特許拒絶査定不服審判
2024-004030
キャビティ内コーティングを備えたパッシブQスイッチマイクロチップレーザー
- 審判番号
- 2024-004030
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-520086
- 請求日
- 2024年03月06日
- 審決日
- 2025年06月30日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】キャンデラ コーポレイション
- 【請求人代理人】倉橋 健太郎
- 【請求人代理人】倉橋 暎
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 藤田 年彦
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P18 .121-Z (H01S) / P18 .575-Z (H01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-520086「キャビティ内コーティングを備えたパッシブQスイッチマイクロチップレーザー」拒絶査定不服審判事件〔令和1年12月26日国際公開、WO2019/245937、令和3年11月4日国内公表、特表2021-530116〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)6月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2018年6月22日(以下「優先日」という。)、米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯の概略は次のとおりである。
令和4年 6月 1日 :手続補正書の提出
令和5年 3月30日付け:拒絶理由通知書
同年10月 4日 :意見書、手続補正書の提出
同年10月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
令和6年 3月 6日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 4月18日 :審判請求書に係る手続補正書の提出
第2 令和6年3月6日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年3月6日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和6年3月6日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてする補正を含むものであって、本件補正前(令和5年10月4日にされた手続補正後)の特許請求の範囲の請求項1及び本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、それぞれ次の(1)及び(2)に示すとおりである。下線は補正箇所を示す。
(1)本件補正前
「【請求項1】
マイクロチップレーザーであって、
入力面及び出力面を備えたレーザー媒質であって、前記入力面は、マイクロチップレーザー波長において高反射性かつポンプ波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされ、前記出力面は、ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされたレーザー媒質と、
分子間力によって前記レーザー媒質の前記出力面に取り付けられた可飽和吸収体であって、前記可飽和吸収体の出力端部は、マイクロチップレーザー波長において部分反射性の誘電体コーティングによってコートされた可飽和吸収体と、
を有し、
ダブルパスポンプマイクロチップレーザーであることを特徴とするマイクロチップレーザー。」
(2)本件補正後
「【請求項1】
マイクロチップレーザーであって、
入力面及び出力面を備えたレーザー媒質であって、前記入力面は、マイクロチップレーザー波長において高反射性かつポンプ波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされ、前記出力面は、ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされたレーザー媒質と、
分子間力によって前記レーザー媒質の前記出力面に取り付けられた可飽和吸収体であって、前記可飽和吸収体の出力端部は、マイクロチップレーザー波長において部分反射性の誘電体コーティングによってコートされた可飽和吸収体と、
を有し、
ダブルパスポンプマイクロチップレーザーであり、
前記レーザー媒質と前記可飽和吸収体との結合は、分子間力による光学的接触によって行われていることを特徴とするマイクロチップレーザー。」
2 本件補正の適否について
(1)本件補正の目的について
