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特許拒絶査定不服審判

2023-011989

液体水素の輸送システム

審判番号
2023-011989
法域
特許
審判種別
拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
出願番号
特願2020-507629外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2023年07月18日
審決日
2024年12月26日
公報発行日
2025年06月27日
結論
請求不成立
当事者
審判長/審判官
分類
P18 .121-WZ (F17C)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法29条2項
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特願2020-507629「液体水素の輸送システム」拒絶査定不服審判事件〔平成31年 3月21日国際公開、WO2019/053035、令和 2年11月26日国内公表、特表2020-534480〕について、次のとおり審決する。

結論

結 論
本件審判の請求は、成り立たない。

理由

目次 ▾ 23項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本願は、2018年(平成30年)9月12日を国際出願日とする外国語特許出願であって(パリ条約による優先権主張外国庁受理2017年9月14日、ドイツ)、その手続の経緯は以下のとおりである。

令和4年 5月31日付け:拒絶理由通知

(同年 6月 7日送達)

同年12月 6日 :意見書、手続補正書の提出

令和5年 3月15日付け:拒絶査定

(同年 3月22日送達)

同年 7月18日 :審判請求書の提出

令和6年 7月18日付け:拒絶理由通知書
同年10月18日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明

本願の請求項に係る発明は、令和6年10月18日受付の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「 【請求項1】
液体水素の輸送システムの製造方法であって、前記システムの導管を形成するシームレス管(2)の製造が、
重量%で、
C≦0.080、
続きを表示(全24行)
8.00≦Mn≦10.00、
Si≦1.00、
P≦0.030、
S≦0.030、
19.00≦Cr≦21.50、
5.50≦Ni≦7.50、
0.15≦N≦0.40、
Mo≦0.75、および
Cu≦0.75を含み、
残りがFeおよび不可避的不純物であるオーステナイト系ステンレス鋼の溶鋼を提供するステップ(100)と、
前記溶鋼からビレットを押し出すステップ(101)と、
前記ビレットを管状中空品に熱間成形するステップ(102)と、
前記管状中空品を冷却するステップ(103)と、
前記管状中空品を前記シームレス管(2)に冷間成形するステップ(104、105)と
を含み、
前記冷間成形するステップが冷間ピルガ圧延(104)および冷間引抜(105)であり、
前記管状中空品が冷間ピルガ圧延(104)によって冷間成形され、冷間ピルガ圧延(104)後の前記シームレス管(2)が引抜ダイを通して冷間引抜(105)され、
冷間成形後の前記シームレス管(2)がリングオートフレッテージまたはボールオートフレッテージによって処理され、
冷間成形後の前記シームレス管(2)が400℃~460℃の範囲の温度で焼鈍され、焼鈍中、前記シームレス管が制御された雰囲気中に維持される、
液体水素の輸送システムの製造方法。」

第3 当審において通知した拒絶理由

本願発明は、本件補正前の請求項10に係る発明であるところ、当審において通知した令和6年7月18日付けの拒絶理由は、本件補正前の請求項10に係る発明に対する次の理由を含むものである。

理由1.(進歩性)この出願の請求項10に係る発明は、引用文献1~6に基づいてその出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

<引用文献等>

1.米国特許出願公開第2008/0190214号明細書

2.MATERIAL PROPETY DATA[https://www.matweb.com/search/datasheet.aspx?matguid=d244d87952d04c8e9a17c7ff91c42b4e&ckck=1]、インターネット

3.国際公開2012/043877号

4.特願2009-46759号公報

5.特表2003-514990号公報

6.特開2014-159790号公報

参考資料1:Aerospace Manufacturing[https://www.aero-mag.com/sandvik-reveals-21-6-9-seamless-tube-development-aerospace-applications-airtec-2016]、インターネット

なお、当該当審において通知した拒絶理由で、拒絶の対象である請求項及び引用文献等の表記、引用文献4の番号に誤記があったが、当該拒絶理由に対する意見書において、

「1.拒絶理由の要点
審判官殿は、本願請求項1-10に係る発明は、引用文献1-6に基づいて当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、と指摘しました。」、

