特許拒絶査定不服審判
2023-014379
ゴム組成物及びタイヤ
- 審判番号
- 2023-014379
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2020-532408外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年08月25日
- 審決日
- 2025年08月22日
- 公報発行日
- 2025年11月28日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】住友ゴム工業株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人WisePlus
- 分類
- P18 .536-WZ (C08L) / P18 .537-WZ (C08L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項1号特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2020-532408「ゴム組成物及びタイヤ」拒絶査定不服審判事件〔令和2年1月30日国際公開、WO2020/022326〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、令和1年7月23日(優先権主張 平成30年7月27日)を国際出願日とする特許出願であって、その後の手続の概要は以下のとおりである。
令和5年1月18日付け:拒絶理由通知
同年3月24日 :意見書、手続補正書の提出
同年5月22日付け:拒絶査定
同年8月25日 :審判請求書の提出
令和7年3月 3日付け:拒絶理由通知
同年5月 8日 :応対記録(最初の応対日)
同年5月12日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
請求項1~11に係る発明は、令和7年5月12日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲により特定されるとおりのものであり、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のものである。
「【請求項1】
イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム及びスチレンブタジエンゴムを含有するゴム成分と、シリカと、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマーと、を含み、
前記ゴム成分100質量%中のイソプレン系ゴムの含有量が3~60質量%であり、
前記ゴム成分100質量%中のブタジエンゴムの含有量が5~70質量%であり、
前記ゴム成分100質量%中のスチレンブタジエンゴムの含有量が20~90質量%であり、
シリカの含有量が前記ゴム成分100質量部に対して5~150質量部であり、
水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、下記式(1)を満たす加硫ゴム組成物。
水湿潤時の動的弾性率E*/乾燥時の動的弾性率E*×100%≦90% (1)
(式中、動的弾性率E*は、歪2%、周波数10Hz、温度0℃の条件で測定される。水湿潤の条件は、以下のとおりである。)
(水湿潤の条件)
加硫ゴム組成物(縦30.0mm×横30.0mm×厚み4mm)を10時間、25℃の水に浸漬することにより、水湿潤後の加硫ゴム組成物を得る。」
第3 当審において通知した拒絶理由の概要
当審において、令和7年3月3日付けで通知した拒絶理由の概要は、この出願は、発明の詳細な説明(当審注:拒絶理由において「特許請求の範囲」と記載していたものの、特許法第36条第4項第1号の規定と「記」の「第3」の記載から、「発明の詳細な説明」の誤記であることは明らかである。)の記載が、請求項1~12に係る発明についてその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない(理由1)、請求項1~12に係る発明は、特許請求の範囲(当審注:拒絶理由において「発明の詳細な説明」と記載していたものの、特許法第36条第6項第1号の規定と「記」の「第4」の記載から、「特許請求の範囲」の誤記であることは明らかである。)に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない(理由2)というものを含むものである。
第4 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、次の記載がある。なお、下線は当審が付与したものである。
「[0004]
本発明者が鋭意検討した結果、シリカを用いたトレッド用ゴム組成物の技術的改良により、タイヤのウェットグリップ性能は大幅な進歩を遂げているが、ドライ路面からウェット路面、またはウェット路面からドライ路面への路面変化などが起こった場合のグリップ性能の変化については、重要な技術課題として残っており、改善の余地があることが判明した。
この点について、本発明者が鋭意検討した結果、従来のゴムは、水に濡れていないドライ状態から水に濡れた所謂ウェット状態に変化した場合において動的弾性率は変化しないか、または、水に冷やされて硬くなる性質があるため、路面との接触面積が低下し、その結果、ウェットグリップ性能はドライグリップ性能に対して低下する傾向があることが判明した。
このように、従来の技術では、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善するという点では改善の余地があることが判明した。
本発明は、前記課題を解決し、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できるゴム組成物及びタイヤを提供することを目的とする。」
「[0019]
本発明のゴム組成物は、水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、下記式(1)を満たす。これにより、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できる。
水湿潤時の動的弾性率E*/乾燥時の動的弾性率E*×100%≦90% (1)
[0020]
上記ゴム組成物は前述の効果が得られるが、このような作用効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
本発明のゴム組成物は、水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、上記式(1)を満たす。ここで、上記式(1)は、周波数10Hz、温度0℃における動的弾性率E*であり、乾燥時の動的弾性率E*に比べて、水湿潤時の動的弾性率E*が小さいことを意味する。すなわち、本発明のゴム組成物は、水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、上記式(1)を満たすものであるが、これは、乾燥時の動的弾性率E*に比べて、水湿潤時の動的弾性率E*が小さく、かつ、動的弾性率E*が水の存在によって可逆的に変化することを意味する。
