特許拒絶査定不服審判
2023-012075
静電容量式センサ、静電容量検出方法、及び、静電容量検出プログラム
- 審判番号
- 2023-012075
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-558212
- 請求日
- 2023年07月19日
- 審決日
- 2024年05月27日
- 公報発行日
- 2024年06月28日
- 結論
- 原査定取消(特許/登録すべき)
- 当事者
- 【請求人】アルプスアルパイン株式会社
- 【請求人代理人】伊東 忠重
- 【請求人代理人】伊東 忠彦
- 審判長/審判官
- 審判長 篠塚 隆
- 審判官 野崎 大進
- 審判官 北元 健太
- 分類
- P18 .121-WY (G06F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-558212「静電容量式センサ、静電容量検出方法、及び、静電容量検出プログラム」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 5月27日国際公開、WO2021/100348、請求項の数(12)〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
原査定を取り消す。
本願の発明は、特許すべきものとする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)10月7日(優先権主張 令和元年11月19日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和4年10月28日付け:拒絶理由通知
令和5年 1月 4日 :意見書の提出
令和5年 4月20日付け:拒絶査定(原査定)
令和5年 7月19日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 原査定の概要
原査定の概要は、次のとおりである。
1.(進歩性)この出願の請求項1ないし13に係る発明は、下記の引用文献1および2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
1.特開2015-141557号公報
2.国際公開第2018/193711号
第3 本願発明
本願請求項1ないし12に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明12」という。)は、令和5年7月19日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。
「【請求項1】
検出電極を有するセンサ部と、
前記センサ部の検出電極の静電容量値を検出する静電容量検出部と、
前記静電容量値と基準値との差分値を計算する差分値計算部と、
前記差分値に対してフィルタパラメータを用いて時間方向のフィルタ処理を施すことによりフィルタ計算値を計算するフィルタ計算部と、
前記フィルタ計算部により計算されたフィルタ計算値に基づいて前記センサ部周辺の状態を判定する判定部とを有する静電容量式センサであって、
前記差分値計算部により計算された差分値に基づいて前記フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部を備え、
前記フィルタパラメータ計算部は、前記差分値計算部により計算された差分値が大きいほど、応答時間が短くなるように前記フィルタパラメータを計算することを特徴とする静電容量式センサ。
【請求項2】
前記静電容量検出部により検出された静電容量値に基づいて前記基準値を取得する基準値取得部をさらに含む、請求項1記載の静電容量式センサ。
【請求項3】
前記基準値取得部は、前記センサ部の検出電極に検出対象が近接していない場合の静電容量値を前記基準値として取得する、請求項2記載の静電容量式センサ。
【請求項4】
前記判定部は、前記フィルタ計算部により計算されたフィルタ計算値に基づいて前記検出電極と検出対象との近接度合いを判定する、請求項1乃至3のいずれか1項記載の静電容量式センサ。
【請求項5】
前記判定部は、前記フィルタ計算部により計算されたフィルタ計算値が予め決められた第1閾値以上の場合に検出対象がタッチ状態であると判定し、前記フィルタ計算値が前記第1閾値未満であるとともに予め決められた第2閾値以上の場合に前記検出対象がホバー状態であると判定し、前記フィルタ計算値が前記第2閾値未満の場合に近接無し状態であると判定する、請求項1乃至4のいずれか1項記載の静電容量式センサ。
【請求項6】
前記フィルタ計算部は、指数移動平均を用いた時間方向のフィルタ処理を施すことにより前記フィルタ計算値を計算する、請求項1乃至5のいずれか1項記載の静電容量式センサ。
【請求項7】
前記フィルタ計算部は、単純移動平均を用いた時間方向のフィルタ処理を施すことによりフィルタ計算値を計算する、請求項1乃至5のいずれか1項記載の静電容量式センサ。
【請求項8】
前記フィルタパラメータ計算部は、前記差分値計算部により計算された差分値が大きいほど、前記フィルタパラメータを大きくする、請求項6記載の静電容量式センサ。
【請求項9】
前記フィルタパラメータ計算部は、前記差分値計算部により計算された差分値が大きいほど、前記フィルタパラメータを小さくする、請求項7記載の静電容量式センサ。
【請求項10】
前記フィルタパラメータ計算部は、前記フィルタパラメータを計算する際に、あらかじめ定められた範囲内に前記フィルタパラメータが収まるように計算する、請求項1乃至9のいずれか1項記載の静電容量式センサ。
【請求項11】
検出電極を有するセンサ部の検出電極の静電容量値を検出する静電容量検出ステップと、
前記静電容量値と基準値との差分値を計算する差分値計算ステップと、
前記差分値に対してフィルタパラメータを用いて時間方向のフィルタ処理を施すことによりフィルタ計算値を計算するフィルタ計算ステップと、
前記フィルタ計算ステップにより計算されたフィルタ計算値に基づいて前記センサ部周辺の状態を判定する判定ステップとを有する静電容量検出方法であって、
前記差分値計算ステップにより計算された差分値に基づいて前記フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算ステップをさらに備え、
前記フィルタパラメータ計算ステップは、前記差分値計算ステップで計算された差分値が大きいほど、応答時間が短くなるように前記フィルタパラメータを計算するステップであることを特徴とする静電容量検出方法。
【請求項12】
検出電極を有するセンサ部の検出電極の静電容量値を検出する静電容量検出ステップと、
前記静電容量値と基準値との差分値を計算する差分値計算ステップと、
前記差分値に対してフィルタパラメータを用いて時間方向のフィルタ処理を施すことによりフィルタ計算値を計算するフィルタ計算ステップと、
