特許拒絶査定不服審判
2024-013599
体脂肪蓄積抑制剤および体重抑制剤
- 審判番号
- 2024-013599
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-179879外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2024年08月23日
- 審決日
- 2024年12月05日
- 公報発行日
- 2025年02月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】長岡香料株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人ブナ国際特許事務所
- 分類
- P18 .575-Z (A61K) / P18 .121-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-179879「体脂肪蓄積抑制剤および体重抑制剤」拒絶査定不服審判事件〔令和 6年 5月21日出願公開、特開2024- 69086〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和4年11月9日を出願日とする特許出願であって、令和6年1月19日付けで拒絶理由が通知され、同年3月25日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月21日付けで拒絶査定がされ、同年8月23日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に明細書、特許請求の範囲及び図面を補正する手続補正書が提出されたものである。
第2 令和6年8月23日に提出された手続補正書による手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年8月23日に提出された手続補正書による手続補正を却下する。
[理由]
1 令和6年8月23日に提出された手続補正書による手続補正の内容
令和6年8月23日に提出された手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、本件補正により補正される前の(すなわち、同年3月25日に提出された手続補正書により補正された)下記(1)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載を下記(2)に示す特許請求の範囲の請求項1の記載とする補正を含むものである。なお、下線は、補正箇所を示すためのものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
1日当たりの有効量として、下記式(I)で示されるエノテインBを3.38mg以上含有する、人間の体脂肪蓄積抑制剤。
【化1】
[図:0001419270000001.jpg]
式(I)中のGは、下記式(II)の構造を示す。
【化2】
[図:0001419270000002.jpg]
」
(2)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1
「【請求項1】
1日当たりの有効量として、下記式(I)で示されるエノテインBを3.38mg以上含有するように、前記エノテインBを含むユーカリ抽出物を含有する、人間の体脂肪蓄積抑制剤。
【化1】
[図:0001419270000003.jpg]
式(I)中のGは、下記式(II)の構造を示す。
【化2】
[図:0001419270000004.jpg]
」
2 本件補正の適否
(1)本件補正の目的
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1については、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明の発明特定事項である「エノテインBを3.38mg以上含有する」に、「ように、前記エノテインBを含むユーカリ抽出物を含有する」という限定を加えることによって、「エノテインB」の含有の形態を特定するものであり、しかも、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明と本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一である。
したがって、本件補正は、特許請求の範囲の請求項1について、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
(2)独立特許要件の検討
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうかについて、検討する。
ア 独立特許要件1
(ア)引用文献1に記載された事項等
a 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2013-32352号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「フルクトース吸収阻害剤」に関して、おおむね次の記載がある。下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】
加水分解性タンニンを有効成分とするフルクトース吸収阻害剤。」
・「【請求項7】
食品形態または医薬品形態である、請求項1~6のいずれかに記載のフルクトース吸収阻害剤。」
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食物中に含まれるフルクトース(果糖)が小腸内で体内に吸収される過程を阻害し、フルクトース摂取に起因する肥満、脂肪肝、糖尿病などの生活習慣病を予防・改善できるフルクトース吸収阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は体内に脂肪が過剰に蓄積した状態である。脂肪が体内に蓄積する原因の一つに糖質(炭水化物)の過剰摂取が挙げられる。一般に、飲食物中に含まれる糖質は、体内に摂取されると、消化酵素によって消化され、主に単糖となって腸管より体内に吸収される。
【0003】
単糖の一種であるグルコース(ブドウ糖)は、消化吸収後、解糖系と呼ばれる酵素群により代謝される。これらの酵素のうち、ホスホフルクトキナーゼを経る段階で代謝調節を受けるため、大量に摂取しても脂肪合成経路はただちに活性化されるわけではない。
一方、同じく単糖の一種であるフルクトース(果糖)は、グルコースとは異なりホスホフルクトキナーゼを迂回する経路で代謝される。そのため、大量に摂取すると肝臓においてすみやかに脂肪合成経路へと流れ、生成した脂肪は脂肪組織に蓄積されていく。それゆえ、通常の摂取量では健康・安全性に問題は生じないが、フルクトースを過剰摂取すると肥満等の病態を惹起するリスクが高まる。」
・「【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、各種食品や飲料、動物用飼料に添加したり、医薬品として用いるには、食経験が豊富で安全性が高く、少量の用量で十分効果が発揮されるフルクトース吸収阻害剤が提供されることが望まれる。さらに、安定して安価に大量入手できれば、産業上非常に有用である。
【0017】
本発明の目的は、天然物由来でフルクトースの体内吸収を特異的に阻害させることができ、しかも安全でかつ各種の食品、医薬品、動物飼料に適用可能で摂取が容易なフルクトース吸収阻害剤を提供することである。」
・「【0027】
上記加水分解性タンニンの具体例として、下記構造体(4)~(8)に示す、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)およびII、ストリクチニン(Strictinin)、カスアリクチン(Casuarictin)、1,3-ジガロイル-4,6-HHDPグルコース(1,3-di-O-galloyl-4,6-HHDP-β-D-glucose)、オエノテインB(Oenothein B)、ユーゲニフロリンD2(Eugeniflorin D2)、1,2,3-トリガロイルグルコース、1,2,3,6-テトラガロイルグルコース、1,2,3,4,6-ペンタガロイルグルコースなどが挙げられ、なかでも、テリマグランジンIおよびII、1,3-ジガロイル-4,6-HHDPグルコース、オエノテインB、ユーゲニフロリンD2からなる群より選ばれる少なくとも1種、または1,2,3-トリガロイルグルコース、1,2,3,6-テトラガロイルグルコース、1,2,3,4,6-ペンタガロイルグルコースからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが望ましい。」
・「【0032】
【化6】
[図:0001419270000005.jpg]
」
・「【0035】
