特許拒絶査定不服審判
2023-011015
光源一体型光センシングシステム、及びそれを含む電子機器
- 審判番号
- 2023-011015
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-188374
- 請求日
- 2023年07月03日
- 審決日
- 2025年02月17日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】三星電子株式会社
- 【請求人代理人】IBC一番町弁理士法人
- 審判長/審判官
- 審判長 山村 浩
- 審判官 波多江 進
- 審判官 吉野 三寛
- 分類
- P18 .121-WZ (H01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-188374「光源一体型光センシングシステム、及びそれを含む電子機器」拒絶査定不服審判事件〔令和 元年 5月16日出願公開、特開2019- 75557〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年10月3日(優先権主張 平成29年10月11日(以下「優先日」という。) 韓国)の出願であって、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
令和4年 7月25日付け:拒絶理由通知書
同年10月28日 :意見書、手続補正書の提出
令和5年 2月17日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 3月 7日 :原査定の謄本の送達)
同年 7月 3日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 9月21日付け:前置報告書
同年11月15日 :上申書の提出
令和6年 8月30日付け:令和5年7月3日提出の手続補正書によりされた補正の却下の決定
同日付け:拒絶理由通知書
同年11月14日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、令和6年11月14日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められるところ、その請求項1の記載は、次のとおりである。
「【請求項1】
基板と、
前記基板上に位置し、第1光軸を有するように配列された複数の発光素子と、
前記基板上に位置し、前記第1光軸と平行な第2光軸を有するように配列された複数の受光素子と、を含み、
前記発光素子の下に設けられた層と前記受光素子とは、前記基板上に形成された前記受光素子をなす受光物質層を共通に含むとともに、前記発光素子は前記受光物質層の一部領域上に形成された発光物質層をさらに含む光センシングシステム。」
第3 当審において通知した拒絶の理由の概要
本願発明は、令和6年11月14日に提出された手続補正書による補正前の請求項1に係る発明(令和4年10月28日に提出された手続補正書による補正後のもの)を補正したものであるところ、当審において令和6年8月30日付け拒絶理由通知書で当該補正前の請求項1に係る発明に対して通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は、次の概要の理由4を含むものである。
理由4(進歩性)この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である引用文献2に記載された発明及び周知技術に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
<引用文献一覧>
2.特開平8-288540号公報
第4 当合議体の判断
当合議体は、以下に示すとおり、本願発明は、引用文献2に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、と判断する。
1 引用文献2に記載された事項及び引用発明等の認定
(1) 引用文献2に記載された事項
当審拒絶理由で引用され、本願の優先日前に発行された前記引用文献2(特開平8-288540号公報)には、以下の事項が記載されている。下線は当合議体が付したものである。
ア 請求項1
「【請求項1】基板上に、受光素子群と面発光レーザ群とが空間的に分離した状態で、かつモノリシックに配列されていることを特徴とする並列発光/受光アレイ一体化素子。」
イ 産業上の利用分野
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、一つの基板上に受光素子群と面発光レーザ群とをモノリシックに集積化した並列発光/受光アレイ一体化素子に関するものである。」
ウ 発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段
