特許拒絶査定不服審判
2023-020396
磁気弾性体に加えられるトルクを測定する方法
- 審判番号
- 2023-020396
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-137322
- 請求日
- 2023年12月01日
- 審決日
- 2026年02月12日
- 公報発行日
- 2026年07月31日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】メソード・エレクトロニクス・マルタ・リミテッド
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】宮崎 修
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 谷垣 圭二
- 審判官 柳 重幸
- 分類
- P18 .121-WZ (G01L) / P18 .536-WZ (G01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-137322「磁気弾性体に加えられるトルクを測定する方法」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 3月 1日出願公開、特開2021- 32895〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
1 手続の経緯
本願は、令和2年8月17日の外国語書面出願(パリ条約による優先権主張、2019年8月20日、ドイツ)であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和2年 9月14日 :翻訳文の提出
令和3年10月 1日付け:拒絶理由通知書
令和4年 4月 7日 :意見書、手続補正書の提出
同年 7月 1日付け:拒絶理由通知書(最後)
令和5年 1月11日 :意見書、手続補正書の提出
同月12日付け:却下理由通知書
同年 7月26日付け:手続却下の処分(同年1月11日提出の
手続補正書の却下)
同月28日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年 8月 4日 :原査定の謄本の送達
同年12月 1日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和7年 1月23日付け:拒絶理由通知書
同年 7月24日 :意見書、手続補正書の提出
以下、2019年8月20日を「優先日」という。
2 本願発明について
(1) 本願発明の認定
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和7年7月24に提出された手続補正書により補正された請求項1に記載された次に示す事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
磁気弾性センサ(18)を利用することにより、磁気弾性体(6)に加えられる応力を測定し、同時に、前記磁気弾性体(6)に影響を及ぼす潜在的な外部磁場(19,20)を検出し、測定した応力に、前記潜在的な外部磁場(19,20)による非応力関連影響(non-stress related influence)を振り当てるための方法であって、
磁気配向が互いに逆である少なくとも2つの磁気ゾーン(3,7)を前記磁気弾性体(6)に対して利用する工程と、
少なくとも1つの第1のチャンネル(1)及び少なくとも1つの第2のチャンネル(2)を備える少なくとも1つのセンサ(18)を準備する工程であって、
前記第1のチャンネル(1)及び前記第2のチャンネル(2)は、それぞれ少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)を備え、両コイル(8,9,8’,9’)は、前記磁気弾性体(6)の円筒形の軸方向に沿って配列され、
前記少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)はそれぞれ、前記磁気弾性体(6)の前記磁気ゾーン(3,7)に隣接して配置され、
前記第1のチャンネル(1)及び前記第2のチャンネル(2)は異なる感度を有する、工程と、
前記第1のチャンネル(1)を同相除去チャンネル(common mode rejection channel)として設定する工程と、
前記第2のチャンネル(2)を同相受入チャンネル(common mode acceptance channel)として設定する工程と、
前記磁気ゾーン(3,7)を読み取る工程と、
前記磁気弾性体(6)の前記磁気ゾーン(3,7)に加えられた応力の大きさを、前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)から前記2つのコイルの間にある中央タップ(CT)に流れ込む電流を測定することにより測定する工程と、
前記外部磁場(19,20)の影響を、前記第2のチャンネル(2)の前記少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)の一方から他方へ前記中央タップ(CT)を介して流れる電流を測定することにより検出する工程と、
前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値を設定する工程であって、前記閾値は、前記外部磁場(19,20)の関連性を判定するための境界又は基準である、工程と
を含み、
前記潜在的な外部磁場(19,20)による非応力関連影響(non-stress related influence)は、前記第1のチャンネル(1)と前記第2のチャンネル(2)の前記外部磁場に対する感度の差に対応する利得差を、前記検出する工程において検出された前記外部磁場の影響に適用することにより得られる、応力測定方法。」
(2) 本願発明の分説
検討の便宜上、本願発明の構成を次のように構成Xと構成Aから構成Lまでに分説する。また、参考図として、本願の【図5】を掲載する。
<本願発明の分説>
X 磁気弾性センサ(18)を利用することにより、磁気弾性体(6)に加えられる応力を測定し、同時に、前記磁気弾性体(6)に影響を及ぼす潜在的な外部磁場(19,20)を検出し、測定した応力に、前記潜在的な外部磁場(19,20)による非応力関連影響(non-stress related influence)を振り当てるための方法であって、
A 磁気配向が互いに逆である少なくとも2つの磁気ゾーン(3,7)を前記磁気弾性体(6)に対して利用する工程と、
B 少なくとも1つの第1のチャンネル(1)及び少なくとも1つの第2のチャンネル(2)を備える少なくとも1つのセンサ(18)を準備する工程であって、
C 前記第1のチャンネル(1)及び前記第2のチャンネル(2)は、それぞれ少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)を備え、両コイル(8,9,8’,9’)は、前記磁気弾性体(6)の円筒形の軸方向に沿って配列され、
D 前記少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)はそれぞれ、前記磁気弾性体(6)の前記磁気ゾーン(3,7)に隣接して配置され、
E 前記第1のチャンネル(1)及び前記第2のチャンネル(2)は異なる感度を有する、工程と、
F 前記第1のチャンネル(1)を同相除去チャンネル(common mode rejection channel)として設定する工程と、
G 前記第2のチャンネル(2)を同相受入チャンネル(common mode acceptance channel)として設定する工程と、
H 前記磁気ゾーン(3,7)を読み取る工程と、
I 前記磁気弾性体(6)の前記磁気ゾーン(3,7)に加えられた応力の大きさを、前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)から前記2つのコイルの間にある中央タップ(CT)に流れ込む電流を測定することにより測定する工程と、
J 前記外部磁場(19,20)の影響を、前記第2のチャンネル(2)の前記少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)の一方から他方へ前記中央タップ(CT)を介して流れる電流を測定することにより検出する工程と、
K 前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値を設定する工程であって、前記閾値は、前記外部磁場(19,20)の関連性を判定するための境界又は基準である、工程と
を含み、
L 前記潜在的な外部磁場(19,20)による非応力関連影響(non-stress related influence)は、前記第1のチャンネル(1)と前記第2のチャンネル(2)の前記外部磁場に対する感度の差に対応する利得差を、前記検出する工程において検出された前記外部磁場の影響に適用することにより得られる、
