特許拒絶査定不服審判
2024-002341
強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷を補正するための装置
- 審判番号
- 2024-002341
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-204820
- 請求日
- 2024年02月09日
- 審決日
- 2025年03月28日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】メソード・エレクトロニクス・マルタ・リミテッド
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】伊東 忠彦
- 【請求人代理人】宮崎 修
- 審判長/審判官
- 審判長 岡田 吉美
- 審判官 貝沼 憲司
- 審判官 谷垣 圭二
- 分類
- P18 .121-Z (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-204820「強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷を補正するための装置」拒絶査定不服審判事件〔令和4年7月1日出願公開、特開2022-98474〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和3年12月17日(パリ条約による優先権主張2020年12月21日(DE)ドイツ連邦共和国)の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年 2月14日付け:拒絶理由通知書
同年 8月17日 :意見書、手続補正書の提出
同年 9月29日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(10月10日 :原査定の謄本の送達)
令和6年 2月 9日 :審判請求書、手続補正書の提出
なお、2020年12月21日を以下「優先日」という。
第2 本願発明について
1 本願発明の認定
本願の請求項1~6に係る発明は、令和6年2月9日に提出された手続補正書により補正された請求項1~6に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次の事項により特定されるとおりである。
「【請求項1】
強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷の作用を補正するための装置であって、
少なくとも1つの磁化領域を有する前記強磁性部品と、
磁場センサと、
前記磁場センサおよび/または前記強磁性部品の周りに配置された少なくとも1つのコイルであって、
振動磁場および少なくとも2,387.31アンペア毎メートルの磁束密度を形成する磁場を発生させるコイルと、を備える、
装置。」
2 本願発明の認定と分説
検討の便宜に供するため、本願発明の構成を次に示すとおり、構成Xと構成Aから構成Dまでに分説する。また、参考図として、本願の【図2】に符号の名称を追記したものを掲載する。
<本願発明の分説>
X 強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷の作用を補正するための装置であって、
A 少なくとも1つの磁化領域を有する前記強磁性部品と、
B 磁場センサと、
C 前記磁場センサおよび/または前記強磁性部品の周りに配置された少なくとも1つのコイルであって、
D 振動磁場および少なくとも2,387.31アンペア毎メートルの磁束密度を形成する磁場を発生させるコイルと、を備える、
X 装置。
<参考図>
【図2】
[図:0001426425000001.jpg]
1 強磁性部品
2 外部応力過負荷 3 磁化領域
4 コイル上部断面 5 コイル下部断面
6 磁場センサ 8 装置
3 課題・作用効果等に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、発明が解決しようとする課題及び作用効果等に関連する記載を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明の請求項1および請求項7に係る、強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷の作用を補正するための装置および関連する方法に関する。
…(中略)…
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁場センサの強磁性部品に作用する外部応力過負荷は、センサの出力信号に対して悪影響をもたらし得る。
【0005】
外部応力過負荷は、機械的応力に起因する場合がある。
【0006】
明らかに、外部応力過負荷は、上記に記載されていない他の理由にも起因し得る。
【0007】
したがって、外部応力過負荷によって強磁性部品に及ぼされる悪影響を相殺する装置および/または方法を利用できるようにすべきである。」
「【0017】
