特許拒絶査定不服審判
2023-003862
金属部材、金属樹脂接合体及び金属樹脂接合体の製造方法
- 審判番号
- 2023-003862
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2022-535844
- 請求日
- 2023年03月07日
- 審決日
- 2025年02月06日
- 公報発行日
- 2025年05月30日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】睦月電機株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人蔦田特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 神山 茂樹
- 審判官 葛原 怜士郎
- 審判官 長清 吉範
- 分類
- P18 .113-Z (B32B) / P18 .575-Z (B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2022-535844「金属部材、金属樹脂接合体及び金属樹脂接合体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔2023年(令和5年)8月3日国際公開、WO2023/144974〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2022年(令和4年)1月27日を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 4年 6月13日 :手続補正書の提出
同年 8月10日付け:拒絶理由通知書
同年10月19日 :意見書、手続補正書の提出
同年12月 5日付け:拒絶査定
(同月13日 :拒絶査定の謄本の送達)
令和 5年 3月 7日 :審判請求書の提出
同日 :手続補正書の提出
第2 手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和5年3月7日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。なお、下線部は補正箇所を示す。
「【請求項1】
金属からなる金属部材において、
金属接合面と、前記金属接合面から突出するアンカ部とを備え、
前記アンカ部は、前記金属部材を構成する金属が溶融し再凝固して形成された前記金属接合面から突出する複数の金属粒子の集合体と、前記複数の金属粒子の間に形成された複数の空隙とを備え、
前記集合体は、前記金属接合面に付着する金属粒子を含み、
前記複数の空隙は、前記アンカ部の内部で連結され前記アンカ部の表面から内部へ繋がっている金属部材。」
(2)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載
本件補正前の、令和4年10月19日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
金属からなる金属部材において、
金属接合面と、前記金属接合面から突出するアンカ部とを備え、
前記アンカ部は、前記金属部材を構成する金属が溶融し再凝固して形成された前記金属接合面から突出する複数の金属粒子の集合体と、前記複数の金属粒子の間に形成された複数の空隙とを備え、
前記複数の空隙は、前記アンカ部の内部で連結され前記アンカ部の表面から内部へ繋がっている金属部材。」
2 補正の適否
本件補正における請求項1に関する補正の内容について検討する。
本件補正における請求項1において追加された「前記集合体は、前記金属接合面に付着する金属粒子を含み、」という事項については、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である集合体に関して、集合体の構成をさらに特定する補正であって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。
(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)の【請求項1】に記載したとおりのものである。
(2)引用文献の記載事項及び引用発明、並びに技術常識
ア 引用文献1
(ア)引用文献1の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された国際公開第2017/047127号(2017年3月23日国際公開。以下「引用文献1」という。)には、次の事項が記載されている(下線は当審において付与。また、「・・・」は、省略を示す。以下同様。)。