本件補正後の請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1の発明特定事項である「前記レーザー媒質の前記出力面に」「可飽和吸収体」が「分子間力によって」「取り付けられ」ていることについて、「前記レーザー媒質と前記可飽和吸収体との結合は、分子間力による光学的接触によって行われている」ことを限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
(2)独立特許要件について
前記(1)のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正である。そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下で検討する。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)の本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
イ 引用文献の記載及び引用発明
(ア)引用文献1の記載
原査定に引用され、本願の優先日前に発行された特表平9-508755号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当合議体が付した。)。
a 【特許請求の範囲】
1.a)第1鏡(16)と第2鏡(18)の間に形成された共振空洞と、
b)レーザー利得を生成するために該共振空洞内に配設された利得媒体(12)と、
c)該利得媒体(12)を付勢するためのポンプ源(22)と、
d)該共振空洞内に配設された可飽和吸収器(14)とを具備し、該可飽和吸収器(14)、該第2鏡(18)、及び該レーザー利得が、出力パルス(24)が発生され、該パルスは、約1ナノ秒よりも小さな持続時間を有する如く選択されることを特徴とする受動的Qスイッチレーザー。」(2頁1~9行)
b 「第1図を参照すると、受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10の一つの実施態様は、利得媒体12の短片、例えば、Nd3+:YAGを可飽和吸収器結晶14、例えば、Cr4+:YAG、に結合して成る。両材料は、光学軸Aに垂直な2つの面において平行かつ平坦に研磨される。利得媒体12のポンプ側面16は、ポンプ光22を透過させ、振動周波数ν1において高反射性であるように、誘電的に被覆される。利得媒体12と可飽和吸収器結晶14の間の界面20における切子面は、界面20が振動周波数において完全に透過性であり、ポンプ22の周波数において高反射性である如く、誘電的に被覆される。可飽和吸収器14の出力面18は、振動周波数(反射率R)において部分的に反射性であるように被覆され、装置から光出力24を設ける。」(9頁6~15行)
[図:0001429497000001.jpg]
c 「本発明の好ましい実施態様は、第2図において示され、この場合、例えば、Nd3+:YAGの利得媒体12は、例えば、Cr4+:YAGの可飽和吸収器材料14へ拡散結合される。光学軸Aに垂直な組み合わせの面は、平坦かつ平行に研磨される。利得媒体12のポンプ側面16は、ポンプ光40を透過し、振動周波数ν1において高反射性であるように、誘電的に被覆される。可飽和吸収器14の出力面18は、振動周波数(反射率R)において部分的に反射性であるように被覆され、レーザー出力42を設ける。可飽和吸収器14と利得媒体12の両方を含むレーザーの共振空洞は、好ましくは、2mmよりも小さい長さである。」(11頁6~13行)
[図:0001429497000002.jpg]
(イ)引用発明
前記(ア)によれば、引用文献1には、第1図に係る受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10の一つの実施態様に記載された受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
<引用発明>
「受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10であって、
利得媒体12の短片、例えば、Nd3+:YAGを可飽和吸収器結晶14、例えば、Cr4+:YAG、に結合して成り、
両材料は、光学軸Aに垂直な2つの面において平行かつ平坦に研磨され、
利得媒体12のポンプ側面16は、ポンプ光22を透過させ、振動周波数において高反射性であるように、誘電的に被覆され、
利得媒体12と可飽和吸収器結晶14の間の界面20における切子面は、界面20が振動周波数において完全に透過性であり、ポンプ22の周波数において高反射性である如く、誘電的に被覆され、
可飽和吸収器結晶14の出力面18は、振動周波数において部分的に反射性であるように被覆された、受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10。」
ウ 本件補正発明と引用発明との対比・判断
