2023-010624
気圧検出センサ、気圧検出装置及び気圧検出装置の製造方法
- 審判番号
- 2023-010624
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-572473外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2023年06月27日
- 審決日
- 2024年06月26日
- 公報発行日
- 2024年09月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】SEMITEC株式会社
- 【請求人代理人】和泉 順一
- 分類
- P18 .121-Z (G01L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条、特許法第17条の2第5項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 11項目
第1 手続の経緯
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本願は、2022年(令和4年)3月8日を国際出願日とする日本語特許出願であって(優先権主張 令和3年3月15日)、その手続の経緯の概略は、次のとおりである。
同年 3月24日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
(同年 4月10日 :原査定の謄本の送達)
同年 6月27日 :審判請求書、手続補正書の提出
同年 7月19日付け:前置報告書
以降、令和3年3月15日を「優先日」という。
第2 令和5年6月27日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年6月27日にされた手続補正を却下する。
[補正の却下の決定の理由]
1 補正の内容
令和5年6月27日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の補正を含むものであり、この補正により、次の(1)に示す本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載が、後記の(2)に示す本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載に補正された。下線は補正箇所を示す。
(1) 本件補正前の請求項1
「【請求項1】雰囲気の熱伝導率に応じて熱損失量の変化を検出する圧力検出用のサーミスタと、圧力検出の基準となる圧力補償用のサーミスタとを備え、前記圧力検出用のサーミスタ及び前記圧力補償用のサーミスタは、薄膜サーミスタであり、前記圧力検出用のサーミスタと前記圧力補償用のサーミスタとは、電気的特性として少なくとも抵抗値がペアリングされ、熱的特性として少なくとも熱放散定数がペアリングされていることを特徴とする気圧検出センサ。」
(2) 本件補正後の請求項1
「【請求項1】雰囲気の熱伝導率に応じて熱損失量の変化を検出する圧力検出用のサーミスタと、圧力検出の基準となる圧力補償用のサーミスタとを備え、前記圧力検出用のサーミスタ及び前記圧力補償用のサーミスタは、薄膜サーミスタであり、前記圧力検出用のサーミスタと前記圧力補償用のサーミスタとは、電気的特性として少なくとも抵抗値がペアリングされ、熱的特性として少なくとも熱放散定数が測定されてペアリングされていることを特徴とする気圧検出センサ。」
2 補正の目的
本件補正は、本件補正前の「熱放散定数がペアリングされている」という構成について、「測定されてペアリングされている」ものに限定するものである。
そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明は、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
3 独立特許要件の判断
前記2のとおり、本件補正は、特許法17条の2第5項2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。そこで、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか、すなわち、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下検討する。
(1) 本件補正発明
ア 本件補正発明の認定と分説
本件補正発明は、前記1(2)に摘記した本件補正後の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める。
ここで、本件補正発明の構成を便宜上次のように構成Xと構成Aから構成C2までに分説する。また、参考図として、本願の【図6】を元に部材名を記入したものを掲載する。
<本件補正発明の分説>
A 雰囲気の熱伝導率に応じて熱損失量の変化を検出する圧力検出用のサーミスタと、
B 圧力検出の基準となる圧力補償用のサーミスタとを備え、
C1 前記圧力検出用のサーミスタ及び前記圧力補償用のサーミスタは、薄膜サーミスタであり、
C2 前記圧力検出用のサーミスタと前記圧力補償用のサーミスタとは、電気的特性として少なくとも抵抗値がペアリングされ、熱的特性として少なくとも熱放散定数が測定されてペアリングされていること
を特徴とする
X 気圧検出センサ。
<参考図>
[図:0001413923000001.jpg]
イ 課題・作用効果に関連する明細書の発明の詳細な説明の記載
