特許拒絶査定不服審判
2023-021311
信号送信方法および装置、信号処理方法および装置、およびレーダーシステム
- 審判番号
- 2023-021311
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-511089
- 請求日
- 2023年12月14日
- 審決日
- 2025年03月21日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】深▲ジェン▼引望智能技術有限公司
- 【請求人代理人】実広 信哉
- 【請求人代理人】野村 進
- 審判長/審判官
- 審判長 中塚 直樹
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 貝沼 憲司
- 分類
- P18 .113-Z (G01S) / P18 .121-Z (G01S) / P18 .57 -Z (G01S)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第5項、特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-511089「信号送信方法および装置、信号処理方法および装置、およびレーダーシステム」拒絶査定不服審判事件〔令和3年2月25日国際公開、WO2021/031076、令和4年10月24日特許出願公表、特表2022-545002〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(令和元年)8月19日を国際出願日とする外国語特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 3月31日 :翻訳文、手続補正書の提出
令和5年 3月 1日付け:拒絶理由通知書
同年 6月 2日 :意見書、手続補正書の提出
同年 8月 2日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月14日 :原査定の謄本の送達)
同年12月14日 :審判請求書、誤訳訂正書の提出
令和6年 1月18日付け:前置報告書
同年 4月30日 :上申書の提出
第2 令和5年12月14日に提出された誤訳訂正書による補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年12月14日に提出された誤訳訂正書による手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和5年12月14日に提出された誤訳訂正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、本件補正により、次の(1)に示す本件補正前(令和5年6月2日にされた手続補正後のものをいう。以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前
「【請求項1】
多入力多出力(MIMO)レーダーに適用される信号送信方法であって、前記MIMOレーダーは送信器を含み、前記送信器はNt個の送信アンテナを含み、前記方法は、
前記送信器によって、測定フレームを送信するステップであって、前記測定フレームが目標の速度を測定するために使用され、前記測定フレームが第1のバーストを含む、ステップを含み、
前記第1のバーストにおいて、前記Nt個の送信アンテナの各々は、N1*T1の周期でチャープ信号を送信するように構成され、N1>Ntであり、T1は前記第1のバーストにおける各チャープ信号の持続時間であり、
1周期において、1ラウンドのチャープ信号が前記Nt個の送信アンテナによって送信され、前記1ラウンドのチャープ信号が、前記Nt個の送信アンテナによってそれぞれ送信されるNt個のチャープ信号および前記Nt個の送信アンテナのうちの少なくとも1つによって送信されるN1-Nt個のチャープ信号を含み、T1の間に1つの送信アンテナからチャープ信号が送信される、信号送信方法。」
(2) 本件補正後
「【請求項1】
多入力多出力(MIMO)レーダーに適用される信号送信方法であって、前記MIMOレーダーは送信器を含み、前記送信器はNt個の送信アンテナを含み、Nt≧2であり、前記方法は、
前記送信器によって、測定フレームを送信するステップであって、前記測定フレームが目標の速度を測定するために使用され、前記測定フレームが第1のバーストを含む、ステップを含み、
前記第1のバーストにおいて、前記Nt個の送信アンテナの各々は、N1*T1の周期でチャープ信号を送信するように構成され、N1>Ntであり、T1は前記第1のバーストにおける各チャープ信号の持続時間であり、
1周期において、1ラウンドのチャープ信号が前記Nt個の送信アンテナによって送信され、前記1ラウンドのチャープ信号が、前記Nt個の送信アンテナによってそれぞれ送信されるNt個のチャープ信号および前記Nt個の送信アンテナのうちの少なくとも1つによって送信されるN1-Nt個のチャープ信号を含み、T1の間に1つの送信アンテナからチャープ信号が送信される、信号送信方法。」
2 補正の目的
(1) 本件補正による補正事項
本件補正のうち請求項1についてする補正は、本件補正前の請求項1に記載された「多入力多出力(MIMO)レーダーに適用される信号送信方法であって、前記MIMOレーダーは送信器を含み、前記送信器はNt個の送信アンテナを含み」について、「Nt≧2であり」という構成を追加するものである。
(2) 特許請求の範囲の減縮に該当しないことについて
ア 上記(1)の補正事項は、MIMOレーダーの送信アンテナの数を特定しようとするものであると認められる。
