK)は最初に許容値224と比較され、剛性変化(ΔK)の方が許容値224よりも大きいならば、エラー状態が決定される、(【0112】)
流量計電子装置20。」
5 引用文献2~8の記載事項、周知技術及び周知事項の認定
(1) 引用文献2、3に記載された事項及び周知技術の認定
ア 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された前記引用文献2(特表2014-522972号公報)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
(ア) 段落【0001】~【0006】
「【技術分野】
【0001】
本発明は振動式フローメータ及びゼロチェック方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コリオリ式質量流量計(コリオリ式質量フローメータ)及び振動式デンシトメータの如き振動式導管センサは、流動物質を収容して振動する導管の運動を検出するよう動作するようになっているのが一般的である。質量流量、密度などの如き導管内の物質に関する物性は、導管に接続されている運動トランスデューサから受け取る測定信号を処理することにより求めることができる。物質を充填した振動システムの振動モードは、一般的に、収容している導管及びその導管に収容されている物質の質量、剛性及びダンピング特性を組み合わせたものに影響される。
【0003】
典型的なコリオリ式質量流量計は、配管又は他の移送システムにインラインで接続されているとともに、システム内のたとえば流体、スラリ、エマルジョンなどの物質を移送する1つ以上の導管を有している。各導管は、たとえば単純曲げモード、ねじれモード、ラジアルモード及び結合モード含む一組の固有の振動モードを有していると考えることが可能である。コリオリ式の質量流量測定の典型的な用途では、物質が導管を流れている際に、導管が1つ以上の振動モードで励振され、導管の運動が導管の複数の間隔おいた部位で測定される。通常、励振は、導管を周期的に摂動するボイスコイルタイプのドライバの如き電気機械デバイスのようなアクチュエータによって加えられる。複数のトランスデューサの位置において、振動と振動との間の遅延時間又は位相差を測定することによって、質量流量を求めることが可能である。通常、このようなトランスデューサ(又は、ピックオフセンサ)が2つ、1つ以上のフロー導管の応答振動を測定するために通常用いられ、アクチュエータの上流側及び下流側に配置されている。これらの2つのピックオフセンサは電子計装装置に接続されている。電子計装装置は、2つのピックオフセンサからの信号を受け取り、これらの信号を処理してたとえば質量流量測定値などを算出するようになっている。
【0004】
コリオリ式質量流量計を流れる流れが無い場合、ドライバにより力が加えられると、導管に沿ったすべての部位が、同一の位相で振動するか、又は、修正可能だが初期段階では一定の位相だけ僅かにオフセットされて振動する。物質が流れ始めると、コリオリ力により導管に沿った各部位が異なる位相を有するようになる。導管の流入口側の位相はドライバの位相よりも遅れ、導管の流出口側の位相はドライバの位相よりも進んでいる。導管に結合されているピックオフセンサは導管の運動を表す正弦波信号を発生する。ピックオフセンサから出力される信号を処理してピックオフセンサとピックオフセンサとの間の位相差が求められるようになっている。2つのピックオフセンサ信号間の位相差は導管を流れる物質の質量流量に比例する。
【0005】
コリオリ質量流量計は、遅延時間の測定値から質量流量を計算するようになっている。遅延時間は、コリオリ効果から生じ、質量流量に正比例している。理想的なコリオリ式質量流量計(流入口から流出口まで完全に対称になって、減衰しないコリオリ式質量流量計)の場合、質量流量を正確に求めるのに必要なことといえば遅延時間を測定することだけである。しかしながら、コリオリ式質量流量計というものは、必然的に非対称なものであって、構造的な減衰及び粘性による減衰を受けてしまう。したがって、流れの無い状態下であっても遅延時間がわずかに生じてしまう場合もある。この遅延時間を測定してその測定結果をコリオリ効果により誘発される遅延時間から減算することにより、ゼロ遅延時間(zero time delay)が求められる。
【0006】
ゼロ流量時のコリオリ式フローメータの遅延時間が時間の経過とともに変わりうるという問題がある。ゼロ流量時の時差が変わると誤った流量測定値をもたしてしまう恐れがある。」
(イ) 段落【0012】
「【0012】
従来技術における他の欠点は、現場でのゼロ調整時にすべての環境条件を厳密に制御することができない場合もあるという点にある。ゼロ調整される上述のメータ内の流体は、校正のためだけに提供された校正用の流体ではないのが普通である。液状の流動物質内に混入された気体の如き、流体の問題は、時差(Δt)の読み取りを乱し、ゼロ流量時の時差(Δt0)の計算値が真のアベレージを表すものではなくなってしまうという点にある。したがって、上述のメータは、不正確にゼロ調整され、エラーが導入されてしまう恐れがある。」
(ウ) 段落【0047】~【0048】
「【0047】
ステップ202では、複数の時差測定値から新たなかつ代表的な時差(Δt)が生成される。複数の時差測定値が、フローメータ内の既知の流動物質を用いて流れの無い状態で取得される。前もって決められている数の複数の時差測定値が取得されるようになっていてもよい。必要な時差測定値の数には下限はないが、重要なことは、時差測定値の数が多ければ多いほど安定性も増していき、用いられる振動式フローメータをより正確に表す時差を求めることが可能となるということである。
【0048】
新たなかつ代表的な時差(Δt)はいかなる適切な方法で求められてもよい。たとえば、複数の時差測定値を数学的に又は統計的に適切に処理することによって新たなかつ代表な時差(Δt)を求めることができる。一実施形態では、新たなかつ代表的な時差(Δt)は、累積されている時差測定値のアベレージ又は平均値(average or mean)である。それに加えて、複数の時差測定値の標準偏差(S)が計算されるようになっていてもよい。しかしながら、新たなかつ代表値な時差(Δt)を求めるプロセスは他にも考えられており、それらもまた本明細書の範囲又は請求項の範囲に含まれる。」
(エ) 段落【0057】
「【0057】
ステップ204では、新時差(Δt)が、現時点で格納されている(すなわち、旧)ゼロ流量時の時差(Δt0)と比較される。実施形態によっては、比較には、複数の時差測定値の平均値及び標準分布を旧時差(Δt0)と比較することが含まれる。新時差(Δt)が旧時差(Δt0)の所定範囲内にない場合、旧時差(Δt0)はもはや有効でないと判断され、当該方法はステップ205へ進む。しかし、新時差(Δt)が所定範囲内にある場合、旧時差(Δt0)はまだ有効であり、当該方法はステップ207へ分岐する。したがって、新時差(Δt)が旧時差(Δt0)と実質的に同等である場合、当該方法はステップ207へ分岐し、振動式フローメータのゼロ流量時の校正値は前の時差校正値からはあまり変わっていない。」
(オ) 段落【0064】~【0067】
「【0064】
旧時差(Δt0)と新時差(Δt)との比較は、どのような比較であってもよい。一実施形態では、新時差(Δt)を旧時差(Δt0)と比較するにあたって、t-検定が用いられてもよい。一般論としては、t-検定は、検定統計量がt分布を有した統計的な検定である。複数の時差測定値から新時差(Δt)を求める場合、t-検定はアベレージの変化をテストしてもよい。t-検定は次の式を用いて計算されうる:
【0065】
【数3】
[図:0001432684000017.jpg]
【0066】
得られる(t)は、新時差(Δt)と旧時差(Δt0)との間の関係(すなわち、差又はオフセット)を表わす実数である。用語「Δt0」は旧時差を表している。用語「stab」は、用いられるフローメータの所定のゼロ安定値を表しており、この所定のゼロ安定値はモデル特有のものであってもよく、及び/又は、サイズ特有のものであってもよい。用語「S」は標準偏差を表している。用語「n」はサンプル数を表している。
【0067】
t>2の場合、又はt<-2の場合、新Δtの分布は、「stab」により与えられる範囲外にある。この例では、「2,-2」の範囲は95%の信頼限界を示している。」
イ 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された前記引用文献3(渕野公市ほか、「測定器の故障を診断するためのアルゴリズムと診断システムの設計法」、化学工学論文集、1995年7月10日、21巻4号、pp.766-775)には、次の記載がある。
(ア) 766ページ要約欄1~5行
「 測定変数間の線形な関係式とχ2検定を利用して,連続プロセスの定常状態における測定器の故障の診断を行う効率の良いアルゴリズムと,それを用いた診断システムの設計法とを提案する.また,数値実験によりアルゴリズムの効率の良さと設計法の妥当性とを検証する.この診断法は,流量計の出力の偏りを積算流量の測定値を用いて診断するのに有効である。」
(イ) 766ページ左下欄1行~右下欄7行
「1.はじめに
プラントの運転管理,設備管理は,測定値を基に行われるので,常に測定器の故障を診断して測定値の修正を行うことが必要となる.測定器の故障の中でも,ベースラインの偏り,ゲインの変化などによる出力の偏りは単独の測定器の指示値から見つけることができないので,測定変数間の関係を利用して故障を診断しなければならない.
