特許拒絶査定不服審判
2023-019687
電荷タグ付きヌクレオチドおよびその使用方法
- 審判番号
- 2023-019687
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-142695
- 請求日
- 2023年11月21日
- 審決日
- 2026年01月20日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】イラミーナ インコーポレーテッド
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 【請求人代理人】結城 仁美
- 【請求人】イルミナ シンガポール ピーティーイー リミテッド
- 【請求人代理人】杉村 憲司
- 【請求人代理人】結城 仁美
- 審判長/審判官
- 審判長 植原 克典
- 審判官 柴原 直司
- 審判官 深草 亜子
- 分類
- P18 .121-Z (C12Q)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-142695「電荷タグ付きヌクレオチドおよびその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 1月 4日出願公開、特開2022- 29〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成31年 2月19日(パリ条約による優先権主張 2018年 2月16日が4件 いずれも米国)を国際出願日とする特願2019-571441号の一部を、令和 3年 9月 1日に新たな特許出願としたものであって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年 1月27日付け 拒絶理由通知書
令和5年 4月27日 意見書、手続補正書の提出
令和5年 7月27日付け 拒絶査定
令和5年11月21日 審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年11月21日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年11月21日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
ポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への標識ヌクレオチドの取り込みを検出することを含む方法であって、
前記ポリメラーゼは、テザーによって固体支持伝導性チャネルにつながれ、
前記標識ヌクレオチドは下記式Iの化合物であって、
【化1】
[図:0001436481000001.jpg]
式I中、
nは、3~10の整数であって、
mは、1~10の整数であって、
tは、0~50の整数であって、
X1は、直接結合、C1-C10アルキル、C1-C10オキサアルキル、C1-C10チアアルキル、またはC1-C10アザアルキルであって、
X2は、1つ以上の個々のCH2残基がペプチド結合および(-O-CH2-CH2-)aの1つ以上で任意に置換されたC1-C20アルキルであり、ここで、aは、1~24の整数であって、
X3は、直接結合またはオリゴヌクレオチドであり、前記標識が前記伝導性チャネルに近接している場合に、前記オリゴヌクレオチドは前記テザーのアクセプター領域にハイブリダイズし、
F1はフルオロホアおよび直接結合から選択され、かつF2は非存在であるかまたはフルオロホアであって、
Aは、
【化2】
[図:0001436481000002.jpg]
であり、
Yは、以下から選択され:
【化3】
[図:0001436481000003.jpg]
qは、1~100の整数であり、
Bは、アミノ酸を含み、
前記q個のBは、約-200e~約+200eの正または負の電荷と、約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度とを有し、
前記伝導性チャネルは、前記取り込み中に前記標識ヌクレオチドを検出する、方法。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和5年4月27日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
ポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への標識ヌクレオチドの取り込みを検出することを含む方法であって、
前記ポリメラーゼは、テザーによって固体支持伝導性チャネルにつながれ、
前記標識ヌクレオチドは下記式Iの化合物であって、
【化1】
[図:0001436481000004.jpg]
式I中、
nは、3~10の整数であって、
mは、1~10の整数であって、
tは、0~50の整数であって、
X1は、直接結合、C1-C10アルキル、C1-C10オキサアルキル、C1-C10チアアルキル、またはC1-C10アザアルキルであって、
X2は、1つ以上の個々のCH2残基がペプチド結合および(-O-CH2-CH2-)aの1つ以上で任意に置換されたC1-C20アルキルであり、ここで、aは、1~24の整数であって、
X3は、直接結合またはオリゴヌクレオチドであり、前記標識が前記伝導性チャネルに近接している場合に、前記オリゴヌクレオチドは前記テザーのアクセプター領域にハイブリダイズし、
F1はフルオロホアおよび直接結合から選択され、かつF2は非存在であるかまたはフルオロホアであって、
Aは、
【化2】
[図:0001436481000005.jpg]
であり、
Yは、以下から選択され:
【化3】
[図:0001436481000006.jpg]
qは、1~100の整数であり、
Bは、アミノ酸を含み、
前記伝導性チャネルは、前記取り込み中に前記標識ヌクレオチドを検出する、方法。」
2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「B」の内容について、「前記q個のBは、約-200e~約+200eの正または負の電荷と、約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度とを有し、」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下、「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1) 引用文献の記載事項
