特許拒絶査定不服審判
2023-015347
異常検出システム、異常検出方法、プログラム及び分電盤
- 審判番号
- 2023-015347
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-211837
- 請求日
- 2023年09月11日
- 審決日
- 2024年09月11日
- 公報発行日
- 2024年11月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】パナソニックIPマネジメント株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人北斗特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 濱野 隆
- 審判官 中塚 直樹
- 審判官 谷垣 圭二
- 分類
- P18 .561-Z (G01R) / P18 .575-Z (G01R) / P18 .121-Z (G01R)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条、特許法第17条の2第6項、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-211837「異常検出システム、異常検出方法、プログラム及び分電盤」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月27日出願公開、特開2021- 81397〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和元年11月22日の特許出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和5年1月24日付け:拒絶理由通知書
同年4月 3日 :意見書、手続補正書の提出
同年5月31日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年6月13日 :原査定の謄本の送達)
同年9月11日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和5年9月11日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年9月11日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 本件補正の内容
令和5年9月11日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲及び明細書について補正するものであって、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項10の記載を、後記(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1及び請求項10の記載に補正する補正事項を含むものである。下線は補正前の請求項1及び請求項10の記載からの補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項1及び請求項10
「【請求項1】
交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路の間に発生する交流電圧の高周波成分を減衰させる高域カットフィルタと、
前記高域カットフィルタを通過した交流電圧を測定する測定回路と、
前記測定回路によって測定された前記交流電圧に基づいて配線異常の有無を判定する判定回路と、を含み、
前記判定回路は、前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定する、
異常検出システム。」
「【請求項10】
交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路の間に発生する交流電圧の高周波成分を減衰させた後の交流電圧を測定する測定処理と、
前記測定処理によって測定された前記交流電圧に基づいて配線異常の有無を判定する判定処理と、を含み、
前記判定処理では、前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定する、
異常検出方法。」
(2) 本件補正後の請求項1及び請求項10
「【請求項1】
交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路の間に発生する交流電圧の高周波成分を減衰させる高域カットフィルタと、
前記高域カットフィルタを通過した交流電圧を測定する測定回路と、
前記測定回路によって測定された前記交流電圧に基づいて配線異常の有無を判定する判定回路と、を含み、
前記判定回路は、前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定し、前記配線異常が有ると判定した場合、前記電流波形に基づいて前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを更に判定する、
異常検出システム。」
「 【請求項10】
交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路の間に発生する交流電圧の高周波成分を減衰させた後の交流電圧を測定する測定処理と、
前記測定処理によって測定された前記交流電圧に基づいて配線異常の有無を判定する判定処理と、を含み、
前記判定処理では、前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定し、前記配線異常が有ると判定した場合、前記電流波形に基づいて前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを更に判定する、
異常検出方法。」
2 本件補正についての当審の判断
(1) 新規事項の追加について
ア 新規事項の追加の有無についての当審の判断の概要
本件補正後の請求項1の記載は、「判定回路」が「前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定し、前記配線異常が有ると判定した場合、前記電流波形に基づいて前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを更に判定する」という構成を特定するものであるところ、この点は、次のイにおいて詳細に説示するとおり、本願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるから、本件補正は特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
