特許拒絶査定不服審判
2021-009950
薄膜状の電磁波吸収体、ギガヘルツ帯電磁波デカップリングシートおよびそれらの製造方法
- 審判番号
- 2021-009950
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2016-195861
- 請求日
- 2021年07月27日
- 審決日
- 2022年06月28日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】大同特殊鋼株式会社
- 【請求人代理人】右田 俊介
- 審判長/審判官
- 審判長 山田 正文
- 審判官 井上 信一
- 審判官 木下 直哉
- 分類
- P18 .121-WZ (H05K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特願2016-195861「薄膜状の電磁波吸収体、ギガヘルツ帯電磁波デカップリングシートおよびそれらの製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年 4月12日出願公開、特開2018- 60862〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1.手続の経緯
本願は、平成28年10月3日の出願であって、令和2年10月12日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年12月8日に手続補正がなされが、令和3年5月10日付けで拒絶査定がなされ、これに対して、同年7月27日に拒絶査定不服審判の請求及び手続補正がなされ、当審の令和4年3月18日付け拒絶理由通知に対する応答時、同年5月19日に手続補正がなされたものである。
2.本願発明
本願の請求項1ないし4に係る発明は、令和4年5月19日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりである。
「【請求項1】
アクリルゴム中に、非扁平状のステンレス系金属粉が分散しており、
前記ステンレス系金属粉は、
Crを3~25質量%含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなる合金、
または、Crを3~25質量%含有し、さらにNiを0.1~25質量%、および/または、Moを0.1~5質量%、および/または、Cを0質量%超0.5質量%以下含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなる合金、
からなり、
前記アクリルゴム100質量部に対して、前記ステンレス系金属粉が1800~2200質量部含まれていて、厚さが0.2~2.0mmであり、
1~100GHzの周波数で31.90以上の誘電率が得られるために、これと、金属板とが、これらに挟まれているアクリル系粘着剤を含む両面テープによって結合されると電磁波吸収特性が高いギガヘルツ帯電磁波デカップリングシートが得られる、薄膜状の電磁波吸収体。」
3.拒絶の理由の概要
令和4年3月18日付けで当審が通知した拒絶理由の概要は次のとおりである。
本件出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用文献に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
・請求項1、3に対して引用文献1ないし3、または1ないし4
・請求項2、4に対して引用文献1ないし3,5,6、または1ないし6
<<引用文献>>
引用文献1:特開2000-200990号公報
引用文献2:特開2002-299112号公報
引用文献3:特開2007-258432号公報
引用文献4:特開2009-249513号公報
引用文献5:特開2009-59726号公報
引用文献6:特開2004-200342号公報
4.引用文献の記載および引用発明
当審の拒絶の理由に引用された上記引用文献1(特開2000-200990号公報)には、「高耐食性電磁波吸収体」について、以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した)。
ア.「【請求項1】 Cr:5~35重量%を含むFe基合金から成る軟磁性粉末がゴム又は樹脂に分散して成ることを特徴とする高耐食性電磁波吸収体。
【請求項2】 前記軟磁性粉末は、Cr含有量が10~35重量%のフェライト系ステンレス鋼又はマルテンサイト系ステンレス鋼の粉末であることを特徴とする請求項1に記載の高耐食性電磁波吸収体。
【請求項3】 前記軟磁性粉末が5~65体積%の割合で含有されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の高耐食性電磁波吸収体。」
イ.「【0008】
