特許拒絶査定不服審判
2023-021016
接触圧力センサ及び接触圧力測定システム
- 審判番号
- 2023-021016
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-119357
- 請求日
- 2023年12月11日
- 審決日
- 2025年09月25日
- 公報発行日
- 2025年12月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター
- 【請求人代理人】矢作 徹夫
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 小島 寛史
- 審判官 柳 重幸
- 分類
- P18 .121-WZ (G01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-119357号「接触圧力センサ及び接触圧力測定システム」拒絶査定不服審判事件〔令和3年1月14日出願公開、特開2021-4820号〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、令和元年6月27日の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 2月 9日付け:拒絶理由通知書
同年 4月12日 :意見書、手続補正書の提出
同年 6月13日付け:拒絶理由通知書
同年 8月 4日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月 4日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同月12日 :原査定の謄本の送達)
同年12月11日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和7年 2月12日付け:拒絶理由通知書
同年 4月17日 :意見書、手続補正書の提出
2 本願発明について
(1) 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年4月17日に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
測定対象からの接触圧力に応じた電位を計測する電位計測装置と、前記電位計測装置と通信可能な電位圧力変換装置を備える接触圧力測定システムであって、
前記電位計測装置は、導電性被膜で覆われた導電性繊維であるたて糸及びよこ糸を前記たて糸と前記よこ糸との間に空隙を設けるように交錯させ平面状に織られた電気抵抗テキスタイルと前記電気抵抗テキスタイルの両端に電気的に接続された電位計測用電極を備える接触圧力センサと、前記電位計測用電極と接続した電位計測器と、前記電位計測器からの信号を送信する送信器を備え、
前記測定対象と、利用者の人体表面との間に前記接触圧力センサを配置し、前記たて糸及び前記よこ糸が同時に前記測定対象から面単位で荷重を受け圧縮されると、前記たて糸と前記よこ糸との間に設けられた前記空隙が減少し、前記電気抵抗テキスタイル全体の沈み込み量に応じて、前記電気抵抗テキスタイルの電気抵抗値が下がり、
前記電位圧力変換装置は、前記送信器からの信号を受信する受信器と、前記受信器からの信号を圧力に変換する変換部を備える接触圧力測定システム。」
(2) 本願発明の分説
検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Cまでに分説する。なお、必要に応じて改行を加えて表記した。また、参考図として、本願の【図3】及び【図4】を掲載する。
<本願発明の分説>
A 測定対象からの接触圧力に応じた電位を計測する電位計測装置と、
B 前記電位計測装置と通信可能な電位圧力変換装置を備える
X 接触圧力測定システムであって、
前記電位計測装置は、
A1 導電性被膜で覆われた導電性繊維であるたて糸及びよこ糸を前記たて糸と前記よこ糸との間に空隙を設けるように交錯させ平面状に織られた電気抵抗テキスタイルと前記電気抵抗テキスタイルの両端に電気的に接続された電位計測用電極を備える接触圧力センサと、
A2 前記電位計測用電極と接続した電位計測器と、
A3 前記電位計測器からの信号を送信する送信器を備え、
C 前記測定対象と、利用者の人体表面との間に前記接触圧力センサを配置し、前記たて糸及び前記よこ糸が同時に前記測定対象から面単位で荷重を受け圧縮されると、前記たて糸と前記よこ糸との間に設けられた前記空隙が減少し、前記電気抵抗テキスタイル全体の沈み込み量に応じて、前記電気抵抗テキスタイルの電気抵抗値が下がり、
前記電位圧力変換装置は、
B1 前記送信器からの信号を受信する受信器と、
B2 前記受信器からの信号を圧力に変換する変換部を備える
X 接触圧力測定システム。
<参考図>
【図3】
[図:0001429401000001.jpg]
【図4】
[図:0001429401000002.jpg]
(3) 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は、当合議体において付したものである。
「【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、衣服製品などを開発するプロセスにおいて、衣服製品と、それを着用している人体との接触圧力(着圧または衣服圧)を評価する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
柔らかい物の接触圧を測定する技術が開発されている。例えば、人が衣服を着用した時の着用圧や、椅子や、布団の接触圧を測定している。
【0003】
特許文献1は、空気を注入した中空袋を人体と衣服の間に設置し、外部耐圧のある細いチューブを圧力計に取付け、接触圧力を測定する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2666027号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1はチューブを利用しているため、中空袋を装着した利用者の活動範囲がチューブの長さによって制限される。
【0006】
本発明は、このような課題に着目して鋭意研究され完成されたものであり、その目的は、利用者が活動範囲を制限されることなく、接触圧力を測定する技術を提供することにある。」
「【0039】
(作用効果)
本実施形態の接触圧力センサによれば、電気抵抗テキスタイルの沈み込み量に応じて電気抵抗が下がり、電気抵抗テキスタイルへの荷重に応じた電圧を出力することができる。また、本実施形態の接触圧力測定システムによれば、接触圧力センサから出力された電圧に応じた接触圧力を測定することができる。このようにして、利用者が活動範囲を制限されることなく、接触圧力を測定することが可能になる。
【0040】
また、本実施形態の接触圧力センサによれば、電気抵抗テキスタイルは、導電性繊維であるたて糸及びよこ糸を所定の規則に従って交錯させ平面状にした織物である。電気抵抗テキスタイルとして、例えば、特開2017-179657号公報に示される導電性繊維により構成される柔らかいテキスタイルを選択することで、人体の複雑な曲面形状へ適応可能であり、利用者の様々な活動シーンで接触圧力を測定することが可能になる。
【0041】
電気抵抗テキスタイルが複数枚重なった場合、各々のテキスタイル(織物)に外力(負荷)が加わることで、各々の織物組織の空隙が減少し、織物を構成するたて糸及びよこ糸の接触密度が高まると同時に各織物相互の接触密度が高まる。このため、接触圧力センサにより検出可能な圧力範囲を調整することができ、測定対象に応じた接触圧力センサを製造できる。さらに、電気抵抗テキスタイルの電気抵抗値を調整する方法などでも、センサの検出可能な圧力範囲を調整することができる。なお、電気抵抗値の調整は、例えば特開2017-179657号公報に示される導電性繊維では繊維表面で固着させる有機導電被膜の量を調整するといった方法により成される。」