簡略化のため、以下において、強磁性部品の磁化領域を、強磁性部品の磁場と称する。」
「【0024】
以下において、外部応力過負荷という用語は、強磁性部品に作用する物理的応力過負荷を意味する。」
「【0030】
[強磁性部品に対する外部応力過負荷の作用]
【0031】
強磁性部品に外部応力過負荷が掛かると、磁場および/または強磁性部品は、損傷を受けるかあるいは破壊される。
【0032】
換言すれば、強磁性部品に作用する外部応力過負荷は、強磁性部品の磁場の外乱および/または破壊をもたらす。
【0033】
強磁性部品の磁場が外部応力過負荷によって破壊されると、強磁性部品は、印加された応力によって生じる外部磁場を生成する一次センサとして機能するその能力を失う。
【0034】
強磁性部品に外部応力過負荷が掛かると、強磁性部品の磁場に作用する少なくとも30ガウスの磁束密度も生じ得る。
【0035】
物理単位であるエルステッド(アンペア毎メートル)は、強磁性部品の磁束密度の測定値の単位を表す。」
「【0067】
磁場センサの周りに配置され、かつ/または強磁性部品の周りに配置された少なくとも30ガウスの磁束密度の振動磁場は、座標系におけるY軸のmV値(電圧を表す)とX軸のエルステッド値(磁束密度を表す)との関係を正常な状態に修復する。
【0068】
座標系のX軸のエルステッド値のゼロ点のずれも修復される。
【0069】
センサの周りに巻回され、かつ/または強磁性部品の周りに巻回されたコイルの少なくとも30エルステッドの磁束密度の振動磁場を配置することにより、センサの磁場が均一化される。したがって、強磁性部品および磁場センサを備える、強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷の作用を補正するための装置の外乱信号値は、正常な状態に戻る。
【0070】
磁場センサおよび/または強磁性部品に対する応力過負荷の作用を補正し、かつ/または補償するコイルは、センサおよび/または強磁性部品の周りにも巻き付けられている。
【0071】
換言すれば、少なくとも30エルステッドの磁束密度の振動磁場を形成する、強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷の作用を補正するための装置は、強磁性部品に影響を及ぼした外部応力過負荷による外乱を受けた強磁性部品の磁場を再調整する。
【0072】
ゼロ点のずれは、強磁性部品の磁場に影響を及ぼす外部応力過負荷に起因する。このずれたゼロ点は、コイルによって元のゼロ点に戻される。コイルは、磁場センサの周りに配置され、かつ/または強磁性部品の周りに配置されている。
【0073】
また、図1によると、強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷に起因する、曲線(外部応力過負荷が強磁性部品に影響を及ぼす前のX軸のエルステッド値に対するY軸のmV値を表す)の勾配の変化は、元のコースに戻る。」
「【図1】
[図:0001426425000002.jpg]
」
「【0074】
上記曲線の元のコースおよび/または元の勾配は、強磁性部品が外部応力過負荷による影響を受ける前の曲線のコースおよび/または勾配を表す。
【0075】
強磁性部品に影響を及ぼし、強磁性部品の磁場の変化および/または破壊および/または外乱をもたらした外部応力過負荷による作用は、センサおよび/または強磁性部品の周りにコイルの磁場が配置されることによって相殺される。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明についての理由4(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
(進歩性の欠如)
本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1:特開昭63-279131号公報
引用文献2:特開2000-9558号公報(周知技術を示す文献)
第4 各引用文献に記載された事項及び引用発明等の認定
1 引用文献1の記載事項及び引用発明の認定
(1) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開昭63-279131号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(2)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
ア 第2ページ左上欄8~11行
「[産業上の利用分野]
本発明はトルク検出装置、特に回転磁性体を介して伝達されるトルクを磁気歪を利用して非接触で測定するトルク検出装置の改良に関する。」
イ 第4ページ右上欄8~13行
「また、この回転磁性体は、強磁性材料を用いて形成することが好ましく、例えばトルクを伝達する回転体の周囲にその円周方向に沿って強磁性体を貼着あるいは表面処理により形成しても良く、また前記回転体そのものを強磁性体を用いて形成しても良い。」
ウ 第4ページ左下欄最終行~第5ページ右下欄8行、第15図、第2図
「発明の原理
