特許拒絶査定不服審判
2023-021369
PETおよびチェレンコフ発光画像化に有用な18F標識ペプチドリガンド
- 審判番号
- 2023-021369
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-534202外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年12月15日
- 審決日
- 2026年02月17日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】コーネル ユニバーシティー
- 【請求人代理人】梅田 慎介
- 【請求人代理人】松任谷 優子
- 【請求人代理人】今野 智介
- 【請求人代理人】大木 信人
- 分類
- P18 .536-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-534202「PETおよびチェレンコフ発光画像化に有用な18F標識ペプチドリガンド」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月27日国際公開、WO2019/126497、令和 3年 2月22日国内公表、特表2021-506886〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年12月20日(パリ条約による優先権主張 2017年12月22日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、その主な手続の経緯は以下のとおりである。
令和 4年12月23日付け:拒絶理由通知
令和 5年 7月 7日 :意見書及び手続補正書の提出
同年 8月 9日付け:拒絶査定
同年12月15日 :審判請求書の提出
令和 6年 2月 7日 :審判請求書の手続補正書(方式)の提出
第2 本願発明
本願の請求項に係る発明は、令和5年7月7日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲における請求項1~14に記載された事項により特定されるものと認められる。
そのうち請求項1に記載された発明については、以下の事情があるために発明を一意に認定することが直ちにはできないから、請求項1の次の独立請求項である請求項4に係る発明について、判断する。
1 請求項1に記載された発明
請求項1に記載された発明の要部は、以下のとおりである。
「 【請求項1】
式Iによる18Fで標識されたソマトスタチン受容体アゴニストである化合物
【化1】
[図:0001436497000001.jpg]
またはそれらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物(・・・)。」(ただし、【化1】中の矢印は強調のため合議体が付した。)
ここで、式Iの化学構造式は、マーカッシュ形式で記載されており、式Iそのものに示され選択肢によらない部分、すなわち、その基本骨格は、本願明細書【0056】、【0057】において「スキーム1で例示されたソマトスタチン」として示される化学構造式が対応しているものである。
ところで、ソマトスタチンは、ヒトにおいて天然に発現するペプチドホルモンであり、本願明細書【0056】にも記載されるように「単一のプレプロタンパク質の選択的切断により産生される」ものである。すなわち、ソマトスタチンは、天然アミノ酸がペプチド結合及びジスルフィド結合により環状に結合されて構成されるものである。
しかしながら、請求項1の式Iの化学構造式には、矢印を付した箇所でペプチド結合になっておらず、ソマトスタチンとされるスキーム1の化学構造式でも矢印に対応する箇所が同様であるため、単なる誤記なのか、それとも、請求項1ではソマトスタチンのアナログとしてあえて式Iの化学構造式を規定しているのか、直ちには解釈できない。
そして、この点について、いずれの解釈で認定すべきであるのか手続の経緯から明らかにされているものでもない。
したがって、請求項1の記載からは判断対象となる発明を認定することが直ちにはできないため、当審においては、請求項1の次の独立請求項である請求項4に係る発明について、判断する。
2 本願発明(請求項4に係る発明)
令和5年7月7日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲における請求項4に記載された発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりである。(下線は、上記手続補正書により補正された箇所である。)
「 【請求項4】
式IIによる18Fで標識されたソマトスタチン受容体アゴニストである化合物
【化7】
[図:0001436497000002.jpg]
またはそれらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物(式中、
Z1は、HまたはOHであり;
W6はHであり;
W5が
【化8】
[図:0001436497000003.jpg]
であり、Y4がOHまたはNH2であるか、または
Y4が
【化9】
[図:0001436497000004.jpg]
であり、W5はHである;
ここで、T3は、-C(O)-または-C(O)NH-であり、
R13、R14、およびR15の1つならびにR16、R17、およびR18の1つは
【化10】
[図:0001436497000005.jpg]
であり、
R13、R14、およびR15の残りの2つは各々Hであり、R16、R17、およびR18の残りの2つは各々Hであり;
X3は、存在しないか、O、S、またはNHであり;
m’’およびa’’は各々独立に0、1、2、または3であり;
n’は0または1であり;
p’’は0、1、2、または3であり、ただし、p’’が0である場合、X3は存在せず;
q’’は1または2であり;
x’’は、0、1、2、または3であり;
y’’は1または2である)。」
第3 原査定の理由の概要
原査定の拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
本願発明の化合物を製造し、さらに、各化合物のアゴニスト作用や受容体との結合性の具体的な確認、イメージング用途への適用について確認することは、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を必要とするものであるから、この出願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
第4 本願明細書等の記載
願書に添付した明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)には、以下の記載がある(下線は当審が付与した。)。
明ア 発明の概要
「【発明の概要】