プラントの定常運転時のデータから測定値の偏りを診断する方法としては,Nogita7),Mahら5, 6),Croweら3)が正規分布による検定を,Almazyら2),Madronら4),Romagnoliら9~11)がχ2分布による検定を利用した方法を提案している.しかし,これらの方法には,次のような欠点があるために,これを利用した診断システムを設計することが難しい.
(1) 測定器のすべての組み合わせについて検定を行うので,測定器の数の増加とともに計算量が指数関数的に増加するため,5~6個の測定器を含む系にしか適用できない.
(2) 診断システムに要求される仕様を満足するように正規分布による検定,あるいは,χ2分布による検定に含まれるパラメータ(有意水準)を決定する方法が示されていない.
一方,Yamamuraら12)は,赤池情報量基準(AIC)1)を利用して測定器の診断問題の効率の良い解法を開発し,大規模な系の診断ができることを示した.しかし,この方法には混診(真に故障した測定器以外の測定器をも故障したと判定すること)の確率が60~70%に達するという欠点がある.
本論文ではχ2分布による検定を利用した診断法を提案し,診断に要求される仕様を満足するように有意水準を決定する方法を示す.また,効率のよいアルゴリズムを開発して診断システムを作成し,仕様を満足するように有意水準を設定した本診断システムは混診を起こす確率も非常に小さいことを数値実験によって示す.」
(ウ) 767ページ右欄42行~768ページ左欄12行
「2・5 故障した測定器の探索問題
故障を仮定した測定器の集合Fが真に故障した測定器の全集合Gに一致したときには,ω(F)から系統的誤差を含む測定値が全て排除されるので,
[図:0001432684000018.jpg]
となり,ω(F)は自由度(m-|F|)の中心χ2分布に従う確率変数となる.したがって,自由度(m-|F|)の中心χ2分布の累積分布関数Π(x; m-|F|, 0)の値が(1-δ)となるときのxの値をχ2(m-|F|, δ)と表すと,
[図:0001432684000019.jpg]
が成立するときには,ω(F)が自由度(m-|F|)の中心χ2分布に従わない(Fが故障した測定器の全集合に一致しない)確率がδとなる.ここで,パラメータδはχ2検定の“有意水準”と呼ばれる.」
(エ) 773ページ左欄11~17行
「まとめ
測定変数間の線形な関係式とχ2分布による検定法とを利用して測定器の故障を診断するシステムの設計法と効率の良い診断アルゴリズムを提案した.本診断システムは,動特性の影響を無視できる程度に長い時間の積算流量を用いることによって,流量計のベースラインの偏り,ゲインの変化を診断するのに有効であると考える.」
ウ 周知技術の認定
前記ア及びイに摘記した事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって周知技術であったと認められる。(以下「周知技術」という。)
<周知技術>
「流量計の異常を判定するための手法として、流量計の測定値をデータとした統計的な検定を用いること。」
(2) 引用文献4~8に記載された事項及び周知事項の認定
ア 引用文献4に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された前記引用文献4(奥野忠一、「t-分布を用いる検定と推定」、化学と生物、1969年8月25日、7巻8号、p.498-499)には、次の記載がある。なお、上付きバーを伴うXは「X ̄」と表記しており、以下同様である。
「25. スチューデントのt-分布
実験で得られたn個のデータは,正規分布N(μ,σ2)に従って互いに独立に分布するn個の変量X1,X2,…,Xnの実現値であるとするとき,標本平均X ̄の期待値はμであり,その分散はσ2/nになることは,しばしば引用した(式(40)).また,このX ̄に,次の変換:
[図:0001432684000020.jpg]
を施すと,Zの期待値は0,その分散は1となり,§.20で述べた〔定理1〕(Vol.7,No.3,p.304)により,Zの分布は標準正規分布N(0,1)であることを知った.
この(41)'式の分母のσを,σ2の不偏推定値であるs2(標本分散)の平方根sでおきかえた式を,
[図:0001432684000021.jpg]
と書くと,このtは,分子(X)も分母(s)も標本ごとに変動するので,その分布を求めることが数学的にも容易でなかった.19世紀末に隆盛をきわめたKarl Pearsonの数理統計学も,この分布を正確には求められず,「nが充分大きければsとσは同じであると考えてよい」とした.しかし,数回または十数回しか反復できない実験のデータを処理しなければならない実際家にとっては,百回も千回も反復したときにしか使えない理論では役に立たなかった.たまたま,アイルランドのビール会社の技師で小麦の品種試験を行なっていたW.S.Gossetが,このtの分布をやや直観的に求め,雑誌Biometrika Vol.6(1908)に“Student”という筆名で発表した.のち(1925)に,この厳密な証明がR.A.Fisher(Metron Vol.5,No.3)によって与えられたが,以後この分布を「スチューデントのt-分布」と呼ぶようになった.」
「
[図:0001432684000022.jpg]
」
「26. t-分布を用いる検定と推定
これまで一貫して引用してきた実験IIのデータ(表7,Vol.7,No.7,p.437)は,処理AとDを受けた16対のラットのO.D.の差を表わし,それらは,
[図:0001432684000023.jpg]
という2つの統計量に要約されるものであった.このとき,帰無仮説H0:「処理AとDとに差なし」,すなわち,「AとDとの差の母平均μ=0」の下では,(72)式のtの値は,前回の最後に計算したように,
[図:0001432684000024.jpg]
となる.このt0=2.2は,この特定の実験結果に基づいて計算したtの値であるが,変量としてのtの分布は,
i) 個々のデータが正規分布をするときは,正確に,
ii) 個々のデータが正規分布をしなくても,16個の平均X ̄は「中心極限定理」(§.21)により,正規分布に近づくから,近似的に,
前節で求めたt-分布に従うはずである.よって,t-分布のパーセント点の表8から(自由度f=16-1=15の行を見る),
[図:0001432684000025.jpg]
が読みとれるので,
[図:0001432684000026.jpg]
であることがわかる(2.2は2.131と2.602の間にある.t0の値が大きくなるにつれて,それを超える確率は小さくなることに注意).これより,5%以下の危険率で,帰無仮説H0は否定され,「処理Aは対照Dに比べて,血液中の酵素活性を高める」と結論してよいことがわかる(なお,ここでの論理の進め方については,§.20「正規分布を用いる検定」,Vol.7,No.5,p.304~305を復習されたい).」
イ 引用文献5に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された前記引用文献5(滝沢隆安、「平均値の推定と検定に関するいくつかの統計理論」、獣医科学と統計利用、1978年9月30日、2号、p.15-20)には、次の記載がある。
「
[図:0001432684000027.jpg]
」
「4.t分布
N(0,1)の分布をするuの2乗は,自由度1のχ2分布をする。これを表3の(13)のように略記しよう。f(u2)は(14)になる。ただし,Γ(・)は,ガンマ関数と呼ばれるものである。χ2(1)の値をn個加えると(χ2分布のたたみこみという),これは(15)のように,自由度nのχ2分布をし,そのfは(16)になる。χ2分布の自由度とは,(16)のnのことである。
(17)のように,N(0,1)のxを分子にとり,χ2(n)のyをnで割って平方根をとった値を分母にとり,これをtとする。このtは自由度nのt分布をする。これを(18)のように略記しよう。f(t)は(19)になり,その形はnとtによって決まる。t分布の自由度とは,(19)のnのことである。n=2と10のとき,(19)を図にすると図3と4になるが,n=∞のとき,N(0,1)と一致する。
(19)を積分して作った表がt分布表であり,この表を利用して次のようなことがいえる。すなわち,t分布表の自由度がnで確率がαの値をt(n,α)と表わせば,(20)のように,t分布する値tが-t(n,α)とt(n,α)の間である(tの絶対値がt(n,α)より小である)確率は1-αである。あるいは,(21)のように,tが-t(n,α)より小またはt(n,α)より大である(tの絶対値がt(n,α)より大である)確率はαである。(20)と(21)が、σが未知の場合,推定や検定に利用される。」
「
[図:0001432684000028.jpg]
」
「7.標本平均と母平均の差の検定
検定には,両側と片側があるが,両側検定のほうがより一般的である。また,獣医学の分野では,σ(母標準偏差)が既知の場合はほとんどない,といってもよいと思われる。そのため,紙数の都合で,σが未知で両側検定の場合について述べる。
データから標本平均を求め,これから推定される母平均μ0が,既知の母平均μと等しいとみなしてよいかどうか,次のようにして検定できる。
まず,表6の(35)のように仮説を立てる。もし,データの分布がN(μ,σ2)なら,(36)のt0は,(32)から自由度n-1のt分布をする。したがって,(21)の不等号に等号を加えても確率はかわらないため,(37)がなりたつ。
