特許異議申立
2023-700833
変性共役ジエン系重合体、その製造方法、およびそれを含むゴム組成物
- 審判番号
- 2023-700833
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2021-543236
- 登録番号
- 7225418
- 請求日
- 2023年08月14日
- 審決日
- 2024年05月16日
- 公報発行日
- 2024年08月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】エルジー・ケム・リミテッド
- 【権利者代理人】実広 信哉
- 【権利者代理人】渡部 崇
- 【異議申立人】日本ゼオン 株式会社
- 【異議申立人代理人】弁理士法人とこしえ特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 細井 龍史
- 審判官 藤原 浩子
- 審判官 松本 直子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08C) / P1651.121-YAA(C08C) / P1651.536-YAA(C08C) / P1651.537-YAA(C08C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7225418号発明「変性共役ジエン系重合体、その製造方法、およびそれを含むゴム組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7225418号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
特許第7225418号の請求項1~16に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7225418号(以下「本件特許」という。)に係る特願2021-543236号は、令和2年9月11日を国際出願日とする出願(パリ条約による優先権主張 2019年9月11日 2020年9月10日 いずれも韓国)であって、令和5年2月10日にその特許権の設定登録(請求項の数16)がされ、同月20日に特許掲載公報が発行され、その後、同年8月10日に特許異議申立人である日本ゼオン株式会社(以下「申立人」という。)により、請求項1~16に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。
そして、令和5年10月30日付けで取消理由を通知したところ、令和6年1月31日に特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され、同年3月6日に申立人より意見書が提出された。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、一群の請求項〔1―16〕について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(本件訂正)
特許請求の範囲の請求項1に「b)下記数式1によるムーニー粘度変化率が(MVR)が20%以下;」と記載されているのを、「b)下記数式1によるムーニー粘度変化率が(MVR)が4.17%以上20%以下;」に訂正する。
(請求項1の記載を引用する請求項2~16も同様に訂正する。)
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
本件訂正は、訂正前の請求項1において、ムーニー粘度変化率(MVR)を、願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の表1(【0207】)の実施例3の数値に基づいて、「20%以下」から「4.17%以上20%以下」に限定するものである。
したがって、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、新規事項を追加するものでもない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-16〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~16に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~16に記載された次のとおりのものと認める(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。)。
「【請求項1】
Si原子およびN原子を含み、下記a)、b)およびd)の条件を満たす、変性共役ジエン系重合体。
a)NSX分析による重合体中のN原子の含量が、重量基準で150PPm以上;
b)下記数式1によるムーニー粘度変化率(MVR)が4.17%以上20%以下;
d)N原子とSi原子のモル比(N/Si)が0.75以上である。
[数式1]
MVR=[(MVf-MVi)/MVi]x100
(前記数式1中、
MVRはムーニー粘度変化率であり、
MVfは前記重合体を25℃で30日間放置した後の100℃でのムーニー粘度であり、
MViは前記重合体の初期の100℃でのムーニー粘度である。)
【請求項2】
N原子の含量が重量基準で170ppm以上である、請求項1に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項3】
数式1によるムーニー粘度変化率(MVR)が15%以下である、請求項1または2に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項4】
ICP分析による重合体中のSi原子の含量が、重量基準で50ppm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項5】
共役ジエン系単量体由来の繰り返し単位を含む第1鎖と、N-官能基含有単量体由来の繰り返し単位を含む第2鎖と、アルコキシシラン系化合物由来の単位と、を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項6】
前記アルコキシシラン系化合物は、アミン含有アルコキシシラン系化合物またはアミン非含有アルコキシシラン系化合物である、請求項5に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項7】