上記加水分解性タンニンの原料としては、特に限定されないが、例えば、加水分解性タンニンを含有する被子植物門双子葉植物綱(エングラー体系)の離弁花植物やタンニン酸などが挙げられる。
【0036】
上記植物からフルクトース吸収阻害活性を有する加水分解性タンニンを得る製造方法は特に制限されるものではなく、通常用いられる方法により製造することができる。また、加水分解性タンニンを抽出して得る場合は、抽出条件も特に制約はなく、例えば、上記植物の各種部位(全草、花、萼、種子、果実、葉、枝、樹皮、根皮、根茎、根等)をそのまま、または裁断、粉砕もしくは細紛した後、搾取または溶媒で抽出することにより加水分解性タンニンの抽出物が得られる。
【0037】
上記植物としては、例えば、フトモモ科、バラ科、モクマオウ科、ブナ科、ツバキ科、アカバナ科、ミソハギ科、ヒシ科、ザクロ科、ノボタン科、シクンシ科、サガリバナ科等が挙げられる。これら植物には、加水分解性タンニンが多く含まれるので、これらの植物を原料にすると効率よく加水分解性タンニンを得ることができる。なかでも、フトモモ科植物が好ましく、さらにはユーカリ属やフトモモ属、ピメンタ属、メラレウカ属植物は食品や香辛料、香料等に用いられる植物が多い。したがって、これらに属するユーカリやチョウジ、オールスパイス等を原料とすると、食経験や安全性の観点から好ましい。特に、ユーカリはフルクトース吸収阻害活性が非常に強く、ユーカリ葉抽出物には加水分解性タンニンが豊富に含まれており、テリマグランジンIおよびII、オエノテインB、ガロイルグルコース類等が多く含まれているので好ましい。」
・「【0040】
上記のようにして得られた植物の抽出物は加水分解性タンニンを多く含むので、そのままの状態で使用することができる。また、必要に応じて加水分解性タンニンに影響のない範囲で脱臭、脱色等の精製処理を加えても良い。
このような精製処理の方法としては、通常の手段を任意に選択して行えば良く、例えば、ろ過または液々抽出、イオン交換樹脂や活性炭カラム等を用い、吸着・脱色・精製等を行えば良い。さらに、凍結乾燥または濃縮処理等により溶液状、ペースト状、ゲル状、又は粉末状の精製物を得ることができる。
【0041】
本発明のフルクトース吸収阻害剤の形態としては、特に限定されず、例えば、所定量の加水分解性タンニンを所望の剤型で含有する単位用量形態で用いてもよいし、前述の方法を用いて植物から得られた抽出物あるいは精製物をそのまま用いてもよい。単位用量形態で用いる場合には、例えば、フルクトース吸収阻害剤と必要に応じて加えられる他の成分とからなる組成物として用いてもよい。
このような組成物としては、例えば、フルクトース吸収阻害剤と適当な担体(食品または医薬品に使用されている担体等)とからなる組成物や、フルクトース吸収阻害剤とフルクトースを含有する組成物等が挙げられる。
フルクトース吸収阻害剤の剤型としては、特に限定されず、例えば、食品(飲食物等)、医薬品、動物飼料、動物飼料用添加剤等の用途に適した形態であればよい。
【0042】
本発明のフルクトース吸収阻害剤における加水分解性タンニンの含有量は、フルクトース吸収阻害剤の単位用量あたり、好ましくは1~5000mgであり、さらに好ましくは10~3000mgであり、特に好ましくは50~1000mgであるのがよい。フルクトース吸収阻害剤の単位用量あたりにおける加水分解性タンニンの含有量が1mg未満であると、腸管からの高いフルクトース吸収阻害作用が不十分となるおそれがある。一方、5000mgを超えると、加水分解性タンニンの含有量に見合った効果が得られないおそれがある。また、加水分解性タンニンを必要以上に摂取すると、体質によっては下痢を引き起こす場合がある。
なお、単位用量とは、本発明のフルクトース吸収阻害剤を錠剤その他の形態で服用するときに、当該形態に含有され、フルクトース吸収阻害効果を生じるように計算された所定量をいう。」
・「【0048】
前記医薬製剤は、フルクトースの吸収阻害に有効な加水分解性タンニンを有効成分として含有することから、フルクトース吸収阻害作用を有する。そのため、フルクトースの過剰摂取によって生じる種々の障害や疾病の予防、改善、治療に有効である。
【0049】
具体的には、例えば、生体内における酸化ストレスの亢進、タンパクの糖化、カルシウムの腎臓沈着、高尿酸血症、ケトーシス、インスリン抵抗性の惹起、心血管系の腎臓病の惹起、糖尿病合併症(糖尿病性腎機能障害、白内障等、下肢の壊死等)といった疾病のほか、高脂血症および単純性脂肪肝、非アルコール性脂肪性肝疾患の予防または治療剤の他、抗肥満剤、内臓脂肪や皮下脂肪等の脂肪蓄積抑制剤、抗動脈硬化症剤、血栓防止剤、トリグリセリド低下作用剤、血中コレステロール低下作用剤等の用途にも適用可能である。」
・「【実施例】
【0052】
以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例で使用した抽出物および加水分解性タンニンの調製、フルクトース吸収阻害活性の評価、および測定されたデータの取り扱いは以下の方法により行った。
【0053】
<抽出物の調製方法>
(ユーカリ葉粗抽出物)
まず、ユーカリ葉5kgを30%エタノール45kgで2時間還流を行った。次に、室温冷却後ろ過し、得られたろ液を減圧濃縮・凍結乾燥してユーカリ葉粗抽出物を得た(収量約1kg)。
【0054】
(20%エタノール溶出画分)
得られたユーカリ葉粗抽出物100gを、樹脂(三菱化学(株)製の「ダイヤイオン(登録商標)HP20」)に吸着させた。次に、0~100%エタノールにて順次溶出させ、各溶出液を得た。そして、分画した各溶出液を減圧濃縮・凍結乾燥した。それらのうち、20%エタノール溶出画分に強いフルクトース吸収阻害活性が認められた。
【0055】
(60%メタノール溶出画分)
得られた各溶出液のうち、20%エタノール溶出画分について、収量16gのうち5gを樹脂(東ソー(株)製の「トヨパール(登録商標)HW40(fグレード)」)に吸着させ、40~100%メタノールを溶離液として用い順次溶出させた。各溶出液の成分分析には、高速液体クロマトグラフィを用いた。すなわち、グラジエントモードで溶媒濃度を変化させて5%酢酸-アセトニトリル(100%→0%)を40℃下のPAQカラム(ナカライテスク(株)製)に流し、フォトダイオードアレイ検出器の測定範囲を270~350nmに設定して各溶出画分の成分分布をモニターした。約20の画分に分画し、それらのうち60%メタノール溶出画分に強いフルクトース吸収阻害活性が認められた。
【0056】
(テリマグランジンI)
20%エタノール溶出画分を分画して得られた各溶出画分のうち、60%メタノール溶出画分について、収量106mgのうち80mgを、上記と同じ溶離液を用いてPAQカラムによりHPLC分取を繰り返し、テリマグランジンI(32mg)を得た。物質の同定は、HPLCの保持時間および各種NMRデータを標準物質と比較することにより確認した。
その他の加水分解性タンニンについては、ユーカリ葉など各種フトモモ科植物より単離・同定したものを用いた。
【0057】
<腸管フルクトース吸収阻害活性の評価方法>
フルクトース吸収阻害活性の評価は、小腸膜モデル実験に利用されているヒト大腸がん由来細胞株Caco-2(大日本住友製薬(株)製)を用いて行った。培地は、DMEM培地(SIGMA社製)に、FCS(BIOWEST社製)を10%、およびNEAA(SIGMA社製)を1%になるよう添加して用いた。
【0058】
6穴トランズウェルインサート(内面積4.2cm2)にCaco-2細胞を播種し、3~4日に一度DMEM培地を交換し、約3週間かけてCaco-2細胞の密度が約2×105cells/インサートになるよう継代培養した。実験前にTEER値を測定し、Caco-2細胞の状態を確認した。表1に示す各試料は、10%ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した。
【0059】
6穴トランズウェルインサートの培地を捨て、インサートの内側、外側をともにリン酸緩衝液(pH7.2)(PBS)で洗浄したのち、糖質および血清を含まないD-PBS(GIBCO社製)に交換した。37℃、5%CO2下で30分間インキュベートし、TEER値を測定した。インサート内に表1に示す各試料のサンプル液を添加し、5分間プレインキュベートした。終濃度が50mMになるようにフルクトース液を添加し、37℃、5%CO2下で3時間インキュベートした。TEER値を測定し、培養前後で数値の低下がみられないもののみインサート外側の透過液を採取し、-80℃下で保存した。表1に示す各試料について3回ずつ測定した。
【0060】
透過液のフルクトース濃度は、D-フルクトースデヒドロゲナーゼ(Gluconobac sp.由来)を用いた酵素法によって測定した(各試薬の濃度はそれぞれ終濃度を表す)。すなわち、100mM PBS(pH6.0)、1% Triton X-100、0.2mM WST-1、8μM 1-メトキシ PMS、および10U フルクトースデヒドロゲナーゼ(東洋紡績(株)製)を含む混合液に透過液を添加し、30℃で3時間反応させたのち、438nmにおける吸光度を測定した。