αを十分小さく(ふつうは0.05または0.01)とれば,(37)の中括弧内の関係が起こることは稀である。このような関係が起こったとき,自分が得たデータは稀に起こるようなものではないと仮定すれば,データの分布がN(μ,σ2)と仮定したことが誤りになる。したがって,(37)の中括弧内の関係が起こったとき,H0を採用せず,H1を採用すべきである,と判定する。ただし,この判定は,たまたま自分のデータが稀に起こるようなものであった場合は誤りであり,この誤りを犯す確率(危険率,有意水準)はα以下である。」
「
[図:0001432684000029.jpg]
」
ウ 引用文献6に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された前記引用文献6(特開2007-192138号公報)には、次の記載がある。
(ア) 段落【0001】~【0006】
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスタービンにおける異常監視方法及び装置に係り、特に、ガスタービンの不安定燃焼による圧力変動や火炎位置変動に起因する、局部的な応力集中や熱サイクル変動に伴う亀裂などを未然に、過検知することなく発見できるようにした、ガスタービンにおける異常監視方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な発電プラントに用いられるガスタービンは、圧縮機と燃焼器とタービンと発電機とで構成され、圧縮機で高圧となった空気と熱交換器で高温となった燃料ガスとを燃焼器に送って燃焼させ、その燃焼ガス(熱ガス)によってタービンを駆動して発電機を運転する。
【0003】
このようなガスタービン設備(ガスタービン発電プラント)では、燃焼器での燃焼温度が1500℃程度まで上昇し、内部で不安定燃焼による圧力変動や火炎位置変動が発生して局部的な応力集中や熱サイクル変動が発生し、亀裂が生じてしまうことがある。燃焼器に亀裂や破損が発生すると、燃焼器へ導入される空気量が計画からずれ、燃焼異常が発生して発電効率が低下したり、場合によっては破損片がタービンに入って翼を損傷してしまうという問題がある。そのため、早期にクラックとか、色々な異常を検知したいという要望がある。
【0004】
こういった問題に対して従来では、燃焼器内に圧力変動検出器を設けたり、高温になる燃焼器内部に直接温度検出器を取り付ると短期間でダメになるため、タービンの最終翼付近や排気ダクトのところに温度検出器を複数設け、この各検出器の計測結果に基づいて燃焼器の燃焼異常を検知することが行われている。
【0005】
しかしながらガスタービンは、プラント負荷や気温、湿度、気象条件などの環境条件、及び負荷状態などの種々のプラント運転条件によってその出力が変動し、正常な圧力・温度範囲がそれぞれの条件によって異なってくることから、正常と異常とを判別する閾値の設定が困難であり、厳しくすると過検知によって正常動作であるにもかかわらず異常と判断され、緩くすると異常を見逃すことになる。このように燃焼器の異常燃焼を正常と誤判定すると、燃焼器に亀裂等が生じたまま運転を継続することとなり、発電効率を低下させてしまうばかりでなく、場合によっては翼をも損傷させてしまうこととなる。
【0006】
また、朝、晩に起動、停止を行うような場合、例えば起動に際しては、20分程度の間に0MWから250MWまで出力が上昇し、その間、温度や圧力は短時間の間に急激に上昇する。停止指令後の停止までの間も同様であるが、こういった起動、停止の際にも異常が発生することがあり、こういった場合も早期に異常を検知したいという要望があるが、このように急激に状態が変動している状態では、現在の状態が正常か異常かを判定するのは非常に困難である。」
(イ) 段落【0066】~【0075】、【図1】、【図5】、【図6】
「【実施例2】
【0066】
以上が本発明になるガスタービンにおける異常監視方法及び装置の実施例1であるが、次に図5、図6を用いて本発明になるガスタービンにおける異常監視装置の実施例2を説明する。なお図5は、前記図14に示したガスタービン11における燃焼器13の図示していない内圧計で測定した燃焼振動のトレンドであり、横軸は時間、縦軸は燃焼振動(単位kPa)である。また図6は、特徴量算出と健全性評価の処理フローの例である。」
「【図5】
[図:0001432684000030.jpg]
」
「【図6】
[図:0001432684000031.jpg]
」
「【0067】
以上説明してきた実施例1の異常監視方法及び装置は、前記したように負荷整定のない負荷帯や、朝、晩の起動、停止の際の負荷上昇、下降中などのように、データが少量しか集まらない、状態が急激に変化する場合の例であったが、ガスタービンプラント2も、例えば日中などの気温や天候状態、負荷状態が安定した時間帯では前記図3(A)に示したように、温度、圧力、流量、排出物などの状態検出手段出力は安定し、かつ、気温の緩やかな変動により、これら状態検出手段出力も緩やかに変化する。
【0068】
しかもこの変化は、その日の天候、負荷状態などによっても変化し、特定の時間にいつも同じ状態が再現されるというわけではない。そのため、こういった場合はある時間と別の時間のデータを比較しても、状態検出手段出力や負荷が緩やかに変動していることが多く、さらにきれつなどの異常は、その発生によって状態検出手段出力や負荷が急激に変動した場合は容易に発見できるが、少しずつ進展する場合があり、このような場合は気温の緩やかな変動によって状態が変化しているのか、きれつなどの進展の遅い異常によって変化しているかを判別するのは難しい。
【0069】
そのためこの実施例2では、Aという分布とBという分布が同等と見て良いかどうか、という統計における検定(2群の平均値の差の検定で、例えばWelchの方法によるt検定)を使い、前記状態検出手段の直近を含む2つ以上の最近の特定期間におけるそれぞれの出力の分布の平均値と標準偏差とを算出し、その算出した平均値と標準偏差とを比較して、その比較結果が予め定めた有意水準に基づいた閾値Cを越えているか否かによって正常か異常かを判定するようにしたものである。
【0070】
すなわち、前記図3(B)や、図5のように状態検出手段出力が変動し、例えば図5において今の時間が71で示した6時10分だとした場合、それ以前の70で示した30分間における時間平均値と、さらに69で示した5時40分より以前の30分間における時間平均値とを算出し、それぞれの時間平均値に統計的に有意な差がある場合に異常、差がない場合を正常とするものである。
【0071】
そのため、状態検出手段の直近の特定期間(例えば図5における70で示した期間)出力における平均をμn、標準偏差をσn、データ点数をnn、直近以前の特定期間(例えば図5における69で示した期間)における出力の平均をμb、標準偏差をσb、データ点数をnbとしたとき、下記式で算出される検定統計量Tが、予め定めた有意水準に基づいた閾値を越えている場合に異常であると判定する。
【数9】
[図:0001432684000032.jpg]
【0072】
これを図6のフロー図に基づいて説明するが、図6は、図2におけるステップS4の特徴量算出とステップS5の健全性評価の詳細処理フローであり、その他の処理は前記実施例1において説明したのと同様なので説明を省略する。
【0073】
図6においてステップS11で処理がスタートすると、最初に図1における特徴量算出手段5は、ステップS12で、直近の期間、例えば図5に70で示した期間における時間平均値を統計量として算出する。そして次のステップS13で健全性評価手段6は、予め特徴量算出手段5が、例えば前記図5における最初の期間69における統計量として算出した時間平均値と、今算出した70で示した期間における時間平均値とを用い、前記式(3)に基づいて検定量Tを算出する。
【0074】
そして次のステップS14で、予め定めた有意水準とWelchの方法で求められる自由度に基づき、t分布表より閾値k(n)を算出する。そして次のステップS15で、図1における健全性評価手段6は、算出された検定量Tが閾値k(n)より小さいか否か(すなわち予め定めた閾値より小さいか否か)を判断し、大きい場合は異常としてステップS16へ、小さい場合はステップS17に進んで正常であると判断する。
【0075】
そのため図1における出力手段7は、この健全性評価手段6が判断した結果を出力或いは表示し、次の時刻の処理、すなわちステップS2へ戻って同様な処理を繰り返すわけであるが、このようにすることにより、負荷が整定し、状態検出手段からのデータや負荷が緩やかに変化する場合でも、正常、異常を正確に判断することができ、過検知が防止できる。」
「【図1】
[図:0001432684000033.jpg]
」
エ 引用文献7に記載された事項
当審において新たに引用する東京大学教養学部統計学教室編「統計学入門」東京大学出版会1991年7月10日(以下「引用文献7」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、次の記載がある。
(ア) 201~203ページ
「10.4 分散が未知のときの標本平均の標本分布
10.2節では母分散σ2が既知である場合の標本平均X ̄の標本分布について考えたが,この仮定は現実的でないことはいうまでもない.もともと,母平均μについて調べているときに,母分散,母標準偏差という,よりくわしい情報がわかっているという状況は,現実に想定しにくい.標本分布はμばかりでなくσ2に依存するから,σ2の値が未知のままでは,現実に用いる正確な標本分布を求めることはできない.したがって,σ2の代わりに標本分散s2を使う方法が考えられよう.ここではその場合のX ̄の標本分布について述べよう.