従って、ドライ路面からウェット路面へ変化すると、ゴム組成物が水によって湿潤されてゴム組成物の動的弾性率E*が低下し、グリップ性能(ウェットグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ウェットグリップ性能)が得られる。これは、ウェット路面ではスリップしやすいためにドライ路面にとって好適な動的弾性率E*のままでは充分なグリップ性能が得られないが、動的弾性率E*が低下することにより、路面との接触面積が増大し、グリップ性能(ウェットグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ウェットグリップ性能)が得られるものと推測される。
一方、ウェット路面からドライ路面へ変化すると、水によって湿潤されたゴム組成物が乾燥されてゴム組成物の動的弾性率E*が上昇し、グリップ性能(ドライグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ドライグリップ性能)が得られる。これは、ドライ路面ではスリップしにくいためにウェット路面にとって好適な動的弾性率E*のままでは充分なグリップ性能が得られないが、動的弾性率E*が上昇することにより、ドライ路面にとって好適な動的弾性率となり、グリップ性能(ドライグリップ性能)の低下を抑制でき、良好なグリップ性能(ドライグリップ性能)が得られるものと推測される。
このように、水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、かつ、上記式(1)を満たすことにより、路面の水の状態(ウェット路面、ドライ路面)に応じた適切な動的弾性率E*が得られるため、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できる。
従って、本発明のゴム組成物は、水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、上記式(1)を満たすことにより、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できる。
なお、本明細書において、ゴム組成物の動的弾性率E*、tanδは、加硫後のゴム組成物の動的弾性率E*、tanδを意味する。また、tanδは、加硫後のゴム組成物に対し、粘弾性試験を実施することで得られる値である。」
「[0030]
なお、ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化は、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な化合物を配合することにより達成できる。より具体的に説明すると、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化を実現できる。これは、ヘテロ原子は、ゴム組成物中で、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能であり、この分子結合が形成された結果、水湿潤時のゴム組成物の動的弾性率E*が低下するためである。
更には、上記併用により、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム表面に上記ポリマーが析出することを抑制でき、グリップ性能(ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能)の低下も抑制できる。」
「[0032]
また、乾燥時の動的弾性率E*は、ゴム組成物に配合される薬品(特に、ゴム成分、充填材、オイルなどの軟化剤)の種類や量によって調整することが可能であり、例えば、軟化剤の量を増量すると乾燥時の動的弾性率E*は小さくなる傾向、充填材の量を増量すると乾燥時の動的弾性率E*は大きくなる傾向、硫黄の量を減らすと乾燥時の動的弾性率は小さくなる傾向がある。また、硫黄と加硫促進剤の配合量を調整することによっても、乾燥時の動的弾性率E*を調整できる。より具体的には、硫黄量を増やすと乾燥時の動的弾性率E*は大きくなる傾向、加硫促進剤を増やすと乾燥時の動的弾性率E*は大きくなる傾向がある。
[0033]
より具体的に説明すると、乾燥時の動的弾性率E*を所望の範囲内に調整した上で、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化を実現できると共に、乾燥時の70℃のtanδも所望の範囲内に調整することが可能となる。
[0034]
ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化を達成する他の手段としては、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化を達成することができる。
炭素-炭素2重結合を持たない場合、ゴム組成物が水に触れた際に水中へ遊離してしまい、可逆的な動的弾性率変化が得られない場合がある。」
「[0036]
なお、ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率変化、水による可逆的な動的弾性率変化を達成する他の手段としては、例えば、ゴム分子間のイオン結合を、水の添加・乾燥によって可逆的に切断、再結合させる方法が挙げられる。より具体的に説明すると、ハロゲンや酸素を有するゴムと、金属、半金属や窒素を有する化合物とを併用することにより、ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率変化、水による可逆的な動的弾性率変化を実現できる。これは、該併用により、金属、半金属や窒素由来のカチオンと、ハロゲンや酸素由来のアニオンとによりゴム分子間でイオン結合が形成され、そして、ゴム分子間において、水の添加によるイオン結合の開裂、水の乾燥によるイオン結合の再結合が生じる結果、水湿潤時には動的弾性率低下、乾燥時には動的弾性率上昇が起きるためである。」
「[0037]
以下、使用可能な薬品について説明する。
[0038]
ゴム成分としては、例えば、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ジエン系ゴムが好ましく、イソプレン系ゴム、BR、SBRがより好ましく、SBRが更に好ましい。イソプレン系ゴム、SBRの併用、BR、SBRの併用、イソプレン系ゴム、BR、SBRの併用も好ましい。」
「[0053]