「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、図2に示すように、基板1上の同一チップ7上に、面発光レーザ10および面型受光素子9をアレイ化して集積し、さらに駆動・受信回路8をモノリシックに集積した構成の素子であり、低コストで、よりコンパクトで、かつ作製の手間の少ない光インターコネクション用の発光/受光アレイ一体化素子を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】前記課題を解決するために、本発明の請求項1の並列発光/受光アレイ一体化素子は、基板上に、受光素子群と面発光レーザ群とが空間的に分離した状態で、かつモノリシックに配列されていることを特徴とする。」
エ 実施例2
「【0017】(実施例2)図4(a),(b)は、本発明の第2の実施例を説明する図である。本実施例は、受光素子としてMSM33を用いているものである。本実施例では、図4(a)に示すように、半絶縁性GaAs基板36を用い、i-GaAs層34を結晶成長し、InGaP層39を成長後、引き続き、p-Al0.15Ga0.85As/AlAs多層膜からなる第一の光反射層40、活性層を含む光学波長mλ(λは発振波長)のスペーサ層37、n-Al0.15Ga0.85As/AlAs多層膜からなる第二の光反射層42を結晶成長する。次に、チップサイズ3mm角の半分の面積をi-GaAs層34の上部までエッチングにより除去し、素子径20μm、間隔が250μmとなるように、レジスト/SiO2からなるマスクを面発光レーザ上に形成する。引き続き、加速電圧380および80keV、ドーズ量2×1014cm-3でH+イオン注入、および素子間分離のために、加速電圧80keV、ドーズ量2×1014cm-3で、O+イオン注入を行い、イオン注入領域38を形成する。マスク剥離後、MSM33に対応するように、Auからなる櫛型電極をi-GaAs層34上に形成し、ARコート32を形成した後、n電極31とするAuZn/Ni/Auと、Cr/Auよりなる電極35と、p電極41とするAuGe/Ni/Auを形成し、水素雰囲気中415℃で5分間アニールする。
【0018】駆動・受信回路43は、MSMフォトダイオードと同様に、i-GaAs層34を用い、FET(トランジスタ)および抵抗等で回路を構築する。
【0019】図4(b)は、発光および受光素子部を説明するための回路図である。アース端子45の取り出しは、図4(a)に明らかなように、面発光レーザアレイ44は第一の光反射層40上の電極41から、MSMフォトダイオードアレイ46はi-GaAs層上の電極35から、それぞれ行っている。
【0020】このようにして作製された並列発光/受光アレイ一体化素子は、前述した第1および第2の実施例と同様な効果が確認された。」
「
[図:0001425018000001.jpg]
」
オ 符号の説明
「【符号の説明】
・・・(中略)・・・
31 Auよりなる電極
32 ARコート
33 MSM受光素子
34 i-GaAs層
35 アース電極
36 半絶縁性GaAs基板
37 活性層を含む光学波長mλのスペーサ層
38 イオン注入領域
39 InGaP層
40 第一の光反射層
41 アース電極
42 第二の光反射層
43 トランジスタ(FET)および抵抗等からなる駆動・受信回路
44 面発光レーザアレイ
45 アース端子
46 MSMフォトダイオードアレイ
・・・(後略)・・・」
(2) 引用文献2に記載された事項から当業者が把握できる事項
ア 図4において、44は面発光レーザアレイを、40は第一の光反射層を、37は活性層を含む光学波長mλのスペーサ層を、42は第二の光反射層を、それぞれ示すところ(【符号の説明】)、当業者は、第一の光反射層40、活性層を含むスペーサ層37及び第二の光反射層42により面発光レーザを構成することを把握することができる。
イ 図4において、44は面発光レーザアレイを、46はMSMフォトダイオードアレイをそれぞれ示すところ(【符号の説明】)、図4には面発光レーザアレイ44を構成する面発光レーザから上向きに伸びる矢印が、MSMフォトダイオードアレイ46を構成するMSMフォトダイオードに向かう下向きの矢印がそれぞれ図示されており、これらの矢印が光の向きを表すことは明らかである。そして、面発光レーザアレイ44を構成する面発光レーザの上面と、MSMフォトダイオードアレイ46を構成するMSMフォトダイオードの上面は、いずれもこれらの矢印と略垂直であることが見て取れることから、当業者は、面発光レーザアレイ44の光軸とMSMフォトダイオードアレイ46の光軸は平行であることを把握することができる。
(3) 引用発明の認定
前記(1)に摘記した引用文献2の記載事項及び前記(2)で認定した引用文献2の記載事項から当業者が把握できる事項を総合すると、引用文献2には、実施例2(図4)の実施形態に係る並列発光/受光アレイ一体化素子について、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる(引用発明等の認定に用いた箇所の段落番号等を参考までに括弧内に付してある。)。