本願明細書の発明の詳細な説明の記載のうち、本件補正発明の技術上の意義の概略を理解するために、発明が解決しようとする課題及び作用効果に関連する記載等を抜粋すると、次の記載がある。なお、下線は合議体による。
「【技術分野】【0001】本発明は、気圧検出センサ、気圧検出装置及び気圧検出装置の製造方法に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】【0006】しかしながら、サーミスタ真空計において、種々の提案がなされているが、満足できるものではなく、従来に比し一層の精度の向上が期待されている。」
「【発明の効果】【0010】本発明の実施形態によれば、精度の向上が可能な真空検出センサ(中略)を提供することができる。」
「 【0042】圧力検出用の薄膜サーミスタ10と圧力補償用の薄膜サーミスタ10´との関係において、これらの特性値が完全に一致することが理想的であるが、完全な一致は困難である。したがって、高精度な特性値のばらつきの範囲内におけるペアリングの実現を図ることが重要となる。【0043】一般的には、この種サーミスタの抵抗値のばらつき(許容差)は±5%、B定数のばらつきは±3%、熱放散定数のばらつきは±10%程度であり、加えて電源等のばらつきを考慮すると気圧検出センサの精度は±20%となる。続きを表示(全13行)【0044】本実施形態では、圧力検出用の薄膜サーミスタ10と圧力補償用の薄膜サーミスタ10´との特性値のペアリングは、電気的特性としの抵抗値は±0.2%以下、B定数も±0.2%以下の精度となっている。また、熱的特性としての熱放散定数についても±0.2%以下となっている。(中略)【0048】この種サーミスタの製造工程の品質管理において、ビード型サーミスタの抵抗値精度(許容差)は±15%程度であり、熱放散定数については参考値であり、その精度は管理されていないのが現状である。一方、薄膜サーミスタの抵抗値精度は±5%程度であり、熱放散定数はビード型サーミスタと同様に参考値となり、その精度は管理されていない状態である。熱放散定数については精度よく測定する方法がなかったためにこのような状況になっている。発明者らは、熱放散定数に着目し、熱放散定数を高精度に測定する技術を確立して本発明に適用している。【0049】抵抗値精度は±15%程度のサーミスタを使用すれば気圧検出センサの精度は、±15%以下の精度は実現できない。一方、熱放散定数が±15%程度であれば気圧検出センサの精度は、±15%以下の精度は実現できない。現在市販されている熱伝導方式の真空センサの精度は±15%~±50%である。【0050】以上に基づいて検討及び実験を行った結果、従来の熱伝導方式よりも高精度にするには、抵抗値については±1%以下、熱放散定数については±1%以下にばらつきを精密に制御することで高精度化を実現できるとの結論に至っている。「抵抗値については±1%以下」は、圧力検出用の薄膜サーミスタ10と圧力補償用の薄膜サーミスタ10´との各抵抗値の平均値を基準とした許容差を示している。熱放散定数についても同様である。したがって、具体的には、抵抗値及び熱放散定数のペアリングは、所定の許容差で管理し製造することにより行われる。」
(2) 引用発明及び技術常識の認定
ア 引用文献1に記載された事項と引用発明の認定
(ア) 引用文献1に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用文献1として引用された、本願の優先日前に発行された実願平05-071115号(実開平07-034341号)のCD-ROMには、次の記載がある(なお、当合議体により、後記(ウ)の引用発明の認定に直接用いる記載に下線を付した。)。
a 段落【0001】
「 【0001】【産業上の利用分野】この考案は、金属蒸気レーザ装置における金属蒸気レーザ管内のキャリアガス圧力を検知する圧力センサに関するものである。」
b 段落【0003】~【0005】、【図4】
「 【0003】図4は陽光柱型金属蒸気レーザ装置の説明図である。1は金属蒸気レーザ管、2は金属溜であり、加熱されることにより金属蒸気レーザ管1に金属蒸気が供給される。3はカソード電極、4はアノード電極である。5は圧力センサであって金属蒸気レーザ管内のキャリアガスの圧力を検知し、6はキャリアガスを金属蒸気レーザ管1に供給するキャリアガス供給器である。一般に、金属蒸気レーザ装置においては、使用時間の経過に伴い金属蒸気が金属蒸気レーザ管1の内壁等に凝結する際にキャリアガスがトラップされてキャリアガス圧力が低下するため、レーザ出力が不安定となりやすい。これを防止するため、圧力センサ5によりキャリアガスの圧力を検知し、その検知信号により不図示の制御手段によって金属蒸気レーザ管1に接続されたキャリアガス供給器6を制御して適宜キャリアガスを金属蒸気レーザ管1に供給している。」
「【図4】[図:0001413923000002.jpg]」
「 【0004】従来、特に市販のHe-Cdレーザ装置においては、金属蒸気レーザ管1内部のヘリウムガス圧力を検知するための圧力センサ5としてピラニゲージやサーミスタ真空計が用いられてきた。ガスの熱伝導は、一般に10torr以下の低圧では圧力に比例する。この特性を利用すると、例えばガスの熱伝導率の変化を当該ガス雰囲気中の発熱体の温度変化で検知してこれを電気的に測定することにより、当該ガスの圧力測定が可能となる。ピラニゲージは線条を発熱体および抵抗温度計としたものであり、サーミスタ真空計は線条の代わりにビーズ状のサーミスタを使用する圧力センサーである。具体的には、まずどちらの場合においても線条またはサーミスタといった素子を気体中に設置し、電流を流して発熱させておく。雰囲気圧力が変化すると素子からの発熱量が変化し、抵抗値も変化する。この抵抗値の変化を電気的に検知することにより、ガス圧力を測定している。【0005】これらの真空センサは線条またはサーミスタといった素子の温度変化を利用してガスの圧力を検知しているので、検知対象のガス圧力の変化のみならず例えば金属蒸気レーザ管1の外部雰囲気の温度変化によっても、抵抗値が変化する。従って正確にガスの圧力変化だけに素子を応答させるためには温度補償手段が必要となる。」
