特許異議申立
2023-700903
粘着テープ
- 審判番号
- 2023-700903
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-148059
- 登録番号
- 7263180
- 請求日
- 2023年09月01日
- 審決日
- 2025年03月27日
- 公報発行日
- 2025年07月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ダイヤテックス株式会社
- 【権利者代理人】丸山 英一
- 【権利者代理人】丸山 重輝
- 【権利者代理人】丸山 智貴
- 【異議申立人】森 健祐
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 瀬下 浩一
- 審判官 光本 美奈子
- 分類
- P1651.113-YAA(C09J) / P1651.121-YAA(C09J) / P1651.537-YAA(C09J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第126条、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7263180号発明「粘着テープ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7263180号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
特許第7263180号の請求項1、3及び4に係る特許を維持する。
特許第7263180号の請求項2に係る特許についての特許異議申立を却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7263180号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~4に係る特許についての出願は、令和元年8月9日の出願であって、令和5年4月14日に特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対し、同年9月1日に特許異議申立人である森 健祐(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議申立て以降における手続の経緯は、以下のとおりである。
令和6年 1月10日付け:取消理由通知書
同年 3月14日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 3月26日付け:通知書(申立人宛て)
同年 4月19日 :意見書(申立人)
同年 9月 4日付け:取消決定(決定の予告)
同年10月18日 :意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年10月25日 :訂正請求書の手続補正書(特許権者)
同年11月13日付け:通知書(申立人宛て)
本通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
なお、令和6年3月14日にされた訂正の請求は、同年10月25日提出の手続補正書により補正された同年10月18日にされた訂正の請求により、取り下げられたものとみなされる。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年10月25日提出の手続補正書により補正された令和6年10月18日にされた訂正の請求は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~4を含むものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、「熱可塑性樹脂からなる線条体を経糸及び緯糸として使用し、これらを織成又は交差接着せしめて形成した布状体の両面に、熱可塑性樹脂によりフィルム層を各々積層してなり、」と記載されているのを、「熱可塑性樹脂からなる線条体を経糸(但し、発泡剤入りの組成物を含むものを除く。)及び緯糸として使用し、これらを織成又は交差接着せしめて形成した布状体の両面に、熱可塑性樹脂によりフィルム層を各々積層してなり、」と訂正する(以下「訂正事項1A」という。)。
また、特許請求の範囲の請求項1に、「前記両層を構成する熱可塑性樹脂は、高密度ポリエチレンからなり、」と記載されているのを、「前記両層を構成する熱可塑性樹脂は、0.956~0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからなり、」と訂正する(以下「訂正事項1B」という。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3は、請求項1又は2を引用する記載であるところ、請求項1を引用し、請求項2を引用しないものとする訂正をする。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4は、請求項1~3の何れかを引用する記載であるところ、請求項1と請求項3を引用し、請求項2を引用しないものとする訂正をする。
(5)一群の請求項について
訂正前の請求項1~4について、請求項2~4は、請求項1を直接又は間接に引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~4について請求されている。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1Aについて
訂正事項1Aは、訂正前の請求項1における「熱可塑性樹脂からなる線条体を経糸」から、下記第4の甲第3号証に記載される発明に対応する「発泡剤入りの組成物を含むもの」を除くことにより「縦糸」を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
イ 訂正事項1Bについて