イ ここで、本願におけるMIMOレーダーの送信アンテナの数について、本願明細書の段落【0004】には、「MIMOレーダーでは、複数のアンテナが時分割多重化(time division multiplexing、TDM)方式でチャープ(chirp)信号を送信できる。…(中略)…。MIMOレーダーでは、送信アンテナの数が多いため、最大速度測定範囲がSIMOレーダーのそれと比べて小さくされることが上記の式から習得され得る。また、多数Ntの送信アンテナは、最大速度測定範囲が小さくなるというより深刻な問題を意味する。最大速度測定範囲が小さくされると、目標の速度を計算するときに速度エイリアシングが発生しやすくなる。(後略)」と記載されているように、本願におけるMIMOレーダーは、複数の送信アンテナを有することを前提として記載されている。
ウ そして、一般的にもMIMOレーダーが複数の送信アンテナを有することは、技術常識である。
エ そうすると、そもそも「MIMOレーダー」という表記は、複数の送信アンテナを有することを内包するものであって、請求項1において「Nt≧2であり」と特定することは、請求項1の発明特定事項を実質的に何ら限定するものでないため、本件補正のうち請求項1についてする補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものには該当しない。
(3) その他の補正の目的要件にも該当しないことについて
そして、本件補正のうち請求項1についての補正が、請求項の削除、誤記の訂正又は明瞭でない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかである。
(4) 目的要件についての検討のまとめ
以上検討のとおり、本件補正により特許請求の範囲についてする補正は、特許法17条の2第5項各号のいずれを目的とするものに該当しない。
よって、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
3 独立特許要件の判断
前記2(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当しないところ、仮に本件補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、検討の便宜上、本件補正発明の構成を次のとおり構成Xと構成Aから構成Dまでに分説する。また、参考図として本願の【図4】、その説明として【図面の簡単な説明】及び【0110】を掲載する。
<本件補正発明の分説>
X 多入力多出力(MIMO)レーダーに適用される信号送信方法であって、
A 前記MIMOレーダーは送信器を含み、前記送信器はNt個の送信アンテナを含み、Nt≧2であり、
前記方法は、
B 前記送信器によって、測定フレームを送信するステップであって、前記測定フレームが目標の速度を測定するために使用され、前記測定フレームが第1のバーストを含む、ステップを含み、
C 前記第1のバーストにおいて、前記Nt個の送信アンテナの各々は、N1*T1の周期でチャープ信号を送信するように構成され、N1>Ntであり、T1は前記第1のバーストにおける各チャープ信号の持続時間であり、
D 1周期において、1ラウンドのチャープ信号が前記Nt個の送信アンテナによって送信され、前記1ラウンドのチャープ信号が、前記Nt個の送信アンテナによってそれぞれ送信されるNt個のチャープ信号および前記Nt個の送信アンテナのうちの少なくとも1つによって送信されるN1-Nt個のチャープ信号を含み、T1の間に1つの送信アンテナからチャープ信号が送信される、
X 信号送信方法。
<参考図>
【図4】
[図:0001426375000001.jpg]
【図4】本出願の一実施形態による第1のMIMOレーダーによって送信されるチャープ信号の概略図である。
【0110】
例えば、追加の送信オーバーヘッドが1つのタイムスロットである場合は、N1=13とNt=12の一例で、Nt個の送信アンテナによって送信される1ラウンドのchirp信号が図4に示されることができる。図4の例で、細片はchirp信号を表し、それぞれのchirp信号は1タイムスロットを占める。白塗り部分は、N1*T1の周期で各送信アンテナによって送信されるchirp信号とみなされることができ、黒塗り部分は、第1の送信アンテナによって送信されるN1-Nt個のchirp信号とみなされることができる。特に、図4の例で、第1の送信アンテナによって送信されるN1-Nt個のchirp信号とN1*T1の周期で第1の送信アンテナによって送信されるchirp信号は、時間的に連続する2つのchirp信号(ソフトオーバーラッピングを形成)である。12個の送信アンテナは1、2、3、...、12と付番され、第1の送信アンテナは1と付番され、各送信アンテナによって相応に送信されるchirp信号は図4で標示され得る。1ラウンドのchirp信号において、第1の送信アンテナがN1*T1の周期で第3のタイムスロットでchirp信号を送信するばかりでなく、第4のタイムスロットでN1-Nt個のchirp信号も送信することが、図4から習得され得る。
イ 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。下線は、合議体が付したものである。
「【技術分野】
【0001】
本出願はセンサー技術の分野に関し、特に、信号送信方法および装置、信号処理方法および装置、およびレーダーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
車載レーダーは自動運転システムにおいて不可欠なセンサーである。車両に、車載レーダーを使用して障害物(目標と呼ばれることもある)検出が設けられることができる。具体的に述べると、車両周辺の障害物の距離、速度、および方位角が検出されることができる。
【0003】
近年は車載レーダー技術が絶え間なく進化している。例えば、より大きい掃引帯域幅を使用することによってより高い距離分解能を得るために、周波数帯域は24 GHzから77 GHz/79 GHzに徐々に発展している。仮想アンテナアパーチャを拡張し、角度分解能を向上させるため、チャネルの数は単入力多出力(single input multiple output、SIMO)モードから多入力多出力(multiple input multiple output、MIMO)モードに発展している。