「[0005] 本発明の目的は、従来よりも高い接合強度を得るこができるインサート金属部材及び金属材料の粗面化方法を提供することにある。」
「[0023] 以下、添付の図面を参照して、本発明のインサート金属部材と、このインサート金属部材を用いた金属樹脂複合成形体及び金属材料の粗面化方法の実施の形態について詳細に説明する。図1(A)は、本発明のインサート金属部材の試験用の実施の形態の一例の斜視図である。この実施の形態のインサート金属部材1は、板状の金属部材3の表面に多数の凹陥部4が形成された粗面化領域5を備えている。金属部材3としては、銅、銅合金、真鍮、銅にメッキが施された錫メッキ銅、銅合金にメッキが施されたメッキ銅合金、または真鍮に錫メッキが施されたメッキ真鍮等で、レーザ光に対する反射率の高い金属からなるものを用いている。なおアルミニウム等のレーザ光に対する反射率の低い金属からなるインサート金属部材に本発明を適用してもよいのは勿論である。」
「[0027] 後に詳しく説明するが、インサート金属部材1の表面の粗面化には、所定形状の金属部材の表面に、所定のスポット径を有するレーザ光を照射することにより、複数の凹陥部4(図2乃至図6参照)を表面に形成して複数の波頭状の延出部34を備えた粗面化領域5を形成する。本発明の粗面化方法については後に説明する。
[0028] 図2(A)は、本実施の形態の粗面化方法により粗面化したインサート金属部材の粗面化領域5の実際例の拡大平面写真を示している。この実際例は、真鍮からなる金属部材に、・・・パルス状のレーザ光を、後述する直径30μmの円形パターンの照射経路パターンに沿って照射して1つの凹陥部4を形成する工程と、次に形成する凹陥部と前に形成した凹陥部の中心間距離が60μmとなるように次の凹陥部を形成する工程とを繰り返し実施して、金属部材の表面を複数の凹陥部4と複数の波頭状の延出部34によって粗面化したものである。」
「[0032] 図6(A)は、凹陥部4の開口部周辺の輪郭形状の例を示す模式平面図であり、図6(B)は熱的に影響する距離をあけて隣り合う二つの凹陥部4の模式部分断面図である。図2乃至図6から判るように、本発明の実施の形態のインサート金属部材は、凹陥部を囲む環状壁部が、金属部材の溶融金属が凝固した状態で生成された環状凝固部31からなり、環状凝固部31が凹陥部4の開口部を狭めるように延び出る1以上の波頭状の延出部34を備えている。波頭状の延出部34の形状は複雑であるため、波頭状の延出部34を数値によって正確に特定することは難しい。・・・
[0033] 凹陥部4の開口部を狭めるように延び出る波頭状の延出部34は、凹陥部4に入って固化した樹脂材料に対して強いアンカーとなる。隣り合う二つの凹陥部4,4のうちの一つの凹陥部4が有する波頭状の延出部34の一部は、隣り合う二つの凹陥部のうちの他の凹陥部側から飛散した溶融金属が凝固して形成されている。複数の凹陥部4には、隣り合う二つの凹陥部4,4間の隔壁部32が、隣り合う二つの環状凝固部31の一部によって構成されているものが含まれている。隔壁部32の近傍に波頭状の延出部34が存在している。この隔壁部32は、溶融金属の凝固物からなり、形状は複雑である。そして隔壁部32周辺には溶融金属の飛散物が付着する。そのため隔壁部32の近傍に波頭状の延出部34が形成される確率が高く、この波頭状の延出部34がアンカーとしての効果を最も発揮する。
[0034] また図6(B)に模式的に示すように、隣り合う少なくとも二つの凹陥部4,4間の間隔が短い場合には、隣り合う二つの凹陥部4,4間に位置する隔壁部を構成する環状凝固部31の一部分内に、1以上の連通窟33が形成される場合がある。この連通窟33によって隣り合う凹陥部4,4が連通している。連通窟33とは、隣り合う少なくとも二つの凹陥部4,4間に位置する環状凝固部31が形成される際に、環状凝固部31内に形成される洞窟のような不定形の複雑な形をした空隙である。図6(B)の例は、一例であって、実際の連通窟33は、溶岩洞窟の内壁の形状ように複雑な三次元形状を有するものであり、複数の連通窟33が相互に連通している場合等も含まれる。このような連通窟33が環状凝固部31内に形成されていることにより、樹脂部材を形成するための樹脂が連通窟33に浸入して固化すると、従来にない強いアンカー効果が発生する。なお複数の凹陥部の全てが、必ず隣り合う他の凹陥部との間に連通窟が形成されている必要はなく、一部の複数の凹陥部間に連通窟33が形成されていれば、連通窟33によるアンカー効果は、延出部34しか形成されない場合と比べて高まる。通常、距離的に及び時間的に連続して形成される二つの凹陥部間に連通窟が形成される。」