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2017-521082号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は合議体による。以下、同様である。)
(ア) 【請求項39】
核酸シークエンシング方法において、
(a)固体支持体型の電荷センサにテザー係留したポリメラーゼを準備するステップと、
(b)1つ又は複数の標識付けしたヌクレオチドを準備して、標識が前記電荷センサ近傍にあるとき前記標識の存在を前記電荷センサによって検出できるようにするステップと、及び
(c)前記電荷センサを用いて、鋳型核酸に対して相補的な新生ストランドへの前記標識付けしたヌクレオチドの取り込みを検出する検出ステップと、
を有する、方法。
(略)
【請求項47】
請求項39記載の方法において、前記標識付けしたヌクレオチドの1つ又はそれ以上のタイプは、複数の異なるタイプの電荷標識を有する、方法。
(略)
【請求項49】
請求項47記載の方法において、前記電荷標識は、負の電荷標識であるものとする、方法。
【請求項50】
請求項49記載の方法において、前記負の電荷標識は、リン酸基、DMT、カルボキシル基、アミノ酸、及び/又はFMOCのうち1つ又はそれ以上を含む、方法。
【請求項51】
請求項47記載の方法において、前記電荷標識は、正の電荷標識であるものとする、方法。
【請求項52】
請求項51記載の方法において、前記正の電荷標識は、アミノ酸又は第1級アミンを含む、方法。
(イ)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、核酸シークエンシングのプラットフォームを改善して、より一層費用効果がよく、迅速かつ簡便にできるようにする必要性がある。本発明はこの必要性に対処し、また他の利点をも生ずる。」
(ウ)
「【0016】
本発明は、概して核酸シークエンシング用に、並びに核酸検出及び他の解析用に使用できる独特な検出モダリティを提供する。例示的実施形態を図1に示す。簡単に言うと、ポリメラーゼ1は、テザー(係留紐状体)3により、シリコンナノワイヤ製の電界効果トランジスタ(FET)2におけるゲート5に対して不動化する。随意的に、ナノワイヤはシリコン以外の材料により形成できる、又はナノワイヤをナノチューブに代えることができる。随意的に、テザー3は導電性ポリマーストランドとすることができ、このことは、テザーのポリメラーゼ近傍端部における正電荷6、及びテザーのポリメラーゼから遠位であり、ゲート5に付着させた端部における負電荷7によって示す。シークエンシングすべきssDNA4は、ヌクレオチド及び他の試薬とともに、溶液内に導入した後に、ポリメラーゼ1に結合される。相補的ストランドが合成されるとき、FET2の近傍の電荷分布に乱れを生じ、この乱れは、ポリメラーゼ1の立体配座変化の結果として、又はFET2の近傍における電気的活性を有するタグで変更された可能性のあるヌクレオチドの存在に起因して生ずる。電荷分布におけるそれらの変更をナノワイヤFET2によって感知し、またFET相互コンダクタンス電流の変調として検出する。」
(エ)
「【0065】
異なるヌクレオチドタイプは、正電荷部分、負電荷部分及び/又はテザー交雑位置の様々な組合せのうち任意なものに基づいて区別することができると理解されたい。代替的又は付加的に、異なるヌクレオチドタイプの区別に使用される電荷部分は、電荷が同一の符号を有する場合であっても電荷強度は異なることがあり得る。図3に示す例示的形態は、単一テザー交雑位置に基づいて4状態識別及び4つの異なる電荷部分を示す。とくに、dGTP及びdCTPの双方とも、dATP及びdTTPから区別される負の帯電部分を含み、またdGTPは、dCTPにおける電荷よりも識別可能に高い電荷に起因してdCTPから区別することができる。同様に、dATP及びdTTPは、dTTP部分におけるのと比べてdATP部分におけるより高い正電荷により互いに区別することができる。」
(オ)
[図:0001436481000007.jpg]
図1
イ 引用例2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2017-515887号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア) 【請求項1】
タグ付けされたヌクレオチドであって、末端リン酸を有するポリリン酸基、及びトリアゾール、1,2-ジアジン、ジスルフィド、第2級アミン、ヒドラゾン、チオアセトアミド、又はマレイミド-チオ付加体によって、前記ヌクレオチドの前記末端リン酸に共有結合したタグを含む、タグ付けされたヌクレオチド。
【請求項2】
前記タグは、トリアゾールによって前記末端リン酸に共有結合されている請求項1に記載のタグ付けされたヌクレオチド。
(略)
【請求項8】
前記タグは、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ペプチド、ポリエチレングリコール(PEG)、オリゴ糖、炭水化物、ペプチド核酸(PNA)、ビニルポリマー、他の水溶性ポリマー、又はそれらの何れかの組み合わせを含む請求項1~7の何れか1項に記載のタグ付けされたヌクレオチド。
(イ)
「【0004】
技術分野
この出願は、タグ付けされたヌクレオチド組成物、核酸をシークエンシングするための、開示されたタグ付けされたヌクレオチド組成物を調製し及び使用する方法、並びに、特に、ナノポアベースのシークエンシング方法に関する。
(略)
【0006】
背景
核酸のシークエンシングは、核酸のヌクレオチド配列を決定するためのプロセスである。そのような配列情報は、対象を診断及び/又は治療することにおいて有用であり得る。例えば、対象の核酸の配列は、遺伝子疾患を特定し、診断し及びそのための治療法を潜在的に開発するために用いることができる。他の例として、病原体の研究は、伝染病の治療につながり得る。幾つかの疾患は、数百万のヌクレオチドの鎖のうち、わずか1つのヌクレオチドの違いによってキャラクタリゼーションされることから、高度に正確なシークエンシングが不可欠である。
【0007】
核酸をシークエンシングするために用いることのできる、利用可能な方法がある。そのような方法は、しかしながら、高価で、かつ対象の診断及び/又は治療に必要であり得る時間内及び正確性で配列情報を提供できない可能性がある。」
(ウ)
「【0042】
本開示は、本明細書に開示されたタグ付けされたヌクレオチドを使用する、一本鎖核酸(DNA又はRNA)のヌクレオチド配列を決定するための方法を提供する。従って、別の側面において、本開示は、