前記フィルタ計算ステップにより計算されたフィルタ計算値に基づいて前記センサ部周辺の状態を判定する判定ステップとを有する処理をコンピュータに実行させる静電容量検出プログラムであって、
前記差分値計算ステップにより計算された差分値に基づいて前記フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算ステップをさらに前記コンピュータに実行させ、
前記フィルタパラメータ計算ステップは、前記差分値計算ステップで計算された差分値が大きいほど、応答時間が短くなるように前記フィルタパラメータを計算するステップであることを特徴とする、静電容量検出プログラム。」
第4 引用文献
1 引用文献1および引用発明
(1)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶理由に引用された引用文献1(特開2015-141557号公報)には、次の事項が記載されている(下線は、当審が付加した。以下同様。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータやスマートフォン等の情報機器において情報の入力に用いられる入力装置に係り、特に、指やペンなどの物体が操作面に近接した領域を特定し、その特定した領域に基づいて情報を入力する入力装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ノートブック型PCがタブレット端末、スマートフォンなどの情報機器の入力インターフェースとして、指やペンなどの物体の接触位置を検出するセンサを備えたタッチパッドやタッチパネルなどの装置が広く普及している。物体の接触位置を検出するセンサには、抵抗膜方式や静電容量方式など種々のタイプが存在するが、近年では、複数の接触箇所を検出する「マルチタッチ」への対応が可能な静電容量方式のセンサの採用が増加している。
【0003】
一般的な静電容量方式のセンサでは、格子状に配置された複数の電極において電極間の静電容量(相互容量)や電極とグランドとの間の静電容量(自己容量)が検出される。下記の特許文献1に記載される静電容量式タッチセンサは、X方向に沿って配線された複数のX電極と、Y方向に沿って配線された複数のY電極を有する(図1)。指などの操作体がX電極(Y電極)に近づくと、操作体とX電極(Y電極)との間に静電結合が形成され、X電極(Y電極)の静電容量が増加する。各X電極,Y電極における静電容量を監視することにより、操作体の近接位置を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】 特開2012-198607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に記載される入力装置では、対象座標及び対象座標の前後に取得された所定数の座標をもとに移動平均を行い、その平均値を補正座標に設定することによりノイズの除去が行われる。このようなノイズ除去を実施することにより、ノイズの多い環境下であっても座標のふらつき等が抑えられ、誤動作を生じ難くすることができる。しかしながら、センサの出力信号に対して移動平均などのノイズ除去処理を行うと、高域成分が減衰してしまうため、センサの入力に対する応答が遅くなる。特許文献1に記載される入力装置では、ノイズの少ない環境でも、ノイズの多い環境と同様なノイズ除去処理が行われるため、ノイズ除去処理による遅延が大きいという問題がある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ノイズの多い環境下ではノイズの影響を軽減できるとともに、ノイズの少ない環境下では応答遅延を少なくすることができる入力装置を提供することにある。」
イ 図1
[図:0001411095000001.jpg]
ウ 「【0019】
<第1の実施形態>
以下、本発明の第1の実施形態に係る入力装置について図面を参照しながら説明する。
図1は、第1の実施形態に係る入力装置の構成の一例を示す図である。図1に示す入力装置は、センサ部10と、処理部20と、記憶部30と、インターフェース部40を有する。
本実施形態に係る入力装置は、センサ部10に指やペンなどの物体を近接させることによって、その近接位置に応じた情報を入力する装置である。なお、本明細書における「近接」とは、接触した状態で近くにあることと、接触しない状態で近くにあることを両方含む。
【0020】
[センサ部10]
センサ部10は、操作面に分布した複数の検出位置において、指やペンなどの物体の近接状態をそれぞれ検出する。例えばセンサ部10は、物体の近接に応じて静電容量が変化するキャパシタ(容量性センサ素子)12がマトリクス状に形成されたセンサマトリクス11と、キャパシタ12の静電容量に応じた検出データを生成する検出データ生成部13と、キャパシタ12に駆動電圧を印加する駆動部14を有する。
【0021】
センサマトリクス11は、縦方向に延在した複数の駆動電極Lxと、横方向に延在した複数の検出電極Lyを備える。複数の駆動電極Lxは横方向へ平行に並び、複数の検出電極Lyは縦方向へ平行に並ぶ。複数の駆動電極Lxと複数の検出電極Lyが格子状に交差しており、互いに絶縁されている。駆動電極Lxと検出電極Lyの交差部付近に、容量性センサ素子としてのキャパシタ12が形成される。なお、図1の例では電極(Lx,Ly)の形状が短冊状に描かれているが、他の任意の形状(ダイヤモンドパターンなど)でもよい。
【0022】
駆動部14は、センサマトリクス11の各キャパシタ12に駆動電圧を印加する回路である。具体的には、駆動部14は、処理部20の制御に従って、複数の駆動電極LXから順番に一の駆動電極Lxを選択し、当該選択した一の駆動電極Lxの電位を周期的に変化させる。駆動電極Lxの電位が所定の範囲で変化することにより、この駆動電極Lxと検出電極Lyとの交差点付近に形成されたキャパシタ12に印加される駆動電圧が所定の範囲で変化し、キャパシタ12において充電や放電が生じる。
【0023】
検出データ生成部13は、駆動部14による駆動電圧の印加に伴ってキャパシタ12が充電又は放電される際に各検出電極Lyにおいて伝送される電荷に応じた検出データを生成する。すなわち、検出データ生成部13は、駆動部14の駆動電圧の周期的な変化と同期したタイミングで、各検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングし、そのサンプリングの結果に応じた検出データを生成する。
【0024】
例えば、検出データ生成部13は、キャパシタ12の静電容量に応じた電圧を出力する静電容量-電圧変換回路(CV変換回路)と、CV変換回路の出力信号をデジタル信号に変換し、検出データとして出力するアナログ-デジタル変換回路(AD変換回路)を有する。
