特許拒絶査定不服審判
2024-002603
撮像LIDARシステムの性能を改善するためのシステム、装置、及び方法
- 審判番号
- 2024-002603
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-572586
- 請求日
- 2024年02月15日
- 審決日
- 2025年04月16日
- 公報発行日
- 2025年10月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】メトリオ センサーズ アイエヌシー.
- 【請求人代理人】▲吉▼川 俊雄
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 喜々津 徳胤
- 分類
- P18 .113-Z (G01S) / P18 .121-Z (G01S) / P18 .57 -Z (G01S) / P18 .575-Z (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-572586号「撮像LIDARシステムの性能を改善するためのシステム、装置、及び方法」拒絶査定不服審判事件〔令和元年9月19日国際公開、WO2019/173898、令和3年8月2日国内公表、特表2021-518562号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)3月13日(パリ条約による優先権主張 2018年3月15日 米国)を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。なお、2018年3月15日を以下「優先日」という。
令和2年11月 6日 :翻訳文の提出
令和5年 2月 9日付け:拒絶理由通知書
同年10月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月17日 :原査定の謄本の送達)
令和6年 2月15日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和6年2月15日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和6年2月15日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和6年2月15日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正をするものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
物体または複数の物体の3次元レンジマッピングのためのシステムが提供され、
前記システムは光検出及び測距(LIDAR)システムを備え、
前記LIDARシステムは、光ビームエミッタの配列と、少なくとも1つの検出要素と、算出ユニットとを含み、
前記算出ユニットは、前記光ビームエミッタに放射光ビームを同時に放射することを命令し、前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込み、各前記放射光ビームを固有直交波形と識別し、各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行い前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対を提供し、前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定し、前記飛行時間からレンジを判定するように構成される、システム。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
物体または複数の物体の3次元レンジマッピングのためのシステムが提供され、前記システムは光検出及び測距(LIDAR)システムを備え、
前記LIDARシステムは、光ビームエミッタの配列と、
少なくとも1つの検出要素と、発散レンズと、集束レンズと、
送信構成要素及び受信構成要素を有する算出ユニットとを含み、前記算出ユニットは、前記光ビームエミッタに複数の放射光ビームを同時に放射することを命令し、
前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込み、各前記放射光ビームを固有直交波形と識別し、
各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行い前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対を提供し、
前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定し、前記飛行時間からレンジを判定するように構成され、
前記受信構成要素は、各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器をさらに備えることを特徴とする、システム。」
2 補正の目的
(1) 本件補正のうち請求項1についてする補正は、次のアからエの補正事項からなり、全体として本件補正前の請求項1を限定するものである。
ア 「LIDARシステム」が「発散レンズと、集束レンズと」を含むことを限定すること。
イ 「算出ユニット」が「送信構成要素」「を有する」ことを明確化すること。
ウ 「前記光ビームエミッタ」が「同時に放射することを命令[される]」「放射光ビーム」について、「複数の放射光ビーム」であることを明確化すること。
エ 「算出ユニット」について、「受信構成要素を有する」ことを明確化するとともに、当該「受信構成要素」について、「各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器をさらに備える」ことを限定すること。
(2)ア 前記(1)に示した補正事項のうち、アの補正事項は、本件補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項を概念的により下位の事項に限定するものではないから、「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するもの」に該当しない。
イ(ア) ここで、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野は同一である。
(イ) その一方、解決しようとする課題については、本件補正前の請求項1に係る発明が「LIDARシステムにおいて、同一波長の複数の光源の同時動作を可能とすること」を解決しようとする課題としていたのに対して、本件補正により請求項1において新たに特定された前記(1)アの補正事項は、「LIDARシステムにおいて、複数の光源からの放射ビームをより広範囲に放射し、広範囲に放射した放射ビームの反射光を受光すること」を解決しようとする課題とするものであるから、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明では、解決しようとする課題が同一であるとはいえない。
ウ 前記ア及びイにおいて検討したとおり、前記(1)アの補正事項は、特許法17条の2第5項2号の括弧書きの要件のうち、「請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の解決しようとする課題が同一であるものに限る。」との要件を満たさないものである。
エ したがって、前記(1)アの補正事項は、特許法17条の2第5項2号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当しない。
(3) さらに、前記(1)アの補正事項が、請求項の削除、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。
(4) したがって、本件補正のうち請求項1についてする補正は、特許法17条の2第5項各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当しない。
(5) よって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
3 独立特許要件の判断