また、請求項10の記載に関しても同様である。
イ 新規事項の追加の有無についての当審の判断
(ア) パラレルアーク及びシリーズアークの判定について
当初明細書等の段落【0067】~【0068】、【0073】~【0074】、【0076】~【0077】には、次の事項が記載されている。(下線は当審による。以下同様である。)
「【0067】
アーク検出ユニット33により配線異常(アーク故障)の有無を検出するにあたっては、分電盤1に接続されることが想定される多様な分岐回路C1について、個別波形の特徴を抽出又は学習しておくのが好ましい。例えば、外部システムは、分岐開閉器4にコンセント22のみが接続されている分岐回路C1の個別波形の特徴、及び分岐開閉器4にコンセント22を介して電気機器24が接続されている分岐回路C1の個別波形の特徴を抽出又は学習する。また、例えば、外部システムは、分岐開閉器4に直接、電気機器23が接続されている分岐回路C1の個別波形の特徴を抽出又は学習する。もちろん、分岐回路C1に含まれる電気機器23,24の種類及び台数に応じて個別波形の特徴が異なってくるので、外部システムは、電気機器23,24の種類及び台数を互いに異ならせた多様な分岐回路C1について、個別波形の特徴を抽出又は学習する。
【0068】
さらに、外部システムは、分岐回路C1ごとに、電路(配線C11)の配線異常が生じていない正常時の個別波形の特徴と、電路(配線C11)の配線異常が生じている異常時の個別波形の特徴と、を抽出又は学習する。本実施形態では、電路(配線C11)の配線異常には、既に述べたように、パラレルアークの発生と、シリーズアークの発生と、が含まれる。」
「【0073】
したがって、外部システムは、分岐回路C1ごとに、パラレルアークの発生時の個別波形の特徴と、シリーズアークの発生時の個別波形の特徴と、を抽出又は学習する。異常時の個別波形の特徴の抽出又は学習は、例えば対象となる分岐回路C1に含まれる配線C11に、パラレルアーク又はシリーズアークが発生した状態を意図的に再現することで可能である。
【0074】
異常検出システム100の運用中においては、アーク検出ユニット33は、電流センサを用いて幹線回路C2を流れる電流の波形を示す情報を取得する。そして、アーク検出ユニット33は、メモリに記憶されている複数の個別波形の特徴から、幹線回路C2に流れる電流の波形の特徴と一致する1以上の個別波形の特徴の組み合わせを探索する。これにより、アーク検出ユニット33は、幹線回路C2に流れる電流の波形から、分岐回路C1ごとの電流の波形(個別波形)を推定する。そして、探索した1以上の個別波形の特徴の組み合わせの中に異常時の個別波形の特徴が含まれている場合、アーク検出ユニット33は、この異常時の個別波形の特徴に対応する分岐回路C1において配線C11の配線異常がある、と検知する。異常検出システム100では、アーク検出ユニット33の判定回路333が配線異常の有無を判定した判定結果を、アーク検出ユニット33が有するメモリに記憶する。」
「【0076】
なお、本実施形態において、出力部35が出力するアーク発生情報には、以下に列挙する全ての情報が含まれていてもよいし、全ての情報が含まれていなくてもよい。つまり、アーク発生情報には、以下に列挙する複数の情報のうち1以上の情報が含まれていればよい。
【0077】
アーク発生情報は、アーク故障の種別を示す種別情報を含み得る。本実施形態では、アーク故障の種別は、少なくともパラレルアーク及びシリーズアークの2つの種別を含んでいる。本実施形態では、アーク検出ユニット33は、上述のようにパラレルアークの発生の有無、及びシリーズアークの発生の有無を判定することが可能である。言い換えれば、アーク検出ユニット33の判定回路333は、電流センサを用いて取得した幹線回路C2に流れる電流の波形の情報に基づいて、アーク故障の種別を推定することができる。よって、出力部35は、判定回路333の判定結果に基づいて、配線C11でのアーク故障がパラレルアークの発生であるのか、又はシリーズアークの発生であるのかを出力(提示)することが可能である。」
(イ) 本件補正後の請求項の記載について
a 本件補正後の請求項1の記載は、「判定回路」が「前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定し、前記配線異常が有ると判定した場合、前記電流波形に基づいて前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを更に判定する」という構成を特定しており、「判定回路」が次の二つの判定(以下「配線異常判定」及び「故障種別判定」という。)を行うことを特定している。
<配線異常判定>
「前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定[する]」こと
<故障種別判定>
「前記電流波形に基づいて前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを」「判定する」こと
ここで、配線異常判定については、段落【0074】に開示があり、故障種別判定については、段落【0077】に開示があり、これらの判定を個別に見れば、前記(ア)で摘記した当初明細書等に記載されている構成と一応整合するように思われる。
b 一方、本件補正後の請求項1においては、前記二つの判定に関して、「前記配線異常が有ると判定した場合」に、「前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるか」について「更に」判定するものであることが特定されているから、故障種別判定は、配線異常判定の結果を前提としており、配線異常判定の結果が異常有であることを条件として行われるものであることが特定されている。
c しかしながら、前記(ア)で摘記した内容から明らかなように、当初明細書等においては、「パラレルアークの発生」と「シリーズアークの発生」は「配線異常(アーク故障)」に含まれる概念であって、これらの発生の検知は配線異常の検知であるとされており、当初明細書等の前記摘記箇所以外の記載を含め検討しても、配線異常判定の結果が異常有であることを条件として故障種別判定を行うことについては、当初明細書等に記載も示唆もされていない。