c 段落【0011】~【0017】
「 【0011】そこで本考案はかかる事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、雰囲気温度に対する温度補償を高精度に行い、金属蒸気レーザ管内の圧力を高精度に検知する圧力センサを提供することにある。【0012】【課題を解決するための手段】続きを表示(全11行)かかる目的を達成するために、本考案は、金属蒸気レーザ装置における金属蒸気レーザ管内のキャリアガス圧力を検知する圧力センサであって、前記センサは圧力検知部と温度補償部からなり、前記圧力検知部は前記金属蒸気レーザ管と接続された第1の収納部と該第1の収納部内に設置された第1の圧力検知素子よりなり、前記温度補償部は前記第1の収納部と同一形状であって隔壁により隔離されて第1の収納部と接続された第2の収納部と該第2の収納部内に設置された第2の圧力検知素子よりなり、かつ前記第2の収納部内には前記金属蒸気レーザ管内のキャリアガスの初期圧力と等しい圧力のキャリアガスを封止する。(中略)【0015】【作用】本考案の圧力センサは、金属蒸気レーザ管と接続された第1の収納部とその内部に設置された第1の圧力検知素子とで構成される圧力検知部と、第1の収納部と同一形状であって隔壁により隔離されて第1の収納部と接続された第2の収納部とその内部に設置された第2の圧力検知素子とで構成される温度補償部からなる。そして、前記第2の収納部内には前記金属蒸気レーザ管内のキャリアガスの初期圧力と等しい圧力のキャリアガスが封止されている。従って、温度補償部と金属蒸気レーザ管と接続された圧力検知部は外部雰囲気の温度差が少なく、両者における熱伝導も同様であるので精度のよい温度補償を実現する。また圧力センサとしてピラニゲージを用いた例のように複雑な温度補償回路を構成する必要がなくなる。(後略)」
d 段落【0018】~【0020】、【図1】
「 【0018】【実施例】以下に図面に示す実施例に基づいて本考案を具体的に説明する。図1は本考案の一実施例である圧力センサの説明図である。ここに示す圧力センサは、図4の金属蒸気レーザ装置の圧力センサ5に相当する。53は圧力検知部であり、金属蒸気レーザ管1と接続された第1の収納部54とその内部に設置された圧力検知用サーミスタ55よりなる。56は温度補償部であり、第1の収納部54と接続された第2の収納部57と内部に設置された温度補償用サーミスタ58よりなる。第1の収納部54と第2の収納部57は同一形状であって、隔壁59により隔離される。圧力検知部53は金属蒸気レーザ管1と接続されているので、金属蒸気レーザ管1内のキャリアガスの圧力と同一圧力である。また温度補償部56は金属蒸気レーザ管1内のキャリアガスの初期圧力と等しい圧力もしくは実質上等しい圧力のキャリアガスが封止される。」
「【図1】[図:0001413923000003.jpg]」
「 【0019】ブリッジ回路の等価回路7の各一辺を抵抗Rとともに形成する圧力検知部53内の圧力検知用サーミスタ55および温度補償部56内の温度補償用サーミスタ58は、電源Eにより電流が流され発熱する。金属蒸気レーザ管1内のキャリアガス圧力が変化すると圧力検知用サーミスタ55の発熱量が変化し、その抵抗値も変化する。従ってブリッジ回路7より金属蒸気レーザ管1内の圧力は電気信号として検出される。この等価回路7は制御回路103と接続されており、図3に示す金属蒸気レーザ管1に接続されたキャリアガス供給器6を制御して適宜キャリアガスを金属蒸気レーザ管1に供給する。【0020】ここで、第1の収納部54と第2の収納部57は隔壁59を介して接続され、かつ同一形状であって、また第2の収納部57は金属蒸気レーザ管1内のキャリアガスの初期圧力と等しい圧力のキャリアガスが封止されている。従って、温度補償部56と金属蒸気レーザ管1と接続された圧力検知部53は外部雰囲気の温度差が少なく、両者における熱伝導も同様となり、ブリッジ回路の等価回路7において精度のよい温度補償を実現することができる。そして圧力センサ5としてピラニゲージを用いた場合のような複雑な温度補償回路を必要としない。尚、第2の収納部57は、第1の収納部54と実質的に等しい熱伝導状態を実現するのであれば必ずしも同一形状である必要はなく、例えば断面形状が円形、方形であっても良いことは明白である。」
e 段落【0024】
「 【0024】【考案の効果】以上説明したように、本考案の圧力センサは、金属蒸気レーザ管と接続された第1の収納部とその内部に設置された第1の圧力検知素子とで構成される圧力検知部と、第1の収納部と同一形状であって隔壁により隔離されて第1の収納部と接続された第2の収納部とその内部に設置された第2の圧力検知素子とで構成される温度補償部からなり、前記第2の収納部内には前記金属蒸気レーザ管内のキャリアガスの初期圧力と等しい圧力のキャリアガスが封止されていて、温度補償部と金属蒸気レーザ管と接続された圧力検知部は外部雰囲気の温度差が少なく、両者における熱伝導も同様であるので、精度のよい温度補償を実現することができる。また圧力センサとしてピラニゲージを用いた例のように複雑な温度補償回路が不要となる。」
(イ) 引用文献1の記載からの認定事項