(a)膜中のナノポアと接触している電解質溶液中にあり、かつ一部にハイブリダイズしたプライマーを有する一本鎖核酸を、核酸ポリメラーゼと少なくとも4つのタグ付けされたヌクレオチドとに、それが、前記プライマーの3’末端ヌクレオチド残基にハイブリダイズした前記一本鎖核酸のヌクレオチド残基に対し、直近の5’である前記一本鎖核酸のヌクレオチド残基に相補的である場合、前記核酸ポリメラーゼにプライマーへのタグ付けされたヌクレオチドの一つの組み込みを触媒させることを許容する条件のもとで、核酸伸長生成物を形成させるために、接触させること、
ただし、前記少なくとも4つのタグ付けされたヌクレオチドの各々は、末端リン酸、アデニン、グアニン、シトシン、チミン若しくはウラシルである塩基、又はそれらそれぞれの誘導体、及びトリアゾール、1,2-ジアジン、ジスルフィド、ヒドラゾン、第2級アミン、チオアセトアミド、又はマレイミド-チオ付加体によってヌクレオチドの末端リン酸に共有結合したタグを有するポリリン酸基を含み、
ただし、(i)各タグ付けされたヌクレオチド中の塩基の種類は、他の3つのタグ付けされたヌクレオチドの各々中の塩基の種類と異なっており、及び(ii)各タグ付けされたヌクレオチドのポリリン酸基中のリン酸の数は、他の3つのタグ付けされたヌクレオチドのポリリン酸基中のリン酸の数と異なっているか、或いは、各タグ付けされたヌクレオチドのポリリン酸基中のリン酸の数は、同じであり、かつ各タグ付けされたヌクレオチド上のタグの種類は、他の3つのタグ付けされたヌクレオチドの各々のタグの種類とは異なっており、
ただし、タグ付けされたヌクレオチドの組み込みは、タグが結合したリン酸の解離をもたらし、
(b)前記膜を通して電圧を印加し、及びナノポアに入っていく、ナノポア中に位置するようになる、及び/又はナノポアを通り抜けて転座する、工程(a)において生成した、タグが結合したポリリン酸に起因する、ナノポアを通した電子的変化を測定することによって、工程(a)における核酸伸長生成物を形成するために、どのタグ付けされたヌクレオチドがプライマーに組み込まれたかを決定すること、ただし、電子的変化は、ポリリン酸基中のリン酸の各異なる数、若しくはタグの各異なる種類のうち、適切な方について異なり、それによって組み込まれたタグ付けされたヌクレオチドに相補的な一本鎖核酸中のヌクレオチド残基を特定し、
(c)シークエンシングされている一本鎖核酸の各核酸残基について、工程(a)及び(b)を反復して繰り返すこと、ただし、工程(a)の各反復において、タグ付けされたヌクレオチドは、それが、前記核酸伸長生成物の3’末端ヌクレオチド残基にハイブリダイズした前記一本鎖核酸のヌクレオチド残基に対し、直近の5’である前記一本鎖核酸のヌクレオチド残基に相補的である場合、前記工程(a)の先行の反復に起因する核酸伸長生成物中に組み込まれ、
それによって、一本鎖核酸の配列を決定すること
を含む、一本鎖核酸(DNA又はRNA)のヌクレオチド配列を決定する方法を提供する。」
(エ)
「【0063】
本明細書で使用される用語「タグ付けされたヌクレオチド」は、ポリリン酸基、塩基、又は糖基に結合したナノポアで検出可能なタグを有する何れかのヌクレオシド-5’-ポリリン酸をいう。ナノポアで検出可能なタグは、ナノポアに入る、ナノポア中に配置されるようになる、ナノポアに捕捉されている、ナノポアを貫通して転座する、及び/又はナノポアを横断することが可能であって、それによってポアを通過する電流における検出可能な変化をもたらす何れかの分子の群又は基(例えば、リンカー、オリゴマー、ポリマー)を含む。例示的なナノポアで検出可能なタグは、限定されないが、何れも任意に色素基、又はフルオロフォアのような化学基で修飾されるか又はそれに結合され得るポリエチレングリコール、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド、炭水化物、ペプチド核酸ポリマー、ロックド核酸ポリマーのような天然又は合成ポリマーを含み、それらは検出可能なポア電流変化をもたらし得る。」
(オ)
「【0078】
タグ付けされたヌクレオチド
幾つかの場合において、タグ付けされたヌクレオチドは、ポリメラーゼで触媒されたヌクレオチドの組み込み事象の間、ヌクレオチドから解離されるタグ(又は標識)を含む。タグは、ヌクレオチドの5’-リン酸又は5’-ポリリン酸鎖に結合され得る。幾つかの場合において、タグは、フルオロフォアを含まない。タグは、ナノポアによって検出されることが可能であり、その電荷、形状、サイズ、又はそれらの何れかの組み合わせによって同定(例えば、他のタグと区別)され得る。タグの例は、種々のポリマーを含む。各種類のヌクレオチド(即ち、A、C、G、T、U)は、一般的に、一意的に認識可能なタグを含む。」
(カ)
「【0106】
図5は、末端リン酸に結合したタグ505を有するヌクレオシドを示す。ここに示されるように、塩基は何れかの塩基(例えば、A、T、G、C、U又はそれらの誘導体)であり得、Rは、何れかの化学基(例えば、H、OH)であり得、nは、何れかの整数(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、又はそれ以上)であり得、Xは、何れかの化学基(例えば、O、NH、S)であり得、Yは、Xと共有結合を形成し、かつタグに結合する何れかの機能的な基であり得る。タグの例は、限定されないが、何れかのサイズ(例えば、2~100個の塩基、5~50個の塩基、又は2~40個の塩基を含む)のオリゴヌクレオチドタグを含む。幾つかの場合において、オリゴヌクレオチドタグは、ホモポリマー又はヘテロポリマーとしてのニトロピロール、ニトロインドール、ネブラリン、ゼブラリン、ベンゼン、又はそれらの誘導体を有する。幾つかの場合において、タグは、リン酸トリエステル、リン酸ジエステル、ホスホロアミド酸、ホスホロチオエート、メチルホスホネート又はボロノホスフェートのヌクレオチド間結合を有する。幾つかの場合において、ヌクレオチド間結合は、モルホリノ基である。
【0107】
幾つかの実施形態において、タグは、「クリックケミストリー」として知られるアジド-アルキンヒュスゲン環化付加を用いてヌクレオチドへ結合されている。例えば、図6は、クリックケミストリーを用いて、6つの炭素スペーサー及び反応性アルキン基を有するタグ(右)と反応する、6個の炭素スペーサー及び反応性アジド基を末端リン酸に結合した6個のリン酸を有するヌクレオチド(左)を示す。本明細書の他の箇所に記載されるように、図21の(A)、(B)及び(C)は、2つの化合物(A及びB)を結合するための3つの例示的なクリックケミストリー反応を示す。これらの3つの例示的なクリック反応は、ヌクレオチドへのタグの結合における使用のために適用することが可能であり、それによって本開示のタグ付けされたヌクレオチドが製造される。このようなクリック反応の使用の詳細な記載は、例において提供される。