CV変換回路は、駆動部14の駆動電圧が周期的に変化してキャパシタ12が充電又は放電される度に、処理部20の制御に従って、検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングする。具体的には、CV変換回路は、検出電極Lyにおいて正又は負の電荷が伝送される度に、この電荷若しくはこれに比例した電荷を参照用のキャパシタに移送し、参照用のキャパシタに発生する電圧に応じた信号を出力する。例えば、CV変換回路は、検出電極Lyにおいて周期的に伝送される電荷若しくはこれに比例した電荷の積算値や平均値に応じた信号を出力する。AD変換回路は、処理部20の制御に従って、CV変換回路の出力信号を所定の周期でデジタル信号に変換し、検出データとして出力する。
【0025】
なお、上述の例において示したセンサ部10は、電極間(Lx,Ly)に生じる静電容量(相互容量)を容量性センサ素子として利用し、その静電容量の変化によって物体の近接を検出するものであるが、この例に限らず、他の種々の方式によって物体の近接を検出してもよい。例えば、センサ部10は、物体の接近によって電極とグランドの間に生じる静電容量(自己容量)を検出する方式でもよい。自己容量を検出する方式の場合、検出電極に駆動電圧が印加される。
【0026】
[処理部20]
処理部20は、入力装置の全体的な動作を制御する回路であり、例えば、記憶部30に格納されるプログラムの命令コードに従って処理を行うCPUや、特定の機能を実現するロジック回路を含んで構成される。処理部20の処理は、全てCPUにおいてプログラムに基づいて実現してもよいし、その一部若しくは全部をロジック回路で実現してもよい。
【0027】
図1の例において、処理部20は、センサ制御部21と、ノイズ量算出部22と、フィルタ部24と、位置データ算出部25と、サンプリング周波数選択部26を有する。
【0028】
センサ制御部21は、駆動部14における駆動電極Lxの選択と駆動電圧の発生、並びに、検出データ生成部13における電荷のサンプリングと検出データの生成が適切に行われるように、これらの回路を制御する。
【0029】
センサ制御部21は、位置データ算出部25において位置データの算出に用いられる検出データを生成する場合(メインスキャン)、複数の駆動電極Lxから順番に一の駆動電極Lxを選択し、当該選択した一の駆動電極Lxと検出電極Lyとが形成するキャパシタ12に駆動電圧を印加するように駆動部14を制御する。
この場合、センサ制御部21は、サンプリング周波数選択部26によって選択された一定のサンプリング周波数で駆動電圧を変化させるように駆動部14を制御する。また、センサ制御部21は、駆動電圧の変化と同期したタイミングで各検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングし、当該サンプリングの結果に応じた各検出電極Lyの検出データを生成するように検出データ生成部13を制御する。
【0030】
他方、センサ制御部21は、ノイズ量算出部22おいて一の瞬時ノイズ量NDFの算出に用いられる複数の検出データを生成する場合(ノイズスキャン)、検出電極Lyへのノイズの入力がなければ検出電極Lyにおいて伝送される電荷がほぼ同一になるように、複数の検出データの各々を生成する際の駆動部14における駆動電圧の印加条件を設定する。これにより、複数の検出データに生じた差異に基づいて、検出電極Lyに入力されたノイズの大きさを算出することが可能となる。
【0031】
具体的には、センサ制御部21は、ノイズ量算出部22おいて一の瞬時ノイズ量NDFの算出に用いられる複数の検出データを生成する場合、複数の駆動電極Lxの少なくとも一部と検出電極Lyとが形成する複数のキャパシタ12に共通の駆動電圧を印加するように駆動部14を制御する。この場合の駆動電圧は、検出データ生成部13と同じサンプリング周波数で変化させてもよいし、一定に保ってもよい。あるいは、センサ制御部21は、複数の駆動電極Lxの少なくとも一部をフローティング状態にしてもよい。
センサ制御部21は、上述した駆動部14の制御と並行して、検出データ生成部13の制御も行う。すなわち、センサ制御部21は、各検出電極Lyにおいて伝送される電荷を一定の周波数でサンプリングし、当該サンプリングの結果に応じた検出データを各検出電極Lyについて生成するように検出データ生成部13を制御する。
【0032】
また、センサ制御部21は、瞬時ノイズ量NDFの算出に用いられる各検出電極Lyの検出データを生成する上述した動作を、所定の複数のサンプリング周波数についてそれぞれ複数回行うように、検出データ生成部13を制御する。これにより、各検出電極Lyの瞬時ノイズ量NDFの算出に必要な検出データが、複数のサンプリング周波数についてそれぞれ生成される。
【0033】
更に、センサ制御部21は、位置データ算出部25において位置データの算出に用いられる検出データを周期TREPORTごとに生成するとともに、ノイズ量算出部22において一の瞬時ノイズ量NDFの算出に用いられる複数の検出データを生成する動作を周期TREPORTごとに少なくとも1回行うように駆動部14及び検出データ生成部13を制御する。
【0034】
ノイズ量算出部22は、センサ部10において生成された検出データに含まれるノイズ量を算出する。具体的には、ノイズ量算出部22は、瞬時ノイズ量算出部221とノイズ量平均化部222を有する。
【0035】
瞬時ノイズ量算出部221は、センサ部10においてノイズ量の算出用に生成された複数の検出データに基づいて、それらの差異に応じた瞬時ノイズ量NDFを算出する。例えば、2つの検出データが生成される場合、瞬時ノイズ量算出部221は、2つの検出データの差の絶対値を瞬時ノイズ量NDFとして算出する。また、3以上の検出データが生成される場合、瞬時ノイズ量算出部221は、複数の検出データにおける最大値と最小値との差の絶対値や、複数の検出データのばらつきを示す統計量(分散、標準偏差など)を瞬時ノイズ量NDFとして算出してもよい。
【0036】
瞬時ノイズ量算出部221は、センサ部10に設けられた複数の検出電極Lyの各々について瞬時ノイズ量NDFの算出用に複数の検出データが生成されると、上述した複数の検出データの差異に応じた瞬時ノイズ量NDFの算出を検出電極Lyごとに行う。そして、瞬時ノイズ量算出部221は、複数の検出電極Lyについて算出した複数の瞬時ノイズ量NDFのうち、最も値の大きい瞬時ノイズ量(NDFMAX)を、瞬時ノイズ量の算出結果として選択する。
【0037】
また、瞬時ノイズ量算出部221は、複数のサンプリング周波数についてそれぞれノイズ量算出用の各検出電極Lyの検出データが生成されると、上述した瞬時ノイズ量NDFの算出をサンプリング周波数ごとに行う。
【0038】