標本平均X ̄の標本分布は正規分布N(μ,σ2/n)であるから,その標準化
[図:0001432684000034.jpg]
は標準正規分布N(0,1)に従う.しかし,σ2がわかっていなければこのZは計算できない(統計量ではない).そこで母分散σ2を,標本(不偏)分散s2で代用した‘代用品’を考えるほうが,ずっと現実的なので,スチューデントのt統計量Student's t-statistic
[図:0001432684000035.jpg]
を定義する.これは,すでに,標準正規分布N(O,12)には従わない.この確率分布はどうなるか考えてみると
[図:0001432684000036.jpg]
であり,さらには,分母を変形すると
[図:0001432684000037.jpg]
となる.分子(X ̄-μ)/√σ2/nは標準正規分布N(0,1)に,分母(n-1)s2/σ2は自由度n-1のχ2分布χ2 (n-1)に従う.これらの比になっている.しかも,正規分布の密度関数の計算から,X ̄とs2は互いに独立であるので,N(0,1)とχ2(n-1)の組み合わせから,tの密度関数が求まる.正規標本論では,これを新たにt分布と呼んでいる.そこで,次のように定義しよう.
t分布 二つの確率変数YとZが次の条件を満たすものとする.
(a) Zは標準正規分布N(0,1)に従う.
(b) Yは自由度Kのχ2分布χ2(k)に従う.
(C) ZとYは独立である.
いま,確率変数tを
[図:0001432684000038.jpg]
と定義すると,tが従う確率分布を自由度kのt分布(あるいは,スチューデントのt分布)という.自由度kのt-分布をt(k)で表す.
これによるならば,先にふれた
[図:0001432684000039.jpg]
で定義されたt統計量は,自由度n-1のt分布t(n-1)に従う.また,X ̄の標準偏差s/√nを,標本平均の標準誤差standard errorという.
“スチューデントStudent”は,これを定義したゴセット(William Gosset 1876-1937,英国の統計学者)の仮名である.
t分布は,(標準)正規分布の代用品であるが,正規分布と同様にその密度関数f(x)はx=Oについて対称である.また,kが大きい場合(たとえば30以上の場合)は,標準正規分布とほとんど変わらない.とくに,k=∞の場合はt分布は標準正規分布N(O,1)と一致する.これは,自由度kのχ2分布の平均がkであることからY/kがk(つまりn)が大きい場合は大数の法則によってほとんど1となっているためである.あるいは,大標本(n→∞)のときは,標本と母集団の区別がなくなり,s2≒σ2となるためである,といってもよい.
この意味で,t分布は小標本の厳密な標本分布ということができる.
上側確率α(図10.5の斜線の部分)に対して,自由度kのt分布t(k)の上側確率100α%のパーセント点をtα(k)と書いて,付表2にまとめられている.tα(k)は同一のαに対してはkが大きくなるに従い,小さくなる.」
「
[図:0001432684000040.jpg]
図10. 5 自由度kのt分布t(k)とパーセント点
母平均の仮説検定,推定論などにおいて,実際に用いられるのは,標準正規分布より,このt分布である.二つは酷似するが,大標本(n→∞)のときは,一致する.tα(k)はP(t>tα(k))=αで定義される.なお,両側(-の側)も入れてαとする流儀もある.」
(イ) 233~241ページ
「12.1 検定の考え方
有意性検定 推定の考え方は数学的には単純なものであるが,仮説検定も人間の論証感覚を定式化したもので,ごく自然で理解しやすい.その目的は,母集団について仮定された命題を,標本にもとづいて,検証することである.たとえば,エンドウ豆の型の度数分布が,理論上の仮説に合致しているかどうかの検証がそれである.
度数の比が厳密に9:3:3:1になっていないことはいうまでもない.重要なことは,理論比からのずれが誤差の範囲内か,それ以上の何かの意味のあるものか,ということである.後者の場合,統計学では,仮説からのずれ(簡単に,仮説)は有意significantであるという.ここで立てられた仮説を統計的仮説statistical hypothesisまたは簡単に仮説hypothesisという.したがって,仮説検定とは統計的仮説の有意性検定test of significanceにほかならない.
…(中略)…
有意性は標本が有意なずれを示す確率で表される.すなわち,標本分布がそこで役割を果たす.たとえば,コインを20回投げたときに14回表が出たなら,コインに歪みがないという仮説は支持できるか否か.これを,表の回数Xという標本の確率分布から見よう.これは二項分布Bi(20,1/2)である.
もし,「歪みがない」という仮説をP=l/2とすると,「コイン」という母集団分布に対する仮説である.もし,仮にこの仮説が正しいなら,表の回数Xについて.表12.2の二項分布の計算から
P(X≧14)=1-0.9423=0.0577
であるから,X=l4という標本は仮説からすれば,出るはずのないかなりはずれた(ずれが有意な)値である.したがって,P=l/2という仮説は「誤っている」と判断せざるを得ない.このとき,仮説は棄却rejectされる,という.つまり,仮説検定とは,仮説が有意であるか否かに応じて,それを棄却するかあるいは棄却しないかを決定することである.
ここで,0.0577を“稀”と考えたのであるが,一般に,あらかじめどの程度の稀少確率を考えるかにより,有意か否かが変りうる.この基準の確率を有意水準significance levelといい,αで表す.たとえば,α=0.1と約束するとき0.0577は稀と判断されるが,α=0.01ならこの確率は“十分に起りうる”,“あってもおかしくない”ということだから,X=l4は有意にずれている,とは考えられない.
帰無仮説と対立仮説 コインを20回投げる実験において,コインに歪みがないという仮説P=l/2は(たとえば)有意水準α=0.1棄却された.棄却されたことで判断が終るという考え方(フィッシャーの立場)もあるが,Pについて何かの積極的判断をしたいならば,あらかじめ,もう一つの仮説をP≠1/2と立てておき,(あるいはP>l/2としてもよい)もう一つの仮説が採択acceptされたとしよう.
このとき,もとの仮説p=1/2を帰無仮説null hypothesis,これと対立する仮説を対立仮説alternative hypothesisという.「帰無」は,もと(最初)の仮説が,棄却されるかされないかの判断にさらすために立てられたもので,‘無に帰することも予定して’くらいの意味である.深い意味はないので,「帰無」の語を無視しても,後の展開に差し支えない.
帰無仮説と対立仮説は互いに否定の関係にある.それぞれH0, H1, あるいはH1, H2と記す.HはHypothesis(仮説)の意味である.ただし,p=1/2,p>1/2以外の第三の可能性(p<1/2)もあるが考慮しないこともあり,否定は完全なものではない.
そのことを別にすれば,一応は,帰無仮説を棄却することは対立仮説を採択することを意味している.
…(中略)…
棄却域と両側・片側検定 仮説検定の考え方と具体的な計算をよりよく理解するために,後にも述べるt検定t-testの例をあげよう.
―正規母集団N(μ,σ2)から大きさn=25の標本を抽出して,X ̄=13.7,s=2.3を得た(たとえば,ある飲料中の某成分の%を考えよ).これをもとに,
帰無仮説
H0:μ=15
を対立仮説
H1:μ≠15
に対して,有意水準α=0.05で検定する.―
検定に用いる統計量(検定統計量test statistic)として,(10.15)のスチューデントのt統計量を計算すると,
[図:0001432684000041.jpg]
となる.有意水準α=0.05にちょうど対応するt分布t(24)のパーセント点は,t0.025(24)=2.06であるから,|-2.83|>2.06より,有意水準5%で帰無仮説を棄却する.
たしかにX ̄=l3.7,μ=15であり,その差は1.3である.X ̄の分散の推定値はs2/n,標準偏差はs/√n=2.3√25=0.46であるから,それを基準とすれば差1.3はこの標準偏差の3倍近くで(t=2.83),大きいという他はない.なぜなら,±2.06以上の差は確率0.05という稀なものであって,2.83はそれ以上に異常な差だからである.したがって,μ=15と考えることに無理がある.これがいま用いているt統計量の具体的な意味である.
いま,帰無仮説はそのままとし,対立仮説を
H1':μ<15
とすると,X ̄がμ=15より相当に小さくなった場合にだけ帰無仮説を棄却す
ればよいから,
[図:0001432684000042.jpg]
において,tが十分負になったときにだけ,帰無仮説を棄却すればよい.いまt0.05(24)=1.71であるから,-2.83<-l.71.よって,この場合も,有意水準5%で帰無仮説を棄却する.
帰無仮説を棄却すべき統計量の値の集合を棄却域rejection regionといい,棄却しない領域を採択域acceptance regionという.採択域は,t=Oの周辺の領域(15に近いX ̄の値に対応)になるが,棄却域は対立仮説がH1のような両側対立仮説two-sided alternative hypothesisのときは,tの値が著しく(これは有意水準で決める)0から左右にはずれた領域
[図:0001432684000043.jpg]
となる.これを両側検定two-sided testという.確率αを左右(著しく大きい所と小さい所)に按分している.H1'のような片側対立仮説one-sided alternative hypothesisに対しては,X ̄が十分小さい所に棄却域が定められ,片側検定one-sided test
[図:0001432684000044.jpg]
となる.また,μ>cの形の片側対立仮説もあるが,そのときは
[図:0001432684000045.jpg]
が棄却域となる.これも片側検定である.
