特許異議申立
2023-700928
乾燥食品の製造方法
- 審判番号
- 2023-700928
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-055646
- 登録番号
- 7234441
- 請求日
- 2023年09月07日
- 審決日
- 2024年05月24日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】マルハニチロ株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人平木国際特許事務所
- 【異議申立人】大森 桂子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 天野 宏樹
- 審判官 淺野 美奈
- 分類
- P1651.113-YAA(A23B) / P1651.121-YAA(A23B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第9項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7234441号発明「乾燥食品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7234441号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
特許第7234441号の請求項1、3~5に係る特許を維持する。
特許第7234441号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7234441号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~5に係る特許についての出願は、令和4年3月30日の出願であって、令和5年2月27日にその特許権の設定登録がされ、同年3月7日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について令和5年9月7日に特許異議申立人大森桂子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1~5)がなされた。
以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和5年11月10日付け:取消理由通知
令和6年 1月11日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 同月25日 :手続補正指令(方式)
同年 2月19日 :訂正請求書及び意見書の手続補正書(方式)
同年 3月 8日付け:訂正請求があった旨の通知
同年 4月12日 :意見書(申立人)
第2 訂正請求について
1.訂正の内容
令和6年1月11日に提出され、同年2月19日に補正された訂正請求書(以下、「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)の趣旨は、「特許第7234441号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の通り、訂正後の請求項1~5に訂正することを求める。」というものであり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである。
なお、以下において、隅付き括弧は「[ ]」と表記した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1において、訂正前の「前記外添糖質がソルビトール及び還元水飴を合計量で10重量%以上含む、乾燥食品の製造方法」の記載を、「前記外添糖質がソルビトール及び還元水飴を合計量で10重量%以上含み、かつ、糖類を50~85重量%含む、乾燥食品の製造方法」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3を、請求項1を引用し、請求項2を引用しないものに訂正する。
請求項3の記載を直接又は間接的に引用する請求項4及び5も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4を、請求項2を引用しないものに訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
訂正前の特許請求の範囲の請求項5を、請求項2を引用しないものに訂正する。
なお、訂正事項1~5に係る訂正前の請求項1~5について、請求項2~5は請求項1を直接又は間接的に引用する関係にある。よって、本件訂正は一群の請求項1~5について請求されたものである。
2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1に記載されていた「外添糖質」という発明特定事項に、本件訂正前の請求項2に記載されていた「糖類を50~85重量%含む」という発明特定事項を直列的に付加することにより、特許請求の範囲を減縮するものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。さらに、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項3~5も同様に訂正される。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
イ 訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除する訂正であるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