3 当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において令和7年2月12日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審において通知した拒絶の理由」という。)のうち、本願の請求項1に係る発明に対する理由(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
(進歩性の欠如) 本願の請求項1に係る発明は、その出願前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献10:国際公開第2008/032661号(主たる引用文献)
引用文献1:特開2003-20538号公報
4 引用文献の記載事項及び引用発明等の認定
(1) 引用文献10の記載事項及び引用発明の認定
ア 引用文献10に記載された事項
当審において通知した拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である引用文献10(国際公開第2008/032661号)には、次の記載がある。なお、当合議体により、後記ウの引用発明の認定に直接用いる記載等に下線を付した。
(ア) [0001]~[0006]
「技術分野
[0001] 本発明は、人間型ロボットなどに装着する触覚用のセンサであって、人間の皮膚のように物理量分布の計測が可能であり、かつ、高い伸縮性や柔軟性をもつ分布量センサに関する。この分布量センサは、ロボットの触覚用だけでなく、領域的に分布する様々な物理量を計測する分布量センサにも応用できる。
また、本発明は、その分布量センサを適用することができる分布量計測方法およびこの高い伸縮性や柔軟性を有する分布量センサを用いた計測システムに関する。
背景技術
[0002] (従来の分布量センサの問題点)
人間型ロボットなどに、人間の皮膚のような触覚の能力を与えることが求められている。そのためには、体の表面に分布する様々な物理量を知覚できる皮膚のようなセンサが必要である。
[0003] このようなセンサが対象とする物理量は、少なくとも人間の皮膚が知覚できるもの、例えば、接触、圧力、摘み、摩り、と言った触覚、また、温度や湿度などもある。さらに、人間型ロボットであれば、非接触に障害物との距離を皮膚が感じ取る、と言った人間にない機能も有用であるため、光や超音波など様々な物理量の知覚も対象となりえる。
[0004] このような分布的なセンサでもっとも開発例が多いのは、接触分布センサ、圧力分布センサ、温度分布センサなどである。これらのセンサは、一般に、領域に分散的に配置した多数の検知体と、検知体の計測データを処理する電子装置部や計算機部、そして電子装置部と検知体を接続する多数の配線、などから構成される。なお検知体とは、ある位置における対象物理量を電圧値や抵抗値などの電気的な量に変換する素子である。検知体の種類が異なるだけで、基本的には共通的な構造となるため、以降これらを「分布量センサ」と総称することにする。
[0005] 分布量センサでは、検知体や配線の数が非常に多いため、次のような問題があつた。
・多量の配線が領域内を縦横することにより、伸縮性や柔軟性の妨げられている
・多量の配線にともなう配線敷設のコストが高い
・領域内を縦横する配線や接続点に、外力などが直接作用し信頼性が損なわれやすい
特に伸縮性や柔軟性は、人間型ロボットなどにおいて非常に重要である。肘や肩では、関節角度の変化にともなって周囲の体表の面積が大きく変化するが、伸縮性のない分布量センサでこの領域を覆うことは非常に難しい。さらに、摘みや擦りと言った皮膚の伸縮や変形をともなうような知覚の場合にも、センサの伸縮性や柔軟性が必要とされる。また、人間や環境に対する安全性を高めるために、人間の皮膚のような柔らかさと知覚機能を両立させることも求められており、やはりセンサの伸縮性や柔軟性が重要となる。
[0006] しかしながら、伸縮可能な配線素材に高密度配線に適したものが存在しないこと、さらに従来的な構成では配線量を大幅に減らすことが難しいことなどから、本格的に高い伸縮性や柔軟性を有する分布量センサは実現されていなかったと言える。(後略)」
(イ) [0010]~[0012]
「発明が解決しようとする課題
[0010] 分布量センサの伸縮性や柔軟性は、人間型ロボットなどを考えた場合、必ずしも体表面上の全ての場所で必要とされているわけではない。
[0011] 例えば腕の場合、肘などの関節の周辺では伸縮性は重要だが、上腕や前腕などの円筒部では必要性が低い。また手指の場合、手の平側は繊細な触覚や柔らかさが求められるが、手の甲側ではそのような要求は低い。このように、部分的な領域だけでも伸縮性や柔軟性を実現できれば、ロボットなどに使用する分布量センサとしての有用性は大幅に向上すると考えられる。
[0012] 本発明は、上記要望に答えるように、2次元あるいは 3次元的な領域に広がる物理量分布を計測する場合において、少なくとも部分的な領域における高い伸縮性や柔軟性などの大きな変形性を実現することができる分布量センサを用いた領域全体の物理量分布を計測するための計測システム、およびその計測システムを用いて物理量分布を求める分布量計測方法の提供を目的とする。」
(ウ) [0028]~[0030]、[図1]
「発明を実施するための最良の形態
[0028] 本発明の分布量計測方法およびそのための分布量センサを用いた計測システムについて説明する。
(システム概要)
本発明のシステムの概要を説明する。
[0029] 図1に本発明の計測システムの構成図を示す。計測システム1は、基本的に分布量センサ2と処理部5とそれらの間の配線からなり、処理部5は、電子装置部6と計算機部7などから構成される。計算機部7には入出力部8が接続されている。処理部は、注入電流の生成処理と電位分布計測処理を行う機能を備えた電子装置部と、対象物理量分布の推定計算処理を行う機能を備えた計算機部とそれらを電気的に接続する配線、通信手段を有する。」
「[図1]
[図:0001429401000003.jpg]
」
「[0030] 分布量センサ2は、分布体3と、電極と配線からなる4を有し、対象となる物理量の作用を受ける部位である。分布体3は、内部に抵抗分布をもつ導電体を有しており、この分布体3には複数の電極4aが設置されており、電極4aは配線4bを通じて電子装置部6に接続されている。電子装置部6は、電極4aを通じて導電体に電流を流す機能をもつ。導電体は抵抗分布を有しているため、電極からの電流により電位分布が発生する。分布体は、分布体に作用する物理量分布が変化すると、この導電体の電位分布が変化するような構造となっている。また、電子装置部6は導電体に発生する電位分布を電極4aを通じて計測する機能をもつ。電流を流す電極や電圧を計測する電極の指定などは、電子装置部6内の計算機または計算機部7で実行される計測手順からなる計測プログラムからの指令により制御される。電子装置部6が収集した計測データなどは、通信などを介して推定計算を行う計算機部7に渡される。計算機部7で実行される推定手順からなる推定プログラムは、これらの計測データなどをもとに対象物理量分布を推定計算する。」
(エ) [0232]~[0235]
「[0232] (実施例:導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ)
伸縮性が非常に高い分布体である導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサの実際の実施結果を示す。