イソプレン系ゴムとしては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR、変性NR、変性IR等が挙げられる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。IRとしては、特に限定されず、例えば、IR2200等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。改質NRとしては、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等、変性NRとしては、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等、変性IRとしては、エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等、が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、NRが好ましい。」
「[0056]
上記ゴム組成物は、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー(重合体)を含むことが好ましく、ジエン系ゴムと、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを含むことがより好ましい。
[0057]
炭素-炭素2重結合は、ジエン系ゴムと架橋されるために必要であり、その数は特に限定されない。
[0058]
ヘテロ原子は、炭素原子、水素原子以外の原子を意味し、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な限り特に限定されないが、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であることが好ましく、酸素原子、窒素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子がより好ましく、酸素原子が更に好ましい。
すなわち、ジエン系ゴムと、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子とを有するポリマー」とを含むことが好ましく、ジエン系ゴムと、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子、窒素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子とを有するポリマー」とを含むことがより好ましく、ジエン系ゴムと、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子とを有するポリマー」とを含むことが更に好ましい。なお、ヘテロ原子は、上記ポリマーの主鎖(骨格)中に存在することが好ましく、上記ポリマーの繰り返し単位中に存在することがより好ましい。
[0059]
酸素原子を含む構造、基としては、エーテル基、エステル、カルボキシ基、カルボニル基、アルコキシ基、ヒドロキシ基等が挙げられる。なかでも、エーテル基が好ましく、オキシアルキレン基がより好ましい。
窒素原子を含む構造、基としては、アミノ基(第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基)、アミド基、ニトリル基、ニトロ基等が挙げられる。なかでも、アミノ基が好ましく、第三級アミノ基がより好ましい。
ケイ素原子を含む構造、基としては、シリル基、アルコキシシリル基、シラノール基等が挙げられる。なかでも、シリル基が好ましく、アルコキシシリル基がより好ましい。
硫黄原子を含む構造、基としては、スルフィド基、硫酸基、硫酸エステル、スルホ基等が挙げられる。
リン原子を含む構造、基としては、リン酸基、リン酸エステル等が挙げられる。
ハロゲン原子を含む構造、基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などのハロゲノ基等が挙げられる。
[0060]
オキシアルキレン基とは、-(AO)-で表される基であり、-(AO)n-で表される基(nは繰り返し単位数)であることが好ましい。
オキシアルキレン基AO中のアルキレン基Aの炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、更に好ましくは6以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
[0061]
オキシアルキレン基AO中のアルキレン基Aは、直鎖状、分岐状のいずれでもよいが、より嵩高い構造となり、効果がより好適に得られるという理由から、分岐状が好ましい。
効果がより好適に得られるという理由から、AOは、炭素数2~3のオキシアルキレン基(オキシエチレン基(EO)、オキシプロピレン基(PO))、炭素数2~3のオキシアルキレン基に分岐鎖R4(R4は、ヘテロ原子を有してもよい炭化水素基を表す。)が結合した基であることが好ましく、炭素数2~3のオキシアルキレン基、炭素数2~3のオキシアルキレン基に分岐鎖R4が結合した基を併用することがより好ましい。なお、分岐鎖R4は、酸素原子に隣接する炭素原子に結合していることが好ましい。
[0062]
R4のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基は、特に限定されない。炭化水素基の炭素数は、好ましくは1以上、より好ましくは2以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。上記範囲内であると、効果がより好適に得られる傾向がある。
R4のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基としては、下記式で表される基が好ましい。
[化1]
[図:0001428492000001.jpg]
[0063]
-(AO)-で表される基は、下記式(B)で表される基であることが更に好ましく、下記式(A)~(B)で表される基であることが特に好ましく、下記式(C)で表される基を併用することもできる。
[化2]
[図:0001428492000002.jpg]
[0064]
上記ポリマーが2種以上のオキシアルキレン基を含む場合、オキシアルキレン基の配列はブロックでもランダムでもよい。
[0065]
上記ポリマーとしては、上記式(B)で表される基(構造単位)を含む重合体が好ましく、上記式(A)~(B)で表される基(構造単位)からなる重合体がより好ましい。
上記ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は、好ましくは2mol%以上、より好ましくは5mol%以上であり、好ましくは50mol%以下、より好ましくは40mol%以下、更に好ましくは30mol%以下、特に好ましくは20mol%以下である。」
「[実施例]
[0110]
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
[0111]
(製造例1)
