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特許拒絶査定不服審判

2024-004301

新型コロナウイルスの検査方法および検査試薬

審判番号
2024-004301
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2022-510682外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2024年03月12日
審決日
2026年03月13日
公報発行日
2026年05月29日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-Z (C12Q)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2022-510682「新型コロナウイルスの検査方法および検査試薬」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 9月30日国際公開、WO2021/193853〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論 本件審判の請求は、成り立たない。

理由

理 由 第1 手続の経緯 本願は、令和3年3月25日(パリ条約による優先権主張 2020年3月27日 日本、2020年10月2日 日本)を国際出願日とする出願であって、手続の主な経緯は次のとおりである。 令和4年 9月27日 審査請求書および手続補正書の提出 令和5年 8月 9日付け 拒絶理由通知書 同年10月11日 意見書の提出 同年12月 5日付け 拒絶査定 令和6年 3月12日 審判請求書の提出 同年 4月11日 手続補正書(審判請求書の請求の理由を対象と するもの)の提出 第2 本願発明 本願の請求項1に係る発明は、令和4年9月27日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 被験者から採取した検体試料、および/または前記検体試料と培地との検体混合液と、水酸化ナトリウムを主成分とする検体処理液とを混合し、混合液を得る工程、 上記混合液を、インキュベーションする工程、 上記インキュベーション後の混合液に、反応液、内部標準物質、プライマー、プローブ、逆転写酵素およびPCR酵素を含むマスターミックスを添加し、最終混合液を得る工程、 上記最終混合液を逆転写反応処理する工程、および 上記逆転写反応処理によって生成したDNAを鋳型にPCRによって増幅されたDNAを前記プローブで検出する工程、 を有し、 前記マスターミックスの量が14μLから16μLである、新型コロナウイルスの検査方法。」(以下、「本願発明」という。) 第3 原査定における拒絶の理由の概要 本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に引用文献2に記載された発明および本願優先日当時の技術常識を組み合わせることにより、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 引用文献1:国立感染症研究所 病原体検出マニュアル 2019-nCov Ver2.8 (online),2020年03月04日,[検索日 20210409], <URL:https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/2019-nCoV20200304v2.pdf> 引用文献2:国際公開第2007/052765号 引用文献3(技術常識を示す文献):特表2019-520042号公報 引用文献4(技術常識を示す文献):特開2018-93756号公報 第4 当審の判断 1 引用文献の記載事項 (1)引用文献1 原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献1は、「病原体検出マニュアル 2019-nCoV Ver.2.9.1」と題する文書であって、次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付したものである(以下、同様)。 ア 「新型コロナウイルス(2019-nCoV)の遺伝子領域2か所、open reading flame 1a (ORF1a)およびspike (S) を特異的に検出する2-step RT-PCR法、あるいは(註)TaqManプローブを用いたリアルタイムone-step RT-PCR法による遺伝子検査により2019-nCoVを同定する。」(第1頁第19~22行) イ 「【操作法】 1.検体の採取と保存 「2019-nCoV(新型コロナウイルス)感染を疑う患者の検体採取・輸送マニュアル」(国立感染症研究所HP)最新版を参照のこと。 喀痰検体の扱いについては、別添の「喀痰検体の前処理法」を参照のこと。」(第1頁第27~31行) ウ 「2.RNAの抽出 広く使用されているQIAamp Viral RNA Mini Kitを用いた方法を示すが、他のウイルスRNA抽出キットを用いてもよい。」(第2頁第1~3行) エ 「4. TaqManプローブを用いたリアルタイムone-step RT-PCR法による2019-nCoVの検出 4.1. 機材および試薬 マイクロピペット(10、20、200、1000μl)、DDW、滅菌微量遠心チューブ(1.5ml)、96wellリアルタイムPCR反応プレート等、8連ストリップキャップまたはプレートシール、リアルタイムPCR装置、プライマー、TaqManプローブ、リアルタイムRT-PCR試薬。 