ウ 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項2を引用していたところ、訂正事項1により請求項2に記載されていた発明特定事項のすべてが請求項1の発明特定事項に直列的に付加され、訂正事項2により請求項2が削除されたことに伴い、引用先が不明瞭になることを避けるため、引用先を請求項1に書き改めるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項3は、引用先を訂正前の請求項2と同じ内容を含む訂正後の請求項1に書き改めるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
エ 訂正事項4及び5について
訂正事項4及び5は、訂正前の請求項4及び5がそれぞれ「請求項1~3のいずれか1項」及び「請求項1~4のいずれか1項」を引用していたところ、訂正事項2により請求項2が削除されたことに伴い、引用先から請求項2を削除し、それぞれ「請求項1又は3」及び「請求項1、3及び4のいずれか1項」に訂正するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。また、訂正事項4及び5は、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことも明らかである。
よって、訂正事項4及び5は、いずれも特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
(2)独立特許要件について
本件においては、訂正前のすべての請求項1~5に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正前の請求項1~5に係る訂正事項1~5については、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3.訂正請求についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~5〕について訂正することを認める。
第3 本件発明について
本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」~「本件発明5」という。まとめて、「本件発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「[請求項1]
下記工程i)~iv):
i) 緑色野菜をブランチングする工程;
ii) i)の緑色野菜を脱水する工程;
iii) ii)の緑色野菜と外添糖質とを、重量比80:20~90:10となるように混合する工程;並びに
iv) 緑色野菜を乾燥させる工程;を含み、
前記外添糖質がソルビトール及び還元水飴を合計量で10重量%以上含み、かつ、糖類を50~85重量%含む、
乾燥食品の製造方法。
[請求項2](削除)
[請求項3]
前記糖類がグルコースを含む、請求項1に記載の製造方法。
[請求項4]
外添糖質に占めるソルビトール及び還元水飴の合計量が20~40重量%である、請求項1又は3に記載の製造方法。
[請求項5]
前記工程i)が、緑色野菜とpH調整剤との接触を含まない、請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の製造方法。」
第4 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由
申立人は、令和5年9月7日に特許異議申立書及び証拠方法として下記2.に示す甲第1号証及び甲2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」のようにいう。)を提出し、概略、以下の(1)及び(2)の特許異議申立理由を主張している。
また、申立人は令和6年4月12日に意見書及び証拠方法として下記2.に示す参考資料1~参考資料3(以下、それぞれ「参考1」~「参考3」のようにいう。)を提出している。
なお、申立理由の番号は当審が仮に付与した。
1.特許異議申立理由
(1)理由1(甲1に基づく新規性欠如)
本件発明1は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、その発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由2(甲1に基づく進歩性欠如)
本件発明1~5は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲1に記載された発明及び甲2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、それらの発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.証拠方法
甲1:特開2018―33425号公報
甲2:特開2000-308456号公報
参考1:特開平6-233651号公報
参考2:特開2020-162440号公報
参考3:特開2004-33083号公報
第5 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1~5に係る発明についての特許に対して、令和5年11月10日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
・理由1(新規性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではなく、その発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・理由2(進歩性) 本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができるものではなく、その発明についての特許は同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6 取消理由通知に記載した取消理由についての判断
当審は、取消理由通知に記載した理由1(新規性)及び理由2(進歩性)によって本件発明1についての特許を取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおり。