【0061】
各化合物のフルクトース吸収阻害率を、以下の式(I)を用いて求めた。その結果を表1に表す。比較対照として、没食子酸、エラグ酸、ケルセチン、(+)-カテキン、(-)-エピカテキンおよび(-)-エピガロカテキンガレートも測定した。
(ブランク(10%DMSO)のフルクトース透過量-サンプルのフルクトース透過量)/ブランクのフルクトース透過量×100・・・(I)
【0062】
【表1】
[図:0001419270000006.jpg]
【0063】
表1に示すように、試料No.1~10の加水分解性タンニンは、用量がわずか5μg/mlであるにも拘らず、阻害率が43%以上であり、強いフルクトース吸収阻害活性を有することが分かる。この結果より、加水分解性タンニンは、小腸においてフルクトースの体内吸収を阻害し、フルクトース過剰摂取に起因する肥満等を抑制することが期待される。なお、本実施例では腸管上皮細胞Caco-2を用いるモデル吸収実験(表面積4.2cm2)において、加水分解性タンニンの用量が5μg/mlで有効であることが示されている。ところが、ヒトを含めた哺乳動物では、フルクトースの吸収を行う腸管上皮細胞はこのモデル吸収実験よりもはるかにおびただしく存在し、その表面積はヒトでは200m2に及ぶと推定されている。したがって、臨床上、本発明における加水分解性タンニンの有効容量は少なくとも1mg以上と考えられ、好ましくは10mg以上、さらに好ましくは50mg以上と考えられる。
一方、上記ユーカリ葉粗抽出物(特許文献1の抽出物に相当する)を用いた場合、1000μg/mlの用量で阻害率が65%、100μg/mlの用量で阻害率が20%未満であった。このように、ユーカリ葉粗抽出物をそのまま用いて、フルクトース吸収阻害活性を発揮させるためには、1000μg/mlの用量が必要である。」
b 引用文献1に記載された発明
(a)引用発明1a
引用文献1に記載された事項を、特に【請求項1】、【請求項7】、【0001】ないし【0003】、【0027】、【0032】、【0049】及び【0062】の【表1】に関して整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1a」という。)が記載されていると認める。
<引用発明1a>
「オエノテインBを有効成分とし、体内に脂肪が過剰に蓄積した状態である肥満を改善できる食品形態または医薬品形態であるフルクトース吸収阻害剤。」
(b)引用発明1b
引用文献1に記載された事項を、特に【0037】、【0053】、【0062】及び【0063】の「ユーカリ葉粗抽出物」を用いた場合に関して整理すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明1b」という。)が記載されていると認める。
<引用発明1b>
「ヒトの小腸において、フルクトース吸収阻害活性を発揮させ、フルクトース過剰摂取に起因する肥満等を抑制することが期待される、オエノテインBが多く含まれているユーカリ葉粗抽出物を用いた、フルクトース吸収阻害剤。」
(イ)引用発明1aとの対比・判断
a 対比
本願補正発明と引用発明1aを対比する。
引用発明1aにおける「オエノテインBを有効成分とし」は本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」「を含む」に相当する(当審注:「下記式(I)」については上記1(2)の【請求項1】を参照。以下同様。)。
引用発明1aにおける「体内に脂肪が過剰に蓄積した状態である肥満を改善できる食品形態または医薬品形態であるフルクトース吸収阻害剤」は本願補正発明における「人間の体脂肪蓄積抑制剤」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記式(I)で示されるエノテインBを含む、人間の体脂肪蓄積抑制剤。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1a-1>
本願補正発明においては「1日当たりの有効量として、下記式(I)で示されるエノテインBを3.38mg以上含有するように」と特定されているのに対し、引用発明1aにおいてはそのようには特定されていない点。なお、本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」の含有量は、下限が「3.38mg」と特定されているだけで、上限は特定されていない。
<相違点1a-2>
本願補正発明においては「ユーカリ抽出物を含有する」と特定されているのに対し、引用発明1aにおいてはそのようには特定されていない点。
b 判断
そこで、相違点1a-1及び1a-2について検討する。
(a)相違点1a-1について
引用発明1aにおいて、「オエノテインB」の含有量を「オエノテインB」の効果が十分得られるような量に設定することは、当業者が当然行うことである。
また、引用文献1の【0042】には「本発明のフルクトース吸収阻害剤における加水分解性タンニンの含有量は、フルクトース吸収阻害剤の単位用量あたり、好ましくは1~5000mgであり、さらに好ましくは10~3000mgであり、特に好ましくは50~1000mgであるのがよい。フルクトース吸収阻害剤の単位用量あたりにおける加水分解性タンニンの含有量が1mg未満であると、腸管からの高いフルクトース吸収阻害作用が不十分となるおそれがある。一方、5000mgを超えると、加水分解性タンニンの含有量に見合った効果が得られないおそれがある。」と記載され、同【0063】には「臨床上、本発明における加水分解性タンニンの有効容量は少なくとも1mg以上と考えられ、好ましくは10mg以上、さらに好ましくは50mg以上と考えられる。」と記載されている。
したがって、引用発明1aにおいて、引用文献1に記載された事項、特に「好ましくは10mg以上」という記載事項を考慮して、「オエノテインB」の含有量を「1日当たりの有効量として」「10mg以上」とすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、これは、相違点1a-1に係る本願補正発明の発明特定事項(上記aのとおり、本願補正発明における「エノテインB」の含有量は、上限が特定されていない。)の数値範囲を満たす。
(b)相違点1a-2について
引用文献1の【0037】に「上記植物としては、例えば、フトモモ科、バラ科、モクマオウ科、ブナ科、ツバキ科、アカバナ科、ミソハギ科、ヒシ科、ザクロ科、ノボタン科、シクンシ科、サガリバナ科等が挙げられる。これら植物には、加水分解性タンニンが多く含まれるので、これらの植物を原料にすると効率よく加水分解性タンニンを得ることができる。なかでも、フトモモ科植物が好ましく、さらにはユーカリ属やフトモモ属、ピメンタ属、メラレウカ属植物は食品や香辛料、香料等に用いられる植物が多い。したがって、これらに属するユーカリやチョウジ、オールスパイス等を原料とすると、食経験や安全性の観点から好ましい。特に、ユーカリはフルクトース吸収阻害活性が非常に強く、ユーカリ葉抽出物には加水分解性タンニンが豊富に含まれており、テリマグランジンIおよびII、オエノテインB、ガロイルグルコース類等が多く含まれているので好ましい。」と、ユーカリ葉抽出物にはオエノテインBが多く含まれているので好ましい旨記載されていることから、引用発明1aにおいて、「オエノテインB」の原料を「ユーカリ葉抽出物」として、相違点1a-2に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(c)効果について
本願補正発明の奏する「天然物由来で安全性が高く、安定して供給することができ、比較的少量で体脂肪蓄積効果が発揮される。」(本願の発明の詳細な説明の【0008】)という効果は、本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」の含有量の上限が特定されていない以上、本願補正発明の効果であるとはいえないことから、引用発明1a及び引用文献1に記載された事項(【0062】及び【0063】)からみて、本願補正発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとはいえない。
c まとめ
したがって、本願補正発明は引用発明1a、すなわち引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(ウ)引用発明1bとの対比・判断
a 対比
本願補正発明と引用発明1bを対比する。
引用発明1bにおける「オエノテインBが多く含まれているユーカリ葉粗抽出物を用いた」は本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」「を含むユーカリ抽出物を含有する」に相当する。