窒素置換されたオートクレーブ反応器に、ヘキサン、1,3-ブタジエン、スチレン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテルを投入した。次に、ビス(ジエチルアミノ)メチルビニルシラン及びn-ブチルリチウムを、それぞれ、シクロヘキサン溶液及びn-ヘキサン溶液として投入し、重合を開始した。
撹拌速度を130rpm、反応器内温度を65℃とし、単量体を反応器内に連続的に供給しながら、1,3-ブタジエンとスチレンの共重合を3時間行った。次に、得られた重合体溶液を130rpmの撹拌速度で撹拌し、N-(3-ジメチルアミノプロピル)アクリルアミドを添加し、15分間反応を行った。重合反応終了後、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾールを添加した。次いで、スチームストリッピングにより脱溶媒を行い、110℃に調温された熱ロールにより乾燥して変性スチレンブタジエンゴム(SBR)を得た。
[0112]
(製造例2)重合体1(エポキシド・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
窒素置換したガラス製フラスコにジエチルエーテルを500mL添加し、内部温度を0℃以下に冷却した後、0.55mol/Lのトリイソブチルアルミニウム/ヘキサン溶液を10mL添加し、次いで0.55mol/Lのエタノール/ジエチルエーテル溶液を内部温度が10℃を超えないよう滴下した。次いで、エチレンオキサイドおよびアリルグリシジルエーテルをモル比で9/1、合計重量200gになるように混合した溶液を、内部温度が10℃を超えないように滴下した後、8時間撹拌させた。次いで、外部温度50℃/内部圧力1.0kPa以下で溶媒を減圧留去した後、残った残渣を水に懸濁させたものを濾過して、濾過残渣をTHFで洗浄した後、50℃/1kPa以下で恒量に達するまで減圧乾燥し、80%の収率で重合体1(赤外吸収スペクトルにて上記式(A)に由来するエーテル基および上記式(B)に由来する炭素-炭素のピークが確認された。重量平均分子量(Mw)は78万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
[0113]
(製造例3)重合体2(アミン・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
エチレンオキサイドをトリグリシジルアミンに変更した点以外は、製造例2と同様に操作して、80%の収率でトリグリシジルアミンとアリルグリシジルエーテルの重合体2(製造例2と同様の分析を行いアミンの吸収と炭素-炭素2重結合由来のピークを確認し、重量平均分子量は98万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
[0114]
(製造例4)重合体3(シリル・アリルグリシジルエーテル共重合体)の合成
エチレンオキサイドをトリエトキシシリルグリシジルエーテルに変更した点以外は、製造例2と同様に操作して、80%の収率でトリエトキシシリルグリシジルエーテルとアリルグリシジルエーテルの重合体3(製造例2と同様の分析を行いシラノールの吸収と炭素-炭素2重結合由来のピークを確認し、重量平均分子量は64万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%であった)を得た。
[0115]
(製造例5)重合体4(エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル・ハロゲン系モノマー共重合体)の合成
エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、エピクロロヒドリンをモル比で8/1/1になるように変更した以外は製造例2と同様に操作をして、78%の収率でエチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルおよびエピクロロヒドリンの重合体4(製造例2と同様の分析を行い上記式(A)に由来するエーテル基、上記式(B)に由来する炭素-炭素二重結合、エピクロロヒドリンに対応する炭素-塩素結合ピークを確認し、重量平均分子量は62万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%で、塩素-炭素結合の構造単位の含有量は11mol%であった)を得た。
[0116]
(製造例6)重合体5(エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル・リン系モノマー共重合体)の合成
エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、2-オキシラニルメチルリン酸ジメチルエステルをモル比で8/1/1になるように変更した以外は製造例2と同様に操作をして、78%の収率でエチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルおよび2-オキシラニルメチルリン酸ジメチルエステルの重合体5(製造例2と同様の分析を行い上記式(A)に由来するエーテル基、上記式(B)に由来する炭素-炭素二重結合、2-オキシラニルメチルリン酸ジメチルエステルに対応するリン-酸素結合ピークを確認し、重量平均分子量は67万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%で、リン-酸素結合の構造単位の含有量は11mol%であった)を得た。
[0117]
(製造例7)重合体6(エチレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル・硫黄系モノマー共重合体)の合成
エチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、2-[(メチルチオ)メチル]-オキシランをモル比で8/1/1になるように変更した以外は製造例2と同様に操作をして、78%の収率でエチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテルおよび2-[(メチルチオ)メチル]-オキシランの重合体6(製造例2と同様の分析を行い上記式(A)に由来するエーテル基、上記式(B)に由来する炭素-炭素二重結合、2-[(メチルチオ)メチル]-オキシランに対応する硫黄-炭素結合ピークを確認し、重量平均分子量は65万、ポリマー100mol%中の上記式(B)で表される基(構造単位)の含有量は8mol%で、硫黄-炭素結合の構造単位の含有量は11mol%であった)を得た。
[0118]
また、得られた重合体1~6について下記の評価を行った。
[0119]
<水不溶分の測定>
ガラス製フラスコにポリマーを1g計量し、水10mLを注ぎ、内部温度66℃で10分撹拌した後、内部温度25℃以下になるまで撹拌を続けた後、材質セルロース、メッシュサイズ5Cのろ紙により濾過し、濾紙に残った残渣を温度80℃、内圧0.1kPa以下で8時間乾燥し、重量を測定し、下記式により水不溶分を算出した。