(ア)対比、一致点及び相違点の認定
本件補正発明と引用発明を対比する。
a 本件補正発明の「マイクロチップレーザーであって、」「マイクロチップレーザー」との特定事項について
引用発明の「受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10」は、「利得媒体12の短片、例えば、Nd3+:YAGを可飽和吸収器結晶14、例えば、Cr4+:YAG、に結合して成」る小型のレーザー(マイクロレーザー)であるから、マイクロチップレーザーといえ、本件補正発明の「マイクロチップレーザー」に相当する。
本件補正発明と引用発明は、「マイクロチップレーザー」の発明である点で一致する。
b 本件補正発明の「入力面及び出力面を備えたレーザー媒質であって、前記入力面は、マイクロチップレーザー波長において高反射性かつポンプ波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされ、前記出力面は、ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされたレーザー媒質と、」「を有し、」との特定事項について
引用発明の「利得媒体12」は、利得媒体がレーザを生成するものであってレーザ媒質ともいうことは技術常識であるから、本件補正発明の「レーザー媒質」に相当する。
引用発明の「利得媒体12のポンプ側面16」は、「ポンプ光22」の入力面といえ、本件補正発明の「レーザー媒質」が「備え」る「入力面」に相当する。そして、当該「利得媒体12のポンプ側面16」は、「ポンプ光22を透過させ、振動周波数において高反射性であるように、誘電的に被覆され」たものであるところ、「振動周波数」が波長(の逆数)に対応するという技術常識に鑑みれば、本件補正発明でいう「マイクロチップレーザー波長において高反射性かつポンプ波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされ」たものといえる。
引用発明では、「利得媒体12と可飽和吸収器結晶14の間の界面20における切子面は、界面20が振動周波数において完全に透過性であり、ポンプ22の周波数において高反射性である如く、誘電的に被覆される」ことから、利得媒体12と可飽和吸収結晶14は一体ではなく、利得媒体12の出力面と可飽和吸収結晶14の入力面が存在することになるとともに、それらの面のうち少なくともいずれか一方が、「誘電的」な「被覆」体(以下「誘電的被覆体」という。)によって被覆されていることが、当業者にとって明らかである。しかるに、誘電的被覆体は、本件補正発明の「誘電体コーティング」に相当し、本件補正発明でいう「ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の」ものといえる。そして、本件補正発明と引用発明とは、所定の面は、「ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされた」点で共通するといえる。
したがって、上記特定事項について、本件補正発明と引用発明とは、「入力面及び出力面を備えたレーザー媒質であって、前記入力面は、マイクロチップレーザー波長において高反射性かつポンプ波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされ」「たレーザー媒質」であって、所定の面は、「ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされ」ている点で共通するが、所定の面が、本件補正発明では「レーザー媒質」の「出力面」であるのに対し、引用発明では利得媒体12の出力面であるのか可飽和吸収体結晶14の入力面であるのか不明な点で相違する。
c 本件補正発明の「分子間力によって前記レーザー媒質の前記出力面に取り付けられた可飽和吸収体であって、前記可飽和吸収体の出力端部は、マイクロチップレーザー波長において部分反射性の誘電体コーティングによってコートされた可飽和吸収体と、を有し、」との特定事項について
引用発明の「可飽和吸収器結晶14」は、本件補正発明の「可飽和吸収体」に相当し、利得媒体12の短片が結合されているから、本件補正発明と引用発明とは、「可飽和吸収体」が「前記レーザー媒質の前記出力面に取り付けられた」ものである点で共通するが、本件補正発明では「分子間力によって」取り付けられたものであるのに対し、引用発明では、「利得媒体12」と「可飽和吸収器結晶14」の「両材料は、光学軸Aに垂直な2つの面において平行かつ平坦に研磨され」るものの、可飽和吸収器結晶14が利得媒体12の出力面にどのようにして取り付けられているか不明な点で相違する。
また、引用発明は、「可飽和吸収器結晶14の出力面18は、振動周波数において部分的に反射性であるように被覆された」ものであることから、本件補正発明でいう「前記可飽和吸収体の出力端部は、マイクロチップレーザー波長において部分反射性の誘電体コーティングによってコートされた」ものといえる。