引用発明1bにおける「ヒトの小腸において、フルクトース吸収阻害活性を発揮させ、フルクトース過剰摂取に起因する肥満等を抑制することが期待される」「フルクトース吸収阻害剤」は本願補正発明における「人間の体脂肪蓄積抑制剤」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記式(I)で示されるエノテインBを含むユーカリ抽出物を含有する、人間の体脂肪蓄積抑制剤。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点1b>
本願補正発明においては「1日当たりの有効量として、下記式(I)で示されるエノテインBを3.38mg以上含有するように」と特定されているのに対し、引用発明1bにおいてはそのようには特定されていない点。なお、本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」の含有量は、下限が「3.38mg」と特定されているだけで、上限は特定されていない。
b 判断
(a)相違点1bについて
相違点1bは相違点1a-1と同じであるから、その判断も同じである。すなわち、引用発明1bにおいて、引用文献1に記載された事項、特に「好ましくは10mg以上」という記載事項を考慮して、「オエノテインB」の含有量を「1日当たりの有効量として」「10mg以上」とすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、これは、相違点1bに係る本願補正発明の発明特定事項(上記aのとおり、本願補正発明における「エノテインB」の含有量は上限が特定されていない。)の数値範囲を満たす。
(b)効果について
そして、本願補正発明の奏する「天然物由来で安全性が高く、安定して供給することができ、比較的少量で体脂肪蓄積効果が発揮される。」という効果は、本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」の含有量の上限が特定されていない以上、本願補正発明の効果であるとはいえないことから、引用発明1b及び引用文献1に記載された事項からみて、本願補正発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとはいえない。
c まとめ
したがって、本願補正発明は引用発明1b、すなわち引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(エ)請求人の主張について
a 請求人の主張の概要
(a)審判請求書における主張
請求人は、審判請求書においておおむね次のとおり主張する。
「引用文献1には、上記のように種々の加水分解性タンニンによるフルクトース吸収阻害効果が記載され(表1)、このような加水分解性タンニンは、ユーカリに含まれていることが記載されています(段落[0037])。しかし、引用文献1には、単離されたオエノテインB(エノテインB)によるフルクトース吸収阻害効果は記載されているものの(表1)、オエノテインB(エノテインB)を含むユーカリ抽出物による効果について、記載も示唆もされていません。
したがって、体脂肪蓄積抑制効果を発揮させるために、1日当たりの有効量として、エノテインBを3.38mg以上含有するユーカリ抽出物を摂取すればよいことを、たとえ当業者といえども引用文献1の記載からは容易に想到し得ません。1日当たりの有効量として、エノテインBを3.38mg以上含有するユーカリ抽出物を摂取することによって、優れた体脂肪蓄積抑制効果が発揮されることは、本願発明によって初めて見出されたものです。本願請求項1を引用する本願請求項2~4に係る発明も同様です。」(審判請求書第6ページ)
(b)令和6年3月25日に提出された意見書における主張
請求人は、令和6年3月25日に提出された意見書においておおむね次のとおり主張する。
「しかし、引用文献1は、あくまでフルクトースの吸収を阻害することが目的であり、フルクトースの吸収が阻害されると、体内に脂肪が蓄積されにくくなるのは副次的な効果です。「脂肪が体内に蓄積する原因の一つ」と記載されていることからも明らかなように、脂肪が体内に蓄積する原因は、フルクトースの吸収だけではありません。引用文献1には、エノテインBを1日当たり3.38mg以上摂取することによって、フルクトースの吸収以外に起因する体脂肪の蓄積をも積極的に抑制することについて、一切記載も示唆もされていません。
本願請求項1に係る人間の体脂肪蓄積抑制剤は、エノテインBを1日当たり3.38mg以上摂取することによって、上記のようなフルクトースの吸収阻害による副次的な効果によるものだけでなく、フルクトースの吸収以外に起因する体脂肪の蓄積についても積極的に抑制することを、初めて見出したことによって成されたものです。したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1の記載から当業者が容易に想到し得たものではありません。本願請求項1を引用する本願請求項2~5に係る発明も同様です。
さらに、エノテインBを1日当たり3.38mg以上摂取することによって、引用文献1に記載のような副次的な効果によるものだけでなく、体脂肪の蓄積が積極的に抑制されると、体重が低減するか、あるいは体重が増加しにくくなり、体重が抑制されます。」(上記意見書第4ページ)
b 請求人の上記主張についての判断
請求人の上記主張について検討する。
(a)審判請求書における主張について
引用文献1の【0062】の【表1】には、「オエノテインB」が、用量がわずか5μg/mlであるにもかかわらず、フルクトース吸収阻害率が63%と高いことが記載されている。
また、引用文献1の【0037】には「ユーカリ葉抽出物には加水分解性タンニンが豊富に含まれており、テリマグランジンIおよびII、オエノテインB、ガロイルグルコース類等が多く含まれているので好ましい。」と記載され、同【0040】には「上記のようにして得られた植物の抽出物は加水分解性タンニンを多く含むので、そのままの状態で使用することができる。」と記載されている。
さらに、引用文献1の【0003】には「一方、同じく単糖の一種であるフルクトース(果糖)は、・・・(略)・・・大量に摂取すると肝臓においてすみやかに脂肪合成経路へと流れ、生成した脂肪は脂肪組織に蓄積されていく。・・・(略)・・・フルクトースを過剰摂取すると肥満等の病態を惹起するリスクが高まる。」と記載され、該記載から、フルクトースの吸収を阻害することで、肝臓における脂肪合成を防ぎ、また、生成した脂肪の脂肪組織への蓄積を防ぐことができ、肥満等の病態を惹起するリスクを低くできることが理解できる。
したがって、「オエノテインB」が多く含まれ、「そのままの状態で使用することができる」「ユーカリ抽出物」も、用量がわずかでも、高いフルクトース吸収阻害率を有することが記載又は示唆されているといえ、「引用文献1には、単離されたオエノテインB(エノテインB)によるフルクトース吸収阻害効果は記載されているものの(表1)、オエノテインB(エノテインB)を含むユーカリ抽出物による効果について、記載も示唆もされていません。」とはいえない。
そして、「オエノテインB」の1日当たりの有効量については、上記(イ)b(a)及び(ウ)b(a)のとおり、当業者が容易に想到し得たことであり、「体脂肪蓄積抑制効果を発揮させるために、1日当たりの有効量として、エノテインBを3.38mg以上含有するユーカリ抽出物を摂取すればよいことを、たとえ当業者といえども引用文献1の記載からは容易に想到し得ません。」ともいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(b)令和6年3月25日に提出された意見書における主張について
上記(a)で示したとおり、引用文献1の【0003】の記載から、フルクトースの吸収を阻害することで、肝臓における脂肪合成を防ぎ、また、生成した脂肪の脂肪組織への蓄積を防ぐことができ、肥満等の病態を惹起するリスクを低くできることが理解できる。
そうすると、引用発明1aは、「肥満を改善できる」「フルクトース吸収阻害剤」であり、引用発明1bは「肥満を抑制することが期待される」「フルクトース吸収阻害剤」であるところ、肥満を改善・抑制するということは、体脂肪の蓄積を抑制することと変わるものではないといえる。
また、本願の発明の詳細な説明及び図面には、本願補正発明が「フルクトースの吸収以外に起因する体脂肪の蓄積」を「積極的に抑制している」ことを確認する記載はないから、本願補正発明が「フルクトースの吸収以外に起因する体脂肪の蓄積をも積極的に抑制する」「体脂肪蓄積抑制剤」であるとはいえない。
さらに、本願補正発明は「フルクトースの吸収以外に起因する体脂肪の蓄積」を抑制する「体脂肪蓄積抑制剤」に限定されている訳でもない。