仮に本件補正が特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当するとしても、この場合、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合する、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである必要があるところ、(1)から(7)までにおいて詳細に検討するように、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではなく、同項の規定に適合しない。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に示した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成E5までに分説する。また、参考図として、本願の【図5】及び【図10】を部材名とともに掲載する。
<本件補正発明の分説>
X 物体または複数の物体の3次元レンジマッピングのためのシステムが提供され、
A 前記システムは光検出及び測距(LIDAR)システムを備え、
前記LIDARシステムは、
B 光ビームエミッタの配列と、
C 少なくとも1つの検出要素と、
D 発散レンズと、集束レンズと、
E0 送信構成要素及び受信構成要素を有する算出ユニットとを含み、
前記算出ユニットは、
E1 前記光ビームエミッタに複数の放射光ビームを同時に放射することを命令し、
E2 前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込み、各前記放射光ビームを固有直交波形と識別し、
E3 各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行い前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対を提供し、
E4 前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定し、前記飛行時間からレンジを判定するように構成され、
E5 前記受信構成要素は、各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器をさらに備えることを特徴とする、
X システム。
<参考図>
【図5】
[図:0001427442000001.jpg]
8 光学システム
12、14、16、18 光源
40 発散レンズ
100 コンピューティングデバイス
108 伝達ライン
111 制御回路ブロック
112、114、116、118 チャネル
113 伝達擬似雑音発生器
122、124、126、128 アダマールコード発生器
132、134、136、138 伝達算出ユニット
【図10】
[図:0001427442000002.jpg]
92 検出要素
432、434、436、438 受信算出ユニット
500 検出回路
506 相関器チャネル
508 摺動相関器
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【背景技術】
【0003】
LIDAR(光検出及び測距)は、物体までのレンジ(可変距離)を測定するために、パルス状レーザの形態で光を使用するリモートセンシング方法である。撮像LIDARシステムは、LIDARの視野で物体から取得されたレンジ画像が存在するシステムである。本システムは、一般的な画像または写真とかなり類似する画像を作るが、提示される値の配列の光強度値を有する代わりに、LIDARシステムから離れた距離が提示される値である。いくつかのLIDARシステムの主な着眼点は、車両衝突の回避、ナビゲーション、及び車両から離れる物体の距離を判定する安全システムに使用されるADAS(高度な運転手支援システム)に関する。
【0004】
ADASは様々な構成を有する。1つの係る種類は、時系列でスイッチをオン及びオフにする複数のレーザ光源から光の水平扇状ビームを作成することによって機能する走査システムである。光の一連の水平扇状ビームは、シーンを横断して垂直に走査する。プローブレーザビームが放射されるときと、反射されたレーザビームがシーン内に位置する物体に反射した後に受信機で受信されるときとの時間差を測定し、その時間差は反射物体とLIDARシステムとの間の距離に比例する。本システムの主な欠点の1つは、反射されたレーザビームは、連続的スキャニングにより異なる時間に受信され、ひいては、シーンを横断するレンジ情報は異なる時間で獲得される。この非同時並行性は、不正確な結果、シーン内の物体の移動の不完全な予測及び物体の歪みにつながる可能性がある(誤認につながる)。
【0005】
他のシステムは、複数の異なる波長のレーザ光源を使用することによって、波長分割多重方式を適用する。本システムは、受信機が波長に基づいて異なるレーザ光源を区別することが可能であることを要求し、更に、フィルタを区別することと一緒に波長毎に1つの検出器の必要性を要求する。これは、光学的構成の複雑性を増加させる。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の技術は、既存のLIDARシステムの性能を改善するシステム及び方法である。本システムは、既存のLIDAR光学システムを使用しながら、レンジ分解能及びレンジ更新レートを改善する。一例では、本システムのレーザ光源は垂直配列に配置され、同時に動作し、レンジ情報が反射光ビームから同時に獲得されることをもたらす。本システムは、入射反射ビームのそれぞれを区別する。本システム及び本方法は、局所速度流の推定を改善し、電力消費を減らし、ADASの光学装置のレーザ光源に対する目の安全性を増加させる。本発明の技術は、光電子工学的な複雑性及び構成要素の数を減らす、相関ベーススキームである。」
「【0038】
光学システム(全体的に8と称される)は、光源12,14,16,18の例示的な直線配列(全体的に10と称される)を含み、図1に示される。4つの光源が示される一方、複数の光源があり得る。例えば、光源は、限定ではないが、レーザ光源または発光ダイオードであり得る。光源12,14,16,18のそれぞれは、発散レンズ40を通過する放射ビーム32,34,36,38を放射し、平面に水平な扇状プローブビーム42,44,46,48(プローブビームと称される)を作成する。ある実施形態では、直線配列10は垂直直線配列である。光源12,14,16,18は発散レンズ40に対して位置付けられ、それにより、放射ビーム32,34,36,38のそれぞれは、配列10の他のものに対して異なる角度50で屈折し、プローブビーム42,44,46,48のそれぞれが、物体52の異なる部分に突き当たることをもたらす。図2に示されるように、物体52からの反射ビーム52,54,56,58は、集束レンズ60を通過し、それらの反射ビームは、集束ビーム62,64,66,68に集束し、次に、検出器70に突き当たる。集束レンズの実施形態は、非点収差の光学システムである。反射ビーム52,54,56,58及び集束ビーム62,64,66,68は、平面に水平な扇状ビームである。」
「【図1】
[図:0001427442000003.jpg]
」
「【図2】
[図:0001427442000004.jpg]
」
(2) 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
ア 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開平6-75050号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある。なお、当合議体により、後記(ウ)の引用発明の認定に直接用いる記載等に下線を付した。
a 【0001】
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、光を方位走査させて出射し、その走査により得られる物標からの反射光の位相に基づいてその物標の位置を検出するレンジファインダに関する。」
b 【0002】~【0007】、【図7】~【図9】
「【0002】
【従来の技術】宇宙空間で所定の作業を行うロボットやファクトリーオートメーション(FA)化された工場内で予め決められた作業を行うロボットでは、人間の目に代わって上述した作業の対象となる物体の位置を検出することにより、作業の自動化と効率化とをはかるためにレンジファインダが搭載される。
【0003】図7は、従来のレンジファインダの構成例を示す図である。図において、レーザ距離計測器71はその計測器から出射されるレーザ光のビームがミラー721 の回転軸上の一点を示す位置に配置され、そのミラーと対を成してこのような回転軸と直角な回転軸を有するミラー722 が配置される。」