次に本発明の原理を簡単に説明する。
本発明者等は、伝達トルクの測定を高精度で行うために要求される回転磁性体の最適磁化状態の検討およびその解析を次のようにして行った。
例えば、第15図に示すように、回転磁性体に対し外部からバイアス磁場を±200Oeに渡って印加する。その印加順序は、同図に示すB-H曲線に見られるように、まずバイアス磁場を0Oe(当審注:「0e」は「0Oe」の明らかな誤記であると認める。)から200Oeまで増加させ、次に200Oeから-200Oeまで減少させ、最後に-200Oeから200Oeまで増加させた。このようにすることにより、回転磁性体の磁化状態は、同図に示すB-H曲線上を一周することになり、この一周の過程で様々なレベルの磁化状態が実現される。
本発明者等は、この様なレベルの磁化状態の下でトルクを測定し、磁気センサの出力特性の検討、解析及び評価を行った。
この結果、回転磁性体が磁化零状態にあるときに、他の様々な磁化状態に比較してトルク検出感度が最大でかつヒステリシス幅が最小となることが確認された。
また、回転磁性体に不均一な外乱磁場が印加され回転磁性体に着磁むらが生じても、回転磁性体全体を消磁することにより、回転磁性体全体を同一磁化状態(磁化零状態)とすることができ、磁気センサから出力されるオフセット出力変動を効果的に抑制可能であることも確認された。
従って、回転磁性体が外乱磁場により変化しても、その都度回転磁性体を磁化零状態に戻してやれば、回転磁性体の伝達トルクを常に再現性良く高精度でかつ安定して測定可能であることが理解されよう。」
「第15図
[図:0001426425000003.jpg]
」
「[作用]
次に本発明の作用を説明する。
本発明のトルク検出装置は、トルクを伝達する回転磁性体の磁歪量をセンサを用いて測定し、測定された磁歪量に基づき前記伝達トルクの検出を行っている。
このようなトルク検出装置では、前述したように回転磁性体に外乱磁場が印加されると、回転磁性体自体が着磁され、磁気センサの検出感度及びその出力信号中に含まれるオフセット成分が変化してしまう。
これに対し、本発明のトルク検出装置は、外乱磁場発生後にトリガ回路を駆動させ、駆動タイミング信号を消磁用回路に向け出力する。これにより、消磁用回路が駆動され、回転磁性体内にその最大値が回転磁性体の保磁力以上となる減衰振動磁場を発生させる。
回転磁性体内にこのような減衰振動磁場を発生させると、第2図に示すように回転磁性体内の磁化状態は振動磁場が減衰するにつれて磁化零状態(B点)に復帰することになる。」
「第2図
[図:0001426425000004.jpg]
」
「このようにして、本発明のトルク検出装置によれば、外乱磁場発生後に回転磁性体を消磁処理し磁化零状態とすることができる。このため、磁気センサの感度及びオフセット成分を一定とすることができ、伝達トルクの測定を精度良くかつ再現性良く行うことができる。
また、前述したように回転磁性体に不均一な分布の外乱磁場が印加されると、回転磁性体のある部分だけが着磁され、これにより回転磁性体円周方向でのオフセット出力変動が著しく増加することもある。
これに対し、本発明によれば前述した消磁処理を行い回転磁性体全体を同一磁化状態、すなわち磁化零状態に保つことができる。このため、磁気センサ出力信号中に含まれる回転磁性体円周方向でのオフセット出力変動を大幅に抑制することができる。
特に、回転磁性体が停止あるいは低回転領域にあり、かつ伝達トルクを応答性よく測定することが要求される場合には、ローパスフイルタを用いて回転変動を除去できないため、磁気センサの出力信号中に含まれる回転磁性体円周方向でのオフセット出力変動が大きな問題となるが、本発明によれば、前述したように回転磁性体全体を常に均一な磁化状態に保つことができるため、このような問題点を解決し伝達トルクの測定を軸の停止状態から高回転域に亘り高応答でかつ再現性良く行うことが可能となる。
[発明の効果]
以上説明したように、本発明によれば、回転磁性体に印加される外乱磁場に影響されることなく、伝達トルクの測定を再現性良く高精度でかつ高い応答性を持って行うことが可能となる。」
エ 第5ページ右下欄下から7行目~下から1行目、第1図
「第1実施例
第1図には本発明に係るトルク検出装置の好適な第1実施例が示されており、実施例のトルク検出装置は、トルク伝達軸10に対し離隔的に対向配置された磁気センサ12を用い伝達軸10内に発生ずる磁歪量を検出している。」
「第1図
[図:0001426425000005.jpg]
」
オ 第6ページ右上欄6行目~左下欄10行目、第6図
「第1図に示すように、本発明の特徴的事項は、回転磁性体であるトルク伝達軸10に消磁コイル40を離隔的に対向配置し、外乱磁場により着磁されたトルク伝達軸10を磁化零状態に戻すことを可能としたことにある。
実施例において、前記消磁コイル40は、トルク伝達軸10の周囲に離隔的に巻き回して形成されている。
そして、消磁用回路42を形成する減衰振動電流発生源44から、前記消磁コイル40に向け第6図に示すような減衰振動電流が供給される。」
「第6図
[図:0001426425000006.jpg]
」