なお,片側対立仮説か両側対立仮説かは,問題の現実の内容によってわれわれが選ぶものである.」
「
[図:0001432684000046.jpg]
図12.1 仮説検定のやり方
帰無仮説をまず設け,対立仮説H1を考慮して.あらかじめ選んだ有意水準(5%)に等しい確率で.0から遠い所に棄却域(斜線を付してある数直線の範囲)を作る.計算されたt統計量の値(-2.83)がその棄却域の中に入るとき,その帰無仮説は棄却される.」
「
[図:0001432684000047.jpg]
図12.2 検定の手続例:母平均は帰無仮説の通りか
スチューデントのt統計量とはl=(X ̄-μ0)/(s√n)で定義される(μ0はあらかじめ指定された母平均値).関数は自由度n-1のt分布t(n-1)の密度関数.t=0は標本平均X ̄と帰無仮説のμ0の一致を意味する.斜線の棄却域はX ̄とμ0の十分なずれがある領域であり,分布の端部に有意水準で決められる.片側対立仮説および片側検定は,右と左の場合がある.」
「12.2 正規母集団に対する仮説検定
もっとも広く使われている検定の例として,母集団の分布が正規分布である場合の仮説検定について述べよう.実用上重要なものとして母平均に関する両側検定,片側検定および二つの正規母集団の母平均の差の検定がある.また,ここで考える検定は,正規母集団以外のものに関して中心極限定理からここでの検定を漸近的(nが大きい場合の近似)に使うこともできる.なお,検定はすべて有意水準αのものとする.
12.2.1 母平均に関する検定
まず,もっともよく用いられる母平均μ,母分散σ2の正規母集団の母平均μに関する検定について,両側検定と片側検定に分けて説明しよう.
両側検定 両側検定では,帰無仮説,対立仮説は
[図:0001432684000048.jpg]
で与えられる.μに関する検定は標本平均X ̄がμ0からどれくらい離れているかを比較することによって行われる.このときも,その差を見て判定するための尺度σ2が既知であるかどうかによって異なる.ここでは,はじめにσ2が既知のとき,ついで未知のときを考えるとわかりやすい.
σ2が既知のとき 検定統計量Zは,(10.5)で述べたX ̄の標準化変数
[図:0001432684000049.jpg]
である.帰無仮説が正しければ,μ=μ0においてZは10.2節で述べたように標準正規分布N(0,1)に従う.また,標準正規分布は原点に関して対称であるから,標準正規分布表(付表1)から得られるパーセント点Zα/2と比較して|Z|>Zα/2ではH0を棄却し,|Z|≦Zα/2ではH0を棄却しない.
σ2が未知のとき 実際の検定では,σ2が既知であることはほとんどない.そこで母分散σ2が未知であるときには,(12.5)式のσ2を標本分散s2で置き換えたスチューデントのt統計量
[図:0001432684000050.jpg]
を検定統計量とする.帰無仮説が正しければ,μ=μ0のときには,tは(10.15)で述べたように自由度n-1のt分布t(n-1)に従うからt分布表(付表2)から得られるパーセント点tα/2(n-1)と比較して
|t|>tα/2(n-1)ではH0を棄却し,|t|≦tα/2(n-1)ではH0を棄却しない.
これらの検定をスチューデントのt検定Student's t-testという.
…(中略)…
片側検定 帰無仮説,対立仮説がそれぞれ
H0:μ=μ0,H1:μ>μ0
で与えられるとき(右片側対立仮説)を考える.帰無仮説は同一であるから,検定統計量およびその帰無仮説が正しいときの分布は両側検定のときと同一である.しかしながら,対立仮説が異なっているので,棄却域が異なってくる.
σ2が既知である場合は,(12.5)を使ってZの値を計算し,Z>ZαであればH0を棄却し,Z≦ZαであればH0を棄却しない.また,σ2が未知である場合は,(12.6)を使ってt統計量の値を計算し,t>tα(n-l)であればH0を棄却し,t≦tα(n-l)であればH0を棄却しない.
なお,左片側対立仮説H1:μ<μ0の場合は,Z<-Zα(σ2既知の場合),t<-tα(n-l)(σ2未知の場合)のときH0を棄却する.」
オ 引用文献8に記載された事項
当審において新たに引用する田中隆一「計量経済学の第一歩」有斐閣2015年12月20日(以下「引用文献8」という。)は、本願の出願前に発行されたものであって、次の記載がある。
(ア) 86ページ1行~94ページ24行、表4.1、図4.1
「4 仮説検定
さて,政策の効果を評価するための統計的手法をおさらいしてきましたが,いよいよ大詰めです。政策効果の評価においては施策によって期待される効果の「大きさ」を計測することが主な目的ですが,効果の大きさについて議論する前に「効果がある」ということを何らかの客観的な基準で評価できれば,より説得力のある議論ができるようになります。
帰無仮説と対立仮説
たとえば「消費税率が上がると,家計の消費額が下がるのか?」や「企業
内研修は,企業収益の改善に役立つのか?」さらに「1クラス当たりの人数を少なくすれば成績はアップするのか?」といったことを統計的な基準をもって客観的に評価したいとしましょう。その際に,調べて確かめたいことから疑問符をとったものが仮説とよばれるものになります。たとえば消費税率アップの影響についての仮説は,「消費税率が上がると,家計の消費額が下がる」となり,この主張が正しいかどうかを統計的に判断することになります。データを利用して仮説が正しいかどうかを客観的に判断することを仮説検定とよびます。
統計的手法を用いて仮説検定を行う際には,仮説の立て方に関して少し独特な作法があります。たとえば,「消費税率が上がると消費額が下がる」かを調べたい場合には,「消費税率が上がっても,消費額に変化はない」という,一見すると逆のように見える仮説を先に立てます。そして,この仮説を統計的に否定する(棄却するといいます)ことができれば,「消費税率が上がると消費額に変化がある」という意見(仮説)を支持できると見なします。1つ目の「変化はない」という仮説は,否定することによって無に帰する仮説という意味で,帰無仮説とよばれ,2つ目の仮説は,帰無仮説に対立する仮説という意味で対立仮説とよばれます。
…(中略)…
さて,「消費税率が上がっても,消費額に変化はない」という帰無仮説に対立する仮説は「消費税率が上がると消費額に変化がある」というものでしたが,対立仮説を「消費税率が上がると消費額が下がる」とすることもできます。前者の対立仮説は,帰無仮説を棄却することによって消費額の増加と減少の両方を支持することになるので両側検定とよばれます。また後者の対立仮説は消費額が下がるという片方の変化のみを支持するので片側検定とよばれます。両側検定であれ,片側検定であれ,帰無仮説は「変化はない」という同じものなので,検定方法は基本的に同じです。
それでは,仮説検定の方法について詳しく見ていきましょう。仮説検定の考え方をしっかりと理解するために,例を見ながら説明します。
例4.1:夏期講習の効果
A市は中学3年生の数学の学力向上を目的として学習塾講師による夏期講習を行うことを考えています。すべての中学校で実施するためには膨大な費用がかかるため,あらかじめ夏期講習が効果的かどうかを無作為に選ばれたモデル校6校で試してみました。夏期講習の効果を検証するために,夏期講習を実施する前と後で同じ難易度のテスト(100点満点)を実施したところ,夏期講習前と後の各学校のテストの点数の平均点は表4.1のようになりました。」
「
[図:0001432684000051.jpg]
」
「さて,この学習塾講師による夏期講習は数学の学力向上に役立っていると言えるでしょうか。
…(中略)…
1つひとつの学校を見てみると効果があったように見える学校とそうでない学校がありますが,全体的に効果があったかどうかを判断するために,次に思いつくこととして,テストの点数の変化の平均を計算してみましょう。テストの点数の変化の平均は,
[図:0001432684000052.jpg]
となっています。平均的にはテストの点数が増えているように見えますが,平均的なテストの点数の上昇はわずか0.333点であり,効果は0,つまり夏期講習の効果はないと言えるようにも見えます。さらに,この6つのモデル校で実施した結果,たまたまテストの点数の上昇分がプラスになっただけで,また別のモデル校で同じことを行えば,今度は平均的なテストの点数の上昇分はマイナスの値にもなりかねません。
標準化
さて,それではどうすればこの0.333点という平均的なテストの点数の上昇分が0と異なるかを調べることができるでしょうか。まず,この0.333点という平均的なテストの点数の上昇分が大きいかどうかは,あくまでも主観的な判断にすぎない点に注意が必要です。同じ0.333点のテストの点数の上昇でも,10点満点のテストと100点満点のテストではその意味は10倍違います。そこで,この平均点を「標準化」して,テストの点数の単位によらずに客観的な判断ができるようにしましょう。
テストの点数の変化分の平均を標準化するためには,この標本平均の平均と分散が必要になってきます。各学校のテストの点数の変化分が平均μ,分散σ2の母集団分布にそれぞれ独立に従っているとすると,この標本平均の平均はμ,分散はσ2/nとなりますので,標準化された標本平均は,
[図:0001432684000053.jpg]
となります。この標準化された標本平均を使ってテストの点数の変化が0かを判断することになります。
「平均的なテストの点数の変化が0」かを調べることで夏期講習の効果があるか判断したいのですが,「平均的なテストの点数の変化が0」というのは母集団分布の平均が0,つまり「μ=0」ということを意味しています。仮説検定の手順として,まず夏期講習に効果はない,つまり「μ=0」という帰無仮説を立てて,これを否定(棄却)することができれば夏期講習には何らかの効果があったと言えることになります。帰無仮説をH0と表すと,
[図:0001432684000054.jpg]
と書けます。
6つのモデル校での平均的なテストの点数の変化は0.333点であったわけですが,もし夏期講習に効果がない,つまり「μ=O」が正しいときに変化の平均が0.333となることが非常に稀なことであれば,「μ=O」は正しくないのではないか,と帰無仮説を疑うことになり,帰無仮説を棄却することになります。逆に「μ=0」が正しいときに平均値が0.333となることがよくあることであれば,「μ=0」という帰無仮説は棄却せず,夏期講習に効果はなかった(夏期講習に効果があるとは言えない)という結論になります。