「なお、引用文献4の文献番号は、特開2009-46759号公報と読み替えました。」、

と主張していることから、審判請求人は、上記拒絶理由通知の誤記を認識し、上記に示した拒絶理由を正しいものに理解した上で反論も行っていることから、上記の拒絶理由が実質的に通知されたとして、以下検討を行う。

第4 引用文献の記載及び引用発明等

(1)引用文献3について

ア 引用文献3には、次の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)

(ア)「0003
さらに、本発明は、耐水素環境脆性に優れたオーステナイト系高Mnステンレス鋼からなる、高圧水素ガスまたは液体水素を輸送する配管に関する。」
(イ)「0071
熱間加工は、板、棒、管の形状を製造するために行うもので、加工方法および加工度は、特に制限されるものではない。熱間加工材は、残留したδフェライトの微細化と機械的性質を調整するために900~1300℃で焼鈍を行う。焼鈍温度が900℃未満であると、熱延材の再結晶が不十分となり好ましくない。一方、1300℃を超えると、結晶粒粗大化により加工特性および極低温での破壊靭性低下を招くため好ましくない。
0072
また、板、棒、管の冷間加工材を製造する場合には、熱間加工後、溶体化処理(溶体化焼鈍)を省略して、所定の製品形状に冷間加工を施した後、900~1200℃で焼鈍することが本発明のδフェライト(オーステナイト負偏析領域)のサイズ(長径)を低減して耐水素環境脆性を改善する観点から好ましい。焼鈍温度が900℃未満であると、本発明のオーステナイト系高Mnステンレス鋼において再結晶が不十分となり好ましくない。一方、1200℃を超えると、結晶粒粗大化により加工特性および極低温での破壊靭性低下を招くため好ましくない。」
(ウ)「0074
上述した成分組成と鋼組織を満足したオーステナイト系高Mnステンレス鋼は、高圧水素ガスおよび液体水素を貯蔵するタンクの容器本体、またはライナーの構造材として使用することができる。また、高圧水素ガスおよび液体水素用配管、あるいは、高圧水素ガスおよび液体水素用バルブの材料として使用することができる。」

イ 引用文献3に記載された発明

上記「ア」を総合すると、引用文献3には次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明3>

「耐水素環境脆性に優れたオーステナイト系高Mnステンレス鋼からなる、液体水素を輸送する配管に関し(0003)、
熱間加工は、管の形状を製造するために行うもので(0071)、
管の冷間加工材を製造する場合には、熱間加工後、溶体化処理(溶体化焼鈍)を省略して、所定の製品形状に冷間加工を施し(0072)、
オーステナイト系高Mnステンレス鋼は、液体水素用配管の材料として使用することができる(0074)、
加工方法(0071)。」

(2)引用文献2について

ア MATERIAL PROPETY DATAのホームページの21-6-9ステンレス鋼を用いた管製品の製品データシートである引用文献2には、次の記載がある。なお、当該製品データシートの公開日(ないし頒布日)は不明である。

(ア)「Sandvik 21-6-9 AEROSPACE Tube and Pipe, Seamless」

(当審訳:サンドビック 21-6-9 AEROSPACE チューブとパイプ、シームレス)」

(イ)「Material Notes:Sandvik 21-6-9 is an austenitic grade with a high level of Mn, a low level of Ni and the addition of N.」

(当審訳:材料に関する注記:サンドビック 21-6-9 は、Mn含有量が高く、Ni含有量が低く、Nが添加されたオーステナイト系グレードです。)」

(ウ)「Applications:
Sandvik 21-6-9 seamless tube is used for components in the aircraft industry as well as in medical and cryogenic applications.」