【課題を解決するための手段】上記した目的を達成するために、請求項1記載の本発明においては、Cr:5~35重量%を含むFe基合金から成る軟磁性粉末がゴム又は樹脂に分散して成ることを特徴とする高耐食性電磁波吸収体が提供される。好ましくは、前記軟磁性粉末は、Cr含有量が10~35重量%のフェライト系ステンレス鋼又はマルテンサイト系ステンレス鋼の粉末であるのがよい(請求項2)。
【0009】また、前記軟磁性粉末が5~65体積%の割合で含有されているのがよい(請求項3)。」
ウ.「【0014】特に、Cr含有量が10~35重量%のフェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼の粉末であるのが好ましい。このようなステンレス鋼としては、JISに規格するSUS410鋼、SUS410L鋼、SUS430鋼、及びSUS430L鋼を例示することができる。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0016】本発明の電磁波吸収体に用いるゴムとしては、例えば、天然ゴムや、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブタジエンアクリロニトリルゴム、イソブチレンイソプレンゴム、及びスチレンブタジエンゴム等の合成ゴムを用いることができる。また樹脂としては、ポリアミド樹脂、エポキシ樹脂、各種ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリカーボネート樹脂等を用いることができる。さらに、塩素化ポリエチレン等の熱可塑性エラストマを用いることもできる。」
エ.「【0017】そして、本発明の電磁波吸収体は、例えば、上述のゴム原料や樹脂を軟磁性粉末と混合し、さらに所定の可塑剤や安定剤等を添加して攪拌したものを、一対のロールの隙間に装入し、これを圧延することにより製造することができる。この場合に電磁波吸収体はシート状に成形されるが、この他に、上述した混合物を押出成形、圧縮成形、あるいは射出成型等して、所定の形態に成形することもできる。また、加硫剤を添加することによって加硫を行ってもよい。なお、この電磁波吸収体には、軟磁性粉末が5~65体積%の割合で含有されていることが好ましい。軟磁性末の含有量が5体積%以下であると、電磁波吸収体の電磁波吸収能が低下するからであり、65体積%を超えると粉末を基体のゴムや樹脂に保持できなくなるからである。」
オ.「【0018】
【実施例】実施例1~4、比較例1、2
1.軟磁性粉末の製造
表1に示す成分組成を有するCrを含むFe基合金を溶解し、水噴霧法によりアトマイズ粉を製造し球状粉とした。また、一部の試料については、球状粉をアトライタに装入して押し潰し、所定のアスペクト比を有する偏平な鱗片状粉末とした。さらに、これらの球状粉や鱗片状粉末について、不活性ガス雰囲気中で700℃×60分の焼鈍処理を施した。なお、実施例3はJISに規格するSUS410Lを、実施例4はSUS430Lをそれぞれ用いた。
【0019】比較のため、センダストを用いて上記と同様にして鱗片状粉末を製造した。これを比較例1とする。また、カルボニル法により製造したFe球状粉を用いた。これを比較例2とする。なお、上記各粉末の平均粒径(D50値:全粒子に対する累積個数が50%となるときの平均粒径)は表1に示す値になっている。
【0020】
【表1】
[図:0001388027000001.jpg]
【0021】2.電磁波吸収シートの成形
塩素化ポリエチレンと軟磁性粉末を混合し、さらに少量の可塑剤と安定剤を添加して、これらの混合物をニーダで混練した。軟磁性粉末の含有量は、混合物全体に対して55体積%となるように調整した。次いで、この混合物を、回転する双ロールのロール隙間に装入して圧延し、厚さ1.0mmの電磁波吸収シートに成形した。」
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・引用文献1に記載の「高耐食性電磁波吸収体」は、上記「ア.」の【請求項1】~【請求項2】、「イ.」の段落【0008】の記載によれば、Cr含有量が10~35重量%のフェライト系ステンレス鋼又はマルテンサイト系ステンレス鋼の粉末からなる軟磁性粉末がゴムに分散して成る高耐食性電磁波吸収体に関するものである。
・上記「ウ.」の記載によれば、Cr含有量が10~35重量%のフェライト系又はマルテンサイト系ステンレス鋼としては、JISに規格するSUS410鋼などが挙げられ、電磁波吸収体に用いるゴムとしては、天然ゴム、種々の合成ゴム、さらに、塩素化ポリエチレン等の熱可塑性エラストマを用いることもできる。
・上記「ア.」の【請求項3】、「イ.」の段落【0009】、「エ.」の記載によれば、軟磁性粉末が5~65体積%の割合で含有されてなるものである。