t検定
さて,変化の平均値が0.333となることが「稀なこと」か「よくあること」なのかを判断するために,各校のテストの点数の変化分は平均μ,分散σ2の正規分布に独立に従っているとしましょう(正規分布については第3章5節で紹介しました)。各校のテストの点数の変化分が従っている母集団分布は正規分布なので,標準化された標本平均も標準正規分布に従う,つまり
[図:0001432684000055.jpg]
となります。また母集団分布の分散σ2を標本分散S2で置き換えたものは自由度n-1=6-1=5のt分布
[図:0001432684000056.jpg]
に従うことになります(t分布についても第3章5節で紹介しました)。この標本分散を使って標準化した標本平均はt検定統計量とよばれ,t分布を使って検定します。さらに「μ=0」という帰無仮説が正しいのであれば,それを代入したt検定統計量もまた同じt分布
[図:0001432684000057.jpg]
に従います。テストの点数の変化の平均値が0.333となることが「稀なこと」か「よくあること」なのかは,平均値が0.333となる確率をt分布表から調べ(t分布表の調べ方については,Column8を参照してください),そのようなことが起きる確率が小さければ「稀なこと」,大きければ「よくあること」と判断します。
しかし,テストの点数の変化の平均値が0.333となる確率を調べるといっても,t分布は連続確率変数の分布ですから,そのようなことが起きる確率は0,つまり「ちょうど確率ゼロ」の問題が発生します。そこで,標本平均が0.333以上になる確率,つまりP(X ̄≧0.333)を調べることにしましょう。6校分のテストの点数の変化のデータから計算された標本分散の推定値S2は
[図:0001432684000058.jpg]
なので,t検定統計量の値(t値とよばれます)は,上のt検定統計量の式に標本平均と標本分散の推定値,および標本サイズを代入して計算すると0.284になります。t分布に従う確率変数をTとすると,標本平均が0.333以上になる確率はTが0.284以上になる確率と同じ,つまり
[図:0001432684000059.jpg]
となります。この確率P(T≧0.284)を自由度5のt分布から計算することができます。
それでは実際にこの確率P(T≧0.284)を計算してみましょう。帰無仮説「μ=O」が正しいときの自由度5のt分布の確率密度関数は図4.1のようになっています。」
「
[図:0001432684000060.jpg]
」
「 確率変数Tが0.284以上になる確率は,0.284より右側の部分の確率密度関数の面積になります。これを計算すると(Excel等のソフトを使っての計算方法は,Column8のt分布表の調べ方を参照してください)約39.4%,つまり,
[図:0001432684000061.jpg]
になります。つまり,6つのモデル校を使った結果,標準化されたテストの点数の変化の平均であるt検定統計量Tが実際に観測されたt値である0.284以上になる確率は,μ=0が正しいという前提のもとでは39.4%となります。
この「t検定統計量が0.284以上になる確率は39.4%」ということから,テストの点数の変化の平均が0.333となったことが「稀なこと」といえるのでしょうか,それとも「よくあること」と言えるのでしょうか。そのような判断をする1つの方法として,「帰無仮説μ=0が正しいときにテストの点数の変化の平均値が0.333以上になる確率がα(たとえば0.05)以下になれば稀なこと,そうでなければよくあること」と判断することがあります。この判断基準の確率αは有意水準とよばれ.とくに決まっているわけではないのですが,0.05(5%)で判断することが慣例として多く見られます。
上で計算した確率を見ると39.4%となっていました。この値は慣例で用いられる5%よりも(はるかに)大きな値になっているので,「夏期講習の効果がない」という帰無仮説のもとでテストの点数の変化の平均値が0.333 となることは「よくあること」と判断することになります。つまり,「夏期講習には効果がない」という帰無仮説を否定する(棄却する)ことはできないという結論になります。
両側検定と片側検定
上で調べた「標準化されたテストの点数の変化の標本平均が0.284以上になる確率P(T≧0.284)」はt検定統計量がある値(t値)以上になる確率を計算しているので,確率密度関数の分布の片方の裾だけを使って確率を計算しています。このように片方の裾だけを使って計算した確率を使った検定は片側検定に対応しているので対立仮説は「μ>O」となっています。一方で,「標準化された標本平均の絶対値が0.284以上になる確率P(|T|≧0.284)」を計算すると,その確率は片側検定のときの確率のちょうど2倍の78.8%になりますが,このときの対立仮説は両側検定,つまり「μ≠0」となります。対立仮説をH1と表すと,片側検定の場合には,
H1:μ>0
両側検定の場合には,
Hl:μ≠0
と書きます。
また,両側検定,片側検定のそれぞれで計算した確率は「帰無仮説を棄却する最小の有意水準」と見ることもできます。たとえば例4.1の片側(両側)検定において有意水準αを39.4(78.8)%よりもほんの少し大きくすれば,帰無仮説を棄却することになります。このような確率の値は[p値」とよばれ,同じt検定統計量でも片側検定か両側検定かで値が変わってきます。もし慣例で用いられる有意水準5%を使うのであれば,このp値が5%よりも小さければ帰無仮説を棄却(対立仮説を採択)し,そうでなければ帰無仮説を棄却しないことになります。
このようにp値を使えば仮説検定ができるのですが,t値そのものから検定の結果を判断することもできます。たとえば例4.1の帰無仮説を「夏期講習は効果がない(μ=0)」,対立仮説を「夏期講習には効果がある(μ≠0)」とする両側検定を有意水準5%で行うことを考えます。この検定では,自由度5のt分布において,それよりも大きいt値が実現する確率が2.5%となる点が重要になってきます。このような点は「上側2.5%の閾値」とよばれ,自由度5のt分布では2.571となります(Column8のt分布表の調べ方を参照してください)。つまり,自由度5のt分布に従う確率変数が2.571以上となる確率はちょうど2.5%というわけです。t分布は平均(ここでは0)を中心として左右対称の分布なので,下側2.5%の閾値は-2.571となります。ここでは有意水準5%の両側検定を考えていますので上側と下側を足してちょうど5%となるように,上側と下側それぞれの確率が2.5%となる閾値を考えているわけです。
例4.1の検定におけるt値である0.284は自由度5のt分布表の上側2.5%の閾値2.571よりも小さい(当然-2.571よりは大きい)ので有意水準5%では帰無仮説を棄却できないということになります。また同様に,対立仮説を「夏期講習にはプラスの効果がある(μ>O)」とする片側検定では,自由度5のt分布表の上側5%の閾値を見てやればよいことになります。この値は2.015ですので,やはり有意水準5%では帰無仮説を棄却できないということになります。」
(イ) 94ページ26行~95ページ4行
「まとめ
以上で見てきた仮説検定の考え方を簡単にまとめておきます。
ある政策の効果を調べたいときには,
(1) 「政策に効果はない」という帰無仮説を立てる。
(2) 帰無仮説が正しいという前提で,観測されたデータが実現する確率を計算する。
(3) 帰無仮説のもとで観測されたデータが実現する確率が(たとえば5%より)低いときには帰無仮説が正しくないと結論づけて棄却し,対立仮説を採
択する(実現確率が高いときには帰無仮説を棄却しない)。」
カ 周知事項の認定
前記ア~オに摘記した事項に例示されているように、次の事項は、当業者にとって周知の事項であったと認められる。(以下「周知事項」という。)
<周知事項>
「統計的な検定として以下に示すt検定が広く用いられていること。
ここで、統計的な検定とは、あらかじめ否定されることが期待される仮説(帰無仮説)H0を立て、帰無仮説H0が正しいという前提で、観測されたデータが実現する確率を計算し、帰無仮説のもとで観測されたデータが実現する確率がある確率(有意水準)αより低いときには、帰無仮説が正しくないと結論づけて棄却し、対立仮説を採択する検定手法であり、
t検定においては、検定統計量はスチューデントのt統計量であり、帰無仮説H0が正しいという前提において、観測されたデータの標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1(nは標本数を表す)から計算されるt統計量が、両側検定の場合はt統計量の絶対値がt分布表におけるパーセント点t(n,α/2)より大きい場合に、片側検定の場合はt統計量がt分布表におけるパーセント点t(n,α)より大きい場合(又は-t(n,α)より小さい場合)に、有意水準αで帰無仮説H0を棄却するものである。」
6 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 構成Xの観点(計器電子装置)
(ア) 引用発明は、「流量計電子装置20」が「流量計組立体10から振動応答210を受け取り」、「振動応答210を処理して、流量計組立体10を流れる流れ物質の流れ特性を取得[する]」ものであるから、「流量計組立体10」が振動することを前提としている。したがって、引用発明における「流量計組立体10」は、本願発明における「振動計(5)」に相当する。
(イ) また、引用発明における「流量計電子装置20」は、本願発明における「計器電子装置(20)」に相当する。
(ウ) さらに、引用発明における「流量計電子装置20」は、「流量計組立体10の剛性変化(ΔK)を検出する」ものであるから、流量計組立体10の変化を検出するものである。
(エ) そして、引用発明における「流量計電子装置20」は、「剛性の有意の変化を決定する」ものであるところ、「剛性変化(ΔK)は最初に許容値224と比較され、剛性変化(ΔK)の方が許容値224よりも大きいならば、エラー状態が決定される」から、流量計組立体10の変化を識別するものであるといえる。