ノイズ量平均化部222は、瞬時ノイズ量算出部221において繰り返し算出される瞬時ノイズ量(NDFMAX)に平均化処理を施す。例えば、ノイズ量平均化部222は、瞬時ノイズ量算出部221において算出された一連の所定数の瞬時ノイズ量(NDFMAX)を積算し、平均化されたノイズ量NVとして出力する。なお、瞬時ノイズ量NDFの平均化の方法は、単純な積算に限らず、任意の平均化処理によって行ってもよい。例えば、所定数の瞬時ノイズ量NDFを積算した結果に対して、更に適当な平均化処理(加重平均など)を施してもよい。
【0039】
フィルタ部24は、センサ部10から出力される位置データ算出用の検出データに含まれるノイズを、ローパスフィルタ処理によって減衰させる。これにより、検出データに含まれる高い周波数のノイズ成分が低減される。
【0040】
また、フィルタ部24は、ノイズ量算出部22において算出されたノイズ量NVに応じて、ローパスフィルタ処理におけるノイズの減衰特性を変更する。すなわち、フィルタ部24は、ノイズ量NVが大きいほどノイズの減衰量が大きくなり、ノイズ量NVが小さいほどノイズの減衰量が小さくなるように、ローパスフィルタ処理におけるノイズの減衰特性を変更する。具体的には、フィルタ部24は、ノイズ量NVが大きいほどカットオフ周波数が低くなり、ノイズ量NVが小さいほどカットオフ周波数が高くなるように、ローパスフィルタ処理の減衰特性を変更する。
フィルタ部24は、例えば次の式で表されるローパスフィルタ処理を行う。
【0041】
[図:0001411095000002.jpg]
【0042】
式(1)において、「SD」はローパスフィルタ処理の対象とする検出データ(対象値)を示し、「K」は係数を示し、「FSDOLD」はローパスフィルタ処理の直近の処理結果を示し、「FSDNEW」はローパスフィルタ処理の新たな処理結果を示す。式(1)によれば、フィルタ部24は、検出データSDに重み係数「1/K」を乗じて得た値と、ローパスフィルタ処理の直近の処理結果FSDOLDに重み係数「(K-1)/K」を乗じて得た値とを加算することにより、ローパスフィルタ処理の新たな処理結果FSDNEWを算出する。
【0043】
フィルタ部24は、式(1)における係数Kを、ノイズ量算出部22において算出されたノイズ量NVに応じて変更する。すなわち、フィルタ部24は、ノイズ量NVが大きくなるほど係数Kを増大させ、ノイズ量NVが小さくなるほど係数Kを減少させる。例えばフィルタ部24は、適当な比例定数αによって、係数Kをノイズ量NVに比例して変化させる。この場合、係数Kは次の式で表される。
【0044】
[図:0001411095000003.jpg]
【0045】
式(1),式(2)によれば、ノイズ量NVが大きくなるほど、検出データSDの重み係数「1/K」に対して直近の処理結果FSDOLDの重み係数「(K-1)/K」が相対的に増大するため、カットオフ周波数が低域にシフトして、ノイズの減衰量が大きくなる。また、ノイズ量NVが小さくなるほど、検出データSDの重み係数「1/K」に対して直近の処理結果FSDOLDの重み係数「(K-1)/K」が相対的に減少するため、カットオフ周波数が高域にシフトし、ノイズの減衰量が小さくなる。
【0046】
位置データ算出部25は、センサ部10から出力される複数の検出位置における検出データに基づいて、物体の近接位置を示す位置データを算出する。例えば、位置データ算出部25は、センサ部10の検出結果に基づいて、操作面上の各位置において物体が近接しているか否かを示す2次元データを生成し、記憶部30に格納する。位置データ算出部25は、この2次元データに基づいて、物体が近接している操作面上の領域を特定し、その領域の位置を示す座標(例えば領域の重心の座標)を位置データとして算出する。
【0047】
サンプリング周波数選択部26は、所定の複数のサンプリング周波数についてそれぞれノイズ量算出部22により算出されたノイズ量NVに応じて、ノイズが相対的に最も小さいサンプリング周波数を選択する。サンプリング周波数選択部26において低ノイズのサンプリング周波数が選択されると、フィルタ部24は、当該選択されたサンプリング周波数について算出されたノイズ量NVに応じて、ローパスフィルタ処理の減衰特性の変更を行う。また、センサ制御部21は、位置データ算出部25において位置データの算出に用いられる検出データを生成する場合(メインスキャン)、当該選択されたサンプリング周波数で駆動電圧を変化させるように、駆動部14を制御する。
【0048】
[記憶部30]
記憶部30は、処理部20において処理に使用される定数データや変数データを記憶する。処理部20がCPUを含む場合、記憶部30はそのCPUにおいて実行されるプログラムを記憶してもよい。記憶部30は、例えば、DRAMやSRAMなどの揮発性メモリ、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを含んで構成される。
【0049】
[インターフェース部40]
インターフェース部40は、入力装置と他の制御装置(入力装置を搭載する情報機器のコントロール用ICなど)との間でデータをやり取りするための回路である。処理部20は、記憶部30に記憶される情報(物体の位置データ、物体数など)をインターフェース部40から図示しない制御装置へ出力する。」
エ 「【0074】
サンプリング周波数選択部26においてメインスキャン用の新しいサンプリング周波数が選択されると、フィルタ部24は、ローパスフィルタ処理の減衰特性に関わる係数を、当該選択されたサンプリング周波数についてノイズ量算出部22が算出したノイズ量NVに基づいて新たに設定する(ST145)。例えばフィルタ部24は、式(1)におけるローパスフィルタ処理の係数Kを、式(2)における「K=α・NV」の関係により、ノイズ量NVに基づいて新たに設定する。」
オ 図8
[図:0001411095000004.jpg]
カ 「【0080】
図8は、式(1)に示すローパスフィルタ処理の係数Kと応答遅延及びノイズ低減効果との関係を示す図である。図8において、曲線CV1は応答遅延(フィルタ処理後の検出データが規定値の90%に達するまでの周期)を示し、曲線CV2は検出データのノイズ(標準偏差σ)の低減効果を示す。図8において示すように、式(1)に示すローパスフィルタ処理では、係数Kを大きくするほどノイズ低減効果が向上するが、応答遅延も増大してしまう。」
(2)引用発明
上記(1)の、特に下線を付加した記載に着目すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「センサ部10と、処理部20と、記憶部30と、インターフェース部40を有する入力装置であって、センサ部10に指やペンなどの物体を近接させることによって、その近接位置に応じた情報を入力する装置であり、
センサ部10は、物体の近接に応じて静電容量が変化するキャパシタ(容量性センサ素子)12がマトリクス状に形成されたセンサマトリクス11と、キャパシタ12の静電容量に応じた検出データを生成する検出データ生成部13等を有しており、
センサマトリクス11は、縦方向に延在した複数の駆動電極Lxと、横方向に延在した複数の検出電極Lyを備えており、