したがって、上記特定事項について、本件補正発明と引用発明とは、「前記レーザー媒質の前記出力面に取り付けられた可飽和吸収体であって、前記可飽和吸収体の出力端部は、マイクロチップレーザー波長において部分反射性の誘電体コーティングによってコートされた可飽和吸収体」を有する点で共通するが、可飽和吸収体のレーザー媒質への取り付けが、本願発明では「分子間力によって」されているのに対し、引用発明では、「利得媒体12」と「可飽和吸収器結晶14」の「両材料は、光学軸Aに垂直な2つの面において平行かつ平坦に研磨され」るものの、可飽和吸収器結晶14が利得媒体12の出力面にどのようにして取り付けられているか不明な点で相違する。
d 本件補正発明の「ダブルパスポンプマイクロチップレーザーであり、」との特定事項について
引用発明の「受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10」は、「利得媒体12のポンプ側面16」が「ポンプ光22を透過させ」、「利得媒体12と可飽和吸収器結晶14の間の界面20における切子面」が、「ポンプ22の周波数において高反射性である」ことから、ポンプ光22が利得媒体12内を往復することによってレーザ光を生成するダブルパスポンプ形式のものということができ、本件補正発明の「ダブルパスポンプマイクロチップレーザー」に相当する。
したがって、引用発明は、本件補正発明の上記特定事項を備えている。
e 本件補正発明の「前記レーザー媒質と前記可飽和吸収体との結合は、分子間力による光学的接触によって行われている」との特定事項について
前記cで検討したことを踏まえれば、本件補正発明では、「前記レーザー媒質と前記可飽和吸収体との結合は、分子間力による光学的接触によって行われている」のに対し、引用発明では、「利得媒体12」と「可飽和吸収器結晶14」の「両材料は、光学軸Aに垂直な2つの面において平行かつ平坦に研磨され」るものの、可飽和吸収器結晶14と利得媒体12との結合は、どのようにして行われているか不明な点で相違する。
<一致点>
「マイクロチップレーザーであって、
入力面及び出力面を備えたレーザー媒質であって、前記入力面は、マイクロチップレーザー波長において高反射性かつポンプ波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされたレーザー媒質と、
ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされている所定の面と、
前記レーザー媒質の前記出力面に取り付けられた可飽和吸収体であって、前記可飽和吸収体の出力端部は、マイクロチップレーザー波長において部分反射性の誘電体コーティングによってコートされた可飽和吸収体と、
を有し、
ダブルパスポンプマイクロチップレーザーである、マイクロチップレーザー。」である点。
<相違点1>
「ポンプ波長において高反射性かつQスイッチレーザー波長において高透過性の誘電体コーティングでコートされている所定の面」が、本件補正発明では「レーザー媒質」の「出力面」であるのに対し、引用発明では利得媒体12の出力面であるのか可飽和吸収体結晶14の入力面であるのか不明な点。
<相違点2>
本件補正発明では、可飽和吸収体が「分子間力によって」レーザー媒質の出力面に取り付けられ、「前記レーザー媒質と前記可飽和吸収体との結合は、分子間力による光学的接触によって行われている」いるのに対し、引用発明では、「利得媒体12」と「可飽和吸収器結晶14」の「両材料は、光学軸Aに垂直な2つの面において平行かつ平坦に研磨され」るものの、利得媒体12と可飽和吸収器結晶14との結合は、どのようにして行われているか不明な点。
(イ)判断
相違点1及び2をまとめて判断する。
a 引用発明から出発した当業者が相違点1及び2に係る本件補正発明の構成に至るためには、(i)誘電的被覆体を利得媒体12の出力面に設けるようにするとともに、(ii)上記(i)のとおり利得媒体12の出力面に設けられた誘電的被覆体を、可飽和吸収器結晶14の入力面に対して、相違点2に係る本件補正発明の構成でいう「分子間力による光学的接触」によって結合させるようにすれば足りる。
b そこで検討すると、まず、(i)について、前記ウ(ア)bで説示したとおり、引用発明では、誘電的被覆体が、利得媒体12の出力面又は可飽和吸収結晶14の入力面の少なくともいずれか一方に被覆されていることが当業者にとって明らかであるから、誘電的被覆体を、利得媒体12の出力面に設けるようにすることは、当業者が適宜選択し得る設計的事項にすぎない。
c(a)次に、(ii)について、(i)のとおりの構成に至った当業者は、当然に、誘電的被覆体と可飽和吸収器結晶14の入力面とをどのようにして結合するかを検討するといえるところ、光学部材同士を結合する手段として、オプティカルコンタクト(分子間力による光学的接触)を用いることは、例えば、以下の文献に記載されているように、周知技術であるし、そこでいう光学部材には誘電体膜も該当することも、周知技術である(例えば、後記d)及びe)の文献を参照。)と認められる。