「【図7】
[図:0001427442000005.jpg]
」
「【0004】図8は、レーダ距離計測器の内部構成を示す図である。なお、本レーダ距離計測器は図7に参照番号71で示されるものである。図において、図7に示すものと同じものについては、同じ参照番号を付与して示し、ここではその説明を省略する。
「【図8】
[図:0001427442000006.jpg]
」
「【0005】コントローラ81の第一の出力はレーザ発振器82の制御入力に接続され、その発振器からレーザ光はハーフミラー86を通して出射される。ハーフミラー86を介して受光されたレーザ光は光検出器83の入射口に与えられ、その出力は位相検出器84の入力に接続される。位相検出器84の出力はコントローラ81の入力に接続され、コントローラ81の第二の出力はオシレータ85の入力に接続される。オシレータ85の一方の出力はレーザ発振器82の変調入力に接続され、オシレータ85の他方の出力は位相検出器84の基準信号入力に接続される。
【0006】このような構成のレンジファインダでは、コントローラ81はオシレータ85にミラー721 、722 の回転に同期した基準タイミング信号を与え、オシレータ85はその基準信号に同期した正弦波の基準信号を生成する。レーザ発振器82は、コントローラ81の制御下でレーザ光を出射し、かつそのレーザ光の輝度を上述した基準信号の振幅により変調する(図9(a))。」
「【図9】
[図:0001427442000007.jpg]
」
「【0007】一方、ミラー721 およびミラー722 はコントローラ81の制御の下で同期して回転し、図7に点線枠で示す範囲にレーザ発振器82から出射されるレーザ光を方向走査する。このような走査の範囲内に位置する物体から反射されたレーザ光(以下、「反射レーザ光」という。)は、ミラー721 、721 を介して受光される。光検出器83は反射レーザ光を光-電変換し、位相検出器84はその変換により得られたアナログ信号とオシレータ85から与えられる基準信号との位相差を求める(図9(b))。コントローラ81は、このようにして求められた位相差から出射されたレーザ光の物体までの飛行時間を求め、その飛行時間に相当する物体までの距離を算出する。さらに、コントローラ81は、反射レーザ光が受光されたタイミングにおけるミラー721 、722 の角度に基づいて計測点の方向を求める。」
c 【0008】~【0011】、【図10】
「【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、このようなレンジファインダでは、特に、そのレンジファインダを搭載したロボットやそのロボットの作業対象となる物体が高速で移動する場合には、その物体の方向と相対距離とを含むレンジデータ(距離画像)を移動に伴う誤差の補正処理を行わずに実時間で処理することが要求され、このような要求を達成するためにはレンジデータを精度よく高速に取得することが必要である。このような高速化の方法としては、図10に示すように、同一波長のレーザ光を出射する複数のレーダ距離計測器711 ~71n を搭載して並行動作させる方法があるが、このような方法は、これらのレーザ距離計測器から出射されるレーザ光相互間に光学的な干渉が生じて正確な測定が実現できなかった。」
「【図10】
[図:0001427442000008.jpg]
」
「【0009】さらに、このような干渉は個々のレーザ距離計測器から出射されるレーザ光の波長を異なる値に設定することにより除去できるが、このような方法は、各レーザ計測器で測定可能なレンジ幅が波長に応じて異なり、かつ各レーザ距離計測器から得られる計測結果に施すべき共通の画像処理に先行して波長の違いを吸収する正規化処理が必要であり、ハードウエアの規模や処理量が大きくなって高速化、軽量化、小型化その他の要求が阻まれるために、適用できなかった。
【0010】また、上述した干渉はミラー721 上の異なる点に各レーザ距離計測器からレーザ光を出射することにより軽減されるが、ミラー721 、722 の鏡面その他で生じる乱反射に起因した干渉分を除去することはできなかった。 さらに、上述した干渉は個々のレーザ距離計測器を時分割方式により稼働させることにより除去できるが、このような方法は、ミラー721 、722 を同期させて回転駆動する機構系の機械的な応答速度の限界により高速化に寄与せず、適用できなかった。
【0011】本発明は、精度を保ちつつレンジデータを高速に取得できるレンジファインダを提供することを目的とする。」
d 【0012】、【図1】
「【0012】
【課題を解決するための手段】図1は、本発明の原理ブロック図である。本発明は、自己相関特性が急峻であり、かつ同一符号系列内の異なる符号との相互相関値が小さな個別の符号により変調処理を施した光を出射する光源111~11n と、光源111 ~11n から出射された光を方位走査する走査手段13と、方位走査された光に応じてその走査の範囲内に位置する物体から反射された光を走査手段13を介して取り込んで復調し、符号を復元する復調手段151 ~15n と、復調手段151 ~15n によって復元された符号について、個別に変調処理に用いられた符号に対する相関値が最大となる位相を求める相関処理手段171 ~17n と、相関処理手段171 ~17n によって求められた位相を方位走査に同期して検出し、その走査の範囲内に位置する各物体の位置を求める処理手段19とを備えたことを特徴とする。」
「【図1】
[図:0001427442000009.jpg]
」
e 【0013】~【0014】
「【0013】
【作用】本発明では、光源111 ~11n から個別に出射される光は、単一の走査手段13を介して方位走査される。相関処理手段171 ~17n は、これらの光を変調する際に各光源で用いられた符号の先鋭な自己相関特性を示す最大相関値と、ほぼ平坦な相互相関特性で与えられる小さな相関値との間に予め設定された閾値に基づいて、上述した方位走査の範囲内に位置する物体から走査手段13および復調手段151 ~15n を介して受光された反射光を相関検出するので、上述した操作手段13に用いるミラー721 、722 上で生じる光学的な干渉が抑圧される。
【0014】すなわち、相関処理手段171 ~17n は、それぞれ複数の光源111~11nから出射された光に対応した反射光を上述した干渉を抑圧して検出し、さらに、その反射光の位相を求めるので、処理手段19はこのようにして求められた位相と光の速度とに基づいて上述した反射光に対応した計測点の位置を精度よく求めることができる。また、光源111~11nは走査手段13に対する光学的な配置に応じて常に上述した方位走査の範囲を分割するので、復調手段151~15nおよび相関処理手段171~17nの配置数nが大きいほど方位走査範囲あたりの単位走査数が増大して高速化がはかられる。」
f 【0015】~【0017】、【図2】
「【0015】
【実施例】以下、図面に基づいて本発明の実施例について詳細に説明する。図2は、本発明の一実施例を示す図である。」
「【図2】
[図:0001427442000010.jpg]
」
「【0016】図において、図7に示すものと機能および構成が同じものについては、同じ参照番号を付与して示し、ここではその説明を省略する。本発明の特徴とする構成は、本実施例では、ミラー721 、722 を含む走査機構系の構成は従来例と同じであるが、同一波長のレーザ光を出射する複数のレーザ距離計測器201 ~20n を搭載し、かつ従来のコントローラ81に代えてこれらのレーザ距離計測器を統括的に制御するコントローラ21を備えた点にある。
【0017】レーザ距離計測器201 ~20n の構成は、オシレータ85に代えて符号発生器22を配置し、位相検出器84に代えて相関器23を配置し、コントローラ81を含まない点を除き、図8に示すレーザ距離計測器と同じである。」
g 【0018】~【0019】、【図3】
「【0018】図3は、符号発生器の構成を示す図である。図において、複数(=N)段のシフトレジスタ31の並列出力D1~DNはそれぞれスイッチ321~32Nを介して半加算器33の対応した入力に接続され、その出力はシフトレジスタ31の直列入力に接続される。スイッチ321~32Nの制御入力にはコントローラ21の制御出力が接続され、シフトレジスタ31の最終段の出力はレーザ発振器82の変調入力と相関器23の基準入力とに接続される。」
「【図3】
[図:0001427442000011.jpg]