検出データ生成部13は、駆動部14の駆動電圧の周期的な変化と同期したタイミングで、各検出電極Lyにおいて伝送される電荷をサンプリングし、そのサンプリングの結果に応じた検出データを生成しており、
センサ部10は、電極間(Lx,Ly)に生じる静電容量(相互容量)を容量性センサ素子として利用し、その静電容量の変化によって物体の近接を検出するものであり、
処理部20は、センサ制御部21と、ノイズ量算出部22と、フィルタ部24と、位置データ算出部25と、サンプリング周波数選択部26を有しており、
ノイズ量算出部22は、センサ部10において生成された検出データに含まれるノイズ量を算出するものであり、ノイズ量算出部22は、瞬時ノイズ量算出部221とノイズ量平均化部222を有しており、瞬時ノイズ量算出部221は、2つの検出データの差の絶対値を瞬時ノイズ量NDFとして算出し、ノイズ量平均化部222は、瞬時ノイズ量算出部221において算出された一連の所定数の瞬時ノイズ量(NDFMAX)を積算し、平均化されたノイズ量NVとして出力しており、
フィルタ部24は、センサ部10から出力される位置データ算出用の検出データに含まれるノイズを、ローパスフィルタ処理によって減衰させるものであり、これにより、検出データに含まれる高い周波数のノイズ成分が低減され、
フィルタ部24は、検出データSDに重み係数「1/K」を乗じて得た値と、ローパスフィルタ処理の直近の処理結果FSDOLDに重み係数「(K-1)/K」を乗じて得た値とを加算することにより、ローパスフィルタ処理の新たな処理結果FSDNEWを算出するものであり、
位置データ算出部25は、センサ部10の検出結果に基づいて、操作面上の各位置において物体が近接しているか否かを示す2次元データを生成し、この2次元データに基づいて、物体が近接している操作面上の領域を特定し、その領域の位置を示す座標(例えば領域の重心の座標)を位置データとして算出するものであり、
フィルタ部24は、ノイズ量算出部22において算出されたノイズ量NVに応じて、ローパスフィルタ処理におけるノイズの減衰特性を変更しており、フィルタ部24は、ローパスフィルタ処理の減衰特性に関わる係数Kを、式「K=α・NV」の関係により、ノイズ量NVに基づいて新たに設定しており、
ローパスフィルタ処理の係数Kと応答遅延及びノイズ低減効果との関係において、ローパスフィルタ処理では、係数Kを大きくするほどノイズ低減効果が向上するが、応答遅延も増大する
入力装置。」
2 引用文献2
原査定の拒絶理由において、引用された引用文献2(国際公開第2018/193711号)には、次の事項が記載されている。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は、タッチセンサ式電子デバイスとその制御技術に関する。
背景技術
[0002] 近年、携帯端末、タブレット端末、ノート型パーソナルコンピュータ(PC)など、タッチパネル式のユーザインターフェースが普及している。タッチセンサには種々の方式があるが、このうち静電容量方式は、操作面に接触または近接するユーザの指先等による静電容量の変化に基づいて、入力操作を検出する。タッチセンサ式表面の他に非接触検出手段を設けてタッチ位置と非接触位置を同時および/または交互に判定する構成が知られている(たとえば、特許文献1参照)。また、タッチセンサ用の電極ペアに加えて近接センサ用の電極ペアを設けて、ユーザがディスプレイパネルに近接したことを検出する方法が提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
先行技術文献
特許文献
[0003] 特許文献1:特表2015-505393号公報
特許文献2:特許第5632854号(国際公開第2011/055534号)
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0004] 上述した公知の構成では、タッチ検出用のセンサとは別に、近接状態または非接触位置を検出するための手段が設けられており、構成が複雑かつコストが高くなる。一般に、同一のセンサで近接状態とタッチ状態を検出する場合、1回のセンス時間を時分割して、近接センスとタッチセンスを交互に行うことが考えられる。この場合、駆動及びセンシングのサイクルごとに近接状態の検出動作とタッチ状態の検出動作が交互に行われる。このような時分割方式では、信号対雑音比(S/N比)が悪化しやすい近接センスの回数が限られ、検出精度を高く維持することが難しい。
[0005] 本発明は、同一のセンサ手段で近接状態とタッチ状態を検出し、近接状態とタッチ状態の双方を精度良く検出することのできるタッチセンサ式電子デバイスとその制御方法を提供することを目的とする。」
イ 図1
[図:0001411095000005.jpg]
ウ 「[0011] 図1は、実施形態のタッチセンサ式電子デバイスの基本的な動作を説明する図である。ユーザは指90などの操作体を用いて、操作面111から入力動作を行う。操作面111は、スマートフォンやタブレット等の携帯端末、車載ナビゲーション装置、ATM、家電などに用いられるタッチパネルの表面である。タッチパネルはタッチセンサ方式のユーザインターフェースであり、抵抗膜方式、赤外線方式、超音波方式など種々の方式があるが、実施形態では静電容量方式のタッチセンサを用いる。静電容量方式のセンサは、操作体の接触または近接による静電容量の変化に基づいて接触位置または近接位置を検出するものである。」
エ 図2
[図:0001411095000006.jpg]
オ 「[0012] 図2は、静電容量方式のセンサにおける静電容量の変化を説明する図である。X方向に延びる電極Lxと、Y方向に延びる電極Lyの交差点において、電極Lxと電極Lyの間に静電容量Csが生成され、容量性のセンサ素子12が形成される。互いに直交する複数の電極Lxと複数の電極Lyを用いる場合、複数のセンサ素子がマトリクス状に形成される。一方の電極、たとえば電極Lxを駆動電極として用い、他方の電極、たとえば電極Lyを検出電極として用いることができる。電極Lxに周期的に変化する電圧を印加することでセンサ素子12の電位が変化し、充放電が起きる。電極Lyで電荷量を検出することでセンサ素子12における静電容量が検出される。
[0013] 図2(a)は、操作パネル11の近傍に操作体が存在せず、タッチも近接状態も検出されていない状態を示す。操作体が近接しておらずタッチも近接も検出されない区間を、実施例では「非検出区間」と呼ぶ。非検出区間での静電容量Csは容量変化を算出するための基準となるが、環境の変化に応じて静電容量Cs自体が変動する。そのため、静電容量様式のセンサの駆動及びセンシングのサイクルで各センサ素子12の静電容量Csが検出され、検出値に基づいて基準値が更新される。この基準値は「ベースライン」とも呼ばれる。