リアルタイムPCR装置、リアルタイムRT-PCR試薬については別添2参照のこと」(第9頁第24~29行) オ 「4.2. リアルタイム RT-PCR用プライマーおよびプローブについて Nセット [図:0001434597000001.jpg] 増幅産物の長さ 128bp ・・・ NセットNo.2(N2セット) [図:0001434597000002.jpg] 増幅産物の長さ 158bp」(第9頁第30行~第10頁第12行) カ 「4.3. リアルタイム one-step RT-PCR(TaqMan プローブ法)反応 例としてQIAGEN 社のQuantiTect(R) Probe RT-PCR kitを用いた反応条件を示した。詳細はキットに添付のマニュアルを参照すること。なお、試薬等の分注操作は全て氷上にて行う。 反応プレートの準備と解析 1) 陽性コントロールRNAはNセット用、N2セット用それぞれ専用のものを用いる。105/μlに希釈された陽性コントロールRNA 10μlをDDWに90μl添加し、十分混合したのちスピンダウンする。次に希釈した陽性コントロールRNA50μlをDDW450μlに添加し、十分混合したのちスピンダウンする(103/μl)。陽性コントロール用RNAは、外来塩基配列を挿入してあるなどして、実験室内コンタミネーションを起こした場合に判別可能なのものを用いることを推奨する。 2) 1)の陽性コントロールを5×103/5μl から5×100/5μl コピーまで10倍階段希釈する。希釈方法は例えばDDW450μl にコントロールRNA50μlを添加し、十分混合したのち次の希釈へ移る。5×101/5μlコピーが安定して検出されればよい。5×100/5μlコピーもおおむね検出される。陽性コントロールの検出精度が確認されていれば1点を用いでも構わない。 3) RNA抽出を行ったサンプルを用いて、表に示した反応液を調製する。 表1 リアルタイムRT-PCR反応液の調製 [図:0001434597000003.jpg] プライマー・プローブはあらかじめ混合してmixを作製し、-30 度に保存して置いて構わない。 4) プレートあるいは8連チューブのウェルに15μlずつ反応液を入れる。陰性コントロールを5uLずつ2ウェルに添加する。 5) RNAを5μlずつ2ウェルに加える。 6) 陽性コントロールRNAを5μlずつ2ウェルに加える。(段階希釈したものを用いる場合は濃度の薄いものからウェルに添加する)。陽性コントロールのコンタミネーション等を防ぐため、シーリングあるいはアルミ箔によるカバー等による工夫を勧める。 7) 反応条件を以下のように設定して反応を開始する。 <反応条件> 使用するリアルタイムPCR装置、試薬および反応容器等によって、最適な反応条件は異なるので、必ず事前に検出感度等の確認をしておく。」(第10頁第19行~第11頁第28行) キ 「図 喀痰検体前処理方法フローチャート [図:0001434597000004.jpg] 」(別添第5頁) (2)引用文献2 原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献2は、「RNAの抽出方法及びRNAの検出方法」と題する発明を公開する国際公開公報であって、次の事項が記載されている。 ア 「請求の範囲 [1] RNA包含体及びRNA分解酵素が含まれる試料と、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬との混合物であって、pHが8.1以上の混合物を、加熱条件下において得る工程と、 前記混合物を前記加熱条件下で維持することによって、前記RNA分解酵素の失活とRNA包含体からのRNA抽出とを行う工程とを含む、RNAの抽出方法。 ・・・ [12] RNA包含体及びRNA分解酵素が含まれる試料と、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬との混合物であって、pHが8.1以上の混合物を、加熱条件下において得る工程と、 前記混合物を前記加熱条件下で維持することによって、前記RNA分解酵素の失活とRNA包含体からのRNA抽出とを行い、抽出されたRNAを含む試料処理液を得る工程と、前記試料処理液と増幅用反応液とを混合してRNA増幅反応を行う、RNA検出方法。 ・・・ [14] 前記処理試薬は、水酸化物、アンモニア、及びアミンからなる群から選ばれるアルカリ物質を含む、請求の範囲第12項に記載のRNA検出方法。 ・・・ [16] 前記試料が、生体試料、生体由来試料、環境試料、及び環境由来試料からなる群から選ばれる、請求の範囲第12項に記載のRNA検出方法。 ・・・ [18] 前記RNA包含体は、細胞、真菌、細菌、及びRNAウィルスからなる群から選ばれる、請求の範囲第12項に記載のRNA検出方法。」(第42頁第1行~第43頁第22行) イ 「技術分野 [0001] 本発明は、試料等の中に存在するRNA分解酵素を失活させる方法、当該試料の中に存在するRNA包含体(細胞、真菌、細菌、ウィルス等)から、或いは、当該試料から分離したRNA包含体から、RNAを簡易かつ安定的に抽出する方法、当該RNAを検出する方法、及びそれら方法に用いる試薬に関する。本発明は、RNA増幅法、特に、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(Reverse Transcription - Polymerase Chain Reaction :以下RT-PCRと略す)法によるRNA増幅法に関する。」(第1頁第4~9行) ウ 「背景技術 [0002] 分子生物学的な解析に用いるRNAを調製するためには、RNA分解酵素(RNase)の作用しない環境下でRNAを調製する必要がある。通常、被験物から細胞、真菌、細菌、ウィルス等(以下、RNA包含体と総称する。)を分離回収し、その後、そのRNA包含体内部からRNAを抽出し、抽出したRNAを精製する過程が必要となる。しかしながら、RNaseは偏在し、その上不活性化がきわめて困難な物質である。