」
「【0019】なお、本実施例と図1に示すブロック図との対応関係については、レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82および符号発生器22は光源111 ~11n に対応し、ミラー721 、722 は走査手段13に対応し、レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載された光検出器83は復調手段151 ~15n に対応し、同様に相関器23は相関処理手段171 ~17n に対応し、コントローラ21は処理手段19に対応する。」
h 【0020】~【0026】、【図4】~【図6】
「【0020】図4は、本実施例の動作を説明する図である。以下、図2~図4を参照して本実施例の動作を説明する。コントローラ21は、例えば、上述した段数Nが「16」である場合には、図5(a) に示す状態の内、何れか1つを重複することなく選択してそれぞれレーザ距離計測器201 ~20n の符号発生器22に設定する。符号発生器22では、このような状態に対応させてスイッチ321 ~3216の接点の断続状態の組み合わせが設定される。なお、以下では、簡単のためレーダ距離計測器201~20nに設けられたシフトレジスタ31の段数nが「3」であるものとする。」
「【図4】
[図:0001427442000012.jpg]
」
「【図5】
[図:0001427442000013.jpg]
」
「【0021】シフトレジスタ31は、起動時に「000 」以外のビットパターンが初期値として設定され、スイッチ321 ~323 の接点に応じて決定される系列のM系列(最長線型)符号(例えば、図5(b) に示すように、上述した初期値「111 」に対して「11100101」)を7(=2N-1)ビットの周期で出力する。このようにして生成されるM系列符号の自己相関特性については、一般に、図6に示すように、論理値が一致するビットの数と反対に不一致であるビットの数との差で定義される相関値は、同相のときには「7(=2N-1)」であるが、その他の場合には「-1」となる。また、同一系列内で異なるM系列符号間の相互相関特性については、一般に、これらの符号間の位相差の如何にかかわらず符号長に対して十分小さな値となる。」
「【図6】
[図:0001427442000014.jpg]
」
「【0022】レーザ発振器82はこのようなM系列符号によりその発振出力を断続し、ミラー721 、722 はこのように断続して出射されたレーザ光を従来例と同様にして方位走査する。
【0023】光検出器83は、このような方位走査の範囲内に位置する物体から反射されたレーザ光の内、ミラー722 、721 を介して受光された反射レーザ光を光-電変換して2値化する。相関器23は、符号発生器22から与えられるM系列符号を基準として上述した2値化により得られた信号が示すビット列の各位相における相関値を比較し、その相関値が上述した自己相関特性に応じた最大値(例えば、「7」)をとる反射レーザ光の位相(図4〔1〕(当合議体注:原文は丸付き数字であるが、丸付き数字を亀甲括弧内の数字で表記する。以下同様である。))をクロック周期の整数倍値を示すシフト量としてを求める。相関器23では、並行して稼働する複数のレーザ距離計測器201 ~20n から出射された同一波長のレーザ光の干渉成分も図4に示すように与えられるが、このような干渉成分は、これらのレーザ距離計測器の符号発生器22から生成されるM系列符号がそれぞれコントローラ21の制御の下で同一系列内の異なる符号に設定されるので、上述した自己相関特性と相互相関特性とに応じて抑圧される。
【0024】このようにして求められたシフト量は、レーザ発振器82(レーザ距離計測器)からハーフミラー86、ミラー721 、722 を介して上述した物体に至る往路と、その物体からミラー722 、721 およびハーフミラー86を介して光検出器83に至る復路とにおけるレーザ光の飛行時間に比例した値となり、その飛行時間との間には
飛行時間=シフト量×クロック周期 ・・・〔1〕
の式が成立する。さらに、上述した往路が復路と同じ距離である場合には、各レーザ距離計測器から物体までの距離は、
距離=飛行時間×光の速度÷2 ・・・〔2〕
の式で与えられる。したがって、コントローラ21は、上式〔1〕、〔2〕に基づいて物体までの距離を求めることができる。
【0025】このように本実施例によれば、方位走査を行う機構系の構成を変更せず、かつ複数のレーザ距離計測器間の光学的な干渉を回避しつつこれらの計測器を並行して稼働させることにより、精度を保ちつつ共通の画像処理を施すことが可能なレンジデータを高速に取得することができる。
【0026】なお、本実施例では、レーザ発振器82から出射されるレーザ光の輝度を変調するためにM系列符号を用いているが、本発明は、このような符号に限定されず、符号長の周期で先鋭な自己相関特性を有し、かつ同一系列内の他の符号との相互相関特性が自己相関値の先頭値に比べて十分小さな値となる符号であれば、どのような符号を用いてもよい。」
(イ) 引用文献1の記載から読み取れる事項の認定
a 引用文献1の【0005】には、【図8】に示された従来例の構成について、「コントローラ81の第一の出力はレーザ発振器82の制御入力に接続され」、「位相検出器84の出力はコントローラ81の入力に接続され、コントローラ81の第二の出力はオシレータ85の入力に接続される。」と記載されている。
そして、引用文献1の【0016】には、「本発明の特徴とする構成は、本実施例では、ミラー721 、722 を含む走査機構系の構成は従来例と同じであるが、同一波長のレーザ光を出射する複数のレーザ距離計測器201 ~20n を搭載し、かつ従来のコントローラ81に代えてこれらのレーザ距離計測器を統括的に制御するコントローラ21を備えた点にある。」と記載され、同【0017】には、「レーザ距離計測器201 ~20n の構成は、オシレータ85に代えて符号発生器22を配置し、位相検出器84に代えて相関器23を配置し、コントローラ81を含まない点を除き、図8に示すレーザ距離計測器と同じである。」と記載されている。
また、引用文献1の【図2】からは、コントローラ21からそれぞれレーザ発振器82と符号発生器22に向けて矢印が引かれており、相関器23からコントローラ21に向けて矢印が引かれていることが看て取れる。
b 前記aによれば、「コントローラ21」においても、従来例の「コントローラ81」の接続関係と同様に、その第一の出力がレーザ発振器82の制御入力に接続され、相関器23の出力はコントローラ21の入力に接続され、コントローラ21の第二の出力は符号発生器22の入力に接続されているといえる。
c そうすると、引用文献1には、次の事項(以下「認定事項1」という。)が記載されていると認められる。
<認定事項1>
「コントローラ21の第一の出力がレーザ発振器82の制御入力に接続され、相関器23の出力はコントローラ21の入力に接続され、コントローラ21の第二の出力は符号発生器22の入力に接続されていること。」
(ウ) 引用発明の認定
前記(イ)において認定した事項及び前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「光を方位走査させて出射し、その走査により得られる物標からの反射光の位相に基づいてその物標の位置を検出するレンジファインダであって、(【0001】)
自己相関特性が急峻であり、かつ同一符号系列内の異なる符号との相互相関値が小さな個別の符号により変調処理を施した光を出射する光源111~11n を備え、(【0012】)
ここで、光源111~11nは、レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82および符号発生器22であり、(【0019】)
光源111 ~11n から出射された光を方位走査する走査手段13であるミラー721 、722を備え、(【0012】、【0019】)
方位走査された光に応じてその走査の範囲内に位置する物体から反射された光を走査手段13を介して取り込んで復調し、符号を復元する復調手段151 ~15n を備え、(【0012】)
ここで、復調手段151 ~15nは、レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載された光検出器83であり、(【0019】)
復調手段151 ~15n によって復元された符号について、個別に変調処理に用いられた符号に対する相関値が最大となる位相を求める相関処理手段171 ~17n である相関器23を備え、(【0012】、【0019】)