(オ) 前記(ア)~(エ)を総合すると、「計器電子装置」の発明である本願発明と「流量計電子装置」の発明である引用発明は、「振動計の変化を検出及び識別するための計器電子装置」の発明である点において一致する。
イ 構成Aの観点(処理システム)
(ア) 構成Aは、「計器電子装置」が「計器検証パラメータの中心傾向値及び前記計器検証パラメータの分散値を記憶するように構成された記憶システム(204)を含む処理システム(202)を備える」点である。
(イ)a 本願明細書の段落【0108】の「上記の議論は、計器剛性に関連したが、加えて又は代替として、他の計器検証パラメータが用いられてもよい。」との記載を踏まえると、本願発明の「計器検証パラメータ」とは、計器の検証に用いられるパラメータであって計器剛性に関連するものが含まれると解するのが相当である。
b 引用発明において、次の(a)~(c)に示すように、「剛性特性」と「剛性パラメータ」は同じものを意味する用語として用いられているところ、これらは、流量計組立体10という計器の剛性に関連するパラメータであるといえる。
(a) 「第2の振動応答に対する決定と測定のステップを反復して第2の剛性特性(K2)を生成し」及び「第2の振動応答から第2の剛性パラメータ(K2)が生成され」
(b) 「第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較し」及び「第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較され」
(c) 「第2の剛性パラメータ(K2)が剛性パラメータ(K)と比較され」及び「剛性特性の比較」
c そして、引用発明においては、「流量計組立体10の剛性は使用しているうちに時間とともに変化するので、容易で優れた校正チェックが望ましく」としているから、流量計組立体10の剛性を計器の校正チェック(計器の検証)に用いているといえる。
d したがって、前記(ア)において示した「計器検証パラメータ」に係る解釈も踏まえると、引用発明における「剛性特性」及び「剛性パラメータ」は、いずれも、本願発明における「計器検証パラメータ」に相当する。
(ウ) 引用発明における「記憶システム204」及び「処理システム203」は、それぞれ、本願発明における「記憶システム(204)」及び「処理システム(202)」に相当する。
(エ) 引用発明において、「流量計電子装置20」は「処理システム203」を備え、「処理システム203」は「記憶システム204」を備え、「記憶システム204は剛性特性220と、後の時点に生成される第2の剛性特性221とを記憶[する]」ものであるから、引用発明における「流量計電子装置20」は、剛性特性を記憶するように構成された記憶システムを含む処理システムを備えるといえる。
(オ) 前記(ア)~(エ)を総合すると、本願発明と引用発明の構成Aの観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成Aの観点における一致点
「計器電子装置」が「計器検証パラメータを記憶するように構成された記憶システムを含む処理システムを備える」点。
b 構成Aの観点における相違点
本願発明においては、
「記憶システム」が「記憶」する「計器検証パラメータ」が、「計器検証パラメータの中心傾向値及び前記計器検証パラメータの分散値」であるのに対して、
引用発明においては、
「記憶システム204」は、「剛性特性220」と「第2の剛性特性221」を記憶するものの、中心傾向値及び分散値を記憶していない点。
ウ 構成A1の観点(中心傾向値及び分散値の取得について)
(ア) 構成A1は、「処理システム」が「前記記憶システム(204)から前記中心傾向値及び前記分散値を取得[する]」「ように構成されている」ことである。
(イ) 引用発明において、「処理システム203」が「第2の剛性特性(K2)を剛性パラメータ(K)と比較[する]」にあたって、「処理システム203」は「記憶システム204」が記憶した「第2の剛性特性(K2)」及び「剛性パラメータ(K)」を用いていると認められるから、「処理システム203」は、「記憶システム204」から「剛性特性」及び「剛性パラメータ」を取得しているといえる。
(ウ) 以上の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明の構成A1の観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成A1の観点における一致点
「処理システム」が「前記記憶システムから前記計器検証パラメータを取得[する]」点。
b 構成A1の観点における相違点
本願発明においては、
「処理システム」が「前記記憶システム(204)から前記中心傾向値及び前記分散値を取得[する]」のに対して、
引用発明においては、
「処理システム203」は、中心傾向値及び分散値を取得していない点。
エ 構成A2の観点(中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかの検出について)
(ア) 構成A2は、「処理システム」が「前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、帰無仮説を反証することによって前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する」「ように構成されている」ことである。
(イ)a 本願発明における「ベースライン値」という用語の定義について、本願明細書には、次の(a)及び(b)の記載がある。
(a) 段落【0087】
「【0087】
記憶システム204は、ベースライン計器剛性230を記憶することができる。ベースライン計器剛性230は、振動計5の製造中又は較正中に、あるいは前の再較正中に決定されてもよい。例えば、ベースライン計器剛性230は、振動計5がフィールドに設置される前に、検証220によって決定することができる。ベースライン計器剛性230は、浸食/腐食、損傷(例えば、凍結、過圧など)、被膜などの任意の変化が発生する前の導管130、130´の剛性を表す。ベースライン計器剛性230は、複数のベースライン計器剛性測定値の平均値であってもよい。したがって、ベースライン計器剛性230は、以下でより詳細に説明するように、関連付けられた分散特性を有してもよく、ベースライン計器剛性測定値は、変化してもよい。ベースライン計器剛性測定値の変化が大きいほど、分散が大きくなる。」
(b) 段落【0173】
「【0173】
計器剛性及び分散値を使用する例では、ステップ720において、処理システム202は、計器剛性を構成する計器剛性測定値の数に基づいてt値を計算し、t値を使用して確率を計算することができる。一例では、t値は、上述したように、有意水準α及び自由度から決定することができる。計器剛性は、例えば、ベースライン計器剛性などのベースライン値が決定された後に取得された計器剛性測定値から決定された平均計器剛性であってもよい。ベースライン値は、ベースライン中心傾向値であってもよい。したがって、ベースライン計器剛性は、ベースライン計器剛性測定値の平均値であってもよい。」
b 前記a(a)及び(b)の記載からみて、本願発明における「ベースライン値」という用語は、製造段階又は較正段階等の基準となる時点において決定される、計器検証パラメータの基準値を意味するものと解される。
c ここで、引用発明においては、「統計技術を用いて時間的な変化(すなわち、剛性変化(ΔK))を決定することができ[る]」としているところ、かかる「時間的な変化」は、基準となる時点を予め設定し、当該基準時点での特性との比較により決定されることは明らかであるから、「剛性変化(ΔK)」の「決定」は、ある時点(「第2の時間t2」)における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性から統計的にみてどれだけ変化しているかを検出するものであるといえる。
d 前記b及びcを踏まえると、引用発明において、ステップ405において決定される「剛性パラメータ(K)」は、本願発明における「ベースライン値」に相当するものであるといえる。
(ウ) そして、引用発明においては、「K2とKとの間の剛性変化(ΔK)を決定し、剛性変化の決定は、剛性の有意の変化を決定するための任意の統計的方法を採用することができ[る]」としているから、「処理システム203」は、「K2とKとの間の剛性変化(ΔK)」を「統計的な変化」と位置づけて、かかる「統計的な変化」が有意なもの(確率的に意味があると考えられること)であるか否か、すなわち、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(ベースライン値)と比べて、確率的に意味があるといえる程度に異なっているかどうかを統計学上の手法により決定しているといえる。
(エ) 以上の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明の構成A2の観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成A2の観点における一致点
「処理システム」が「前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法により、前記計器検証パラメータがベースライン値と異なっているかどうかを検出する、ように構成されている」点。
b 構成A2の観点における相違点
本願発明においては、
「前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、帰無仮説を反証することによって前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する」のに対して、
引用発明においては、
「前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法」としてどのようなものを採用するのか明らかにしていない点。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、後記イに示す相違点において相違すると認められる。
ア 一致点
「振動計の変化を検出及び識別するための計器電子装置であって、
計器検証パラメータを記憶するように構成された記憶システムを含む処理システムであって、