伸縮可能な導電体としては導電性ゴムが代表的であるが、関節周辺の皮膚に生じるような極めて大きな伸張に追従できるほどの、伸縮特性をもつ導電性ゴム素材は、素材が限られており入手も困難である。導電性ゴムにまさる大きな伸縮ができる素材としては、一般の衣料品に用いられているニット生地がある。ニット生地は、150%以上の伸張が可能なものも多数実在し、導電性ゴムなどよりも十分に大きな変形が、より小さな力で可能である。ニット生地はそのままでは、導電性がないため、独自にニットを導電化した導電化ニットを開発した。
[0233] ニットを導電化する方法として、繊維に導電性繊維を用いる方法も考えられるが、本実施例では独自の方法を用いた。通常の非導電性繊維からなるニット生地に対し、導電性塗料を噴霧塗布することで、繊維に導電性塗料を浸透させ、ニット生地を導電化すると言った手法である。本実施例では、水にカーボン粉末とカーボンを生地に定着させるためのバインダーを混ぜたものを導電性塗料として用いた。カーボン粉末としてはカーボンブラックやアセチレンブラック、バインダーには樹脂系バインダーや膠などが利用できる。ニット生地の編み目は平編みなど様々なものが利用できる。本実施例で使用したものは、一般的な平編による100%の繊維からなるもので、無負 荷時の生地の厚みは約1mm、編目の間隔は約1mmのものである。導電性塗料を噴霧することで、綿繊維に導電性塗料が浸透する。その水分が蒸発することにより、カーボン粉末が繊維内にバインダーによって定着し、繊維に導電性が生まれる。カーボンを定着するバインダーが糊のように作用するため,塗布後は伸縮性が悪くなるが、導電塗料塗布後の横方向の伸縮率は約190%,縦方向は約150%となった。導電性ゴムに比して高い伸縮性がより軽い力で実現されている。導電化ニットの抵抗率は、導電塗料の濃度や塗布回数などで調整するが,ここで用いたものは、幅2cm長さ8cmの帯の長さ方向の抵抗値が無負荷時で約50kΩであった。
[0234] このようにして作成された導電化ニットを伸張すると、編み目における繊維同士の接触状態や、繊維の状態が変化するため、抵抗率が変化する。平編みなどのニット生地では、基本的に繊維は横方向に走っており、縦方向は上と下の繊維が編み目を介して交差する構造になっている。そのため、縦方向と横方向で伸張の仕組みが異なるため、抵抗率の変化にも違いが生じる。一般的には、編み目の横方向は伸張により抵抗率が下がる。縦方向の伸張については、伸張を開始すると抵抗率が少しずつ高くなり、ある程度の伸張に達すると、今度は逆に抵抗率は低下して行く。ここで用いた物は、縦方向に伸張していくと抵抗が約3倍まで上昇し、その状態からさらに伸張すると、今度は抵抗率は低下しはじめ、伸びきった状態にいたると抵抗率は最初の約1/2になる。この上昇と下降の割合については、個体差が大きく製作時の導電塗料のムラなどが影響していると考えられる。このように伸張に対しては、導電化ニットはやや複雑な挙動を示す。
[0235] このような特性を有する導電化ニットは、面方向の圧力を受けると、水平方向の抵抗率が下がる、と言う特性も併せ持っている。これは、圧力により、その周辺の繊維の密度が高まるために導電率が高まるためだと考えられる。さらに特筆すべき性質として、圧力に対する抵抗率の変化に対して、ヒステリシスが小さいことがあげられる。感圧導電性ゴムの場合、圧力に対する抵抗率の変化にヒステリシス(残留抵抗)現象があることが広く知られている。例えば、感圧導電性ゴムシートの無付加状態から圧力を加えた場合、水平方向の抵抗率は圧力により下がるが、除圧して再び無付加状態にすると、最初の無付加状態とは違う抵抗率になる。これがヒステリシスの例である。これに対し、ここで用いた導電化ニットは、無付加状態から圧力を加えると水平方向の抵抗率が下がり、その後、除圧して再び無付加状態にすると、最初の無付加状態に近い抵抗率に直ちに復帰する。導電性ゴムや感圧導電性ゴムに比して、ヒステリシスが非常に小さいのが特徴だと言える。」
(オ) [0238]~[0241]、[図57]~[図58]
「[0238] 図57は、人間の頭部を模して作られた模型の表面に導電化ニットを貼り付けたものを示している。この顔面の模型は、鼻やアゴなどのように突き出した部分や、目の周辺のように大きく窪んだ部分など、非常に複雑な形状をしている。両面テープを模型の顔面の広範囲に貼り付けた上に導電化ニットを貼り付けることで、導電化ニットが複雑な顔面の曲面上に密着して剥がれないように固定した。伸縮性をいかして出っ張りや窪みに適応できるため、シワなどがよることもなく、曲面上に滑らかな表面を形成するように貼り付けられている。」
「[図57]
[図:0001429401000004.jpg]
」
「[0239] 図58は、導電化ニットを顔面模型の表面に貼り付けた状態で、実際に圧力分布を計測した際の実験結果である。図58は、上から3段の9画像を(c)と表し、4段目の左側と中央の画像を(d)と表し、4段目の右側画像を(e)と表す。
(c)の1段目の画像は、左から額の左、額の中央、額の右の3点をそれぞれ押した場合、(c)の2段目の3画像は、左から左目下、鼻、右目下の3点をそれぞれ押した場合、(c)の3段目の3画像は、左から左アゴ、中央のアゴ、右アゴの3点をそれぞれ押した場合、(d)の2画像は、窪んだ目の部分を押した場合、(e)は2点をおさえた場合、である。それぞれに、鼻のように鋭く突き出した部分も、眉の下の目の周辺の窪んだ部分についても、明確に圧力点が検出できていることが確認できる。複雑な伸縮状態であるにも関わらず、圧力分布が問題なく計測できている点は特筆すべきことだと言える。なお、伸縮により導電化ニットはもとの長方形とは若干異なる形状に変化して いるが、ここでは分布体の形状変化は順モデルとして反映していないため、おおよその分布位置を表していると言える。」
「[図58]
[図:0001429401000005.jpg]
」
「[0240] 従来の触覚センサは、フレキシブル基板などで構成されているため、伸縮性がないものがほとんどであった。そのため、ここで用いた顔面模型のような複雑な曲面上に圧力分布センサを設置することは、極めて難しく特殊なセンサ形状を特別に作る必要があり、非常に高コスト化しやすかったと言える。これに対し、本発明による導電化ニットを用いると、その伸縮性をいかして、単純な形状のシートであっても、容易に対象の複雑曲面に設置することが可能である。これは、従来の触覚分布センサにはない、極めて有用かつ独創的な特徴だと言える。顔面ほどではないが、人間型ロボットなどの身体の各所には、複雑な曲面がいくつもあるため、そのような場所への実装にも極めて有効だと考えられる。また、導電化ニットは、基本的に布であるため、足の裏の圧力分布や、義足内部の圧力分布を計測する場合のように、人間に直接触れるような場合でも、フィルム状の従来のセンサに比べて、はるかに違和感なく使用できるものと考えられる。
[0241] 導電化ニットは、通常の非導電性のニットに対し、導電性塗料を噴霧塗布する方法だけでなく、染色のように直接塗料に浸すことで作成することでも可能であるし、刷毛などを使って塗布する方法などでも可能である。また、導電塗料を用いるやり方ではなく、直接、導電性繊維を用いて導電性ニットを作ることでも、同様な特性をもつ導電化ニットを作成することが可能である。この導電性繊維には、カーボンを化学繊維の素材に練りこんだ導電性繊維や、サンダーロンなどの硫化銅を成分とする導電性繊維、金属メッキ(銀、銅、ニッケル、金など)された化学繊維(ポリエステルやナイロン他)、ステンレスや銅などの金属を繊維状にした金属繊維、などを用いても良いし、通常の非導電性繊維(ポリエステルやナイロンなどの化学繊維、綿や麻などの植物性繊維など)と、これらの導電性繊維をミックスした混紡による繊維でも良い。」
イ 引用文献10の記載から読み取れる事項の認定