前記第1鎖は、芳香族ビニル系単量体由来の繰り返し単位をさらに含む、請求項5または6に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項8】
前記第2鎖は、共役ジエン系単量体由来の単位をさらに含む、請求項5~7のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項9】
数平均分子量(Mn)が1,000g/mol~2,000,000g/molであり、
重量平均分子量(Mw)が1,000g/mol~3,000,000g/molであり、
ピーク平均分子量(MP)が1,000g/mol~3,000,000g/molである、請求項1~8のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体。
【請求項10】
炭素溶媒中で、重合開始剤の存在下で、共役ジエン系単量体、または共役ジエン系単量体および芳香族ビニル系単量体を重合することで、活性第1鎖を製造するステップ(S1)と、
前記活性第1鎖とアルコキシシラン系化合物を反応させ、変性された活性第1鎖を製造するステップ(S2)と、
前記変性された活性第1鎖と、N-官能基含有単量体由来の繰り返し単位を含むマクロモノマーとを反応させるステップ(S3)と、を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項11】
前記マクロモノマーは、共役ジエン系単量体由来の単位をさらに含む、請求項10に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項12】
前記マクロモノマーは、炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物の存在下で、N-官能基含有単量体、またはN-官能基含有単量体と共役ジエン系単量体を低重合反応させることで製造される、請求項10または11に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項13】
前記アルコキシシラン系化合物は、重合開始剤1モルに対して0.1モル~10モルで用いられる、請求項10~12のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項14】
前記マクロモノマーは、重合開始剤1モルに対して0.1~4.0モルで用いられる、請求項10~13のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体の製造方法。
【請求項15】
請求項1~9のいずれか一項に記載の変性共役ジエン系重合体および充填剤を含む、ゴム組成物。
【請求項16】
前記変性共役ジエン系重合体100重量部を基準として0.1重量部~200重量部の充填剤を含む、請求項15に記載のゴム組成物。」
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として甲第1号証(以下「甲1」いう。)を提出し、特許異議申立書において、概要、以下の申立理由を主張する。
(1)申立理由1(新規性:特許法第113条第2号)
請求項1~4、9、15、16に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~4、9、15、16に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(実施可能要件違反:特許法第113条第4号)
本件明細書の発明の詳細な説明は、請求項1~16に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、それらの特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
(4)証拠方法
甲1:国際公開第2018/025998号
(なお、甲1は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である。)
2 取消理由の概要
請求項1~4、9、15、16に係る特許に対して、取消理由通知書において通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)取消理由1(新規性:特許法第113条第2号)
請求項1~4、15、16に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、それらの特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)取消理由2(進歩性:特許法第113条第2号)
請求項1~4、9、15、16に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、それらの特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)取消理由3(サポート要件:特許法第113条第4号)
請求項1~4、9、15、16に係る発明は、本件明細書の発明の詳細に記載されたものではないから、それらの特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
なお、取消理由3は、職権によるものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1、2及び申立理由1、2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性)について
取消理由1と申立理由1、及び、取消理由2と申立理由2は、それぞれ実質同じ理由であるから、まとめて判断する。
(1)甲1に記載された発明
甲1には、自動車タイヤに用いられる重合体組成物に関し、省燃費性能が良好で、優れた貯蔵安定性を有する重合体組成物を得ることができる変性共役ジエン系重合体の製造方法を提供するという課題を解決するための発明が開示され([0002][0004])、重合体組成物における補強材の含有量は、変性共役ジエン系重合体100質量部に対して、耐摩耗性及び強度を高めるためには10質量部以上であり、補強性を高めるためには150質量部以下であることが記載され([0222])、実施例8及び9には、具体的に変性共役ジエン系重合体を製造し、当該重合体を用いて重合体組成物を製造したことが記載されている。