<引用発明>
「基板上に、受光素子群と面発光レーザ群とが空間的に分離した状態で、かつモノリシックに配列されている並列発光/受光アレイ一体化素子であって、(【請求項1】)
受光素子としてMSM33を用い、
半絶縁性GaAs基板36を用い、i-GaAs層34を結晶成長し、InGaP層39を成長後、引き続き、第一の光反射層40、活性層を含むスペーサ層37、第二の光反射層42を結晶成長し、次に、チップサイズ3mm角の半分の面積をi-GaAs層34の上部までエッチングにより除去し、マスクを面発光レーザ上に形成し、引き続き、イオン注入領域38を形成し、マスク剥離後、MSM33に対応するように、Auからなる櫛型電極をi-GaAs層34上に形成し、(【0017】)
第一の光反射層40、活性層を含むスペーサ層37及び第二の光反射層42により面発光レーザを構成し、(前記(2)ア)
面発光レーザアレイ44の光軸とMSMフォトダイオードアレイ46の光軸は平行である、(前記(2)イ)
並列発光/受光アレイ一体化素子」
2 対比
(1) 対比分析
本願発明と引用発明を対比する。
ア 本願発明の「光センシングシステム」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「並列発光/受光アレイ一体化素子」は、光を使ったシステムであるといえるから、本願発明の「光センシングシステム」と、引用発明の「並列発光/受光アレイ一体化素子」は、「光」「システム」である点で共通する。
(イ) 一方で、本願発明は、光「センシング」システムであるのに対して、引用発明は、「並列発光/受光アレイ一体化素子」であって、センシングのためのシステムであるかどうか不明である点で相違する。
イ 本願発明の「基板と、」「を含み、」との発明特定事項について
引用発明の「基板」である「半絶縁性GaAs基板36」は、本願発明の「基板」に相当する。
したがって、本願発明と引用発明は、「基板と、」「を含[む]」点で一致する。
ウ 本願発明の「前記基板上に位置し、第1光軸を有するように配列された複数の発光素子と、」「を含み、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「面発光レーザ」及び「面発光レーザ群」である「面発光レーザアレイ44」はそれぞれ、本願発明の「発光素子」及び「複数の発光素子」に相当する。
(イ) 引用発明の「面発光レーザ群」は、「基板上に」「配列されている」ものである。また、引用発明の「面発光レーザ群」は、「光軸」を有し、当該「光軸」は、本願発明の「第1光軸」に相当する。したがって、引用発明の「面発光レーザ群」は、本願発明でいう「前記基板上に位置し、第1光軸を有するように配列された」ものである。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、「前記基板上に位置し、第1光軸を有するように配列された複数の発光素子と、」「を含[む]」点で一致する。
エ 本願発明の「前記基板上に位置し、前記第1光軸と平行な第2光軸を有するように配列された複数の受光素子と、」「を含み、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明には「受光素子群」と「MSMフォトダイオードアレイ46」が特定されているところ、「受光素子としてMSM33を用い」るものであることから、当該「MSMフォトダイオードアレイ46」は当該「受光素子群」と同じものを意味していることになる。そして、引用発明の「受光素子」である「MSM33」及び「受光素子群」である「MSMフォトダイオードアレイ46」はそれぞれ、本願発明の「受光素子」及び「複数の受光素子」に相当する。
(イ) 引用発明の「MSMフォトダイオードアレイ46の光軸」は、本願発明の「第2光軸」に相当する。そして、引用発明の「受光素子群」は、「基板上に」「配列されている」ものであり、「MSMフォトダイオードアレイ46の光軸」は、「面発光レーザアレイ44の光軸」と「平行である」から、前記ウ(イ)も踏まえると、本願発明でいう「前記基板上に位置し、前記第1光軸と平行な第2光軸を有するように配列された」ものである。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、「前記基板上に位置し、前記第1光軸と平行な第2光軸を有するように配列された複数の受光素子と、」「を含[む]」点で一致する。