【0004】
MIMOレーダーでは、複数のアンテナが時分割多重化(time division multiplexing、TDM)方式でチャープ(chirp)信号を送信できる。MIMOレーダーは角度分解能を向上させることができるが、最大速度測定範囲が小さくなるという問題がある。一般的に、レーダーの最大速度測定範囲はVmax=λ/4*Tcと表すことができ、λは周波数変調の波長であり、Tcは同じアンテナの送信繰り返し周期である。単一のアンテナによって1つのchirpを送信する期間がTc_SIMO(タイムスロットと呼ばれることもある)であると仮定される。そして、TDM MIMOレーダーでは、Nt個のアンテナがTDM方式でNt個のchirp信号を送信するときに、所要時間Tc_MIMOはTc_MIMO≧Nt*Tc_SIMOを満たす。したがって、Nt個のアンテナがchirpを送信するように構成される場合の最大速度測定範囲Vmax_MIMOと、単一のアンテナがchirpを送信するように構成される場合の最大速度測定範囲Vmax_SIMO(すなわち、SIMOレーダーの速度測定範囲)との関係は、Vmax_SIMO≧Nt*Vmax_MIMOと表されることができる。MIMOレーダーでは、送信アンテナの数が多いため、最大速度測定範囲がSIMOレーダーのそれと比べて小さくされることが上記の式から習得され得る。また、多数Ntの送信アンテナは、最大速度測定範囲が小さくなるというより深刻な問題を意味する。最大速度測定範囲が小さくされると、目標の速度を計算するときに速度エイリアシングが発生しやすくなる。加えて、TDM MIMOレーダーにおける速度と角度との測定結合に起因して、速度エイリアシングは角度解に影響を及ぼし、結果として角度分解能を向上させるという所望の目的は達成できない。
【0005】
要するに、MIMOレーダーが目標の速度測定をSIMOレーダーの速度測定範囲まで正確に回復できるようにするため、MIMOレーダーのための信号送信および処理ソリューションが緊急に求められている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
MIMOレーダーが目標の速度測定をSIMOレーダーの速度測定範囲まで正確に回復できるようにするため、本出願の実施形態は、信号送信方法および装置、信号処理方法および装置、およびレーダーシステムを提供する。
【0007】
第1の態様によると、本出願の一実施形態は信号送信方法を提供する。該方法は多入力多出力(MIMO)レーダーに適用され、MIMOレーダーは送信器を含み、送信器はNt個の送信アンテナを含む。信号送信方法は、送信器が測定フレームを送信するステップを含む。測定フレームは目標の速度を測定するために使用され、測定フレームは第1のバーストを含む。第1のバーストにおいて、Nt個の送信アンテナの各々は、N1*T1の周期でチャープ(chirp)信号を送信するように構成され、N1>Ntであり、T1は第1のバーストにおける各chirp信号の持続時間である。
【0008】
測定フレームは周波数変調連続波FMCWであってよい。
【0009】
前述のソリューションによると、送信アンテナによって様々な密度の送信が実現されることができる。
【0010】
高密度送信アンテナ(例えば、第1の送信アンテナであってよい)がN1-Nt個のchirp信号を連続的に送信する場合、ソフトオーバーラッピングモーメントに対応する受信アンテナ間の位相差は、目標の速度によって引き起こされるドップラー(doppler)位相によってのみ決定される。したがって、目標の速度を判断するため、対応する速度エイリアシング係数は、送信密度が比較的大きい第1の送信アンテナにおいて計算される目標の速度識別子を使用して照合することによって直接得られることができる。
【0011】
高密度送信アンテナ(例えば、第1の送信アンテナであってよい)がN1-Nt個のchirp信号を周期的に送信する場合は、高密度送信アンテナに対応する受信エコー信号の最大速度測定範囲が大きいため、高密度送信アンテナの送信中により小さい送信繰り返し周期が形成される可能性があり、スペクトルピーク探索法が使用される場合は、高密度送信アンテナに対応する受信エコー信号の速度エイリアシング係数の数がSIMOのそれより少なくなる。高密度送信アンテナに対応する受信エコー信号は、低密度送信アンテナに対応する受信エコー信号と併せて目標速度計算を支援するために使用され、その結果、角スペクトルピーク探索中のエイリアシング係数区間範囲が狭められることができ、計算の複雑さが軽減されることができる。
【0012】
したがって、第1の態様で提供される信号送信方法によると、MIMOレーダーの最大速度測定範囲がSIMOの速度測定範囲まで回復されることができ、後続の角度測定に影響は及ばない。実際の応用では、目標の速度が計算された後に、目標の方位角(例えば、水平方位角と垂直方位角とを含む)を得て、目標の距離、速度、および角度情報を得るために、ドップラー補償後の各受信チャネルのデータに基づいてさらなる計算が行われる必要がある。したがって、速度計算の精度は方位角計算に大きく影響する。本出願の本実施形態で提供される方法によると、方位角計算の精度が保証されることができ、角度分解能が向上されることができる。」
(2) 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である特開2019-74404号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記イの引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
(ア) 段落【0001】~【0015】
「【0001】