「[0045]・・・図10(A)乃至(F)は、ドットパターンに樹脂を充填したものを複数の凹陥部が含まれるように切断したものである。・・・これらの図から、凹陥部の内部形状が複雑であり、隣り合う二つの凹陥部間に連通窟33が形成されていることや、凹陥部の入口部分に溶融して凝固した凝固部の一部が複雑な形になって延出部34が存在していることが判る。この例では延出部34によるアンカー効果に加えて、連通窟33によるアンカー効果により、従来にない接合強度が得られている。」
「[0050] [凹陥部間の熱的影響についての試験]
・・・図12(A)及び(B)は、前述の閉ループ状の照射経路パターンPTに沿って、レーザ光のスポットが重なるように複数の照射位置PSにレーザ光を照射する方法により60μmの間隔をあけて連続して凹陥部を形成した場合のインサート金属部材の200倍拡大断面図と1000倍拡大断面図である。・・・レーザ比からのパワーが大きくなると、二つの凹陥部の間隔が広がっても、凹陥部の開口部の周囲に十分なアンカーとなる延出部が得られる。」
「[図1]
[図:0001421716000001.jpg]
・・・
[図:0001421716000002.jpg]
」
「[図2]
[図:0001421716000003.jpg]
[図:0001421716000004.jpg]
」
「[図6]
[図:0001421716000005.jpg]
」
「[図10]
[図:0001421716000006.jpg]
」
「[図12]
[図:0001421716000007.jpg]
[図:0001421716000008.jpg]
」
(イ)引用文献1の記載から認定できる事項
a 粗面化領域5、凹陥部4及び環状凝固部31について
[0027]の「インサート金属部材1の表面の粗面化には、所定形状の金属部材の表面に、金属部材の表面に、所定のスポット径を有するレーザ光を照射することにより、複数の凹陥部4(図2乃至図6参照)を表面に形成して複数の波頭状の延出部34を備えた粗面化領域5を形成する」という記載、[0028]の「パルス状のレーザ光を、後述する直径30μmの円形パターンの照射経路パターンに沿って照射して1つの凹陥部4を形成する工程と、次に形成する凹陥部と前に形成した凹陥部の中心間距離が60μmとなるように次の凹陥部を形成する工程とを繰り返し実施して、金属部材の表面を複数の凹陥部4と複数の波頭状の延出部34によって粗面化した」という記載、[0032]の「インサート金属部材は、凹陥部を囲む環状壁部が、金属部材の溶融金属が凝固した状態で生成された環状凝固部31からなり、環状凝固部31が凹陥部4の開口部を狭めるように延び出る1以上の波頭状の延出部34を備えている」という記載を踏まえれば、粗面化領域5が、凹陥部4及び環状凝固部31を備えていることは明らかである。また、凹陥部4が、インサート金属部材1の表面にレーザ光を照射することにより形成された空間であることは明らかである。
また、[0032]の「環状凝固部31が凹陥部4の開口部を狭めるように延び出る1以上の波頭状の延出部34を備えている」という記載、[0033]の「複数の凹陥部4には、隣り合う二つの凹陥部4,4間の隔壁部32が、隣り合う二つの環状凝固部31の一部によって構成されているものが含まれている」という記載、[0034]の「隣り合う二つの凹陥部4,4間に位置する隔壁部を構成する環状凝固部31の一部分内に、1以上の連通窟33が形成される場合がある」という記載を踏まえれば、環状凝固部31が、延出部34、隔壁部32及び連通窟33を環状凝固部31の一部として備えていることは明らかである。
また、[0032]の「インサート金属部材は、凹陥部を囲む環状壁部が、金属部材の溶融金属が凝固した状態で生成された環状凝固部31からなり、環状凝固部31が凹陥部4の開口部を狭めるように延び出る1以上の波頭状の延出部34を備えている」という記載、[0033]の「隣り合う二つの凹陥部4,4のうちの一つの凹陥部4が有する波頭状の延出部34の一部は、隣り合う二つの凹陥部のうちの他の凹陥部側から飛散した溶融金属が凝固して形成されている・・・この隔壁部32は、溶融金属の凝固物からなり、形状は複雑である」という記載を踏まえれば、環状凝固部31と、その一部である延出部34及び隔壁部32が、インサート金属部材1から飛散した溶融金属が凝固した状態で生成された、溶融金属の凝固物であることは明らかである。
b 延出部34について