・理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)について
1.甲1の記載事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1-1)「[技術分野]
[0001]
本発明は、即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法に関する。」
(1-2)「[発明が解決しようとする課題]
[0008]
本発明は、保存時の退色又は変色を防止できる即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法を提供することと課題とする。」
(1-3)「[0015]
本発明における緑色野菜としては、クロロフィル由来の緑色を呈する野菜であり、例えば、ホウレン草、小松菜、キャベツ、ブロッコリー、ピーマン、ニガウリ、ネギ、ニラ、ワケギ、インゲン、エンドウ、カイワレダイコン及び豆苗等が挙げられる。
[0016]
緑色野菜は、必要により、洗浄、次亜塩素酸による殺菌を施した後、適当な大きさにカットする。カットした緑色野菜は、石灰水やにがりを含む水溶液等に浸漬してもよい。
[0017]
ついで、カットした緑色野菜をブランチングする。緑の野菜は生のまま乾燥するとクロロフィルが分解されてフェオフィチンとなり退色するため、ブランチングを行うことが一般的である。ブランチング方法は特に限定はなく、使用する緑色野菜にあわせて、ボイル又はスチームによって時間を調整して行えばよい。
[0018]
また、ボイルによりブランチングする場合には、ブランチング液のpHは特に限定はないが、酸性になるとクロロフィルが分解され、アルカリ性が強すぎると緑色野菜の繊維が軟化して食感が柔らかくなりすぎるため、中性から弱アルカリ性が好ましく、好ましくは、pHが7~8.5程度となるように炭酸塩等により調整しながらブランチングすることが好ましい。
[0019]
次いで、ブランチングした緑色野菜を必要により脱水し、糖類を添加する。糖類を添加する目的としては、乾燥緑色野菜を被覆し酸素を遮断し、自由水を少なくすることで保存中の退色や変色を防ぐだけでなく、乾燥中に野菜に柔軟性を持たせ、製造中の野菜の破損を防ぎ、また、乾燥後に硬化して輸送中の破損を防ぎ、即席食品の具材として使用した際の復元性を確保するためである。
[0020]
通常、糖類は、遊離アミノ酸と反応し、メーラード反応を起こし、褐色に変化する原因と言われている。この反応は、還元性を示す糖類ほど起り易いと言われており、還元性を示す糖類を使用することで保存中にメーラード反応が進み、保存中の変色(褐変)が進むものと考えた。そこで、還元性を示さないショ糖やトレハロース、還元水飴等を用いれば、保存中の変色を抑えることができると考えたが、意外にも還元性を示さない糖類を使用した場合においても保存中の変色が進むことが判明し、必ずしもメーラード反応が保存中の変色の原因でないことが判明した。そこで、様々な糖類を用いて検証した結果、原因は不明だが、保存中の変色を抑える上では、ラクトース及びマルトースが保存中の変色を抑える上で好ましいことが判明した。」
(1-4)「[実施例]
[0030]
以下に実施例を挙げて本実施形態をさらに詳細に説明する。
<予備試験>
糖類の種類によって、保存中の退色又は変色にどのような影響をおよぼすかについて予備試験にて検証した。糖類の種類は、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、ソルビトール、麦芽水飴(マルトース含量33%、固形分含量75%)、還元水飴(固形分75%)を用いた。
[0031]
乾燥緑色野菜としては、熱風乾燥したキャベツを指標とした。
[0032]
乾燥キャベツの作製方法としては、緑色を有する外側のキャベツの葉を約30x25mmの大きさにカットし、0.1%重曹水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、ブランチングしたキャベツを取り出し、流水にて冷却洗浄した後、生キャベツの重量の60重量%となるまで遠心脱水した。次いで脱水したキャベツ100重量%に対して上記の糖類を固形分量として20重量%の糖類を添加し、乾燥後のキャベツに含まれる全糖類の重量が70重量%程度となるように混合・静置し、余分なドリップを除去した後、80℃で2時間乾燥した後、70℃で2時間さらに乾燥し、60℃で4~6時間乾燥して、水分含量が7重量%となるように調整し、乾燥キャベツサンプルを作製した。また、乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは約7.5前後となるように調整した。
[0033]
作製した乾燥キャベツサンプルの保存中の色調の変化を簡易的に確認する方法として乾燥キャベツに重量の10重量%の水分を加湿し、加湿した乾燥キャベツを60℃で48時間加熱処理を行い、強制的に劣化させ、色調について評価を行った。評価については、5人の熟練のパネラーにて目視で行い、乾燥後の色調を5点としたときに、外観上同等のものを5点、やや退色もしくは変色があるが良好なものを4点、退色もしくは褐変があるが概ね可なものを3点、退色もしくは褐変が目立ち商品として不可なものを2点、退色もしくは変色が著しく、商品として非常に不可なものを1点とした。
[0034]
予備試験結果を下記表1に示す。
[0035]
[表1]
[図:0001413330000001.jpg]
[0036]