オ 本願発明の「前記発光素子の下に設けられた層と前記受光素子とは、前記基板上に形成された前記受光素子をなす受光物質層を共通に含むとともに、」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「受光素子」である「MSM33」は、引用発明における「MSM33に対応するように、Auからなる櫛型電極をi-GaAs層34上に形成」することという事項からみて、「Auからなる櫛型電極」が一対の電極からなり、「Auからなる櫛型電極」の一方の電極という金属(Metalの「M」)、「i-GaAs層34」という半導体(Semiconductorの「S」)及び「Auからなる櫛型電極」の他方の電極という金属(Metalの「M」)がこの順に接触して構成されたものであること、並びに、当該「i-GaAs層34」は、半導体の層を構成しているところ、MSM素子における半導体層がキャリア発生層として光吸収の機能を持つものであることは、いずれも、MSM型受光素子の構造についての技術常識(必要であれば、特開2010-92932号公報の【0010】~【0011】及び【図6】、特開2006-222343号公報の【0020】~【0023】、【図1】~【図2】参照。)に照らして明らかであるから、当該「i-GaAs層34」を構成する「i-GaAs」は受光物質であるといえる。そうすると、引用発明の「i-GaAs層34」は、本願発明の「受光物質層」に相当するとともに、引用発明の「受光素子」である「MSM33」は、本願発明でいう「受光物質層」を「含む」ものである。
(イ) 引用発明は、「i-GaAs層34を結晶成長し、InGaP層39を成長後、引き続き、第一の光反射層40、活性層を含むスペーサ層37、第二の光反射層42を結晶成長[する]」ものであって、「第一の光反射層40、活性層を含むスペーサ層37及び第二の光反射層42により面発光レーザを構成[する]」ものである。そうすると、前記ウ(ア)も踏まえると、引用発明の「i-GaAs層34」は、本願発明の「前記発光素子の下に設けられた層」に相当するとともに、前記(ア)を踏まえると、本願発明でいう「受光物質層」「を含む」ものであるといえる。
(ウ) 引用発明は、「半絶縁性GaAs基板36を用い、i-GaAs層34を結晶成長[する]」ものであるから、引用発明の「i-GaAs層34」は、前記イも踏まえると、本願発明でいう「前記基板上に形成された」ものである。
(エ) したがって、本願発明と引用発明は、「前記発光素子の下に設けられた層と前記受光素子とは、前記基板上に形成された」「受光物質層を共通に含む」点で共通する。
(オ) 一方で、受光物質層について、本願発明は、「前記受光素子をなす」ものであるのに対して、引用発明は、「i-GaAs層34」は、「MSM33」の半導体層を構成するものであるが、本願発明でいう「前記受光素子をなす」といえるかどうか不明である点で一応相違する。
カ 本願発明の「前記発光素子は前記受光物質層の一部領域上に形成された発光物質層をさらに含む」との発明特定事項について
(ア) 引用発明の「活性層を含むスペーサ層37」は、「面発光レーザを構成[する]」層であるところ、面発光レーザにおいては活性層が発光することは文献を挙げるまでもない技術常識であるから、引用発明の「活性層」は、本願発明の「発光物質層」に相当するとともに、本願発明でいう「前記発光素子」が「含む」ものである。
(イ) 引用発明は、「i-GaAs層34を結晶成長し、InGaP層39を成長後、引き続き、第一の光反射層40、活性層を含むスペーサ層37、第二の光反射層42を結晶成長し、次に、チップサイズ3mm角の半分の面積をi-GaAs層34の上部までエッチングにより除去[する]」ものであるところ、当該除去された部分には活性層を含むスペーサ層は形成されていないことになるから、「面発光レーザ」の「活性層」は、「i-GaAs層34」の上であって、その一部領域上に形成されるものであるといえるのであり、そのため、当該「活性層」は、前記オ(ア)も踏まえると、本願発明でいう「前記受光物質層の一部領域上に形成された」ものであるといえる。
(ウ) したがって、本願発明と引用発明は、「前記発光素子は前記受光物質層の一部領域上に形成された発光物質層をさらに含む」点で一致する。
(2) 一致点及び相違点の認定
前記(1)から、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「基板と、
前記基板上に位置し、第1光軸を有するように配列された複数の発光素子と、
前記基板上に位置し、前記第1光軸と平行な第2光軸を有するように配列された複数の受光素子と、を含み、
前記発光素子の下に設けられた層と前記受光素子とは、前記基板上に形成された受光物質層を共通に含むとともに、前記発光素子は前記受光物質層の一部領域上に形成された発光物質層をさらに含む光システム」である点。
<相違点1>
光システムについて、本願発明は、光「センシング」システムであるのに対して、引用発明は、「並列発光/受光アレイ一体化素子」であって、光センシングのためのシステムであるかどうか不明である点。
<相違点2>
受光物質層について、本願発明は、「前記受光素子をなす」ものであるのに対して、引用発明は、「i-GaAs層34」は、「MSM33」の半導体層を構成するものであるが、本願発明でいう「前記受光素子をなす」といえるかどうか不明である点。
