特許拒絶査定不服審判
2022-020687
フレームシール加工性に優れた包装用の低吸着性積層体
- 審判番号
- 2022-020687
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2018-178246
- 請求日
- 2022年12月21日
- 審決日
- 2024年07月23日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】大日本印刷株式会社
- 【請求人代理人】結田 純次
- 【請求人代理人】竹林 則幸
- 審判長/審判官
- 審判長 岩谷 一臣
- 審判官 田口 傑
- 審判官 藤井 眞吾
- 分類
- P18 .113-Z (B32B) / P18 .121-Z (B32B) / P18 .575-Z (B32B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条1項3号特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第17条の2第5項第2号、特許法第17条の2第3項、特許法第17条の2第4項、特許法第126条第7項、特許法第17条の2第6項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2018-178246「フレームシール加工性に優れた包装用の低吸着性積層体」拒絶査定不服審判事件〔令和2年4月2日出願公開、特開2020-49669〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、平成30年9月25日に出願された特願2018-178246号に係る特許出願であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
令和 4年 4月26日付け : 拒絶理由通知
4年 7月 7日 : 意見書及び手続補正書の提出
4年 9月20日付け : 拒絶査定
4年12月21日 : 本件審判請求、同時に手続補正書の提出(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)
第2 本件補正の補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
カプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミルの吸着および透過を抑えるため、且つ、フレームシール加工によって接着するための、包装用の低吸着性積層体であって、
該低吸着性積層体は、少なくとも、基材層と、低吸着性シーラント層とを有し、
該低吸着性シーラント層は、該低吸着性積層体の片面の表面層であり、環状オレフィン系樹脂層と、ポリエチレン層を含有する低吸着性シーラントフィルムからなる層であり、
ポリエチレン層は、環状オレフィン系樹脂を含まず、低密度ポリエチレンからなる第1のポリエチレン層と、低密度ポリエチレンからなる第2のポリエチレン層と、直鎖状低密度ポリエチレンからなる第3のポリエチレン層からなり、
環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂と低密度ポリエチレンとからなる第1の環状オレフィン系樹脂層と、環状オレフィン系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含む第2の環状オレフィン系樹脂層からなり、
該低吸着性積層体は、基材層と、第1のポリエチレン層と、第2のポリエチレン層と、第3のポリエチレン層と、第1の環状オレフィン系樹脂層と、第2の環状オレフィン系樹脂層とを、この順に有し、
低吸着性シーラント層の、積層体の最外層となる最表面は、環状オレフィン系樹脂を15質量%以上、40質量%以下、直鎖状低密度ポリエチレンを54質量%以上、77質量%以下、含有する層であり、
環状オレフィン系樹脂層の厚さは、低吸着性シーラント層の全厚さの、20%以上、50%以下であり、
低吸着性シーラント層の全厚さは、20μm以上、150μm以下であり、
上記の低吸着性積層体を用いて10cm×10cmのパウチを作製し、パウチ内に日本酒または焼酎を充填して25℃、1週間保存したのちのパウチ内のカプロン酸エチルと酢酸イソアミルの含有率を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定したときのカプロン酸エチルの含有率が71.0%以上であり、酢酸イソアミルの含有率が89.9%以上であり、
フレームシール加工を行った後に、引張条件300mm/min、180°剥離で評価したシール強度が、20N/15mm以上であることを特徴とする、
カプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミル低吸着性積層体。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、令和4年7月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
カプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミルの吸着および透過を抑えるため、且つ、フレームシール加工によって接着するための、包装用の低吸着性積層体であって、
該低吸着性積層体は、少なくとも、基材層と、低吸着性シーラント層とを有し、
該低吸着性シーラント層は、該低吸着性積層体の片面の表面層であり、環状オレフィン系樹脂を含有する低吸着性シーラントフィルムからなる層であり、
該低吸着性シーラント層の、積層体の最外層となる最表面は、環状オレフィン系樹脂を、15質量%以上、60質量%以下含有する層であり、
上記の低吸着性積層体を用いて10cm×10cmのパウチを作製し、パウチ内に日本酒または焼酎を充填して25℃、1週間保存したのちのパウチ内のカプロン酸エチルと酢酸イソアミルの含有率を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定したときのカプロン酸エチルの含有率が71.0%以上であり、酢酸イソアミルの含有率が89.9%以上であり、
フレームシール加工を行った後に、引張条件300mm/min、180°剥離で評価したシール強度が、20N/15mm以上であることを特徴とする、
カプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミル低吸着性積層体。」
2 補正の適否
本件補正における請求項1に係る補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である積層体の各層に関して、それぞれの層の構成と厚さをさらに特定する補正であって、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定される特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、これらの補正は、本願当初明細書の【0059】【表2】の実施例、本件補正前の請求項10、11などに基づくものであるから、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものである。
また、本件補正後の請求項1に関する補正は、特別な技術的特徴を変更(シフト補正)しようとするものではなく、特許法第17条の2第4項の規定に適合している。
そして、上記特許請求の範囲の減縮を目的とする補正の場合には、特許法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か)について検討を要するところ、以下、検討する。
(1) 本件補正発明
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正発明」という。)は、上記1(1)に記載したとおりのものである。
(2) 引用文献の記載事項と引用発明
ア 原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された特開2017-13485号公報(平成29年1月19日発行。以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。また、下線については当審において付与した。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
外層、第一のポリエチレン層、第二のポリエチレン層、第一の低吸着性樹脂層、及び、内容物と接する第二の低吸着性樹脂層の5層をこの順に有する低吸着性共押出多層シーラントフィルムであって、
該外層及び第一のポリエチレン層はそれぞれ、直鎖状低密度ポリエチレン又は高圧法低密度ポリエチレンからなる層であり、
該第二のポリエチレン層は、直鎖状低密度ポリエチレンからなる層であり、
該第一の低吸着性樹脂層は、80~97質量%の環状オレフィンコポリマーと、3~20質量%の高圧法低密度ポリエチレンとを含む樹脂組成物からなる層であり、
該第二の低吸着性樹脂層は、15~65質量%の環状オレフィンコポリマー、30~80質量%の直鎖状低密度ポリエチレン及び3~10質量%の高圧法低密度ポリエチレンを含む樹脂組成物からなる層であり、
上記環状オレフィンコポリマーは、55~85質量%のノルボルネン単量体と、15~45質量%のα-オレフィンとを共重合してなるコポリマーである、上記低吸着性共押出多層シーラントフィルム。
【請求項2】
前記第一及び第二の低吸着性樹脂層の合計の厚さが、低吸着性共押出多層シーラントフィルムの全厚さの20~50%の範囲である、請求項1に記載の低吸着性共押出多層シーラントフィルム。
【請求項3】