相関処理手段171 ~17n によって求められた位相を方位走査に同期して検出し、その走査の範囲内に位置する各物体の位置を求める処理手段19と、を備え、(【0012】)
ここで、処理手段19は、レーザ距離計測器201 ~20n を統括的に制御するコントローラ21であり、(【0016】、【0019】)
光源111~11nは、走査手段13に対する光学的な配置に応じて常に方位走査の範囲を分割するものであり、(【0014】)
コントローラ21の第一の出力がレーザ発振器82の制御入力に接続され、相関器23の出力はコントローラ21の入力に接続され、コントローラ21の第二の出力は符号発生器22の入力に接続されており、(認定事項1)
レーザ発振器82はM系列符号によりその発振出力を断続し、(【0022】)
ミラー721 、722 はこのように断続して出射されたレーザ光を方位走査し、(【0022】)
光検出器83は、方位走査の範囲内に位置する物体から反射されたレーザ光の内、ミラー722 、721 を介して受光された反射レーザ光を光-電変換して2値化し、(【0023】)
相関器23は、符号発生器22から与えられるM系列符号を基準として上述した2値化により得られた信号が示すビット列の各位相における相関値を比較し、その相関値が自己相関特性に応じた最大値をとる反射レーザ光の位相をクロック周期の整数倍値を示すシフト量として求め、(【0023】)
このようにして求められたシフト量は、レーザ発振器82からハーフミラー86、ミラー721 、722 を介して物体に至る往路と、その物体からミラー722 、721 およびハーフミラー86を介して光検出器83に至る復路とにおけるレーザ光の飛行時間に比例した値となり、その飛行時間との間には
飛行時間=シフト量×クロック周期 ・・・〔1〕
の式が成立し、さらに、上述した往路が復路と同じ距離である場合には、各レーザ距離計測器から物体までの距離は、
距離=飛行時間×光の速度÷2 ・・・〔2〕
の式で与えられ、したがって、コントローラ21は、上式〔1〕、〔2〕に基づいて物体までの距離を求めることができ、(【0024】)
方位走査を行う機構系の構成を変更せず、かつ複数のレーザ距離計測器間の光学的な干渉を回避しつつこれらの計測器を並行して稼働させることにより、精度を保ちつつ共通の画像処理を施すことが可能な、物体の方向と相対距離とを含むレンジデータ(距離画像)を高速に取得することができる、(【0025】、【0008】)
レンジファインダ。(【0001】)」
イ 引用文献4の記載事項及び周知技術1の認定
(ア) 引用文献4に記載された事項
前置報告書において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開2017-72532号公報(以下「引用文献4」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。
a 【0001】~【0007】
「【技術分野】
【0001】
本件は、距離測定装置、距離測定方法、距離測定プログラムおよびテーブルの作成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、距離測定装置(レーザレーダ)は、対象物までの距離計測だけでなく、自動車における障害物検知をはじめ、鉄道のホームにおける車両と開閉扉間の人検知のような周辺監視などを目的に、さまざまなシーンで利用されている。
【0003】
このような距離測定装置に対しては、対象物を測定する測定範囲を拡大したいという要求が高くなると予想される。そこで、投光系に、投光範囲を拡大する光学系を用い、集光レンズに広角レンズを用いることが考えられる。しかしながら、集光レンズに入射するノイズ光も増えるため、S/N比が低下することになる。そこで、受光素子アレイを用いて、測定対象からの戻り光の照射範囲の受光素子の出力を選択的に使用することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-157044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、集光レンズの収差に起因して、集光レンズに対する入射画角に応じて照射範囲に歪みが生じる場合がある。この場合、受光素子の選択精度が低下する。
【0006】
1つの側面では、本件は、受光素子アレイの受光素子の選択精度が向上する距離測定装置、距離測定方法、距離測定プログラムおよびテーブルの作成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの態様では、距離測定装置は、レーザ光を投光する投光部と、複数の受光素子が配置された受光素子アレイと、前記受光素子アレイに対して集光する集光レンズと、前記受光素子アレイの1以上の前記受光素子の出力を検出する検出部と、前記レーザ光の投光角度に対応する対象物からの反射光の前記集光レンズに対する入射角度に応じて、前記投光角度が大きくなった場合の前記受光素子アレイにおける前記レーザ光の照射範囲の歪みを考慮して、前記検出部に出力させる前記受光素子を選択する選択部と、を備える。」
b 【0011】~【0013】、【図1】(a)
「【0011】
実施例の説明に先立って、距離測定装置の概略について説明する。
【0012】
図1(a)は、比較例に係る距離測定装置200の概略図である。図1(a)で例示するように、距離測定装置200は、発光素子201、コリメートレンズ202、走査ミラー203、角度拡大レンズ204、集光レンズ205、受光素子206などを備える。発光素子201、コリメートレンズ202、走査ミラー203、角度拡大レンズ204は、出射光学系207を構成する。集光レンズ205および受光素子206は、入射光学系208を構成する。」
「【図1】(a)
[図:0001427442000015.jpg]
」
「【0013】
発光素子201は、レーザパルスを出射する。コリメートレンズ202は、発光素子201が出射するレーザパルスの広がりを抑制して略平行光とする。走査ミラー203は、コリメートレンズ202から出射された平行光の角度を水平方向および垂直方向に偏向する。角度拡大レンズ204は、走査ミラー203で偏向された角度をさらに拡大する。角度拡大レンズ204から出射されるレーザパルスの角度が投光角度に相当する。角度拡大レンズ204から出射されたレーザパルスは、測距対象に照射され、散乱(反射)され、集光レンズ205に戻る。この戻り光は、集光レンズ205で集光され、受光素子206で受光される。」
(イ) 周知技術1の認定
前記(ア)に示した引用文献4の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、本願の優先日前に当業者にとって周知の技術(以下「周知技術1」という。)であったと認められる。
<周知技術1>
「距離測定装置において、レーザ光の角度を拡大するための角度拡大レンズと、戻り光を集光する集光レンズを設けることにより、対象物を測定する測定範囲を拡大すること。」
(4) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(3次元レンジマッピングのためのシステム)
構成Xは、「物体または複数の物体の3次元レンジマッピングのためのシステム」である。
a 引用発明は、「光を方位走査させて出射し、その走査により得られる物標からの反射光の位相に基づいてその物標の位置を検出するレンジファインダであって」(【0001】)、「方位走査された光に応じてその走査の範囲内に位置する物体から反射された光を走査手段13を介して取り込んで復調し、符号を復元する復調手段151 ~15n とを備え[る]」(【0012】、【0019】)、「レンジファインダ」の発明であるところ、引用発明における「物標」である「走査の範囲内に位置する各物体」は、本件補正発明における「物体または複数の物体」に相当する。
b そして、引用発明の「レンジファインダ」は、「物体の方向と相対距離とを含むレンジデータ(距離画像)」を「取得することができる」ものであるから、本件補正発明にいうところの「物体または複数の物体の3次元レンジマッピングのためのシステム」であるといえる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「物体または複数の物体の3次元レンジマッピングのためのシステム」の発明である点。
(イ) 構成Aの観点(LIDARシステム)
構成Aは、「前記システムは光検出及び測距(LIDAR)システムを備え[る]」ことである。