[0014] 図2(b)のように、指90が操作パネル11の操作面111に接触している状態を「タッチ」と呼ぶ。指90と電極Lyとの間の容量結合により、センサ素子12の静電容量Csが大きく変化(増大)する。これに対し、図2(c)では指90は操作パネル11の操作面111に近接しているが接触していない。以下の実施形態では、指90などの操作体が操作パネル11に近接して浮遊している状態を「ホバー(hover)」と呼ぶ。本明細書及び特許請求の範囲で「近接」というときは、「ホバー」状態を指すものとする。ホバーのときも、指90と電極Lyの間の容量結合によりセンサ素子12の静電容量Csが変化する。ホバー時には空気層が介在するので、その静電容量の変化量はタッチの静電容量の変化量と比較して小さい。したがって、異なるレベルの閾値を設定することで、同じセンサマトリクスを用いてホバーとタッチを検出することができる。
[0015] 図1に戻って、タッチセンサ式電子デバイスの立ち上げ時、あるいは電源投入時に静電容量方式のセンサを駆動して、ホバーの検出とタッチの検出を交互に行い、各センサ素子で基準値(ベースライン)の更新を行っておく。ホバーとタッチの各々について駆動及びセンシングのサイクルを所定回数繰り返して静電容量の基準値を現在の値に設定した後、タッチ検出動作をオフにする。
[0016] <区間A>
区間Aは、ホバーもタッチも検出されない「非検出区間」である。実施形態の特徴として、区間Aで静電容量の変化量がホバー検出の閾値Th1に達するまでは、もっぱらホバーの検出動作が行われ、タッチ検出の動作は停止されている。区間Aで、ホバーの駆動/センス動作のたびにホバー用の基準値は更新され、更新後の基準値を用いて各センサ素子の静電容量の変化量が計算される。ホバー用の基準値は、「特許請求の範囲」に記載される「第1の基準値」に対応し、操作体がタッチ検出区間にもホバー検出区間にもないときの静電容量を指す。この間、タッチ検出の動作は停止されており、タッチ用の基準値はセンサの立ち上げ時に設定された値に固定されている。1つのサイクル内でホバー検出だけが行われているので、単位時間当たりのホバー検出の回数を増やすことができ、ホバーの検出精度を上げることができる。特に、1サイクル内でホバーの検出データを平均化することができるので、ホバー検出のS/N比を上げて検出距離を伸ばすことができる。1つのサイクルをホバー検出だけに使用できるので、ホバーの検出タイミングを早めることができる。
[0017] <区間B>
静電容量の変化量が閾値Th1に達したら、「ホバー」の検出が出力されるとともに、タッチ検出の動作がオンになる。ホバー検出後、タッチが検出されるまでの区間Bを「ホバー検出区間」とする。タッチ検出の動作がオンにされたことで、タッチ用の基準値の更新が開始される。タッチ用の基準値は、「特許請求の範囲」に記載される「第2の基準値」に対応し、操作体が操作面111に触れていないがホバー検出領域にあるときの静電容量を指す。タッチ用の基準値がタッチ検出の閾値Th2に達したら、「タッチ」の検出が出力される。ホバーの検出により、ホバー用の基準値の更新は停止されるが、ホバー検出の動作は継続される。基準値の更新を停止することで、指90などの操作体が同じ位置にあるにもかかわらず基準値が変わって別の検出結果が出力されることを防止できる。
[0018] 区間Bでは、タッチ動作とホバー動作の両方が行われている。区間Bでは、操作体が速やかに操作面111まで移動する場合と、操作体がタッチに至らない状態で操作面111の近傍をさまよう場合があり得る。後者は、ユーザがアイコン等の所望の入力項目を探している、あるいはどの入力項目を選択するか迷っている等の場合である。このため、ホバー検出動作とタッチ検出動作の両方をオンにし、正確なタッチ検出のためにタッチ用の基準値を更新する。タッチ検出が必要になった時点で、初期設定で固定されていた基準値から今回の駆動/センスサイクルのための基準値に更新され、動作切り替えのための特別な処理は不要である。
[0019] <区間C>
静電容量の変化量が、閾値Th1よりも大きい閾値Th2に達したら、「タッチ」の検出が出力されるとともに、ホバー動作が停止される。タッチの検出からタッチリリースの検出までの区間Cは、もっぱらタッチが検出される「タッチ検出区間」である。タッチが検出されたことにより、タッチ用の基準値の更新が停止される。ホバー用の基準値はホバー検出直後の値に固定されたままである。これにより、タッチ中に基準値が変動することによる誤検出を防止する。区間Cでは、ホバー検出が実施されず1サイクルをタッチの検出だけに用いることができるので、細かいタイミングでタッチ検出を行うことができる。
[0020] <区間D>
タッチ検出後、静電容量の変化量がタッチリリース検出用の閾値Th3よりも小さくなったら、「タッチリリース」が出力される。これと同時に、ホバー検出動作がオンになり、かつタッチ用の基準値の更新が再開される。ここで、「タッチリリース」とは、指等の操作体がいったん操作面111に接触したあとに、接触面から離れることを意味し、「特許請求の範囲」に記載される「接触のリリース」と同義である。タッチリリースの検出からホバーリリースの検出までの区間Dは、ホバー状態が検出されている「ホバー検出区間」である。ホバー動作に関して基準値の変動による誤検出がなされることを防止するため、ホバー用の基準値は固定されている。
[0021] タッチリリース検出用の閾値Th3は、タッチ検出の閾値Th2よりも小さく、ホバー検出の閾値Th1よりも大きい。区間Dでは指90などの操作体がそのまま操作面111から離れていく場合と、操作面111に戻る場合があり得えるので、1つの駆動/センスサイクル内でタッチ検出動作とホバー検出動作が行われる。今回のサイクルでのタッチ検出のためにタッチ用の基準値は更新され、動作切り替えのための特別な処理は不要である。
[0022] <区間E>
静電容量の変化量が、ホバーリリース検出のための閾値Th4よりも小さくなったら、「ホバーリリース」を出力するとともに、タッチ検出動作をオフにして、ホバー用の基準値の更新を再開する。タッチ検出動作のオフにともなって、タッチ用の基準時の更新も停止される。「ホバーリリース」とは、ホバー検出領域内に存在していた操作体が、ホバー検出領域の外部に離れることを意味し、「特許請求の範囲」に記載される「近接のリリース」と同義である。ホバーリリースの検出後は、指90などの操作体は操作面111に近接しておらず、区間Eは「非検出区間」となる。
[0023] ホバーリリース検出用の閾値Th4は、タッチリリース検出量の閾値Th3よりも小さく、かつ、ホバー検出用の閾値Th1よりも小さい。静電容量の変化量が次に閾値Th1よりも大きくなるまでは「非検出区間」が続き、区間Eでは、もっぱらホバー検出が行われる。1つのサイクル内でホバー検出だけが行われているので、単位時間当たりのホバー検出動作の回数が増え、ホバーの検出精度を上げることができる。特に、検出データを平均化することで、ホバー検出のS/N比を上げて検出距離を伸ばすことができる。また、1つのサイクルをホバー検出だけに使用できるので、ホバーの検出タイミングを早めることができる。」