前記(ア)に摘記した段落【0004】に記載された事項は、サーミスタを使用するものを含む従来の圧力センサの作動原理などを説明するものであるから、同段落【0018】~【0020】に記載されている、「圧力検知用サーミスタ55」を含む圧力センサを有する実施例においても共通する事項であることは明らかである。
(ウ) 引用発明の認定
前記(ア)に摘記した引用文献1の記載事項及び前記(イ)の認定事項から、引用文献1には、【図1】に示された実施例に係る発明として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「金属蒸気レーザ装置における金属蒸気レーザ管内のキャリアガス圧力を検知する圧力センサ5であって、(【0001】、【0018】)ビーズ状のサーミスタを使用するものであり、(【0004】)ガスの熱伝導率の変化を当該ガス雰囲気中の発熱体の温度変化で検知してこれを電気的に測定することにより、当該ガスの圧力測定を可能とするものであって、具体的には、サーミスタを気体中に設置し、電流を流して発熱させておき、雰囲気圧力が変化すると素子からの発熱量が変化し、抵抗値も変化するものであり、この抵抗値の変化を電気的に検知することにより、ガス圧力を測定するものであり、(【0004】)金属蒸気レーザ管1と接続された第1の収納部54と、その内部に設置された圧力検知用サーミスタ55よりなる圧力検知部53と、(【0018】)第1の収納部54と接続された第2の収納部57と内部に設置された温度補償用サーミスタ58よりなる温度補償部56とを備え、(【0018】)第1の収納部54と第2の収納部57は同一形状であって、隔壁59により隔離されており、(【0018】)第2の収納部57は金属蒸気レーザ管1内のキャリアガスの初期圧力と等しい圧力のキャリアガスが封止されており、(【0020】)雰囲気温度に対する温度補償を高精度に行い、金属蒸気レーザ管内の圧力を高精度に検知する、(【0011】)金属蒸気レーザ装置における金属蒸気レーザ管内のキャリアガス圧力を検知する圧力センサ5。(【0001】、【0018】)」
イ 技術常識の認定
(ア) 技術常識1の認定
a 引用文献7に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用文献7として引用された、本願の優先日前に発行された文献である特開2004-319737号公報には、次の記載がある。なお、下線は合議体が付したもので、以下同様である。
「【0002】【従来の技術】サーミスタは、温度によって電気抵抗が変化する材料である。これは、温度センサー、光センサー、真空計、ガス検知センサー等への応用が研究されている。」
「【0029】本発明材料の形態は限定的でなく、通常の成形体(バルク体)のほか、薄膜等の形態であっても良い。薄膜として使用する場合の厚みは、用途にもよるが、一般的に0.1~1μm程度とすることが望ましい。【0030】本発明材料は、サーミスタとして好適であり、公知のサーミスタ材料と同様の用途にも幅広く用いることができる。例えば、温度センサー、光センサー、真空計、流速計、ガスセンサー等の用途に本発明材料は好適である。2.サーミスタ材料の製造方法本発明サーミスタの製造方法は、前記のような構成を有するものが得られれば限定されず、例えば焼結法のほか、薄膜製造技術等の公知の方法に従って実施することができる。上記の薄膜製造技術としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、CVD法等の気相法を好適に採用することができる。その中でも、スパッタリング法が好ましい。」
「【0038】また、本発明の製造方法によって、より緻密で優れた特性を有する薄膜サーミスタを製造することができる。」
b 技術常識1の認定
前記aに示した引用文献7の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識1」という。)
[技術常識2]
薄膜サーミスタが真空計に用いられ得ること。
(イ) 技術常識2の認定
a 引用文献3に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用文献3として引用された、本願の優先日前に発行された特開2020-46438号公報には、次の記載がある。
「【0017】感熱抵抗素子2は、薄膜サーミスタであり、検知用感熱抵抗素子である。基板21と、この基板21上に形成された導電層22と、薄膜素子層23と、保護絶縁層24とを備えている。」
「【図2】[図:0001413923000004.jpg]」
「【0018】基板21は、略長方形状をなしていて、絶縁性のアルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニア等のセラミックス又は半導体のシリコン、ゲルマニ10ウム等の材料を用いて形成されている。この基板21の一面上には、絶縁性薄膜がスパッタリング法によって成膜して形成されている。具体的には、基板21はアルミナ材料を用いて作られていて、極薄で厚さ寸法が10μm~100μmに形成されている。このような極薄の基板21を感熱抵抗素子2に用いることで、熱容量が小さくなり高感度で、かつ熱応答性の優れたガスセンサ1が実現可能となる。【0019】導電層22は、配線パターンを構成するものであり、基板21上に形成されている。導電層22は、金属薄膜をスパッタリング法によって成膜して形成されものであり、その金属材料には、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)等の貴金属やこれらの合金、例えば、Ag-Pd合金等が適用される。また、基板21の両端部には、導電層22と一体的に、導電層22と電気的に接続された電極部22aが形成されている。【0020】薄膜素子層23は、サーミスタ組成物であり、負の温度係数を有する酸化物半導体から構成されている。薄膜素子層23は、前記導電層22の上に、スパッタリング法等によって成膜して導電層22と電気的に接続されている。【0021】前記薄膜素子層23は、例えば、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)等の遷移金属元素の中から選ばれる2種又はそれ以上の元素から構成されている。保護絶縁層24は、薄膜素子層23及び導電層22を被覆するように形成されている。保護絶縁層24は、ホウケイ酸ガラスによって形成された保護ガラス層である。」