全厚さが20~150μmである、請求項1又は2に記載の低吸着性共押出多層シーラントフィルム。
・・・
【請求項6】
請求項1~5いずれか1項に記載の低吸着性共押出多層シーラントフィルムの外層側の面に基材を積層してなる包装材料。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、内容物中の芳香成分等の吸着量が低減された低吸着性のシーラントフィルム、これを用いた包装材料、並びにそれよりなる包装容器及び包装袋に関する。
より詳細には、内容物中の有機化合物の吸着量が低減されることから、内容物の品質保持に優れ、且つ、ヒートシール性及び製膜安定性に優れたシーラントフィルム、これを用いた包装材料、並びにそれよりなる包装容器及び包装袋に関する。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の問題点を解決して、十分なシール強度を有し、製膜安定性及び加工適性に優れ、従来のシーラントフィルムに要求される多岐にわたる機能を保持した上で、さらに、有機化合物を吸着しにくく、すなわち低吸着性に優れたシーラントフィルム、これを用いた包装材料、並びにそれよりなる包装容器及び包装袋を提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0009】
一般的に、環状オレフィン系樹脂、例えばCOCは、その溶融製膜時に、高い分子間力が働き、ポリマー間で凝集を引き起こすことが知られている。その結果、膜の至る所で樹脂が凝集する等によりフィッシュアイが形成され、均一な膜表面を得ることが難しい。
そして、これらの傾向は、インフレーション法による製膜時には一層顕著になり、該法により得られるCOCフィルムは、その表面全体に無数のフィッシュアイが発生する。また、COCフィルムは剛性が高く、フィルムとして加工適性に欠ける。
しかしながら、本発明に従って、ポリエチレンの中でも特にLDPEをCOCとブレンドすることにより、COCのゲル化を防ぎ、フィッシュアイの形成を抑制することができる。
【0010】
また、このCOCとLDPEとのブレンド、及び、これにさらにLLDPEを添加したブレンドを用いて、本発明の層構成とした5層共押出シーラントフィルムは、内容物中の成分を吸着せず、優れた低吸着性を示すと同時に、ヒートシール性に優れ、高いシール強度及び低温シール性を示す。
さらに、本発明のシーラントフィルムは、製膜が容易であり、厚みが均質で、良好な透明性を有する美麗な層を形成することができる。また、インフレーション法による高速製膜時にも、フィッシュアイの発生を抑えることができる。
【0011】
このような本発明のシーラントフィルムにおいて、COCとLDPEとを含む樹脂組成物からなる層は、COCの高い分子間力に基づいて、分子間の距離が近い密な表面構造を形成しており、またLLDPEからなる第二のポリエチレン層は、該樹脂組成物からなる層と高い層間密着性を発揮し、良好な製膜安定性を付与する。」
「【0038】
<4>包装容器
本発明の包装材料は、包装袋又は包装容器として、特に、内容物の品質保持性が要求される包装袋又は包装容器を形成するために、好適に使用することができる。
また、本発明のシーラントフィルムは、低吸着性と共に高いシール強度を発揮するため、紙容器、特に液体用紙容器としても使用することができる。
本発明の包装材料からの包装袋の製造は、上述の包装材料を二つ折にするか、又は包装材料2枚を用意し、シーラントフィルムの面を対向させて重ね合わせ、さらにその周辺端部を、例えば、側面シール型、二方シール型、三方シール型、四方シール型、封筒貼りシール型、合掌貼りシール型(ピローシール型)、ひだ付シール型、平底シール型、角底シール型、ガゼット型等のヒートシール形態によりヒートシールして、種々の形態の包装袋として製造することができる。
上記において、ヒートシールの方法としては、例えば、バーシール、回転ロールシール、ベルトシール、インパルスシール、高周波シール、超音波シール等の公知の方法で行うことができる。
【0039】
あるいは、本発明の包装材料からの紙容器の製造は、通常、次のようにして行われる。すなわち、本発明の包装材料の表面に、必要に応じて印刷を行った後、打ち抜き、端面をスカイブ・ヘミングして内容物が端面に接触しないようにし、充填機内でボトム部及びトップ部を熱風加熱、火炎加熱等によりヒートシールして紙容器とする。・・・」
「【0040】
包装袋又は包装容器中に充填される内容物は、特に限定されず、固体又はゲル状のものであっても、液体、例えば酒、果汁飲料等のジュース、ミネラルウォーター等の各種の飲料品、醤油、ソース、スープ等の液体調味料、あるいは、カレー、シチュー、スープ等の種々の液体飲食物、食用油、機械用油、接着剤、粘着剤等の化学品、化粧品、医薬品等の雑貨品、その他シャンプー、リンス、洗剤等の化成品等であってもよい。