カ 図3
[図:0001411095000007.jpg]
キ 「[0024] 図3は、図1の動作の前提となるタッチとホバーの検出方式を説明する図である。図3(A)はタッチ検出動作時のデータ収集方式、図3(B)はホバー検出動作時のデータ収集方式である。静電容量方式のセンサを用いた操作パネル11で、検出点15はマトリクス状に配置されている。マトリクス状の検出点15は、図2のX方向に延びる複数の電極Lxと、Y方向に延びる複数の電極Lyの交点に対応し、各検出点15に容量性のセンサ素子12が形成される。図3(A)のタッチ検出モードでは、各検出点15で独立してデータが採取される。この例では12×16点でデータ、すなわち静電容量が採取される。各検出点での静電容量の変化量を求めるための基準値は、非検出の状態で各検出点に設定された基準値である。
[0025] 図3(B)のホバー検出モードでは、複数の検出点15をまとめて所定の面積の領域17を形成し、領域17ごとに駆動及びセンシングを行う。この構成例によると、4×3点のデータを採取するだけでよく、ホバー検出モードでの駆動/センス回数は、タッチ検出モードでの駆動/センス回数の1/16になる。ホバー状態では、ユーザの指先または操作体は操作パネルの表面から一定の範囲内で離隔しているため、指先でカバーされる領域が広くなり、図3(B)のような一括検出が有効である。
[0026] ホバー検出での静電容量の変化量の算出の基準となる基準値は、領域17ごとに設定される。領域17の数は、検出点15の数と比較して格段に少なくなり、操作面の全面を駆動/センスする速度、換言すると単位時間あたりの検出レートが大幅に向上する。各領域17の検出値としては、領域17に含まれる検出点(センサ素子)の検出値の平均値を用いてもよい。ホバーの検出レートが上がることで平滑化処理が可能になり、S/N比を改善して検出距離を伸ばすことができる。また、領域17ごとにホバー状態を検出することで、操作パネル上でユーザが狙いとするポイントを絞り込むことができる。
[0027] 図1でホバー検出動作が行われるときは図3(B)の方式で駆動と検出が行われ、タッチ検出動作が行われるときは図3(A)の方式で駆動と検出が行われる。特に、区間Aと区間Eでは、もっぱらホバー検出動作が行われ、1サイクルの時間全体をホバー検出で占有して検出レートを上げることができる。区間Cは、もっぱらタッチ検出動作が行われ、1サイクルの時間全体をタッチ検出で占有することができる。操作画面全体のタッチ検出にかかる時間が短縮され、細かいタイミングでタッチ位置を検出することができる。区間Bと区間Dでは、ホバー検出動作とタッチ検出動作が交互に(たとえば時分割で)行われるが、ホバー検出のサイクルがタッチ検出のサイクルと比較して格段に短く、ホバー検出の回数を増やすことができる。」
第5 対比・判断
1 本願発明1
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことが認められる。
ア 引用発明は、「センサ部10」等「を有する入力装置であって、センサ部10に指やペンなどの物体を近接させることによって、その近接位置に応じた情報を入力する装置であり、」「センサ部10は、物体の近接に応じて静電容量が変化するキャパシタ(容量性センサ素子)12がマトリクス状に形成されたセンサマトリクス11と、キャパシタ12の静電容量に応じた検出データを生成する検出データ生成部13等を有しており、センサマトリクス11は、縦方向に延在した複数の駆動電極Lxと、横方向に延在した複数の検出電極Lyを備えており、」「センサ部10は、電極間(Lx,Ly)に生じる静電容量(相互容量)を容量性センサ素子として利用し、その静電容量の変化によって物体の近接を検出するものであ」るとされている。
ここで、引用発明の「縦方向に延在した複数の駆動電極Lxと、横方向に延在した複数の検出電極Lyを備え」た「センサマトリクス11」は、本願発明1の「検出電極を有するセンサ部」に相当する。
また、引用発明の「キャパシタ12」(「電極間(Lx,Ly)に生じる静電容量(相互容量)を容量性センサ素子として利用」)「の静電容量に応じた検出データを生成する検出データ生成部13」は、本願発明1の「前記センサ部の検出電極の静電容量値を検出する静電容量検出部」に相当する。
さらに、引用発明の「静電容量の変化によって物体の近接を検出する」「センサ部10」等「を有する入力装置」は、本願発明1の「静電容量式センサ」に対応する。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「検出電極を有するセンサ部と、前記センサ部の検出電極の静電容量値を検出する静電容量検出部と、」「とを有する静電容量式センサ」である点で共通しているといえる。
イ 引用発明において、「フィルタ部24は、センサ部10から出力される位置データ算出用の検出データに含まれるノイズを、ローパスフィルタ処理によって減衰させるものであり、これにより、検出データに含まれる高い周波数のノイズ成分が低減され、フィルタ部24は、検出データSDに重み係数「1/K」を乗じて得た値と、ローパスフィルタ処理の直近の処理結果FSDOLDに重み係数「(K-1)/K」を乗じて得た値とを加算することにより、ローパスフィルタ処理の新たな処理結果FSDNEWを算出するものであり、フィルタ部24は、ノイズ量算出部22において算出されたノイズ量NVに応じて、ローパスフィルタ処理におけるノイズの減衰特性を変更しており、フィルタ部24は、ローパスフィルタ処理の減衰特性に関わる係数Kを、式「K=α・NV」の関係により、ノイズ量NVに基づいて新たに設定しており、ローパスフィルタ処理の係数Kと応答遅延及びノイズ低減効果との関係において、ローパスフィルタ処理では、係数Kを大きくするほどノイズ低減効果が向上するが、応答遅延も増大する」とされている。
ここで、引用発明の「ローパスフィルタ処理の係数K」は、本願発明1の「フィルタパラメータ」に対応し、引用発明の「フィルタ部24は、検出データSDに重み係数「1/K」を乗じて得た値と、ローパスフィルタ処理の直近の処理結果FSDOLDに重み係数「(K-1)/K」を乗じて得た値とを加算することにより、ローパスフィルタ処理の新たな処理結果FSDNEWを算出する」ことは、本願発明1の「フィルタパラメータを用いて時間方向のフィルタ処理を施すことによりフィルタ計算値を計算する」ことに対応するといえる。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「フィルタパラメータを用いて時間方向のフィルタ処理を施すことによりフィルタ計算値を計算するフィルタ計算部」「を有する」点で共通しているといえる。