[0050]の「図12(A)及び(B)は、前述の閉ループ状の照射経路パターンPTに沿って、レーザ光のスポットが重なるように複数の照射位置PSにレーザ光を照射する方法により60μmの間隔をあけて連続して凹陥部を形成した場合のインサート金属部材の200倍拡大断面図と1000倍拡大断面図である。・・・レーザ比からのパワーが大きくなると、二つの凹陥部の間隔が広がっても、凹陥部の開口部の周囲に十分なアンカーとなる延出部が得られる」という記載を踏まえ、図12(A)、図12(B)を参酌すると、図12(A)において紙面左側に示される平坦な部分は、インサート金属部材の表面であることは明らかであるから、延出部(後述の参考図1における丸囲い部分の一部を参照。)がインサート金属部材の表面から突出していることが認められる。また、上記aのとおり、延出部34は、環状凝固部31の一部であり、また、環状凝固部31は、粗面化領域5が備えるものであるから、粗面化領域5がインサート金属部材の表面から突出しているといえる。
<参考図1(図12(A)に白黒反転処理を施し、丸囲いを付与したもの)>
[図:0001421716000009.jpg]
c 凹陥部4及び連通窟33について
[0034]の「隣り合う二つの凹陥部4,4間に位置する隔壁部を構成する環状凝固部31の一部分内に、1以上の連通窟33が形成される場合がある。この連通窟33によって隣り合う凹陥部4,4が連通している。連通窟33とは、隣り合う少なくとも二つの凹陥部4,4間に位置する環状凝固部31が形成される際に、環状凝固部31内に形成される洞窟のような不定形の複雑な形をした空隙である」という記載、[0045]の「凹陥部の内部形状が複雑であり、隣り合う二つの凹陥部間に連通窟33が形成されていることや、凹陥部の入口部分に溶融して凝固した凝固部の一部が複雑な形になって延出部34が存在していることが判る」という記載を踏まえれば、凹陥部4を囲む環状壁部である環状凝固部31において、隣り合う二つの凹陥部4,4間が連通窟33によって連通していることは明らかである。そして、図2、図6(A)、図6(B)、図10(A)~図10(F)を参酌すると、凹陥部4について、環状凝固部31の内部で連通窟33によって連通されていることと、環状凝固部31の表面から内部へ繋がっていることが認められる。また、上記aのとおり、粗面化領域5は、凹陥部4及び環状凝固部31を備えるものであるから、複数の凹陥部4が、粗面化領域5の内部で連通窟33によって連通され、粗面化領域5の表面から内部へ繋がっているといえる。
d アンカー効果について
[0033]の「凹陥部4の開口部を狭めるように延び出る波頭状の延出部34は、凹陥部4に入って固化した樹脂材料に対して強いアンカーとなる」という記載、[0034]の「連通窟33が環状凝固部31内に形成されていることにより、樹脂部材を形成するための樹脂が連通窟33に浸入して固化すると、従来にない強いアンカー効果が発生する」という記載、[0045]の「延出部34によるアンカー効果に加えて、連通窟33によるアンカー効果により、従来にない接合強度が得られている」という記載を踏まえれば、凹陥部4、延出部34及び連通窟33が、金属樹脂複合成形体の製造時にアンカーとしての効果を発揮することは明らかである。また、上記aのとおり、環状凝固部31は、延出部34と連通窟33を一部として備え、粗面化領域5は、凹陥部4及び環状凝固部31を備えるものであるから、粗面化領域5もアンカーとしての効果を発揮しているといえる。
e インサート金属部材1の表面について
図1(A)を参酌すれば、インサート金属部材1の表面には、凹陥部4が形成された粗面化領域5の周縁(後述の参考図2の点線囲い部分を参照。)が含まれることは明らかである。
<参考図2(図1(A)に点線囲いを付与したもの)>
[図:0001421716000010.jpg]
f 溶融金属の飛散物について
[0027]の「インサート金属部材1の表面の粗面化には、所定形状の金属部材の表面に、所定のスポット径を有するレーザ光を照射することにより、複数の凹陥部4(図2乃至図6参照)を表面に形成して複数の波頭状の延出部34を備えた粗面化領域5を形成する」という記載、[0033]の「隣り合う二つの凹陥部4,4のうちの一つの凹陥部4が有する波頭状の延出部34の一部は、隣り合う二つの凹陥部のうちの他の凹陥部側から飛散した溶融金属が凝固して形成されている」という記載を踏まえれば、インサート金属部材1の表面へのレーザ光の照射時に、溶融金属の飛散物が、少なくとも隣り合う凹陥部間の距離を飛散していることは明らかである。
(ウ)引用発明
上記(ア)及び(イ)から、引用文献1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「金属からなるインサート金属部材1において、
表面と、前記表面から突出する粗面化領域5とを備え、