本発明は、レーダ装置及びレーダ装置の送信処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、FCM(Fast Chirp Modulation)方式のレーダ装置が知られる(例えば特許文献1参照)。FCM方式のレーダ装置では、周波数が連続的に増加又は減少するチャープ波をレーダ波として使用し、その送受信信号から生成されたビート信号に対して2次元FFT(Fast Fourier Transform)を施すことによって、距離及び相対速度を計測する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-3873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
FCM方式では、複数のチャープ波(変調波形)を送信する必要がある。このために、速度情報に関して同等の性能(例えば速度分解能や最大検知速度)を実現しようとすると、FMCW(Frequency Modulated Continuous Wave)に比べてビームを送信する時間が長くなる傾向がある。
【0005】
また、レーダ装置から送信されるビームの幅が狭い場合、検出範囲を広げるために、ビームが送信される角度を変化させてビームの送信を複数回行う必要がある。この結果、ビームの送信時間が長くなりやすい。ビームの送信時間を短縮するためにビームの幅を広くして角度を変化させる回数を減らした場合、角度分解能が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、測角性能の低下を抑制しつつ、物標情報を取得するためのビームの送信時間を短縮することができる技術を提供することを目的とする。
…(中略)…
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測角性能の低下を抑制しつつ、物標情報を取得するためのビームの送信時間を短縮することができる。」
(イ) 段落【0019】~【0029】、【図1】~【図3】
「【0019】
図1に示すように、レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備える。処理部30は、上述の車両ECU2に接続される。処理部30は、車両ECU30に情報を出力する。」
「【図1】
[図:0001426375000002.jpg]
」
「【0020】
送信部10は、不図示の発振器を含む信号生成部11と、出力部13とを有する。すなわち、レーダ装置1は、信号生成部11と出力部13とを有する。信号生成部11は送信信号を生成する。詳細には、信号生成部11は、後述する送信制御部31の制御により、ミリ波を送信するための変調信号を生成し、当該変調信号に基づいて発振器により送信信号を生成する。信号生成部11は、生成した送信信号を送信アンテナ13へ出力する。なお、信号生成部11によって生成された送信信号は、後述するミキサ22に対しても分配される。
【0021】
出力部13は、送信信号に基づき送信波を所定角度ごとに出力する。詳細には、出力部13は送信アンテナである。送信アンテナ13は、信号生成部11からの信号を送信波TWに変換し、当該送信波TWを車両3(図2参照)の外部に送信する。図2は、送信アンテナ13から送信される送信波TW(ビーム)を模式的に示した図である。図2に示すように、送信アンテナ13は、水平方向の複数の方位に送信波TWを送信する。複数の方位は予め設定される。換言すると、送信部10は所定角度ごとに送信波TWを送信する。送信アンテナ13の数は1つ以上であればよい。送信アンテナ13から車両3の外部(例えば車両前方)へ送信された送信波TWは、他の車両等の物標で反射されて反射波になる。」
「【図2】
[図:0001426375000003.jpg]
」
「【0022】
本実施形態では、複数の方向への送信波TWの送信は、電子スキャン方式によって行われる。電子スキャン方式は、例えばフェーズドアレイ方式やビーム切換方式であってよい。なお、図1に示す例は、ビーム切換方式である。フェーズドアレイ方式では、送信アンテナ13は、例えば複数の素子アンテナを一定の間隔で配列して構成される。各素子アンテナに接続された位相器で信号の位相を制御することによって、送信波TW(ビーム)を走査する。ビーム切換方式では、指向方向が少しずつずれたビーム幅の狭い固定ビームを送信する複数のアンテナが設けられ、電気的に時分割で送信波TWを送信するアンテナを切り換えることによって送信波TW(ビーム)を走査する。なお、複数の方向への送信波TWの送信は、メカニカルスキャン方式で行われてもよい。この場合、送信アンテナの数は1つであってよい。
【0023】
受信部20は、送信波TWが物標で反射された反射波を受信する。受信部20は、受信アンテナ21と、ミキサ22と、A/D変換部23とを有する。受信アンテナ21は、物標からの反射波を受信波RWとして受信し、当該受信波RWを受信信号へ変換してミキサ22へ出力する。受信アンテナ21は1つ以上であればよい。なお、図1に示す例は、受信部20は複数であり、受信アンテナ21の数も複数である。受信アンテナ21は、例えばアレーアンテナを構成する複数のアンテナであってよい。受信アンテナ21の数が複数である場合、それに対応してミキサ22及びA/D変換部23の数も複数としてよい。
…(中略)…
【0028】
図3は、FCM方式の概要を説明するための模式図である。FCM方式では、信号生成部11は、のこぎり波状に電圧が変化する変調信号を生成する。信号生成部11は、更に、当該変調信号に基づいて、時間の経過に従って周波数が増加するチャープ信号を所定期間Tc(以下、「チャープ周期Tc」)ごとに生成して、送信アンテナ13に出力する。送信アンテナ13は、信号生成部11からの送信信号を送信波TWへ変換し、当該送信波TWを車両3の外部に送信する。送信アンテナ13が出力する送信波TWは、チャープ周期Tcごとに、時間の経過に従って周波数が増加するチャープ波である(図3の上段参照)。送信アンテナ13から送信される複数のチャープ波によって、物標の距離及び相対速度の算出を行うことが可能になる。」