a 「レーザ光を使用したレンジファインダ」が「LIDARシステム」の一種であることは、技術常識である(例えば、特開2017-216575号公報の【0010】には、「ライダーは、例えば、レーザーレンジファインダである。」と記載されている。また、国際公開第2017/157967号の明細書10頁14~15行には、「In Stage A, the depth sensor used is preferably a Lidar sensor of the scanning laser range finder kind.」(当合議体訳:段階Aでは、使用される深度センサは、好ましくは、走査レーザレンジファインダの種類のライダーセンサーである。)と記載されている。)。
b そうすると、引用発明の「レーザ距離計測器201 ~20n」を含む「レンジファインダ」は、本件補正発明における「光検出及び測距(LIDAR)システム」に相当する構成を備えるといえる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Aの観点について、次の点において一致する。
「前記システムは光検出及び測距(LIDAR)システムを備える」点。
(ウ) 構成Bの観点(光ビームエミッタの配列)
構成Bは、「前記LIDARシステムは、」「光ビームエミッタの配列」を含むことである。
a 引用発明の「レンジファインダ」は、「光源111~11n」を備え(【0012】)、当該「光源111~11n」は、「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82および符号発生器22であ[る]」(【0019】)ところ、引用発明における「レーザ発振器82」は、本件補正発明における「光ビームエミッタ」に相当する。
b そして、引用発明における「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82」は、n個のレーザ距離計測器にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82を意味するから、レーザ発振器82は複数あり、配列を形成するものといえる。
c したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Bの観点について、次の点において一致する。
「前記LIDARシステムは、」「光ビームエミッタの配列」を含む点。
(エ) 構成Cの観点(検出要素)
構成Cは、「前記LIDARシステムは、」「少なくとも1つの検出要素」を含むことである。
a 引用発明の「レンジファインダ」は、「復調手段151 ~15n」(【0012】)を備え、当該「復調手段151 ~15n」は、「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載された光検出器83であ[る]」(【0019】)ところ、引用発明における「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載された光検出器83」は、本件補正発明における「少なくとも1つの検出要素」に相当する。
b したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Cの観点について、次の点において一致する。
「前記LIDARシステムは、」「少なくとも1つの検出要素」を含む点。
(オ) 構成Dの観点(発散レンズ及び集束レンズ)
構成Dは、「前記LIDARシステムは、」「発散レンズと、集束レンズと」を備えることである。
a 引用発明は、本件補正発明の構成Dに相当する構成を備えていない。
b したがって、本件補正発明と引用発明は、構成Dの点である次の点において相違する。
<構成Dの観点についての相違点>
本件補正発明においては、「前記LIDARシステム」が「発散レンズ」と「集束レンズ」を含むのに対して、引用発明は、「発散レンズ」と「集束レンズ」に相当する構成を有しない点。
(カ) 構成E0~構成E5の観点(算出ユニット)
構成E0の「前記LIDARシステムは、」「送信構成要素及び受信構成要素を有する算出ユニット」を含むことについては、構成E1から構成E5について検討した後で、改めて検討する。
a 構成E1の観点(放射光ビームの同時放射)
構成E1は、「前記算出ユニットは、」「前記光ビームエミッタに複数の放射光ビームを同時に放射することを命令[する]」ことである。
(a) 前記(ウ)aにおいて検討したとおり、引用発明における「レーザ発振器82」は、本件補正発明における「光ビームエミッタ」に相当し、引用発明における「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82」は、n個のレーザ距離計測器にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82を意味する。
そして、引用発明は、「複数のレーザ距離計測器間の光学的な干渉を回避しつつこれらの計測器を並行して稼働させる」ものであるから(【0025】)、n個のレーザ距離計測器にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82は、同時に光を出射するものといえる。
(b) また、引用発明における「コントローラ21」は、「レーザ距離計測器201 ~20n」からなる複数のレーザ距離計測器を「統括的に制御する」ものであり(【0016】、【0019】)、「コントローラ21の第一の出力がレーザ発振器82の制御入力に接続され[ている]」から(認定事項1)、コントローラ21がレーザ発振器82の光の出射を制御(命令)しているといえる。
(c) そうすると、引用発明は、本件補正発明にいうところの、「前記算出ユニットは、」「前記光ビームエミッタに複数の放射光ビームを同時に放射することを命令[する]」という構成に相当する構成を備えているといえる。
(d) したがって、本件補正発明と引用発明は、構成E1の観点について、次の点において一致する。
「前記算出ユニットは、」「前記光ビームエミッタに複数の放射光ビームを同時に放射することを命令する」点。
b 構成E2の観点(放射光ビームの識別)
構成E2は、「前記算出ユニットは、」「前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込み、各前記放射光ビームを固有直交波形と識別[する]」ことである。
(a) 本願明細書の【0030】には、「本方法では、レンジ情報を埋め込むことは疑似雑音(PN)パルストレインを埋め込むことであり得る。」と記載されている。
(b) 引用発明は、「自己相関特性が急峻であり、かつ同一符号系列内の異なる符号との相互相関値が小さな個別の符号により変調処理を施した光を出射する光源111~11nを備え」「ここで、光源111~11nは、レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82および符号発生器22であり」、「レーザ発振器82はM系列符号によりその発振出力を断続[する]」(【0022】)ものである。
ここで、「M系列符号」は、「疑似雑音(PN:Pseudo Noise)パルストレイン(パルス列)」の代表的な例である。
前記(a)を踏まえると、引用発明において、「出射する」「光」に対して「自己相関特性が急峻であり、かつ同一符号系列内の異なる符号との相互相関値が小さな個別の符号」である「M系列符号」「により変調処理を施[す]」ことは、本件補正発明における「前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込[む]」ことに相当する。
(c) また、「M系列符号」が直交波形を生成するものであることも、技術常識である(例えば、特開2013-161354号公報の【0043】には、「直交波形は、どのようなものでもよく、例えば、直交性質を持つ、三角関数、Walsh-Hadamal関数、M系列、Waveletなどの直交関数から生成することが考えられる。」と記載されている。)。
そうすると、引用発明における「同一符号系列内の異なる符号との相互相関値が小さな個別の符号」である「M系列符号」を用いた変調処理により生成される波形は、「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82」から出射される光を識別する固有直交波形といえる。