【0003】
本発明の技術は、陽電子放出断層撮影(PET)および/またはチェレンコフ発光画像化などによる、例えば哺乳動物組織の画像化に有用な、18Fで標識されたペプチドリガンドを提供する。さらに、本発明の技術は、本発明の技術の18Fで標識されたペプチドリガンドの容易で迅速な生産を可能にする先進的な中間体を提供して、使用前に本発明の技術の化合物を比較的容易に生産することを可能にする。
【0004】
したがって、一態様において、本発明の技術は、例えば、ソマトスタチン受容体陽性腫瘍の陽電子放出断層撮影(PET)および/またはチェレンコフ発光画像化に有用な18Fで標識されたソマトスタチン受容体アゴニストを提供する。・・・」
明イ 発明を実施するための形態
「【発明を実施するための形態】
【0018】
種々の態様において、本発明の技術は、哺乳動物組織を画像化するための化合物および方法を提供する。本明細書で提供される化合物は、開示された方法で、有用な医薬組成物および医薬に製剤化することができる。医薬製剤および医薬の調製における化合物の使用も提供される。
【0056】
本発明の技術
スキーム1で例示されたソマトスタチンは、内分泌系を調節して、神経伝達およびGタンパク質共役ソマトスタチン受容体との相互作用による細胞増殖および多数の二次ホルモンの放出の阻害に影響を及ぼすペプチドホルモンである。ソマトスタチンは、単一のプレプロタンパク質の選択的切断により産生される2通りの活性形態を有する。5種の知られているソマトスタチン受容体があり、全てGタンパク質共役7回膜貫通型受容体:SST1(SSTR1);SST2(SSTR2);SST3(SSTR3);SST4(SSTR4);およびSST5(SSTR5)である。例示的なソマトスタチン受容体アゴニストは、ソマトスタチンそれ自体、ランレオチド、オクトレオテート、オクトレオチド、パシレオチド、およびバプレオチドを含む。
【0057】
【化12】
[図:0001436497000006.jpg]
【0058】
多くの神経内分泌腫瘍は、SSTR2および他のソマトスタチン受容体を発現する。長く作用するソマトスタチンアゴニスト(例えば、オクトレオチド、ランレオチド)は、SSTR2受容体を刺激するために使用されて、したがって、さらなる腫瘍増殖を阻害する。Zatelli MCら、(Apr 2007).「Control of pituitary adenoma cell proliferation by somatostatin analogs, dopamine agonists and novel chimeric compounds」。European Journal of Endocrinology/European Federation of Endocrine Societies。156、Suppl.1:S29-35ページを参照されたい。オクトレオチドは、天然のソマトスタチンを模倣するが、有意により長い半減期をインビボで有するオクタペプチドである。オクトレオチドは、成長ホルモンを産生する腫瘍(先端巨大症および巨人症)、手術が禁忌である場合に、甲状腺刺激ホルモンを分泌する(thyrotropinoma)下垂体腫瘍、類癌腫症候群と関連する下痢および顔面紅潮症状ならびに血管作用性腸ペプチドを分泌する腫瘍(VIPオーマ)を有する人々における下痢の処置のために使用される。ランレオチドは、神経内分泌腫瘍、なかでも類癌腫症候群により引き起こされる先端巨大症および症状の管理において使用される。パシレオチドは、SSTR5に対する親和性が他のソマトスタチンアゴニストと比較して増大したソマトスタチン類似体であり、クッシング病および先端巨大症の処置のために承認されている。バプレオチドは、肝硬変およびAIDSに関連する下痢を有する患者における食道の静脈瘤の出血の処置で使用される。
【0064】
本発明の技術は、18Fで標識されたペプチドリガンドにより、例えば、疾患組織に対する親和性を有するペプチドの使用により疾患を画像化する必要性に取り組む。さらに、本発明の技術は、本発明の技術の18Fで標識されたペプチドリガンドの容易で迅速な生産を可能にする先進的な中間体を提供して、使用前に本発明の技術の化合物を比較的容易に生産することを可能にする。
【0065】
したがって、一態様において、本発明の技術は、例えば、ソマトスタチン受容体陽性腫瘍の陽電子放出断層撮影(PET)および/またはチェレンコフ発光画像化に有用な18Fで標識されたソマトスタチン受容体アゴニスト(本明細書では、「本発明の技術の化合物」とも称される)を提供する。・・・」
明ウ 実施例
「【実施例】
【0144】
本発明の技術の18Fで標識されたペプチドリガンドの合成
本発明の技術の18Fで標識されたペプチドリガンドのペプチドは、当技術分野で知られている任意の方法によって合成することができる。ペプチドを化学的に合成する例示的な非限定的な方法は、・・・にそれぞれに記載されたものなどの、分子生物学、タンパク質生化学、細胞生物学、および微生物学における従来の技法を使用して発生させることができる。
【0145】
ペプチドからの本発明の技術の18Fで標識されたペプチドリガンドの合成も、本開示を考慮に入れた当業者によって容易に理解されるが、本発明の技術の18Fで標識されたペプチドリガンドの合成のための例示的なプロトコルは、参照により本明細書に組み込まれる国際出願第PCT/US2017/039710号に記載されたものと同様なプロトコルを含み、国際出願第PCT/US2017/039710号の実施例のより詳細な考察が下で提供される。
【0146】
国際出願第PCT/US2017/039710号で提供された合成および実施例
国際出願第PCT/US2017/039710号の実施例のために、全ての溶媒はSigma Aldrichから購入し、特に断りのない限り、試薬規格品質であった。・・・
【0148】
最終生成物は、薄層クロマトグラフィー、分析HPLC、質量分析法およびNMR分光法を使用して、同定し、キャラクタライズした。・・・。生物学的アッセイで評価した全ての化合物の純度は、LC-MSおよび1H NMRにより判定して、>95%の純度であった。
【0149】
国際出願第PCT/US2017/039710号の中間体の代表的合成。代表的合成手順(経路AおよびB)を、国際出願第PCT/US2017/039710号の例示的中間体を生成するためのスキーム2で下に示す。
【0150】
【化56】
[図:0001436497000007.jpg]
a.DMAP、CDI、NEt3;b.MeOTf、NEt3、0℃;c.H2N-Lys(Cbz)-OtBu;d.H2、Pd/C;e.DMAP、CDI、NEt3;f.MeOTf、NEt3、0℃;g.2-もしくは4-(2-プロピン-1-イルオキシ)アニリンまたは3-エチニルアニリン、室温;h.TFA/CH2Cl2;i.TFA/CH2Cl2;j.トリホスゲン、NEt3、還流;k.NEt3、室温.
