特許拒絶査定不服審判
2023-017092
メタルマスク
- 審判番号
- 2023-017092
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-103152外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年10月10日
- 審決日
- 2024年08月06日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】マクセル株式会社
- 分類
- P18 .121-Z (B41N)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-103152「メタルマスク」拒絶査定不服審判事件〔令和 4年 8月19日出願公開、特開2022-121537〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成25年12月27日に出願した特願2013-273512号の一部を平成30年1月23日に新たな特許出願(特願2018-008777号)とし、その一部を平成31年1月11日に新たな特許出願(特願2019-003155号)とし、その一部を令和2年1月22日に新たな特許出願(特願2020-008554号)とし、その一部を令和3年4月22日に新たな特許出願(特願2021-072825号)とし、その一部を令和4年6月28日に新たな特許出願としたものであって、令和5年4月7日付けの拒絶理由の通知に対し、同年6月16日に意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、同月26日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。同年7月11日:原査定の謄本の送達)がなされ、これに対して同年10月10日に審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。
第2 令和5年10月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年10月10日にされた手続補正を却下する。
[理由]
1.補正の内容
令和5年10月10日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、下記(1)に示す本件補正前の(すなわち、令和5年6月16日に提出された手続補正書により補正された)特許請求の範囲を、下記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲へと補正することを含むものである。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
「 【請求項1】
一群のパターン開口(1)を備えたマスク版(5)と、前記パターン開口(1)に対応する一群の調整開口(3)を備えたスキージ版(6)とを備えているメタルマスクであって、
前記調整開口(3)には、開口内面同士を繋ぐ調整リブ(9)が形成され、
前記調整リブ(9)は、前記調整開口(3)を構成する辺に対して傾斜した状態で形成されており、
前記調整リブ(9)の幅寸法w2は、8μm以上20μm以下に設定され、
前記調整リブ(9)の傾斜角度は、20度以上70度以下に設定されていることを特徴とするメタルマスク。
【請求項2】
隣接する前記調整リブ(9)は、互いに逆向きに傾斜する状態で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のメタルマスク。
【請求項3】
前記調整リブ(9)は、第1リブ(9a)と第2リブ(9b)とで構成され、前記第1リブ(9a)および前記第2リブ(9b)が互いに交差する状態で配置されていることを特徴とする請求項1に記載のメタルマスク。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
下線は、補正箇所を示すために、合議体が付したものである。
「 【請求項1】
一群のパターン開口(1)を備えたマスク版(5)と、前記パターン開口(1)に対応する一群の調整開口(3)を備えたスキージ版(6)とを備えているメタルマスクであって、
前記マスク版(5)の厚み寸法t1は、6μm以上100μm以下に設定され、前記スキージ版(6)の厚み寸法t2は、3μm以上20μm以下に設定され、前記スキージ版(6)と前記マスク版(5)との厚み寸法の比率は、1:1.5から1:5に設定されており、