【0108】
ある側面において、タグ付けされたヌクレオチドは、末端リン酸を含むポリリン酸尾部を含むヌクレオチドの提供によって形成される。ヌクレオチドの末端リン酸は、アルキン又はアジドに類似するリンカーによって共有結合し得る。タグは、「クリック」反応を用いてヌクレオチド末端リン酸-アジドに共有結合し、トリアゾールを形成し得る。トリアゾールは、アジドとアルキンとの間の反応によって形成され得る。幾つかの実施形態において、ポリリン酸尾部は、少なくとも3つのリン酸、少なくとも4つのリン酸、少なくとも5つのリン酸、少なくとも6つのリン酸、又は少なくとも7つのリン酸を含む。幾つかの実施形態において、ポリリン酸基は、4から6個までのリン酸を含む。幾つかの実施形態において、ポリリン酸基は、少なくとも6つのリン酸を含む。タグは、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ポリエチレングリコール(PEG)、オリゴ糖、炭水化物、ペプチド核酸(PNA)、ビニルポリマー、他の水溶性ポリマー、ペプチド、及びそれらの何れかの組み合わせを含み得る。」
(キ)
[図:0001436481000008.jpg]
図5
[図:0001436481000009.jpg]
図6
[図:0001436481000010.jpg]
図21
(ク)
「【0143】
タグは、その電荷によってナノポアにおいて検出され得る(少なくとも部分的に)。幾つかの場合において、タグ化合物は、或いは、第1の正味電荷、及び、化学的、物理的又は生物学的反応の後、異なる第2の正味電荷を有する電荷化合物である。幾つかの場合において、タグにおける電荷の大きさは、化合物の残りの部分の電荷の大きさと同じである。ある実施形態において、タグは、正に荷電しており、タグの除去によって化合物の電荷が変化する。」
(ケ)
「【0224】
例10 2’-デオキシアデノシン-5’-六リン酸の合成及びクリックケミストリーを用いた末端リン酸へのタグの結合
この例は、アルキン-アジド環化付加クリック反応を用いてタグ付けされたヌクレオチドを作製するための一般的な合成スキームを示す。図25は、2’-デオキシアデノシン-5’-六リン酸(「dA6P」)の合成及びアジド-アルキンクリックケミストリーを用いた末端リン酸へのタグの結合を示す。最初から最後まで反応矢印に従って、試薬は、(i)POCl3及びピロリン酸、(ii)CDI及びDMF、(iii)dATP、(iv)トリエチルアミン及びアジド-酪酸NHS、並びに(v)TAG-アルキンを含む。
【0225】
図25に示すように、ここではタグ付けされたdATP(25)で例示的されているが、タグ付けされたヌクレオチドの合成は、6-のFmoc-アミノヘキサノール(29)で始まり、オキシ塩化リン(POCl3)及び0℃の溶媒としてのリン酸トリエチルを有するピロリン酸と反応して、6-アミノへキシル三リン酸(30)を形成する。6-アミノヘキシル三リン酸は、N,Nカルボニルジイミダゾール(CDI)により活性化され、化合物(31)を形成し、それはdATPと反応し、各アミノヘキシル-dA6P(32)が得られる。ついで、修飾されたdA6Pを、アジド-酪酸-NHSと反応させ、アジド基を含む誘導体(33)が得られる。最後に、アジド誘導体及びヘキシン誘導体化タグ(TAG-アルキン)を、アルキン-アジド環化付加クリック反応を介して、目的のタグ付けされたヌクレオチドTAG-dA6P(25)を得るために反応させる。」
(コ)
[図:0001436481000011.jpg]
図25
ウ 引用例3
原査定の拒絶の理由で引用された、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である国際公開第2017/042038号(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。(引用例3は英語で記載されているので、合議体による翻訳文で示す。)
(ア) 【請求項1】
構造式(I)
N-P-L-T
(I)
[式中、
Nは、ヌクレオシドであり、
Pは、ヌクレオシドの5’-O基に共有結合によって付けられたオリゴリン酸であり、オリゴリン酸は、3~12個のリン酸基からなり、
Lは、オリゴリン酸の末端リン酸基に共有結合によって付けられたリンカーであり、
Tは、リンカーに共有結合によって付けられたポリペプチドタグであり、ポリペプチドは、全体的な電荷を有し、少なくとも1つのヘリックス構造を含む]
の化合物。
【請求項2】
構造式(II):
【化1】
[図:0001436481000012.jpg]
[式中、
塩基は、アデノシン、シチジン、グアノシン、チミジンおよびウリジンから選択され、
Rは、HおよびOHから選択され、
nは、1~4であり、
リンカーは、2~100個の原子の共有結合によって結合した鎖を含むリンカーであり、
ポリペプチドは、全体的な電荷および少なくとも1つのヘリックス構造を含むポリペプチドタグである]
を含む、請求項1に記載の化合物。
(略)
【請求項9】
ポリペプチドタグの全体的な電荷が負であり、任意選択で、ポリペプチドタグの全体的な電荷が、約-10から-30の間である、請求項1または2に記載の化合物。
(略)
【請求項16】
核酸の配列を決定するための方法であって、
(a)膜、膜のシス側およびトランス側の電極、細孔が膜を通って伸長するナノポア、両電極と接触する電解質溶液、ナノポアに隣接して位置する活性ポリメラーゼおよびポリメラーゼと複合体を形成しているプライマー鎖を含む、ナノポアシーケンシング組成物を提供するステップと、
(b)ナノポアシーケンシング組成物を、(i)核酸の鎖および(ii)各々異なるタグを有するタグ付きヌクレオチドのセットと接触させるステップであって、異なるタグが各々、ナノポア中に位置付けられると異なる遮断電流および/もしくは遮断電流を引き起こし、ならびに/または異なる滞留時間を有し、セットが、請求項1から15のいずれか一項に記載の少なくとも1種の化合物を含むステップと、
(c)タグの異なる遮断電流および/もしくは遮断電圧ならびに/または異なる滞留時間を経時的に検出し、核酸配列に対して相補的である(complimentary)ポリメラーゼによって組み込まれた異なるタグ付きヌクレオチドの各々と相関させ、それによって核酸配列を決定するステップと
を含む、前記方法。
(イ)