b 引用文献9に記載された事項
当審において引用文献9として新たに引用する、本願の優先日前に発行された「友澤淳、藤井映志、鳥井秀雄、高山良一、「広温度範囲・高応答性温度センサに用いる薄膜サーミスタの作製」、粉体および粉末冶金、1999年9月15日、46巻9号、p.973-977」の973頁には、次の事項が記載されている。
「上記温度センサとして熱電対、白金測温体、サーミスタなどが考えられている。なかでもコランダム結晶構造の(Al、Cr、Fe)系酸化物の焼結体を用いたNTCサーミスタは、広い測定温度範囲と高耐熱性を有した優れた温度センサである。しかしながら、この温度センサは焼結体であるため、素子サイズの大幅な小型化には限界があり、また素子の保護の為の金属製キャップが必要なため、応答性の面では課題がある。この材料を用いるセンサで応答性を飛躍的に向上させるためには、熱容量を大幅に低減できる薄膜化が有効であると考えられる。しかしながら、コランダム型(A1,Cr,Fe)系酸化物材料を用いた薄膜タイプの温度センサに関する研究報告はない。」
c 技術常識2の認定
前記a、bに摘記した引用文献3、9の記載事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる。(以下「技術常識2」という。)
[技術常識2]
薄膜サーミスタは、熱容量を比較的小さくできるので応答性に優れること。
(ウ) 技術常識3の認定
a 引用文献2に記載された事項
原査定の拒絶の理由において引用文献2として引用された、本願の優先日前に発行された実願平05-011289号(実開平06-065855号)のCD-ROMには、次の記載がある。
「【0001】【産業上の利用分野】本考案は、雰囲気中の湿度を測定する装置に関し、特に検出素子としてサーミスタ等の感温素子を利用して、電気的に絶対湿度を計測する湿度検知装置に関するものである。」
「【0005】【従来の技術】図3は、従来のサーミスタを用いた湿度検知装置における湿度測定回路を示したものであって、1はサーミスタ素子を備えた湿度検知素子、2は同じくサーミスタ素子を備えた温度補償素子、3,4,5は抵抗、SVは定電圧源である。(中略)【0007】湿度検知素子1は、その内部に設けられたサーミスタ素子が、自由に雰囲気と接触できるように構成されたものであって、例えば、図5に示すような構造を有している。すなわち、ハーメチックシール11を貫通して溶着されたリード線12,13の両端間に、サーミスタ素子14を接続し、ハーメチックシール11に金属キャップ15を被せて溶封して保護するとともに、この金属キャップ15に適当な数の貫通孔16を設けて、外気が流通できるようになっている。なおこのような湿度検知素子については、例えば実開昭55-69746号公報等によって公知である。【0008】温度補償素子2は、湿度検知素子1と同様な構造を有し、使用されるサーミスタ素子も、通常、湿度検知素子1のサーミスタ素子と同型であって、同一環境条件において抵抗値が等しいものを用いるが、金属キャップ15に貫通孔16がなく、内部に乾燥空気を封入されている点が異なっている。【0009】また、湿度検知素子1と温度補償素子2の、それぞれのサーミスタ素子は同型なので、同一雰囲気状態では、通常、等しい熱放散定数δ(= W/( T - Ta ):Wはサーミスタ素子の消費電力、Tはサーミスタ素子の熱平衡時の温度、Taは雰囲気温度)を有している。」
「【0015】湿度検知装置を湿潤空気中においた場合、生活領域の温度範囲では、湿度が高くなると雰囲気の熱伝導率が大きくなる結果、湿度検知素子1におけるサーミスタ素子からの熱の放散が増加して、より多く冷却される。図4に示されるようにサーミスタ素子は負の抵抗温度係数をもっているため、湿度検知素子1は温度の低下に伴って抵抗値が増加し、電流IAが減少する。【0016】これによって図3の回路におけるA点の電位が低下するが、B点の電位は変化しないので、B側を正とする出力電圧V01が得られる。なお、電流IAの減少によって、電源電流ISが減少し、抵抗5における電圧降下が小さくなる結果、ブリッジにかかる電圧が増加するが、出力に対する影響は通常、無視できる程度である。【0017】この際、電流IAの減少によって、温度補償素子2も温度が低下してその抵抗値が増加し、電流IAの減少を助長する。このように湿度検出素子1と温度補償素子2とは、湿度の増加に対する抵抗値の変化の方向が同じであるが、雰囲気の湿度によって、湿度検出素子1におけるサーミスタ素子の熱放散定数δが見かけ上大きくなるため、湿度検出素子1における抵抗増加が温度補償素子2のそれより大きく、そのため上述のような結果となる。」
b 引用文献8に記載された事項
当審において新たに引用する、本願の優先日前に発行された特開平05-326209号公報(前置審査において「引用文献8」として引用したもので、本審決においても「引用文献8」という。)には、次の記載がある。