「【図3】
[図:0001426375000004.jpg]
」
「【0029】
なお、図3の上段に示す例では、送信周波数fstは、チャープ波(1つの波形)ごとに、基準周波数f0から時間に伴って傾きθで増加し、最大周波数f1に達すると基準周波数f0に短時間で戻る、のこぎり波状である。チャープ波の変調幅Δfは、Δf=f1-f0で表すことができる。傾きθは、変調幅Δfと変調時間Tmとを用いて、θ=Δf/Tmで表すことができる。変調時間Tmは、チャープ波(1つの波形)の周波数変調が行われる時間である。ただし、送信周波数fstは、チャープ波ごとに、基準周波数f0から最大周波数f1に短時間で到達し、最大周波数f1から時間に伴って傾きθ(=Δf/Tm)で減少し、基準周波数f0に達する、のこぎり波状であってもよい。この場合、信号生成部11によって生成されるチャープ信号は、時間の経過に従って周波数が減少する。
(ウ) 段落【0094】~【0112】、【図15】、【図16】
「【0094】
<<2.第2実施形態>>
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態のレーダ装置の構成は、第1実施形態のレーダ装置1の構成と同様である。このために、第2実施形態のレーダ装置の構成の詳細な説明は省略する。また、第1実施形態と重複する部分については同一の符号を付して説明する。第2実施形態では、波形セットSEは、間欠波形パターンIPを1つ有する。詳細には、波形セットSEは、連続波形パターンや、他の種類の間欠波形パターンは含まない。この点、第1実施形態と異なる。以下、この異なる部分に絞って説明する。
…(中略)…
【0109】
以上においては、間欠波形パターンIPは、チャープ波(波形1つ)が空走時間TIをあけて複数並ぶ構成とした。ただし、図15及び図16に示すように、間欠波形パターンIPは、複数のチャープ波を含む波形グループGが空走時間TIをあけて複数並ぶ構成としてもよい。このような波形パターンは、信号生成部11で生成する第1送信信号及び第2送信信号に含まれるチャープ信号を複数とすることによって実現できる。図15は、第2実施形態の変形例を説明するための図である。図16は、図15に示される複数の間欠波形パターンIPの1つを抽出して示した図である。」
「【図15】
[図:0001426375000005.jpg]
」
「【図16】
[図:0001426375000006.jpg]
」
「【0110】
本変形例では、各波形グループGは、連続して並ぶ複数のチャープ波を有する。各波形グループGが有するチャープ波の数は、本変形例では4つである。ただし、この数は変更されてよい。また、場合によっては、複数のチャープ波は連続しておらず、短時間の時間間隔をあけて並ぶ構成であってもよい。なお、波形セットSEに含まれる複数の波形グループGは同じパターンを有する。また、図15に示すように、送信角度A1~送信角度ANのN個の方向に送信波TWが送信される。複数の送信角度A1~ANに送信される間欠波形パターンIPはいずれも同じである。なお、間欠波形パターンIPは送信角度A1~ANごとに異ならせてもよい。これにより、検知速度範囲Vmaxや速度分解能Vminを角度ごとに設定できる。
【0111】
本変形例では、まず、送信角度A1について、間欠波形パターンIPの送信が開始される。この際、間欠波形パターンIPの最初の波形グループGが送信されてから次の波形グループが送信されるまでに空走時間TIが発生する。この空走時間TIの間に、送信角度A2~送信角度ANの間欠波形パターンIPの最初の波形グループGが順次送信される。空走時間TIが終了すると、送信角度A1の2番目の波形グループGが送信される。そして、最初の波形グループGの場合と同様に、次の波形グループGを送信するまでの空走時間TIの間に、送信角度A2~送信角度ANの間欠波形パターンIPの2番目の波形グループGが順次送信される。その後、各送信角度A1~ANについて、同様の処理によって3番目以降の波形グループGが順次送信される。各送信角度A1~ANについて、間欠波形パターンIPの全ての波形グループGが送信されると、物標の情報を取得するための送信波TWの送信の1サイクルが終了する。この1サイクルの終了後、適当な時間の経過の後に、次のサイクルが開始される。
【0112】
1サイクルの終了後に、導出部32は、例えば、各送信角度A1~ANについて、間欠波形パターンIPの各波形グループGの最初のチャープ波の送信によって得られた受信信号を抽出して、抽出された受信信号のセットに対してFFT処理を行う。FFT処理は、距離方向及び速度方向のFFT処理を含む。このFFT処理によって得られる2次元パワースペクトルによって、導出部32は物標の距離及び相対速度を算出する。換言すると、本変形例は、間欠波形パターンIPのうち、見かけ上、一定の時間間隔(空走時間)で送信される複数のチャープ波のセットを抽出して、これに応じた受信信号セットに対してFFT処理を行って物標の距離及び相対速度を算出する。なお、ここでは、各波形グループGの最初のチャープ波の送信によって得られた受信信号を抽出することにしたが、各波形グループの2番目のチャープ波等、他の順番のチャープ波の送信によって得られた受信信号を抽出してもよい。」
イ 引用発明の認定
前記アに摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、第2実施形態の変形例(【図15】)に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、第2実施形態のレーダ装置の構成は、第1実施形態のレーダ装置1の構成と同様であることが、引用文献1の段落【0094】に明示されている。また、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「レーダ装置1の送信処理方法であって、(【0001】)