水不溶分(質量%)=残渣の乾燥重量(g)/ポリマーの初期重量(g)x100
[0120]
<THF不溶分の測定>
ガラス製フラスコにポリマーを1g計量し、テトラヒドロフラン10mLを注ぎ、内部温度66℃で10分撹拌した後、内部温度25℃以下になるまで撹拌を続けた後、材質セルロース、メッシュサイズ5Cのろ紙により濾過し、濾紙に残った残渣を温度80℃、内圧0.1kPa以下で8時間乾燥し、重量を測定し、下記式によりTHF不溶分を算出した。
THF不溶分(質量%)=残渣の乾燥重量(g)/ポリマーの初期重量(g)x100
[0121]
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:上記方法で合成したSBR(変性S-SBR、スチレン量:25質量%、ビニル量:59モル%、非油展品)
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス量:97質量%)
NR:TSR20
重合体1:上記方法で合成した重合体1(水不溶分:96質量%、THF不溶分:96質量%)
重合体2:上記方法で合成した重合体2(水不溶分:82質量%、THF不溶分:96質量%)
重合体3:上記方法で合成した重合体3(水不溶分:92質量%、THF不溶分:92質量%)
重合体4:上記方法で合成した重合体4(水不溶分:97質量%、THF不溶分:97質量%)
重合体5:上記方法で合成した重合体5(水不溶分:95質量%、THF不溶分:95質量%)
重合体6:上記方法で合成した重合体6(水不溶分:94質量%、THF不溶分:96質量%)
シリカ:ローデシア社製のZEOSIL 1165MP(N2SA:160m2/g)
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のシースト9H(DBP吸油量115ml/100g、N2SA:110m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグッサ社製のSi75(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル:(株)ジャパンエナジー製のプロセスX-140(アロマ系プロセスオイル)
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
老化防止剤:フレキシス(株)製のサントフレックス13(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン(6PPD))
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン)
[0122]
(実施例及び比較例)
表1に示す配合処方にしたがい、(株)神戸製鋼所製の1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の薬品を160℃の条件下で4分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で4分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で12分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
[0123]
得られた加硫ゴム組成物を下記により評価した。結果を表1に示す。
[0124]
(動的弾性率E*)
(株)上島製作所製のスペクトロメータを用いて、試験用加硫ゴムシートに対して、歪2%、周波数10Hz、温度0℃の条件にてE*を測定した。
[0125]
(水湿潤時の動的弾性率E*)
縦30.0mm x 横30.0mm x 厚み4mmの加硫ゴム片を10時間、25℃の水に浸漬した後、1mmシートにしたものを、試験用加硫ゴムシートとした。
[0126]
(乾燥時の動的弾性率E*)
水湿潤後の加硫ゴム組成物を80℃、1kPa以下の条件で恒量になるまで減圧乾燥し、乾燥後の加硫ゴム組成物を得た。得られた乾燥後の加硫ゴム組成物の温度を25℃に戻した後、乾燥後の加硫ゴム組成物の動的弾性率E*を上記の方法で測定し、乾燥時の動的弾性率とした。
[0127]
(再水湿潤時の動的弾性率E*)
さらに、乾燥後の加硫ゴム組成物を25℃の水に10時間浸漬させることにより、再水湿潤後の加硫ゴム組成物を得た。得られた再水湿潤後の加硫ゴム組成物の動的弾性率E*を上記の方法で測定し、再水湿潤時の動的弾性率E*とした。
[0128]
(乾燥時のtanδ)
(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータVESを用いて、乾燥後の加硫ゴム組成物の70℃tanδを測定した。測定条件は以下のとおりである。
測定温度70℃、初期歪10%、動歪2%、周波数10Hz
[0129]
(低燃費性指数)
未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材と張り合わせ150℃/15分でプレス加硫することで、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を作成した。転がり抵抗試験機を用い、試験用タイヤを、リム(15×6JJ)、内圧(230kPa)、荷重(3.43kN)、速度(80km/h)で走行させたときの転がり抵抗を測定し、比較例1を100としたときの指数で表示した(低燃費性指数)。指数が大きいほど、低燃費性に優れることを示す。
[0130]
(ウェットグリップ性能指数)
未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材と張り合わせ150℃/15分でプレス加硫することで、カート用タイヤ(タイヤサイズ:11x1.10-5)を作成した。該カート用タイヤをカートに装着し、予め散水した路面の1周2kmのテストコースを8周走行して、グリップ性能を比較例1を100として、200点満点でテストドライバーが評価した。
[0131]
(ドライグリップ性能指数)
未加硫ゴム組成物をトレッド形状に成形して、他のタイヤ部材と張り合わせ150℃/15分でプレス加硫することで、カート用タイヤ(タイヤサイズ:11x1.10-5)を作成した。該カート用タイヤをカートに装着し、乾燥路面の1周2kmのテストコースを8周走行して、グリップ性能を比較例1を100として、200点満点でテストドライバーが評価した。
[0132]
[表1]
[図:0001428492000003.jpg]
[0133]
表1より、水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、上記式(1)を満たす実施例は、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能(ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の2つの指数の総和で表す)を改善できることが分かった。」