X 応力測定方法。
<参考図>
【図5】
[図:0001436485000001.jpg]
(3) 本願発明に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気弾性体に加えられる応力を測定し、同時に、磁気弾性感知に影響を及ぼす潜在的な外部磁場を検出するための方法に関する。また、この方法は、潜在的な外部磁場による磁気弾性感知に対する非応力関連影響(non-stress related influence)を振り当てるのに有用である。」
「【0009】
従来技術から公知である方法は、トルク感知装置に加えられるトルクの量を測定し、この方法は、磁場変換器に対して磁気弾性トルクを付与する工程を含む。ここで重要なのは、同変換器が、第1の磁気的に調整された領域及び第2の逆極性の磁気的に調整された領域を有する点である。
【0010】
これにより、第1の磁場センサは、第1の磁気的に調整された領域に隣接して配置され、第1の磁場センサは、感度方向を有する。
【0011】
第2の磁場センサは、第2の磁気的に調整された領域に近接して配置され、第2の磁場センサは、感度方向を有する。
【0012】
第1及び第2の磁場センサを第1の接続状態に設定することにより、第1及び第2の磁場センサの上記感度方向は、互いに対向して配置される。したがって、第1の出力信号が、第1の接続状態にある第1及び第2の磁場センサから受信される(同相除去。差動モードとも称する。以下においては、同相除去と称する。)
【0013】
上記切替機能は、第1及び第2の磁場センサを第2の接続状態に再設定し、これにより、第1及び第2の磁場センサの感度方向は同一となる(同相受入)。
【0014】
第2の接続状態においては、第2の出力信号が、第1及び第2の磁場センサから受信される。
【0015】
回転シャフトに加えられる応力は、第1及び第2の出力信号に基づいて測定される。
【0016】
このような複雑な方法は、同方法では同相受入から同相除去への移行が必要であるという難点をもたらす。この移行は、コイルの感度方向を同相受入から同相除去に切り替えることによって行われる。
【0017】
同相受入から同相除去への移行を容易にするスイッチが存在する。起動時、これらのスイッチは、コイルの感度方向を有効に反転させる。これは、応力感知装置の適切な機能を保証するのに有用である。
【0018】
切替の実行は時間を要し、切替が行われた後でしか、信頼性のある読み取り結果を再び得ることができない。切替期間はわずか数分の1秒であり得るものの、これは、この切替期間の間、上記方法及び装置全体は、いかなる結果ももたらすことができない、すなわち、上記方法及び装置は、比喩的に言えば「盲目(blind)」であることを意味する。したがって、センサシステムが上記同相受入から同相除去に切り替えられるか、あるいはその逆が行われる際、チャンネル1及び関連コイルは、完全に「盲目」である。この期間に収集されたかもしれない情報は、確実に失われる。
【0019】
従来技術から公知である、磁気弾性体に加えられた応力を測定する方法は、通常、多数の個別の磁場センサを使用する。これらのセンサは、応力誘起信号の測定に適している。
【0020】
加えて、上記公知の応力測定方法は、コイルの多重化並びに上記同相受入及び上記同相除去間の切替を用いる。しかし、センサコイルの多重化は、信号帯域の観点で、センサシステムを比較的低速化させる。
【0021】
磁場の影響の排除に関する従来技術の更なる1つの影響は、この排除処理を行うことにより、ある程度自動的に、応力測定の感度もまた高い値に低下し、上記方法及び装置全体が、しばしば、かなり不正確となるということである。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、本発明は、これらの難点及び上述の欠点を回避することを目的とする。
【0026】
本発明の1つの目的は、上記のデュアルデュアルバンド技術と同程度に正確でかつ信頼できるものでありながらも、限られた空間での使用により適した方法及び装置を実現する
ことである。
【0027】
本発明は、外部磁場並びに応力及び/又は磁気弾性体に加えられる応力の存在及び影響を測定し検出する方法を実施する際に、一時的な「盲目性」の状況を回避することを目的とする。」
「【0041】
本発明によれば、検出された外部磁場の結果は、測定された応力の結果に振り当てられる。また、測定された応力のある特定の結果が外部磁場に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値が規定される。この閾値は、外部磁場の関連性を判定するための境界又は基準とも称される場合もある。
【0042】
この技術の適用者は、磁気弾性体に加えられたかあるいは加えられていないトルク及び/又は応力の測定結果に影響を及ぼす外部磁場の関連性を判定するための自らの、例えば、経験的に評価された境界又は基準を調整してもよい。測定されたトルク及び/又は応力の結果に対する検出された外部磁場の結果のこの振り当てを規定し、当該境界又は基準を規定することにより、本技術の適用者、例えば、ペデレックの製造者は、検出された外部磁場のある特定の結果が磁気弾性体に加えられたトルク及び/又は応力に帰せられるべきか、あるいは外部磁場の非応力要因に帰せられるべきかを事前に判定することができる。」
3 当審において通知した拒絶の理由の概要
当審において令和7年1月23日付けで通知した拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由1(実施可能要件違反)及び理由3(進歩性欠如)の概要は、次のとおりである。
理由1(実施可能要件違反)
本願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
記
請求項1に係る発明は「前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値」が設定されることを含むところ、発明の詳細な説明においては、前記「閾値」である「境界又は基準」について、「経験的に評価された」ものであると述べられているが、具体的にどのような「経験」をどのように「評価」して閾値となる「境界又は基準」を設定するのかは不明であるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、請求項1について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
理由3(進歩性欠如)
本願発明は、本願の優先日前に日本国内又は外国において発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献2:特開2013-137302号公報
4 実施可能要件違反についての当合議体の判断
(1) 「閾値」の「設定」について
ア 本願発明における「閾値」
本願発明は「前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値」が設定されることを含むものである。
イ 発明の詳細な説明の記載
前記「閾値」について、本願明細書の発明の詳細な説明(段落【0041】~【0044】)においては、以下のように記載されている。
「【0041】
本発明によれば、検出された外部磁場の結果は、測定された応力の結果に振り当てられる。また、測定された応力のある特定の結果が外部磁場に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値が規定される。この閾値は、外部磁場の関連性を判定するための境界又は基準とも称される場合もある。
【0042】
この技術の適用者は、磁気弾性体に加えられたかあるいは加えられていないトルク及び/又は応力の測定結果に影響を及ぼす外部磁場の関連性を判定するための自らの、例えば、経験的に評価された境界又は基準を調整してもよい。測定されたトルク及び/又は応力の結果に対する検出された外部磁場の結果のこの振り当てを規定し、当該境界又は基準を規定することにより、本技術の適用者、例えば、ペデレックの製造者は、検出された外部磁場のある特定の結果が磁気弾性体に加えられたトルク及び/又は応力に帰せられるべきか、あるいは外部磁場の非応力要因に帰せられるべきかを事前に判定することができる。
【0043】
したがって、本発明によれば、方法が実行され、磁気弾性体に関するトルク及び/又は応力の同時測定に対して外部磁場の存在及び影響を振り当てることができるセンサを備える装置が提供される。特に、本発明によれば、外部磁場の存在の検出の結果は、磁気弾性体に加えられたトルク及び/又は応力の存在又は非存在の同時測定の結果と互いに関連付けられる。
【0044】
更に特には、本発明は、閾値を振り当てる可能性を上記装置の使用者及び上記方法の適用者に提供するものであり、この閾値に従って、外部磁場並びに磁気弾性体に加えられたトルク及び/又は応力の存在及び影響の測定及び検出の特定の過剰な又は不足した結果を、特定の使用分野におけるニーズに応じて、更なる工程のために個別設定するか、組み込むか、あるいは除外することができる。」(下線は当合議体による。以下同様である。)