本発明の包装材料からなる包装袋又は包装容器は、内容物の品質及び風味を長期にわたって保持することができ、且つ、高い密封性を発揮するため、特に酒類の包装容器として好適に使用することができる。」
「【実施例】
【0041】
[実施例1]
(1)第一の低吸着性樹脂層を構成する樹脂組成物として、COC(ポリプラスチックス(株)製TOPAS(R)8007F-600、ノルボルネン由来繰り返し単位の含有量65質量%、ガラス転移温度78℃)95質量%と、LDPE(旭化成ケミカルズ(株)製サンテックM6545、MFR45.0g/10分、密度0.915g/cm3)5質量%とを十分に混練して、樹脂組成物を調製した。
(2)第二の低吸着性樹脂層を構成する樹脂組成物として、COC(TOPAS(R)8007F-600)40質量%、LLDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製ユメリット(R)0520F、MFR2g/10分、密度0.904g/cm3)45質量%、LDPE(サンテックM6525)5質量%、及び、アンチブロッキング剤マスターバッチ(住友化学(株)製、EMB-21、MFR4g/10分、合成ゼオライト含有)10質量%を十分に混練して、樹脂組成物を調製した。
(3)外層及び第一のポリエチレン層を構成する樹脂として、LDPE(日本ポリエチレン(株)製ノバテック(R)LC522、MFR4.0g/10分、密度0.923g/cm3)を用意した。さらに、第二のポリエチレン層を構成する樹脂として、LLDPE((株)プライムポリマー製ウルトゼックス(R)1520L、MFR2.3g/10分、密度0.914g/cm3)を用意した。
(4)上記(1)~(3)で用意した樹脂及び樹脂組成物を用いて、インフレーション法を用いた5層共押出製膜法により、外層10μm/第一のポリエチレン層7.5μm/第二のポリエチレン層10μm/第一の低吸着性樹脂層5μm/第二の低吸着性樹脂層7.5μmの層構成を有する、本発明の低吸着性シーラントフィルム(厚さ40μm)を製造した。なお、本願明細書の積層体の記載において、「/」はその左右の層が積層一体化されていることを示す。
得られた低吸着性シーラントフィルムは、フィッシュアイのない美麗な膜表面を有していた。
・・・
【0043】
[実施例3]
基材として坪量365g/m2の板紙を用意し、その一方の面にアンカーコート剤を塗布し、エチレン・メタクリル酸コポリマー(EMAA、厚さ25μm)を介するサンドイッチラミネート法により、透明蒸着フィルム(VMPET、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムの片面に酸化アルミニウムを蒸着した透明蒸着フィルム)の蒸着面を貼り合わせた。
得られた積層フィルムのVMPET側の面にエチレン・メタクリル酸コポリマー(EMAA、厚さ30μm)を介するサンドイッチラミネート法により、上記実施例1で製造した低吸着性シーラントフィルムの外層側の面を貼り合わせた。
一方、上記板紙のもう一方の面にアンカーコート剤を塗布し、表面保護層としてポリエチレン系樹脂(厚さ25μm)を押出コーティング法により積層し、その表面をコロナ処理し、印刷層を設け、本発明の包装材料を製造した。
得られた包装材料の層構成は、印刷層/ポリエチレン系樹脂層25μm/紙基材層/EMAA層25μm/VMPET12μm/EMAA層30μm/低吸着性シーラントフィルム40μmであった。
【0044】
[実施例4]
実施例2で製造した低吸着シーラントフィルムを用いた以外は、実施例3と同様に包装材料を製造した。
上記で製造した包装材料を用いて、シーラントフィルムが内側となるように製函し、容量200mLの紙容器を作成した。これに水200mLを85~90℃で熱時充填し、室温まで放冷し、3日間放置した。紙容器は十分な密封性を示し、内容物の漏れは生じなかった。」
「【0046】
[評価方法・結果]
(官能試験)
実施例3、実施例4及び比較例1の包装材料を用いて清酒用紙容器を作製し、充填機にて清酒を充填し、評価用のサンプルとした。
7日間保存後、容器を開封し、清酒メーカー所属の味覚に敏感な担当者3名による官能評価を実施した。
充填前の清酒の匂いと変化がない場合を0点とし、清酒の匂いがかなり変化した場合を5点とする5段階評価で、各包装材料につきサンプルを2個ずつ開封して平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0047】
【表1】
[図:0001414594000001.jpg]
【0048】
実施例3、実施例4の包装容器に保存した清酒は、充填前の風味をほぼ完全に保持するものであった。これに対し、比較例1の包装容器に保存した清酒は、清酒の風味成分が失われ、充填前の匂いがかなり変化していた。」
「【符号の説明】
【0052】
1.外層
2.第一のポリエチレン層
3.第二のポリエチレン層
4.第一の低吸着性樹脂層
5.第二の低吸着性樹脂層