d したがって、本件補正後の請求項1は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
また、請求項10に関しても同様である。
ウ 新規事項の追加の有無の判断についてのまとめ
以上検討のとおり、本件補正は、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、特許法17条の2第3項の規定に違反するものである。
(2) 独立特許要件について
前記(1)において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反するものであるが、その点はひとまず措くとして、本件補正が仮に特許法17条の2第3項の規定に適合するものであって、かつ特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、検討を行っても、本件補正発明は、以下に詳述するとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができないから、本件補正はいずれにしても不適法なものである。
ア 本件補正発明
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
イ 引用文献等
(ア) 引用発明の認定
a 引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された特開2001-45652号公報(以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている。(下線は当審において付した。以下同様である。)
(a) 【請求項1】
「【請求項1】 分電盤の分岐ブレーカから、コンセント又は照明のスイッチに接続される屋内配線において、屋内配線の線間の電圧を測定するための電圧検出手段と、ケーブル又はコードで短絡したときに発生するアーク放電現象に対して、電圧検出点の電源側の配線インピーダンスと電圧検出点の負荷側の電圧検出点から短絡点までのインピーダンス比で決まるアーク特有の電圧波形に対して応答するアーク電圧検出装置と、アーク電圧検出装置からの信号を受けて電路を遮断する電路開閉手段と、を有することを特徴とするアーク検出器。」
(b) 【0001】
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、住宅配線システムにおけるコードのアーク短絡を検出し、火災を未然に防ぐアーク検出遮断器に関する。」
(c) 【0004】~【0005】
「【0004】一般に短絡による火災にまで至る典型的な現象としては、芯線間が短絡し短絡電流が流れる。この時、短絡点では大電流によって芯線が溶融し線間でアーク放電が発生する。このアーク放電は、非常に高温であり、芯線などの高温の溶融物を飛散させ、周りの着火物に着火し火災に至る。
【0005】芯線同志が接触することによって起こるアーク短絡は、電源コードや延長コードの他に、負荷機器の中や屋内配線でも起こる。また、片方の芯線が何らかの応力によって切れ、その切断間が接触すると、負荷がつながっている場合は電流が流れ、切断端間でアーク放電が発生する。このアーク発生現象は、電流経路が負荷と直列になっていることから、直列アークと呼ばれる。この直列アークが発生すると、負荷電流が大きい場合には、アークによる溶融飛散物によって、火災に至ることがある。」
(d) 【0016】~【0021】、【図8】
「【0016】アーク短絡の発生は、負荷機器に電流が流れていない時に起こる場合、と負荷が通電されるいる時に起こる場合がある。先ず、負荷に電流が流れているときの、コンセント口でのアーク電圧について検討する。
【0017】図8は、負荷機器に電流が流れているときにアーク短絡が発生したときのアーク放電発生中の等価回路を示す図である。負荷は、抵抗R3の抵抗負荷とし、短絡点から負荷機器までのコードのインピーダンスをR2、短絡点に流れる電流をi1、負荷に流れる電流をi2とすると以下の式5?式7が得られる。
E = i0 × ( R0 + R1 ) + Varc ・・式5
Varc = i2 × ( R2 + R3 ) ・・式6
V2 = i0 × R1 + Varc ・・式7
上記式5乃至式7から、コンセント口での電圧を求める。先ずコンセント口での電圧は、式5と式7の2式から求めることができるので、Varc = 30(V)、電源電圧E=141 Sinθとすると、コンセント口での電圧Vは以下の式8のようになる。
V =(141 Sinθ × R1 + 30 ×R0)/(R0 + R1)・・式8
この式8に示すコンセント口の電圧Vは、上述した負荷無しの時に求めた式4と同じである。これは、アーク短絡点での電圧は30Vと固定されているので、負荷に電流が流れていても、コンセント口で現れる電圧波形は、負荷が無い時と同じ電圧波形となる。従って、コードでのアーク短絡をコンセント口での電圧波形で検出する上で、負荷の通電状態を考える必要はない。
【0018】これまでの検討によって、コードにおけるアーク短絡現象は、電圧検出点の電源側のインピーダンスR0と電圧検出点からアーク短絡点までのインピーダンスR1の比によって決まる電圧波形が現れることを説明した。次に、インピーダンスR0とR1の比について、実際の屋内配線事情がどのような比になっているのかを述べる。
【0019】コンセント口から電源側を眺めたときのインピーダンスR0の具体的なものとして、柱上変圧器の捲き線抵抗、電柱から家までの引き込み線抵抗、電力計の内部抵抗、分電盤内では、ブレーカ内のバイメタルや接点間の抵抗、接続部分の接触抵抗、そして屋内配線の電線抵抗がある。これらの全ての抵抗を足したものがR0となる。このR0の値は、各家、各コンセントによって異なる。
【0020】実際の屋内配線システムにおけるR0の値は、コンセント口における無負荷時の電圧V0と、ある電流Iを流したときのコンセント口の電圧V1から求めることができる。R0を求める式を以下の式9に示す。
R0=(V0 - V1)/I・・式9
図9は、式9を用いて、一般家庭や集合住宅におけるコンセント口から電源側を眺めたときのインピーダンスの分布を示す図である。このグラフから、コンセント口より電源側のインピーダンスは、330~500mΩが最も多く、殆どは200mΩ以上のインピーダンスを持つことがわかっている。