(当審訳:サンドビック 21-6-9 シームレス チューブは、航空機産業のコンポーネントのほか、医療および極低温用途にも使用されます。)」

(エ)「Component Elements Properties
Carbon, C <= 0.040 %
Chromium, Cr 19 - 21.5 %
Copper, Cu <= 0.75 %
続きを表示(全22行)
Manganese, Mn 8.0 - 10 %
Molybdenum, Mo <= 0.75 %
Nickel, Ni 5.5 - 7.5 %
Nitrogen, N 0.15 - 0.40 %
Phosphorus, P <= 0.030 %
Silicon, Si <= 1.0 %
Sulfur, S <= 0.030 %
(当審訳:構成要素の情報
炭素C <= 0.040 %
クロムCr 19 - 21.5 %
銅Cu <= 0.75 %
マグネシウムMn 8.0 - 10 %
モリブデンMo <= 0.75 %
ニッケルNi 5.5 - 7.5 %
窒素N 0.15 - 0.40 %
リンP <= 0.030 %
ケイ素Si <= 1.0 %
硫黄S <= 0.030 %)」

イ 引用文献2に記載された技術的事項

上記「ア」からみて、引用文献2には次の技術的事項が記載されていると認められる(以下、「引用文献2記載の技術的事項」という。)。

<引用文献2記載の技術的事項>

「サンドビック 21-6-9 AEROSPACE チューブとパイプ(シームレス)において、
サンドビック 21-6-9 は、Mn含有量が高く、Ni含有量が低く、Nが添加されたオーステナイト系グレードで、
サンドビック 21-6-9 シームレス チューブは、航空機産業のコンポーネントのほか、医療および極低温用途にも使用され、
構成要素の情報は、
続きを表示(全15行)
炭素C <= 0.040 %
クロムCr 19 - 21.5 %
銅Cu <= 0.75 %
マグネシウムMn 8.0 - 10 %
モリブデンMo <= 0.75 %
ニッケルNi 5.5 - 7.5 %
窒素N 0.15 - 0.40 %
リンP <= 0.030 %
ケイ素Si <= 1.0 %
硫黄S <= 0.030 %
であること。」

(3)参考資料1

ア Aerospace Manufacturingのホームページには、ニュース記事として、下記の事項が記載されている(以下、「参考資料1」という。)。

(ア)「Sandvik reveals 21-6-9 seamless tube development for aerospace at Airtec 2016
14 OCTOBER 2016・IN NEWS
(当審訳:サンドビック、Airtec 2016 で航空宇宙向け 21-6-9 シームレス チューブの開発を発表 2016 年 10 月 14 日・ニュース)」

(イ)「For the first time, Sandvik will exhibit at Airtec 2016 where it will reveal its seamless 21-6-9 tube material developed specifically for demanding aerospace applications, and offer its partnership in shaping the future of the aerospace industry.

Designed to increase security and reduce risk, the new precision Sandvik 21-6-9 aerospace seamless tubing is an austenitic stainless steel grade with high mechanical strength and extremely good impact toughness in temperatures down to -230°C. With traceability from the melt to final product, Sandvik maintains complete control over its value-added processes in order to deliver world-class quality.

“Material reliability in aircraft applications is always a first consideration,” explained Christofer Hedvall, technology and innovation manager of Sandvik. “By eliminating the use of welded seams in the tubing,

considered to be a weak link and hence a risk, you eliminate any concerns there may be over potential failure in operation.

“By launching this new seamless tube product at Airtec 2016 we certainly anticipate generating considerable interest. We look forward to talking with visitors to Airtec about the increased security and new opportunities offered by our seamless tubing, and how Sandvik can be your partner in shaping the future of the aerospace industry.”

Examples of the material will be on display at Airtec 2016 and a presentation will be delivered by Hedvall on 26th October at the fair, titled ‘Increased security, development, advantages and impact of the first seamless tube in 21-6-9 for aerospace applications.’