・上記「オ.」の記載によれば、実施例3では、電磁波吸収体における軟磁性粉末は球状のFe-12Cr(SUS410L)からなり、ゴムが熱可塑性エラストマである塩素化ポリエチレンであり(なお、ここでいう「ゴム」とは、熱硬化性エラストマのみでなく、熱可塑性エラストマも含む広い意味でのものと解される)、軟磁性粉末の含有量(添加量)は55体積%である。そして、厚さ1.0mmのシートに成形してなるものである。
以上のことから、特に実施例3に係るものに着目し、上記記載事項及び図面を総合勘案すると、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「軟磁性粉末がゴムに分散してなる電磁波吸収体であって、
前記軟磁性粉末は、球状のFe-12Cr(SUS410L)からなり、
前記ゴムは、熱可塑性エラストマである塩素化ポリエチレンであり、
前記軟磁性粉末の含有量は、55体積%であり、
厚さ1.0mmのシートに成形してなる、電磁波吸収体。」
5.対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明における「軟磁性粉末」は、球状のFe-12Cr(SUS410L)からなることから、本願発明でいう「非扁平状のステンレス系金属粉」に相当する。そして、引用発明における「軟磁性粉末」の材料である「Fe-12Cr(SUS410L)」は、本願発明がステンレス系金属粉の材料として特定する「Crを3~25質量%含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなる合金、または、Crを3~25質量%含有し、さらにNiを0.1~25質量%、および/または、Moを0.1~5質量%、および/または、Cを0質量%超0.5質量%以下含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなる合金」のうちの「Crを3~25質量%含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなる合金」に含まれる。
したがって、引用発明における「軟磁性粉末」はゴムに分散している点も踏まえると、本願発明と引用発明とは「ゴム中に、非扁平状のステンレス系金属粉が分散しており、前記ステンレス系金属紛は、Crを3~25質量%含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなる合金」からなる点で共通する。
ただし、ゴムについて、本願発明では「アクリルゴム」と特定するのに対し、引用発明では熱可塑性エラストマである塩素化ポリエチレンである点で相違する。
また、本願発明では「前記アクリルゴム100質量部に対して、前記ステンレス系金属粉が1800~2200質量部」含まれていることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有しておらず、軟磁性粉末の含有量は55体積%である点でも相違する。
(2)本願発明では「1~100GHzの周波数で31.90以上の誘電率が得られるために、これと、金属板とが、これらに挟まれているアクリル系粘着剤を含む両面テープによって結合されると電磁波吸収特性が高いギガヘルツ帯電磁波デカップリングシートが得られる」旨特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点で相違する。
(3)そして、引用発明における「電磁波吸収体」は、厚さ1.0mmのシートに成形してなるものであり、その厚さは、本願発明で特定する「0.2~2.0mm」に含まれることから、本願発明でいう「薄膜状の電磁波吸収体」に相当するものである。
よって上記(1)ないし(3)によれば、本願発明と引用発明とは、
「ゴム中に、非扁平状のステンレス系金属粉が分散しており、
前記ステンレス系金属粉は、
Crを3~25質量%含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物よりなる合金、
からなり、
厚さが0.2~2.0mmである、薄膜状の電磁波吸収体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点1]
ゴムについて、本願発明では「アクリルゴム」と特定するのに対し、引用発明では熱可塑性エラストマである塩素化ポリエチレンである点。
[相違点2]
本願発明では「前記アクリルゴム100質量部に対して、前記ステンレス系金属粉が1800~2200質量部」含まれていることを特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有しておらず、軟磁性粉末の含有量は55体積%である点。
[相違点3]