「ここにおいて、この減衰振動電流の値は、その電流によって回転磁性体内に発生する減衰振動磁場の最大振幅がトルク伝達軸10の保磁力以上となるよう設定する必要がある。
このようにすることにより、外乱磁場によりトルク伝達軸10が着磁された場合でも、消磁コイル40に前記減衰振動電流を通電することにより、トルク伝達軸10内の磁化状態を第2図に示すB-H特性曲線に従って磁化零状態に復帰させることができる。
従って、本発明によれば、外乱磁場の影響を受けることなく、トルク伝達軸10を介して伝達されるトルクの測定を高い再現性をもって精度良く行うことが可能となる。」
カ 第6ページ右下欄8~17行
「また、実施例の減衰振動電流発生源44は第6図に示すように正弦波が指数関数的に減少するような電流を発生するよう形成されている。
また、本実施例において用いられるトルク伝達軸10の材質は、充分な機械的強度を有するSCr 420H浸炭焼入れ鋼であり、その保磁力は40Oeである。従って、前記減衰振動電流発生源44から供給される振動電流は、当然この値以上の最大振幅磁場を発生させる電流振幅値を有するようにその値が設定されている。」
キ 第7ページ右上欄3~11行、第7図、第8図
「第7図及び第8図には、トルク伝達軸10に同一の外乱磁場を加えた後、従来装置及び本発明のトルク検出装置をそれぞれ用いて測定した伝達トルクの検出データが示されている。
第7図に示すように、従来装置では外乱磁場発生後の出力特性が大きなヒステリシスを呈することになったが、本発明の装置では、第8図に示すように外乱磁場の発生の有無に関係なくその出力特性は安定したものとなることが確認された。」
「 第7図 第8図
[図:0001426425000007.jpg]
」
(2) 引用発明の認定
前記アに摘記した引用文献1の記載事項を総合すると、引用文献1には、第1実施例(第1図)に係る次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。なお、認定の根拠となる記載箇所を括弧内に示した。
<引用発明>
「トルク伝達軸10に対し離隔的に対向配置された磁気センサ12を用い伝達軸10内に発生ずる磁歪量を検出するトルク検出装置であって、(摘記事項エ)
回転磁性体であるトルク伝達軸10に消磁コイル40を離隔的に対向配置し、外乱磁場により着磁されたトルク伝達軸10を磁化零状態に戻すことを可能としたものであり、(摘記事項オ)
回転磁性体は、強磁性材料を用いて形成され、(摘記事項イ)
回転磁性体に不均一な外乱磁場が印加され回転磁性体に着磁むらが生じても、回転磁性体全体を消磁することにより、回転磁性体全体を同一磁化状態(磁化零状態)とすることができ、磁気センサから出力されるオフセット出力変動を効果的に抑制可能であるものであって、(摘記事項ウ)
前記消磁コイル40は、トルク伝達軸10の周囲に離隔的に巻き回して形成されており、(摘記事項オ)
消磁用回路42を形成する減衰振動電流発生源44から、前記消磁コイル40に向け減衰振動電流が供給されるものであり、かつ、減衰振動電流の値は、その電流によって回転磁性体内に発生する減衰振動磁場の最大振幅がトルク伝達軸10の保磁力以上となるよう設定するものであり、(摘記事項オ)
トルク伝達軸10の材質は、充分な機械的強度を有するSCr 420H浸炭焼入れ鋼であり、その保磁力は40Oeであって、前記減衰振動電流発生源44から供給される振動電流は、この値以上の最大振幅磁場を発生させる電流振幅値を有するようにその値が設定されている、(摘記事項カ)
トルク検出装置。」
2 引用文献2の記載事項及び周知の技術事項の認定
(1) 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開2000-9558号公報(以下「引用文献2」という。)には、次の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものである。
「【0048】図13は、このように軸に2層構造の磁歪スリーブを外ばめした構成のトルクセンサを例示する。この図13のトルクセンサは、前述のアメリカ特許第5520059号のトルクセンサを改良したものである。
【0049】このアメリカ特許第5520059号のトルクセンサは、たとえばセンサ軸としての非磁性のステンレス軸材に軟磁性磁歪材料であるニッケルマルエージング鋼からなる磁歪スリーブをきつく外ばめし、その後にこの磁歪スリーブを円周方向に磁化し、そして、この磁歪スリーブの外側に、軸への印加トルクに比例した磁歪スリーブからの漏れ磁束を検出するためのホール素子などのピックアップ素子を配したものである。このような構成において、センサ軸にトルクが印加されていない無負荷状態では、磁歪スリーブに導入されている円周方向の磁化は、周りには漏れ出さない。したがってこの状態ではホール素子からのトルク出力は発生しない。ところが、センサ軸にトルクが印加されると、磁歪スリーブに誘導されている円周方向磁化が、印加トルクの方向に対応して+45度方向もしくは-45度方向に磁化の向きを変える。これによって、トルクの大きさに比例した漏れ磁束が磁歪スリーブから発生し、ホール素子がこの漏れ磁束を検出することによってトルク出力が発生することになる。