「【0002】【従来の技術】 サーミスタ等の感温素子を自己加熱すると、素子の熱放散定数がその周囲の気体の熱伝導率の違いによって変化するため、この現象を応用して従来よりサーミスタはガス分析や湿度検出用センサに利用されている。【0003】 図1に感温素子を用いたガス分析又は湿度検出回路を示す。図中Sは試料となる検出用素子、Cは、温度補償用素子である。【0004】 両素子S,Cは、抵抗R1,R2(いずれも10KΩ)とともに組合わされてブリッジ回路を構成し、抵抗RS(330Ω)を通して電源Eの電圧(DC15V)が印加され、両素子S,Cの電圧差が電圧計Vに検出される。検出用素子Sと、温度補償用素子Cとの抵抗温度特性は均一に揃っていなければならない。【0005】 検出用素子Sの熱放散定数が周囲の気体の熱伝導率の違いによって変化すると、両素子の自己加熱温度に差が生じ、そのために抵抗値が異なり、ブリッジ回路には不平衡電圧が出力され、ガス分析や湿度の検出行われる。【0006】【発明が解決しようとする課題】 ところで、検出用素子Sと、温度補償用素子Cとを組合せてセンサの検出回路を構成する場合に、従来は予め両素子の熱放散定数を測定して特性が良く揃った素子の組合せを選定して回路に組込んでいたが、熱放散定数を測定するには素子を自己加熱しなければならず、自己加熱温度が安定するまでに長時間を要するほか、特性測定後の素子の管理,素子の選択組合せに厄介な管理を要するなどの問題があった。」
c 技術常識3の認定
前記a、bに示した引用文献2、8の摘記事項に例示されているように、次の技術事項は、当業者にとって技術常識であったと認められる(以下「技術常識3」という。)。
[技術常識3]
検出用素子及び温度補償用素子の各種特性ができる限りそろっていることが望ましいこと。
(3) 本件補正発明と引用発明の対比
ア 対比分析
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア) 構成Xの観点(「気圧検出センサ」)
「気圧検出センサ」の発明である本件補正発明と「金属蒸気レーザ装置における金属蒸気レーザ管内のキャリアガス圧力を検知する圧力センサ5」の発明である引用発明は、「気圧検出センサ」の発明である点において一致する。
(イ) 構成Aの観点(圧力検出用のサーミスタ)
引用発明の「圧力センサ5」は、「ガスの熱伝導率の変化を当該ガス雰囲気中の発熱体の温度変化で検知してこれを電気的に測定することにより、当該ガスの圧力測定を可能とするものであって、具体的には、サーミスタを気体中に設置し、電流を流して発熱させておき、雰囲気圧力が変化すると素子からの発熱量が変化し、抵抗値も変化するものであり、この抵抗値の変化を電気的に検知することにより、ガス圧力を測定するものであ[る]」から、引用発明の「圧力検知用サーミスタ55」は、本件補正発明の「雰囲気の熱伝導率に応じて熱損失量の変化を検出する圧力検出用のサーミスタ」に相当する。
したがって、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「雰囲気の熱伝導率に応じて熱損失量の変化を検出する圧力検出用のサーミスタ」を備える点。
(ウ) 構成Bの観点(圧力補償用のサーミスタ)
引用発明の「温度補償用サーミスタ58」は「雰囲気温度に対する温度補償を高精度に行い、金属蒸気レーザ管内の圧力を高精度に検知する」ための「温度補償部56」を構成するものであるから、各温度における圧力検出の基準を提供し、「圧力検知用サーミスタ55」の出力の補償を行うためのサーミスタであるといえる。
そうすると、引用発明の「温度補償用サーミスタ58」は、本件補正発明の「圧力検出の基準となる圧力補償用のサーミスタ」に相当するといえ、本件補正発明と引用発明は、次の点において一致する。
「圧力検出の基準となる圧力補償用のサーミスタ」を備える点。
(エ) 構成C1の観点(サーミスタの種類)
本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
圧力検出用のサーミスタ及び圧力補償用のサーミスタが、本件補正発明においては、薄膜サーミスタであるのに対して、引用発明においては、ビーズ状のサーミスタである点。
(オ) 構成C2の観点(ペアリング)
本件補正発明と引用発明は、次の点において相違する。
本件補正発明においては、圧力検出用のサーミスタと圧力補償用のサーミスタとは、電気的特性として少なくとも抵抗値がペアリングされ、熱的特性として少なくとも熱放散定数が測定されてペアリングされているのに対して、引用発明においては、サーミスタのペアリングを行うことについて明示されていない点。
イ 一致点及び相違点
前記アの対比分析の結果をまとめると、本件補正発明と引用発明は、次の(ア)に示す一致点において一致し、後記(イ)に示す相違点において相違すると認められる。
(ア) 一致点
「雰囲気の熱伝導率に応じて熱損失量の変化を検出する圧力検出用のサーミスタと、圧力検出の基準となる圧力補償用のサーミスタと、を備える気圧検出センサ」である点。
(イ) 相違点
a 相違点1
圧力検出用のサーミスタ及び圧力補償用のサーミスタが、
本件補正発明においては、いずれも「薄膜サーミスタ」であるのに対して、
引用発明においては、ビーズ状のサーミスタである点。
b 相違点2
圧力検出用のサーミスタ及び圧力補償用のサーミスタは、
本件補正発明においては、「電気的特性として少なくとも抵抗値がペアリングされ、熱的特性として少なくとも熱放散定数が測定されてペアリングされている」のに対して、
引用発明においては、サーミスタのペアリングを行うことについて明示されていない点。