(当審訳:サンドビックは初めて Airtec 2016 に出展し、要求の厳しい航空宇宙用途向けに特別に開発されたシームレス 21-6-9 チューブ素材を公開し、航空宇宙産業の未来を形作るパートナーシップを提案します。

セキュリティの向上とリスクの低減を目的に設計された、新しい精密 サンドビック 21-6-9 航空宇宙シームレス チューブは、高い機械的強度と -230°C までの温度での極めて優れた衝撃靭性を備えたオーステナイト系ステンレス鋼グレードです。溶融から最終製品までのトレーサビリティにより、サンドビックは付加価値プロセスを完全に管理し、世界クラスの品質を実現しています。

「航空機用途における材料の信頼性は常に最優先事項です」と、サンドビックの技術革新マネージャーである Christofer Hedvall 氏は説明します。「チューブの溶接継ぎ目は弱いリンクであり、したがってリスクであると考えられているため、動作中に発生する可能性のある障害に関する懸念をすべて排除できます。
「この新しいシームレスチューブ製品を Airtec 2016 で発表することで、かなりの関心を集めることは間違いありません。Airtec の来場者と、当社のシームレスチューブが提供するセキュリティの向上と新しい機会、そして、サンドビックが航空宇宙産業の未来を形作るパートナーとしてどのように役立つかについてお話しできることを楽しみにしています。」
この素材の例は Airtec 2016 で展示され、10 月 26 日のフェアでは Hedvallによるプレゼンテーションが行われます。タイトルは「航空宇宙用途向けの 21-6-9 の最初のシームレスチューブのセキュリティの向上、開発、利点、影響」です。)」

イ 参考資料1に記載された事項

上記「ア」からみて、参考資料1には次の事項が記載されていると認められる(以下、「参考資料1記載の事項」という。)。

<参考資料1記載の事項>

「2016 年 10 月 14 日のニュース記事であり、
サンドビック、Airtec 2016 で航空宇宙向け 21-6-9 シームレス チューブの開発を発表し、
10 月 26 日のフェアがあるAirtec 2016 に出展されたこと。」

(4)引用文献2記載の技術的事項の公知日について

引用文献2には、製品データシートの公開日が記載されていない。

しかしながら、参考資料1記載の事項を参酌すると、2016年10月14日に公開されたニュース記事において、サンドビックの航空宇宙向け21-6-9シームレスチューブがAirtec2016と呼ばれる展示会で発表されたことが述べられており、サンドビックの航空宇宙向け21-6-9シームレスチューブに関する情報がAirtec2016開催以降、遅くとも2016年12月31日までに知られた事項となっていると認められる。

そうしてみると、サンドビックの航空宇宙向け21-6-9シームレスチューブに関する引用文献2記載の技術的事項は、本願の優先権主張日前に知られた事項であると認められる。

(5)引用文献4について

ア 引用文献4には、次の記載がある。

(ア)「【0042】
本発明の二相ステンレス鋼管は、上記の必須元素あるいはさらに上記の任意元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなるものであり、通常商業的な生産に用いられている製造設備および製造方法によって製造することができる。例えば、二相ステンレス鋼の溶製は、電気炉、Ar-O2混合ガス底吹き脱炭炉(AOD炉)や真空脱炭炉(VOD炉)などを利用することができる。溶製された溶湯は、インゴットに鋳造してもよいし、連続鋳造法で棒状のビレットなどに鋳造してもよい。これらのビレットを用いて、ユジーンセジュルネ法などの押し出し製管法またはマンネスマン製管法などの熱間加工によって、二相ステンレス鋼の冷間加工用素管を製造することができる。そして、熱間加工後の素管は、冷間引抜などの冷間加工により所望の強度を有する製品管とする」

イ 引用文献4記載の技術的事項

上記「ア」を総合すると、引用文献4には次の技術的事項(以下、「引用文献4記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献4記載の技術的事項>

「必須元素あるいはさらに任意元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなるステンレス鋼管を、通常商業的な生産に用いられている製造設備および製造方法によって製造する際に、
溶製された溶湯から棒状のビレットなどに鋳造し、ビレットを用いて、熱間加工によって、ステンレス鋼の冷間加工用素管を製造し、熱間加工後の素管は、冷間引抜などの冷間加工により所望の強度を有する製品管とすること(【0042】)。」