「[0009]上記の先行開示は、ナノポアシーケンシングの適用にとって有用であるように、十分な長さの滞留時間および十分に狭く識別可能である遮断電流を提供できる特定のポリペプチドタグ構造を教示できなかった。したがって、ポリペプチドタグ付きヌクレオチド組成物ならびにナノポアおよびその他のシーケンシング技術において使用できる方法が依然として必要である。」(p.3)
(ウ)
「[0040]「ナノポアが検出可能なタグ」とは、本明細書において、ナノポア中に入ることができる、ナノポア中に配置するようになることができる、ナノポアによって捕獲され得る、ナノポアを通って転位置することができる、および/またはナノポアを横切ることができ、それによってナノポアを通る電流の検出可能な変化をもたらすタグを指す。例示的なナノポアが検出可能なタグとして、検出可能なナノポア電流の変化をもたらし得る、いずれも任意選択で、色素部分またはフルオロフォアなどの化学基を用いて修飾されてもよく、それらと連結されてもよい、ポリエチレングリコール、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド、炭水化物、ペプチド核酸ポリマー、ロックド核酸ポリマーなどの天然または合成ポリマーが含まれるが、これらに限定されない。」(p.11)
(エ)
「ポリペプチドタグの長さは、少なくとも16個のアミノ酸残基、少なくとも20個のアミノ酸残基、少なくとも25個のアミノ酸残、少なくとも30個のアミノ酸残基、少なくとも40個のアミノ酸残基、少なくとも50個のアミノ酸残基、少なくとも60個のアミノ酸残基、少なくとも70個のアミノ酸残基、少なくとも80個のアミノ酸残基または少なくとも90個のアミノ酸残基であり得る。ヘリックス構造は、少なくとも8個のアミノ酸残基、任意選択で、少なくとも16個のアミノ酸残基、少なくとも20個のアミノ酸残基、少なくとも25個のアミノ酸残基、少なくとも30個のアミノ酸残基、少なくとも40個のアミノ酸残基、少なくとも50個のアミノ酸残基または少なくとも60個のアミノ酸残基を含み得る。例えば、アミノ酸残基の少なくとも50%または少なくとも75%は、A残基である。
ヘリックス構造は、α-ヘリックスであり得、α-ヘリックスの長さは、少なくとも10個のアミノ酸残基、少なくとも16個のアミノ酸残基、少なくとも20個のアミノ酸残基、少なくとも25個のアミノ酸残基、少なくとも30個のアミノ酸残基または少なくとも40個のアミノ酸残基である。前記α-ヘリックスは、少なくとも3個のアミノ酸残基、少なくとも4個のアミノ酸残基、少なくとも5個のアミノ酸残基または少なくとも6個のアミノ酸残基を含む配列モチーフの少なくとも2つの反復を含み得る。配列モチーフは、配列AAAを含み得るホモポリマーであり得る。前記反復は、非ヘリックス形成性であるアミノ酸残基によって中断され得ない。一実施形態においては、前記配列モチーフは、少なくとも2個のA残基または3個のA残基および荷電アミノ酸残基を含み得る4個のアミノ酸からなる。例えば、4個のアミノ酸配列モチーフは、EAAA、AEAA、AAEA、AAAE、DAAA、ADAA、AADA、AAAD、RAAA、ARAA、AARA、AAAR、KAAA、AKAA、AAKAおよびAAAKからなるモチーフの群から選択される、または少なくとも2個のA残基、荷電アミノ酸残基ならびにF、H、I、L、M、T、WおよびYからなる群から選択されるアミノ酸を含む。前記反復は、非ヘリックス形成性であるアミノ酸残基によって中断され得ない。
ポリペプチドタグの全体的な電荷は、負であり得、例えば、ポリペプチドタグの全体的な電荷は、約-10から-30の間である。リンカーから遠位の末端のポリペプチドタグの少なくとも3個、4個または5個のアミノ酸残基は、負電荷を有する残基であり得る。負電荷を有する残基は、グルタミン酸、アスパラギン酸、ガンマ-カルボキシグルタミン酸、ホモ-グルタミン酸、システイン酸、ホスホセリン、ホスホトレオニン、ホスホチロシンおよびそれらの組合せからなる群から選択される。全体に、リンカーから遠位のポリペプチドタグの末端に位置するアミノ酸残基の25%は、リンカーから近位のポリペプチドタグの末端に位置するアミノ酸残基の25%の正味電荷絶対値よりも大きい正味電荷絶対値を有し得る。特定の実施形態においては、ポリペプチドタグは、表4から選択されるポリペプチドタグを含む。」(pp.13-14)
(オ)
「本発明の化合物はまた、構造式(III):
[図:0001436481000013.jpg]
[式中、
「塩基」は、天然に存在する、または天然に存在しない核酸塩基であり、
Rは、HおよびOHから選択され、naは、1~10であり、
「ポリペプチド」は、全体的な電荷を有し、少なくとも1つのヘリックス構造を含むポリペプチドであり、
「-LB-X-LA-」は、リンカーであり、
LAおよびLBは、各々、2~100個の原子の共有結合によって結合した鎖を含み、
Xは、エステル、エーテル、チオエーテル、アミン、アミド、イミド、カーボネート、カルバメート、スクアレート、チアゾール、チアゾリジン、ヒドラゾン、オキシム、トリアゾールおよびジヒドロピリダジンからなる群から選択される化学部分である]
を含み得る。
LAおよびLBは各々独立に、直鎖(C1~C12)アルキル、直鎖(C1~C12)アルケン、直鎖(C1-C12)アルキン、エステル、エーテル、チオエーテル、アミン、アミド、イミド、カーボネート、カルバメート、スクアレート、チアゾール、チアゾリジン、ヒドラゾン、オキシム、トリアゾール、ジヒドロピリダジン、ホスホジエステル、ポリエチレングリコール(PEG)およびそれらの組合せからなる群から選択される化学部分を含み得る。Laは、アミノ酸残基を含み得る。LBは、ポリペプチドタグのN末端またはC末端にアミノ酸残基を含み得る。
本発明の化合物の例は、以下の通りである:
[図:0001436481000014.jpg]
」(pp.15-17)
(カ)
「[00108]本開示は、ポリペプチドタグ付きヌクレオチドを提供し、ポリペプチドは、30個以上のアミノ酸および全体的な電荷を有する。全体的な電荷は、ポリペプチドを構成するアミノ酸側鎖の各々の電荷を合計することに基づく全ポリペプチドのその正味電荷である。ポリペプチド配列中に組み込むことができる多種多様な荷電アミノ酸残基が利用可能であるので、広範な可能性あるナノポア検出特徴を見越して、本開示のポリペプチドタグの全体的な電荷を広範囲にわたって容易に調節(または調整)することができる。」(p.43)
(キ)
「[0140]A.合成dT6P-アジド(化合物(2))