3 判断
(1) 相違点についての検討
前記相違点について検討する。
ア 相違点1について
発光及び受光アレイ素子の用途として、光センシングシステムは例示するまでもなく周知技術であるから、引用発明の「並列発光/受光アレイ一体化素子」を光センシングシステムに用いて、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。
イ 相違点2について
(ア) まず、本願発明の「受光物質層」が「前記受光素子をなす」ことの意味について検討すると、その文言に照らせば、受光物質層が受光素子そのものである必要があるようにも解される一方で、「受光物質層」のみで「受光素子」を実現することが技術常識に照らして通常とはいえないことから、受光物質層が受光素子の一部をなしていれば足りると解する余地もあり、より具体的にいえば、例えばPIN構造の受光素子を想定した場合、受光物質層が実際に受光するI層を含めば足りるのか、PIN構造の全ての層を含む必要があるのか、受光素子に必要な電極構造も含む必要があるのか、などが判然としない。
そこで本願の明細書及び図面(以下「本願明細書等」という。)の記載を参酌すると、本願明細書等には「受光物質層」が「前記受光素子をなす」との記載そのものは存在せず、受光物質層について、次の記載がある。
a 「光センシングシステム1000’は、基板100、基板100上に形成された受光物質層300、受光物質層300の一部領域上に形成された発光素子221を含む。受光物質層300の領域は、受光領域RAと非受光領域NRAとを含み、受光領域RAは、受光素子321とも称される。」(【0054】)
b 「受光物質層300は、基板100上に、半導体工程を介しても形成される。受光物質層300は、III-V族半導体化合物、II-VI族半導体化合物またはIV族半導体物質を含んでもよく、基板100上に、直接一体型にも形成される。受光物質層300は、フォトダイオードを具現するようにも構成される。・・・(中略)・・・図面には、受光物質層300が3層に図示されているが、それは例示的なものであり、それに限定されるものではない。受光物質層300は、半導体物質以外に、光信号を電気的信号として検出するための電極構造を含んでもよい。」(【0056】)
c 「受光物質層300の領域は、受光領域RAと非受光領域NRAとを含む。非受光領域NRAと受光領域RAは、同一半導体物質を含む。受光領域RAは、外部から入射された光を電気信号に変化させて出力することができる領域であり、非受光領域NRAは、その上に、発光素子221が形成されるように設けられ、外部から入射された光L2を電気信号として出力しない領域である。受光領域RAと非受光領域NRAは、電気信号の出力のための電極構造の有無で差がある。例えば、受光領域RAには、電気信号出力のための電極(図示せず)が含まれ、非受光領域NRAは、そのような電極が含まれないようにも形成される。ただし、それに限定されるものではなく、例えば、受光領域RAと非受光領域NRAは、同一電極構造を含むが、外部回路との連結において、非受光領域NRAの電極は、外部回路と連結されないように構成される方式も可能である。」(【0057】)
前記aの記載によれば、受光物質層は、受光領域と非受光領域を含んでよく、受光領域が受光素子であるとされる一方で、前記cの記載によれば、受光物質層の非受光領域は電極が含まれないように形成されたり、非受光領域の電極が外部回路と連結されないように構成されたりするとされている。そして、電極や外部回路との連結がなければ受光素子としては機能しないことから、本願発明の「受光物質層」が「前記受光素子をなす」ことの意味は、その受光領域が電極や外部回路を付加することにより受光素子として機能すれば足りると解するのが相当である。このように解することは、前記bに記載されるように、受光物質層が半導体工程を介して形成されることや、前記cに記載されるように、非受光領域と受光領域は、同一半導体物質を含むこととも整合する。
(イ)a 前記(ア)を引用発明についてみると、前記2(1)オ(ア)で説示したとおり、引用発明の「i-GaAs層34」は、「受光素子」である「MSM33」の半導体層を構成し、キャリア発生層として光吸収の機能を持つものであり、Auからなる一対の櫛型電極をi-GaAs層34上に形成することにより受光素子であるMSM33として機能するものであるから、相違点2に係る本願発明でいう「受光素子をなす」ものであるといえる。
したがって、相違点2は実質的な相違点ではない。
b 仮に、本願発明の「受光物質層」が「前記受光素子をなす」ことの意味を、前記(ア)bで摘記した本願明細書等の【0056】の記載のように、受光物質層の受光領域がなす受光素子がフォトダイオードによって構成されるもの、特に、3層(例えば【0049】のP型、I型、N型に具現された複数層)で構成されるものと解したとしても、以下に示すとおり、相違点2に係る本願発明の構成は、当業者が容易に想到し得たものである。