訂正事項1Bは、訂正前の請求項1における「前記両層を構成する熱可塑性樹脂は、高密度ポリエチレンからなり、」との記載を、「前記両層を構成する熱可塑性樹脂は、0.956~0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからなり、」と訂正することにより、高密度ポリエチレンの密度を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。また、訂正事項1Bは、本件明細書段落【0052】、【0053】及び【0055】に記載された事項に基づく訂正であるから、新規事項を追加するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項2を削除するというものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項3が請求項1又は2を引用する記載であるところ、請求項2の削除に伴い、請求項1を引用し、請求項2を引用しないものとする訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1~3の何れかを引用する記載であるところ、請求項2の削除に伴い、請求項1及び請求項3を引用し、請求項2を引用しないものとする訂正であるため、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(5)独立特許要件について
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~4に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条7項の規定は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び3号に規定する特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~4に係る発明は、令和6年10月25日提出の手続補正書により補正された令和6年10月18日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲請求項1~4に記載された以下のとおりのものと認める(以下、請求項の番号に従い、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。また、本件特許の願書に添付された明細書を「本件明細書」という。)。
なお、本件補正により、請求項2は削除された。
【請求項1】
熱可塑性樹脂からなる線条体を経糸(但し、発泡剤入りの組成物を含むものを除く。)及び緯糸として使用し、これらを織成又は交差接着せしめて形成した布状体の両面に、熱可塑性樹脂によりフィルム層を各々積層してなり、前記一方のフィルム層の前記布状体と反対側の面に、粘着剤層を形成してなる粘着テープにおいて、
前記両層を構成する熱可塑性樹脂は、0.956~0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからなり、
前記一方のフィルム層は、厚さ40μm以上であることを特徴とする粘着テープ。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
前記線条体は、熱可塑性樹脂を延伸して得られたものであることを特徴とする請求項1記載の粘着テープ。
【請求項4】
前記布状体は、織成された織物であるものであることを特徴とする請求項1又は3記載の粘着テープ。
第4 特許異議の申立ての概要
申立人は、下記2の証拠方法により、下記1を申立ての理由とする特許異議の申立てをしている。
以下、甲第1号証~甲第6号証を、「甲1」~「甲6」ともいう。
1 特許異議の申立ての理由
(1)申立理由1(新規性欠如)
請求項1~4に係る発明は、甲1、甲2、甲3、甲4又は甲5に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~4に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。
(2)申立理由2(サポート要件違反)
請求項1~4に係る発明は、下記の理由から特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当する。
ア 本件発明は、段落【0006】のとおり、床面に貼付された後の踏み付けにより捲れあがり、千切れ、剥がれ、摩擦による削れを生じない耐久性を有し、台車やフォークリフトを使用する環境での使用に好適な粘着テープの提供を解決しようとする課題とするものである。
請求項1~4に係る発明は、「請求項1には、床面に貼着されることや、台車やフォークリフトを使用することが特定されていないから、解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。
イ 本件明細書で前記アの課題が解決されることを示す実施例は、密度0.956g/cm3の高密度ポリエチレンの一例のみであるから、ポリエチレンがそれ未満の密度である態様を含む請求項1~4に係る発明は、解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開2004-269775号公報
甲第2号証:特開2007-63511号公報
甲第3号証:特開平4-356573号公報
甲第4号証:特開平4-133733号公報
甲第5号証:特開平10-237395号公報
甲第6号証:財団法人日本規格協会、JISハンドブック 27プラスチックII(材料)「K 6922-1:1997(ISO 1872-1:1993)、プラスチック-ポリエチレン(PE)成形用及び押出用材料-第一部:呼び方のシステム及び仕様表記の基礎」、平成20年1月30日、p.46-52
第5 甲号証の記載
1 甲1号証の記載