前記粗面化領域5は、インサート金属部材の溶融金属が凝固して生成された前記表面から突出する環状凝固部31と、環状凝固部31が囲む複数の凹陥部4とを備え、
前記複数の凹陥部4は、前記粗面化領域5の内部で連通窟33によって連通され前記粗面化領域5の表面から内部へ繋がっているインサート金属部材1。」
イ 引用文献2
(ア)引用文献2の記載事項
本審決において新たに引用され、本願の国際出願日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である特開2013-71312号公報(平成25年4月22日出願公開。以下「引用文献2」という。)には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば電気端子とこれを覆う樹脂成形体のような、金属部材と成形樹脂部材との異種材料を密着させて一体化する複合成形体に関し、また、金属部材の表面を粗面化する技術を含む金属表面の加工方法にも関する。」
「【0035】
レーザー加工や電子ビーム加工のように、微小領域に高エネルギーを集中させる事により、金属表面を瞬時に溶融し、発生するプラズマの衝撃波によって溶融した金属飛まつやスパッタあるいはドロスを飛散させることができる。」
(イ)技術常識として認められる事項
上記(ア)に摘記した引用文献2の記載事項からみて、「金属部材の表面を粗面化する技術分野において、金属表面のレーザー加工時に溶融して飛散する金属が複数の粒子であること」は、本願の国際出願日以前に技術常識であったと認められる。
(3)本件補正発明と引用発明との対比及び判断
ア 対比及び判断
本件補正発明と引用発明を対比する。
(ア)インサート金属部材1について
引用発明の「インサート金属部材1」は、本件補正発明の「金属部材」に相当する。
(イ)表面について
本件補正発明は「金属部材」の発明であるから、本願の発明の詳細な説明【0023】の「金属部材30の表面(以下、この表面を「金属接合面」ということがある)32」という記載を参酌すれば、本件補正発明の「金属接合面」は、金属部材の表面と解される。そうすると、引用発明の「表面」は、インサート金属部材1の表面であるから、本件補正発明の「金属接合面」に相当する。
(ウ)粗面化領域5について
上記(2)ア(イ)bのとおり、引用発明の粗面化領域5は、インサート金属部材の表面から突出している。また、上記(2)ア(イ)dのとおり、粗面化領域5は、アンカーとしての効果を発揮している。このことから、引用発明の「粗面化領域5」は、本件補正発明における「アンカ部」に相当する。
(エ)環状凝固部31について
上記(2)ア(イ)aのとおり、引用発明の環状凝固部31は、インサート金属部材1の溶融金属が凝固した状態で生成された、溶融金属の凝固物である。このことから、引用発明の「インサート金属部材の溶融金属が凝固して生成された」態様は、本件補正発明の「前記金属部材を構成する金属が溶融し再凝固して形成された」態様に相当する。
ここで、上記(2)イ(イ)のとおり、金属部材の表面を粗面化する技術分野において、金属表面のレーザー加工時に溶融して飛散する金属が複数の粒子であることは技術常識である。
そうすると、引用発明の「環状凝固部31」は、インサート金属部材1の表面へのレーザ光の照射時に、インサート金属部材1の表面が溶融され、金属粒子となって飛散した溶融金属が集まって凝固したものであるから、「複数の金属粒子の集合体」である。
(オ)凹陥部4について
上記(2)ア(イ)aのとおり、引用発明の凹陥部4は、インサート金属部材1の表面にレーザ光を照射することにより形成された空間であり、環状凝固部31は、溶融金属の凝固物である。このことから、引用発明の「環状凝固部31が囲む複数の凹陥部4」は、溶融金属の凝固物の間に形成された複数の空隙であるといえる。
また、上記(エ)において検討したとおり、引用発明の溶融金属の凝固物は複数の金属粒子で構成されている。そうすると、引用発明における「環状凝固部31が囲む複数の凹陥部4」とは、「前記複数の金属粒子の間に形成された複数の空隙」にほかならない。
また、引用発明の「前記複数の凹陥部4は、前記粗面化領域5の内部で連通窟33によって連通され前記粗面化領域5の表面から内部へ繋がっている」構成は、本件補正発明の「前記複数の空隙は、前記アンカ部の内部で連結され前記アンカ部の表面から内部へ繋がっている」構成に相当する。
(カ)溶融金属の飛散物について
上記(イ)において検討したとおり、本件補正発明の金属接合面は、金属部材の表面と解される。また、上記(2)ア(イ)eのとおり、引用発明におけるインサート金属部材1の表面には、凹陥部4が形成された粗面化領域5の周縁が含まれる。