前記調整開口(3)には、開口内面同士を繋ぐ調整リブ(9)が形成され、
前記調整リブ(9)は、前記調整開口(3)を構成する辺に対して傾斜した状態で形成されており、
前記調整リブ(9)の幅寸法w2は、8μm以上20μm以下に設定され、
前記調整リブ(9)の傾斜角度は、20度以上70度以下に設定されていることを特徴とするメタルマスク。
【請求項2】
隣接する前記調整リブ(9)は、互いに逆向きに傾斜する状態で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のメタルマスク。
【請求項3】
前記調整リブ(9)は、第1リブ(9a)と第2リブ(9b)とで構成され、前記第1リブ(9a)および前記第2リブ(9b)が互いに交差する状態で配置されていることを特徴とする請求項1に記載のメタルマスク。」
2.補正の適否
(1)補正の目的について
前記1.(1)及び(2)によれば、本件補正は、本件補正前の請求項1における発明を特定するために必要な事項である「マスク版(5)」及び「スクリーン版(6)」について、「前記マスク版(5)の厚み寸法t1は、6μm以上100μm以下に設定され、前記スキージ版(6)の厚み寸法t2は、3μm以上20μm以下に設定され、前記スキージ版(6)と前記マスク版(5)との厚み寸法の比率は、1:1.5から1:5に設定されて」いるとの厚み寸法を限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
そうすると、補正事項は、特許法第17条の2第5項第2号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加の有無について
本件補正は、本願の願書に最初に添付した明細書における【0029】の記載に基づくものであり、新たな技術的事項を導入するものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。
3.独立特許要件について
前記2.(1)のとおり、本件補正は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするから、本件補正後の請求項1~3に係る発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について、以下、検討する。
(1)補正後の本願発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、本件補正後の請求項1の記載を再掲すると、次のとおりである。
「 【請求項1】
一群のパターン開口(1)を備えたマスク版(5)と、前記パターン開口(1)に対応する一群の調整開口(3)を備えたスキージ版(6)とを備えているメタルマスクであって、
前記マスク版(5)の厚み寸法t1は、6μm以上100μm以下に設定され、前記スキージ版(6)の厚み寸法t2は、3μm以上20μm以下に設定され、前記スキージ版(6)と前記マスク版(5)との厚み寸法の比率は、1:1.5から1:5に設定されており、
前記調整開口(3)には、開口内面同士を繋ぐ調整リブ(9)が形成され、
前記調整リブ(9)は、前記調整開口(3)を構成する辺に対して傾斜した状態で形成されており、
前記調整リブ(9)の幅寸法w2は、8μm以上20μm以下に設定され、
前記調整リブ(9)の傾斜角度は、20度以上70度以下に設定されていることを特徴とするメタルマスク。」
(2)引用文献1
ア 引用文献1の記載事項
原査定で引用文献1として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開平10-278444号公報(平成10年10月20日公開、以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は合議体が付した。以下同じ。)。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、厚膜ペースト印刷用スクリーン及びその製造方法に係り、特に、基板上に回路パターンを形成するため、ペーストの印刷塗布に用いるのに好適な厚膜ペースト印刷用スクリーン及びその製造方法に関する。」
(イ)「【0004】
【発明が解決しようとする課題】・・・