レーダ装置1は、送信部10と、受信部20と、処理部30とを備え、(【0019】)
送信部10は、発振器を含む信号生成部11と、出力部13とを有し、(【0020】)
出力部13は送信アンテナであり、水平方向の複数の方位に送信波TWを送信し、(【0021】)
複数の方向への送信波TWの送信は、電子スキャン方式によって行われ、電子スキャン方式は、ビーム切換方式であって、指向方向が少しずつずれたビーム幅の狭い固定ビームを送信する複数のアンテナが設けられ、電気的に時分割で送信波TWを送信するアンテナを切り換えることによって送信波TW(ビーム)が走査され、(【0022】)
送信アンテナ13が出力する送信波TWは、チャープ周期Tcごとに、時間の経過に従って周波数が増加するチャープ波であって、(【0028】)
受信部20は、送信波TWが物標で反射された反射波を受信し、受信アンテナ21と、ミキサ22と、A/D変換部23とを有し、受信部20は複数であり、受信アンテナ21の数も複数であり、(【0023】)
変調時間Tmは、チャープ波(1つの波形)の周波数変調が行われる時間であって、(【0029】)
各波形グループGは、連続して並ぶ複数のチャープ波を有し、各波形グループGが有するチャープ波の数は、4つであって、送信角度A1~送信角度ANのN個の方向に送信波TWが送信され、(【0110】)
まず、送信角度A1について、間欠波形パターンIPの送信が開始され、この際、間欠波形パターンIPの最初の波形グループGが送信されてから次の波形グループが送信されるまでに空走時間TIが発生し、この空走時間TIの間に、送信角度A2~送信角度ANの間欠波形パターンIPの最初の波形グループGが順次送信され、空走時間TIが終了すると、送信角度A1の2番目の波形グループGが送信され、そして、最初の波形グループGの場合と同様に、次の波形グループGを送信するまでの空走時間TIの間に、送信角度A2~送信角度ANの間欠波形パターンIPの2番目の波形グループGが順次送信され、その後、各送信角度A1~ANについて、同様の処理によって3番目以降の波形グループGが順次送信され、各送信角度A1~ANについて、間欠波形パターンIPの全ての波形グループGが送信されると、物標の情報を取得するための送信波TWの送信の1サイクルが終了し、この1サイクルの終了後、適当な時間の経過の後に、次のサイクルが開始され、(【0111】)
1サイクルの終了後に、導出部32は物標の距離及び相対速度を算出する、(【0112】)
レーダ装置1の送信処理方法。(【0001】)」
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(信号送信方法)
a 引用発明における「レーダ装置1の送信処理方法」の「レーダ装置1」は、「送信する複数のアンテナが設けられ」、また「受信アンテナ21の数も複数」であるから、多入力多出力(MIMO)レーダーに適用される方法であるといえる。
b また、引用発明の「レーダ装置1の送信処理方法」は、「送信波TWを送信」することを含むものであるから、「信号送信方法」であるともいえる。
c そうすると、本件補正発明と引用発明は、「多入力多出力(MIMO)レーダーに適用される信号送信方法」の発明である点で一致する。
(イ) 構成Aの観点(送信器)
a 構成Aは、「前記MIMOレーダーは送信器を含み、前記送信器はNt個の送信アンテナを含み、Nt≧2であ[る]」ことである。
b 引用発明における「送信部10」及び「送信アンテナ13」は、それぞれ本件補正発明における「送信器」及び「送信アンテナ」に相当し、また「複数のアンテナが設けられ」ている。
c したがって、前記(ア)を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記MIMOレーダーは送信器を含み、前記送信器はNt個の送信アンテナを含み、Nt≧2であ[る]」点。
(ウ) 構成Bの観点(測定フレームを送信するステップ)
a 構成Bは、「前記送信器によって、測定フレームを送信するステップであって、前記測定フレームが目標の速度を測定するために使用され、前記測定フレームが第1のバーストを含む、ステップを含[む]」ことである。
b 引用発明における「1サイクル」は、「送信部10」から「間欠波形パターンIPの全ての波形グループGが送信されると、物標の情報を取得するための送信波TWの送信の1サイクルが終了[する]」ものであることから、本件補正発明における「前記送信器によって、」「送信」される「測定フレーム」に相当する。
c また、引用発明における「1サイクル」は、「1サイクルの終了後に、導出部32は物標の距離及び相対速度を算出する」ものであって、このことは本件補正発明における「前記測定フレームが目標の速度を測定するために使用され[る]」ことに相当するといえる。
d そして、引用発明の「1サイクル」に含まれるものである、「各送信角度A1~ANについて」「送信される」「間欠波形パターンIPの全ての波形グループG」が、本件補正発明における「第1のバースト」に相当する。
e 前記a~dの検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記送信器によって、測定フレームを送信するステップであって、前記測定フレームが目標の速度を測定するために使用され、前記測定フレームが第1のバーストを含む、ステップを含[む]」点。
(エ) 構成Cの観点(第1のバースト)
a 構成Cは、「前記第1のバーストにおいて、前記Nt個の送信アンテナの各々は、N1*T1の周期でチャープ信号を送信するように構成され、N1>Ntであり、T1は前記第1のバーストにおける各チャープ信号の持続時間であり」を備えることである。
b 前記(ウ)dより、引用発明における「各送信角度A1~ANについて」「送信される」「間欠波形パターンIPの全ての波形グループG」は、本件補正発明における「第1のバースト」に相当する。