ウ 「閾値」の「設定」の方法
前記イに摘記したように、発明の詳細な説明においては前記「閾値」である「境界又は基準」について「経験的に評価された」ものであると述べられているが、具体的にどのような「経験」をどのように「評価」して閾値となる「境界又は基準」を設定するのかは不明である。
また、発明の詳細な説明におけるほかの記載を含め検討しても、本願発明の閾値をどのようにして設定できるのかを当業者が理解するために必要な事項が記載されているとはいえない。
エ まとめ
以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。
(2) 請求人の主張について
ア 請求人の主張の概要
請求人は、令和7年7月24に提出された手続補正書により、補正前の本願請求項1の
「前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値を設定する工程であって、前記閾値は、前記外部磁場(19,20)の関連性を判定するための経験的に評価された境界又は基準である、工程」
の記載から、「経験的に評価された」の記載を削除し、
「前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値を設定する工程であって、前記閾値は、前記外部磁場(19,20)の関連性を判定するための境界又は基準である、工程」(下線は補正箇所)
と補正した上で、同日に提出された意見書の「4.拒絶理由に対して」「(1)理由1について」において、
「補正後の請求項1は、拒絶理由通知書において指摘された「経験的に評価された」という記載を含みません。他の請求項も同様です。
よって、上記理由1には該当しないものと思料いたします。」
と主張する。
イ 請求人の主張に対する当合議体の判断
請求人は請求項1の記載から「経験的に評価された」の記載を削除したことにより、前記実施可能要件違反の理由は解消された旨を主張している。
しかしながら、前記(1)において説示したように、本願発明の「閾値」の「設定」に関して、本願明細書の発明の詳細な説明では、前記「閾値」である「境界又は基準」について「経験的に評価された」ものであると述べられているのみであって、具体的にどのような「経験」をどのように「評価」して閾値となる「境界又は基準」を設定するのか不明であり、また、発明の詳細な説明におけるほかの記載を含め検討しても、本願発明の閾値をどのようにして設定できるのかを当業者が理解するために必要な事項が記載されているとはいえない。
すなわち、本願の発明の詳細な説明の記載全体をみても、本願発明の前記閾値をどのようにして設定できるのかが不明確であり、この不明確性は単に「経験的に評価された」との記載のみに由来するものではない。
そうすると、請求項から「経験的に評価された」の記載を削除したところで、上記「閾値」の「設定」に係る実施可能要件違反の理由が解消されるものでないことは明白といえる。
したがって、請求人の上記主張によっても、前記(1)において説示した判断は左右されない。
5 進歩性欠如についての当合議体の判断
(1) 引用文献2の記載事項
当審において通知した拒絶の理由において引用され、本願の優先日前に発行された文献である特開2013-137302号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(2)の引用発明の認定に用いる記載に下線を付した。)。
ア 【請求項20】
「【請求項20】
トルク感知装置に加えられるトルクの量を決定するための方法であって:
第1の磁気的に調整された領域、および第2の、反対に分極された、磁気的に調整された領域を有する磁気弾性トルク-磁場変換器を提供するステップと;
第1の磁気的に調整された領域に隣接して位置決めされた第1の磁場センサを提供するステップであって、第1の磁場センサは、感知方向を有する、ステップと;
第2の磁気的に調整された領域に隣接して位置決めされた第2の磁場センサを提供するステップであって、第2の磁場センサは、感知方向を有する、ステップと;
第1および第2の磁場センサの感知方向が互いに反対である第1の接続状態で、第1および第2の磁場センサを設定するステップと;
第1の接続状態で第1および第2の磁場センサの各々から第1の出力信号を得るステップと;
第1および第2の磁場センサの感知方向が一様である第2の接続状態で、第1および第2の磁場センサをスイッチング機能に再設定させるステップと;
第2の接続状態で第1および第2の磁場センサの各々から第2の出力信号を得るステップと;
第1および第2の出力信号に基づき、トルク感知装置に加えられるトルクを計算するステップと;
を具備することを特徴とする方法。」
イ 段落【0030】~【0033】、【図1】
「【0030】
図1を先ず見ると、ここで示されるのは、本発明のトルク感知装置100の“デュアルバンド(dual-band)”実施形態に従う、円筒シャフト110の側面図である。シャフト110は、その中央縦軸に対して回転可能でもよく、または固定されてもよい。シャフト110の一部に加えられるトルクは故に、シャフト110の別の部分に伝えられ、トルクを加えることにより、いくつかの役立つ作業を実行することになる。シャフト110の動作、即ち加えられるトルク110は、シャフト110の端部を見て、時計回りかまたは反時計回りの方向でもよく、シャフト110を組込む機械の種類に依存して、何れか一方かまたは両方の方向でもよい。
【0031】
シャフト110は、完全に中身が詰まっていてもよく、または部分的に中空でもよい。シャフト110は、均質材料で形成されてもよく、または材料の混合で形成されてもよい。シャフト110は、磁気弾性活性領域140であるか、または少なくとも含み、それによりシャフトは、磁気弾性トルク‐磁場変換器の機能を果たすことができる。磁気弾性活性領域140は、シャフト110の全体に均質な部分でもよく、またはシャフト110に堅固に取り付けられたリング若しくは環に含まれてもよい。Garshelis’605特許は、本発明に適用可能な、磁気弾性活性領域140をシャフトに提供する方法を開示する。
【0032】
磁気弾性活性領域140を形成するために選択される材料は、磁気弾性活性領域140に残留磁化を少なくとも形成するための磁区の存在を保証するために、少なくとも強磁性体でなければならず、また磁気弾性活性領域140での磁力線の配向が、加えられたトルクに関連付けられる応力によって変化しうるように、磁気制限的(magnetorestictive)でなければならない。
【0033】
磁気弾性活性領域140は、少なくとも2つの軸方向で区別される、反対方向に分極された、磁気的に調整された領域142、144を含み、トルク感知装置100の磁気弾性活性領域140を定義する。磁気的に調整された領域142、144は、任意の効果的方法によって反対の円周方向で磁気的に分極され、その方法のいくつかは、Garshelis’059特許で開示される。好ましくは、磁気的に調整された領域142、144の円周上の分極により、シャフト110に加えられるトルクが無い場合(休止状態)、磁気的に調整された領域142、144は、軸方向または半径方向に正味の磁化成分を有さない。図1の矢印A、Bは、トルク感知装置100が休止状態の時、磁気的に調整された領域142、144の分極の例示的な方向を示す。」
「【図1】
[図:0001436485000002.jpg]
」
ウ 段落【0034】~【0038】、【図2】
「【0034】
図2は、トルクがシャフト110に加えられている状態における、トルク感知装置100を示す。トルク感知装置100の構成および処理(process)により、特に磁気弾性活性領域140の磁気弾性的性質により、シャフト110に対してねじり応力を加えることで、磁気弾性活性領域140は、磁気的に調整された領域142、144で分極された磁化の再配向をもたらし、それにより磁区は、主応力軸に整列する。即ち、トルクがシャフト110に加えられる時、磁気的に調整された領域142、144は、半径方向または軸方向または両方でトルクにより誘発された磁化成分を示しうる。特に重要な点として、半径および軸の成分の両方の大きさは、シャフト110に加えられたトルクに完全に依存し、一方で半径および軸成分の両方のフラックス方向、即ち極性は、トルクがシャフト110に加えられる方向に依存する。磁気的に調整された領域142、144の各々から発する、トルクにより誘発された磁場は、等しい大きさであるが互いに反対の極性であるように、磁気弾性活性領域140が構成および処理される。図2の矢印A、Bは、トルクがシャフト110に加えられる時、磁気的に調整された領域142、144における磁化の再配向を示す。図2はまた、シャフト110に加えられたトルクがもたらす外部磁束を示し、外部磁束は、半径成分206および軸成分208に関して説明されうる。
【0035】