ウ 判断
前記各相違点について検討する。
(ア) 相違点1
一般に、圧力センサの応答性を高めることは、自明の内在する課題であるから、引用発明の圧力センサの技術分野の当業者は、応答性に優れる素子に関する知識を広く収集・習得することが期待される。
そして、薄膜サーミスタが真空計に用いられ得ることも技術常識である(前記技術常識1参照)から、真空計に密接に関連する技術分野である引用発明の圧力センサの技術分野の当業者は、薄膜サーミスタの知識を備えているといえる。
そして、応答性に優れるサーミスタとして、薄膜サーミスタは、よく知られたものである(前記技術常識2参照)。
そうすると、引用発明の圧力センサの技術分野の当業者は、薄膜サーミスタが応答性に優れるという知識を備えているといえ、引用発明において、センサの応答性を高めるために、引用発明の「圧力検知用サーミスタ55」及び「温度補償用サーミスタ58」として、「ビーズ状のサーミスタ」に換えて、応答性に優れる「薄膜サーミスタ」を選択して採用し、相違点1に係る構成を備えるようにすることは、当業者が適宜なし得る設計事項にすぎない。
(イ) 相違点2
a 相違点2の解釈について
(a) 本件補正発明は「気圧検出センサ」という「物の発明」であるところ、相違点2に係る構成C2は、「前記圧力検出用のサーミスタと前記圧力補償用のサーミスタとは、電気的特性として少なくとも抵抗値がペアリングされ、熱的特性として少なくとも熱放散定数が測定されてペアリングされている」という製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含んでいる。
ここで、請求項が製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合には、その表現は、最終的に得られた生産物自体を意味しているものと解釈して、請求項に係る発明を認定することとなる(審査基準「第III部第2章第4節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の5.1を参照)。
(b) そこで、以下、製造方法によって生産物を特定しようとする表現を含む場合の解釈手法に従って、相違点2に係る構成C2の技術事項について検討する。
i まず、ある特性値に対する「ペアリング」とは、一般的に、「二つの値を一定の範囲内に収めること」を意味する用語であるところ、本件補正後の請求項6及び7にはそれぞれ「前記抵抗値のペアリングは、±1%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の気圧検出センサ。」(請求項6)及び「前記熱放散定数のペアリングは、±1%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の気圧検出センサ。」(請求項7)という具体的な数値範囲が特定されている一方、本件補正発明においては具体的な数値範囲が何ら特定されていないことも踏まえると、本件補正発明における「一定の範囲」に入るか否かの許容誤差範囲としては、圧力補償機能を発揮する上で必要と実施者が考える任意の数値範囲を意味していると解される。
ii また、ペアリングには様々な方法が想定され、例えば、実測値に基づくのではなく、抜き取り検査の数値などを用いた推定値に基づいてペアリングするような方法も考えられるところ、実測値に基づくペアリングは推定値に基づくペアリングに比較して、パラメータが所望の範囲内に収まっている確率は、当然に高くなり、測定誤差を除けば100%である。
そうすると、「熱放散定数が測定されてペアリングされている」とは、ペアリングされた両素子の熱放散定数が所望の範囲内に収まっている確率が、測定誤差を除けば100%であるということを特定していると認められる。
iii 前記i及びiiの検討を踏まえると、相違点2に係る構成C2については、(i)「前記圧力検出用のサーミスタと前記圧力補償用のサーミスタ」の「抵抗値」は「ペアリング」されることのみ特定されており、(ii)「熱放射定数」は「測定によりペアリング」されることが特定されているところ、最終的に得られた生産物は、「抵抗値」及び「熱放射定数」が、圧力補償機能を発揮する上で実施者が必要と考える任意の数値範囲に一定の確率で収まっており、かつ、熱放散定数については、その確率は測定誤差を除けば100%である「前記圧力検出用のサーミスタと前記圧力補償用のサーミスタ」であると解される。
b 前記aの解釈を踏まえた検討
(a) 前記(2)イ(ウ)cにおいて技術常識3として認定したとおり、「検出用素子及び温度補償用素子の各種特性ができる限りそろっていることが望ましいこと」は、当業者に自明の事項である。
したがって、一定の範囲という許容範囲を設けるにあたり、それを満たす確率が可能な限り100%に近いことが望ましいことも、また、自明の帰結にすぎない。
そうすると、前記相違点は、物の発明の相違点としては、理想的なこととして自明のことを述べているにすぎず、想到困難な技術的思想であると認めることはできない。
(b) なお、仮に製造方法の発明であるとしても、推定値の確率誤差を無くすためには実測すべきことは自明のことにすぎない。
(c) したがって、上記相違点2は、当業者に自明のことにすぎない。
(ウ) 総合評価
前記(ア)及び(イ)において検討したとおり、引用発明において、前記相違点1及び2に係る本件補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、相違点1及び相違点2を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する効果としては、当該構成のものとして当業者が予測困難であり、かつ、格別顕著な効果を認めることはできない。