前記記憶システムから前記計器検証パラメータを取得し、
前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法により、前記計器検証パラメータがベースライン値と異なっているかどうかを検出する、ように構成されている、処理システムを備える、計器電子装置。」である点。
イ 相違点
本願発明においては、
「記憶システム」が「記憶」する「計器検証パラメータ」が、「計器検証パラメータの中心傾向値及び前記計器検証パラメータの分散値」であり、
「処理システム」が「前記記憶システム(204)から前記中心傾向値及び前記分散値を取得し、」
「前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、帰無仮説を反証することによって前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する」のに対して、
引用発明においては、
「記憶システム204」は、「剛性特性220」と「第2の剛性特性221」を記憶するものの、中心傾向値及び分散値を記憶しておらず、したがって、「処理システム203」は、中心傾向値及び分散値を取得しておらず、「前記計器検証パラメータに係る統計学上の手法」としてどのようなものを採用するのか明らかにしていない点。
7 判断
(1) 相違点について
ア 前記6(1)エにおいて検討したとおり、引用発明は、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(ベースライン値)と比べて、確率的に意味があるといえる程度に異なっているかどうかを「統計学上の手法」により決定するものであるところ、前記5(1)ウにおいて示したとおり、流量計の異常を判定するための手法として、流量計の測定値をデータとした「統計的な検定」を用いることは、周知技術であるから(前記周知技術を参照)、引用発明における上記「統計学上の手法」として、「統計的な検定」という手法を採用することは、当業者が当然考慮すべき事項である。
イ そして、前記5(2)カにおいて示したとおり、統計的な検定として「t検定」が広く用いられていることは、周知の事項であるから(前記周知事項を参照)、引用発明において、「t検定」を採用することは、当業者にとって自明に選択し得た事項にすぎない。
ウ ここで、引用発明において「t検定」を採用した場合に採用し得る構成について、詳細に検討する。
(ア) 前記アにおいて示したとおり、引用発明は、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(ベースライン値)と比べて、確率的に意味があるといえる程度に異なっているかどうかを「統計学上の手法」により決定するものであるから、引用発明においてt検定を採用する際に、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(ベースライン値)と同じであるという帰無仮説を立て、当該帰無仮説が棄却される場合に、ある時点における剛性特性が、基準となる時点における剛性特性(ベースライン値)と比べて、異なっていると検出するようにすることは、自然に導き出される事項である。
(イ) また、前記5(2)カにおいて示したとおり、t検定は、観測されたデータの標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1(nは標本数を表す)から計算されるt統計量を用いるものであるから、引用発明においてt検定を採用する際に、「剛性特性」として「剛性特性」の標本平均(本願発明の「中心傾向値」に相当する。)を採用し、t統計量の計算に当該標本平均及び標本分散(本願発明の「分散値」に相当する。)を用いることもまた、自然に導き出される事項である。その際に、それらの標本平均及び標本分散を「記憶システム204」に記憶させ「処理システム203」が取得するようにすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
(ウ) そして、t検定は、帰無仮説H0が正しいという前提において、観測されたデータの標本平均X ̄、標本分散s2、自由度n-1(nは標本数を表す)から計算されるt統計量が、両側検定の場合はt統計量の絶対値がt分布表におけるパーセント点t(n,α/2)より大きい場合に、片側検定の場合はt統計量がt分布表におけるパーセント点t(n,α)より大きい場合(又は-t(n,α)より小さい場合)に、有意水準αで帰無仮説H0を棄却するものである(前記周知事項を参照)から、両側検定及び片側検定いずれの場合であっても、帰無仮説H0のもとで観測されたデータが実現する確率が有意水準αより小さいかを判断し、帰無仮説H0を反証するものである。これは、実質的に、帰無仮説H0が正しいという確率を決定して、帰無仮説H0を反証しているといえる。
(エ) 前記(ア)~(ウ)を総合すると、引用発明においてt検定を採用する際に、「処理システム203」が「記憶システム(204)から「剛性特性」の標本平均(中心傾向値)及び標本分散(分散値)を取得し、前記中心傾向値及び前記分散値に基づいて確率を決定して、帰無仮説を反証することによって前記中心傾向値がベースライン値と異なっているかどうかを検出する」ようにすることは、当業者が容易になし得た事項である。
(2) 総合評価
前記(1)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、引用発明、周知技術及び周知事項に基づいて当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明、周知技術及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
8 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
ア 請求人は、審判請求書において、原査定(補正の却下の決定)が誤りであることの根拠として、次の主張をしている。
なお、審判請求書の「3.本願発明が特許されるべき理由」において、令和4年11月16日に提出された手続補正書により補正された請求項1の記載が明示されていることを踏まえると、本願発明を前記2の(1)において示したとおりに認定したこと自体に争いはないものと認められるから、本件審判の請求は、前審の補正却下の決定に対する不服申立てを伴わないものとして取り扱うこととした(審判便覧61-05.1を参照)。
令和6年1月26日付け拒絶理由通知書は、請求項に係る「帰無仮説」を「剛性パラメータ(K)が平均値と対応比較される」ものとして特徴付けた。原査定は、この主張を「出願人がいうところの「比較することなし」のものとして、変化ゼロに対応した帰無仮説が検討される」と述べることによって変更している。少なくともこの理由により、令和6年4月30日付け手続補正書でした補正は却下されるべきものではない。したがって、原査定は、少なくとも暗黙のうちに、引用刊行物1が「帰無仮説」及び「前記中心傾向値と前記ベースライン値を比較することなしに」を開示していないことを認めているように思われる。
原査定の「変化ゼロに対応した帰無仮説が検討されることは明らかである。」という記述は、引用刊行物1が帰無仮説の一般的な知識及び「前記中心傾向値と前記ベースライン値を比較することなしに」を用いて修正されたという主張である。しかしながら、上記で説明したように、主張され且つ証明された共通技術を用いて引用刊行物を修正することは、主引例又は少なくとも副引例がそのような動機付けを提示しない限り、許されない。この基準は、引用刊行物がこのような動機付けを提示していない場合、審査官が必然的に後知恵バイアスに依拠しているので、原査定における判断を否定するために容易に当てはまり得る。
イ 請求人は、審判請求書において、本願発明が進歩性を有することの根拠として、次の主張をしている。
確認した限りでは、引用刊行物6のみが「t検定」について依拠しているが、当該引用刊行物6については、帰無仮説についての明示的な記述を見出すことはできない。更に、引用刊行物6には、「そのためこの実施例2では、Aという分布とBという分布が同等と見て良いかどうか、という統計における検定(2群の平均値の差の検定で、例えばWelchの方法によるt検定)」のように明示的に記載されている。理解できるように「2群の平均値の差」が帰無仮説ではないので、引用刊行物6のt検定は「帰無仮説を反証すること」を提示していないことは容易に明らかになるように思われる。
さらに、引用刊行物6は、帰無仮説及び「前記中心傾向値と前記ベースライン値を比較することなしに、」に反することを教示している。より具体的には、引用刊行物6は、上記記載に加えて、「前記状態検出手段の直近を含む2つ以上の最近の特定期間におけるそれぞれの出力の分布の平均値と標準偏差とを算出し、その算出した平均値と標準偏差とを比較する」のように教示している。
したがって、先般の拒絶理由通知書及び原査定における「「帰無仮説を反証することによって」というt検定そのままの内容」及び「引用文献1に記載の発明に、周知のt検定にかかる事項を適用することで、」のような記述には承服いたしかねる。
(2) 請求人の主張についての検討
ア 原査定(補正の却下の決定)が誤りであるとの主張について
前記(1)アの主張は、要するに、引用刊行物1(引用文献1)に記載された発明(引用発明)に共通技術(周知技術)を適用する動機付けが提示されていないとの主張である。しかしながら、前記7(1)アイにおいて示したとおり、引用発明に周知技術及び周知事項を適用する動機付けは存在することから、請求人の前記(1)アの主張は採用できない。
イ 本願発明が進歩性を有するとの主張について
前記5(2)において示したとおり、引用刊行物6(引用文献6)は、前記5(2)カにおいて示したt検定に関する周知事項を例示する文献である。そして、本願発明が、引用発明、周知技術及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであることは、前記7において示したとおりである。
したがって、請求人の前記(1)イの主張は採用できない。
9 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-014050