経路Aおよび経路Bを通る例示的中間体の合成を、下で説明する。
【0153】
・・・。次に混合物を、セライトを通して濾過し、濾液を減圧下で濃縮して、生成物のジ-tert-ブチル(((S)-6-アミノ-1-(tert-ブチルオキシ)-1-オキソヘキサン-2-イル)カルバモイル)-L-グルタメート(1)を粘稠な油として得た(360mg、92%収率)。
【0154】
経路Aによる合成
・・・
【0158】
・・・。揮発性溶媒をN2のストリーム下で除去して、生じた粗残留物を凍結乾燥して、生成物、(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(2-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(6)を、白色粉末として得た(3.1mg、98%収率)。・・・
【0159】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(3-エチニルフェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(7)。アルキン(4)を同じ方法により脱保護して表題の化合物を白色粉末として単離した(61%)。
・・・
【0160】
((1-カルボキシ-5-(3-(4-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)グルタミン酸(8)。アルキン(5)を、同じ方法により脱保護して表題の化合物を白色粉末として単離した(96%)。・・・
【0161】
経路Bによる合成
・・・
【0162】
・・・。生成物を含有するピークを捕集して凍結乾燥して、(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(2-エチニルフェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(10)を白色粉末として得た(27mg、31%収率)。・・・
【0163】
((1-カルボキシ-5-(3-(3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)グルタミン酸(11)。上記化合物を、同じ方法によって、アミン(9)および3-(プロパ-2-イン-1-イルオキシ)アニリンから合成して、薄い褐色粉末として単離した(13%)。・・・
【0164】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(4-エチニルフェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(12)。上記化合物を、同じ方法によって、アミン(9)および4-エチニルアニリンから合成して、青白い緑色の粉末として単離した(38%)。・・・
【0165】
代表的中間体からの国際出願第PCT/US2017/039710号の代表的19F化合物
代表的合成手順を、国際出願第PCT/US2017/039710号の18F化合物の例示となる例示的19F化合物を生成することにおける下のスキーム3で示し、続いてこれらの例示的19F化合物の合成をより詳細に説明する。
【0166】
【化57】
[図:0001436497000008.jpg]
【0167】
2-フルオロエチルトシレート(13)。・・・。油をシリカクロマトグラフィー(ヘキサン中20%のEtOAc)により精製して、2-フルオロエチルトシレート(13)を無色の油として得た(225mg、52%収率)。・・・
【0168】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(2-(1-(2-フルオロエチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(RPS-042)。・・・。生成物を含有するピークを凍結乾燥して、RPS-042を白色粉末として単離した(0.8mg、75%収率)。・・・
【0169】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(3-(1-(2-フルオロエチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(RPS-040)。RPS-040をアルキン(7)から、RPS-042と同じ方法によって合成して、白色粉末として単離した(82%収率)。・・・
【0170】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(4-(1-(2-フルオロエチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(RPS-041)。RPS-041を、アルキン(8)からRPS-042と同じ方法によって合成して、白色粉末として単離した(50%収率)。・・・
【0171】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(2-((1-(2-フルオロエチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メトキシ)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(RPS-039)。RPS-039を、アルキン(10)からRPS-042と同じ方法によって合成して、白色粉末として単離した(34%収率)。・・・
【0172】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(3-((1-(2-フルオロエチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メトキシ)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(RPS-043)。RPS-043を、アルキン(11)からRPS-042と同じ方法によって合成して、白色粉末として単離した(60%収率)。・・・
【0173】
(((S)-1-カルボキシ-5-(3-(4-((1-(2-フルオロエチル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)メトキシ)フェニル)ウレイド)ペンチル)カルバモイル)-L-グルタミン酸(RPS-038)。RPS-038を、アルキン(12)からRPS-042と同じ方法によって合成して、白色粉末として単離した(77%収率)。・・・