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の手切れ性を改良した粘着シート1は、図1、図2に示すように、一軸延伸して得られた線条体2a、2bを交差せしめて形成した布状体3に、熱可塑性樹脂製のフィルム5を積層して形成した積層シート6の片面又は両面に、粘着剤層4が形成される。
【0016】
本発明において布状体3とは、線条体2からなる可撓性のシート状体を総称するものとし、熱可塑性樹脂製の一軸延伸された線条体2を、織布又は編布とし、又は、交差結合布(ソフ)として使用することができる。
【0017】
線条体2としては、テープ、ヤーン、スプリットヤーン、モノフィラメント、短繊維、長繊維、スパン糸等として用いることができ、これら線条体2は必要に応じて撚糸される。中でも、テープ、ヤーン等の扁平な線条体が好ましい。」
「【0043】
熱可塑性樹脂製フィルムとして、オレフィン系重合体を用いるときは、密度が0.870~0.942g/cm3、好ましくは、0.875~0.936g/cm3、曲げ剛性が100~1500Kg/cm2のものが好ましい。密度が低くなると機械的強度が低下し、また、高くなると粘着シート1の柔軟性が低下する。」
2 甲2の記載
「【0013】
本発明の手切れ性を改良した粘着シート1は、図1、図2に示すように、一軸延伸して得られた線条体2a、2bを交差せしめて形成した布状体3に、熱可塑性樹脂製のフィルム5を積層して形成した積層シート6の片面又は両面に粘着剤層4が形成される。
【0014】
本発明において布状体3とは、線条体2からなる可撓性のシート状体を総称するものとし、熱可塑性樹脂製の一軸延伸された線条体2を、織布又は編布とし、又は、交差結合布(ソフ)として使用することができる。
【0015】
線条体2としては、テープ、ヤーン、スプリットヤーン、モノフィラメント、短繊維、長繊維、スパン糸等として用いることができ、これら線条体2は必要に応じて撚糸される。しかし、テープ、ヤーン等の扁平な線条体を単独で使用することが望ましい。」
「【0033】
熱可塑性樹脂製フィルム5として、オレフィン系重合体を用いるときは、密度が0.870~0.942g/cm3、好ましくは、0.875~0.936g/cm3、曲げ剛性が100~1500Kg/cm2のものが好ましい。密度が低くなると機械的強度が低下し、また、高くなると柔軟性が低下する。」
3 甲3の記載
「【請求項1】 緯糸としてポリオレフィン系モノフィラメント、経糸として多孔質ポリオレフィン系モノフィラメントからなる基布の少なくとも一方の面にポリオレフィン系樹脂を押出コーティングにより積層した粘着テープ用基材。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、手切れ性、耐水性、平滑性に優れた粘着テープ用基材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、基材に粘着材を付設してなる粘着テープとしては、綿布やレーヨン布にポリエチレンをラミネートした布系基材、あるいはポリオレフィン系またはポリエステル系樹脂のフラットヤーンまたはマルチフィラメントの基布にポリエチレンをラミネートしたプラスチック系基材が使用されてきた。」
「【0012】該ポリオレフィン系モノフィラメントは常法により繊製されるが、その打込み本数は、30-130本/インチの範囲が好ましい。
【0013】この様にして得られた基布の少なくとも一方の表面にポリオレフィン系樹脂が押出コーティングにより5~80μmの厚みで積層される。ここで積層されるポリオレフィン系樹脂とはモノフィラメントに使用される樹脂と同一の範囲のものを指す。
【0014】ポリオレフィン系樹脂を積層させる目的は、基布表面を平滑にし外観を良好にすること、粘着剤の塗工をし易くすること、モノフィラメントの逃げを防止すること、更に、手切れ性を付与させる等が挙げられる。これらの効果のうち、モノフィラメントの逃げ防止、手切れ性付与を発現させるためには基布と積層材との接着性が良好であることが不可欠となる。」
「【0018】実施例1
密度0.950g/cm3の高密度ポリエチレンを260℃の成形温度で成形することにより、250デニールのモノフィラメントを得た。一方、同一の高密度ポリエチレン100重量部に対し、発泡剤としてアゾジカルボンアミド0.3部を添加し良く混合した後、150℃の温度で押出機で押出すことにより、発泡剤入りの組成物を得た。
この組成物を260℃の温度で成形することにより発泡剤が分解した、250デニール相当の径の多孔質のモノフィラメントを得た。次いで、未発泡のモノフィラメントを緯糸とし、多孔質のモノフィラメントを経糸とし打込み本数40本/インチからなる織布を作成した。
【0019】更に、該織布の一方の面に、密度0.924g/cm3の低密度ポリエチレンを310℃の加工温度で押出コーティングにより60μm積層しテープ基材を得た。テープとしての評価結果を表1に示した。」
「【0021】実施例3
積層するポリオレフィン系樹脂として密度0.939g/cm3の高密度ポリエチレンを用いる以外は実施例1と同様にてテープ基材を得た。テープとしての評価結果を表1に示した。」
「【0024】
【表1】
[図:0001424548000001.jpg]
手切れ性 ○:切り口が容易に入れられ、尚かつ緯糸方向に直線的に切れ、糸のほつれが無い。
×:切り口が入りにくく、斜めに裂ける。
平滑性 ○:ポリエチレン積層面が平滑に仕上がっている。
×:ポリエチレン積層面が平滑に仕上がっていない。
接着性 ○:基布と積層材との剥離が無い。
×:基布と積層材とが容易に剥離する。
【0025】
【発明の効果】本発明によれば、経糸及び緯糸とも同デニールのフィラメントを使用しているにもかかわらず、経糸が多孔質モノフィラメントであるため手切れ性に優れ、尚かつ平滑性にも優れており、更にフィラメントと積層される材料も同種であるため接着性にも優れており、従来の粘着テープの問題点を解決した優れたテープ用基材と言える。」
4 甲6の記載
「
[図:0001424548000002.jpg]
[図:0001424548000003.jpg]
」(第51頁2.~第52頁5.)