そして、「オエノテインB」の1日当たりの有効量については、上記(イ)b(a)及び(ウ)b(a)のとおり、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、仮に「引用文献1には、エノテインBを1日当たり3.38mg以上摂取することによって、フルクトースの吸収以外に起因する体脂肪の蓄積をも積極的に抑制することについて、一切記載も示唆もされていません。」といえたしても、「本願請求項1に係る発明は、引用文献1の記載から当業者が容易に想到し得たものではありません。」とはいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
イ 独立特許要件2
(ア)引用文献2に記載された事項等
a 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である韓国公開特許第10-2021-0112647号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「エノテインB類似体を有効成分として含有する体重減量用組成物」に関して、おおむね次の記載がある。なお、引用文献2は外国語文献のため訳文のみを摘記する。
・「(57)要約
本発明は、エノテインB類似体を含む肥満および/または肥満合併症の治療もしくは予防のための医薬組成物、抗肥満または体重減量もしくは体脂肪を減らすための食品組成物または飼料組成物に関するものである。」
・「請求範囲
請求項1
以下の化学式(1)で表されるエノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物:
[化学式1]
[図:0001419270000007.jpg]
式の中で、
R1は、OH、CH3、COOH、CHO、=OおよびNH2からなる群から選択されるいずれか1つであり、
R2は(CH2)nで、ここでnは1~6の整数であり、
R3は、-O-、-CH2-および-O(CH2)m-からなる群から選択されるいずれか1つで、ここでmは1~6の整数であり、
R4、R4’、R5 およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立にH、(C1-3)アルキル、(C1-3)アルケニル、(C1-3)アルキニル、シアノ、ハロ、ニトロ、チオ、フェニル、ヒドロキシル、(C1-3)アルコキシ、(C2-4)アシルオキシ、(C1-3)カルボキシアミノ、フェノキシおよびフェニルメトキシからなる群から選択されるいずれか1つであり、
R7およびR8は-OHである。」
請求項2
以下の化学式(2)で表されるエノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物:
[化学式2]
[図:0001419270000008.jpg]
式の中で、
R1は、OH、CH3、COOH、CHO、=OおよびNH2からなる群から選択されるいずれか1つであり、
R2は(CH2)nで、ここでnは1~6の整数であり、
R3は、-O-、-CH2-および-O(CH2)m-からなる群から選択されるいずれか1つで、ここでmは1~6の整数であり、
R4、R4’、R5およびR6は、互いに同一もしくは異なっており、それぞれ独立に、H、(C1-3)アルキル、(C1-3)アルケニル、(C1-3)アルキニル、シアノ、ハロ、ニトロ、チオ、フェニル、ヒドロキシル、(C1-3)アルコキシ、(C2-4)アシルオキシ、(C1-3)カルボキシアミノ、フェノキシおよびフェニルメトキシからなる群から選択されるいずれか1つであり、
R7’およびR8’は、それぞれ独立に、-O-、-CH2-および-O(CH2)p-からなる群から選択されるいずれか1つで、ここでpは1~6の整数である。
請求項3
第2項において、上記化学式(2)の化合物は、下記化学式(3)で表される化合物である医薬組成物:
[化学式3]
[図:0001419270000009.jpg]
請求項4
第1項~第3項のいずれか1項において、
上記エノテインB類似体は、腹部脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪および血中脂肪から選択される1つ以上の体内脂肪量を減少させるものである、医薬組成物。」
・「技術分野
[0001]本発明は、エノテインB類似体を有効成分として含む抗肥満または体重減少、より好ましくは体脂肪減量に効果を示す組成物およびその用途に関するものである。
背景技術
[0002]世界的に高脂肪、高熱量の食事の増加、および非活動的な生活様式のために、過体重と肥満が急速に増加しており、このような過体重と肥満は、有病率と死亡率を高める危険因子として作用している。肥満は脂肪組織の過剰蓄積状態を意味するが、脂肪組織の過剰蓄積は高血圧、糖尿病などの代謝症候群の発生リスクを高め、心血管疾患の発生とも関連がある。
[0003]近年、これらの代謝障害だけでなく、酸化ストレスの増加が神経学的機能低下および腫瘍発生のリスクを高めることが知られている。特に、女性の体脂肪過多は、血中の高アンドロゲン状態を誘発し、女性ホルモンの増加は、初経の早期開始、排卵障害、黄体期の欠陥、閉経後の健康に影響を与え、性早熟症、生理不順、不妊、多嚢胞性卵巣症候群、および女性ホルモン依存性癌など、さまざまな疾患のリスクを高め得る。
[0004]肥満に対する関心が高まり、肥満を治療するための多様な運動療法、食事療法、薬物療法、手術療法などが提案されている。運動による減量は副作用のない最も効果的な方法として知られているが、忙しい現代生活において肥満の治療に十分な程度の運動を定期的に長期間行うことは非常に困難である。各種食品を注意深く選択して準備しなければならない食事療法を用いた肥満の治療も、少なくとも数ヶ月にわたる長期間の服用を忍耐を持って行うのが難しいという欠点がある。他の方法としては薬物療法があるが、これも長期間にわたって投与してはじめて効果が若干現れるか、薬物によっては薬剤耐性が生じて肥満治療に適さない場合もある。一方、漢方医院では、処方を中心とする漢方療法、鍼治療、鍼電気刺激療法および薬鍼治療などを通じて全身肥満だけでなく、部分肥満治療を施術することもあるが、鍼治療に対して恐怖感または拒否感を感じる場合もある。肥満の治療に使用される従来の方法の欠点または困難を考慮すると、副作用がなく肥満治療の効果を確実に得ることができ、特段の努力を傾けることなく簡単に適用できる肥満治療方法または新規の抗肥満有効成分の開発が必要である。」
・「解決しようとする課題
[0006]本発明が解決しようとする課題は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物を提供することである。
[0007]本発明が解決しようとする他の課題は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を含む肥満改善、体重減量または体脂肪減量用食品組成物を提供することである。
[0008]本発明が解決しようとするもう1つの課題は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の改善または予防用動物飼料組成物を提供することである。
[0009]本発明が解決しようとするもう1つの課題は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を含む低脂肪含有家畜肥育用飼料組成物を提供することである。」
・「課題の解決手段
[0010]上記の課題を解決するために、本発明は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物を提供する。
[0011]本発明において、上記肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物は、体内脂肪量を減少させることができる。
[0012]本発明において、上記組成物は、腹部脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪および血中脂肪から選択される1つ以上の脂肪量を減少させることができる。
[0013]また、本発明は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を含む肥満改善、体重減量または体脂肪減量用食品組成物を提供する。
[0014]本発明において、上記食品組成物は健康機能食品であってもよいが、これに限定されるものではない。
[0015]また、本発明は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の改善または予防用動物飼料組成物を提供する。
[0016]本発明において、上記動物は哺乳動物および鳥類から選択される1つ以上の動物であり得る。
[0017]また、本発明は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を含む低脂肪含有家畜肥育用飼料組成物を提供する。」
・「発明の効果