【0174】
国際出願第PCT/US2017/039710号におけるDCFPyLの合成
冷リガンドDCFPyLおよび前駆体トリメチルアンモニウム塩補欠基(20)の合成を、各々参照により本明細書に組み込まれる、・・・に記載された手順に従って試みた。
【0177】
2-(3-{1-カルボキシ-5-[(6-フルオロピリジン-3-カルボニル)-アミノ]-ペンチル}-ウレイド)-ペンタン二酸(DCFPyL)。表題化合物を、活性化されたエステル(21)から2ステップで、白色粉末として合成した(2.0mg、55%収率)。・・・
【0179】
国際出願第PCT/US2017/039710号の例示的18F化合物の放射性合成
国際出願第PCT/US2017/039710号のある例示的18F化合物のための代表的合成スキームを、下のスキーム4で提供する。特定の手順の詳細はこの後に続く。
【0180】
【化58】
[図:0001436497000009.jpg]
【0182】
2-アジドエチルトシレート(15)。・・・。油をシリカクロマトグラフィー(33%EtOAcヘキサン中)により精製して2-アジドエチルトシレート(15)を無色の油として得た(204mg、49%収率)。・・・
【0183】
2-[18F]フルオロエチルアジド(16)。・・・。2-[18F]フルオロエチルアジドを、バイアルを130℃で加熱することによる蒸留により精製して、2-[18F]フルオロエチルアジドを、0℃に冷却された100μLのDMFを含有するバイアルで捕捉した。
【0184】
国際出願第PCT/US2017/039710号の代表的18F化合物の例示的合成。DMF(100μL)中で予め混合された0.5MのCuSO4(50μL)および1.5Mのアスコルビン酸ナトリウム(50μL)の溶液を、2-[18F]フルオロエチルアジド溶液を含有するバイアルに加え、続いてDMSO(100~150μL)中の1mgのアルキン前駆体(6~8;10~12)を加えた。・・・。最適化された定組成HPLC精製方法(4mL/分;15%B;30分)を使用して、[18F]RPS-040および[18F]RPS-041を、減衰を補正された20~40%の放射化学的収率、99%を超える放射化学的純度および391GBq/μmolまでの特異的活性で単離した。
【0185】
[68Ga]Ga-PSMA-HBED-CC。表題の化合物を、参照により本明細書に組み込まれる、・・・に記載された手順に従って生成させた。・・・。[68Ga]Ga-PSMA-HBED-CCを食塩水中10%v/vのEtOH溶液中に溶出させて、約100MBq/mLの最終濃度に希釈した。減衰を補正した放射化学的収率は、95%を超えて、放射化学的純度は99%を超えた。
【0186】
[18F]DCFPyL。・・・。乾燥された混合物に、10μLのMeCN、5μLのNEt3および1mLのCH2Cl2中の1mgのジ-tert-ブチル(((S)-6-アミノ-1-(tert-ブチルオキシ)-1-オキソヘキサン-2-イル)カルバモイル)-L-グルタメート(1)を加えた。反応混合物を20分間40℃で攪拌して、次に10μLのMeCNおよび5μLのNEt3中の別の1mg(1)を加えた。反応混合物をさらに30分間攪拌した後、溶媒を蒸発させて、粗生成物を100μLのTFAに溶解して、20分間40℃で攪拌した。・・・。合成時間の合計は230分であり、減衰を補正された放射化学的収率は0.9%であり、放射化学的純度は96%を超え、特異的活性は35GBq/μmolを超えた。」
第5 当審の判断
1 本願発明について
本願発明の式IIの化学構造式は、マーカッシュ形式で記載されており、式IIそのもので示され選択肢によらない部分、すなわち、その基本骨格は、その化学構造からみて、本願明細書【0056】においてソマトスタチン受容体アゴニストとして例示されている「ランレオチド」が有する化学構造に対応する。
ソマトスタチン受容体アゴニストは、例えばランレオチドであれば、ソマトスタチン受容体の一種であるSSTR2受容体を刺激するために使用され、SSTR2受容体を発現する神経内分泌腫瘍で腫瘍増殖を阻害したり、類癌腫症候群により引き起こされる先端巨大症の管理をするために使用されるものである(明イ【0058】)。本願発明は、このような疾患組織に対する親和性を有するペプチドの使用により疾患を画像化するというものであり(明イ【0064】)、ソマトスタチン受容体アゴニストが有するソマトスタチン受容体への特異的な親和性を利用するものである。
ところで、本願の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
ここで、本願発明は、「ソマトスタチン受容体アゴニストである化合物」「またはそれらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物」という物質の発明であり、発明の詳細な説明(明ア【0003】、明イ【0064】)に記載されるように、当該物質の「ソマトスタチン受容体アゴニスト」としての特異的な親和性を利用して「哺乳動物組織の画像化に有用」なものとして使用することを念頭においた発明である。
したがって、本願発明について、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができるというためには、式IIで示される「化合物またはそれらの薬学的に許容される塩および/もしくは溶媒和物」(以下、「化合物等」という。)が、「ソマトスタチン受容体アゴニスト」であることが理解できなくてはならないし、「ソマトスタチン受容体アゴニスト」としての性質の中でも特異的な親和性が、「哺乳動物組織の画像化に使用できる」程度のものであることが理解できなくてはならない。また、「ソマトスタチン受容体アゴニストである」化合物等の発明として、当業者が出願時の技術常識を参酌しながら、過度の試行錯誤を要することなく製造できる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されている必要もある。
以下ではこれらの観点から検討する。
2 使用できることについて
(1)発明の詳細な説明の記載について