(ア) 認定事項1
引用文献10の[0028]には、「本発明の分布量計測方法およびそのための分布量センサを用いた計測システムについて説明する。(システム概要)本発明のシステムの概要を説明する。」と記載され、同[0029]~[0030]に分布量センサを用いた計測システムの概要について説明されている。
また、引用文献10の[0232]には、「(実施例:導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ)」と記載され、この記載以降に、「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」の実施例について説明されている。
そして、引用文献10の[0004]の記載などから、圧力分布センサが分布量センサの一種であることが理解できるから、引用文献10において、システムの概要が説明された「分布量センサを用いた計測システム」における「分布量センサ」の実施例として、「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」が説明されていることは明らかである。
したがって、引用文献10には、次の事項(以下「認定事項1」という。)が記載されていると認められる。
<認定事項1>
「分布量センサを用いた計測システムにおいて、分布量センサの実施例として、導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサがあること。」
(イ) 認定事項2
引用文献10の[0030]に「この分布体3には複数の電極4aが設置されており」と記載されていることも考慮すると、[図57]の記載から、引用文献10には、次の事項(以下「認定事項2」という。)が記載されていることが看取できる。
<認定事項2>
「導電化ニットの周辺部には、その周囲に沿って複数の電極が設置されていること。」
ウ 引用発明の認定
前記イにおいて認定した事項及び前記アに摘記した引用文献10の記載事項を総合すると、引用文献10には、「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」の実施例([図57])に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「分布量センサを用いた計測システムであって、([0028])
計測システム1は、基本的に分布量センサ2と処理部5とそれらの間の配線からなり、([0029])
処理部5は、注入電流の生成処理と電位分布計測処理を行う機能を備えた電子装置部6と、対象物理量分布の推定計算処理を行う機能を備えた計算機部7と、それらを電気的に接続する配線、通信手段を有し、計算機部7には入出力部8が接続されており、([0029])
分布量センサ2は、分布体3と、電極と配線からなる構成4を有し、対象となる物理量の作用を受ける部位であり、分布体3は、内部に抵抗分布をもつ導電体を有しており、この分布体3には複数の電極4aが設置されており、電極4aは配線4bを通じて電子装置部6に接続されており、([0030])
電子装置部6は、電極4aを通じて導電体に電流を流す機能をもち、導電体は抵抗分布を有しているため、電極からの電流により電位分布が発生し、分布体は、分布体に作用する物理量分布が変化すると、この導電体の電位分布が変化するような構造となっており、([0030])
電子装置部6は導電体に発生する電位分布を電極4aを通じて計測する機能をもち、電流を流す電極や電圧を計測する電極の指定などは、電子装置部6内の計算機または計算機部7で実行される計測手順からなる計測プログラムからの指令により制御され、([0030])
電子装置部6が収集した計測データなどは、通信などを介して推定計算を行う計算機部7に渡され、([0030])
計算機部7で実行される推定手順からなる推定プログラムは、これらの計測データなどをもとに対象物理量分布を推定計算するものであり、([0030])
分布量センサの実施例として、導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサがあり、(認定事項1)
ニット生地の編み目は平編みなど様々なものが利用でき、([0233])
ニットを導電化する方法として、通常の非導電性繊維からなるニット生地に対し、導電性塗料を噴霧塗布することで、繊維に導電性塗料を浸透させ、ニット生地を導電化する手法を用いるが、導電塗料を用いるやり方ではなく、直接、導電性繊維を用いて導電性ニットを作ることでも、導電化ニットを作成することが可能であり、この導電性繊維には、金属メッキ(銀、銅、ニッケル、金など)された化学繊維(ポリエステルやナイロン他)などを用いても良く、([0233]、[0241])
導電化ニットを顔面模型の表面に貼り付けた状態で、実際に圧力分布を計測した際の実験結果において、額の左、額の中央、額の右の3点をそれぞれ押した場合、左目下、鼻、右目下の3点をそれぞれ押した場合、左アゴ、中央のアゴ、右アゴの3点をそれぞれ押した場合、窪んだ目の部分を押した場合、2点をおさえた場合、それぞれに、鼻のように鋭く突き出した部分も、眉の下の目の周辺の窪んだ部分についても、明確に圧力点が検出できるものであり、([0239])
導電化ニットの周辺部には、その周囲に沿って複数の電極が設置されており、(認定事項2)
導電化ニットは、面方向の圧力を受けると、水平方向の抵抗率が下がる、という特性を持っており、これは、圧力により、その周辺の繊維の密度が高まるために導電率が高まるためだと考えられる、([0235])
計測システム。([0029])」
(2) 引用文献1及び12の記載事項並びに周知技術1の認定
ア 引用文献1に記載された事項
当審において通知した拒絶の理由において引用された、本願の出願前に発行された文献である引用文献1(特開2003-20538号公報)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、以下同様である。
(ア) 【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、導電性編物又は織物に関し、特に収縮性を持たせることによりその用途拡大を可能にした導電性編物又は織物及びこれを用いたセンサに関するものである。」
(イ) 【0015】~【0016】、【図1】
「【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態例を図面に基いて説明する。図1は本発明にかかる導電性編物又は織物の構成例を示す図で、同図(a)は、編みによる導電性編物、同図(b)は織りによる導電性織物を示す図である。図1(a)の導電性編物2は、混紡糸1をループ状の編目をつくりながら製編するものである。図1(b)の導電性織物3は、混紡糸1を縦横交互に製織するものである。ここで、混紡糸1はステンレス鋼などからなる導電性のある短繊維(長さ4cm)とポリエステルなどからなる非導電性の短繊維(長さ4cm)を混ぜ合わせ、綿状にした後紡いで混紡糸にしたものである。
【0016】
図1(a)の導電性編物2は、張力が加わった場合に混紡糸1のループ状の部分に余裕があるため収縮性が高く、図1(b)の導電性織物3は混紡糸1に余裕がないため収縮性が低い。但し、混紡糸1自体に収縮性を持たせることにより、導電性織物3自体にある程度収縮性を持たせることも可能である。」
「【図1】
[図:0001429401000006.jpg]
」
(ウ) 【0028】~【0029】、【図10】
「【0028】
次に、本発明にかかる導電性編物又は織物を用いる使用例について説明する。図10は、本発明にかかる導電性編物又は織物を用いる使用例を示す図である。6は、導電性編物又は織物からなる手袋状のセンサ、7は検知装置、8はパーソナルコンピュータなどの出力処理装置である。