このため、生体等試料中のRNA包含体からRNAを精製する際には、RNA包含体内部からのRNAの抽出過程におけるRNase制御(活性の抑制)とRNase除去とを行わなければならず、きわめて厳格かつ煩雑な方法が必要であった。」(第1頁第10~18行) エ 「発明が解決しようとする課題 [0008] RNAは、生体内はもちろんのこと、その生体が存在するあらゆる環境中に普遍的に存在している RNaseによる分解の危険性に常にさらされている。従って、RNA包含体内部からのRNA抽出の際に、迅速な RNase不活性化の処理を行うべきことはもちろんのこと、精製過程においても、精製後においても、RNaseが混入しないような厳重な操作や管理が要求される。 [0009] しかし、従来の方法を用いて試料中のRNAの精製を行っても、夾雑物の除去が困難な場合や試料中のRNAの回収量が一定しない場合も多い。とりわけ試料中の目的とするRNAの含量が少ない場合には、引き続くRNA解析が困難な場合もある。また、これら精製法は、操作が煩雑で時間を要し、操作中のコンタミネーシヨンの機会が高い。これらの理由により、従来の精製法は熟練を要する。従って、これらの問題点を 解決するためには、より簡便で、かつ効果的な試料前処理法が望まれていた。 [0010] ・・・ 本発明の目的は、該試料からRNAを効率よく抽出することにより、さらには、核酸合成反応に対する阻害物質の作用を抑制して、該試料中のRNAを効率よく増幅させることにより、簡便、迅速且つ安定的に、試料中に存在するRNAを検出する方法を提供することにある。」(第3頁第11行~第4頁第5行) オ 「課題を解決するための手段 [0011] 本発明者らは、鋭意検討の結果、生体試料中のRNaseの失活とRNA包含体内部からのRNAの抽出とを一工程で行い、引き続きRNA増幅を行うことによって、上記本発明の目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。 [0012] < RNA分解酵素失活方法 > 下記は、RNA分解酵素(RNase)の失活方法に関する。下記のRNA分解酵素失活方法は、 RNA分解酵素が含まれる試料に対し、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬を用いて、加熱条件下において、前記RNA分解酵素の失活を行う、RNA分解酵素の失活方法である。」(第4頁第8~16行) カ 「[0026] すなわち、上記の方法におけるRNA分解酵素の失活は、試料を還元剤が存在するpH8.1以上のアルカリ性環境に供することによって行われる。 [0027] < RNA抽出方法 > 下記(1)~(11)は、RNAの抽出方法に関する。すなわち本発明の抽出方法は、RNA包含体及びRNA分解酵素が含まれる試料に対し、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬を用いて、加熱条件下において、前記RNA分解酵素の失活と前記RNA包含体からのRNAの抽出とを行う、RNAの抽出方法である。 なお、本発明の方法において、RNA包含体内部からのRNAの抽出とは、RNA包含体の膜構造を破壊することによって膜構造中に包含されていたRNAを抽出し、膜外の環境へ露出させることとして定義する。そして、露出したRNAや、露出したRNAがさらされている外部環境に対して何らかの処理を行うことは、本発明における抽出の定義に含めない。」(第6頁第4~15行) キ 「[0043] < RNA検出方法 > 下記(12)~(22)は、RNA検出方法に関する。本発明のRNA検出方法は、RNA包含体及びRNA分解酵素(RNase)が含まれる試料に対し、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬を用いて、加熱条件下において、前記RNA分解酵素の失活と前記RNA包含体内部からのRNAの抽出とを行い、試料処理液を得て、前記試料処理液と増幅用反応液とを混合してRNA増幅反応を行う、RNA検出方法である。」(第8頁第6~11行) ク 「発明の効果 [0066] ・・・本発明によると、該試料中のRNaseの失活とRNA包含体内部からのRNAの抽出とを一工程で行うことによって、簡便・安定的・効率的且つ迅速に、試料中に存在する RNAを増幅することが可能となる。そして、核酸合成に対する阻害物質の作用を抑制することにより、さらに簡便・安定的・効率的且つ迅速に、試料中に存在するRNAを増幅することが可能となる。このことにより、簡便・安定的・効率的且つ迅速に、試料中のRNAを検出する方法を提供することができる。」(第11頁第2~14行) ケ 「[0069] 1.試料 本発明は、処理対象となる試料として、RNaseが含まれ得るものであればどのような ものにも適用することができる。このような試料として、生体試料、生体由来試料、環境試料、環境由来試料、排泄物試料、排泄物由来試料などが挙げられる。 本発明は、処理対象となる試料として、RNaseに加えてRNA包含体が含まれているものである場合に、特に有用に適用することができる。このような試料として、生体試料、生体由来試料、環境試料、環境由来試料、排泄物試料、排泄物由来試料などが挙げられる。この場合、RNaseの失活とRNA包含体内部からのRNAの抽出とを一工程で行うことができる。」(第13頁第20~28行) コ 「[0071] 生体試料としては、動植物組織や体液等が挙げられる。体液には、血液試料、髄液、唾液、乳等が含まれる。ここで、血液試料には、全血、血漿、血清等が含まれる。 一方、生体由来試料としては、上記生体試料に対して何らかの処理をしたものが含 まれる。」(第14頁第9~12行) サ 「[0081] 処理試薬に含まれてよいアルカリ物質としては、水酸化物、アンモニア、及びアミンから選択すると良い。