【0005】一方、縦横に編込まれたメッシュ線は、メタル薄板のペースト遮蔽膜に形成されるペースト透過用の開口部に重なって配設されるため、開口部を塞いでペーストの透過を阻害して、印刷かすれ等の印刷膜欠陥を生じる恐れがある。そこで、この欠陥を無くするために、スクリーンのメッシュ線材の線径としては、少なくとも開口幅の1/2以下である20μmから50μmの線径のメッシュを使用する。ここで、メッシュ線材の線径が細くなるに従って低下する機械的強度を補うため、メッシュの編込み密度を高め、印刷時のスキージの移動によるスクリーン変形に対する耐性を得るようにしている。」
(ウ)「【0010】本発明の目的は、印刷された膜の凹凸差が小さく、熱処理後の断線の低減する厚膜ペースト印刷用スクリーン及びその製造方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために、本発明は、基板表面に形成される回路パターンに応じた開口部を有するペースト遮蔽膜と、このペースト遮蔽膜を支持する遮蔽膜支持部材とからなり、上記ペースト遮蔽膜の上記開口部を透過して厚膜ペーストを基板表面に印刷して回路パターンを形成する厚膜ペースト印刷用スクリーンにおいて、上記遮蔽膜支持部材は、上記開口部に対応した位置において、上記基板表面と平行であるとともに、上記開口部の上面と接して、上記開口部を横切るように配設されている線状部を備えるようにしたものであり、かかる構成により、印刷された膜の凹凸差が小さく、熱処理後の断線を低減し得るものとなる。」
(エ)「【0018】スクリーンのペースト透過部100は、300mm角であり、ペースト遮蔽膜110と、遮蔽膜支持部材120とから構成されている。ペースト遮蔽膜110は、印刷する厚膜ペーストが通過するための開口部130を有している。図示の例では、開口部130は、
線幅50μmの開口部130Aと、線幅70μmの開口部130Bと、線幅90μmの開口部130Cと、線幅30μmの開口部130Dとを有している。これらの線幅は、製造したスクリーンを評価するためのものであり、実際のスクリーンにあっては、印刷すべき回路パターンに応じた線幅の開口部が形成される。開口部130は、実際の寸法よりも拡大して、模式的に図示している。
【0019】遮蔽膜支持部材120は、開口部130を有するペースト遮蔽膜110を支持する部材であり、従来の編込みメッシュの代わりに本実施形態において用いているものである。遮蔽膜支持部材120は、図2,図3,図4を用いて、詳細に後述するように、開口部130を幅方向に横切るように配設されたスリット状の線状部140を備えている。」
(オ)「【0022】図2に示すように、線幅の異なる開口部130A,130B,130C,130Dは、細長いスリット状となっている。これらのスリット状の開口部130A,130B,130C,130Dを幅方向に横切るように、遮蔽膜支持部材120の線状部140が等間隔でスリット状に配設されている。線状部140のピッチは、100μmであり、線状部140の幅は、20μmである。」
(カ)「【0025】(1)ペースト遮蔽膜の形成
ステンレス板を導電性下地板200とし、めっき膜の剥離処理を施した後、その表面に感光性めっきレジスト材を塗布し、仮硬化して300mm角で30μm厚さのレジスト膜を形成する。線幅が30μm,50μm,70μm,90μmのパターンを描いたホトマスクを介し、露光と現像により膜幅が30μm,50μm,70μm,90μmのレジスト膜205を残した(図4(a))。
【0026】次に、Ni電気めっき槽に浸漬し、導電性下地板200を電極として電気めっきによりレジスト膜間にレジスト膜と同じ高さまでNiめっき膜を電着析出させ、Niめっき膜210とレジスト膜205とから成る混成膜層215を形成した(図4(b))。
【0027】後述する処理を経て、最終的には、レジスト膜205の部分が、図1に示したペースト透過用の開口部130となり、Niめっき膜210の部分が、ペースト遮蔽膜110となる。
【0028】(2)ペースト遮蔽膜の支持部材の形成
作製したNiめっき膜210とレジスト膜205とから成る混成膜層215の表面全面に、蒸着等により金属薄膜220を形成した(図4(c))。金属薄膜220としては、クロム(Cr)を用い、その膜厚は、0.1μmとしている。
【0029】金属薄膜220の表面に感光性めっきレジスト材を塗布し、仮硬化して300mm角で20μm厚さのレジスト膜を形成する。最終的にペースト透過用開口部に当たる下地混成膜層のレジスト膜の上で、100μmピッチ(L1)で線幅(L2)が20μmのNiめっき膜が線状に残るようにパターンを形成したホトマスクを介し、レジスト膜を露光・現像し、島状のレジスト膜225を残した(図4(d))。島状のレジスト膜225のピッチL1が、100μmであり、レジスト膜が除去された部分の幅L2が20μmである。