本願明細書の発明の詳細な説明では、本願発明の式IIで示される化合物等について、直接的に哺乳動物組織の画像化性能を示すデータが記載されていないばかりか、ソマトスタチン受容体への特異的な親和性又は特異的なアゴニスト活性のデータといった、哺乳動物組織の画像化性能を推認させるようなデータについても記載はない。
また、本願明細書の発明の詳細な説明では、本願発明の式IIで示される化合物等と、式IIそのもので示される基本骨格において化学構造が共通するランレオチドについては、「ソマトスタチン受容体アゴニスト」であること、「長く作用するソマトスタチンアゴニスト」であること、「SSTR2受容体を刺激するために使用されて、したがって、さらなる腫瘍増殖を阻害する」こと、及び、「神経内分泌腫瘍、なかでも類癌腫症候群により引き起こされる先端巨大症および症状の管理において使用される」ことが記載されている(明イ【0056】~【0058】)。
しかしながら、本願発明の式IIで示される化合物等は、ランレオチドとは化学構造を異にするから、ランレオチドと同様の特性を本願発明の式IIで示される化合物等も有すると直ちにいうことはできない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載だけでは、当業者といえども、式IIで示される化合物等を、過度の試行錯誤を要することなく哺乳動物組織の画像化に使用できると理解することはできない。
(2)技術常識について
そこで、本願出願時の技術常識を参酌すれば、当業者が過度の試行錯誤を要することなく哺乳動物組織の画像化に使用できると理解できるかについて検討する。
ア 参考文献の記載
(ア)参考文献1
技術常識を示すための文献として引用するJ Radioanal Nucl Chem,2017年,Vol.313,pp.279-289(以下、「参考文献1」という。)は、本願優先日前に発行された総説論文であり、以下の記載がある(英文のため日本語訳で記す。下線は当審が付した。以下同様。)。
参1a 標題
「銅放射性同位体標識ソマトスタチンアナログ:現状」
参1b 要約
「ペプチド受容体放射性核種療法(PRRT)は、手術不能な腫瘍や転移性神経内分泌腫瘍の患者を治療する有望な方法である。この治療戦略は、がん細胞で過剰発現している受容体に選択的に結合する能力を持つ放射性標識ペプチドを利用している。PRRTで使用される受容体親和性ペプチド群の一つは、放射性核種(例:90Y、177Lu、111In)と結合したソマトスタチン(SST)のアナログである。多くの研究が、銅放射性同位元素を基盤とする放射性医薬品が、様々な癌の診断と治療において有望であることを示している。本ミニレビューは、最近の進展に焦点を当て、銅放射性同位元素で放射性標識されたSSTアゴニストおよびアンタゴニストに関する複数の研究結果をまとめるものである。」
参1c 第279頁右欄第2~3段落
「SSTは、SST-14とSST-28の2つの生物活性型が存在し、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合形成により生じる環状モチーフの存在を特徴とする(図1a, b)[4]。
環状モチーフに位置する4つのアミノ酸、Phe、Trp、Lys、Thr(図1)が、天然に存在するSSTの両方の型の生物学的活性を担っていることが示されている。Patel [2]の研究によれば、生物学的機能にはTrpとLysの存在が必要であるが、PheとThrは他のアミノ酸に置換しても(例えば、PheをTyrに、SerをThr又はValに)、生物学的活性に重大な影響を与えないことが示されている[2]。」
参1d 図1
「
[図:0001436497000010.jpg]
図1 模式構造 a SST-14、b SST-28[4]」
参1e 第280頁左欄第2段落
「SSTの作用スペクトルは広範であるが、その半減期が1~3分と比較的短いため、生体内および生体外での応用は限られている[11]。この限界に対処するため、1980年代に半減期が長い効果的なSST類似体:オクレオチド、ランレオチド、バプレオチドが合成された(図2a、b、c)。これらの化合物は現在も様々な疾患の診断と治療に用いられている[4, 11-13]。これらの化合物の特徴は、天然ホルモンの生物学的活性を担うペプチド鎖断片を有することだ。ペプチド鎖を短縮しD-アミノ酸を挿入することで、タンパク質分解を抑制し半減期を延長できる。こうした改変により、SSTアナログの医療応用範囲は大幅に拡大した[14, 15]。」
参1f 図2
「
[図:0001436497000011.jpg]
図2 模式構造:a オクトレオチド、b ランレオチド、c バプレオチド [13]」
参1g 第283頁左欄第3段落~同頁右欄第2段落
「アンダーソンらは[44]、64Cu錯体にコンジュゲートした4つのSSTアナログである、TETA-オクトレオチド(図6b)、TETA-Tyr3-オクトレオチド、TETA-Tyr3-オクトレオテート、及びTETA-オクトレオテート(図7a~c)を比較した研究を発表している。この研究では、3 番目の位置でのアミノ酸置換(フェニルアラニンのチロシンでの置換)とC末端での変化(Thr-olのThr-OHでの置換)のどちらが、64Cu-TETA-Tyr3-オクトレオテートのsstr結合に影響を及ぼすか特定した。in vitro研究では、全ての類似体が受容体に高い親和性で結合することが示された。しかし、最も高い結合効率は64Cu-TETA-オクトレオテート及び64Cu-TETA-Tyr3-オクトレオテートでみられた一方、64Cu-TETA-D-Phe1-オクトレオチドは最も低い結合効率を示した。したがって、C末端修飾は、第3位での置換よりも結合親和性を決定する上で重要であるように思われる。
ラットの生体内分布研究では、64Cu-TETA-Tyr3-オクトレオテート及び64Cu-TETA-Tyr3-オクトレオチドの取り込みが最も高かった。これはチロシンが生物学的活性の原因であるという仮説を支持するものである。64Cu-TETA-Tyr3-オクトレオテートの取り込みは下垂体と膵臓で最も高かった。64Cu-TETA-オクトレオテートと64Cu-TETA-Tyr3-オクトレオチドは類似の活性を示したが、64Cu-TETA-D-Phe1-オクトレオチドは最も低い活性を示した。したがって、この場合、C末端修飾と第3位置換は同程度の影響を与えた。これらの相反する結果から、結合親和性や生物活性にどの修飾がより影響を与えるかを明確に特定することは困難である。しかしながら、64Cu-TETA-Tyr3-オクトレオテートで一般的に最良の結果が観察され、標的放射線治療において最も有望な薬剤となっている[44]。」