【0050】そして、この場合は、センサにオーバーロードトルクが印加されると、それによって磁歪スリーブの磁歪現象のヒステリシスが発生し、それにもとづき検出出力にヒステリシス、換言すると過負荷後のゼロエラーが発生することになる。」
(2) 周知の技術事項の認定
前記(1)に示した引用文献2の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって周知の技術事項であったと認められる。(以下「周知の技術事項1」という。)
<周知の技術事項1>
「磁歪材料で構成されたトルクセンサにオーバーロードトルクが印加されると、それによって磁歪現象のヒステリシスが発生すること。」
第5 当審の判断
1 本件補正発明と引用発明の対比
(1) 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 構成Xの観点(装置について)
(ア)a 引用発明における「強磁性材料を用いて形成され「た」」「回転磁性体であるトルク伝達軸10」は、本願発明における「強磁性部品」に相当する。
b そして、引用発明における「不均一な外乱磁場」は、「回転磁性体に着磁むらが生じ[る]」ものであるから、本件補正発明における「強磁性部品に影響を及ぼす」「作用」に相当する。
(イ) 引用発明における「トルク検出装置」は、「回転磁性体に不均一な外乱磁場が印加され回転磁性体に着磁むらが生じても、回転磁性体全体を消磁することにより、回転磁性体全体を同一磁化状態(磁化零状態)とすることができ、磁気センサから出力されるオフセット出力変動を効果的に抑制可能であ[る]」から、前記(ア)を踏まえると、「強磁性部品に影響を及ぼす外部応力過負荷の作用を補正するための装置」の発明である本件補正発明と「トルク検出装置」の発明である引用発明は、「強磁性部品に影響を及ぼす作用を補正するための装置」の発明である点において共通する。
(ウ) そうすると、本件補正発明と引用発明は、構成Xの観点において次のaの点において共通し、後記bの点において相違する。
a 構成Xの観点での共通点
「強磁性部品に影響を及ぼす作用を補正するための装置」である点。
b 構成Xの観点での相違点
強磁性部品に影響を及ぼす作用が、
本件補正発明においては、「外部応力過負荷」であるのに対して、
引用発明においては、「不均一な外乱磁場」である点。
イ 構成Aの観点(強磁性部品について)
(ア) 構成Aは、「少なくとも1つの磁化領域を有する前記強磁性部品」を備えることである。
(イ) 引用発明における「回転磁性体であるトルク伝達軸10」は、「強磁性材料を用いて形成され」、「外乱磁場により着磁され[る]」ものであるから、磁化領域を有することは明らかであって、前記ア(ア)aも踏まえると、本件補正発明にいうところの「少なくとも1つの磁化領域を有する前記強磁性部品」であるといえる。
(ウ) したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「少なくとも1つの磁化領域を有する前記強磁性部品」を備える点。
ウ 構成Bの観点(磁場センサについて)
(ア) 構成Bは、「磁場センサ」を備えることである。
(イ) 引用発明における「磁気センサ12」は、本件補正発明における「磁場センサ」に相当する。
(ウ) したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「磁場センサ」を備える点。
エ 構成Cの観点(コイルについて)
(ア) 構成Cは、「前記磁場センサおよび/または前記強磁性部品の周りに配置された少なくとも1つのコイル」を備えることである。
(イ) 引用発明における「消磁コイル40」は、本件補正発明における「コイル」に相当する。
(ウ) また、引用発明における「消磁コイル40」は、「トルク伝達軸10の周囲に離隔的に巻き回して形成されて[いる]」ことから、本件補正発明における「前記磁場センサおよび/または前記強磁性部品の周りに配置された少なくとも1つのコイル」の要件を充足する。
(エ) そうすると、本件補正発明と引用発明は、次の要件を満たす構成を備える点において一致する。
「前記磁場センサおよび/または前記強磁性部品の周りに配置された少なくとも1つのコイル」
オ 構成Dの観点(コイルの機能について)
(ア) 構成Dは、「振動磁場および少なくとも2,387.31アンペア毎メートルの磁束密度を形成する磁場を発生させるコイル」を備えることである。
(イ) 本件補正発明における「2,387.31アンペア毎メートルの磁束密度」について、「アンペア毎メートル」は「磁界の強さ」の単位であって、「磁束密度」の単位ではなく不明確であるところ、審判請求書によると、「「30エルステッド」という記載を「2,387.31アンペア毎メートル」と補正しました」と説明されていることも踏まえ、「2,387.31アンペア毎メートルの磁束密度」という記載を、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された「30ガウスの磁束密度」であると正して検討する。