甲1の実施例8及び9([0236][0246][0263]~[0264][0272]~[0277][0280])に着目すると、甲1には、次の発明が記載されていると認められる。
「以下の、工程1’、工程2’、工程3’により製造した、100℃のムーニー粘度(ML1+4)が、初期では49であり、50℃2週間後は50である、変性共役ジエン重合体。
(工程1’)
内容積20Lの撹拌装置付きステンレス製重合反応器を、洗浄及び乾燥し、当該重合反応器の内部の雰囲気を乾燥窒素に置換した。次に、「ヘキサン(一般品)」10.2kg、1,3-ブタジエン608g、スチレン192g、テトラヒドロフラン6.1mL、エチレングリコールジエチルエーテル4.6mL及びビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン3.66mmolを重合反応器内に投入した。次に、少量のn-BuLiのヘキサン溶液を重合反応器内に投入した後、n-BuLiを11.70mmol含有するn-ヘキサン溶液を重合反応器内に投入し、重合反応を開始した。
重合反応を0.5時間行った後、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン4.88mmolを重合反応器内に投入し、更に重合反応を2.5時間行った。
総計3時間の重合反応中は、重合反応器内の温度を65℃に調整し、重合反応器内の溶液を撹拌速度130rpmで攪拌し、重合反応器内には、1,3-ブタジエン912gとスチレン288gとを連続的に供給した。
(工程2’)
工程1’の後、重合反応器温度を65℃に保ちながら、得られた重合溶液を重合反応器内で130rpmの撹拌速度で撹拌し、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド11.70mmolを重合溶液に添加し、15分間撹拌した。
(工程3’)
工程2’の後、重合反応器温度を65℃に保ちながら、得られた重合溶液を重合反応器内で130rpmの撹拌速度で撹拌し、そこへn-BuLiを17.08mmol)含有するn-ヘキサン溶液を添加し、15分間撹拌した。次いで、メタノール0.8mLを含むヘキサン溶液5mLを重合反応器内に投入し、重合体溶液を5分間撹拌した。
スミライザーGM8.0g及びスミライザーTP-D4.0gを重合反応器内に投入し、次に、重合体溶液中の揮発分の大部分を、常温、24時間で蒸発させ、更に55℃で12時間減圧乾燥し、変性共役ジエン系重合体8を得た。」
(以下「甲1-8重合体発明」という。)
「甲1-8重合体発明において、工程3’におけるn-BuLiを、17.08mmolから、40.48mmolへ変更した以外は、同じ製造方法によって製造した、100℃のムーニー粘度が、初期と50℃2週間後ともに50である、変性共役ジエン重合体。」
(以下「甲1-9重合体発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1-8重合体発明又は甲1-9重合体発明(両者を併せて「甲1重合体発明」という。)とを対比する。
甲1重合体発明は、1,3-ブタジエン608g、スチレン192g及びビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン3.66mmolに、n-BuLiを11.70mmol添加して重合を開始し、次いで、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン4.88mmol、1,3-ブタジエン912g、スチレン288gとを連続的に供給した後、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド11.70mmolを重合溶液に添加し、次いで、n-BuLi17.08mmol又は40.48mmolを添加して、変性共役ジエン系重合体を製造したものである。
ここで、重合反応に寄与する反応原料についてみると、1,3-ブタジエンとスチレンの合計量は2000g(608+192+912+288)であり、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシランの合計量は8.54mmol(3.66+4.88)、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド11.70mmolを反応させており、1,3-ブタジエンを主な単量体成分として含むことから、「共役ジエン系重合体」ということができ、かつ、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシランとN-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドによって変性され、この変性により、Si原子とN原子を含むものとなっていると解される。
そうすると、甲1重合体発明は、本件発明1の「Si原子およびN原子を含」む、「変性共役ジエン系重合体」に相当するから、本件発明1と甲1重合体発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「Si原子およびN原子を含む、変性共役ジエン系重合体。」
<相違点1>
本件発明1は、「a)NSX分析による重合体中のN原子の含量が、重量基準で150ppm以上」、及び、「d)N原子とSi原子のモル比(N/Si)が0.75以上」であるのに対し、甲1重合体発明は、対応する事項を特定していない点。
<相違点2>
本件発明1は、「b)下記数式1(当審注:数式1は記載を省略)によるムーニー粘度変化率(MVR)が4.17%以上20%以下」であるのに対し、甲1重合体発明は、100℃のムーニー粘度(ML1+4)が、初期では49、50℃2週間後は50であるか(甲1-8重合体発明)、又は、初期と50℃2週間後ともに50である(甲1-9重合体発明)である点。
イ 判断
(ア)新規性について
まず、相違点2について検討する。
100℃のムーニー粘度に関し、甲1-8重合体発明は、初期では49、50℃2週間後は50、甲1-9重合体発明は、初期と50℃2週間後ともに50であったことから、本件発明1の数式1に当てはめたムーニー粘度変化率は、それぞれ2%、0%となり、ほとんど変化していない。