図1および2を続けて参照すると、磁場センサ152、154は、軸方向に整列し、磁気的に調整された領域142、144に各々隣接して位置付けられる。各個々の磁場センサ152、154は、個々の磁気的に調整された領域142、144に対応する。磁場センサ152、154は、休止時の円周方向から通常のらせん方向への分極された磁化の再配向の結果として、磁気的に調整された領域142、144周りの空間で発生する軸および/または半径のフィールド成分の大きさおよび極性を感知するように配向される。磁場センサ152、154は、シャフト110に加えられたトルクの大きさを反映する信号出力を提供する。磁場センサは好ましくは、ホール効果、磁気抵抗、磁気トランジスタ(magnistor)、磁気ダイオード、またはMAGFET(磁場効果トランジスタ)フィールドセンサ等、1つまたは複数の固体感知装置を含む。他の可能なフィールドセンサは、H(磁化力として定義される)によって異なる磁気的性質を有する非線形コア、磁気計、およびフラックスゲート磁気計、およびコイル(取り囲むかまたは隣接して、フラックスを遮断し、dΦ/dtに比例して誘発したEMFを有し、時間の変化と共に磁束が変化する)を含む。1つまたは複数の導体は、直流または交流電流源若しくは励磁信号のソースに各磁場センサ152、154を接続し、シャフト110を組込む機械またはシステムのための制御または監視回路等、受信装置に磁場センサ152、154の信号出力を伝える。磁場センサ152、154が出力した代表的信号は、シャフト110に加えられたトルクの変動に対して線形的に変化するように、磁場センサ152、154が好ましく設定される。
【0036】
各磁場センサ152、154は、アモルファス心線を有するように設定されうる。アモルファス心線は、磁場により完全に飽和した時、透磁率が1まで下降する性質を有する。磁場は、コイル巻線の励磁によって生成されたフィールドと、地球の磁場またはモータや通電導体のような近隣のソース等、外部ソースから起こる任意の磁場との合計である。興味のある用途では、磁場はまた、シャフト110に加えられたトルク量に比例する磁気弾性的に調整された領域140から起こる成分を有する。各磁場センサ152、154のアモルファスコアが飽和する時、結果としての透磁率における急峻な下降は、磁場センサ152、154のインダクタンスにおいて対応する変化をもたらす。磁場センサ152、154は各々、磁場センサ152、154を励磁するための、およびそのインダクタンスが励磁信号に関して変化する時を検出するための、2つの機能を果たす回路に接続される。磁場センサ152、154に接続される追加の回路は、感知された磁場の強度および極性を示すDC電圧信号を出力できる。
【0037】
図1および2は各々、1対の磁場センサ152、154のみを有するトルク感知装置100を示す。しかし、トルク感知装置100は、シャフト110周りの円周上で間隔を置き、磁気弾性活性領域140に隣接する、複数の磁場センサ対を含んでもよい。複数の磁場センサ対の使用により、多数の同時トルク測定値を分析できるようになり、いくつかある利点の中で、トルク感知装置100の全体的な精度を上げることができる。
【0038】
本発明は、共通モード(信号検出モード)および差動モード(ノイズ検出モード)の2つの接続状態の各々で作動する、磁場センサ152、154の性能によって特徴付けられる。本発明は、磁場センサの作動が共通モードから差動モードに切り替えられ、その逆も行われるスイッチング回路を含む。共通モードの接続状態では、磁場センサ152、154は、直列/並列設定で接続されるので、磁場センサ152、154の各々を通る同じ励磁正弦波は、反対に分極された磁場に一致する。差動モードの接続状態では、磁場センサ152、154は、直列/並列設定で接続されるので、磁場センサ152、154の各々を通る同じ励磁正弦波は、一様に分極された磁場に一致する。」
「【図2】
[図:0001436485000003.jpg]
」
エ 段落【0039】~【0041】、【図3】
「【0039】
図3を見ると、ここに示されるのは、上記共通モード状態で作動する本発明の磁場センサ152、154の図である。その状態では、磁場センサ152、154は、各々コイルAおよびコイルBとして言及される。NAおよびNBは、各々コイルAおよびコイルBによって感知された磁気ノイズフィールドを示す。SAおよびSBは、各々コイルAおよびコイルBによって感知されたトルクにより誘発された磁場を示す。磁気弾性活性領域140の構成および処理により、SAおよびSBは、等しい大きさで反対の方向である。矢印mAおよびmBは、各々コイルAおよびコイルBの感知方向、即ちフィールド測定の正方向を示す。共通モードでの作動時、磁場センサ152、154は、mAおよびmBが互いに反対になるように配向される。図3に示す通り、共通モードでの作動時、コイルAは、SA+NAに等しい信号を感知し、コイルBは、SB-NBに等しい信号を感知する。
【0040】
磁気ノイズフィールド(magnetic noise field)は、遠距離場ノイズソース、近距離場ノイズソース、または両方によってもたらされることがある。磁気ノイズフィールドが専ら遠距離場ノイズソースの結果であり、磁気ノイズフィールドの歪みが生じない時、NAおよびNBは、等しい大きさおよび方向である。そのような例では、トルク感知装置100上の磁気ノイズの効果は、共通モードにおけるコイルAおよびコイルBから得られた出力信号を合計することによって取り消される。結果としての合成出力信号は、SA+NA+SB-NB=SA+SB=2SA=2SBによって示される。合成出力信号は、完全にトルクにより誘発されるので、合成出力信号に基づきシャフト110に加えられたトルクの大きさを容易に判断できる。この技法は、上記説明の通り、共通モード阻止として通常言及される。
【0041】
しかし、通常の実施では、近距離場ノイズソースの存在、遠距離場ソースがもたらすノイズフィールドの歪み、コイルAおよびコイルBが同じ物理空間を占めることができないこと、コイルAおよびコイルBの軸方向不整列の可能性、およびコイルAおよびコイルBの物的製造および部品の許容値により、コイルAおよびコイルBが感知する磁気ノイズフィールドは、等しい大きさではない。即ち、通常NA≠NBである。そのような場合では、共通モードにおけるコイルAおよびコイルBの個々の出力信号の合計で得た合成出力信号は、SA+NA+SB-NB=2SA+NA-NB=2SB+NA-NBに等しい。この場合では、磁場ノイズの効果が取り消されず、共通モード阻止の技法は、シャフト110に加えられたトルクの大きさを正確に反映する信号を得るのに不十分である。即ち、共通モード接続状態では、感知されたフィールド出力は、トルクにより誘発された磁場の合計から、共通モードの外部ノイズフィールドを引いた値に、磁場センサ152、154の1つまたは両方に局所的な外部ノイズフィールドを足す。これは、従来の作動モードであり、全ての共通モードの外部磁気ノイズフィールドを効果的に差し引くという利点があり、磁場センサ152、154の1つまたは両方に局所的な外部磁気ノイズフィールドを差し引くことができない不都合がある。」
「【図3】
[図:0001436485000004.jpg]
」
オ 段落【0042】~【0043】、【図4】
「【0042】
図4を見ると、差動モードで作動する本発明の磁場センサ152、154の図が示される。磁場センサ152、154は、各々コイルAおよびコイルBとして再び言及される。NAおよびNBは、各々コイルAおよびコイルBによって感知された磁気ノイズフィールドを示す。SAおよびSBは、各々コイルAおよびコイルBによって感知されたトルクにより誘発された磁場を示す。磁気弾性活性領域140の構成および処理により、SAおよびSBは、等しい大きさであって、反対の方向である。矢印mAおよびmBは、各々コイルAおよびコイルBの感知方向、即ちフィールド測定の正方向を示す。差動モードでの作動時、磁場センサ152、154は、mAおよびmBが一様になるように配向される。図4に示す通り、差動モードでの作動時、コイルAは、SA+NAに等しい信号を感知し、コイルBは、-SB+NBに等しい信号を感知する。
【0043】
NA≠NBである通常の状況では、トルク感知装置100上のトルクにより誘発された磁場の効果は、差動モードにおけるコイルAおよびコイルBから得られた出力信号を合計することによって取り消される。結果としての合成出力信号は、SA+NA-SB+NB=NA+NBに等しい。感知されたフィールド出力は、他の磁気的に調整された領域142、144からのトルクにより誘発された磁場から差し引かれ、磁場センサ152、154の両方で感知された外部磁気ノイズフィールドの合計を足した、磁気的に調整された領域144、142の1つからのトルクにより誘発された磁場に等しい。従って、差動モードでの作動時、本発明は、磁場センサ152、154対に影響する望ましくない磁場ノイズを測定できる。」
「【図4】
[図:0001436485000005.jpg]
」
カ 段落【0044】~【0048】、【図5】
「【0044】