[0018]本発明によるエノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を含む組成物は、正常または肥満動物モデルにおいて効果的な減量効果を示し、上記体重減量は筋肉量の損失なしに脂肪を減少させることができ、体重減量後も脱水症状、ストレス、体力低下または毒性などの副作用を示さなかったため、体重減量、体脂肪減量、肥満治療、改善または予防のための医薬組成物、食品組成物、飼料組成物などの用途で有用に適用することができる。本発明によるエノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容可能な塩を含む組成物を畜産業に適用すれば、筋肉内に蓄積された脂肪層が問題となる肉系などの食用家畜における脂肪含量を減らすことができ、産業的として有用である。」
・「図面の簡単な説明
[0019]図1は、正常体重動物モデルにおいてエノテインB処理による体重変化を確認した実験結果である。
図2は、肥満動物モデルにおいてエノテインB処理による体重変化を確認した実験結果である。
図3は、肥満動物モデルにおいてエノテインB処理による腹部脂肪量の変化を確認した実験結果である。」
・「発明を実施するための具体的な内容
[0020]本発明は、肥満、特に体脂肪を減量することができる新規の天然物由来物質を見つけるために鋭意研究した結果、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩の抗肥満に対する薬理学的効果を確認することにより、本発明を完成した。
[0021]以下、本発明をより詳細に説明する。
[0022]本発明は、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分として含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物を提供する。
[0023]本発明において、「肥満合併症」という用語は、脂肪の過剰蓄積によって有病率が現れる様々な疾患を意味するものであり、上記合併症には、高血圧、糖尿病、高脂血症などの代謝症候群が含まれる。また、腰椎椎間板ヘルニア、変形性関節炎(例えば、足首、膝関節、股関節などに対する変形性関節炎)も含まれる。また、腹部肥満による逆流性食道炎、ヘルニア、ストレス尿失禁も含まれる。また、肥満により首の中の空間が減少して生じる睡眠時無呼吸症や非アルコール性脂肪肝も含まれる。また、狭心症、心筋梗塞、心不全などの心血管疾患も含まれる。また、脳卒中、脳梗塞などの脳血管疾患も含まれる。また、酸化ストレスの増加に伴う神経学的機能低下も含まれる。また、女性の体脂肪過多による女性ホルモンの増加に起因する初経の早期開始、排卵障害、黄体期欠陥、閉経後の健康度、性早熟症、生理不順、不妊、多嚢胞性卵巣症候群および女性ホルモン依存性癌など、様々な疾患が含まれる。上記のように肥満が原因となって現れる様々な合併症があるが、これに限定されるものではない。
[0024]好ましくは、上記肥満合併症は高血圧症;糖尿病;高脂血症;
[0025]腰椎椎間板ヘルニア;変形性関節炎;
[0026]腹部肥満による逆流性食道炎、ヘルニアまたはストレス尿失禁。
[0027]睡眠時無呼吸症;非アルコール性脂肪肝;
[0028]狭心症;心筋梗塞;心不全
[0029]脳卒中;脳梗塞;
[0030]女性の体脂肪過多による女性ホルモンの増加に起因する早い初経;排卵障害;性早熟症;生理不順;不妊;多嚢胞性卵巣症候群などを含めることができる。」
・「[0031]本発明のエノテインは、グルコース(glucose)に安息香酸(shikimicacid)4個がついたものを基本モノマー(monomer)とし、エノテインA、B、C、D、F、Gが存在するが、これらは構造的に非常に類似しており、本発明では、用語「エノテインB類似体」に含まれる(Phytochemistry 40:555-561、1995)。エノテインB(CAS#104987-36-2)は、1569.08の分子量を有するC68H48O44からなる二量体エラジタンニン(dimeric ellagitannin)で、Oenothera erythrosepalaの葉から最初に発見され(J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1、2735-2743、1990)、下記化学式(3)で表される。その後、Oenothera属(Phytochem Anal.23(6):582-587、2012)や Epilobii angustifolli herba(J Chromatogr A. 1173(1-2):146-150、2007) やEucalyptus globulus(Phytochem Anal. 24(2):162-170、2013)などのいくつかの植物でも発見されている。」
・「[0056]本発明によれば、上記組成物は、体内脂肪量を減少させることによって肥満を治療または予防することができる。
[0057]本発明によれば、上記組成物は、腹部脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪および血中脂肪の中から選択される1つ以上の脂肪量を減少させることによって、肥満、肥満合併症、もしくはその両方を治療または予防することができる。
[0058]腹部肥満または内臓肥満は、腹部皮下または内臓に脂肪が蓄積する症状で、様々な合併症を伴うことが知られている。本発明による組成物は、上記の肥満合併症の治療または予防にも使用することができる。
[0059]本発明による組成物は、筋肉量を失うことなく脂肪を選択的に減量することができ、細胞毒性が非常に低いため、肥満、肥満合併症、もしくはその両方を治療または予防するのに有効である。
[0060]また、本発明による組成物は、人体内毒性なしに中性トリグリセリドと脂質の含量を減少させ、体重減量効果および腹部脂肪の減少効果を示すという点で、優れた効果を有する。
[0061]本発明において、「治療」という用語は、上記組成物の投与により肥満および肥満合併症による症状をよくする行為を全て意味するものであり、疾患、疾患の症状、疾病または疾患の二次疾患、もしくはそれに対する素因(predisposition)を治療、軽減、緩和、療法(remedy)、または改善する目的とともに、疾患、疾患の症状、疾病または疾患の二次疾患、もしくはそれに対する素因を有する被験者(ヒトまたは動物)への上記組成物の適用または投与として定義される。
[0062]本発明の医薬組成物は、組成物の総重量に対して、エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩を0.01~95重量%、好ましくは1~80重量%含むことができる。
[0063]本発明の一実施例によれば、上記エノテインB類似体化合物またはその薬学的に許容される塩は、従来の担体、補助剤または希釈剤と混合して通常の製剤化方法で製剤化され、経口投与または非経口投与に適合した形態で製造することができる。
[0064]上記担体、補助剤または希釈剤としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、デンプン、アルジネート、ゼラチン、リン酸カルシウム、カルシウムシリケート、セルロース、メチルセルロース、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、水、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱物油が挙げられる。
[0065]また、製剤化する場合には、通常の充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤などをさらに含んでもよく、マグネシウムステアレート、タルクなどの潤滑剤をさらに添加してもよい。
[0066]経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、溶液、シロップ剤、懸濁剤などの形態で製造することができ、非経口投与の場合は、静脈、子宮内硬膜、腹腔、皮下、筋肉、経皮および脳血管内注射に対する注射剤の形態で製造することができる。
[0067]本発明の医薬組成物は、研究者、獣医師、医師または他の臨床によって考えられる組織系、動物またはヒトにおいて、生物学的または医学的反応を誘発する有効成分または医薬組成物の量、すなわち治療される疾患または障害の症状緩和を誘導する量である治療上有効量で投与することができる。本発明の医薬組成物に対する治療上有効な投与量および投与回数は、所望の効果に応じて変化することは当業者には明らかである。したがって、投与される最適投与量は、当業者によって容易に決定することができ、疾患の種類、疾患の重症度、組成物に含まれる有効成分および他の成分の含有量、製剤の種類、患者の年齢、体重、一般健康状態、性別および食事、投与時間、投与経路および組成物の分泌率、治療期間、同時使用される薬物をはじめとする様々な要因などに応じて調整することができる。本発明の医薬組成物は、個体に様々な経路で投与することができる。例えば、静脈内、腹腔内、筋肉内、動脈内、口腔、心臓内、骨髄内、硬膜内、経皮、腸管、皮下、舌下または局所投与することができるが、これらに限定されない。