[0141]化合物(2)アジド-リンカー修飾ヌクレオシド六リン酸(dμT6P-N3)を、図1に表される以下の一般的な反応スキームに従って調製する。この一般的な反応スキームは、任意のヌクレオシド-六リン酸化合物、dN6Pを、ヘキシルアミンリンカーおよびアジド基を用いて修飾するために使用できる。
(略)
[0143]B.プロパルギル修飾ポリペプチドタグ、Pra-(EAAA)-E5の合成
(略)
[0147]C.dT6P-アジドおよびPra-(EAAA)-E5のクリック反応
[0148]ポリペプチドタグ付きヌクレオチド、化合物(1)のdT6P-リンカー-(EAAA)16-E5を形成するためにアジド-アルキンクリック反応を、図1の最終ステップに示される同一の一般的なスキームに従って実施でき、所望のdN6P-N3化合物(図1中の8~11)に付けられる「タグ」は、ポリペプチドタグである。ポリペプチドタグのN末端のプロパルギル-グリシン(「Pra」)残基は、アルキン基を提供し、これが、ヌクレオチド上のアジド基とクリック反応を起こして、ヌクレオチドdN6Pを修飾ポリペプチドタグ、Pra-(EAAA)16-E5のN末端プロパルギル基と連結する共有結合を形成する(トリアゾール部分の形成によって)。」(pp.56-60)
(ク)
[図:0001436481000015.jpg]
図1
(2) 引用発明
引用例1は、上記(1)ア(ア)のとおり、電荷センサを用いて、鋳型核酸に対して相補的な新生ストランドへの標識付けしたヌクレオチドの取り込みを検出する検出ステップを有する核酸シークエンシング方法((1)ア(ア)請求項39)を開示する特許文献であって、前記標識としてアミノ酸を含む負の電荷標識((1)ア(ア)請求項47、49、50)またはアミノ酸を含む正の電荷標識((1)ア(ア)請求項47、51、52)が挙げられている。したがって、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「核酸シークエンシング方法において、
(a)固体支持体型の電荷センサにテザー係留したポリメラーゼを準備するステップと、
(b)1つ又は複数の標識付けしたヌクレオチドを準備して、標識が前記電荷センサ近傍にあるとき前記標識の存在を前記電荷センサによって検出できるようにするステップと、及び
(c)前記電荷センサを用いて、鋳型核酸に対して相補的な新生ストランドへの前記標識付けしたヌクレオチドの取り込みを検出する検出ステップと、
を有する、方法であって、
前記標識がアミノ酸を含む負又は正の電荷標識である、方法。」
(3) 対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「固体支持体型の電荷センサ」は、上記(1)ア(ウ)及び(オ)の記載から、本件補正発明における「固体支持伝導性チャネル」に相当する。上記(1)ア(エ)には、異なるヌクレオチドタイプとしてdGTP、dCTP、dATP、dTTPが挙げられているから、引用発明におけるヌクレオチドの塩基部分としてはG、C、A、Tが挙げられていることとなり、これらは引用発明の式IにおけるYの4つの選択肢と一致する。引用発明における「標識付けしたヌクレオチド」、「鋳型核酸に対して相補的な新生ストランド」、「アミノ酸を含む負又は正の電荷標識」は、それぞれ、本件補正発明における「標識ヌクレオチド」、「鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖」、式IにおけるBに相当する。
そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「ポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への標識ヌクレオチドの取り込みを検出することを含む方法であって、
前記ポリメラーゼは、テザーによって固体支持伝導性チャネルにつながれ、
前記標識ヌクレオチドは、
本件補正発明のYに相当する塩基部分が、以下から選択され:
【化3】
[図:0001436481000016.jpg]
本件補正発明のBに相当するタグ部分がアミノ酸を含む負又は正の電荷標識であり、
前記伝導性チャネルは、前記取り込み中に前記標識ヌクレオチドを検出する、方法。」である点で一致し、本件補正発明では、前記標識ヌクレオチドが下記式Iの化合物であって、
【化1】
[図:0001436481000017.jpg]
式I中、
nは、3~10の整数であって、
mは、1~10の整数であって、
tは、0~50の整数であって、
X1は、直接結合、C1-C10アルキル、C1-C10オキサアルキル、C1-C10チアアルキル、またはC1-C10アザアルキルであって、
X2は、1つ以上の個々のCH2残基がペプチド結合および(-O-CH2-CH2-)aの1つ以上で任意に置換されたC1-C20アルキルであり、ここで、aは、1~24の整数であって、
X3は、直接結合またはオリゴヌクレオチドであり、前記標識が前記伝導性チャネルに近接している場合に、前記オリゴヌクレオチドは前記テザーのアクセプター領域にハイブリダイズし、
F1はフルオロホアおよび直接結合から選択され、かつF2は非存在であるかまたはフルオロホアであって、
Aは、
【化2】
[図:0001436481000018.jpg]
であり、
qは、1~100の整数であり、
前記q個のBは、約-200e~約+200eの正または負の電荷と、約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度とを有するものであるのに対し、引用発明では、これらの構造、つまり式Iにおける
[図:0001436481000019.jpg]
の部分以外の構造が特定されていない点(以下、「相違点」という。)で相違する。
(4) 判断
ア 相違点について
引用例2には、タグ付けされたヌクレオチドであって、末端リン酸を有するポリリン酸基、及びトリアゾール、1,2-ジアジン、ジスルフィド、第2級アミン、ヒドラゾン、チオアセトアミド、又はマレイミド-チオ付加体によって、前記ヌクレオチドの前記末端リン酸に共有結合したタグを含む、タグ付けされたヌクレオチドが記載されており((1)イ(ア)請求項1)、O、NH、S等の化学基であるX及びXと共有結合を形成し、かつタグに結合する機能的な基であるYを介して末端リン酸に結合したタグを有するヌクレオシドの構造が示されており((1)イ(カ)【0106】(キ)図5)、前記タグとしては、ポリリン酸基に結合した、電流における検出可能な変化をもたらすポリペプチド等のタグが挙げられており((1)イ(ア)請求項8(エ)(オ)(ク))、ペプチド等のタグのヌクレオチドへの結合にクリックケミストリーを用いることが記載され、本件補正発明の式IにおけるAに該当する構造が挙げられている((1)イ(カ)【0107】【0108】(キ)図6、21)。核酸ポリメラーゼにプライマーへの前記タグ付けされたヌクレオチドの一つの組み込みを触媒させ、ナノポアを通した電子的変化を測定することによりその組み込みを検出してシークエンシングを行うことも記載されている((1)イ(イ)(ウ))。