したがって、本件補正発明は、引用発明及び技術常識1~3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 請求人の主張について
(ア) 審判請求書の主張内容
請求人は、審判請求書において、本件補正発明が、引用発明から容易に想到できるものではない理由として、概略次のaからcの点を挙げている。
a 引用文献1~3には、相違点1及び相違点2の構成を有する本件補正発明の構成が示されていない。
b サーミスタ業界の慣例では量産工程での個別検査において熱放散定数を測定(実測)することはない。
c 引用文献1~3は、本件補正発明と目的・課題が相違するものであり、本件補正発明に進歩性がないと判断することは、事後分析的である。
(イ) 請求人の主張に対する当審の判断
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請求人の主張は、要するに、熱放散定数を実際に測定してペアリングすることは、当業者は実施しておらず、その課題を認識していないので、本件補正発明に想到困難性があると主張するものである。
しかしながら、本件は物の発明であり、相違点2については、「熱放散定数を実際に測定してペアリングする」という製造方法まで含めて相違点とすべきでないことは、前記ウ(イ)において検討したとおりである。
そして、相違点2については、前記ウ(イ)において検討したとおり、「「抵抗値」及び「熱放射定数」が、圧力補償機能を発揮する上で実施者が必要と考える任意の数値範囲に一定の確率で収まっており、かつ、熱放散定数については、その確率は測定誤差を除けば100%である「前記圧力検出用のサーミスタと前記圧力補償用のサーミスタ」である」と解されるところ、ペアリングが許容範囲内で100%の確率で達成できていれば理想的であることは、当業者には自明のことであるから、前記ウ(イ)の判断は後知恵ではなく、また、「サーミスタ業界の慣例では量産工程での個別検査において熱放散定数を測定(実測)することはない」との主張が事実だとしても、本件補正発明に観念上のものである技術思想としての想到困難性があるとは認められない。
したがって、請求人の主張は採用できない。
エ 小括
以上検討のとおり、本件補正発明は、特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。
よって、本件補正は、同法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから、同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
したがって、前記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明について
本件補正は、前記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~13に係る発明は、令和5年2月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定されるとおりのものであると認められるところ、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は前記第2の1(1)に摘記した事項により特定されるとおりである。
2 原査定における拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由のうち、本願発明に対する理由2(進歩性の欠如)の概要は、次のとおりである。
本願発明は、優先日前に発行された下記の引用文献に記載された発明に基づいて、優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
記
引用文献1.実願平05-071115号(実開平07-034341号)のCD-ROM(主たる引用文献)
引用文献2.実願平05-011289号(実開平06-065855号)のCD-ROM
引用文献3.特開2020-046438号公報
引用文献6.特開平11-287713号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7.特開2004-319737号公報(周知技術を示す文献)
3 引用文献に記載された事項
引用文献1に記載された事項及び引用発明並びに技術常識1~3の認定は、前記第2の3(2)ア及びイにおいて示したとおりである。
4 対比・判断
(1) 本願発明は、本件補正発明の「熱放散定数が測定されてペアリングされている」構成において、当該「ペアリング」が「測定されて」なる点について限定を省いたものである(前記第2の2参照)。
(2) そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、更に他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の3(3)において説示したとおり、引用発明及び技術常識1~3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明及び技術常識1~3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
第4 むすび
以上検討のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-010624