【0021】一方、コンセント口より負荷側のインピーダンスについて検討してみる。コンセント口から負荷機器に配線される形式としては、電源コードや、テーブルタップから電源コードが配線される場合がある。電源コードは、これに接続される負荷機器の通電容量によって、電線の太さや長さが異なる。負荷機器の電流容量が7A以下の負荷機器は一般的に0.75mm2の塩化ビニルコードが使われ、7A以上のものに対しては、1.25mm2の許容電流15Aのコードが使用される。長さは、負荷機器によって異なり、短いものでは1m、長いものになると、例えば掃除機は5mのコードが使われている。」
「【図8】
[図:0001416110000001.jpg]
」
(e) 【0080】~【0088】、【図1】
「【0080】[第1の実施の形態]図1に示すアーク検出器1は、コンセントの電源側に配置され、電路には、電路を遮断する遮断装置4と電圧検出線、電源回路5が接続されて構成される。
【0081】電源回路5は、アーク短絡が発生したときの複雑な電圧波形でも安定した電圧をアーク検出器1に出力できる性能を有する。電源電圧のみでアーク検出器1への電圧を供給できない場合は、電源回路に接続された補助電源回路(不図示)で不足する電圧を供給する。
【0082】電圧検出は、1と2より検出する。1より検出した電圧は、テスト電圧分圧抵抗R4を通りノイズフィルタ2-1へと入力される。
【0083】テストボタン2-5は、アーク検出器1の動作確認をするためのスイッチで、テストボタン2-5が押されると、4の点には、電源電圧AC100Vがテスト電圧分圧抵抗によって分圧され、フィルタ2-1には電源電圧よりも低い電圧(正弦波形)が印加される。
【0084】フィルタ(ノイズ除去)2-1は、電源電圧の高周波ノイズを取り除くものである。屋内配線には、サージ電圧や負荷から発せられるノイズが重畳しており、これらのノイズをフィルタによって取り除き、アーク検出器1の回路保護や検出精度を上げる。
【0085】実効値演算回路2-2は、請求項2に示すフィルタ2-1を通過した電圧波形を実効値演算する。実効値演算することによって、アーク短絡発生時の電圧変化の激しい複雑な電圧波形を平均化した値を得ることができる。よって、この部分は、平均値演算回路でもよい。
【0086】比較器2-3は、実効値演算回路で得られた電圧値が所定の範囲に入っているかを検出する。電圧が所定の範囲に入っている場合には、引き外し回路2-4に信号を送るとともに、報知器6にも信号を送り、アーク短絡が発生したことを知らせる。
【0087】引きはずし回路2-4は、比較器2-3からの信号を受けて、電路遮断装置4を開極させる。引き外し回路2-4は、例えば電磁石で、コイルに電流を流し、電路遮断装置4を開極させる。
【0088】以上の回路構成で、この実施例のアーク検出器は、コンセント以下のアーク短絡、及び屋内配線の直列アークを検出、保護することができる。」
「【図1】
[図:0001416110000002.jpg]
」
b 引用文献1からの認定事項1
(a) 引用文献1の【0016】、【0017】、【0021】及び【図8】から、コンセント口と負荷機器の間に電源コードが配線されており、負荷機器に電流が流れているときに電源コードにおいてアーク短絡が発生する場合があることが読み取れる。
(b) 引用文献1の【0019】及び【図8】から、コンセント口と電源との間には、柱上変圧器、電柱から家までの引き込み線、電力計、分電盤、ブレーカ、屋内配線等があることが読み取れる。
(c) 引用文献1の【0001】から、電源コードのアーク短絡を検出するアーク検出器が読み取れる。
(d) 前記(a)~(c)を踏まえると、引用文献1には、次の事項が記載されていると認められる(以下「認定事項1」という)。
[認定事項1]
「コンセント口と負荷機器の間に電源コードが配線されており、
コンセント口と電源との間には、柱上変圧器、電柱から家までの引き込み線、電力計、分電盤、ブレーカ、屋内配線等があり、
負荷機器に電流が流れているときに電源コードにおいてアーク短絡が発生する場合に、電源コードのアーク短絡を検出するアーク検出器。」
c 引用文献1からの認定事項2
引用文献1の【図1】から、次の事項が記載されていると認められる(以下「認定事項2」という)。
[認定事項2]
「分電盤とコンセントの間の屋内配線ケーブルには、LINE線とNEUTRAL線があり、電圧検出のために接点1~4が設けられており、
接点1は、LINE線に設けられ、
接点2及び接点3はNEUTRAL線に設けられ、
接点4は、テストボタン2-5を介して接点1又は接点3とフィルタ(ノイズ除去)2-1との間に設けられていること。」
d 引用発明の認定
前記aの引用文献1の記載事項、前記bの認定事項1及び前記cの認定事項2を総合すると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
[引用発明]
「コンセント口と負荷機器の間に電源コードが配線されており、
コンセント口と電源との間には、柱上変圧器、電柱から家までの引き込み線、電力計、分電盤、ブレーカ、屋内配線等があり、
負荷機器に電流が流れているときに電源コードにおいてアーク短絡が発生する場合に、電源コードのアーク短絡を検出するアーク検出器であって、(認定事項1)
芯線同志が接触することによって起こるアーク短絡は、電源コードや延長コードの他に、負荷機器の中や屋内配線でも起こるものであり、
片方の芯線が何らかの応力によって切れ、その切断間が接触すると、負荷がつながっている場合は電流が流れ、切断端間でアーク放電が発生し、このアーク発生現象は、電流経路が負荷と直列になっていることから、直列アークと呼ばれるものであり、(【0005】)
アーク検出器1は、コンセントの電源側に配置され、電路には、電路を遮断する遮断装置4と電圧検出線、電源回路5が接続されて構成されており、(【0080】)
分電盤とコンセントの間の屋内配線ケーブルには、LINE線とNEUTRAL線があり、電圧検出のために接点1~4が設けられており、
接点1は、LINE線に設けられ、
接点2及び接点3はNEUTRAL線に設けられ、
接点4は、テストボタン2-5を介して接点1又は接点3とフィルタ(ノイズ除去)2-1との間に設けられており、(認定事項2)
電源回路5は、アーク短絡が発生したときの複雑な電圧波形でも安定した電圧をアーク検出器1に出力できる性能を有するものであり、(【0081】)
電圧検出は、接点1と接点2より検出され、接点1より検出した電圧は、テスト電圧分圧抵抗R4を通りノイズフィルタ2-1へと入力され、(【0082】)
テストボタン2-5は、アーク検出器1の動作確認をするためのスイッチで、テストボタン2-5が押されると、接点4の点には、電源電圧AC100Vがテスト電圧分圧抵抗によって分圧され、フィルタ2-1には電源電圧よりも低い電圧(正弦波形)が印加され、(【0083】)