(6)引用文献5について

ア 引用文献5には、次の記載がある。

(ア)「【0012】
本発明鋼の製造においては、先ず上記組成の鋼を保護雰囲気下において電弧炉にて溶製する。溶製した鋼を鋳造し、得られた鋳造物を熱間押出しして中空管とした後、ピルガーミルにより冷間圧延し、次いで冷間引抜きによりマルテンサイト量を50%以上、望ましくは70%以上にするのに十分な合計冷間圧下率となるような冷間圧下率で変形を行なう。そして最後に425~525℃、望ましくは約475℃で、4時間の時効処理を行なえば、車両部品等の用途に適した形状の製品となる。」

イ 引用文献5記載の技術的事項

上記「ア」を総合すると、引用文献5には次の技術的事項(以下、「引用文献5記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献5記載の技術的事項>

「鋼の製造において、溶製した鋼を鋳造し、得られた鋳造物を熱間押出しして中空管とした後、ピルガーミルにより冷間圧延し、次いで冷間引抜きにより変形を行ない、そして最後に425~525℃、望ましくは約475℃で、4時間の時効処理を行なって用途に適した形状の製品を製造すること(【0012】)。」

(7)引用文献6について

ア 引用文献6には、次の記載がある。

(ア)「【0011】
〔実施例の構成〕
実施例の筒状体1の製造方法を、図面に基づいて説明する。
実施例の製造方法は、自緊処理により筒状体1に圧縮残留応力を与えるものであり、筒状体1の中空2に圧力印加媒体としての作動流体を導入するとともに、中空2に導入した作動流体に圧力を印加して中空2を形成する壁面3に圧縮残留応力を付与する。そして、実施例の製造方法は、例えば、内燃機関(図示せず。)の燃焼室(図示せず。)に燃料を供給する燃料供給装置の構成要素の内、中空2を有して筒状を呈するものを製造する際に利用される。」

イ 引用文献6記載の技術的事項

上記「ア」を総合すると、引用文献6には次の技術的事項(以下、「引用文献6記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。

<引用文献6記載の技術的事項>

「筒状体1の製造方法において、
自緊処理により筒状体1に圧縮残留応力を与える製造方法を、
内燃機関の燃焼室に燃料を供給する燃料供給装置の構成要素の内、中空2を有して筒状を呈するものを製造する際に利用すること(【0011】)。」

第5 対比・判断

(1)対比

本願発明と引用発明3を対比する。

ア 引用発明3の「液体水素を輸送する配管」は、本願発明の「配管」に相当する。

イ 引用発明3は、「配管」の「加工方法」であるから、本願発明の「導管」の「製造」に相当する。

ウ 引用発明3の「配管」は、「オーステナイト系高Mnステンレス鋼からな」り、「ステンレス鋼」がFe、及び、何らかの不純物を含むことは明らかであるから、「オーステナイト系ステンレス鋼」からなり、Fe、及び何らかの不純物を含む点において、本願発明の「導管」が、「Feおよび不可避的不純物であるオーステナイト系ステンレス鋼」からなる点で共通する。

エ 引用発明3の「加工方法」は、「液体水素を輸送する配管」を加工して、「液体水素を輸送する」構成をなすものであり、本願発明の「液体水素の輸送システムの製造方法」は、請求項全体の記載からみて、「システムの導管を形成するシームレス管の製造」であるから、両者は、「液体水素」を輸送する構成を形成する方法の点で共通する。

(2)一致点・相違点

したがって、本願発明と引用発明3とは、

<一致点>

「液体水素の輸送システムの製造方法であって、前記システムの導管の製造が、
Feおよび不可避的不純物であるオーステナイト系ステンレス鋼からなる、
液体水素の輸送システムの製造方法。」