【0029】
手袋状のセンサ6は、混紡糸1を複数本合せて1本にした糸を筒状に編んだ複数本合せ筒編みの導電性編物で構成されている。該手袋状のセンサ6の任意の位置、例えば手200の指のすべての関節部分に対応する位置に図示しない+、-の電極端子を接続する。検知装置7は、該電極端子間の抵抗値の変化を検知し、これを電気信号に変換し出力処理装置8に出力する。出力処理装置8は検知装置7の出力から後述するような方法で、手200の指の形状を検出し、それを電気信号や文字などに変換して出力する機能を備えている。」
「【図10】
[図:0001429401000007.jpg]
」
イ 引用文献12に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の出願前に発行された文献である国際公開第2018/202905号(以下「引用文献12」という。)には、次の記載がある。引用文献12に対応する日本国公表特許公報である特表2020-518730号公報に基づいて当合議体が作成した日本語訳を括弧内に示した。
(ア) [0021]~[0022]
「[0021] The present disclosure relates to conductive elastic yarns and the production of such yarns using various yarn manufacturing processes. The conductive elastic yarns include a conductive core of one or more elastic fibers and an insulating sheath that covers the conductive core. The conductive elastic yarns are used to produce stretchable conductive fabrics used for various sensing applications in various types of garments and other wearable appliances and devices. The conductive elastic yarns can be used in both warp and weft directions in woven and knitted fabric constructions. The garments formed of the stretchable conductive fabric include various types of shirts, pants, tights, caps, shorts, socks and various other types of apparel. The stretchable conductive fabric may also be used to form a sleeve, a compression sock, or various bands or other appliances or devices worn on various locations on a wearer's body.」
([0021] 開示は、導電性の弾性糸及び各種の糸製造法を使用する、前記糸の製造に関する。導電性の弾性糸は、一以上の弾性繊維の導電性コア及び前記導電性コアを被覆する絶縁シースを含む。導電性の弾性糸は、各種のタイプの衣服並びに他の着用できる器具及び装置における各種のセンシング用途に使用される伸縮性、導電性の織物を製造するために使用される。導電性の弾性糸は、織られた又は編まれた織物構造体において、横糸及び縦糸の両方向で使用される。伸縮性、導電性の織物から形成された衣服としては、各種のシャツ、パンツ、タイツ、キャップ、ショーツ、ソックス及び他のタイプの服が含まれる。伸縮性、導電性の織物は、袖、圧迫靴下、又は各種のバンド、又は着用者の身体上の各種の位置で着用された他の器具若しくは装置を形成するためにも使用される。)
「[0022] The stretchable conductive fabric forms a sensing device and is coupled to appropriate electronics and may be used as an electrical sensor to measure or monitor various bodily functions, conditions and actions for various applications in the medical, orthopedic, athletic, and other fields.」
([0022] 伸縮性、導電性の織物は、センシング装置を形成し、適切な電子装置に結合され、医療、整形、スポーツ、及び他の分野において、各種の用途のために、身体の機能、状態及び活動を測定又はモニターするために、電気センサーとして使用される。)
(イ) [0082]~[0083]、Fig.7
「[0082] Produced is a novel product of a yarn with an elastic conductive core of one or more fibers, at least one of which is a conductive fiber and in which the conductive core is an elastic material and is covered with an insulating sheath such as described above. The core-spun/ring-spun yarns having the continuous conductive elastomeric core can be used for sensing and monitoring applications. The yarns may be used in the weft or warp direction to form various stretch fabrics such as denim fabrics. The stretch denim fabrics may be used to form various garments or other apparel to be worn on various body parts of a wearer.」
([0082] 一以上の繊維(その少なくとも一つは導電性の繊維である)の弾性の導電性コアを有する糸(導電性コアは弾性材料であり、上述のように絶縁シースで被覆されている)の新規な製品が製造される。連続した導電性のエラストマーコアを有するコア精紡/リング精紡された糸は、センシング及びモニタリングの用途に使用される。糸は、各種の伸縮性織物、例えば、デニム織物を形成するために、横糸又は縦糸方向で使用される。伸縮性のデニム織物は、各種の衣服又は着用者の各種の身体部位に着用される他のアパレルを形成するために使用される。)