例えば、水酸化物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが挙げられる。アミンとしては、トリスヒドロキシメチルアミノメタンなどが挙げられる 。これらは単独でまたは複数種を組み合わせて用いることができる。 [0082] 処理試薬中のアルカリ物質の濃度としては、アルカリ物質の種類や、試料の種類や濃度、試料との混合比などにより異なるが、0.1mM~飽和濃度(室温における飽和 濃度)、好ましくは1mM~飽和濃度(室温における飽和濃度)とすることができる。」(第16頁第11~17行) シ 「[0088] 3.加熱条件 加熱処理における温度および時間の条件については、試料中のRNase存在量の違い、RNA包含体の種類の違いに起因する膜構造の壊れやすさの違い、アルカリ物質使用量の違いに起因するpHの違い等によって異なるため、特に限定されるものではない。処理時間は、例えば、1秒から60分程度、好ましくは30秒から30分、更に好ましくは30秒から15分程度とすることができる。 [0089] 処理温度は、30°C以上であることが好ましい。 試料が排泄物試料又は排泄物由来試料である場合、処理温度は、例えば30から100°C程度、或いは45°Cから100°C程度、好ましくは、加熱時間によって異なるが55°Cから80°C程度、さらに好ましくは、加熱時間によって異なるが60°Cから75°C程度とすることができる。 その他の試料の場合は、処理温度は、60°C以上、例えば60°C以上100°C以下程度、好ましくは70°Cから90°C程度、更に好ましくは80°Cから85°C程度とすることができる。80~85°Cで処理する場合は、処理時間は30秒~5分とすることができる。」(第17頁第9~22行) ス 「[0090] 4.RNA分解酵素失活及びRNA抽出 上記の処理試薬を用いて加熱処理することによって、試料に含まれるRNaseの失活と、RNA包含体内部からのRNAの抽出との両方の処理が実現する。」(第17頁第23~25行) セ 「[0093] 5.試料処理液 このようにして、RNaseが失活し、RNAが露出した試料処理液が得られる。なお、試料処理液は、さまざまな工程に供することができる。例えば、RNA解析を行うために行われる、RNA増幅法、ハイブリダイゼーション法などの工程に供することができる。本発明の方法で得られる試料処理液は、RNaseが失活している。このため、安定にRNAを含んでいるため、なんらの処理を行うことなく上記の工程に供することができる。」(第18頁第13~18行) ソ 「[0094] 6.増幅反応液 既に述べた方法で、RNaseが失活し、RNAが露出した試料処理液が得られる。得られた試料処理液は、増幅反応液の調製に用いることができる。 増幅反応液に用いる試料処理液は、上述のように、前記の加熱処理後いかなる処理も行わないものとして得ても良いし、加熱処理後、遠心操作を行うことにより得られた上清液として、或いは、フィルトレーシヨンを行うことによって得られた濾液として得ても良い。」(第18頁第23行~第19頁第1行) タ 「[0095] 6-1.増幅反応液の基本的組成 RNA増幅反応法としては、 RT-PCR法が挙げられるが、RNA増幅を行う方法であれば、これに限定されることなく、どのような方法も用いることができる。 [0096] RNA増幅反応としてRT-PCRを実行する場合、その形態としては、チューブ内に試料処理液とRT用反応液との混合物を用意し、前記チューブ内でRT反応を行い、RT反応産物の一部を他のチューブ内に用意したPCR反応液に添加してPCR反応を行うことにより実行する反応形態 (Two tube-Two step);チューブ内に試料処理液とRT反応液との混合物を用意し、前記チューブ内でRT反応を行い、前記チューブ内の RT反応産物に対してPCR用反応液を添加してPCR反応を行うことにより実行する反応形態(One tube-Two step);及び、チューブ内にRT反応液とPCR反応液との両方を用意しておいて、試料処理液と混合することによって、RT反応とPCR反応とを連続して行うことにより実行する反応形態(One tube-One step)が挙げられる。」(第19頁第11~23行) チ 「[0113] 7.効果 本発明のRNase失活方法及びRNA抽出方法によると、生体試料中のRNaseの失活とRNA包含体内部からのRNAの抽出とを行うことができるため、生体試料中のRNA包含体の精製を行うことなしに簡便・安定的に RNAの試料処理液を得ることができる。さらに、抽出されたRNAに対して、生体試料に含まれるタンパク等の夾雑物による吸着・包埋といった影響を抑制することができると考えられる。このため、本発明のRNA抽出方法は、その後のRNAの検出や解析などに有効である。すなわち、試料処理液に対しては、なんらの処理を行うことなく、或いは、希釈、pHの調整、添加物を加える等の最低限の処理を行うだけで、RNA検出や解析などの引き続く工程に供することができる。従って、本発明の方法を行うことにより、従来から行われてきたRNAの抽出、精製時などにおいて危惧されてきたRNaseによるRNAの分解による影響を心配することなく、そのような工程を簡便・迅速に行うことが可能となる。例えば、本発明は、RNA精製のための前段階として使用することができる。 ・・・ [0115] また、本発明を使用することにより、生体試料中に潜む外来生物 (例えば、RNAウイルスとして、レトロウイルス(エイズウイルス (HIV)等)、ノロウィルス (SRSV)、ロタウイルス、C型肝炎ウィルス(HCV)等、及び、真菌、細菌等)や、変異細胞 (例えば、癌細胞 等)を、簡便・迅速に解析することが可能となる。」(第23頁第18行~第24頁第12行) ツ 「[0170] <実施例12> <1> RNAを精製しない糞便試料を用いたRNA検出 ノロウィルス感染者の糞便を生理食塩水にて20%(w/v)の濃度で懸濁、微量遠心機にて5分間遠心分離し、上清を得た。 