特許拒絶査定不服審判
2023-020112
植物ペプチドとその用途(II)
- 審判番号
- 2023-020112
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-556662
- 請求日
- 2023年11月28日
- 審決日
- 2025年09月12日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】シムライズ アーゲー
- 【請求人代理人】弁理士法人プロテクトスタンス
- 審判長/審判官
- 審判長 井上 典之
- 審判官 萩田 裕介
- 審判官 加々美 一恵
- 分類
- P18 .113-Z (A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-556662「植物ペプチドとその用途(II)」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年10月 1日国際公開、WO2020/192864、令和 4年 5月23日国内公表、特表2022-526141〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2019年(平成31年)3月22日を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は次のとおりである。
令和5年 1月19日付け:拒絶理由通知
令和5年 4月19日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 4月20日 :手続補正書の提出
令和5年 7月20日付け:拒絶査定
令和5年11月28日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1~8に係る発明は、令和5年11月28日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、その請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。
「【請求項2】
ヒトの皮膚または毛髪をブリーチによる損傷から防ぐための、オーツ麦種子由来の植物ペプチド画分の使用。」
なお、令和5年11月28日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2の記載は、拒絶査定時の令和5年4月20日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2の記載と同一であり、本願発明の特許要件についての判断は、令和5年11月28日受付の手続補正書による補正の適否に影響されないので、以下、当該補正の適否について判断することなく、本願発明について検討を行う。
第3 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
(新規性)この出願の請求項2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
<引用文献等一覧>
1.新原料紹介「Hydromoist L / Hydromoist O」,シムライズ株式会社,2008年4月,FRAGRANCE JOURNAL,page.109-110
第4 当審の判断
1 引用文献1の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1の記載事項
本願出願前に頒布された刊行物であり、原査定において引用文献1として引用された、新原料紹介「Hydromoist L / Hydromoist O」,シムライズ株式会社,2008年4月,FRAGRANCE JOURNAL,page.109-110(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審合議体が付したものであり、行数は空白行を算入しないものとした。
・摘記1a
「「Hydromoist L / Hydromoist 0 」
シムライズ株式会社
1.はじめに
Hydromoist L は青花ルビナス(学名 L. angustifolius,別名ノボリフジ(昇藤),ハウチワマメ(羽団扇豆))の種子を起源とし,この種子を粉砕/抽出したタンパク質分を加水分解して 2000 ダルトン以下に調製した物である。起源植物は日本において観葉植物として知られている。
一方,Hydromoist O はカラス麦(燕麦)を起源とし,Hydromoist L と同じくその種子を粉砕/抽出後タンパク質分を加水分解して 2,000 ダルトン以下にフィルトレーションしたものになっている。性状はどちらも淡黄色を帯びた透明からわずかに濁った液体である。今回,Hydromoist の毛髪における実験結果から,この新規原料の特徴を説明する。」
(109頁左欄1~16行)
・摘記1b
「2-2.ダメージ毛における修復能について
Hydromoist L / Hydromoist O のダメージ修復を確認するために,ダメージ毛に Hydromoist L または Hydromoist 0 を適用し,適用していないもの(コントロール)及び加水分解コムギタンパクとの破断強度の差を測定した。
Caucasian hair をランダムに採取して毛束を作成し(髪の長さ 10~20cm,毛束の重量 1g),ラウレス硫酸ナトリウム水溶液(濃度 15%,pH 5.5)で洗浄した。ブリーチを行った後,2%の Hydromoist L(もしくは Hydromoist 0,加水分解コムギタンパク)水溶液で3分間浸漬した。
その結果 Hydromoist L,Hydromoist O 共に破断強度の改善が見られることから,両 Hydromoist によるダメージ修復を確認することができた。また特筆すべきは,よくヘアケア製品に用いられる加水分解コムギタンパクに比べて,破断強度が改善されていた点である。このことは図2に紹介する SEM 解析においても確認することが可能である。
図2の一番左側はブリーチのみの毛髪繊維の様子である。ブリーチによるダメージでキューティクルがめくれ上がっている。一方,Hydromoist L, Hydromoist 0 に浸漬することでめくれ上がったキューティクルは Hydromoist のもつコート効果により平滑化が実現されている。これらは Hydromoist のもつ強い吸着能が影響していると考えられる。一方,同量の加水分解コムギタンパクを適用したところ,キューティクルのめくり上がりは改善されておらず,これら SEM 解析の結果からも Hydromoist の優位性を実証することがわかる。」
(109頁右欄18行~110頁左欄16行)
・摘記1c
「
[図:0001432412000001.jpg]
」
(110頁「図2」)
(2)引用発明