図5を見ると、本発明の作動を示すブロック図が示される。ブロック11に言及すると、フィールドセンサ152(当合議体注:磁場センサ152のことを指すと認める。)のコイルAおよびフィールドセンサ154(当合議体注:磁場センサ154のことを指すと認める。)のコイルBは、軸方向に整列して示され、導体166に直列接続される。ブロック11は、共通モード(信号検出モード)で設定されたコイルAおよびコイルBを示し、それらの感知方向mAおよびmBは、互いに反対である。コイルAおよびコイルBは、共通モードでブロック13により示される、フィールドコイル回路に出力信号を提供し、磁場センサ152、154から得られた出力信号を処理する。コイルAおよびコイルBから得られた個々の出力信号が合計され、ブロック15により示される合成共通モード出力信号をもたらす。本発明は、共通モードの作動中に得られた出力信号の各々を格納するためのメモリまたは他の格納装置(図示せず)を含む。
【0045】
続けて図5を参照すると、ブロック12は、差動モード(ノイズ検出モード)で設定されたコイルAおよびコイルBを示す。コイルAおよびコイルBは、軸方向に整列して示され、上記説明した共通モードと同様に、導体166によって直列接続される。しかし、共通モードと異なり、差動モードでは、コイルAおよびコイルBの感知方向mAおよびmBは、一様(identical)である。コイルAおよびコイルBは、差動モードでブロック14により示される、フィールドコイル回路に出力信号を提供し、磁場センサ152、154から得られた出力信号を処理する。コイルAおよびコイルBから得られた個々の出力信号が合計され、ブロック16により示される合成差動モード出力信号をもたらす。本発明は、差動モードの作動中に得られた出力信号の各々を格納するためのメモリまたは他の格納装置(図示せず)を含む。
【0046】
共通モードから差動モードへの推移は、共通モードから差動モードの配向へのコイルBの感知方向mBを切り替えることによって達成される。切り替えは、任意の適当な電気または機械手段によって実行されうる。図5では、共通モードから差動モードへの推移は、スイッチ168によって容易にされ、活性化される時、コイルBの感知方向mBを効果的に反転する。トルク感知装置100の適切な機能性を保証するために、磁場センサ152、154を組込む回路の切り替え頻度は、回路帯域幅より大きいことが必要である。
【0047】
続けて図5を参照すると、合成差動モード出力信号(ブロック16)は、ブロック17によって示される積を得るために、残留ノイズ比率(RNR)に掛け合わされる。その積(ブロック17)は、減算回路(ブロック18)を介して処理されるので、合成共通モード出力信号(ブロック15)から差し引かれる。結果としての差(ブロック19)は、トルクにより誘発された磁場の測定値であり、全てのノイズにより誘発された磁場の効果が除去される。本発明の作動のために要求される数学演算は、個別部品、マイクロコントローラ、または従来技術である状態マシンを含む任意の適当な手段によって実行されてもよい。
【0048】
残留ノイズ比率は、以下の手順によって決定されてもよい。最初の試作品の開発および評価の過程の一部として、本発明の各例のために以下の手順を一度だけ実行するのが必要なだけである。残留ノイズ比率の決定では、制御された発散磁場ソースが使用される。
1)制御された発散磁場ソースがOFFになると、トルク感知装置100に定常状態のトルクを加え、
a. 共通モードでは、基準共通モード出力信号測定値を得る:(SA+SB+NA-NB)off。
b. 差動モードでは、基準差動モード出力信号測定値を得る:(SA-SB+NA+NB)off。
2)制御された発散磁場ソースがONになると、ステップ1からの定常状態のトルクを加え続け、
a. 共通モードでは、第2共通モード出力信号測定値を得る:(SA+SB+NA-NB)on。
b. 共通モード出力信号で示される任意の反復波形の頂点間振幅を測定する。
c. 差動モードでは、第2差動モード出力信号測定値を得る:(SA-SB+NA+NB)on。
d. 差動モード出力信号で示される任意の反復波形の頂点間振幅を測定する。
3)ステップ2(a)および1(a)で得られた共通モード値の間の差を計算する:[(SA+SB+NA-NB)on-(SA+SB+NA-NB)off]=Δ(NA-NB)。
4)ステップ2(c)および1(b)で得られた差動モード値の間の差を計算する:[(SA-SB+NA+NB)on-(SA-SB+NA+NB)off]=Δ(NA+NB)。
5)ステップ4で得られた測定値で割ったステップ3で得られた測定値;およびステップ2(d)で得られた測定値で割ったステップ2(b)で得られた測定値:よりも大きい残留ノイズ比率を決定する。残留ノイズ比率は、(NA-NB)/(NA+NB)として表すことができる。」
「【図5】
[図:0001436485000006.jpg]
」
(2) 引用発明の認定
上記(1)ア~カにおいて摘記した事項から、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。なお、認定の根拠となる記載箇所の段落番号を括弧内に示した。
[引用発明]
「トルク感知装置に加えられるトルクの量を決定するための方法であって、
第1の磁気的に調整された領域、および第2の、反対に分極された、磁気的に調整された領域を有する、デュアルバンド形態の、磁気弾性トルク-磁場変換器を提供するステップと、
第1の磁気的に調整された領域に隣接して位置決めされた第1の磁場センサを提供するステップであって、第1の磁場センサは、感知方向を有する、ステップと、
第2の磁気的に調整された領域に隣接して位置決めされた第2の磁場センサを提供するステップであって、第2の磁場センサは、感知方向を有する、ステップと、
第1および第2の磁場センサの感知方向が互いに反対である第1の接続状態で、第1および第2の磁場センサを設定するステップと、
第1の接続状態で第1および第2の磁場センサの各々から第1の出力信号を得るステップと、
第1および第2の磁場センサの感知方向が一様である第2の接続状態で、第1および第2の磁場センサをスイッチング機能に再設定させるステップと、
第2の接続状態で第1および第2の磁場センサの各々から第2の出力信号を得るステップと、
第1および第2の出力信号に基づき、トルク感知装置に加えられるトルクを計算するステップとを具備することを特徴とする方法であって、(【請求項20】、【0030】)
トルク感知装置100の円筒シャフト110は、磁気弾性活性領域140であるか、または少なくとも含み、それによりシャフトは、磁気弾性トルク-磁場変換器の機能を果たすことができるものであり、(【0030】~【0031】)
磁気弾性活性領域140は、少なくとも2つの軸方向で区別される、反対方向に分極された、磁気的に調整された領域142、144を含み、磁気的に調整された領域142、144は、任意の効果的方法によって反対の円周方向で磁気的に分極され、磁気的に調整された領域142、144の円周上の分極により、シャフト110に加えられるトルクが無い場合(休止状態)、磁気的に調整された領域142、144は、軸方向または半径方向に正味の磁化成分を有さないものであり、(【0033】)
トルクがシャフト110に加えられている状態において、特に磁気弾性活性領域140の磁気弾性的性質により、シャフト110に対してねじり応力を加えることで、磁気弾性活性領域140は、磁気的に調整された領域142、144で分極された磁化の再配向をもたらし、それにより磁区は、主応力軸に整列し、磁気的に調整された領域142、144は、半径方向または軸方向または両方でトルクにより誘発された磁化成分を示し、半径および軸の成分の両方の大きさは、シャフト110に加えられたトルクに完全に依存し、一方で半径および軸成分の両方のフラックス方向、即ち極性は、トルクがシャフト110に加えられる方向に依存し、磁気的に調整された領域142、144の各々から発する、トルクにより誘発された磁場は、等しい大きさであるが互いに反対の極性であるように、磁気弾性活性領域140が構成および処理され、(【0034】)
磁場センサ152、154は、軸方向に整列し、磁気的に調整された領域142、144に各々隣接して位置付けられ、各個々の磁場センサ152、154は、個々の磁気的に調整された領域142、144に対応し、磁場センサ152、154は、休止時の円周方向から通常のらせん方向への分極された磁化の再配向の結果として、磁気的に調整された領域142、144周りの空間で発生する軸および/または半径のフィールド成分の大きさおよび極性を感知するように配向され、磁場センサ152、154は、シャフト110に加えられたトルクの大きさを反映する信号出力を提供するものであり、磁場センサはコイルを含み、(【0035】)
トルク感知装置100は、1対の磁場センサ152、154を有するものであるが、シャフト110周りの円周上で間隔を置き、磁気弾性活性領域140に隣接する、複数の磁場センサ対を含んでもよく、(【0037】)