一方、ノロウィルス陰性の健常者の糞便を生理食塩水に20%(w/v)の濃度で懸濁し、懸濁液を微量遠心機を用いて5分間遠心分離し、上清を得た。 感染者糞便に由来する上清に対し、健常者糞便に由来する上清を用い10倍段階希釈を行い、6種の糞便試料液D-1~D-6を調製した。具体的には、D-1の希釈率は1倍、 D-2の希釈率は10倍、D-3の希釈率は102倍、D-4の希釈率は103倍、D-5の希釈率は104倍、D-6の希釈率は105倍である。 [0171] 処理試薬としては、30mM NaOH、20mM DTT、lOmM EGTAの組成を有する処理試薬を用いた。 段階希釈を行った上記糞便試料液10μLと、上記処理試薬10μLとを加えて攪拌後、 85°Cで5分間加熱した。 [0172] RT-PCRのRT反応においては、Ampdirect(R) Plus(P/N:241-08800-98:島津製作所)、0.4μΜノロウィルスRNA用リバースプライマー(5'-TGTCACGATCTCATCATCA CC-3':配列番号5)、及び3.75U AMV逆転写酵素を混合したRT-PCR反応液25μLを、上記試料処理液20μLと混合し、42°C、1時間の条件で反応を行った。95°C、2分の条件で酵素失活処理を行った後、RT反応後のチューブに、0.2MノロウィルスRNA用フォワードプライマー(5'-TGGAATTCCATCGCCCACTGG-3':配列番号4)、及び、1.25U Nova Taq(TM)Hot Start DNA Polymerase(EMD Biosciences)を混和し、最終液量50μLとした。PCRは、95°C、5分のプレヒーティングに続いて、92°C、30秒、58°C、30秒、及び 72°C、1分のサイクルを40サイクル行い、その後、72°C、7分のポリメライゼーションを行う温度プログラムで行つた。 [0173] PCR産物の検出は、反応終了後の反応液5μLを用い、2.5%アガロースゲルを含む0.5μg/mL臭化エチジウム添加TAE (40mM Tris- acetate、1mM EDTA)液中での電気泳動により行った。 [0174] < 1 >によって得られた電気泳動図を、図11に示す。図中、レーン1は糞便試料液D-1を用いた結果、レーン2は糞便試料液D-2を用いた結果、レーン3は糞便試料液D-3を用いた結果、レーン4は糞便試料液D-4を用いた結果、レーン5は糞便試料液D-5を用いた結果、レーン6は糞便試料液D-6を用いた結果を示す。レーン7は、ネガティブコントロール(Negative Control)、すなわちノロウィルス感染者糞便のかわりにノロウィルス非感染の健常者糞便を用いたことを除いて同様の操作を行った結果を示す。レーンMは分子量マーカ(φ×174 RF DNAのHincII消化物)である。 [0175] < 2 > 糞便試料から精製したRNAを用いたRNA検出 上記 < 1 >で得られた各希釈感染者糞便に由来する上清に対し、QIAamp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)を適用することによってRNA精製を行い、これらを上記< 1 >の糞便試料液D-1~D-6に対するコントロールとして、6種の精製RNA液E-1~E-6とした。具体的には、E-1はD-1に対応した精製RNA液(1倍)、E-2はD-2に対応した精製RNA液(10倍)、E-3はD-3に対応した精製RNA液(102倍)、E-4はD-4に対応した精製RNA液(103倍)、E-5はD-5に対応した精製RNA液(104倍)、E-6はD-6に対応した精製RNA液(105倍)である。 [0176] 糞便試料液D-1~D-6の代わりに、それぞれ精製RNA液E-1~E-6を用いた以外は、上記< 1 >と同様の操作を行った。 < 2 >によって得られた電気泳動図を、図12に示す。図中、レーン1は精製RNA液E-1を用いた結果、レーン2は精製RNA液E-2を用いた結果、レーン3は精製RNA液E-3を用いた結果、レーン4は精製RNA液E-4を用いた結果、レーン5は精製RNA液E-5を用いた結果、レーン6は精製RNA液E-6を用いた結果を示す。レーン7は、ネガティブコントロール(Negative Control)、すなわちノロウィルス感染者糞便のかわりにノロウィルス非感染の健常者糞便を用いたことを除いて同様の操作を行った結果を示す。レーンΜは分子量マーカ(φ×174 RF DNAのHincII消化物)である。 [0177] 図11及び図12に基づき、RNAを精製しない糞便試料を用いた場合と、糞便試料から精製したRNAを用いた場合とについて、RNA検出の感度・特異性を比較すると、検出限界は、両試料共に希釈率104倍であった。 [0178] 糞便上清中にはウィルスだけでなく多くの細菌や生体由来物質も浮遊しており、そのなかにはRNA分解酵素も多量に存在している。上記の実施例が示す結果は、本発明の実施により、糞便中に多量に存在するRNA分解酵素の失活とRNAウィルスからのRNAの抽出、さらにはRT-PCR阻害物質の制御が有効に働いたことによるものと解釈できる。」(第37頁第13行~第39頁第17行) (3)引用文献3 本願優先日前の技術常識を示す文献である引用文献3には、次の事項が記載されている。 「【0171】 TAQMAN RT-PCRは、例えば、ABI PRISM 7700配列検出システム(Perkin-Elmer-Applied Biosystem、Foster City、Calif.、USA)、又はLightcycler(Roche Molecular Biochemicals、Mannheim、Germany)など、市販の装置を使用して実施することができる。・・・誤差及び試料間のばらつきの効果を最小化するため、RT-PCRは通例、内部標準物質を使用して実施する。