「[0083] In one embodiment such as shown in FIG. 7, the garment is a pair of pants 70 formed of a fabric 72 formed of the conductive elastomeric yarns described herein. The pants 70 include at least a stretchable conductive portion 74 formed of the stretchable conductive yarn and in some embodiments, the entire garment is formed of a stretchable conductive portion 74. FIG. 7 also shows the stretchable conductive fabric forming a sensing device and coupled to electronic components 76. The coupling may be with a cable or wireless. Together with the electronic components 76, the stretchable conductive fabric 72 of pants 70 may be used as an electrical sensor to measure or monitor various bodily functions, conditions and actions for various applications as described herein. The sensing and monitoring may be based on changing physical characteristics of the stretchable conductive portion 74 of the garment 70 due to bending, stretching, etc., of the garment, due to movement of the wearer. Electronic components 76 may include or be connected to various suitable processors that carry out the various electrical functions described herein.」
([0083] 図7に示すような一具体例では、衣服は、ここに記載する導電性のエラストマー糸で形成された織物72から作製されたパンツ70である。パンツ70は、少なくとも、伸縮性の導電性糸から形成された伸縮性の導電性部分74を含み、いくつかの具体例では、衣服全体が、伸縮性の導電性部分74によって形成されている。図7は、また、センシング装置を形成し、電子部材76と組み合わされた伸縮性の導電性織物を示している。結合は、電線によるか、又はワイヤレスである。パンツ70の伸縮性の導電性織物72は、電子部材76とともに、ここに記載するように、各種の身体の機能、状態及び作用を測定又はモニターするために、電気センサーとして使用される。センシング及びモニタリングは、衣服の曲げ、延伸等による、着用者の動きによる、衣服70の伸縮性の導電性部分74の物理特性の変化に基づくものである。電子部材76は、ここに記載の各種の電気的機能を行う各種の好適なプロセッサーを含むか、又は接続される。)
「(Fig.7)
[図:0001429401000008.jpg]
」
ウ 周知技術1の認定
前記ア及びイに示した引用文献1及び引用文献12の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、本願の出願前に当業者にとって周知の技術であったと認められる。(以下「周知技術1」という。)
<周知技術1>
「柔軟性及び伸縮性を有し電気的な計測に用いられる導電性織物を、伸縮性を有する縦糸及び横糸を製織することにより形成すること。」
5 本願発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 構成Xの観点(接触圧力測定システム)
後記イにおいて説明するとおり、引用発明は、本願発明の「測定対象からの接触圧力に応じた電位を計測する電位計測装置」に相当する構成を含むから、「接触圧力測定システム」の発明である本願発明と「計測システム」の発明である引用発明は、構成Xの観点について、「接触圧力測定システム」の発明である点において一致する。
イ 構成Aの観点(電位計測装置)
(ア) 構成Aは、「測定対象からの接触圧力に応じた電位を計測する電位計測装置」を備えることである。
(イ) 引用発明は、「導電化ニットを顔面模型の表面に貼り付けた状態で、実際に圧力分布を計測した際の実験結果において、額の左、額の中央、額の右の3点をそれぞれ押した場合、…(中略)…明確に圧力点が検出できるものであ[る]」ところ、上記「圧力分布」は、「導電化ニットを顔面模型の表面に貼り付けた状態」において、外部から導電化ニットの各位置(圧力点)を押した場合に検出される圧力の分布であるといえる。
(ウ) また、引用発明において、「分布量センサ2は、分布体3と、電極と配線からなる構成4を有し、対象となる物理量の作用を受ける部位であ[る]」とともに、「分布体は、分布体に作用する物理量分布が変化すると、この導電体の電位分布が変化するような構造となって[いる]」から、「導電体の電位分布」は、「分布体に作用する物理量分布」に応じたものといえる。ここで、引用発明において、「分布量センサ2の実施例として、導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサがあ[る]」から、前記(イ)の検討も踏まえると、引用発明において、「分布量センサ2の実施例」である「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」が「受ける」「作用」としての「物理量」は、本願発明でいうところの「測定対象からの接触圧力」ということができる。
(エ) そして、引用発明の「電子装置部6」は、「導電体に発生する電位分布を電極4aを通じて計測する機能をも[つ]」から、引用発明の「分布量センサ2の実施例」である「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」及び「電子装置部6」は、これらを合わせて、本願発明の「測定対象からの接触圧力に応じた電位を計測する電位計測装置」に相当する。
(オ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Aの観点について、次の点において一致する。
「測定対象からの接触圧力に応じた電位を計測する電位計測装置」を備える点。
ウ 構成Bの観点(電位圧力変換装置)
(ア) 構成Bは、「前記電位計測装置と通信可能な電位圧力変換装置」を備えることである。
(イ) 引用発明においては、「電子装置部6が収集した計測データなどは、通信などを介して推定計算を行う計算機部7に渡され、」「計算機部7で実行される推定手順からなる推定プログラムは、これらの計測データなどをもとに対象物理量分布を推定計算するものであ[る]」。
ここで、前記イ(ウ)の検討を踏まえると、引用発明における「計測データ」は、「導電体に発生する電位分布」であり、引用発明の「対象物理量分布」は「圧力分布」であるから、引用発明の「計算機部7」は、電位を圧力に変換するものといえ、本願発明の「電位圧力変換装置」に相当する。
(ウ) そして、引用発明においては、「電子装置部6が収集した計測データなどは、通信などを介して推定計算を行う計算機部7に渡され[る]」から、「計算機部7」が「電子装置部6」(「分布量センサ2の実施例」である「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」と合わせて、本願発明の「電位計測装置」に相当する。)と通信可能であることは明らかである。
(エ) したがって、本願発明と引用発明は、構成Bの観点について、次の点において一致する。
「前記電位計測装置と通信可能な電位圧力変換装置」を備える点。
エ 構成A1の観点(接触圧力センサ)