共通モード(信号検出モード)および差動モード(ノイズ検出モード)の2つの接続状態の各々で作動する、磁場センサ152、154の性能によって特徴付けられ、磁場センサの作動が共通モードから差動モードに切り替えられ、その逆も行われるスイッチング回路を含み、共通モードの接続状態では、磁場センサ152、154の各々を通る同じ励磁正弦波は、反対に分極された磁場に一致し、差動モードの接続状態では、磁場センサ152、154の各々を通る同じ励磁正弦波は、一様に分極された磁場に一致し、(【0038】)
共通モード(信号検出モード)で設定された、磁場センサ152のコイルAおよび磁場センサ154のコイルBは、導体166に直列接続され、(【0044】)
差動モード(ノイズ検出モード)で設定された、コイルAおよびコイルBは共通モードと同様に、導体166によって直列接続され、(【0045】)
上記共通モード状態では、磁場センサ152のコイルAおよび磁場センサ154のコイルBによって各々感知された磁気ノイズフィールドをNAおよびNB、各々コイルAおよびコイルBによって感知されたトルクにより誘発された磁場をSAおよびSBとすると、磁気弾性活性領域140の構成および処理により、SAおよびSBは、等しい大きさで反対の方向であり、磁場センサ152、154は、mAおよびmBが互いに反対になるように配向され(mAおよびmBは、各々コイルAおよびコイルBの感知方向、即ちフィールド測定の正方向を示す。)、コイルAは、SA+NAに等しい信号を感知し、コイルBは、SB-NBに等しい信号を感知し、(【0039】)
磁気ノイズフィールドが、専ら遠距離場ノイズソースの結果であり、磁気ノイズフィールドの歪みが生じない時、NAおよびNBは、等しい大きさおよび方向であり、そのような例では、トルク感知装置100上の磁気ノイズの効果は、共通モードにおけるコイルAおよびコイルBから得られた出力信号を合計することによって取り消され、結果としての合成出力信号は、SA+NA+SB-NB=SA+SB=2SA=2SBによって示され、合成出力信号は、完全にトルクにより誘発されるので、合成出力信号に基づきシャフト110に加えられたトルクの大きさを容易に判断でき、(【0040】)
近距離場ノイズソースの存在、遠距離場ソースがもたらすノイズフィールドの歪み、コイルAおよびコイルBが同じ物理空間を占めることができないこと、コイルAおよびコイルBの軸方向不整列の可能性、およびコイルAおよびコイルBの物的製造および部品の許容値により、コイルAおよびコイルBが感知する磁気ノイズフィールドは、等しい大きさではなく、即ち、通常NA≠NBであり、そのような場合では、共通モードにおけるコイルAおよびコイルBの個々の出力信号の合計で得た合成出力信号は、SA+NA+SB-NB=2SA+NA-NB=2SB+NA-NBに等しく、この場合では、磁場ノイズの効果が取り消されず、(【0041】)
差動モードでの作動時、磁場センサ152、154は、mAおよびmBが一様になるように配向され、コイルAは、SA+NAに等しい信号を感知し、コイルBは、-SB+NBに等しい信号を感知し、(【0042】)
NA≠NBである通常の状況では、トルク感知装置100上のトルクにより誘発された磁場の効果は、差動モードにおけるコイルAおよびコイルBから得られた出力信号を合計することによって取り消され、結果としての合成出力信号は、SA+NA-SB+NB=NA+NBに等しく、磁場センサ152、154対に影響する望ましくない磁場ノイズを測定でき、(【0043】)
共通モードから差動モードへの推移は、共通モードから差動モードの配向へのコイルBの感知方向mBを切り替えることによって達成され、切り替えは、任意の適当な電気または機械手段によって実行されうるものであり、(【0046】)
合成差動モード出力信号(ブロック16)は、ブロック17によって示される積を得るために、残留ノイズ比率(RNR)に掛け合わされ、その積(ブロック17)は、減算回路(ブロック18)を介して処理されるので、合成共通モード出力信号(ブロック15)から差し引かれ、結果としての差(ブロック19)は、トルクにより誘発された磁場の測定値であり、全てのノイズにより誘発された磁場の効果が除去され、(【0047】、【図5】)
残留ノイズ比率は、最初の試作品の開発および評価の過程の一部として、以下の手順を一度だけ実行するのが必要なだけであり、残留ノイズ比率の決定では、制御された発散磁場ソースが使用され、
1)制御された発散磁場ソースがOFFになると、トルク感知装置100に定常状態のトルクを加え、
a.共通モードでは、基準共通モード出力信号測定値を得る:(SA+SB+NA-NB)off
b.差動モードでは、基準差動モード出力信号測定値を得る:(SA-SB+NA+NB)off
2)制御された発散磁場ソースがONになると、ステップ1からの定常状態のトルクを加え続け、
a.共通モードでは、第2共通モード出力信号測定値を得る:(SA+SB+NA-NB)on
b.共通モード出力信号で示される任意の反復波形の頂点間振幅を測定する
c.差動モードでは、第2差動モード出力信号測定値を得る:(SA-SB+NA+NB)on
d.差動モード出力信号で示される任意の反復波形の頂点間振幅を測定する
3)ステップ2(a)および1(a)で得られた共通モード値の間の差を計算する:[(SA+SB+NA-NB)on-(SA+SB+NA-NB)off]=Δ(NA-NB)
4)ステップ2(c)および1(b)で得られた差動モード値の間の差を計算する:[(SA-SB+NA+NB)on-(SA-SB+NA+NB)off]=Δ(NA+NB)
5)ステップ4で得られた測定値で割ったステップ3で得られた測定値;およびステップ2(d)で得られた測定値で割ったステップ2(b)で得られた測定値:よりも大きい残留ノイズ比率を決定し、残留ノイズ比率は、(NA-NB)/(NA+NB)として表すことができる、(【0048】)
方法。」
(3) 本願発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点
a 引用発明における「磁気弾性活性領域140であるか、または少なくとも含み」、「磁気弾性トルク-磁場変換器の機能を果たすことができるものであ[る]」「円筒シャフト110」は、本願発明の「磁気弾性体(6)」に相当する。また、この「円筒シャフト110」を備える「トルク感知装置100」は、本願発明の「磁気弾性センサ(18)」に相当する。
b 前記aを踏まえると、引用発明の「トルク感知装置に加えられるトルクの量を決定するための方法」は、本願発明の「磁気弾性センサ(18)を利用することにより、磁気弾性体(6)に加えられる応力を測定[する]」方法に相当する。
c 引用発明において「磁場センサ152、154対に影響する望ましくない磁場ノイズを測定[する]」ことは、本願発明において「前記磁気弾性体(6)に影響を及ぼす潜在的な外部磁場(19,20)を検出[する]」ことに相当する。
d 引用発明において「トルクにより誘発された磁場の測定値」を求めるために、「全てのノイズにより誘発された磁場の効果が除去され[る]」ことは、本願発明において「測定した応力に、前記潜在的な外部磁場(19,20)による非応力関連影響(non-stress related influence)を振り当てる」ことに相当する。
e したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「磁気弾性センサを利用することにより、磁気弾性体に加えられる応力を測定し、同時に、前記磁気弾性体に影響を及ぼす潜在的な外部磁場を検出し、測定した応力に、前記潜在的な外部磁場による非応力関連影響(non-stress related influence)を振り当てるための方法」の発明である点。
(イ) 構成Aの観点
a 前記(ア)aを踏まえると、引用発明において「第1の磁気的に調整された領域、および第2の、反対に分極された、磁気的に調整された領域を有する、デュアルバンド形態の、磁気弾性トルク-磁場変換器を提供する」ことは、本願発明において「磁気配向が互いに逆である少なくとも2つの磁気ゾーン(3,7)を前記磁気弾性体(6)に対して利用する」ことに相当する。
b したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「磁気配向が互いに逆である少なくとも2つの磁気ゾーンを前記磁気弾性体に対して利用する工程」を含む点。
(ウ) 構成Bの観点
a 引用発明における「第1の磁場センサ」及び「第2の磁場センサ」の組合せのうち、「第1および第2の磁場センサの感知方向が互いに反対である第1の接続状態」である「共通モード(信号検出モード)」に設定されたものが、本願発明の「少なくとも1つの第1のチャンネル(1)」に相当し、「第1および第2の磁場センサの感知方向が一様である第2の接続状態」である「差動モード(ノイズ検出モード)」に設定されたものが「少なくとも1つの第2のチャンネル(2)」に相当する。また「第1の磁場センサ」及び「第2の磁場センサ」の組合せは、本願発明の「少なくとも1つのセンサ(18)」に相当するともいえる。