また、上記(2)ア(イ)fのとおり、インサート金属部材1の表面へのレーザ光の照射時に、溶融金属の飛散物は、少なくとも隣り合う凹陥部間の距離を飛散する。そして、上記(エ)において検討したとおり、上記(2)イ(イ)において述べた技術常識を踏まえれば、インサート金属部材1の表面へのレーザ光の照射時に、溶融金属は金属粒子として周囲に飛散する。
そうすると、引用発明においても、インサート金属部材1の表面へレーザ光を照射し、粗面化領域5の最も外側に位置する凹陥部4を形成するときに、インサート金属部材1の表面の内、粗面化領域5の周縁にも金属粒子が付着することは明らかである。してみると、上記(エ)において検討したとおり、引用発明の「環状凝固部31」は、複数の金属粒子の集合体であるから、引用発明は「前記集合体は、前記金属接合面に付着する金属粒子を含み」という構成を備えている。
上記(ア)~(カ)を踏まえると、本件補正発明と引用発明は、
「金属からなる金属部材において、
金属接合面と、前記金属接合面から突出するアンカ部とを備え、
前記アンカ部は、前記金属部材を構成する金属が溶融し再凝固して形成された前記金属接合面から突出する複数の金属粒子の集合体と、前記複数の金属粒子の間に形成された複数の空隙とを備え、
前記集合体は、前記金属接合面に付着する金属粒子を含み、
前記複数の空隙は、前記アンカ部の内部で連結され前記アンカ部の表面から内部へ繋がっている金属部材。」
である点で一致し、本件補正発明の発明特定事項と引用発明の発明特定事項との間に差異はない。
イ 審判請求人の主張について
(ア)審判請求書における主張について
審判請求人は、審判請求書において「引用文献1では、溶融金属の一部が飛散して先の凹陥部を形成する環状凝固部に付着することによって、延出部34を備えた環状凝固部31が形成されます(段落0014,0015)。そのため、引用文献1では、レーザを照射した位置に延出部34を備えた環状凝固部31からなる粗面化領域が形成されており、レーザが照射されていない金属接合面に付着する金属粒子を含む集合体から粗面化領域(アンカ部)を構成することについて開示も示唆もありません。」と主張している。
しかしながら、上記ア(カ)における判断のとおり、引用発明においても、インサート金属部材1の表面の一部である、凹陥部4が形成された粗面化領域5の周縁に、金属粒子が付着することは明らかであるから、審判請求人の上記主張は採用することができない。
(イ)上申書について
審判請求人は、上申書(令和5年7月14日提出)において、金属接合面から陥没する所定方向に沿って延びる凹溝を備える点を請求項に加える案を記載している。
しかしながら、引用文献1の図2を参酌すると、所定方向に沿って、隣り合う凹陥部4が延びていることは明らかである。また、所定方向に対して垂直な方向において隣り合う凹陥部の距離は当業者が適宜設定し得ることであり、所定方向に沿って延びる凹溝が形成されるように、所定方向に対して垂直な方向において隣り合う凹陥部の距離を設定することは、当業者にとって容易に想到し得たことである。
ウ 小括
上記アのとおり、本件補正発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許を受けることができない。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
以上のことから、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、令和4年10月19日に手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、以下の理由を含むものである。
理由1:本願発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて利用可能となった上記第2[理由]2(2)アの引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
3 引用発明
引用発明は、上記第2[理由]2(2)ア(ウ)に記載したとおりである。
4 対比及び判断
本願発明は、前記第2[理由]1(1)の本件補正発明から、「集合体」に関して、「金属接合面に付着する金属粒子を含」むとした限定事項を削除したものである。
そして、本願発明と引用発明とを対比すると、上記第2[理由]2(3)アで対比したとおりであって、本願発明の発明特定事項と引用発明の発明特定事項との間に差異はない。そうすると、本願発明は、引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2023-003862