初期から放置する間の条件が、本件発明1においては「25℃で30日」、甲1重合体発明においては「50℃で2週間」であり、測定条件が異なるものの、一般に、温度が10℃上昇すると反応速度は2倍以上となるとの技術常識(アレニウスの法則等)に照らし、本件発明1よりも25℃高い温度で測定した甲1重合体発明のムーニー粘度変化率は、その測定期間が本件発明1のほぼ半分であることを考慮しても、甲1重合体発明の2%又は0%のムーニー粘度が、「4.17%以上20%以下」となるとする具体的な根拠は見いだせず、本件発明1における「b)下記数式1によるムーニー粘度変化率(MVR)が4.17%以上20%以下」を満たしているとは認められない。
そうすると、相違点2は、実質的な相違点である。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
(イ)進歩性について
まず、相違点2について検討する。
甲1の[0004]には、「省燃費性能が良好であり、かつ、優れた貯蔵安定性を有する重合体組成物を得ることのできる変性共役ジエン系重合体の製造方法を提供すること」であると記載されており、甲1重合体発明が解決しようとする課題の一つが、優れた貯蔵安定性であるといえる。
そうすると、甲1重合体発明において、貯蔵安定性の指標である100℃のムーニー粘度変化率(初期と50℃2週間放置時の変化率)を、2%又は0%からさらに上げて貯蔵安定性を悪化させ、本件発明1における「4.17%以上20%以下」(初期と25℃30日間放置時の変化率)の範囲にしようとする動機付けがない。
そうすると、甲1重合体発明において、相違点2に係る本件発明1の構成を有するものとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)本件発明2~4、9、15、16について
本件発明2~4、9、15、16は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、相違点2の構成を有するものである。
上記(2)に説示したものと同様の理由により、本件発明2~4、9、15、16は、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、意見書において、特許権者が提示した追加データにおいて、甲1の実施例8、9が劣る結果となるのは、ムーニー粘度変化率の相違に起因するものではなく、甲1の実施例8、9が「シランモノマー」を使用することによるシリカへの反応性に起因するものであるところ、本件発明1においては「シランモノマー」を使用した甲1の実施例8、9のような態様をもその範囲に含むものであることは明らかであるから、特許権者の追加データに基づく有利な効果についての主張は、本件発明1に基づく主張とはいえず考慮すべきではなく、本件発明1は、甲1に対し進歩性を有しない旨を主張する(1~4頁)。
しかしながら、特許権者の追加データを考慮するまでもなく、上記(2)に説示したように、甲1重合体発明において、相違点2に係るムーニー粘度変化率の本件発明1の構成を採用することが容易であるとはいえない以上、本件発明1が甲1に対して進歩性を有するといわざるを得ない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、意見書において、甲1の実施例1によれば、シランモノマーを使用した場合にも、ムーニー粘度変化率が本件発明1の範囲となることが明確に示されおり、特許権者のムーニー粘度変化率は化合物の種類に依存するとの主張は妥当性に欠くことからも、本件発明1は、甲1に対し進歩性を有しない旨を主張する(4~5頁)。
しかしながら、特許権者の上記主張にかかわらず、上記(2)に説示したように、甲1重合体発明において、相違点2に係る本件発明1のムーニー粘度変化率の構成を採用することが容易であるとはいえず、また、甲1重合体発明(実施例8、9)とはモノマー組成が異なる実施例1において、ムーニー粘度変化率が本件発明1の範囲となる可能性があることは、甲1重合体発明に基づく進歩性の検討に、直接、影響を与えるものではない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、取消理由1、2及び申立理由1、2によっては、本件発明1~4、9、15、16に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由3(サポート要件)について
(1)判断基準
本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明が、「充填剤との親和性に優れた変性共役ジエン系重合体を提供する」という課題(【0009】)を解決できることを当業者が認識でき、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしているかについて、以下検討する。
(2)本件発明1について
本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「重合体中のN原子の含量が150ppm以上、N/Siが0.75以上、ムーニー粘度変化率が4.17%以上20%以下」であることについて、「N-官能基が繰り返して存在するようにする後述の製造方法により製造されることで、N原子が相対的に高含量であることができ」ること(【0057】)、「N-官能基含有単量体が繰り返し単位として含まれることで、N原子の含量が相対的に多く、これによる象徴的な意味で、N原子とSi原子のモル比が0.75以上であってもよく」(【0058】)、「本発明に係る重合体は、N-官能基含有単量体を含む第2鎖、アルコキシシラン系化合物、そして重合体の第1鎖が特定の構造で結合されている構造的特徴により、加工性が向上することに加え、長期間保管した際にもムーニー粘度の変化率が低くて保管安定性に優れることができる。」(【0062】)などと記載されていることから、「重合体中のN原子の含量が150ppm以上、N/Siが0.75以上、ムーニー粘度変化率が4.17%以上20%以下」であることは、所定の製造方法により製造される重合体の構造と密接に関係しているといえる。
さらに、発明の詳細な説明の実施例と比較例によれば、「重合体中のN原子の含量が150ppm以上、N/Siが0.75以上、ムーニー粘度変化率が4.17%以上20%以下」の条件を満たさない比較例は、上記本件発明の課題を解決できないのに対し、当該条件を満たす実施例は、上記発明の課題を解決できることが記載されている。
そして、「重合体中のN原子の含量が150ppm以上、N/Siが0.75以上、ムーニー粘度変化率が4.17%以上20%以下」の条件を満たすが、実施例の重合体とは異なる構造を有するものが、上記発明の課題を解決できないことを示す、発明の詳細な説明の記載や技術常識は見いだせない。