上記の結果から、保存中の退色や変色を防ぐ効果がある糖類としては、ラクトース、マルトース及びマルトースを多く含む麦芽水飴が好ましいことがわかった。逆にフルクトース、スクロースが保存中の変色を促進する可能性が高いことがわかった。その他の糖類については、保存中の変色がある程度進むが、フルクトースやスクロースと比較して変色の度合いが少なく、麦芽水飴(固形分含量75%、糖組成マルトース33重量%)の結果から、ラクトースやマルトースが多く含まれていれば、ある程度の他の糖類が含まれていたとしても保存中の退色や変色への影響は少ないものと考えられた。また、還元性を示さないスクロース、トレハロース、ソルビトール及び還元水飴を用いた場合も保存中の変色を示す可能性があることからメーラード反応だけが保存中の変色の原因でないことが示唆された。」
2.甲1に記載された発明
甲1の[0001](摘記1-1)及び[0008](摘記1-2)には、「保存時の退色又は変色を防止できる即席食品用の乾燥緑色野菜及びその製造方法を提供すること」を課題として、「ブランチングしてpHをコントロールした緑色野菜に糖類を添加すること」を試みたことが記載され、[0020](摘記1-3)には、「様々な糖類を用いて検証した結果、原因は不明だが、保存中の変色を抑える上では、ラクトース及びマルトースが保存中の変色を抑える上で好ましいことが判明した」ことが記載されている。
また、[0030]~[0036](摘記1-4)には、「予備試験」について記載されており、[0030]には「糖類の種類によって、保存中の退色又は変色にどのような影響をおよぼすかについて予備試験にて検証した。糖類の種類は、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース、スクロース、トレハロース、ソルビトール、麦芽水飴(マルトース含量33%、固形分含量75%)、還元水飴(固形分75%)を用いた」こと、[0031]~[0033]には予備試験の具体的な手順が記載されており、具体的には[0032]に「乾燥キャベツの作製方法としては、緑色を有する外側のキャベツの葉を約30x25mmの大きさにカットし、0.1%重曹水溶液で98℃、2分間ブランチング処理し、ブランチングしたキャベツを取り出し、流水にて冷却洗浄した後、生キャベツの重量の60重量%となるまで遠心脱水した。次いで脱水したキャベツ100重量%に対して上記の糖類を固形分量として20重量%の糖類を添加し、乾燥後のキャベツに含まれる全糖類の重量が70重量%程度となるように混合・静置し、余分なドリップを除去した後、80℃で2時間乾燥した後、70℃で2時間さらに乾燥し、60℃で4~6時間乾燥して、水分含量が7重量%となるように調整し、乾燥キャベツサンプルを作製した。また、乾燥キャベツサンプルの20倍希釈液のpHは約7.5前後となるように調整した」ことが記載されている。
さらに、[0034]~[0035]の[表1]には予備試験の結果が記載されており、[表1]の「試験区」に「ソルビトール」と記載された例及び「還元水飴」と記載された例については、いずれも「強制劣化後の色調評価」欄に「3」、「コメント」欄に「褐色に変色している部分が認められるが概ね可」と記載されており、[0036]には「還元性を示さないスクロース、トレハロース、ソルビトール及び還元水飴を用いた場合も保存中の変色を示す可能性があることからメーラード反応だけが保存中の変色の原因でないことが示唆された」ことが記載されている。
そうすると、甲1には以下の発明が記載されている。
甲1発明
「0.1%重曹水溶液でキャベツの葉をブランチングするブランチング工程と、前記ブランチングしたキャベツを遠心脱水する工程と、前記遠心脱水したキャベツ100重量%に対してソルビトール又は還元水飴である糖類を固形分量として20重量%添加する糖類添加工程と、前記糖類を添加したキャベツを乾燥させる工程と、を含み、前記糖類はソルビトール100重量%又は還元水飴100重量%である乾燥キャベツサンプルの製造方法。」
3.本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「キャベツの葉」、「0.1%重曹水溶液で・・・ブランチングするブランチング工程」、「前記ブランチングしたキャベツを遠心脱水する工程」、「ソルビトール又は還元水飴である糖類」、「前記遠心脱水したキャベツ・・・に対してソルビトール又は還元水飴である糖類を・・・添加する糖類添加工程」、「前記糖類を添加したキャベツを乾燥させる工程」及び「乾燥キャベツサンプルの製造方法。」は、それぞれ本件発明1における「緑色野菜」、「i) ・・・ブランチングする工程;」、「ii) i)の緑色野菜を脱水する工程;」、「外添糖質」、「iii) ii)の緑色野菜と外添糖質とを、・・・混合する工程;」、「iv) 緑色野菜を乾燥させる工程;」及び「乾燥食品の製造方法。」に相当する。
また、甲1発明における「前記遠心脱水したキャベツ100重量%に対してソルビトール又は還元水飴である糖類を固形分量として20重量%添加する」というキャベツと糖類との重量比は、両者の合計が100となるように換算すると、キャベツ83.3(=100/120)に対して糖類16.7(=20/120)という重量比になるから、本件発明1における「ii)の緑色野菜と外添糖質とを、重量比80:20~90:10となるように混合する」という重量比の要件を満たしている。
さらに、甲1発明における「前記糖類はソルビトール100重量%又は還元水飴100重量%である」ことは、本件発明1における「外添糖質がソルビトール及び還元水飴を合計量で10重量%以上含み」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「下記工程i)~iv):
i) 緑色野菜をブランチングする工程;
ii) i)の緑色野菜を脱水する工程;
iii) ii)の緑色野菜と外添糖質とを、重量比80:20~90:10となるように混合する工程;並びに
iv) 緑色野菜を乾燥させる工程;を含み、
前記外添糖質がソルビトール及び還元水飴を合計量で10重量%以上含む、
乾燥食品の製造方法。」
の点で一致し、
相違点1:本件発明1は、外添糖質が「糖類を50~85重量%含む」と特定するのに対し、甲1発明はそのように特定されていない点
で相違する。
そこで、相違点1について検討する。
(2)相違点1について