a)原査定に周知技術を示す引用文献2として引用された特開2016-63063号公報
「【0024】・・・前記光共振部3が、前記レーザ媒質5と前記可飽和吸収体6とがオプティカルコンタクト・・・で一体化さた構成となっている。」
b)原査定に周知技術を示す引用文献3として引用された国際公開第2013/168587号
「[0032]・・・第1の可飽和吸収体22a、第2の可飽和吸収体22bと透明材料23はオプティカルコンタクトにより一体に接合させる方法がある。」
c)原査定に周知技術を示す引用文献4として引用された特開2002-118319号公報
「【0016】・・・能動利得媒体およびQスイッチは、能動利得媒体およびQスイッチが、ファンデルワールス力のような相互作用による力で引き付けられるように・・・オプィカルコンタクトによって接合させることができる。」
d)原査定に周知技術を示す引用文献5として引用された特開2010-199288号公報
「【0039】
ガラスや結晶の直接接合技術としては、幾つか知られており、例えば拡散接合やオプティカルコンタクトがよく知られている。なお、接着剤を用いても接着することができるが、これは高出力レーザの場合損傷の原因となるので適切ではない。
【0040】
拡散接合は、熱的接合であって、高温をかけることで物質同士を相互に拡散させて接合するものである。しかし、反射部22として用いられる誘電体多層膜は熱に弱いので、拡散接合することは物理的に不可能である。
【0041】
オプティカルコンタクトは、平面度および表面粗さを極限までよくすることで、分子間力を発生させて接合する技術である。それ故、分子間力が発生し得るほどの平面度および表面粗さを有するものでないと、接合することができないし、外れてしまう可能性も残る。一般に、誘電体多層膜と結晶とのオプティカルコンタクト、あるいは、誘電体多層膜同士のオプティカルコンタクトは、限定的な条件で成立する可能性はあるものの、成立そのものが困難であるし、不具合発生の不安も残る。」
e)新たに引用する特開2013-187212号公報
「【0015】
図1は、実施例1の小型固体レーザ素子の構成図である。図1に示す小型固体レーザ素子は、複合共振器からなり、レーザ結晶1、波長変換結晶2、ダミー材3、HRコーティング材4a,4b、SiO2λ/4膜5(本発明の誘電体薄膜部に対応)を有して構成されている。」
「【0018】
SiO2λ/4膜5は、波長変換結晶2の接合面とレーザ結晶1の接合面との少なくとも一方の接合面に形成され、該接合面での基本波に対する反射率が所定値以上に設定することにより発振するモードを選択する。この例では、SiO2λ/4膜5は、レーザ結晶1の接合面に成膜され、波長変換結晶2とオプティカルコンタクトにより貼り付けられる。」
(b)そうすると、(i)のとおりの構成に至った当業者は、誘電的被覆体と可飽和吸収器結晶14の入力面とを結合させるべく、周知のオプティカルコンタクト技術を適宜採用することができたといえる。このようにして、当業者は、(ii)の構成に至る。
d 本件補正発明におけるダブルパスポンプの構成が奏する作用効果は、前記ウ(ア)dで説示したとおり、ダブルパスポンプの構成を備える引用発明においても奏するものといえる。
また、本件補正発明における、レーザー媒質と可飽和吸収体との結合(実際には、レーザー媒質をコートする誘電体コーティングと可飽和吸収体の結合)が分子間力による光学的接触により行われているという構成が奏する作用効果は、引用発明及び光学部材同士を結合する手段としてオプティカルコンタクト(分子間力による光学的接触)を用いるという周知技術に基づいて、当業者が予測することができたものであって、格別顕著なものということができない。
エ 請求人の主張について
(ア)請求人は、引用発明から出発した当業者は、誘電的被覆体と可飽和吸収体結晶14の入力面との結合を分子間力による光学的接触によって行うことはない旨主張し、その根拠として、引用文献1では、利得媒体12と可飽和吸収器材料14とが拡散結合される構成が好ましい実施態様であるとされており(引用文献1の11頁6~13行、第2図)、このような方法によって利得媒体12と可飽和吸収器材料14とを結合した場合、高温高圧を伴うため、利得媒体12と可飽和吸収器材料14との間にいかなる誘電体コーティングも設けることは困難であることを挙げる。
しかしながら、引用発明は、前記イ(イ)のとおり、第1図に係る「受動的Qスイッチピコ秒マイクロレーザー10の一つの実施態様」(以下「第1図態様」という。)に基づいて認定されているのであり、請求人が主張するところの、利得媒体12と可飽和吸収器材料14とが拡散結合される構成は、第2図に係る実施態様(以下「第2図態様」という。)という別の実施態様に係るものである。すなわち、第2図態様は、第1図態様とは異なり、利得媒体12と可飽和吸収器結晶14との間の界面20についての記載がなく、第2図にも界面20が示されていないことからも明らかなとおり、第1図態様とは異なる。そして、第1図態様では、利得媒体12の出力面と誘電的被覆体と可飽和吸収体結晶14の入力面とがそれぞれどのようにして結合されているのかは、記載されていない。