である点において一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>

本願発明では、

「前記システムの導管を形成するシームレス管(2)の製造が、
重量%で、
C≦0.080、
8.00≦Mn≦10.00、
続きを表示(全12行)
Si≦1.00、
P≦0.030、
S≦0.030、
19.00≦Cr≦21.50、
5.50≦Ni≦7.50、
0.15≦N≦0.40、
Mo≦0.75、および
Cu≦0.75を含」む

「溶鋼を提供するステップ」を備えるのに対して、

引用発明3では、「液体水素を輸送する配管に関し」、「オーステナイト系高Mnステンレス鋼」を「液体水素用配管の材料として使用」している点。

<相違点2>

本願発明では、「製造」において、

「前記溶鋼からビレットを押し出すステップ(101)と、
前記ビレットを管状中空品に熱間成形するステップ(102)と、
前記管状中空品を冷却するステップ(103)と、
前記管状中空品を前記シームレス管(2)に冷間成形するステップ(104、105)と
を含」んでいるのに対して、

引用発明3では、

「液体水素を輸送する配管に関し(0003)、
熱間加工は、管の形状を製造するために行うもので(0071)、
管の冷間加工材を製造する場合には、熱間加工後、溶体化処理(溶体化焼鈍)を省略して、所定の製品形状に冷間加工を施(0072)」、すものである点。

<相違点3>

本願発明では、「製造」において、

「前記冷間成形するステップが冷間ピルガ圧延(104)および冷間引抜(105)であり、
前記管状中空品が冷間ピルガ圧延(104)によって冷間成形され、冷間ピルガ圧延(104)後の前記シームレス管(2)が引抜ダイを通して冷間引抜(105)され、
冷間成形後の前記シームレス管(2)がリングオートフレッテージまたはボールオートフレッテージによって処理され、
冷間成形後の前記シームレス管(2)が400℃~460℃の範囲の温度で焼鈍され、焼鈍中、前記シームレス管が制御された雰囲気中に維持される」のに対して、

引用発明3では、

「冷間加工」の具体的な工法が特定されていない点。

(3)判断

相違点1~3について判断する。

ア 相違点1について

引用文献2記載の技術的事項では、航空機産業のコンポーネントのほか、極低温用途に使用される、21-6-9パイプが、

オーステナイト系グレードで、

シームレスであり、

構成要素の情報は、

炭素C <= 0.040 %

クロムCr 19 - 21.5 %

銅Cu <= 0.75 %

マグネシウムMn 8.0 - 10 %

モリブデンMo <= 0.75 %

ニッケルNi 5.5 - 7.5 %

窒素N 0.15 - 0.40 %

リンP <= 0.030 %

ケイ素Si <= 1.0 %

硫黄S <= 0.030 %

であり、

引用発明3の「配管」も「液体水素を輸送する」ために用いられるから、極低温で用いられることは明らかである。

そうしてみると、引用発明3、及び、引用文献2記載の技術的事項は、ともに「液体水素」の輸送という共通の機能および作用を有するものであるから、引用発明3における、「液体水素用配管の材料」として、引用文献2記載の技術的事項を採用し、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について

燃料等の液体を輸送する中空管を製造する方法として、

引用文献4記載の技術的事項に、「溶製された溶湯から棒状のビレットなどに鋳造し、ビレットを用いて、熱間加工によって、ステンレス鋼の冷間加工用素管を製造し、熱間加工後の素管は、冷間引抜などの冷間加工により所望の強度を有する製品管とする」製造方法があるから、引用発明3の「液体水素を輸送する配管に関し」、「加工方法」の具体的方法として、上記引用文献4記載の技術的事項を採用し、上記相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

ウ 相違点3について

中空の管を製造する方法として、

引用文献5記載の技術的事項に、「溶製した鋼を鋳造し、得られた鋳造物を熱間押出しして中空管とした後、ピルガーミルにより冷間圧延し、次いで冷間引抜きにより変形を行ない、そして最後に425~525℃、望ましくは約475℃で、4時間の時効処理を行なって用途に適した形状の製品を製造する」こと、引用文献6記載の技術的事項に、「自緊処理により筒状体1に圧縮残留応力を与えるもの」であり、「中空2を有して筒状を呈するものを製造する」ことがそれぞれあり、これら技術的事項は、冷間成形する際の具体的な工程にすぎない。