(d) そうすると、引用発明は、本件補正発明にいうところの、「前記算出ユニットは、」「前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込み、各前記放射光ビームを固有直交波形と識別[する]」という構成に相当する構成を備えているといえる。
(e) したがって、本件補正発明と引用発明は、構成E2の観点について、次の点において一致する。
「前記算出ユニットは、」「前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込み、各前記放射光ビームを固有直交波形と識別[する]」点。
c 構成E3の観点(自己相関)
構成E3は、「前記算出ユニットは、」「各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行い前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対を提供[する]」ことである。
(a) 前記(エ)aにおいて検討したとおり、引用発明における「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載された光検出器83」は、本件補正発明における「各前記検出要素」に相当する。
そして、引用発明における、それぞれの「光検出器83」により「光-電変換して2値化」される「このような方位走査の範囲内に位置する物体から反射されたレーザ光の内、ミラー722 、721 を介して受光された反射レーザ光」(【0023】)は、本件補正発明における「各前記検出要素で受信される各反射ビーム」に相当する。
また、引用発明は、「自己相関特性が急峻であり、かつ同一符号系列内の異なる符号との相互相関値が小さな個別の符号により変調処理を施した光を出射する」ものであり(【0012】)、「レーザ発振器82はM系列符号によりその発振出力を断続[する]」ものであるから(【0022】)、「2値化」される「反射レーザ光」もM系列符号による変調を含むものであり、前記bの検討を踏まえると、固有直交波形を含むものといえる。
(b) 引用発明において、「相関器23は、符号発生器22から与えられるM系列符号を基準として上述した2値化により得られた信号が示すビット列の各位相における相関値を比較し、その相関値が自己相関特性に応じた最大値をとる反射レーザ光の位相をクロック周期の整数倍値を示すシフト量として求め[る]」ものであるところ(【0023】)、「符号発生器22から与えられるM系列符号」は、「出射する」「光」に「施した」「変調処理」に用いたものであるから、本件補正発明の「前記放射光ビームの前記固有直交波形」に相当する。
そうすると、引用発明における「符号発生器22から与えられるM系列符号を基準として上述した2値化により得られた信号が示すビット列の各位相における相関値を比較[する]」ことは、本件補正発明における「各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行[う]」ことに相当する。
(c) さらに、引用発明は、「その相関値が自己相関特性に応じた最大値をとる反射レーザ光の位相をクロック周期の整数倍値を示すシフト量として求め[る]」ものであるところ、「相関値が自己相関特性に応じた最大値をとる」「反射レーザ光」は、対応する「レーザ光」(出射された光)と対をなすものといえる。
(d) 前記(a)から(c)の検討結果をまとめると、引用発明は、本件補正発明における、「前記算出ユニットは、」「各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行い前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対を提供する」という構成に相当する構成を備えているといえる。
(e) したがって、本件補正発明と引用発明は、構成E3の観点について、次の点において一致する。
「前記算出ユニットは、」「各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行い前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対を提供する」点。
d 構成E4の観点(レンジ判定)
構成E4は、「前記算出ユニットは、」「前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定し、前記飛行時間からレンジを判定するように構成され[る]」ことである。
(a) 引用発明は、「相関値が自己相関特性に応じた最大値をとる反射レーザ光の位相をクロック周期の整数倍値を示すシフト量として求め[る]」ものである(【0023】)。
そして、引用発明において、「シフト量」と「飛行時間」との間には、「飛行時間=シフト量×クロック周期・・・〔1〕」の式が成立し、各レーザ距離計測器から物体までの距離は、「距離=飛行時間×光の速度÷2・・・〔2〕」の式で与えられるところ、「コントローラ21は、上式〔1〕、〔2〕に基づいて物体までの距離を求めることができ[る]」ものである。
ここで、前記cの検討を踏まえると、引用発明において「式〔1〕」により「飛行時間」を求めることは、本件補正発明において「前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定[する]」ことに相当する。
また、引用発明において「式〔2〕」により「各レーザ距離計測器から物体までの距離」を求めることは、本件補正発明の「前記飛行時間からレンジを判定する」ことに相当する。
(b) そうすると、引用発明は、本件補正発明における、「前記算出ユニットは、」「前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定し、前記飛行時間からレンジを判定するように構成される」という構成に相当する構成を備えているといえる。
(c) したがって、本件補正発明と引用発明は、構成E4の観点について、次の点において一致する。
「前記算出ユニットは、」「前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定し、前記飛行時間からレンジを判定するように構成される」点。
e 構成E5の観点(相関器)
構成E5は、「前記受信構成要素は、各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器をさらに備える」ことである。
(a) 引用発明における「相関処理手段171 ~17n」である「相関器23」は、「レーザ距離計測器201 ~20n」にそれぞれ搭載されたものであることは明らかであるから、各「相関器23」は、「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82」のためのものということができる。
(b) さらに、前記dの検討結果も踏まえると、引用発明における「相関器23」は、本件補正発明における「各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器」に相当するといえる。
(c) そうすると、引用発明は、本件補正発明における「各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器をさらに備える」「受信構成要素」を有する「算出ユニット」に相当する構成を備えるといえる。
(d) したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記受信構成要素は、各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器をさらに備える」点。
f 構成E0の観点(算出ユニット)
構成E0は、「前記LIDARシステムは、」「送信構成要素及び受信構成要素を有する算出ユニット」を含むことである。
前記a及びbの検討結果を踏まえると、引用発明は、本件補正発明にいうところの「前記LIDARシステム」は「送信構成要素を有する算出ユニット」を含む」ことに相当する構成を備えるといえる。
また、前記eの検討結果を踏まえると、引用発明は、本件補正発明にいうところの「前記LIDARシステムは」「受信構成要素を有する算出ユニット」を含む」ことに相当する構成を備えるといえる。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次の(ア)及び(イ)に示すとおりである。
(ア) 一致点