参1h 図6
「
[図:0001436497000012.jpg]
図6 模式構造:a 64Cu-CPTA-D-Phe1-オクトレオチド [39]、b 64Cu-TETA-D-Phe1-オクトレオチド」
参1i 図7
「
[図:0001436497000013.jpg]
図7 模式構造:a 64Cu-TETA-Tyr3 -オクトレオテート、b 64Cu-TETA-Tyr3 -オクトレオチド、c 64Cu-TETA-オクトレオテート」
参1j 図8
「
[図:0001436497000014.jpg]
図8 CB-TE2A-Tyr3-オクトレオテートの構造[50]」
参1k 図9
「
[図:0001436497000015.jpg]
図9 CB-TE1A1P-Tyr3-オクトレオテートの構造[53]」
参1l 図10
「
[図:0001436497000016.jpg]
図10 64Cu-DOTA-Tyr3-オクトレオテートの構造」
参1m 図11
「
[図:0001436497000017.jpg]
図11 64Cu-SAR-Tyr3-オクトレオテートの構造[58]」
参1n 図12
「
[図:0001436497000018.jpg]
図12 構造:a CB-TE1A1P-DBCO-Tyr3-オクトレオテート、b CB-TE1K1P-PEG4-DBCO-Tyr3-オクトレオテート[60]」
参1o 図14
「
[図:0001436497000019.jpg]
図14 CB-TE2A-sstr-ANTの構造(フェニルアラニン部分が修飾されている)[64]」
参1p 図15
「
[図:0001436497000020.jpg]
図15 LM3の構造(フェニルアラニン部分が修飾されている)[65]」
(イ)参考文献2
技術常識を補足するための文献として引用するEndocrinology,1997年,Vol.138,No.1,pp.296-307(以下、「参考文献2」という。)には、以下の記載がある。
参2a 要約欄
「神経ペプチドがGタンパク質共役受容体に結合すると、受容体-リガンド複合体の内部化が生じ、その後リガンドが標的細胞内へ細胞内移動及び分解がされる可能性があることを示す証拠が増えている。テトラデカペプチドであるソマトスタチン(SRIF)におけるこのメカニズムの発生に関する文献上の結果が一致しないことから、我々は、sst1またはsst2A受容体サブタイプをコードするcDNAをトランスフェクトしたCOS-7細胞において、代謝的に安定なSRIFアナログである[D-Trp8]SRIFのヨウ素化及び蛍光誘導体の結合及び内部化を比較することにより、この問題を再検討した。[D-Trp8]SRIF-14のフルオレセイン誘導体及びボディピ誘導体シリーズをHPLCで精製し、質量分析法で純度を分析した後、膜結合アッセイで生物学的活性を評価した。・・・」
参2b 第299頁右欄第3段落~第300頁左欄第1段落
「蛍光標識[D-Trp8]SRIF誘導体の薬理学的特性評価
ラット大脳皮質膜への[125I]SRIFの特異的結合との競合能を試験したところ、α-フルオレセイン-[D-Trp8]SRIFは非標識[D-Trp8]SRIFと比較して16倍の競合阻害能を示した(図2Aおよび表1)。ε4-フルオレセイン-[D-Trp8]SRIFも特異的[125I]SRIF結合と競合したが、α-フルオレセインペプチドよりも2~3倍低い親和性を示した(図2Aおよび表1)。対照的に、ε9-アナログは[125I]SRIF結合との競合が極めて弱かった(図2A及び表1)。
α-ボディピ-[D-Trp8]SRIFは、試験した蛍光リガンドの中で最も高い親和性で[125I]SRIF結合と競合した(図2Bおよび表1 )。しかし、この親和性は非標識ペプチドの4分の1であった。ε4-ボディピ誘導体は α-フルオレセイン化合物と同等の親和性で[125I]SRIF結合を競合した。しかしその溶解性はα-フルオレセイン誘導体よりも著しく低く、生物学的アッセイでの使用を妨げた。最後に、フルオレセインと同様に、ε9における[D-Trp8]SRIFのボディピ標識は、ペプチドが[125I]SRIF結合と競合する能力を完全に消失させた(図2B及び表1)。・・・」
イ 技術常識
参考文献1に記載されるように、本願出願時には、ソマトスタチン及びソマトスタチン受容体アゴニストに関して、次の事項が技術常識であったと認められる。
・ソマトスタチンは、2つのシステイン残基間のジスルフィド結合形成により生じる環状モチーフの構造を特徴とし、その生物学的活性を担っている部分、すなわち、ソマトスタチン受容体への結合部分は、環状モチーフ上の4つのアミノ酸のうちPhe、Trp、Lys、Thrであり、このうちPheはTyrに、SerはThr又はValに、それぞれ置換しても生物学的活性に重大な影響を与えないものの、生物学的機能にはTrpとLysの存在が必要であること。(参1c、参1d)
・ランレオチド等のソマトスタチン受容体アゴニストは、天然型ソマトスタチンで生物学的活性を担っている4つアミノ酸の部分を概ね維持しながら改変されて合成されたものであること。(参1e、参1f)
・ソマトスタチン受容体アゴニストの標識化合物では、標識構造の付加位置は、マトスタチン受容体アゴニストのN末端とすることが一般的であること。(参1a、参1b、参1h~参1p)
・オクトレオテート(C末端がThr-OHであり、カルボキシ基を有する。)とオクトレオチド(C末端がThr-olであり、Thrのカルボキシル基が-CH2OHになっている。)のC末端の化学構造の違いが、結合親和性や生物活性に与える影響を明確に特定することは困難であること。(参1g~参1i)
(3)技術常識を踏まえた判断
ア 置換基「W5」について
(ア)本願発明は式IIそのもので示される基本骨格がランレオチドを含むものであることからみて、本願発明の化合物においては、式IIの「W5」が結合するアミノ酸残基は、ソマトスタチン及びソマトスタチン受容体アゴニストにおいて共通して存在する生物学的活性を担う4アミノ酸中のLysに対応する部位である。そして、本願発明は、W5の選択肢として、【化8】に示される5員環や6員環を有する化学構造を含むものである。