(ア) 構成A1は、「前記電位計測装置は、」「導電性被膜で覆われた導電性繊維であるたて糸及びよこ糸を前記たて糸と前記よこ糸との間に空隙を設けるように交錯させ平面状に織られた電気抵抗テキスタイルと前記電気抵抗テキスタイルの両端に電気的に接続された電位計測用電極を備える接触圧力センサ」を備えることである。
(イ) 引用発明は、「導電性繊維を用いて導電性ニットを作ることでも、導電化ニットを作成することが可能であり、この導電性繊維には、金属メッキ(銀、銅、ニッケル、金など)された化学繊維(ポリエステルやナイロン他)などを用いても良[い]」ものであるところ、引用発明の「金属メッキ(銀、銅、ニッケル、金など)された化学繊維(ポリエステルやナイロン他)などを用い[た]」「導電性繊維」は、本願発明の「導電性被膜で覆われた導電性繊維」に相当する。
そして、引用発明の「導電化ニット」は、「ニット生地の編み目は平編みなど様々なものが利用でき[る]」ものであり、ニット生地の柔軟性や伸縮性を考慮すれば、ニット生地を構成する繊維同士の間に空隙が形成されることは明らかであるから、本願発明の「導電性被膜で覆われた導電性繊維であるたて糸及びよこ糸を前記たて糸と前記よこ糸との間に空隙を設けるように交錯させ平面状に織られた電気抵抗テキスタイル」と、「導電性被膜で覆われた導電性繊維同士の間に空隙を設けるように交錯させ平面状に形成された電気抵抗テキスタイル」である点で共通する。
(ウ) また、引用発明の「導電化ニットの周辺に」「その周囲に沿って設置されて[いる]」「複数の電極」は、本願発明の「前記電気抵抗テキスタイルの両端に電気的に接続された電位計測用電極」に相当する。
(エ) そして、引用発明において、「分布量センサ2は、分布体3と、電極と配線からなる構成4を有し、」「分布量センサ2の実施例として、導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサがあ[る]」から、引用発明の「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」は、「導電化ニット」及び「複数の電極」を含むものといえ、本願発明の「接触圧力センサ」に相当する。
(オ) 以上の検討結果を踏まえると、本願発明と引用発明の構成A1の観点における一致点及び相違点は、次のa及びbのとおりである。
a 構成A1の観点における一致点
「前記電位計測装置」は、「導電性被膜で覆われた導電性繊維同士の間に空隙を設けるように交錯させ平面状に形成された電気抵抗テキスタイルと前記電気抵抗テキスタイルの両端に電気的に接続された電位計測用電極を備える接触圧力センサ」を備える点。
b 構成A1の観点における相違点
「電気抵抗テキスタイル」について、
本願発明においては、「導電性繊維」が「たて糸及びよこ糸」の関係となるように交錯させ、「前記たて糸と前記よこ糸との間に」空隙を設けるように交錯させて「織られた」ものであるのに対して、
引用発明においては、「編み目」として「平編みなど様々なものが利用でき[る]」「ニット生地」であって、導電性ニットを構成する導電性繊維がたて糸及びよこ糸の関係を有するものか明らかでない点。
オ 構成A2の観点(電位計測器)
(ア) 構成A2は、「前記電位計測装置は、」「前記電位計測用電極と接続した電位計測器」を備えることである。
(イ) 引用発明の「電子装置部6」は、「導電体に発生する電位分布を電極4aを通じて計測する機能をも[つ]」から、「電位計測器」ということができるものである。
そして、前記エ(エ)の検討を踏まえると、引用発明の「電極4a」は、「導電化ニットを用いた複雑曲面上の圧力分布センサ」における「複数の電極」であるから、引用発明の「電極4a」が「配線4bを通じて」「接続されて[いる]」「電子装置部6」は、本願発明の「前記電位計測用電極と接続した電位計測器」に相当する。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、構成A2の観点について、次の点において一致する。
「前記電位計測装置」は、「前記電位計測用電極と接続した電位計測器」」を備える点。
カ 構成A3の観点(送信器)
(ア) 構成A3は、「前記電位計測装置は、」「前記電位計測器からの信号を送信する送信器」を備えることである。
(イ) 引用発明においては、「電子装置部6が収集した計測データなどは、通信などを介して推定計算を行う計算機部7に渡され[る]」から、「電子装置部6」が本願発明の「前記電位計測器からの信号を送信する送信器」に相当する構成を有することは明らかである。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、構成A3の観点について、次の点において一致する。
「前記電位計測装置」は、「前記電位計測器からの信号を送信する送信器」を備える点。
キ 構成Cの観点(接触圧力センサの作用)
(ア) 構成Cは、「前記測定対象と、利用者の人体表面との間に前記接触圧力センサを配置し、前記たて糸及び前記よこ糸が同時に前記測定対象から面単位で荷重を受け圧縮されると、前記たて糸と前記よこ糸との間に設けられた前記空隙が減少し、前記電気抵抗テキスタイル全体の沈み込み量に応じて、前記電気抵抗テキスタイルの電気抵抗値が下が[る]」ことである。
(イ) 引用発明は、本願発明の構成Cに相当する構成を備えるか明らかでないから、本願発明と引用発明は、構成Cの観点について、次の点において相違する。
<構成Cの観点における相違点>
本願発明においては、「前記測定対象と、利用者の人体表面との間に前記接触圧力センサを配置し、前記たて糸及び前記よこ糸が同時に前記測定対象から面単位で荷重を受け圧縮されると、前記たて糸と前記よこ糸との間に設けられた前記空隙が減少し、前記電気抵抗テキスタイル全体の沈み込み量に応じて、前記電気抵抗テキスタイルの電気抵抗値が下が[る]」ものであるのに対して、
引用発明においては、そのような作用を奏するものか明らかでない点。
ク 構成B1の観点(受信器)
(ア) 構成B1は、「前記電位圧力変換装置は、」「前記送信器からの信号を受信する受信器」を備えることである。
(イ) 前記ウ(イ)において検討したとおり、引用発明の「計算機部7」は、本願発明の「電位圧力変換装置」に相当する。
そして、引用発明においては、「電子装置部6が収集した計測データなどは、通信などを介して推定計算を行う計算機部7に渡され[る]」から、引用発明の「計算機部7」が本願発明の「前記送信器からの信号を受信する受信器」に相当する構成を有することは明らかである。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、構成B1の観点について、次の点において一致する。
「前記電位圧力変換装置」は、「前記送信器からの信号を受信する受信器」を備える点。
ケ 構成B2の観点(変換部)
(ア) 構成B2は、「前記電位圧力変換装置は、」「前記受信器からの信号を圧力に変換する変換部」を備えることである。
(イ) 前記ウ(イ)及びク(イ)の検討を踏まえると、引用発明は、本願発明の「前記電位圧力変換装置は、」「前記受信器からの信号を圧力に変換する変換部」を備えることに相当する構成を有する。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、構成B2の観点について、次の点において一致する。
「前記電位圧力変換装置」は、「前記受信器からの信号を圧力に変換する変換部」を備える点。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明の一致点及び相違点は、それぞれ次のア及びイに示すとおりである。
ア 一致点
「測定対象からの接触圧力に応じた電位を計測する電位計測装置と、前記電位計測装置と通信可能な電位圧力変換装置を備える接触圧力測定システムであって、