理想的な内部標準物質は、異なる組織間で、一定のレベルで発現し、実験処理の影響を受けない。遺伝子の発現パターンを正規化するのに最も頻繁に使用されるRNAは、ハウスキーピング遺伝子である、グリセルアルデヒド-3-リン酸-デヒドロゲナーゼ(GAPDH)及びベータ-アクチンのmRNAである。」(第49頁第33行~第50頁第9行) (4)引用文献4 本願優先日前の技術常識を示す文献である引用文献4には、次の事項が記載されている。 「【0025】 本発明に用いられるPCR反応液には、緩衝剤、適当な塩、マグネシウム塩又はマンガン塩、デオキシヌクレオチド三リン酸、検出対象の食中毒細菌の検出対象領域および内部標準遺伝子に対応するプライマーセット及び蛍光プローブ、さらに必要に応じて添加剤を含んでいてもよい。 【0026】 本発明の検査方法で使用されるPCR試薬では偽陰性発生を防止させるために、工程(2)および(5)のPCRにおいて、インターナルコントロール(内部標準)を含むことがより好ましい。陰性の場合、インターナルコントロール(内部標準)の増幅のみが認められ、PCRが成功したことを確認することができる。一方、PCRの阻害や試薬の添加忘れが発生した場合は、インターナルコントロール(内部標準)の増幅が認められないため、PCRが失敗したことが確認できる。 【0027】 インターナルコントロール(内部標準)としては、検査対象に含まれないターゲットとそのターゲットを増幅するためのプライマーセットを用いればよい。また、インターナルコントロール用にプライマーを別に添加せず、サルモネラ菌、腸管出血性大腸菌(EHEC)、赤痢菌増幅用プライマーを用いて増幅した場合に3菌種とは異なる増幅領域を持つテンプレートのみを添加し、インターナルコントロール(内部標準)としてもよい。」(第5頁第49行~第6頁第16行) 2 判断 (1)引用発明の認定 引用文献1は、喀痰等の検体を用いたリアルタイムRT-PCR法を利用した新型コロナウイルス検出のためのマニュアルであって、被験者から採取した喀痰検体(上記1(1)キ)からRNAを抽出する手順(上記1(1)ウ)、及び、抽出されたRNAに対してリアルタイムone-step RT-PCR反応を行う手順(上記1(1)カ)が記載されている。詳細には、「3) RNA抽出を行ったサンプルを用いて、表に示した反応液を調製する。」という手順で引用された「表1 リアルタイムRT-PCR反応液の調整」には、プライマー及びプローブが異なる「Nセット」及び「N2セット」の反応液の配合が記載され、引き続き「4) プレートあるいは8連チューブのウェルに15μlずつ反応液を入れる。陰性コントロールを5uLずつ2ウェルに添加する。 5) RNAを5μlずつ2ウェルに加える。 6) 陽性コントロールRNA を5μlずつ2ウェルに加える。」という手順が記載されている(上記1(1)カ)。ここで、4)の「陰性コントロールを5uLずつ」、5)の「RNAを5μlずつ」及び6)の「陽性コントロールRNAを5μlずつ」とは、いずれも表1の「Template RNA 5μl」のことであって、コントロールではない5)の「RNA」は検体から抽出されたRNAのことであると解される。また、4)の「15μlずつ反応液」とは、表1の「Total 20μl」から「Template RNA 5μl」を差し引いた部分であると解される。そして、3)~6)の手順で調製されたリアルタイムRT-PCR反応液は、リアルタイムPCR装置で反応させるものである(上記1(1)カの7))。 したがって、引用文献1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。 「リアルタイムone-step RT-PCR反応を利用した新型コロナウイルスの検査方法であって、 被験者から採取した喀痰検体からRNAを抽出する工程、 抽出されたRNA5μLと、2×Master Mix、Forward primer、Reverse primer、TaqMan probe、Qutatitect RTmix、およびDDWからなる反応液15μLを混合する工程、および リアルタイムPCR装置を用いた反応工程 を有する、新型コロナウイルスの検査方法。」(以下、「引用発明」という。) (2)対比 本願発明において、「最終混合物」は「逆転写酵素およびPCR酵素」の両方の酵素を含むから、本願発明の「上記最終混合液を逆転写反応処理する工程、および上記逆転写反応処理によって生成したDNAを鋳型にPCRによって増幅されたDNAを前記プローブで検出する工程」は、1つの容器内で逆転写反応とPCR反応の両方が連続的に行われ、増幅されたDNAをリアルタイムで検出する、いわゆるリアルタイムone-step RT-PCR反応である。よって、「リアルタイムone-step RT-PCR反応を利用した新型コロナウイルスの検査方法」である引用発明も、本願発明の「上記最終混合液を逆転写反応処理する工程、および上記逆転写反応処理によって生成したDNAを鋳型にPCRによって増幅されたDNAを前記プローブで検出する工程」という工程を有していると認められる。 そして、リアルタイムone-step RT-PCR反応を行う反応溶液は、本願発明では「被験者から採取した検体試料、および/または前記検体試料と培地との検体混合液と、水酸化ナトリウムを主成分とする検体処理液とを混合し、混合液を得る工程、上記混合液を、インキュベーションする工程」で得られた「インキュベーション後の混合液」であるのに対して、引用発明では「被験者から採取した喀痰検体からRNAを抽出する工程」で得られた「抽出されたRNA」であって、両者は、被験者から採取した検体を処理してなる検体液の限度で一致する。また、引用発明の「Forward primer」および「Reverse primer」は本願発明の「プライマー」に、引用発明の「TaqMan probe」は本願発明の「プローブ」に、引用発明の「Qutatitect RTmix」の「RT」(Reverse Transcriptaseの略称と認められる。)