上記(2)イで述べた技術常識を踏まえると、当業者であれば、本願発明の化合物等におけるW5を結合するアミノ酸残基は、ソマトスタチン受容体アゴニストとして生物学的活性を有するために重要な部位であり、かつ、その位置のアミノ酸としては元来Lysが必要とされていることを理解する。そうすると、そのような、生物学的活性に重要な部分の化学構造を、元来必要とされているLys以外に改変すれば、生物学的活性を損なう可能性があり、特に、構造上の改変の程度が大きいほど、生物学的活性を大きく損なうか失うに至るものと推認できる。
そうすると、本願発明の化合物等は、そのような重要な部位のLysに対して、5員環や6員環のような嵩高い構造を結合させた構造を有するものを含むから、天然型ソマトスタチンやランレオチド等が有する生物学的活性や特異的親和性が減少又は消失すると推認される化学構造を含むものである。
そして、本願発明の化合物等は、ソマトスタチン受容体アゴニストとしての生物学的活性の1つであるソマトスタチン受容体アゴニスト活性を有するものであり、かつ、ソマトスタチン受容体への特異的な親和性を利用して哺乳動物組織の画像化を行うことを念頭においた発明であるのだから、ソマトスタチン受容体アゴニストとしての特異的親和性が減少又は消失しては、哺乳動物組織の画像化に使用することができないことは明らかである。
それにも関わらず、本願の発明の詳細な説明は、本願発明の化合物等が哺乳動物の画像化に使用できる特異的な親和性を有することについて何ら明らかにしていないことは、上記(1)で述べたとおりであるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を使用できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
(イ)実際、参考文献2には、テトラデカペプチドである14アミノ酸のソマトスタチン上に3つ存在するアミノ基に蛍光標識を結合させた誘導体を作成して、特異的結合活性を評価した試験の結果が示されているとおり、N末端のα位アミノ基、4位Lysのε位アミノ基へ結合させたものとは対照的に、9位Lysのε位アミノ基へフルオレセイン又はボディピーを結合させた蛍光標識ソマトスタチン誘導体は、競合が極めて弱いか、完全に消失してしまう程に、特異的親和性が滅失してしまう旨が示されている(参2a、参2b)。ここでいう9位Lysのε位アミノ基は、本願発明の式IIにおける置換基W5の結合位置であることを踏まえると、なおさら、本願発明のW5に5員環や6員環を有するような嵩高い置換基を結合させたものは、当業者であれば、特異的親和性が毀損され、哺乳動物組織の画像化に使用できないものと理解する。
イ 置換基「Y4」について
本願発明は式IIそのもので示される基本骨格がランレオチドを含むものであることからみて、本願発明の化合物においては、式IIの「Y4」が結合する位置は、ランレオチドのC末端に対応する位置である。そして、本願発明は、Y4の選択肢として、【化9】に示される6員環や【化10】に示される5員環を有する化学構造を含むものである。
上記(2)イで述べた技術常識を踏まえると、当業者であれば、本願発明の化合物等におけるC末端アミノ酸Thrのカルボキシル基由来の-CO-に結合するY4の部分に対応する構造は、-COOHか-CH2OHというわずかな構造の差異でも、ソマトスタチン受容体アゴニストとしての結合親和性及び生物学的活性に影響を与える部位であり、影響の仕組みが明らかにされていない部位であって、かつ、標識構造を付加する部位として一般的でないことを理解する。そのような中で、C末端Thrのわずかな構造の差異ですら影響の仕組みが明らかになっていない部位に対して、試験データがないような化学構造を付加するような改変をすれば、結合活性や生物学的活性がどのように変化するか、当業者といえども予測できるものではないというべきである。
そうすると、本願発明の化合物等は、そのような結合活性や生物学的活性の予測が難しいC末端において、5員環や6員環のような嵩高い構造を結合させた構造を有するものを含むものであり、それらの構造による影響は予測できないというべきであるから、天然型ソマトスタチンやランレオチド等が有する生物学的活性や特異的親和性が本願発明の化合物等においても維持されるとは、裏付けとなるデータ又は試験結果もなしに推認することはできない。
そして、本願発明の化合物等は、ソマトスタチン受容体アゴニストとしての生物学的活性の1つであるソマトスタチン受容体アゴニスト活性を有するものであり、かつ、ソマトスタチン受容体への特異的な親和性を利用して哺乳動物組織の画像化を行うことを念頭においた発明であるのだから、ソマトスタチン受容体アゴニストとしての特異的親和性を推認できない化合物等については、哺乳動物組織の画像化に使用できるかどうかも推認できないことは明らかである。
それにも関わらず、本願の発明の詳細な説明は、本願発明の化合物等が哺乳動物の画像化に使用できる特異的な親和性を有することについて何ら明らかにしていないことは、上記(1)で述べたとおりであるから、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を使用できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
(4)小括
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、本願発明を当業者が使用できる程度に明確かつ十分に記載されているものではない。
3 製造できることについて
(1)発明の詳細な説明の記載について
ア 本願明細書の発明の詳細な説明では、本願発明のソマトスタチン受容体アゴニストである化合物等の製造方法として、式IIで示される化学構造式に至るような反応経路、原料物質及び反応条件等を、直接的に説明する記載はない。
本願明細書の発明の詳細な説明の「18Fで標識されたペプチドリガンドのペプチドは、当技術分野で知られている任意の方法によって合成することができる」等との記載(明ウ【0144】)からは、当業者であれば、「ペプチド」部分、すなわち、本願発明の式IIそのもので示される基本骨格については、当業者であれば技術常識を参酌しながら任意の方法を用いて合成することができると理解でき、実際、参考文献1にランレオチド等が記載されることからみても、当該基本骨格の製造方法は本願出願時の技術常識であったことが理解できる。しかしながら、当該ペプチド部分から、18Fの標識部分を生成又は結合させて本願発明の式IIで示される化学構造式に至るようにする製造方法は、発明の詳細な説明では、直接的に記載されないし、その製造方法に適用できる一般的な技術が記載されているわけでもない。ましてや、ソマトスタチン受容体アゴニストであるものを製造する方法は何ら記載がない。