そうしてみると、引用発明3の「液体水素を輸送する配管に関し」、「冷間加工」における「加工方法」の具体的方法として、上記引用文献5記載の技術的事項、及び、引用文献6記載の技術的事項をそれぞれ採用し、上記相違点3に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

また、引用発明3で「熱間加工後、溶体化処理(溶体化焼鈍)を省略して、所定の製品形状に冷間加工を施」すことにおいて、「溶体化処理(溶体化焼鈍)を省略」することが、「所定の製品形状に冷間加工」の具体的方法として、上記引用文献5記載の技術的事項、及び、引用文献6記載の技術的事項を採用するにあたり、何ら影響するものではない。

(4)本願発明のまとめ

相違点1~3については、前記(3)で検討したとおりであり、また、相違点1~3について勘案しても、本願発明の奏する効果としては、当業者にとって予測困難であり、かつ、格別顕著なものを認めることはできない。

よって、本願発明は、引用発明3、引用文献2記載の技術的事項、引用文献4記載の技術的事項、引用文献5記載の技術的事項、及び、引用文献6記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に想到し得たことである。

(5)請求人の主張について

令和6年10月18日提出の意見書(以下、「意見書」という。)における請求人の主張について検討する。

ア 主張点1について

請求人は、意見書において、主張点1について下記のとおり主張している。

「拒絶理由通知書において、審判官殿は、補正前の請求項10に対応する補正後の請求項1に係る発明の進歩性を、引用文献3を主引例とし、引用文献2,4-6を組み合わせることで拒絶しました。すなわち、審判官殿は、引用文献3に示される技術を引用文献2に示される技術で改善し、さらにそれを引用文献4に示される技術で改善し、さらにそれを引用文献5に示される技術で改善し、さらにそれを引用文献6に示される技術で改善することで、補正後の請求項1に係る発明に到達しました。
しかしながら、このように、引用文献3に示される技術を複数の引用文献2,4-6に示される技術を用いて繰り返し改善することは、本技術分野の当業者にとって容易なことではありません。言い換えれば、引用文献2-6を組み合わせたことは、審判官殿が本願請求項10に係る発明を知ったことにより生じた後知恵です。
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献2-6から当業者が容易に想到できたものではありません。」

上記主張について検討する。

引用発明3は、液体水素の輸送システムに用いられる導管として、オーステナイト系ステンレス鋼により導管を製造する方法が記載されている。

そして、引用文献2記載の技術的事項は、極低温用途にも使用されるパイプ(シームレス)のオーステナイト系グレードの構成要素を示したものである。

また、引用文献4記載の技術的事項は、ステンレス鋼管を、通常商業的な生産に用いられている製造方法によって製造する際に、溶製された溶湯から棒状のビレットから製品管を製造すること、引用文献5記載の技術的事項は、鋼の製造において、溶製した鋼を鋳造し、得られた鋳造物を熱間押出しして中空管とした後、ピルガーミルにより冷間圧延し、次いで冷間引抜きにより変形を行ない、そして最後に425~525℃、望ましくは約475℃で、4時間の時効処理を行なって用途に適した形状の製品を製造すること、引用文献6記載の技術的事項は、自緊処理により筒状体1に圧縮残留応力を与える製造方法、がそれぞれ記載されている。

上記引用発明3には、導管の具体的製造に関する記載はないが、その製造において、材料から製品管を形成する段階として、引用文献4記載の技術的事項を、所望の強度の製品管を形成する冷間加工の具体的方法として、引用文献5記載の技術的事項、及び、引用文献6記載の技術的事項を、それぞれ採用したものにすぎず、本願明細書に各工程を組み合わせることには格別の効果を奏するものとの記載も示唆もない以上、当業者の通常の創作能力の範囲で設計し得る程度のことである。そのため、本願発明を知ったことにより生じた後知恵であるとは言えない。