また、引用文献1の特許請求の範囲の第1項には、前記イ(ア)aで摘記したとおり、可飽和吸収器(14)、第2鏡(18)及びレーザ利得を、出力パルス(24)が約1ナノ秒よりも小さな持続時間を有するように選択することを内容とする技術的事項が記載されているにとどまり、利得媒体12と可飽和吸収器結晶14とが拡散結合されることが特定されていない。
以上によれば、当業者は、第2図態様の存在にかかわらず、引用発明に係る第1図態様において、誘電的被覆体と、利得媒体12の出力面及び可飽和吸収結晶14の入力面のいずれか一方との結合は、拡散結合以外の適宜の手段であっても用いることができると認識するというべきである。
(イ)さらに、請求人は、引用発明から出発した当業者が、誘電的被覆体と可飽和吸収体結晶14の入力面との結合を分子間力による光学的接触によって行うことはないことの根拠として、周知技術に係る周知例について、引用文献2~4にはオプティカルコンタクトが列記されているにすぎず、引用文献5(特開2010-199288号公報)の【0041】には、むしろ、誘電体多層膜と結晶とのオプティカルコンタクトを避けるべきことが示唆されている旨主張する。
確かに、引用文献5の【0041】には、誘電体多層膜と結晶とのオプティカルコンタクトは、限定的な条件で成立する可能性はあるものの、成立そのものが困難であるし、不具合発生の不安も残る旨記載されているが、不可能とされているわけではなく、せいぜい、実用化のレベルとしての採用困難性を指摘しているにすぎず、初期段階のレベル(いわゆる実験室レベル)では実現可能であると解される(なお、本願の明細書には、上記で指摘される問題点を考慮した解決手段が記載されているわけではないし、実施例も記載されていない。)。一方で、同【0040】には、誘電体多層膜を拡散接合することが「物理的に不可能」であると記載されている。そうすると、引用発明から出発した当業者は、誘電的被覆体と可飽和吸収体結晶14の入力面との結合を、むしろ、オプティカルコンタクトで行うことを適宜なし得るというべきである。
このことは、誘電体膜でコーティングされた結晶を他の結晶に接合する手段としてオプティカルコンタクトを用いることは、例えば、引用文献5だけでなく、前記ウのeの新たに引用する文献にも記載されているように周知技術であることからみて、ますます明らかである。
(ウ)したがって、請求人の主張は採用できない。
オ 独立特許要件についての当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3)本件補正についてのむすび
したがって、本件補正は、特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであるから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由(進歩性の欠如)は、概略、次の理由を含むものである。
(進歩性)本願発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献1に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1.特表平9-508755号公報
引用文献2.特開2016-63063号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.国際公開第2013/168587号(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2002-118319号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開2010-199288号公報(周知技術を示す文献)
3 引用文献の記載及び引用発明
特表平9-508755号公報(引用文献1)の記載及びこれに記載された発明(引用発明)は、前記第2の2(2)イにおいて示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明の発明特定事項である「前記レーザー媒質と前記可飽和吸収体との結合は、分子間力による光学的接触によって行われている」ことの限定を省いたものである。
そして、本願発明の発明特定事項に限定を加えたものに相当する本件補正発明が、前記第2の2(2)において説示したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件補正発明の発明特定事項の限定を省いた本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-004030