【0030】続いて、金属薄膜220を電極として、さらにNi電気めっき槽に浸漬して、厚さ20μmのNiめっき膜230を、下地のNiめっき膜210とレジスト膜205とからなる混成膜層215の上に電着析出させた(図4(e))。
【0031】次いで、ステンレス板からなる導電性下地板200から、その表面に形成したNiめっき膜210,230とレジスト膜205,225の積層構成の膜を剥がし、レジスト膜205,225及びこの間に形成した金属薄膜220を溶解除去した。これによって、幅が30μm,50μm,70μm,90μmの開口部130を有するペースト遮蔽膜110と、開口部130の上方にNiめっき膜の線状物140を等間隔で配設された遮蔽膜支持部材120とからなるスクリーンのペースト透過部100が形成された(図4(f))。」
(キ)「【0036】横軸には、実施例1及び比較例における開口幅(30μm,50μm,70μm,90μm)をそれぞれ示している。開口部を透過して印刷される印刷膜は、開口部に対応する位置の中で、本実施形態における線状部若しくは比較例における編込みメッシュの下の位置では、線状部若しくはメッシュによってペーストの透過が阻害されるため、凹部となり、一方、線状部若しくはメッシュによってペーストの透過が阻害されない部分では、凸部となり、印刷膜は、凹凸部を有することになる。」
(ク)「【0040】また、Niめっき膜に所定の幅の開口部を設けるメタルスクリーンの構成としたため、寸法精度や位置合わせ精度を向上することができる。」
(ケ)「【図2】
[図:0001414989000001.jpg]
」
(コ)「【図3】
[図:0001414989000002.jpg]
」
(サ)「【図4】
[図:0001414989000003.jpg]
」
イ また、引用文献1について、以下の事項が把握できる。
(ア)前記ア(ケ)の図2には、遮蔽膜支持部材120において、開口部130A,130B,130C,130Dが図示される。また、前記ア(コ)の図3からは、遮蔽膜支持部材120には、開口があり、開口部130と辺を共通にした開口であること、遮蔽膜支持部材120の線状部140は、遮蔽膜支持部材120の開口内面同士を繋いでいること、及び、遮蔽膜支持部材120の開口を構成する辺に対して傾斜していないことが見て取れる。
前記ア(ウ)の「上記遮蔽膜支持部材は、上記開口部に対応した位置において、上記基板表面と平行であるとともに、上記開口部の上面と接して、上記開口部を横切るように配設されている線状部を備える」との記載も合わせれば、遮蔽膜支持部材120の開口は、ペースト遮蔽膜110の開口部130に対応していると認められる。
(イ)前記ア(カ)の「(1)ペースト遮蔽膜の形成」の記載によれば、30μm厚さのレジスト膜を形成し、レジスト膜と同じ高さまでNiめっき膜を電着析出させ、Niめっき膜210とし、最終的に、Niめっき膜210の部分が、ペースト遮蔽膜110となるから、ペースト遮蔽膜110は、30μmの厚さ寸法に設定されていると認められる。
(ウ)前記ア(サ)の図4(f)から、ペースト遮蔽膜110の上方に線状部140が設けられる遮蔽膜支持部材120が配置されることが、同図(e)から、Niめっき膜210の上方にNiめっき膜230とレジスト膜225が配置されることが見て取れる。
そして、前記ア(カ)の「金属薄膜220を電極として、さらにNi電気めっき槽に浸漬して、厚さ20μmのNiめっき膜230を、下地のNiめっき膜210とレジスト膜205とからなる混成膜層215の上に電着析出させた(図4(e))。・・・次いで、ステンレス板からなる導電性下地板200から、その表面に形成したNiめっき膜210,230とレジスト膜205,225の積層構成の膜を剥がし、レジスト膜205,225及びこの間に形成した金属薄膜220を溶解除去した。これによって、幅が30μm,50μm,70μm,90μmの開口部130を有するペースト遮蔽膜110と、開口部130の上方にNiめっき膜の線状物140を等間隔で配設された遮蔽膜支持部材120とからなるスクリーンのペースト透過部100が形成された(図4(f))。」との記載と前記(イ)のとおり、Niめっき膜210の部分が、ペースト遮蔽膜110となることをふまえれば、厚さ20μmのNiめっき膜230が、遮蔽膜支持部材120となることは明らかである。
したがって、遮蔽膜支持部材120は、20μmの厚さ寸法に設定されていると認められる。
(エ)前記(イ)、(ウ)より、遮蔽膜支持部材120とペースト遮蔽膜110との厚み寸法の比率は、20μm:30μmであるから、1:1.5に設定されていると認められる。