ウ 引用発明において、「位置データ算出部25は、センサ部10の検出結果に基づいて、操作面上の各位置において物体が近接しているか否かを示す2次元データを生成し、この2次元データに基づいて、物体が近接している操作面上の領域を特定し、その領域の位置を示す座標(例えば領域の重心の座標)を位置データとして算出するものであ」るとされている。
ここで、引用発明において、「センサ部10の検出結果」は、上記イで述べたように、「検出データSDに重み係数「1/K」を乗じて得た値と、ローパスフィルタ処理の直近の処理結果FSDOLDに重み係数「(K-1)/K」を乗じて得た値とを加算することにより、ローパスフィルタ処理の新たな処理結果FSDNEWを算出」したものであり、本願発明1の「前記フィルタ計算部により計算されたフィルタ計算値」に対応するといえる。
また、引用発明において、「操作面上の各位置において物体が近接しているか否かを示す2次元データを生成し、この2次元データに基づいて、物体が近接している操作面上の領域を特定し、その領域の位置を示す座標(例えば領域の重心の座標)を位置データとして算出する」ことは、本願発明1の「センサ部周辺の状態を判定する」ことに対応するといえる。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「前記フィルタ計算部により計算されたフィルタ計算値に基づいて前記センサ部周辺の状態を判定する判定部とを有する」点で共通しているといえる。
エ 引用発明において、「フィルタ部24は、ローパスフィルタ処理の減衰特性に関わる係数Kを、式「K=α・NV」の関係により、ノイズ量NVに基づいて新たに設定しており、ローパスフィルタ処理の係数Kと応答遅延及びノイズ低減効果との関係において、ローパスフィルタ処理では、係数Kを大きくするほどノイズ低減効果が向上するが、応答遅延も増大する」とされている。
ここで、引用発明において、「ローパスフィルタ処理の減衰特性に関わる係数Kを、式「K=α・NV」の関係により、ノイズ量NVに基づいて新たに設定」することは、本願発明1の「フィルタパラメータを計算する」に対応するから、引用発明も、本願発明1と同様に、「フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部を備え」ているといえる。
また、引用発明において、「ローパスフィルタ処理では、係数Kを大きくするほどノイズ低減効果が向上するが、応答遅延も増大する」から、逆に、「係数K」を小さくすることで、「応答遅延」(応答時間)が短くなることは、当業者にとって明らかであるといえる。
したがって、本願発明1と引用発明とは、「前記フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部を備え、前記フィルタパラメータ計算部は、」「応答時間が短くなるように前記フィルタパラメータを計算する」点で共通しているといえる。
(2)一致点・相違点
本願発明1と、引用発明とは、以下アの点で一致し、以下イの点で相違する。
ア 一致点
「検出電極を有するセンサ部と、
前記センサ部の検出電極の静電容量値を検出する静電容量検出部と、
フィルタパラメータを用いて時間方向のフィルタ処理を施すことによりフィルタ計算値を計算するフィルタ計算部と、
前記フィルタ計算部により計算されたフィルタ計算値に基づいて前記センサ部周辺の状態を判定する判定部とを有する静電容量式センサであって、
前記フィルタパラメータを計算するフィルタパラメータ計算部を備え、
前記フィルタパラメータ計算部は、応答時間が短くなるように前記フィルタパラメータを計算する静電容量式センサ。」
イ 相違点
本願発明1では、「静電容量値と基準値との差分値を計算する差分値計算部」「を有」しており、「前記差分値計算部により計算された差分値に基づいて前記フィルタパラメータを計算」しているのに対し、引用発明では、静電容量値と基準値との差分値を計算する差分値計算部を有しておらず、一連の所定数の瞬時ノイズ量(NDFMAX)を積算して平均化されたノイズ量NVに基づいてフィルタパラメータを計算している点。
(3)相違点についての判断
本願発明1の上記相違点に関して、上記第4の2で摘記したように、引用文献2には、静電容量と基準値との差分により、「ホバー」状態や、「タッチ」状態を検出し、ホバー検出の際には、1つのサイクル内でホバー検出だけが行われているので、単位時間当たりのホバー検出動作の回数が増え、ホバーの検出精度を上げることができ、検出データを平均化することで、ホバー検出のS/N比を上げて検出距離を伸ばすことができる旨の記載がある。
ここで、「静電容量と基準値との差分により、「ホバー」状態や、「タッチ」状態を検出」することは、本願発明1の「静電容量値と基準値との差分値を計算する」ことに対応するといえるから、引用文献2には、上記相違点に係る構成の内「静電容量値と基準値との差分値を計算する差分値計算部」に対応する構成が開示されているといえる。
しかし、引用文献2には、上記相違点に係る構成の内「差分値計算部により計算された差分値に基づいて前記フィルタパラメータを計算」することについての開示も示唆もない。
よって、上記相違点に係る構成の内「静電容量値と基準値との差分値」「に基づいて前記フィルタパラメータを計算」する構成は、引用文献1および2のいずれも、記載も示唆もなく、また、当該技術が本願の優先日前に周知であったとも認められない。
したがって、引用発明および引用文献2に記載の事項に基づいて、当業者は本願発明1の相違点に係る構成を容易に想到することができない。
2 本願発明2ないし10
本願発明2ないし10は、いずれも、本願発明1を減縮したものであって、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、上記1で述べた本願発明1と同じ理由により、引用発明および引用文献2に記載の事項に基づいて、当業者は本願発明1の相違点に係る構成を容易に発明できたものであるとはいえない。
3 本願発明11および12
本願発明11は、本願発明1の発明のカテゴリを、単に、「静電容量式センサ」から、「静電容量検出方法」の発明へと変更したものであり、本願発明12は、「静電容量式センサ」から、「静電容量検出プログラム」の発明へと変更したものであるから、本願発明11および12は、いずれも、本願発明1と同様に、上記相違点と同様の構成を備えるものであるから、上記1で述べた本願発明1と同様の理由により、引用発明および引用文献2に記載の事項に基づいて、当業者は本願発明1の相違点に係る構成を容易に発明できたものであるとはいえない。
第6 原査定について
上記第5の1(3)、2および3で述べたように、本願発明1ないし12はいずれも、引用発明および引用文献2に記載の事項に基づいて、当業者は本願発明1の相違点に係る構成を容易に発明できたものであるとはいえないから、原査定の拒絶の理由(進歩性)は、解消している。
よって、原査定の理由は、維持することはできない。
第7 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-012075