さらに具体的な構造が記載されている図25の化合物25は((1)イ(ケ)(コ))、本件補正発明の式Iにおいてnが6、mが6、tが0、X1がC3アルキル、X2がC1アルキル、X3が直接結合、F1が直接結合、F2が非存在、Aがトリアゾ-ル、Yがアデニンである構造に該当するが、B及びqは「TAG」と記載されるにとどまり、具体的な構造は特定されていない。
しかしながら、引用例2には、タグとして、電流における検出可能な変化をもたらすポリペプチドが挙げられており、電荷によって同定(例えば、他のタグと区別)され得ること、各種類のヌクレオチド(即ち、A、C、G、T、U)を、一意的に認識可能なタグであること、が記載されている((1)イ(ア)請求項8(エ)(オ)(ク))。
そうすると、シークエンシングを行うために、4種類のヌクレオチドを区別できるように電荷が異なる4種類のポリペプチドを作製する際、4種類のポリペプチドを区別できる程度にポリペプチドの電荷が異なれば良いことを考慮し、わざわざ、作製効率の悪いアミノ酸残基が極めて長いポリペプチドを作製することはせず、アミノ酸残基が短めなポリペプチドとすることは、当業者が容易に想到することであり、本件補正発明で規定された電荷と電荷密度の範囲は、0前後を含む広範な範囲であるから、引用例2の記載に基づき作製されたポリペプチドは、本件補正発明で規定された電荷と電荷密度の範囲に含まれる蓋然性が高い。
そうすると、引用例2には、図25の化合物25に代表される、本件補正発明の式Iに該当する構造を有する標識ヌクレオチド、及びポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への前記標識ヌクレオチドの取り込みを電荷センサで検出する核酸シークエンシング法が開示されていると認められる。
引用例3には、ヌクレオシドの5’-OH基に共有結合によって付けられた3~12個のリン酸基からなるオリゴリン酸、前記オリゴリン酸の末端リン酸基に共有結合によって付けられたリンカー、前記リンカーに共有結合によって付けられた、全体的な電荷を有するポリペプチドを含むポリペプチドタグ付きヌクレオチドが記載され((1)ウ(ア)請求項1、2(ウ))、前記リンカーとして「-LB-X-LA-、ここでLAおよびLBは、各々、2~100個の原子の共有結合によって結合した鎖を含み、Xは、エステル、エーテル、チオエーテル、アミン、アミド、イミド、カーボネート、カルバメート、スクアレート、チアゾール、チアゾリジン、ヒドラゾン、オキシム、トリアゾールおよびジヒドロピリダジンからなる群から選択される化学部分である」が挙げられ、具体例として(XIX)~(XXI)が示され((1)ウ(オ))、Xの部分についてはアジド-アルキンクリック反応を用いること((1)ウ(キ))が記載されている。前記全体的な電荷が約-10から-30の間であることも記載されている。引用例3には電荷の単位が明記されていないものの、ポリペプチドタグの長さが少なくとも16、20、(略)、60個のアミノ酸残基と記載されており((1)ウ(エ))、本件補正発明における「qは1~100の整数であり」と同程度であることを考慮すると、その単位はeであり、本件補正発明の電荷の範囲「約-200e~約+200eの正または負の電荷」に包含されると認められる。また、本件補正発明における標識ヌクレオチドとの構造の類似性を考慮すると、その電荷密度は「約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度」となっている蓋然性が高い。また、前記ポリペプチドタグの異なる遮断電流および/もしくは遮断電圧ならびに/または異なる滞留時間を経時的に検出し、核酸配列に対して相補的である(complimentary)ポリメラーゼによって組み込まれた異なるタグ付きヌクレオチドの各々と相関させ、それによって核酸配列を決定することも記載されている((1)ウ(ア)請求項16)。
さらに具体的な構造が記載されている図1の化合物12-15は((1)ウ(ク))、本件補正発明の式Iにおいてnが6、mが6、tが0、X1がC4アルキル、X3が直接結合、F1が直接結合、F2が非存在、Aがトリアゾ-ル、Yがアデニン、チミン、グアニン、シトシンのいずれかである構造に該当するが、X2は直接結合であり、B及びqは特定されていない。ここで、化合物12-15は引用例3におけるポリペプチドタグ付きヌクレオチドの一例であるから、上記n、m、t、X1、X2、X3、F1、F2、A、Yが、それぞれ、類似する範囲で異なるものも、引用例3におけるポリペプチドタグ付きヌクレオチドとして開示されているといえる。
そうすると、引用例3には、図1の化合物12-15に類似する化合物に含まれる、本件補正発明の式Iに該当する構造を有する標識ヌクレオチド、及びポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への前記標識ヌクレオチドの取り込みを電荷センサで検出する核酸シークエンシング法が開示されていると認められる。
引用例1-3は、いずれも、核酸シークエンシング法において、ポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への標識ヌクレオチドの取り込みを電荷センサで検出するにあたり、前記標識としてアミノ酸を含む電荷標識を用いるという密接に関連した技術に関するものであり、より一層費用効果がよく、迅速かつ簡便にできるように改善するという共通の技術課題((1)ア(イ)、イ(イ)、ウ(イ)(カ))を有するから、引用発明において具体的な構造が開示されていない、アミノ酸を含む電荷標識を有する「標識ヌクレオチド」を具体化するにあたり、図25の化合物25に代表される、本件補正発明の式Iに該当する構造を有する引用例2に記載の標識ヌクレオチド又は図1の化合物12-15に類似する化合物に含まれる、本件補正発明の式Iに該当する構造を有する引用例3に記載の標識ヌクレオチドを採用することは、当業者が容易に想到し得るものといえる。