(ウ) 引用発明における「消磁コイル40」は、「減衰振動電流発生源44から」「減衰振動電流が供給される」ものであって、「減衰振動電流の値は、その電流によって回転磁性体内に発生する減衰振動磁場の最大振幅がトルク伝達軸10の保磁力以上となるよう設定する」ものである。
(エ) また、引用発明は、「トルク伝達軸10」の「保持力は40Oeであって」、「前記減衰振動電流発生源44から供給される振動電流は、この値以上の最大振幅磁場を発生させる電流振幅値を有するようにその値が設定されている」ことを踏まえると、引用発明における「消磁コイル40」には、少なくとも40Oe以上の減衰振動磁場が発生するものといえる。
(オ) そして、40Oeの磁場(又は「磁界」)は40ガウスの磁束密度に換算されることを踏まえると、引用発明における少なくとも40Oe以上の減衰振動磁場が発生する「消磁コイル40」は、本件補正発明における「振動磁場および少なくとも30ガウスの磁束密度を形成する磁場を発生させるコイル」に相当する。
(カ) そうすると、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「振動磁場および少なくとも2,387.31アンペア毎メートルの磁束密度を形成する磁場を発生させるコイル」を備える点。
(2) 一致点及び相違点
前記(1)の対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次のアに示す一致点において一致し、後記イに示す相違点において相違すると認められる。
ア 一致点
「強磁性部品に影響を及ぼす作用を補正するための装置であって、
少なくとも1つの磁化領域を有する前記強磁性部品と、
磁場センサと、
前記磁場センサおよび/または前記強磁性部品の周りに配置された少なくとも1つのコイルであって、
振動磁場および少なくとも2,387.31アンペア毎メートルの磁束密度を形成する磁場を発生させるコイルと、を備える、
装置」の発明である点。
イ 相違点
強磁性部品に影響を及ぼす作用が、
本件補正発明においては、「外部応力過負荷」であるのに対して、
引用発明においては、「不均一な外乱磁場」である点。
(3) 判断
ア 相違点について
(ア) 引用発明は、「従来技術では外乱磁場発生後の出力特性が大きなヒステリシスを呈することになったが、本発明の装置では、外乱磁場の発生の有無に関係なくその出力特性は安定したものとなる」とあるように(前記第4の1(1)キ)、トルク伝達軸10内に発生する磁歪量を検出するトルク検出装置において、外部磁場によるヒステリシスの影響を抑制するために、消磁コイル40によってトルク伝達軸10を磁化零状態に戻すことで出力特性を安定させるものであると認められる。
(イ) ここで、「磁歪材料で構成されたトルクセンサにオーバーロードトルクが印加されると、それによって磁歪現象のヒステリシスが発生すること」は周知の技術事項である(前記第4の2(2)の「周知の技術事項1」を参照)から、引用発明においてヒステリシスの発生要因として、「不均一な外乱磁場」だけでなく、「オーバーロードトルク」もあることは当業者には自明である。
(ウ) そうすると、引用発明において、「不均一な外乱磁場」の場合だけでなく、「オーバーロードトルク」(「外部応力過負荷」に相当する。)の場合も「トルク伝達軸10を磁化零状態に戻す」ようにして、相違点に係る本願発明の構成を備えるようにすることは、当業者が容易に想到し得たものである。
(エ) そして、本件補正発明が奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測・発見困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
(オ) したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張の内容
請求人は、審判請求の理由において、次のとおり主張している。
引用発明は、外乱磁場の影響の解消に向けられているのに対して、引用文献2に記載された技術事項は物理的応力によって引き起こされるヒステリシスに向けられているので、引用発明と引用文献2に記載された技術事項は、解決しようとする課題が非常に異なり、当業者には、引用発明の結果を解消するために引用文献2に記載された技術事項を参照する動機がない。
(イ) 請求人の主張についての検討
前記アで述べたとおり引用発明は、トルク検出装置に生じるヒステリシスの影響を抑制するために、消磁コイル40によってトルク伝達軸10を磁化零状態に戻すことで出力特性を安定したものとするものであるところ、ヒステリシスが生じる原因として、「オーバーロードトルク」もあることは周知の技術事項であるから、引用発明において、ヒステリシスが生じる原因であるトルクセンサにオーバーロードトルクが印加されたときについても「トルク伝達軸10を磁化零状態に戻す」ようにすることは、当業者にとって発想の飛躍を要することとは認められない。したがって、請求人の主張は採用できない。
第6 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2024-002341