第5 理由1(実施可能要件)について
1 実施可能要件の考え方について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。
2 判断
本願発明において、発明の詳細な説明の記載が、上記1で示した考え方に基づき、実施可能要件を満たすといえるか否か検討する。
(1)発明の詳細な説明から読み取ることができる事項
発明の詳細な説明(上記第4)の記載から、以下の事項を読み取ることができる。
ア ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化は、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な化合物を配合することにより達成できる。より具体的には、ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、達成できること([0030])。
イ 「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」としては、「炭素-炭素2重結合と、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子とを有するポリマー」とを含むことが好ましく、酸素原子を含むものが更に好ましく([0058])、酸素原子を含む構造、基としては、エーテル基が好ましく、オキシアルキレン基がより好ましく([0059])、オキシアルキレン基としては、下記式(A)~(B)で表される基であることが特に好ましく、下記式(C)で表される基を併用することもでき([0060]~[0063])、そのようなポリマーとしては、下記式(B)で表される基(構造単位)を含む重合体が好ましいこと([0065])。
[化2]
[図:0001428492000004.jpg]
ウ ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用することにより、加硫の際に炭素-炭素2重結合によりポリマーがゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるため、ゴム成分からの上記ポリマーの遊離を抑制でき、ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化を達成することができること([0034])、また、「炭素-炭素2重結合」は、ジエン系ゴムと架橋されるために必要であること([0057])。
エ 実施例1~18として、ゴム成分としてSBR70重量部、BR20重量部、NR10重量部([0038]、[0053]、[0111]の記載からみて、これらはいずれも「ジエン系ゴム」であると認められる。)と、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」であって、式(B)で表されるオキシアルキレン基を有する重合体1~6を5~100重量部を配合したものが製造され、それらの加硫ゴムが式(1)を満たす一方、重合体1~6を配合しない比較例1の加硫ゴムは式(1)を満たさなかったこと([0110]~[0133])。
(2)検討
上記(1)イによれば、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」として好ましいのは「オキシアルキレン基」を有する重合体であるところ、実施例で用いられている重合体1~6は、いずれも「オキシアルキレン基」を有する重合体に相当するものである。
そして、「ヘテロ原子」は、[0058]の記載によれば窒素原子やハロゲン原子などでもよいから、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」には、実施例で用いられている重合体1~6以外にも、例えば製造例1の変性スチレンブタジエンゴム(炭素-炭素2重結合とアミノ基を有するポリマー)やクロロプレンゴム(炭素-炭素2重結合と塩素原子を有するポリマー)等も含まれることになるし、「ヘテロ原子」が酸素原子である場合に限っても、炭素-炭素2重結合を有するポリフェニレンオキシドのようなポリマーが含まれる。
しかしながら、発明の詳細な説明の比較例1は、本願発明の「炭素-炭素2重結合とアミノ基を有するポリマー」の範疇に包含される製造例1の「変性スチレンブタジエンゴム」を含むゴム組成物であるにもかかわらず、本願発明1の式(1)を満たしていない。また、上述のクロロプレンゴムやポリフェニレンオキシド等は、親水性が低い重合体であって、発明の詳細な説明の実施例で用いられる重合体1~6のような「オキシアルキレン基」を有する重合体とは、水に対する水素結合、イオン結合等の可逆的な分子結合のしやすさが全く異なるポリマーであるのが本願出願時の技術常識である。そうすると、実施例で用いられる重合体1~6のような「オキシアルキレン基」を有する重合体以外の「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」を配合した場合、実施例で用いられる重合体1~6と同じように式(1)を満たすと直ちに認められるものではなく、どのようにすれば式(1)を満たすことができるようになるのか明らかでない。
また、上記(1)アのとおり、「上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化は、水に対して水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能な化合物」の具体例として、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子ポリマー」が挙げられているところ、「水素結合」とは「水素原子より電気的に陰性な原子XとY(窒素,酸素,リン,硫黄,ハロゲンなど)が水素を介して弱く結びつく結合X-H-Yをいう.」であり(岩波理化学辞典第5版)、「電気陰性度」は、「酸素原子:3.5」、「窒素原子:3.0」、「ケイ素原子:1.8」、「硫黄原子:2.5」、「リン原子:2.1」、「フッ素原子:4.0」、「塩素原子:3.0」、「臭素原子:2.8」、「ヨウ素原子:2.5」である(岩波理化学辞典第5版)。
そうすると、ヘテロ原子によっては、ケイ素原子やリン原子のように、電気陰性度が酸素原子の場合と大きく異なるものもあることから、水素結合の強さも酸素原子の場合と大きく異なる蓋然性が高く、このようなヘテロ原子を有する重合体について、水に対する水素結合の可逆的な分子結合のしやすさについて、発明の詳細な説明の実施例で用いられる重合体1~6のような、オキシアルキレン基を有する重合体と同様の性質を示すと当業者が認識できるとはいえない。
また、オキシアルキレン基はイオン結合で水と可逆的な分子結合をしているわけではなく、イオン結合を利用した具体例はないため、「水素結合」とは作用機序の異なる「イオン結合」についても、同様の性質を示すと認識できない。
してみると、当業者は本願発明の式(1)を満たす条件を見いだすために期待される程度を超える試行錯誤を要するものと認められる。