そうすると、「重合体中のN原子の含量が150ppm以上、N/Siが0.75以上、ムーニー粘度変化率が4.17%以上20%以下」の条件以外に、重合体の構造を特定することが、上記発明の課題を解決するために必要であるとまではいえない。
したがって、当業者は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明1が、上記発明の課題を解決できることを認識できる。
(3)本件発明2~4、9、15、16について
上記(2)と同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明2~4、9、15、16についても、当業者は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、上記発明の課題を解決できることを認識できる。
(4)小括
以上のとおりであるから、取消理由3によっては、本件発明1~4、9、15、16に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由3(実施可能要件)について
(1)判断基準
本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が過度な試行錯誤を要することなく本件発明を実施し得る程度に明確かつ十分に記載されており、実施可能要件を満たしているかについて、以下検討する。
(2)本件発明1について
本件明細書の発明の詳細な説明には、「N原子の含量」「Si原子の含量」「ムーニー粘度の変化率」の測定方法(【0041】【0042】【0063】)が記載され、本件発明1に係る重合体の製造に用いられる、単量体、その製造方法について具体的に記載され(【0064】~【0154】)、本件発明1に係る重合体を、充填剤などとともにゴム組成物とし、タイヤなどに使用できること(【0155】~【0171】)が記載されている。
また、実施例1~7には、本件発明1に係る重合体を製造した条件についても詳細に記載されている。
そうすると、発明の詳細な説明の記載は、当業者が過度な試行錯誤を要することなく本件発明1を実施し得る程度に明確かつ十分に記載されている。
(3)本件発明2~16について
上記(2)と同様の理由により、本件発明1を引用する本件発明2~16についても、発明の詳細な説明の記載は、当業者が過度な試行錯誤を要することなく実施し得る程度に明確かつ十分に記載されている。
(4)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書において、「N原子の含量」に関し、比較例2における「実測値75ppm」の方が「使用量からの計算値約70.1ppm」よりも大きな値をなっており、技術的に矛盾を含むものであり、本件発明1~16における「NSX分析による重合体中のN原子の含量」が、いかなるものを測定したものであるのか不明であるとの疑義を否定し得ないものであるから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~16を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない旨を主張する(34~35頁)。
しかしながら、本件発明におけるN原子の含量は、「NSX分析による」ものであると明確に特定されており、「NSX分析」は、当業界において広く用いられている技術的に確立した分析法である。
当業者は、確立した分析法である「NSX分析」により測定される「N原子の含量」を指標として、本件発明1~16を実施すればよいのであるから、上記(2)及び(3)に説明したとおり、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~16を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものである。
そして、比較例2において、使用量からの計算値よりも実測値が多いという矛盾があるとしても、そのことのみで、確立した分析法である「NSX分析」によるN原子の含量が、いかなるものを測定したものであるのか不明であるとまではいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
イ 申立人は、特許異議申立書において、比較例2~5の開示によれば、同じ製造条件で製造した場合でも、変性剤の種類によって「N原子の含量」及び「Si原子の含量」の検出率(=「実測値/計算値」)の百分率が大きく変動するものであるが、発明の詳細な説明の開示を参酌しても、このように大きく変動する「N原子の含量」及び「Si原子の含量」の検出率をどのように制御すればよいのかについて全く記載がされておらず、当業者が、これらの含量を本件発明1で規定する要件を満たすものとしようとした場合、当業者に過度の試行錯誤を強いるものであるから、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1~16を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない旨を主張する(35~36頁)。
しかしながら、比較例3~5は、比較例2とは異なる変性剤(NとSiを含む)を用いていることから、「N原子の含量」及び「Si原子の含量」の検出率が異なっているのであって、変性剤の種類や量を変更するなどして、「N原子の含量」及び「Si原子の含量」を調節して本件発明1で規定する要件を満たすものとすることは、当業者が過度な試行錯誤を要するとまではいえない。
したがって、申立人の上記主張は採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由3(実施可能要件)によっては、本件発明1~16に係る特許を取り消すことはできない。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1~16に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書に記載した取消理由によっては、取り消すことはできない。
また、その他の請求項1~16に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700833