フィルタ(ノイズ除去)2-1は、電源電圧の高周波ノイズを取り除くものであり、屋内配線には、サージ電圧や負荷から発せられるノイズが重畳しており、これらのノイズをフィルタによって取り除くものであり、(【0084】)
フィルタ2-1を通過した電圧波形を実効値演算する実効値演算回路2-2と、(【0085】)
実効値演算回路で得られた電圧値が所定の範囲に入っているかを検出し、電圧が所定の範囲に入っている場合には、引き外し回路2-4に信号を送るとともに、報知器6にも信号を送り、アーク短絡が発生したことを知らせる比較器2-3と、(【0086】)
を含む
アーク検出器1。(【0080】)」
(イ) 周知技術及び技術常識の認定
a 引用文献2の記載事項
原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2019/198791号(以下「引用文献2」という。)には、次の事項が記載されている。
(a) [請求項1]、[請求項10]
「[請求項1] 主幹ブレーカと複数の分岐ブレーカとを備え、前記主幹ブレーカに供給された電力が各分岐ブレーカに分岐されるように配線された分電盤であって、
各分岐ブレーカと一対一で対応し、各分岐ブレーカの二次側で発生した所定の周波数以上のノイズ成分に基づいて、検出信号を出力する複数のノイズ検出部と、
各ノイズ検出部から出力された前記検出信号を個別に受信し、前記検出信号が閾値以上の高周波ノイズであるか否かを判定する1つのプロセッサと、をさらに備えることを特徴とする分電盤。」
「[請求項10] 各ノイズ検出部と一対一で対応し、各ノイズ検出部の二次側の電流を検出する電流検出部と、
情報を記憶することが可能な記憶部と、をさらに備え、
前記記憶部には、各電流検出部の検出結果に基づいて測定された過去の電流波形データが記憶され、
前記プロセッサは、前記電流検出部の検出結果に基づいて測定された現在の電流波形データが、前記記憶部に記憶された過去の電流波形データと相違する場合に、前記ノイズ検出部から出力された検出信号が、閾値以上の高周波ノイズであるか否かを判定する請求項1に記載の分電盤。」
(b) [0001]~[0003]
「[0001] 本発明は、主幹ブレーカと複数の分岐ブレーカとを備えた分電盤に関し、特に、各分岐ブレーカの二次側で発生した異常な放電現象を検出することが可能な分電盤に関する。
…<中略>…
[0003] 上述したように、主幹ブレーカは、漏電遮断機能を備える。しかし、電気火災の原因の一つとして、トラッキングやショートによって生じる放電現象がある。主幹ブレーカの漏電遮断機能では、放電現象を検出し、電気火災を未然防止することはできない。そこで、従来からトラッキング、ショート及び断線などによって生じた放電現象を検出するための種々の構成が提案されている。」
(c) [0088]~[0093]、[図18]、[図19]
「[0088] このようなプロセッサ33の異常判定の処理について、図19を参照して詳細に説明する。図19は、ノイズ検出部20のノイズ波形と電流検出部60の電流波形とを示す。図19中の(a)~(d)は、閾値を超える高周波ノイズが検出されたタイミングを示す。
[0089] 図18において、ノイズ検出部20によって所定の周波数以上のノイズ成分が検出されるときには、ノイズ検出部20のコンデンサ22に電流が流れる。このため、図19の(a)~(d)に示されるように、高周波ノイズが検出されたタイミングでは、ノイズ波形と電流波形との両方に変化が生じる。
[0090] 図19のタイミング(a)において、プロセッサ33は、検出信号が閾値以上の高周波ノイズであると判定した場合、タイミング(a)の前後の二次電流の値の差を算出する。図19の電力波形によれば、タイミング(a)の前後の二次電流の値は、いずれも「0」であり、2つの二次電流の値に差異はない。このことは、高周波ノイズの発生時において、分岐ブレーカ12の二次側に電気的に接続された電気機器がOFF状態であったことを意味する。つまり、タイミング(a)において検出された高周波ノイズは、電気機器のスイッチングノイズではない。プロセッサ33は、タイミング(a)の前後の二次電流の値に差異がないと判定した場合、警報を鳴らすための制御信号を出力するか、又は分岐ブレーカ12を遮断するための制御信号を出力する。
[0091] 図19のタイミング(b)において、プロセッサ33は、検出信号が閾値以上の高周波ノイズであると判定した場合、タイミング(b)の前後の二次電流の値の差を算出する。図19の電力波形によれば、タイミング(b)の前の二次電流の値は「0」であり、タイミング(b)の後の二次電流の値は「0」より大きい。したがって、2つの二次電流の値には差異がある。このことは、高周波ノイズの発生時において、分岐ブレーカ12の二次側に電気的に接続された電気機器がOFF状態からON状態になったことを意味する。つまり、タイミング(b)において検出された高周波ノイズは、電気機器のスイッチングノイズである。プロセッサ33は、タイミング(b)の前後の二次電流の値に差異があると判定した場合、高周波ノイズ及び二次電流の監視を続ける。
[0092] 図19のタイミング(c)において、プロセッサ33は、検出信号が閾値以上の高周波ノイズであると判定した場合、タイミング(c)の前後の二次電流の値の差を算出する。図19の電力波形によれば、タイミング(c)の前後の二次電流の値は、いずれも「0」より大きく、2つの二次電流の値に差異はない。このことは、高周波ノイズの発生時において、分岐ブレーカ12の二次側に電気的に接続された電気機器がON状態であったことを意味する。つまり、タイミング(c)において検出された高周波ノイズは、電気機器のスイッチングノイズではない。プロセッサ33は、タイミング(c)の前後の二次電流の値に差異がないと判定した場合、警報を鳴らすための制御信号を出力するか、又は分岐ブレーカ12を遮断するための制御信号を出力する。
[0093] 図19のタイミング(d)において、プロセッサ33は、検出信号が閾値以上の高周波ノイズであると判定した場合、タイミング(d)の前後の二次電流の値の差を算出する。図19の電力波形によれば、タイミング(d)の前の二次電流の値は「0」より大きく、タイミング(d)の後の二次電流の値は「0」である。したがって、2つの二次電流の値には差異がある。このことは、高周波ノイズの発生時において、分岐ブレーカ12の二次側に電気的に接続された電気機器がON状態からOFF状態になったことを意味する。つまり、タイミング(d)において検出された高周波ノイズは、電気機器のスイッチングノイズである。プロセッサ33は、タイミング(d)の前後の二次電流の値に差異があると判定した場合、高周波ノイズ及び二次電流の監視を続ける。」