したがって、発明の詳細な説明の記載は、本願発明のうち、「炭素-炭素2重結合とオキシアルキレン基を有するポリマー」を含まない部分について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。
3 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和7年5月12日提出の意見書において、式(1)を満たすことが当業者に実施可能であることに関して、概ね以下の点を主張している。
ア 意見書(4-4)
本願明細書[0038]に、上記ゴム成分として、スチレンブタジエンゴム(SBR)や、クロロプレンゴムを用いることが開示されており、[0044]等に、SBRは、非変性SBRでもよいし、変性SBRでもよいことが開示されていることから、「製造例1の変性スチレンブタジエンゴム(炭素-炭素2重結合とアミノ基を有するポリマー)やクロロプレンゴム(炭素-炭素2重結合と塩素原子を有するポリマー)」は、補正後の本願請求項1における構成の「ゴム成分」に属するものであることは本願明細書の開示から明らかである。
また、[0039]に上記ゴム成分の重量平均分子量(Mw)が15万以上400万以下であること、及び、[0066]に上記ポリマーの重量平均分子量(Mw)は、「好ましくは1万以上、より好ましくは5万以上、更に好ましくは10万以上、特に好ましくは50万以上であり、好ましくは300万以下、より好ましくは250万以下、更に好ましくは200万以下、特に好ましくは150万以下、最も好ましくは100万以下である。」ことが示されている通り、補正後の請求項1に記載の「ゴム成分」と、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」とが異なることは明らかである。
そのため、「ヘテロ原子」が窒素原子やハロゲン原子等である場合であっても、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」は、本願請求項1に記載の「ゴム成分」とは異なるものであることも明らかであり、本願明細書の比較例1は、明らかに補正後の本願請求項1における「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を含まない試験例である。
また、クロロプレンゴムは[0038]に開示の通りゴム成分であり、上記「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」に該当するものではないから、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマー」を配合するだけでは、重合体1~6と同じように式(1)を満たすと直ちに認められるものではないとの判断には承服できない。
イ 意見書(4-5)
補正後の請求項1において、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーにおけるヘテロ原子が「酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であること」に特定されたことにより、当業者であれば当然に、過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、式(1)を満たす加硫ゴム組成物を調製し、これを使用することができる。
上記主張ア、イについて検討する。
アについて
本願発明は、「加硫」ゴム組成物であるところ、発明の詳細な説明の段落【0030】等によれば、本願発明の炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーは、加硫の際にその「炭素-炭素2重結合」により、ゴム成分に架橋されてゴム成分に固定されるものである。そうすると、「加硫」ゴム組成物として、「ヘテロ原子」が「ゴム成分」由来であるのか、「ポリマー」由来であるかを区別することはできない。
発明の詳細な説明には、比較例1は、製造例1の変性スチレンブタジエンゴム(炭素-炭素2重結合とアミノ基を有するポリマー)を含むものの、ウェットグリップ性能指数100、ドライグリップ性能指数100であり、実施例1~14(ウェットグリップ性能指数112~122、ドライグリップ性能指数107~113)と比較して、ウェットグリップ性能及びドライグリップ性能が低いことが示されている。
そして、実施例10~14で用いられる重合体2~6は、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子を有するものの、共通して「オキシアルキレン基」を有するものである。
そうすると、ポリマーに、アミノ基のような窒素原子を有するものや、親水性の低い重合体であるクロロプレンゴムのような塩素原子を有するものを含んでも、発明の詳細な説明の実施例で用いられる重合体1~6のように、「オキシアルキレン基」を有する重合体と同様の性質を示すと当業者が認識できるとはいえない。
したがって、上記主張は採用することができない。
イについて
上記2の判断で述べたとおり、「炭素-炭素2重結合とオキシアルキレン基を有するポリマー」を用いない場合に、当業者は本願発明の式(1)を満たす条件を見いだすために期待される程度を超える試行錯誤を要するものである。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。
4 小括
よって、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が、本願発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第4項第1号に規定される要件を満たしていない。
第6 理由2(サポート要件)について
1 サポート要件の判断について
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と、本願明細書の発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも、当業者が、本願出願時の技術常識(以下「技術常識」という。)に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
2 本願発明が解決すべき課題について
発明の詳細な説明(特に[0004])の記載から、本願発明の課題は、ウェットグリップ性能、ドライブリップ性能の総合性能を改善できるゴム組成物及びタイヤを提供することであると認められる。
3 発明の詳細な説明の記載について
発明の詳細な説明(上記第4)[0030]には、「ジエン系ゴムを含むゴム成分と、炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーとを併用すること」によって「ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化を実現できる」、「グリップ性能(ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能)の低下も抑制できる。」の両方の事項を達成することが記載されている。