上記(1)に摘記した事項によれば、引用文献1には、Hydromoist O という原料が、カラス麦(燕麦)を起源とし、その種子の粉砕/抽出後にタンパク質を加水分解して 2,000 ダルトン以下にフィルトレーションしたものであること(摘記1a)、Hydromoist O によるダメージ毛の修復能を確認するために、Caucasian hair をランダムに採取して作成した毛束を洗浄してブリーチを行った後、2%の Hydromoist 0 水溶液で3分間浸漬した結果、よくヘアケア製品に用いられる加水分解コムギタンパクに比べて、破断強度の改善がみられ、SEM 解析では、Hydromoist 0 に浸漬することによって、ブリーチによるダメージでめくれ上がったキューティクルが、Hydromoist のもつコート効果により平滑化が実現されていることが確認されたこと(摘記1b~1c)、が記載されている。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
≪引用発明≫
「ブリーチを行った Caucasian hair に対し、破断強度を改善し、ブリーチによるダメージでめくれ上がったキューティクルをコート効果により平滑化して、ダメージを修復するための、カラス麦(燕麦)を起源とし、その種子の粉砕/抽出後にタンパク質分を加水分解し 2,000 ダルトン以下にフィルトレーションして調製した Hydromoist O の使用。」
2 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
「カラス麦(燕麦)」が「オーツ麦」の別名であることは明らかであり、タンパク質分を加水分解し 2,000 ダルトン以下にフィルトレーションしたものは、ペプチド画分といえるから、引用発明における「カラス麦(燕麦)を起源とし、その種子の粉砕/抽出後にタンパク質分を加水分解し 2,000 ダルトン以下にフィルトレーションして調製した Hydromoist O」は、本願発明における「オーツ麦種子由来の植物ペプチド画分」に相当する。
引用発明における「Caucasian hair」は、コーカソイド人の毛髪のことであるから、本願発明における「ヒトの毛髪」に相当する。
引用発明における「ブリーチ」及び「ダメージ」は、それぞれ本願発明における「ブリーチ」および「損傷」に相当する。
引用発明は「ブリーチを行った Caucasian hair に対し、破断強度を改善し、ブリーチによるダメージでめくれ上がったキューティクルをコート効果により平滑化して、ダメージを修復するため」のものであって、本願発明の「ヒトの皮膚または毛髪をブリーチによる損傷から防ぐための」ものとは、「ヒトの毛髪のブリーチによるダメージに関する」ものである点で共通している。
そうすると、本願発明と引用発明の間には、次の一致点及び一応の相違点があるものと認められる。
<一致点>
「ヒトの毛髪のブリーチによるダメージに関する、オーツ麦種子由来の植物ベプチド画分の使用。」
<一応の相違点>
本願発明が、「ヒトの毛髪をブリーチによる損傷から防ぐための」ものであるのに対し、引用発明は、「ヒトの毛髪のブリーチによるダメージを修復するための」ものである点。
3 判断
引用文献1の摘記1b~1cの記載によれば、引用発明においては、ヒトの毛髪にブリーチを行った後に、Hydromoist O を作用させて、その結果を確認しているところ、図2の最左の「ブリーチのみ」の毛髪では、ブリーチによるダメージで、キューティクルがめくれ上がっていることが看取できる一方、図2の右から2番目の「2% Hydromoist O」を作用させた毛髪では、キューティクルが平滑化されていることが確認できるし、破断強度の改善が見られることも測定されている。これらの結果によれば、本願発明における「オーツ麦種子由来の植物ベプチド画分」に相当する「Hydromoist O」は、ブリーチにより生じたダメージを有する毛髪に対し、それ以上の損傷を防ぐ効果を有していることが理解できる。
ここで、本願発明の実施態様に相当する、本願明細書に記載の製造例M1並びに実施例1及び実施例2(本願明細書【0128】~【0141】)を参照すると、「オーツ麦」の学名である「アベナサティバ」(本願明細書【0010】参照)の種子由来のペプチド画分である「ハイドロモイストO」が用いられた、いずれの実施例においても、「漂白」即ち「ブリーチ」された毛髪に対し、ハイドロモイストOを作用させて、引張特性(実施例1)及び浸透率(実施例2)が測定されており、毛髪のブリーチに先立ってハイドロモイストOを毛髪に作用させる態様については、具体的な実証データが示されていない。そして、本願明細書には「防ぐ」の意味について明示の定義は記載されていないが、上記の実施例の記載からみて、本願明細書において、「防ぐ」とは、好ましくない状態を、事前に生じさせないようにすることに加えて、当該状態が、事後にそれ以上は及ばないようにすることも意図されていることは明らかであるし、このような理解は、「防ぐ」との語の一般的な用法とも何ら矛盾するものではない。
そうすると、引用発明における「オーツ麦種子由来の植物ベプチド画分の使用」は、「ヒトの毛髪をブリーチによる損傷から防ぐための」ものであるといえるから、上記の一応の相違点は、実質的な相違点ではない。
したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。
4 審判請求人の主張について
(1)審判請求書における請求人の主張
審判請求人は、審判請求書において、次のとおり主張をしている。
「引用文献1には、Hydromoist L/Hydromoist Oがダメージ毛に満遍なく吸着したこと等が開示されています。ブリーチした毛髪がHydromoist L/Hydromoist Oで処理されるとし、ブリーチによる毛髪のダメージが修復されることを開示しています。
一方、請求項1の発明は、ブリーチ剤による損傷からヒトの皮膚および/または毛髪を事前に防ぐ(予防する)方法に関する発明です。
以上から、請求項1に係る発明は引用文献1に開示された発明とは異なり、新規性及び進歩性を有しています。」
(2)当審合議体の判断
上記第2のとおり、本願発明は、令和5年11月28日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2に係る発明であるのに対して、上記(1)の審判請求人の主張は、同手続補正書による補正によって「事前に」との事項が追加された、「ヒトの皮膚または毛髪をブリーチによる損傷から事前に防ぐ方法」を特定事項とする請求項1に係る発明に対するものであり、本願発明についてのものでないから、当該主張は、本願発明の新規性についての判断を左右するものではない。
また、上記(1)の審判請求人の主張を検討したとしても、上記3で説示したとおり、本願明細書及び図面において実際に開示されているのは、既にブリーチされた髪の房を用いた実験結果についてのものであり(実施例1及び2を参照。)、既にダメージを受けた毛髪に対して、ハイドロモイストOがどのような影響を及ぼすかについての記載はあるものの、毛髪をブリーチによる損傷から事前に防ぐことについては、具体的な実証データ等は示されていないから、当該主張は、そもそも本願明細書の裏付けのない事項についてのものであって、そのような主張を根拠に、本願発明に技術的な意義を認めることはできない。
第5 むすび
以上のとおり、本願請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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