本願発明では「1~100GHzの周波数で31.90以上の誘電率が得られるために、これと、金属板とが、これらに挟まれているアクリル系粘着剤を含む両面テープによって結合されると電磁波吸収特性が高いギガヘルツ帯電磁波デカップリングシートが得られる」旨特定するのに対し、引用発明ではそのような特定を有していない点。
6.判断
上記相違点について検討する。
(1)[相違点1]について
引用文献1の段落【0016】には、電磁波吸収体に用いられるゴムとして、熱可塑性エラストマである塩素化ポリエチレンの他に、いわゆる熱硬化性エラストマである天然ゴムや各種の合成ゴムを用いることができることが記載されているところ(上記「4.ウ.」を参照)、例えば当審による拒絶の理由に引用された特開2002-299112号公報(【請求項1】、段落【0015】~【0016】、【0020】を参照)や特開2007-258432号公報(段落【0015】~【0016】を参照)、さらには本願明細書において先行技術文献(特許文献1)として提示した特開2003-332783号公報(段落【0004】を参照)に記載されているように、軟磁性粉末がゴムに分散してなる電磁波吸収体において、マトリクスとなるゴムとして、熱可塑性エラストマである塩素化ポリエチレンの他にアクリルゴムといった熱硬化性エラストマを用いることができることは周知といえる技術事項であり、引用発明においても耐熱性などを考慮し、塩素化ポリエチレンに代えてアクリルゴムを用いることは当業者であれば適宜なし得たことである。
(2)[相違点2]について
本願明細書の段落【0027】の記載、及び【表1】によれば、本願発明において、アクリルゴム100質量部に対してステンレス系金属粉が1800質量部含まれるとき、ステンレス系金属粉の含有率は50vol%であり、アクリルゴム100質量部に対してステンレス系金属粉が2000質量部含まれるとき、ステンレス系金属粉の含有率は60vol%である。これに対して、引用発明では軟磁性粉末の含有量は55体積%であることからすると、引用発明においても、上記相違点1で検討したように電磁波吸収体に用いられるマトリクスとなるゴムとして塩素化ポリエチレンに代えてアクリルゴムを用いるようにした場合には、両者の比重の違い(塩素化ポリエチレンの比重1.10~1.20、アクリルゴムの比重0.09~1.10)を考慮しても、アクリルゴム100質量部に対する軟磁性粉末の含有量は本願発明で特定する「1800~2200質量部」に含まれるものとなると解される。
(3)[相違点3]について
上記相違点1及び2で検討したように、引用発明において、電磁波吸収体に用いられるマトリクスとなるゴムとして塩素化ポリエチレンに代えてアクリルゴムを用い、アクリルゴム100質量部に対する軟磁性粉末の含有量を本願発明で特定する「1800~2200質量部」に含まれる値とした場合には、当然に相違点3に係る構成である「1~100GHzの周波数で31.90以上の誘電率が得られるために、これと、金属板とが、これらに挟まれているアクリル系粘着剤を含む両面テープによって結合されると電磁波吸収特性が高いギガヘルツ帯電磁波デカップリングシートが得られる」ものとなるといえる。
(4)審判請求人の主張について
ここで、審判請求人は令和4年5月19日に提出した意見書において、引用文献1ないし3にはアクリルゴムが電磁波吸収特性の向上に寄与することは記載されておらず、その示唆もなく、引用発明において、電磁波吸収特性を高めることを課題とした場合、当業者が塩素化ポリエチレンゴムをアクリルゴムに変更する動機づけがないから、引用文献1~3に基づいて、本願請求項1に係る発明の進歩性は否定されないと主張している。
しかしながら上述したとおり、引用文献1に記載された発明は、電磁波吸収体に用いられるゴムとして、熱可塑性エラストマである塩素化ポリエチレンを用いることを前提とした発明というわけではなく、熱硬化性エラストマも用いることができるものである(引用文献1の段落【0016】を参照)。そして一般に、熱可塑性エラストマよりも熱硬化性エラストマは耐熱性が高いことは当業者にとって自明なことであるところ、軟磁性粉末がゴムに分散してなる電磁波吸収体において、マトリクスとなるゴムとして熱硬化性エラストマであるアクリルゴムを用いることも周知の技術である以上、引用発明においても、電磁波吸収体の使用環境によって耐熱性が必要とされるような場合などに塩素化ポリエチレンに代えてアクリルゴムを用いるようにすべき動機があるといえ、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
7.むすび
以上のとおり、本願の請求項1に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について論及するまでもなく拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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