第6 取消理由通知に記載した取消理由
取消理由1:(明確性、職権により通知)本件特許の請求項1~4に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~4に係る発明は、同法第36条第6項2号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
「高密度ポリエチレン」なる発明特定事項を含む本件訂正前の請求項1の引用形式で記載される本件訂正前の請求項2の「0.930~0.970g/cm3の高密度ポリエチレン」との記載について
JIS K 6922-1:2017(甲6)によれば、ポリエチレン成形材料は、密度及びメルトフローレートによって分けられ、「高密度ポリエチレン」は密度が0.942g/cm3以上のものであると定義されているから、訂正前の請求項1及び2並びにそれらを引用する請求項3及び4は不明確である。
取消理由2:(進歩性、職権により通知)本件特許の請求項1~4に係る発明は、本件特許に係る出願の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された以下の甲3発明に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(甲3発明)
「密度0.950g/cm3の高密度ポリエチレンから得られる250デニールのモノフィラメントを緯糸とし、同一の高密度ポリエチレン100重量部に対し、発泡剤としてアゾジカルボンアミド0.3部を添加した発泡剤入りの組成物から得られる250デニール相当の径の多孔質のモノフィラメントを経糸として作成された打込み本数40本/インチからなる織布の一方の面に、密度0.939g/cm3の高密度ポリエチレンを押出コーティングにより60μm積層した粘着テープ用基材。」
本件の請求項1~4に係る発明の効果について
本件明細書等には、実施例として第1のフィルム層及び第2のフィルム層に密度0.956g/cm3の高密度ポリエチレンを使用した実験4~9の粘着テープが、比較例として第1のフィルム層及び第2のフィルム層に密度0.922g/cm3の低密度ポリエチレンを使用した実験1の粘着テープに比して耐久性が良好なものが得られることが記載されている。
一方、甲3発明の粘着テープ用基材の押出コーティング層を構成する高密度ポリエチレンは密度0.939g/cm3のポリエチレンであり、前記実験4~9の粘着テープより機械的強度が低くなることは明らかであるものの、本件の請求項1に係る発明は「密度0.930g/cm3以上のポリエチレン」を包含するものと認められるから、本件発明1の効果は、甲3の記載から当業者が予測しうる範囲のものである。
取消理由3:(サポート要件)本件特許の請求項1~4に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許の請求項1~4に係る発明は、同法第36条第6項1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである(前記第4 1(2)イに相当。)
第7 取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
1 取消理由(決定の予告)の概要
取消理由通知(決定の予告)の概要は以下のとおりのものである。
取消理由(サポート要件)本件訂正発明1、3及び4は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、同法第36条第6項1号の規定を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
「可塑性樹脂は、0.942~0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからな」る態様をも包含する本件発明1、3及び4は、本件発明の課題を解決するものではないから、発明の詳細な説明に記載されたものではない(前記第4 1(2)イの申立理由及び前記第6 取消理由3に対応)。
2 合議体の判断
以下、下線は合議体による。
(1) 本件明細書の記載
「【0005】