本件明細書の[0018]には、本件発明1における「糖質」は、「炭水化物のうち食物繊維を除いたものを指し、より具体的には糖類及び糖アルコールを指す」ものであると記載され、また、「ソルビトール」及び「還元水飴」は、「糖アルコール」に属するものであり、「『糖アルコール』とは、糖質のカルボニル基を還元して得られる物質」であると記載されている。そうすると、相違点1に係る「糖類」は、「糖アルコール」(「ソルビトール」及び「還元水飴」が含まれる。)とは異なる範疇に属する化合物群であると解されるから、相違点1は実質的な相違点である。
また、甲1発明は「糖類の種類によって、保存中の退色又は変色にどのような影響をおよぼすかについて」検証するために行われた「予備試験」に基づく発明であり(甲1の[0030](摘記1-4)等)、甲1には、予備試験が「ソルビトール」、「還元水飴」等の、それぞれ一種類の糖類が用いられた試験区に分けて行われたことが記載されている。ここで、一つの試験区で複数種類の糖類を用いることは、糖類の種類と保存中の退色又は変色との関係の解析を困難にするから、上記予備試験の検証の目的に反することとなり、実際、そのような複数種類の糖類を用いる予備試験は行われていない。
そうすると、甲1発明における「ソルビトール100重量%又は還元水飴100重量%」に代えて、「糖類を50~85重量%含む」ものを用いることは、甲1の記載から当業者が動機付けられることではない。また、甲2及び参考1~参考3を参照しても、甲1発明において相違点1に係る事項を採用する動機は見いだせない。
よって、相違点1については甲1、甲2及び参考1~参考3に基づいて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
(3)本件発明1の効果について
本件発明1は上記相違点1を含む発明特定事項を有することにより、褐変の生じにくい緑色野菜の乾燥食品を提供することができるものであり、当該効果は甲1、甲2及び参考1~参考3から当業者が予測し得ないものである。
(4)申立人の主張について
申立人は、令和6年4月12日に提出した意見書の第2~3頁において、甲1の[0023]等を引用し、「甲第1号証に記載の発明において、二糖類(糖類に相当)とその他の糖質(ソルビトール及び還元水飴を含む)を組み合わせて添加することを想定していることは明らかである」と主張し、また、第3~6頁において「甲第1号証に記載の発明において、乾燥野菜類の品質向上を目的とし、甲第2号証や参考資料1,2などに記載されている従来周知の技術事項を参考にして『外添糖質が糖類を50~85重量%含む』構成とすることは、当業者であれば容易に想到できる」こと、及び糖類にソルビトールや還元水飴を添加することについて阻害要因があるとはいえないと主張している。
しかし、上記(2)に記載したとおり、甲1発明が予備試験として記載された発明であることに鑑みると、甲1発明における糖質(ソルビトール又は還元水飴)を、それらと二糖類との組合せに変更することは、甲1では想定されていないといえる。また、甲1の[0035]の[表1]には、甲1発明の色調評価が「3」であり、「褐色に変色している部分が認められるが概ね可」と記載されているから、仮にそれらと二糖類との組合せを用いても、上記(3)に記載した「褐変の生じにくい緑色野菜の乾燥食品を提供することができる」という本件発明1の効果を予測することはできないと解される。
よって、申立人の主張を採用することはできない。
4.取消理由通知に記載した取消理由についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は甲1に記載された発明ではないから、特許法第29条第1項第3号に該当せず、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、取消理由通知に記載した理由1(甲1に基づく新規性欠如)及び理由2(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明1についての特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
当審は、特許異議申立理由はいずれも理由がないものと判断する。理由は以下のとおり。
(1)取消理由通知で採用しなかった特許異議申立理由の概要
上記第4の1.(2)に記載した理由2(甲1に基づく進歩性欠如)のうち、本件発明1についての特許を対象とするものは取消理由通知で採用したが(上記第5の理由2)、本件発明2~5についての特許を対象とするものは採用しなかった。以下、検討する。
(2)本件発明2について
本件訂正により請求項2は削除され、本件発明2についての特許に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
(3)本件発明3~5について
本件発明3~5は、いずれも請求項1を直接又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものである。そうすると、上記第6の3.に記載した本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明3~5は、いずれも甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。
よって、特許異議申立書に記載した理由2(甲1に基づく進歩性欠如)により本件発明3~5についての特許を取り消すことはできない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、本件発明1及び3~5についての特許を取り消すことはできない。また、他に、これらの特許を取り消すべき理由を発見しない。さらに、請求項2は訂正により削除され、本件発明2についての特許に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項において準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700928