(オ)前記ア(イ)の発明が解決しようとする課題における「メッシュ線材の線径が細くなるに従って低下する機械的強度を補うため、メッシュの編込み密度を高め、印刷時のスキージの移動によるスクリーン変形に対する耐性を得るようにしている」との記載から、引用文献1に記載の厚膜ペースト印刷用スクリーンを用いる印刷時には、スキージの移動が行われることが把握できる。
(カ)前記ア(ケ)の図2において、開口部130A,130B,130C,130Dを構成する辺は遮蔽膜支持部材120全体の辺と略同一の方向に延びていることが把握できる。
ここで、厚膜ペースト印刷用スクリーンを用いた印刷技術分野において、一般に、スキージは方形のスクリーンの辺に沿った方向で摺動して移動することが技術常識であるところ、引用文献1に記載の厚膜ペースト印刷用スクリーンにおけるスキージの移動は、300mm角のスクリーンのペースト透過部を構成する遮蔽膜支持部材のいずれかの辺に沿った方向、すなわち、前記ア(ケ)の図2において、左右方向又は上下方向となるものと解される。そうすると、引用文献1記載の厚膜ペースト印刷用のスクリーンは、開口部130を構成する辺のいずれか一辺が延びる方向とスキージの摺動方向は略等しいものと把握できる。
また、前記(ア)より、遮蔽膜支持部材120の開口は、ペースト遮蔽膜110の開口部130と辺を共通にするから、同様に、引用文献1記載の厚膜ペースト印刷用のスクリーンは、遮蔽膜支持部材120の開口を構成する辺のいずれか一辺が延びる方向とスキージの摺動方向は略等しいものと把握できる。
(キ)前記ア(オ)の「線幅の異なる開口部130A,130B,130C,130Dは、細長いスリット状となっている。」との記載、及び、前記ア(ケ)の図2より、線幅の異なる開口部は、それぞれ独立した開口部であることが把握できる。
ウ 引用発明1
前記ア及びイより、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「 幅が30μm,50μm,70μm,90μmのそれぞれ独立したスリット状の開口部であって、厚膜ペーストが通過するための開口部を有するペースト遮蔽膜と、ペースト遮蔽膜の上方に配置され、Niめっき膜の線状部が等間隔で配設された遮蔽膜支持部材とからなる、300mm角のペースト透過部が形成された厚膜ペースト印刷用スクリーンであって、
印刷時にはスキージの移動が行われ、遮蔽膜支持部材の開口を構成する辺のいずれか一辺が延びる方向とスキージの摺動方向は略等しく、
遮蔽膜支持部材は開口を有し、遮蔽膜支持部材の開口は、ペースト遮蔽膜の開口部に対応しており、線状部は、遮蔽膜支持部材の開口内面同士を繋ぎ、線状部の下の位置では、線状部によってペーストの透過が阻害され、
Niめっき膜に所定の幅の開口部を設けるメタルスクリーンの構成であり、
ペースト遮蔽膜の厚み寸法は、20μmに設定され、遮蔽膜支持部材の厚み寸法は、30μmに設定され、遮蔽膜支持部材とペースト遮蔽膜との厚み寸法の比率は、1:1.5に設定されており、
線状部の幅は、20μmであり、
線状部は、遮蔽膜支持部材の開口を構成する辺に対して傾斜していない、
厚膜ペースト印刷用スクリーン」
(3)引用文献2
ア 引用文献2の記載事項
原査定で引用文献2として引用され、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった特開2005-032794号公報(平成17年2月3日公開、以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、部品実装基板を構成する基板にクリーム半田を印刷する印刷用マスク及びそれを用いた部品実装基板の製造方法に関するものである。」
(イ)「【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の請求項1に記載の印刷用マスクは、下面を基板に当接させ上面にスキージを摺動させてパターン孔を介して前記基板にクリーム半田を印刷する印刷用マスクであって、前記パターン孔の開口部内に前記スキージの摺動方向に対し傾斜して形成され前記開口部を複数に区画する1以上の連結部を備えた構成を有している。
【0021】
この構成により、以下のような作用が得られる。
【0022】