従来の粘着テープは、耐久性が不十分であり、台車やフォークリフトの走行経路や立入り区分等の表示に使用すると、踏付けにより捲り上がり、千切れ、剥がれ、摩擦による削れを生じてしまっていた。
【0006】
そこで、本発明は、床面に貼付された後の踏付けにより捲り上がり、千切れ、剥がれ、摩擦による削れを生じない耐久性を有し、台車やフォークリフトを使用する環境での使用に好適な粘着テープを提供することを課題とする。」
「【0014】
粘着テープの耐久性(床面に貼付された後の踏付けにより捲り上がり、千切れ、剥がれを生じないこと)は、第1のフィルム層の剛性、粘着剤層の床面への粘着力、粘着剤層の凝集力(保持力)などによって決まる。これらの物性の何れかが不十分であると、踏付け時のせん断力により、捲り上がり、千切れ、剥がれが発生するおそれがある。
【0015】
本発明者は、粘着テープの耐久性を向上するべく鋭意検討し、本願発明に至ったものである。
本発明者は、まず、第1のフィルム層の剛性を確保するため、第1のフィルム層を高密度ポリエチレンから形成するようにした(後述の「実験2(比較)」参照)。
しかし、第2のフィルム層が低密度ポリエチレンであると、第1のフィルム層と第2のフィルム層を積層する時の冷却による収縮の差から、粘着剤層を設ける前の原反がカールすることが判明した。原反がカールすると、その後の加工でシワの原因になるなど好ましくない。
【0016】
そこで、本発明者は、第2のフィルム層も高密度ポリエチレンから形成することとした(後述の「実験3(比較)」参照)。
しかし、第2のフィルム層を単に高密度ポリエチレンから形成すると、床面に貼って剥がした際に、第2のフィルム層と布状体の層間剥離(デラミネーション)により、床面側に粘着剤層と第2のフィルム層が残ってしまうことが判明した。その原因について検討したところ、第2のフィルム層の布状体に対する接着力が不十分であることが判明した。
【0017】
そこで、本発明者は、高密度ポリエチレンである第2のフィルム層の厚みに着目し、本願発明に至った。
すなわち、原反カールを抑制する観点から、第2のフィルム層を高密度ポリエチレンとし、且つ、その厚みを上げることで布状体へのアンカー効果を発揮させ、布状体とフィルム層との層間剥離を防止する観点から、その厚みを40μm以上とすることが有効であることを見出したのである(後述の「実験4~9(本発明)」参照)。」
「【0030】
第1のフィルム層2、第2のフィルム層3は、ともに高密度ポリエチレン(HDPE、密度0.930以上)からなる。高密度ポリエチレンは、繰り返し単位のエチレンが分岐をほとんど持たずに直鎖状に結合したものである。
【0031】
第1のフィルム層2、第2のフィルム層3をなす高密度ポリエチレンとしては、密度が0.930~0.970g/cm3が好ましく使用できる。密度が低くなると機械的強度が低下し、また、高くなると粘着テープの柔軟性が低下する。
【0032】
第1のフィルム層2の厚みは、限定されないが、剛性を確保する観点から、35μm以上であることが好ましい。
第2のフィルム層3の厚みを上げることにより布状体1へのアンカー効果を発揮させ、デラミネーションを防止する観点から、40μm以上である。製造コスト及び粘着テープの実用性の観点から、40~100μmであることが好ましく、40~80μmであることがより好ましい。」
「【0052】
(実施例1)
1.粘着テープの製造
実験1(比較)
<布状体の製造>
高密度ポリエチレン(密度0.956、MFR0.55)に高圧法低密度ポリエチレン(密度0.922、MFR10.0)を15重量%配合した熱可塑性樹脂をインフレーション成形法によってフィルムとし、得られたフィルムをレザーによってスリットして、フラットヤーンを得た。
次いで、上記のフラットヤーンを、温度110~120℃の熱板上で7倍に延伸した後、温度120℃の熱風循環式オーブン内で6%の弛緩熱処理を行ない、糸幅0.56mm、繊度109デシテックスの経糸を製造した。
同様の方法で高密度ポリエチレン(密度0.956、MFR0.55)100重量%の糸幅1.2mm、繊度310デシテックスの緯糸を製造した。
得られた経糸及び緯糸を、ウォータージェット機によって、経糸46本/25.4mm、緯糸16本/25.4mm、目付け量40g/m2の平織の布状体を得た。