は本願発明の「逆転写酵素」にそれぞれ該当する。そして、引用発明は、リアルタイムone-step RT-PCR反応を利用したものであるから、引用発明の「2×Master Mix」には、本願発明の「PCR酵素」や「反応液」が含まれていることが自明であるし、これらの各成分は当業者が適宜の順序で添加混合して準備するものにすぎないから、引用発明の「反応液15μL」は、本願発明の「量が14μLから16μLである」「マスターミックス」に相当するといえる。 さらに、リアルタイムPCR装置とは、RT-PCR反応のようなPCR反応で核酸を増幅しながら、その量をプローブを用いてリアルタイムで検出する装置であることが本願優先日当時の技術常識だから、引用発明の「リアルタイムPCR装置を用いた反応工程」は、本願発明の「上記最終混合液を逆転写反応処理する工程、および上記逆転写反応処理によって生成したDNAを鋳型にPCRによって増幅されたDNAを前記プローブで検出する工程」に該当することが明らかである。 したがって、本願発明と引用発明とは、 「被験者から採取した検体を処理してなる検体液に、反応液、プライマー、プローブ、逆転写酵素およびPCR酵素を含むマスターミックスを添加し、最終混合液を得る工程、 上記最終混合液を逆転写反応処理する工程、および 上記逆転写反応処理によって生成したDNAを鋳型にPCRによって増幅されたDNAを前記プローブで検出する工程、 を有し、 前記マスターミックスの量が14μLから16μLである、新型コロナウイルスの検査方法」 である点で一致し、次の点で相違する。 相違点1:被験者から採取した検体を処理してなる検体液が、本願発明では、「被験者から採取した検体試料、および/または前記検体試料と培地との検体混合液と、水酸化ナトリウムを主成分とする検体処理液とを混合し、混合液を得る工程、上記混合液を、インキュベーションする工程」で得られた「インキュベーション後の混合液」であるのに対して、引用発明では、「被験者から採取した喀痰検体から、RNAを抽出する工程」で得られた「抽出されたRNA」である点。 相違点2:本願発明では、「マスターミックス」に「内部標準物質」が含まれるのに対して、引用発明では含まれない点。 (3)判断 ア 相違点1について 引用文献2は、引用文献1と同様に、被験者から採取した検体に含まれるウイルス等からのRNA増幅及び検出という技術分野に属する文献であって(上記1(2)ア、イ)、被験者から採取した検体からウイルス等を分離し、そのRNAを抽出、精製する場合、迅速にRNase不活性化処理をしたり、RNaseが混入しないように厳重に管理する必要であるうえ、精製において夾雑物の除去が困難であったり、RNA回収率が一定しない、精製操作が煩雑で時間を要し、操作中のコンタミネーションの機会が高いといった種々の課題があるところ(上記1(2)ウ、エ)、「RNA包含体及びRNA分解酵素が含まれる試料(被験者から採取した検体)と、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬との混合物であって、pHが8.1以上の混合物を、加熱条件下において得る工程と、前記混合物を前記加熱条件下で維持すること」(上記1(2)ア、オ、カ、キ)という課題解決手段によって、被験者から採取した検体に含まれるRNA分解酵素の失活とRNA抽出とを一工程で行うことで当該課題を解決し(上記1(2)オ、キ、ク、ケ、ス、チ)、引き続き何らの処理を行うことなくRT-PCR等のRNA増幅が行えること(上記1(2)ア、オ、キ、ク)を開示している。 引用発明は、被験者から採取した検体に含まれる新型コロナウイルス(RNAウイルス)をRT-PCR反応を利用して検査するにあたって、検体からRNAを抽出する工程を含む方法であるから、引用発明にも上記課題が内在することは当業者にとって自明である。したがって、引用発明についても、上記課題を解決するために、引用文献2の課題解決手段を適用する動機付けが存在するといえる。 ここで、引用文献2の課題解決手段で使用する「少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬」とは、具体的には0.1mM~飽和濃度の水酸化ナトリウム等のアルカリ物質を含むものであって(上記1(2)サ)、実施例(上記1(2)ツ。実施例12以外は摘記せず。)では、アルカリ物質としてもっぱら水酸化ナトリウムを採用し、還元剤であるDTT(10~50mM)と同等かそれ以上の濃度(10~60mM)で含有するものが用いられているから、水酸化ナトリウムが主成分であるといえる。(なお、本願明細書においては、本願発明の「水酸化ナトリウムを主成分とする」の「主成分」がどの程度の濃度を意味するのかについて定義も例示も記載されておらず、実施例においてさえ「水酸化ナトリウムを含む検体処理液」と記載されるだけで、組成は明らかにされていない。) したがって、引用文献2に記載された「少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬」は、本願発明の「水酸化ナトリウムを主成分とする検体処理液」に該当し、引用文献2の課題解決手段である「RNA包含体及びRNA分解酵素が含まれる試料(被験者から採取した検体)と、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬との混合物であって、pHが8.1以上の混合物を、加熱条件下において得る工程と、前記混合物を前記加熱条件下で維持すること」は、本願発明の「被験者から採取した検体試料、および/または前記検体試料と培地との検体混合液と、水酸化ナトリウムを主成分とする検体処理液とを混合し、混合液を得る工程」及び「上記混合液をインキュベーションする工程」に該当する。