[0068]本発明の医薬組成物は、1~10,000mg/kg/日、好ましくは1~200mg/kg/日の量で投与することができ、1日1回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。」
・「[0100]試験例1.正常体重動物モデルにおけるエノテインBの体重減量効果
[0101]エノテインBを滅菌蒸留水に溶解し、20mg/mLの溶液で調製した。調製した溶液を生理食塩水を用いて20倍に希釈した後、1cc注射器を用いて平均13週齢のC57BL6/Jマウスの腹腔に200μLのエノテインB(1mg/mL)を実験1日と3日に48時間間隔を置いて注射し、エノテインB溶液を注射する1日前を始めとして、注射後5日間の体重変化を毎日測定した。蒸留水を対照群として使用し、実験中に脂肪含有量が15%の一般飼料と水を提供した。
[0102]図1は、エノテインBの体重減量効果の結果のグラフを示す。矢印はエノテインBの注射時点を示す。エノテインB注射後1日目から減量効果が現れ、最初の注射後1.5~8.5%の体重が減量し、2回目の注射後1.5~6%の体重が減量した。これらの結果は、エノテインBが短期間で優れた体重減量効果を示し、減量した体重が維持されていることを示唆している。
[0103]試験例2.肥満動物モデルにおけるエノテインBの体重減量効果
[0104]過体重誘導されたマウスを用いて肥満動物モデルにおけるエノテインBの体重減量効果を確認した。平均12週齢のC57BL/6Jマウスに一般飼料(脂肪含有量15%)を脂肪含有量が45%の高脂肪飼料に変えた後給与し、毎日体重変化を測定した。高脂肪飼料給与後、21、23、25日に200μLのエノテインB(1mg/mL)をマウスの腹腔に注入した後、27日目まで毎日体重変化を測定し、対照群は蒸留水を注入した。
[0105]図2に示すように、高脂肪飼料を3週間提供されたマウスの体重は、平均約16.3%増加することが確認された。体重が増加したマウスに200μLのエノテインB(1mg/mL)を48時間間隔で3回腹腔注射した結果、対照群は体重変化が大きくなかったが、エノテインBを注射したマウスの体重は持続的に減少し、注射後6日目に約12.9%の体重が減少した。また、投与後72時間で9%の体重が減量することが観察され、体重減少後も食欲が減少したり、脱水症状を示したり、ストレス、体力低下などが観察されず、毒性などの副作用も観察されなかった。
[0106]試験例3.肥満動物モデルにおけるエノテインBの体重減量効果
[0107]過体重が誘導されたマウスにおいて、エノテインBによる体重減量が脂肪減少によるものであるかを確認するために、試験例2で用いた同じマウスを用いて腹部脂肪の重量を測定し、その結果を図3に示した。
[0108]エノテインBを投与したマウスの場合、対照群と比較して平均約44%の腹部脂肪が減少したことが確認された。これらの結果は、エノテインBの投与による体重減少が脂肪量の減少によるものであることを示している。」
・「[0116]上記の結果は、本発明によるエノテインB類似体が、細胞毒性などの副作用なしに短期間で体内脂肪を減少させることによって減量を誘導し、減量した体重を長期間維持することができることを示す。これらの結果に基づき、本発明によるエノテインB類似体を含む組成物は、体重減量、肥満および肥満合併症の治療、予防または改善のための医薬組成物、食品組成物、特に体重減量用または体脂肪減量用の健康機能食品、飼料組成物として有用に適用することができ、さらに低脂肪含有家畜の肥育のための飼料組成物としても有用である。」
・「図面
図1
[図:0001419270000010.jpg]
図2
[図:0001419270000011.jpg]
図3
[図:0001419270000012.jpg]
」
b 引用文献2に記載された発明
引用文献2に記載された事項を、特に請求項1及び4並びに[0100]ないし[0108]に関して整理すると、引用文献2には次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認める。
<引用発明2>
「腹部脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪および血中脂肪から選択される1つ以上の体内脂肪量を減少させるものであるエノテインBを有効成分として含む肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物。」
(イ)対比・判断
a 対比
本願補正発明と引用発明2を対比する。
引用発明2における「エノテインBを有効成分として含む」は本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインBを含む」に相当する。
引用発明2における「腹部脂肪、内臓脂肪、筋肉内脂肪および血中脂肪から選択される1つ以上の体内脂肪量を減少させるものである」「肥満、肥満合併症、もしくはその両方の治療または予防用医薬組成物」は、人間を対象とすることは明らかである(引用文献2の[0002]ないし[0004]、[0022]ないし[0030]、[0056]ないし[0068]及び[0116]参照。)し、体内脂肪量の減少が体脂肪の蓄積の抑制によるものであることも明らかである(引用文献2の[0058]参照。)から、本願補正発明における「人間の体脂肪蓄積抑制剤」に相当する。
そうすると、両者は次の点で一致する。
<一致点>
「下記式(I)で示されるエノテインBを含む、人間の体脂肪蓄積抑制剤。」
そして、両者は次の点で相違する。
<相違点2-1>
本願補正発明においては「1日当たりの有効量として、下記式(I)で示されるエノテインBを3.38mg以上含有するように」と特定されているのに対し、引用発明2においてはそのようには特定されていない点。なお、本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」の含有量は、下限が「3.38mg」と特定されているだけで、上限は特定されていない。
<相違点2-2>
本願補正発明においては「ユーカリ抽出物を含有する」と特定されているのに対し、引用発明2においてはそのようには特定されていない点。
b 判断
そこで、相違点2-1及び2-2について検討する。
(a)相違点2-1について
引用発明2において、「エノテインB」の含有量を「エノテインB」の効果が十分得られるような量に設定することは、当業者が当然行うことである。
また、引用文献2の[0068]には「本発明の医薬組成物は、1~10,000mg/kg/日、好ましくは1~200mg/kg/日の量で投与することができ、1日1回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。」と記載されている。
そして、「1~10,000mg/kg/日、好ましくは1~200mg/kg/日」という量は、成人の体重を50~70kg程度とすると、50~70mg以上なので、3.38mg以上の範囲にある。
したがって、引用発明2において、引用文献2に記載された事項を考慮して、「エノテインB」の含有量を「1日当たりの有効量として」「50~70mg以上」とすることは、当業者が容易に想到し得たことであり、これは、相違点2-1に係る本願補正発明の発明特定事項(上記aのとおり、本願補正発明における「エノテインB」の含有量は、上限が特定されていない。)の数値範囲を満たす。
(b)相違点2-2について
引用文献2の[0031]に「エノテインB(CAS#104987-36-2)は、・・・(略)・・・・Eucalyptus globulus(Phytochem Anal. 24(2):162-170、2013)などのいくつかの植物でも発見されている。」と、エノテインBはユーカリ植物から発見されていることが記載され、引用文献1の【0037】には、上記ア(ア)aのとおり、ユーカリ葉抽出物にはエノテインBが多く含まれている旨記載されていることから、引用発明2において、「エノテインB」の原料を「ユーカリ葉抽出物」として、相違点2-2に係る本願補正発明の発明特定事項を採用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(c)効果について
本願補正発明の奏する「天然物由来で安全性が高く、安定して供給することができ、比較的少量で体脂肪蓄積効果が発揮される。」という効果は、本願補正発明における「下記式(I)で示されるエノテインB」の含有量の上限が特定されていない以上、本願補正発明の効果であるとはいえないことから、引用発明2並びに引用文献1に記載された事項及び引用文献2に記載された事項([0020])からみて、本願補正発明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるとはいえない。
c まとめ