イ 一方、本願明細書の発明の詳細な説明では、「18Fで標識されたペプチドリガンドの合成のための例示的なプロトコル」として、「国際出願第PCT/US2017/039710号に記載されたものと同様なプロトコル」が含まれるとしており(明ウ【0145】)、以降の発明の詳細な説明の記載は、「国際出願第PCT/US2017/039710号」の内容が記載されているから、その記載について、以下検討する。
(ア)明細書【0146】以降の記載の中で、18Fを有する化合物、及び、その化合物にその対応する安定同位体19Fを有する化合物に関する記載であって、かつ、本願発明において18Fを含む化学構造部分である【化8】の右側の構造式又は【化10】の構造式に対応する化学構造が含まれる化合物に関する記載としては、概略以下の[A]~[C]に示した事項が記載されている。
[A]【0150】にスキーム2として示される、6つの「中間体」、すなわち、化合物(6)~(8)及び(10)~(12)を合成する手順、並びに、当該手順中の各反応の反応条件、得られた物質についての収率等の試験データ(明ウ【0146】~【0164】)
[B]【0166】にスキーム3として示される、前記「中間体」から6つの「19F化合物」を合成する手順、並びに、当該手順中の各反応の反応条件、得られた物質についての収率等の試験データ(明ウ【0165】~【0173】)
[C]【0180】にスキーム4として示される、前記「中間体」から6つの「18F化合物」を合成する手順、並びに、当該手順のうち「18FRPS-040」及び「18FRPS-041」を製造した際の各反応の反応条件、得られた物質についての収率等の試験データ(明ウ【0178】~【0184】)
(イ)これらの手順[A]~[C]で製造される全ての目的の「18F化合物」及び対応するコールド化合物である「19F化合物」は、必ず手順[A]のスキーム2において反応経路が分割する直前の化合物(1)を経由して合成されているから、この化合物(1)の右上にあるアミノ基に対して、反応を施すことにより、前記「18F化合物」又は前記「19F化合物」において、本願発明での18Fを含む【化8】の右側又は【化10】の構造式に対応する化学構造を形成していることが理解できる。
しかしながら、 上記[A]~[C]で製造された「中間体」、「19F化合物」及び「18F化合物」は、いずれもその化学構造の中心に尿素結合を有する尿素系化合物であり、本願発明において式IIでそのもので示される基本骨格と類似する構造を見出すことすらできないものであるから、上記手順[A]~[C]に記載されるような尿素系化合物で標識化合物を得られたからといって、本願発明の式IIそのもので示される基本骨格を有する化合物等において、18Fで標識された「ソマトスタチン受容体アゴニスト」が得られることが示されたことにはならない。
(ウ)したがって、上記(ア)、(イ)によれば、本願明細書の発明の詳細な説明において「国際出願第PCT/US2017/039710号に記載されたものと同様なプロトコル」として記載された内容からは、せいぜい、アミノ基を有する化合物に対して、本願発明における【化8】の右側の構造式又は【化10】の構造式に対応する化学構造を付加することができると理解できるのにとどまり、ソマトスタチン受容体アゴニストであるものを製造する方法については、当業者といえども直ちには理解できない。
(2)技術常識について
そこで、本願出願時の技術常識を参酌すれば、「ソマトスタチン受容体アゴニストである」化合物等の発明として、過度の試行錯誤を要することなく製造できると理解できるかについて検討する。
本願出願時の技術常識については、2(2)イで述べたとおりである。
(3)技術常識を踏まえた判断
上記2(2)イで述べた技術常識を踏まえると、上記3(2)イで述べたとおり、当業者であれば、本願発明の化合物等におけるC末端アミノ酸Thrのカルボキシル基由来の-CO-に結合するY4の部分に対応する構造は、-COOHか-CH2OHというわずかな構造の差異でも、ソマトスタチン受容体アゴニストとしての結合親和性及び生物学的活性に影響を与える部位であり、影響の仕組みが明らかにされていない部位であって、かつ、標識構造を付加する部位として一般的でないことを理解する。そのような中で、C末端Thrのわずかな構造の差異ですら影響の仕組みが明らかになっていない部位に対して、試験データがないような化学構造を付加するような改変をすれば、結合活性や生物学的活性がどのように変化するか、当業者といえども予測できるものではないというべきである。
そうすると、本願発明の化合物等は、そのような結合活性や生物学的活性の予測が難しいC末端において、5員環や6員環のような嵩高い構造を結合させた構造を有するものを含むものであり、それらの構造による影響は予測できないというべきであるから、ソマトスタチン受容体アゴニストであるものを製造できるとは、裏付けとなる具体的な製造例もなしに推認することはできない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、本願発明のソマトスタチン受容体アゴニストである化合物等について、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
(4)小括
以上のとおり、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明の化合物等を製造できる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
4 請求人の主張について
請求人は、令和5年7月7日提出の意見書、及び、令和6年2月7日提出の手続補正書により補正された審判請求書において、発明の詳細な説明【0146】~【0189】に、本願発明に係る化合物等をどのように製造するかに関する十分なガイダンスが提供されており、特に【0150】に例示的中間体が記載され、【0166】、【0180】に代表的18F化合物の合成経路が記載されている旨を主張する。
しかしながら、製造できることに関しては、上記3において述べたとおりであるから、当該主張は採用できない。
第6 むすび
以上のとおり、本願は、請求項4に係る発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-021369