<第1のフィルム層及び第2のフィルム層の積層>
次いで、得られた布状体の一方の面に、低密度ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂により、厚さ40μmの第1のフィルム層を積層し、布状体の他方の面に、低密度ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂により、厚さ40μmの第2のフィルム層を積層した。
低密度ポリエチレンの密度は、0.922g/cm3、MFRは10.0、融点は111℃である。
<粘着剤層の形成>
次いで、第2のフィルム層に、アクリル系粘着剤に硬化剤(イソシアネート系架橋剤、日本ポリウレタン工業株式会社製「コロネートL-45E」)を適宜添加した粘着剤層を塗工により形成し、粘着テープを得た。
粘着剤層の厚みは30μmとした。
層構成を整理すると、以下の通りである。
<全体の層構成>
第1のフィルム層/布状体/第2のフィルム層/粘着剤層
【0053】
実験2(比較)
実験1において、以下の変更をした以外は、同様にして粘着テープを製造した。
第1のフィルム層を高密度ポリエチレンに代えた。また、第1のフィルム層の厚さを35μmに代えた。更に第2のフィルム層の厚さを35μmに代えた。
高密度ポリエチレンの密度は、0.956g/cm3、MFRは、10.0、融点は、132.5℃である。
・・・
【0055】
実験4(本発明)
実験2において、以下の変更をした以外は、同様にして粘着テープを製造した。
第2のフィルム層の材質を高密度ポリエチレンに代え、厚みを40μmに代えた。
【0056】
実験5(本発明)
実験4において、以下の変更をした以外は、同様にして粘着テープを製造した。
第2のフィルム層の厚みを45μmに代えた。
【0057】
実験6(本発明)
実験5において、以下の変更をした以外は、同様にして粘着テープを製造した。
第2のフィルム層の厚みを50μmに代えた。
【0058】
実験7(本発明)
実験6において、以下の変更をした以外は、同様にして粘着テープを製造した。
第2のフィルム層の厚さを55μmに代えた。
【0059】
実験8(本発明)
実験6において、以下の変更をした以外は、同様にして粘着テープを製造した。
第2のフィルム層の厚さを60μmに代えた。
【0060】
実験9(本発明)
実験6において、以下の変更をした以外は、同様にして粘着テープを製造した。
第2のフィルム層の厚さを65μmに代えた。」
「【0068】
【表1】
[図:0001424548000004.jpg]
」
(2) 検討
ア 前提
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と本願明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 本件訂正発明の課題及び本件明細書の記載について
(ア) 本件訂正発明は、「床面に貼付された後の踏付けにより捲り上がり、千切れ、剥がれ、摩擦による削れを生じない耐久性を有し、台車やフォークリフトを使用する環境での使用に好適な粘着テープ」の提供を解決しようとする課題とするものである(【0006】)。
(イ) 本件明細書には、熱可塑性樹脂の組成について、「0.930~0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからなり」(特許査定時の【請求項2】)、「高密度ポリエチレン(HDPE、密度0.930以上)」(【0030】)、「高密度ポリエチレンとしては、密度が0.930~0.970g/cm3が好ましく使用できる。密度が低くなると機械的強度が低下し、また、高くなると粘着テープの柔軟性が低下する。」(【0031】)と記載されている。また、実施例として、第1のフィルム層及び第2のフィルム層に密度0.956g/cm3の高密度ポリエチレンを使用した実験4~9の粘着テープが、第1のフィルム層及び第2のフィルム層に密度0.922g/cm3の低密度ポリエチレンを使用した実験1(比較例)の粘着テープに比して耐久性が良好なものが得られることが記載されている。また、ポリエチレンフィルムの密度について、「密度が低くなると機械的強度が低下」(【0031】)することが記載されている。