10.基材層
11.接着層
12.バリア層
13.接着層
14.シーラントフィルム」
「
[図:0001414594000002.jpg]
」
イ 引用文献1に記載された発明
上記アの記載を参酌し、特に実施例3(【0041】、【0043】)に着目すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
<引用発明>
「(1)第一の低吸着性樹脂層を構成する樹脂組成物として、COC(ポリプラスチックス(株)製TOPAS(R)8007F-600、ノルボルネン由来繰り返し単位の含有量65質量%、ガラス転移温度78℃)95質量%と、LDPE(旭化成ケミカルズ(株)製サンテックM6545、MFR45.0g/10分、密度0.915g/cm3)5質量%とを十分に混練して、樹脂組成物を調製し、
(2)第二の低吸着性樹脂層を構成する樹脂組成物として、COC(TOPAS(R)8007F-600)40質量%、LLDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製ユメリット(R)0520F、MFR2g/10分、密度0.904g/cm3)45質量%、LDPE(サンテックM6525)5質量%、及び、アンチブロッキング剤マスターバッチ(住友化学(株)製、EMB-21、MFR4g/10分、合成ゼオライト含有)10質量%を十分に混練して、樹脂組成物を調製し、
(3)外層及び第一のポリエチレン層を構成する樹脂として、LDPE(日本ポリエチレン(株)製ノバテック(R)LC522、MFR4.0g/10分、密度0.923g/cm3)を用意し、さらに、第二のポリエチレン層を構成する樹脂として、LLDPE((株)プライムポリマー製ウルトゼックス(R)1520L、MFR2.3g/10分、密度0.914g/cm3)を用意し、
(4)上記(1)~(3)で用意した樹脂及び樹脂組成物を用いて、インフレーション法を用いた5層共押出製膜法により、外層10μm/第一のポリエチレン層7.5μm/第二のポリエチレン層10μm/第一の低吸着性樹脂層5μm/第二の低吸着性樹脂層7.5μmの層構成を有する低吸着性シーラントフィルム(厚さ40μm)を製造し、
基材として坪量365g/m2の板紙を用意し、その一方の面にアンカーコート剤を塗布し、エチレン・メタクリル酸コポリマー(EMAA、厚さ25μm)を介するサンドイッチラミネート法により、透明蒸着フィルム(VMPET、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムの片面に酸化アルミニウムを蒸着した透明蒸着フィルム)の蒸着面を貼り合わせ、得られた積層フィルムのVMPET側の面にエチレン・メタクリル酸コポリマー(EMAA、厚さ30μm)を介するサンドイッチラミネート法により前記低吸着性シーラントフィルムの外層側の面を貼り合わせ、
一方、上記板紙のもう一方の面にアンカーコート剤を塗布し、表面保護層としてポリエチレン系樹脂(厚さ25μm)を押出コーティング法により積層し、その表面をコロナ処理し、印刷層を設けた包装材料。」
(3) 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「基材として坪量365g/m2の板紙」、「低吸着性シーラントフィルム」、「包装材料」は、それぞれ、本件補正発明の「基材層」、「低吸着性シーラント層」、「包装用の低吸着性積層体」に相当し、引用発明は、本件補正発明の「該低吸着性積層体は、少なくとも、基材層と、低吸着性シーラント層とを有し」を満たす。
イ 引用発明の「第一の低吸着性樹脂層」は、「COC(ポリプラスチックス(株)製TOPAS(R)8007F-600、ノルボルネン由来繰り返し単位の含有量65質量%、ガラス転移温度78℃)95質量%と、LDPE(旭化成ケミカルズ(株)製サンテックM6545、MFR45.0g/10分、密度0.915g/cm3)5質量%を十分に混練して、樹脂組成物を調製」して製膜されたものであるから、本件補正発明の「環状オレフィン系樹脂と低密度ポリエチレンとからなる第1の環状オレフィン系樹脂層」に相当する。
ウ 引用発明の「第二の低吸着性樹脂層」は、「COC(TOPAS(R)8007F-600)40質量%、LLDPE(宇部丸善ポリエチレン(株)製ユメリット(R)0520F、MFR2g/10分、密度0.904g/cm3)45質量%、LDPE(サンテックM6525)5質量%、及び、アンチブロッキング剤マスターバッチ(住友化学(株)製、EMB-21、MFR4g/10分、合成ゼオライト含有)10質量%を十分に混練して、樹脂組成物を調製」して製膜されたものであるから、本件補正発明の「環状オレフィン系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含む第2の環状オレフィン系樹脂層」に相当する。