b そうすると、引用発明において「第1の磁場センサを提供するステップ」及び「第2の磁場センサを提供するステップ」の組合せは、本願発明と、「少なくとも1つの第1のチャンネル」又は「少なくとも1つの第2のチャンネルを備える少なくとも1つのセンサを準備する工程」である点で共通する。
c したがって、本願発明と引用発明は、次の(a)に示す一致点において一致し、後記(b)に示す相違点において相違する
(a) 一致点
「少なくとも1つの第1のチャンネル又は少なくとも1つの第2のチャンネルを備える少なくとも1つのセンサを準備する工程」を含む点。
(b) 相違点
本願発明は、「少なくとも1つの第1のチャンネル(1)」及び「少なくとも1つの第2のチャンネル(2)」の双方が併せ準備されるのに対し、
引用発明では、一組の「第1の磁場センサ」及び「第2の磁場センサ」が提供され、これらが「スイッチング回路」により切り替えられて、「第1の接続状態」又は「第2の接続状態」のいずれかに設定される点。
(エ) 構成Cの観点
a 引用発明における「コイルを含[む]」「磁場センサ152、154」が「円筒シャフト110」の「軸方向に整列し、磁気的に調整された領域142、144に各々隣接して位置付けられ[る]」点は、本願発明における「前記第1のチャンネル(1)及び前記第2のチャンネル(2)は、それぞれ少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)を備え、両コイル(8,9,8’,9’)は、前記磁気弾性体(6)の円筒形の軸方向に沿って配列され[る]」点と、「前記第1のチャンネル」又は「前記第2のチャンネルは、」「少なくとも2つのコイルを備え、両コイルは、前記磁気弾性体の円筒形の軸方向に沿って配列され[る]」点で共通する。
b したがって、本願発明と引用発明は、次の(a)に示す一致点において一致し、後記(b)に示す相違点において相違する。
(a) 一致点
「前記第1のチャンネル又は前記第2のチャンネルは、少なくとも2つのコイルを備え、両コイルは、前記磁気弾性体の円筒形の軸方向に沿って配列され[る]」点。
(b) 相違点
本願発明においては、「前記第1のチャンネル(1)及び前記第2のチャンネル(2)」が備えられ、その双方についてコイルが配列されるのに対し、
引用発明では、「第1の磁場センサ」及び「第2の磁場センサ」の一組(本願発明の一つのチャンネルに相当)においてコイルが配列される点。
(オ) 構成Dの観点
a 引用発明において「コイルを含[む]」「磁場センサ152、154」が「円筒シャフト110」の「磁気的に調整された領域142、144に各々隣接して位置付けられ[る]」ことは、本願発明において「前記少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)はそれぞれ、前記磁気弾性体(6)の前記磁気ゾーン(3,7)に隣接して配置され[る]」ことに相当する。
b したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記少なくとも2つのコイルはそれぞれ、前記磁気弾性体の前記磁気ゾーンに隣接して配置され[る]」点。
(カ) 構成Eの観点
a 引用発明において、「共通モード(信号検出モード)」の「合成出力信号」は「SA+NA+SB-NB」であるのに対して、「差動モード(ノイズ検出モード)」の「合成出力信号」は「SA+NA-SB+NB=NA+NB」であって、「共通モード」に比べて「差動モード」では「トルクにより誘発された磁場」を十分に検出できず、「差動モード」に比べて「共通モード」では「磁気ノイズフィールド」を十分に検出できないから、各モードにおける「磁場センサ152、154」の信号検出に係る感度は異なるものであるといえる。
b 前記(ウ)aを踏まえると、引用発明において「共通モード」と「差動モード」における感度が異なることは、本願発明において「前記第1のチャンネル(1)及び前記第2のチャンネル(2)は異なる感度を有する」ことに相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記第1のチャンネル及び前記第2のチャンネルは異なる感度を有する、工程」を含む点。
(キ) 構成F、Gの観点
a 引用発明の「第1および第2の磁場センサの感知方向が互いに反対である第1の接続状態で、第1および第2の磁場センサを設定するステップ」は、本願発明の「前記第1のチャンネル(1)を同相除去チャンネル(common mode rejection channel)として設定する工程」に相当する。
b 引用発明の「第1および第2の磁場センサの感知方向が一様である第2の接続状態で、第1および第2の磁場センサをスイッチング機能に再設定させるステップ」は、本願発明の「前記第2のチャンネル(2)を同相受入チャンネル(common mode acceptance channel)として設定する工程」に相当する。
c したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記第1のチャンネルを同相除去チャンネル(common mode rejection channel)として設定する工程」と、「前記第2のチャンネルを同相受入チャンネル(common mode acceptance channel)として設定する工程」を含む点。
(ク) 構成Hの観点
a 引用発明において「第1の接続状態で第1および第2の磁場センサの各々から第1の出力信号を得るステップ」又は「第2の接続状態で第1および第2の磁場センサの各々から第2の出力信号を得るステップ」は、本願発明の「前記磁気ゾーン(3,7)を読み取る工程」に相当する。
b したがって、本願発明と引用発明は、次の点において一致する。
「前記磁気ゾーンを読み取る工程」を含む点。
(ケ) 構成I、Jの観点
a 引用発明では、「共通モード(信号検出モード)」及び「差動モード(ノイズ検出モード)」のいずれにおいても「コイルA」及び「コイルB」は、「導体166によって直列接続され[る]」ものであり、この「導体166」が、本願発明の「中央タップ(CT)」に相当する構成を備えることは明らかである。
b 前記aを踏まえると、「共通モード(信号検出モード)」での「コイルA」及び「コイルB」の合成出力信号が、本願発明の「前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)から前記2つのコイルの間にある中央タップ(CT)に流れ込む電流」に相当する。また、「差動モード(ノイズ検出モード)」での「コイルA」及び「コイルB」の合成出力信号が、本願発明の「前記第2のチャンネル(2)の前記少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)の一方から他方へ前記中央タップ(CT)を介して流れる電流」に相当する。
c そうすると、引用発明において「合成出力信号に基づきシャフト110に加えられたトルクの大きさを容易に判断[する]」ことは、本願発明において「前記磁気弾性体(6)の前記磁気ゾーン(3,7)に加えられた応力の大きさを、前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)から前記2つのコイルの間にある中央タップ(CT)に流れ込む電流を測定することにより測定する」ことに相当する。また、引用発明において「合成出力信号は」「磁場センサ152、154対に影響する望ましくない磁場ノイズを測定でき[る]」ことは、本願発明において「前記外部磁場(19,20)の影響を、前記第2のチャンネル(2)の前記少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)の一方から他方へ前記中央タップ(CT)を介して流れる電流を測定することにより検出する」ことに相当する。
d したがって、本願発明と引用発明は、次の点において共通する。
「前記磁気弾性体の前記磁気ゾーンに加えられた応力の大きさを、前記第1のチャンネルの前記2つのコイルから前記2つのコイルの間にある中央タップに流れ込む電流を測定することにより測定する工程と、
前記外部磁場の影響を、前記第2のチャンネルの前記少なくとも2つのコイルの一方から他方へ前記中央タップを介して流れる電流を測定することにより検出する工程」を含む点。
(コ) 構成Kの観点
引用発明においては「閾値」の設定は明示されておらず、本願発明と引用発明は、次の相違点において相違する。
相違点
本願発明は、「前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値を設定する工程であって、前記閾値は、前記外部磁場(19,20)の関連性を判定するための境界又は基準である、工程」を含むのに対し、
引用発明では、「閾値」を設定することは明示されていない点。
(サ) 構成Lの観点
引用発明においては「利得差」の利用について明示されておらず、本願発明と引用発明は、次の相違点において相違する。
相違点