そして、「ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率E*変化、水による可逆的な動的弾性率E*変化を実現できる」ことにより、請求項1の式(1)を満たすことが記載されているといえる。。
また、「グリップ性能(ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能)の低下も抑制できる。」ことにより、本願発明の課題を解決することが記載されているといえる。
ここで、発明の詳細な説明には、上記「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」における「ヘテロ原子」の役割について、[0030]に「ヘテロ原子は、ゴム組成物中で、水に対して、水素結合、イオン結合などの可逆的な分子結合が可能であり、この分子結合が形成された結果、水湿潤時のゴム組成物の動的弾性率E*が低下するためである。」と記載され、また、[0058]には窒素原子やハロゲン原子なども含まれることが記載されている。
そして、上記第5の2(2)で述べたように、ヘテロ原子によっては、ケイ素原子やリン原子のように、電気陰性度が酸素原子の場合と大きく異なるものもあることから、水素結合の強さも酸素原子の場合と大きく異なる蓋然性が高いことは、本願出願時の技術常識といえる。
そうすると、上記技術常識に照らしても、発明の詳細な説明において「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」として「本願発明の課題」が解決できることが認識できるのは、実施例で用いられている重合体1~6のようにオキシアルキレン基を有する重合体のみである。
一方、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」には、実施例で用いられている重合体1~6のようにオキシアルキレン基を有する重合体以外にも、例えば製造例1の変性スチレンブタジエンゴム(炭素-炭素2重結合とアミノ基を有するポリマー)やクロロプレンゴム(炭素-炭素2重結合と塩素原子を有するポリマー)、さらには、炭素-炭素2重結合を含むポリマーの末端にただ1つ塩素原子を有するようなポリマー等も含まれるが、このようなヘテロ原子を有する重合体について、水に対する水素結合、イオン結合等の可逆的な分子結合のしやすさについて、発明の詳細な説明の実施例で用いられる重合体1~6のように、オキシアルキレン基を有する重合体と同様の性質を示すと当業者が認識できるとはいえない。
ところで、発明の詳細な説明には、「ゴム組成物の上記式(1)で表される動的弾性率変化、水による可逆的な動的弾性率変化を達成する他の手段」について、[0036]に「ゴム分子間のイオン結合を、水の添加・乾燥によって可逆的に切断、再結合させる方法が挙げられる。」と記載されている。
ここで、化学分野は、必ずしも仮説や理論通りに結果が得られるとは限らない技術分野であるから、仮説を立て、実験により実証することにより、仮説が正しいことが証明されるものであるところ、[0036]の手段は、理論が示されているものの、当該理論は、あくまでも仮説であって、何ら実証がされていない。
そうすると、[0036]の手段である場合、本願発明の課題を解決できるとはいえない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない。
4 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和7年5月12日提出の意見書において、本願発明が発明の詳細な説明に記載した範囲内のものといえるものであることに関して、概ね以下の点を主張している。
ア 意見書(5-2)、(5-3)
本願発明が解決すべき課題は、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できるゴム組成物及びタイヤを提供することであり([0004])、本願明細書[0019]及び[0020]段落にそのメカニズムの記載があり、ゴム組成物の式(1)を満たす条件として、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」を含むことが、補正後の本願請求項1において特定されたことにより、本願発明は、水によって可逆的に動的弾性率E*が変化し、上記式(1)を満たすことで上述の作用が発揮される結果、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善するという課題が解決されるものである。
本願実施例において、本願発明の構成とすることによって、ウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できることが明確に示されており、他方、「炭素-炭素2重結合とヘテロ原子を有するポリマーであって、前記ヘテロ原子が、酸素原子、窒素原子、ケイ素原子、硫黄原子、リン原子、及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子であるポリマー」を含まず、上記式(1)を満たさない場合には本願発明の課題を解決できないことが示されている(比較例1)ことから、補正後の請求項1における加硫ゴム組成物がウェットグリップ性能、ドライグリップ性能の総合性能を改善できることは発明の詳細な説明を見た当業者であれば理解可能といえる。
アについて検討する。
上記第5の2(2)で述べたように、ヘテロ原子によっては、ケイ素原子やリン原子のように、電気陰性度が酸素原子の場合と大きく異なるものもあることから、水素結合の強さも酸素原子の場合と大きく異なる蓋然性が高いことは、本願出願時の技術常識といえる。
また、発明の詳細な説明の比較例1は、本願発明の「炭素-炭素2重結合とアミノ基を有するポリマー」の範疇に包含される製造例1の「変性スチレンブタジエンゴム」を含むゴム組成物であるにもかかわらず、本願発明1の式(1)を満たしていない。そうすると、実施例の限られた例について式(1)を満たすことで課題解決できることは記載されていたとしても、式(1)を満たすことで本願発明の課題が解決できることが十分に開示されているとはいえない。
したがって、審判請求人の主張は採用することができない。
5 小括
よって、本願発明は、発明の詳細な説明に記載された発明ではないから、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない。
第7 むすび
以上のとおり、本願は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていないから、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-014379