また、この配合は、本願明細書に記載の樹脂組成物2(段落【0051】)と全く同じであるから、当該「第二の低吸着性樹脂層」は、環状オレフィン系樹脂40.0質量%と低密度ポリエチレン5.0質量%、直鎖低密度ポリエチレン54.0質量%、合成ゼオライト1.0質量%配合されているものといえる。したがって、引用発明の「第二の低吸着性樹脂層」は、本件補正発明の「低吸着性シーラント層の、積層体の最外層となる最表面」であって「低吸着性シーラント層の、積層体の最外層となる最表面は、環状オレフィン系樹脂を15質量%以上、40質量%以下、直鎖状低密度ポリエチレンを54質量%以上、77質量%以下、含有する層」にも相当する。
エ 引用発明の「LDPE(日本ポリエチレン(株)製ノバテック(R)LC522、MFR4.0g/10分、密度0.923g/cm3)」からなる「外層」、「LDPE(日本ポリエチレン(株)製ノバテック(R)LC522、MFR4.0g/10分、密度0.923g/cm3)からなる「第一のポリエチレン層」、「LLDPE((株)プライムポリマー製ウルトゼックス(R)1520L、MFR2.3g/10分、密度0.914g/cm3)」からなる「第二のポリエチレン層」は、それぞれ、本件補正発明の「環状オレフィン系樹脂を含まず、低密度ポリエチレンからなる第1のポリエチレン層」、「低密度ポリエチレンからなる第2のポリエチレン層」、「直鎖状低密度ポリエチレンからなる第3のポリエチレン層」に相当する。
オ 引用発明は、「外層10μm/第一のポリエチレン層7.5μm/第二のポリエチレン層10μm/第一の低吸着性樹脂層5μm/第二の低吸着性樹脂層7.5μmの層構成を有する低吸着性シーラントフィルム(厚さ40μm)を製造し、基材として坪量365g/m2の板紙を用意し、その一方の面にアンカーコート剤を塗布し、エチレン・メタクリル酸コポリマー(EMAA、厚さ25μm)を介するサンドイッチラミネート法により、透明蒸着フィルム(VMPET、厚さ12μmの二軸延伸PETフィルムの片面に酸化アルミニウムを蒸着した透明蒸着フィルム)の蒸着面を貼り合わせ、得られた積層フィルムのVMPET側の面にエチレン・メタクリル酸コポリマー(EMAA、厚さ30μm)を介するサンドイッチラミネート法により前記低吸着性シーラントフィルムの外層側の面を貼り合わせ、一方、上記板紙のもう一方の面にアンカーコート剤を塗布し、表面保護層としてポリエチレン系樹脂(厚さ25μm)を押出コーティング法により積層し、その表面をコロナ処理し、印刷層を設けた包装材料」であるから、引用発明の「包装材料」は、「基材」、「透明蒸着フィルム」、「低吸着性シーラントフィルムの外層側の面」の順で構成されるとともに、この「低吸着性シーラントフィルム」は、「外層」、「第一のポリエチレン層」、「第二のポリエチレン層」、「第一の低吸着性樹脂層」、「第二の低吸着性樹脂層」の順で構成されている。また、この順からみて、引用発明の「低吸着性シーラントフィルム」は、「包装材料」の片面の表面層である。したがって、引用発明は、本件補正発明の「低吸着性積層体は、基材層と、第1のポリエチレン層と、第2のポリエチレン層と、第3のポリエチレン層と、第1の環状オレフィン系樹脂層と、第2の環状オレフィン系樹脂層とを、この順に有」することと、「低吸着性シーラント層は、該低吸着性積層体の片面の表面層であ」ることを満たす。
カ 引用発明の「低吸着性シーラントフィルム」は、「外層10μm/第一のポリエチレン層7.5μm/第二のポリエチレン層10μm/第一の低吸着性樹脂層5μm/第二の低吸着性樹脂層7.5μmの層構成を有」しており、上記イ、ウから「第一の低吸着性樹脂層」、「第二の低吸着性樹脂層」は環状オレフィン系樹脂層であるから、本件補正発明の「低吸着性シーラント層」は「環状オレフィン系樹脂層と、ポリエチレン層を含有する低吸着性シーラントフィルムからなる層であり」を満たす。
キ 引用発明の「第一の低吸着性樹脂層5μm」と「第二の低吸着樹脂層7.5μm」を合わせた厚み(本件補正発明の「環状オレフィン系樹脂層」の厚みに相当)は12.5μmであり、引用発明の低吸着性シーラントフィルム(本件補正発明の「低吸着性シーラント層」に相当)の厚みが40μmであって、「第一の低吸着性樹脂層」と「第二の低吸着樹脂層」の厚さは、「低吸着性シーラントフィルム」の全厚さの31.25%であるから、引用発明は、本件補正発明の「環状オレフィン系樹脂層の厚さは、低吸着性シーラント層の全厚さの、20%以上、50%以下であり」を満たす。
ク 引用発明の「低吸着性シーラントフィルム」の厚さは40μmであるから、引用発明は、本件補正発明の「低吸着性シーラント層の全厚さは、20μm以上、150μm以下である」を満たす。
ケ そうすると、本件補正発明と引用発明とは、
「包装用の低吸着性積層体であって、
該低吸着性積層体は、少なくとも、基材層と、低吸着性シーラント層とを有し、
該低吸着性シーラント層は、該低吸着性積層体の片面の表面層であり、環状オレフィン系樹脂層と、ポリエチレン層を含有する低吸着性シーラントフィルムからなる層であり、