ウ 検討
前記イ(イ)のとおり、本件明細書には、0.956~0.970g/cm3のポリエチレンからなる熱可塑性樹脂で第1及び第2フィルム層が形成された粘着テープは耐久性が良好であり、前記イ(ア)の課題を解決できることが記載されていたと認められる。
本件補正により0.942g/cm3以上0.956g/cm3未満のポリエチレンからなる熱可塑性樹脂が本件発明1から削除されたことにより、本件発明1は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
請求項1の引用形式で記載され、さらに、熱可塑性樹脂が延伸して得られたものであること、または、布状体が、織成された織物であるものであることを特定した本件発明3及び4も、同様の理由から、発明の詳細な説明に記載されたものである。
第8 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立理由及び取消理由について
1 前記第4 1(1)の申立理由1(新規性欠如)について
前記第5の甲1~甲3に加え、甲4及び甲5にも、「熱可塑性樹脂は、0.956~0.970g/cm3の高密度ポリエチレンからな」ることを特定事項とする本件発明1、3及び4は記載されていない。
したがって、申立理由1は採用できない。
2 前記第6 1(2)アの申立理由2(サポート要件違反)について
本件発明は、前記第7 2で検討したとおり、床面に貼付された後の踏み付けにより捲れあがり、千切れ、剥がれ、摩擦による削れを生じない耐久性を有し、台車やフォークリフトを使用する環境での使用に好適な粘着テープの提供を解決しようとする課題とするものである。
前記第7 2で検討したとおり、本件明細書には、実施例として、第1のフィルム層及び第2のフィルム層に密度0.956g/cm3の高密度ポリエチレンを使用した実験4~9の粘着テープが、第1のフィルム層及び第2のフィルム層に密度0.922g/cm3の低密度ポリエチレンを使用した実験1(比較例)の粘着テープに比して耐久性が良好なものが得られることが記載され、ポリエチレンフィルムの密度について、「密度が低くなると機械的強度が低下」(【0031】)することも記載されている。
そうすると、ポリエチレンフィルムの密度が0.956~0.970g/cm3であることを特定事項とする本件発明1、3及び4は、前記課題を解決するものと認められるから、申立理由2は採用できない。
2 前記第6の取消理由1(明確性、職権により通知)について
本件訂正により、請求項1の「高密度ポリエチレン」が「0.956~0.970g/cm3の高密度ポリエチレン」と訂正されたところ、密度が0.956~0.970g/cm3のポリエチレンが、高密度ポリエチレンであることは、技術常識から明らかである。
したがって、本件発明1及び本件発明1の引用形式等で記載される本件発明3及び4は、明確である。
3 前記第6の取消理由2(進歩性、職権により通知)について
本件補正により、本件発明1、3及び4は、本件明細書の実施例で耐久性が良好であることが確認された密度が0.956/cm3以上0.970g/cm3までのポリエチレンを含むものに特定され、前記実施例で示された効果を奏するものであることが明らかになったところ、このような効果が、本件各発明の構成が奏する効果として、予測しえる範囲内であったとはいえない。
したがって、取消理由により本件発明1、3及び4に係る特許を取り消すことはできない。
4 小括
以上のとおりであるから、申立人の主張はいずれも採用できない。また、前記6 2の取消理由により、本件発明1、3及び4に係る特許を取り消すこともできない。
第9 むすび
前記第7及び第8のとおり、本件特許の請求項1、3及び4に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立ての理由、取消理由及び取消理由(決定の予告)によっては、取り消すことはできない。さらに、他の本件特許の請求項1、3及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項2は削除され、請求項2に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700903