よって、上記請求人の主張は、採用することはできない。

イ 主張点2について

請求人は、意見書において、主張点2について下記のとおり主張している。

「引用文献3に示される発明は、「質量%で、C:0.1%以下、Si:0.4~1.5%、Mn:8~11%、Cr:15~17%、Ni:5~8%、Cu:1~4%、およびN:0.01~0.15%未満を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、δフェライトの体積率が10%以下、かつδフェライトの長径が0.1mm以下であることを特徴とするオーステナイト系高Mnステンレス鋼」(引用文献1の請求項1を参照)であり、このような組成にすることにより、高圧水素ガスと液体水素の両環境下において良好な機械的性質(強度と延性の両立)を実現しています。
本願請求項1に係る発明と引用文献3に示される発明とでは、Cr、Cuの重量%(質量%)で大きく相違しています。すなわち、引用文献3ではCr:15~17%、Cu:1~4%であるのに対して、本願請求項1に係る発明では19.00≦Cr≦21.50、Cu≦0.75です。
そして、引用文献3の段落0032には「規定のδフェライトの体積率とサイズを制御するには、Cr量を17%以下、Mn量を11%以下とすることが有効である。」と記載されており、引用文献3の段落0055には「Crの過度な添加は、δフェライトの生成を促進して本発明の目標とする耐水素環境脆性改善を阻害するため、上限を17%とする。」と記載されています。これらの記載を読めば、本技術分野の当業者は、引用文献3の発明においてCrの重量%を19.00≦Cr≦21.50に変更することはありません。
また、引用文献3の段落0057には「Cuは鋼中に固溶してMnとの相乗効果によって常温から極低温でのオーステイト安定度を高め、水素ガス脆性の影響を受けにくい変形組織となる。この効果を得るために、Cuの下限は1%とする。」と記載されています。この記載を読めば、本技術分野の当業者は、引用文献3の発明においてCuの重量%をCu≦0.75に変更することはありません。
したがって、本願請求項1に係る発明は、引用文献2-6から当業者が容易に想到できたものではありません。」

上記主張について検討する。

請求人が主張するように、引用文献3は、フェライトの長径を所望以下としたオーステナイト系高Mnステンレス鋼の組成とすることにより、高圧水素ガスと液体水素の両環境下において良好な機械的性質を実現したものである。そして、本願発明と引用文献3に記載されたオーステナイト系高Mnステンレス鋼の組成は、Cr、Cuの重量%が異なるものであり、引用文献3では、Cr、Cuの量の上限を規定するものである。

しかし、上記「第3」に記載した当審において通知した拒絶理由では、引用発明3の「オーステナイト系高Mnステンレス鋼」の全組成を「液体水素用配管の材料として使用することができる」「加工方法」において、「加工」対象である「液体水素用配管の材料」の具体的材料として、引用文献2記載の技術的事項を採用したものであり、引用文献3に記載されたオーステナイト系高Mnステンレス鋼の組成の一部の元素のみの組成を変更したものではない。

また、引用発明3の「加工方法」に用いられる「オーステナイト系」「ステンレス鋼」の材料組成として、引用文献3に記載された具体的な元素組成以外を用いることができないことは記載も示唆もされておらず、引用文献2記載の技術的事項の「オーステナイト系」材料を用いることを阻害するものではない。

したがって、引用発明3に引用文献2記載の技術的事項を採用して、上記相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易になし得たことである。

よって、上記請求人の主張は、採用することはできない。

ウ まとめ

上記「ア」、及び、「イ」のとおりであるから、請求人の主張について検討しても、いずれも採用できず、上記「第5」での判断を左右するものではない。

第6 むすび

以上のとおり、本願発明は、引用発明3、引用文献2記載の技術的事項、引用文献4記載の技術的事項、引用文献5記載の技術的事項、及び、引用文献6記載の技術的事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

したがって、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

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2023-011989

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