「[図18]
[図:0001416110000003.jpg]
」
「[図19]
[図:0001416110000004.jpg]
」
b 引用文献7の記載事項
当審において新たに引用する、本願出願より前に発行された特開2008-167645号公報(以下「引用文献7」という。)には、次の事項が記載されている(なお、本審決においては、審査段階及び前置審査も含めて、引用文献の参照番号を統一して用いるために、「引用文献7」の参照番号を用いた。)。
(a) 【0001】~【0005】
「【0001】
本開示は電気システムに関する。より具体的には、本開示は、交流(AC)電気システムにおける直列アークを検出するための方法およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
居住施設、商業、および工業用途における電気システムは、通常、電力源から電力を受信するためのパネルボードを含む。電力は、1つまたは複数の電流遮断器へ、例えば、これらに限定されないが、回路遮断器、トリップユニット、等へパネルボードを介して送信される。
【0003】
各電流遮断器は、指定された枝路へ電力を分配し、ここでこの各枝路は、1つまたは複数の負荷に電力を供給する。電流遮断器は、ある特定の枝路での特定の電力状態が所定の設定点に到達する場合、その特定の枝路への電力を遮断するように構成される。
【0004】
例えば、いくつかの電流遮断器は、地絡を起因として電力を遮断することができ、地絡電流遮断器(GFCI)として一般に知られている。地絡状態は、線路導体と中性線の間で不平衡な電流が流れる場合に生じ、この不平衡な電流は、接地に対する電流漏れまたはアーク故障によって引き起こされる可能性がある。
【0005】
他の電流遮断器は、アーク故障を起因として電力を遮断することができ、アーク故障電流遮断器(AFCI)として一般に知られている。アーク故障は、一般に2つの大きなカテゴリ、すなわち直列アークおよび並列アークに定義される。直列アークは、例えば、電流が単一導線内のギャップを渡って通過する場合に発生し得る。並列アークは、例えば、電流が2つの導線の間を通過する場合に発生し得る。」
(b) 【0011】~【0013】
「【0011】
図面、詳細には図1および2を参照すると、本開示による直列アークを検出するための方法を示し、この方法は全体として参照番号10によって示される。方法10は、パターン認識アプローチを使用して、電流遮断器にかかる感知された電流から複数の特徴を抽出し、直列アーク事象を検出するためにどの特徴または特徴のどの部分が使用可能かを判断する。いくつかの実施形態では、方法10は検出された直列アーク事象の原因(例えばコンプレッサアーク)が判断可能である。
【0012】
したがって、方法10は、直列アーク状態を示す電流信号パターンから、ノーマルおよびニューサンス状態を示す電流信号パターンの認識および区別に有用なツールを提供する。したがって、方法10は、データ主導のアプローチを使用してAC電気システムにおける直列アークを検出する。
【0013】
方法10はデータベース12を使用することを含む。データベース12は、多数の未処理信号(y1)、例えば、これらに限定されないが、AC電気システムの複数の状態から測定された波形を含む。代表的な実施形態では、未処理信号(y1)は、既知の形態で電流遮断器のバイメタルによって測定される。したがって、未処理信号(y1)は、バイメタルと直列である導体上の線電流を含む。」
(c) 【0034】~【0037】、【図9】
「【0034】
ここで図9を参照すると、直列アーク故障を検出するためのシステム30の例示の実施形態を示す。システム30は、信号ソース32、フィルタ34、およびマイクロプロセッサ36を含む。
【0035】
ソース32は、未処理の電流波形信号(y1)の任意の所望のソースであることが可能である。ある実施形態では、ソース32は上述のデータベース12であることが可能である。他の実施形態では、ソース32は電流遮断器のバイメタルである。
【0036】
システム30は、ソース32からフィルタ34を介して未処理信号(y1)を通過させる。フィルタ34は未処理信号(y1)を調整し、マイクロプロセッサ36にフィルタ済み信号(y2)を与えるように構成される。フィルタ34は、フィルタ回路、マイクロプロセッサ36中の常駐フィルタアルゴリズム(filtering algorithm resident)、および任意のその組み合わせであることが可能である。例えば、フィルタ34は、高域フィルタ、低域フィルタ、帯域フィルタ、信号処理アルゴリズム、および任意のその組み合わせであることが可能である。
【0037】
システム30は、フィルタ34からマイクロプロセッサ36へフィルタ済み信号(y2)を与える。マイクロプロセッサ36は、フィルタ済み信号(y2)から1つまたは複数の特徴(y3、y4、y5、y6)を生成するように構成される。さらに、マイクロプロセッサ36は、特徴(y3、y4、y5、y6)と未処理の電流波形信号(y1)の特定の状態を示す1つまたは複数の既知の特徴を比較するように構成される。例えば、マイクロプロセッサ36は、特徴(y3、y4、y5、y6)とマイクロプロセッサ中の1つまたは複数の所定の常駐特徴(features resident)を比較し、ここで、この1つまたは複数の所定の特徴は、ノーマル状態、ニューサンス状態、直列アーク状態、並列アーク状態、地絡、および任意のその組み合わせなどの状態を示すことが可能である。」
「【図9】
[図:0001416110000005.jpg]
」
c 周知技術1の認定
前記a及びbにおいて引用文献2、7の記載を摘記して例示したように、次の技術事項は、周知技術(以下「周知技術1」という。)であると認められる。
[周知技術1]
「電流波形に基づいて、断線などによる異常放電の有無を判定すること。」
d 技術常識1の認定
前記bにおいて引用文献7の記載を摘記して例示したように、次の技術事項は、技術常識(以下「技術常識1」という。)であると認められる。
[技術常識1]
「アーク故障には、電流が単一導線内のギャップを渡って通過する場合に発生し得る直列アークと、電流が2つの導線の間を通過する場合に発生し得る並列アークがあり、これらは、測定結果に基づいて判別することができること。」
ウ 対比・判断
(ア) 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