c また、引用発明は「指向方向が少しずつずれたビーム幅の狭い固定ビームを送信する複数のアンテナが設けられ、電気的に時分割で送信波TWを送信するアンテナを切り換えることによって送信波TW(ビーム)が走査され[る]」ものであるから、技術常識を踏まえると、引用発明における、「各送信角度A1~ANについて」送信する送信アンテナの数はNである。
d そして、引用発明は、「各波形グループGが有するチャープ波の数は、4つであ[る]」ことから、引用発明における「各送信角度A1~ANについて、間欠波形パターンIPの全ての波形グループG」による合計のチャープ波の数は、N(送信角度の数=送信アンテナの数)×4(波形グループGが有するチャープ波の数)の4Nである。
e ここで、引用発明における「変調時間Tm」は、「チャープ波(1つの波形)の周波数変調が行われる時間であ[る]」から、本件補正発明における「第1のバーストにおける各チャープ信号の持続時間」である「T1」に相当する。
f そうすると、引用発明における各送信アンテナが送信する周期は、各送信角度における波形グループGの送信から次の同じ送信角度における波形グループGの送信までであって、各波形グループGは、連続して並ぶ複数のチャープ波であることを踏まえると、前記d及びeから、「各送信角度A1~ANについて、間欠波形パターンIPの全ての波形グループG」による合計のチャープ波の数4N×変調時間Tmは、本件補正発明における「N1*T1の周期」に相当する。
g すなわち、「各送信角度A1~ANについて、間欠波形パターンIPの全ての波形グループG」による合計のチャープ波の数である4Nは、本件補正発明における「N1」に相当し、これが送信アンテナの数Nよりも大きいこと(4N>N)から、本件補正発明における「N1>Nt」に相当する。
h 前記a~gの検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記第1のバーストにおいて、前記Nt個の送信アンテナの各々は、N1*T1の周期でチャープ信号を送信するように構成され、N1>Ntであり、T1は前記第1のバーストにおける各チャープ信号の持続時間であり」を備える点。
(オ) 構成Dの観点(1周期)
a 構成Dは、「1周期において、1ラウンドのチャープ信号が前記Nt個の送信アンテナによって送信され、前記1ラウンドのチャープ信号が、前記Nt個の送信アンテナによってそれぞれ送信されるNt個のチャープ信号および前記Nt個の送信アンテナのうちの少なくとも1つによって送信されるN1-Nt個のチャープ信号を含み、T1の間に1つの送信アンテナからチャープ信号が送信される」を備えることである。
b 本願明細書の段落【0104】には、「1周期で送信されるchirp信号が1ラウンドのchirp信号と呼ばれると仮定される」ことから、本件補正発明における「1ラウンドのチャープ信号」は、「1周期のチャープ信号」と同じ意味であると解される。
c ここで、前記(エ)cより、引用発明における「間欠波形パターンIPの全ての波形グループG」による合計のチャープ波の数である4Nは、N個の送信アンテナによって送信されるといえる。
d そうすると、前記(エ)fを踏まえて、引用発明における「間欠波形パターンIPの全ての波形グループG」による合計のチャープ波の数である4Nが、N個の送信アンテナによって送信されることは、本件補正発明における「1周期において、1ラウンドのチャープ信号が前記Nt個の送信アンテナによって送信され[る]」ことに相当する。
e そして、前記dにおける合計のチャープ波の数である4Nは、N個の送信アンテナによってそれぞれ送信されるN個のチャープ波と、N個の送信アンテナによって送信される3N(=4N-N)個のチャープ波を含んでいるといえる。
f また、引用発明は、「複数のアンテナ」が「時分割で送信波TWを送信するアンテナを切り換えることによって送信波TW(ビーム)を走査することで行われ」、「変調時間Tmは、チャープ波(1つの波形)の周波数変調が行われる時間であ[る]」ことから、引用発明における「変調時間Tm」の間に1つの送信アンテナからチャープ波が送信されるものである。
g 前記a~fの検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「1周期において、1ラウンドのチャープ信号が前記Nt個の送信アンテナによって送信され、前記1ラウンドのチャープ信号が、前記Nt個の送信アンテナによってそれぞれ送信されるNt個のチャープ信号および前記Nt個の送信アンテナのうちの少なくとも1つによって送信されるN1-Nt個のチャープ信号を含み、T1の間に1つの送信アンテナからチャープ信号が送信される」点。
(カ) 前記(ア)~(オ)の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、全ての点において一致するから、本件補正発明は引用発明である。
また、本件補正発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもある。
イ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張1について
a 請求人の主張1の内容
請求人は、審判請求の理由において、概略次のように主張している。
引用文献1の図15は、4つのチャープ波が、送信角度ごとにある順序を有する波形グループで送信されることを示しているが、送信角度は送信アンテナとは異なり、送信角度について送信されるチャープ波は送信アンテナによって送信されるチャープ波とは異なる。
そして、引用文献1は、送信波TW(ビーム)が複数の方向への複数のアンテナを含む送信アンテナ13によって行われることを開示しており、送信角度A1から送信角度ANが順に繰り返されるとき、それは、送信角度についてのチャープ信号は複数のアンテナを含む送信アンテナ13によって送信されるので、引用文献1は、本件補正発明の構成を開示していない。