(1)パターン孔の開口部内にスキージの摺動方向に対し傾斜して形成され開口部を複数に区画する1以上の連結部が形成されているので、クリーム半田の印刷時に、連結部が形成されてない場合や連結部がスキージの摺動方向と平行方向に形成された場合と比較して、スキージが開口部に入り込もうと変形する印刷用マスクの肉厚方向の変形量を小さくすることができ、スキージが開口部内に入り込み難いので、基板に印刷されたクリーム半田がスキージで掻き出されたり抉られたりするのを防止することができ印刷欠陥の発生を防止することができる。
【0023】
(2)連結部がパターン孔の開口部内にスキージの摺動方向に対して傾斜して形成されているので、クリーム半田の印刷時に開口部内に入り込んだスキージの変形が、スキージの摺動に伴って連結部に沿って徐々に復元されるため、スキージの復元力によって印刷されたクリーム半田が抉られたり掻き出されたりするのを防止できる。連結部を有しなかったり連結部がスキージの摺動方向と平行方向や直交方向に形成されている場合は、開口部内に入り込んで変形したスキージが開口部の縁部で一気に復元するため、スキージの復元力が大きく印刷されたクリーム半田が掻き出され易いからである。」
(ウ)「【0026】
ここで、印刷用マスクとしては、ステンレス製等の金属製や合成樹脂製、ガラス製等で板状に形成されたものが用いられる。」
(エ)「【0035】
(1)連結部の傾斜角度が、スキージの摺動方向及び/又は部品の電極側面に対し20~70°好ましくは30~60°の角度で形成されているので、連結部で開口部を所望する大きさや数に区画することができ開口部の周部の機械的強度を高め耐久性に優れるとともに、変形したスキージが開口部内に入り込み難く、さらに変形したスキージの復元力を小さくすることができ、印刷されたクリーム半田が抉られたり掻き出されたりするのを防止できる。」
(オ)「【0049】
次に、印刷工程でパターン孔2を介して基板に印刷されたクリーム半田の上にIC,抵抗,コンデンサ等の電子部品を載置するとともに、パターン孔3を介してクリーム半田が印刷された基板の電極10に、連結部5を除いて印刷・形成されたクリーム半田の壁面11aと部品としてのシールドケース12の電極側面とが斜交するようにシールドケース12を載置する(部品載置工程、図2(b)参照)。」
(カ)「【0074】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2の効果に加え、
(1)連結部の傾斜角度が、スキージの摺動方向及び/又は部品の電極側面に対し20~70°好ましくは30~60°の角度で形成されているので、連結部で開口部を所望する大きさや数に区画することができ開口部の周部の機械的強度を高め耐久性に優れるとともに、変形したスキージが開口部内に入り込み難く、さらに変形したスキージの復元力を小さくすることができ、印刷されたクリーム半田が抉られたり掻き出されたりするのを防止でき印刷欠陥の発生を防止する印刷用マスクを提供することができる。」
イ 引用発明2
前記アより、引用文献2には、次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。
「下面を基板に当接させ上面にスキージを摺動させてパターン孔を介して前記基板にクリーム半田を印刷する金属製の印刷用マスクであって、前記パターン孔の開口部内に前記スキージの摺動方向に対し傾斜して形成され前記開口部を複数に区画する1以上の連結部を備え、
連結部の傾斜角度は、スキージの摺動方向に対し20~70°の角度で形成されており、
連結部を除いてクリーム半田は印刷・形成され、
連結部がスキージの摺動方向と平行方向や直交方向に形成されている場合は、開口部内に入り込んで変形したスキージが開口部の縁部で一気に復元するため、スキージの復元力が大きく印刷されたクリーム半田が掻き出され易いから、連結部がスキージの摺動方向に対して傾斜して形成されている構成により、クリーム半田の印刷時に開口部内に入り込んだスキージの変形が、スキージの摺動に伴って連結部に沿って徐々に復元されるため、スキージの復元力によって印刷されたクリーム半田が抉られたり掻き出されたりするのを防止でき、印刷欠陥の発生を防止することができる印刷用マスク」
(4)対比
本件補正発明1と引用発明1とを対比する。
ア 引用発明1の「ペースト遮蔽膜」は、「厚膜ペーストが通過するための開口部を有する」ものであるから、本件補正発明1の「マスク版」に相当する。また、引用発明1の「ペースト遮蔽膜」の「幅が30μm,50μm,70μm,90μmのそれぞれ独立したスリット状の開口部」の「開口部」は、本件補正発明1の「一群のパターン開口」に相当する。したがって、本件補正発明1の「マスク版」と引用発明1の「ペースト遮蔽膜」は、「一群のパターン開口を備えた」点で一致する。