すなわち、例えば引用文献2の【請求項3】にも記載されているとおり、受光素子としてPIN型フォトダイオードを用いることは周知技術であるから、図4に係る引用発明の「MSM33」に代えて、PIN型フォトダイオードを用いることは、当業者が容易になし得たことであり、その場合には、MSM33のi-GaAs層34をP層/I層/N層からなる3層構造に置き換えるのが最も自然であり、「面発光レーザ」の「活性層」は、P層/I層/N層からなる3層構造の上であって、その一部領域上に形成されるものとなる。
ウ 総合検討
相違点1~2を総合的に勘案しても、本願発明の奏する効果は、引用発明も奏するものか、又は、本願発明の構成が奏するものとして、引用発明及び周知技術からは予測困難な効果であり、かつ、格別顕著な効果であるとはいえないものにすぎない。
(2) 請求人の主張について
請求人は、引用発明においては、i-GaAs層34の上に、MSM33が形成されており、i-GaAs層34はMSM33の構成要素(一部)ではないこと、そもそもi-GaAs層34は単層の半導体に過ぎず、イントリンシックなSi半導体(シリコン結晶)と同様に、それ自体だけでは受光素子として機能しないことを根拠として、引用発明は、本願発明の「前記発光素子の下に設けられた層と前記受光素子とは、前記基板上に形成された前記受光素子をなす受光物質層を共通に含むとともに、前記発光素子は前記受光物質層の一部領域上に形成された発光物質層をさらに含む」という構成を備えていない旨を主張している。
請求人が、引用発明においては、i-GaAs層34の上にMSM33が形成されていると主張する根拠は、引用文献2の図4において、「MSM」を意味する図面番号の「33」がi-GaAs層34の上にある構造のみを指していると解することにあると考えられるが、引用文献2の【0017】の「MSM33に対応するように、Auからなる櫛型電極をi-GaAs層34上に形成し、ARコート32を形成した後」との記載からみて、上記の構造は、櫛形電極とARコート32のみからなるものであり、MSM33そのものではないと解される。そして、前記2(1)オ(ア)で説示したとおり、「MSM33」は、「Auからなる櫛型電極」の一方の電極という金属(Metalの「M」)、「i-GaAs層34」という半導体(Semiconductorの「S」)及び「Auからなる櫛型電極」の他方の電極という金属(Metalの「M」)がこの順に接触して構成されたものと解すべきであり、このことは、そのように解さないと、「i-GaAs層34」を設ける技術的意味を理解できないことからも首肯できる。そのため、i-GaAs層34はMSM33の構成要素(一部)ではないとの請求人の主張は失当である。
また、i-GaAs層34は、それ自体だけでは受光素子として機能しないものではあるが、本願発明において、「受光物質層」が「前記受光素子をなす」ことの意味は、その受光領域が電極や外部回路を付加することにより受光素子として機能すれば足りると解されること、引用発明の「i-GaAs層34」は、Auからなる一対の櫛型電極をi-GaAs層34上に形成することにより受光素子であるMSM33として機能するものであるから、本願発明でいう「受光素子をなす」ものであるといえることは、前記(1)イ(イ)で説示したとおりであり、i-GaAs層34が、それ自体だけでは受光素子として機能しないことは、前記(1)イの説示を左右しない。
請求人はまた、本願発明は、発光素子が形成される領域以外の領域が受光素子となるため、素子面積を最大化でき素子の位置精度を向上できるという格別な効果を奏する旨、自己整合的な方法で発光素子及び受光素子を同時に形成することは、当業者にとって容易になし得る技術的思想を超える旨を主張するが、これらの点は本願明細書等には記載されておらず、以下に示すとおり本願明細書等の記載から推認できるものでもない。すなわち、本願発明の一態様であると解される本願明細書等の【図4A】を見ると、その上に発光素子221が形成される受光物質層300の非受光領域NRAと、その上に発光素子221が形成されない受光物質層300の受光領域RA(321)は、所定の間隔をもって配置されていることが図示されているところ、このように非受光領域NRAと受光領域RA(321)が所定の間隔をもって配置されている形態は、請求人の主張する「自己整合的な方法で発光素子及び受光素子を同時に形成」するものとはいえないし、「発光素子が形成される領域以外の領域」が全て「受光素子となる」(「素子面積を最大化でき素子の位置精度を向上できる」との主張から見て、その旨の主張と解される。)ともいえないことから、請求人の主張は、請求項の記載に基づくものとして本願明細書等の記載から推認できるものではない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
4 小括
以上検討のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-011015