そして、引用文献2は、当該課題解決手段によって、RNA分解酵素の失活とRNA抽出とを一工程で行い、引き続き何らの処理を行うことなくRT-PCR等のRNA増幅が行えることを実施例(上記1(2)ツ)で実証したうえで、繰り返し記載している(上記1(2)ア、オ、キ、ク)のだから、上述の動機付けにしたがって、引用発明に引用文献2の課題解決手段を適用することにより、上記相違点1に係る構成に至るものといえる。 イ 相違点2について 核酸増幅の技術分野において、RT-PCRのようなPCRを行う際に、誤差、試料間のばらつきや偽陰性発生を防ぐ目的で内部標準物質を用いることは、例えば引用文献3及び4に記載されているとおり(上記1(3)、(4))、本願優先日当時の技術常識である。引用発明においても、誤差、試料間のばらつきや偽陰性発生が望ましくないことは自明であるから、当該技術常識を適用し、「マスターミックス」を内部標準物質を含むものとすることは、当業者が容易になし得ることにすぎない。 ウ 本願発明の効果について 本願発明の「検体に含まれるウイルスRNAを精製することなく、SARS-CoV-2の感染の有無を、偽陰性の発生を防止しつつ、迅速かつ安価に検査する方法および当該方法を簡便に実施できるキットを提供することができる。」(本願明細書[0019])という効果は、引用文献1、2及び上記技術常識から当業者が予測しうる範囲内のものである。 エ 小括 以上のとおりであるから、本願発明は、引用文献1、2に記載された発明及び本願優先日当時の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 (4)請求人の主張について 請求人は、本願発明と引用発明の相違点として、被験者から採取した検体試料に含まれるウイルスRNAを、混合液を得る工程、インキュベーションする工程、最終混合液を得る工程のいずれにおいても精製せずに逆転写反応処理する工程に供している点(合議体注:上記(2)の相違点1に含まれるものである。)を挙げ、当該相違点はいずれの引用文献にも記載されていない、審査官が指摘した引用文献2の段落[0026]や[0027]にはRNAの精製に関する記載がなく、RNAを精製した否かが明らかではない、引用文献2の実施例12では「<1>RNAを精製しない糞便試料を用いたRNA検出」と「<2>糞便試料から精製したRNAを用いたRNA検出」を比較しているが、<1>では段落[0012]記載のとおりRNA検出前にRNA分解酵素を失活させているためRNAの精製が不要になったにすぎない旨主張する。 しかし、上記(3)アでも指摘したとおり、引用文献2は、ウイルス等の被験物からRNAを抽出、精製する場合の種々の課題を、「RNA包含体及びRNA分解酵素が含まれる試料(被験者から採取した検体)と、少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬との混合物であって、pHが8.1以上の混合物を、加熱条件下において得る工程と、前記混合物を前記加熱条件下で維持すること」という課題解決手段によって、RNA分解酵素の失活とRNA抽出とを一工程で行うことで解決し、引き続き何らの処理を行うことなくRT-PCR等のRNA増幅が行えることを開示しているのだから、その段落[0026]や[0027](上記1(2)カ)にRNAの精製に関する記載がないことは、請求人が挙げる上記相違点が容易想到でないことの理由にはならない。 また、引用文献2の実施例12(上記1(2)ツ)は、糞便試料からノロウイルスを検出するのに、<1>は、糞便試料を「少なくとも還元剤を含むアルカリ性処理試薬」である「30mM NaOH、20mM DTT、10mM EGTAの組成を有する処理試薬」と混合、加熱してそのままRT-PCR反応を行った場合(引用文献2の課題解決手段を採用した方法)、<2>は、市販のRNA精製キット「QIAmp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)」を用いて糞便試料からRNAを精製してからRT-PCRを行った場合(従来方法)であって、<1>と<2>で同等の結果が得られたことから、「上記の実施例が示す結果は、本発明の実施により、糞便中に多量に存在するRNA分解酵素の失活とRNAウイルスからのRNAの抽出、さらにはRT-PCR阻害物質の制御が有効に働いたことによるものと解釈できる。」(上記1(2)ツの段落[0178])と考察し、引用文献2の課題解決手段を採用した<1>の効果を確認したものである。そして、請求人が指摘する、RNA検出前にRNA分解酵素を失活させているためRNAの精製が不要になったこと(段落[0012])は、引用文献2の課題解決手段による課題の解決を述べたものであるから、請求人が指摘する引用文献2の実施例12の<1>や[0012]は、まさに請求人が主張する上記相違点に係る構成を記載したものであって、これを引用発明に適用する動機付けがあることは、上記(3)アで述べたとおりである。(なお、引用文献2の実施例12の<2>で用いられた「QIAmp Viral RNA Mini Kit(QIAGEN社)」は、引用文献1においても喀痰検体からのRNA抽出に用いられており(上記1(1)ウ)、引用文献2の実施例12は、上記相違点1の観点において、<1>が引用文献2の課題解決手段を採用した本願発明に相当し、<2>が引用発明に相当するといえるものである。) したがって、請求人の主張はいずれも採用することができない。 第5 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。

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2024-004301

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