ポリエチレン層は、環状オレフィン系樹脂を含まず、低密度ポリエチレンからなる第1のポリエチレン層と、低密度ポリエチレンからなる第2のポリエチレン層と、直鎖状低密度ポリエチレンからなる第3のポリエチレン層からなり、
環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂と低密度ポリエチレンとからなる第1の環状オレフィン系樹脂層と、環状オレフィン系樹脂と直鎖状低密度ポリエチレンと低密度ポリエチレンとを含む第2の環状オレフィン系樹脂層からなり、
該低吸着性積層体は、基材層と、第1のポリエチレン層と、第2のポリエチレン層と、第3のポリエチレン層と、第1の環状オレフィン系樹脂層と、第2の環状オレフィン系樹脂層とを、この順に有し、
低吸着性シーラント層の、積層体の最外層となる最表面は、環状オレフィン系樹脂を15質量%以上、40質量%以下、直鎖状低密度ポリエチレンを54質量%以上、77質量%以下、含有する層であり、
環状オレフィン系樹脂層の厚さは、低吸着性シーラント層の全厚さの、20%以上、50%以下であり、
低吸着性シーラント層の全厚さは、20μm以上、150μm以下である、
低吸着性積層体。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点1>
本件補正発明は、「包装用の低吸着性積層体」について、「カプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミルの吸着および透過を抑えるため」の「カプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミル低吸着性積層体」と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点
<相違点2>
本件補正発明は、「上記の低吸着性積層体を用いて10cm×10cmのパウチを作製し、パウチ内に日本酒または焼酎を充填して25℃、1週間保存したのちのパウチ内のカプロン酸エチルと酢酸イソアミルの含有率を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定したときのカプロン酸エチルの含有率が71.0%以上であり、酢酸イソアミルの含有率が89.9%以上であり、」と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点
<相違点3>
本件補正発明は、「包装用の低吸着性積層体」について、「フレームシール加工によって接着するための」積層体と特定し、「フレームシール加工を行った後に、引張条件300mm/min、180°剥離で評価したシール強度が、20N/15mm以上であること」と特定するのに対し、引用発明は、この点を特定しない点
(4) 判断
ア 相違点1について
引用発明は、「有機化合物を吸着しにくく、すなわち低吸着性に優れたシーラントフィルム、これを用いた包装材料、並びにそれよりなる包装容器及び包装袋を提供することを目的とする」ものであり(【0006】)、「酒類の包装容器として好適に使用することができる」ものである(【0040】)。
また、カプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミルは、焼酎や日本酒に多く含有されている重要な香気成分である(この点については請求人も審判請求書において認めているとおりである)。そして、引用発明においては、清酒を用いた官能試験を行い、清酒の風味をほぼ完全に保持することを確認していることから(【0046】~【0048】)、引用発明においてもカプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミルの透過を抑えるものであることは当業者にとって明らかである。したがって、相違点1は実質的な相違点ではない。
イ 相違点2について
引用発明は、本件補正発明において積層体として特定する構成をすべて備えている低吸着性積層体であるから、パウチ内に一定期間保存したのちのカプロン酸エチルおよび/または酢酸イソアミルについての含有率も本件補正発明と同様となり、「低吸着性積層体を用いて10cm×10cmのパウチを作製し、パウチ内に日本酒または焼酎を充填して25℃、1週間保存したのちのパウチ内のカプロン酸エチルと酢酸イソアミルの含有率を、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにより測定したときのカプロン酸エチルの含有率が71.0%以上であり、酢酸イソアミルの含有率が89.9%以上であ」るとの条件を満たす蓋然性が高い。そうでないとしても、この条件を満たすようにすることは、引用発明から当業者が容易に想到し得たことである。
そうすると、相違点2は実質的な相違点でないか、当業者が容易に想到し得たことである。