イ 引用発明1の「厚膜ペースト印刷用スクリーン」は、スキージの移動が行われる印刷に用いられるものであり、引用発明1の「遮蔽膜支持部材」は、「ペースト遮蔽膜」の上方に配置されるから、スキージの移動が行われる厚膜ペースト印刷分野の技術常識をふまえれば、「遮蔽膜支持部材」がスキージ側にあることは明らかである。また、引用発明1の「遮蔽膜支持部材」は「開口を有」するから、本件補正発明1の「スキージ版」に相当する。
ウ 引用発明1の「遮蔽膜支持部材の開口」には、「線状部」が配設され、線状部の下の位置では、線状部によってペーストの透過が阻害されるから、「遮蔽膜支持部材の開口」を透過するペーストの量は調整されるといえる。
したがって、引用発明1の「遮蔽膜支持部材の開口」、「線状部」は、それぞれ、本件補正発明1の「調整開口」、「調整リブ」に相当する。
エ 引用発明1の「遮蔽膜支持部材の開口」は、「ペースト遮蔽膜の開口部」、すなわち、「幅が30μm,50μm,70μm,90μmのそれぞれ独立したスリット状の開口部」に対応しているから、前記ア~ウより、本件補正発明1の「スキージ版」と引用発明1の「遮蔽膜支持部材」は、「パターン開口に対応する一群の調整開口を備えた」ものである点で一致する。
オ 引用発明1の「厚膜ペースト印刷用スクリーン」は、「Niめっき膜に所定の幅の開口部を設けるメタルスクリーンの構成」であり、その材質及び構造からみて、本件補正発明1の「メタルマスク」に相当する。
カ 引用発明1の「線状部」は、「遮蔽膜支持部材の開口」の開口内面同士を繋ぐから、本件補正発明1の「遮蔽膜支持部材の開口」と引用発明1の「調整開口」は、「開口内面同士を繋ぐ部材が形成される」との概念で一致する。
キ 引用発明1の「ペースト遮蔽膜の厚み寸法」は、「30μmに設定され」るから、本件補正発明1の「マスク版(5)の厚みt1は、6μm以上100μm以下に設定され」るとの要件を満たし、引用発明1の「遮蔽膜支持部材の厚み寸法」は、「20μmに設定され」るから、本件補正発明1の「スキージ版(6)の厚み寸法t2は、3μm以上20μm以下に設定され」るとの要件を満たし、引用発明1の「遮蔽膜支持部材とペースト遮蔽膜との厚み寸法の比率」は、「1:1.5に設定されて」いるから、本件補正発明1の「スキージ版(6)とマスク版(5)との厚み寸法の比率は、1:1.5から1:5に設定されて」いるとの要件を満たす。。
ク 引用発明1の「線状部」は、「幅寸法」が「20μm」であるから、本件補正発明1の「調整リブ(9)の幅寸法w2は、8μm以上20μm以下に設定され」ているとの要件を満たす。
そうすると、本件補正発明1と引用発明1とは、
[一致点]
「一群のパターン開口を備えたマスク版と、前記パターン開口に対応する一群の調整開口を備えたスキージ版とを備えているメタルマスクであって、
前記マスク版の厚み寸法t1は、6μm以上100μm以下に設定され、前記スキージ版の厚み寸法t2は、3μm以上20μm以下に設定され、前記スキージ版と前記マスク版との厚み寸法の比率は、1:1.5から1:5に設定されており、
前記調整開口には、開口内面同士を繋ぐ調整リブが形成され、
前記調整リブの幅寸法w2は、8μm以上20μm以下に設定されているメタルマスク」
である点で一致し、以下の点で相違する。
[相違点]
本件補正発明1においては、「調整リブ」が、「調整開口を構成する辺に対して傾斜した状態で形成されており」、「傾斜角度は、20度以上70度以下に設定されている」のに対して、引用発明1の「線状部」は、遮蔽膜支持部材の開口を構成する辺に対して傾斜していない点。
(5)判断
上記相違点について検討する。
ア 引用発明2の「連結部」は、開口部を複数に区画するものであり、連結部を除いてクリーム半田が印刷・形成されるものであるから、印刷・形成されるクリーム半田の量は連結部により調整されているといえ、本件補正発明1の「調整リブ」に相当する。
そして、引用発明1の厚膜ペースト印刷用スクリーンと引用発明2の印刷用マスクは、ともに印刷による回路基板製造に用いるスクリーン部材という共通の技術分野に属し、かつまた、引用発明1の厚膜ペースト印刷用スクリーンにおいても、スキージの移動が行われるものであり、スキージの変形に起因する印刷欠陥の発生の防止は、内在する課題であることは当業者に明らかである。
したがって、引用発明1の線状部に対し、引用発明2のスキージの摺動方向に対し傾斜して形成され、傾斜角度は、スキージの摺動方向に対し20~70°の角度である連結部の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得るものである。