前記電位計測装置は、導電性被膜で覆われた導電性繊維同士の間に空隙を設けるように交錯させ平面状に形成された電気抵抗テキスタイルと前記電気抵抗テキスタイルの両端に電気的に接続された電位計測用電極を備える接触圧力センサと、前記電位計測用電極と接続した電位計測器と、前記電位計測器からの信号を送信する送信器を備え、
前記電位圧力変換装置は、前記送信器からの信号を受信する受信器と、前記受信器からの信号を圧力に変換する変換部を備える接触圧力測定システム」の発明である点。
イ 相違点
「電気抵抗テキスタイル」について、
本願発明においては、「導電性繊維」が「たて糸及びよこ糸」の関係となるように交錯させ、「前記たて糸と前記よこ糸との間に」空隙を設けるように交錯させて「織られた」ものであるのに対して、
引用発明においては、「編み目」として「平編みなど様々なものが利用でき[る]」「ニット生地」であって、導電性ニットを構成する導電性繊維がたて糸及びよこ糸の関係を有するものか明らかでなく、
本願発明においては、「前記測定対象と、利用者の人体表面との間に前記接触圧力センサを配置し、前記たて糸及び前記よこ糸が同時に前記測定対象から面単位で荷重を受け圧縮されると、前記たて糸と前記よこ糸との間に設けられた前記空隙が減少し、前記電気抵抗テキスタイル全体の沈み込み量に応じて、前記電気抵抗テキスタイルの電気抵抗値が下が[る]」ものであるのに対して、
引用発明においては、そのような作用を奏するものか明らかでない点。
6 判断
(1) 電気抵抗テキスタイルの抵抗値が低下する作用機序について
ア(ア) 引用発明は、「導電化ニットの周辺に」「その周囲に沿って複数の電極が設置されて[いる]」「圧力分布センサ」を含むものであるから、「導電化ニット」の外部にある測定対象と、利用者の人体表面との間に当該圧力分布センサを配置し、導電化ニットにおける互いに交錯する導電性繊維が同時に前記測定対象から面単位で荷重を受け圧縮されるような使用方法にも用いることが可能なものであることは明らかである。
(イ) ここで、本願発明は、「接触圧力測定システム」という物の発明であるところ、「前記測定対象と、利用者の人体表面との間に前記接触圧力センサを配置し、前記たて糸及び前記よこ糸が同時に前記測定対象から面単位で荷重を受け圧縮されると」との特定は、「前記たて糸と前記よこ糸との間に設けられた前記空隙が減少し、前記電気抵抗テキスタイル全体の沈み込み量に応じて、前記電気抵抗テキスタイルの電気抵抗値が下がり」との作用が奏される場合の条件(使用方法)を規定したものであって、そのような使用方法に用いることが可能なものであれば足りると解される。
イ そして、引用発明の「導電化ニット」は、「面方向の圧力を受けると、水平方向の抵抗率が下がる、という特性を持っており、これは、圧力により、その周辺の繊維の密度が高まるために導電率が高まるためだと考えられる」ものであるから、引用発明の「圧力分布センサ」を前記ア(ア)に示したような使用方法に用いた場合に、互いに交錯する導電性繊維の間に設けられた空隙が減少し、前記導電化ニット全体の沈み込み量に応じて、前記導電化ニットの電気抵抗値が下がることは、当業者にとって自明といえる。
そうすると、互いに交錯する導電性繊維がたて糸及びよこ糸の関係にあるか明らかでない点を除けば、引用発明は、本願発明と同様の作用機序により電気抵抗テキスタイル(導電化ニット)の電気抵抗値が低下するものであると認められる。
ウ したがって、前記相違点のうち、電気抵抗テキスタイルの抵抗値が低下する作用機序に係る部分については、互いに交錯する導電性繊維がたて糸及びよこ糸の関係にあるか明らかでない点を除けば、本願発明と引用発明に実質的な差異はない。
(2) 電気抵抗テキスタイルの構成について
ア 前記4(2)ウにおいて周知技術1として認定したとおり、次の技術事項は、本願の出願前に当業者にとって周知の技術であった。
「柔軟性及び伸縮性を有し電気的な計測に用いられる導電性織物を、伸縮性を有する縦糸及び横糸を製織することにより形成すること。」
イ そして、引用発明の「導電化ニット」と周知技術1における「導電性織物」は、柔軟性及び伸縮性を有する導電性布状体である点で共通し、電気的な計測に用いられるものである点でも共通するから、引用発明の「計測システム」において、導電性被膜で覆われた導電性繊維を用いて形成された導電性布状体である「導電化ニット」に対して、周知技術1における、伸縮性を有する縦糸及び横糸を製織した構成(たて糸及びよこ糸を所定の規則に従って交錯させる構成)を適用することは、当業者が容易に想到し得たことである。
(3) 総合評価
前記(1)及び(2)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
7 請求人の主張について
(1) 請求人の主張内容
請求人は、令和7年4月17日に提出した意見書において、概略、次のア~ウの主張をしている。
ア(ア) 引用発明の導電化ニットは、ニット生地の縦方向と横方向で電気抵抗率の変化に異方性があり、圧力センサからの信号をキャリブレーションする際に煩雑になるのに対して、本願発明の電気抵抗テキスタイルは、たて糸及びよこ糸を交錯させ平面状に織られたものであるから、異方性が無い点に留意すべきである。
(イ) 引用発明に引用文献1に記載された技術事項等を組み合わせても、利用者が活動範囲を制限されることなく、例えば利用者が運動している最中に運動用タイツと人体表面の接触圧力を測定できるという本願発明特有の作用効果を有しない。
イ 引用文献1に記載された導電性織物でも、たて糸とよこ糸が用いられているが、一本の混紡糸の中に、非導電繊維も混ぜ合わせた構造であり、混紡糸の外周に非導電繊維が露出している場合があり得るため、たて糸の非導電繊維部分とよこ糸の非導電繊維部分が接触する場合もあり得、この場合、センサ面に垂直な接触圧力が加わっても電気抵抗率の変化は小さくなると想定されるため、引用文献1に記載された導電性織物は接触圧力測定に適さない。
ウ 引用文献1は張力センサであるのに対して、引用発明は圧力センサであるから、引用文献1の張力センサと引用発明の圧力センサは、測定の目的が異なり、目的の異なる引用文献1に記載された技術事項を引用発明に組み合わせることについて動機づけが無い。
(2) 請求人の主張についての検討
ア 請求人は、前記(1)アにおいて、本願発明特有の効果について主張するが、いずれも当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果とは認められない。特に、前記(1)ア(イ)に示した主張に係る作用効果は、引用発明の「導電化ニット」も、運動用タイツと人体表面の間に配置して接触圧力の測定に使用することが可能なものであることは明らかであるから、本願発明に特有の効果ということはできない。
イ また、前記(1)イの主張についても、導電性被膜で覆われた導電性繊維自体は、引用発明の「導電化ニット」が有する構成であって、当該「導電化ニット」に対して、引用文献1等に例示される周知技術1における、伸縮性を有する縦糸及び横糸を製織した構成を適用することにより、前記相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。そして、引用文献1に記載された導電性織物が、一本の混紡糸の中に非導電繊維も混ぜ合わせた構造であることは、上記の判断を左右しない。
ウ さらに、前記(1)ウの主張に関して、引用発明の「導電化ニット」と周知技術1における「導電性織物」は、柔軟性及び伸縮性を有する導電性布状体である点で共通し、電気的な計測に用いられるものである点でも共通するから、引用発明に対して周知技術1の構成を適用する動機付けは存在するというべきである。
エ 以上のとおり、前記(1)に示した請求人の主張はいずれも採用できない。
8 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-021016