ウ 相違点3について
引用文献1には「本発明の包装材料からの紙容器の製造は、通常、次のようにして行われる。すなわち、本発明の包装材料の表面に、必要に応じて印刷を行った後、打ち抜き、端面をスカイブ・ヘミングして内容物が端面に接触しないようにし、充填機内でボトム部及びトップ部を熱風加熱、火炎加熱等によりヒートシールして紙容器とする。」(【0039】)との記載があり、引用発明の基材は紙であることから、引用発明は、実質的にフレームシール加工によって接着するためのものと認められる。
また、引用発明は、本件補正発明においての積層体として特定する構成をすべて備えている低吸着性積層体である。そして、本願明細書の実施例1~4と比較例2の比較から、最外層の環状オレフィン系樹脂層2の組成において、環状オレフィン系樹脂が15~40質量%、直鎖低密度ポリエチレン54~77質量%配合しているとフレームシール適性が合格となっており、引用発明においての最外層の環状オレフィン系樹脂層の配合もその範囲であることから、引用発明は、本件補正発明の「フレームシール加工を行った後に、引張条件300mm/min、180°剥離で評価したシール強度が、20N/15mm以上である」との条件を満たす蓋然性が高い。
なお、シール強度の値としても、20N/15mm以上は一般的な値であるから(例えば、特開2003-334893号公報の表1、特開2015-30464号公報の表1なども参照)、上記条件を満たすようにすることは、当業者が容易に想到し得たことでもある。
そうすると、相違点3は実質的な相違点でないし、仮に、相違点であったとしても、当業者が容易に想到し得たことである。
エ したがって、本件補正発明は、引用発明との間に相違点はなく、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許出願の際独立して特許受けることができないものである。また、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許受けることができないものである。
3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
以上のことから、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
令和4年12月21日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1~19に係る発明は、令和4年7月7日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~19に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由の概要
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本願出願前に頒布された下記の引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許受けることができない、というものを含むものである。
引用文献1:特開2017-13485号公報
引用文献2:省略
3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1の記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。
4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である積層体の各層に関して、それぞれの層構成と厚さをさらに特定する補正事項を削除したものである。
本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明は、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明であるか、又は引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、本願発明も、引用文献1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるか、又は引用文献1に記載された発明に基いてその出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法第29条第2項の規定により特許受けることができないものである。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明、すなわち、本願の請求項1に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない、又は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-020687