a 「高域カットフィルタ」について
(a) 引用発明においては、「コンセント口と電源との間には、柱上変圧器、電柱から家までの引き込み線、電力計、分電盤、ブレーカ、屋内配線等があり」としているところ、「柱上変圧器」や「電柱」は「家」の外部にあるから、引用発明の「電源」は、配電線より家庭に電力を供給する交流電源であることは自明であり、本件補正発明の「交流電源」に相当する。
(b) 引用発明の「負荷機器」は、本件補正発明の「負荷回路」に相当するところ、「コンセント口と負荷機器の間に電源コードが配線されており」、「コンセント口と電源との間には」「分電盤」があり、「分電盤とコンセントの間の屋内配線ケーブルには、LINE線とNEUTRAL線があり」としているから、引用発明の「電源」、「コンセント」及び「負荷機器」は、「屋内配線ケーブル」の「LINE線とNEUTRAL線」及び「電源コード」を介して電気的に接続されているといえる。 そうすると、引用発明の「屋内配線ケーブル」の「LINE線とNEUTRAL線」及び「LINE線とNEUTRAL線」に電気的に接続される「電源コード」は、本件補正発明の「交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路」に相当する。
(c) 前記(a)及び(b)を踏まえると、引用発明の「電源電圧の高周波ノイズ」は、本件補正発明の「交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路の間に発生する交流電圧の高周波成分」に相当する。
(d) 前記(c)を踏まえると、引用発明の「電源電圧の高周波ノイズを取り除く」「フィルタ(ノイズ除去)2-1」は、本件補正発明の「交流電圧の高周波成分を減衰させる高域カットフィルタ」に相当する。
(e) 以上より、本件補正発明と引用発明は、「交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路の間に発生する交流電圧の高周波成分を減衰させる高域カットフィルタ」を含む点において一致する。
b 「測定回路」について
(a) 引用発明の「電圧検出」においては、「LINE線に設けられ」た「接点1」と「NEUTRAL線に設けられ」た「接点2」より検出が行われ、「接点1より検出した電圧は、テスト電圧分圧抵抗R4を通りノイズフィルタ2-1へと入力され」、「フィルタ(ノイズ除去)2-1」によって、「電源電圧の高周波ノイズ」が取り除かれた「電圧」は、本件補正発明の「前記高域カットフィルタを通過した交流電圧」に相当する。
(b) そうすると、引用発明の「フィルタ2-1を通過した電圧波形を実効値演算する実効値演算回路2-2」は、本件補正発明の「前記高域カットフィルタを通過した交流電圧を測定する測定回路」に相当する。
c 「判定回路」について
(a) 引用発明の「アーク短絡」は、「芯線同志が接触することによって起こる」ものであり、「電源コードや延長コードの他に、負荷機器の中や屋内配線でも起こる」ものであり、「片方の芯線が何らかの応力によって切れ、その切断間が接触すると、負荷がつながっている場合は電流が流れ、切断端間でアーク放電が発生する」「直列アークと呼ばれる」「アーク発生現象」の場合もあることを踏まえると、引用発明における「アーク短絡」とは、配線の異常によって生じる事象を指すものであるといえる。
(b) 前記(a)を踏まえると、引用発明の「アーク短絡」は、本件補正発明の「配線異常」に相当する。
(c) また、引用発明の「実効値演算回路で得られた電圧値」は、本件補正発明の「前記測定回路によって測定された前記交流電圧」に相当する。
(d) そして、引用発明において「実効値演算回路で得られた電圧値が所定の範囲に入っているかを検出し、電圧が所定の範囲に入っている場合には、引き外し回路2-4に信号を送るとともに、報知器6にも信号を送り、アーク短絡が発生したことを知らせる」ことは、本件補正発明において「前記測定回路によって測定された前記交流電圧に基づいて配線異常の有無を判定する」ことに相当する。
(e) そうすると、引用発明の「実効値演算回路で得られた電圧値が所定の範囲に入っているかを検出し、電圧が所定の範囲に入っている場合には、引き外し回路2-4に信号を送るとともに、報知器6にも信号を送り、アーク短絡が発生したことを知らせる比較器2-3」は、本件補正発明の「前記測定回路によって測定された前記交流電圧に基づいて配線異常の有無を判定する判定回路」に相当する。
d 「異常検出システム」について
(a) 引用発明の「アーク検出器1」は「実効値演算回路で得られた電圧値が所定の範囲に入っているかを検出し、電圧が所定の範囲に入っている場合には、引き外し回路2-4に信号を送るとともに、報知器6にも信号を送り、アーク短絡が発生したことを知らせる」「比較器2-3」を含んで構成されているものであるから、配線の異常を検出して報知するシステムであるといえる。
(b) そうすると、引用発明の「アーク検出器1」は、本件補正発明の「異常検出システム」に相当する。
(イ) 一致点及び相違点の認定
上記(ア)の対比分析の検討結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次のaに示す一致点において一致し、後記bに示す相違点において相違する。
a 一致点
「交流電源と負荷回路との間を電気的に接続する複数の電路の間に発生する交流電圧の高周波成分を減衰させる高域カットフィルタと、
前記高域カットフィルタを通過した交流電圧を測定する測定回路と、
前記測定回路によって測定された前記交流電圧に基づいて配線異常の有無を判定する判定回路と、を含む、
異常検出システム。」である点。
b 相違点
本件補正発明においては、
「前記判定回路は、前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定し、前記配線異常が有ると判定した場合、前記電流波形に基づいて前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを更に判定する」のに対して、
引用発明においては、電圧を用いたアーク短絡検知が行われており、二種のアークを判別することはされていない点。
(ウ) 判断
a 電流波形に基づく配線異常判定について
(a) 前記イ(イ)cで周知技術1として認定したように、次の技術は周知技術である。
「電流波形に基づいて、断線などによる異常放電の有無を判定すること。」