「物体または複数の物体の3次元レンジマッピングのためのシステムが提供され、前記システムは光検出及び測距(LIDAR)システムを備え、 前記LIDARシステムは、光ビームエミッタの配列と、
少なくとも1つの検出要素と、
送信構成要素及び受信構成要素を有する算出ユニットとを含み、前記算出ユニットは、前記光ビームエミッタに複数の放射光ビームを同時に放射することを命令し、
前記放射光ビームにレンジ情報を埋め込み、各前記放射光ビームを固有直交波形と識別し、
各前記検出要素で受信される各反射ビームの前記固有直交波形を、前記放射光ビームの前記固有直交波形と自己相関を行い前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対を提供し、
前記放射光ビーム及び前記反射光ビームの対のそれぞれの飛行時間を判定し、前記飛行時間からレンジを判定するように構成され、
前記受信構成要素は、各検出要素で受信される各反射ビームの固有直交波形を、放射光ビームの固有直交波形と自己相関を行うように構成される、各光ビームエミッタのための相関器をさらに備える、システム」の発明である点。
(イ) 相違点
本件補正発明においては、「前記LIDARシステム」が「発散レンズ」と「集束レンズ」を含むのに対して、
引用発明においては、「発散レンズ」と「集束レンズ」に相当する構成を有しない点。
(5) 判断
ア 前記(3)イ(イ)において周知技術1として認定したとおり、次の技術事項は、本願の優先日前に当業者にとって周知の技術である。
「距離測定装置において、レーザ光の角度を拡大するための角度拡大レンズと、戻り光を集光する集光レンズを設けることにより、対象物を測定する測定範囲を拡大すること。」
ここで、周知技術1における「角度拡大レンズ」及び「集光レンズ」は、それぞれ本件補正発明における「発散レンズ」及び「集束レンズ」に相当する。
イ 引用発明は、「レーザ距離計測器201 ~20n」を含むものであり、「走査の範囲内に位置する各物体の位置を求める」ものであるから、走査の範囲、すなわち、対象物を測定する測定範囲を拡大するとの課題を内在することは明らかである。
ウ そうすると、引用発明の「レンジファインダ」において、対象物を測定する測定範囲を拡大するために周知技術1を適用して、出射されるレーザ光の角度を拡大する角度拡大レンズ(発散レンズ)、及び、反射レーザ光を集光する集光レンズ(集束レンズ)を設けて、前記相違点に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
エ そして、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
オ したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6) 請求人の主張について
ア 請求人の主張内容
請求人は、審判請求書において、本件補正発明が進歩性を有することの根拠として、次の(ア)から(ウ)の主張をしている。
(ア) 本件補正発明はLIDARシステムに関するものであるところ、LIDARシステムは、物体から跳ね返ってセンサーに戻るパルスレーザを放出するためにレーザビームを使用し、レーザのパルスが戻ってくるまでの時間が、物体までの距離を計算するのに用いられる。一方、引用発明のレーザ距離計は、回転ミラーを使用して単一のレーザビームを偏向させ、異なる方向に掃引することで物体との距離を測定する。
(イ) さらに、引用発明のレーザビームがミラーによって反射される単一のレーザビームであるのに対して、本件補正発明は複数のレーザビームを同時に放出するものである。引用発明は放出された一つのレーザを、それに対応する反射されたレーザと対にするための相関器を必要としない。したがって、引用発明の相関器は本件補正発明の相関器とは異なる結果を達成するために、異なる機能を有する。
(ウ) 引用発明は、発散レンズも集光レンズも教示しておらず、ミラーを使って単一の光ビームを複数の角度に方向転換し、エリアを掃引した後、またミラーを使って複数の光ビームを単一の検出器に向けて収束させる必要がある。対して、本件補正発明においては、発散レンズは、単一の光束を異なる角度の光束に方向転換(発散)させる働きをするから、1枚の発散レンズで複数の光線を複数の角度に向けることができ、広い範囲をスキャンすることができるという効果を有する。本件補正発明は、戻ってくる複数の光ビームは集光レンズによって単一の検出器に向けて方向転換されるため、これらを掃引または収束させる必要がない。
イ 請求人の主張についての検討
(ア)a 請求人は、LIDARシステムはレーザのパルスが戻ってくるまでの時間から物体までの距離を計算するものである旨主張しているが、例えば特開2016―53566号公報の【0013】における次の記載から明らかなように、LIDARシステムは、パルスレーザを用いるものに限られない。
b 「LIDARは、被写体までの距離を測定する技術である。この技術では、照明光が被写体で反射され、その反射光が検出器に到達するまでに要する時間、すなわち飛行時間を計測する。光の飛行時間を測定するために、照明光には強度変調が加えられる。検出器は、照明光の強度変調の位相と反射光の強度変調の位相との位相差を検出する機能を備えている。この位相差は飛行時間に対応するので、この位相差から測距を行うことができる。」
(イ) また、請求人は、引用文献1のレーザビームが単一のレーザビームである旨主張しているが、前記(4)ア(ウ)及び(カ)aにおいて説明したとおり、引用発明の「レーザ距離計測器201 ~20n にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82」は、n個のレーザ距離計測器にそれぞれ搭載されたレーザ発振器82を意味するから、レーザ発振器82は複数あり、複数のレーザ発振器82から同時に複数のレーザ光を出射するものである。そうすると、請求人の前記ア(イ)の主張は、その前提において誤りがある。
(ウ)a 前記(5)において説示したとおり、引用発明に対して周知技術1を適用することにより、発散レンズ及び集束レンズを設けることは、当業者が容易に想到し得たことである。
b また、請求人は、引用発明が単一の光ビームを複数の角度に方向転換するものである旨主張しているが、引用発明が複数のレーザ光を出射するものであることは、前記(イ)において検討したとおりである。
(エ) 以上のとおりであるから、請求人の主張は採用できない。
(7) 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の却下の決定の理由のむすび
前記2(5)に示したとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
また、仮に本件補正が、特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮(請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)を目的とするものに該当するとしても、前記3(7)のとおり、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定における本願発明に対する拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
理由1(新規性の欠如) 本願発明は、本願の優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由2(進歩性の欠如) 本願発明は、本願の優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、本願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開平6-75050号公報
3 各引用文献に記載された事項及び引用発明の認定等
引用文献1に記載された事項及び引用発明は、前記第2の3(2)ア(ア)及び(ウ)において示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、本件補正発明から、前記第2の2(1)に示した限定を省いたものであるから、本願発明と引用発明には相違点は存在しない。そうすると、本願発明は引用発明と同一である。
また、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号に該当するため、又は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-002603