本願発明は、「前記潜在的な外部磁場(19,20)による非応力関連影響(non-stress related influence)は、前記第1のチャンネル(1)と前記第2のチャンネル(2)の前記外部磁場に対する感度の差に対応する利得差を、前記検出する工程において検出された前記外部磁場の影響に適用することにより得られる」のに対し、
引用発明では、「利得差」を利用することは明示されていない点。
(4) 一致点及び相違点
前記(2)の対比分析の結果をまとめると、本願発明と引用発明は、実質的に次のアに示す一致点において一致し、後記イに示す相違点1~2において相違すると認められる。
ア 一致点
「磁気弾性センサを利用することにより、磁気弾性体に加えられる応力を測定し、同時に、前記磁気弾性体に影響を及ぼす潜在的な外部磁場を検出し、測定した応力に、前記潜在的な外部磁場による非応力関連影響(non-stress related influence)を振り当てるための方法であって、
磁気配向が互いに逆である少なくとも2つの磁気ゾーンを前記磁気弾性体に対して利用する工程と、
少なくとも1つの第1のチャンネル又は少なくとも1つの第2のチャンネルを備える少なくとも1つのセンサを準備する工程であって、
前記第1のチャンネル又は前記第2のチャンネルは、それぞれ少なくとも2つのコイルを備え、両コイルは、前記磁気弾性体の円筒形の軸方向に沿って配列され、
前記少なくとも2つのコイルはそれぞれ、前記磁気弾性体の前記磁気ゾーンに隣接して配置され、
前記第1のチャンネル及び前記第2のチャンネルは異なる感度を有する、工程と、
前記第1のチャンネルを同相除去チャンネル(common mode rejection channel)として設定する工程と、
前記第2のチャンネルを同相受入チャンネル(common mode acceptance channel)として設定する工程と、
前記磁気ゾーンを読み取る工程と、
前記磁気弾性体の前記磁気ゾーンに加えられた応力の大きさを、前記第1のチャンネルの前記2つのコイルから前記2つのコイルの間にある中央タップに流れ込む電流を測定することにより測定する工程と、
前記外部磁場の影響を、前記第2のチャンネルの前記少なくとも2つのコイルの一方から他方へ前記中央タップを介して流れる電流を測定することにより検出する工程と、
を含む、
応力測定方法」の発明である点。
イ 相違点
(ア) 相違点1
前記(2)アの(ウ)及び(エ)において認定した相違点をまとめると、本願発明と引用発明は、要するに次の点で相違する。
本願発明においては、
「少なくとも2つのコイル(8,9,8’,9’)」を備える「少なくとも1つの第1のチャンネル(1)」及び「少なくとも1つの第2のチャンネル(2)」が、それぞれ独立した構造として並存するように準備されるのに対し、
引用発明においては、
それぞれが「コイルを含[む]」ものである「第1の磁場センサ」及び「第2の磁場センサ」の一組が準備され、「共通モード(信号検出モード)」と「差動モード(ノイズ検出モード)」を「スイッチング回路」により切替えて、「共通モード(信号検出モード)および差動モード(ノイズ検出モード)の2つの接続状態」を実現するものである点。
(イ) 相違点2
前記(2)アの(コ)及び(サ) において認定した相違点をまとめると、本願発明と引用発明は次の点で相違する。
本願発明においては、
「前記第1のチャンネル(1)の前記2つのコイル(8,9,8’,9’)によって測定された前記応力のある特定の結果が前記外部磁場(19,20)に帰せられるべきか否かを事前に判定するために閾値を設定する工程」を含み、
「前記閾値は、前記外部磁場(19,20)の関連性を判定するための経験的に評価された境界又は基準」であり、
「前記潜在的な外部磁場(19,20)による非応力関連影響(non-stress related influence)は、前記第1チャンネル(1)と前記第2チャンネル(2)の前記外部磁場に対する感度の差に対応する利得差を、前記検出する工程において検出された前記外部磁場の影響に適用することにより得られる」のに対し、
引用発明では閾値及び利得差の利用は明示されていない点。
(5) 判断
ア 相違点1について
相違点1は要するに、応力測定を主目的とするコイル対と外部磁場(ノイズ)測定を主目的とするコイル対を別途独立した構成として設けることにより各測定を実施するか、一つのコイル対の接続状態をスイッチにより変更して各測定を実施するかの相違であるといえる。
しかしながら、引用発明において、一つのコイル対の接続状態をスイッチにより変更して各測定を実施するのに代えて、各接続状態に対応するコイル対を別々に設けることは、設置コストの許容範囲や測定の信頼性、回路の同時駆動の必要性などの事情を考慮して当業者が適宜選択すべき設計事項の範囲内のものである。
イ 相違点2について
(ア) 「閾値」の「設定」について
測定回路技術一般において、回路の外にある外部ノイズを、例えば回路を構成する素子において生じる熱ノイズなどの電気的ノイズなどから区別するために閾値を設定することや、閾値を測定前に検知しておいたノイズの値(経験値)によって決定するといったことは、特に例を示すまでもなく当業者にとって技術常識である。
したがって、引用発明において、測定結果が外部磁場ノイズに帰せられるべきか否かを事前に判定するために、何らかの閾値を設定することは、当業者が容易に想到し得たものである。
(イ) 「利得差」について
a 引用発明において、「共通モード」の「合成出力信号」に含まれるノイズ成分(NA-NB)と、「差動モード」の「合成出力信号」に含まれるノイズ成分(NA+NB)は、各モードにおける「磁気ノイズフィールド」の影響を示しており、NBの符号が反転していることを踏まえると、各モードの測定感度を反映したものであるといえる。
b ここで、引用発明においては、「磁気ノイズフィールド」の影響を除去するために、「残留ノイズ比率(RNR)」として「(NA-NB)/(NA+NB)」を考え、各モードにおける「磁気ノイズフィールド」の影響を「比率」の形式で表現しているが、この「残留ノイズ比率(RNR)」は、次のとおり式変形できる。
(NA-NB)/(NA+NB)=1+[(NA-NB)-(NA+NB)]/(NA+NB)
c 上記式の右辺の第二項の分子には、各モードのノイズ成分の差に対応する[(NA-NB)-(NA+NB)]が含まれているところ、前記aを踏まえると、これは、各モードの測定感度の差に対応するといえる。
d そうすると、引用発明において、各接続状態(各モード)に対応するコイル対を別々に設けるように設計変更して、二つのチャンネルを独立した回路構成として設けた場合、「残留ノイズ比率(RNR)」の代わりに、各チャンネルの測定感度の差を「対応する利得差」として用いることにより、「磁気ノイズフィールド」の影響を除去するように構成することは、当業者にとって自明な設計変更にすぎない。
ウ 総合評価
前記ア及びイの検討をまとめると、引用発明において、前記相違点1及び2に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1~2を総合的に勘案しても、本願発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張内容
請求人は令和7年7月24日提出の意見書「4.拒絶理由に対して」の「(3)理由3について」において、おおよそ次のように主張している。
a 主張1
本願発明においては、第1のチャンネル(1)及び第2のチャンネル(2)をそれぞれ専用のコイルと共に別々に使用し、応力及び外部磁場の同時測定を可能にしており、スイッチング回路を用いる引用発明とは異なる。
本願発明の同時動作は、特にリアルタイムデータが重要である自動車又は産業アプリケーションにおいて、測定精度及び効率を向上するという有利な効果を達成する。別個のチャンネルを使用することにより、遅延又は校正の問題を引き起こし得るスイッチング回路が必要無くなるので、信号干渉を低減し、信頼性を向上させることができる。
b 主張2
本願発明は「閾値」により外部磁場の影響を定量化しフィルタリングするメカニズムを提供し、応力測定の精度を向上することができる。関連する外部磁場を識別する際の「閾値」の役割は、応力に対するノイズの正確な振り当てが重要となる特定の用途において、新規な判定ツールと考えられ、また、応力以外の影響の選択的な帰属を可能とする。
(イ) 請求人の主張についての検討
a 主張1について
スイッチング回路による切替えの有無については、前記アにおいて説示したとおりである。また、測定精度及び効率の向上、信頼性の向上といった効果は、切替えを行わない場合に当然に生じる自明な効果である。
b 主張2について
閾値の採用については、前記イ(ア)において説示したとおりである。また、それによる効果も自明の範囲を超えるものではない。
6 むすび
以上検討のとおり、本願は、発明の詳細な説明の記載が、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
また、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-020396