(b) ここで、引用発明は、「負荷機器に電流が流れているときに電源コードにおいてアーク短絡が発生する場合」を想定しているから、電源と負荷機器との間を電気的に接続する電路に流れる電流に着目して、アーク短絡を検出しようとする契機はあるというべきである。
(c) したがって、引用発明において、アーク短絡の発生を実効値演算回路で得られた電圧値に基づいて検知する際に周知技術1を併用して、電流波形を測定して、電流波形に基づいて、アーク短絡の発生を検知するように構成することは、当業者が容易に想到し得たものである。
b 電流波形に基づく故障種別判定について
(a) 前記イ(イ)dで技術常識1として認定したように、次の技術は技術常識である。
「アーク故障には、電流が単一導線内のギャップを渡って通過する場合に発生し得る直列アークと、電流が2つの導線の間を通過する場合に発生し得る並列アークがあり、これらは、測定結果に基づいて判別することができること。」
(b) ここで、前記「直列アーク」及び「並列アーク」は、それぞれ本件補正発明の「シリーズアーク」及び「パラレルアーク」に相当する。
(c) そうすると、引用発明に周知技術1を併用して電流波形を測定して、電流波形に基づいて、アーク短絡の発生を検知する際、測定結果である電流波形に基づいて直列アークと並列アークを判別するように構成することは、上記技術常識に照らしてみると当業者にとって自明な設計事項にすぎない。
(d) そして、直列アークと並列アークの判別は、配線異常の存在を前提とするから、配線異常が有ると判定した場合にかかる判別が行われるようにすることは、当然のことである。
c 総合評価
前記a及びbの検討結果を総合的に勘案しても、前記相違点に係る本件補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。
また、本件補正発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著なものを認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明、周知技術1及び技術常識1に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
エ 請求人の主張について
(ア) 請求人の主張内容
審判請求書において、請求人は概略次のように主張している。
本件補正発明と引用文献1に記載された発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
本件補正発明では、判定回路が、電流波形に基づいて配線異常が有ると判定した場合、電流波形に基づいて配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを更に判定するのに対して、引用文献1には配線異常の種類を判定することについて記載も示唆もない点。
また、引用文献2-6にも、判定回路が、電路に流れる電流の電流波形に基づいて、配線異常がパラレルアークであるかシリーズアークであるかを判定する発明の特徴部分について記載もなければ示唆もない。
(イ) 請求人の主張についての検討
請求人の主張は、実質的には前記相違点に係るものである。
そして、前記ウ(ウ)bにおいて詳述したように、引用発明に周知技術1を併用して、電流波形を測定して、電流波形に基づいて、アーク短絡の発生を検知する際、電流波形に基づいて直列アークと並列アークを判別するように構成することは、当業者にとって自明な設計事項にすぎない。
したがって、請求人の前記主張は採用することができない。
オ 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
(3) 本件補正の適否のまとめ
前記(1)において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に違反しているから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
また、前記(2)において検討したとおり、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2において説示したとおり却下したので、本願の請求項1に係る発明は、令和5年4月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)の本件補正前の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の本願発明に係る拒絶の理由(進歩性の欠如)の概略は、次のとおりである。
本願発明は、下記の引用文献1に記載された発明、及び、下記の引用文献2~6に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.特開2001-45652号公報
引用文献2.国際公開第2019/198791号
引用文献3.特開昭54-106048号公報
引用文献4.特開平8-228428号公報
引用文献5.特開2015-143701号公報
引用文献6.特開2018-4394号公報
3 引用文献に記載された事項等
前記引用文献1、2には、それぞれ、前記第2の2(2)イ(ア)c及び(イ)cにおいて認定したとおりの引用発明及び周知技術1が記載されていると認められる。
4 対比
本願発明は、本件補正発明から「前記配線異常が有ると判定した場合、前記電流波形に基づいて前記配線異常がパラレルアークの発生であるかシリーズアークの発生であるかを更に判定する」との限定を省いたものである。
そうすると、前記第2の2(2)ウ(ア)の対比分析における検討結果も踏まえて、本願発明と引用発明を対比すると、
本願発明においては、
「前記判定回路は、前記電路に流れる電流の電流波形に更に基づいて、前記配線異常の有無を判定する」のに対して、
引用発明においては、電圧を用いたアーク短絡検知が行われている点で相違し、両者はその余の点で一致する。
5 判断
前記第2の2(2)ウ(ウ)aにおいて説示した判断を踏まえると、前記相違点に係る本願発明の構成は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に想到し得たものである。
また、本願発明の奏する作用効果としては、当該構成のものとして、引用発明及び周知技術1からは予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び周知技術1に基づいて当業者が容易に発明することができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-015347