したがって、本願補正発明は引用発明2、すなわち引用文献2に記載された発明並びに引用文献1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(ウ)請求人の主張について
a 請求人の主張の概要
(a)審判請求書における主張
請求人は、審判請求書においておおむね次のとおり主張する。
「引用文献2にも、エノテインB単独での効果について記載されているものの、エノテインBを含むユーカリ抽出物の効果について、一切記載も示唆もされていません。したがって、体脂肪蓄積抑制効果を発揮させるために、1日当たりの有効量として、エノテインBを3.38mg以上含有するユーカリ抽出物を摂取すればよいことを、たとえ当業者といえども引用文献2の記載からは容易に想到し得ません。本願請求項1を引用する本願請求項2~4に係る発明も同様です。
さらに、本願請求項1に係る発明が、上記のように引用文献1または2の記載から当業者が容易に想到し得たものでなければ、同様の要件を具備する本願請求項5に係る発明も、引用文献1または2の記載から当業者が容易に想到し得たものではありません。本願請求項5を引用する本願請求項6および7に係る発明も同様です。」(審判請求書第6及び7ページ)
(b)令和6年3月25日に提出された意見書における主張
請求人は、令和6年3月25日に提出された意見書においておおむね次のとおり主張する。
「しかし、引用文献2では、in vivoでエノテインBの体脂肪減量効果や体重減量効果が具体的に確認されているものの、人間に対する効果を検証しているわけではなく、マウスおよびマウスの細胞に対しての効果を検証しているにすぎません。マウスと人間とにおいて、脂肪代謝の作用機序は共通する部分があるものの、種間の相違は否めず、代謝の度合いも異なります。そのため、マウスに対する投与量は、人間に対する有効な投与量を見出すための参考にはなりません。
被験薬の効果は、同じヒトであってさえ、人種間で大きな差が生じる可能性が指摘されています。そのため、被験薬(本願においてはエノテインB)に対する人間と動物との生物学的反応は、質的または量的に異なる場合があります。すなわち、人間に対して意図する薬理作用が、動物と同様に発現するとは限りません。このような考えは医薬品開発では一般的です。例えば、添付の参考資料1に示すように、げっ歯類を用いた研究から算出された用量は、安全係数をFDAガイダンスが推奨している10よりも大きな値を設定し、慎重な態度でヒト初回投与試験(FIH:first-in-human)が実施されます(第150頁の左欄第2行目~第25行目)。
ヒト等価用量(HED: human equivalent dose)などの指標に基づいて、動物を用いたデータからヒトでの投与量を算出し、さらに安全係数をかけて臨床試験が実施されます。しかし、それだけでは証拠として不十分なため、ヒトを対象に臨床試験が実施されるわけです。したがって、マウスの実験からヒトでの有効用量をHEDなどから試算することはできるものの、正確な有効用量を見出すことはできないと結論付けられます。引用文献2には、人間に対するエノテインBの1日当たりの摂取量について、記載も示唆もされていません。マウスおよびマウスの細胞の検証結果から、人間に対する有効な用量を特定することは、相当な試行錯誤が必要であり容易ではありません。
本願請求項1に係る人間の体脂肪蓄積抑制剤は、エノテインBを1日当たり3.38mg以上摂取することによって、人間に対して体脂肪の蓄積を効果的に抑制することを、初めて見出したことによって成されたものです。したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献1の記載から当業者が容易に想到し得たものではありません。本願請求項1を引用する本願請求項2~5に係る発明も同様です。
さらに、上述のように体脂肪の蓄積が積極的に抑制されると、体重が低減するか、あるいは体重が増加しにくくなり、体重が抑制されます。本願請求項1に係る発明が、上記のように引用文献2の記載から当業者が容易に想到し得たものでなければ、同様の要件を具備する本願請求項6に係る発明も、引用文献1の記載から当業者が容易に想到し得たものではありません。本願請求項6を引用する本願請求項7および8に係る発明も同様です。」(上記意見書第5ページ)
b 請求人の上記主張についての判断
請求人の上記主張について検討する。
(a)審判請求書における主張について
引用文献2の[0031]に「エノテインB」がユーカリ植物から発見されていることが記載され、当業者であれば、ユーカリ植物が「エノテインB」を含む以上、ユーカリ抽出物自体にも、エノテインB単独での効果と程度の差はあるとしても、同様の効果を奏すると理解するから、「引用文献2にも、エノテインB単独での効果について記載されているものの、エノテインBを含むユーカリ抽出物の効果について、一切記載も示唆もされていません。」とはいえない。
そして、本願補正発明において「エノテインB」の含有量の上限について特定されていないことから、「エノテインB」の1日当たりの有効量については、上記(イ)b(a)のとおり、当業者が容易に想到し得たことであり、「体脂肪蓄積抑制効果を発揮させるために、1日当たりの有効量として、エノテインBを3.38mg以上含有するユーカリ抽出物を摂取すればよいことを、たとえ当業者といえども引用文献2の記載からは容易に想到し得ません。」ともいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(b)令和6年3月25日に提出された意見書における主張について
人間に投与することが予定されている医薬組成物の開発において、その有効性・安全性等をマウス等の動物に対して実験を行った後に、人間に対する臨床試験を行うことは通常行われていることであり、人間に対する有効量は、人間とマウス等の動物との違いを考慮して当業者が適宜決めるべき設計的事項というべきである。
そして、「エノテインB」の1日当たりの有効量については、上記(イ)b(a)のとおり、本願補正発明における「エノテインB」の含有量の上限が特定されていない以上、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、「マウスに対する投与量は、人間に対する有効な投与量を見出すための参考にはなりません。」とはいえないし、「マウスおよびマウスの細胞の検証結果から、人間に対する有効な用量を特定することは、相当な試行錯誤が必要であり容易ではありません。」ともいえない。
よって、請求人の上記主張は採用できない。
(3)むすび
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和6年8月23日に提出された手続補正書による手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、同年3月25日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、上記第2[理由]1(1)の【請求項1】に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は公衆に利用可能となった下記の引用文献1又は2に記載された発明に基づいてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
引用文献1:特開2013-32352号公報
引用文献2:韓国公開特許第10-2021-0112647号公報
3 引用文献に記載された事項等
引用文献1に記載された事項及び引用文献1に記載された発明は、上記第2[理由]2(2)ア(ア)a及びbのとおりである。
引用文献2に記載された事項及び引用文献2に記載された発明は、上記第2[理由]2(2)イ(ア)a及びbのとおりである。
4 対比・判断
上記第2[理由]1及び2(1)のとおり、本願補正発明は本願発明の「エノテインBを3.38mg以上含有する」という発明特定事項に、「前記エノテインBを含むユーカリ抽出物を含有する」」という限定を加えたものである。すなわち、本願発明は、本願補正発明から上記限定を削除したものに相当する。
そして、上記第2[理由]2(2)アのとおり、本願補正発明が引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、上記第2[理由]2(2)イのとおり、本願補正発明が引用文献2に記載された発明並びに引用文献1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、本願発明も引用文献2に記載された発明並びに引用文献1及び2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
5 むすび
したがって、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
第4 結語
上記第3のとおり、本願発明、すなわち請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-013599