本願の発明の詳細な説明には、qが1~100の整数であり、Bがアミノ酸を含み、q個のBが、約-200e~約+200eの正または負の電荷と、約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度とを有するような標識ヌクレオチドを用いて、ポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への標識ヌクレオチドの取り込みを検出したデータは示されておらず、q個のBが、0前後の電荷や電荷密度を含む広範な約-200e~約+200eの正または負の電荷と、約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度とを有する標識ヌクレオチドを用いることにより、当業者の予測し得ない顕著な効果が奏されることが示されてはいない。
イ 審判請求人の主張について
審判請求人は、審判請求書において、引用例2及び3にはポリペプチドタグの電荷密度の値について記載も示唆もされていないから、引用例2~3を参酌したとしても、引用発明における標識ヌクレオチドとして、q個のBは、約-200e~約+200eの正または負の電荷と、約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度とを有している式Iの化合物を用いることを容易に想到することはできないと主張している。しかし、アで述べたとおり、その構造を考慮すると、引用例2及び3に記載の標識ヌクレオチドのポリペプチドタグ部分の電荷密度は約-200e/nm3~約+200e/nm3となっていると認められるから、審判請求人の主張を採用することはできない。
さらに、審判請求人は、【0075】段落における、総電荷をより小さな領域に凝縮させることにより増加した電荷密度は、ポリメラーゼによる伸長鎖へのヌクレオチドアナログの取り込み中に伝導性チャネルにより検出される電荷を増加させ得るとの記載、及び【0102】段落における電荷タグによって運ばれ得る、より広い範囲の電荷は、式Iの化合物の異なる例によって運ばれる電荷間のより大きな差別化(differentiation)を可能にするとの記載に基いて、式I中のq個のBが所定の範囲内の電荷密度を有することにより、ヌクレオチドの検出および差別化の点で、引用例1-3からは予測することができない異質且つ顕著な効果を奏するとも主張している。しかし、増加した電荷密度により検出されやすくなることや、電荷密度の範囲が広いことにより差別化が可能になることは、当業者であれば予測し得る範囲の事項である。そして、そもそも、本件補正発明には0e/nm3前後の低い電荷密度も包含されているから、増加した電荷密度、つまり高い電荷密度に基づく主張は、本件補正発明に対応する効果の主張とは認められない。また、本件補正発明において電荷密度の異なる複数のタグを併用することが特定されているわけではないから、差別化に関する主張も、本件補正発明に対応する効果の主張とは認められない。よって、審判請求人の主張を採用することはできない。
ウ 小括
このとおり、本件補正発明は、引用例1-3記載の発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
(5) むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和5年11月21日にされた手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和5年4月27日提出の手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、令和5年4月27日提出の手続補正書の請求項1は、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ポリメラーゼによる鋳型ポリヌクレオチド鎖に相補的な新生ポリヌクレオチド鎖への標識ヌクレオチドの取り込みを検出することを含む方法であって、
前記ポリメラーゼは、テザーによって固体支持伝導性チャネルにつながれ、
前記標識ヌクレオチドは下記式Iの化合物であって、
【化1】
[図:0001436481000020.jpg]
式I中、
nは、3~10の整数であって、
mは、1~10の整数であって、
tは、0~50の整数であって、
X1は、直接結合、C1-C10アルキル、C1-C10オキサアルキル、C1-C10チアアルキル、またはC1-C10アザアルキルであって、
X2は、1つ以上の個々のCH2残基がペプチド結合および(-O-CH2-CH2-)aの1つ以上で任意に置換されたC1-C20アルキルであり、ここで、aは、1~24の整数であって、
X3は、直接結合またはオリゴヌクレオチドであり、前記標識が前記伝導性チャネルに近接している場合に、前記オリゴヌクレオチドは前記テザーのアクセプター領域にハイブリダイズし、
F1はフルオロホアおよび直接結合から選択され、かつF2は非存在であるかまたはフルオロホアであって、
Aは、
【化2】
[図:0001436481000021.jpg]
であり、
Yは、以下から選択され:
【化3】
[図:0001436481000022.jpg]
qは、1~100の整数であり、
Bは、アミノ酸を含み、
前記伝導性チャネルは、前記取り込み中に前記標識ヌクレオチドを検出する、方法。」(以下、「本願発明」という。)
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由1は、以下のとおりのものである。
本願の請求項1-17に記載された発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特表2017-521082号公報(上記第2の2(1)アの「引用例1」である。)、特表2017-515887号公報(上記第2の2(1)イの「引用例2」である。)及び国際公開第2017/042038号(上記第2の2(1)ウの「引用例3」である。)に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
3 引用例及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1-3の記載事項は、それぞれ、上記第2の2(1)ア-ウに記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の「前記q個のBは、約-200e~約+200eの正または負の電荷と、約-200e/nm3~約+200e/nm3の正または負の電荷密度とを有し、」との特定を除いたものであり、引用発明と対比すると、新たな相違点を有さない。
そうすると、本願発明は、引用文献1-3の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-019687