このとき、引用発明1のスキージの摺動方向と遮蔽膜支持部材の開口のいずれか一辺の延びる方向は略等しいから、線状部は、遮蔽膜支持部材の開口を構成する辺に対して傾斜して形成され、傾斜角度は、20~70°に設定されるものである。
したがって、引用発明1の線状部に対し、引用発明2のスキージの摺動方向に対し傾斜して形成される連結部を採用することで、上記相違点に係る発明特定事項となすことは当業者が容易に想到し得るものであるといえる。
イ そして、引用発明1のスクリーンの厚み寸法や線状部の幅寸法、引用発明2の傾斜角度が本件補正発明1と同様の寸法を有しており、スクリーンの強度や加工性、良好なパターン形成するのに好適な数値であることは把握できるから、本件補正発明1の奏する作用効果は、当業者が予測し得る程度のものにすぎない。
ウ 審判請求人は、令和5年10月10日に提出した審判請求書3.(2)において、「引用文献1および2には、今回補正した本願発明の構成、すなわち、マスク版の厚み寸法が6μm以上100μm以下に設定され、スキージ版の厚み寸法が3μm以上20μm以下に設定され、スキージ版とマスク版との厚み寸法の比率が1:1.5から1:5に設定された構成については、記載されて
いません。」と主張している。
しかしながら、前記(2)イ(イ)~(エ)での検討のとおり、引用文献1には、「マスク版の厚み寸法が6μm以上100μm以下に設定され、スキージ版の厚み寸法が3μm以上20μm以下に設定され、スキージ版とマスク版との厚み寸法の比率が1:1.5から1:5に設定された」構成について記載があるといえる。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。
エ したがって、本件補正発明1は、引用発明1及び2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件補正発明1は、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
4.補正の却下の決定のむすび
前記3.より、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記したとおり却下されたので、本願請求項1~3に係る発明は、本件補正前の令和5年6月16日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定されるものであり、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2の1.(2)で特定されるとおりである。
2.原査定における拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、令和5年4月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由1であって、要するに、この出願の請求項1~3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1記載の発明及び引用文献2記載の発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
引用文献1:特開平10-278444号公報
引用文献2:特開2005-32794号公報
3.引用文献
令和5年4月7日付けの拒絶理由通知書で引用された引用文献、及び、その記載内容は前記第2の3.(2)及び(3)に記載したとおりである。
4.対比・判断
本願発明は、前記第2の3.(1)で検討した本件補正発明から、「前記マスク版(5)の厚み寸法t1は、6μm以上100μm以下に設定され、前記スキージ版(6)の厚み寸法t2は、3μm以上20μm以下に設定され、前記スキージ版(6)と前記マスク版(5)との厚み寸法の比率は、1:1.5から1:5に設定されており、」との事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3.に記載したとおり、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明1及び引用発明2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明1及び引用発明2に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2023-017092