b 請求人の主張1についての検討
請求人は、引用発明は、複数の方向のそれぞれにおいて複数のアンテナによってチャープ信号が送信されているのであるから、複数のアンテナによって一つのチャープ信号が送信されている旨主張しているところ、前記ア(エ)cで検討したとおり、引用発明は、「指向方向が少しずつずれたビーム幅の狭い固定ビームを送信する複数のアンテナが設けられ、電気的に時分割で送信波TWを送信するアンテナを切り換えることによって送信波TW(ビーム)が走査され[る]」ことから、送信角度ごとに一つのアンテナが設けられているといえる。
そして、ビーム切換方式では、指向方向が少しずつずれたビーム幅の狭い固定ビームを送信するのであって、送信角度ごとに設けられたアンテナからチャープ信号が送信されていることは明らかであるから、請求人の主張は採用できない。
(イ) 請求人の主張2について
a 請求人の主張2の内容
請求人は、上申書において、本件補正発明において更に「TDM方式で」という構成を付加して限定する補正案を提示し、当該構成によってNt個の送信アンテナが、1周期においてTDM方式でチャープ信号を送信することで、一つのアンテナのみが一つの時間においてチャープ信号を送信し、同時にチャープ信号を送信する複数のアンテナはないことを意味する旨主張している。
b 請求人の主張2についての検討
前記請求人の主張2は補正案を前提とするものであって、本件補正発明に対するものではないが、念のためこれを検討する。
前記(オ)fで検討したとおり、引用発明は、「複数のアンテナ」が「時分割で送信波TWを送信するアンテナを切り換えることによって送信波TW(ビーム)を走査することで行われ」、「変調時間Tmは、チャープ波(1つの波形)の周波数変調が行われる時間」であることから、引用発明における「変調時間Tm」の間に1つの送信アンテナからチャープ信号が送信されているものであるといえる。
すなわち、引用発明は、1サイクルにおいてTDM形式でチャープ信号を送信しているものであるといえるから、請求人の主張は採用できない。
ウ 独立特許要件の判断のまとめ
以上検討のとおり、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法29条1項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
また、本件補正発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって、本件補正により請求項1についてする補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合しない。
4 本件補正の適否についてのまとめ
前記2(4)で示したとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項の規定に違反するもの(目的要件違反)であるから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
また仮に、本件補正が、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとしても、前記3(3)ウにおいて示したとおり、本件補正は、同法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するもの(独立特許要件違反)であるから、同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
よって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(前記第2の1(1)参照)に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に対する拒絶の理由である理由2(新規性の欠如)及び理由3(進歩性の欠如)(審決注:原査定における理由2(特許法第29条第2項)は理由3の誤記であると認める。)の概要は、次のとおりである。
理由2(新規性の欠如) 本願発明は、その出願前に発行された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。
理由3(進歩性の欠如) 本願発明は、その出願前に発行された下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2019-74404号公報
3 引用文献1に記載された事項及び引用発明の認定
引用文献1に記載された事項及び引用発明は、それぞれ前記第2の3(2)ア及びイにおいて示したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の2において検討したとおり、本件補正発明から「Nt≧2であり、」の特定を省いたものである。
そうすると、本願発明において実質的に内包されていた「Nt≧2であり、」との事項を明示的に特定したにすぎないものに相当する本件補正発明は、前記第2の3(3)ア(オ)において説示したとおり、引用発明であるか、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により引用発明であるか、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
また、仮にそうでないとしても、本件補正発明は本願発明の発明特定事項を全て含み、その発明特定事項の一部を特定したものに相当するのであるから、本願発明も、前記同様の理由により引用発明であるか、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条1項3号又は同条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-021311